説明

免疫応答を調節するための組成物および方法

本発明は、Fc受容体結合ポリペプチドおよび抗原ポリペプチドを含む融合タンパク質を提供する。当該融合タンパク質は、Fc受容体結合ポリペプチドおよび抗原ポリペプチドを接合するリンカー配列またはヒンジ部をさらに含んでもよい。当該Fc受容体結合ポリペプチドは典型的にヒトIgG免疫グロブリンのCH2定常ドメインを含む。当該抗原ポリペプチドは、免疫応答を誘導するあらゆるポリペプチドであってもよい。当該融合タンパク質の対象への投与は、融合タンパク質内に提供された抗原ポリペプチドに対して誘導される細胞傷害性Tリンパ球応答をもたらす。本発明はさらに、本発明の融合タンパク質を用いた、対象における疾患状態の処置のための方法にまで及ぶ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、宿主における免疫応答の調節に用いるための免疫複合体を提供する。さらに具体的には、Fc受容体への結合に際して、Fc受容体および関連する結合融合タンパク質の内部移行を引き起こす、Fc受容体結合ポリペプチドを含む融合タンパク質が提供される。当該融合タンパク質は、病原性生物、特にウイルス性病原体によって引き起こされる感染の処置および予防のための方法において、特段の有用性を有する。
【背景技術】
【0002】
適応的免疫応答は、可溶性分子、特に免疫グロブリンに関係する体液性、およびリンパ球、特にT細胞に関係する細胞性の、2つの相補的な機構によって調節される。
【0003】
免疫グロブリンのFcドメインは、主に補体結合およびFc受容体(FcR)結合であるエフェクター機能を有することが示されている。Fc受容体は免疫グロブリンの定常ドメインに結合し、数多くの受容体が、オプソニン作用およびADCCを含む補助機能を調節すると考えられると定義されている(Daeron 1997、M. Annual Review Immunology、15; 203-234.、Ravetch and Clynes、Annual Review of Immunology. 1998. 16:421-432)。異なるFc受容体は、結合すると、異なる下流シグナル伝達を調節することができる。特に、いくつかのFc受容体は、結合すると、免疫応答を活性化することが示され、一方、他のFc受容体は、免疫応答を抑制する。したがって、FcRsは、それらの細胞質ドメインにおける活性化(ITAM)または抑制(ITIM)モチーフの存在に依存して、免疫応答に対して活性化するかまたは抑制するかのいずれかであることが示されている(Daeron、M. Annual Review Immunology、15; 203-234. 1997)。
【0004】
以前の特許は、FcRsに対する抗体を含む二官能性の剤の使用を介して、活性化FcRsに抗原をターゲティングすることにより、免疫応答を活性化することを目指していた(例えばWO 96/40788参照)。これらの試薬は、FcRに結合するが、それらの内部移行を誘導しないので、関連するプロセシングおよび抗原提示を誘導しない(T. Keler et.al. 2002 J Immunol. 165: 6738-6742)。免疫グロブリンのFcドメインを介したFcRへの結合によって、当該結合が十分に高い結合力で生じた場合に、Fc受容体の内部移行は誘導される(A. Yada et al. 2003 Cell Immunol 225(1):p21-32、P.T. Harrison et al. 1994 J Biol Chem. 269 (39): 24396- 24402)。これはしかし、この結合相互作用は、CDR−移植によって様々なドメインに導入された外来配列を含む、修飾された完全免疫グロブリンの使用によって、模倣することができるが(WO 02/058728)、FcRsの内部移行を誘導するために、Fcドメインが必須および/または十分であるかどうかは不明確である(P.T. Harrison et al. 1994 J Biol Chem. 269 (39): 24396- 24402、A Yada et al. 2003 Cell Immunol 225(1):p21-32)。さらに、Fcドメイン自体が、FcRsの内部移行を誘導するのに十分であるかも不明確である。事実、サイトカインおよびTNFR−Fc融合タンパク質エタネルセプト(ENBRELTM)などの他の免疫刺激剤のための多数のFc−融合タンパク質の開発と共に、Fcドメインは、治療用タンパク質の循環半減期を伸ばすために広く使用されている。
【0005】
広範囲な実験的研究および革新的な思考の後に、本発明者は、リガンド結合の後のFcRの内部移行に必要なファクターを同定した。本発明の融合タンパク質は、抗原ポリペプチド配列およびFcR結合ポリペプチドを含む。さらに、本発明の融合タンパク質は、抗原配列に対する免疫応答を誘導する。当該融合タンパク質において提供されるFcR結合ポリペプチドは、Fc受容体および結合した融合タンパク質の内部移行が生じるほどの十分な結合親和性でFc受容体に結合するように、選択される。FcR/免疫複合体錯体の内部移行は、免疫複合体が細胞の抗原プロセシング経路によって処理されることを可能にする。抗原プロセシングは免疫複合体のフラグメントへの分解を引き起こし、これらのフラグメントを免疫系の細胞へ提示する。
【0006】
結合したFc受容体の内部移行が誘導されないとき、リガンド結合は、Fc受容体の細胞質部分によって調節される細胞内シグナル伝達をもたらすにすぎない。このシグナル伝達は免疫応答の一因となり得るが、FcRの内部移行を生じるほど十分ではないので、FcRリガンドへ複合した抗原ペプチドのプロセシングおよび提示は起こらない。
【0007】
インフルエンザウイルスは、A、BおよびCの3タイプに分類されるオルトミクソウイルスである。インフルエンザAウイルスは、それらの表面タンパク質、ヘマグルチニン(HAまたはH)およびノイラミニダーゼ(NAまたはN)によって、サブタイプに分けることができる。14の公知のHサブタイプおよび9の公知のNサブタイプが存在する。全てのHサブタイプは鳥類において発見されたが、3つのHサブタイプ(H1、H2およびH3)および2つのNサブタイプ(N1およびN2)のみが、一般にヒトに広まっていると報告されている。
【0008】
ヒトにおける季節的なインフルエンザの流行は、「抗原連続変異」と呼ばれるプロセスにおける、ヘマグルチニンおよびノイラミニダーゼタンパク質内の抗原サイトにおけるアミノ酸変化に関連する。主な世界的流行は、「抗原不連続変異」と呼ばれるプロセスにおける、現在広まっているヒトウイルスの遺伝的背景への、動物由来インフルエンザウイルスからの新しいヘマグルチニンおよびノイラミニダーゼ遺伝子の、再集合による導入に関連する。
【0009】
現在、ヒトにおける使用のためのH5N1に対するワクチンは存在しない。
WHOによれば、H5N1の2003株に対して開発中のワクチンは、2004ベトナムH5N1株に対する保護用ではない。ヒト治療用途のためのワクチン開発は、ヒトからヒトへ感染可能な株が出現するまで可能ではなく、広範囲の投与が準備できるまで何ヶ月もかかる。したがって、感染性株由来のワクチンの使用を介してインフルエンザ流行を防ぐことは、病害拡大をコントロールするための確実な方法ではない。したがって、複数のインフルエンザ株およびサブタイプからの感染を予防および処置するための、広域スペクトラム治療薬の開発が非常に望まれる。
【0010】
本発明の発明者は、驚くべきことに、免疫複合体の抗原部が由来する病原体に対する長期防御免疫を調節することができる、Fcタンパク質−抗原融合タンパク質免疫複合体を提供する。病原体に対して調節される免疫は、細胞傷害性Tリンパ球(CTL)応答によって誘導され、ここで、調節される応答は意外にも重要な中和抗体応答要素が欠如している。一般に、ワクチンが投与される対象における長期防御免疫を調節するためののために不可欠であると考えられる免疫応答の体液性要素であるので、これは重要である。
【0011】
本発明の融合タンパク質は、驚くべきことに、病原体の特定株のみならず、例えば突然変異または抗原連続変異の結果生じ得る当該病原体のさらなる関連株への防御免疫を対象に提供することができる免疫応答を誘導することが可能である。驚くべきことに、この免疫は、本発明の融合タンパク質免疫複合体が投与される対象によって重大な体液性応答が開始されることなく、実質的に与えられ、したがって、抗体産生およびセロコンバージョンは、実質的に、対象における病原体に対する長期防御免疫の一因とならない。本発明者は、当該免疫複合体が、感染症、疾患状態、例えば、HIVおよび、特にインフルエンザなどのウイルス病原体によって調節される疾患に対する長期防御免疫を調節することにおいて特定の有用性を有し、ここで抗原不連続変異および抗原連続変異などの出来事は、当該疾患を引き起こす病原因子の変化を引き起こすことを同定した。さらに、当該免疫複合体は、高率の配列突然変異および変化を示す病原体に対する免疫応答の誘導において特定の有用性をも有する。
【発明の開示】
【0012】
発明の要旨
本発明の第一の側面によると、1または2以上の抗原ポリペプチド配列と、結合したFc受容体の内部移行を引き起こすために十分な結合親和性でFc受容体に結合するFc受容体結合ポリペプチドとを含む融合タンパク質が提供される。
【0013】
「結合したFc受容体の内部移行を引き起こすために十分な結合親和性」という表現は、Fc受容体が、結合した複合体を細胞内での内部移行させる結合親和性でリガンドにより結合されることを意味する。これは細胞の抗原プロセシング経路により処理される本発明の結合した融合タンパク質をもたらす。これは、次いで、融合タンパク質が分解され、主要組織適合性分子(MHC)によって細胞の表面に提示されることをもたらし、これらはペプチドフラグメントを免疫系の細胞に提示する。
【0014】
本明細書に定義するように、用語「内部移行」は、エンドサイトーシス、および特に、受容体媒介エンドサイトーシスまたはFc媒介食作用を意味する。エンドサイトーシスは巨大分子または粒子の細胞への取り込みのプロセスである。本発明との関係において、内部移行は、特に、Fc受容体がFc受容体および結合したリガンドの内部移行が起こるために十分な親和性を有するリガンドによって結合されたときに起こる。
【0015】
一態様において、内部移行を誘導するために、典型的に融合タンパク質のFc受容体結合ポリペプチドは、約10−6Kd〜約10−9Kdの解離速度定数の結合親和性でFc受容体に結合することが必要とされる。さらなる態様において、Fc受容体結合ポリペプチドとFc受容体との間の結合親和性は、約10−8Kd〜約10−9Kdである。さらなる態様において、本発明の融合タンパク質のFc受容体結合ポリペプチドとFc受容体との間の会合速度定数は、約1×10Ka〜約3×10Kaの範囲である。
【0016】
特定の態様において、Fc受容体結合タンパク質は免疫グロブリン、典型的にはヒト免疫グロブリンの重鎖由来である。典型的に、免疫グロブリンはヒト免疫グロブリンIgGであり、したがってFc受容体結合タンパク質は、ヒトIgGの重鎖、特にIgGサブクラスIgG1の重鎖またはIgGサブクラスIgG3の重鎖由来であり得る。
【0017】
さらなる特定の態様において、Fc受容体結合タンパク質は、IgG1ヒト免疫グロブリンのCH2定常ドメインまたはIgG3ヒト免疫グロブリンのCH2定常ドメインを含む。ヒトIgG1またはヒトIgG3のCH2定常ドメインは、Cγ2ドメインまたはC2ドメインとしても知られ、この代わりの用語は、γ鎖と称されるヒトIgGの重鎖に由来する。
【0018】
さらなる態様、特にFc受容体結合タンパク質がヒトIgG1免疫グロブリンまたはヒトIgG3免疫グロブリンに由来する場合において、Fc受容体結合タンパク質内に存在するCγ2ドメインの配列は、位置297(N297)のアスパラギン(Asn、N)残基に、高度に保存されたN−結合糖鎖付加部位を保持する。この残基の糖鎖付加は、Fc受容体の高親和性結合および活性化を調節するために重要であると確認されている。学説に束縛されることを望まず、本発明者は、IgG重鎖のC2定常ドメインの残基297における糖鎖付加残基の存在が、Fc受容体への結合を可能にすることにおいて重要である、三次構造の一因となると予測した。
【0019】
特に、CH2定常ドメイン配列に存在するアミノ酸残基または融合タンパク質のFc受容体結合ポリペプチド内に存在し得るそのフラグメントが、N297糖鎖付加部位の周辺で折り畳まれ、このことにより、N297残基が隣接残基内に配置されるかまたは実質的に被包されることが予測される。この折り畳みは、Fc受容体に結合されることができる三次構造をもたらす。したがって、この位置の糖鎖付加残基の存在は、Fc受容体結合ポリペプチド中のさらなるアミノ酸がその周辺で折り畳まれることを可能にするフレームワークとして働くことにおいて重要である。この位置または合成配列におけるこの位置に相当する残基における糖鎖付加残基の欠如は、Fc受容体結合に影響する。
【0020】
さらなる態様において、部位特異的突然変異誘発を、Fc受容体結合ポリペプチドをコードするポリヌクレオチド配列において行ってもよい。この突然変異誘発は、置換、付加または欠失によってコーディング配列を変更する働きをする。結果として得られるポリヌクレオチド配列における変化は、Fc受容体結合の親和性を変更し得る。本発明はしたがって、そのアミノ酸配列において少なくとも1つの突然変異を受けたヒトIgG免疫グロブリン、代表的にはサブクラスIgG1またはIgG3のIgG免疫グロブリン由来のCγ2ドメインを含む、Fc受容体結合タンパク質にまでさらに及ぶ。例えば、この突然変異は、位置298のセリン残基のアラニン残基による置換および/または位置295のグルタミン残基のアラニン残基による置換に関連してもよい。CH2ドメイン配列に特定の突然変異が提供される場合、ポリヌクレオチドは合成遺伝子構築物からコードされてもよい。
【0021】
様々なさらなる態様によると、Fc受容体結合ポリペプチドは、アスパラギン残基を位置297に含むCH2定常ドメインまたはそのフラグメントを含む。前記配列は、グリシン残基を位置298におよび/またはアラニン残基を位置295にさらに含んでもよい。前記配列は、ロイシン残基を位置234および235にさらに含んでもよい。
【0022】
さらなる態様において、Fc受容体結合ポリペプチドは、アスパラギン残基を位置297に含むCH2定常ドメインまたはそのフラグメントを含む。前記配列は、グリシン残基を位置298および/またはアラニン残基を位置295にさらに含んでもよい。前記配列は、位置234および235においてロイシン残基をさらに含んでもよい。
【0023】
本明細書で参照および/または修飾される特定のアミノ酸残基の位置は、ヒトIgG重鎖の定常ドメインに適用される残基番号をいう。したがって、一般的に、この番号はヒトIgG免疫グロブリンのCH2定常ドメインに存在するアミノ酸残基に指定された番号に関係する。当然のことながら、本発明のFc受容体結合タンパク質は、CH2定常ドメインのフラグメント、誘導体、類似体または変異体を含んでもよい。かかる場合において、この配列において存在するアミノ酸残基に適用される番号は、配列の長さに依存して異なり得る。したがって、例えば、Kabatデータベースから得られる、規定のCH2ドメイン定常領域の残基297において存在するアスパラギン残基は、融合タンパク質またはFc受容体結合ポリペプチドのアミノ酸配列の位置297におけるその残基の位置と関連していないかもしれない。
【0024】
そういった場合には、当然のことながら、当業者は、Kabatデータベースにより規定のCH2ヒトIgGのアスパラギン297残基に相当する残基が、Fc受容体結合ポリペプチド配列上のどこに存在するかを同定するために、アラインメントプロセスを用いる。本明細書に適用される、Fc受容体結合ドメインに関連する特定のアミノ酸に指定された番号は、Kabatデータベース配列のIgG重鎖定常ドメインに規定の、相当する残基の番号に基づいている。同じことが、ポリペプチドがCH2定常ドメイン由来またはそのフラグメントである場合は特に、位置298のセリン残基および/または位置295のグルタミン残基などの、Fc受容体結合タンパク質に重要な他の残基についても準用される。
【0025】
一態様において、Fc受容体結合タンパク質は、配列番号1のアミノ酸配列を含む。そのようなものとして、前記態様の融合タンパク質は、1または2以上の抗原ポリペプチド配列を、配列番号1のアミノ酸配列を含むFc受容体結合ポリペプチドと共に含む。
またさらなる態様において、Fc受容体結合タンパク質は、配列番号1に示される配列のフラグメント、変異体または誘導体を含み、ここで、前記フラグメント、変異体または誘導体は、配列番号1を有する当該ポリペプチドの生物活性を有する。
【0026】
【化1】

【0027】
特に、配列番号:1は、Fc受容体に結合することのできるポリペプチドを詳述する。当該配列はKabat Database of Sequences of Proteins of Immunological Interest (www.kabatdatabase.com)に規定のIgGの重鎖定常領域のために決定された配列の残基216〜447とアラインメントすることができる。配列番号1の最初のアミノ酸残基を残基216、最後の残基を残基447として番号付けることに基づいて、糖鎖付加されてもよいアスパラギン(Asn、N)残基は残基297に提供される。配列番号:1の残基415におけるグリシン残基(G、Gly)は、規定のKabatデータベース配列に存在するセリン(S、Ser)残基の置換を表す。
【0028】
配列番号:1はアラニン(A、Ala)残基を位置393にさらに含み、これは、規定のKabatデータベース配列において提供されるスレオニン残基(Thr、T)を置き換える。配列番号1の配列を、位置298のセリン(Ser、S)残基がアラニン残基(Ala、A)で置換されるようにさらに変異させてもよい。さらに、Fc受容体結合ポリペプチドとして配列番号1の配列を含む融合タンパク質の変異形を作製するために、配列番号1の残基234および235に提供される2つのロイシン残基を、例えばFc受容体結合を損なうために、それぞれバリンおよびアラニンなどの残基に変異させてもよい。
【0029】
さらなる態様において、配列番号2の配列を有するFc受容体結合ポリペプチドを、Kabatデータベース配列に示されるように、位置393のアラニン(Ala、A)残基がスレオニン(Thr、T)残基に変更されるように変異させてもよい。配列番号2の配列を以下に示す:
【0030】
【化2】

【0031】
したがって、さらなる態様において、Fc受容体結合タンパク質は配列番号2に示される配列を含む。このような場合、前記態様の融合タンパク質は、1または2以上の抗原ポリペプチド配列、および配列番号2のアミノ酸配列を含むFc受容体結合ポリペプチドを含む。
またさらなる態様において、Fc受容体結合タンパク質は、配列番号2に示される配列のフラグメント、変異体または誘導体を含み、配列番号2を有するポリペプチドの生物活性を有する。
【0032】
配列番号2の配列を、位置298のセリン(Ser、S)残基がアラニン残基(Ala、A)で置換されるようにさらに変異させてもよい。さらに、Fc受容体結合ポリペプチドとして、配列番号2の配列を含む融合タンパク質の変異形を作製するために、配列番号2の残基234および235に提供される2つのロイシン残基を、例えばFc受容体結合を損なうために、それぞれそれぞれバリンおよびアラニンなどの残基に変異させてもよい。
【0033】
図5はヒトIgG重鎖定常ドメインの残基216〜447を有する配列番号1のアラインメントを示し、後者の配列を配列番号3と称する。
特定のさらなる態様において、Fc受容体結合ポリペプチドはヒトIgG免疫グロブリン、特にIgG1、IgG2またはIgG3に由来するCγ2ドメインのフラグメント、類似体または誘導体を含む。
【0034】
特定のさらなる態様において、Fc受容体結合ポリペプチドは、配列番号1、配列番号2またはヒトIgG免疫グロブリン由来のCγ2ドメインを含むことに加えて、さらなる定常ドメイン、例えば、限定されないが、Cγ3定常ドメインおよび/またはヒンジ領域、例えばCγ2およびCγ3定常ドメインの間に存在するアミノ酸のプロリンリッチなストレッチを含むヒンジをさらに含んでもよく、前記ヒンジ領域は、Fc受容体結合ポリペプチドに構造的柔軟性を与える。
【0035】
1または2以上の抗原ポリペプチド配列は、共有結合によって、配列番号1または配列番号2などのFc受容体結合ポリペプチドへ結合してもよい。代替的に非共有結合を用いてもよい。さらなる態様において、リンカー部分またはスペーサーを配列を結合するために用いてもよい。
典型的には、Fc受容体結合ポリペプチドは、Fc受容体FcγRI(CD64)および/またはFc受容体FcγRII(CD32)、および/またはFc受容体FcγRIII(CD16)に結合することができる。特定の態様において、Fc受容体結合ポリペプチドは、その膜貫通配列における塩橋を介して、FcR−ガンマ鎖と共役しているFcRに結合することができる。
【0036】
本明細書において、用語「抗原ポリペプチド配列」は、対象に投与されたときに、前記ポリペプチド配列に対して長期保護免疫応答を誘導するポリペプチドを意味する。
抗原ポリペプチドは、あらゆる好適なソース、例えば病原性生物または腫瘍特異抗原に由来してもよく、非病原性疾患、例えば自己免疫疾患または神経変性疾患などに由来することもできる。抗原ペプチドは、所与の条件の病原体に関連する内因性正常タンパク質の同定に由来してもよい。このような場合、タンパク質全体またはそのフラグメント、類似体または誘導体を用いることができる。
【0037】
特定のさらなる態様において、抗原ポリペプチド配列は、ウイルス性ポリペプチド、細菌性ポリペプチド、腫瘍特異的ポリペプチドおよび免疫調節ポリペプチドからなる群から選択される。ポリペプチドは、完全タンパク質、そのフラグメント、またはタンパク質もしくはポリペプチドの誘導体または類似体であってもよい。
【0038】
好適には、抗原ポリペプチドはウイルス性ポリペプチドであり、ここでウイルスは、HIV−1、HIV−2、B型肝炎、C型肝炎およびインフルエンザA型からなる群から選択される。ウイルス性ポリペプチドが、トリインフルエンザウイルス由来である場合、当該ポリペプチドは、H5N1、H9N2、H7N1、H7N2、H7N3およびH7N7からなる群から選択されるインフルエンザA型ウイルス由来であってもよい。
【0039】
特定のさらなる態様において、部位特異的突然変異誘発を、抗原ポリペプチドをコードするポリヌクレオチド配列において行ってもよい。この方法は、抗原タンパク質におけるプロテアーゼ切断部位または可変ループの除去などの所望の遺伝子変化を導入するさらなる利点を有する。例えば、インフルエンザHAにおけるHA1/2切断部位またはHIV gp120におけるループの除去により、これらの抗原のより可変性が少ない領域へ再特異化された免疫応答を誘導する融合タンパク質が得られる。さらなる態様において、上記の変異を組み込んだ抗原ポリペプチド配列は、完全に化学合成によって製造することができる。
【0040】
さらなる態様において、抗原ペプチドは、1より多くの遺伝子の産物からなってもよく、例えば、HIV tat/rev、インフルエンザHA/NAまたはM. tuberculosis Ag85/ESAT−6またはRv1025/1196 TB遺伝子融合物などの異種融合抗原の生産である。かかる種融合抗原は、さらに化学合成によって生成されてもよい。
【0041】
したがってさらなる態様において、抗原ポリペプチドは、2または3以上の抗原ポリペプチドの融合を含む、抗原ポリペプチドフラグメントを含む。この2または3以上の抗原ポリペプチドは、同一の病原体由来であっても、異なる病原体由来であってもよい。例えば、特定の態様において、抗原ポリペプチドは、HIVのtatおよびrevポリペプチドまたはそのフラグメントの融合を含む。さらなる態様において、抗原ポリペプチドは、インフルエンザ由来のヘマグルチニン(HAまたはH)およびノイラミニダーゼ(NAまたはN)の融合またはそのフラグメントを含む。またさらなる態様において、抗原ポリペプチドは、結核のAg85/ESAT−6またはRv1025/1196遺伝子によってコードされるポリペプチドの融合を含んでもよい。さらなる態様において、異種抗原ポリペプチドは、合成により、例えば化学合成により生成することができる。好適な化学合成技術は、当業者に周知であり、限定しないが、標準的な液相または固相ペプチド合成法を含む。
【0042】
さらなる態様において、抗原ポリペプチドはT細胞エピトープである。T細胞エピトープは、病原体エピトープまたは非病原体エピトープであってもよい。全ての態様において、T細胞エピトープは、対象に投与されたときに、細胞傷害性Tリンパ球(CTL)応答を調節することに適しているべきである。
特定の態様において、融合タンパク質は1または2以上のさらなる異種ポリペプチド、例えばサイトカインなどの免疫調節ペプチドをさらに含む。
【0043】
本発明のさらなる側面は、本発明の第一の側面の融合タンパク質を含む免疫原性組成物を提供する。
特定の態様において、免疫原性組成物はアジュバントをさらに含む。
【0044】
さらなる側面において、本発明は、本発明の前述の側面の免疫原性組成物を、免疫応答を誘導するに十分な量で、対象に投与する工程を含む、対象において免疫応答を誘導する方法に及ぶ。典型的には、免疫応答は細胞傷害性Tリンパ球(CTL)応答である。
【0045】
さらなる側面において、本発明は、本発明の第一の側面の融合タンパク質をコードするか、または本発明の第一の側面の融合タンパク質の成分である少なくとも1つのポリペプチドをコードする、ポリヌクレオチド配列を提供する。
【0046】
一態様において、当該ポリヌクレオチドは、配列番号1または配列番号2のアミノ酸配列を有するアミノ酸をコードする。前記アミノ酸を、その後、発明の融合タンパク質を形成するために、少なくとも1つの抗原ペプチドに結合させることができる。
【0047】
本発明のさらなる態様は、本発明の融合タンパク質またはそのポリペプチドをコードする、少なくとも1つのポリヌクレオチド配列を含むベクターを提供する。好適には、ベクターは、少なくとも1つのポリヌクレオチド配列に作動的に結合した少なくとも1つの制御配列エレメントを含む。前記制御エレメントは、典型的には、ベクターが発現する細胞株に依存して選択される。
本発明のまたさらなる側面は、本発明のベクターまたはポリヌクレオチド配列または融合タンパク質を含む宿主細胞を提供する。
【0048】

本発明のまたさらなる側面は、本発明の融合タンパク質の製造方法を提供し、当該方法は、1または2以上の抗原ポリペプチド配列と、結合したFc受容体の内部移行を引き起こすために十分な結合親和性でFc受容体に結合するFc受容体結合ポリペプチドとを含む融合タンパク質をコードするポリヌクレオチド、または前記ポリヌクレオチドを含むベクターを含む細胞を、当該融合タンパク質を製造するために好適な条件下において、インキュベートする工程を含む。
【0049】
一態様において、当該Fc受容体結合ポリペプチドは配列番号1のアミノ酸配列を含む。さらなる態様において、当該Fc受容体結合ポリペプチドは配列番号2のアミノ酸配列を含む。
【0050】
本発明のさらなる側面によると、対象において免疫応答を誘導する方法が提供され、当該方法は、
−1または2以上の抗原ポリペプチド配列と、結合したFc受容体の内部移行を引き起こすために十分な結合親和性でFc受容体に結合するFc受容体結合ポリペプチドとを含む融合タンパク質を提供する、および
−治療有効量の前記融合タンパク質を、前記抗原ポリペプチドまたはそのフラグメントに対する免疫応答の誘導が望まれる対象に投与する
工程を含む。
【0051】
特定の態様において、当該方法は、病原性疾患を伴う感染の処置のために免疫応答を誘導することまで及び、当該方法は
−疾患の原因である病原体または該病原体由来の生成物由来の抗原ポリペプチド配列を得る、
−本発明の第一の側面の融合タンパク質の形成において、前記抗原ポリペプチド配列を使用する、および
−治療に有効または予防に有効な量の融合タンパク質を含む組成物を、かかる処置を必要とする対象に投与する
工程をさらに含む。
【0052】
典型的に、抗原ポリペプチドは、細菌性病原体、ウイルス性病原体、寄生性病原体または原虫病原体に由来する。
【0053】
さらなる態様において、当該方法は、非病原性疾患状態の処置のために免疫応答を誘導することまでさらに及び、当該方法は、
−該非病原性疾患状態に特異的な抗原ポリペプチド配列を得る、
−前記抗原ポリペプチド配列を融合タンパク質の形成において用いる、および
−治療に有効または予防に有効な量の融合タンパク質を含む組成物を、かかる処置を必要とする対象に投与する
工程をさらに含む。
【0054】
一態様において、当該融合タンパク質は、配列番号1のアミノ酸配列を含むFc受容体結合ポリペプチドを含む。さらなる態様において、当該Fc受容体結合ポリペプチドは配列番号2のアミノ酸配列を含むFc受容体結合ポリペプチドを含む。
【0055】
典型的に、非病原性抗原ポリペプチドは、腫瘍特異的ポリペプチド、神経変性疾患に特異的なポリペプチドおよび自己免疫疾患に特異的なポリペプチドからなる群から選択される。
好適には、免疫応答は細胞傷害性T細胞応答である。
一態様において、対象は哺乳動物である。さらなる態様において、哺乳動物はヒトである。
【0056】
典型的に融合タンパク質は、静脈内、皮下または筋肉内投与され、これらの経路は、これらの組織がFc受容体を発現する樹状細胞を含み、さらに前記組織は、Fc受容体結合について競合し得る高レベルな血清IgGが欠如しているので、好ましい。
【0057】
本発明のさらなる側面によれば、対象において免疫応答を誘導する方法が提供され、当該方法は、
−ポリヌクレオチドの発現および融合タンパク質の産成を可能にする状況下で、対象の細胞に本発明の第一の側面の融合タンパク質をコードするポリヌクレオチドまたは遺伝子送達ベクターを、治療有効量で投与し、これにより融合タンパク質への免疫応答を誘発する
工程を含む。
【0058】
好適には、免疫応答は細胞傷害性T細胞応答である。
一態様において、対象は哺乳動物である。さらなる態様において哺乳動物はヒトである。
典型的に、遺伝子送達ベクターは、皮下、静脈内または筋肉内投与される。
対象の細胞にポリヌクレオチドまたは遺伝子送達ビヒクルが移入される特定のさらなる態様において、当該形質移入は生体外(in vitro)で行われ、そして移入された細胞を対象に再度導入する。
代わりの態様において、対象の細胞に生体内(in vivo)でポリヌクレオチドまたは遺伝子送達ビヒクルを移入する。
【0059】
本発明のまたさらなる側面は、免疫応答を誘導するための医薬組成物を提供し、ここで、前記医薬組成物は、1または2以上の抗原ポリペプチド配列と、結合したFc受容体の内部移行を引き起こすために十分な結合親和性でFc受容体に結合するFc受容体結合ポリペプチドとを含む融合タンパク質を、薬学的に許容される賦形剤、担体または希釈剤とともに含む。
一態様において、当該Fc受容体結合ポリペプチドは配列番号1のアミノ酸配列を含む。さらなる態様において、当該Fc受容体結合ポリペプチドは配列番号2のアミノ酸配列を含む。
【0060】
本発明のさらなる側面は、薬剤として使用するための、1または2以上の抗原ポリペプチド配列と、結合したFc受容体の内部移行を引き起こすために十分な結合親和性でFc受容体に結合するFc受容体結合ポリペプチドとを含む融合タンパク質を提供する。
一態様において、当該Fc受容体結合ポリペプチドは配列番号1のアミノ酸配列を含む。さらなる態様において、当該Fc受容体結合ポリペプチドは配列番号2のアミノ酸配列を含む。
【0061】
本発明のまたさらなる側面は、疾患の処置または予防用薬剤の製造のための、1または2以上の抗原ポリペプチド配列と、結合Fc受容体の内部移行を引き起こすために十分な結合親和性でFc受容体に結合するFc受容体結合ポリペプチドとを含む融合タンパク質の使用を提供する。
一態様において、当該Fc受容体結合ポリペプチドは配列番号1のアミノ酸配列を含む。さらなる態様において、当該Fc受容体結合ポリペプチドは配列番号2のアミノ酸配列を含む。
【0062】
特定の態様において、疾患は病原性疾患である。そのような場合、典型的に、病原性疾患はウイルス感染であり、例えば、HIV−1、HIV−2、B型肝炎、C型肝炎またはインフルエンザであり。ウイルス感染がインフルエンザA型である場合、サブタイプは、H5N1、H9N2、H7N1、H7N2、H7N3およびH7N7から選択されてもよい。
さらなる態様において、疾患は非病原性疾患であり、例えば、限定されないが、癌性または悪性の状態、神経変性疾患および自己免疫疾患である。
【0063】
典型的に、当該薬剤の使用は、細胞傷害性Tリンパ球(CTL)応答の誘導をもたらす。
一態様において、当該薬剤はアジュバントをさらに含む。
一態様において、当該薬剤は筋肉内または皮内投与のために提供される。
典型的には、当該薬剤は、対象において融合タンパク質の抗原ポリペプチドフラグメントが由来する病原体に対する長期防御免疫を調節するために、予防的に投与できるワクチンである。
【0064】
典型的には、当該薬剤は、免疫複合体の抗原ポリペプチドフラグメントが由来する癌性状態に対する長期防御免疫を対象において調節するために、治療的に投与できるワクチンであり、前記抗原ポリペプチドは腫瘍特異的抗原である。
特定の態様において、疾患はウイルス感染、例えば限定されないが、HIV−1、HIV−2、B型肝炎、C型肝炎またはインフルエンザである。
【0065】
本発明のさらなる側面は、1または2以上の抗原ポリペプチド配列と、結合したFc受容体の内部移行を引き起こすに十分な結合親和性でFc受容体に結合するFc受容体結合ポリペプチドとを含む融合タンパク質をコードするポリヌクレオチドの、疾患の処置および/または予防用医薬の製造のための使用を提供する。
典型的には、当該薬剤の使用は、細胞傷害性Tリンパ球(CTL)応答の誘導をもたらす。
【0066】
本発明者は、疾患を予防および/または処置するために、他の治療とともに本発明の融合タンパク質を投与してもよいことも見つけ出した。例えば、本発明の融合タンパク質を含む組成物であって、抗原ポリペプチドが感染性ウイルス由来のウイルス性ポリペプチドであり、少なくとも1つの薬学的に許容される担体をさらに含む前記組成物は、ウイルス感染発症に予防的および/または治療的効果を有する、少なくとも1つのさらなる治療薬と組み合わせて投与してもよい。これは、特に高い病原性を有するウイルス感染に関して有用性を有する併用療法を提供する。
【0067】
したがって、本発明のさらなる側面は、対象における微生物感染を予防および/または処置するための方法を提供し、当該方法は、
− 1または2以上の抗原ポリペプチド配列と、結合したFc受容体の内部移行を引き起こすために十分な結合親和性でFc受容体に結合するFc受容体結合ポリペプチドとを含む融合タンパク質を含む組成物を提供する、
− 治療有効量の前記組成物を、処置を必要とする対象に投与する、および
− 治療有効量の好適な第二の抗微生物化合物をさらに投与する
工程を含む。
【0068】
一態様において、第二の抗微生物化合物は、融合タンパク質とともに投与するが、さらなる態様において、当該第二の抗微生物化合物は融合タンパク質を投与する前後に投与してもよい。
【0069】
一態様において、抗原ポリペプチドはウイルス性病原体由来であり、第二の化合物は抗ウイルス性化合物である。第二の抗ウイルス化合物はリバビリン、アマンタジン、リマンタジン、オセルタミビル(TAMIFLUTM)およびザナミビルからなる群から選択してもよい。
【0070】
一態様において、ポリペプチド抗原ポリペプチドはインフルエンザウイルス由来である。さらなる態様において、A型インフルエンザウイルスは、H5N1、H9N2、H7N2、H7N3またはH7N7株である。またさらなる態様において、A型インフルエンザウイルスは、サブタイプH5、H7またはH9のヘマグルチニンをあらゆるノイラミニダーゼサブタイプとともに含んでもよい。
【0071】
別の態様において、抗原ポリペプチドは、肝炎ウイルス由来である。さらなる態様において、肝炎ウイルスはB型ウイルスであり、好ましい抗ウイルス性化合物は、ラミブジンである。またさらなる態様において、肝炎ウイルスはC型ウイルスであり好ましい抗ウイルス性化合物は、リバビリンおよびインターロイキン2(IL−2)またはこれらの組み合わせから選択される。
【0072】
本発明のまたさらなる側面によると、本発明の融合タンパク質および抗ウイルス性化合物の、A型インフルエンザサブタイプH5、H7またはH9による感染の処置または予防のための併用薬剤の製造における使用を提供する。一態様において、A型インフルエンザサブタイプはH5N1、H9N2、H7N1、H7N2、H7N3またはH7N7株である。好ましい態様において、第二の抗ウイルス性化合物は、リバビリン、アマンタジン、リマンタジン、オセルタミビル(TAMIFLUTM)またはザナミビルからなる群から選択してもよい。
【0073】
別の態様において、本発明の融合タンパク質は、抗ウイルス性化合物との組み合わせにおける断続的抗ウイルス治療スケジュールにおいて、医薬として投与してもよい。
また別の態様において、本発明のポリペプチド複合体は、3剤併用抗ウイルス性化合物との組み合わせにおいて、HIV/AIDSの断続的抗ウイルス治療において薬剤として投与してもよい。
本発明のそれぞれの側面および態様の好ましい特徴は、本文が要求しない限り、それぞれの他の側面に変更すべきことは変更する。
発明の詳細な説明
【0074】
本発明は、Fc受容体の内部移行を引き起こすために十分な結合親和性でFc受容体に結合するFc受容体結合タンパク質を含む融合タンパク質および関連する結合複合体を提供する。
【0075】
Fc受容体内部移行はT細胞応答を刺激するための効率的な抗原提示を可能にする。Fc受容体内部移行はヘルパーT細胞応答を刺激するための飲作用よりも顕著により効率的である。しかしながら、本発明者は、驚くべきことに、関連抗原をともなったFc受容体の内部移行が、Tヘルパー細胞応答のみならず細胞傷害性Tリンパ球(CTL)応答をももたらす効率的な抗原プロセシングをもたらすことができることを示した。細胞傷害性Tリンパ球(CTLs)は、直接細胞傷害によって、およびマクロファージ、B細胞および他の種類の細胞などの他の免疫細胞に特異的および非特異的な補助を提供することによって、病変または異常細胞を標的とし破壊する。内部移行したFc受容体に結合した本発明の融合タンパクは、融合タンパク質内に提供される抗原または抗原フラグメント(単数または複数)に向けた特異的CTL応答を誘発することが示される。これはしたがって、感染症、癌性状態および神経変性疾患などの状態に対して望まれる場合、長期保護免疫応答を誘導する効果的な手段を提供する。
【0076】
本発明の融合タンパク質は、一次アミノ酸配列ABCによって定義することもでき、ここでAは1または2以上の抗原ポリペプチド配列に関連し、Bは任意のリンカー部分であり、Cは結合したFc受容体の内部移行を引き起こすために十分な結合親和性でFc受容体に結合するFc受容体結合ポリペプチドである。
【0077】
一態様において、AはポリペプチドのN末端(アミノ)部分を定義し、CはポリペプチドのC−末端(カルボキシル)末端を定義する。かかる態様において、AとCとを結合するためにリンカーが用いられる場合、リンカーは、抗原ポリペプチドフラグメントを定義するアミノ酸配列のC−末端、およびFc受容体に結合するポリペプチドを定義するアミノ酸配列のN−末端に結合する。
【0078】
本発明の一態様において、融合タンパク質のFc受容体結合ポリペプチドはヒト免疫グロブリンのFc部分の少なくとも1つの定常ドメイン、典型的には、CH2ドメインまたはその変異体に由来する。ヒト免疫グロブリン由来の定常領域は特に好ましい。異なるクラスのヒト免疫グロブリンが、免疫複合体のFc受容体結合ポリペプチドを提供するために適しているかもしれない。
【0079】
抗体のクラスまたは「アイソタイプ」はその重鎖によって定義される。特にアイソタイプIgGの免疫グロブリンが最も好ましいが、アイソタイプIgA、IgM、IgEおよびIgDの抗体も発明の異なるさらなる態様において有用性を有している。
【0080】
典型的に、融合タンパク質のFc受容体結合ポリペプチドは、ヒト抗体、典型的にはアイソタイプIgGの抗体由来である。IgGは、IgG1、IgG2a、IgG2b、およびIgG3などの多数のサブクラスを有している。それぞれのIgGサブクラスは非常に高いレベルの相同性を有する定常ドメインを有するが、それぞれアイソタイプはヒンジ領域において顕著に異なる。好適には、ヒトIgG1免疫グロブリンの重鎖由来のCγ2定常ドメインが用いられるか、またはそのフラグメント、類自体もしくは誘導体が用いられる。
【0081】
しかしながら、IgGのあらゆるサブクラスが本発明における有用性を有しているが、典型的には、IgGサブクラスIgG3由来の少なくとも1つの定常ドメインまたはそのフラグメントをコードする配列が用いられる。本発明者は、IgG3抗体の構造が、伸長したヒンジ領域の存在のため、本発明にも特に適していることを同定した。抗体のヒンジ領域は、一般的にはCH1定常ドメインとCH2定常ドメインとの間に配置され、抗体のFab部分による結合を促進するために抗体に構造的柔軟性を与えると考えられている。
【0082】
抗体の定常ドメインは、免疫応答、特に、抗体結合に続く免疫応答を調節するエフェクター機能の補充を導くことにおいて重要性を有する。抗体の結合に続いて誘導されるエフェクター機能のタイプは、重鎖の定常領域、特にCH2およびCH3ドメイン領域に依存し得る。長期防御免疫を提供する免疫系からの応答を誘導する能力は、病原体に対する継続した保護において重要である。
【0083】
かかる応答の不可欠な部分は、FcRsの結合および活性化である。FcRsは、抗原提示細胞などの免疫系の多くの細胞、特にマクロファージ、B細胞、好中球、マスト細胞、NK細胞および濾胞樹状細胞に存在する。FcRsに結合するリガンドは、補体活性化、ADCC(抗体依存性細胞媒介細胞毒性)などの数多くのエフェクター機構の活性化、およびサイトカインなどの免疫メディエーターの放出をもたらす。Fc受容体は抗体クラス特異的およびアイソタイプ選択的である。
【0084】
本発明の有用性は、FcRが発現される細胞内の結合FcRの内部移行を誘導するように、十分高い結合親和性でFcRsに結合する本発明の融合タンパク質の能力にかかっている。この結合は、ケモカインおよびサイトカインなどの免疫メディエーターの放出など数多くのエフェクター機構の活性化をもたらす。前述したように、FcRの結合はまた、十分に高い結合親和性(結合親和力)でリガンドにより結合された場合に、FcRの内部移行をもたらすことができる。抗原提示を上方制御することもでき、これはFc受容体を発現する細胞による融合タンパク質の取り込みおよび提示の増大をもたらす。
【0085】
IgGへの結合特異性を有すると知られているFcRは3タイプあり、それぞれそれらへ帰する特定の機能を有する。FcγRI(別名CD64)はマクロファージおよび単球に存在する。FcγRII(CD32)は、B細胞、マクロファージ、好中球および単球に発現する。最後に、FcγRIII(CD16)はマクロファージ、NK細胞および好中球によって発現する。他の抗体アイソタイプに特異的なFcRsは、B細胞、単球および濾胞樹状細胞によって発現され、IgEのFc部分に対する特異性を有するFcεRIおよびFcεRII;IgAのFc部分に対する特異性を有するFcαR、およびIgMのFcドメインに対する特異性を有するFcμRを含む。
【0086】
したがって、一態様において、免疫複合体のFc受容体結合ポリペプチド部分は、FcγRI(CD64)、FcγRII(CD32)、またはFcγRIII(CD16)を含む群から選択されるFc受容体の少なくとも1つに結合することができる。好ましい態様において、Fc受容体結合ポリペプチドはFcγRI(CD64)およびFcγRIII(CD16)の両方に結合することができる。より好ましい態様において、Fc受容体結合ポリペプチドは、それらの膜貫通ドメインにおける塩橋を介してFcRガンマ鎖へ共役するFcRsへ結合することができる。
【0087】
典型的に、本発明の免疫複合体のFc部分は、IgG1抗体のCH2定常ドメインまたはその変異体もしくはフラグメントを定義するアミノ酸配列からなっている。特に、CH2定常ドメインまたはその変異体もしくはフラグメント(C2定常ドメインとも呼ばれる)は、ヒトIgG1抗体の重鎖由来であってもよい。
【0088】
代替的に、本発明の融合タンパク質のFc部分は、IgG3抗体またはその変異体もしくはフラグメントのCH2定常ドメインを定義するアミノ酸配列からなっている。好ましい態様において、CH2定常ドメイン(C2定常ドメインとも呼ばれる)はヒトIgG3抗体の重鎖由来である。
【0089】
特定のさらなる態様において、Fc受容体結合ポリペプチドは、配列番号1のアミノ酸配列を含む。またさらなる態様において、Fc受容体結合ポリペプチドは、配列番号2のアミノ酸配列を含む。
【0090】
Fc受容体結合ポリペプチドをコードするポリペプチドは組換え法により得ることができ、または代替的に合成的に製造してもよい。さらなる態様において、Fc受容体結合ドメインは、例えば、免疫グロブリンのパパイン分解による、免疫グロブリン分子のタンパク分解の後に得てもよい。抗原ペプチドは、化学結合を含む、当該技術分野において周知のあらゆる方法によって、Fcに共役してもよい。例えば、共役は、化学架橋分子の使用、例えばサクシニミジルエステルなどのヘテロ二官能性架橋剤の使用を伴うことができ、これは例えば、3−(2−ピリジルジチオ)プロピオン酸またはサクシニミジルアセチルチオ酢酸(Molecular Probes Inc. Handbook, Chapter 5, section 5.3)である。
【0091】
抗原ポリペプチドフラグメントを、他の化学部分、例えばグリコシル基、ポリエチレングリコール(PEG)基、脂質、リン酸基、アセチル基などと共有または集合複合体を形成することによって、誘導体を作製するために修飾してもよい。
本発明のポリペプチドの共有結合誘導体は、抗原ポリペプチドのアミノ酸の側鎖またはN末端もしくはC末端の官能基へ化学部分を結合させることにより製造できる。
【0092】
好適には、抗原ポリペプチドAは病原生物由来である。代替的に、抗原ポリペプチドAは、宿主において病気または疾患を引き起こす発病過程に関与するタンパク質由来である。抗原ポリペプチドAはさらに、感染症の原因である病原体由来であってもよい。代替的に、抗原ポリペプチドAは、宿主において病気または疾患を引き起こす発病過程に関与するタンパク質由来である。さらに、抗原ポリペプチドAは、病原生物由来の分泌生成物または他の病原性因子由来であってもよい。抗原ポリペプチドはさらに合成されてもよい。かかる合成タンパク質の製造技術は、当業者に周知である。
【0093】
さらなる態様において、抗原ポリペプチドはウイルス性ペプチド、細菌性ポリペプチド,腫瘍特異的ポリペプチド,神経変性疾患に特異的なポリペプチド、自己免疫疾患に特異的なペプチドまたはあらゆる他の非病原性疾患に特異的なポリペプチドであってもよい。
【0094】
さらなる態様において、抗原ペプチドまたはそのフラグメントは、T細胞エピトープである。T細胞エピトープは周知のアルゴリズムを用いて予測するかまたはペプチドとして合成し、標準的なT細胞分析を用いてスクリーニングすることができる。同定したT細胞エピトープは、細胞傷害性T細胞エピトープであり得、9〜20アミノ酸の好ましいアミノ酸長を有し得る。
【0095】
またさらなる態様において、抗原ポリペプチドは、病原生物由来の分泌生成物または他の病原菌由来である。特に、分泌生成物は細菌性病原体由来であってもよく、ロイコシジン、ストレプトリジンS、ストレプトリジンO、NADase、ヒアルロニダーゼ、ストレプトキナーゼおよび発熱性外毒素からなる群から選択される。
【0096】
一態様において、感染症は微生物病原体によって引き起こされる。さらなる態様において、感染症は細菌性病原体によって引き起こされる。さらなる態様において、感染症は真菌性病原体によって引き起こされる。さらなる態様において、感染症はウイルス性病原体によって引き起こされる。さらなる態様において、感染症は腫瘍特異的病原体によって引き起こされる。
【0097】
一態様において、抗原フラグメントはウイルス性ポリペプチドである。さらなる態様において、抗原ポリペプチドフラグメントは、ヒトにおける感染を引き起こすことのできるインフルエンザウイルス株由来である。典型的に、抗原フラグメントは、A型インフルエンザウイルスの感染性株由来のヘマグルチニン(HAまたはH)またはそのフラグメントである。代替的に、抗原フラグメントは、A型インフルエンザウイルスのHA3成分である。
【0098】
一態様において、抗原ポリペプチドは、A型トリインフルエンザウイルス由来であってもよい。A型トリインフルエンザウイルスは、ヘマグルチニンサブタイプH5、H7またはH9の存在によって定義してもよい。さらなる態様において、A型インフルエンザウイルスは、H5N1、H9N2、H7N1、H7N2、H7N3またはH7N7株である。またさらなる態様において、A型インフルエンザウイルスはサブタイプH5、H7またはH9のヘマグルチニンをあらゆるノイラミニダーゼサブタイプとともに含んでもよい。
【0099】
一態様において、感染症は肝炎、特にC型肝炎ウイルスによって引き起こされるものである。また別の態様において、感染症は、肝炎、特にB型肝炎ウイルスによって引き起こされるものである。またさらなる態様において、感染症HIV−1またはHIV−2レトロウイルスによって引き起こされるHIVである。
【0100】
さらなる態様において、抗原ポリペプチドは、あらゆる病原体由来であってもよく、その少なくとも1つの抗原は前記病原体による宿主の感染に続く免疫応答を調節する。かかる病原体は特に「病原菌」または「感染症」と称する群のものであり、インフルエンザ、ライノウイルス(感冒)、コロナウイルス(重症急性呼吸器症候群(SARS)コロナウイルスなど)、レトロウイルス(HIVなど)、ヒトパピローマウイルス、天然痘、狂犬病、風疹、肝炎、単純ヘルペスウイルス、帯状疱疹ウイルス、ウイルス性髄膜炎、黄熱、西ナイル病、鶏痘(水痘)および口蹄疫ウイルス(FMDV)からなる群から選択されるウイルス性感染症であってもよいが、これらに限定されない。
【0101】
抗原ポリペプチドはさらに、これらに限定されないが、結核、腸チフス、炭疽菌、細菌性髄膜炎、コレラ、ジフテリア、淋疾、レジオネラ、レプトスピラ症、リステリア症、MRSA感染症および百日咳からなる群から選択される、細菌性感染症由来であってもよい。
【0102】
抗原ポリペプチドはさらに、限定されないが、リーシュマニア症、マラリアおよびトリパノソーマ症からなる群から選択される寄生性感染症、足白癬およびカンジダ症などの真菌性感染症、牛海綿状脳症およびクロイツフェルトヤコブ病(CJD)などのプリオン感染症由来であってもよい。
【0103】
またさらなる態様において、抗原フラグメントは、病原体に関与する宿主タンパク質由来であってもよい。かかるタンパク質は、これらに限定されないが、アルツハイマー病における病変形成を引き起こすアミロイドタンパク質、ニコチン依存症に関わるニコチン酸受容体およびアテローム性動脈硬化症の病変形成に関わるコレステロールトランスフェラーゼCTEPを含む。
【0104】
本発明の融合タンパク質は、癌性または悪性状態の処置にさらなる有用性を有する。腫瘍特異的抗原を含む本発明の融合タンパク質の対象への投与に続く細胞傷害性Tリンパ球(CTL)応答の誘導は、かかる治療を必要とする対象に治療有効量で投与したとき、腫瘍細胞の増殖を顕著に抑制する事ができる治療を提供する。
【0105】
融合タンパク質、融合タンパク質をコードするポリペプチド、または融合タンパク質をコードするポリペプチドを含むベクターを、アジュバントとともに対象に投与してもよい。アジュバントは、融合タンパク質の投与と同時にまたは連続して投与してもよい。
【0106】
アジュバントは、対象の免疫系を非特異的に刺激する働きをする。本発明の方法にしたがって提供されてもよいアジュバントは、限定されないが、ミョウバン、MF59、QUIL−A(Quil A サポニン)、デトックス(detox)、ISCOMs、サイトカイン、スクアレン、ポリオール類、ポリアニオン、ペプチド、タンパク質、水酸化アルミニウム、プルロニック、油類およびエマルジョンを含む。
【0107】
抗原ポリペプチドは、そのN−(アミノ)またはC−(カルボキシル)末端のいずれかでFc受容体(FcR)結合ポリペプチドへ共役してもよい。しかしながら典型的には、抗原ポリペプチドをコードするアミノ酸配列は、免疫複合体のアミノ(N)末端領域において提供され、FcR結合ポリペプチドをコードするアミノ酸配列は、免疫複合体のカルボキシル末端に提供される。
【0108】
上記AおよびCとして定義される、第一および第二配列はいかなる好適な技術によってつなげてもよいが、典型的には、共有結合によって結合する。しかしながら、非共有結合を用いてもよい。代替的に、ポリペプチド配列を、直接共役させるかまたはリンケージ部分もしくはスペーサーによって結合させてもよい。免疫グロブリン由来のヒンジ領域などのリンカー部分を用いてもよい。ヒンジ領域は、抗原ポリペプチドを定義するアミノ酸と免疫複合体のFcR結合ポリペプチドを定義するアミノ酸とを結合する働きをするだけでなく、免疫複合体の柔軟性を向上させ、これによって、結合特異性を向上させることができる。典型的には、リンカーは主にスペーサーとして働く。典型的には、リンカーはペプチド結合によって結合されたアミノ酸からなる。リンカーは、例えば、1〜20のアミノ酸を含む。好適には、リンカーは、グリシンおよびアラニンなどの立体障害のないアミノ酸残基を含んでもよい。リンカー部分の好適な形状を後述する。
【0109】
免疫複合体の抗原フラグメントを定義するアミノ酸はそのN−(アミノ)またはC−(カルボキシル)のいずれかでリンカー部分と結合してもよい。好ましい共役および結合技術は当業者に周知であり、例えば、Fcポリペプチドのシステイン残基を利用するチオ−エステル架橋結合による共役を含む。代替的に、共役は、化学架橋結合分子の使用、例えばサクシニミジルエステルなどのヘテロ二官能性架橋剤の使用を含むことができ、例えば3−(2−ピリジルジチオ)プロピオン酸またはサクシニミジルアセチルチオ酢酸(Molecular Probes Inc. Handbook, Chapter 5, section 5.3)である。
【0110】
抗原フラグメントのFc結合ポリペプチドへの共役における有用性を有するさらなる技術は、公開国際特許出願番号WO 94/04690およびWO 96/27011に記載される技術を含む。
【0111】
共役はさらに当該技術分野において周知の組換えDNA技術の使用を介する遺伝学的手段によって達成してもよく、Sambrook et al. Molecular Cloning: A Laboratory Manual, 2 ed. Vol. 1, pp. 1.101-104, Cold Spring Harbor Laboratory Press, (1989)およびF.M. Ausubel et al. Current Protocols in Molecular Biology, Eds. J.Wiley Press (2006)の教示に記載のものであり、これらの関連部分は参照として本明細書に組み入れられる。
【0112】
一態様において、融合タンパク質は、抗原ドメインの隣接遺伝子融合およびFc結合ポリペプチドの、好適な発現ベクターにおける使用によって提供される。特定の態様において、遺伝子は、配列番号1のアミノ酸配列を含むポリペプチドをコードするポリヌクレオチド配列を含んでもよい。さらなる態様において、遺伝子は、配列番号2のアミノ酸配列を含むポリペプチド配列をコードしてもよい。
【0113】
Fc受容体結合ポリペプチドの糖鎖付加が、十分な結合親和性でFc受容体結合を促進し、Fc受容体内部移行を誘導するために重要であることが確立された。
【0114】
特に、前述したように、Fc受容体結合ポリペプチドがヒトIgG1由来である場合、(Kabatデータベースにおいて規定されるIgGの重鎖定常領域の配列を参照して定義される)Cγ2定常ドメインの位置297におけるアスパラギン(ASN、N)残基のN−結合糖鎖付加が存在することが好ましい。なぜならば、上記に詳述したように、高親和性結合を調節しFc受容体を活性化するために、この残基の糖鎖付加が重要であると知られているからである。
【0115】
このように、本発明のさらなる側面は、糖鎖付加されるように翻訳後修飾されるることを可能にする細胞タイプにおいて、Fc受容体結合ポリペプチドを製造することにまで及ぶ。特定の態様において、Fc受容体結合タンパク質はその後、リンカー部分および/または少なくとも1つの抗原ポリペプチドフラグメントに共役してもよく、代替的に融合タンパク質が糖鎖付加細胞において全体として発現してもよい。
【0116】
したがって、本発明のまたさらなる側面は、融合タンパク質の製造方法を提供し、該方法は、
―発現したポリペプチドの糖鎖付加が可能な細胞内で、結合Fc受容体の内部移行を引き起こすために十分な結合親和性によってFc受容体に結合するFc受容体結合ポリペプチドを発現する、および
―さらに少なくとも1つの抗原ポリペプチドまたはそのフラグメントを前記細胞内で発現する
工程を含む。
【0117】
一態様において、Fc受容体結合ポリペプチドは、配列番号1のアミノ酸配列を含む。さらなる態様において、Fc受容体結合ポリペプチドは、配列番号2のアミノ酸配列を含む。
【0118】
一態様において、Fc受容体結合タンパク質および抗原フラグメントは、連続的なポリヌクレオチド配列(核酸配列)から発現され、これは融合遺伝子として説明してもよい。融合遺伝子は、Fc受容体結合タンパク質をコードするポリヌクレオチド配列から終止コドンを除去し、これに、抗原ポリペプチドまたはそのフラグメントをコードするポリヌクレオチド配列をフレーム中で(in frame)結合させることによって形成してもよい。ポリヌクレオチドはベクターに提供されてもよく、ここでポリヌクレオチド配列の発現は、細胞における発現に適合する制御エレメントに作動的に結合している。
【0119】
当該方法は、細胞内でリンカー部分またはスペーサーを定義するポリヌクレオチドを発現する工程をさらに含んでもよく、ここで前記リンカー部分またはスペーサーは、Fc受容体結合ポリペプチドと抗原ポリペプチドとを結合する。
【0120】
本発明の融合タンパク質は単量体型で提供されるが、さらなる態様において、融合タンパク質は二量体融合分子として提供されてもよく、これは、2つの融合タンパク質の二量体化から生じる。生じた二量体は、同一の抗原ポリペプチドを有する2つの融合タンパク質からなるホモ二量体であってもよい。代替的に、二量体は、異なる抗原ポリペプチドを有する2つの融合タンパク質を結合することによって形成されたヘテロ二量体であってもよい。異なる抗原ポリペプチドが融合タンパク質によって発現される場合、これらの抗原ポリペプチドは、異なる病原生物由来であってもよく、もしくは同一の病原生物または病原性生成物の異なる標的部位由来であってもよい。代替的に、抗原ポリペプチドは、病原生物以外のソース、例えば本明細書において説明されるような非病原性疾患状態および癌性状態など由来であってもよい。
【0121】
本発明のさらなる態様において、融合タンパク質は、多量体分子として提供してもよい。かかる多価融合タンパク質は、Fc領域由来のFc結合領域、または多価型で通常存在する抗体、例えばクラスIgM(五量体構造)またはIgA(二量体構造)の一部を用いて形成してもよい。多量体融合タンパク質分子が形成される場合、融合タンパク質は、類似または異なる抗原ポリペプチドを含んでもよい。
【0122】
またさらなる態様において、融合タンパク質は、免疫応答を調節または増強することに有用性を有する、さらなる分子または化合物に共役されていてもよい。
【0123】
そのリガンドによる結合の後にFc受容体が内部移行されたか否かをモニターする方法および技術は当業者に周知である。例えば、Fc受容体/融合タンパク質結合複合体の内部移行の可視化は、当業者に周知の技術を用いた、細胞の免疫蛍光標識または免疫細胞化学的標識などの技術の使用によって達成してもよい。本発明の一態様において、結合を可視化し、適切なFc受容体結合ペプチドを同定するために、蛍光タンパク質ドメインをFc結合ポリペプチドに融合させる。かかる内部移行スクリーニングは、Fc受容体/Fc受容体結合ポリペプチド複合体の内部移行を引き起こすために十分な親和性でFc受容体に結合するFc受容体結合タンパク質を同定するために用いることができる。抗原を提示するあらゆる好適な細胞をかかる研究を行うために用いてもよいが、好ましくは樹状細胞が用いられる。
本発明の一態様において、結合を可視化し、ポリペプチド免疫複合体への有用性を有する適切なFcR結合フラグメントを同定するために、蛍光タンパク質ドメインをFcドメイン配列に融合する。
【0124】
投与
本発明の融合タンパク質は単体で投与してもよいが、好ましくは、意図する投与経路に応じて選択される好適な薬学的に許容される賦形剤、希釈剤または担体を一般に含む医薬組成物として投与される。
好適な医薬担体の例は、水、グリセロール、エタノールなどを含む。
【0125】
本発明の融合タンパク質は、処置を必要とする患者にあらゆる好適な経路を介して投与してよい。本明細書に詳述したように、細胞傷害性Tリンパ球(CTL)応答の発達を増強するために、皮下、皮内または筋肉内経路を用いて、非経口で組成物を投与することが好ましい。投与経路は、粘膜(肺内を含む)および経口をさらに含んでもよい。
【0126】
好ましい態様において、組成物は、注射用組成物として送達可能である。静脈注射のために、活性成分は非経口で許容可能な水溶液の形態であり、これはピロゲンを含まず、好適なpH、等張性および安定性を有する。当業者は、例えば、塩化ナトリウム注射液、リンゲル注射液または乳糖加リンゲル注射液などの等張のビヒクルを用いて、適した溶液を調製することができる。必要に応じて、保存剤、安定剤、緩衝剤、酸化防止剤および/または他の添加物を含んでもよい。
【0127】
疾患の処置または予防のための組成物の有効量は、単回投与計画または複数回投与計画で提供する。
組成物はまた、血液を含む特定の組織に置かれたミクロスフェア、リポソーム、他の微粒子送達システムまたは徐放性製剤を介して投与してもよい。
【0128】
上記の技術および手順ならびびに本発明にしたがって用いることができる他の技術および手順の例は、Remington’s Pharmaceutical Sciences, 18th edition, Gennaro, A.R., Lippincott Williams & Wilkins; 20th edition ISBN 0-912734-04-3 and Pharmaceutical Dosage Forms and Drug Delivery Systems; Ansel, H.C. et al. 7th Edition ISBN 0-683305-72-7に見出すことができ、その開示全体を本明細書に参照として組み込む。
【0129】
用量および投与計画
組成物は「治療有効量」で個体に投与することが好ましく、これは組成物が投与される個体に効果を示すために十分なものである。実際に投与される用量、投与の速度および経時変化は、処置される状態の性質および重症度、ならびに処置される患者の年齢、性別、体重および投与経路などの要因に依存し、またこれらを十分に参考とすることにより決定することができる。組成物の特性、例えばその結合活性およびin vivoでの血漿中の期間(plasma life)、処方における融合タンパク質の濃度、ならびに経路、送達の部位および経路に対して、さらなる十分な考慮がされるべきである。
【0130】
投与計画は、本発明の組成物の単回投与または組成物の複数回投与可能な用量を含むことができる。組成物は、本発明の融合タンパク質が処置するために投与される状態の処置に用いられる他の治療薬および医薬と続けて、または別々に投与することもできる。
【0131】
好適には、本発明の融合タンパク質を投与する場合、約10ng/kg/日〜1mg/kg/日の用量範囲を利用してもよい。
本発明の融合タンパク質は好ましくは「治療有効量」で個体に投与され、これは個体に効果を示すために十分なものである。感染性疾患の場合、効果は感染または疾患症状の軽減を含む。他の疾患の場合、効果は疾患症状の軽減を含む。
【0132】
実際に投与される量、投与の速度および時間経過は、処置される状態の性質および重症度に依存する。処置の指示、例えば投与量などの決定は、最終的には一般医および他の医師の責任内および裁量により、典型的には、処置される疾患疾病、個々の患者の状態、送達部位、投与方法および医師に周知の他の要因を考慮する。
【0133】
融合タンパク質の例は、2またはそれ以上のタンパク質から組換え手段によって作製されるタンパク質である。これは一般的に、融合遺伝子を作製し、第一のタンパク質をコードするDNA配列から終止コドンを除去し、フレーム内(in frame)で第二のタンパク質のDNA配列を付加することにより達成される。必要な場合、さらなるタンパク質を加えてもよい。そして、DNA配列は細胞によって単一のタンパク質として発現される。
【0134】
さらなる態様において、融合タンパク質のポリペプチドを、それぞれ独立して発現させ、次いで融合タンパク質を形成するために結合してもよい。例えば、融合タンパク質の抗原ポリペプチド成分は、病原性生物、癌性細胞などに直接由来してもよく、このポリペプチドは融合タンパク質のFc受容体結合ポリペプチドに結合される。さらなる態様において、抗原ポリペプチドフラグメントは、病原性生物または癌性細胞由来のより大きなポリペプチドのフラグメントであり、さらには、熱ショックタンパク質から単離してもよく、ここで、抗原ペプチドフラグメントは熱ショックタンパク質に結合しており、熱ショックタンパク質−抗原ペプチドフラグメント複合体を形成する。
【0135】
本発明の融合タンパク質またはこれに寄与するペプチドが、組換え手段または別の方法によって、細胞内で生成される場合、当該ペプチドまたは融合タンパク質は、好ましくは単離および精製された形態で提供する。前記単離および精製された形態は典型的に、それが生成される細胞において関連する物質を含まないか実質的に含まない融合タンパク質またはペプチドを含む。
【0136】
組換え手段によって調製される場合の融合タンパク質の精製を促進するために、融合タンパク質は、His−タグ、FLAG−タグまたはGST−タグなどのリガンド結合配列をさらに含んでもよく、プロテアーゼまたは2つの分離タンパク質実体の遊離を可能にする化学剤のための切断部位を含むリンカーを用いて結合されてもよい、い。
【0137】
本発明の融合タンパク質の製造
本発明のポリペプチドの発現、単離および精製はあらゆる好適な技術によって遂行してよく、以下を含むが、これらに限定されない:
【0138】
DNAを含む発現ベクターを、本発明の融合タンパク質または融合タンパク質の少なくとも1つのペプチド成分を製造するために用いてもよい。融合タンパク質またはペプチドの製造方法は、本発明の融合タンパク質またはペプチド成分をコードする組換え発現ベクターで形質転換された宿主細胞をペプチドの発現を促進する状況下で培養すること、そして培養物から発現されたペプチドを回収することを含む。当業者は、発現されたペプチドを精製する手段は、用いられる宿主細胞のタイプ、およびペプチドが、細胞内、膜結合性または宿主細胞から分泌される可溶性であるかなどの要因によって様々であることを認識する。
【0139】
いかなる好適な発現系を用いてもよい。ベクターは、本発明の融合タンパク質またはペプチドをコードするDNA(ポリヌクレオチド配列)を含み、好適な転写また翻訳調節ヌクレオチド配列、例えば哺乳動物、鳥類、微生物、ウイルスまたは昆虫遺伝子由来のものなどへ作動的に結合する。調節配列の例は、転写プロモーター、オペレーターまたはエンハンサー、mRNAリボソーム結合部位および転写および翻訳の開始および終止を調節する適切な配列を含む。調節配列がDNA配列に機能的に関連するとき、ヌクレオチド配列は作動的に結合する。したがって、プロモーターヌクレオチド配列がDNA配列の転写を調節する場合、プロモーターヌクレオチド配列はDNA配列に作動的に結合する。望ましい(E.coli)宿主細胞において複製する能力を与える複製起点、および形質転換細胞を同定する選択遺伝子は、一般的に発現ベクターに組み込まれる。
【0140】
さらに、適したシグナルペプチド(ネイティブまたは異種性)をコードする配列を発現ベクターに組み込むこともできる。シグナルペプチド(分泌リーダー)のためのDNA配列は、DNAが最初に転写され、mRNAがシグナルペプチドを含む融合タンパク質に翻訳するように、本発明の核酸配列にフレーム中(in frame)で融合してもよい。目的とする宿主細胞において機能するシグナルペプチドは、ペプチドの細胞外分泌を促進する。翻訳の間にシグナルペプチドはペプチドから切断されるが、細胞からの融合タンパク質またはペプチドの分泌を可能とする。
【0141】
本発明のペプチドの発現に好適な宿主細胞は、原核生物、高等真核細胞および酵母を含む。原核細胞、哺乳動物細胞、および特にCHO細胞、HeLa細胞ならびにCOS細胞が、宿主細胞としての使用に特に好ましい。
【0142】
哺乳動物、酵母、真菌、原核生物および昆虫細胞宿主とともに使用するための適切なクローニングおよび発現ベクターは、例えば、Pouwels et al. Cloning Vectors: A Lab. Manual, Elsevier, New York, (1986) (ISBN 0444904018)およびCurrent Protocols in Molecular Biology, Eds. F.M. Ausubel et.al., J.Wiley Press (2006)に記載され、これらの開示を本明細書に参照として組み込む。
【0143】
したがって、融合タンパク質をコードするポリヌクレオチド配列を含むベクターを宿主細胞に形質転換すること、ポリヌクレオチドによってコードされたポリペプチドが発現するように宿主細胞を培養すること、および宿主細胞、または分泌シグナルがタンパク質に付加されている場合は周囲の培地から、ポリペプチドを回収することにより、本発明の融合タンパク質を得ることができる。本発明の融合タンパク質の生成に用いてもよい好適な宿主細胞についてのさらなる詳細を以下に示す。
【0144】
原核生物は、グラム陰性またはグラム陽性の生物を含む。形質転換のために好適な原核生物宿主細胞は、例えば、E.coli、B.subtilis、S.typhimuriumおよびPseudomonas、StreptomycesおよびStaphylococcus属内の様々な他の種を含む。E. coliなどの原核生物の宿主細胞において、ポリペプチドは、原核生物の宿主細胞において組換えポリペプチドの発現を促進するために、N−末端メチオニン(met)残基を含んでもよい。N−末端Metは、発現組換えポリペプチドから切断してもよい。
【0145】
原核生物宿主細胞において用いられる発現ベクターは、一般的に1または2以上の表現型の選択可能なマーカー遺伝子を含む。表現型の選択可能なマーカー遺伝子は、例えば、抗生物質抵抗性を与えるか、または独立栄養要件を供給するタンパク質をコードする遺伝子である。
【0146】
本発明のポリペプチド免疫複合体をコードするDNAは、通常の細菌性発現ベクターの多重クローニング部位にフレーム中(in frame)でクローニングされてもよい。理想的には、誘導因子の付加が所望の時間に組換えタンパク質の高レベルの産成を導くように、ベクターはクローニング部位の上流に誘導プロモーターを含む。
【0147】
組換えタンパク質の発現のために、細菌性細胞はあらかじめ決定された最適な密度に達するまで増殖培地において増殖させる。そして組換えタンパク質の発現を誘導する。
そして、精製およびリフォールディングを当業者に周知の技術を用いて行ってもよい。
【0148】
哺乳動物細胞または昆虫宿主細胞の培養系を組換えポリペプチドを発現するために用いてもよい。これらの系は、生成されるポリペプチドが糖鎖付加などの翻訳後修飾を経て、投与される際にタンパク質のより大きな生体内安定性をもたらすという利点を有する。
【0149】
昆虫細胞における異種タンパク質の生成のためのバキュロウイルス系は当業者に周知である。さらに、哺乳動物由来の確立された細胞株も周知であり、例えばサル腎細胞のCOS−7株およびチャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞などである。
【0150】
哺乳動物細胞にDNAを導入する確立された方法も説明されている。哺乳動物宿主細胞発現ベクターのための転写および翻訳調節配列は、ウイルスゲノムから摘出することができる。哺乳動物発現ベクターからの異種遺伝子の発現を向上することが示されているさらなる調節配列を用いてもよい。
【0151】
本発明の融合タンパク質はさらに、酵母宿主細胞において、好ましくはSaccharomyces genus(例えばS. cerevisiae)、HansuelaまたはPichiaから、またはAspergillusなどの他の真菌性発現系において、発現してもよい。酵母形質転換手順は当業者に周知である。かかる手順の1つは、Hinnen et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 75:1929, 1978によって説明されている。
【0152】
当業者に周知なように、宿主細胞のあらゆるタイプに関して、組換えポリペプチドまたはフラグメントを精製するための手続きは、用いられる宿主細胞のタイプおよび組換えポリペプチドまたはフラグメントが培地へ分泌されるか否かなどの要因にしたがって、様々である。
【0153】
2または3以上のポリヌクレオチド配列は、それらの「同一性率(percentage identity)」を判断することにより比較することができる。同様に、2または3以上のポリペプチド配列も、それら同一性率を決定することにより比較することができる。2つのアミノ酸配列または2つの核酸配列の同一性率は、最適な比較目的のために配列を整列させ(例えば、その配列による最良のアラインメントのために、ギャップを第一の配列に導入してもよい)、対応する位置におけるアミノ酸残基またはヌクレオチドと比較することによって決定してもよい。「最良のアラインメント」は、最も高い同一性率をもたらす2つの配列のアラインメントである。同一性率は、比較される配列における同一のアミノ酸残基またはヌクレオチドの数によって決定する(すなわち、%同一性=同一の位置の数/位置の合計数×100)。
【0154】
本発明は、本発明による融合タンパク質にまで及び、ここで、Fc受容体結合タンパク質は、配列番号1または2のアミノ酸配列と、少なくとも90%同一、少なくとも95%同一、少なくとも96%同一、少なくとも97%同一、または少なくとも98%同一、少なくとも99%同一、少なくとも99.5%同一、または少なくとも99.9%同一のアミノ酸配列を有する。典型的には、前記相同配列は、配列番号1または2のアミノ酸配列を有するポリペプチドの生物学的機能を示す。
【0155】
2つの配列間の同一性率判断は、当業者に周知の数学アルゴリズムを用いることによって遂行できる。NBLASTおよびXBLASTプログラムは、かかるアルゴリズムを行うコンピュータープログラムの例である。BLASTヌクレオチド検索を、本発明の核酸分子と相同のヌクレオチド配列を得るために、NBLASTプログラムで行うことができる。BLASTタンパク質検索を、本発明のタンパク質分子に相同なアミノ酸配列を得るために、XBLASTプログラムで行うことができる。
【0156】
比較のためのギャップ(gapped)アラインメントを得るために、Gapped BLASTを利用することができる。代替的に、分子間の距離関係を判断する反復検索を行うために、PSI−Blastを用いることができる(Idem.)。BLAST、Gapped BLASTおよびPSI−Blastプログラムを利用するとき、それぞれのプログラム(例えばXBLASTおよびNBLAST)のデフォルトパラメーターを用いることができる。URL http://www.ncbi.nlm.nih.gov参照。さらなる好適なコンピューターベースのアルゴリズムプログラムを利用することもでき、これらは当業者には周知である。
【0157】
1つより多いコドンが同一のアミノ酸をコードし得る遺伝子コードの周知の重複性に起因して、本発明の融合タンパク質または成分ポリペプチドをコードするポリヌクレオチド配列はその配列において様々であり得、それでもなお未改変のポリヌクレオチド配列からコードされるものと同一のアミノ酸配列を有するポリペプチドをコードする。かかる変異体DNA配列は、(例えばPCR増幅の間に起こる)サイレント突然変異によって起こるか、またはネイティブ配列の意図的な突然変異形成の生成物であり得る。
【0158】
一態様において、本発明の核酸分子は、本発明の融合タンパク質またはそのポリペプチド成分、例えば配列番号1または2のアミノ酸結合配列を含むFc受容体結合ポリペプチドなど、をコードするネイティブ配列に少なくとも80%同一であるヌクレオチド配列も含む。また、核酸分子が当該融合タンパク質または成分であるポリペプチドに少なくとも90%同一、少なくとも95%同一、少なくとも98%同一、少なくとも99%同一または少なくとも99.9%同一の配列を含む態様も考えられる。
【0159】
他に定義されない限り、本明細書において用いられる全ての技術および科学用語は、本発明の技術分野における当業者によって通常理解される意味を有する。
【0160】
本明細書を通して、その文脈が他に要求しない限り、用語「含む(comprise)」または「含む(include)」もしくは「comprises」または「comprising」、「includes」または「including」などの変形は、当然のことながら、定義された完全体または完全体の群を含むことを示唆するが、他の完全体や完全体の群を排除することを示唆しない。
【0161】
本明細書において用いられるように、文脈が明確に要求しない限り、用語「a」、「an」および「the」は単数および複数の指示を含む。したがって、例えば、「活性剤(an active agent)または「薬学的に許容される活性剤(a pharmacologically active agent)」の言及は、単数の活性剤だけでなく、2または3以上の異なる活性剤の組み合わせを含み、一方「担体(a carrier)」の言及は、2または3以上の担体の混合物だけでなく、単数の担体を含む、などである。
【0162】
発明の融合タンパク質のポリペプチド成分を説明するために用いられた命名法は、それぞれのアミノ酸残基の左にアミノ基(N)、右側にカルボキシル基が提供される、従来の習慣に従う。
【0163】
本明細書における「アミノ酸」の語句は、天然および合成アミノ酸の両方、ならびにDおよびLアミノ酸の両方を含むことが意図される。合成アミノ酸は、塩、およびアミドなどのアミノ酸誘導体を含むがこれらに限定されない化学修飾アミノ酸も包含する。本発明のポリペプチド内に存在するアミノ酸は、メチル化、アミド化、アセチル化、またはそれらの生物学的活性に悪影響を及ぼさずに、循環半減期を変化させる他の化学基による置換によって修飾してもよい。
【0164】
用語、「ペプチド」、「ポリペプチド」および「タンパク質」は本明細書において交換可能に用いられ、ペプチド結合またはアイソスターなどの修飾ペプチド結合により共有結合した少なくとも2つのアミノ酸を記載する。ペプチドまたはタンパク質を構成し得るアミノ酸の最大数には限定がない。用語「オリゴマー」および「オリゴペプチド」もまた本明細書に記載されたペプチドを意味することが意図される。さらに、用語ポリペプチドは、ペプチドのフラグメント、類似体、誘導体を含み、ここで前記フラグメント、類似体または誘導体は、当該フラグメント、類似体または誘導体が由来するペプチドと同じ生物学的機能性活性を保持する。
【0165】
さらに、本明細書において用いられる用語「融合タンパク質」は、融合ポリペプチド、融合ペプチドなどを意味するととらえられ、または免疫複合体と呼んでもよい。用語「融合タンパク質」は、2または3以上のサブユニット分子、典型的にはポリペプチドが共有結合または非共有結合する分子をいう。
【0166】
本明細書において用いられるように、用語「治療有効量」は、病原性疾患、癌性状態もしくは自己免疫疾患または神経変性疾患などの疾患もしくはそれらの少なくとも1つの兆候の重症度を軽減および/または改善するために必要な、あるいは病原性疾患、癌性状態もしくは自己免疫疾患または神経変性疾患などの疾患、もしくはこれらに関連する1または2以上の症状の進行を予防するために働く、本発明の融合タンパク質の量を意味する。
【0167】
本明細書において用いられるように、用語「予防に効果的な量」は、本発明の化合物の投与の後、対象において、病原性疾患、癌性状態、もしくは自己免疫疾患または神経変性疾患などの疾患の初期発病、進行または再発、あるいはこれらの症状の少なくとも1つを予防するために必要な組成物の量に関する。
【0168】
本明細書において用いられるように、用語「処置(treatment)」および「処置する(treat)」および「処置すること(treating)」などの関連用語は、病原性疾患、癌性状態、もしくは自己免疫疾患または神経変性疾患などの疾患の進行、重症度および/または期間の軽減、またはそれらの症状の少なくとも1つの改善を意味し、ここで前記軽減または改善は本発明の融合タンパク質の投与によってもたらされる。用語「処置」はしたがって、対象に利益を与えるあらゆるレジメンに関する。処置は、現状に関するものでもよく、または予防的(予防的処置)であってもよい。処置は、治療、緩和または予防効果を含んでもよい。本明細書における「治療的」および「予防的」処置への言及は、それらの最も広い状況において考慮する。用語「治療的」は、対象が完全に回復するまで処置することを必ずしも示唆しない。同様に、「予防的」は、対象が最終的に疾患状態にかからないことを必ずしも意味しない。
【0169】
本明細書において用いられるように、用語「対象」は動物、このましくは哺乳動物、とくにヒトに関する。特定の態様において、対象は、例えば、化学療法または放射線治療などの放射線療法で、放射線を浴びたかまたは浴びる予定の哺乳動物、特にヒトである。用語「対象」は、用語「患者」と交換可能である。
【0170】
本明細書に定義された、融合タンパク質のまたはポリペプチドのフラグメントは、一般的に少なくとも5〜7連続したアミノ酸、しばしば少なくとも7〜9連続したアミノ酸、典型的には少なくとも9〜13連続したアミノ酸、より好ましくは少なくとも20〜30連続したアミノ酸またはさらに連続したアミノ酸および最も好ましくは少なくとも30〜40またはそれ以上連続したアミノ酸を意味する。
【0171】
本明細書に定義されたポリペプチドの「誘導体」または「変異体」、例えば配列番号1、配列番号3のものや、本発明の融合タンパク質を定義するものなどは、ポリペプチドのアミノ酸配列に変化を持たせることにより、例えば、ポリペプチドをコードする核酸の操作によって、またはポリペプチド自体を変化させることによって、修飾されたポリペプチドを意味する。天然アミノ酸配列のかかる誘導体は、好ましくはインターフェロンアルファ結合活性を有するポリペプチドを提供すると同時に、1または2以上のアミノ酸の挿入、付加、欠失および/または置換に関わってもよい。典型的には、かかる誘導体は、25以下、より好ましくは15以下、さらに好ましくは10以下、さらに好ましくは4以下、最も好ましくは1または2つのアミノ酸の挿入、付加、欠失および/または置換に関わる。
【0172】
当然のことながら、アミノ酸レベルにおける相同性は、一般的にアミノ酸の類似性または同一性の観点からみる。類似性は、イソロイシン、バリン、ロイシンまたはメチオニンなどの1つの疎水性残基の他のものへの置換、または例えばアスパラギン酸をリジン、グルタミン酸に、またはアスパラギンをグルタミンに置換するなどの1つの極性残基で他の残基を置換などの「保存的変化(conservative variation)」を可能にする。非ペプチド模倣剤も、本発明の範囲内でさらに提供する。したがって、変異体は、変化していないポリペプチド配列と好ましくは少なくとも80%同一、最も好ましくは少なくとも90%同一であるアミノ酸配列を有する。同一性率は、例えば、Devereux et al.(Nucl. Acids Res. 12:387, 1984)に記載され、the University of Wisconsin Genetics Computer Group (UWGCG)から入手可能なGAPコンピュータープログラム、バージョン6.0を用いて配列情報を比較することにより、判断してもよい。
【0173】
本発明の一態様において、融合タンパク質のFc受容体結合ポリペプチドの誘導体は、FcRに結合し、その内部移行を誘導するのに十分である。ポリペプチドの精製に必要であれば、融合タンパク質は、Fcドメインのタンパク質Aおよびタンパク質G結合領域、または他のリガンド結合配列、例えばHisタグまたはGST−タグなどをさらに含んでもよい。
【0174】
本発明を以下の例を参照しながら詳述するが、これは説明の目的で提供されるものであって、本発明を制限するように解釈されることを意図するものではない。
【0175】

例1−免疫複合体の生成
インフルエンザウイルスヘマグルチニン(HA)を抗原フラグメントとして含む免疫複合体(融合タンパク質)の生成のために、HA遺伝子をNational Institute of Biological Standards and Control, Potters Bar (NIBSC)から得たウイルス標準からPCRを用いて増幅し、Fc遺伝子フラグメントを融合タンパク質として含む好適な発現ベクターにクローニングした。puc−ベースベクターpAcVSVTMSfi(SD Chapple and IM Jones J.Biotech.(2002) vol.95, p269-27およびYao YY. J Infect Disease (2004) vol.190, p91-98)における増幅の後、HA3遺伝子の外側のドメインをA/Bangkok/1/79 (BK79)からフォワード5’−GCGCGGCCATTATGGCCCAAAACCTTCCCGGAAATG−3’およびリバース5’−GCGCGGCCGAGGCGGCCCCAGTCTTTGTATCCTGAC−3’プライマーを用いて増幅し、増幅されたフラグメントをに精製し、Sfi(下線部位)で切断し、ヒトIgG1 Fcドメインを含むFc融合タンパク質ベクターpAc3cFcHisへクローニングした。このように、免疫複合体は、BK79 HA3およびヒトIgG1のC2/3ドメインを含めてアミノ酸17〜530を含み、最終プラスミドの配列を決定することにより再確認した。
【0176】
プラスミドと線形化バキュロウイルスAcMNPV DNA(Yao YY J.Infect. Disease (2004) vol.190, p91-98)との共トランスフェクションの迅速組換え法を用いた組換えバキュロウイルスの構築により、融合タンパク質を昆虫細胞に発現した。組換えバキュロウイルスをマルチウェルプレートにおけるSf9細胞に滴定し、静置培養において血清フリーInsect Express培地(Invitrogen)を用いて大量調製をおこなった。また、これらの静置培養からの免疫複合体(融合タンパク質)を用いて、NIBSCから得たHA抗血清による免疫組織化学染色を用いて、タンパク質発現ならびにFcRの結合および内部移行を確認した。代替的に、市販のBAC−TO−BACシステム(Invitrogen)も用いた。免疫複合体を、HIGHFIVETMまたはSf9細胞において、5LのWave Bioreactor容器(www.wavebiotech.com)を用いて発現させ、効力試験用ワクチンの製造のために、標準的なアフィニティークロマトグラフィー法およびカラム(GE Healthcare, UK)を用いて精製した。
【0177】
同様に、H5トリインフルエンザウイルスA/Vietnam/1194/04からのHAを含む免疫複合体を、以下のフォワード5’−GCGCGGCCATTATGGCCAAGATCAGATTTGCATTGG−3’およびリバース5’−GCGCGGCCGAGGCGGCCTTGGTAAATTCCTATTG−3’プライマーを用いた外ドメインのPCR増幅により作成し、上記のSf9細胞におけるバキュロウイルス発現による大量調製のためにFcRベクターへクローニングした。免疫複合体は、H5 HAおよびヒトIgG1のC2/3ドメインを含むアミノ酸17−530を含み、最終プラスミドの配列を決定することにより再確認した。
【0178】
免疫複合体もまた、合成遺伝子コンストラクトを用いて作成した。このアプローチは、インフルエンザHAもしくはHIV gp120遺伝子におけるプロテアーゼ切断部位もしくは可変ループの除去、またはAg85/ESAT−6もしくはRv1025/1196 TB遺伝子融合などの異種融合抗原の生成などの所望の遺伝子変化を導入するという、さらなる利点を有した。さらに、位置234および235の2つのロイシン残基をそれぞれバリン残基およびアラニン残基で置き換えるなどの、Fcドメインにおける配列変更によって、FcR結合変異体を生成するために、合成遺伝子を用いた。
【0179】
例2−結合および内部移行スクリーニング
免疫複合体を、それらがFcRsに結合し、内部移行を誘導する能力によって、さらに選択した。市販の血液DC精製キット(Miltenyi Biotec)を用いて、CD32およびCD64を発現する樹状細胞(DCs)を末梢血液から単離した。免疫複合体をDCsと共に、2%ウシ胎仔血清を添加したRPMIにおいて15〜30分室温でインキュベートした。細胞を0.1%グルタルアルデヒドにおいて固定し、0.3〜0.5%非イオン洗浄剤、例えばTriton X100またはNonidet P40などを用いて浸透化させ、適切なHA分子に対するウサギ抗血清とその後のFITC−標識ヤギ抗ウサギ第二層を用いた免疫蛍光によって、免疫複合体を可視化した。THP−1細胞を用いたフローサイトメトリー(FACS分析)によって、ヒトFc受容体およびRAW細胞(マウス樹状細胞)への結合を見て、マウスFcRへの結合を確かめ、そして免疫原性研究のための動物モデルの有効性を確かにするために、THP−1細胞を用いたフローサイトメトリー(FACS分析)によって結合を評価した。
【0180】
内部移行は、Nikon共焦点顕微鏡での細胞内小胞の観察によって評価した。得られたデータの図解を図2、図3および図4に示し、これらは、RAWおよびTHP−1細胞の両方を用いる、例1に説明されるように生成した2つのFc変異体免疫複合体を識別する能力を示し、LL変異体はFcR結合を示すが、一方、VA変異体はFcRに結合しないか、またはFcRの内部移行を引き起こさないことを示す。
【0181】
具体的には、図2は、融合タンパク質によるヒトTHP−1へのFc受容体の結合のFACSトレース図を示す。中央(中間)ピークは、例1において説明したインフルエンザウイルス由来のヘマグルチニンを抗原ペプチドとして含む融合タンパク質、およびFc受容体結合ドメインに関係し、ここで、Fc結合ポリペプチドドメインのアミノ酸配列(これは、改変されていない場合、配列番号1のアミノ酸配列を含む)は、変異させられて変異体(「LL」変異体)を形成し、ここで位置234および235に存在する2つのロイシン残基がバリンおよびアラニンによって置き換えられた。このピークは、この変異体融合タンパク質が、THP−1細胞に存在するFc受容体に結合しないことを示す。
【0182】
図2に示された3つのピークの最も右のものは、ヘマグルチニン抗原ポリペプチドと配列番号1のアミノ酸配列を含むFc受容体結合ポリペプチドとを含む本発明の融合タンパク質の結合を示す。このピークの位置は、THP−1細胞に存在するFc受容体への融合タンパク質の結合を示す。
【0183】
図3は、RAW細胞に存在するFc受容体への上記2つの融合タンパク質の結合を示す。変異体融合タンパク質による結合は、中央ピークによって図示され、これは変異体融合タンパク質の結合が存在しないことを示す(Fc受容体結合ポリペプチドの配列内に存在するロイシン置換のため)。変異していない融合タンパク質によって調節された結合は、右側のピークによって図示され、これは融合タンパク質がマウスRAW細胞に存在するFc受容体に結合することを裏付ける。
【0184】
図4は、代わりの融合タンパク質のヒトTHP−1細胞に存在するFc受容体への結合を示す。図4の左側のピークは、HIVのgp120由来の抗原ポリペプチドを含む変異体融合タンパク質の結合に関連し、さらにここでFc受容体結合ポリペプチドは、上述の二つのロイシンの突然変異を受けた配列番号1のアミノ酸配列を含む。ピークの位置は、この変異体によるFc受容体への結合は起こらないことを示す。右側のピークは、HIVのgp120由来の抗原ポリペプチドと配列番号1のアミノ酸配列を含むFc受容体結合ポリペプチドとを含む変異体融合タンパク質に関連する。ピークの位置は、融合タンパク質がTHP−1細胞に存在するFc受容体に結合することを図示する。
【0185】
例3−異種ウイルスに対する防御(遺伝子突然変異によるウイルス配列の連続変異)
IgG1からのFcドメインに共役したA/Bangkok/1/79ウイルス由来のHA3の免疫複合体を用いてbalbcマウスを免疫し、そして、ワクチン株からの3つの連続変異現象の分離をもたらす株突然変異を含む、異種ウイルスA/Victoria/75(H3N2)に暴露した。免疫を与えられた動物において誘発された抗血清のヘマグルチニン抑制(HAI)力価を、ニワトリおよびシチメンチョウ赤血球の両方を用いて分析した。免疫複合体ワクチンが体重減少を予防する能力および肺におけるウイルス負荷を軽減する能力の両方を、免疫された動物における防御のレベルを評価するために用いた。動物に0日目、13日目および27日目にアジュバントを含まない5μgの免疫複合体を予防接種し、41日目に非致死量の感染性異種ウイルスに暴露した。免疫された動物は、体重減少の著しい軽減(図1)および肺ウイルス力価における3倍の軽減の両方を示し、免疫複合体が異種ウイルスによるウイルス感染から動物を防御したことを示す。VA変異体を含む免疫複合体は防御を示さず、肺ウイルス力価における軽減は観察されなかった。
【0186】
しかしながら、免疫された動物は、HAI感度を高めるためにシチメンチョウ赤血を使った場合においてですら、暴露の前にも後にも、検出可能なHAI力価を示さなかった。これらの結果は非常に驚くべきものであった。なぜならば、HAI力価は防護の示標として広く認識され、HAI力価の誘発は、実際に、年次インフルエンザワクチンを許諾するために用いられる主な基準の1つであるので、したがって、強い体液性免疫応答を欠く場合であっても、Fc−免疫複合体が細胞免疫応答を誘発するの能力は、インフルエンザに対する防御に十分であると思われる。本発明の免疫複合体によって誘発された免疫は、単に3つの連続変異現象の分だけ離れた異種株だけに対して防御を与えるのではなく、年次インフルエンザワクチンにおける同種株に対する防御を誘発するために与えられる常用量の三分の一でこれを行うので、より驚くべくものであった。
【0187】
例4−流行性ウイルスに対する防御(トリインフルエンザ)
IgG1からのFcドメインに共役したA/Vietnam/1194/2004(H5N1)トリインフルエンザウイルス由来のHA5の免疫複合体を、balbcマウスを免疫するために用い、そしてA/Vietnam/1194/2004 HA5とPR8ウイルス(NIBRG−14)との取り合わせを含む同種ウイルスに暴露した。
【0188】
このマウスモデルにおける以前の研究は、HA5サブユニットワクチンが、アジュバントの存在下で高用量で用いられない限り、感染に対して防御しないことを示している。免疫された動物において誘発された抗血清のヘマグルチニン抑制(HAI)力価をニワトリ赤血球を用いて分析した。免疫複合体ワクチンが体重減少を予防する能力および肺におけるウイルス負荷を軽減する能力両方を、免疫された動物における防御のレベルを評価するために用いた。動物に、0、14および28日目に、アジュバントを含まない15ugの免疫複合体を予防接種し、43日目に致死量のトリ流行性株からのH5遺伝子を有する感染性ウイルスに暴露した。免疫された動物は、感染に対する顕著な防御ならびに67%の生存率、免疫された動物の肺におけるウイルス力価の顕著な軽減を示し、これは、生存したものの一部における検出可能なウイルスが存在しなかったことを含む。この場合もまた、免疫された動物は、暴露の前に検出可能なHAI力価を示さないが、免疫された動物は、ウイルス暴露後、H5に対して、年次インフルエンザワクチンの許諾に必要とされる力価の4倍の増加よりわずかに少ないHAI力価を示した。したがって、Fc免疫複合体の細胞免疫応答を誘導する能力がトリインフルエンザに対する防御に十分であり、免疫複合体を生成するための迅速組換えDNA技術の使用が突発的な流行性ウイルスに対するワクチンの製造における特別な有用性を有すると考えられる。
【0189】
本明細書において引用された全ての文献は、参考として本明細書に組み入れられる。本発明の範囲から外れることなく、本発明の記載された態様への、様々な修正および変更が当業者に明らかである。本発明は特定の好ましい態様において説明したが、当然のことながら、請求の範囲における本発明は、かかる特定の態様へ過度に限定されるべきでない。実際には、当業者に明らかである、本発明を実施する記載された形式の様々な修正が本発明の範囲内として意図される。
【図面の簡単な説明】
【0190】
【図1】例3の手順に従って免疫された動物の体重減少データを示すグラフである。
【図2】ヒトTHP−1細胞におけるFc受容体への融合タンパク質の結合を示すFACS分析の結果である。
【図3】RAW細胞(マウス樹状細胞)におけるFc受容体への融合タンパク質の結合を示すFACS分析の結果である。
【図4】ヒトTHP−1細胞におけるFc受容体への融合タンパク質の結合を示すFACS分析の結果である。
【図5】配列番号1のアミノ酸配列(*で示される上の配列)とKabatデータベースに由来するIgGの重鎖定常ドメインの残基216〜447(配列番号3)(**で示される下の配列)との比較を示すアラインメントである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1または2以上の抗原ポリペプチド配列と、結合したFc受容体の内部移行を引き起こすために十分な結合親和性でFc受容体に結合するFc受容体結合ポリペプチドとを含む、融合タンパク質。
【請求項2】
Fc受容体結合ポリペプチドが、ヒト免疫グロブリンのサブクラスIgGの重鎖由来の定常ドメインに由来する、請求項1に記載の融合タンパク質。
【請求項3】
Fc受容体ポリペプチドが、ヒトIgG免疫グロブリンのCH2定常ドメイン、または前記CH2定常ドメインと同一の生物学的機能を示すそのフラグメントを含む、請求項1または2に記載の融合タンパク質。
【請求項4】
ヒトIgG免疫グロブリンがIgG1またはIgG3である、請求項3に記載の融合タンパク質。
【請求項5】
CH2配列が、ヒトIgG免疫グロブリンの重鎖定常ドメインのCH2配列の位置297に相当する残基において、アスパラギン残基を含む、請求項3または4に記載の融合タンパク質。
【請求項6】
Fc受容体結合ポリペプチドが、配列番号1のアミノ酸配列を含む、請求項1に記載の融合タンパク質。
【請求項7】
Fc受容体結合ポリペプチドが、配列番号2のアミノ酸配列を含む、請求項1に記載の融合タンパク質。
【請求項8】
Fc受容体結合ポリペプチドが、約10−6Kd〜約10−9Kdの解離速度定数でFc受容体に結合する、請求項1〜7のいずれかに記載の融合タンパク質。
【請求項9】
Fc受容体結合ポリペプチドが、約1×10Ka〜約3×10Kaの会合速度定数でFc受容体に結合する、請求項1〜7のいずれかに記載の融合タンパク質。
【請求項10】
Fc受容体ポリペプチドおよび抗原ポリペプチドが共有結合によって結合される、請求項1〜9のいずれかに記載の融合タンパク質。
【請求項11】
Fc受容体ポリペプチドおよび抗原ポリペプチドが、非共有結合によって結合される、請求項1〜9のいずれかに記載の融合タンパク質。
【請求項12】
Fc受容体ポリペプチドおよび抗原ポリペプチドが、リンカー部分またはスペーサー配列によって結合される、請求項1〜9のいずれかに記載の融合タンパク質。
【請求項13】
抗原ポリペプチド配列が、ウイルス性ポリペプチド、細菌性ポリペプチド、真菌性ポリペプチドおよび寄生虫由来のポリペプチドからなる群から選択される、請求項1〜12のいずれかに記載の融合タンパク質。
【請求項14】
抗原ポリペプチド配列が、腫瘍特異抗原、自己免疫疾患および神経変性疾患からなる群から選択される非病原性疾患由来である、請求項1〜12のいずれかに記載の融合タンパク質。
【請求項15】
ポリペプチドがウイルス性ポリペプチドであり、ウイルスがHIV、B型肝炎またはC型肝炎である、請求項13に記載の融合タンパク質。
【請求項16】
ポリペプチドがウイルス性ポリペプチドであり、ウイルスがインフルエンザA型である、請求項13に記載の融合タンパク質。
【請求項17】
インフルエンザA型ウイルスが、H5N1、H9N2、H7N1、H7N2、H7N3およびH7N7からなる群から選択される、請求項16に記載の融合タンパク質。
【請求項18】
1または2以上のさらなる異種ポリペプチドをさらに含む、請求項1〜17のいずれかに記載の融合タンパク質。
【請求項19】
請求項1〜18のいずれかに記載の融合タンパク質を含む、免疫原性組成物。
【請求項20】
少なくとも1つのアジュバントをさらに含む、請求項19に記載の免疫原性組成物。
【請求項21】
請求項19または20に記載の免疫原性組成物を、免疫応答を誘導するために十分な量で対象に投与する工程を含む、対象において免疫応答を誘導する方法。
【請求項22】
免疫応答が、細胞傷害性T細胞(CTL)応答である、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
請求項1〜18のいずれかに記載の融合タンパク質をコードするポリヌクレオチド配列。
【請求項24】
請求項23のポリヌクレオチド配列を含むベクター。
【請求項25】
ポリヌクレオチド配列に操作可能なように結合した少なくとも1つの制御配列エレメントをさらに含む、請求項24に記載のベクター。
【請求項26】
請求項24または25に記載のベクターもしくは請求項23に記載のポリヌクレオチド配列を含む宿主細胞。
【請求項27】
細胞が哺乳動物細胞である、請求項26に記載の宿主細胞。
【請求項28】
細胞が、BHK、VERO、HT 1080、293、COSおよびCHOからなる群から選択される、請求項27に記載の宿主細胞。
【請求項29】
対象において免疫応答を誘導する方法であって、
― 請求項1〜18のいずれかに記載の融合タンパク質を提供する、および
― 治療有効量の前記融合タンパク質を、融合タンパク質内に提供される前記抗原ポリペプチドまたはそのフラグメントに対する免疫応答の誘導が望まれる対象に投与する
工程を含む、前記方法。
【請求項30】
病原性疾患を伴う感染の処置のために免疫応答を誘導することを含む、請求項29に記載の方法であって、
― 疾患の原因である病原体または該病原体由来の生成物由来の抗原ポリペプチド配列を得る、
― 前記抗原ポリペプチド配列を融合タンパク質の形成において使用する、および
― 治療に有効または予防に有効な量の該融合タンパク質を含む組成物を、かかる処置を必要とする対象に投与する
工程をさらに含む、前記方法。
【請求項31】
抗原ポリペプチドが細菌性病原体またはウイルス性病原体由来である、請求項30に記載の方法。
【請求項32】
非病原性疾患状態の処置のために免疫応答を誘導することをさらに含む、請求項29に記載の方法であって、
― 該非病原性疾患状態に特異的な抗原ポリペプチド配列を得る、
― 前記抗原ポリペプチド配列を融合タンパク質の形成において使用する、および
― 治療に有効または予防に有効な量の融合タンパク質を含む組成物を、かかる処置を必要とする対象に投与する
工程をさらに含む、前記方法。
【請求項33】
非病原性抗原ポリペプチドが、腫瘍特異的ペプチド、神経変性疾患に特異的なペプチド、および自己免疫疾患に特異的なペプチドからなる群から選択される、請求項32に記載の方法。
【請求項34】
免疫応答が、細胞傷害性T細胞(CTL)応答である、請求項29〜33のいずれかに記載の方法。
【請求項35】
対象が哺乳動物である、請求項29〜34のいずれかに記載の方法。
【請求項36】
哺乳動物がヒトである、請求項35に記載の方法。
【請求項37】
細胞傷害性T細胞(CTL)応答を対象において引き起こす方法であって、対象においてCTL応答をもたらすことを可能にする状況下で、対象に請求項19または29に記載の免疫原性組成物を投与する工程を含む、前記方法。
【請求項38】
対象において免疫応答を生じさせる方法であって、ポリヌクレオチドの発現および融合タンパク質の産生を可能にする状況下で、対象の細胞に請求項23に記載のポリヌクレオチドまたは請求項25に記載のベクターを投与することを含み、それによって前記融合タンパク質に対する免疫応答を誘発する、前記方法。
【請求項39】
ベクターが、非ウイルスベクターである、請求項38に記載の方法。
【請求項40】
ベクターが、ウイルスベクターである、請求項38に記載の方法。
【請求項41】
ウイルスベクターが、レトロウイルスベクターである、請求項40に記載の方法。
【請求項42】
レトロウイルスベクターが、レンチウイルスベクターである、請求項41に記載の方法。
【請求項43】
対象が哺乳動物である、請求項38〜42のいずれかに記載の方法。
【請求項44】
哺乳動物がヒトである、請求項43に記載の方法。
【請求項45】
ポリヌクレオチドまたはベクターを、静脈内または筋肉内投与する、請求項38〜44のいずれかに記載の方法。
【請求項46】
免疫応答の誘導に用いるための医薬組成物であって、1または2以上の抗原ポリペプチド配列と、結合したFc受容体の内部移行を引き起こすに十分な結合親和性でFc受容体に結合するFc受容体結合ポリペプチドとを含む融合タンパク質を、薬学的に許容される賦形剤、担体または希釈剤とともに含む、前記医薬組成物。
【請求項47】
薬剤として用いるための、抗原ポリペプチド配列と、結合したFc受容体の内部移行を引き起こすために十分な結合親和性でFc受容体に結合するFc受容体結合ポリペプチドとを含む、融合タンパク質。
【請求項48】
疾患の処置用または予防用薬剤の製造のための、1または2以上の抗原ポリペプチド配列と、結合したFc受容体の内在化を引き起こすために十分な結合親和性でFc受容体に結合するFc受容体結合ポリペプチドとを含む融合タンパク質の使用。
【請求項49】
疾患が、病原性疾患である、請求項48に記載の使用。
【請求項50】
病原性疾患がウイルス感染である、請求項49に記載の使用。
【請求項51】
ウイルス感染が、HIV、B型肝炎、C型肝炎またはインフルエンザA型である、請求項50に記載の使用。
【請求項52】
インフルエンザA型が、H5N1、H9N2、H7N1、H7N2、H7N3およびH7N7から選択されるサブタイプから選択される、請求項51に記載の使用。
【請求項53】
疾患が非病原性疾患である、請求項48に記載の使用。
【請求項54】
非病原性疾患が、癌性または悪性状態、神経変性疾患および自己免疫疾患からなる群から選択される、請求項53に記載の使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2009−529906(P2009−529906A)
【公表日】平成21年8月27日(2009.8.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−500939(P2009−500939)
【出願日】平成19年3月22日(2007.3.22)
【国際出願番号】PCT/GB2007/050143
【国際公開番号】WO2007/107797
【国際公開日】平成19年9月27日(2007.9.27)
【出願人】(508283749)イムノバイオロジー リミテッド (1)
【Fターム(参考)】