説明

免疫刺激G9.1の抗結核ブースターワクチン創出への応用

【課題】新規な抗結核ブースターワクチンの提供。
【解決手段】次の塩基配列:GGGGGGGGGGACGATCGTCGから成るオリゴヌクレオチドと結核菌DNA結合タンパク質(MDP-1)との組み合わせを特徴とする、抗結核ブースターワクチン。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規な抗結核ブースターワクチンに関する。
【背景技術】
【0002】
世界人口の約3分の1に結核菌が感染し、年間約800万人の新規結核患者が発生し、約200万人が死亡している。このように結核は、現在も深刻な細菌感染症であり、世界規模での対応が求められている。
【0003】
わが国では、乳児期に接種したBCGに対する免疫が低下する10代半ばから老年に至る世代の結核発症が問題となっている。世界で唯一の結核ワクチンであるBCGは、小児の結核性髄膜炎や粟粒結核には十分に有効であるが、成人の肺結核に対する効果は限定的である。しかも、成人結核に対するBCGの再接種の有効性は明確でない。
【0004】
このため、BCGによる免疫効果を増強するために、結核菌のDNA結合タンパク質(MDP-1)(特許第4415200号;J. Immunol. 175, 441-449, 2005;結核 第82巻第10号2007年 第786-789頁)を使用することが提案されている。しかしながら、成人期において結核免疫を賦活するための更に効果的な方法の開発が課題となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第3976742号
【特許文献2】特許第4415200号
【特許文献3】米国特許第7718623号
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】J. Immunol. 175, 441-449, 2005
【非特許文献2】結核 第82巻第10号2007年 第786-789頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
わが国では、生後6ヶ月以内にBCG初回接種を行うことが定められているので、このことを前提として、本発明は、初回免疫の効果を増強し、成人期以降の低下した結核免疫を増強する抗結核ブースターワクチンを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記の課題を解決するため、種々検討した結果、免疫刺激効果を有することが知られているオリゴヌクレオチドG9.1(GGGGGGGGGGACGATCGTCG)(特許第3976742号、米国特許第7718623号)と、結核菌DNA結合タンパク質(MDP-1)との併用により、顕著な抗結核免疫賦活効果が得られることを見出し、本件発明を完成した。
【0009】
したがって、本発明は、次の塩基配列:GGGGGGGGGGACGATCGTCGから成るオリゴヌクレオチド(G91と称する場合がある)と結核菌DNA結合タンパク質(MDP-1)との組み合わせを特徴とする、抗結核ブースターワクチンを提供する。上記結核菌DNA結合タンパク質(MDP-1)は、好ましくは組換え生産されたものである。この抗結核ブースターワクチンは、好ましくは経鼻投与、皮内・皮下投与、筋肉内投与などにより投与される。
【発明の効果】
【0010】
下記の実施例の記載などから明らかなとおり、結核菌タンパク質MDP-1のマウスへの経鼻投与においてG9.1がTh1型免疫反応を増強することが示され、この増強効果は既知の組換えコレラトキシンBサブユニット(rCTB)アジュバントより高かった。
また、あらかじめBCGを皮内接種し8週間経ったモルモットでは、G9.1が結核菌タンパク質MDP-1に対するDTH反応を増強することが示された。
これらの結果より、G9.1は、結核菌タンパク質MDP-1と組み合わせることで、抗結核ブースターワクチンの創出に応用しうることが示された。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】図1は、C57BL/6マウスにおける、MDP-1とG91との併用による、MDP-1特異的抗体IgG2cの産生に対する増強効果を、MDP-1と組換えコレラトキシンBサブユニット(rCTB)との併用の効果と比較して示すグラフである。
【図2】図2は、BALB/cマウスにおける、MDP-1とG91との併用による、MDP-1特異的抗体IgG2aの産生に対する増強効果を、MDP-1とrCTBとの併用の効果と比較して示すグラフである。
【0012】
【図3】図3は、BCGを皮内接種したモルモットにおける、MDP-1とG91との併用の1回投与の効果を、遅延型過敏反応(Delayed-Type Hypersensitibity; DTH)により示したグラフである。
【図4】図4は、BCGを皮内接種したモルモットにおける、MDP-1とG91との併用の2回投与の効果を、遅延型過敏反応(Delayed-Type Hypersensitibity; DTH)により示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
オリゴヌクレオチドG9.1
本発明の活性成分であるオリゴヌクレオチドG9.1(GGGGGGGGGGACGATCGTCG)は、常法に従って化学合成など、任意の方法により入手することができる。
【0014】
結核菌DNA結合タンパク質MDP-1
本発明における結核菌DNA結合タンパク質〔MDP-1〕は、結核菌の免疫原性を示す、結核菌の主要な菌体タンパク質であり、特許第4415200号の明細書に記載されているような構造を有し、例えば、当該特許明細書に記載されている方法により得ることができる。このタンパク質MDP-1は、結核菌から直接単離・精製することができ、また遺伝子組み換えにより製造することもできる。
【0015】
結核菌DNA結合タンパク質〔MDP-1〕は、特許第4415200号明細書に記載されているように、配列番号1に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質、及び配列番号1に記載のアミノ酸配列において、1又は複数個の置換、付加又は欠失してなるアミノ酸配列からなり、且つ、DNA結合能及び増殖遅延能を有するポリペプチドを含む。
【0016】
最近の統計によれば、わが国において、新たな結核患者は、BCGによる免疫の効果が低下すると考えられる20歳前後から増加する。したがって、本発明の抗結核ブースターワクチンは、15歳から20歳までに投与するのが好ましい。
投与量は、結核菌DNA結合タンパク質[MDP-1]は0.1-50μg/Kg体重であり、G9.1は1-50μg/Kg体重程度である。投与は、15歳から20歳までに1回行い、必要に応じ2-8週の間隔をおいて1-2回追加を行うのが好ましい。また、ハイリスク成人には随時追加投与を行うのが好ましい。
【0017】
本発明の抗結核ブースターワクチンは、経鼻投与、皮内投与、皮下投与、筋肉内投与、経口投与などにより行うことができる。剤形は、投与経路に応じて、常法により選択することができる。
【実施例1】
【0018】
次に、実施例により本件発明をさらに具体的に説明する。
実施例1. マウスにおけるMDP-1の免疫応答に対するG9.1オリゴヌクレオチドの効果
実験1:
12匹のC57BL/6マウスを3群にわけ、1群(4匹)には、MDP-1(5μg/マウス)のみを、2群(4匹)には、MDP-1(5μg/マウス)とrCTB(20μg)とを、3群(4匹)には、MDP-1(5μg/マウス)とG91(20μg)とを、それぞれ軽麻酔下で経鼻投与した。初回免疫(8週齢)の後、2週目、3週目、及び4週目に同じ組成を追加免疫し、5週目に採血し、MDP-1特異的抗体IgG2cの抗体価を測定した。
なお、rCTBは、イナバ型コレラトキシン569B株由来のコレラトキシンBサブユニット遺伝子をバシルス・ブレビス(Bacillus brevis)にて発現させて組換え生産したものである(Ichikawa Y, Yamagata H, Tochikubo K, Udaka S. Very efficient extracellular production of cholera toxin B subunit using Bacillus brevis. FEMS Microbil lett. 1993 Aug 1; 111(2-3): 219-224)。
結果を、下記の表1及び図1に示す。
【0019】
【表1】

【0020】
上記の結果から明らかなとおり、MDP-1+G9.1共投与群では、MDP-1単独投与群及びMDP-1+rCTB共投与群に比べて、抗MDP-1抗体IgG2cの抗体価が有意に高かった。
組換え結核菌タンパク質MDP-1の経鼻投与において、Th1型免疫反応の指標であるIgG2cの産生が、G9.1を組み合わせることにより上昇したことは、G9.1が結核に対する細胞性免疫の増強に有用であることを意味する。
【0021】
実験2:
12匹のBALB/cマウスを3群にわけ、1群(4匹)には、MDP-1(5μg/マウス)のみを、2群(4匹)には、MDP-1(5μg/マウス)とrCTB(20μg)とを、3群(4匹)には、MDP-1(5μg/マウス)とG91(20μg)とを、それぞれ軽麻酔下で経鼻投与した。初回免疫(8週齢)の後、2週目、3週目、及び4週目に同じ組成を追加免疫し、5週目に採血し、MDP-1特異的抗体IgG2aの抗体価を測定した。
結果を、下記の表2及び図2に示す。
【0022】
【表2】

【0023】
上記の結果から明らかなとおり、MDP-1+G9.1共投与群では、MDP-1単独投与群及びMDP-1+rCTB共投与群に比べて、抗MDP-1抗体IgG2aの抗体価が有意に高かった。
組換え結核菌タンパク質MDP-1の経鼻投与において、Th1型免疫反応の指標であるIgG2aの産生が、G9.1を組み合わせることにより上昇したことは、G9.1が結核に対する細胞性免疫の増強に有用であることを意味する。
【0024】
実施例3. モルモットにおけるMDP-1の免疫応答に対するG9.1オリゴヌクレオチドの効果
実験1:
8匹のモルモットを2群に分け、1群4匹では、5週齢のモルモットに、結核免疫誘導能の低いBCGIIを皮内接種した。8週経過後に、追加免疫として、20μg/動物のMDP-1及び20μg/動物のG91の皮内接種を行った。その2ヶ月後に、MDP-1(0.2及び2μg)に対する遅延型過敏反応(Delayed-Type Hypersensitivity; DTH)(mm)を測定した。2群4匹では、1群と同様の処理をしたが、追加免疫として20μg/動物のMDP-1を単独で皮内接種した。DTH反応は1群と同様に測定した。
なお、BCGIIを皮内接種したモルモットは、結核免疫の低下した成人を模倣するモデル動物としたものである。
結果を、下記の表3及び図3に示す。
【0025】
【表3】

【0026】
上記の結果から明らかなとおり、MDP-1をG9.1と共に追加免疫したモルモットでは、MDP-1のみを追加免疫したモルモットに比べて、遅延型過敏反応(DTH)が高く誘導された。
したがって、G9.1は、MDP-1と組み合わせることで、成人において低下した結核免疫を増強するのに有効であることが示される。
【0027】
実験2:
実験2は実験1と同様に行ったが、BCG II接種後の追加免疫を2回反復し、1回目は8週間後に接種し、2回目は16週間後に接種した。
2回目の接種の2ヶ月後に遅延型過敏反応(DTH)を測定した結果を、下記の表4及び図4に示す。
【0028】
【表4】

【0029】
上記の結果から明らかなとおり、追加免疫を2回行った場合も、MDP-1をG9.1と共に追加免疫したモルモットでは、MDP-1のみを追加免疫したモルモットに比べて、遅延型過敏反応(DTH)が高く誘導された。
したがって、G9.1は、MDP-1と組み合わせることで、成人において低下した結核免疫を増強するのに有効であることが示される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
次の塩基配列:GGGGGGGGGGACGATCGTCGから成るオリゴヌクレオチドと結核菌DNA結合タンパク質(MDP-1)との組み合わせを特徴とする、抗結核ブースターワクチン。
【請求項2】
前記結核菌DNA結合タンパク質(MDP-1)が組換え生産されたものである、請求項1に記載の抗結核ブースターワクチン。
【請求項3】
経鼻投与剤、皮内・皮下投与剤又は筋肉内投与剤である、請求項1又は2に記載の抗結核ブースターワクチン。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−214407(P2012−214407A)
【公開日】平成24年11月8日(2012.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−80646(P2011−80646)
【出願日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【出願人】(504145320)国立大学法人福井大学 (287)
【出願人】(591222245)国立感染症研究所長 (48)
【出願人】(506122327)公立大学法人大阪市立大学 (122)
【出願人】(593192069)日本ビーシージー製造株式会社 (4)
【Fターム(参考)】