説明

免疫力増強スーパーC3GHi稲

【課題】天然の抗酸化物質C3Gを多量含有した免疫力増強スーパーC3GHi稲の提供。
【解決手段】本発明の抗アトピー活性を有する免疫力増強スーパーC3GHi稲の育種方法は、黒米系統の稲を母本に、大粒稲1号を父本にして人工交配し、F世代以後から系統育種法によってシアニジン3−グルコシド(C3G)含量の高い個体を選抜して育成することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、免疫力増強スーパーC3GHi稲に係り、より具体的には、黒米系統の稲を母本に、大粒稲1号を父本にして育種され、C3G含量が高くて免疫力増強活性を有する新品種免疫力増強スーパーC3GHi稲に関する。
【背景技術】
【0002】
最近、米は、生活水準の向上に伴って主食として味、栄養および機能性の観点からも関心が高まっている。このため、米に特定の栄養素や天然材料などを加えて栄養を補強した機能性米に関する研究が続けられてきた。
【0003】
機能性米を製造するために、一般米の表面に機能性成分をコートする方法と、減圧を用いて機能性成分を米に浸透させる方法が開発されている。ところが、これらの方法は、米に機能性成分を付加することに過ぎず、米自体が機能性を持つようにするのではないので、厳密には機能性米とは言えない。
【0004】
本発明者らは、米自体に機能性を与えるための研究の一環として、シアニジン3−グルコシド(Cyanidin 3−glucoside)(以下、「C3G」という)色素成分が、従来の稲品種「黒真珠(Heugjinju)」に比べても最高4〜5倍以上に増進した機能性新品種「C3GHi」稲を開発したことがある(特許文献1)。
【0005】
前記C3G色素は、通称「クロマニン(Kuromanin)」と呼ばれるもので、アントシアニン系色素の一種である。研究結果によれば、この色素は自由ラジカル消去能に優れるうえ、特に人体に有害な活性酸素の吸着能に優れるため、抗酸化剤としての機能が再び評価されている色素である。
【0006】
アトピー皮膚炎は、主に幼児期または小児期に始まる慢性的且つ再発性の炎症性皮膚疾患であって、掻痒症や皮膚乾燥症、特徴的な湿疹などを伴う。幼児期には、顔と腕・脚の一部に湿疹として始まるが、成長しながら特徴的に肘関節屈曲部の内側と膝関節屈曲部の内側に湿疹として現れる。ところが、大部分は成長しながら自然に好転する傾向を示す。大人の場合、屈曲部の内側部位の皮膚が厚くなる苔蘚化(lichenification)が現れたり、幼・小児期に比べて顔に湿疹が生じたりすることが多い。アトピー皮膚炎は、世界的に増加する趨勢にあり、有病率が人口の20%に達するという報告もある。
【0007】
アトピー皮膚炎の発病原因は未だ確実に解明されていない。アトピー皮膚炎は、皮膚乾燥症や湿疹などの様々な臨床症状を示すため、その発病原因をいずれか一つの説のみで説明するのは困難である。環境的な要因や遺伝的な素因、免疫学的反応、皮膚保護膜の異常などがアトピー皮膚炎の主要原因として思われている。環境的な要因としては、産業化による煤煙などの環境公害、食品添加物使用の増加、西欧式住居形態による絨毯、寝台およびソファの使用増加、並びに室内温度上昇によるダニなどのアレルゲン(アレルギーを起こす原因物質)の増加などがある。また、室内でペットを飼うことが多くなるにつれて原因物質に晒されることも原因の一つである。一方、アトピー皮膚炎が遺伝的な影響を受けることは、多くのアトピー皮膚炎患者が家族歴を有するという事実から分かる。
【0008】
本発明者らは、従来の天然抗酸化物質C3Gを多量含有したC3GHi稲よりC3G含量が高い免疫力増強スーパーC3GHi稲を開発し、その新規用途を明らかにするために鋭意研究を重ねた結果、本発明に至った。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】韓国登録特許第10−0687311号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
そこで、本発明の目的は、天然の抗酸化物質でC3Gを多量含有した免疫力増強スーパーC3GHi稲を提供することにある。
【0011】
本発明の他の目的は、前記免疫力増強スーパーC3GHi稲のアトピー治療用途を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的は、黒米系統の稲を母本に、「大粒稲1号」を父本にして、高いC3G含量を有する免疫力増強スーパーC3GHi稲(受託番号:KCTC 11616BP;識別名称:C3GHi(Oryza sativa L.);寄託機関:Korean Collection for Type Cultures(Korea Research Institute of Bioscience and Biotechnology(KRIBB)))を育成し、前記免疫力増強スーパーC3GHi稲のDNA分析およびアトピー治療活性を調べて、アトピーなどにより誘発される掻痒感の抑制に効果的であることを見出すことにより達成された。
【0013】
本発明は、黒米系統の稲を母本に、「大粒稲1号」を父本にして人工交配し、F世代以後から系統育種法によってシアニジン3−グルコシド(C3G)含量の高い個体を選抜して育成することを特徴とする、免疫力増強活性を有する免疫力増強スーパーC3GHi 稲の育種方法を提供する。
【0014】
本発明は、前記育種方法で得られた、免疫力増強活性を有する免疫力増強スーパーC3GHi稲を提供する。
【0015】
本発明は、前記免疫力増強活性を有する免疫力増強スーパーC3GHi稲を有効成分として含有する、アトピー治療用薬学的組成物を提供する。
【0016】
本発明は、前記抗アトピー活性を有する免疫力増強スーパーC3GHi稲を有効成分として含有する、アトピー改善用健康機能食品組成物を提供する。
【0017】
本発明において、「有効成分」とは、内在する薬理作用によってその医薬品の効能・効果を直接または間接的に発現するだろうと期待される物質または物質群(薬理学的活性成分などが明らかにされていない生薬などを含む)であって、主成分を含むことを意味する。
【0018】
本発明の薬学的組成物は、薬学的組成物の製造に通常用いられる適切な担体、賦形剤および希釈剤をさらに含むことができる。
【0019】
本発明の薬学的組成物の投与形態は、これらの薬学的に許容される塩の形態であってもよい。また、本発明の薬学的組成物は、単独で、または他の薬学的活性化合物と組み合わせ或いは適当に集合して使用することができる。
【0020】
本願において、用語「健康機能食品」とは、健康機能食品に関する韓国法律第6727号に基づく、人体に有用な機能性を有する原料または成分を用いて製造および加工した食品を意味し、「機能性」とは、人体の構造および機能に対して栄養素を調節し、或いは生理学的作用などの保健用途に有用な効果を得るために摂取することを意味する。
【0021】
本発明では、黒米系統の稲を母本に、大粒稲1号を父本にして人工交配し、F世代以後から系統育種法によってシアニジン3−グルコシド(C3G)含量の高い個体を選抜して育成し、これを「免疫力増強スーパーC3GHi(Super C3GHi)稲」と命名した。
【0022】
本発明に係る免疫力増強スーパーC3GHi稲は、C3G色素成分が従来の稲品種「黒真珠」に比べて最高7〜10倍以上に増進し、動物実験によって、アトピーなどにより誘発される掻痒感の抑制に効果的であることが明らかにされた。
【発明の効果】
【0023】
本発明に係る免疫力増強スーパーC3GHi稲は、C3G色素成分が従来の稲品種「黒真珠」に比べて最高7〜10倍以上に増進し、アトピーなどにより誘発される掻痒感の抑制に効果的であって、製薬上および健康機能性食品産業上においては非常に有用な発明である。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明に係る免疫力増強スーパーC3GHi稲の育成系統図である。
【図2】本発明に係る免疫力増強スーパーC3GHi稲の植物体の様子である。
【図3】本発明に係る免疫力増強スーパーC3GHi稲の精籾と玄米の写真を示す図である。
【図4】本発明に係る免疫力増強スーパーC3GHi稲、黒真珠稲およびC3GHiのC3G色素含量を比較した図である。
【図5】本発明に係る免疫力増強スーパーC3GHi稲と既存の有色米品種とのDNAマーカー差を示す図である。
【図6】本発明に係る免疫力増強スーパーC3GHi稲のアトピー治療効果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の好適な実施形態について具体的に説明する。ところが、本発明の範囲はこれらの実施例に限定されない。
【0026】
実施例1:免疫力増強スーパーC3GHi稲の育成
本実施例では、高品質、大粒および高C3G(Cyanidin 3−glucoside)含有品種の育成を目的として、韓国放送通信大学校で選抜した黒米系統であるCG2−3−5−1−6−1系統を母本に、大粒稲1号を父本にして人工交配し、F世代以後から系統育種法によって育成選抜して主要農業形質調査とC3G含量調査を実施した。品種の育成過程を図1に示した。
【0027】
図1に示すように、F世代の品種を免疫力増強スーパーC3GHi(Super C3Chi)稲と命名し、表1および図2に示すように「黒真珠」品種および「大粒稲1号」品種と比較した。
【0028】
【表1】

【0029】
表1に示すように、本発明に係る免疫力増強スーパーC3GHi稲は、出穂期が韓国の水原地域で9月6日であって晩生種に属し、長稈であった。また、 本発明に係るスーパーC3GHi黒紫米は、玄米千粒重が25.0gであって黒真珠稲に比べて1.5倍程度であり、玄米100g当たりのC3G含量は黒真珠271.45mgの約10倍に相当する2723.72mg水準であった。
【0030】
実施例2:免疫力増強スーパーC3GHi稲のC3G含量の測定
実施例1で育成した本発明に係る免疫力増強スーパーC3GHi稲のC3G含量を測定した。対照区として、黒真珠稲とC3GHi稲を使用した。
【0031】
各品種の試料を粉砕した後、0.5体積%のTFAを含有した95体積%のエタノールで数回抽出して濃縮した後、0.45μmのPVDFフィルターで濾過してHPLCを用いてC3G含量を定量分析した。
【0032】
その条件は下記のとおりである。
【0033】
カラム:Develosil ODS−5(4.6×250mm)
溶媒:グラディエントモードで0.1体積%TFA水溶液から0.1体積%TFA CHCN(30分)
流速:1.0mL/min
検出:530nm(RT:12.442分)
前記C3G定量分析結果を次の表2および図4に示す。
【0034】
【表2】

【0035】
実施例3:DNA分析
本発明に係る免疫力増強スーパーC3GHi稲の系統は、黒真珠稲と水原425号稲とを交配して得た後代系統から、アントシアニン含量に優れた個体を選抜し、これを大粒稲1号と交配してその後代から選抜された個体である。
【0036】
前記免疫力増強スーパーC3GHi稲のDNAを分析した結果、マーカーAで増幅したDNA断片は黒真珠のパターンを示し、マーカーB、マーカーC、マーカーD、マーカーE、マーカーFおよびマーカーGで増幅されたDNA断片は大粒稲1号のパターンを示したので、黒真珠と大粒稲1号の遺伝組成を示すことを確認した。特に、マーカーB、マーカーD、マーカーEなどを用いて増幅した結果では、既存の黒米とは異なる分離パターンを示すことにより、今後のDNA検査による流通黒米と区分可能である(図5参照)。
【0037】
【表3】

【0038】
【表4】

【0039】
【表5】

【0040】
【表6】

【0041】
【表7】

【0042】
【表8】

【0043】
【表9】

【0044】
上記において、韓国語発音を英語で表記すれば、黒真珠は「Heugjinju」であり、上海香血糯は「Sanghaehyanghyeolla」であり、新明黒糯は「Shinmyungheugchal」であり、早生黒糯は「Josaengheugchal」であり、黒光は「Heuggwang」であり、黒南は「Heugnam」であり、黒雪は「Heungseol」であり、黒香は「Heughyang」であり、大粒稲1号は「Daeripbyeo 1」であり、水原425は「Suwon 425」である。
【0045】
実施例4:免疫力増強スーパーC3GHi稲のアトピー治療効果
本発明に係る免疫力増強スーパーC3GHi稲のアトピー治療効果を確認するために、掻痒感誘導物質である化合物48/80で処理されたBALB/cマウスを対象として掻痒感抑制機能を評価した。対照区として黒真珠稲を用いて活性を比較し、対照薬物としてアゼラスチンを使用した。化合物48/80で誘導されたマウスにそれぞれ黒真珠稲抽出物と免疫力増強スーパーC3GHi稲抽出物を100mg/kg、200mg/kgの水準で経口投与した結果、2品種の両方とも濃度依存的に抑制効果を示し、特に黒真珠稲より免疫力増強スーパーC3GHi稲が40%水準で高い掻痒感抑制効果を示した(図6参照)。対照薬物であるアゼラスチンよりは半分以下に低い水準であったが、主食として長期間服用する米であるという側面からみて、アトピーなどにより誘発される掻痒感の抑制に効果的であるといえる。
【0046】
その他事項:この発明を支援した国家研究開発事業について下記する。
【0047】
課題固有番号:108096−3
部署名:農林水産食品部/農林技術管理センタ
研究事業名:農林技術開発事業
研究課題名:特殊機能性米品種育成およびこれを利用したオーダーメード型高付加価値名品ブランド化
主管機関:韓国放送通信大学校産学協力団(KOREA NATIONAL OPEN UNIVERSITY INDUSTRY−ACADEMIC COOPERATION FOUNDATION)
研究期間:2008. 12. 01 〜 2011. 11. 30

【特許請求の範囲】
【請求項1】
黒米系統の稲を母本に、大粒稲1号を父本にして人工交配し、F世代以後から系統育種法によってシアニジン3−グルコシド(Cyanidin 3−glucoside;C3G)含量の高い個体を選抜して育成することを特徴とする、抗アトピー活性を有する免疫力増強スーパーC3GHi稲の育種方法。
【請求項2】
請求項1の育種方法で得られた、抗アトピー活性を有する免疫力増強スーパーC3GHi稲。
【請求項3】
抗アトピー活性を有する免疫力増強スーパーC3GHi稲を有効成分として含有する、アトピー治療用薬学的組成物。
【請求項4】
抗アトピー活性を有する免疫力増強スーパーC3GHi稲を有効成分として含有する、アトピー改善用健康機能食品組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−5475(P2012−5475A)
【公開日】平成24年1月12日(2012.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−179273(P2010−179273)
【出願日】平成22年8月10日(2010.8.10)
【出願人】(506422250)コリア ナショナル オープン ユニバーシティ インダストリー−アカデミック コーポレーション ファンデーション (1)
【Fターム(参考)】