説明

免疫刺激HIVTat誘導体ポリペプチドによる腫瘍治療

本明細書において、修飾されていないTatポリペプチドに比して増大された免疫刺激特性を有する、修飾されたヒト免疫不全ウイルス(HIV)転写のトランス活性化因子(Tat)ポリペプチドを投与することにより腫瘍を治療する方法が記載される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、腫瘍に対する免疫ベースの治療剤の分野に関する。
【背景技術】
【0002】
ヒト免疫不全ウイルス(HIV)転写のトランス活性化因子(Tat)は、長さ86〜110アミノ酸の可変RNA結合ペプチドであり、HIVゲノムの2つの独立したエクソンをコードする。Tatは、すべてのヒトレンチウイルスの間で高度に保存されており、ウイルスの複製に必須である。レンチウイルスのTatがTAR(トランス活性化反応性)RNA領域に結合すると、転写(ウイルスRNAのDNAその後メッセンジャーRNAへの変換)レベルが顕著に増大する。TatがウイルスRNAの転写を増大させることが示され、TatがT4細胞及びマクロファージ(HIV感染に対する身体の免疫監視システムの重要な一部である)におけるアポトーシス(プログラムされた細胞死)を引き起こし得、場合によってはアルファインターフェロン(α−インターフェロンは確立された免疫抑制性サイトカインである)の過度の生成を促進させることが予想されてきた。
【0003】
HIV感染の経過における早期の細胞外のTatの存在は、患者の免疫反応を低減させ得、宿主に優る利益をウイルスに与える。さらに、T4細胞の直接破壊及びα−インターフェロン生成の誘導は、初期の徹底的な免疫抑制について説明するのと同様に、後天性免疫不全症候群(AIDS)患者にみられる強固な細胞免疫反応の不足を説明する一助となり得る。
【0004】
しかしながら、HIV感染長期未発症者(LTNP)から分離されたTatタンパク質は、AIDS患者において見られるC−Tatと異なる。LTNPにおいて見られるTatタンパク質は、ウイルスRNAをトランス活性化することができるが、LTNPのTat(本明細書において、免疫刺激性Tatに対するIS−Tatとして後述される)は、T4細胞又はマクロファージにおけるアポトーシスを誘導せず、免疫抑制的ではない。さらに、LTNP(このような細胞株はデザインされたTat TcLである)から分離されたHIVをex vivoで感染させたT4細胞は、IS−Tatタンパク質の過度な発現をもたらし得、しばしば他のウイルスのタンパク質を実際上排除し、プロアポトーシスよりもむしろ強力な増殖促進をもたらす。これらのTat TcLからクローニングされたTat遺伝子は、2つのTat領域、アミノ末端及び第二エクソンの第一部分内において配列変異を示す。これらの驚くべき発見は、HIVに感染したLTNPのT4細胞がHIVに感染した患者(AIDSに進行している)にみられる信じがたい速度では死に向かわないということの理由を説明する一助となり得る。
【0005】
さらに、Tatの変異体は、レンチウイルスにおいて見出され、それはサルの種に感染するが、免疫不全及び伝染性の感染の進行をもたらさない。これらの変異Tatタンパク質は単球の分化を樹状細胞(DCs)の方向に向かわせ、それは細胞傷害性T細胞(CTL)の反応を刺激する。これらのサルのTat変異体及び免疫抑制的ではない他のTat変異体は、弱毒化された又は免疫刺激性のTat(IS−Tat)と称される。
【0006】
長期間のCD4+Tat T細胞株での観察、臨床的観察、及び動物実験に基づき、弱毒化されたTat(より具体的にはIS−Tat又は、代わりに化学的又は物理的に作り替えられたTatタンパク質)は、それらの増殖を誘導するT4細胞を活性化する免疫刺激因子として機能し得る。この原理は、LTNPにみられる安定的なT4レベルを説明する一助となり得る。さらに、弱毒化されたTatは、限定されることなく、他のウイルス、バクテリア、リケッチア、及び腫瘍細胞に対するワクチンといった、他の活性ワクチン成分とともに接種することでアジュバントとして有用であるかもしれない。
【0007】
腫瘍及び慢性感染症は、免疫ベースの治療に反応する通常のヒトの疾患の最も顕著な例である。感染症は免疫化により制御される第一の疾患であるが、ヒトの臨床試験により、具体的には免疫システムのCTL群の免疫反応がいくつかのヒトメラノーマ及び腎臓腫瘍を退縮させ得るということが証明された。これらの観察は、DCs(抗原提示細胞(APC)の特定のクラス)が腫瘍及び他の疾患に対してCTL活性化を引き起こすのに特に効果的であるという発見により拡大された。DCをターゲットとし活性化させる技術は、ヒトパピローマウイルス(HPV)感染及びヒト肺癌により引き起こされるヒト頸部前癌に対して早期にいくらかの効果を奏してきた。腫瘍に対して現在使われている化学療法剤とは対照的に、潜在的に腫瘍に対してCTLの反応を引き起こす薬剤は、免疫反応の高度な特異性ゆえに、副作用をほとんど起こすことなく用いられる。
【0008】
腫瘍治療の免疫療法剤を開発する努力は、CTLへの所望のエントリーシグナルを伝達し持続するようにDCをターゲットとし活性化させる技術の困難性により妨害されてきた。自然のプロセッシングが、抗原が免疫システムの主要組織適合遺伝子複合体(MHC)クラスI抗原に結合するために(CTL活性化のための必要条件である)細胞の細胞質に入ることを要する限りにおいて、CTLの反応の誘導を標的とする抗原が課題となる。CTLにおいてT細胞受容体を活性化するためのリガンドは、抗原とMHCクラスIとの複合体だからである。ほとんどすべての場合において、タンパク質抗原は、DCの共活性化因子と結合しているときでさえも、CTL刺激を排除する別のMHCクラスII抗原提示経路にもっぱら入っていく。これはある程度は、ペプチドをベースとした技術により克服され得る。ペプチドはすでにDCの表面にあるMHCクラスIに結合するからである。しかしながら、この技術は非特異的であり、ほとんどのペプチドは貧弱なDC活性化因子であり、ヒト癌治療としての効果には限界がある。
【0009】
生物学的タンパク質の限られたグループは、CTLの反応を刺激することで知られている。ヒト免疫不全ウイルス1(HIV−1)転写のトランス活性化因子(Tat)の変異体及び誘導体は、このCTLの反応を刺激することができる。現在CTLの反応を直接的に引き起こすことが知られている付加的な生物製剤は、熱ショックタンパク質(HSP)又は所定の細菌の外殻タンパク質に基づく。熱ショックタンパク質は、HPV感染に関連するある種の生殖器腫瘍の治療において限定された効果を示してきた。
【0010】
乳癌は世界中で、女性の癌関連死の主要な原因である。おそよ100万人の新しい乳癌のケースが毎年発生し、それにより世界中で370,000人が死亡する。毎年米国において浸潤性乳癌の200,000以上の新しいケースが診断され、およそ45,000人が死亡する。この疾患により、乳癌は米国の女性における腫瘍死の2番目に主要な原因となり、全腫瘍死の5番目に主要な原因となっている。乳癌による死亡の着実な減少の後、広範に浸潤した(ステージ4)疾患の診断のときからの平均乳癌生存率は、最近20年間にわたって変化していない。ステージ4の乳癌の5年生存率は、1988年以来約20%のままであり、それは、より新しい薬剤の延命効果は末期の疾患によりその経過をたどってきたということを意味する。
【0011】
アジュバントを用いた乳癌治療は、最近40年間にわたって顕著な改善を経験した。より良い腫瘍摘出術、放射線治療、標準的な化学療法、及びホルモン補充療法に加えて、新しいクラスの治療が、異なる腫瘍崩壊メカニズムにより出現した(例えば、タキソール(登録商標)及びハーセプチン(登録商標))。ハーセプチン(登録商標)は、これらの薬剤のうち最新のものであり、2003年に導入された。それは、2007年以来患者のリーチ(erach)において顕著に拡大されてきた。また、ハーセプチン(登録商標)の効果は乳癌の女性のわずか20%に限定されており、それは著しくHer2/neu癌遺伝子を過剰発現している患者である。このように、新しくかつ閉塞的な薬剤は、乳癌と闘い、かつ乳癌を阻むことが必要される。
【0012】
多くの腫瘍の管理を向上させる研究のもと、免疫療法はひとつの標的とされるメカニズムであり、それは、標準的な治療に関連する副作用の多くを回避する一方で腫瘍増殖を制御し転移を防ぐことができる。この後者の事項は、乳癌が出産可能な若い女性に偏って影響を与える疾患である限りにおいて、特に重要である。初期の乳癌免疫療法の研究は、乳癌抗原に対するワクチン又はモノクローナル抗体を投与することによって癌細胞への自然の免疫反応を標的とする方法に焦点をあてていた。このアプローチが腫瘍特異的タンパク質(例えば、泌乳−抗原マンマグロビンA及び特にはラクトアドヘリン)の豊富な源である乳癌に起因して意味を有していた一方で、それは大部分ではうまくいかないことが判明した。細胞傷害性T細胞の活性化とは対照的に、抗体は、ほとんどの場合において固形癌増殖の制御に対する有用性において限界があるようであるからである。
【0013】
次世代の乳癌免疫療法は、免疫抑制が腫瘍ターゲティング戦略の効果をも制限するという理論に基づき、患者の先在の抗乳癌免疫反応を亢進させる方法に焦点をあててきた。このような免疫療法のひとつは、抑制に関連する細胞傷害性T細胞における受容体であるCTLA4を標的としたモノクローナル抗体である。メラノーマ及び卵巣癌に対するいくらかの展望を示す一方で、抗CTLA4は、そこで報告された試験において用いられたものを含む、乳癌の動物モデルにおける単独型の薬剤としては効果がないことが証明されてきた。腫瘍において評価される第二のクラスの免疫刺激剤であるToll様受容体(TLR)アゴニストは、単球由来の樹状細胞からの免疫システムに新しいトリガーシグナルを伝えることにより効果を奏する。これらの薬剤は今まで、乳癌を含むほとんどの固形癌での有用性には限界があることが示されてきた。そのひとつの理由として、それらはT細胞活性化に伴う免疫抑制を早急に引き起こすことが挙げられる。
【0014】
ヒト免疫不全ウイルス感染は、進行性の免疫抑制を引き起こし、治療をしなければ通常、AIDSに進行し、その後は感染者を死に至らしめる。免疫抑制が乳癌を含む固形癌の進行の種々のモデルに関わっているように、HIV感染者では種々の悪性腫瘍、特に非ホジキンリンパ腫(NHL)、カポジ肉腫(KS)、及び浸潤性子宮頸癌のリスクが高まっていることは驚くべきことことではない。それらは、HIV感染者においてAIDS特有の腫瘍である。逆説的に、少なくとも3つのグループが、進行性HIV疾患に罹患している女性において浸潤性乳癌のリスクが低下していることを報告してきた。HIV感染女性の乳癌の相対リスク(RR)は、フランスの一般住民に比して統計学的に有意に低下する。第2のグループは、タンザニアにおけるAIDS蔓延を追跡調査し、男性及び女性の両方において乳癌の発生率が統計学的に有意に低下していることを見出した。第3の、米国のコンソーシアムは、進行性HIV疾患の8500以上のケースを分析し、乳癌の進行のリスクが統計学的に有意に低下(p<0.05)していることを報告した。それは、ひとたびウイルス複製の制御が成し遂げられると、ベースラインに戻された。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0015】
本明細書において、腫瘍の免疫療法剤としての使用のためのヒト免疫不全ウイルス(HIV)転写のトランス活性化因子(Tat)タンパク質の誘導体が記載される。
【0016】
一実施態様において、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)転写のトランス活性化因子(Tat)タンパク質の修飾されたアミノ酸配列を含有する医薬組成物が提供される。該修飾されたアミノ酸配列は、配列番号2、配列番号3、及び配列番号4からなる群より選択されるアミノ酸配列に85%以上の配列相同性を有する、ことを特徴とする。他の実施態様において、該組成物は、配列番号3のアミノ酸配列を含有する。
【0017】
一実施態様において、必要に応じて対象に治療上有効量のTat誘導体ポリペプチドを投与することと、該対象において腫瘍増殖の停止又は腫瘍の退縮を引き起こすことと、を含む腫瘍治療方法が提供される。
【0018】
他の実施態様において、必要に応じて対象に治療上有効量の請求項1に記載のTat誘導体ポリペプチドを投与することと、該対象において腫瘍の退縮を引き起こすことと、を含む腫瘍負荷を低減させる方法が提供される。
【0019】
他の実施態様において、Tat誘導体ポリペプチドは、複数回投与される。
【0020】
さらなる他の実施態様において、投与工程は、反復投与サイクルを含み、各々のサイクルは、後に休薬期間が続く規定された期間において、Tat誘導体ポリペプチドを複数回投与することを含む、ことを特徴とし、該サイクルは複数回繰り返される、ことを特徴とする。他の実施態様において、投与工程は反復投与サイクルを含み、各々のサイクルは、規定された期間において、後に1回又は複数回の治療剤の投与が続く規定された期間において、Tat誘導体ポリペプチドを複数回投与することを含む、ことを特徴とし、該サイクルは複数回繰り返される、ことを特徴とする。
【0021】
他の実施態様において、該治療剤は、シクロホスファミドである。
【0022】
さらなる他の実施態様において、該腫瘍は、乳癌である。他の実施態様において、該腫瘍は、卵巣癌である。
【0023】
他の実施態様において、Tat誘導体ポリペプチドは、配列番号3のアミノ酸配列に少なくとも85%相同性を有する。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】Tat誘導体によるヒト単球の刺激を示す図である。
【図2】Tat誘導体によるヒト単球の刺激の用量反応曲線を示す図である。
【図3A】in vitroでの4T1腫瘍増殖に対するTat誘導体療法の効果を示す図である。1×10の4T1腫瘍細胞を注射されたBALB/cマウスに、腫瘍細胞の注入後0,7,14,及び21日目にNani−P1又はNani−P2(400ng、皮下注射(SC))で治療した。コントロール群にはPBSで処理した。データは、平均腫瘍容積;bars±SEを示す。各群は10匹のマウスを含んでいた。15日目から、コントロール群とNani−P1又はNani−P2治療群との間の差異が有意となった(p<0.05**)。コントロールとNani−P1又はNani−P2との間の差異は、22日目から高度に有意となり始めた(p<0.01**)。
【図3B】in vitroでの4T1腫瘍増殖に対するTat誘導体療法の効果を示す図である。1×10の4T1腫瘍細胞を注射されたBALB/cマウスに、腫瘍細胞の注入後0,7,14,及び21日目にNani−P3(400ng又は2μg、SC)で治療した。コントロール群にはPBSで処理した。データは、平均腫瘍容積;bars±SEを示す。各群は10匹のマウスを含んでいた。Nani−P3(どちらの用量も)とコントロールとの間の差異はみられなかった。
【図4】in vivoでの4T1乳癌増殖における精製されたNani−P2の効果に対する用量反応曲線を示す図である。10匹のBALB/cマウスの4群各々に1×10の4T1細胞を移植した。21日間にわたって4回、3群のマウスの左脇腹に各々マウスにつき0.4ng、4ng、及び40ngでの用量漸増で投薬した。4つ目のコントロール群では、左脇腹にPBSを注射した。データは、平均腫瘍容積を示す。コントロール群と0.4ng投薬群との間の差異は有意であり(p<0.5)、コントロール群と4ng又は40ngのNani−P2治療群との間の差異は高度に有意であった(p<0.1**,p<0.01**)。
【図5A】4T1乳癌の担癌マウスのNani−P2治療のカプランマイヤー生存曲線を示す図である。0日目のマウスの乳房体に1×10の4T1細胞をSC注射した。治療は0日目から始まり、Nani−P2(40ng)を4回SC投与した。42日目、治療群では、コントロール(**)に対して統計学的に有意に生存率が改善された。
【図5B】4T1乳癌の担癌マウスのNani−P2治療のカプランマイヤー生存曲線を示す図である。0日目のマウスの乳房体に1×10の4T1細胞をSC注射した。ひとつの群において、治療を13日目まで遅らせ、その後週1回一連の投与方法でNani−P2(40ng)を3回投与した(静脈内投与(IV)、流入リンパ節へのSC、又は腫瘍内投与(IT))。Nani−P2のIV投与での生存利益は47日目で統計学的に高度に有意であり(**)、Nani−P2のSC投与での生存利益もまた統計学的に有意であった()。
【図6A】TS/A乳癌モデルにおけるNani−P2の抗腫瘍活性を示す図である。マウスに1×10のTS/A乳癌細胞をSC移植し(図6A)、Nani−P2を用量漸増(0.4,4,及び40ng)でSC投与することにより治療した。最も低用量ででさえも、原発性腫瘍の抗腫瘍作用の差異は高度に有意であり(p<0.01**)、40ngの用量でも高度に有意であった(p<0.01***)。
【図6B】SM1乳癌モデルにおけるNani−P2の抗腫瘍活性を示す図である。マウスに2×10のSM1乳癌細胞をSC移植し、0,7,14,及び21日目にNani−P2(40ng)をSC投与することにより治療した。コントロールとNani−P2治療SM1動物との間の原発性腫瘍増殖における差異は、統計学的に高度に有意であった(p<0.01***)。
【図7】4T1乳癌担癌マウスの脾細胞からのINF−γ生成を示す図である。BALB/cのマウスに1×10の4T1細胞をSCで注射した。コントロール動物には週1回PBSを注射し、Nani−P2治療群では0日目から4週間継続的に週1回SCで注射(40ng)した。33日目にコントロールマウスは終末期を迎えた。マウスを屠殺し、脾臓を摘出し、アッセイのときまで単一の細胞懸濁液として凍結させた。脾細胞(2×10)及び1×10のマイトマイシンC処理(30分間50μg/mL)4T1刺激細胞(S)を96−wellプレートに撒いた。72時間の刺激後、上清を収集し、IFN−γ濃度を市販のIFN−γ ELISAキットを用いて測定した。IFN−γ生成は、in vitro培養のすべてのコンディション下で、Nani−P2治療マウス由来の脾細胞の培養において有意に高かった(p<0.05**)。1:再刺激無し、2:IL−4(50ng/mL)/GM−CSF(100mg/mL)、3:刺激細胞/IL−4/GM−CSF、4:刺激細胞のみである。in vitroでのアゴニストIL−4及びGM−CSF(2及び3)の添加により、高度に有意なIFN−γ生成亢進が生じた(p<0.01**)。
【図8A】Nani−P2治療による定着された4T1乳癌の退縮を示す図である。0日目に、10匹のBALB/cマウスの2群においてマウスの乳房体に1×10の4T1細胞を注射した。ひとつの群において14日目から3週間にわたって週1回Nani−P2(40ng)を投与した。2つ目の群をPBSで処理し、コントロールとして用いた。腫瘍負荷は22日目まで高度に有意となり、試験の間そのままであった(p<0.01**
【図8B】Nani−P2治療による肺転移の抑制を示す図である。0日目に、10匹のBALB/cマウスの2群においてマウスの乳房体に1×10の4T1細胞を注射した。ひとつの群において14日目から3週間にわたって週1回Nani−P2(40ng)を投与した。2つ目の群をPBSで処理し、コントロールとして用いた。腫瘍の直径が15mmに到達したときにマウスを屠殺し、その際、肺転移をカウントした。データは、治療プロトコールを知らない2人の研究者により定量された全肺転移を示す(p<0.01**)。
【図8C】生存率を示す図である。
【図9】BALB/cマウスにおける4T1腫瘍増殖及び肺転移を示す図である。10匹のBALB/cマウスの2群に、1×10の4T1細胞を皮下投与(SC)により移植し、40ngのNani−P2又はPBSをIV注射した。治療28日目に、マウスを屠殺し、肺及び腫瘍を取り除き、腫瘍小結節を目視にてカウントした。10匹のマウスの代表例である腫瘍及び肺の写真を示す。白っぽい腫瘍病変が肺の表面に観察され得る。3つ実験は同様の結果をもたらした。
【図10】定着された4T1乳癌のNani−P2治療による退縮を示す図である。10匹のマウスのうち1匹は、完全寛解し、50日間疾患が無いままであった。その時点で試験は終了した。0日目に、10匹のBALB/cマウスの2群において、マウスの乳房体に1×10の4T1細胞を注射した。ひとつの群においては、14日目から3週間にわたって週1回マウスごとにNani−P2(40ng)をIV投与し、他の群においては、PBSで処理しコントロールとして提供した。コントロール群とNani−P2治療群との間の原発性腫瘍増殖における差異は、高度に有意であった(p<0.01**)。
【図11】Nani−P2及びシクロホスファミドの反復投与による治療後の腫瘍増殖を示した図である。
【図12】シクロホスファミドの週1回投与に対するNani−P2及びシクロホスファミドの反復投与の生存利益を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
一連の人工のヒト免疫不全ウイルス(HIV)転写のトランス活性化因子(Tat)ペプチド誘導体がデザインされた。それは、乳癌の動物モデルにおいて高い活性を示す。該分子は本明細書において、Tat誘導体又は“precision immune stimulant”(PINS)とされ、HIVによる免疫抑制に貢献し得る成分の消去能を有するTat分子を含む。これらの誘導体のひとつであるNani−P2は、定着した転移性乳癌疾患の退縮を引き起こす。本明細書で報告された用量では、顕著な毒性は、高純度に精製(純度95%以上)された誘導体の皮下投与又は静脈内投与のいずれかに関連していなかった。
【0026】
腫瘍特異的抗原は比較的豊富にあるにもかかわらず、乳癌は、免疫療法に対する難しいターゲットであることがわかってきた。乳癌及び他の腫瘍の免疫療法への不応状態は、定着した腫瘍に伴って生じる免疫抑制に由来し得るというエビデンスが集積してきた。少なくとも3つの独立した疫学的試験により、HIV感染及びさらには後天性免疫不全症候群(AIDS)を有する女性は逆説的に、疾患の進行期(免疫不全を宣告される)においてでさえも、乳癌の進行から保護されていることが示されてきた。
【0027】
分子解析に基づき、Tatタンパク質(配列番号1)は、4つの異なるリンクされたペプチド活性をコードする。本開示は、ポリペプチドの免疫療法のポテンシャルを亢進させる態様における、少なくとも第一の又はアミノペプチドでの標準的なHIV−1 Tat構造から誘導されたポリペプチド組成物を記載する。Tatのアミノ末端部は、典型的には両側にプロリン残基を有する核転写因子(TF)由来の短いペプチド領域を含む。この領域は、少なくとも部分的には、Tatポリペプチドが免疫システムの細胞(具体的には樹状細胞(DC)及びマクロファージ(抗原提示細胞又はAPCs)といった先天性の免疫細胞)をどれだけ促進又は抑制するかを決定する。その結果として、TF領域への修飾が腫瘍及び他の慢性疾患の治療においてポリペプチドをより高い活性状態にし得ることが予測される。
【0028】
HIV−1 Tatタンパク質(配列番号1)は、MEPVDPRLEPWKHPGSQPKTACTTCYCKKCCFHCQVCFTKKALGISYGRKKRRQRRRAPEDSQTHQVSPPKQPAPQFRGDPTGPKESKKKVERETETHPVDである。
【0029】
コンピュータ内での分析は、HIV−1 Tatが、他のTFタンパク質において見出された配列に一致する短いSH3結合ドメインをコードすることを発見した。それは、無毛マウス(hr)であり、マウスにおいて免疫抑制特性を有することが過去に示された。hr変異を有するマウスは、免疫調整障害を起こし、それは現在、最も一般的には“TH1又はTH2シフト”と呼ばれ、AIDSに進行しているHIV感染者の必須条件となっている。さらなる分析により、hr遺伝子に由来するSH3結合配列がHIV−1から分離されたTatのほとんど不変の特性であり、HIV−2に高度に一致した特性であることが立証された。HIV−1又はHIV−2感染者は、まれな状況を除いて、AIDSに進行する。
【0030】
一方で、サル免疫不全ウイルス(SIV)(HIVに密接に関連するレンチウイルス)のある型に感染した霊長類は、ほとんどAIDSには進行せず、又は予測不能にAIDSに進行する。免疫抑制性のHIV−1 Tatにおける推定上免疫抑制的なhr TFフラグメントの発見に連動したこの観察は、いくつかの霊長類がSIV Tatのアミノ末端における異なるTFフラグメントを有し得る(又は有しない)ことを示唆した。免疫欠損の減衰される経過を伴う所定のSIV感染スーティーマンガベイ由来のTatは、アミノ末端において、TF hrの代わりにTF TARA由来のフラグメントを有する。TARAは、所定の腫瘍活性に関わるGTPase活性因子のrhoファミリーに関係している。
【0031】
3つの異なる広く受け入れられている乳癌のマウスモデル(4T1、SM1、及びTS/A)における組み換え技術によって作られたTatタンパク質誘導体による動物試験は、これらのTat誘導体がマウスにおいて原発性乳癌増殖の抑制活性を有することを示した。さらには、最も活性が高い誘導体であるNani−P2は顕著に、野生型4T1の肺癌転移の進行を抑制し、コントロールマウスに比して生存率を向上させた。Tat誘導体により、マウス乳癌の治療と同時にIFN−γ産生レベルが顕著に亢進された。4T1乳癌を治療開始14日前に移植した場合での試験において、Tat誘導体は、腫瘍が移植されてPBS治療コントロール群と比べた場合の原発性腫瘍増殖、生存率、及び転移性肺負荷における低減により評価されたときと同等の効果を有した。
【0032】
合成のTat誘導体は、APCsに対して免疫刺激活性を有しており、3つの広く使用されるマウスの乳癌モデルにおいて、定着した腫瘍と同様に原発性腫瘍においても実質的な活性を有する。具体的には、誘導体のひとつであるNani−P2は、活動的なHer2(−)4T1乳癌モデルにおける原発性腫瘍増殖、肺転移形成、及び生存率に対して、用量依存的かつルート依存的な影響を与えた。肺転移は進行乳癌における死亡の主な原因であるため、肺転移低減が生存率向上に関連することは驚くべきことではない。重要なことは、Nani−P2タンパク質を静脈内投与して治療された4T1乳癌定着担癌マウスは、非常に顕著な腫瘍増殖抑制及び最後の投与から少なくとも36日間は延命されるという生存利益を有していた。限定されたケースにおいて、完全寛解は、より浸潤性でなく(SM1)及び/又はいくらか免疫原性(TS/A)の乳癌にしばしば生じることが明らかに観察された。腫瘍移植後Nani−P2投与を遅らせることは、4T1の腫瘍増殖抑制にほとんどネガティブな影響を与えなかった。腫瘍細胞注入後0日目に開始された治療(SC)は平均53%腫瘍負荷を縮小させ、13日目(腫瘍がすでに平均直径約5mmに増大していた)から始められたSC療法は、最大効果で平均52%腫瘍負荷を低減させた。総合すると、これらの観察により、Nani−P2がヒトにおける進行した乳癌、及びHer2(−)の乳癌に好ましい影響を与え得ることが示唆された。
【0033】
さらに、本明細書に記載されるTat誘導体は、完全なヒトの配列を含む。Tat誘導体に対する漸次的な耐性が、3回以上投与されたマウスにおいてみられ(データを示さない)、それは、抑制性の抗誘導体抗体の反応を進行させている宿主に実質的に起因するかもしれない。ヒトにおけるこの種の抗体反応がDCの活性化をブロックし得、それによりHIV複製を劇的に抑制するように、それはヒトにおいて容易に確立されないようで、少なくとも抗体ベースのメカニズムに起因する同程度の耐性がヒトの治療において作用している可能性はかなり低いだろう。
【0034】
本明細書で報告される試験は、IV又はSCでTat誘導体をほぼ週1回で3回又は4回投与するプロトコールを用い、IV投与での生存率向上及び転移減少効果が最も高いことが示された。これらの組成物を投与された250以上のマウスに毒性は観察されなかった。乳癌のTat誘導体に対する感受性は、ハーセプチン(登録商標)(4−8mg/kgが平均的な投与量である)の用量反応曲線と比較した場合に好適に対照をなす。Tat誘導体はマウスよりもヒトにおいて100倍までのより高い生物活性を有する。これは、毒性のさらに低いリスクに関連するさらに低い用量で効果を奏することが証明され得ることを意味する。
【0035】
Tat誘導体が抗腫瘍T細胞免疫反応のINF−γ生成を活性化することが本明細書において立証された。Nani−P2で治療したマウス由来の脾細胞により分泌されたINF−γのベースラインレベルは、PBSで治療したコントロールマウスのそれよりも8倍高い。in vivoでのTat誘導体治療に反応したINF−γ分泌は、内因性免疫アゴニストであるGM−CSF及びIL−4によりin vitroにおいて付加的に増やされ得る(53倍まで)。一方、コントロールマウス由来の脾細胞は、高用量のGM−CSF及び/又はIL4で共刺激する試みの後でさえも抑制されたままである。
【0036】
本明細書において記載されたTat誘導体が進行したマウスの乳癌及び早期のマウスの乳癌の両方において“単独で”効果を有する対抗抑制剤である一方で、これらの観察はさらに、現在臨床開発中である他の対抗抑制的な抗腫瘍療法剤によりTat誘導体が相乗効果を有し得るという可能性を支持する。それらの抗腫瘍療法剤は、進行した腫瘍の負担及び付随する重篤な免疫抑制に直面して限定された効果を有し得る。
【0037】
“非免疫原性の”4T1モデルはより難治性である一方で、より免疫原性の乳癌モデル(SM1)及び/又は免疫優勢エピトープを伴う乳癌(TS/A)は、Tat誘導体治療後、比較的高い退縮率を示す。これは、免疫抑制が乳癌進行における支配的要因であり、実際、乳癌浸潤への誘因となり得るというモデルに合致する。このモデルは、4T1がラクタドヘリン及びアンドロゲン結合タンパク質を含むいくつかの一般的な乳癌抗原を高いレベルで発現するという観察により支持される。それは、免疫反応はTat誘導体による対抗抑制無しで完全に抑制されるということにそむく。総合すると、これらの観察は、Tat誘導体が1又はいくつかの一般的なヒト乳癌抗原と一緒に健康なリスクのある女性に投与されると、最終的には予防的抗乳癌ワクチンになり得るという可能性を提示する。
【0038】
付加的な実施態様において、Tat誘導体の保存的に修飾された変異体の使用が本明細書において開示される。本明細書に記載される変異体は、親又はもとの分子の生物学的活性を維持する。
【0039】
本明細書において用いられる“保存的に修飾された変異体”の用語は、もとのペプチドと同じ又はよく似た生物学的活性を有する変異ペプチドをいう。例えば、保存的なアミノ酸変化が作られ得、タンパク質又はペプチドの主要な配列を変えているとしてもその機能は変わらない。保存的なアミノ酸置換は典型的には、グリシン及びアラニン;バリン、イソロイシン、及びロイシン;アスパラギン酸及びグルタミン酸;アスパラギン及びグルタミン;セリン及びトレオニン;リシン及びアルギニン;フェニルアラニン及びチロシンのグループ内の置換を含む。
【0040】
修飾(主要な配列は通常変えない)は、in vivo又はin vitroのポリペプチドの化学的誘導体化を含む(例えば、アセチル化、又はカルボキシル化)。グリコシル化の修飾もまた含まれる(例えば、合成及びプロセッシングの間又はさらなるプロセッシングのステップにおいてポリペプチドのグリコシル化のパターンを修飾することにより;グリコシル化に影響を与える酵素にポリペプチドをさらすことにより;哺乳類のグリコシル化又は脱グリコシル化酵素により、なされる)。リン酸化されたアミノ酸残基(例えば、ホスホチロシン、ホスホセリン、又はホスホトレオニン)を有する配列もまた包含される。
【0041】
タンパク質分解への耐性を改善するために、又は溶解特性を最適化するために、通常の分子生物学的手法を用いて修飾されたポリペプチドもまた含まれる。このようなポリペプチドの類似体は、自然発生のL−アミノ酸(例えばD−アミノ酸)又は自然発生ではない合成アミノ酸以外の残基を含有するものを含む。本明細書に記載されるペプチドは、本明細書にリストされた特定の典型的なプロセスのいずれかの製品に限定されない。
【0042】
実質的に全長のポリペプチドに加えて、本発明の記載は、ポリペプチドの生物学的活性を有するフラグメントも提供する。
【0043】
本明細書において用いられるように、実質的に同じであるアミノ酸配列は典型的には、95%以上のアミノ酸の同一性を共有する。しかしながら、スプライス変異をもたらす上述のレベル未満の相同性を有するタンパク質(及びこのようなタンパク質をコードするDNA若しくはmRNA)又は保存的アミノ酸置換(若しくは縮重コドンの置換)により修飾されたものは、本発明の範囲に含まれるということが認識される。本技術分野における当業者により容易に認識されるように、種々の方法が対照用の配列を調節するために考案されてきた(例えば、Henikoff and Henikoff in Proc.Natl.Acad Sci.USA 89:10915(1992)に記載されるBlosum62スコアリングマトリックス)。この目的のために好都合に用いられるアルゴリズムは、広く入手可能である(例えば、Needleman and Wunsch,J.Mol.Bio.48:443(1970)を参照)。
【0044】
したがって、配列番号1〜4に記載のTat誘導体に85%、90%、95%、98%、99%、又は100%相同性を有するアミノ酸配列が本明細書に記載される。
【0045】
以下の発現システムは、開示されたTat誘導体の発現における使用に適する:限定されることなく昆虫細胞発現システム(例えば、限定されることなく、Bac−to−Bac発現システム、バキュロウイルス発現システム、及びDES発現システム)といった哺乳類細胞発現システム;並びに限定されることなくpET、pSUMO、及びGST発現システムを含む大腸菌発現システムである。他の実施態様において、Tat誘導体は、ポリペプチドの分離に有用である6−ヒスチジンタグとともに発現される。6−ヒスチジンタグの精製システムは、本技術分野の当業者に公知である。
【0046】
“治療上効果的な量”は、治療効果を達成するために必要とされる量を意図する。
【0047】
開示されたTat誘導体は、免疫刺激ポリペプチドであり、多くのタイプの腫瘍に有用である。一実施態様において、Tat誘導体は、限定されることなく、乳癌、メラノーマ、卵巣癌、肺癌、膵臓癌、ミエローマ、結腸直腸癌、腎臓癌、リンパ腫、及び大腸癌のタイプを含む腫瘍の治療において有用である。
【0048】
他の実施態様において、該腫瘍は、乳癌である。さらに他の実施態様において、該腫瘍は、卵巣癌である。
【0049】
本発明の開示は、上述のTat誘導体ポリペプチドを含有する医薬組成物にも向けられる。記載される医薬組成物の用量及び所望の薬物濃度は、想定される特定の使用に依存して変化し得る。適切な用量又は投与ルートの決定は、通常の医師の技術の範囲内にある。動物実験は、ヒトの治療での効果的な用量の決定に対して信頼性のあるガイドラインを提供する。効果的な用量の種間のスケーリングは、Mardenti,J.and Chappell,W.“The use of interspecies scaling in toxicokinetics”In Toxicokinetics and New Drug Development,Yacobi et al,Eds.,Pergamon Press,New York 1989,pp.42−96により定められた原理に従って実行され得る。一実施態様において、疾患は現在のものである。他の実施態様において、細胞又は個人の寿命は、本明細書に記載される方法により延長される。
【0050】
上述のTat誘導体ポリペプチドは、特定の適用に対して適切であるように、哺乳類(ヒトを含む)への投与のための過度な実験をすることなく作られ得る。加えて、組成物の適切な用量は、標準的な用量反応プロトコールを用いて、過度な実験をせずに決定され得る。
【0051】
したがって、経口投与、経鼻投与、舌下(lingual)投与、舌下(sublingual)投与、口腔投与、頬内投与、静脈内投与、皮下投与、筋肉内投与、及び経肺投与のためにデザインされた組成物は、本技術分野においてよく知られた方法(例えば、不活性希釈剤による、又は薬学的に許容可能なキャリアによる)により過度な実験なしに作られ得る。治療上の投与の目的で、医薬組成物は、添加剤と組み合わされてもよく、錠剤、トローチ、カプセル、エリキシル剤、懸濁剤、液剤、シロップ、及び同様物の形態で用いられてもよい。“薬学的に許容可能なキャリア”は、標準的な薬学的キャリアのいずれをも意味する。適切なキャリアの例は、本技術分野においてよく知られており、限定されることなく、リン酸緩衝生理食塩水、Polysorb 80を含有するリン酸緩衝生理食塩水、水、油/水エマルジョンといったエマルジョン、及び種々のタイプの湿潤剤のような標準的な薬学的キャリアのいずれをも含み得る。他のキャリアはまた、滅菌溶液、錠剤、コート錠、及びカプセルを含み得る。典型的にはこのようなキャリアは、スターチ、ミルク、砂糖、あるタイプの粘土、ゼラチン、ステアリン酸若しくはその塩、ステアリン酸マグネシウム若しくはステアリン酸カルシウム、タルク、植物油脂、ゴム、グリコール、又は他の公知の添加剤のような添加剤を含み得る。このようなキャリアを含む組成物は、よく知られた従来の方法により作られ得る。
【0052】
Tat誘導体ポリペプチド組成物は容易に、例えば静脈内注射、筋肉内注射、髄腔内注射、又は皮下注射というように非経口的に投与され得る。非経口投与は、化合物を液剤又は懸濁剤に入れることにより成し遂げられ得る。このような液剤又は懸濁剤はまた、注射用水といった滅菌水、食塩水、固定油、ポリエチレングリコール、グリセリン、プロピレングリコール、又は他の合成溶媒を含み得る。非経口製剤はまた、例えばベンジルアルコール又はメチルパラベンといった抗菌剤、例えばアスコルビン酸又は亜硫酸水素ナトリウムといった抗酸化剤、EDTAといったキレート剤を含み得る。酢酸塩、クエン酸塩、又はリン酸塩といったバッファー、塩化ナトリウム又はデキストロースといった等張化調節剤もまた加えられ得る。非経口製剤は、ガラス又はプラスチックで作られたアンプル、ディスポーサブルシリンジ、又は多人数用バイアルに封入され得る。
【0053】
経皮投与は、皮膚を経由した組成物の経皮吸収を含む。経皮的製剤は、パッチ、イオントフォレーゼ装置、軟膏(ointments)、クリーム、ジェル、軟膏(salves)、及び同様物を含む。
【0054】
組成物は、固体又は液体の用量単位の物理的形態を修正する種々のマテリアルを含み得る。例えば、組成物は、活性成分の周りにコーティングシェルを形成するマテリアルを含み得る。コーティングシェルを形成するマテリアルは、典型的には不活性であり、例えば、砂糖、セラック、及び他の腸溶性コーティング剤から選択され得る。または、活性成分は、ゼラチンカプセル又はカシェー(cachet)に包まれ得る。
【0055】
本発明のTat誘導体ポリペプチド組成物は、適切な用量レジメンにより、治療上効果的な量で投与され得る。当業者により理解されるように、必要とされる正確な量は、対象により異なり、対象の人種、年齢、及び全身状態、感染の重症度、特定の剤、並びに投与の手法に依存する。いくつかの実施態様において、対象の体重に基づき約0.001mg/kgから約50mg/kgの組成物が1日に1又は2回以上投与され、所望の治療効果が得られる。他の実施態様において、対象の体重に基づき約1mg/kgから約25mg/kgの組成物が1日に1又は2回以上投与され、所望の治療効果が得られる。
【0056】
組成物の1日の全投与量は、妥当な医学的判断の範囲内において主治医により決定されるだろう。特定の患者又は対象に対する特定の治療上効果的な用量レベルは、治療される疾患及び疾患の重症度;用いられる特定の化合物の活性;用いられる特定の組成物;患者又は対象の年齢、体重、全身状態、性別、及び食生活;投与の時間、投与のルート、用いられる特定の化合物の排泄速度;治療の持続期間;用いられる特定の化合物との組み合わせで用いられる薬剤、又は用いられる特定の化合物と同時に用いられる薬剤、並びに医学の分野においてよく知られた他の要因を含む様々な要因に依存するだろう。
【0057】
開示された組成物はまた、併用療法において用いられ得る。それは、本発明の組成物が、1又は2以上の他の所望の組成物、治療学、治療、又は医療処置と同時、前又は後に、投与され得るということである。施される治療の特定の組み合わせは、主治医により決定され、治療の両立性及び得られるべき所望の治療効果を考慮に入れるだろう。組み合わせで用いられる治療上の活性剤は単一の組成物、治療、若しくは処置とともに投与され得、または分けて投与され得るということが理解されるであろう。
【0058】
他の実施態様において、開示されたTat誘導体の反復投与又は頻回投与は、乳癌の進行の間確立される免疫抑制的な流れに逆行するのと同様に、耐性をしのぎ得ることが期待される。頻回投与は、例えば薬剤への免疫寛容を支持し得るアレルギー治療において用いられるひとつの手段である。Tat誘導体が乳癌への免疫反応性を取り戻すように用いられる得ると、進行した疾患に起因して利益を失う他の免疫療法は、潜在的に効果を取り戻し得る。第二のプロトコールにおいて、Tat誘導体免疫療法との交代で腫瘍抗原のシャワーを放出し得る化学療法剤レジメンが用いられる。進行したステージのヒト乳癌が薬剤耐性を増強させると、放射線治療は臨床試験において実行可能な代替手段となり得る。
【0059】
Tat誘導体の反復投与の回数は、患者の投薬への反応に基づき医療の専門家により定められ得る。一実施態様において、Tat誘導体は、10日の期間で3日おきに3回投与される。この投与スキームはその後、複数のサイクルで繰り返される。本発明は、Tat誘導体が選択された時間枠内で複数回投与される、種々の異なる投与スキームを想定しており、投与スキームは、複数サイクルで繰り返される。他の実施態様において、Tat誘導体の投与は、1又は2以上の他の抗癌剤、免疫調節剤、又は免疫抑制剤の投与と交互に行われ得る。一実施態様において、免疫抑制剤は、シクロホスファミドである。
【実施例1】
【0060】
(Tat誘導体のデザイン及び生成)
3つの典型的なTat誘導体が本明細書において開示される。各々は、異なる態様でTF hrフラグメントを置換する。配列の下線部分は、プロリンの間の配列を表す。
Nani−P1(MPM1;配列番号2)−MEPVDANLEAWKHAGSQPRKTACTTCYCKKCCFHCQVCFTRKGLGISYGRKKRRQRRRAPQDSQTHQASLSKQPASQSRGDPTGPTESKKKVERETETDPFD
Nani−P2(ASH4;配列番号3)−MDPKGEEDQDVSHQDLIKQYRKPRTACNNCYCKKCCFHCYACFLRKGLGITYHAFRTRRKKIASADRIPVPQQSISIRGRDSQTTQESQKKVEEQAKANLRISRKNLGDETRGPVGAGN
Nani−P3(TMPD5;配列番号4)−METPLKEQENSLESCREHSSSISEVDVPTPVSCLRKGGRCWNRCIGNTRQIGSCGVPFLKCCKRKPFTRKGLGISYGRKKRRQRRRAPQDSQTHQASLSKQPASQSRGDPTGPTESKKKVERETETDPFD
【0061】
SH3結合タンパク質は、TFの機能に要求される一連の内部のプロリンを含む。Nani−P1は、内部のプロリンを除去した。それはアラニンとして各々置換され、SH3結合部位を不活性化としている。この変異は、TFとしての全体のTatタンパク質の機能を損なわせる。それは他のTat誘導体と違って、細胞質内タンパク質として優位に作られるからである。
【0062】
Nani−P2は、宿主において低病原性を有するアフリカングリーンモンキーの変異SIV由来の誘導されたTatアミノ末端を有する。プロリンに隣接する(franking)カルボキシル基のみが、この配列において保存される。
【0063】
Nani−P3において、セリン−リッチのTARA相同配列は、SH3結合配列に代わって両側にプロリンを有するアミノTFペプチドとなる。Tatは元来、マカク及びスーティーマンガベイザルにおける低病原性の変異SIV由来の配列を有する。
【実施例2】
【0064】
(in vitroでのTat誘導体の活性)
ヒト単球を、Tat誘導体(Nani−P2)、Toll様受容体(TLR)の免疫活性化配列(ISS)(図1)、又はリポポリサッカライド(LPS)(図2)とともに24−28時間培養し、細胞をその後洗浄し、蛍光ラベルしたCD86で染色した。Tat誘導体は、ISS(TLR)又はLPSに比べて高度にCD86の発現を促進した。
【実施例3】
【0065】
(乳癌のマウスモデルでのTat誘導体の評価)
(マテリアル及び方法)
【0066】
(動物)6−8週齢の雌のBALB/cマウスを、ジャクソンラボラトリー(バーハーバー、NE)より購入した。マウスを実験前少なくとも1週間順応させた。マウスをコロンビア大学メディカルセンターの動物メンテナンス施設にて無菌環境で飼育した。すべての実験は、コロンビア大学メディカルセンターの動物実験委員会により承認された。
【0067】
(細胞株)4T1細胞(BALB/cの自然発生乳癌に由来する6−チオグアニン耐性細胞株)は、ATCCより得られた;TS/A(マウス腺腫瘍細胞株)は、Dr.Sandra Demaria(Demaria S.et al.Clin Cancer Res.11:728−34,2005)より提供された;SM1(BALB/c由来の乳癌)は、カリフォルニア大学(バークレー)のDr.James Allisonより提供された。すべての腫瘍細胞株を、2mMのL−グルタミン、10mMのHEPES、150単位/mLのペニシリン/ストレプトマイシン、10%の熱不活性化FCS(インビトロジェン)、50μMの2−メルカプトエタノール(シグマ)、及び50mg/Lのゲンタマイシン(Lanza)を添加したDMEM中で培養した。
【0068】
(腫瘍惹起及び治療)0日目に、BALB/cの左側の乳房体に1×10の4T1、1×10のTS/A、又は2×10のSM1を各々注射(SC)した。腫瘍の定着後0,7,12,及び17日目に右側腹にTat誘導体を直接注射することで免疫療法を行った。コントロール群には、PBS注射を行った。いくつかの実験において、マウスのすべてにおいて測定可能な腫瘍(腫瘍の注入後14日目で3−5mmの直径)が定着したときに、示されるように種々の治療群に動物を無作為に割り付けた。腫瘍負荷(腫瘍容積)を週3回測定及び記録した。腫瘍が直径15mmの容積に達したら動物を屠殺し、腫瘍を摘出し重量を測定した。
【0069】
(肺転移の検出)公知の方法により(Pulaski B.et al.Cancer Res.60:2710−2715,2000)、4T1の肺転移を調べた。BALB/cマウスにおいて2−3週間で定着した4T1の原発性腫瘍は、ほとんどの動物において肺に転移する。端的に言うと、試験の開始時に確立されたIACUCガイドラインに従ってマウスを屠殺し、肺を除去し、肺表面の腫瘍小結節を、治療プロトコールを知らない2人の別の研究者が肉眼で数えた。
【0070】
(免疫脾臓細胞によるIFN−γ生成のELISA解析)脾細胞のIFN−γ分泌を、OptEIA(登録商標)ELISAキット(BDバイオサインス)により評価した。端的に言うと、4T1担癌マウス由来の脾臓細胞(1×10/well)を、96−wellプレートにおいて、IL−2(50ng/mL)及びGM−CSF(100ng/mL)とともに、E:T(エフェクター:腫瘍)比が20:1であるDEME中で、5×10/wellのマイトマイシンC(50μg/mL)処理4T1細胞(腫瘍抗原を提供するために用いられた)有り又は無しで培養した。72時間後に上清を収集し、活性を喪失させることなく分析まで−80℃で凍結させた。製品説明書に従ってELISAにより二重のwellの細胞を含まない上清においてIFN−γを測定した。腫瘍特異的なIFN−γ生成を、培地のみで培養された脾臓細胞の上清において測定されたバックグラウンド値を差し引くことにより算出した。吸光度(OD)の値をリコンビナントIFN−γ標準曲線を用いてIFN−γのpg/mL量に変換した。刺激指数(SI)をコントロール培養に対する刺激された培養におけるIFN−γの比として算出した。
【0071】
(統計学的分析)データをスチューデントのt検定(グラフパッドプリズムバージョン5;グラフパッド)を用いて統計学的に分析した。動物の生存実験のデータを、ログランク検定(グラフパッドプリズムバージョン5)を用いて統計学的に分析した。
【0072】
(結果)
【0073】
乳癌のマウスモデルにおける合成Tat由来組成物の全身投与の治療効果を評価した。原発性乳癌増殖に対する、異なる誘導体のスモールパネルにより与えられた相対的な保護を比較するために、雌のBALB/cマウスの乳房体に1×10の4T1乳癌細胞をSC注射し、その後0,7,14,及び21日目に、流入腋窩リンパ節に400ngの部分的に精製されたTat誘導体を用いて(PBS中、SC注射)治療した。
【0074】
2つの誘導体であるNani−P1及びNani−P2は、PBSのみの注射を行ったコントロールマウスに比して、腫瘍負荷を有意に低減させた。この差異は、腫瘍移植後15日目に最初に明確となった(図3A、15日後でp<0.05)。一方で、他と同じプロトコールで作られ部分的に精製された第3の誘導体であるNani−P3は、5倍の高用量においても4T1の原発性腫瘍増殖を効果的には抑制せず(2μg、図3B)、生存率を効果的に延長しなかった(図示せず)。これらの結果は、(具体的には後続の試験の場合での)抗腫瘍効果に関連する調製におけるコンタミネーションが、さらなる低用量での高度に精製された(純度>95%)マテリアルで起こった、ということを効果的に排除した。21日目(最後の投薬)において、Nani−P2治療の腫瘍とNani−P1治療の腫瘍との間の原発性腫瘍負荷における差異が18mmとなり統計学的に高度に有意となった(p<0.01)ように、Nani−P2の効果は、Nani−P1よりも顕著に良好に維持された。この効果は、さらなる治療を行わなかったにもかかわらず、この試験の残りの期間持続した。
【0075】
高度に精製されたNani−P2の4T1腫瘍における乳癌増殖抑制効果は用量依存的であり、この顕著な効果はわずか0.4ngの化合物のSC投与を追跡して明確となった(図4)。Nani−P2(流入腋窩側腹にSC投与)の用量を上げると、0.4ngから40ngの用量ごとの対数増加により漸次的に4T1乳癌増殖を抑制した。400ng及びさらには2μgに用量を増加させてもさらなる抗腫瘍効果が得られなかった一方で(図示せず)、0.4ngから40ngの間のより高用量のNani−P2におけるより確実な4T1増殖抑制は、統計学的に有意であった(p<0.01)。重要なことは、複数の用量スケジュールを用いた複数の試験において、40ngのNani−P2のSC又はIV投与後に毒性がみられなかったことである。Nani−P2の40ngの用量は、さらなる試験に対して選択された。
【0076】
Nani−P2治療がマウスの原発性腫瘍の縮小に加えて生存率を延ばすことができるかについて検討するために、Nani−P2の40ngの用量の種々の投薬スケジュール及びルート(SC,IV,又はIT)を用いた治療プロトコールを実施した。グループごとに10匹のマウスのコホートを、生存率の長さに対して行い、カプランマイヤー法を用いて評価した。コロンビア大学メディカルセンター動物施設の規則により、各々のマウスを約15mmの平均腫瘍直径の時点で安楽死させ、その前にマウスが瀕死状態になった場合には、これらの2つの結果のうちのひとつを死亡に対する規定の基準とした。
【0077】
Nani−P2を評価する第一の試験において、SC治療を腫瘍移植と同時に開始した。コントロール(PBS処理)マウスの中央値の生存期間は30日間であり、36日目までに100%死亡した。Nani−P2投与(14日間にわたって4回投与)により、治療されたマウスの35%が48日後でもまだ生存しており(p<0.001,図5A)、その時点でマウスのすべてが原発性腫瘍負荷に起因して屠殺された。
【0078】
第二の生存試験において、14日間腫瘍を定着させ、転移性疾患における効果をより良好に評価できるようにした。それは、Nani−P2療法の3サイクルがいくつかのルート(SC,IV,又はIT)うちのひとつにより週1回行われた後であり、投薬の各々のルートに対する相対的な効果を比較した(図5B)。前述の試験と同様に、コントロールマウス(SCでPBS処理)の中間値の生存率は32日であり、36日までに100%死亡した。生存率については、Nani−P2のSC投与での治療マウスでは47日目で20%の生存率(p<0.05)であったのに比して、Nani−P2のIV投与での治療マウスでは47日目で60%の生存率に延長された(p<0.005、図5B)。化合物の腫瘍内投与は、SC投与よりわずかに劣っていた。
【0079】
4T1マウス乳癌モデルが試験のために選択された。侵攻的かつ迅速な浸潤性を有する腫瘍であるためである;それは通常、移植後14日目で転移し、そのときまでには治療が困難となる。Nani−P2の効果が他のマウス乳癌モデルに拡大し得るか否かを検討するために、2つの付加的な乳癌であるTS/A及びSM1について試験した(図6)。TS/A原発性乳癌は、4T1とおよそ同程度の侵攻性を有し、30日で15mmの腫瘍容積に達した(図6)。しかしながら、TS/A腫瘍はNani−P2治療に顕著により高度な反応を示し、0.4ngのNani−P2の治療後、およそ50%の増殖抑制を示し、30日目で40%の全低減率を示した。
【0080】
SM1乳癌モデル(図6B)は、原発性腫瘍として初期においては侵攻的ではなく、死亡は転移性疾患以外のメカニズムによりもたらされるようである。治療30日目までに、SM1腫瘍は、TS/A又は4T1よりもおよそ33%小さい平均容積に達した。これは、4T1と比較してNani−P2免疫療法に対するSM1腫瘍の感受性が増大したことを示唆しており、腫瘍増殖は16日間100%の動物で抑制され、移植後28日目及びレジメンの終了後1週間でさえも40%の動物で低減していた。
【0081】
細胞傷害性Tリンパ球がNani−P2治療により引き起こされた腫瘍拒絶に関与するか否かについて検討するために、IFN−γ ELISAアッセイ(図7)を行い、4T1担癌マウスの脾臓細胞についてNani−P2処理無し(コントロール)又は有りで比較した(図7)。脾臓を無菌環境で除去し、duPre’S.et al.Exp.Mol.Path.85:174−188,2008に記載のように調製した。端的に言うと、脾臓をホモジナイズし、脾細胞(体系的な細胞傷害性T細胞及びAPCsの豊富な源として)をマイトマイシンC処理4T1刺激細胞とともに共培養し、免疫反応の回復を誘導した。コントロールwellについては、培地のみで培養した。
【0082】
IFN−γ濃度(CTL活性化の標準サロゲート)を市販のELISA(BDバイオサイエンス)により定量した。IFN−γ生成は、アッセイのすべてのコンディション下、Nani−P2治療のBALB/cマウスから取られた脾細胞の培養において有意に高かった(p<0.01**)。コントロール動物ではなくNani−P2治療におけるIFN−γ活性は、DC分化を促進することが示されるコンディション下においてIL−4及びGM−CSF添加により促進され得(p<0.05)、培養の初期に腫瘍刺激剤が加えられる(刺激指数=53 vs コントロール,3S+IL4+GM−CSF)とさらに増強され得た。これにより、他のCTLアゴニストとの相乗効果におけるNani−P2の有効性が証明された。
【0083】
定着した乳癌及び転移性の乳癌に対するNani−P2の効果をさらに検証するために、4T1細胞をマウスの腹部の乳腺にSC注射し、腫瘍が肺に転移して平均3.5mmの大きさ(図8A、13日目)(ヒト乳癌の2.4cm又はステージT2に相当する)になるまで治療を遅延させた。マウスの腫瘍増殖(図8A)、肺転移(図8B)、及び生存率(図8C)を追跡した。検視すると、Nani−P2治療を受けた動物では、コントロールに比して、肺転移の目に見える数の劇的な低減がみられた(図9)。Nani−P2をIV投与することにより治療したマウスの肺における肉眼で確認できる腫瘍小結節の数は平均7個であり、これに対してPBS−コントロール群では平均35.5個であった(p<0.01**)。これは、平均して大きさがより小さかった肺転移(図8B)と同様に、原発性腫瘍の侵攻的ではない特徴に対応していた。
【0084】
前定着し侵攻的な4T1乳癌のセッティングにおけるNani−P2の効果は、静脈内投与により治療された動物(40ng IV Nani−P2)における原発性腫瘍負荷をコントロール(PBS処理)動物と比較することにより明確かつ顕著に証明された(18日目でp<0.01**、図10)。原発性腫瘍抑制(図10)におけるこの統計学的に有意である効果は、PINSの週1回の3回の投薬が14日から28日の間行われただけにもかかわらず、試験期間中50日間持続した(p<0.01**)。さらに7/10のマウスは14日目での最初の腫瘍治療において腫瘍の退縮を示した。この結果として、統計学的に高度に有意である生存率の効果が得られた(p<0.005**、図5B参照)。驚くべきことに、1/10の動物が完全寛解し、試験終了時点の50日目で疾患を有することなく維持された。それは、この動物に明らかに腫瘍が無くなったという推測を支持するものである。
【実施例4】
【0085】
(Tat誘導体及びシクロホスファミドの反復投薬療法)
10匹のBALB/cマウスの4グループにおいて、マウスの乳房脂肪体に、1×10の4T1細胞をSCで移植した。10日目、腫瘍の直径が4−5mmに到達したときに治療を開始した。コントロールマウスに3日間隔にPBSをIV注射した。代わりに治療マウスには10日サイクルを繰り返して3日おきに3回投薬した。腫瘍負荷(腫瘍サイズmm)を、標準公式を用いて算出した。CY:(シクロホスファミドのみ)マウスには、10日目から始めてマウスごとに80mg/kgで週1回IP注射した。Cy/Nani−P2:(最初にシクロホスファミド、次にNani−P2)マウスには、最初に、10日目から始めて3日間隔の3回の投薬でシクロホスファミド(80mg/kg)をIP注射し、その後、順番で3日間隔の3回の投薬でNani−P2(40ng)をIV注射した。CYの3回投薬その後Nani−P2の3回投薬のサイクルは、50日目まで繰り返された。Nani−P2/CY:(最初にNani−P2、次にシクロホスファミド)マウスには、10日目から始めて3日間隔の3回の投薬でNani−P2(40ng)をIV注射し、その後、順番で3日間隔でシクロホスファミドをIP注射した。Nani−P2の3回投薬その後CYの3回投薬のサイクルは、50日目まで繰り返された。
【0086】
CY群に比して、Nani−P2/CY群では、統計学的に高度に有意に腫瘍負荷が低減された(図11、p=0.003077)。
【0087】
週1回のシクロホスファミドに対する、シクロホスファミドと交代するNani−P2ボーラス治療の生存効果は、統計学的に高度に有意であった(図12、p=0.0001)。10/10のシクロホスファミド治療マウスは42日目までに死亡した一方で、Nani−P2コホートでは、50日目までに3/10のマウスが完全寛解し、9/10のマウスが部分寛解した(図示せず)。
【0088】
他に示唆のない限り、本明細書及び特許請求の範囲において用いられた成分の量、分子量といった特性、反応条件等を表現するすべての数字は、すべての場合において、用語“約”により変形されるように理解されるべきである。したがって、反対に示唆されない限り、本明細書及び添付の特許請求の範囲において用いられた数字のパラメータは、本発明により得られようとされる所望の特性に基づき変化し得る近似値である。少なくとも及び特許請求の範囲の範囲への均等物の適用を制限しようとすることなく、各々の数字のパラメータは少なくとも、報告される有効数字の数字を考慮して、及び通常の四捨五入の技術を適用することにより、理解されるべきである。本発明の広い範囲に記載された数字の範囲及びパラメータが近似値であるにもかかわらず、特定の実施例において記載された数値は、可能な限り正確に報告される。しかしながら、いかなる数値も本質的には、各々の試験測定において見出される標準偏差に起因する誤差を必然的に含む。
【0089】
本発明を記述する文脈において(特に、特許請求の範囲の文脈において)用いられる“ひとつの(a)”、“ひとつの(an)”、“該(the)”、及び同様の指示語は、本明細書において他に示唆のない限り、又は文脈により明確に否定されない限り、単数及び複数をカバーするように理解されるべきである。本明細書における値の範囲の記述は、単に範囲に含まれる各々の独立した値を個別に参照する省略方法として提供されるように意図されたにすぎない。本明細書において他に示唆のない限り、各々の個々の値は、それがまるで本明細書において個々に列挙されるように、本明細書に包含される。本明細書に記載されるすべての方法は、本明細書において他に示唆のない限り、又は文脈により明確に否定されない限り、適切ないかなる方法においても行われ得る。本明細書において提供されるいずれかの及びすべての実施例、又は典型的な言語(例えば、“といった(such as)”)の使用は、単に本発明の理解を容易にするようにしたにすぎず、他にクレームされた本発明の範囲における限定をもたらさない。本明細書におけるいかなる言語も、本発明の実施に本質的であるクレームされていないいかなる要素をも示唆するように理解されるべきではない。
【0090】
本明細書に開示される本発明の代替要素又は態様の集団は、限定されて理解されるべきではない。各々の集団要素は、個々に又は該集団の他の要素若しくは本明細書においてみられる他の要素との組み合わせにて言及され及びクレームされ得る。集団の1若しくは2以上の要素は、利便性及び/若しくは特許性を理由に集団に包含され得、又は集団から削除され得ることが予測される。こうした包含又は削除が生じる場合、本明細書は、変形された集団を含むと考えられ、その結果、添付された特許請求の範囲において用いられるすべてのマーカッシュの集団の明細書を充足する。
【0091】
本発明の一定の態様は、本発明を実施するために本発明者らに知られたベストモードを含んで本明細書に記載される。むろん、これらの記載された態様における変形は、前述の記載を読むことにおいて本技術分野の当業者に明白となるだろう。本発明者らは、当業者が必要に応じてこのような変形を用いることを期待し、本発明者らは、本発明に対して本明細書に具体的に記載されたものよりもむしろ他の方法で実施されることを意図する。したがって、本発明は、適用法律により許容されるように本明細書に添付された特許請求の範囲において列挙される対象物のすべての変形物及び均等物を含む。さらに、すべての可能性のある変形における上述の要素のいかなる組み合わせも、本明細書において他に示唆のない限り、又は文脈により明確に否定されない限り、本発明により包含される。
【0092】
本明細書に開示される特定の態様は、言語からなる又は本質的に言語からなる特許請求の範囲においてさらに限定され得る。特許請求の範囲において用いられる場合、補正ごとにファイルされ又は加えられるとしても、推移(transition)の表現である“〜からなる(consisting of)”は、特許請求の範囲に特定されていない要素、工程、又は成分を排除する。推移(transition)の表現である“本質的に〜からなる(consisting essentially of)”は、特許請求の範囲の範囲を、特定されたマテリアル又は工程及び基本的かつ新しい特徴に実質的に影響を与えないものに限定する。クレームされた本発明の態様は、本明細書において本質的に又は明確に記載され及び可能にされる。
【0093】
さらに、この明細書の至るところに特許及び刊行物が多数参照されてきた。上述の参照及び刊行物の各々は、それらの全体において本明細書に個々に包含される。
【0094】
最後に、本明細書において開示される本発明の態様は、本発明の原理の実例となるということが理解されるべきである。用いられ得る他の変形は、本発明の範囲内にある。このように、実施例により、限定されることなく、本発明の他の構成が、本明細書における教示に従って用いられ得る。したがって、本発明は、正確に示され及び記載されるものに限定されない。
【0095】
(関連する出願)
本出願は、米国仮特許出願61/162,605(出願日2009年3月23日)、61/306,278(出願日2010年2月19日)、及び61/310,221(出願日2010年3月3日)に基づく35USC§119(e)に基づく優先権主張の利益を有する。これらの出願各々の全体の内容は、本明細書に参照により取り込まれる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒト免疫不全ウイルス(HIV)転写のトランス活性化因子(Tat)タンパク質の修飾されたアミノ酸配列を含有する医薬組成物であって、
前記修飾されたアミノ酸配列は、配列番号2、配列番号3、及び配列番号4からなる群より選択されたアミノ酸配列に85%以上の配列相同性を有する、
ことを特徴とする医薬組成物。
【請求項2】
配列番号3のアミノ酸配列を含有する、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項3】
必要に応じて対象に治療上有効量の請求項1に記載のTat誘導体ポリペプチドを投与する工程と、
前記対象において腫瘍の増殖の停止又は腫瘍の退縮を引き起こす工程と、
を含む、腫瘍治療方法。
【請求項4】
前記Tat誘導体ポリペプチドは、複数回投与される、
ことを特徴とする請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記投与する工程は、反復投与サイクルを含み、
各々のサイクルは、後に休薬期間が続く規定された期間において、前記Tat誘導体ポリペプチドを複数回投与することを含み、
前記サイクルは、複数回繰り返される、
ことを特徴とする請求項3に記載の方法。
【請求項6】
前記投与する工程は、反復投与サイクルを含み、
各々のサイクルは、規定された期間における治療剤の1回又は複数回の投与が後に続く、規定された期間において、前記Tat誘導体ポリペプチドを複数回投与することを含み、
前記サイクルは、複数回繰り返される、
ことを特徴とする請求項3に記載の方法。
【請求項7】
前記治療剤は、シクロホスファミドである、
ことを特徴とする請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記腫瘍は、乳癌である、
ことを特徴とする請求項3に記載の方法。
【請求項9】
前記腫瘍は、卵巣癌である、
ことを特徴とする請求項3に記載の方法。
【請求項10】
前記Tat誘導体ポリペプチドは、配列番号3のアミノ酸配列に少なくとも85%相同する、
ことを特徴とする請求項3に記載の方法。
【請求項11】
必要に応じて対象に治療上有効量の請求項1に記載のTat誘導体ポリペプチドを投与する工程と、
前記対象において腫瘍の退縮を引き起こす工程と、
を含む、腫瘍負荷を低減させる方法。
【請求項12】
前記Tat誘導体ポリペプチドは、複数回投与される、
ことを特徴とする請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記投与する工程は、反復投与サイクルを含み、
各々のサイクルは、後に休薬期間が続く規定された期間において、前記Tat誘導体ポリペプチドを複数回投与することを含み、
前記サイクルは、複数回繰り返される、
ことを特徴とする請求項11に記載の方法。
【請求項14】
前記投与する工程は、反復投与サイクルを含み、
各々のサイクルは、規定された期間における治療剤の1回又は複数回の投与が後に続く、規定された期間において、前記Tat誘導体ポリペプチドを複数回投与することを含み、
前記サイクルは、複数回繰り返される、
ことを特徴とする請求項11に記載の方法。
【請求項15】
前記治療剤は、シクロホスファミドである、
ことを特徴とする請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記腫瘍は、乳癌である、
ことを特徴とする請求項11に記載の方法。
【請求項17】
前記腫瘍は、卵巣癌である、
ことを特徴とする請求項11に記載の方法。
【請求項18】
前記Tat誘導体ポリペプチドは、配列番号3のアミノ酸配列に少なくとも85%相同する、
ことを特徴とする請求項11に記載の方法。

【図8C】
image rotate

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3A】
image rotate

【図3B】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5A】
image rotate

【図5B】
image rotate

【図6A】
image rotate

【図6B】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8A】
image rotate

【図8B】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate


【公表番号】特表2012−521986(P2012−521986A)
【公表日】平成24年9月20日(2012.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−502171(P2012−502171)
【出願日】平成22年3月23日(2010.3.23)
【国際出願番号】PCT/US2010/028347
【国際公開番号】WO2010/111292
【国際公開日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【出願人】(511230967)ナニアールエックス セラピューティックス インコーポレイテッド (1)
【Fターム(参考)】