説明

免疫不全又は免疫抑制と関連する病状及び骨疾患の治療におけるヒト骨形成性細胞

本発明は、特に免疫不全又は免疫抑制と関連する疾患及び病状の治療における、単離骨形成性細胞の新規な治療上の使用に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、免疫不全又は免疫抑制と関連する病状及び骨疾患の治療における、骨形成性細胞の治療上の適用に関する。
【背景技術】
【0002】
免疫不全障害は、免疫系の機能障害が様々な日和見感染又は病状に対する患者の感受性の増大を引き起こす、多様な重度の病状の群を表す。
【0003】
免疫不全は、免疫抑制剤の投与(例えば、移植した臓器の拒絶反応を予防するための)により、又は他の病態を対象とする治療、例えば化学療法等の副作用として、生じることもある。
【0004】
免疫不全障害におけるさらなる治療法に対する必要性が存在する。
【0005】
ヒト間葉系幹細胞(MSC)は、高レベルのヒト白血球抗原(HLA)クラスIを発現し、HLAクラスIIを発現しないが、インターフェロンγ(IFNγ)での刺激によりHLAクラスIIを発現するように誘導することができる(非特許文献1)。
【0006】
MSCは、抗原提示細胞として働くこともできることが報告されている。この機能は、短い時間幅で、かつIFNγ投与及び/又は刺激後にのみ観察されたが、刺激していないMSCでは観察されていない。特異的抗原(カンジダ・アルビカンス(Candida albicans)又は破傷風トキソイド由来の)の存在下で、MSC細胞は、低レベルのIFNγの自己分泌によりそのHLAクラスII抗原の発現を上方調節することができる。しかし、培養物中のIFNγ濃度が増大すると、HLAクラスIIの発現は下方調節され、MSCのAPC機能は阻害される(非特許文献2、非特許文献3)。
【0007】
海綿骨由来の又は細胞株由来の骨芽細胞は、免疫担当細胞であること、及び同種末梢血単核球を刺激することが示されている(非特許文献4)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Le Blanc et al. 2003. Exp Hematol 31:890-6
【非特許文献2】Stagg et al. 2006. Blood 107: 2570-7
【非特許文献3】Chan et al. 2006. Blood 107: 4817-24
【非特許文献4】Skjodt et al.1989. Immunology 68: 416-20
【発明の概要】
【0009】
本発明の説明
特に規定のない限り、本発明を開示するにあたって使用される、技術用語及び科学用語を含む全ての用語は、本発明が属する技術分野の通常の技術を有する者(当業者)によって一般に理解される意味を有する。
【0010】
本明細書中で使用される場合、単数形「a」、「an」及び「the」は、文脈上他に明確な指示のない限り、単数及び複数の両方の指示対象を含む。例えば、「細胞(a cell)」は、1つのというより1つ又は複数の細胞を表す。
【0011】
「を含む("comprising", "comprises")」及び「から構成される(comprisedof)」という用語は、本明細書中で使用される場合、「を含む("including", "includes")」、又は「を含有する("containing","contains")」と同義であり、包括的又は非限定的(open-ended)であり、さらなる列挙されていない成員、要素又は方法工程を除外するものではない。
【0012】
端点による数値範囲の列挙は、その範囲内に含まれる全ての数及び分数、並びに列挙された端点を含む。
【0013】
「約」という用語は、本明細書中で使用される場合、測定可能な値、例えばパラメータ、量、時間幅(temporal duration)等を表す際には、特定の値の(of and from)±10%以下、好ましくは±5%以下、より好ましくは±1%以下、さらにより好ましくは±0.1%以下の変動を、このような変動が開示の発明における実施に適切である限りにおいて包含することを意味する。修飾語「約」が表す値自体も、具体的かつ好適に開示されることを理解されたい。
【0014】
本明細書に引用される全ての文献は、その全体が参照により本明細書中に援用される。特に、本明細書中で具体的に言及される全ての文献の教示が参照により援用される。
【0015】
本発明者らは驚くべきことに、骨形成性細胞が、予期された骨再生作用に加えて強力な抗原提示細胞(APC)特性を示し、それゆえ免疫不全又は免疫抑制と関連する疾患及び病状の治療において有用であることを見出した。
【0016】
有利には、本発明者らにより、骨形成性細胞、例えば特に単離間葉系幹細胞(MSC)又は骨髄間質細胞(BMSC)からの分化によりin vitroで取得可能な骨形成性細胞が、活性化又は刺激(例えばインターフェロンγ等による)とは実質的に独立に、特有の免疫学的マーカー(例えば、HLAクラスII抗原等)及び抗原提示細胞特性を示し得ることも見出された。したがって、上記APCマーカー及び特性は、活性化又は刺激の後の短い時間幅に必ずしも制限されない。このような比較的安定したAPC特性は、骨形成性細胞を、上記疾患及び病状の治療における有利な作用因子たらしめる。
【0017】
したがって複数の態様では、本発明は、
− 免疫不全又は免疫抑制と関連する疾患又は病状の治療における使用のための単離骨形成性細胞、
− 免疫不全又は免疫抑制と関連する疾患又は病状の治療のための薬物の製造のための単離骨形成性細胞の使用、
− このような治療を必要とする被験体において免疫不全又は免疫抑制と関連する疾患又は病状を予防及び/又は治療する方法であって、予防的又は治療的に有効な量の単離骨形成性細胞を上記被験体に投与することを含む、方法、
− 免疫不全又は免疫抑制と関連する疾患又は病状の治療における使用のための単離骨形成性細胞を含む医薬品組成物
を提供する。
【0018】
特定の成分との関連で「を単離する」という用語は、該特定の成分がそれにより「単離される」或る組成物の少なくとも1つの他の成分からその成分を分離することを示す。「単離」という用語は、細胞又は細胞集団との関係で本明細書中で使用される場合、このような細胞又は細胞集団が動物又はヒトの身体の一部分を形成せずに、そこから除去又は分離され、例えば、細胞培養物中で維持され及び/又は増殖させられることも示唆する。
【0019】
骨形成性細胞は、好ましくは動物起源のもの、より好ましくは哺乳動物起源、例えば非ヒト哺乳動物起源のもの、さらにより好ましくはヒト起源のものであり得る。
【0020】
骨形成性細胞は、通常、被験体、例えば好ましくはヒト被験体又は非ヒト哺乳動物被験体の生物学的試料(すなわち、被験体から取り出され、その細胞を含む試料)から取得する又は導くことができる。
【0021】
骨形成性細胞は、好ましくは、自家投与(すなわち、該細胞が取得された若しくは導かれた被験体と同じ被験体に投与する)又は同種投与(すなわち、該細胞が取得された若しくは導かれた被験体と異なる(が同じ種の)被験体に投与する)のために利用され得る。上記骨形成性細胞の異種間(xenogenic)投与(すなわち、或る種の被験体から取得された又は導かれた細胞を、異なる種の被験体に投与する)も可能な場合がある。
【0022】
好ましくは本明細書では、ヒト骨形成性細胞は、免疫不全又は免疫抑制と関連する疾患又は病状を有するヒト被験体への自家投与又は同種投与のために利用される。
【0023】
本明細書中で使用される場合、「骨形成性細胞」という用語は、概して骨材料及び/又は骨マトリクスの形成に寄与することが可能な細胞を表し、特に部分的に又は完全に骨形成分化経路に沿って進行した単離細胞又は細胞集団を示す。限定するものではないが、骨形成性細胞は、骨芽前駆細胞、骨芽細胞、骨細胞、及び当該技術分野で既知の骨形成系列の他の細胞型を特に包含する。
【0024】
したがって、当業者は概して、「骨形成性細胞」という用語の範囲を本明細書で意図されるように理解する。しかし、さらなる指針を使用すると、限定するものではないが、本発明の骨形成性細胞は以下の特徴のいずれか1つ、複数又は全てを示し得る:
a)細胞がアルカリホスファターゼ(ALP)、より具体的には骨−肝臓−腎臓型のALPの発現を有すること、
b)細胞が1型プロコラーゲンアミノ末端プロペプチド(P1NP)、オステオネクチン(ON)、オステオポンチン(OP)、オステオカルシン(OCN)及び骨シアロタンパク質(BSP)のいずれか1つ又は複数又は全ての発現を有すること、
c)細胞が外部環境を石灰化する、又はカルシウム含有細胞外マトリクスを合成する能力の兆候を示すこと(例えば、骨形成培地に曝露された場合;Jaiswal et al.1997. J Cell Biochem 64: 295-312を参照されたい)。カルシウムの細胞内での蓄積、及びマトリクスタンパク質中への沈着は、例えば45Ca2+中で培養すること、洗浄及び再培養すること、並びにその後細胞内に存在する若しくは細胞外マトリクス中に沈着した放射活性を確定すること(米国特許第5,972,703号)により、又はアリザリンレッドベースの石灰化アッセイ(例えば、Gregoryet al. 2004. Analytical Biochemistry 329: 77-84を参照されたい)を使用して、従来測定することができる、
d)細胞が、脂肪細胞系列(例えば脂肪細胞)又は軟骨細胞系列(例えば軟骨細胞)の細胞のいずれか一方に、好ましくはいずれにも実質的に分化しないこと。このような細胞系列に分化しないことは、当該技術分野で確立されている標準的な分化誘導条件(例えばPittenger et al.1999. Science 284: 143-7を参照されたい)と、アッセイ方法(例えば誘導された場合、脂肪細胞は典型的には脂質蓄積を示すオイルレッドOで染色され、軟骨細胞は典型的にはアルシアンブルー又はサフラニンOで染色される)とを使用して試験することができる。脂肪生成分化及び/又は軟骨形成分化への傾向を実質的に欠くとは、典型的には、50%未満、又は30%未満、又は5%未満、又は1%未満の試験した細胞が、それぞれの試験に適用したときに、脂肪生成分化又は軟骨形成分化の兆候を示すことを意味し得る。
【0025】
一つの実施の形態では、骨形成性細胞は、上記a)、c)及びd)で列挙した全ての特徴を示し得る。
【0026】
一つの実施の形態では、骨形成性細胞は、HLAクラスII抗原に関して陽性である(すなわち、HLAクラスII抗原の発現を有する)。
【0027】
一つの実施の形態では、骨形成性細胞は、HLAクラスI抗原及びHLAクラスII抗原に関して陽性である(すなわち、HLAクラスI抗原及びHLAクラスII抗原の発現を有する)。
【0028】
さらなる一つの実施の形態では、骨形成性細胞は、抗原提示細胞(APC)特性の兆候を示す。
【0029】
別の実施の形態では、骨形成性細胞は、免疫抑制特性の兆候を示し得る。
【0030】
或る細胞が特定の成分(例えばマーカー又は酵素)に関して陽性であると言う場合、これは、好適な対照と比較して適切な測定を行なった場合、その成分に関する明確なシグナル(例えば抗体により検出可能である、又は逆転写ポリメラーゼ連鎖反応法により検出可能である)の存在又は形跡が、当業者により判断されることを意味する。その方法によりその成分の定量的評価が可能である場合、陽性の細胞は概して、対照とは有意に異なる、例えば、限定されるものではないが、対照細胞により生成されるこのようなシグナルより少なくとも1.5倍高い、例えば少なくとも2倍、少なくとも4倍、少なくとも10倍、少なくとも20倍、少なくとも30倍、少なくとも40倍、少なくとも50倍高い、又はさらに高いシグナルを生成し得る。
【0031】
上記細胞特異的マーカーの発現は、当該技術分野で既知である任意の好適な免疫学的技法、例えば免疫細胞化学、若しくはアフィニティ吸着、ウエスタンブロット解析、FACS、ELISA等を使用して、又は(例えばALPに関する)酵素活性の任意の好適な生化学的アッセイにより、又はマーカーmRNAの量を測定する任意の好適な技法、例えばノーザンブロット法、半定量的若しくは定量的RT−PCR等により検出することができる。本開示において列挙されるマーカーに関する配列データは既知であり、GenBank(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/)等の公開データベースから取得することができる。
【0032】
本発明における使用のための単離骨形成性細胞又は細胞集団は、当該技術分野で既知の任意の好適な方法で取得する又は導くことができる。限定するものではないが、骨形成性骨芽細胞、より具体的にはHLAクラスII陽性骨芽細胞及び骨芽細胞集団を取得する好適な一方法は、国際公開第2007/093431号で開示されており、血清又は血漿及び塩基性線維芽細胞成長因子(FGF−2)の存在下で単離骨髄間質細胞(BMSC)又は間葉系幹細胞(MSC)を培養することを含む。別の例では、Skjodt et al. 1985(JEndocrinol 105: 391-6)により記載されたように、骨形成性骨芽細胞、より具体的にはHLAクラスII陽性骨芽細胞を、海綿骨から直接単離して培養することができる。またさらなる一例では、好ましくはHLAクラスII陽性骨芽細胞及び骨芽細胞集団を獲得するためにFGF−2の存在下で、Pittenger et al. 1999(Science 284: 143-7)及びJaiswal et al. 1997(上記)により記載されたように骨形成培地中でMSCを分化させることにより、骨形成系列細胞を取得することができる。
【0033】
好ましい一つの実施の形態では、本明細書中で規定される使用のための単離骨形成性細胞は、BMSC又はMSCからの分化により取得可能である、又は直接取得される。有利には、このような分化は、HLAクラスII陽性骨芽細胞及び骨芽細胞集団を獲得するためにBMSC又はMSCをFGF−2に曝露することを含んでいてもよい。これらの細胞は、外部の活性化因子がなくとも取得することができる比較的安定なAPC特性を示す。
【0034】
「免疫不全」という用語は、概して、被験体の特異的及び/又は非特異的な免疫系の機能が病的に低減した又は欠如している状態を示す。免疫不全と関連する疾患又は病状、すなわち「免疫不全障害」は、免疫系における1つ又は複数の欠陥に起因する免疫不全により生じる、結果として重度の急性、再発性又は慢性の疾患を引き起こす様々な日和見感染に対する感受性の増大を主に特徴とする多様な病状の群を表す。免疫不全障害は、限定するものではないが、「免疫不全症候群」(全ての特質が免疫の欠陥の結果である)、及び「免疫不全を伴う症候群(syndromes with immunodeficiency)」(幾つかの、さらには顕著な特質は免疫の欠陥により説明することができない)を包含する。
【0035】
免疫不全障害の群は、免疫抑制と関連する疾患及び病状も包含し、ここで「免疫抑制」という用語は、被験体の免疫応答の、人工的な、通常制御された減少又は予防を表す。被験体における免疫抑制は、免疫抑制剤により引き起こされることがある(「免疫抑制剤」は、望ましくない免疫応答を抑制又は予防する、例えば移植した臓器に対する免疫系の拒絶反応を予防等することが知られている又は見出される任意の化合物又は薬剤を表し、免疫抑制剤の例は、シクロスポリンA、ミコフェノール酸モフェチル、ラパマイシン、FK506及びコルチコステロイドを含むがこれらに限定されない)、又は免疫抑制は、他の適応症の治療法の副作用(例えば、癌の化学療法の副作用)として生じることがある。
【0036】
例えば、限定するものではないが、免疫不全又は免疫抑制と関連する疾患及び病状は、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)感染症及び後天性免疫不全症候群(AIDS)、低ガンマグロブリン血症、血液癌、例えば白血病及びリンパ腫、全骨髄切除(total bone marrow ablation)、骨髄移植、臓器移植、任意の起源のリンパ球減少症(lymphocytopenia(lymphopenia))、エリテマトーデス、悪液質、オピオイド中毒、肥満細胞症、リウマチ熱、トリパノソーマ症、アルコール中毒;並びに化学療法剤、コルチコステロイド、抗TNF薬、放射線、免疫抑制薬、例えば特にタクロリムス、シクロスポリン、メトトレキサート、ミコフェノレート、アザチオプリン、インターフェロン、及びイムノグロブリン、例えば(such)抗CD20及び抗CD3による治療を含む。
【0037】
一つの実施の形態では、免疫不全又は免疫抑制と関連する疾患又は病状は、骨機能障害又は骨病変要素(例えば、骨粗鬆症、骨壊死、骨減少症、骨脆弱症、骨の壊死、骨折(又は微小骨折)、骨硬化症、及び骨溶解症等)も含み得る。有利には、本発明の骨形成性細胞は、免疫不全を改善すること、及び骨再構築を刺激することにより、このような疾患に対して相乗的に作用することができる。
【0038】
したがって、複数の実施の形態では、本発明は、
− 免疫不全又は免疫抑制と関連する骨疾患又は病状の治療における使用のための単離骨形成性細胞、
− 免疫不全又は免疫抑制と関連する骨疾患又は病状の治療のための薬物の製造のための単離骨形成性細胞の使用、
− このような治療を必要とする被験体において免疫不全又は免疫抑制と関連する骨疾患又は病状を予防及び/又は治療する方法であって、予防的又は治療的に有効な量の単離骨形成性細胞を上記被験体に投与することを含む、方法、
− 免疫不全又は免疫抑制と関連する骨疾患又は病状の治療における使用のための単離骨形成性細胞を含む医薬品組成物
も提供する。
【0039】
好ましくは、ヒト骨形成性細胞を、免疫不全又は免疫抑制と関連する骨疾患又は病状を有するヒト被験体への自家投与又は同種投与に利用することができる。
【0040】
単離骨形成性細胞は、上で規定した免疫不全又は免疫抑制と関連する骨疾患又は病状を含む免疫不全又は免疫抑制と関連する疾患又は病状を治療するために、被験体に投与することができる。
【0041】
必要に応じて、骨形成性細胞のAPC特性を刺激するために、細胞を、投与の前に炎症促進性サイトカインで処理することができ、又は代替的に、炎症促進性サイトカインと共に(例えば、同時に、又は任意の順序で連続的に若しくは別々に)投与することができる。炎症促進性サイトカインの例は、IFNγ、TNFα、IL−1β、IL−17、IL−18を含むがこれらに限定されない。
【0042】
「被験体」又は「患者」という用語は、好ましくは、治療、観察又は実験の対象とした動物、より好ましくは温血動物、さらにより好ましくは脊椎動物、さらにより好ましくは哺乳動物(具体的にはヒト及び非ヒト哺乳動物を含む)を表す。「哺乳動物」という用語は、そのように分類されるいかなる動物をも含み、ヒト、家畜(domestic and farm animals)、動物園の動物、競技用動物、愛玩動物、伴侶動物及び実験動物、例えばマウス、ラット、ハムスター、ウサギ、イヌ、ネコ、モルモット、畜牛、乳牛、ヒツジ、ウマ、ブタ、並びに霊長類、例えばサル及び類人猿を含むが、これらに限定されない。その性別及び年齢層を問わず、ヒト被験体が特に好ましい。
【0043】
本発明の治療は、特にそれを必要とする被験体に対して行なわれるが、「それを必要とする被験体」という表現は、所与の病状、例えば免疫不全又は免疫抑制と関連する骨疾患又は病状を含む免疫不全又は免疫抑制と関連する疾患又は病状の治療から利益を受けるであろう被験体を含む。このような被験体は、上記病状と診断された被験体、上記病状を発症しやすい被験体、及び/又は上記病状が予防されるべき被験体を含み得るが、これらに限定されない。
【0044】
「を治療する(treat)」又は「治療(treatment)」という用語は、既に発症した障害の治療的処置、例えば既に発症した免疫不全又は免疫抑制と関連する骨疾患又は病状を含む免疫不全又は免疫抑制と関連する疾患又は病状の治療法、並びに予防法又は予防対策(その目的は、望ましくない苦痛の発生の可能性を予防する又は減少させること、例えば免疫不全又は免疫抑制と関連する疾患又は病状の罹患及び進行の可能性を予防することである)の両方を包含する。有益な又は所望の臨床結果は、1つ又は複数の症状、又は1つ又は複数の生物学的マーカーの軽減、疾患の範囲の縮小、安定した(すなわち悪化しない)疾患状態、疾患の進行の遅延又は緩徐化、疾患状態の改善又は緩和等を含み得るが、これらに限定されない。「治療」は、治療を受けない場合の予想生存期間と比較して、生存期間を延長することも意味し得る。
【0045】
「予防的に有効な量」という用語は、研究者、獣医、医師又は他の臨床家によって求められるような、被験体において障害の発症を阻止する又は遅延させる活性化合物又は医薬品の量を表す。「治療的に有効な量」という用語は、本明細書中で使用される場合、研究者、獣医、医師又は他の臨床家によって求められる、被験体における生物学的応答又は薬理応答(とりわけ治療中の疾患又は障害の症状の軽減を含み得る)を誘発する活性化合物又は医薬品の量を表す。治療的及び予防的に有効な用量を確定する方法は当該技術分野で既知である。
【0046】
治療は、自家(すなわち、治療を受ける被験体由来の細胞)、同種(すなわち、治療を受ける被験体以外の被験体であるが、同じ種に属する被験体(複数可)由来の細胞)、又は異種間(すなわち、治療を受ける被験体と異なる種に属する被験体(複数可)由来の細胞)の、本明細書で規定されるような骨形成性細胞及び細胞集団を利用することができる。
【0047】
特に、本明細書中で規定されるようなヒト自家又は同種骨形成性細胞又は細胞集団を使用するヒト被験体の治療が想定される。
【0048】
好適には、本明細書中で規定する骨形成性細胞及び細胞集団を、医薬品組成物へと製剤化して、医薬品組成物として投与することができる。
【0049】
医薬品組成物は典型的には、活性成分としての骨形成性細胞又は細胞集団、及び1つ又は複数の薬学的に許容可能な担体/添加物を含む。本明細書中で使用される場合、「担体」又は「添加物」には、あらゆる溶媒、希釈剤、緩衝液(例えば中性緩衝食塩水又はリン酸緩衝食塩水等)、可溶化剤、コロイド、分散媒、ビヒクル、充填剤、キレート剤(例えばEDTA又はグルタチオン等)、アミノ酸(例えばグリシン等)、タンパク質、崩壊剤、結合剤、滑剤、湿潤剤、乳化剤、甘味剤、着色剤、香味剤、芳香剤(aromatisers)、増粘剤、デポー効果(depot effect)を達成するための薬剤、コーティング剤、抗真菌剤、防腐剤、安定化剤、酸化防止剤、浸透圧調整剤、吸収遅延剤等が含まれる。このような媒体及び薬剤の医薬品活性物質への使用は、当該技術分野で既知である。このような材料は無毒性でなくてはならず、細胞の活性を妨げるものであってはならない。
【0050】
担体又は添加物又は他の材料の正確な性質は、投与経路に応じて異なる。例えば、組成物は、発熱物質を含まず、かつ好適なpH、等張性及び安定性を有する、非経口で許容可能な水溶液の形態であり得る。薬用製剤の一般的な原理に関しては、Cell Therapy: Stem Cell Transplantation, Gene Therapy, and CellularImmunotherapy, by G. Morstyn & W. Sheridan eds.,Cambridge University Press, 1996、及びHematopoietic Stem Cell Therapy, E. D. Ball,J. Lister & P. Law, Churchill Livingstone, 2000を参照されたい。
【0051】
このような医薬品組成物は、その中での細胞の生存度を確保するためのさらなる成分を含有していてもよい。例えば、組成物は、望ましいpH、より通常は中性付近のpHを達成する好適な緩衝系(例えば、リン酸又は炭酸緩衝系)を含んでいてもよく、細胞に対する浸透圧ストレスを防ぐ等張条件を確保するための十分な塩を含んでいてもよい。例えば、これらの目的のための好適な溶液は、当該技術分野で既知の、リン酸緩衝食塩水(PBS)、塩化ナトリウム溶液、リンガー液又は乳酸加リンガー液であり得る。さらに組成物は、細胞の生存度を増大させ得る担体タンパク質、例えばアルブミンを含んでいてもよい。
【0052】
医薬品組成物は、骨の創傷及び欠損の修復に有用なさらなる成分を含み得る。例えば、このような成分は、骨形態発生タンパク質、骨マトリクス(例えば、本発明の細胞により又は他の方法によりin vitroで産生された骨マトリクス)、ヒドロキシアパタイト/リン酸三カルシウム粒子(HA/TCP)、ゼラチン、ポリ乳酸、ポリ乳酸グリコール酸、ヒアルロン酸、キトサン、ポリ−L−リジン及びコラーゲンを含み得るがこれらに限定されない。例えば、骨芽細胞は、脱灰骨マトリクス(DBM)、又は複合体を骨形成性(それ自体で骨を形成する)及び骨誘導性にする他のマトリクスと組み合わせてもよい。同種DBMと共に自家骨髄細胞を使用する同様の方法により、良好な結果が得られている(Connolly et al. 1995. Clin Orthop 313: 8-18)。
【0053】
医薬品組成物は、補完的生物活性因子、例えば骨形態発生タンパク質、例えばBMP−2、BMP−7若しくはBMP−4、又は任意の他の成長因子を、さらに含んでいてもよいし、又はそれらと同時投与してもよい。他の考え得る共存成分は、骨再生を補助するのに好適なカルシウム又はリン酸塩の無機源を含む(国際公開第00/07639号)。必要に応じて、細胞調製物を、担体マトリクス又は担体材料上で投与して、組織再生を向上させてもよい。例えば、材料は、粒状セラミック、又は生体高分子、例えばゼラチン、コラーゲン、オステオネクチン、フィブリノーゲン若しくはオステオカルシンであってもよい。多孔質マトリクスは、標準的な技法に従って合成することができる(例えば、Mikos et al.,Biomaterials 14: 323, 1993;Mikos et al., Polymer35:1068, 1994;Cook et al., J. Biomed. Mater. Res. 35:513, 1997)。
【0054】
医薬品組成物は、骨形成性細胞のAPC特性を増強することができる任意の炎症促進性サイトカインをさらに含んでいてもよいし、又はそれらと組み合わせて同時投与してもよい。したがって、本発明は、免疫不全又は免疫抑制と関連する骨疾患又は病状を含む免疫不全又は免疫抑制と関連する疾患及び病状の治療における同時、連続又は別々の使用のための、骨形成性細胞及び炎症促進性サイトカインを含む医薬品組成物も提供する。炎症促進性サイトカインの例は、IFNγ、TNFα、IL−1β、IL−17、IL−18を含むがこれらに限定されない。
【0055】
代替的に又は付加的に、本発明の細胞は、被験体への導入の前に、対象の核酸で安定的に又は一過的に形質転換することができる。対象の核酸配列は、骨芽細胞の成長、分化及び/又は石灰化を増強する遺伝子産物をコードするものを含むがこれらに限定されない。例えば、BMP−2に関する発現系を、難治性骨折又は骨粗鬆症を治療する目的で、安定的に又は一過的に導入することができる。細胞を形質転換する方法は、当業者に既知である。
【0056】
さらなる一態様では、本発明は、被験体に、例えば全身的に、局所的に、又は骨病変の部位等へと組成物を投与するための外科用器具を含み、かつ本発明の細胞若しくは細胞集団、又は上記細胞若しくは細胞集団を含む医薬品組成物をさらに含む装置であって、例えば全身的な、局所的な、又は骨病変の部位での医薬品組成物の投与に適している装置に関する。例えば、好適な外科用器具は、例えば全身的に、局所的に、又は骨病変の部位で、本発明の細胞を含む液体組成物を注入することができるものであってもよい。
【0057】
細胞又は細胞集団は、それらが目的の組織部位に移植される又は移動すること、及びそれらが機能が欠損した領域を再構成又は再生することができるように、投与してもよい。例えば、細胞を、筋骨格病変の部位で投与してもよい。例えば、骨形成は、組織を再構築する、又は開裂、若しくは人工デバイス、例えば人工股関節置換具を挿入する外科手順に従って促進することができる。他の状況では、侵襲的な外科手術は必要ではなく、組成物は、注入により、又は(例えば、脊柱の修復に)誘導性内視鏡を使用して、投与することができる。
【0058】
一つの実施の形態では、上で規定した医薬品細胞調製物は、液体組成物の形態で投与してもよい。複数の実施の形態では、細胞、又は該細胞を含む医薬品組成物は、全身的に、局所的に、又は病変の部位で、投与してもよい。
【0059】
別の実施の形態では、細胞又は細胞集団を、好適な基板に移して、及び/又は好適な基板上で培養して、移植部材を提供してもよい。細胞を適用及び培養することができる基板は、金属、例えばチタン、コバルト/クロム合金又はステンレス鋼、生物活性表面、例えばリン酸カルシウム、ポリマー表面、例えばポリエチレン等であり得る。あまり好ましくはないが、ケイ質材料、例えばガラスセラミックスも、基板として使用することができる。金属、例えばチタン、及びリン酸カルシウムが、最も好ましいが、リン酸カルシウムは基板の不可欠な成分ではない。基板は多孔質又は非多孔質であり得る。
【0060】
例えば、増殖した細胞、又は培養皿で分化させている細胞を、必要に応じて、三次元固体支持体上に移して、本発明の液体栄養培地中で固体支持体をインキュベートすることにより、増殖させ、及び/又は分化プロセスを継続させることができる。細胞は、例えば、上記細胞を含有する液体懸濁液に上記支持体を含浸させることにより、三次元固体支持体上に移すことができる。このようにして得られた含浸支持体を、ヒト被験体に移植することができる。このような含浸支持体を、最終的に移植する前に、液体培養培地中に浸漬することにより、再培養することもできる。
【0061】
三次元固体支持体は、ヒトに移植することができるように、生体適合性を有することが必要である。三次元固体支持体は、任意の好適な形状、例えば円筒、球、平板、又は任意の形状の一部分のものであり得る。生体適合性を有する三次元固体支持体に好適な材料のうち、炭酸カルシウム、特にアラゴナイト、具体的にはサンゴ骨格の形態のアラゴナイト、アルミナ、ジルコニア、リン酸三カルシウム及び/又はヒドロキシアパタイトをベースとする多孔質セラミックス、炭酸カルシウムをヒドロキシアパタイトに変換することができる水熱交換により得られる擬似サンゴ骨格、又は他にはアパタイト−珪灰石ガラスセラミックス、生物活性ガラスセラミックス、例えばBioglass(商標)ガラスに特に言及することができる。
【0062】
上述の態様及び実施の形態を、以下の非限定的な例によりさらに裏づける。
【0063】
実施例により、自然に又は誘導によりクラスI及びクラスII−HLAを示す骨形成性細胞が、高い骨再構築能力を有しつつT細胞増殖を変調させることができたので、興味深い免疫調節特性を有する可能性があることが実証される。これらの骨形成性細胞は、間葉系マーカー及び骨表面マーカーの高い発現レベル、並びに骨生物学的潜在能力の基礎をなす高い石灰化能力を特徴とする。
【0064】
該細胞は、その表面でのHLAクラスI及びHLAクラスII分子の発現、並びに共刺激分子の不存在を特徴とする。さらに、HLAクラスII分子は、種々の免疫刺激分子(例えば、特にIFNγ、TNFα、IL−1β)により調節され得る。
【0065】
これらの骨形成性細胞は、自家ベース及び同種ベースで、刺激したT細胞の増殖応答を下方調節することができる。これにより、自家骨形成性細胞産物及び同種骨形成性細胞産物の両方が免疫関連疾患の治療に特に有用であることが実証される。
【0066】
また驚くべきことに、上述の免疫抑制特性に関して、これらの骨形成性細胞は、抗原提示細胞(APC)の役割を果たすこともでき、したがってT細胞及び他の炎症性細胞の増殖を刺激することができる。
【0067】
さらに、小規模無作為基準対照(reference-controlled)臨床試験を行い、これにより、免疫不全又は免疫抑制と関連する重度の病状における、すなわち、臓器移植、自己免疫疾患、又は重度の喘息に対するコルチコステロイドの高経口用量投与に起因する慢性免疫抑制と関連する大腿骨頭の第I期又は第II期の骨壊死における、これらの骨形成性細胞の有益な効果が説得力のある形で実証された。
【0068】
まとめると、データは、該細胞が、免疫不全又は免疫抑制と関連する疾患又は病状(任意に、このような疾患は、免疫不全又は免疫抑制と関連する骨疾患又は病状を含む骨機能障害又は骨病変要素を含む)の治療に特に有用であることを示唆している。
【図面の簡単な説明】
【0069】
【図1】HLA−II陽性骨形成性細胞による石灰化を示す図である。
【図2A−1】HLA−II陽性骨形成性細胞によるALP発現を示す図である。図2Aは、細胞のHLA−DR染色を示す。図2Bは、細胞のALP染色を示す。各々の図において、上段のパネルは対照染色を示し、中段のパネルはそれぞれHLA−DR染色又はALP染色を示し、下段のパネルは重ね合わせたもの(overlay)を示す。
【図2A−2】同上
【図2A−3】同上
【図2B−1】同上
【図2B−2】同上
【図2B−3】同上
【図3】CTRL対APC−OB治療患者におけるVASの漸進的変化を示す図である。
【図4】CTRL対APC−OB治療患者におけるWOMAC(商標)指数の漸進的変化を示す図である。
【図5】CTRL対APC−OB治療患者における骨病変生存分析を示す図である。
【図6】CTRL対APC−OB治療患者における放射線学的スコアの漸進的変化を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【実施例】
【0070】
実施例1
表現型分析。細胞の免疫生物学的細胞表面マーカーを、フローサイトメトリーにより解析した。骨形成性細胞を、以下の標識モノクローナル抗体:HLA−I、HLA−DR、CD80、CD86、CTLA−4、CD40L及びCD28と共に15分間インキュベートし、その後PBSで洗浄した後、遠心分離して0.3mlのPBS中で再懸濁した。
【0071】
細胞分化。実施例で使用するHLAクラスII陽性骨芽細胞を、FGF−2(10ng/ml)を添加した従来の骨形成培地(10%FCS又は自家若しくは同種の血清若しくは血漿を添加したDMEM又はα−MEM培地、デキサメタゾン(10−8M)、アスコルビン酸(50μg/ml)、及びβ−グリセロホスフェート(10mM)を含む)を使用してin vitroで間葉系幹細胞(MSC)から発生させた。
【0072】
石灰化アッセイ−骨形成培地における骨髄間葉系細胞の分化。培養物由来の細胞をトリプシン又はヴェルセンを用いたインキュベーションにより回収し、細胞数60〜120000個/ウェルで、6ウェルプレートの増加培地にプレーティングする(細胞数12500個/cm)。翌日、培地を2.5mlの骨形成培地と交換する。細胞を2週間、3週間又は4週間培養する。培地は3日〜4日毎に交換する。2週間の培養後、細胞を、3.7%ホルムアルデヒド/PBS中で固定し、アリザリンレッドにより染色した。
【0073】
培地
デキサメタゾン希釈物:
Dex1(5×10−4M):2μlのデキサメタゾン原液(5×10−2M)+198μlのαMEM
Dex2(10−6M):2μlのDex1(5×10−4M)+998μlのαMEM
造骨培地(40ml)
体積 最終濃度
αMEM 31ml /
FCS 6ml 15%
PenStrepGlu(100×) 400μl 1×
デキサメタゾン(Dex2) 400μl 10−8
アスコルビン酸 200μl 50μg/ml
β−グリセロホスフェート 2ml 10mM
【0074】
増殖アッセイ。個体A由来の200000個/mlのヒトT細胞(PBMCa)を、個体B由来の放射線照射ヒト骨形成性細胞(OBb)と共に96ウェルマイクロタイタープレートにおいて、総体積200μlで、PHA(又は別の刺激因子)の存在下又は非存在下で7日間平板培養した。
【0075】
代替的に、個体A由来の200000個/mlのヒトT細胞(PBMCa)を、個体B由来の放射線照射ヒト骨形成性細胞(OBb)と共に96ウェルマイクロタイタープレートにおいて、総体積200μlで、個体B由来のPBMCb(又は個体c由来のPBMCc)の存在下又は非存在下で7日間平板培養した。
【0076】
骨形成性細胞は細胞数100000個/mlで播種した。培養物を培養期間18時間で1μCi/mlの3H−チミジンと共にインキュベートし、T細胞の増殖を測定した。細胞を氷冷PBSで2回、及び氷冷5%トリクロロ酢酸(TCA)で2回洗浄した。最後に、0.1N NaOH及び0.1%トリトンX100を含有する溶液により細胞を溶解した。上清を採取し、ベータカウンター上で解析するためにシンチレーション液と混合した。
【0077】
実施例2
細胞表現型
フローサイトメトリーにより、この骨形成性細胞集団が、間葉系マーカー(CD90、CD105及びCD73)を高いレベルで発現することが示された。造血表面分子は弱い(CD45、CD34)、又は存在しない(CD14、CD19)。細胞は高レベルのHLAクラスIを発現したが、驚くべきことに、高レベルのHLA−クラスII分子も発現した。しかし、試験した共刺激分子(CD80、CD86、CD28、CTLA−4)は全て存在しない(表1)。
【0078】
興味深いことに、MSC細胞に関してLe Blanc et al 2003(Exp Hematol 31 : 890-6)により示されたように、本発明者らにより、培地中に24時間〜48時間IFNγ(5ng/ml)が存在することによりHLAクラスIIの発現の増大が誘導されることが観察された(表1)。同様の観察がTNFα、IL−1β、IL−17、IL−18、及び他の炎症促進性サイトカインでなされた。
【0079】
表1:IFNγの存在下又は非存在下で培養した骨形成性細胞の表現型マーカー(FACSにより陽性とみなされた細胞の百分率)
【表1】

【0080】
実施例3
免疫調節
上述の骨形成性細胞集団を、in vitro条件下で免疫系を調節するその能力に関して検証した。自家条件下又は異種(heterologous)条件下におけるT細胞(末梢血単核(mononucleated)球−PBMC)の誘導又は増殖を試験した。
【0081】
HLAクラスII+骨形成性細胞を、免疫関連骨疾患に罹患している患者から単離し、及び/又は増加させた。フローサイトメトリーによるそれらのHLAクラスIIマーカーの発現のレベル、及びT細胞増殖アッセイに使用したそれらの細胞(骨形成性細胞及び/又はPBMC)。
【0082】
自家条件下(ドナーa由来)又は同種条件下(ドナーb由来)でHLAクラスII+骨形成性細胞と共に同時培養した場合には、PBMC(レシピエントa由来の)の増殖応答は観察されなかった(表2)。このことにより、HLAクラスII+骨形成性細胞は末梢血単核球により「外来」細胞として認識されないため、同種応答を誘発することができないことが実証された。
【0083】
さらに、分裂促進活性化因子、例えばPHAにより刺激した場合には、PBMCは、自家条件下(ドナーa由来)又は同種条件下(ドナーb由来)で骨形成性細胞により有意に下方調節された。免疫抑制のレベルは、HLAクラスIIの発現初期レベルと相関した(表2)。
【0084】
表2:同種T細胞増殖に対する骨芽細胞の阻害効果(値は、増大又は減少の%を示す(開始時のPBMC数を100%とする)。
【表2】

【0085】
これらの効果は、炎症促進性サイトカインでの前処理により変化しなかった。
【0086】
実施例4
抗原提示特性
第2プールの別のドナー由来のPBMCの添加により、レシピエント由来のPBMCの増殖の増大がもたらされ、HLAクラスII+骨形成性細胞のAPCの役割が示唆される(表3)。この観察結果は、HLAクラスIIの発現レベルとも相関する。
【0087】
表3:別のドナー由来のPBMCの存在下でのT細胞増殖(レシピエント由来の)に対する骨形成性細胞の増殖効果(値は、増大又は減少の%を示す(開始時のPBMC数を100%とする)。
【表3】

【0088】
興味深いことに、細胞培養の開始時からの或る特定の特異的なサイトカイン、例えばIL2、IL3、IL4、IL11、IL12、又はPBMCの添加により、PBMCの増殖の増大がもたらされ、HLAクラスII+骨形成性細胞のAPCの役割が示唆される(表4)。この観察結果は、HLAクラスIIの発現レベルとも相関する。
【0089】
表4:IL2の存在下でのT細胞増殖(レシピエント由来の)に対する骨形成性細胞の増殖効果(値は、増大又は減少の%を示す(開始時のPBMC数を100%とする)。
【表4】

【0090】
これらの効果は、炎症促進性サイトカインでの前処理により変化しなかった。
【0091】
実施例5
骨再構築特性
細胞マーカー(骨マーカー及び間葉系マーカー)又は膜マーカーのレベルを、フローサイトメトリーにより評価した(表1)。骨(ALP)マーカー及び間葉系(CD105、CD73、CD90)マーカーは、それぞれ65%超及び95%超の高いレベルで発現された。
【0092】
骨生物学的機能について、ALP産生(ALP染色)、及びHLAクラスIIマーカーの発現のレベルと相関があり(石灰化、図1)、高レベルのHLAクラスII分子を発現する細胞が高い骨再構築能を有することが示唆された。
【0093】
ALPは、全てではないにしてもほとんどの細胞により(IFNγと共にインキュベートした細胞において)発現された(図2)。
【0094】
実施例6
ヒト臨床有効性データ
試験及び患者集団の設計
小規模無作為基準対照臨床試験を行い、該試験では免疫不全又は免疫抑制と関連する重度の病状(すなわち、大腿骨頭の第I期又は第II期の骨壊死)を有する8人の患者を、上で取得されたAPC特徴を示す骨形成性細胞(APC−OB、患者番号4〜8)、又は骨髄由来の間葉系間質細胞の集団(対照治療、CTRL、患者番号1〜4)の病変移植と関連するコア減圧(core decompression)により治療した。
【0095】
これらの患者においては、慢性の免疫抑制は、臓器移植、自己免疫疾患、又は重度の喘息に対する高経口用量のコルチコステロイドの投与に起因するものであった。
【0096】
治療の有効性を、臨床的評価基準及び評価項目(視覚的アナログ尺度(VAS指数及びWOMAC(商標)指数)をそれぞれ使用して測定される股関節痛及び機能)、並びに放射線学的評価基準及び評価項目(ARCOの骨壊死の分類に従う骨折の第III期又は第IV期への進行のX線及びMRIの兆候)の両方を使用して調査した。患者を系統的に評価し、24ヶ月間追跡調査した。
【0097】
試験結果
1.臨床的な症状
1.1 疼痛
全体として、12〜24ヵ月後に、CTRL群と比較してAPC−OB治療群において疼痛の減少が観察された。
【0098】
APC−OB治療群では、VASにより評価した平均疼痛スコアが、ベースラインでの45.5(±23)から、3ヶ月時点での16.3(±14)、6ヶ月時点での17.8(±15)、12ヶ月時点での15(±11)、18ヶ月時点での16.8(±11)、24ヶ月時点での7.8(±12)まで減少した。対照的にCTRL群では、ベースラインでの49(±32)からそれぞれ18ヶ月時点及び24ヶ月時点での60.5(±30.7)及び58.5(±18)までの平均疼痛スコアの増大が、見出された。
【0099】
時間が経つと、APC−OBによる治療の利益は、24ヶ月時点での2群間の100%を超える差異として現れた(図3を参照されたい)。
【0100】
1.2.機能スコア
同様に、APC−OB治療群では、平均WOMAC(商標)指数は、ベースラインでの48(±25)から、3ヶ月時点での17.8(±23)、6ヶ月時点での20.5(±24)、12ヶ月時点での15.5(±12)、18ヶ月時点での18(±11)、及び24ヶ月時点での18(±8)まで減少した。反対に、CTRL群では、WOMAC(商標)指数は、同じ期間にわたり、ベースラインでの39.8(±25)から、それぞれ18ヶ月時点及び24ヶ月時点での56.8(±22)及び57(±26)まで悪化した。
【0101】
時間が経つと、APC−OBによる治療の利益は、24ヶ月時点での2群間の100%を超える差異として現れた(図4を参照されたい)。
【0102】
1.3 放射線学的進行
24ヶ月時点で、生存分析により、APC−OB治療群では0%であったのに対して、CTRL群における骨病変の75%が骨折まで悪化したことが実証された(図5)。
【0103】
さらに、2つの患者群における平均放射線学的スコアの漸進的変化を示す図6に示されるように、CTRL群では、平均放射線学的スコアは、ベースラインでの1.3から、3ヶ月時点での2、6ヶ月時点での2.5、12ヶ月時点での2.8、及び18ヶ月時点及び24ヶ月時点での3まで悪化した。比較すると、APC−OB治療患者は平均放射線学的スコアにおいて、ベースラインでの1.5から、それぞれ12ヶ月時点、18ヶ月時点及び24ヶ月時点での1.5、1.8及び1.8までの極めて小さい増大しか示さなかった。
【0104】
結論
結論として、本発明者らのデータにより、APC特徴を示す骨形成性細胞での治療を受けた患者(コルチコイド誘発性免疫抑制と関連する大腿骨頭の第I期又は第II期の骨壊死を有する)が対照群と比較して臨床的評価項目及び放射線学的評価項目の顕著な改善を示したことが示される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
単離骨形成性細胞を主成分とする免疫不全又は免疫抑制と関連する疾患又は病状の治療剤。
【請求項2】
単離骨形成性細胞が、HLA−IIの発現を有するである、請求項1に記載の剤。
【請求項3】
単離骨形成性細胞が、以下の特徴を有する:
a)アルカリホスファターゼ(ALP)の発現を有すること、
b)1型プロコラーゲンアミノ末端プロペプチド(P1NP)、オステオネクチン(ON)、オステオポンチン(OP)、オステオカルシン(OCN)及び骨シアロタンパク質(BSP)のいずれか1つ又は複数の発現を有すること、
c)外部環境を石灰化する、又はカルシウム含有細胞外マトリクスを合成する能力の兆候を示すこと、
d)HLA−I及びHLA−IIの発現を有する、請求項1又は2に記載の剤。
【請求項4】
単離骨形成性細胞が、骨芽前駆細胞、骨芽細胞、骨細胞、又は骨形成系列の細胞型である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の剤。
【請求項5】
単離骨形成性細胞が、間葉系幹細胞(MSC)又は骨髄間質細胞(BMSC)からの分化により取得可能である、請求項1〜4のいずれか一項に記載の剤。
【請求項6】
単離骨形成性細胞が、抗原提示特性の兆候を示す、請求項1〜5のいずれか一項に記載の剤。
【請求項7】
骨形成性細胞がヒト起源のものであり、該薬物がヒト被験体への自家投与又は同種投与のために利用される、請求項1〜6のいずれか一項に記載の剤。
【請求項8】
疾患又は病状が、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)感染症及び後天性免疫不全症候群(AIDS)、低ガンマグロブリン血症、血液癌、例えば白血病及びリンパ腫、全骨髄切除、骨髄移植、臓器移植、任意の起源のリンパ球減少症、エリテマトーデス、悪液質、オピオイド中毒、肥満細胞症、リウマチ熱、トリパノソーマ症、及びアルコール中毒、であり、治療が、化学療法剤、コルチコステロイド、抗TNF薬、放射線、免疫抑制薬(タクロリムス、シクロスポリン、メトトレキサート、ミコフェノレート、アザチオプリン、インターフェロン、及びイムノグロブリン、抗CD20及び抗CD3から選ばれる)による治療から選択される、請求項1〜7のいずれか一項に記載の使用のための剤。
【請求項9】
疾患が骨機能障害又は骨病変要素をさらに含む、請求項1〜8のいずれか一項に記載の剤。
【請求項10】
前記骨機能障害又は前記骨病変要素が、骨粗鬆症、骨壊死、骨減少症、骨脆弱症、骨の壊死、骨折又は微小骨折、骨硬化症、及び骨溶解症である、請求項9に記載の剤。
【請求項11】
免疫不全又は免疫抑制と関連する疾患又は病状の治療における同時、連続又は別々の使用のための、骨形成性細胞及び炎症促進性サイトカインを含む医薬品組成物。
【請求項12】
骨形成性細胞がHLA−IIの発現を有する、請求項11に記載の使用のための医薬品組成物。
【請求項13】
炎症促進性サイトカインが、IFNγ、TNFα、IL−1β、IL−17又はIL−18である、請求項11又は12に記載の使用のための医薬品組成物。

【図1】
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【図2A−1】
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【図2A−2】
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【図2A−3】
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【図2B−1】
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【図2B−2】
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【図2B−3】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公表番号】特表2011−519900(P2011−519900A)
【公表日】平成23年7月14日(2011.7.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−507930(P2011−507930)
【出願日】平成21年5月7日(2009.5.7)
【国際出願番号】PCT/EP2009/055559
【国際公開番号】WO2009/135914
【国際公開日】平成21年11月12日(2009.11.12)
【出願人】(510172826)
【Fターム(参考)】