説明

免疫グロブリンG媒介性疾患を治療するためのエンドグリコシダーゼEndoSの使用

本発明は、IgG抗体によって媒介される疾患又は状態の治療又は予防のための薬剤の製造における、EndoSポリペプチド又はEndoSポリペプチドをコードするポリヌクレオチドの使用を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自己免疫疾患、移植拒絶反応、術後治療及び後天性血友病などの、IgG抗体によって媒介される疾患又は状態を治療又は予防するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
IgGは、ジスルフィド結合によって繋がれる重鎖2本及び軽鎖2本から成り、柔軟であるプロテアーゼ感受性のヒンジ領域によって分離される3個のタンパク質ドメインを形成しているヘテロテトラマーである。2個の同一のFab部は抗原に結合し、1個のFc部は、補体因子C1q及び白血球上のFc受容体の結合及び活性化を含むエフェクター機能に関与する。
【0003】
ポリペプチドの主鎖に加えてFc部は、各重鎖でAsn−297に結合した保存されたグリカンを含有する。このオリゴ糖は、最深部のN−アセチルグルコサミン(GlcNAc)に結合するコアフコースを有する複合バイアンテナ型である。これらのグリカンは、C2ドメイン(重鎖の第2定常ドメイン)の間の境界に位置する。
【0004】
EndoSは、ヒト病原体化膿レンサ球菌(Streptococcus pyogenes)によって分泌されるエンドグリコシダーゼである。EndoSは、IgG上のアスパラギン結合グリカンを2個のコアGlcNAc残基の間で特異的に加水分解する。糖タンパク質基質の変性を必要とするか又はそれにより増強される多数の関連するエンドグリコシダーゼとは対照的に、EndoSは、未変性IgGだけを加水分解する。今日までにEndoSについて他の基質は見出されていない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者らは、EndoSがIgG抗体によって媒介される疾患の治療及び予防において有用であることを示している。具体的には本発明者らは、EndoSがヒト血液中及びウサギin vivoにおいてIgGを効果的に加水分解すること、EndoSによるIgGの脱グリコシル化がその関節炎誘発能をマウスにおいて抑制すること、並びにEndoSが致死性IgG誘発性突発性血小板減少性紫斑病(ITP)のマウスモデルにおいて保護効果を有することを示している。病原性抗体のEndoS前処理は、この疾患の進行を阻止し、その酵素はまた、重症の血小板減少症及び皮下出血が進行している場合に、既に確立している疾患からマウスを救済する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
したがって、本発明により、IgG抗体によって媒介される疾患又は状態の治療又は予防のための薬剤の製造における、EndoSポリペプチド又はEndoSポリペプチドをコードするポリヌクレオチドの使用が提供される。
【0007】
本発明は、
IgG抗体によって媒介される疾患又は状態の治療又は予防のための方法で使用するための、EndoSポリペプチド又はEndoSポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、
必要とする対象において、IgG抗体によって媒介される疾患又は状態を治療する又は予防する方法であって、治療有効量のEndoSポリペプチド又はEndoSポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを対象に投与するステップを含む方法、及び
IgG抗体によって媒介される疾患又は状態を罹患している患者から採取する血液をex vivoで処置する方法であって血液をEndoSポリペプチドと接触させるステップを含む方法
も提供する。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】図1A.ヒトIgG1の構造モデルの図である。角括弧は、抗原結合Fab部及びIgGのFcエフェクター部を示す。矢印は、重鎖のAsn−297に結合した2個の保存グリカンを示す。図1B.完全に置換されたIgG重鎖グリカンを模式的に表す図である。S2は、完全にシアル化されたグリコフォームを示し、G0及び角括弧は、G0グリコフォームの範囲を示す。LCAは、レクチン実験において使用されるレンズマメ(Lens culinaris)アグルチニンの結合部位を示し、EndoSは、酵素の切断部位を示す。
【図2】様々な化膿レンサ球菌血清型、S.エクイ(S.equi)及びS.ズーエピデミカス(S.zooepidemicus)由来EndoS相同体のClustalWアミノ酸配列アラインメントの図である。株名、種、及びM血清型を左に示す。アミノ酸同一性及び類似性は灰色で示し、共通配列はアラインメントの下に示されている。保存されたキチナーゼモチーフは囲み、活性に必須のグルタミン酸にはアラインメントの下に星印を付けている。
【図3】EndoS α−ドメインとエリザベスキンギア・メニンゴセプチカ(Elizabethkingia meningoseptica)由来EndoF及びヒツジ偽結核菌(Corynebacterium pseudotuberculosis)由来CP40とのClustalWアミノ酸配列アラインメントの図である。タンパク質名は左に示されている。アミノ酸同一性及び類似性は灰色で示され、共通配列はアラインメントの下に示されている。保存されたキチナーゼモチーフは囲み、活性に必須のグルタミン酸にはアラインメントの下に星印を付けている。
【図4】EndoSのドメイン構成を示す図である。全長EndoSの995アミノ酸(配列番号2)の模式的表示。Ssは、シグナルペプチドを表し、α−ドメイン中のキチナーゼファミリー18活性部位モチーフを表示し、2個のドメインを生成するSepB切断部位を矢印で示す。
【図5】ヒト血液中でのEndoS活性の分析を示す図及びグラフである。図5Aは、濃度を上昇させた組換えEndoS(rEndoS)とインキュベートしたヒト血液由来の精製IgGのSDS−PAGE分析を示す。図5Bは、濃度を上昇させたrEndoSとインキュベートしたヒト全血液由来の精製IgGのLCAレクチンブロット分析を示す。図5Cは、濃度を上昇させたrEndoSとインキュベートしたヒト血液から精製したIgGのレクチンブロットの濃度測定分析を示す。
【図6】ウサギにおけるEndoSのin vivo活性の分析を示す図である。図6Aは、rEndoS 500μgの1回目静脈内注射後の表示時点にウサギから採取した血清試料由来の精製IgGのSDS−PAGE(染色)及びレクチンブロット分析(LCAブロット)を示す。図6Bは、rEndoSの2回目投与後の表示時点にウサギから採取した血清試料由来の精製IgGのSDS−PAGE(染色)及びレクチンブロット分析(LCAブロット)を示す。図6Cは、rEndoSの3回目投与後の表示時点にウサギから採取した血清試料由来の精製IgGのSDS−PAGE(染色)及びレクチンブロット分析(LCAブロット)を示す。
【図7】図7A.rEndoSへのウサギの抗体応答を示す図である。血清試料は、rEndoSの1回目、2回目及び3回目の注射後の表示時点にウサギから採取した。血清は、SDS−PAGEで分離した精製rEndoSでの個々の膜片でのウエスタンブロットにおいて一次抗血清として使用した。図7B.rEndoSへのウサギの抗体応答を示すグラフ及び図である。血清試料は、図7Aにおいてと同様である。挿入図:1回目注射後の血清試料を一次抗血清として使用する、図7Aにおいてと同様のウエスタンブロット。主図:1回目、2回目及び3回目の注射後の血清試料を固定化EndoSでのELISA実験における一次抗血清として使用した。1回目注射の前の濃度と比較して抗EndoS IgGの濃度(ng/ml)の増大が示されている。1つの代表的実験が示されている。
【図8】EndoSと共に、及びEndoS無しでインキュベートし、10%SDS−PAGEで分離したIgGモノクローナル抗体(CIIC1及びM2139)のSDS−PAGE(染色)及びレクチンブロット分析(Blot)を示す図である。ゲルは、クーマシーブルー染色(染色)によって、又はGNLレクチン(Blot)で探索される膜にブロットすることによって分析された。CIIC1(IgG2a)モノクローナル抗体はEndoS(レーン1)と共に、及びEndoS無しで(レーン2)インキュベートし;M2139(IgG2b)モノクローナル抗体はEndoSと共に(レーン3)、及びEndoS無しで(レーン4)インキュベートした。
【図9】正常の及びEndoS処理のCII結合抗体:(a)M2139、(b)M2139D、(c)CIIC1、(d)CIIC1D及び(e)対照、で処置したラット由来の染色した関節切片(10μm)を示す図である。拡大率は、×10である。EndoSを使用して脱グリコシル化した抗体を「D」と示す。1〜2日齢の新生ラットにCII結合抗体(正常及びEndoS処理の両方)1mgをi.p.注射した。抗体移植の24時間後、足を切断し、イソペンタン及びドライアイスを使用してOCT化合物中にただちに凍結した。免疫組織化学的分析を、標準的手順を使用する検出系としてビオチン化抗マウスカッパ(187.1)抗体及びHRP複合2次抗体を使用して実施した。
【図10】未処理又はEndoS処理の抗CIIモノクローナル抗体を投与されたマウスにおける関節炎の発症率(a)及び重症度(b)を示すグラフである。(BALB/c X B10.Q)F1マウス、オスの群に未処理(n=7)又はEndoS処理(n=5)のいずれかの抗CIIモノクローナル抗体(M2139及びCIIC1)9mgを0日目に注射した。5日目に全てのマウスに大腸菌(E.coli)LPS 50μgをi.p.注射した。全てのマウスを算定に含めた。エラーバーは、平均±SEMを示す。
【図11】未処理又はEndoS処理の抗CIIモノクローナル抗体を投与されたマウスにおける関節炎の発症率(a)及び重症度(b)を示すグラフである。B10.RIIIマウス、オスに未処理(n=11)又はEndoS処理(n=12)のいずれかの抗CIIモノクローナル抗体(M2139及びCIIC1)9mgを0日目に注射した。5日目に全てのマウスに大腸菌LPS 50μgをi.p.注射した。全てのマウスを算定に含めた。エラーバーは、平均±SEMを示す。
【図12】(a)様々な濃度の正常(BALB/c x B10.Q)F1血清を使用するCIIコート抗体結合プレート;及び(b)0.25%の正常(BALB/c x B10.Q)F1血清で抗体を直接コートしたプレート:上の補体成分C1qの沈着を示すグラフである。エラーバーは、±SDを示す。
【図13】(a)様々な濃度の正常(BALB/c x B10.Q)F1血清を使用するCIIコート抗体結合プレート;及び(b)0.125%の正常(BALB/c x B10.Q)F1血清で抗体を直接コートしたプレート:上の補体成分C3bの沈着を示すグラフである。エラーバーは、±SDを示す。
【図14】好中球(PMNL)酸化バーストにおけるモノクローナル抗体の脱グリコシル化の効果を示すグラフである。正常(M2139又はCIIC1)又は脱グリコシル化(M2139−D又はCIIC1−D)モノクローナル抗体をカルボキシル化ポリスチレン微小粒子(1μm)にコートした。ヘパリン処理全血試料由来のPMNLの酸化バースト能は、それらを抗体コートビーズとインキュベートした後にFACSを使用して決定した。結果は、各群のマウス5匹からの平均値である。3種の異なる遺伝子型を有するB10.Qマウス(FcgR+/+、FcgR−/−及びFcgR+/−)を使用した。「培地」及び「ビーズ」群は、2種の異なる陰性対照群を構成する。PMA群は、陽性対照であった。PMNLは、RB6−APC複合物を使用して同定した。
【図15】モノクローナル抗体混合物(M2139及びCIIC1又はM2139D及びCIIC1D)9mgをi.v.移植されたB10.RIIIマウス(1日目及び5日目)の血清中のELISAで測定された抗CII抗体のレベルを示すグラフである。平均ユーロピウム蛍光単位は、マルチラベルカウンター(VICTOR 1420、Wallac)を使用して測定した。
【図16】病原性IgG抗体のEndoS前処理が、マウスで抗体媒介性血小板減少症を阻止することを示すグラフである。パネルA:BALB/cマウス、メス(n=3)はウサギ抗マウス血小板IgG(αPLT−IgG)を腹腔内注射された。血液試料は定期的に採取され、血小板数はフローサイトメトリーを使用して決定された。パネルB:GST−EndoS(n=4)又はGST(n=4)で前処理したαPLT−IgGを注射されたBALB/cマウスの生存プロット。パネルC:GST−EndoSで前処理したαPLT−IgGを投与されたマウス由来の血液試料についてのフローサイトメトリーによって決定した経時的血小板数。
【図17】EndoSが致死性IgG媒介性血小板減少症からマウスを救済することを示すグラフである。パネルA:αPLT−IgGを注射され、αPLT−IgG投与の3時間後にGST−EndoS(n=8)又はGST(n=8)での処置が続いたBALB/cマウスの生存プロット。パネルB:αPLT−IgGの注射後24、48又は72(GST−EndoSのみ)時間後のGST−EndoS又はGST−処置マウスから精製されたIgGのSDS−PAGE分析(染色)及びLCAレクチンブロット分析(LCAブロット)。パネルC:血液試料は定期的に採取され、血小板数はGST−EndoS処置を受けたマウスにおいてフローサイトメトリーを使用して決定された。パネルD:αPLT−IgGを注射され、腹腔内出血の明確な徴候の発現時(αPLT−IgG投与の5〜7時間後)にGST−EndoS(n=7)又はGST(n=7)での処置が続いたBALB/cマウスの生存プロット。
【発明を実施するための形態】
【0009】
配列の簡単な説明
配列番号1は、化膿レンサ球菌AP1から単離されたEndoSのアミノ酸配列である。
【0010】
配列番号2は、シグナル配列を含む、化膿レンサ球菌AP1から単離されたEndoSのアミノ酸配列である。
【0011】
配列番号3は、シグナル配列を含む、化膿レンサ球菌AP1から単離されたEndoSをコードする核酸配列である。
【0012】
本発明は、IgG抗体によって媒介される疾患又は状態を治療する又は予防するための方法であって、EndoSポリペプチド又はEndoSポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを対象に投与するステップを含む方法を提供する。
【0013】
本発明者らは、EndoSがヒト血液中及びウサギin vivoでIgGを加水分解すること、マウスにおいてEndoSによるIgGの脱グリコシル化がその関節炎誘発能を抑制すること、並びにEndoSが致死性IgG誘発性突発性血小板減少性紫斑病(ITP)のマウスモデルにおいて保護効果を有することを見出している。病原性抗体のEndoS前処理は、この疾患の進行を阻止し、本酵素は、重症の血小板減少症及び皮下出血が進行している場合に、既に確立している疾患からマウスを救済もする。したがって、EndoSは、IgG抗体によって媒介される疾患又は状態を治療又は予防するために使用され得る。
【0014】
ポリペプチド
EndoSポリペプチドは、好ましくは化膿レンサ球菌EndoS又はIgGエンドグリコシダーゼ活性を保持している化膿レンサ球菌EndoSのバリアント若しくは断片である。バリアントは、他の細菌など他の生物由来のEndoSポリペプチドでもあり得る。細菌は、好ましくはストレプトコッカス・エクイ(Streptococcus equi)、ストレプトコッカス・ズーエピデミカス(Streptococcus zooepidemicus)又は、好ましくは化膿性レンサ球菌などであるレンサ球菌である。別法として、バリアントは、ヒツジ偽結核菌、例えばCP40タンパク質;エンテロコッカス・フェカリス(Enterococcus faecalis)、例えばEndoEタンパク質;又は、エリザベスキンギア・メニンゴセプチカ(以前はフラボバクテリウム・メニンゴセプチカム(Flavobacterium meningosepticum))、例えばEndoFタンパク質、由来であり得る。様々な化膿レンサ球菌血清型由来並びにS.エクイ及びS.ズーエピデミカス由来のEndoSバリアントの配列を図2に示す。図3は、EndoSのα−ドメインとエリザベスキンギア・メニンゴセプチカ由来EndoF及びヒツジ偽結核菌由来CP40とのアラインメントを示す。
【0015】
EndoSポリペプチドは、
(a)配列番号1のアミノ酸配列、
(b)配列番号1のアミノ酸配列に少なくとも50%の同一性を有し、IgGエンドグリコシダーゼ活性を有するそのバリアント、又は
(c)IgGエンドグリコシダーゼ活性を有するそれらのいずれかの断片
を含み得る。
【0016】
好ましくは、ポリペプチドは、配列番号1の配列を含むか、又は配列番号1の配列から成る。配列番号1は、シグナル配列が無いEndoSの成熟型の配列であり、配列番号2のアミノ酸37から995に相当する。
【0017】
ポリペプチドは、追加的にシグナル配列を含み得る。したがって、EndoSポリペプチドは、
(a)配列番号2のアミノ酸配列、
(b)配列番号2のアミノ酸配列に少なくとも50%の同一性を有し、IgGエンドグリコシダーゼ活性を有するそのバリアント、又は
(c)IgGエンドグリコシダーゼ活性を有するそれらのいずれかの断片
を含み得る。
【0018】
EndoSポリペプチドは、配列番号2に示す配列から成ることができる。
【0019】
バリアントポリペプチドは、アミノ酸配列が配列番号1又は配列番号2におけるそれから変化しているが、しかし、EndoSと同じ必須の特徴又は基本的機能を保持しているものである。したがって、バリアントポリペプチドは、IgGエンドグリコシダーゼ活性を示し得る。典型的には、配列番号1又は配列番号2のアミノ酸配列と約50%、55%又は65%を超える同一性、好ましくは少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%及び特に好ましくは少なくとも95%、少なくとも97%、又は少なくとも99%の同一性を有するポリペプチドがタンパク質のバリアントと見なされる。その様なバリアントは、対立バリアント及び、ペプチドがEndoSの基本的機能を維持している限り、タンパク質配列内の単一のアミノ酸又はアミノ酸群の欠失、改変又は付加を含み得る。配列番号1又は配列番号2のバリアントの同一性は、配列番号1若しくは配列番号2に示す配列の、少なくとも100、少なくとも250、少なくとも500、少なくとも750、少なくとも800、少なくとも850、少なくとも900、少なくとも950、少なくとも955の若しくはより連続的なアミノ酸の領域にわたって、又はより好ましくは配列番号1若しくは配列番号2の全長にわたって測定され得る。
【0020】
アミノ酸の同一性は任意の適切なアルゴリズムを使用して算出できる。例えばUWGCG Packageは、相同性を算出するために使用できる(例えばその初期設定で使用される)BESTFITプログラムを提供する(Devereuxら(1984)Nucleic Acids Research 12,387〜395)。PILEUP及びBLASTアルゴリズムは、例えばAltschul S.F.(1993)J Mol Evol 36:290〜300;Altschul,S,Fら(1990)J Mol Biol 215:403〜10に記載されている様に、(典型的には初期設定で)(見分ける必要のある、もしくは対応する配列のような)塩基配列の相同性を計算したり、配列を整列するために使用出来る。
【0021】
BLAST分析を実施するためのソフトウェアは、National Center for Biotechnology Information(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/)を通じて公的に入手可能である。このアルゴリズムは、データベース配列中の同じ長さのワードとアラインされた場合に、ある正の値の閾値スコアTに一致するか又はそれを満たす検索配列中の長さWの短いワードを同定することによって高スコア配列対(HSP)を最初に同定することに関与している。Tは文字列スコア閾値と称される(Altschulら、上記)。これらの初期文字列ヒットは、それらを含むHSPを見出すための検索を開始するための種子として働く。ワードヒットは、累積アラインメントスコアが増大できる限り、各配列に沿って両方向に伸長される。各方向へのワードヒットの伸長は:累積アラインメントスコアが、その最大達成値より数量Xだけ低下する;1つ又は複数の負のスコアである残基のアラインメントの蓄積によって、累積スコアがゼロ以下になる;又は、いずれかの配列の末端に達する、場合に停止される。BLASTアルゴリズムパラメーターW、T及びXは、アラインメントの感度及び速度を決定する。BLASTプログラムは、初期設定としてワード長(W)は11、BLOSUM62スコアリングマトリックス(Henikoff及びHenikoff(1992)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 89:10915〜10919を参照されたい)アラインメント(B)は50、期待値(E)は10、M=5、N=4及び両鎖の比較を使用する。
【0022】
BLASTアルゴリズムは、2つの配列間での類似性の統計的分析を実施する、例えばKarlin及びAltschul(1993)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 90:5873〜5787を参照されたい。BLASTアルゴリズムによって提供される類似性の1つの基準は、2つのポリヌクレオチド又はアミノ酸の配列の間の一致が偶然生じる確率の指標を提供する最小合計確率(P(N))である。例えば、第1の配列と第2の配列との比較において最小合計確率が約1より少ない、好ましくは約0.1より少ない、より好ましくは約0.01より少ない及び最も好ましくは約0.001より少ない場合に、ある配列は他の配列と類似であると見なされる。
【0023】
バリアント配列は、典型的には少なくとも1、2、3、5、10、20、30、50、100又はそれ以上の変異(アミノ酸の置換、欠失又は挿入であり得る)で異なる。例えば、1から100、2から50、3から30又は5から20アミノ酸の置換、欠失又は挿入が作製され得る。改変ポリペプチドは、一般にIgG特異的エンドグリコシダーゼとしての活性を保持する。置換は、好ましくは、例えば以下の表による、保存的置換である。第2列の同じブロック、好ましくは第3列の同じ行のアミノ酸は、互いに置換され得る。
【表1】

【0024】
配列番号1のアミノ酸配列のバリアントは、好ましくは、配列番号1の191から199残基、すなわち配列番号1のLeu−191、Asp−192、Gly−193、Leu−194、Asp−195、Val−196、Asp−197、Val−198及びGlu−199(配列番号2の227から235残基、すなわち配列番号2のLeu−227、Asp−228、Gly−229、Leu−230、Asp−231、Val−232、Asp−233、Val−234及びGlu−235に相当する)を含む。これらのアミノ酸は、完全なキチナーゼファミリー18活性部位を構成し、グルタミン酸で終わっている。キチナーゼの活性部位のグルタミン酸は、酵素活性のために必須である。したがって最も好ましくは、配列番号1のバリアントは、配列番号1のGlu−199を含み、配列番号2のバリアントは配列番号2のGlu−235を含む。配列番号1のバリアントは、バリアントが配列番号1のGlu−199を含むという条件で、1つ又は複数の保存的置換を有する配列番号1の191から199残基を含むことができる。別法として、配列番号2のバリアントは、バリアントが配列番号2のGlu−235を含むという条件で、1つ又は複数の保存的置換を有する配列番号2の227から235残基を含むことができる。
【0025】
本発明で使用されるEndoSポリペプチドの断片は、典型的には、EndoSのIgGエンドグリコシダーゼ活性を保持する限り、少なくとも10、例えば少なくとも20、30、40、50又はそれを超える長さのアミノ酸、100、200、250、300、500、750、800、850、900、950又は955までの長さのアミノ酸である。好ましくは、本発明で使用されるEndoSポリペプチドの断片は、配列番号1の191から199残基、すなわち配列番号1のLeu−191、Asp−192、Gly−193、Leu−194、Asp−195、Val−196、Asp−197、Val−198及びGlu−199(配列番号2の227から235残基、すなわち配列番号2のLeu−227、Asp−228、Gly−229、Leu−230、Asp−231、Val−232、Asp−233、Val−234及びGlu−235)を包含する。配列番号2の好ましい断片は、シグナルペプチドの除去後に化膿レンサ球菌から分泌されるEndoSの形態に相当する、配列番号2のアミノ酸37から995、すなわち配列番号1から成る。本発明の他の好ましい断片は、配列番号1のアミノ酸1から409(配列番号2のアミノ酸37から445)から成り、レンサ球菌システインプロテイナーゼSpeBによる切断によって生成されるEndoSの酵素的に活性なα−ドメインに相当する。
【0026】
本発明において使用されるポリペプチドは、化学的に修飾、例えば翻訳後に修飾されても良い。例えばそれらは、グリコシル化され得る、リン酸化され得る又は修飾されたアミノ酸残基を含み得る。それらは、その精製を助けるためのヒスチジン残基の付加によって、又は細胞膜への挿入を促進するためのシグナル配列の付加によって改変され得る。その様な改変ポリペプチドは、本明細書において使用する用語「ポリペプチド」の範囲に含まれる。
【0027】
典型的には、本発明における使用のためのポリペプチドは、免疫グロブリンエンドグリコシダーゼ活性、具体的にはIgGエンドグリコシダーゼ活性を示す。好ましくは、ポリペプチドは、IgGのアスパラギン結合グリカンのβ−1,4−ジ−N−アセチルキトビオースコアを加水分解する。好ましくは、活性はIgGに特異的である。エンドグリコシダーゼ活性は、適切なアッセイによって決定され得る。例えば、検査ポリペプチドは、37℃などの適切な温度でIgGとインキュベートされ得る。出発物質及び反応産物は、次いでSDS PAGEによって分析され得る。典型的には、検査ポリペプチドがIgGエンドグリコシダーゼ活性を有する場合、IgG重鎖の分子質量は、約3kDa減少する。検査ポリペプチドがIgGエンドグリコシダーゼ活性を有するかどうかを決定するための他のアッセイは、レンズマメアグルチニンレクチン(LCA)を使用し、任意選択で西洋ワサビペルオキシダーゼ及びペルオキシダーゼ基質を使用するグリコシル化IgGの検出による。典型的には、検査ポリペプチドがIgGエンドグリコシダーゼ活性を有する場合、糖質シグナルが減少する。検査ポリペプチドがIgGエンドグリコシダーゼ活性を有するかどうかを決定するための他のアッセイは、検査ポリペプチドと精製IgG Fc断片とのインキュベーションに続く10mM ジチオスレイトールでの試料の還元及び質量分析法(MALDI−TOF)での分析による。典型的には、検査ポリペプチドがIgGエンドグリコシダーゼ活性を有する場合、単量体IgG Fcの質量は、1417±14Daだけ減少する。
【0028】
ポリペプチドのエンドグリコシダーゼ活性は、阻害研究によってさらに特徴付けられ得る。
【0029】
ポリペプチドのエンドグリコシダーゼ活性は、一般にIgG特異的であり、ポリペプチドは、IgGの切断を可能にする条件下で他のクラスのIgすなわちIgM、IgA、IgD及びIgEとインキュベートされる場合に、これらの免疫グロブリンを分解しない場合がある。EndoSポリペプチドは、治療される対象において存在するIgG分子を加水分解することができる。したがって、対象がヒトである場合、EndoSポリペプチドは、ヒトIgGを加水分解することができる。EndoSは、4つ全てのサブクラスのヒトIgG(IgG1−4)を加水分解できる。好ましい実施形態において、EndoSポリペプチドは、ヒト、アカゲザル、マウス、ラット、ウサギ、ウマ、ヤギ、イヌ及びブタIgGを加水分解する能力を有する。
【0030】
本発明における使用のためのポリペプチドは、実質的に単離された形態であり得る。ポリペプチドは、ポリペプチドの使用目的に干渉しない担体又は希釈剤と混合することができ、且つそれでも実質的に単離されていると見なされ得ることは、理解される。本発明における使用のためのポリペプチドは、実質的に精製された形態でもあり得、一般に、調製物中のポリペプチドの重量で、50%を超えて、例えば80%、90%、95%又は99%を超えて調製物中にポリペプチドを含む場合が、本発明のポリペプチドである。
【0031】
本発明における使用のためのポリペプチドは、EndoSポリペプチド又はEndoSポリペプチドのバリアントを発現する任意の適切な生物から単離され得る。典型的にはEndoSポリペプチドは、EndoSを発現するレンサ球菌の適切な株、好ましくは化膿レンサ球菌の株から単離される。適切な生物及び株は、多くの技術によって同定され得る。例えば化膿レンサ球菌株は、最初にndoS遺伝子の存在について検査され得る。ポリヌクレオチドプライマー又はプローブは、例えば配列番号1、2又は3に基づいて設計され得る。次いでndoS遺伝子の存在は、その様なプライマーを使用するPCRによって、又は化膿レンサ球菌株のゲノムDNAへのプローブのハイブリダイゼーションによって確認できる。
【0032】
活性EndoS又はそのバリアントを発現しているレンサ球菌株は、培養上清中のIgGエンドグリコシダーゼ活性についてアッセイすることによって又はEndoSに対する抗体を使用する免疫検出によって同定され得る。活性EndoSを発現していると確認されているレンサ球菌株は、化膿レンサ球菌M1血清型AP1及びSF370株、S.エクイ4047株及びS.ズーエピデミカスH70株である。追加的にndoS遺伝子は以下の化膿レンサ球菌株において見出される:M1血清型SSI−1及びMGAS5005株、M2血清型MGAS10270株、M3血清型MGAS315株、M4血清型MGAS10750株、M5血清型Manfredo株、M6血清型MGAS10394株、M12血清型MGAS9429株、M18血清型MGAS8232株、M28血清型MGAS6180株及びM49血清型591株。
【0033】
発現している化膿レンサ球菌培養物から又はEndoSを発現している他の細胞の培養物からのEndoSの単離及び精製は、典型的にはIgGエンドグリコシダーゼ活性に基づく。好ましくは精製方法は、硫酸アンモニウム沈澱ステップ及びイオン交換クロマトグラフィーステップを含む。1つの方法において培養培地は、硫酸アンモニウムの量を増やしながら加えることによって分画される。硫酸アンモニウムの量は、10から80%であり得る。好ましくは培養培地は、50%硫酸アンモニウムで分画され、得られた上清をさらに70%硫酸アンモニウムで沈澱させる。次いでペレット状のポリペプチドは、例えばMono QカラムでのFPLCによって、イオン交換クロマトグラフィーに供され得る。溶出画分をIgGエンドグリコシダーゼ活性についてアッセイすることができ、ピーク活性画分をプールすることができる。画分は、SDS PAGEによって分析することができる。画分は、−80℃で保存することができる。EndoSを精製するための別法において、シグナルペプチドを有さない(すなわち配列番号1の配列を有する)EndoSは大腸菌でGST Gene Fusion System(Amersham−Pharmacia Biotech,Uppsala,スウェーデン)を使用して発現される。ndoS配列の304から3232塩基にわたる2929塩基対のPCR産物は化膿レンサ球菌ゲノムDNAから、BamHI部位(下線)を有するプライマー5’−ACT−GGG−ATC−CCG−GAG−GAG−AAG−ACT−3’及びXhoI部位(下線)を有する5’−TTA−ATC−TCG−AGG−TTG−CTA−TCT−AAG−3’を使用して増幅される。断片は、BamHI及びXhoIで消化され、pGEX−5X−3に連結され、大腸菌BL21(DE3)pLysを形質転換するために使用されるプラスミドpGEXndoSを生成する。pGEXndoS/BL21(DE3)pLysは、0.1mMイソプロピルβ−D−チオガラクトピラノシドで誘導される。誘導後、細菌は、BugBuster(商標)(Novagen)を使用して溶菌され、GST−EndoS融合タンパク質は、Glutathione−Sepharose(登録商標)で精製される。GSTタグは、手順書(Amersham−Pharmacia Biotech)に従って第Xa因子を使用して除去され、残存第Xa因子は、Xarrest(商標)−アガロース(Novagen)を使用して除去される。これは、SDS−PAGE及びEndoS特異的抗体を使用するウエスタンブロットによって均一であると評価される組換えEndoS(rEndoS)の調製物をもたらす。in vivo実験の前に、タンパク質試料は0.2μmフィルター(Millipore)を通して滅菌ろ過される。精製されたEndoSタンパク質は、−80℃で、リン酸緩衝食塩水中に保存される。
【0034】
本発明における使用のためのポリペプチドは、その様に単離されたポリペプチドの断片として調製され得る。さらに、EndoSポリペプチドは、合成的に又は組換え手段によっても作製され得る。例えば、組換えEndoSポリペプチドは、適切な調節配列に作動的に連結された、ポリペプチドをコードするヌクレオチド配列を含む発現ベクターで培養中の哺乳類細胞をトランスフェクトするステップ、細胞を培養するステップ、細胞によって生成されたEndoSポリペプチドを抽出及び精製するステップによって生成され得る。
【0035】
本発明における使用のためのポリペプチドのアミノ酸配列は、非天然アミノ酸を含むように又は化合物の安定性を増大させるために改変され得る。ポリペプチドが合成手段によって生成される場合、その様なアミノ酸は生成中に導入され得る。ポリペプチドは、合成又は組換え生成のいずれに続いても改変され得る。
【0036】
本発明における使用のためのポリペプチドは、D−アミノ酸を使用しても生成され得る。その様な場合アミノ酸は、CからNへの方向で逆向き配列で結合される。これは、その様なポリペプチドを生成する当技術分野において慣用である。
【0037】
多数の側鎖修飾が当技術分野において既知であり、ポリペプチドがIgGエンドグリコシダーゼ活性を保持することを条件として、EndoSポリペプチドの側鎖にもなされ得る。
【0038】
ポリヌクレオチド
EndoSポリペプチド又はバリアントをコードするポリヌクレオチドは、病原性IgG抗体によって媒介される疾患又は状態を治療又は予防するために使用され得る。具体的にはポリヌクレオチドは、(a)配列番号3のコード配列、(b)(a)で定義された配列に対して遺伝暗号の結果として縮重している配列、(c)(a)若しくは(b)で定義された配列に少なくとも60%の同一性を有し、IgGエンドグリコシダーゼ活性を有するポリペプチドをコードする配列、又は(d)IgGエンドグリコシダーゼ活性を有するポリペプチドをコードする、(a)、(b)若しくは(c)で定義された配列のいずれか1つの断片を含み得るか又はそれから成る。
【0039】
典型的には、ポリヌクレオチドはDNAである。しかし、ポリヌクレオチドはRNAポリヌクレオチドでもあり得る。ポリヌクレオチドは、1本鎖又は2本鎖であり得、且つその中に合成又は修飾ヌクレオチドを含み得る。
【0040】
本発明のポリヌクレオチドは、典型的には配列番号3のコード配列又はコード配列の相補体に、バックグラウンドを顕著に超えるレベルでハイブリダイズできる。バックグラウンドハイブリダイゼーションは、例えばDNAライブラリー中に存在する他のDNAによって生じ得る。本発明のポリヌクレオチドと配列番号3のコード配列又はコード配列の相補体との間の相互作用によって生じるシグナルレベルは、典型的には他のポリヌクレオチドと配列番号3のコード配列との間の相互作用の少なくとも10倍、好ましくは少なくとも100倍強い。相互作用の強さは、例えばプローブを放射線標識すること(例えば32Pで)によって測定され得る。選択的ハイブリダイゼーションは、典型的には中程度から高いストリンジェンシーの条件を使用して達成され得る。しかし、その様なハイブリダイゼーションは、当技術分野において既知の任意の適切な条件下で実施され得る(Sambrookら、Molecular Cloning:A Laboretory Manual,1989を参照されたい)。例えば高いストリンジェンシーが必要な場合、適切な条件は、60℃から65℃までの0.1から0.2×SSCを含む。低いストリンジェンシーが必要な場合、適切な条件は、60℃での2×SSCを含む。
【0041】
配列番号3のコード配列は、例えば1、2又は3から10、25、50、100、200、500又は750個の置換である、ヌクレオチド置換によって改変され得る。配列番号3のポリヌクレオチドは、1つ又は複数の挿入及び/若しくは欠失によって並びに/又はいずれか若しくは両方の末端の伸長によって、代替的に又は追加的に改変され得る。シグナル配列などの追加的配列も含まれ得る。改変ポリヌクレオチドは、一般にIgG特異的エンドグリコシダーゼ活性を有するポリペプチドをコードする。縮重置換を行うことができ、且つ/又は例えば上記の表に示す通り、改変配列が翻訳された場合に保存的アミノ酸置換を生じる置換を行うことができる。
【0042】
配列番号3のDNAコード配列の相補体に選択的にハイブリダイズできるヌクレオチド配列は、一般に少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%又は少なくとも99%の配列同一性を配列番号3のコード配列に対して、少なくとも20、好ましくは少なくとも30、例えば少なくとも40、少なくとも60、少なくとも100、少なくとも200、少なくとも500、より好ましくは少なくとも750の連続したヌクレオチドの領域にわたって、又は最も好ましくは配列番号3の全長若しくは配列番号1若しくは2に示す配列を有するポリペプチドをコードする配列番号3の長さにわたって有する。配列同一性は、例えば上に記載の、任意の適切な方法によって決定され得る。
【0043】
配列同一性の上記で挙げた程度と最小長との任意の組合せは、本発明のポリヌクレオチドを定義するために使用することができ、よりストリンジェントな組合せ(すなわちより長い長さにわたるより高い配列同一性)が好ましい。したがって、例えば、60ヌクレオチドにわたる、好ましくは100ヌクレオチドにわたる少なくとも90%の配列同一性を有するポリヌクレオチドは、500ヌクレオチドにわたる少なくとも95%の配列同一性を有するポリヌクレオチドと同様に本発明の一態様を形成する。
【0044】
ポリヌクレオチド断片は、長さが好ましくは少なくとも20、例えば少なくとも25、少なくとも30又は少なくとも50ヌクレオチドである。それらは、典型的には長さで、100、150、250又は500ヌクレオチドまでである。断片は、長さで500ヌクレオチドより長くても良く、例えば長さで600、700、800、900、1000、1500、2000、2500又は3000ヌクレオチドまでであって良く、又は最大で配列番号3のコード配列より、5、10若しくは15ヌクレオチドなど数ヌクレオチド短くても良い。
【0045】
本発明における使用のためのポリヌクレオチドは、組換え的、合成的又は当業者に使用可能な任意の手段によって生成され得る。それらは、標準的技術によってクローン化され得る。ポリヌクレオチドは、典型的には単離された及び/又は精製された形態で提供される。
【0046】
一般に、短いポリヌクレオチドは、一度に1つのヌクレオチドの目的核酸配列の段階的製造を含む合成的手段によって生成される。自動化技術を使用するこれに付随する技術は、当技術分野において容易に利用可能である。
【0047】
より長いポリヌクレオチドは、一般に例えばPCR(ポリメラーゼ連鎖反応)クローニング技術を使用する組換え手段を使用して生成される。これは、クローン化しようとするndoS遺伝子の領域への一対のプライマー(例えば約15〜30ヌクレオチド)を作製するステップ、プライマーを細菌細胞から得たDNAと接触させるステップ、目的領域の増幅をもたらす条件下でポリメラーゼ連鎖反応を実施するステップ、増幅された断片を(例えばアガロースゲルで反応混合物を精製するステップによって)単離するステップ及び増幅されたDNAを回収するステップを含む。プライマーは、増幅されたDNAが適切なクローニングベクターにクローン化され得るように、適切な制限酵素認識部位を含有するように設計され得る。
【0048】
その様な技術は、本明細書に記載のndoS遺伝子配列の全て又は一部を得るために使用され得る。一般に、本明細書において述べる技術は、当技術分野において十分に周知であり、具体的にはSambrookら(1989)は参照され得る。
【0049】
本明細書に記載のEndoSポリヌクレオチドは、in vitro、in vivo又はex vivoにおいて実施され得る、本発明における使用のためのポリペプチドの生成において有用性を有する。ポリヌクレオチドは、それ自体で治療薬として使用することができ、又は組換えタンパク質合成に関与し得る。
【0050】
本発明における使用のためのポリヌクレオチドは、典型的には複製可能な組換えベクターに組み込まれる。ベクターは、適合可能な宿主細胞において核酸を複製するために使用され得る。したがって、本発明における使用のためのポリヌクレオチドは、EndoSポリヌクレオチドを複製可能なベクターに導入するステップ、ベクターを適合可能な宿主細胞に導入するステップ及びベクターの複製をもたらす条件下で宿主細胞を増殖させるステップによって作製され得る。宿主細胞は、例えば大腸菌細胞であり得る。
【0051】
好ましくは、ベクターは、EndoSポリペプチドをコードする核酸配列を含む発現ベクターである。その様な発現ベクターは、分子生物学の当技術分野において日常的に構築されており、プラスミドDNA並びに必要な場合があり、且つタンパク質の発現を実施するために正しい方向で位置付けられる、しかるべきイニシエーター、プロモーター、エンハンサー及び例えばポリアデニル化シグナルなどの他の要素の使用を例えば含み得る。他の適切なベクターは、当業者に明らかである。この点におけるさらなる例として、我々はSambrookら、(1989)を参照する。
【0052】
好ましくは、ベクター中の本発明における使用のためのポリヌクレオチドは、宿主細胞によるコード配列の発現を提供できる調節配列に作動的に連結される、すなわちベクターは、発現ベクターである。用語「作動的に連結される」は、記載した構成成分が、意図される形で機能することを可能にする関係となるように並列することである。コード配列に「作動的に連結される」プロモーターなどの調節配列は、コード配列の発現が調節配列と適合する条件下で達成されるように位置付けられる。
【0053】
例えばベクターは、複製開始点、任意選択で前記ポリヌクレオチドの発現ためのプロモーター及び任意選択でプロモーターの調節因子を備えるプラスミド、ウイルス又はファージベクターであり得る。ベクターは、典型的にはin vivoでの使用に適合する。
【0054】
プロモーター及び他の発現調節シグナルは、そのために発現が設計された宿主細胞に適合可能であるように選択され得る。β−アクチンプロモーターなどの哺乳類プロモーターは、使用され得る。組織特異的プロモーターは、特に好ましい。ウイルスプロモーターも使用され得る、例えば、モロニーマウス白血病ウイルス末端反復配列(MMLV LTR)、ラウス肉腫ウイルス(RSV)LTRプロモーター、SV40プロモーター、ヒトサイトメガロウイルス(CMV)IEプロモーター、アデノウイルス、HSVプロモーター(HSV IEプロモーターなど)、又はHPVプロモーター、特にHPV上流調節領域(URR)。ウイルスプロモーターは、当技術分野において容易に利用可能である。
【0055】
ベクターは、真核生物のゲノム配列に、好ましくは哺乳類のゲノム配列に相同な配列を含むポリヌクレオチドを生じる、ポリヌクレオチドに隣接する配列をさらに含み得る。これは、相同組換えによる真核生物のゲノムへの本発明のポリヌクレオチドの導入を可能にする。具体的には、ウイルス配列に隣接する発現カセットを含むプラスミドベクターは、本発明のポリヌクレオチドを哺乳類細胞に送達するために適切なウイルスベクターを調製するために使用され得る。適切なウイルスベクターの他の例として、単純ヘルペスウイルスベクター並びに、レンチウイルス、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス及びHPVウイルスを含むレトロウイルスが挙げられる。これらのウイルスを使用する遺伝子導入技術は、当業者に周知である。例えばレトロウイルスベクターは、ポリヌクレオチドを生じるポリヌクレオチドを宿主ゲノムに安定にインテグレートするために使用され得る。対照的に複製欠陥アデノウイルスベクターはエピソーム性に留まり、したがって一過性発現を可能にする。
【0056】
疾患及び状態
EndoSポリペプチド、又はポリヌクレオチドは、病原性IgG抗体によって媒介される疾患又は状態を治療又は予防するために使用され得る。IgG抗体が多数の異なる疾患及び状態の病変形成に関与していることは、当技術分野において十分に周知である。本発明者らは、その様な疾患における病原性IgG抗体の役割はEndoSポリペプチド又はポリヌクレオチドを使用して阻害され得ることを見出した。
【0057】
疾患又は状態は、自己免疫疾患であり得る。その様な疾患として、アジソン病、円形脱毛症、強直性脊椎炎、抗リン脂質抗体症候群、再生不良性貧血、自己免疫性胃炎、自己免疫性難聴、自己免疫性溶血性貧血、自己免疫性肝炎、自己免疫性副甲状腺機能低下症、自己免疫性下垂体炎、自己免疫性内耳疾患、自己免疫性リンパ球増殖症候群、自己免疫性心筋炎、自己免疫性卵巣炎、自己免疫性精巣炎、自己免疫性多腺性内分泌不全症、ベーチェット病、類天疱瘡、心筋症、慢性炎症性脱髄性多発神経障害、チャーグ・ストラウス症候群、セリアック病、クローン病、CREST症候群、デゴス病、後天性表皮水疱症、本態性混合型クリオグロブリン血症、巨細胞性動脈炎、糸球体腎炎、グッドパスチャー症候群、グレーブス病、ギラン・バレー症候群、橋本甲状腺炎、突発性血小板減少性紫斑病、炎症性腸疾患、川崎病、メニエール症候群、混合性結合組織病、モーレン潰瘍、多発性硬化症、重症筋無力症、落葉状天疱瘡、尋常性天疱瘡、悪性貧血、結節性多発性動脈炎、多腺性自己免疫症候群1型(PAS−1)、多腺性自己免疫症候群2型(PAS−2)、多腺性自己免疫症候群3型(PAS−3)、多発筋炎/皮膚筋炎、原発性胆汁性肝硬変、乾癬、乾癬性関節炎、レイノー病、ライター症候群、関節リウマチ、サルコイドーシス、強皮症、シェーグレン症候群、亜急性甲状腺炎、交感性眼炎、全身性エリテマトーデス、高安動脈炎、1型糖尿病、白班症、フォークト・小柳・原田症候群又はウェゲナー肉芽腫症が挙げられる。好ましくは、自己免疫疾患は、関節リウマチ(RA)、全身性エリトマトーデス又は突発性血小板減少性紫斑病である。
【0058】
疾患又は状態は喘息であり得る。喘息は急性又は慢性喘息であり得る。
【0059】
IgGは、補体系の古典的な経路を活性化する。EndoSポリペプチド及びポリヌクレオチドは、したがって補体活性化が患者に有害である疾患及び状態を治療するために使用され得る。例えばEndoSポリペプチド及びポリヌクレオチドは、移植に由来する障害、例えば移植拒絶反応(急性又は慢性の同種移植片拒絶又は異種移植片拒絶など)及び移植片対宿主病を治療するために使用され得る。移植に由来する障害は、患者での組織又は臓器の移植に起因して生じ得る。
【0060】
EndoSポリペプチド及びポリヌクレオチドは、術後治療において、例えば心臓バイパス手術を受けた患者の治療において、有用である。
【0061】
さらに、EndoSポリペプチド及びポリヌクレオチドは、後天性血友病の治療のために、すなわち凝固因子に対する自己抗体が生じている血友病患者においてIgGを除去するために使用され得る。
【0062】
対象は、典型的には、マウス、ラット又は霊長類(例えばマーモセット又はサル)などの哺乳類対象である。対象は、ヒトであるか又はヒト以外の動物であって良い。対象がマウス、ラット又は霊長類などの実験動物である場合、動物は、病原性IgG抗体によって媒介される疾患又は状態を誘発するために処置され得る。例えば、Nandakumarら、(Am.J.Pathol.163(5):1827〜1837,2003)によって記載されたマウス抗CII抗体誘発関節炎(CAIA)モデル、又はこのモデルの修正バージョンは、使用され得る。
【0063】
治療及び予防
本発明は、病原性IgG抗体によって媒介される疾患又は状態を治療又は予防するためのEndoSポリペプチド及びポリヌクレオチドの使用を提供する。処置は、治療的又は予防的であり得る。
【0064】
EndoSポリペプチド又はポリヌクレオチドは、疾患又は状態の1つ又は複数の症状の発症を予防するために個体に投与され得る。本実施形態において、対象は無徴候性であり得る。対象は、疾患に遺伝的素因を有し得る。予防有効量のポリペプチド又はポリヌクレオチドは、その様な個体に投与される。予防有効量は、疾患又は状態の1つ又は複数の症状の発症を予防する量である。
【0065】
EndoSポリペプチド又はポリヌクレオチドの治療有効量は、疾患又は状態の1つ又は複数の症状を改善するために有効な量である。好ましくは、治療される個体は、ヒトである。
【0066】
EndoSポリペプチド又はポリヌクレオチドは、任意の適切な手段によって対象に投与され得る。ポリペプチド及びポリヌクレオチドは、経口、頬側、肛門、肺、静脈内、動脈内、筋肉内、腹腔内、関節内、局所又は他の適切な投与経路を介するなどの経腸的又は非経口的経路によって投与され得る。
【0067】
EndoSポリペプチド又はポリヌクレオチドは、特定の部位への治療を標的とするように対象に投与され得る。例えば、EndoSポリペプチドは、移植された臓器の部位に直接投与され得る。EndoSポリペプチドは、例えば関節内に又は1つ若しくは複数の関節に、局所的に注射され得る。EndoSの関節への局所投与は、関節リウマチ(RA)の予防又は治療のために特に好ましい。EndoSポリペプチドは、軟骨に特異的に結合する試薬と結合され得る。EndoSポリヌクレオチドについては、EndoSポリペプチドをコードする発現ベクターは、例えば組織特異的プロモーター又はRNAiを使用することによって、特定の組織へのEndoSの直接発現のために使用され得る。
【0068】
本明細書に挙げた任意のポリペプチド及びポリヌクレオチドの処方は、ポリペプチド又はポリヌクレオチドの性質及び治療される状態などの要因に依存する。ポリペプチド又はポリヌクレオチドは、種々の投薬形態で投与され得る。それは、経口(例えば錠剤、トローチ、ローゼンジ、水性若しくは油性懸濁剤、分散性粉剤又は顆粒)、非経口、皮下、静脈内、筋肉内、胸骨内、経皮で又は点滴術によって投与され得る。ポリペプチド又はポリヌクレオチドは、座薬としても投与され得る。医師は、個々の具体的な患者について必要な投与経路を決定できる。
【0069】
典型的にはポリペプチド又はポリヌクレオチドは、薬学的に許容される担体又は希釈剤と共に使用のために処方され、これは薬学分野における日常的方法を使用して実施され得る。薬学的担体又は希釈剤は、例えば等張液であり得る。例えば、固体経口形態は、活性化合物と共に、希釈剤(例えば乳糖、ブドウ糖、ショ糖、セルロース、コーンスターチ若しくはジャガイモデンプン);潤滑剤(例えばシリカ、タルク、ステアリン酸、ステアリン酸マグネシウム若しくはステアリン酸カルシウム、及び/又はポリエチレングリコール);結合剤(例えばデンプン、アラビアゴム、ゼラチン、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース若しくはポリビニルピロリドン);脱凝集剤(例えばデンプン、アルギン酸、アルギン酸塩又はグリコールデンプンナトリウム);発泡性混合物;染料;甘味料;レシチン、ポリソルベート、ラウリル硫酸などの湿潤剤;及び一般に、医薬製剤において使用される非毒性で薬学的に不活性な物質を含有できる。その様な医薬調製物は、既知の手段、例えば混合、顆粒化、錠剤化、糖衣又はフィルムコーティング工程の手段によって製造され得る。
【0070】
経口投与用の液状分散剤は、シロップ、乳剤及び懸濁剤であり得る。シロップは、担体として例えばショ糖又は、グリセリン及び/若しくはマンニトール及び/若しくはソルビトールを伴うショ糖を含有し得る。
【0071】
懸濁剤及び乳剤は、担体として例えば天然ゴム、寒天、アルギン酸ナトリウム、ペクチン、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、又はポリビニルアルコールを含有し得る。筋肉内注射のための懸濁剤又は溶液は、活性化合物と共に薬学的に許容される担体、例えば滅菌水、オリーブ油、オレイン酸エチル、グリコール類(例えばプロピレングリコール)及び所望により適切な量の塩酸リドカインを含有し得る。
【0072】
静脈内又は点滴のための溶液は、担体として、例えば滅菌水を含有し得るか、又は好ましくはそれらは、滅菌、水性、等張食塩水の形態であり得る。
【0073】
座薬用に、伝統的な結合剤及び担体として、例えばポリアルキレングリコール又はトリグリセリドが挙げられ得る;その様な座薬は、0.5%から10%、好ましくは1%から2%の範囲の活性成分を含有する混合物から形成され得る。
【0074】
経口製剤は、例えば医薬用品質のマンニトール、乳糖、デンプン、ステアリン酸マグネシウム、サッカリンナトリウム、セルロース、炭酸マグネシウムなどの通常使用される様な賦形剤を含む。これらの組成物は、溶液、懸濁液、錠剤、丸剤、カプセル、徐放性製剤又は粉剤の形態であり、10%から95%、好ましくは25%から70%の活性成分を含有する。医薬組成物が凍結乾燥される場合、凍結乾燥された物質は、投与の前に再構成され得る(例えば懸濁液)。再構成は、好ましくは緩衝液中で行われる。
【0075】
例えばEudragit「S」、Eudragit「L」、酢酸セルロース、酢酸フタル酸セルロース又はヒドロキシプロピルメチルセルロースを含む腸溶コーティングを有する、患者への経口投与のためのカプセル、錠剤及び丸剤が提供され得る。
【0076】
無針注入、例えば経皮による送達に適する医薬組成物も使用され得る。
【0077】
治療有効量のポリペプチド又はポリヌクレオチドを投与する。投与量は、種々のパラメーターに応じて、特に使用されるポリペプチド又はポリヌクレオチド;治療される患者の年齢、体重及び状態;投与経路;及び必要とされる投与計画に応じて決定され得る。再び、医師は、任意の具体的な患者について必要な投与経路及び投与量を決定できる。典型的な日用量は、具体的な阻害剤の活性、治療される対象の年齢、体重及び状態、疾患の型及び重症度並びに投与の頻度及び経路に応じて、体重1kg当たり約0.1から50mg、好ましくは約0.1mg/kgから10mg/kgである。好ましくは日用量レベルは、5mgから2gである。
【0078】
上に記載のEndoSヌクレオチド配列及びその様な配列を含有する発現ベクターは、上記で概略を述べた通り医薬製剤としても使用され得る。好ましくは、RNA又はDNAなどの核酸、具体的にはDNAは、治療される個体の細胞で発現され得る発現ベクターの形態で提供される。ワクチンは、ヌクレオチド配列をそれだけで、又は陽イオン性脂質、ポリマー、若しくは標的化系との組合せで含み得る。ワクチンは、任意の利用可能な技術によって送達され得る。例えば、核酸は、針での注射によって、好ましくは皮内、皮下又は筋肉内に導入され得る。別法として核酸は、粒子媒介遺伝子送達などの核酸送達デバイスを使用して直接皮膚を通じて送達され得る。核酸は、皮膚に又は、例えば鼻腔内、口腔、膣内若しくは直腸内投与によって粘膜表面に局所的に投与され得る。
【0079】
核酸構築物の取り込みは、例えばトランスフェクション剤の使用を含む、幾つかの既知のトランスフェクション技術によって促進することができる。これらの薬剤の例として、陽イオン性薬剤、例えばリン酸カルシウム及びDEAE−デキストラン、並びにリポフェクタント、例えばリポフェクタム(lipofectam)及びトランスフェクタム(transfectam)が挙げられる。投与される核酸の用量は、変更され得る。典型的には核酸は、粒子媒介遺伝子送達については核酸1pgから1mg、好ましくは1pgから10μgの範囲で、及び他の経路については10μgから1mgの範囲で投与される。
【0080】
本発明は、病原性IgG抗体によって媒介される疾患又は状態を罹患している患者から採取する血液をex vivoで処置する方法であって、血液をEndoSポリペプチドと接触させるステップを含む方法も提供する。したがって、EndoSは、血液の体外処置のために使用され得る。EndoSは、血漿又は血清などの血液の1つ又は複数の成分を処置するために使用され得る。本明細書に記載のex vivo法は、患者の身体から既に採取されている血液について実施され得る。血液及び血液製剤は、EndoSポリペプチドと接触させた後に任意選択で患者に戻すことができる。
【実施例】
【0081】
以下の実施例は本発明を例示する:
【0082】
(実施例1)EndoSはヒト血液においてIgGを効果的に加水分解する。
病原性IgGに対して治療薬として有効であるために、EndoSは、ヒト全血環境における低濃度で活性である必要がある。これを調査するために、シグナル配列を有さない組換えEndoS(rEndoS)(すなわち配列番号1の配列を有する)を以前記載された通り生成及び精製した(Collin & Olsen,2001,Infect.Immun.69:7187〜7189)。rEndoSの最終濃度を上昇させて(0、0.31、0.63、1.25、2.5、5、10及び20μg/ml)、健常人由来のヘパリン処置ヒト血液500μl中で、転倒回転させて37℃、1時間インキュベートした。試料を720×g、10分間、4℃で遠心分離し、続いて製造者の手順書(GE Healthcare Biosciences,Uppsala,スウェーデン)に従ってプロテインGセファロースを使用して血漿中のIgGを精製した。完全にグリコシル化されたIgGとEndoS処理IgGの間のプロテインGへの結合効率に差異は無かった、これは、IgG結合タンパク質、プロテインH(化膿レンサ球菌由来)及びプロテインA(黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)由来)についての以前の知見と一致する(Collin & Olsen,2001,EMBO J.20:3046〜3055)。精製したIgGを、10%SDS−PAGEで分離し、クーマシーで染色するか又はPVDF(Immobilon−P,Millipore,Bedford,MA)にエレクトロブロットした。グリコシル化IgGをビオチン化レンズマメアグルチニンレクチン(LCA)5μg/ml及びストレプトアビジン−西洋ワサビペルオキシダーゼ(Vector Laboratories,Burlingame,CA)1μl/ml並びにSuperSignal West Picoペルオキシダーゼ基質(Pierce,Rockford,IL)を使用して検出した。膜は、Chemidoc XRS画像化システム及びQuantity One画像分析ソフトウェア(Bio−Rad,Hercules,CA)を使用して分析した。
【0083】
これらの実験は、EndoSの濃度を増大させるとIgG重鎖が約3kDa小さな見かけの分子質量に徐々に移動し、rEndoS 2.5〜5μg/ml以上の濃度では完全な大きさの重鎖は、ほとんど見られなかったことを示した(図5A)。同じ試料でのLCAレクチンブロット実験は、rEndoSの濃度を増大させると糖質シグナルの低下が生じ、rEndoS濃度2.5〜5μg/ml以上では事実上シグナルは、無いことを示した(図5B)。レクチンシグナルの欠如は、質量分析法によって分析されたIgGグリカンの完全加水分解に良く対応することは、以前から示されている(Collin & Fischetti,2004,J.Biol.Chem.279:22558〜22570)。さらに、ピーク濃度分析は、rEndoS濃度5μg/ml付近でバックグラウンドレベルで平らになった用量依存曲線を示している(図5C)。
【0084】
これらの結果は、rEndoS 5μg/ml、1時間はヒト血液中のIgGプールを完全に加水分解することを示す。IgG血漿濃度を10mg/mlと仮定すると、これは、rEndoS対IgGの比1:2000、1時間でのIgGの完全加水分解を意味する。したがって、rEndoSは、ヒト血液の様な複雑な環境において、機能的に重要なIgGグリカンの著しく効果的な加水分解を示す。
【0085】
(実施例2)EndoSはウサギにおいてIgGを効果的に加水分解する。
治療薬としてのEndoSの使用をさらに実証するために、生きた動物の循環におけるEndoSのIgGグリカン加水分解活性を調査した。体重約3kgのスウェーデンループウサギに、rEndoSが血液中だけに分布すると考えるとrEndoS対IgGの比が約1:2000に相当する、rEndoS 1mgを静脈内注射した。動物は、疾患の徴候を示さなかった。血清試料を0、1、2、4、6、8及び12時間で並びに1、2、3、4、5、6、8及び10日目に採取した。血清IgGをグリコシル化状態について、ヒト血液について上に記載の通りSDS−PAGE及びレクチンブロット分析を使用して分析した。
【0086】
これらの実験は、注射の前には、IgGの重鎖の見かけの分子質量が、完全にグリコシル化された未処置のウサギIgGと同程度であったことを示した(図6A、染色、0時間、及びIgG)。対照的に、rEndoS注射の1時間後には、約3kDa小さなタンパク質バンドへのIgG重鎖の部分的移動が既にあった。rEndoSの注射の4時間後、IgG重鎖は、低い見かけの分子質量の形態に完全に移動し、これは、注射後10日の最終試料まで維持された(図6A、染色、4時間から10日目)。同じ試料のレクチンブロット分析は、IgG重鎖糖質シグナルは、rEndoSの注射の6〜8時間後にほとんど無くなっており、これが、レクチンシグナルにわずかな増大があった10日目まで維持されたことを明らかにした(図6A、LCAブロット)。
【0087】
酵素に既にさらされたことがある動物内で、rEndoSが活性であるかを観察するために、最初の注射の35日後にrEndoS 1mgの2回目の注射を実施した。再び、動物は、注射による影響を受けていない様であり、上記の通り血清試料を採取及び分析した。SDS−PAGEは、2回目の注射の前にIgG重鎖が完全にグリコシル化された対照のウサギIgG重鎖と同様に移動したことを明らかにした(図6B、0時間、IgG)。1時間後にIgG重鎖は、3kDa低い見かけの分子質量に部分的に移動しており、6〜8時間後にIgG重鎖は完全に移動し、この移動はこの2回目投与に続く10〜14日目まで維持された(図6B、染色、1時間から14日目)レクチンブロット分析は、IgG重鎖糖質シグナルがrEndoS注射の1〜2日後にほとんど消失し、これがレクチンシグナルのわずかな増大があった8日目まで、10日目と14日目の間にわずかなさらなる増大を伴って維持されたことを明らかにした(図6B、LCAブロット、1〜14日目)。
【0088】
rEndoSに静脈内で2回さらされたことがある動物中においてrEndoSがまだ活性を有するかどうかを調査するために、rEndoS 1mgでの3回目の注射を、最初の注射の130日後に実施した。再び、動物は、注射による影響を受けず、上記の通り血清試料を採取及び分析した。SDS−PAGEは、3回目の注射の前にIgG重鎖が完全にグリコシル化された対照のウサギIgG重鎖と同様に移動したことを明らかにした(図6C、0時間、IgG)。1時間後、IgG重鎖は、3kDa低い分子質量に部分的に移動しており、この移動は、この3回目投与に続く8〜10日目まで維持された(図6C、染色、1時間から14日目)。レクチンブロット分析は、IgG重鎖糖質シグナルが3回目のrEndoS注射の1時間後に消失し、これが、レクチンシグナルのわずかな増大があった5日目まで、6日目と14日目の間にさらなる増大を伴って維持されたことを明らかにした(図6C、LCAブロット、1〜14日目)。
【0089】
総合するとこれらの結果は、低濃度のEndoSは、in vivoでウサギIgGの全プールで重鎖グリカンを効果的に加水分解することを示す。さらに、それ以前のEndoSへの静脈内曝露は、EndoSのin vivo酵素活性に顕著に影響しなかった。
【0090】
(実施例3)EndoSは、酵素に対する抗体にも関わらずウサギにおいて活性である。
2回目及び3回目に注射された場合にEndoSが完全な活性を有したことから、これが酵素に対して免疫応答が無いか若しくは低いことによるものであるかどうかを、又は酵素活性を妨げないEndoSに対する特異的抗体があるかどうかを決定することは重要であった。健康な個体及び化膿レンサ球菌に感染した個体の両方がEndoSに対する抗体を有することが既知であることから、これは、特に重要であった(Akessonら、2004,J.Infect.Dis.189:797〜804)。
【0091】
このことを調査するために、精製rEndoSを10% SDS−PAGEで分離し、PVDF上にエレクトロブロットし、1.5mm条片に切断した。条片を1回目、2回目及び3回目の注射由来の全ての血清試料の1:500希釈液とインキュベートし、続いてペルオキシダーゼ標識ヤギ抗ウサギ抗体(Pierce)とインキュベートした。条片を、レクチンブロットについて上に記載の通り化学発光を使用して発色させた。
【0092】
この実験は、1回目の注射の前にrEndoSと反応する抗体が既にあったことを明らかにした(図7A、1回目注射、0時間)。注射の10日後にrEndoSに対する反応性にわずかな増大があったが(図7A、1回目注射及び図7B挿入図)、注射後6時間と8時間の間の反応性に隔たりがあった(図7A、1回目注射)。この発見に対して考え得る1つの理由は、rEndoSに結合する特異的抗体は、複合体となり、細網内皮系によって循環から除去されたことである。rEndoSの2回目の注射の直前のrEndoSに対する反応性は、1回目の注射の前と同程度であるか又はわずかに高く、反応性は注射後の最初の3日間は増大しなかった(図7A、2回目注射、0時間〜3日目)。2回目の注射後の4から14日後、rEndoSに対する反応性は徐々に増大した(図7A、2回目注射、4〜14日目)。rEndoSの3回目の注射の前、rEndoSに対する反応性は、2回目の注射の前よりわずかに高く、反応性は注射後の1日目の間は増大しなかった(図7A、3回目注射、0時間〜1日目)。3回目の注射後の2から14日後、高いシグナルレベルがレベルの増大の判定を困難にしてはいるが、rEndoSに対する反応性は増大した(図7A、3回目注射、2〜14日目)。
【0093】
2回目及び3回目の注射の後に得た試料からのウエスタンブロットにおける非常に高いシグナルレベルを考慮して、3回全ての注射の前後の試料をELISAでも分析した。ELISA実験のために、EndoS 2μgをマイクロタイタープレート(Nunc,Roskilde,デンマーク)をコートするために使用し、続いてPBS中のウシ血清アルブミン20mg/mlでブロッキングした。EndoS注射前及び注射後0.5、1、5及び10日目の動物由来の血清を1:100から1:200000の系列希釈で一次抗血清として使用した。ペルオキシダーゼ標識ヤギ抗ウサギ抗体(Pierce)を2次抗体として使用し、且つABTS(Roche,IN)をペルオキシダーゼ基質として使用した。ウサギIgGに対する標準曲線は、ポリクローナルウサギIgG(Sigma)の系列希釈液で上記の通りマイクロタイタープレートをコートするステップ及び2次抗体としてのペルオキシダーゼ標識ヤギ抗ウサギ抗体によって作成した。プレートは、405nmでVictor3マルチラベルリーダー(Perkin−Elmer.Waltham,MS)において分析した。
【0094】
ELISA実験は、EndoSの2回目の注射の直前に、EndoSに対する反応性は、1回目の注射の前と同程度であるか又はわずかに高く、反応性は注射後の5日目でまだ増大していなかったことを確認した(図7B、1回目及び2回目注射)。2回目の注射の5から10日後、EndoSに対する反応性は、徐々に増大した(図7B、2回目注射、5〜10日目)。EndoSの3回目の注射の前、ELISAデータは、EndoSに対する反応性は2回目の注射の前よりわずかに高く、反応性は注射後1日目の間は増大しなかったことを確認した(図7B、3回目注射、0〜1日目)。3回目の注射の5から10日後、ELISAデータは、EndoSに対する反応性が劇的に増大したことを明らかにした(図7B、3回目注射、5〜10日目)。
【0095】
これらの結果は、未曝露の動物においてEndoSに対する抗体があり、rEndoSは、反復の静脈内曝露でウサギにおいて免疫応答を引き起こすことを示す。しかし、これらの抗体は、3回の連続的投与の間、循環におけるrEndoSの活性を妨げない。さらに、反復の投与は、ウサギ血清試料からのEndoSの免疫沈降及びウエスタンウブロット分析によって分析される通り、酵素の約12時間の循環時間(EndoSを検出する能力として定義される)に影響しない。
【0096】
(実施例4)EndoSはCII特異的モノクローナル抗体を切断する。
EndoSと共に又はEndoS無しでインキュベートし、10%SDS−PAGEで分離したIgGモノクローナル抗体(CIIC1及びM2139)のSDS−PAGE及びレクチンブロット分析を実施した、結果を図8に示す。
【0097】
EndoSは、免疫グロブリン(IgG)のアスパラギン結合グリカンのβ−1,4−ジ−N−アセチルキトビオースコアを特異的に加水分解する。EndoSを使用する糖質側鎖の除去後、IgG分子量は低下する。γ−鎖の大きさの違いは、染色したゲルの写真で、EndoSで処理したIgG試料と未処理IgGとの間に明らかに見られる。
【0098】
IgGの大きさの変化がEndoS活性によって引き起こされ、タンパク質分解ではなくγ鎖上のグリカン部分の除去を生じたことを確認するために、レクチンブロット分析を実施した。スノードロップ(Galanthus nivalis)(GNL)由来レクチンは、γ−鎖上のバイアンテナグリカンに見出されるα−1,3マンノース残基を優先的に認識する。GNLレクチンでの同じ試料のレクチンブロット分析は、EndoSとインキュベートした場合に顕著に低下したシグナルを明らかにした。対照的に、EndoS無しでインキュベートした場合、γ−鎖は、グリコシル化されたままであった。これらのデータは、EndoSは、マウスIgGのγ−鎖からα−1,3マンノースを含有する構造を除去する能力を有することを示している。
【0099】
(実施例5)脱グリコシル化抗体は、in vivoで軟骨に結合する。
この実験は、II型コラーゲン(CII)特異的IgGモノクローナル抗体(mAb)由来の糖質部分の除去が、そのin vivoでのII型コラーゲンへの結合能に影響するかどうかを理解するために実施した。
【0100】
1〜2日齢新生ラットにCII結合抗体(正常及びEndoS処理の両方)1mgをi.p.注射した。抗体移植の24時間後、足を切断し、イソペンタン及びドライアイスを使用してOCT化合物中にただちに凍結した。免疫組織化学的分析を、標準的手順を使用する検出系としてビオチン化抗マウスカッパ(187.1)抗体及びHRP複合2次抗体を使用して実施した。結果を図9に示す。EndoS処理及び未処理の抗体のin vivoでの関節軟骨への結合パターンに差異は無かった。
【0101】
(実施例6)抗CIIモノクローナル抗体の脱グリコシル化による関節炎誘発性の消失
CII特異的モノクローナル抗体は、マウスで急性型の関節炎、いわゆる、Nandakumarら(2003)に記載のコラーゲン抗体誘発関節炎(CAIA)を誘発する。CAIAは、免疫応答の初回刺激相を含まない関節炎のエフェクター相に類似している。この抗体媒介性関節炎は、補体成分FcγR、エフェクターサイトカインTNF−α及びIL−1β並びに好中球及びマクロファージによる。CAIAを、EndoS処理によるIgGの脱グリコシル化の重要性を理解するために本研究において使用する。2つの抗体:J1エピトープ(551〜564;GERGAAGIAGPK)に結合するM2139mAb(IgG2b)、及びII型コラーゲンのC1(359〜363;ARGLT)に結合するCIIC1(IgG2a)、を含有するモノクローナル抗体混合物を急性型の関節炎、CAIAを誘発するために使用した。
【0102】
糖質側鎖の除去がII型コラーゲンに対する病原性モノクローナル抗体の関節炎誘発能に影響するかどうかを決定するために、EndoS処理及び未処理のこのモノクローナル抗体混合物をマウスに注射した。オス、(BALB/c X B10.Q)F1マウスの群に、未処理(n=7)又はEndoS処理(n=5)の抗CIIモノクローナル抗体(M2139及びCIIC1)のいずれかを9mg、0日目に注射した。5日目に全てのマウスに大腸菌LPSを50μg、i.p.注射した。関節炎発症率(a)及び平均関節炎スコア(b)を図10に示す。
【0103】
図10a及び10bから理解される通り、コラーゲン抗体誘発関節炎(CAIC)に非常に罹り易いと以前に示された(BALB/c X B10.Q)F1マウスにおいて臨床的関節炎の完全な阻止があった。したがって、EndoSによるIgGのγ鎖からの糖質の除去がその関節炎誘発能(関節炎誘発性)を抑制することは明白である。
【0104】
IgGの糖質側鎖の除去によるモノクローナル抗体の関節炎誘発性の消失を確認するために、他の遺伝的背景B10.RIIIを有するマウスでCAIAを誘発した。
【0105】
オスB10.RIIIマウスに、未処理(n=11)又はEndoS処理(n=12)の抗CIIモノクローナル抗体(M2139及びCIIC1)のいずれかを9mg、0日目に注射した。5日目に全てのマウスに大腸菌LPSを50μg、i.p.注射した。関節炎発症率(a)及び平均関節炎スコア(b)を図11に示す。図11から理解される通り、B10.RIIIマウスにおいて、未処理mAbの混合物と比較してEndoS処理mAb混合物によって誘発される関節炎の発症率及び重症度が顕著に減少した。
【0106】
(実施例7)in vitroでのCII反応性モノクローナル抗体による補体の活性化
IgGのγ鎖からの糖質の除去がなぜmAbの臨床的関節炎誘発能を低減又は消失させるのかを理解するために、in vitro実験を、EndoS処理及び未処理抗体でそれらの補体活性化を誘発する能力を評価するために実施した。
【0107】
図12は、II型コラーゲンに(a)又は直接プラスチックの表面に(b)結合したmAbへの第1補体成分C1qの沈着を示す。EndoS処理(M2139D)及び未処理(M2139)抗体による補体系の活性化に差異は無かった。CIIC1(EndoS処理及び未処理の両方の)mAbは、補体を全く活性化しなかった。G11(IgG2b)及びL243(IgG2a)は、無関係の抗原に結合する対照モノクローナル抗体である。
【0108】
図13は、II型コラーゲンに(a)又は直接プラスチックの表面に(b)結合したmAbへの補体成分C3の切断産物(C3b)の沈着を示す。EndoS処理(M2139D)及び未処理(M2139)抗体による補体系の活性化に差異は無かった。CIIC1(EndoS処理及び未処理の両方の)mAbは、補体を全く活性化しなかった。G11(IgG2b)及びL243(IgG2a)は、無関係の抗原に結合する対照モノクローナル抗体である。
【0109】
(実施例8)好中球(PMNL)酸化バーストへのCII特異的モノクローナル抗体の脱グリコシル化の効果
多形核白血球、PMNL(好中球)による酸化バースト誘発においてグリコシル化及び脱グリコシル化抗体の能力に機能的差異があるかどうかを決定するために、ポリスチレン微小粒子をEndoS処理及び未処理の抗体でコートし、3つの異なる遺伝型(FcgR+/+、FcgR−/−及びFcgR+/−)を有するマウス由来の全血とインキュベートした。次いで、酸化バーストアッセイをFACS(蛍光標識細胞分取)分析を使用して実施した。PMNLはRB6抗体を使用して同定した。
【0110】
結果を図14に示す。グリコシル化と脱グリコシル化抗体との間に酸化バーストの活性における差異は無かった。
【0111】
(実施例9)マウス足の組織検査
グリコシル化又はEndoS処理mAbを投与されたマウス足由来の関節の組織学的状態を検査するために、標準的ヘマトキシリン−エオシン染色を使用して、未処理、脱グリコシル化又は未処理抗体とEndoS処理抗体混合物との等量混合物9mgを注射した(BALB/c x B10.Q)F1マウス(n=3〜4)由来のホルマリン固定脱灰関節の6μm切片を染色した。
【0112】
結果は、グリコシル化抗体を注射したマウス由来の関節において、細胞の広範囲な浸潤並びに軟骨及び骨のびらんがあったことを示した。対照的にEndoS処理抗体を注射したマウスの足は軽度の骨のびらんを示しただけで、広範囲の細胞浸潤は無かった。軟骨は、これらのマウスにおいて正常と思われた。
【0113】
(実施例10)正常及び脱グリコシル化抗体のin vivoクリアランス
脱グリコシル化抗体の関節炎誘発性の低下が、グリコシル化抗体と比較して、早く且つ亢進されたこれらの抗体のマウスからのクリアランスによるものであったかどうかを決定するために、II型コラーゲン結合抗体のELISA(酵素結合免疫吸着検定法)による分析を、1日目及び5日目にB10.RIIIマウスから採取した血清を使用して実施した。結果を図15に示す。グリコシル化及びEndoS処理mAbを注射したマウスの血清中において存在する抗体のレベルの間に差異は無く、脱グリコシル化抗体のマウスからの正常なクリアランスレベルを示唆している。
【0114】
(実施例11)脱グリコシル化抗体による免疫複合体形成
我々は、グリコシル化抗体とEndoS処理抗体との間に、FcγR分子への結合の差異とは別の何か明らかな違いが存在するかどうかを決定したいと考えた。抗体移行関節炎モデルにおける事象誘発の最初のステップは、軟骨表面又は滑膜でのコラーゲン−IgG免疫複合体の形成である可能性が最も高い。コラーゲンエピトープは、軟骨表面に形成された反復構造に位置し、したがって2つの異なる抗体が関節表面で多量体複合体を形成でき、最適な補体活性化又はFcγRを有する細胞に結合することのいずれかによって関節炎誘発性を補助するという可能性がある。
【0115】
安定免疫複合体形成の課題を調査するために、抗体の単純免疫拡散をアガロース上で実施した。ラットCIIを1%アガロース(低ゲル化温度アガロース26〜30℃)ゲルに0.05%アジ化ナトリウム含有PBS中、1mg/mlで浸透させた。1ウェル当たり1mg/mlの濃度の抗体25μlを添加した。ゲルはクーマシーブルーで染色した。結果は、脱グリコシル化抗体がグリコシル化mAbと比較して安定免疫複合体を形成しなかったことを示した。この安定免疫複合体の形成不能は、脱グリコシル化抗体の関節炎誘発性の消失に対する別の説明になり得る。
【0116】
(実施例12)EndoSは致死性の抗体媒介性血小板減少症からマウスを救済する。
EndoSが、in vivoでIgGグリカンを効果的に加水分解すること、及び動物が酵素の投与を許容したことが確立され、我々は、重症IgG媒介性疾患を治療するためのEndoSの使用を調査した。選択した疾患モデルは、免疫性血小板減少性紫斑病(ITP)のマウスモデルであった。このモデルにおいてマウス血小板に対するポリクローナルウサギIgG(αPLT−IgG)を腹腔内に注射し、重症の血小板減少症、出血及びIgGのより高い用量で最終的には致死を生じさせた。
【0117】
マウス血小板に対するウサギ抗血清をInter−Cell Technologies(Jupiter,FL)から購入した。IgG画分をこの血清からプロテインGセファロースを使用して単離した。タンパク質の純度をSDS−PAGE分析によって確認し、タンパク質濃度をAdvanced Protein Assay Reagent(Cytoskeleton,Denver,CO)を使用して決定した。処理済IgGを使用する実験のために、精製ウサギ抗マウス血小板IgG(αPLT−IgG)を精製GST−EndoS又はGSTと共に、酵素対基質の比、1:500で37℃、24時間インキュベートし、続いてグルタチオン−セファロース(GE Healthcare)上でGST−EndoS及びGSTを除去した。IgGグリカンの加水分解をSDS−PAGE及びLCAを使用するレクチンブロットによって上に記載の通り確認した。BALB/cマウス、メス(体重約20g)を標準的な光及び温度の条件下で飼育し、標準飼料及び水を自由摂取させた。PBS 0.25ml中の抗マウス血小板IgG(未処理、EndoS処理、又はGST処理)の1.2mgを腹腔内注射(i.p.)によって動物に投与した。動物を皮膚粘膜出血、身体活動性、群からの分離についてモニターし、生存期間を記録した。
【0118】
ウサギ抗マウス血小板IgGの注射の直前及び実験の過程で定期的に、血液試料をマウスから採取した。予め暖めた尾部血管から全血5μlを、PBS中の0.1Mクエン酸ナトリウム/クエン酸(pH6.5)、45μlを含むチューブに採取した。これらの血液試料中の血小板集団をフローサイトメトリーで同定した。試料は、ハムスター抗マウスCD−61 PE(BD Biosciences,San Jose,CA)で10分間、室温で標識した。SPHERO Rainbow Calibration Particles(BD Biosciences)10μlを、計数を可能にするために各チューブに加えた。赤血球集団をUtilse(Dako Cytomation,Glostrup,デンマーク)を使用して溶解し、試料をFacsCaliburフローサイトメーター(BD Biosciences)の対数モードで分析した。赤血球の溶解後の血液試料中の血小板数をNeubauerチャンバー中で手動計測で計測した。
【0119】
予備実験において、BALB/cマウス、メス3匹にαPLT−IgG 1.2mgを注射し、上に記載の通り血小板数をフローサイトメトリー及び顕微鏡を使用して経時的に追跡した。これは、3匹全てのマウスが急速に血小板減少症を発症し、αPLT−IgG投与の24時間以内に死に至ったことを明らかにした(図16A)。
【0120】
次いで我々は、マウスへの投与の前に、GST−EndoS又は対照としてのGSTでのαPLT−IgGの前処理が、疾患の発症及び生存率に何らかの影響を有するかどうかを検査した。GST−EndoS処理αPLT−IgGを注射した全ての動物(n=4)が、疾患のいかなる徴候も発症することなく生存した、一方でGST処理αPLT−Igを注射した全ての動物(n=4)は、重症の皮下出血を発症し、24時間以内に死んだ(図16B)。これは、2つの群の動物の間の統計的有意差を表している(p=0.0082)。さらに、フローサイトメトリーによる毎日の血小板数計測分析は、GST−EndoS処理αPLT−IgGは、マウス血小板数に顕著な影響を有さない一方で、GST処理αPLT−IgGは血小板数の急速な低下を引き起こすことを明らかにした(図16C)。これらの実験は、ex vivoのαPLT−IgGのEndoS処理がIgG抗体の病原性を抑制することを示し、EndoSのin vivo活性との組合せでの結果は、我々を、EndoSが疾患の発症後にも致死性血小板減少症の発症を予防するためにマウスに投与できるかどうかを調査するように促した。マウス(1群当たりn=8)にαPLT−IgG 1.2mgを注射し、続いてαPLT−IgGの投与の3時間後にGST−EndoS又はGST 100μgを腹腔内注射した。GSTで処置した全ての動物(8/8)は、2日以内に死んだが、一方GST−EndoSで処置した動物は2/8だけが死んだ(図17A)。これは、群の間の生存率における統計的有意差を表している(p=0.003)。GST−EndoS又はGST処理マウス由来の全IgGのSDS−PAGE及びレクチンブロット分析は、GST−EndoS処置動物では、αPLT−IgG処置の24、48及び72時間後に重鎖グリカンが完全に加水分解された一方で、GST処置動物のIgGは、24時間で死を生じるまで完全にグリコシル化されていたことを示した(図17B)。さらに、フローサイトメトリーで分析した血小板数は、αPLT−IgGの投与は、血小板数の急速な低下を誘導するが、GST−EndoS処置マウスでは、血小板数は着実に上昇し始め2〜3日後に正常値に達したことを示した(図17C)。
【0121】
我々の仮説をさらに試すために、我々はITP患者の臨床状況を模倣することを試みた。これらの患者が医師の診察を受ける場合、血小板数はしばしば非常に低く、且つ皮下及び他の出血合併症が既に明らかである。したがって我々は、αPLT−IgGでマウス(n=4)に疾患を誘発したが、しかし動物がαPLT−IgGの注射後5〜7時間に明らかに観察される皮膚血腫を示すまでGST−EndoS又はGSTでの処置を開始しなかった。これらの実験において、GST−EndoSで処置した5/7のマウスは生存し、且つ回復したが、一方GSTで処置した全てのマウス(7/7)は、2日以内に死に、再び2つの群の間の生存率に統計的有意差を示している(p=0.0015)(図17D)。全てを含めると我々の結果は、αPLT−IgGのマウスにおける病原的特性は、抗体のグリコシル化状態に依存すること、並びにEndoSは、ex vivo及びin vivoの両方で抗血小板IgG抗体の病原性を徹底的に低減させることを示す。要約すると、病原性抗体を酵素で前処理した場合及びEndoSを疾患の過程の初期又は後期に投与した場合の両方でEndoSは、血小板数及び生存に劇的な正の影響を有した。本発明者らの知る限りでは、IgGグリカンのin vivo加水分解が自己免疫疾患の実験的治療として使用されるのは、これが初めてである。
【0122】
本発明者らは、IgGのEndoS加水分解が、FcRへの結合から全てのサブクラスのIgGを阻害し、且つ補体活性化をも低減させることを以前に見出していることから、EndoSの正の影響の基となる機序は、理論的観点からほぼ明白である。特に重要なことは、EndoSがFcRへの結合からIgGを阻害するだけでなく、重鎖グリカンの加水分解によって既にFcRが結合したIgGも遊離できることである。他のものの様に、影響されないIgG−FcRのある相互作用が存在すると思われることにも留意されたい;EndoSで加水分解されたIgGは、特定の環境下でヒトFcR11bに、加水分解されていないIgGよりも良く結合する(データ未記載)。IgGのFcR11bとの相互作用が、自己免疫状態の治療に使用される免疫グロブリン静脈注射(IVIG)の抗炎症活性について重要であると示されていることから、抗炎症活性との関連において、これは妥当である。いかなる仮説にも制約されることなく、本発明者らは、特定の条件下でEndoSは、病原性IgGの活性化FcRへの結合を直接阻害すること及びFcR11bを介して調節される阻害作用に移行することによって二重の抗炎症活性を有し得ることを提言する。
【0123】
特に、IgGグリカンをIgGエフェクター調節への鍵として証明した幾つかの近年の研究の観点から、EndoSの特性は、それを病原性抗体が関与する状態の現在の治療への魅力的な代替えにする。このことは、このグリカンのEndoS加水分解が古典的経路を介した補体活性化をほとんど消失させ、白血球上のFc受容体への結合を低減するとの本発明者ら自身の発見を含む。本発明者らの観察に基づいて、EndoSは、ITPによってここで例示される自己免疫疾患、及び急性抗体媒介性臓器同種移植片拒絶を含む、IgG抗体が病原的役割を演じる状態を治療するために使用できることが示される。
【0124】






















【特許請求の範囲】
【請求項1】
IgG抗体によって媒介される疾患又は状態の治療又は予防のための薬剤の製造における、EndoSポリペプチド又はEndoSポリペプチドをコードするポリヌクレオチドの使用。
【請求項2】
前記EndoSポリペプチドが、
(a)配列番号1のアミノ酸配列、
(b)配列番号1のアミノ酸配列に少なくとも50%の同一性を有し、IgGエンドグリコシダーゼ活性を有するそのバリアント、又は
(c)IgGエンドグリコシダーゼ活性を有するそれらのいずれかの断片
を含む、請求項1に記載の使用。
【請求項3】
前記ポリペプチドが配列番号1に示す配列から成る、請求項2に記載の使用。
【請求項4】
前記ポリヌクレオチドが、
(a)配列番号3のコード配列、
(b)(a)で定義された配列に対して遺伝暗号の結果として縮重している配列、
(c)(a)若しくは(b)で定義された配列に少なくとも60%の同一性を有し、IgGエンドグリコシダーゼ活性を有するポリペプチドをコードする配列、又は
(d)IgGエンドグリコシダーゼ活性を有するポリペプチドをコードする(a)、(b)若しくは(c)で定義される配列のいずれか1つの断片
を含む、請求項1に記載の使用。
【請求項5】
前記ポリヌクレオチドが配列番号3に示す核酸配列から成る、請求項4に記載の使用。
【請求項6】
疾患又は状態が、自己免疫疾患、移植拒絶反応、術後治療又は後天性血友病である、請求項1から5までのいずれか一項に記載の使用。
【請求項7】
前記自己免疫疾患が、アジソン病、円形脱毛症、強直性脊椎炎、抗リン脂質抗体症候群、再生不良性貧血、自己免疫性胃炎、自己免疫性難聴、自己免疫性溶血性貧血、自己免疫性肝炎、自己免疫性副甲状腺機能低下症、自己免疫性下垂体炎、自己免疫性内耳疾患、自己免疫性リンパ球増殖症候群、自己免疫性心筋炎、自己免疫性卵巣炎、自己免疫性精巣炎、自己免疫性多腺性内分泌不全症、ベーチェット病、類天疱瘡、心筋症、慢性炎症性脱髄性多発神経障害、チャーグ・ストラウス症候群、セリアック病、クローン病、CREST症候群、デゴス病、後天性表皮水疱症、本態性混合型クリオグロブリン血症、巨細胞性動脈炎、糸球体腎炎、グッドパスチャー症候群、グレーブス病、ギラン・バレー症候群、橋本甲状腺炎、突発性血小板減少性紫斑病、炎症性腸疾患、川崎病、メニエール症候群、混合性結合組織病、モーレン潰瘍、多発性硬化症、重症筋無力症、落葉状天疱瘡、尋常性天疱瘡、悪性貧血、結節性多発性動脈炎、多腺性自己免疫症候群1型(PAS−1)、多腺性自己免疫症候群2型(PAS−2)、多腺性自己免疫症候群3型(PAS−3)、多発筋炎/皮膚筋炎、原発性胆汁性肝硬変、乾癬、乾癬性関節炎、レイノー病、ライター症候群、関節リウマチ、サルコイドーシス、強皮症、シェーグレン症候群、亜急性甲状腺炎、交感性眼炎、全身性エリテマトーデス、高安動脈炎、1型糖尿病、白班症、フォークト・小柳・原田症候群又はウェゲナー肉芽腫症である、請求項6に記載の使用。
【請求項8】
前記自己免疫疾患が関節リウマチである、請求項7に記載の使用。
【請求項9】
前記自己免疫疾患が全身性エリテマトーデスである、請求項7に記載の使用。
【請求項10】
前記自己免疫疾患が突発性血小板減少性紫斑病である、請求項7に記載の使用。
【請求項11】
前記移植拒絶反応が同種移植片拒絶又は異種移植片拒絶である、請求項6に記載の使用。
【請求項12】
IgG抗体によって媒介される疾患又は状態の治療又は予防のための方法で使用するための、EndoSポリペプチド又はEndoSポリペプチドをコードするポリヌクレオチド。
【請求項13】
必要とする対象において、IgG抗体によって媒介される疾患又は状態を治療する又は予防する方法であって、治療有効量のEndoSポリペプチド又はEndoSポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを対象に投与するステップを含む方法。
【請求項14】
IgG抗体によって媒介される疾患又は状態を罹患している患者から採取した血液をex vivoで処置する方法であって、血液をEndoSポリペプチドと接触させるステップを含む方法。
【請求項15】
前記EndoSポリペプチドと接触した後に血液を患者に戻す、請求項14に記載の方法。

【図1】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9a】
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【図9b】
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【図9c】
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【図9d】
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【図9e】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図2】
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【公表番号】特表2010−512361(P2010−512361A)
【公表日】平成22年4月22日(2010.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−540659(P2009−540659)
【出願日】平成19年12月12日(2007.12.12)
【国際出願番号】PCT/EP2007/010904
【国際公開番号】WO2008/071418
【国際公開日】平成20年6月19日(2008.6.19)
【出願人】(505393474)ハンサ メディカル アクチボラゲット (3)
【Fターム(参考)】