説明

免疫応答増強剤及び組成物を投与するためのイオントフォレーシス装置及び方法

イオントフォレーシスによる免疫応答増強剤又はその組成物を送達するイオントフォレーシス装置及び方法に関する。本装置は、免疫応答増強剤又はその組成物を含む薬液保持部を有する作用側電極構造体と、非作用側電極構造体を備えることができる。本装置は、作用側電極構造体及び非作用側電極構造体を備え、前記作用側電極構造体は、第1極性の電圧を印加することが可能な第1電極要素と、前記第1電極要素の前面側に配置された薬液保持部を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2004年11月16日に出願された米国仮出願第60/627,952号及び2005年5月16日に出願された米国特許出願第11/129,321号から変更された米国仮出願(米国速達便EV718205539US)の優先権を主張するものであり、これら2つの米国仮出願の全体を参照により組み込むものである。
【0002】
本出願は、概して免疫応答増強剤又は組成物を投与するための方法及び装置に関する。より詳細には、本出願は、アジュバント及びアジュバント含有組成物を投与するための方法、並びに、そのような薬剤及び組成物の投与に適するイオントフォレーシス装置に関する。
【背景技術】
【0003】
感染病に対する免疫化など、免疫応答を増強(enhancing)又は賦活(stimulating)する組成物の送達に現在使用される方法は、一般に、例えば注射針の使用によるなど、皮膚又は粘膜への穿刺を必要とする。このような方法は、滅菌した環境下で行われ、熟練者を必要とする。そのような環境や熟練者は、常に準備された状態となるとは限らない。更に、滅菌されない条件下で注射針を反復使用すると、病気の感染を生じうる。加えて、感染の危険とともに、特に、治療や予防に注射が何度も必要な場合には、痛みの故に多くの人は治療法に従うことに二の足を踏む。更に、薬物を皮膚の薄い幼児や小さな動物に投与する場合には、特別に熟練した人が必要となる。このように、免疫応答増強又は賦活剤や組成物の注射針を用いない投与方法の開発が優先的事項となっている。
【0004】
米国特許第6797276号は、皮膚の最外層に位置するランゲルハンス島細胞に抗原の送達が向けられる受動的(passive)な経皮的免疫法を開示している。米国特許第5910306号は、抗原とリポソームを含む混合物の皮膚への適用を開示し、米国特許第5980898号は、抗原、アジュバント及び添加物(dressing)を含む受動的な経皮的免疫法のためのパッチを開示している。これらの特許は、それぞれ、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0005】
注射に関連する様々な問題を解決する公知の投与法は、イオントフォレーシス(「イオントフォレーゼ」、「イオン導入法」或いは「イオン浸透療法」とも呼ばれる)である。イオントフォレーシスは、典型的にはイオン化され、又は極性を有する薬物(drug)又は作用薬(active agent)を皮膚又は粘膜を介して駆動、又は運搬するに十分な起電力を適用することにより、皮膚又は粘膜を介して薬物又は作用約を体内に経皮的に送達するために使用される。この送達方法では、例えば、プラスに荷電した薬物は、アノードから印加される起電力により皮膚へ、或いは皮膚を通して駆動することができ、マイナスに荷電した薬物は、カソードから印加される起電力により皮膚へ、或いは皮膚を通して駆動することができる。イオントフォレーシスの間、反発力に応答した荷電分子の移動に加え、荷電した、或いは荷電しない薬物又は作用薬は、電気浸透による溶媒流によっても、皮膚へ、或いは皮膚を通して輸送され得る。
【0006】
皮膚又は粘膜を通しての薬物又は作用薬の送達のためのイオントフォレーシスの使用の研究は、典型的には、イオン化され、又は極性を有する小さい薬物又は作用薬の送達について記述されてきた。送達のための方法としてイオントフォレーシスを適用し得るそのような薬物又は作用薬の例には、プロカイン塩酸塩やリドカインなどの麻酔薬、カルニチン塩酸塩などの胃腸病治療薬、臭化バンクロニウムなどの骨格筋弛緩薬、テトラサイクリン系調剤薬、カナマイシン系調剤薬、ゲンタマイシン系調剤薬などの抗生物質、B2、B12、C、E、葉酸などのビタミン、ヒドロコルチゾン系の水溶性調剤薬、デキサメタゾン系の水溶性調剤薬、プレドニソロン系の水溶性調剤薬などの副腎皮質ホルモン、ペニシリン系の水溶性調剤薬、クロラムフェニコール系の水溶性調剤薬などの抗生物質が含まれる。
【0007】
イオントフォレーシス装置は、典型的には、より大きい薬物や作用薬の送達、或いは非イオン性で水性の媒体中での溶解度が限定的な薬物や作用薬の送達については記述されてこなかった。例えば低い水溶性と1000を越える分子量を有するリピドAやリピドA類縁体などの免疫応答増強性を有するアジュバントは、イオントフォレーシスによる経皮送達の対象としては研究されてこなかった。
【0008】
本願に記載される手法は、複数のイオン交換膜を含むイオントフォレーシス装置を用いて上記問題のいくつかに対処することを意図している。イオントフォレーシスによる薬物投与のための種々の型式の装置が公知である。
【0009】
以下にイオン交換膜を有するイオントフォレーシス装置についての議論及び例を以下に示す。
【0010】
特開平3−504343号公報は、(i)電極部、(ii)浸透させようとするイオン性又はイオン化可能な薬剤(medicine)を収容する貯留器、(iii)前記貯留器の外側(皮膚に接する側)に配設され、かつ前記イオン性薬剤と同じ極性の電荷をもつイオンを選択するイオン交換膜とから成るイオントフォレーシス電極を開示している。イオン交換膜は、例えば、塩素やナトリウムなどのイオン種の皮膚から薬物を収容する電極構造体への移動を制限するものとして記述されている。
【0011】
米国特許第4,722,726号明細書は、 (i).バッファ液(緩衝液)を満たした上室と、(ii)イオン交換膜により前記上室から分離されたアニオン性薬剤を満たした下室とを含み、水の加水分解による不都合な影響を軽減することを目的とする電極を開示している。
【0012】
特開平3−94771号公報は、(i)柔軟性支持部材で囲繞され、かつ内部に電極板を有する水分保持部、(ii)前記水分保持部の前面(皮膚側)に配設されたイオン交換膜、及び(iii)前記イオン交換膜の前面(皮膚側)に配設された薬物層(イオン性薬物層)とからなるイオントフォレーシス用電極を開示している。上記薬物は、皮膚に接触するイオン交換膜の表面にスプレードライ、貼着又は付着される。
【0013】
アジュバントは、例えば薬理学的な化合物の有効性を増強するために使用される作用薬である。特に、アジュバントは、ワクチンや抗原とともに投与されてワクチンや抗原への免疫応答を増強する。アジュバントは、ランゲルハンス島細胞が存在する表皮層に送達された場合に有効化される。従って、リピドAやリピドA類縁体などのアジュバントは、典型的には注射により表皮に投与される。
【0014】
リピドAは、グラム陰性菌から得られるリポ多糖(LPS)の活性中心である。リピドAは、インターフェロン誘導作用、TNF誘導作用を有している。加えて、リピドAは、マクロファージ活性化作用、β細胞幼若化作用、細胞性免疫賦活活性作用などの免疫活性化作用を有している。種々のワクチンとともに投与するアジュバントとしてのリピドAの利用が研究されている。ある種のリピドAの誘導体は、その毒性や有害作用を除去する一方で、上記したようなリピドAの免疫活性化作用を維持乃至増大させる。そのようなリピドAの誘導体は、D−グルコサミンがβ1−6結合で連なった2糖構造(4-O-2-amino-2-deoxy-β-D-glucopyranosyl-amino-2-deoxy-D-glucopyranose)を基本骨格として有している。モノホスホリルリピドA(monophosphoryl lipid A)、3−O−脱アシルモノホスホリルリピドA(3-O-deacylated monophosphoryl lipid A)、アミノアルキルグルコサミン4リン酸塩(AGP/aminoalkyl glucosaminide 4-phosphates)を含む多数の化合物(以下、本明細書においては、「リピドA類縁体」と呼ぶ)がリピドAの誘導体として合成されている(非特許文献1、2参照)。
【非特許文献1】デイビッド等著、「アジュバント及び免疫賦活剤としてのリピドA類縁体」、2002年、トレンド・イン・マイクロバイオロジー、10巻、10号、S32頁
【非特許文献2】ベーカー等著、「無毒性モノホスホリルリピドAによる抑制性T細胞活性の不活性化」、インターラクション・アンド・イミュニティ、1998年、56巻、5号、1076頁
【特許文献1】米国特許第4912094号
【特許文献2】特許出願公表平3−504343号公報
【特許文献3】米国特許第4,722,726号明細書
【特許文献4】特開平3−94771号公報
【特許文献5】特開平4−297277号公報
【特許文献6】特開2000−229128号公報
【特許文献7】特開2000−229129号公報
【特許文献8】特開2000−237326号公報
【特許文献9】特開2000−237327号公報
【特許文献10】特開2000−237328号公報
【特許文献11】特開2000−237329号公報
【特許文献12】特開2000−288097号公報
【特許文献13】特開2000−288098号公報
【特許文献14】特開2004−188188号公報
【特許文献15】国際公開第03/037425号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
特許文献2〜4に開示されるものを含めて、イオントフォレーシス装置は、薬理学的に有意な免疫応答増強作用を発生させるに十分な量をもってリピドA又はリピドA類縁体を成功裏に表皮に投与することには使用されてこなかった。
【0016】
非特許文献1、2、特許文献1〜15に開示された関連事項は、本願の開示と整合する限りにおいて、参照により本明細書に取り込まれる。
【0017】
リピドA及びリピドA類縁体に加え、他の種々のアジュバントの使用又は研究が、種々の免疫賦活剤への免疫応答の増強剤として記述され、又は研究されている。そのようなアジュバントには、QS−21やその誘導体などのサポニン、CpG、イミキモド(imiquimod)、レジキモド(resiquimod)、dSLIM、及び、TLR−2、TLR−4、TLR−5、TLR−7及びTLR−9などのToll様受容体の作動薬(agonist)が含まれる。このようなアジュバントは、種々のワクチン、抗原及びアレルゲンへの免疫応答を増大させ得る。
【0018】
免疫応答を増強し、又は免疫応答を賦活する作用薬又は薬物の現在の投与方法に関連して上記した種々の事項から見て、当業界において、このような作用薬又は薬物の効果的で、安全で、痛みを伴わない経皮的投与のための改良された装置及び方法が必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明は、免疫応答増強剤又はその組成物を投与するためのイオントフォレーシス装置であって、免疫応答増強剤又はその組成物を含む薬液保持部を有する作用側電極構造体と、非作用側電極構造体とを備えるイオントフォレーシス装置である。
【0020】
本発明のイオントフォレーシス装置のある実施形態では、前記免疫応答増強剤はアジュバントである。ある実施形態では、前記アジュバントは、リピドA又はリピドA類縁体とすることができる。そのようなある実施形態では、前記リピドA類縁体は、モノホスホリルリピドA、3−O−脱アシルモノホスホリルリピドA又はアミノアルキルグルコサミン4リン酸塩から選択することができる。他のある実施形態では、前記アジュバントは、Toll様受容体の作動薬である。そのようなある実施形態では、前記Toll様受容体は、TLR−2、TLR−4、TLR−5、TLR−7又はTLR−9から選択することができる。更に他の実施形態では、前記アジュバントは、サポニン又はその誘導体である。そのようなある実施形態では、前記サポニン又はその誘導体は、Q−21である。更に他の実施形態では、前記アジュバントは、CpG、イミキモド(imiquimod)、レジキモド(resiquimod)又はdSLIMから選択される。
【0021】
ある実施形態では、前記イオントフォレーシス装置の前記薬液保持部は、更にワクチン又は抗原を含む。ある実施形態では、前記ワクチン又は抗原は、ウイルス抗原(viral antigens)、細菌性の抗原(bacterial antigens){菌体毒素(bacterial endotoxin)を含む}、原虫の抗原(protozoal antigens)、寄生抗原(parasite antigen)から選択される少なくとも一の抗原を含む。あるそのような実施形態では、前記寄生抗原は、リシューマニア抗原(leishmania antigens)又はマラリア抗原(malaria antigen)から選択される。ある他の実施形態では、前記ワクチン又は抗原は、肝炎の抗原(hepatitis antigens){A型肝炎、B型肝炎、C型肝炎を含む}、B型肝炎表面抗原(hepatitis B surface antigen / HbsAg)、B型肝炎表面抗原の変異体(mutants of hepatitis B surface antigen)、インフルエンザ抗原から選択される少なくとも一の抗原を含む。更に他の実施形態では、前記ワクチン又は抗原は、百日咳菌(Bordetella pertussis (pertussis))の抗原、ジフテリア菌(Corynebacterium diphtheriae (diphtheria))の抗原、破傷風菌(Chlostridium tetani (tetanus))の抗原、インフルエンザB菌の抗原、又はポリオウイルス(polio virus)の抗原から選択される少なくとも一つの抗原を含む。更に他の実施形態では、前記ワクチン又は抗原は、DTP(ジフテリア、破傷風菌、百日咳)とHBsAg(B型肝炎表面抗原)の混合物、Hib(ヘモフィルスインフルエンザB菌)とHBsAgの混合物、DTP、HBsAg、及び、Hibの混合物、又は、IPV(不活性ポリオワクチン)、DTP、HBsAg、及び、Hibの混合物から選択される抗原混合物を含む。
【0022】
ある実施形態では、前記イオントフォレーシス装置の前記薬液保持部は、癌抗原を更に含む。そのようなある実施形態では、前記癌抗原は、メラノーマ抗原、基底細胞癌抗原(basal cell carcinoma antigens)、乳癌抗原(breast cancer antigens)、前立腺癌抗原(prostate cancer antigens)、肺癌抗原(lung cancer antigens)又は卵巣癌抗原(ovarian cancer antigens)から選択される。
【0023】
ある実施形態では、前記イオントフォレーシス装置の前記薬液保持部は、アレルゲンを含む。あるそのような実施形態では、前記アレルゲンは、虫毒(insect venoms)、花粉、ハウスダストであるダニ、りんせつ(animal dande)、ブタクサ、又は内毒素(endotoxin)から選択される。
【0024】
本発明は、免疫応答増強剤又はその組成物を投与するためのイオントフォレーシス装置であって、免疫応答増強剤又はその組成物を含む薬液保持部を有する作用側電極構造体と、非作用側電極構造体とを備え、前記作用側電極構造体が、第1極性の電圧を印加することが可能な第1電極部材と、前記電極部材の前面側に配置された前記薬液保持部と、前記薬液保持部の前面側に配置された第1イオン交換膜とを更に有し、前記非作用側電極構造体が、第2極性の電圧を印加することが可能な第2電極部材と、前記第2電極部材の前面側に配置された電解液保持部とを更に有することを特徴とするイオントフォレーシス装置である。
【0025】
前記イオントフォレーシス装置のある実施形態では、前記装置の前記作用側電極構造体は、前記第1電極部材の前面側に配置された第2電解液保持部と、前記第2電解液保持部と前記薬液保持部の間に配置された第2イオン交換膜を更に含む。ある他の実施形態では、前記装置の非作用側電極構造体は、前記第1電解液保持部の前面側に配置された第3イオン交換膜を更に含む。ある他の実施形態では、前記非作用側電極構造体は、前記第1電解液保持部の前面側に配置された第4イオン交換膜と、前記第4イオン交換膜と前記第3イオン交換膜の間に配置された第3電解液保持部を更に含む。ある他の実施形態では、前記第1極性はマイナスの極性であり、前記第2極性はプラスの極性であり、前記第1イオン交換膜及び前記第4イオン交換膜はアニオン交換膜であり、前記第2イオン交換膜及び前記第3イオン交換膜はカチオン交換膜であり、前記免疫応答増強剤はリピドA又はリピドA類縁体である。更に他の実施形態では、前記リピドA類縁体は、モノホスホリルリピドA、3−O−脱アシルモノホスホリルリピドA、アミノアルキルグルコサミン4リン酸塩から選択される。
【0026】
本発明は、イオントフォレーシス装置を用いた免疫応答増強剤又はその組成物の投与方法であって、前記装置が、免疫応答増強剤又はその組成物を含む薬液保持部を有する作用側電極構造体と、非作用側電極構造体とを備え、前記方法が、前記作用側電極構造体及び前記非作用側電極構造体を電源の両極に電気的に接続するステップと、前記作用側電極構造体及び前記非作用側電極構造体に電圧又は電流を印加するステップとを備え、前記作用側電極構造体及び非作用側電極構造体を哺乳動物の皮膚に接触させることを特徴とする投与方法である。
【0027】
イオントフォレーシス装置を用いた前記免疫応答増強剤又はその組成物の投与方法のある実施形態では、前記免疫応答増強剤はアジュバントである。前記方法のある実施形態では、前記アジュバントは、リピドA又はリピドA類縁体とすることができる。前記方法のそのようなある実施形態では、前記リピドA類縁体は、モノホスホリルリピドA、3−O−脱アシルモノホスホリルリピドA、アミノアルキルグルコサミン4リン酸塩から選択することができる。前記方法のある他の実施形態では、前記アジュバントはToll様受容体の作動薬とすることができる。前記方法のそのようなある実施形態では、前記Toll様受容体は、TLR−2、TLR−4、TLR−5、TLR−7及びTLR−9から選択することができる。前記方法の更に他の実施形態では、前記アジュバントはサポニン又はその誘導体である。前記方法のそのようなある実施形態では、前記サポニン又はその誘導体はQS−21である。前記方法の更に他の実施形態では、前記アジュバントは、CpG、イミキモド、レジキモド又はdSLIMから選択される。
【0028】
イオントフォレーシス装置を用いた免疫応答増強剤又はその組成物の前記投与方法のある実施形態では、前記装置の前記薬液保持部は、ワクチン又は抗原を更に含む。前記方法のある実施形態では、前記ワクチン又は抗原は、ウイルス抗原、細菌性の抗原(菌体毒素を含む)、原虫の抗原、寄生抗原から選択される少なくとも一の抗原を含む。前記方法のある実施形態では、前記寄生抗原は、リシューマニア抗原又はマラリア抗原から選択される。前記方法のある他の実施形態では、前記ワクチン又は抗原は、肝炎の抗原(A型肝炎、B型肝炎、C型肝炎を含む)、B型肝炎表面抗原(HbsAg)、B型肝炎表面抗原の変異体及びインフルエンザ抗原から選択される少なくとも一の抗原を含む。前記方法の更に他の実施形態では、前記ワクチン又は抗原は、百日咳菌 (pertussis)の抗原、ジフテリア菌 (diphtheria)の抗原、破傷風菌 (tetanus)の抗原、インフルエンザB菌の抗原、又はポリオウイルスの抗原から選択される少なくとも一の抗原を含む。更に他の実施形態では、前記ワクチン又は抗原は、DTP(ジフテリア、破傷風菌、百日咳)とHBsAg(B型肝炎表面抗原)の混合物、Hib(ヘモフィルスインフルエンザB菌)とHBsAgの混合物、DTP、HBsAg、及び、Hibの混合物、又は、IPV(不活性ポリオワクチン)、DTP、HBsAg、及び、Hibの混合物から選択される抗原混合物を含む。
【0029】
イオントフォレーシス装置を用いた免疫応答増強剤又はその組成物の前記投与方法のある実施形態では、前記装置の前記薬液保持部は、癌抗原を更に含む。前記方法のそのようなある実施形態では、前記癌抗原は、メラノーマ抗原、基底細胞癌抗原、乳癌抗原、前立腺癌抗原、肺癌抗原又は卵巣癌抗原から選択される。
【0030】
イオントフォレーシス装置を用いた免疫応答増強剤又はその組成物の前記投与方法のある実施形態では、前記イオントフォレーシス装置の前記薬液保持部は、アレルゲンを含む。あるそのような実施形態では、前記アレルゲンは、虫毒、花粉、ハウスダストであるダニ、りんせつ、ブタクサ、又は内毒素から選択される。
【0031】
本発明は、イオントフォレーシス装置を用いた免疫応答増強剤又はその組成物の投与方法であって、前記装置が、免疫応答増強剤又はその組成物を含む薬液保持部を有する作用側電極構造体と、非作用側電極構造体とを備え、前記作用側電極構造体が、第1極性の電圧を印加することが可能な第1電極部材と、前記電極部材の前面側に配置された前記薬液保持部と、前記薬液保持部の前面側に配置された第1イオン交換膜とを更に有し、前記非作用側電極構造体が、第2極性の電圧を印加することが可能な第2電極部材と、前記第2電極部材の前面側に配置された第1電解液保持部とを更に有し、前記方法が、前記作用側電極構造体及び前記非作用側電極構造体を電源の両極に電気的に接続するステップと、前記作用側電極構造体及び前記非作用側電極構造体に電圧又は電流を印加するステップとを備え、前記作用側電極構造体及び非作用側電極構造体を哺乳動物の皮膚に接触させることを特徴とする投与方法である。
【0032】
イオントフォレーシス装置を用いた免疫応答増強剤又はその組成物の前記投与方法のある実施形態では、前記装置の前記作用側電極構造体は、前記第1電極部材の前面側に配置された第2電解液保持部と、前記第2電解液保持部及び前記薬液保持部の間に配置された第2イオン交換膜を更に備える。前記方法のある他の実施形態では、前記装置の前記非作用側電極構造体は、前記第1電解液保持部の前面側に配置された第3イオン交換膜を更に含む。前記方法のある他の実施形態では、前記非作用側電極構造体は、前記第1電解液保持部の前面側に配置された第4イオン交換膜と、前記第4イオン交換膜と前記第3イオン交換膜の間に配置された第3電解液保持部を更に含む。前記方法のある他の実施形態では、前記第1極性はマイナスの極性であり、前記第2極性はプラスの極性であり、前記第1イオン交換膜及び前記第4イオン交換膜はアニオン交換膜であり、前記第2イオン交換膜及び前記第3イオン交換膜はカチオン交換膜であり、前記免疫応答増強剤はリピドA又はリピドA類縁体である。前記方法の更に他の実施形態では、前記リピドA類縁体は、モノホスホリルリピドA、3−O−脱アシルモノホスホリルリピドA、アミノアルキルグルコサミン4リン酸塩から選択される。
【0033】
様々な実施形態において、免疫応答増強又は免疫応答賦活作用を効果的に、安全に、そして痛みを伴わずに発生させる態様で、リピドA及びリピドA類縁体を含む様々なアジュバントうちの任意のものを哺乳動物に投与するためのイオントフォレーシス装置及び方法が提供される。
【0034】
ある他の実施形態では、許容限度を越えるダメージ、痛み又は刺激を生体の皮膚に与えない電流条件下で免疫応答増強又は免疫応答賦活作用が十分に発生する態様で、或いは皮内注射におけると同等又はそれ以上の免疫応答増強又は免疫応答賦活作用が発生する態様で、リピドAやリピドA類縁体などのアジュバントを生体に投与することができるイオントフォレーシス装置及び方法が提供される。
【0035】
ある他の実施形態では、薬物又は作用薬の投与の時間として許容できる投与時間をもって免疫応答増強又は免疫応答賦活作用が十分に発生する態様で、或いは皮内注射におけると同等又はそれ以上の免疫応答増強又は免疫応答賦活作用が発生する態様で、リピドAやリピドA類縁体を生体に投与することができるイオントフォレーシス装置及び方法が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0036】
以下の記述において、開示される種々の実施形態の十分な理解を提供するために、ある特定の詳細が説明される。しかし、当業者であれば、これらの特定の詳細を省略して実施形態を実施可能であり、他の方法、要素、材料などとともに実施可能であることを認識するであろう。他の部分では、実施形態の記述を不要に不明瞭にすることを避けるために、電圧及び/又は電流制御を含むがこれには限られない制御装置に関連する周知の構造は示されておらず、或いは詳細には記述されていない。
【0037】
文意により否定される場合を除いて、明細書及びクレームを通して、「有する(comprise)」の語及び、その"comprises"、"comprising"などの変化形は、オープンで包含の意味、即ち、「有しているが、他のものも含みうる」の意味に解釈されるべきである。
【0038】
本明細書を通して、「一の実施形態」又は「ある実施形態」との言及は、その実施形態との関連で記述される特定の特徴、構造、構成が少なくとも一つの実施形態に含まれることを意味する。従って、本明細書の各所における「一の実施形態において」又は「ある実施形態において」の表現は、必ずしも全て同一の実施形態に言及しているとは限らない。更に、特定の特徴、構造、構成又は方法の特徴は、一以上の実施形態において任意の適切な態様で組み合わせ得る。
【0039】
本明細書及び特許請求の範囲において「作用側電極構造体」は、薬物又は作用薬を保持する電極構造体を言う。「非作用側電極構造体」は、作用側電極構造体の対極として機能する電極構造体を言う。
【0040】
本明細書及び特許請求の範囲において用語「膜」は、浸透性又は非浸透性であり得る層、障壁又は材料を意味する。特に断らない限り、膜は、固体、液体又はゲルの形態を取ることができ、明確な格子又は架橋構造を有しても良く、有さなくても良い。「アニオン交換膜」は、負に荷電したイオンを結合(bind)又は放出(release)することを可能にする官能基を有する膜を言う。イオントフォレーシス装置におけるアニオン交換膜は、アニオンのみの通過を許容し、カチオンの通過を実質的に阻止する。「カチオン交換膜」は、正に荷電したイオンを結合又は放出することを可能にする官能基を有する膜を言う。イオントフォレーシス装置におけるカチオン交換膜は、カチオンのみの通過を許容し、アニオンの通過を実質的に阻止する。
【0041】
本明細書及び特許請求の範囲において用語「皮膚」は、イオントフォレーシスにより薬物又は作用薬の送達を行うことができる粘膜を含む生物の表面又は生体界面を言う。
【0042】
本明細書及び特許請求の範囲において用語「薬物」又は「作用薬」は、人を含む哺乳動物に送達されたときに何らかのタイプの作用又は生体反応を引き出す薬、物質又は化合物を言う。「薬物」又は「作用薬」は、免疫剤、アジュバント、免疫応答増強剤、ワクチン、抗原、薬物、ホルモン、タンパク質、ペプチド或いはDNAなどの核酸であり得る。多くの生体活性を有する薬物は官能基を有しており、荷電イオンに転化し、或いは適当なpHの水性媒体中で荷電イオン及び対イオンに解離しうる。他の薬物又は作用薬は、分極性又は分極可能であり得、分子の一部において他の部分に対して分極を示す。
【0043】
本明細書における見出しは便宜のみのために付されたものであり、権利範囲や実施形態の意味を解釈するものではない。
【0044】
図1〜3は、それぞれ、イオントフォレーシス装置の基本構造を示す概略断面図である。
【0045】
この装置は、主要な構成要素(部材)として、電源3に電気的に接続された作用側電極構造体1及び非作用側電極構造体2を有しており、作用側電極構造体1に含まれる一以上の薬物又は作用薬を皮膚(或いは粘膜)4のある位置に供給することが可能である。
【0046】
図1に示す実施形態では、作用側電極構造体1は、第1極性の電圧を供給することが可能な電極要素11と、電極部材11の前面側に配置された薬液保持部14と、薬液保持部14の前面側に配置されたイオン交換膜15とを有している。非作用側電極構造体2は、第2極性の電圧を提供することが可能な電極要素21と、電極部材21の前面側に配置された電解液保持部22とを有している。
【0047】
図1に示される装置の一実施形態では、作用側電極構造体1の電極部材11は、電源3の負極に電気的に接続され、非作用側電極構造体の電極部材21は、電源3の正極に電気的に接続されている。
【0048】
図2、3に示される各実施形態では、作用側電極構造体1は、第1極性の電圧を供給することが可能な電極部材11と、電極部材11の前面側に配置された電解液保持部12と、電解液保持部12の前面側に配置されたイオン交換膜13と、イオン交換膜13の前面側に配置された薬液保持部14と、薬液保持部14の前面側に配置されたイオン交換膜15とを有している。
【0049】
図2に示される実施形態では、非作用側電極構造体2は、第2極性の電圧を供給することが可能な電極部材21と、電極部材21の前面側に配置された電解液保持部22と、電解液保持部22の前面側に配置されたイオン交換膜23を有している。
【0050】
図3に示される実施形態では、非作用側電極構造体2は、第2極性の電圧を供給することが可能な電極部材21と、電極部材21の前面側に配置された電解液保持部22と、電解液保持部22の前面側に配置されたイオン交換膜23と、イオン交換膜23の前面に配置された電解液保持部24と、電解液保持部24の前面に配置されたイオン交換膜25を有している。
【0051】
ある実施形態では、作用側又は能動側の電極部材11及び非作用側又は対極側の電極部材21は、好ましくは、炭素やプラチナなどよりなる電気化学的に不活性な電極とすることができる。これらの炭素電極が、金属イオンが溶出して生体に移動しないことを好適に確実なものとすることが特に好ましい。
【0052】
しかし、例えば、塩化銀よりなる作用側又は能動側の電極部材11と、銀よりなる非作用側又は対極側の電極部材21とを含む銀/塩化銀カップル電極などの電気化学的に活性な電極を採用することも可能である。
【0053】
例えば、銀/塩化銀電極が使用されたと仮定する。リピドA又はその類縁体を送達する装置の場合におけるアノード(プラス電極)である非作用側又は対極側の電極では、銀電極と塩素イオン(Cl)が容易に反応して、AgCl→AgCl+eの反応によって非水溶性のAgClを生成する。この場合のカソード(マイナス電極)である作用側又は能動側の電極では、塩素イオン(Cl)が塩化銀電極から溶出する反応が起こる。その結果、水の電気分解が妨げられ、アノード(プラス電極)におけるHイオンによる酸性化及びカソード(マイナス電極)におけるOHイオンによるアルカリ化を防ぐことができる。
【0054】
これに対して、図2、3に示すイオントフォレーシス装置の作用側電極構造体1及び非作用側電極構造体2では、電解液保持部12におけるOHイオンによるアルカリ化及び電解液保持部22におけるHイオンによる酸性化は、アニオン交換膜及び/又はカチオン交換膜の作用により防ぐことが可能である。従って、図1〜3に示すイオントフォレーシス装置、特に、図2、3に示すイオントフォレーシス装置では、銀/塩化銀カップル電極などの活性電極に代わりに、安価であり、金属イオンの溶出に対する懸念を有さない炭素電極を好ましく使用することが可能である。
【0055】
イオントフォレーシス装置の電解液保持部12、22、24は、電気伝導を確保するための電解液を保持する。使用可能な電解液の典型例には、リン酸緩衝食塩水及び生理食塩水が含まれる。
【0056】
電解液保持部12、22は、水の電気分解によるガスの発生やpH変化を効果的に防止するために、水の電気分解反応(プラス電極における酸化及びマイナス電極における還元)よりも容易に酸化又は還元される化合物を含むことができる。生体適合性及び経済性(安価であり、容易に入手できること)の観点から、例えば、硫酸第一鉄、硫酸第二鉄などの無機化合物、アスコルビン酸(ビタミンC)やアスコルビン酸ナトリウムなどの医薬剤、乳酸などの皮膚面に存在する酸性化合物、あるいはシュウ酸、リンゴ酸、コハク酸、フマル酸などの有機酸及び/又はその塩などを好ましく使用することができる。これらは、単独で、又は組み合わせて使用することができる。
【0057】
即ち、電解液保持部12、22では、電気化学反応が生じて電解液が分解され、又はイオン性薬物が分解される。その結果、電解液保持部12、22において気泡が生成されて、電極物質11、21と電解液の接触が妨げられる。例えば、マイナス電極では水素ガスが生成され得る。プラス電極では塩素ガスや酸素ガスが生成され得る。この状況では、気泡により抵抗値が増大し、電圧を更に上昇させても電流は流れない。これは、イオントフォレーシス装置の実際的な実用性の観点から重大な問題点であり得る。
【0058】
このような不安定の原因は、例えば、1モル(M)乳酸と1モル(M)フマル酸ナトリウムの1:1混合水溶液を使用するなど、上記化合物の添加により除去することが可能である。
【0059】
電解液保持部12と後述の薬液保持部14の混合による電解液保持部12及び薬液保持部14(例えば、リピドA又はリピドA類縁体の水溶液が保持される)の組成変化を防ぐために、電解液保持部12は、薬液保持部14と同一の物質(例えば、リピドA又はリピドA類縁体の水溶液)を保持することができる。
【0060】
電解液保持部24の場合には、電解液保持部22の媒体との混合による電解液保持部24の組成変化を防ぐために、電解液保持部22、24の組成は同一又は類似のものにすることができる。
【0061】
電解液保持部12、22、24は、上記電解液を液体状態で保持することができる。しかし、ポリマーよりなる水分吸収性の薄膜に上記の電解液を含浸させることでその取り扱い性を向上させることが可能である。ここで使用され得る薄膜は、薬液保持部14に使用され得る薄膜と同一とすることができ、当該薄膜の詳細は、薬液保持部14を説明する際に後述する。
【0062】
好ましいカチオン交換膜には、日本国東京の(株)トクヤマ製ネオセプタ(CM−1、CM−2、CMX、CMS、CMB、CLE04−2など)が含まれ得る。好ましいアニオン交換膜には、日本国東京の(株)トクヤマ製ネオセプタ(AM−1、AM−3、AMX、AHA、ACH、ACS、ALE04−2、AIP−21など)が含まれ得る。いくつかの用途では、これらのうち、その全部又は一部にカチオン交換機能を有するイオン交換樹脂が充填された孔を有する多孔質フィルムを含むカチオン交換膜、或いは、その全体又は一部にアニオン交換機能を有するイオン交換樹脂が充填された孔を有する多孔質フィルムを含むアニオン交換膜が好適であり得る。
【0063】
上記イオン交換樹脂は、パーフルオロカーボン骨格にイオン交換基が導入されたフッ素系のもの、又は、フッ素化されていない樹脂を骨格とする炭化水素系のものとすることができる。製造工程の簡便さの観点から、炭化水素系のイオン交換樹脂が好ましい。イオン交換樹脂の充填率は、多孔質フィルムの空隙率に依存するが、一般的には5〜95質量%であり、或いは、10〜90質量%、或いは、20〜60質量%とすることができる。
【0064】
上記イオン交換樹脂が有するイオン交換基は、水溶液中で負又は正の電荷を有する基を生じる官能基であれば特に限定されない。このようなイオン交換基となり得る官能基を具体的に例示すれば、陽イオン交換基としては、スルホン酸基、カルボン酸基、ホスホン酸基等が挙げられる。これらの酸基は、遊離酸として或いは塩の形で存在していてもよい。塩の場合の対カチオンとしては、ナトリウムイオン、カリウムイオン等のアルカリ金属イオンや、アンモニウムイオン等が挙げられる。これらの陽イオン交換基の中でも、一般的に、強酸性基であるスルホン酸基が特に好ましい。陰イオン交換基としては、1級アミノ基、2級アミノ基、3級アミノ基、4級アンモニウム基、ピリジル基、イミダゾール基、4級ピリジニウム基、4級イミダゾリウム基等が挙げられる。これら陰イオン交換基における対アニオンとしては、塩素イオン等のハロゲンイオンやヒドロキシイオン等が挙げられる。これら陰イオン交換基のなかでも、一般的に、強塩基性基である4級アンモニウム基や4級ピリジニウム基が好適に用いられる。
【0065】
上記多孔質フィルムには特に制限がなく、その両側を連通する多数の孔を有するフィルム又はシートの形態である限り、任意の多孔質フィルムを使用することができる。高い強度と柔軟性を両立させるために、多孔質フィルムは熱可塑性樹脂からなることが好ましい。
【0066】
この多孔質フィルムを構成する熱可塑性樹脂としては、エチレン、プロピレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、3−メチル−1−ブテン、4−メチル−1−ペンテン、5−メチル−1−ヘプテン等のα−オレフィンの単独重合体または共重合体等のポリオレフィン樹脂;ポリ塩化ビニル、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体、塩化ビニル−塩化ビニリデン共重合体、塩化ビニル−オレフィン共重合体等の塩化ビニル系樹脂;ポリテトラフルオロエチレン、ポリクロロトリフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、テトラフルオロエチレン−ペルフルオロアルキルビニルエーテル共重合体、テトラフルオロエチレン−エチレン共重合体等のフッ素系樹脂;ナイロン6、ナイロン66等のポリアミド樹脂;ポリイミド樹脂等からなるものが制限なく使用される。機械的強度、柔軟性、化学的安定性、耐薬品性に優れ、イオン交換樹脂との馴染みがよいことから、ポリオレフィン樹脂を用いるのが好ましい。ポリオレフィン樹脂としては、特定の用途に応じて、ポリエチレン、ポリプロピレンが特に好ましく、ポリエチレンが最も好ましい。
【0067】
上記熱可塑性樹脂からなる多孔質フィルムの物理的特性は、特に限定されない。しかし、薄くかつ強度に優れ、さらに電気抵抗も低いイオン交換膜としやすい点で、孔の平均孔径が、好ましくは0.005〜5.0μm、より好ましくは0.01〜2.0μm、最も好ましくは0.02〜0.2μmであるのがよい。ここで用いた上記平均孔径は、JIS K3832−1990に従うバブルポイント法によって測定される平均流孔径を意味する。多孔質フィルムの空隙率は、用途に応じて、好ましくは20〜95%、より好ましくは30〜90%、最も好ましくは30〜60%とすることができる。後述の厚みを有するイオン交換膜を得るためには、多孔質フィルムの厚みは、5〜140μmが好ましく、10〜120μmがより好ましく、15〜55μmが最も好ましい。通常、このような多孔質フィルムを使用したアニオン交換膜、カチオン交換膜は、多孔質フィルムの厚さ+0〜20μm程度の厚さになる。
【0068】
本発明のイオントフォレーシス装置における薬液保持部14には、(多様なアジュバントの任意のものの例として)少なくともリピドA又はリピドA類縁体を含む水溶液が保持される。リピドA又はリピドA類縁物は、水に溶解した際にマイナスイオンに解離するため、この水溶液には、マイナスイオンに解離したリピドA又はリピドA類縁物が含まれる。
【0069】
薬液保持部14は、リピドA又はリピドA類縁体の水溶液を液体状態で保持するように構成することが可能である。リピドA又はリピドA類縁体の水溶液が下記のような吸水性の薄膜体に含浸保持される場合には、薬液保持部14の取り扱い性や他の特性を向上させることが可能である。
【0070】
上記の吸水性の薄膜体として使用できる材料の例には、例えば、アクリル系樹脂のヒドロゲル体(アクリルヒドロゲル膜)、セグメント化ポリウレタン系ゲル膜、ゲル状固体電解質形成用のイオン導電性多孔質シートが含まれる。薄膜体に30〜40%の含浸率で上記水溶液を含浸させた場合には、高い輸率(高いドラッグデリバリー性)、例えば、70〜80%を得ることができる。
【0071】
本明細書における含浸率は重量%であって、乾燥時の重量をD、含浸後の重量をWとしたときの100×(W−D)/D[%]である。含浸率の測定は、水溶液の含浸直後に測定すべきであり、経時的影響を排除すべきである。
【0072】
本明細書における輸率は、電解質溶液中を流れる全電流のうち薬剤イオン(リピドAイオン又はリピドA類縁体のイオン)の移動による電流の割合である。輸率の測定も、イオン性薬剤を含浸させた薄膜体をイオン交換膜13、15の間に介在させるとともに他の構成部材を組立て、極力、経時的変化が生じないようにして測定すべきである。
【0073】
上記アクリルヒドロゲル膜(例えば、(株)サンコンタクトレンズ社から入手できる)は、三次元網目構造(架橋構造)を持ったゲル体である。これに分散媒である電解質水溶液を添加したものは、イオン導電性を有する高分子吸着材となる。アクリルヒドロゲル膜の含浸率と輸率の関係は、三次元網目構造の大きさや樹脂を構成するモノマーの種類や比率によって調製可能である。上記した含浸率30〜40%、輸率70〜80%のアクリルヒドロゲル膜は、2−ヒドロキシエチルメタクリレートとエチレングリコールジメタクリレート(モノマー比98〜99.5:0.5〜2)から調製することがでる。通常の厚さの範囲である0.1〜1mmの範囲では上記含浸率及び輸率は殆ど同じであることが確認されている。
【0074】
セグメント化ポリウレタン系ゲル膜は、ポリエチレングリコール(PEG)、ポリプロピレングリコール(PPG)をセグメントとして有する。セグメント化ポリウレタン系ゲルの物理的特性は、セグメント化ポリウレタン系ゲルを構成するモノマーとジイソシアネートの比を変更することにより調整することができる。セグメント化ポリウレタン系ゲル膜は、ウレタン結合によって架橋された三次元構造を有する。従って、含浸率と輸率、粘着力の強さは、前記アクリルヒドロゲル膜と同様にネットワークの網目の大きさ及びモノマーの種類や比率をコントロールすることにより容易に調製可能である。セグメント化ポリウレタン系ゲル膜(多孔質ゲル膜)に分散媒である水と電解質(アルカリ金属塩など)を添加したものは、セグメントを形成するポリエーテルのエーテル結合部の酸素とアルカリ金属塩がコンプレックスを形成し、電気を流したとき金属塩のイオンは次の空白のエーテル結合部の酸素に移動し、通電性が発現される。セグメント化ポリウレタン系ゲル膜は、セグメントを構成するPEG−PPG−PEG共重合体を含んでいる。PEG−PPG−PEG共重合体は、化粧品原料としての使用が認められている。このことは、セグメント化ポリウレタン系ゲル膜が皮膚に対する刺激を生じず、安全性が高いことを示している。
【0075】
ゲル状固体電解質形成用のイオン導電性多孔質シートには、例えば、特開昭11−273452に開示されたものが含まれる。このものは、アクリルニトリル共重合体をベースとして、特に、空隙率20〜80%の多孔質重合体をベースとして含む。より具体的には、上記ベースは、50モル%以上(好ましくは70〜98モル%)のアクリロニトリルを含み、20〜80%の空隙率を有するアクリロニトリル共重合体である。前記アクリロニトリル系のゲル状固体電解シート(固体電池)は、非水溶媒に可溶であり、空隙率20〜80%のアクリロニトリル系共重合体シートに電解質を含む非水溶媒を含浸し、その結果ぶつをゲル化して調整される。得られるゲル体には、ゲル状から硬質の膜状のものまで含まれる。
【0076】
前記非水溶媒に可溶なアクリロニトリル系共重合体シートは、イオン導電性、安全性などの観点から、好ましくはアクリロニトリル/C1〜C4アルキル(メタ)アクリレート共重合体、アクリロニトリル/酢酸ビニル共重合体、アクリロニトリル/スチレン共重合体、アクリロニトリル/塩化ビニリデン共重合体などで構成される。前記共重合体シートを多孔質シートにするには、湿(乾)式抄紙法、不織布製造法の一種であるニードルパンチ法、ウォータージェット法、溶融押出しシートの延伸多孔化や溶媒抽出による多孔化などの常法が採用される。前記した固体電池に使用されるアクリロニトリル系共重合体のイオン導電性多孔質シートのうち、高分子鎖の三次元ネットワークの中に前記水溶液を保持するゲル体(ゲル状体から硬質の膜状体)は、本発明の薬液保持部14、或いは、導電性媒体層12、22、24に使用する薄膜体として有用である。
【0077】
前記した薄膜体(多孔質ゲル膜)に上記リピドAの水溶液もしくはリピドA類縁体の水溶液、又は導電性媒体を含浸させる条件は、含浸量、含浸速度などの観点から最適条件を決めればよい。例えば40℃で30分という含浸条件を選ぶことができる。
【0078】
本発明のイオントフォレーシス装置に使用し得る電源3には、例えば、電池、定電圧装置、定電流装置(ガルバノ装置)、定電圧・定電流装置などが含まれる。0.01〜1.0mAがより好ましいが、0.01〜0.5mAの範囲で電流調整が可能であり、30V以下がより好ましいが、特に50V以下の安全な電圧条件で動作する定電流装置を使用することが好ましい。
【0079】
更に、電源3は、時間と共に電流を変化させつつ電流を印加することが可能なものとすることができる。
【0080】
アジュバントは、一般に、例えば薬理学的化合物の有効性を増強するために使用される薬剤である。特に、アジュバントは、ワクチン又は抗原とともに投与されてワクチン又は抗原に対する免疫応答を増強する。ある実施形態では、本明細書においてリピドA又はリピドA類縁体によって例示される多様なアジュバントのうちの任意のものは、本明細書において開示されるイオントフォレーシス装置及びこれを使用する方法において使用され得る。
【0081】
リピドAは、グラム陰性菌、例えば大腸菌(Escherichia coli)から得られる構造式1に示される化学構造を有する糖脂質である。リピドA類縁体は、リピドAの誘導体である。この誘導体は、基本骨格としてβ1−6結合で連なった2つのD−グルコサミン分子からなる2糖構造(4-O-2-amino-2-deoxy-β-D-glucopyranosyl-amino-2-deoxy-D-glucopyranose)を有する。リピドA類縁体の例には、構造式2に示す化学構造を有するモノホスホリルリピドA(例えば、コリクサ社(米国ワシントン州シアトル)により提供される「MPL」)、特許文献1に開示される3−O−脱アシルモノホスホリルリピドA、或いは、構造式3に示す化学構造を有するアミノアルキルグルコサミン4リン酸塩(例えば、上記コリクサ社の「RC−529」)が含まれる。MPLは天然資源から単離調合することができ、合成調合物は得られたMPLであり得る。
【0082】
【化1】

【化2】

【化3】

【0083】
リピドA又はリピドA類縁体を投与するイオントフォレーシス装置及び方法は、それぞれ、ワクチン及びアレルゲンの注射による生体への投与と組み合わせて使用し、実施することができる。例えば、ワクチンやアレルゲンの注射による投与と同時期に、或いは、それから所定期間経過後に、イオントフォレーシス装置を使用してリピドA又はリピドA類縁体を生体に投与することができ、これにより、ワクチンやアレルゲンの効果を増進させることができる。
【0084】
薬液保持部に含まれるリピドA又はリピドA類縁体は、例えば、TLR−2、TLR−4、TLR−5、TLR−7、及び/又は、TLR−9などのToll様受容体(TLR)作動薬であることが可能である。
【0085】
薬液保持部は、リピドA又はリピドA類縁体に加えて、ワクチン又はアレルゲンを含むことが可能である。この構成により、リピドA又はリピドA類縁体とワクチン又はアレルゲンを同時に経皮投与することが可能となる。
【0086】
このような使用可能なワクチンには、肝炎の抗原、B型肝炎表面抗原、B型肝炎表面抗原の変異体、インフルエンザ抗原、リシューマニア抗原及びエンドトキシンが含まれる。或いは、ジフテリア、破傷風菌、百日咳、インフルエンザB菌、又は、ポリオなどの病原性微生物の一種以上に対する保護作用を有する非肝炎性抗原から得られる一以上の物質、或いは、DTP(ジフテリア、破傷風菌、百日咳)とHBsAg(B型肝炎表面抗原)の混合物、Hib(インフルエンザB菌)とHBsAgの混合物、DTP、HBsAg、及び、Hibの混合物、又は、IPV(不活性ポリオワクチン)、DTP、HBsAg、及び、Hibの混合物などを使用することができる。
【0087】
他の実施形態では、リピドA又はリピドA類縁体を投与するイオントフォレーシス装置及び方法は、リピドA又はリピドA類縁体に加えて、或いはこれに代えて、他の(TLR−2、TLR−4、TLR−5、TLR−7及びTLR−9などの)Toll様受容体作動薬、QS−21などのサポニン又はその誘導体、又は、(その内容が参照により本明細書に組み込まれる米国特許第5856462号に開示される)CpGなどの1以上のアジュバントを含むように構成することができる。
【0088】
ある他の実施形態では、リピドA又はリピドA類縁体を投与するイオントフォレーシス装置及び方法は、リピドA又はリピドA類縁体に加えて、或いはこれに代えて、イミキモド、レジキモド又はdSLIMを含むように構成することができる。
【0089】
リピドA又はリピドA類縁体を投与するイオントフォレーシス装置及び方法は、リピドA又はリピドA類縁体に加えて、イミキモド又はフラジェリン(flagellin)を含むように構成することができる。
【0090】
リピドA又はリピドA類縁体を投与するイオントフォレーシス装置及び方法は、上記薬液保持部が、リピドA又はリピドA類縁体に加えて、花粉、ハウスダストであるダニ、りんせつ(動物の羽毛、皮膚、毛髪などから脱落したもの)及びブタクサ(Ambrosia artemisiaefolia var. elatior)などのアレルゲンの1以上を含むように構成することができる。この構成により、リピドA又はリピドA類縁体を投与するイオントフォレーシス装置及び方法は、アレルギー疾患療法において使用又は実施することができる。
【0091】
実施例
イオントフォレーシス装置を用いてリピドA類縁体であるMPLを投与した場合に得られる免疫応答増強作用を評価するために、以下の試験を行った。
【0092】
<ワクチン>
結核用ワクチン(ワシントン州シアトルのコリクサ社から入手したMtb72F)を使用した。
【0093】
<アジュバント>
アジュバントとして、コリクサ社により製造されるモノホスホリルリピドAの臨床試験用製剤であるMPLを使用した。参考データとして、コリクサ社により調剤されたモノホスホリルリピドAの親水製剤であるMPL−AF、及び、コリクサ社により調剤された親油製剤であるMPL−SEを皮内注射により投与し、その免疫賦活作用を評価した。
【0094】
<試験動物>
57BL/6マウス(7〜24週令、雌)を使用した。
【0095】
<実験条件>
上記57BL/6マウスを各2〜5匹からなる4群に分けた。各群のマウスに対して、ワクチン(Mtb72F)及びアジュバント(MPL、MPL−AF又はMPL−SE)が投与された。
なお、各群に対するワクチン及びアジュバントの投与スケジュールは、下記<実験内容>に記載の通りである。
第1群:(実施例)
(a)Mtb72F:皮内注射により投与
(b)MPL:TCT装置(下記<使用装置>に記載の装置)により経皮投与
第2群;(比較例1)
(a)Mtb72F:皮内注射により投与
(b)MPL−AF:皮内注射により投与
第3群:(比較例2)
(a)Mtb72F:皮内注射により投与
(b)MPL−SE:皮内注射により投与
第4群:(比較例3)
(a)Mtb72F:皮内注射により投与
(b)MPL−AF:投与せず
【0096】
<使用装置>
上記第1群のマウスへのMPLの投与(実施例)には、図4に示すTCT装置を使用した。図4において、装置は、作用側電極構造体1、非作用側電極構造体2及び定電流電源3を有している。
【0097】
作用側電極構造体1は、頂部壁51aと側部壁51bを有し、底部が開放された円筒状のアクリル樹脂製の容器51を有している。容器51内には、定電流電源3のマイナス極に接続された約10mmの直径を有するカーボン電極11と、カチオン交換膜13(日本国東京の(株)トクヤマ製CLE04)及びアニオン交換膜15((株)トクヤマ製AIP−21)15が図4に示される順序で配置されている。
【0098】
カーボン電極11とカチオン交換膜13の間の空間は、約0.8mlの導電性媒体を液体状体で収容する電解液保持部12を構成している。カチオン交換膜13とアニオン交換膜15の間の空間は、約1.2mlの薬液を液体状体で収容する薬液保持部14を構成している。
【0099】
本実施例では、薬液保持部14には、薬液として15mlの滅菌水に対してMPL300μgを溶解したMPL水溶液を注入した。電解液保持部12の導電性媒体としては、上記薬液と同一組成のMPL水溶液を使用した。
【0100】
非作用側電極構造体2は、頂部壁52aと側部壁52bを有し、底部が開放された円筒状のアクリル樹脂製の容器52を有している。容器52内には、定電流電源3のプラス極に接続された約20mmの直径を有するカーボン電極22、アニオン交換膜23((株)トクヤマ製ALE04−2)及びカチオン交換膜25((株)トクヤマ製CLE04−2)25が図4に示される順序で配置されている。
【0101】
カーボン電極21とアニオン交換膜23の間の空間、及び、カチオン交換膜23とアニオン交換膜25の間の空間は、それぞれ、約0.8ml、及び、約1.2mlの導電性媒体を液体状体で収容する電解液保持部22、24である。
【0102】
本実施例では、電解液保持部22、24の導電性媒体としては、リン酸緩衝食塩水を使用した。
【0103】
定電流電源3としては、ガルバノスタット(日本国東京の北斗電工(株)製HA5010m)を使用した。
【0104】
<実験内容>
・第1日目:
(A)第1群〜第4群のマウスの尾の基部にワクチン(Mtb72F)を10μg注射した。
(B)続いて、第1群〜第4群のマウスに対してアジュバント(MPL、MPL−AF、MPL−SE)を次の方法により投与した。
第1群:上記TCT装置によりMPLの経皮投与を行った。
投与対象のマウスは、前日に除毛処理(除毛クリームを塗布した後に剃毛)を行い、TCT装置の作用側電極構造体1、及び、非作用側電極構造体2をマウスの腹部に当てて接着剤で固定し、下記の条件下で30分間電流を通電した。
0〜15分 0.02mA
15〜27分 0.04mA
27〜30分 0.15mA
第2群:マウスの尾の基部から1インチ(2.54cm)の位置にMPL−AF(20μg)を皮内注射した。
第3群:マウスの尾の基部から1インチ(2.54cm)の位置にMPL−SE(20μg)を皮内注射した。
第4群:無処理
【0105】
・第22日目:マウスから血液サンプルを採取し、抗体(IgG1及びIgG2a)反応を常法に従って試験した。
【0106】
・第35日目:第1群〜第4群のマウスにそれぞれ第1日目と同じ方法でブースト(追加免疫)を行った。
【0107】
・第43日目:マウスから血液サンプルを採取し、抗体(IgG1及びIgG2a)反応を常法に従って試験した。更に、各群から2匹のマウスを選び、脾臓(spleen)を取り出し、インビトロで10μg/mlのMtb72F、ConA(コンカナバリンA)、PPD(ツベルクリン精製タンパク質)、及び、溶媒を用いて培養して刺激試験を実施した。72時間後、培養上清(supernatant)を補集し、免疫原性増殖及びサイトカイン(IFN−γ)をそれぞれ常法に従って評価した。
【0108】
<結果>
図5(1)及び図5(2)は、第43日目のIgG1及びIgG2の抗体力価を示している。図5(1)及び図5(2)において、棒グラフの上の線分は標準偏差を示している。
【0109】
図5(1)及び図5(2)は、MPLの経皮投与を行った後の抗体力価は、イオントフォレーシス及び皮内注射のいずれによる場合も、IgG1、IgG2の双方が、MPLの投与を行わなかった場合よりも有意に高いことを明確に示している。また、MPLのイオントフォレーシスによる送達とMPLの皮内注射により得られた結果は、ほぼ等しい。
【0110】
上記から、イオントフォレーシスによるMPLの投与は、皮内注射により得られる結果と同等の有意な免疫応答増強効果を達成することが確認された。
【0111】
本明細書に記載した全ての上記米国特許、米国特許出願公開、米国出願、外国特許、外国特許出願及び非特許刊行物は、その全体が参照により本明細書に取り入れられる。
【0112】
上記より、説明の目的で特定の実施形態がここに開示されたが、本発明の範囲及び精神から逸脱することなく種々の改変を行い得ることが理解されるであろう。従って、本発明は、添付特許請求の範囲によるものを除く限定を受けない。
【図面の簡単な説明】
【0113】
【図1】図1は、本発明の一実施形態に係るイオントフォレーシス装置の構成を示す概要図である。
【図2】図2は、本発明の他の実施形態に係るイオントフォレーシス装置の構成を示す概要図である。
【図3】図3は、本発明の更に他の実施形態に係るイオントフォレーシス装置の構成を示す概要図である。
【図4】図4は、MPL投与試験において使用されたイオントフォレーシス装置の構成を示す概要図である。
【図5】図5(1)、(2)は、第43日目のIgG1及びIgG2の抗体力価を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
免疫応答増強剤又はその組成物を投与するためのイオントフォレーシス装置であって、
免疫応答増強剤又はその組成物を含む薬液保持部と、
少なくとも前記免疫応答増強剤又はその組成物の一部を前記イオントフォレーシス装置から駆動するための第1極性の電圧を印加することが可能な作用側電極要素とを有する作用側電極構造体と、
第2極性の電圧を印加することが可能な非作用側電極要素を有する非作用側電極構造体とを備えるイオントフォレーシス装置。
【請求項2】
前記免疫応答増強剤がアジュバントであることを特徴とする請求項1に記載のイオントフォレーシス装置。
【請求項3】
前記アジュバントがリピドA又はリピドA類縁体であることを特徴とする請求項2に記載のイオントフォレーシス装置。
【請求項4】
前記リピドA類縁体がモノホスホリルリピドA(MPL)、3−O−脱アシルモノホスホリルリピドA又はアミノアルキルグルコサミン4リン酸塩から選択されることを特徴とする請求項3に記載のイオントフォレーシス装置。
【請求項5】
前記アジュバントがToll様受容体の作動薬であることを特徴とする請求項2に記載のイオントフォレーシス装置
【請求項6】
前記Toll様受容体がTLR−2、TLR−4、TLR−5、TLR−7又はTLR−9から選択されることを特徴とする請求項5に記載のイオントフォレーシス装置
【請求項7】
前記アジュバントがサポニン又はその誘導体であることを特徴とする請求項2に記載のイオントフォレーシス装置。
【請求項8】
前記サポニンがQS−21であることを特徴とする請求項7に記載のイオントフォレーシス装置。
【請求項9】
前記アジュバントがCpG、イミキモド、レジキモド又はdSLIMから選択されることを特徴とする請求項2に記載のイオントフォレーシス装置。
【請求項10】
前記薬液保持部が更にワクチン又は抗原を含むことを特徴とする請求項1〜9のいずれか一項に記載のイオントフォレーシス装置。
【請求項11】
前記ワクチン又は抗原がウイルス抗原、菌体毒素を含む細菌性の抗原、原虫の抗原又は寄生抗原から選択される少なくとも一の抗原を含むことを特徴とする請求項10に記載のイオントフォレーシス装置。
【請求項12】
前記寄生抗原がリシューマニア抗原又はマラリア抗原から選択されることを特徴とする請求項11に記載のイオントフォレーシス装置。
【請求項13】
前記ワクチン又は抗原が、A型肝炎、B型肝炎及びC型肝炎を含む肝炎の抗原、B型肝炎表面抗原(HbsAg)、B型肝炎表面抗原の変異体又はインフルエンザ抗原から選択される少なくとも一の抗原を含むことを特徴とする請求項10に記載のイオントフォレーシス装置。
【請求項14】
前記ワクチン又は抗原が百日咳菌の抗原、ジフテリア菌の抗原、破傷風菌の抗原、インフルエンザB菌の抗原又はポリオウイルスの抗原から選択される少なくとも一の抗原を含むことを特徴とする請求項10に記載のイオントフォレーシス装置。
【請求項15】
前記ワクチン又は抗原がDTP(ジフテリア、破傷風菌、百日咳)とHBsAg(B型肝炎表面抗原)の混合物、Hib(ヘモフィルスインフルエンザB菌)とHBsAgの混合物、DTP、HBsAg、及び、Hibの混合物、又は、IPV(不活性ポリオワクチン)、DTP、HBsAg、及び、Hibの混合物から選択される抗原混合物を含むことを特徴とする請求項10に記載のイオントフォレーシス装置。
【請求項16】
前記薬液保持部が更に癌抗原を含むことを特徴とする請求項1〜9のいずれか一項に記載のイオントフォレーシス装置。
【請求項17】
癌抗原がメラノーマ抗原、基底細胞癌抗原、乳癌抗原、前立腺癌抗原、肺癌抗原又は卵巣癌抗原から選択されることを特徴とする請求項16に記載のイオントフォレーシス装置。
【請求項18】
前記薬液保持部が更にアレルゲンを含むことを特徴とする請求項1〜9のいずれか一項に記載のイオントフォレーシス装置。
【請求項19】
前記アレルゲンが虫毒、花粉、ハウスダストであるダニ、りんせつ、ブタクサ又は内毒素から選択されることを特徴とする請求項18に記載のイオントフォレーシス装置。
【請求項20】
前記作用側電極構造体が前記薬液保持部の前面側に配置された第1イオン交換膜を更に備え、
前記非作用側電極構造体が更に前記非作用側電極要素の前面側に配置された第1電解液保持部を更に備えることを特徴とする請求項1に記載のイオントフォレーシス装置。
【請求項21】
前記作用側電極構造体が、
前記作用側電極要素の前面側に配置された第2電解液保持部と、
前記第2電解液保持部及び前記薬液保持部の間に配置された第2イオン交換膜を更に備えることを特徴とする請求項20に記載のイオントフォレーシス装置。
【請求項22】
前記非作用側電極構造体が、
前記第1電解液保持部の前面側に配置された第3イオン交換膜を更に備えることを特徴とする請求項21に記載のイオントフォレーシス装置。
【請求項23】
前記非作用側電極構造体が、
前記第3イオン交換膜の前面側に配置された第3電解液保持部と、
前記第3電解液保持部の前面側に配置された第4イオン交換膜を更に備えることを特徴とする請求項22に記載のイオントフォレーシス装置。
【請求項24】
前記第1極性がマイナスの極性であり、前記第2極性がプラスの極性であり、前記第1イオン交換膜及び前記第4イオン交換膜がアニオン交換膜であり、前記第2イオン交換膜及び前記第3イオン交換膜がカチオン交換膜であり、前記免疫応答増強剤はリピドA又はリピドA類縁体であることを特徴とする請求項23に記載のイオントフォレーシス装置。
【請求項25】
前記リピドA類縁体がモノホスホリルリピドA(MPL)、3−O−脱アシルモノホスホリルリピドA又はアミノアルキルグルコサミン4リン酸塩から選択されることを特徴とする請求項24に記載のイオントフォレーシス装置。
【請求項26】
免疫応答増強剤又はその組成物を含む薬液保持部と、非作用側電極構造体とを備えるイオントフォレーシス装置を用いた免疫応答増強剤又はその組成物の投与方法であって、
前記作用側電極構造体及び前記非作用側電極構造体を電源の両極に電気的に接続するステップと、
前記作用側電極構造体及び前記非作用側電極構造体に電圧又は電流をある時間に渡って印加するステップとを有し、
前記作用側電極構造体及び非作用側電極構造体を哺乳動物の皮膚に接触させることを特徴とする前記投与方法。
【請求項27】
前記免疫応答増強剤がアジュバントであることを特徴とする請求項26に記載の方法。
【請求項28】
前記アジュバントがリピドA又はリピドA類縁体であることを特徴とする請求項27に記載の方法。
【請求項29】
前記リピドA類縁体がモノホスホリルリピドA(MPL)、3−O−脱アシルモノホスホリルリピドA又はアミノアルキルグルコサミン4リン酸塩から選択されることを特徴とする請求項28に記載の方法。
【請求項30】
前記アジュバントがToll様受容体の作動薬であることを特徴とする請求項27に記載の方法。
【請求項31】
前記Toll様受容体がTLR−2、TLR−4、TLR−5、TLR−7又はTLR−9から選択されることを特徴とする請求項30に記載の方法。
【請求項32】
前記アジュバントがサポニン又はその誘導体であることを特徴とする請求項27に記載の方法。
【請求項33】
前記サポニンがQS−21であることを特徴とする請求項32に記載の方法。
【請求項34】
前記アジュバントがCpG、イミキモド、レジキモド又はdSLIMから選択されることを特徴とする請求項27に記載の方法。
【請求項35】
前記薬液保持部が更にワクチン又は抗原を含むことを特徴とする請求項26〜34のいずれか一項に記載の方法。
【請求項36】
前記ワクチン又は抗原がウイルス抗原、細菌性の抗原(菌体毒素を含む)、原虫の抗原又は寄生抗原から選択される少なくとも一の抗原を含むことを特徴とする請求項35に記載の方法。
【請求項37】
前記寄生抗原がリシューマニア抗原又はマラリア抗原から選択されることを特徴とする請求項36に記載の方法。
【請求項38】
前記ワクチン又は抗原が、肝炎(A型肝炎、B型肝炎及びC型肝炎を含む)の抗原、B型肝炎表面抗原(HbsAg)、B型肝炎表面抗原の変異体又はインフルエンザ抗原から選択される少なくとも一の抗原を含むことを特徴とする請求項35に記載の方法。
【請求項39】
前記ワクチン又は抗原が百日咳菌の抗原、ジフテリア菌の抗原、破傷風菌の抗原、インフルエンザB菌の抗原又はポリオウイルスの抗原から選択される少なくとも一の抗原を含むことを特徴とする請求項35に記載の方法。
【請求項40】
前記ワクチン又は抗原がDTP(ジフテリア、破傷風菌、百日咳)とHBsAg(B型肝炎表面抗原)の混合物、Hib(ヘモフィルスインフルエンザB菌)とHBsAgの混合物、DTP、HBsAg、及び、Hibの混合物、又は、IPV(不活性ポリオワクチン)、DTP、HBsAg、及び、Hibの混合物から選択される抗原混合物を含むことを特徴とする請求項35に記載の方法。
【請求項41】
前記薬液保持部が更に癌抗原を含むことを特徴とする請求項26〜34のいずれか一項に記載の方法。
【請求項42】
癌抗原がメラノーマ抗原、基底細胞癌抗原、乳癌抗原、前立腺癌抗原、肺癌抗原又は卵巣癌抗原から選択されることを特徴とする請求項41に記載の方法。
【請求項43】
前記薬液保持部が更にアレルゲンを含むことを特徴とする請求項26〜34のいずれか一項に記載の方法。
【請求項44】
前記アレルゲンが虫毒、花粉、ハウスダストであるダニ、りんせつ、ブタクサ又は内毒素から選択されることを特徴とする請求項43に記載の方法。
【請求項45】
前記非作用側電極構造体が、
前記第1電解液保持部の前面側に配置された第4イオン交換膜と、
前記第4イオン交換膜と前記第3イオン交換膜の間に配置された第3電解液保持部を更に備えることを特徴とする請求項44に記載のイオントフォレーシス装置。
【請求項46】
前記第1極性がマイナスの極性であり、前記第2極性がプラスの極性であり、前記第1イオン交換膜及び前記第4イオン交換膜がアニオン交換膜であり、前記第2イオン交換膜及び前記第3イオン交換膜がカチオン交換膜であり、前記免疫応答増強剤はリピドA又はリピドA類縁体であることを特徴とする請求項45に記載のイオントフォレーシス装置。
【請求項47】
前記リピドA類縁体がモノホスホリルリピドA(MPL)、3−O−脱アシルモノホスホリルリピドA及びアミノアルキルグルコサミン4リン酸塩から選択されることを特徴とする請求項49に記載のイオントフォレーシス装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2008−520284(P2008−520284A)
【公表日】平成20年6月19日(2008.6.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−541487(P2007−541487)
【出願日】平成17年11月16日(2005.11.16)
【国際出願番号】PCT/US2005/041717
【国際公開番号】WO2006/055729
【国際公開日】平成18年5月26日(2006.5.26)
【出願人】(507373678)トランスキュー リミテッド (7)
【氏名又は名称原語表記】Transcu Ltd.
【住所又は居所原語表記】6 Raffles Quay, #11−15/06, Singapore 048580
【Fターム(参考)】