説明

免疫分析試薬及びそれを用いた免疫分析方法

【課題】化学発光あるいは電気化学発光物質のように標識物質自体が検出シグナルを発する標識物質をヒンジ法に用いても、高い検出シグナルを得ることが出来る免疫分析試薬及びそれを用いた免疫分析方法を提供する
【解決手段】抗体フラグメントの反応活性なカルボキシル基あるいはチオール基の少なくともいずれか一方に架橋されたビオチンとからなるビオチン導入抗体フラグメントと、アビジンの反応活性な官能基に架橋された標識物質とからなる標識物質導入アビジンとを含む免疫分析試薬。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗体標識法におけるビオチン・アビジンの結合反応を用いた免疫分析試薬及び免疫分析方法に関する。
【背景技術】
【0002】
抗体標識法は、抗体に酵素・蛍光物質・化学発光物質・電気化学発光物質等の標識物質を結合した標識抗体を、抗原と抗原抗体反応させ、抗原濃度に応じて結合した標識抗体から発せられるシグナルを検出する高感度免疫分析法である。
【0003】
抗体に酵素を標識した酵素標識抗体を用いる酵素免疫分析法は、酵素が有する基質に対する触媒活性の高さから容易に高感度分析ができる。しかしながら、酵素の安定性や、抗体に対して酵素の分子サイズが大きいことにより、抗原抗体反応の立体阻害を生じる等の理由から、近年では、分子サイズの小さいイソルミノールやアクリジニウムエステル等の化学発光物質を標識した化学発光免疫分析法や、分子サイズが小さくかつ比較的安定なトリス(2,2’−ビピリジン)ルテニウム錯体のような電気化学発光物質を抗体に標識した電気化学発光免疫分析法が実用化されている。
【0004】
更に、抗体標識法には、ビオチン・アビジン反応を利用し、ビオチン標識抗体と、標識物質を修飾したアビジンの二試薬を用いたものがある。これは、酵素のような巨大分子の標識物質を抗体に直接結合した標識抗体は、抗原抗体反応の際に立体障害等により反応を阻害されるが、結合の強いビオチン・アビジン反応利用することで、立体障害等の反応を阻害することなく抗原を検出することができる(例えば、特許文献1参照。)。
【0005】
一方、抗体への標識方法には、ヒンジ法とノンヒンジ法の2つがある。ヒンジ法は、抗体フラグメントFab’あるいは抗体フラグメント(Fab’)2のヒンジ部のチオール基に標識物質を結合させ、ノンヒンジ法は、抗体のアミノ基またはカルボキシル基に標識体を結合させる方法である。ノンヒンジ法では、標識物質と結合が出来る反応活性なアミノ基が多いため、数多くの標識物質を導入することができる反面、抗原認識部のアミノ基に標識による修飾が生じるので、抗体の特異性が低下する。更に、抗体のFc領域が、非特異吸着が増加する要因となる。そのため、抗原認識部とはならないヒンジ部のチオール基に標識を結合させ、Fc領域を除去したヒンジ法が行われている(例えば、特許文献2参照。)。
【0006】
この方法を用いると、(1)標識を結合させても抗体の活性が保持されること、(2)抗体のFc領域を除去しているため非特異吸着が抑制されること、(3)標識時に生じる抗体が重合したポリマー形成が起こりにくい等の利点がある。そのため、非特異結合によるシグナル増加が抑えられるため、広く利用されている。
【特許文献1】特開昭58−30667号公報
【特許文献2】特開昭53−44622号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、前記従来の構成では、ヒンジ部のチオール基のみを選択的に利用しているため、アミノ基標識を行うノンヒンジ法に比べて、標識物質の結合量が少ない。そのため、標識物質に酵素のような基質生成反応する物質を用いれば、高い検出シグナルを得ることができる。しかし、化学発光あるいは電気化学発光物質のような標識物質自体の発光を検出シグナルとする場合は、検出シグナルが低いため検出感度が低下してしまうという、課題を有していた。
【0008】
本発明は、前記従来の課題を解決するもので、化学発光あるいは電気化学発光物質のように標識物質自体が検出シグナルを発する標識物質をヒンジ法に用いても、高い検出シグナルを得ることが出来る免疫分析試薬及びそれを用いた免疫分析方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記従来の課題を解決するために、本発明の免疫分析試薬及びそれを用いた免疫分析方法は、抗体フラグメントの反応活性なカルボキシル基あるいはチオール基の少なくともいずれか一方に架橋されたビオチンとからなるビオチン導入抗体フラグメントと、アビジンの反応活性な官能基に架橋された標識物質とからなる標識物質導入アビジンとを含むことを特徴としたものである。
【0010】
また、本発明の免疫分析試薬及びそれを用いた免疫分析方法は、分析サンプルを固相固定化抗体で捕捉する捕捉工程と、前記分析サンプルとビオチン導入抗体フラグメントと前記固相固定化抗体とを結合して複合体を形成する複合体形成工程と、前記複合体にアビジンの反応活性な官能基に架橋された標識物質とからなる標識物質導入アビジンを結合するビオチン・アビジン反応工程と、前記複合体に結合した標識物質導入アビジンから発生したシグナルを分析する分析工程と、からなることを特徴としたものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明の免疫分析試薬及びそれを用いた免疫分析方法によれば、ヒンジ法のような標識物質の結合量が低い標識方法を用いて、化学発光物質や電気化学発光物質等、標識物質そのものが、シグナルを発する場合においても、高いシグナルを保持した免疫分析が可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下に、本発明の免疫分析試薬及びそれを用いた免疫分析方法の実施の形態を図面とともに詳細に説明する。なお、本発明における「分析」には、分析対象化合物の存在の有無を判定する「検出」と、分析対象化合物の存在量を決定する「定量」との双方を含む意味で用いている。
【0013】
(実施の形態1)
図1は、本発明の第1の実施の形態における免疫分析試薬及びそれを用いた免疫分析方法を示したものである。図1を用いて、本発明の測定原理を説明する。
【0014】
図1において、1は固相固定化抗体であり、2は分析サンプルである。本発明での分析サンプルは、固相固定化抗体及びビオチン導入抗体フラグメントと特異的に結合できるものであれば良い。このようなものとして、抗原及び抗体がある。3は抗体フラグメントFab’であり、4は抗体フラグメントFab’が持つヒンジ部の反応活性基なチオール基を示す。5は抗体フラグメントFab’の反応活性基なチオール基とビオチンとの間の架橋であり、6は架橋されたビオチンを示す。
【0015】
本発明では、3〜6の複合体をビオチン導入抗体フラグメントFab’という。また、7はアビジン、8はアビジンが持つ反応活性なアミノ基、9はこの反応活性なアミノ基と標識物質との架橋部であり、10は架橋された標識物質である。11はアビジンが持つ反応活性なカルボキシル基、12はこの反応活性なカルボキシル基と標識物質との架橋部であり、10は架橋された標識物質である。本発明では、7〜12からなる複合体を標識物質導入アビジンという。
【0016】
この標識物質導入アビジンは、ストレプトアビジン中のカルボキシル基及びアミノ基に対し、それぞれアミノ基及びカルボキシル基のリンカーを有するトリス(2,2’−ビピリジル)ルテニウム錯体を標識した標識物質導入アビジンを導入した標識物質導入アビジンを用いた。分析サンプルには、Human Tumor Necrosis Factor α(以下、TNF−αと略す)を用いた。なお、固相固定化抗体の固相には、反応物と未反応物を容易に分離できる磁性ビーズを用いて行った。
【0017】
アビジンへの標識は、化学修飾法が利用できる。このような化学修飾法として、例えば、カルボキシル基を修飾させた標識物質とアビジン中に存在するアミノ基とをアミド結合により標識する方法がある。また、アミノ基を修飾させた標識物質とアビジン中に存在するカルボキシル基とをアミド結合により標識する方法や、アミノ基を修飾させた標識物質とアビジン中のアミノ基に対してグルタルアルデヒドによりアミノ基同士を架橋する方法等がある。本発明では、カルボキシル基及びアミノ基を修飾したトリス(2,2’−ビピリジル)ルテニウム錯体をそれぞれ合成し、ストレプトアビジン中の反応活性なアミノ基及びカルボキシル基に対し、それぞれアミド結合により導入した。
【0018】
次に、本発明に用いる標識物質の分子サイズは、発光種が0.5〜2nmまでが好ましい。アビジン分子サイズが約6.0×5.5×4nmであるので、このサイズの標識物質でなければ、ビオチン・アビジン反応時に標識物質同士が重なり合って立体障害を起こして、ビオチン・アビジン反応を阻害するからである。なお、本発明の実施の形態1においては、標識剤に電気化学発光物質を用いたが、化学発光物質を使用しても同様に高いシグナルが得られる。
【0019】
また、ビオチン導入抗体フラグメントFab’を用いた説明をしたが、ビオチン導入抗体フラグメント(Fab’)2あるいは還元抗体を用いても同様の効果が得られる。しかし、非特異吸着の要因の観点からビオチン導入抗体フラグメントFab’、ビオチン導入抗体フラグメント(Fab’)2を用いることが望ましい。
【0020】
以上説明した、ビオチン導入抗体フラグメントと標識物質導入アビジンとを含む免疫分析試薬を用いた免疫分析方法を説明する。まず、図1の上段に示すように、抗原抗体反応により、固相固定化抗体1に抗原2を補足させる(捕捉工程)。抗原2が捕捉された固相固定化抗体1に対し、ビオチン導入抗体フラグメントFab’(3〜6)を抗原抗体反応させることにより、図1の中段に示すような複合体を形成させる(複合体形成工程)。次に形成した複合体中のビオチンに対し、図1の下段に示すように、標識物質導入アビジン(7〜12)を結合させる(ビオチン・アビジン反応工程)。ビオチン・アビジン工程を経た複合体の標識物質から発するシグナルを検出することにより、抗原2の存在量を検出することにより免疫分析を行うものである。
【0021】
次に、本発明で試用する試薬の具体的な調製方法を説明する。
【0022】
<アミノ基修飾トリス(2,2’−ビピリジル)ルテニウム錯体の合成>
アミノ基修飾トリス(2,2’−ビピリジル)ルテニウム錯体(化1)は以下の手順により得た。
【0023】
【化1】

【0024】
テトラヒドロフラン(以下、THFと略す)60.0mlに溶解させた4,4´−ジメチル−2,2´ビピリジン2.50g(13.5mmol)溶液を窒素雰囲気の容器に注入した後、リチウムジイソプロピルアミド2M溶液16.9ml(27.0mmol)を滴下し、氷冷しながら30分撹拌した。一方、同様に窒素気流中で乾燥させた容器に、1,3−ジブロモプロパン4.2mL(41.1mmol)とTHF10mLとを加え、氷冷しながら撹拌させた。この容器に、先程の反応液をゆっくり滴下させて2.5時間反応させた。反応溶液は2Nの塩酸で中和し、THFを留去した後、クロロホルムで抽出した。溶媒を留去して得た粗生成物をシリカゲルカラムで精製し、生成物Aを得た(収率47.2%)。
【0025】
次に窒素雰囲気の容器に、前記生成物A1.0g(3.28mmol)、フタルイミドカリウム0.67g(3.61mmol)、及びジメチルホルムアミド(脱水)30.0mlを加え、オイルバスで18時間還流した。反応後、クロロホルムで抽出し、0.2N水酸化ナトリウム50mL及び蒸留水200mlで洗浄した。溶媒を留去して酢酸エチルとヘキサンから再結晶を行い、生成物Bを得た(収率61.5%)。
【0026】
塩化ルテニウム(III)(2.98g、0.01mol)、及び2,2´−ビピリジ
ン(3.44g、0.022mol)をジメチルホルムアミド(80.0ml)中で6時間還流した後、溶媒を留去した。その後、アセトンを加え、18時間4℃に冷却することで得られた黒色沈殿物を採取し、エタノール水溶液170ml(エタノール:水=1:1)を加え1時間加熱還流を行った。ろ過後、塩化リチウムを20g加え、エタノールを留去し、さらに16時間4℃で静置した。析出した黒色物質は吸引ろ過で採取し、生成物Cを得た(収率68.2%)。
【0027】
窒素置換した容器に、前記生成物B0.50g(1.35mmol)、前記生成物C0.
78g(1.61mmol)、及びエタノール50mlを加えた。9時間窒素雰囲気で還
流した後、溶媒を留去し、蒸留水で溶解させ、1.0Mの過塩素酸水溶液で沈殿させた。
この沈殿物を採取し、メタノールで再結晶を行い、生成物Dを得た(収率81.6%)。
【0028】
さらに、前記生成物D1.0g(1.02mmol)、及びメタノール70.0mLを
1時間還流した。室温まで冷却した後、ヒドラジン一水和物0.21ml(4.21mm
ol)を加え再び13時間還流した。反応後、蒸留水を15ml加え、メタノールを留去
した。
【0029】
次に、濃塩酸を5.0ml加え、2時間還流して得られた反応液を4℃で16時間静置し、析出した不純物を自然ろ過で除去した。
【0030】
これを炭酸水素ナトリウムで中和した後、蒸留水を留去し、無機物をアセトニトリルで除去した。溶媒を留去して得た粗生成物をシリカゲルカラムで精製し、目的物である標識剤(化1)を得た(収率71.4%)。
【0031】
表1は、前述のようにして得た標識剤(化1)の1H-NMR結果である。
【0032】
【表1】

【0033】
<カルボキシル基修飾トリス(2,2’−ビピリジル)ルテニウム錯体の合成>
カルボキシル基修飾トリス(2,2’−ビピリジル)ルテニウム錯体(化2)は、以下の手順により得た。
【0034】
【化2】

【0035】
遮光容器に、上記で調製したアミノ基修飾トリス(2,2’−ビピリジル)ルテニウム錯体(化1)0.65g(0.76mmol)を加え、アセトニトリル10mlに溶解させた。次に、トリエチルアミン0.23g(2.29mmol)を加えた後、アセトニトリル20mlに溶解したグルタル酸無水物0.87g(7.62mmol)を滴下した。
【0036】
9時間反応後、エバポレーターでアセトニトリルを留去して得た粗生成物を高速液体クロマトグラフィー(HPLC)で精製し、(化2)を得た (収率87.5%)。
【0037】
表2は、前述のようにして得た標識剤(化2)の1H-NMR結果である。
【0038】
【表2】

【0039】
<トリス(2,2’−ビピリジル)ルテニウム錯体導入ストレプトアビジンの調製>
標識物質導入アビジンである(トリス(2,2’−ビピリジル)ルテニウム錯体標識ストレプトアビジンは、以下の手順により得た。
【0040】
アミノ基修飾トリス(2,2’−ビピリジル)ルテニウム錯体1.3mgを500ulの精製水に溶解し、トリエチルアミン[以下、TEAと略す]1ulを加える。次に、ストレプトアビジン1mgを10mM酢酸緩衝液(pH4.5)300ulに溶解し、10mM酢酸緩衝液(pH4.5)で溶解した1.7mg/mlのジチオビス(スクシンイミジルウンデカネート)[以下、NHSと略す]を100ul及び、10mM酢酸緩衝液(pH4.5)で溶解した14mg/ml1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩[以下、WSCと略す]100ulを順に、ストレプトアビジンに加え、室温で30分間反応させた。次に、反応させたストレプトアビジンとRu−NH2とをあわせ、一晩反応させる。反応後、0.1Mリン酸緩衝液(pH7.4)で透析(分画分子量:10000)を行った。
【0041】
透析が完了したストレプトアビジンに対し、TEA1ul加える。次に、カルボキシル基修飾トリス(2,2’−ビピリジル)ルテニウム錯体1.45mgを10mM酢酸緩衝液(pH4.5)500ulに溶解し、1.7mg/mlNHS100ul、及び14mg/mlWSC100ulを順に加え、室温で30分間反応させた。次に反応させたRu−COOHとストレプトアビジンを混合させ、一晩反応させる。反応後、0.1Mリン酸緩衝液(pH7.4)で透析(分画分子量:10000)を行い、トリス(2,2’−ビピリジル)ルテニウム錯体標識ストレプトアビジンを調製した。
【0042】
<抗体フラグメントFab’の調製>
抗体フラグメントFab’は、R&D systems製Mouse由来Anti−TNF−α,Human−Poly(クローン:28401)を用い、PIERCE製ImmunoPure IgG1 Fab and F(ab’)2 Preparation Kitを用いて調製した。
【0043】
<ビオチン導入抗体フラグメントFab’の調製>
調製した抗体フラグメントFab’のビオチン導入化は、同仁化学研究所製Biotin Labeling Kit−SHを用いて行った。
【0044】
<TNF−αの免疫分析>
以上の方法で調製した試薬を用いて、TNF−αの免疫分析を、次の手順で行った。
【0045】
磁性ビーズ(Invitrogen社製Dynabeads M−450 Tosylactivated)を25ul(1×107beads)採取し、0.1Mリン酸緩衝液(pH7.4)で2度洗浄後、R&D systems社製のGoat由来Anti−TNF−α Human−Poy(クローン:171−P1798)100μgを加えた。24時間反応して、磁性ビーズ上にGoat由来Anti−TNF−α Human−Poy(クローン:171−P1798)を固定化した後、0.2mol/lのEDTA及び0.1%BSAを含有した0.1Mリン酸緩衝生理食塩水(pH7.4)と、0.1%BSAを含有した0.2MTris緩衝液(pH8.5)で洗浄した。その後、1%BSAを含有した0.1Mリン酸緩衝生理食塩水(pH7.4)で磁性ビーズ表面をブロッキングし、抗体固定化磁性ビーズを調製した。以後の免疫分析には、1アッセイ5×105beadsを使用した。
【0046】
分析サンプルであるR&D systems社製Recombinant Human TNF−αを、1%BSA含有0.1Mリン酸緩衝生理食塩水(pH7.4)で希釈し、それぞれ、5000pg/ml、500pg/ml、50pg/ml、5pg/ml、0pg/mlの分析サンプル溶液を調製し、そのうち500ulを抗体固定化磁性ビーズに加え、25℃、1時間、抗原抗体反応させた。
【0047】
抗原抗体反応後、0.01%Tween20含有0.1Mリン酸緩衝生理食塩水(pH7.4)で3度洗浄した。
【0048】
その後、0.5ug/mlの調製したビオチン導入抗体フラグメントFab’を500ul加え、更に25℃、1時間、抗原抗体反応させた。
【0049】
抗原抗体反応後、0.01%Tween20含有0.1Mリン酸緩衝生理食塩水(pH7.4)で3度洗浄した。
【0050】
次いで、調製した1mg/mlのトリス(2,2’−ビピリジル)ルテニウム錯体導入ストレプトアビジンを500ul加え、25℃、30分間、反応させた。
【0051】
反応後、0.01%Tween20含有0.1Mリン酸緩衝生理食塩水(pH7.4)で3度洗浄し、10ulの0.1Mリン酸緩衝液(pH7.4)に反応が終了した磁性ビーズを懸濁させた。
【0052】
懸濁させた磁性ビーズを2.5ul採取し、金電極チップの作用極(直径3mm)に滴下し、65℃、5分間放置し、電極面を焼き付けた。なお、使用した金電極チップは、ガラス基板上にスパッタ装置(アルバック製SH−350)によりチタン10nmを下地に金200nmを形成させ、フォトリソグラフィ工程により電極パターンを形成したものを用いた。
【0053】
その後、0.1Mリン酸緩衝液(pH7.4)及び0.1MTEAからなる電解質溶液80μLを滴下し、0V〜1.3Vまで電圧走査し、5秒間の電気化学発光量を測定した。なお、電気化学発光量の測定には、光電子倍増管(浜松ホトニクス製H7360−01)を用いて行い、電圧走査中における発光量積分値を分析した。
【0054】
なお、コントロールとして、ストレプトアビジン中のカルボキシル基に対し、アミノ基修飾トリス(2,2’−ビピリジル)ルテニウム錯体を標識させたストレプトアビジン同様の手順で、TNF−αの免疫分析も行った。図2及び表3に本発明の実施の形態1における免疫分析結果を示す。
【0055】
【表3】

【0056】
表3に示すように、従来例では、TNF−αを加えていないサンプル(TNF−α濃度0)の発光量積分値が5640RLU(発光量最大値は57RLU)に対し、TNF−α濃度が5pg/mlのサンプルの発光量積分値が5711RLU(発光量最大値は59RLU)だった。一方、本発明では、TNF−α濃度0のサンプルの発光量積分値は、6296RLU(発光量最大値は69RLU)と従来技術とほぼ同一の値を示した。ところが、TNF−α濃度5pg/mlのサンプルでは、その発光量積分値が14516RLU(発光量最大値は216RLU)と極めて高い値が得られた。従って、本発明を用いると、従来技術では、検出できなかったTNF−α濃度0とTNF−α濃度5pg/mlとサンプルを明確に区別することが出来る。さらに、TNF−α濃度が高くなるに従いTNF−α濃度に比例して発光量が増加した。
【0057】
表3に示した結果を図示したものが図2である。横軸は対数目盛である。従来技術では、TNF−α濃度50pg/ml以上のサンプルでないと濃度と発光量積分値との間に比例関係は見られない。しかし、本発明手法を用いることで、TNF−α濃度5pg/ml以上サンプルから濃度と発光量積分値との間に比例関係が見られるようになる。すなわち、本発明手法を用いれば、測定可能な濃度がTNF−α濃度5pg/mlのサンプルまで広げられることを示している。
【0058】
以上のことから、本発明の免疫分析法及びそれを用いた免疫分析法は、5pg/ml以下という低濃度のTNF−αを測定することが出来た。一方、従来例であるコントロールで検出できるTNF−αの濃度の限界は50pg/mlと、本発明より一桁濃度が高い。すなわち、本発明の免疫分析試薬及びそれを用いた免疫分析法を用いることで、従来に比べて一桁高い検出シグナルを得ることができるので、低濃度の分析サンプルを感度よく分析することができる。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明にかかる免疫分析試薬及びそれを用いた免疫分析法は、高いシグナルを発するため、標識率の低いFab化抗体を用いても、高感度に抗原を測定でき、食品・臨床検査分野等の免疫分析に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】本発明の実施の形態1における免疫分析試薬及びそれを用いた免疫分析方法を示した図
【図2】本発明の実施の形態1における免疫分析結果を示す図
【符号の説明】
【0061】
1 固相固定化抗体
2 分析サンプル
3 抗体フラグメントFab’
4 抗体フラグメントFab’が有するヒンジ部の反応活性なチオール基
5 抗体フラグメントFab’が有するヒンジ部の反応活性なチオール基とビオチンとの架橋部
6 ビオチン
7 アビジン
8 アビジンが有する反応活性なアミノ基
9 アビジンが有する反応活性なアミノ基と標識物質との架橋部
10 標識物質
11 アビジンが有する反応活性なカルボキシル基
12 アビジンが有する反応活性なカルボキシル基と標識物質との架橋部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
抗体フラグメントの反応活性なカルボキシル基あるいはチオール基の少なくともいずれか一方に架橋されたビオチンとからなるビオチン導入抗体フラグメントと、
アビジンの反応活性な官能基に架橋された標識物質とからなる標識物質導入アビジンとを含む免疫分析試薬。
【請求項2】
前記官能基が、カルボキシル基とアミノ基である請求項1に記載の免疫分析試薬。
【請求項3】
前記標識物質が、前記カルボキシル基とアミノ基のそれぞれに架橋されている請求項2に記載の免疫分析試薬。
【請求項4】
前記標識物質は、発光種の分子サイズが0.5nmから2nmの範囲である請求項1に記載の免疫分析試薬。
【請求項5】
前記抗体フラグメントは、抗体フラグメントFab’、抗体フラグメント(Fab’)2あるいは還元抗体である請求項1〜4に記載の免疫分析試薬。
【請求項6】
前記アビジンは、卵白アビジン、ストレプトアビジン、又はリコンビナントアビジンである請求項1〜5に記載の免疫分析試薬。
【請求項7】
前記標識物質は、化学発光物質若しくは電気化学発光物質である請求項1及び4に記載の免疫分析試薬。
【請求項8】
前記電気化学発光物質は、配位子に複素環系化合物を有する金属錯体、ルブレン、アントラセン、コロネン、ピレン、フルオランテン、クリセン、フェナントレン、ペレリン、ビナフチル、オクタテトラエン、ゲルマニウム粒子、シリコン粒子のいずれかである請求項7に記載の免疫分析試薬。
【請求項9】
前記金属錯体が、配位子にピリジン部位を有する金属錯体である請求項8に記載の免疫分析試薬。
【請求項10】
前記配位子にピリジン部位を有する金属錯体が、金属ビピリジン、金属フェナントロリン錯体のいずれかである請求項9に記載の免疫分析試薬。
【請求項11】
前記配位子に複素環系化合物を有する金属錯体の中心金属が、ルテニウム、オスミウムのいずれかである請求項8〜10に記載の免疫分析試薬。
【請求項12】
分析サンプルを固相固定化抗体で捕捉する捕捉工程と、
前記分析サンプルとビオチン導入抗体フラグメントと前記固相固定化抗体とを結合して複合体を形成する複合体形成工程と、
前記複合体にアビジンの反応活性な官能基に架橋された標識物質とからなる標識物質導入アビジンを結合するビオチン・アビジン反応工程と、
前記複合体に結合した標識物質導入アビジンから発生したシグナルを分析する分析工程と、
からなる免疫分析方法。
【請求項13】
前記分析サンプルは、固相固定化抗体及びビオチン導入抗体フラグメントと特異的に結合できる化合物を含む請求項12に記載の免疫分析方法。
【請求項14】
前記化合物は、抗原あるいは抗体のいずれか一方である請求項13に記載の免疫分析方法。
【請求項15】
前記ビオチン導入抗体フラグメントは、抗体フラグメントの反応活性なカルボキシル基あるいはチオール基の少なくともいずれか一方に架橋されたビオチンとからなる請求項12に記載の免疫分析方法。
【請求項16】
前記官能基が、カルボキシル基とアミノ基である請求項12に記載の免疫分析方法。
【請求項17】
前記標識物質が、前記カルボキシル基とアミノ基のそれぞれに架橋されている請求項16に記載の免疫分析方法。
【請求項18】
前記標識物質は、発光種の分子サイズが0.5nmから2nmの範囲である請求項12に記載の免疫分析方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−107207(P2010−107207A)
【公開日】平成22年5月13日(2010.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−276409(P2008−276409)
【出願日】平成20年10月28日(2008.10.28)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】