説明

免疫刺激及び転移阻害用の発酵植物性材料

【課題】免疫刺激及び転移阻害用の発酵且つ乾燥させた植物性材料、それを含む医薬組成物、その調製のための方法、並びに食品サプリメントの製造及び免疫刺激及び転移阻害用の医薬組成物の製造における当該乾燥材料の利用の提供。
【解決手段】本発明に係る材料は小麦胚芽の水性媒体の中でのサッカロマイセス・セレビジアの存在下での発酵及びその発酵液の乾燥により得られうる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は免疫刺激及び転移阻害用の発酵且つ乾燥させた植物性材料、それを含む医薬組成物、当該材料の調製のための方法、並びに食品サプリメントとしての及び免疫刺激用、そして特に転移阻害用の医薬組成物の製造におけるかかる乾燥植物材料の利用に関する。
【背景技術】
【0002】
腫瘍の治療の主たる課題の一つは転移の阻害であり、なぜなら細胞の悪性増殖により生ずる一次腫瘍は隣接細胞及び器官にまで転移を介して広がり、そして後発的な二次腫瘍を惹起するからである。かかる二次腫瘍は外科的に除去できず、そして化学療法に対しても耐性となり始めうる。
【0003】
研究者は免疫調節物質の開発に一層集中し、そして天然(主に植物性)起源の物質がかなり研究されている。
【0004】
キノン構造をもつ化合物が重要な生物学的機能を果たすことはよく知られている。いくつかのキノン誘導体、例えばユビキノン、プラストキノン、メナキノンが植物において見い出され、それらは光合成において機能するが、脊椎動物、それ故ヒトの細胞呼吸系及び血液の凝集等においても機能する。いくつかのベンゾキノン誘導は医療目的のためにも利用されている。アドリアマイシン、ダウノルビシン及びマトマイシンCは静細胞(cytostatic)作用を有するキノン誘導体であり、その他のベンゾ−及びヒドロキノンは抗微生物作用、例えばテトラン−B、メタクリン及びドキシサイクリンは細菌感染の治療に適する抗生物質の活性成分である。
【0005】
論文は2,6−ジメトキシ−p−ベンゾキノン(2.6−DMBQ)及び2−メトキシ−p−ベンゾキノン(2−MBQ)が殺真菌及び静菌作用を有し、そしてそれらが悪性腫瘍細胞に対しても細胞障害性であることを報告している〔Int.J.Quant.Chem.: Quant.Biol.Symp. 7., 217-222 (1980), 9., 27-30 (1982)及び12., 257-261 (1985); Phytochemistry 27., 225 (1971) 及びJ.Agric.Food Chem. 39., 266 (1991)〕。2,6−ジメトキシ−p−ベンゾキノンとアスコルビン酸との混合物がマウスのエーリッヒ腹水腫瘍細胞の増殖を阻害することを示した〔Proc.Natl.Acad.Sci. USA 81., 2088-2091 (1984) 及び82, 1439-1442 (1985)〕。2,6−ジメトキシ−p−ベンゾキノン及び2−メトキシ−p−ベンゾキノンはいくつかの植物において発見され、且つ単離されている〔Magy, Keem.Folyoeirat 102/7., 320-325 (1996)〕。この2種類の化合物は麦(トリシトウム・バルガリス〔Tricitum vulgaris 〕)、より正確には麦芽の中でグルコシド形態で最も大量に見い出せうる。これらの化合物は50年代に酵母を伴って発酵させた麦芽の中で単離され、そして麦芽の添加されたパンの品質劣化の検査の目的で同定された〔Helv.Him.Acta 33., 433 (1950); J.Chem.Soc. London 1952, 4821-4823 〕。
【0006】
論文に従うと、麦芽の中の2−MBQの量は約0.05重量%であり、2.6−DMBQのそれは約0.01重量%である(グルコシドとして)。グルコシドとしてのキノンの存在は、キノン、特にメトキシ−置換p−ベンゾキノンが反応性であり、一方でそのヒドロキノン−グルコシドはより安定且つ不活性であることにより説明されている。
【0007】
麦芽の発酵の研究に関する我々の実験の間、我々は麦芽をパン酵母(サッカロマイセス・セレビジア)と共に発酵させながら産生される発酵液に由来する乾燥エキスが驚くべき免疫刺激及び転移阻害効果を有し、そしてそれが免疫刺激及び転移阻害用医薬組成物の活性剤として有効に利用できうるとの結論を得た。
【0008】
この発見は驚くべきことであり、なぜなら論文は2.6−DMBQとアスコルビン酸との混合物がエーリッヒ腹水腫瘍細胞の増殖を阻害することは報告しているが〔Proc.Natl.Acad.Sci. USA 80., 129 (1983) 〕(これは腫瘍増殖の定量分析及びその生化学的機能の研究のために極めて適切である)、別に同一視できない成分2.6−DMBQ及び2−MBQを含む本発明に係るエキスは、たとえアスコルビン酸と組合されてもこのような一次腫瘍細胞、一般には全ての一次腫瘍に対して事実上無効であると証明されており、そして転移の治療において非常に有効であることしか証明されていなかったからである。一次腫瘍の治療とそれから発展した転移の治療の観点は基本的に相違し、従って研究者にとって一次腫瘍の治療において有効であることで知られている成分を含むがその化学組成のまだ完全に同定されていない植物エキスが免疫刺激及び転移阻害効果を有するであろうことは自明なことではない〔Cancer, Principles and Practice of Oncology, Vol.1、第4版、J.B.Lippincott Company, Philadelphia, 1993〕。
【発明の概要】
【0009】
かくして、本発明は麦芽をパン酵母と水性媒体の中で発酵させ、その発酵液から細胞を濾過除去し、そしてそれを乾燥させることにより得られる免疫刺激及び転移阻害用発酵乾燥植物性材料に関する。
【0010】
本発明は更に、本発明に係る発酵乾燥植物性材料を活性剤として含む免疫刺激及び転移阻害用医薬組成物に関する。
【0011】
本発明は更に、免疫刺激及び転移阻害用医薬組成物の製造における上記発酵乾燥植物性材料の利用に関する。
【0012】
本発明は更に、本発明に係る医薬組成物による免疫系の刺激及び転移の阻害のための哺乳動物の治療方法に関する。
【0013】
本発明は更に、本発明に係る発酵乾燥植物性材料及びマルトデキストリンを含んで成る食品添加物に関する。
【0014】
本発明に従い、当該発酵乾燥植物性材料をその2.6−DMBQ含有量を基準に同定及び調査した。我々はこのエキスの化学組成の完全な同定は現在有用な方法では不可能であり、従ってデーターは全て2.6−DMBQ含有量を基準としている。
【0015】
本発明に係る発酵乾燥植物性材料の製造のため、その本来の状態又は脱脂された状態でフラワー品質にまで粉砕せしめた麦芽(これはフラワーミリングの副産物であり、且つ大量に入手できる)を利用するのが適切であることが証明された。脱脂麦芽の利用は特別な利点を有さない。発酵はパン酵母(サッカロマイセス・セレビジア)と一緒に行った。このタイプの酵母は商業的に入手できる。発酵時間は約10〜24時間、好ましくは15〜20時間、又は約18時間とした。発酵温度は約25〜35℃、好ましくは約30℃とした。麦芽、対、酵母の重量比は4:1〜2:1、好ましくは約3:1とし、乾燥材料と水との重量比は1:6〜1:12、好ましくは約1:9とした。
【0016】
実験室スケールでの発酵は例えばガラス発酵槽の中に粉砕したばかりの麦芽及び酵母の水懸濁物を加え、そしてこの混合物を撹拌又は振盪させることにより行うことができる。発酵液は発泡状となる。
【0017】
発酵の後、この混合物を5〜15分間2000〜4500/min 、好ましくは約3000/min で遠心分離する。その上清液を煮沸し、そして適当な方法、例えば凍結乾燥又はスプレードライにより乾かす。
【0018】
赤茶色の生成物が本発明に係る材料である。この材料は次回の利用まで低温で、そしてその吸湿特性を理由に密閉容器の中で保存すべきことが予測される。得られる乾燥材料の2.6−DMBQ含有量は約0.4mg/gである。
【0019】
大量スケール発酵の場合(例えば4立方メーター)、連続通気、例えば0.5lのエアー/発酵液1l/分を適用し、且つゆっくりと撹拌するのが適当である。発酵時間は約18時間とする。発泡を防ぐため、通常の添加剤を適用してよい。ひまわり油を利用するのが好ましい。発酵工程の終了時に、通気及び撹拌を止め、そして麦芽−酵母懸濁物を通常の方法で、例えばスクリューデカンターで分ける。発酵液1m3 当り5〜10kgの濾過用パーライトを使用するが適当である。発酵液を厳格に濾過し、そして濾過の質を顕微鏡によりチェックする。濾過した発酵液は事実上細胞を含まず、このことは10回の視野検査につき1個以下の酵母細胞しかないことを意味する。約1.5重量%の乾燥材料を含む得られる発酵液を真空コンデンサーの中で好ましくは約40〜50℃の温度でエバポレーションし、そして真空を破った後、大気圧で約15分煮沸する。これは有害な酵素活性の低下をもたらす。次に、この混合物をスプレードライにより、例えば回転スプレー装置の中で乾かす。上記発酵方法を利用すると、使用する麦芽のベンゾキノン含有量に依存して、得られる発酵乾燥植物性材料の2.6DMBQ含有量は0.12〜0.52mg/g乾燥材料となり、そして2MBQ含有量は0.05〜0.28mg/g乾燥材料となる。
【0020】
最終製品は吸湿性であるため、スプレードライの効果を高めるため及び最終製品の有用性を高めるため、通常の添加剤のいずれか、例えばマルトデキストリン、アカシアゴム、グアーゴム、キサンタン、ローカストビーンフラワー等をスプレードライの最中に利用してよい。マルトデキストリンを使用するのが好ましい。適当な方法は、真空コンデンサーの中でエバポレーション及び煮沸された混合物の乾燥材料含有量を決定し、そしてその混合物の乾燥材料含有量が約30重量%となるのに足りるマルトデキストリンを加えることにある。マルトデキストリンを熱湯の中に溶かし、そしてそれを凝縮混合物となるまで冷却するのが適当である。乾燥後、最終製品(粉末)は約60重量%の発酵乾燥植物性材料及び約40重量%のマルトデキストリンを含む。
【0021】
得られる材料の安定性は2.6DMBQ濃度の変化を追跡することによりチェックできる。定量分析はHPLCにより行うことができる。上記の方法に従って製造した粉末は室温で約3年安定であり続ける。
【0022】
本発明に係る発酵乾燥植物性材料は免疫刺激及び転移阻害用医薬組成物の活性剤として使用できる。この医薬組成物は当該活性剤の他にアスコルビン酸又はその他の静細胞性材料も含みうる。
【0023】
この発酵乾燥植物性材料は経口又は非経口投与用の通常の固体又は液体医薬組成物へと加工できる。この医薬組成物の製造の際、当該発酵乾燥植物性材料の吸湿特性を考慮しなくてはならない。適当な形態は当該活性成分を空気の湿度から守るカプセルである。
【0024】
当該医薬組成物の製造において、医薬業界において通常利用される補助物質を利用してよい。このような物質及びその考えられる用途は医薬文献の中に詳しく記載されているため、適当な形態の選別及び調製はルーチン的な作業である。有効な活性剤の一回の用量は患者の状態に依存して幅広い限界の間で変動し、そして適当な有効用量の選択は常に医師の責任によらなければならない。一般的に適切な結果は用量が体重1kgにつき好ましくは0.01〜50g、より好ましくは0.1〜40gのとき、例えば0.1〜10,1〜25又は10〜30gの用量で得られうる。
【0025】
本発明に係る発酵乾燥植物性材料をアスコルビン酸(ビタミンC)と混合してもよい。我々の実験によれば、アスコルビン酸は本発明に係る材料の転移効果を高めうる。当該発酵乾燥植物性材料とアスコルビン酸との重量比は例えば10:1〜1:1、好ましくは6:1〜2:1、より好ましくは3:1,4:1又は5:1であってよい。
【0026】
本発明は更に本発明に係る発酵乾燥植物性材料による免疫刺激及び/又は転移阻害治療に関する。この治療の要点は被検体に有効な用量の当該発酵乾燥植物性材料を付与することにある。この発酵乾燥植物性材料は哺乳動物用の食品サプリメントとしても利用できる。この場合、コルトデキストリン、及び食品産業に利用されている通常の補助物質、例えば芳香物質、甘味料、着色料等を含む混合物に適用するのが好ましい。この食品サプリメントは例えば60重量%の乾燥材料と40重量%のマルトデキストリン、並びに芳香物質及び甘味料を含む混合物を流動床において粉砕し、そしてその顆粒を例えば袋の中に充填することにより製造できる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】2.6DMBQのHPLC測定の検量線。
【図2】本材料のクロロホルムエキスのHPLCクロマトグラフィー図。
【図3】本材料のエタノールエキスのHPLCクロマトグラフィー図。
【図4】B16腫瘍細胞の様々な濃度の凍結乾燥品の存在下での入れてから60分及び90分目での結合力(値は全て、光度計測定による8回の平行測定の平均値±SDの評価である)。
【図5】処理を開始して24及び48時間後のB16細胞の増殖に対する様々な用量の凍結乾燥品の効果(値は全て、光度計測定による8回の平行測定の平均値±SDの評価である)。
【図6】処理を開始して24時間後の様々な用量の凍結乾燥品の存在下でのA2058ヒト黒色腫の発色。この培養物の評価は平行光度計測定によりタンパク質(SRB)及びデヒドロゲナーゼ活性(MTT)に基づき実施した(値は全て、8回の平行測定±SDである)。
【図7】様々な用量の凍結乾燥により処理した後のin vitro培養物におけるA2058ヒト黒色腫中のアポプト−シス細胞の比(FACS分析)。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下の実施例は本発明に係る発酵乾燥植物性材料、その製造及びその薬理効果を例示する。
【0029】
実施例1
麦芽の実験室スケール発酵
33.3gの酵母(サッカロマイセス・セレビジア)及び1000mlの飲料水の懸濁物をフラワー品質に至るまで粉砕した100gの新鮮な麦芽に加えた(ハンガリー国基準MSZ−081361−80に従い)。この混合物を30℃で18時間シェーカーの中で振盪させた。その間、この発酵液は発泡状となり、そしてそのもとの容積の約3倍にまで達した。発酵の後、この混合物を3000/min で15分遠心分離した。煮沸及び冷却の後、その上清液を凍結乾燥により乾かし、そして得られる凍結乾燥材料を次に使用するまで冷凍庫(−10℃)に保存した。得られる凍結乾燥品の2.6DMBQ含有量は0.4mg/g乾燥材料(0.04重量%)であった。
【0030】
実施例2
麦芽の大量スケール発酵
フラワー品質(ハンガリー国基準に従う)にまで粉砕した300kgの麦芽及び100kgの酵母を5m3 の発酵槽に入れ、そして飲料水を容量が4000lとなるまで加えた。発酵時間は18時間とし、その間連続的な通気(0.5lのエアー/発酵液l/分)及びゆっくりとした撹拌(30回転/分)を利用した。発泡を防ぐため、1l/m3 のひまわり油をこの混合物に加えた。発酵の後、通気及び撹拌を止め、そして発酵液をスクリューデカンターで、次いでセパレーターで、そして最後に繊維フィルターの付いたフィルタープレスで分離した。補助物質として、10kgの濾過用パーライト/m3 を加えた。この発酵液を厳格に濾過し、そしてその厳格さを顕微鏡によりチェックした。濾過した発酵液は細胞を事実上含まず、このことは10回の検査視野当り最大で1個の酵母細胞しか見つからないことを意味する。約1.5重量%の乾燥材料を含む得られる発酵液を真空コンデンサーの中で40〜50℃の温度でエバポレーションし、そして真空を破った後、大気圧で約15分煮沸した。その後、この溶液の乾燥材料含有量を決定し、そしてまず熱湯に溶かし、次いで冷却したマルトデキストリンをその溶液の乾燥材料含有量が約30重量%となるように加えた。しかる後この溶液を剪断ノズル回転スプレードライヤーの中でスプレー乾燥し、その出口温度は90℃とした。得られる最終製品(粉末)は本発明に係る発酵植物性材料60重量%及びマルトデキストリン40重量%を含んだ。2.6DMBQ含有量は下記の実施例に記載の方法に従うHPLCによる決定に従い、0.4mg/g乾燥材料であった。
【0031】
実施例3
本発明に係る材料の特性決定
本発明に係る材料を、その2.6DMBQ含有量を決定することにより、及びいわゆるフィンガープリントクロマトグラフィーにより2通りの方法で特性決定した。共にHPLCクロマトグラフィーを使用する。
【0032】
分析は実施例1に記載の通りに製造した材料及び実施例2に記載の通りにして得た材料に対して実施し、そして両方の結果は同じであった。
【0033】
A.ベンゾキノン誘導体の定量及び定性分析
サンプルの調製
分析の前に、凍結乾燥品中のベンゾキノン濃度を高めることが必要となった。そのため、この凍結乾燥品を蒸留水でそのもとの濃度にまで希釈した(1重量%の乾燥材料含有量)〔0.5gの凍結乾燥品、50mlの蒸留水〕。その溶液を3×25mlのクロロホルムで3回抽出した。クロロホルム相に残った最終的な水分を無水硫酸Naで除去した。濾過後、クロロホルム相をエバポレーションし、残りのクロロホルムを5mlの最終容量となるように加えた。このサンプルをHPLC分析の際にインジェクションした。
【0034】
ベンゾキノン誘導体の定性及び定量分析はHPLC法により実施した。
【0035】
HPLC法の詳細
利用したHPLC装置はBeckman モデル114Mポンプ、Labor Mim UV, Merck-Hitachi-DAD mod. 4500 ダイオードアレー検出器、及びWaters 740型インテグレーターユニットから成る。測定のためにChromsil C18(250×4mm)10μlカラムを使用した。UV検出は290nmの周波数で実施し、流速は2ml/minとした。利用する溶出液の組成は下記の通りとした:Na2 HPO4 25mmol、NaH2 PO4 25mmol、Na2 EDTA 25mmol、NH2 OH・HCl 20mmol、10容量%のメタノール、pH=6.05。
【0036】
3種類のベンゾ−及びヒドロキノンを上記の方法により分析した。これらの化合物の保持時間の間には微差があった。溶出液の強度を下げることにより(有機相を10%にまで)、選択性は著しく増大した。保持データーの分析はp−ベンゾキノンが対応のヒドロキノンよりも長い保持時間を示し、そして保持時間がメトキシ基の数で増長することを示した。3つの標準品全ての濃度を0.1mg/mlとした。表2は標準品の保持時間(tR )及びキャパシティー係数(k′)データーを示す。これらの測定の狙いは2,6−ジメトキシ−p−ベンゾキノンの検出及び定量規定にあり、従って以下にこの測定のこの部分について詳しく説明する。当該改善方法が2,6−ジメトキシ−p−ベンゾキノンの定量分析に適するかどうかを調べた。使用した検量線を図1に示す。0.99の相関係数をもって、その結果は直線となる。この測定が3回の平行測定を実施したサンプル全てで再現性を有するかもチェックし、そして結果の分散を計算した。表1は6ケ月間サンプルに対して実施した測定の平行結果及びその分散を示す。我々の結果はこの測定方法が2,6−ジメトキシ−p−ベンゾキノンの正確且つ再現性のある測定に適することを示した。
【0037】
【表1】

【0038】
【表2】

【0039】
図2は上記の通りに調製したクロロホルムサンプルのHPLCクロマトグラフィーを示す。このクロマトグラフィーは2.6−DMBQについて一本のピーク特性のみを示す。このサンプルの2.6−DMBQ含有量はこの基準に基づいて計算した。
【0040】
B.フィンガープリントクロマトグラフィー
サンプルの調製
96容量%のエタノール50mlを5gのスプレー乾燥材料(実施例2に記載の通りに調製)に加えた。この混合物を50℃の温度で30分、200/min で振盪した。しかる後、この混合物を濾過し、エバポレーション乾燥し、そして残留材料を10mlのメタノールに溶かした。濾過溶液をカラムにインジェクションした。
HPLC法
上記のHPLC装置、カラム及び条件をここでも利用したが、ただし溶出液の組成は下記の通りとした:Na2 HPO4 1.25mmol、NaH2 PO4 1.25mmol、Na2 EDTA 1.25mmol、NH2 OH・HCl 2.50mmol、5容量%のメタノール。
【0041】
図3は得られるクロマトグラフィー図を示す。これらの条件下で、2本の特徴的なピークが出現することが示され、一本は約4.7分(5)にあり、そして他方は5.8分(6)にあった。7.3分及び7.7分の保持時間において、2本のピーク(7,8)が接近して存在し、それらは完全に分離できなかった。弱い強度のピークが9.8分に出現し(9)、それに強いピーク(11)が約13.1分にて続いた。約15分目に、小さめのピーク(12)及び別の強いピーク(14)が18分目にあった。21.8分目にてクロマトグラフィー図は小さめのピーク(15)を示し、そして31分目前後では複数の物質を含む平らめのピークがあった。
【0042】
C.安定性試験
本発明に係る材料の分解を2,6−ジメトキシ−p−ベンゾキノンの濃度の変化を介してチェックした。我々は3通りの温度(室温20℃、40℃及び60℃)での貯蔵実験を実施した。凍結乾燥品(約1g)を密閉した試験管に保存した。実験期間は8週間とし、別々の温度で保存した3系列全てから採取したサンプルに対して毎週3回の平行測定を行った。ベンゾキノン誘導体の定量分析をHPLCにより実施した。
【0043】
これらの試験は本発明に係る乾燥材料が室温で3年経ても安定であり続けることを示し、即ち、2.6DMBQ含有量は事実上変化しないままであり続けた。同時に、この材料は40℃では安定でなく(2.6DMBQは週数間で分解した)、そして60℃では2.6DMBQは数日で急速分解した。
【0044】
2−メトキシ−p−ベンゾキノンの分解も双方の系列の測定で研究した。この化合物は2,6−ジメトキシ−p−ベンゾキノンよりも不安定であり、そしてその結果その存在はサンプルを40℃又は60℃で1週間保存した後に示されなかった。室温では、この化合物の濃度も一定のままであり続けた。
【0045】
実施例4
効果についての試験
実施例1に記載の通りにして調製した凍結乾燥品及び実施例2に記載の通りにして調製したスプレー乾燥材料の双方を結果について試験した。0.4mg/g乾燥材料の2.6DMBQ含有量及び図2に示す通りのHPLC曲線を有する標準化乾燥材料を使用した。双方の材料は同じ結果を示した。従って、本発明に係る材料は以降、単純に凍結乾燥品と呼ぶ。この凍結乾燥品についての生物学的及び毒素学的試験の結果を以下に、免疫再構築並びに腫瘍増殖及び転移阻害効果を特に強調しながら説明する。
【0046】
I.腫瘍増殖及び転移阻害効果(in vivo 試験)
この試験のため、マウス又はラットの中で増殖中の以下の注入可能な腫瘍タイプを利用した:ルイス肺癌腫(マウス肺癌)の高度転移形成変異体(3LL−HH)、B16マウス黒色腫及びHCR−25ヒト結腸癌腫異種移植片。
【0047】
3LL−HH(LLT−HH)及びB16腫瘍をC57B1/6純系マウスの中に維持した。HCR−25異種移植片を胸腺摘出術及び完全身体照射により予め免疫抑制したCBA/CAマウスに注入した。3LL−HH及びHCR−25腫瘍の場合、腫瘍細胞を脾臓に移植し、B16黒色腫の場合は左下肢の筋肉に移植した。HCR−25腫瘍の注入された動物の処理及びコントロールグループも腫瘍移植の21日後に脾臓摘出術にかけた。
【0048】
本発明に係る凍結乾燥品による処理を腫瘍の注入の24時間後に開始した。3g/体重kgの毎回の用量を胃プローブにより0.6g/mlの水性懸濁物の形態で経口投与した。
【0049】
試験は3LL−HH腫瘍の場合は移植の14日後、B16腫瘍の場合は移植の21日後、そしてHCR−25腫瘍の場合は移植の51日後に、動物を麻酔にかけて死に至るまで出血させることにより終了した。表3,4及び5にこの試験の結果をまとめる。
【0050】
【表3】

【0051】
【表4】

【0052】
【表5】

【0053】
上記の結果は本発明に係る凍結乾燥品による処理が、3LL−HH腫瘍を脾臓に注入すると、肺転移の数を有意に(71%)減少させることを示した(表3)。
【0054】
HCR−25ヒト結腸癌腫の場合、50日間の処理は腫瘍を有する脾臓の重量及び肝転移数を減少させた。コントロールグループと比較した転移数は脾臓摘出及び脾臓摘出なしグループの双方で約50%であった(表4)。
【0055】
筋肉にB16黒色腫が注入された場合、筋肉中で増殖する腫瘍の重量は処理の効果として変化しなかったが、肺転移数は極めて顕著に減少し、コントロールグループと比べ85%減少した(表5)。
【0056】
II.In vitro試験
上記の試験が本発明に係る凍結乾燥品が悪性腫瘍の転移を著しく減少できることを明確に示したため、転移形成の様々な段階に対するこの製品の効果も調べた。転移の形成は複数の段階から成り、それにおいては一次腫瘍の細胞の増殖及びアポプト−シス活性の他に、腫瘍細胞の接着能力及び生体の腫瘍細胞に対する防御メカニズムが役割を果たしている。in vitro試験において、細胞増殖並びにアポプト−シス及び接着に対する当該凍結乾燥品の効果を研究した。
【0057】
in vivo 試験の大半はB16マウス黒色腫細胞に対して実施されているため、第一段階においてこの腫瘍を凍結乾燥品の試験のために用いた。
【0058】
1.接着力試験
腫瘍細胞の接着力を96穴マイクロプレートで試験した。凍結乾燥品の用量は300,3000及び30000μg/mlとした。RPMI培地を血清の非存在下及び10%のFCSの存在下の双方で使用した。評価はSRBアッセイに基づく比色方法により実施した(Mossmann. T.: J.Immunol.Neth. 65, 55-63/1983)。この試験は培養物の総タンパク質含有物のスルホローダミンB発色を基礎とし、吸収は光度計で570nmで測定した。図4は2回の瞬間しか示さないが、凍結乾燥品の効果が適切に表わされている。もし凍結乾燥品の用量が3000μg/ml又はその10倍高いなら、それは血清の存在下及び非存在下の双方で腫瘍細胞の接着力を劇的に低下させた。もし用量が300μg/mlなら、かかる効果は観察できなかった。
【0059】
2.増殖試験
この試験において腫瘍細胞を処理の24時間前に96穴マイクロプレートに入れた。適当な用量の凍結乾燥品による処理の後、細胞に対する増殖活性を処理の24,48及び72時間後にSRBアッセイによっても試験した。反復試験の結果は900〜15,000μg/mlの範囲における処理の効果として、腫瘍細胞が単層の表層に移動し(トリパンブルー色素排除法により示される)、そして死ぬことを示した(Kaltenbach, J.P.ら、: Exp.Cell Res. 15, 112-117 (1985))(図5)。
【0060】
ヒトメラニン欠乏性黒色腫(A2058腫瘍細胞−Todaro, G.J ら: Proc.Natl.Acad.Sci. USA 77, 5258-5262 (1980))に対する我々の試験はマウスメラニン性黒色腫に対するものと似た結果を示した(図6)。この腫瘍の場合、SRBアッセイと平行して、細胞の代謝活性を示すMTTアッセイも実施した(Cole, S.P.C.: Cancer Chemother.Pharmacol. 17, 259-263 (1986))。この試験は代謝的に活性な細胞がテトラソリウム塩を主にそのデヒドロゲナーゼ活性を介して有色なホルマザン生成物へと変換する現象に基づく。活性に比例する発色反応は570nmにて光度計により測定でき、MTTアッセイは腫瘍細胞の機能活性が用量が300μg/mlのときでさえも低下することを明示した(図4)。細胞が表層に移動する場合のアポプト−シスの原因は不明であるため、完全な細胞集団のアポプト−シス活性をフローサイトメトリー(FACS)分析により試験した(図7)。図7が示すように、腫瘍細胞は用量に依存して、異常な程度にアポプト−シスとなっていた。
【0061】
III .免疫反応に対する効果の試験
本発明に係る凍結乾燥品の効果を2通りのモデルで試験した。一連の試験において、凍結乾燥品で処理した動物の脾臓から獲得した単核細胞の出芽形質転換(blast transformation)の可能性を試験し、一方で、同種移植皮膚モデルでは、マウスの背領域に移植した皮膚の総結合を調べた。
【0062】
I.T−リンパ球の出芽形質転換の試験
本発明に係る凍結乾燥品による処理は免疫反応において重要な役割を果たすT−リンパ球の出芽形質転換を著しく高める。これは下記の実験により示される。
【0063】
C57BI10マウスを6週間にわたり毎週5回、胃プローブにより本発明に係る凍結乾燥品で3g/kgの用量(0.6g/mlの水性懸濁物)で経口投与により処理した。処理の完了後、動物の脾臓からの灌流により獲得したリンパ球を1μg/mlのConAで処理した細胞培養物に移した。48時間後、DNS合成を行っている細胞を0.4μCiの3 Hチミジンで標識した。標識の程度は液体シンチレーションカウンター(Beckman )で規定した。表6に示す通り、ConAによる処理は、コントロールと比べ、3 H−TdRの組込み、即ち出芽形質転換を著しく高めた。
【0064】
【表6】

【0065】
2.同種皮膚移植モデルにおける免疫刺激効果の試験欠陥免疫反応の回復の例示の最良のモデルは胸腺摘出術(胸腺の外科的手術)により部分免疫欠陥にされたマウスにおける同種皮膚移植試験である。C57BI10及びB10LPマウスストックはH−3座でのみ相違し、従って一方のストックの構成員から他方へと移植された皮膚は7日以内では拒絶されず、約3週間後にだけ拒絶される。受容体が胸腺摘出を受けていると、拒絶は平均して50日後に起こる。髄質のリンパ球の成熟及び分化を発達させる物質、例えば胸腺ホルモンは全て移植した皮膚の拒絶にかかる時間を短くする(J.Immunpharmacology , 67-78 (1985))。同じ効果が本発明に係る凍結乾燥品による処理を利用した場合の我々の試験において観察された。
【0066】
C57BI10マウスを受容体として、そしてB10LPマウスを供与体として用いた。受容マウスを胸腺摘出し、そして7週間後に皮膚移植した。週当り5回の30mg/kgの凍結乾燥品による経口処理を胸腺摘出の1週間後に開始した。処理は皮膚移植の70日後に終了させた。皮膚の究極的な拒絶を毎日観察した。表7は非胸腺摘出マウスにおける拒絶時間が雄で21日、雌で28.7日であることを示した。胸腺摘出マウスでの拒絶時間はそれぞれ52.4及び41.6日まで延長した。本発明に係る凍結乾燥品による処理は胸腺摘出し、且つ処理したマウスの皮膚移植片(グラフト)の寿命を有意に短くした。このことは、胸腺摘出術により生ずる免疫欠陥がこの処理の結果有意に軽減されることを示し、即ち当該凍結乾燥品は免疫刺激効果を有することを意味する。
【0067】
【表7】

【0068】
本発明に係る凍結乾燥品によるin vivo 及びin vitro試験はこの製品がいくつかの動物試験モデルにおいて有意義な抗転移効果を有することを示した。この効果はおそらくはin vivo 及びin vitro試験の双方で観察される免疫刺激効果につながるか、転移の数の減少は抗増殖アポプト−シス誘導効果、接着に対するこの材料の効果、及びフリーラジカルの構築を及ぼす効果によっても影響される可能性がある。
【0069】
IV.ラジカル結合活性の試験
ベンゾキノンがフリーラジカルの形成に対する周知の効果を有するため、本発明に係る凍結乾燥品のラジカル結合活性も試験した。スーパーオキサイド(SSA)及びヒドロキシル基結合(OH−SA)の双方を電子スピン共鳴法により測定した。この凍結乾燥品は有意義なSSA活性を有し、1mgのクリーンラジカル結合活性は5.64μgのスーパーオキサイドジスムターゼ(SOD)活性に相当する。この凍結乾燥品はOH−SA活性は有さないが、過酸化水素/Feヒドロキシル基形成系は崩壊し、従ってそれはいわゆる非錯形成活性を有すると考えられうる。
【0070】
V.毒性試験(亜急性)
77日間の毒性試験をRegistry of Industrial Toxicology Animal-data (RITA)(Exp.Toxic.Pathol. 47, 247-266 (1995))の推奨に従いF344ラット及びC57B10マウスに対して実施した。これらの動物を毎日3g/kg(0.6g/mlの水性懸濁物)の用量で処理した。処理の間、動物の体重変化、究極的な病理生理学的変化、動物の自発的死を観察した。試験を終了したら、心臓、肺、胸腺、脾臓、肝臓、腎臓及び精巣の重量を測定し、そしてRITAに規定の24の器官を病理検査した。自発的死は観察されず、動物の体重はコントロールグループのそれと似たように変化した。試験が終了時に、様々な器官の重量はコントロールと比べて変化していなかった。処理動物の病理進行の間にこの凍結乾燥品を原因とする変化は観察されなかった。
【0071】
上記の結果は本発明に係る発酵植物性材料が毒性ではなく、そしてその免疫刺激効果を理由にそれは免疫系が損傷を受けている全ての状態で有利である。その上記の生物学的特性を理由に、それは悪性腫瘍の医学的治療、主に転移の阻害における補助的な用途を有しうる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
麦芽をパン酵母(サッカロマイセス・セレビジア〔Saccharomyces cerevisiae〕)と水性媒体の中で発酵させることにより得られる発酵液に由来する免疫刺激及び転移阻害用の発酵乾燥植物性材料。
【請求項2】
図3に示すHPLCクロマトグラフィー図に実質的に相当するそれを有する請求項1記載の材料。
【請求項3】
HPLCによる決定に従い、2,6−ジメトキシ−p−ベンゾキノン含有量が0.12〜0.52mg/g乾燥材料であり、そして2−メトキシ−p−ベンゾキノン含有量が0.05〜0.28mg/g乾燥材料である請求項1記載の材料。
【請求項4】
2,6−ジメトキシ−p−ベンゾキノン含有量が0.4mg/g乾燥材料である、請求項3記載の物質。
【請求項5】
免疫刺激及び転移阻害用の発酵乾燥植物性材料を製造するための方法であって、粉砕麦芽を水性媒体の中でサッカロマイセス・セレビジアの存在下で発酵させ、そしてその発酵液を分離し、厳格に濾過し、エバポレーションし、煮沸し、そしてそのまま又は補助乾燥物質の存在下で乾燥することを特徴とする方法。
【請求項6】
前記発酵を約30℃の温度で約18時間、連続的に通気及び撹拌しながら実施する、請求項5記載の方法。
【請求項7】
前記乾燥をマルトデキストリンの存在下で実施する、請求項6記載の方法。
【請求項8】
麦芽の水性媒体の中でのサッカロマイセス・セレビジアの存在下での発酵により得られる発酵液に由来する乾燥材料を活性成分として含む免疫刺激及び転移阻害用医薬製品。
【請求項9】
麦芽の水性媒体の中でのサッカロマイセス・セレビジアの存在下での発酵により得られる発酵液に由来する乾燥材料を含む、哺乳動物用食品サプリメント。
【請求項10】
60重量%の発酵材料及び40重量%のマルトデキストリンから成る請求項5記載の方法により得られる乾燥材料を含む請求項9記載の食品サプリメント。
【請求項11】
麦芽の水性媒体の中でのサッカロマイセス・セレビジアの発酵により得られる発酵液に由来する乾燥植物性材料の、免疫刺激及び転移阻害用医薬組成物の製造における利用。
【請求項12】
麦芽の水性媒体の中でのサッカロマイセス・セレビジアの発酵により得られる発酵液に由来する乾燥植物性材料の哺乳動物用の食品サプリメントの製造における利用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−236245(P2011−236245A)
【公開日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−168726(P2011−168726)
【出願日】平成23年8月1日(2011.8.1)
【分割の表示】特願2009−170505(P2009−170505)の分割
【原出願日】平成10年8月11日(1998.8.11)
【出願人】(500060917)
【出願人】(500060928)
【出願人】(500060939)
【出願人】(500060995)
【出願人】(500061006)
【Fターム(参考)】