説明

免疫学的測定方法

【課題】 いわゆる競合的免疫測定方法であって、固相に抗原と等価な物質を均一に固定することが可能な方法を提供する。
【解決手段】 サンプル中の測定対象物質を、固相に固定化された、測定対象物質と等価な等価物質、及び測定対象物質と等価物質に対して特異的に結合する標識された標識抗体を用いて測定する免疫学的測定法であって、等価物質が、標識抗体が結合しないキャリアー物質と結合され、固相結合されたキャリアー物質と特異的に結合する特異結合物質を介して固相に固定化される方法により、前記課題を解決する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、サンプル中の測定対象抗原を、固相に固定化された(結合された)測定対象抗原と免疫学的に等価な等価物質及び測定対象物質と等価物質に対して特異的に結合する標識された抗体を用いて測定する免疫学的測定法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
血液中に存在する特定の物質が特定の疾患と関連していることがある。例えば当該物質の濃度が一定の範囲を超えて高値又は低値を示す場合、当該特定の疾患の発症や重篤化を意味する場合があり、臨床診断の分野で当該物質の濃度測定が盛んに実施されている。
【0003】
例えば血液中のホモシステイン(メチオニンが体内で代謝される過程で生成する中間物質のひとつであり、生成したホモシステインはメチオニンへの変換、又はシスタチオニンの形成を経たシステインへの変換のどちらかの経路により急速に代謝される)について言えば、その濃度が高値となっている状態は心臓血管疾患の危険因子のひとつであることが示唆され、その濃度測定が注目されている。
【0004】
血液中の蛋白質、ステロイド、ビタミンその他、免疫学的に抗原性を示す物質(人為的に当該物質に対する抗体を生成し得る物質)の濃度測定法として、免疫学的測定法が知られている。ホモシステインの免疫学的測定法(特許文献1)であれば、血液をサンプルとして、まずSS結合により血中成分と結合しているホモシステインを遊離させ、次に酵素によってアデノシンを付加してホモシステインを免疫学的に測定可能な誘導体であるS−アデノシルホモシステインに変換する。引き続き、このS−アデノシルホモシステインを、標識された抗S−アデノシルホモシステイン抗体に対して競合的に結合し、いわゆるB/F(バウンド/フリー)分離操作の後に固相に結合した標識抗体量を測定することで、ホモシステイン濃度を測定する(いわゆる競合測定法)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第2870704号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載されたホモシステインの免疫学的測定法では、S−アデノシルホモシステインを固定化した水不溶性の固相を使用する。固相へのS−アデノシルホモシステインの固定化(結合)は、通常、ウシ血清アルブミン等のキャリアー物質にS−アデノシルホモシステインを結合させ、この複合体中のキャリアー物質を固相に物理的に吸着させることにより行なわれる。しかしながら、このような固定化ではS−アデノシルホモシステインを固相へ均一に固定(結合)することが困難である。そのため、固相へのS−アデノシルホモシステインの結合量の変動に伴って測定結果が変動し、再現性が悪化することがある。再現性の悪化を回避するために固相へのS−アデノシルホモシステインの結合量を制御しようとすると、固相を調製する際、その品質管理のための工程が煩雑になってしまうという課題がある。
【0007】
また更に、キャリアー物質との結合によってS−アデノシルホモシステインの一部分は抗体と免疫反応し得ない状態(例えばキャリアー物質に内包される等)となってしまい、競合させる抗S−アデノシルホモシステイン標識抗体との効率的な免疫反応が妨げられる問題もある。これを回避しようとすると、競合させる抗S−アデノシルホモシステイン抗体として、S−アデノシルホモシステインとキャリアー物質との結合により免疫反応が妨げられることのないモノクローナル抗体等を使用せざるを得ないという課題もある。
【0008】
以上、ホモシステインの免疫学的測定を具体例として説明したが、前記課題は、測定対象物質を、固相に固定化された測定対象物質と免疫学的に等価な等価物質及び測定対象物質と等価物質に対して特異的に結合する標識された抗体を用いて測定する免疫学的測定法、特に等価物質をキャリアー物質に結合させたうえで固相に物理的に吸着させて使用する方法においては、共通の課題である。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、従来の技術に見いだされる前記課題を解決すべく鋭意検討を行ない、本発明を完成するに至った。
【0010】
上記課題を解決し得る本発明は、サンプル中の測定対象物質を、
固相に固定化された、測定対象物質と免疫学的に等価な等価物質、及び
測定対象物質と等価物質に対して特異的に結合する標識された標識抗体、
を用いて測定する免疫学的測定法であって、等価物質が、
標識抗体が結合しないキャリアー物質と結合され、
固相に結合された、キャリアー物質と特異的に結合する特異結合物質を介して固相に固定化されることを特徴とする。
【0011】
また本発明は、サンプル中の測定対象物質を測定するための免疫学的測定試薬であって、
固相に固定化された、測定対象物質と免疫学的に等価な等価物質、及び
測定対象物質と等価物質に対して特異的に結合する標識された標識抗体とからなり、等価物質が、
標識抗体が結合しないキャリアー物質と結合され、
固相に結合された、キャリアー物質と特異的に結合する特異結合物質を介して固相に固定化されることを特徴とする。
【0012】
そして本発明は、サンプル中の測定対象物質を測定するための免疫学的測定試薬の製造方法であって、キャリアー物質と特異的に結合する特異結合物質を固定化した固相に緩衝液を加えて凍結し、測定対象物質と免疫学的に等価な等価物質とキャリアー物質との結合物を加えて更に凍結し、その後に凍結乾燥することを特徴とする。
【0013】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0014】
本発明においてサンプルとは、後述する測定対象物質を含むものであり、例えば、
測定対象物質を含む血液、唾液、尿等の体液に代表される生体試料、
測定対象物質を含む河川、湖沼、下水等の環境水、
測定対象物質を含む食品、等があげられるが、本発明は液相系での反応を利用するものであることから、本来液体ではないものについては液体に懸濁等したもの、又は、それ自体公知の手法により測定対象物質を抽出した液体を試料とすることができる。なお、サンプル中に免疫反応を妨害する妨害物質の存在が予見される場合には、本発明の実施に先立ち、妨害物質を除去する、又は、測定対象物質について精製操作を行なって、免疫反応に影響し得ない程度にまで測定対象物質と共存する妨害物質を低減しておくことが好ましい。
【0015】
測定対象物質は、低分子量(好ましくは分子量2000以下)であって、後述する標識抗体によって特異的に結合されるものであれば特別の制限はないが、その一例として、ホモシステインのようなアミノ酸、葉酸、ビタミンB12(シアノコバラミン)、ビタミンD(コレカルシフェロール、カルシジオール)のようなビタミン、甲状腺刺激ホルモンレセプター(TSHR)のような蛋白質、トリヨードサイロニン(T3)、チロキシン(T4)、3,5−ジヨード−L−チロニン(T2)、エストロン(E1)、エストラジオール(E2)、エストリオール(E3)、プロゲステロン、コルチゾールのようなホルモン、糖鎖や脂質等の生体高分子、ウイルス、薬理作用を有する化学物質、ビスフェノールAのような内分泌かく乱物質、があげられる。
【0016】
本発明で使用する等価物質は、測定対象物質と免疫学的に等価な物質であり、固相に固定化されたものである。免疫学的に等価とは、後述する標識抗体との反応性において測定対象物質と同等であることを意味し、例えば測定対象物質が蛋白質である場合は、その部分ペプチド、そのサブユニット又はその誘導体等があげられるが、サンプルと同様の原料
から予め抽出された測定対象物質(以下、「人為的に調製された」等と表現することがある)を使用することが特に好ましい。例えば、測定対象物質がホモシステインであり、これを前述したようにS−アデノシルホモシステインに変換して本発明を適用する場合には、別途調製した(人為的に調製した)S−アデノシルホモシステインを等価物質として使用することが特に好ましい。また測定対象物質が葉酸の場合は、人為的に調製した葉酸を等価物質として使用することが特に好ましい。
【0017】
等価物質を固定化する固相は、免疫学的測定において一般に実施されるB/F(バウンド/フリー)分離操作によって液相からの分離を可能とする水不溶性のものであれば何ら制限はなく、例えばアガロースやデキストランといった天然の材料、ポリエチレンやポリスチレンといった合成ポリマー材料、金属材料等、さまざまな水不溶性材料で調製することができる。その形状としては粒子状、棒状、平板(シート)状のほか、例えば本発明を実施するための容器の内壁を固相として利用することもできる。中でも、比較的大きい表面積を提供し得る球状のものが、測定対象物質に特異的に結合する物質を多量に結合できる点で好ましい。固相の大きさとしては特に制限はないが、測定対象物質との反応性を向上し、免疫反応に要する時間を短時間化するためには小さい固相を使用することが好ましく、特に好ましくは粒径が0.3μmから10μm程度の微粒子である。なお固相は、磁力による撹拌やB/F分離操作のために、磁性物質を内包するなどしていても良い。
【0018】
本発明は、前記した等価物質を固相に固定化するに当たり、化学結合や物理的吸着を利用して両者を直接結合させるのではなく、等価物質をキャリアー物質と結合し、一方で固相にはキャリアー物質と特異的に結合する特異結合物質を結合しておき、キャリアー物質と特異結合物質との結合により、等価物質を間接的に固相に結合する。
【0019】
キャリアー物質は、後述する標識抗体が結合せず、かつ、等価物質と結合することができるものであれば特に制限はない。例えば牛血清アルブミン(BSA)、アビジン、ビオチン、レセプタータンパク質、フルオレセイン、DNAがあげられる。中でもフルオレセインや入手が容易で単価の安いBSAを好適なキャリアー物質として例示できる。キャリアー物質と等価物質との結合には、化学的結合を利用することが好ましい。キャリアー物質と等価物質との結合場所を人為的に制御し得るからである。なおキャリアー物質は単一かつ均一な分子である必要はなく、二種類以上の混合物であっても良い。
【0020】
特異結合物質は、キャリアー物質に特異的に結合し得るものであれば何ら制限はなく、アビジンに対するビオチン、ホルモンに対するレセプター等を例示することができる。中でも、フルオレセインやBSA等の抗原性を有する物質をキャリアー物質として使用する場合には、製造が容易で、しかも十分な特異性を有する、前記キャリアー物質に対する抗体を使用することが特に好ましい。なお特異結合物質は単一かつ均一な分子である必要はなく、二種類以上の混合物であっても良い。なお、特異結合物質は、必ずしもキャリアー物質そのものと特異的に結合するものである必要はなく、例えばキャリアー物質をフルオレセイン化し、一方で特異結合物質としてフルオレセインと特異的に結合する物質(例えば抗フルオレセイン抗体)を用いることもできる。固相と特異結合物質とは、例えば共有結合等の化学的な方法により、又は吸着により、相互に結合する。
【0021】
等価物質は、上記したように、予め間接的に固相に固定化して使用することもできるが、キャリアー物質と特異結合物質とが結合していない状態で測定に供し、本発明の実施の過程で結合することもできる。
【0022】
本発明では、測定対象物質と等価物質に対して特異的に結合する抗体に、検出可能なシグナルを生成する標識物質を結合した標識抗体を使用する。前記したとおり、等価物質として測定対象物質そのものを使用する場合、標識抗体は、測定対象物質を免疫源として使用すること等により容易に調製することが可能である。また標識抗体は、二種類以上の混合物であっても単一かつ均一な抗体であっても良く、それぞれポリクローナル抗体又はモノクローナル抗体を使用することができるが、中でも製造方法自体が既に確立され、しかもひとたび抗体産生細胞であるハイブリドーマを樹立すれば、当該ハイブリドーマを培養するのみで所望量の抗体を得ることができるモノクローナル抗体が、反応性の均一さ等の面からも特に好ましい。
【0023】
シグナルを生成する標識物質としては、それ自体が例えば光学的な検出や放射線の検出により検出し得るか、又は他の物質に作用して例えば光学的な検出を可能とする物質であり、具体的には酵素、化学発光物質、生物発光物質、放射性同位元素、呈色物質等を例示することができる。抗体と標識物質との結合は、例えば共有結合等の化学的な方法により、又は両者に結合した親和性物質同士の物理的な結合により、相互に結合する。本発明においては、予め両者を結合したものを標識抗体として使用することもできるが、本発明の実施の過程で両者をアビジン−ビオチン等の親和性物質同士の結合によって結合することもできる。
【0024】
以上に説明した測定対象物質、等価物質及び標識抗体を混合すると、標識抗体に対して測定対象物質及び等価物質が競合的に結合し、サンプルに由来する測定対象物質の量が多量であれば、標識抗体と結合する等価物質の量は相対的に減少する。等価物質は最終的に間接的に固相に結合されることから、一定時間の免疫反応の後にB/F分離操作を実施して、液相中に存在する標識物質の量に依存する、又は、固相と複合体を形成した標識物質の量に依存するシグナルを測定し、測定対象物質の濃度を測定することができる。本発明では、測定対象物質、前記等価物質及び前記標識抗体を遊離状態(キャリアー物質と結合した等価物質を固相に結合させることなく)で接触させて免疫反応を生じさせ、その過程で、又は、それらの免疫反応を生じさせた後に、等価物質に結合したキャリアー物質と固相に結合した特異結合物質を結合し、等価物質を固相に固定化することが好ましい。後者のようにすることで、測定対象物質、等価物質及び標識抗体が迅速に反応し、結果的に測定値の再現性を向上させることが可能となるからである。なおこのような測定を実施するためには、例えばまず測定対象物質、等価物質及び標識抗体のみを反応容器に投入し、後に特異結合物を結合した固相を投入することが例示できる。また測定試薬として、等価物質と固相を結合することなく凍結した試薬、更に好ましくは凍結乾燥をした試薬を用い、測定対象物質を含むサンプルを投入して乾燥物を溶解することにより、測定対象物質、等価物質及び標識抗体の反応と、等価物質と固相の反応を同時に行ない測定する方法が例示できる。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、サンプル中の測定対象物質を再現性よく測定することが可能となる。このように本発明は、再現性を良好にした、低濃度の測定対象物質の測定を精度良く測定可能な方法、試薬及びその製造方法を提供するものである。
【0026】
本発明はまた、固相表面への等価物質の結合に際し、キャリアー物質を直接結合せず、特異結合物質を介して結合するようにした結果、キャリアー物質の固相表面への接触面積を減少し、より多くの等価物質の結合を可能とする。またそのような等価物質の結合を可能とすることにより、免疫反応に関与し得る状態で等価物質を固相に結合することを可能とする。これらを通じ、本発明によれば、前記効果を達成し、更に測定に要求される等価物質の量を削減することも可能になる。
【0027】
本発明は、特にS−アデノシルホモシステインや葉酸のような、単にキャリアー物質に結合しただけでは固相表面に均一に結合することが困難であった等価物質に対して効果的である。本発明を適用することによって、例えば、固相表面へのS−アデノシルホモシステイン(又は葉酸)の結合量を均一化し、その変動に伴って測定結果が変動することを回避して再現性を良好にすることが可能になる。従来は、この課題を回避するため、固相表面へのS−アデノシルホモシステイン(又は葉酸)の結合量を制御するために必要以上のS−アデノシルホモシステイン(又は葉酸)を消費し、しかも固相調製の際に品質管理のための煩雑な工程を要していたが、それを省略することが可能になる。
【実施例】
【0028】
以下、アミノ酸の一例であるホモシステイン及びビタミンの一例である葉酸での実施例により本発明を更に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0029】
実施例1 ホモシステイン測定試薬、その製造、それを用いた測定
(1)フルオレセイン化S−アデノシルホモシステインの調製
市販のS−(5’−アデノシル)−L−ホモシステイン(シグマアルドリッチ社製)(以下、S−アデノシルホモシステイン又はSAHと略記する)とウシ血清アルブミン(BSA)との結合物(SAH−BSA)0.5mgを0.25mLのホウ酸緩衝液(50mmol/L、pH9.0)に溶解した。そこにN,N−ジメチルホルムアミドに溶解した6−(Fluorescein−5−carboxamide)hexanoic acid succinimidyl ester(5−SFX)を5等量添加し、37℃で3時間反応させ、フルオレセイン化した。BSAを含む0.1mol/Lトリス緩衝液(pH7.5)で希釈してフルオレセイン化S−アデノシルホモシステイン(A)を作製した。なお(A)中のS−アデノシルホモシステインは後に調製した(C)と特異的に反応し、その反応性は血液サンプルを処理して得たS−アデノシルホモシステインと同等であった。また(A)中のBSAは、後に調製した(C)と結合しなかった。
【0030】
(2)固相の調製
固相には、直径約2mmの球状のプラスチックビーズを使用した。プラスチックビーズ1個あたり、フルオレセインに対して特異的に結合する抗フルオレセイン抗体0.1μgを加え、30℃で17時間インキュベートして抗体をビーズに吸着させた。洗浄したビーズを53℃に温調した1%のBSA溶液に3時間置いてブロッキング処理を行ない、抗フルオレセイン抗体を固定化したビーズ(B)を得た。
【0031】
(3)検出用標識抗体溶液の調製
市販のS−アデノシルホモシステインを抗原としてマウスを免疫し、S−アデノシルホモシステインに対して特異的に結合する抗S−アデノシルホモシステイン抗体を調製した。調製した抗体とアルカリ性ホスファターゼ(ALP)を結合後、BSAを含む0.1mol/Lトリス緩衝液(pH7.5)で希釈してALP標識抗S−アデノシルホモシステイン抗体(C)を作製した。
【0032】
(4)標準液の測定
市販のS−アデノシルホモシステインを0.1mol/Lトリス緩衝液(pH7.5)で希釈し、表1に示した濃度のホモシステイン測定用標準液を調製した。なお、S−アデノシルホモシステインを含まない前記緩衝液を、ゼロ濃度の標準液とした。前記(B)に、前記(A)、標準液及び前記(C)を加え、市販の免疫測定装置(商品名AIA−600II、東ソー株式会社製)にセットし、37℃で10分間反応させた。B/F分離操作の後、ALPの基質である4−メチルウンベリフェリルリン酸(4MUP)を加え、ALPによって4MUPが分解されて生成する4−メチルウンベリフェロン(4MU)の増加速度(nmol/L/秒)を、4MUからの蛍光強度を測定して算出した。
【0033】
結果を表1に示す。なお表1の結果は、各濃度の標準液に対して同様の操作を5回の繰
り返した平均値である。
【0034】
(5)血液サンプルの測定
同意を得た健常人から採取した血液サンプルに還元剤、アデノシンを付加する酵素及びアデノシンを加えて37℃で10分間インキュベーションし、サンプル中のホモシステインをS−アデノシルホモシステインに変換後、免疫測定を行なった。前記(B)に対して前記(A)、前記処理を行なったサンプル及び前記(C)を加え、前記市販の免疫測定装置にセットし、37℃で10分間反応させた。B/F分離操作の後、4MUPを加え、4MUの増加速度(nmol/L/秒)を、4MUからの蛍光強度を測定して算出した。
【0035】
結果を表1に示す。なお表1の結果は、同様の操作を5回繰り返した平均値である。また表中のサンプル濃度は、HPLC法によって測定した値である。
【0036】
比較例1
(1)固相の調製
直径約2mmの球状のプラスチックビーズ1個あたり、0.01μgの前記SAH−BSAと0.2μgのBSAを加え、30℃で17時間インキュベートしてS−アデノシルホモシステインをビーズに吸着させた。洗浄したビーズを53℃に調温した0.1%のブロッキング薬(商品名ブロックエース、DSファーマバイオメディカル社製)溶液に3時間置いてブロッキング処理を行ない、S−アデノシルホモシステインを固定化したビーズ(D)を得た。
【0037】
(2)標準液の測定
前記(D)に、実施例1と同じ標準液及び前記(C)を加え、前記市販の免疫測定装置にセットし、37℃で10分間反応させた。B/F分離操作の後、4MUPを加え、4MUの増加速度(nmol/L/秒)を、4MUからの蛍光強度を測定して算出した。
【0038】
結果を表1に示す。なお表1の結果は、各濃度の標準液に対して同様の操作を5回繰り返した平均値である。
【0039】
(3)血液サンプルの測定
前記(D)に対して、実施例1(5)に記載の処理を行なったサンプル及び前記(C)を加え、前記市販の免疫測定装置にセットし、37℃で10分間反応させた。B/F分離操作の後、4MUPを加え、4MUの増加速度(nmol/L/秒)を、4MUからの蛍光強度を測定して算出した。
【0040】
結果を表1に示す。なお表1の結果は、同様の操作を5回繰り返した平均値である。
【0041】
【表1】

表1によれば、実施例1、即ち本発明の測定方法を行なった場合、比較例1の方法と比較して、標準液とサンプルのいずれにおいても測定結果の変動係数が小さくなり、繰り返し測定の再現性が向上することが分かる。このことから、特異結合物質(抗体)を介して等価物質を固相に結合する本発明の方法では、固相表面全面にわたり等価物質が均一に固定化されているものと考えられる。また、1回の測定に使用する固相抗原の使用量は、抗体を用いない固定化法と比較して約2/3となり、少ない抗原量でも効率良く免疫反応ができていることも分かる。
【0042】
実施例2 凍結乾燥したホモシステインの測定試薬、その製造、それを用いた測定
(1)凍結乾燥試薬の製造
プラスチック製容器に、まず前記(B)と前記(C)を入れ、凍結した。続いて前記(A)を更に加えて凍結した。このようにして得た凍結試薬を乾燥させることで、ホモシステイン測定用の試薬(凍結乾燥物)を製造した。
【0043】
(2)測定
上記のようにして製造した凍結乾燥試薬に、前記ゼロ濃度標準液を加え、前記と同様に市販の免疫測定装置を使用してALPによって4MUPが分解されて生成する4MUの増加速度(nmol/L/秒)を、4MUからの蛍光強度を測定して算出した。
【0044】
結果を表2に示す。なお表2の結果は、同様の操作を5回繰り返した平均値である。
【0045】
比較例2
(1)凍結乾燥試薬の製造
プラスチック製容器に、まず前記(A)と前記(B)を入れて両者を結合させた後、凍結した。続いて前記(C)を更に加えて凍結した。このようにして得た凍結試薬を乾燥させることで、ホモシステイン測定用の試薬(凍結乾燥物)を製造した。
【0046】
(2)測定
上記のようにして製造した凍結乾燥試薬に、前記ゼロ濃度標準液を加え、前記と同様に市販の免疫測定装置を使用してALPによって4MUPが分解されて生成する4MUの増加速度(nmol/L/秒)を、4MUからの蛍光強度を測定して算出した。
【0047】
結果を表2に示す。なお表2の結果は、同様の操作を5回繰り返した平均値である。
【0048】
【表2】

表2によれば、実施例2、即ち本発明の製造方法によって試薬を製造した場合、比較例2の固相に等価物を予め結合させた後に凍結乾燥する方法と比較して、測定結果の変動係数が小さくなり、繰り返し測定の再現性が向上することが分かる。このことから、凍結乾燥試薬にサンプル(実施例2及び比較例2においてはゼロ濃度標準液)が添加され、免疫反応が開始される時点では、等価物質を固相に固定化せず、遊離状態にしておくほうが、標識抗体と測定対象物質の反応及び標識抗体と等価物質の反応が促進されると推察される。
【0049】
実施例3 葉酸の免疫反応試薬、その製造、それを用いた測定
(1)フルオレセイン化葉酸溶液の調製
市販の葉酸(和光純薬製)とウシ血清アルブミンとの結合物(BSA−FOL)10mgを4.4mLのホウ酸緩衝液(50mmol/L、pH9.0)に溶解させた。そこにN,N−ジメチルホルムアミドに溶解した5−SFXを5等量添加し、37℃で3時間反応させ、フルオレセイン化した。BSAを含む0.05mol/Lトリス緩衝液(pH7.5)で希釈し、フルオレセイン化葉酸溶液(E)を作製した。
【0050】
(2)検出用標識抗体溶液の調製
市販の葉酸を抗原としてマウスを免疫し、葉酸に対して特異的に結合する抗葉酸抗体を調製した。調製した抗体とALPを結合後、BSAを含む0.05mol/Lトリス緩衝液(pH7.5)で希釈し、ALP標識抗葉酸抗体溶液(F)を作製した。
【0051】
(3)標準液の測定
市販の葉酸(和光純薬製)を0.01mol/Lリン酸緩衝液(pH7.5)で希釈し、表3に示した濃度の葉酸測定用標準液とした。なお、葉酸を含まない前記緩衝液をゼロ濃度の標準液とした。前記(B)に、前記(E)、標準液及び前記(F)を加え、前記市販の免疫測定装置にセットし、37℃で40分間反応させた。B/F分離操作の後、4MUPを加え、4MUの増加速度(nmol/L/秒)を、4MUからの蛍光強度を測定して算出した。結果を表3に示す。なお表3の結果は、各濃度の標準液に対して同様の操作を3回繰り返した平均値である。
【0052】
(4)血液サンプルの測定
同意を得て健常人から採取した血液サンプルに還元剤を加えて、37℃で10分間インキュベーションし、サンプル中の葉酸結合タンパク質から葉酸を遊離させた後、免疫反応を行なった。前記(B)に対して前記(E)、前記処理を行なったサンプル及び前記(F)を加え、前記市販の免疫測定装置にセットし、37℃で40分間反応させた。B/F分離操作の後、4MUPを加え、4MUの増加速度(nmol/L/秒)を蛍光強度を測定して算出した。
【0053】
結果を表3に示す。なお表3の結果は、同様の操作を3回繰り返した平均値である。また表中のサンプル濃度は、AIA−PACK FOLATE(東ソー株式会社製)と前記市販の免疫測定装置(AIA−600II、東ソー株式会社製)によって測定した値である。
【0054】
比較例3
(1)固相の調製
直径約2mmの球状のプラスチックビーズ1個あたり、0.03μgのBSA−FOLと0.2μgのBSAを加え、30℃で17時間インキュベートして葉酸をビーズに吸着させた。洗浄したビーズを53℃に調温した0.1%のブロッキング薬(商品名ブロックエース、DSファーマバイオメディカル社製)溶液に3時間置いてブロッキング処理を行ない、葉酸を固定化したビーズ(G)を得た。
【0055】
(2)標準液の測定
前記(G)に、実施例3と同じ標準液及び前記(F)を加え、前記市販の免疫測定装置にセットし、37℃で40分間反応させた。B/F分離操作の後、4MUPを加え、ALPによって4MUPが分解されて生成する4MUの増加速度(nmol/L/秒)を、4MUからの蛍光強度を測定して算出した。
【0056】
結果を表3に示す。なお表3の結果は、各濃度の標準液に対して同様の操作を3回繰り返した平均値である。
【0057】
(3)血液サンプルの測定
前記(G)に対して、実施例3(4)に記載の処理を行なったサンプル及び前記(F)を加え、前記市販の免疫測定装置にセットし、37℃で40分間反応させた。B/F分離操作の後、4MUPを加え、4MUの増加速度(nmol/L/秒)を、4MUからの蛍光強度を測定して算出した。
【0058】
結果を表3に示す。なお表3の結果は、同様の操作を3回繰り返した平均値である。
【0059】
【表3】

表3によれば、実施例3では標準液およびサンプル中の葉酸による競合反応が成立し、葉酸濃度に対応した4MUの蛍光強度増加速度の変化が見られる。また変動係数も本測定系での許容範囲内に収まっている。このことから、特異結合物質(抗体)を介して等価物質を固相に結合する本発明の方法では、固相表面全面にわたり等価物質が均一に固定化され、免疫反応に関与できているものと考えられる。一方、等価物質をキャリアー物質と結合させ、当該キャリアー物質を固相に直接結合させる比較例3では、競合反応が成立しておらず、サンプル中の葉酸測定には適用できないことが分かった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
サンプル中の測定対象物質を、
固相に固定化された、測定対象物質と免疫学的に等価な等価物質、及び
測定対象物質と等価物質に対して特異的に結合する標識された標識抗体、
を用いて測定する免疫学的測定法であって、等価物質が、
標識抗体が結合しないキャリアー物質と結合され、
固相に結合された、キャリアー物質と特異的に結合する特異結合物質を介して固相に固定化されることを特徴とする、前記測定法。
【請求項2】
前記測定対象物質が血液成分に由来するS−アデノシルホモシステインであり、前記等価物質が人為的に調製されたS−アデノシルホモシステインであり、前記キャリアー物質がフルオレセイン又は牛血清アルブミンであることを特徴とする、請求項1に記載の測定法。
【請求項3】
前記測定対象物質が血液成分に由来する葉酸であり、前記等価物質が人為的に調製された葉酸であり、前記キャリアー物質がフルオレセイン又は牛血清アルブミンであることを特徴とする、請求項1に記載の測定法。
【請求項4】
前記測定対象物質、前記等価物質及び前記標識抗体を遊離状態で接触させて免疫反応を生じさせる過程又はそれらの免疫反応を生じさせた後、等価物質を固相に固定化することを特徴とする、請求項1から3のいずれかに記載の測定法。
【請求項5】
サンプル中の測定対象物質を測定するための免疫学的測定試薬であって、
固相に固定化された、測定対象物質と免疫学的に等価な等価物質、及び
測定対象物質と等価物質に対して特異的に結合する標識された標識抗体とからなり、等価物質が、
標識抗体が結合しないキャリアー物質と結合され、
固相に結合された、キャリアー物質と特異的に結合する特異結合物質を介して固相に固定化されることを特徴とする、前記測定試薬。
【請求項6】
前記測定対象物質が血液成分に由来するS−アデノシルホモシステインであり、前記等価物質が人為的に調製されたS−アデノシルホモシステインであり、前記キャリアー物質がフルオレセイン又は牛血清アルブミンであることを特徴とする、請求項5に記載の測定試薬。
【請求項7】
前記測定対象物質が血液成分に由来する葉酸であり、前記等価物質が人為的に調製された葉酸であり、前記キャリアー物質がフルオレセイン又は牛血清アルブミンであることを特徴とする、請求項5に記載の測定試薬。
【請求項8】
サンプル中の測定対象物質を測定するための免疫学的測定試薬の製造方法であって、キャリアー物質と特異的に結合する特異結合物質を固定化した固相に緩衝液を加えて凍結し、測定対象物質と免疫学的に等価な等価物質とキャリアー物質との結合物を加えて更に凍結し、その後に凍結乾燥することを特徴とする、前記製造方法。
【請求項9】
前記測定対象物質が血液成分に由来するS−アデノシルホモシステインであり、前記等価物質が人為的に調製されたS−アデノシルホモシステインであり、前記キャリアー物質がフルオレセイン又は牛血清アルブミンであることを特徴とする、請求項8に記載の製造方法。
【請求項10】
前記測定対象物質が血液成分に由来する葉酸であり、前記等価物質が人為的に調製された葉酸であり、前記キャリアー物質がフルオレセイン又は牛血清アルブミンであることを特徴とする、請求項8に記載の製造方法。

【公開番号】特開2012−150104(P2012−150104A)
【公開日】平成24年8月9日(2012.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−277597(P2011−277597)
【出願日】平成23年12月19日(2011.12.19)
【出願人】(000003300)東ソー株式会社 (1,901)