説明

免疫性障害の処置のための組合せ治療

【課題】自己免疫疾患などの免疫性障害の処置のための改善された方法および組成物を提供する。
【解決手段】本発明は、自己免疫障害などの免疫性障害を処置するための改善された組成物および方法を提供する。特に、本発明は、Th17細胞の発達または維持を阻害する作用物質との組合せ治療を提供する。本発明はさらに、IL−23のアンタゴニストならびに1つまたは複数の炎症促進性サイトカイン、たとえばIL−17A、IL−17F、IL−1β、およびTNF−αのアンタゴニストを含む、自己免疫疾患などの免疫性障害を処置するための組成物を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(発明の分野)
本発明は、自己免疫障害などの免疫性障害を処置するための組成物および方法に関する。特に、本発明は、Th17細胞の発達または維持を阻害する作用物質との組合せ治療に関する。
【背景技術】
【0002】
(発明の背景)
免疫系は、感染性因子、たとえば細菌、多細胞生物、およびウイルスからならびに癌から個体を防御するために機能する。この系は、単球、マクロファージ、樹状細胞(DC)、好酸球、T細胞、B細胞、および好中球などのいくつかのタイプのリンパ系細胞および骨髄系細胞を含む。これらのリンパ系細胞および骨髄系細胞は、サイトカインとして知られているシグナル伝達タンパク質を産生することが多い。免疫応答は、炎症、つまり、全身的なまたは体の特定の位置での免疫細胞の蓄積を含む。感染性因子または外来性物質に応答して、免疫細胞は、免疫細胞の増殖、発達、分化、または遊走を引き続いて調整するサイトカインを分泌する。免疫応答は、たとえば、免疫応答が、自己免疫障害でのように過剰な炎症を伴う場合、病的結果をもたらし得る(たとえばAbbasら(編)(2000年)Cellular and Molecular Immunology、W.B.Saunders Co.、Philadelphia、PA;OppenheimおよびFeldmann(編)(2001年)Cytokine Reference、Academic Press、San Diego、CA;von AndrianおよびMackay(2000年)New Engl.J.Med.343:1020〜1034頁;DavidsonおよびDiamond(2001年)New Engl.J.Med.345:340〜350頁を参照されたい)。
【0003】
多くのサイトカインが異常な炎症性応答を伴う疾患に関係してきた。
【0004】
最初に細胞傷害性Tリンパ球関連抗原8(CTLA8)と命名されたIL−17は、IL−17RA(IL17Rとしても知られている)およびIL−17RCに結合するホモ二量体サイトカインである。IL−17の機能的受容体は、IL−17RAおよびIL−17RCの一方または両方を含む多量体受容体複合体(たとえばIL−17RAホモ二量体、IL−17RCホモ二量体、またはIL−17RA/IL−17RCヘテロ二量体)ならびに、第3の今までのところ知られていないタンパク質である可能性が考えられる(Toyら(2006年)J.Immunol.177(1):36〜39頁;非公開データ)。
【0005】
IL−17活性は(Kollsら(2004年)Immunity 21:467〜476頁で検討)、局所的なエリアでの好中球の集積および好中球の活性化を促進することを含む。IL−17は、細胞型に依存して、以下の炎症促進性サイトカインおよび好中球動員サイトカインのいずれかの産生を誘発するまたは促進することができる:IL−6、MCP−1、CXCL8(IL−8)、CXCL1、CXCL6、TNFα、IL−1β、G−CSF、GM−CSF、MMP−1、およびMMP−13。
【0006】
インターロイキン−12(IL−12)は、p35サブユニットおよびp40サブユニットから構成されるヘテロ二量体分子である。研究により、IFNγを分泌するT−ヘルパー1型CD4リンパ球へのナイーブT細胞の分化でIL−12が重大な役割を果たすことが示されている。IL−12は、インビボでのT細胞依存性の免疫応答および炎症性応答に必須であることもまた示されている。たとえばCuaら(2003年)Nature 421:744〜748頁を参照されたい。IL−12受容体は、IL−12Rβ1サブユニットおよびIL−12Rβ2サブユニットの複合体である。Preskyら(1996年)Proc.Nat’l Acad.Sci.USA 93:14002頁を参照されたい。
【0007】
インターロイキン−23(IL−23)は、2つのサブユニット、IL−23に特有のp19およびIL−12と共有されるp40から構成されるヘテロ二量体サイトカインである。p19サブユニットは、IL−6、顆粒球コロニー刺激因子(G−CSF)、およびIL−12のp35サブユニットに構造的に関係する。IL−23は、IL−23受容体に特有であるIL−23RおよびIL−12受容体によって共有されるIL−12Rβ1から構成されるヘテロ二量体受容体に結合することによってシグナル伝達を媒介する。Parhamら(2000年)J.Immunol.168:5699頁を参照されたい。
【0008】
IL−23活性は、記憶T細胞、PHA芽球、CD45RO T細胞の増殖を誘発することを含み、PHA芽球またはCD45RO T細胞によるインターフェロン−ガンマ(IFNγ)の産生を増強する。IL−12とは対照的に、IL−23は、ヒトおよびマウスの両方で、ナイーブT細胞集団に対立するものとしてのメモリーT細胞集団を優先的に刺激する。IL−23は、多くの細胞内細胞シグナル伝達分子、たとえばJak2、Tyk2、Stat1、Stat2、Stat3、Stat4を活性化する。IL−12は、この同じグループの分子を活性化するが、IL−23に対するStat4応答は、比較的弱く、IL−12に対するStat4応答は、強い。Oppmannら(2000年)Immunity 13:715〜725頁;Parhamら(2002年)J.Immunol.168:5699〜5708頁。IL−23はまた、Th17細胞として知られているIL−17産生細胞の維持および増殖に関係してきた。CuaおよびKastelein(2006年)Nature Immunology 7:557〜559頁を参照されたい。
【0009】
IL−12およびIL−23の天然の役割を比較すると、IL−12の阻害またはIL−23およびIL−12の両方の阻害と比較した場合、IL−23を標的とした阻害において有害な副作用の発生がより少ないことを示唆する。Bowmanら(2006年)Curr.Opin.Infect.Dis.19:245頁。IL−12は、全身性Th1媒介性免疫応答の開始に決定的であるが、IL−23(IL−1β、IL−6、およびTNF−αと共に)は、Th−17細胞の促進および維持を担うとみなす。そのようなTh17細胞は、肺または消化管の粘膜関門の破れなどの破局的な傷害に対する応答ならびに結果として生じる致命的な病原体K.pneumoniaeおよびC.rodentiumへの曝露に関与するとみなす。そのような破局的な傷害は、ほぼ確実に、大量の好中球流入の形態での即時的免疫応答を必要とする。CuaおよびKastelein(2006年)Nature Immunology 7:557頁を参照されたい。そのような破局的な傷害および感染症は、現代社会で比較的まれであり、それらが生じた場合、抗生物質を用いて処置することができるので、このTh17「中心の選択肢」は、ヒト進化でのより初期ほど生存にとって重大ではないといい得る。その天然の活性は、現代社会でほとんど重要ではないので、これは、IL−23/IL−23受容体シグナル伝達の破壊が比較的小さな副作用プロファイルを有し得ることを示唆する。McKenzieら(2006年)Trends Immunol.27:17頁を参照されたい。
【0010】
IL−12受容体およびIL−23受容体の別個のサブユニット組成物は、IL−12受容体ではなく、IL−23受容体のみを標的とする治療を設計することを可能にする。IL−23p19またはIL−23Rに結合し、およびIL−23p19またはIL−23Rの活性を阻害する化合物は、遊離状態でまたはそれらの各ヘテロ二量体複合体の成分として、IL−12ではなくIL−23を阻害する。IL−12ではなくIL−23に存在する場合にIL−12p40に結合することができる化合物も存在し得、またはIL−12受容体ではなくIL−23受容体に存在する場合にIL−12Rβ1に結合し、これを阻害する化合物も存在し得る。そのような特異的な結合性作用物質もまた、IL−12活性ではなくIL−23活性を阻害する。IL−23/IL−23R特異的作用物質は、IL−12もまた阻害する作用物質よりも安全である(つまり、より小さい副作用のプロファイルを有する)と予想される。
【0011】
IL−12の阻害の初期の研究の多くは、IL−12p40の阻害を伴った。これらの実験は、IL−12の阻害だけではなくIL−23の阻害をも伴い、実際に、これらの実験の多くにおける効果は、IL−23阻害の結果であったことがその後認められた。IL−12の阻害によって改善することができる、病原性のTh1応答によって引き起こされると以前考えられていた多くの障害は、その代りに、IL−23の阻害によって改善されるTh17応答によって引き起こされることが示された。Yenら(2006年)J.Clin.Invest.116:1310頁;IwakuraおよびIshingame(2006年)J.Clin.Invest.116:1218頁。
【0012】
IL−23Rは、重大な遺伝的要因として炎症性腸障害、クローン病、および潰瘍性大腸炎に関係してきた。Duerrら(2006年)Sciencexpress 2006年10月26日:1頁。全ゲノム関連研究(genome−wide association study)により、IL−23Rの遺伝子は、クローン病と高度に関連し、まれなコード改変体(Arg381Gln)はこの疾患から強く保護することが分かった。この遺伝的関連性は、先の生物学的知見を確証するものであり(Yenら(2006年)J.Clin.Investigation 116:1218頁)、IL−23およびその受容体は、IBDの処置に対する新しい治療的アプローチのための有望な目標となることを示唆する。
【0013】
最近の知見は、IL−23は、Th17細胞と呼ばれるT細胞のクラスの生存および増殖の促進に重要であることを実証した。最近の論文は、IL−23は、「Th17細胞」と呼ばれる、IL−17、IL−17F、TNF、IL−6、および他の因子の産生によって特徴付けられるT細胞集団を促進することを報告した(Langrishら(2005年)J.Exp.Med.201:233〜240頁)。そのようなTh17細胞の産生は、IL−6およびTGF−βによって促進される。たとえばVeldhoenら(2006年)Immunity 24:179〜189頁;Dong(2006年)Nat.Rev.Immunol.6(4):329〜333頁を参照されたい。IL−22もまた、重要なTh17サイトカインとして提唱された。たとえば特許文献1を参照されたい。現在の知識に基づくと、IL−23は、この新しいクラスのヘルパーT細胞の維持および増殖を担うが、それは、Th17細胞の最初の生成に必要ではない。
【0014】
多くの自己免疫疾患は、比較的無症状の長い期間が後に続く、急性「再発(flare−up)」の徴候および症状の期間を伴うことが知られている。そのような疾患は、時に、「再発寛解型」疾患と呼ばれる。原型的な再発寛解型疾患は多発性硬化症(MS)であり、MSの中で被験体の85%が、該疾患の進行形態に相対するものとしての、再発寛解型形態に罹患している。再発寛解型MSは、完全な回復またはある欠損を有する安定化の期間が後続する、明瞭に定義される急性発作によって特徴付けられる。MSの一次症状は、疲労(他の原因に起因する疲労(tiredness)を区別するためにMS疲労(MS lassitude)とも呼ばれる)、歩行に関する問題、腸および/または膀胱の障害、視覚の問題、認知機能の変化(記憶、注意力、および問題解決に関する問題を含む)、知覚異常(しびれまたは「しびれ(pins and needles)」など)、性機能の変化、痛み、うつ病および/または気分変動、ならびにそれほど頻繁ではないが、振戦、協調運動不能、会話および嚥下の問題、ならびに聴力障害を含む。現在の薬剤による介入は、インターフェロンベータ1a(IFN−β1a)、インターフェロンベータ1b(IFN−β1b)、およびヒト化抗インテグリン−α4抗体のナタリズマブを含む。
【0015】
再発寛解型自己免疫疾患はまた、様々な遺伝性周期性発熱症候群(hereditary periodic fever syndrome)、クローン病、ブラウ症候群、ベーチェット病、および全身性エリテマトーデスなどの自己炎症性障害を含む。Churchら(2006年)Springer Semin.Immun.27:494頁。遺伝性周期性発熱症候群の処置のための生物学的作用物質は、インフリキシマブ、エタネルセプト、およびアダリムマブなどの腫瘍壊死因子アルファ(TNF−α)のアンタゴニストならびにIL−1受容体アンタゴニストのアナキンラ(Kineret(登録商標)IL−1受容体アンタゴニスト)などのインターロイキン−1ベータ(IL−1β)のアンタゴニストを含む。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【特許文献1】米国特許出願公開第2008/0031882号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
自己免疫疾患などの免疫性障害の処置のための改善された方法および組成物の必要性が存在する。好ましくは、そのような方法および組成物は、たとえば、障害の徴候および症状を和らげることによって、その疾患の急性症状を処置し、またその疾患の再発の可能性を低下させもする。好ましくは、そのような方法および組成物は、2つ以上の治療薬が、長期的な疾患抑制をも促進しながら、徴候および症状の急速な解消を促進する治療計画で投与される包括的な疾患管理プロトコルを含む。
【課題を解決するための手段】
【0018】
(発明の要旨)
本発明は、当技術分野でのこれらの必要性を満たし、さらには、IL−23のアンタゴニストならびに1つまたは複数の炎症促進性サイトカイン、たとえばIL−17A、IL−17F、IL−1β、およびTNF−αのアンタゴニストを含む、自己免疫疾患などの免疫性障害を処置するための組成物を提供することによって満たす。本明細書に使用されるように、IL−17A、IL−17F、IL−1β、およびTNF−αは、「急性期サイトカイン」と総称され、これらのサイトカインのアンタゴニストは、「急性期治療薬」と総称される。一実施形態では、被験体は、本発明の方法および組成物を用いる処置の開始時に免疫性障害の症状の再発を起こしている。
本発明は、例えば以下の項目を提供する。
(項目1)
癌を有するまたは自己免疫疾患の再発を示す被験体を処置する方法であって、
a)第1の時間間隔の間、一連の1つまたは複数の用量でIL−23のアンタゴニストを投与する工程ならびに
b)第2の時間間隔の間、一連の1つまたは複数の用量で、IL−1β、TNF−α、IL−17A、およびIL−17Fからなる群から選択されるサイトカインのアンタゴニストを含む急性期治療薬を投与する工程
を含む方法。
(項目2)
前記IL−23のアンタゴニストは抗IL−23p19抗体またはその抗原結合性断片である、項目1に記載の方法。
(項目3)
前記IL−23のアンタゴニストは抗IL−23R抗体またはその抗原結合性断片である、項目1に記載の方法。
(項目4)
前記急性期治療薬は、IL−1β、TNF−α、IL−17A、およびIL−17Fからなる群から選択されるサイトカインに特異的に結合する抗体である、項目1に記載の方法。
(項目5)
前記急性期治療薬は、IL−1β、TNF−α、IL−17A、およびIL−17Fからなる群から選択されるサイトカインの受容体に特異的に結合する抗体である、項目1に記載の方法。
(項目6)
前記第2の時間間隔は、前記自己免疫疾患の前記再発の少なくとも1つの症状が解消すると終了する、項目1に記載の方法。
(項目7)
前記第2の時間間隔は、前記自己免疫疾患の前記再発の2つ以上の症状が解消してから30日以内に終了する、項目6に記載の方法。
(項目8)
a)前記第2の時間間隔は、前記第1の時間間隔の開始と実質的に同時に始まり、ならびに
b)前記第2の時間間隔は、前記第1の時間間隔の終了の前に終了する、
項目1に記載の方法。
(項目9)
c)前記第2の時間間隔は、前記第1の時間間隔が始まる前に始まり、ならびに
d)前記第2の時間間隔は、前記第1の時間間隔の終了の前に終了する、
項目1に記載の方法。
(項目10)
前記第2の時間間隔は、前記第1の時間間隔が始まる前に終了する、項目1に記載の方法。
(項目11)
前記第2の時間間隔は6カ月未満である、項目8から10のいずれか一項に記載の方法。
(項目12)
前記第2の時間間隔は2カ月未満である、項目8から10のいずれか一項に記載の方法。
(項目13)
前記第1の時間間隔は1年を超える項目8から10のいずれか一項に記載の方法。
(項目14)
前記第1の時間間隔は3年を超える項目8から10のいずれか一項に記載の方法。
(項目15)
前記抗体またはその抗原結合性断片は、ヒト化抗体もしくは完全ヒト抗体またはそれらの抗体の抗原結合性断片である、項目4または5に記載の方法。
(項目16)
前記抗体またはその抗原結合性断片は、Fab、Fab’、Fab’−SH、Fv、scFv、F(ab’)、およびダイアボディからなる群から選択されるヒト化抗体または完全ヒト抗体の断片である、項目4または5のいずれかに記載の方法。
(項目17)
前記抗体またはその抗原結合性断片はペグ化されている項目4または5のいずれかに記載の方法。
(項目18)
前記抗体またはその抗原結合性断片は二重特異性抗体またはその抗原結合性断片である、項目4または5のいずれかに記載の方法。
(項目19)
前記二重特異性抗体は、
e)IL−23またはその受容体ならびに
f)IL−1β、TNF−α、IL−17A、およびIL−17Fからなる群から選択されるサイトカインまたはIL−1β、TNF−α、IL−17A、およびIL−17Fからなる群から選択されるサイトカインの受容体
に結合する、項目18に記載の方法。
(項目20)
前記二重特異性抗体は、
g)IL−23ならびに
h)IL−1β、TNF−α、IL−17A、およびIL−17Fからなる群から選択されるサイトカイン
に結合する、項目19に記載の方法。
(項目21)
i)抗IL−23p19抗体またはその抗原結合性断片ならびに
j)IL−1β、TNF−α、IL−17A、およびIL−17Fからなる群から選択されるサイトカインに結合する抗体またはその抗原結合性断片
を含む医薬組成物。
(項目22)
k)IL−23p19ならびに
l)IL−1β、TNF−α、IL−17A、およびIL−17Fからなる群から選択されるサイトカイン
に結合する二重特異性抗体を含む、項目21に記載の医薬組成物。
(項目23)
薬学的に許容可能な担体または希釈剤をさらに含む、項目21または22のいずれかに記載の医薬組成物を含む医薬組成物。
(項目24)
ステロイドまたは非ステロイド性抗炎症剤をさらに含む項目23に記載の医薬組成物。(項目25)
前記被験体は、癌、関節炎、関節リウマチ(RA)、乾癬、炎症性腸疾患、クローン病、潰瘍性大腸炎、多発性硬化症(MS)、全身性エリテマトーデス(SLE)、I型糖尿病からなる群から選択される障害を有する、項目1から20のいずれか一項に記載の方法。
(項目26)
免疫抑制剤または抗炎症剤を投与する工程をさらに含む項目1から20のいずれか一項に記載の方法。
(項目27)
前記免疫抑制剤または前記抗炎症剤はステロイドまたは非ステロイド性抗炎症剤である、項目26に記載の方法。
(項目28)
癌を有するまたは自己免疫疾患の再発を示す被験体を処置する方法であって、抗体の抗原結合部位に由来する結合性組成物を投与する工程を含み、該結合性組成物はIL−23RおよびCD161に結合する方法。
(項目29)
自己免疫障害または増殖障害を有する被験体を処置する方法であって、該被験体に、IL−23のアンタゴニスト、IL−1βのアンタゴニスト、およびPGE2のアンタゴニストからなる群から選択される2つ以上の作用物質を含む組成物を投与する工程を含む方法。
(項目30)
前記作用物質は、IL−23受容体のアンタゴニスト、IL−1β受容体のアンタゴニスト、およびPGE2受容体のアンタゴニストからなる群から選択される、項目29に記載の方法。
(項目31)
前記組成物は二重特異性抗体またはその抗原結合性断片を含む、項目29に記載の方法。
(項目32)
IL−23のアンタゴニスト、IL−1βのアンタゴニスト、およびPGE2のアンタゴニストからなる群から選択される2つ以上の作用物質を含む、自己免疫障害または増殖障害の処置のための組成物。
(項目33)
前記作用物質は、IL−23受容体のアンタゴニスト、IL−1β受容体のアンタゴニスト、およびPGE2受容体のアンタゴニストからなる群から選択される、項目32に記載の組成物。
(項目34)
二重特異性抗体またはその抗原結合性断片を含む、項目32に記載の組成物。
(項目35)
病原性Th17細胞をインビトロで生成するための方法であって、IL−23、IL−1β、およびPGE2からなる群から選択される2つ以上の作用物質の存在下でインビトロでT細胞を培養する工程を含む方法。
(項目36)
病原性Th17細胞によって媒介される障害の処置で使用される化合物をスクリーニングする方法であって、
a)項目35に記載の方法によって病原性Th17細胞を生成する工程、
b)該細胞を1つまたは複数の可能な治療用化合物に曝露する工程、ならびに
c)該Th17細胞に対するそのような化合物(複数可)の効果を評価する工程
を含む方法。
(項目37)
自己免疫障害または増殖障害を有する被験体を処置する方法であって、
a)該被験体に、IL−23のアンタゴニスト、IL−1βのアンタゴニスト、およびPGE2のアンタゴニストからなる群から選択される2つ以上の作用物質を含む組成物を投与する工程ならびに
b)該投与の間にまたは該投与の後に、前記病原性Th17細胞のレベルまたは活性をモニターする工程
を含む方法。
(項目38)
前記モニターする工程は、IL−17A、IL−17F、IL−10、IL−22、およびIFN−γからなる群から選択される2つ以上のサイトカインの発現のレベルを測定する工程によるものである、項目37に記載の方法。
【0019】
一局面では、本発明は、自己免疫疾患などの免疫性障害を有する被験体を処置する方法であって、該被験体に、有効量の、IL−23のアンタゴニストならびにIL−17A、IL−17F、IL−1β、およびTNF−αからなる群から選択される炎症促進性サイトカインのアンタゴニストを投与する工程を含む方法に関する。2つ以上のアンタゴニストのそのような投与は、本明細書で組合せ治療と呼ばれる。
【0020】
一実施形態では、1つまたは複数のアンタゴニストは、その受容体以外のサイトカイン自体(たとえばIL−23、IL−17A、IL−17F、IL−1β、またはTNF−α)に結合する。他の実施形態では、1つまたは複数のアンタゴニストは、サイトカイン受容体に結合する。
【0021】
一実施形態では、免疫性障害は、Th17応答の調節不全であり、IL−12媒介のTh1腫瘍監視の抑制を生じさせる。そのような実施形態では、本発明の方法および組成物は、癌または腫瘍を有する被験体を処置するために使用される。
【0022】
一実施形態では、本発明の1つまたは複数のアンタゴニストは、抗体またはその抗原結合性断片である。種々の実施形態では、抗体は、キメラ抗体、ヒト化抗体、または完全ヒト抗体であり、抗原結合性断片は、キメラ抗体、ヒト化抗体、または完全ヒト抗体の断片である。種々の実施形態では、断片は、Fab、Fab’、Fab’−SH、Fv、scFv、F(ab’)、およびダイアボディからなる群から選択される。一実施形態では、その抗原結合性断片の抗体は、ペグ化(PEGylated)されている。
【0023】
種々の実施形態では、IL−23アンタゴニストは、IL−23p19またはIL−23Rに結合するアンタゴニスト抗体またはその抗原結合性断片である。
【0024】
一実施形態では、急性期治療薬は、IL−1β、TNF−α、IL−17A、およびIL−17Fからなる群から選択されるサイトカインに特異的に結合する抗体である。他の実施形態では、急性期治療薬は、IL−1β、TNF−α、IL−17A、およびIL−17Fからなる群から選択されるサイトカインの受容体に特異的に結合する抗体である。
【0025】
他の実施形態では、抗体またはその抗原結合性断片は、二重特異性抗体またはその抗原結合性断片である。種々の実施形態では、二重特異性抗体は、IL−23(たとえばIL−23p19)またはIL−23受容体(たとえばIL−23R)に結合し、拮抗し、oyobi急性期サイトカインまたは急性期サイトカインの受容体にも結合し、拮抗する。
【0026】
一実施形態では、本発明は、IL−23RおよびCD161に結合する二重特異性抗体またはその抗原結合性断片に関する。他の実施形態は、CD161およびCD4、CD45RO、CCR4、CCR6、インテグリン−β7、EP2、EP4、IL−1R1、またはTNF−αのうちの少なくとも1つに対する二重特異性試薬を含む。種々の実施形態では、二重特異性抗体は、IgG1定常ドメインおよび/または放射性核種もしくは他の毒素などの毒性ペイロード(payload)をさらに含む。
【0027】
一実施形態では、本発明は、第1のポリペプチドおよび第2のポリペプチドを含む二重特異性試薬を使用する組合せ治療であって、第1のポリペプチドは、IL−1raまたは可溶性TNF−α受容体断片を含み、第2のポリペプチドは、IL−23、IL−23R、IL−17A、IL−17RA、またはIL−17RCに結合する抗体の抗原結合断片を含む組合せ治療に関する。一実施形態では、第1および第2のポリペプチドのそれぞれは、抗体Fcドメインに融合される。
【0028】
他の実施形態では、本発明は、病原性の哺乳類、たとえばマウスまたはヒトなどの哺乳類のTh17細胞のインビトロ生成のための、IL−23、IL−1β、およびPGE2からなる群から選択される2つ以上の作用物質の組合せまたはPGE2単独またはそのアゴニストの使用に関する。いくつかの実施形態では、T細胞(たとえばナイーブCD4T細胞)は、IL−23、IL−1β、およびPGE2からなる群から選択される2つ以上の作用物質、たとえばIL−23もしくはIL−1βのいずれかとPGE2の存在下で培養されるかまたはPGE2のみの存在下で培養される。さらなる実施形態では、本発明は、Th17細胞によって媒介される障害の処置で使用される化合物をスクリーニングするための方法であって、IL−23、IL−1β、およびPGE2からなる群から選択される2つ以上の作用物質の存在下で、T細胞(たとえばナイーブCD4T細胞)を培養することによってインビトロで病原性Th17細胞を生成する工程、1つまたは複数の可能性のある治療用化合物に上記の細胞を曝露する工程、ならびに上記のTh17細胞に対するそのような化合物(複数可)の効果を評価する工程を含む方法に関する。一実施形態では、上記の評価は、IL−17A、IL−17F、IL−10、IL−22、およびIFN−γからなる群から選択される2つ以上のサイトカインの発現のレベルの測定によるものである。たとえば、IL−17AまたはIL−17Fの発現を低下させることによってTh17細胞の発達または維持を阻害する化合物は、有力な治療薬となるとみなす。
【0029】
さらに他の実施形態では、本発明は、自己免疫障害または増殖障害の処置のための、IL−23、IL−1β、およびPGE2のそれぞれの受容体または受容体サブユニットのいずれかのアンタゴニストを含む、IL−23、IL−1β、およびPGE2のアンタゴニストからなる群から選択される2つ以上の作用物質の組合せの使用に関する。一実施形態では、2つ以上の作用物質は、二機能性試薬(たとえばタンパク質)または二重特異性抗体(またはその抗原結合性断片)などの単一試薬として存在する。いくつかの実施形態では、自己免疫障害または増殖障害は、病原性Th17細胞によって引き起こされる。いくつかの実施形態では、作用物質は、炎症の部位に(またはその近くに)局所的に投与されるのに対して、他の実施形態では、作用物質は、経口的にまたは非経口的になどのように全身的に投与される。
【0030】
他の実施形態では、本発明は、自己免疫障害または増殖障害の処置で使用するための、IL−23、IL−1β、およびPGE2のそれぞれの受容体または受容体サブユニットのいずれかのアンタゴニストを含む、IL−23、IL−1β、およびPGE2のアンタゴニストからなる群から選択される2つ以上の作用物質の組合せを含む組成物に関する。いくつかの実施形態では、PGE2のアンタゴニストは、シクロオキシゲナーゼ(COX)阻害剤である。他の実施形態では、PGE2のアンタゴニストは、PGE2シンターゼの特異的阻害剤である。いくつかの実施形態では、組成物は、二機能性試薬(たとえばタンパク質)または二重特異性抗体(またはその抗原結合性断片)を含む。
【0031】
他の実施形態では、本発明は、自己免疫障害または増殖障害の処置のための方法に関するものであって、被験体の(たとえば体液または組織サンプル中の)病原性Th17細胞のレベルを(任意選択で)検出する工程、上記の被験体に本発明の組成物を投与する工程、ならびに処置が有効であるかどうかを決定するために、組成物の投与の間におよび/または投与の後に、上記の病原性Th17細胞のレベルを(任意選択で)モニターする工程を含む方法に関する。一実施形態では、本発明の組成物は、IL−23、IL−1β、およびPGE2の各受容体または受容体サブユニットのいずれかのアンタゴニストを含む、IL−23、IL−1β、およびPGE2のアンタゴニストからなる群から選択される2つ以上の作用物質の組合せを含み、そのようなアンタゴニストは、二機能性試薬(たとえばタンパク質)または二重特異性抗体(またはその抗原結合性断片)を任意選択で含む。一実施形態では、上記のモニタリングは、IL−17A、IL−17F、IL−10、IL−22、およびIFN−γからなる群から選択される1つ、2つ、3つ、またはそれ以上のサイトカインの発現のレベルの測定による。一実施形態では、処置は、上記のモニタリングがTh17サイトカイン、たとえばIL−17AまたはIL−17Fの発現の低下を明らかにする場合、有効であるとみなす。
【0032】
一実施形態では、本発明の方法は、ステロイド(たとえばプレドニゾン(predinisone))および非ステロイド性抗炎症剤などの免疫抑制剤または抗炎症剤の投与をさらに含む。
【0033】
種々の実施形態では、IL−23アンタゴニストを用いる処置は、第1の時間間隔の間、一連の1つまたは複数の用量として継続され、急性期治療薬を用いる処置は、第2の時間間隔の間、一連の1つまたは複数の用量として継続される。種々の実施形態では、第1の時間間隔は、第2の時間間隔と実質的に同時に、時に第2の時間間隔の間のより遅くに、または第2の時間間隔の終了の後に存在する。一実施形態では、第1の時間間隔は、第2の時間間隔の終了を越えて延長される、つまり、IL−23アンタゴニスト治療は、急性期治療薬を用いる処置の停止の後に継続する。種々の実施形態では、第2の時間間隔は、自己免疫疾患の再発の少なくとも1つ、2つ、またはそれ以上の症状が解消すると終了する。
【0034】
種々の実施形態では、第1および第2の時間間隔は、0.5、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、12、15、18、24、36、48、60カ月、またはそれ以上からなる群から選択される。
【0035】
種々の実施形態では、本発明の方法または組成物を用いて処置される被験体は、癌、関節炎、関節リウマチ(RA)、乾癬、炎症性腸疾患、クローン病、潰瘍性大腸炎、多発性硬化症(MS)、全身性エリテマトーデス(SLE)、I型糖尿病からなる群から選択される障害を有する。
【0036】
他の局面では、本発明は、IL−23のアンタゴニストおよび急性期サイトカイン、たとえばIL−1β、TNF−α、IL−17A、またはIL−17Fのアンタゴニストを含む医薬組成物に関する。一実施形態では、医薬組成物は、薬学的に許容可能な担体または希釈剤をさらに含む。他の実施形態では、本発明の医薬組成物は、ステロイド(たとえばプレドニゾン(prednisone))および非ステロイド性抗炎症剤などの免疫抑制剤または抗炎症剤をさらに含む。
【0037】
他の局面では、本発明は、癌、関節炎、RA、乾癬、炎症性腸疾患、クローン病、潰瘍性大腸炎、MS、SLE、I型糖尿病などの免疫性障害の処置のための薬剤の製造での、IL−23のアンタゴニストおよび急性期サイトカインのアンタゴニストの使用に関する。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】図1Aは、正常なヒト被験体由来、およびクローン病患者由来の粘膜固有層単核細胞(LPMC)におけるCD161CD4CD45ROT細胞の細胞の数を示す図である。図1Bは、抗CD2、抗CD3、抗CD28活性化ビーズと3日間培養した後の、正常なヒト被験体由来、およびクローン病患者由来の蛍光標識細胞分取(fluorescence activated cell sorting)(FACS(登録商標))で精製したCD161およびCD161CD4CD45ROT細胞において、酵素結合免疫吸着測定法(ELISA)により測定したIL−17Aの発現を示す図である。図1Cは、CD4CD45RO記憶T細胞(Thmem)内でCD161およびCD161細胞に関して選別したクローン病のヒトの結腸から単離した単核細胞において、定量的リアルタイム逆転写酵素ポリメラーゼ連鎖反応(qRT−PCR)によって評価した、IL−23R、IL−17A、IL−22およびIFN−γに関する相対的なmRNA発現レベルを示す図である。FACS(登録商標)フローサイトメトリーによりCD161の発現に関して細胞を選別する。
【図2】図2Aおよび2Bは、健康なヒトドナー由来の末梢血単核細胞(PBMC)に関するCD161発現の関数として、CD4CD25CD45RA記憶T細胞における、それぞれ遺伝子発現、およびサイトカイン産生を示す図である。FACS(登録商標)フローサイトメトリーによりCD161の発現に関して細胞を選別する。遺伝子発現は、qRT−PCRによって4ドナー由来のサンプルにおいて測定する。サイトカイン産生は、抗CD2、抗CD3、抗CD28活性化ビーズと3日間培養した後に、ELISAによって少なくとも3ドナー由来のサンプルにおいて測定する。
【図3】図3Aおよび3Bは、IL−2、IL−12、IL−23、PGE2、IL−1β、または(IL−1β+PGE2)と共に培養したヒト末梢血単核CD4Tリンパ球からの、それぞれIL−17AおよびIFN−γの発現を示す図である。
【図4】図4Aおよび4Bは、ナイーブヒトCD4T細胞をT細胞活性化ビーズで活性化し、PGE2または特異的EP受容体アゴニストの存在下または非存在下で培養する実験において得た結果を示す図である。図4Aは、5回の独立した実験の結果に基づいて(平均+標準誤差、***P<0.001)、48時間再刺激したT細胞におけるIL−23Rのフローサイトメトリーによる定量化によって測定した、PGE2の関数としてIL−23R細胞の割合を示す図である。図4Bは、2回の独立した実験の結果に基づいて(平均+標準誤差)、PGE2または特異的EP受容体アゴニストであるブタプロスト(EP2選択的アゴニスト)、ミソプロストール(EP4、EP3>EP1>EP2非選択的アゴニスト)、およびスルプロストン(EP1/EP3選択的アゴニスト)で処置した細胞に関する結果を示す図である。
【図5】PGE2、またはEP受容体アゴニストであるブタプロスト、ミソプロストール、およびスルプロストン有りまたは無しで、T細胞活性化ビーズで活性化し、IL−23およびIL−1βの存在下または非存在下で培養したナイーブヒトCD4T細胞において得た結果を示す図である。図5A〜5C中のデータは、48時間再刺激したT細胞の無細胞上清におけるIL−17A、IFN−γおよびIL−10産生をそれぞれ反映する。それぞれの図中の結果は、2回の独立した実験を代表する。
【図6】図6A、BおよびCは、図5A〜5Cに関して記載したように培養したナイーブヒトCD4T細胞を用いて得た結果を示す図である。図6Aは、48時間再刺激したT細胞におけるCCR6のフローサイトメトリーによる定量化を示す図である。***P,0.001。結果は、9回の独立した実験の平均+標準誤差を表わす。図6Bおよび6C中に示すデータに関しては、ナイーブT細胞はIL−1β、IL−23、およびPGE2の存在下で培養する。再活性化の後、CD4CCR6およびCD4CCR6T細胞を選別し、IL−2の存在下で7日間培養する。図6Bは、24時間再刺激したT細胞の無細胞上清におけるIL−17A、IL−17F、IL−22、およびCCL20の産生を示す図である。図6Cは、24時間再刺激したT細胞におけるROR−γt、ROR−α、およびIL−23R発現のリアルタイムRT−PCR分析を示す図である。図6Bおよび6Cのそれぞれ中の結果は、4回の独立した実験の結果を反映する。
【図7】図7Aおよび7Bは、IL−23、IL−1β、および/またはPGE2の存在下で3日間活性化および培養したヒト記憶CD4T細胞を用いて得た結果を示す図である。図7Aは、示したように、無細胞上清におけるIL−17A、IFN−γ、およびIL−10産生を示す図である。9人の独立したドナーからの結果を示す。図7Bは、ROR−γtおよびT−bet遺伝子発現のリアルタイムRT−PCRの結果を示す図である。4人の異なるドナーからの結果を示す。横線は中央値を表わす。
【発明を実施するための形態】
【0039】
(詳細な説明)
本明細書で引用されるすべての参考文献は、あたかも各個々の刊行物、データベースエントリー(たとえば、Genbank配列またはGeneIDエントリー)、特許出願、または特許が、参照によって組み込まれるように具体的におよび個別に示されるのと同程度に、参照によって組み込まれる。本明細書での参考文献の引用は、前述のもののいずれも、関連する先行技術であるといったことを許容するものとして意図されず、引用は、これらの刊行物または文書の内容または日付に関するどのような許容をも成さない。
【0040】
I.定義
本明細書に使用されるように、添付される特許請求の範囲を含めて、「1つの(a)」、「1つの(an)」、および「その(the)」などの単語の単数形は、文脈が明瞭に他を指図しない限り、それらの対応する複数形の言及を含む。
【0041】
「成熟」タンパク質またはタンパク質の「成熟形態」は、アミノ末端からのシグナル配列の除去の後の配列を指す。本明細書に提供されるタンパク質配列(たとえば遺伝データベースアクセッション番号に参照によって)は、典型的には、タンパク質の成熟形態では存在しない約20個のアミノ酸N末端シグナル配列を含むプロタンパク質配列または前駆体タンパク質配列である。
【0042】
他に示されない限り、IL−17は、本明細書に使用されるように、IL−17Aを指す。
【0043】
他に示されない限り、サイトカインなどの本明細書で言及されるタンパク質は、タンパク質のヒト形態である。
【0044】
「増殖活性」は、たとえば、正常な細胞分裂ならびに癌、腫瘍、異形成、細胞の形質転換、転移、および新脈管形成を促進するまたはそれに必要であるまたはそれに特異的に関連する活性を包含する。
【0045】
「投与」および「処置」は、動物、ヒト、実験被験体、細胞、組織、器官、または生物学的液体に適用されるように、外因性の医薬品、治療剤、診断用薬、または組成物の、動物、ヒト、被験体、細胞、組織、器官、または生物学的液体に対する接触を指す。「投与」および「処置」は、たとえば、治療方法、薬物動態学的方法、診断方法、研究方法、および実験方法を指すことができる。細胞の処置は、細胞に対する試薬の接触および細胞と接触している液体に対する試薬の接触を包含する。「投与」および「処置」はまた、たとえば、試薬、診断薬、結合性組成物による、または他の細胞による細胞のインビトロおよびエキソビボ(ex vivo)での処置をも意味する。「処置」は、ヒト被験体、獣医学的被験体、または研究被験体に適用されるように、治療処置、予防的または防止的手段、研究への応用、および診断への応用を指す。「処置」は、ヒト被験体、獣医学的被験体、もしくは研究被験体または細胞、組織、もしくは器官に適用されるように、動物被験体、細胞、組織、生理的コンパートメント、または生理的液体との作用物質(agent)の接触を包含する。「細胞の処置」はまた、作用物質が、たとえば液体相またはコロイド相中でIL−23受容体などの標的と接触する状況だけではなく、アゴニストまたはアンタゴニストが細胞または受容体と接触しない状況をも包含する。
【0046】
「処置」または、「処置する」はまた、治療薬を必要とする患者への内部的または外部的な、本明細書に記載される組成物などの治療薬の投与を指してもよい。典型的には、作用物質は、任意の臨床的に測定可能な程度まで、そのような症状(複数可)または有害作用(複数可)の進行の発達を防止することによるものであろうと、その退行を誘発することによるものであろうと、またはそれを阻害することによるものであろうと、1つもしくは複数の疾患症状または異なる治療薬を用いる処置の1つもしくは複数の有害作用を防止するまたは和らげるのに有効な量で投与される。任意の特定の疾患症状または有害作用を和らげるのに有効な治療薬の量(「治療有効量」とも呼ばれる)は、患者の疾患状態、年齢、および体重、患者で所望の応答を誘発する治療薬の能力、患者の全体的な健康状態、投与の方法、経路、および用量、ならびに副作用(side affect)の重症度などの要因によって変動し得る。たとえば米国特許第5,888,530号を参照されたい。
【0047】
疾患症状または有害作用が和らげられたかどうかは、その症状または有害作用の重症度または進行状態を評価するために医師または他の熟練した医療提供者によって典型的には使用される任意の臨床的な測定によって評価されてもよい。治療薬が、活動性疾患を有する患者に投与される場合、治療有効量は、典型的には、少なくとも5%、一般に少なくとも10%、より一般に少なくとも20%、最も一般に少なくとも30%、好ましくは少なくとも40%、より好ましくは少なくとも50%、最も好ましくは少なくとも60%、理想的には少なくとも70%、より理想的には少なくとも80%、および最も理想的には少なくとも90%、測定される症状の低下をもたらす。たとえばMaynardら(1996年)A Handbook of SOPs for Good Clinical Practice、Interpharm Press、Boca Raton、FL;Dent(2001年)Good Laboratory and Good Clinical Practice、Urch Publ.、London、UKを参照されたい。
【0048】
本発明の実施形態(たとえば処置方法または製品)が、すべての患者で、標的の疾患症状(複数可)または有害作用(複数可)を防止するまたは和らげるのに有効であるとは限らないので、それは、スチューデントのt検定、χ検定、マンホイットニーのU検定、クラスカル−ウォリスの検定(H検定)、ヨンクヒール−タプストラ検定、およびウィルコクソン検定などの当技術分野で知られている任意の統計的検定によって決定されるように、統計的に有意な数の患者で、そのような症状(複数可)または作用(複数可)を和らげる。
【0049】
「アンタゴニスト」は、本明細書に使用されるように、標的分子の活性を低下させる任意の作用物質である。特に、サイトカイン(IL−23、IL−17A、IL−17F、TNF−α、またはIL−1βなど)のアンタゴニストは、たとえば、その受容体へのサイトカインの結合を遮断することによってまたは他の場合にはその活性を低下させること(たとえばバイオアッセイで測定されるように)によって、そのサイトカインの生物学的活性を低下させる作用物質である。そのため、サイトカインのアンタゴニストは、サイトカインによるシグナル伝達を低下させる任意の作用物質を含み、したがって、サイトカイン自体に結合する作用物質、さらに、その受容体(複数可)に結合する作用物質を含んでいてもよい。アンタゴニストは、アンチセンス核酸およびsiRNAなどの核酸ベースのアンタゴニストを含むが、これらに限定されない、サイトカインまたはその受容体の発現を低下させる作用物質をさらに含む。たとえばArenzおよびSchepers(2003年)Naturwissenscha ften 90:345〜359頁;SazaniおよびKole(2003年)J.Clin.Invest.112:481〜486頁;Pirolloら(2003年)Pharmacol.Therapeutics 99:55〜77頁;Wangら(2003年)Antisense Nucl.Acid Drug Devel.13:169〜189頁を参照されたい。
【0050】
あるサイトカイン(たとえばIL−23)のアンタゴニストとして作用する作用物質は、たとえば二重特異性抗体中で、他のサイトカインのアンタゴニストとして任意選択で作用してもよい。そのため、「組合せ治療」を伴う方法およびそのような組合せ治療のための組成物は、1つを超える治療薬を含む必要はない。
【0051】
サイトカインアンタゴニストは、サイトカインシグナル伝達および下流の活性に干渉する様式で、サイトカイン(またはそのサブユニットのいずれか)またはその機能的受容体(またはそのサブユニットのいずれか)に結合するアンタゴニスト抗体、ペプチド、ペプチド模倣物質、ポリペプチド、および小分子を含むが、これらに限定されない。ペプチドおよびポリペプチドのアンタゴニストの例は、その機能的受容体に結合するのに利用可能なサイトカインの量を低下させるかまたは他の場合には、サイトカインがその機能的受容体に結合するのを防止するかのいずれかである様式でサイトカインに結合する、サイトカイン受容体の切断型バージョンまたは断片(たとえば可溶性細胞外ドメイン)を含む。
【0052】
アンタゴニストの阻害作用は、ルーチン的な技術によって測定することができる。たとえば、サイトカイン誘発性の活性に対する阻害作用を評価するために、サイトカインの機能的受容体を発現するヒト細胞は、サイトカインを用いて処置され、そのサイトカインによって活性化されるまたは阻害されることが知られている遺伝子の発現は、有力なアンタゴニストの存在下または非存在下で測定される。本発明で有用なアンタゴニストは、適切な対照と比較した場合、少なくとも25%、好ましくは少なくとも50%、より好ましくは少なくとも75%、および最も好ましくは少なくとも90%、標的とされる活性を阻害する。
【0053】
「結合性化合物」は、標的に結合することができる分子、小分子、高分子、ポリペプチド、抗体またはその断片もしくは類似体、または可溶性受容体を指す。「結合性化合物」はまた、標的に結合することができる、分子の複合体、たとえば非共有結合複合体、イオン化分子、および共有結合でまたは非共有結合で改変された、たとえばリン酸化、アシル化、架橋、環化、または限定切断で改変された分子を指すものであってもよい。抗体に関して使用される場合、用語「結合性化合物」は、抗体およびその抗原結合性断片の両方を指す。「結合(binding)」は、結合性組成物の標的との関連性を指し、その関連性は、結合性組成物が溶液中に溶解するまたは懸濁することができる場合、結合性組成物の通常のブラウン運動の低下をもたらす。「結合性組成物」は、安定剤、賦形剤、塩、緩衝剤、溶媒、または添加剤と組み合わせた結合性化合物を指す。
【0054】
「小分子」は、10kDa未満、典型的には2kDa未満、および好ましくは、1kDa未満である分子量を有する分子として定義される。小分子は、無機分子、有機分子、無機成分を含有する有機分子、放射性原子を含む分子、合成分子、ペプチド模倣物質、および抗体模倣物質を含むが、これらに限定されない。治療剤として、小分子は、大分子よりも細胞に対してより透過性があり、分解に対してより感受性が少なく、および免疫応答を誘発する傾向がより少なくあり得る。抗体およびサイトカインのペプチド模倣物質などの小分子ならびに小分子毒素が記載されている。たとえばCassetら(2003年)Biochem.Biophys.Res.Commun.307:198〜205頁;Muyldermans(2001年)J.Biotechnol.74:277〜302頁;Li(2000年)Nat.Biotechnol.18:1251〜1256頁;Apostolopoulosら(2002年)Curr.Med.Chem.9:411〜420頁;Monfardiniら(2002年)Curr.Pharm.Des.8:2185〜2199頁;Dominguesら(1999年)Nat.Struct.Biol.6:652〜656頁;SatoおよびSone(2003年)Biochem.J.371:603〜608頁;米国特許第6,326,482号を参照されたい。
【0055】
本明細書に使用されるように、用語「抗体」は、所望の生物学的活性を示す抗体の任意の形態を指す。したがって、それは、最も広い意味で使用され、具体的には、所望の生物学的活性を示す限り、モノクローナル抗体(完全長モノクローナル抗体を含む)、ポリクローナル抗体、多重特異性抗体(たとえば二重特異性抗体)、キメラ抗体、ヒト化抗体、完全ヒト抗体などを包含する。アンタゴニスト抗体の生物学的活性は、その受容体へのサイトカインの結合を阻害することまたは受容体を通してのサイトカイン誘発性のシグナル伝達を阻害することを含む。
【0056】
本発明で使用される抗体は、一般に、少なくとも約10−3M、より一般に少なくとも10−6M、典型的には少なくとも10−7M、より典型的には少なくとも10−8M、好ましくは少なくとも約10−9M、およびより好ましくは少なくとも10−10M、および最も好ましくは少なくとも10−11MのKで結合する。たとえばPrestaら(2001年)Thromb.Haemost.85:379〜389頁;Yangら(2001年)Clit, Rev.Oncol.Hematol.38:17〜23頁;Carnahanら(2003年)Clin.Cancer Res.(増刊) 9:3982〜3990頁。
【0057】
「特異的に」または「選択的に」結合するは、リガンド/受容体、抗体/抗原、または他の結合対を指す場合、タンパク質および他の生物製剤の不均質な集団中のタンパク質の存在の決定因である結合反応を示す。したがって、指定された条件下で、特定されたリガンドは、特定の受容体に結合し、サンプル中に存在する他のタンパク質に相当な量で結合しない。本明細書に使用されるように、抗体が、IL−23p19の配列を含むポリペプチドに結合するが、IL−23p19の配列を欠くタンパク質に結合しない場合、抗体は、所与の配列(たとえばIL−23p19)を含むポリペプチドに特異的に結合すると表現される。たとえば、IL−23p19を含むポリペプチドに特異的に結合する抗体は、IL−23p19のFLAG(登録商標)タグ付き形態に結合してもよいが、他のFLAG(登録商標)タグ付きタンパク質に結合しない。
【0058】
他に示されない限り、IL−23のアンタゴニストは、IL−23特異アンタゴニストを指す。それらの共有されるサイトカインおよび受容体サブユニットであるにも関わらず、IL−23特異アンタゴニストはまた、IL−12にも拮抗しない。IL−23特異アンタゴニストは、IL−23p19およびIL−23Rに結合する作用物質を含むが、これらに限定されない、IL−23および/またはIL−23受容体に結合する作用物質を含む。IL−23およびIL−12の両方に拮抗する作用物質は、「IL−12/IL−23アンタゴニスト」と本明細書で呼ばれる。そのようなIL−12/IL−23アンタゴニストは、共有されるサブユニットであるIL−12p40およびIL−12Rβ1に結合する作用物質を含むが、これらに限定されない。
【0059】
企図される方法の抗体または抗体の抗原結合部位に由来する結合性組成物は、無関係な抗原との親和性よりも、少なくとも2倍大きい、好ましくは、少なくとも10倍大きい、より好ましくは、少なくとも20倍大きい、および最も好ましくは、少なくとも100倍大きい親和性でその抗原に結合する。好ましい実施形態では、抗体は、たとえば、スキャチャード解析(Scatchard analysis)によって決定されるように、約10リットル/モルよりも大きな親和性を有する。 Munsenら(1980年)Analyt.Biochem.107:220〜239頁。
【0060】
用語「モノクローナル抗体」は、本明細書に使用されるように、実質的に均質な抗体の集団から得られる抗体を指す、つまり、集団を構成する個々の抗体は、少量で存在し得る可能性のある自然発生の変異がなければ同一である。モノクローナル抗体は、高度に特異的であり、単一の抗原エピトープに対して向けられる。対照的に、従来の(ポリクローナル)抗体調製物は、異なるエピトープに対して向けられる(またはそれに特異的な)多数の抗体を典型的には含む。改変語句「モノクローナル」は、抗体の実質的に均質な集団から得られるような抗体の特徴を示し、任意の特定の方法による抗体の産生を必要とするものとして解釈されないものとする。たとえば、本発明に従って使用されるモノクローナル抗体は、Kohlerら(1975年)Nature 256:495頁によって最初に記載されたハイブリドーマ法によって作製されてもよいし、または組換えDNA法によって作製されてもよい(たとえば米国特許第4,816,567号を参照されたい)。「モノクローナル抗体」はまた、たとえばClacksonら(1991年)Nature 352:624〜628頁およびMarksら(1991年)J.Mol.Biol.222:581〜597頁に記載される技術を使用してファージ抗体ライブラリーから単離されてもよい。
【0061】
本明細書のモノクローナル抗体は、重鎖および/または軽鎖の一部分は、特定の種に由来するまたは特定の抗体のクラスもしくはサブクラスに属する抗体中の対応する配列と同一であるまたはそれに相同性であるが、鎖(複数可)の残りの部分は、他の種に由来するまたは他の抗体のクラスもしくはサブクラスに属する抗体中の対応する配列と同一であるまたはそれに相同性である「キメラ」抗体(免疫グロブリン)ならびに所望の生物学的活性を示す限り、そのような抗体の断片を具体的には含む。米国特許第4,816,567号;Morrisonら(1984年)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 81:6851〜6855頁。
【0062】
本明細書に使用されるように、用語「ヒト化抗体」は、非ヒト(たとえばマウス)抗体およびヒト抗体からの配列を含有する抗体の形態を指す。そのような抗体は、非ヒト免疫グロブリンに由来する最小限の配列を有する。一般に、ヒト化抗体は、少なくとも1つ、および典型的には2つの可変ドメインの実質的にすべてを含み、超可変ループのすべてまたは実質的にすべては非ヒト免疫グロブリンのものに対応し、FR領域のすべてまたは実質的にすべてはヒト免疫グロブリン配列のものである。ヒト化抗体はまた、免疫グロブリン定常領域(Fc)、典型的にはヒト免疫グロブリンの定常領域の少なくとも一部分を任意選択で含む。げっ歯類抗体のヒト化形態は、げっ歯類親抗体と同じCDR配列を一般に含むが、ヒト化抗体の親和性を増加させるために、安定性を増加させるために、または他の理由で、ある種のアミノ酸置換が含まれていてもよい。
【0063】
用語「抗体」はまた、「完全ヒト」抗体、つまりヒト免疫グロブリンタンパク質配列のみを含む抗体をも含む。完全ヒト抗体は、マウス、マウス細胞、またはマウス細胞に由来するハイブリドーマ中で産生される場合、マウス糖鎖を含有していてもよい。同様に、「マウス抗体」または「ラット抗体」は、マウスまたはラットの免疫グロブリン配列のみを含む抗体をそれぞれ指す。完全ヒト抗体は、ヒトで、ヒト免疫グロブリン生殖細胞系列配列を有するトランスジェニック動物で、ファージディスプレイ法によって、または他の分子生物学的方法によって生成されてもよい。さらに、組換え免疫グロブリンもまたトランスジェニックマウスで作製されてもよい。Mendezら(1997年)Nature Genetics 15:146〜156頁を参照されたい。AbgenixおよびMedarexの技術もまた参照されたい。
【0064】
本発明の抗体はまた、変化したエフェクター機能を提供するために改変(または遮断)Fc領域を有する抗体を含む。たとえば米国特許第5,624,821号;国際公開第2003/086310号;国際公開第2005/120571号;国際公開第2006/0057702号;Presta(2006年)Adv.Drug Delivery Rev.58:640〜656頁を参照されたい。そのような改変は、診断および治療での有力で有益な効果を伴って、免疫系の多様な反応を増強するまたは抑制するために使用することができる。Fc領域の変更は、アミノ酸変化(置換、欠失、および挿入)、糖鎖付加または糖鎖除去、ならびに複数のFcの付加を含む。Fcに対する変更はまた、治療用抗体中の抗体の半減期を変化させることもでき、より長い半減期により、投薬がそれほど頻繁ではなくなり、同時に利便性が増加し、材料の使用量の減少をもたらす。Presta(2005年)J.Allergy Clin.Immuno1.116:731および734〜35頁を参照されたい。
【0065】
本発明の抗体はまた、標的細胞中で、補体依存性細胞傷害(CDC)または抗体依存性細胞傷害(ADCC)を誘発する、全エフェクター機能を提供する完全なFc領域を有する抗体、たとえばアイソタイプIgG1の抗体を含む。
【0066】
抗体はまた、貯蔵の間の抗体の安定性を改善するまたはインビボでの抗体の半減期を増加させる分子とコンジュゲート(たとえば共有結合で連結)していてもよい。半減期を増加させる分子の例は、アルブミン(たとえばヒト血清アルブミン)およびポリエチレングリコール(PEG)である。抗体のアルブミン連結ペグ化誘導体は、当技術分野でよく知られている技術を使用して調製することができる。たとえばChapman(2002年)Adv.Drug Deliv.Rev.54:531〜545頁;AndersonおよびTomasi(1988年)J.Immunol.Methods 109:37〜42頁;Suzukiら(1984年)Biochim.Biophys.Acta 788:248〜255頁;ならびにBrekkeおよびSandlie(2003年)Nature Rev.2:52〜62頁を参照されたい。
【0067】
本明細書に使用されるように、用語「結合性断片(binding fragment)」、または「抗原結合性断片」は、たとえばサイトカイン受容体を介してサイトカインシグナル伝達を阻害する、その生物学的活性をなお実質的に保持する、抗体の断片または誘導体を包含する。したがって、用語「抗体断片」は、完全長抗体の一部分、一般にその抗原結合領域または可変領域を指す。抗体断片の例として、Fab、Fab’、F(ab’)、およびFv断片、ダイアボディ、直鎖状抗体、1本鎖抗体分子、たとえばscFv、ならびに抗体断片から形成される多重特異性抗体を含む。典型的には、結合性断片または誘導体は、その阻害活性の少なくとも10%を保持する。好ましくは、結合性断片または誘導体は、その阻害活性の少なくとも25%、50%、60%、70%、80%、90%、95%、99%、もしくは100%(またはそれ以上)を保持するが、所望の生物学的効果を発揮するのに十分な親和性を有するあらゆる結合性断片が有用である。IL−23p19結合性断片は、その生物学的活性を実質的に変化させない保存的アミノ酸置換を有する改変体を含むことができることもまた意図される。
【0068】
「Fab断片」は、1つの軽鎖および1つの重鎖のC1および可変領域から構成される。Fab分子の重鎖は、他の重鎖分子とジスルフィド結合を形成することができない。
【0069】
「Fc」領域は、抗体のC1ドメインおよびC2ドメインを含む2つの重鎖断片を含有する。2つの重鎖断片は、2つ以上のジスルフィド結合およびC3ドメインの疎水的相互作用によって相互に保持される。
【0070】
「Fab’断片」は、1つの軽鎖ならびにVドメインおよびC1ドメインを含有する、1つの重鎖の一部分を含有し、さらに、鎖間ジスルフィド結合が2つのFab’断片の2つの重鎖の間で形成されて、F(ab’)分子を形成することができるように、C1ドメインおよびC2ドメインの間の領域を含有する。
【0071】
「F(ab’)断片」は、2つの軽鎖ならびに鎖間ジスルフィド結合が2つの重鎖の間で形成されるように、C1ドメインおよびC2ドメインの間の定常領域の一部分を含有する2つの重鎖を含有する。F(ab’)断片は、したがって、2つの重鎖の間のジスルフィド結合によって相互に保持される2つのFab’断片から構成される。
【0072】
「Fv領域」は、重鎖および軽鎖の両方からの可変領域を含むが、定常領域を欠く。
【0073】
「1本鎖Fv抗体(または「scFv抗体」)は、抗体のVドメインおよびVドメインを含み、これらのドメインは単一のポリペプチド鎖中に存在する抗体断片を指す。一般に、Fvポリペプチドは、sFvが抗原結合のために所望の構造を形成することを可能にするポリペプチドリンカーを、VドメインおよびVドメインの間にさらに含む。sFvの検討については、Pluckthun(1994年)THE PHARMACOLOGY OF MONOCLONAL ANTIBODIES、第113巻、RosenburgおよびMoore編Springer−Verlag、New York、269〜315頁を参照されたい。国際公開第88/01649号ならびに米国特許第4,946,778および第5,260,203号もまた参照されたい。そのようなscFvポリペプチドは、Fc領域と任意選択で結合させて、scFv−Fc構築物を形成してもよい。たとえばPowersら(2001年)J.Immunol.Methods 251:123頁を参照されたい。
【0074】
用語「ダイアボディ」は、2個の抗原結合部位を有する小さな抗体断片であり、この断片は、同一ポリペプチド鎖(V−VまたはV−V)中に軽鎖可変ドメイン(V)につなぎ合わされた重鎖可変ドメイン(V)を含む。短過ぎるために、同一鎖上の2個のドメインの間で対合させることができないリンカーを使用することによって、ドメインは、他の鎖の相補ドメインと対合することを強いられて、2個の抗原結合部位を作り出す。ダイアボディは、たとえば欧州特許第404,097号;国際公開第93/11161号;およびHolligerら(1993年)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 90:6444〜6448頁に、より十分に記載されている。操作された抗体改変体の検討については、一般に、HolligerおよびHudson(2005年)Nat.Biotechnol.23:1126〜1136頁を参照されたい。
【0075】
「ドメイン抗体断片」は、重鎖の可変領域または軽鎖の可変領域のみを含有する免疫学的に機能的な免疫グロブリン断片である。いくつかの例では、2個以上のV領域は、ペプチドリンカーを用いて共有結合で結合されて、2価ドメイン抗体断片を作り出す。2価ドメイン抗体断片の2個のV領域は、同じまたは異なる抗原を標的にしてもよい。
【0076】
「2価抗体」は、2つの抗原結合部位を含む。いくつかの例では、2つの結合部位は、同じ抗原特異性を有する。しかしながら、2価抗体は、二重特異性であってもよい(下記を参照されたい)。
【0077】
本明細書のモノクローナル抗体はまた、ラクダ化単一ドメイン抗体をも含む。たとえばMuyldermansら(2001年)Trends Biochem.Sci.26:230頁;Reichmannら(1999年)J.Immunol.Methods 231:25頁;国際公開第94/04678号;国際公開第94/25591号;米国特許第6,005,079号を参照されたい)。一実施形態では、本発明は、単一ドメイン抗体が形成されるような改変を有する2個のVドメインを含む単一ドメイン抗体を提供する。
【0078】
二重特異性抗体もまた本発明の方法および組成物で有用である。本明細書に使用されるように、用語「二重特異性抗体」は、少なくとも2つの異なる抗原エピトープに対する結合特異性を有する抗体、典型的にはモノクローナル抗体を指す。一実施形態では、エピトープは、同じ抗原に由来する。他の実施形態では、エピトープは、2つの異なる抗原に由来する。二重特異性抗体を作製するための方法は、当技術分野で知られている。たとえば、二重特異性抗体は、2つの免疫グロブリン重鎖/軽鎖対の同時発現を使用して組換えで産生することができる。たとえばMilsteinら(1983年)Nature 305:537〜39頁を参照されたい。あるいは、二重特異性抗体は、化学的連結を用いて調製することができる。たとえばBrennanら(1985年)Science 229:81頁を参照されたい。二重特異性抗体は、二重特異性抗体の断片を含む。たとえばHolligerら(1993年)Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.90:6444〜48頁、Gruberら(1994年)J.Immunol.152:5368頁を参照されたい。可能性として、二重特異性抗体断片は、ダイアボディ、Bis−scFv、2価ドメイン抗体断片、Fab断片およびFab断片(これは、三重特異性であってもよい)(HolligerおよびHudson(2005年)Nat.Biotechnol.23:1126頁を参照されたい)ならびにBis−scFv−Fcを含む。二重特異性抗体はまた、米国特許出願公開第2005/0071675号に開示されるものなどの二重可変ドメイン免疫グロブリン(dual variable domain immunoglobulin)を含む。
【0079】
本発明の抗体はまた、細胞傷害性作用物質または放射性核種などの細胞傷害性ペイロードとコンジュゲートした抗体またはその断片を含む。そのような抗体コンジュゲートは、表面上に標的(その抗体に対する抗原)を発現する細胞を選択的に標的とし、殺滅するために、免疫治療で使用されてもよい。例示的な細胞傷害性作用物質は、リシン、ビンカアルカロイド、メトトレキサート、Psuedomonas外毒素、サポリン、ジフテリア毒素、シスプラチン、ドキソルビシン、アブリン毒素、ゲロニン、およびアメリカヤマゴボウ抗ウイルスタンパク質を含む。本発明の抗体を用いる免疫治療で使用される例示的な放射性核種は、125I、131I、90Y、67Cu、211At、177Lu、143Pr、および213Biを含む。たとえば、米国特許出願公開第2006/0014225号を参照されたい。
【0080】
「免疫状態」または「免疫障害」は、たとえば、病的炎症、炎症性障害、および自己免疫障害または自己免疫疾患を包含する。「免疫状態」はまた、免疫系による根絶に抵抗する感染症、腫瘍、ならびに癌を含む感染症、持続性感染症、ならびに癌、腫瘍、および新脈管形成などの増殖状態を指す。「癌性状態」は、たとえば、癌、癌細胞、腫瘍、新脈管形成、および異形成などの前癌性状態を含む。
【0081】
「炎症性障害」は、その病理が、全体的にまたは部分的に、たとえば、免疫系の細胞の数の変化、遊走の速度の変化、または活性化の変化から生じる障害または病的状態を意味する。免疫系の細胞は、たとえば、T細胞、B細胞、単球もしくはマクロファージ、抗原提示細胞(APC)、樹状細胞、ミクログリア、NK細胞、NKT細胞、好中球、好酸球、肥満細胞、または免疫に特異的に関連する他の任意の細胞、たとえば、サイトカイン産生内皮細胞もしくはサイトカイン産生上皮細胞を含む。
【0082】
「IL−17産生細胞」は、T17細胞と呼ばれる、古典的TH1型T細胞または古典的TH2型T細胞ではないT細胞を意味する。T17細胞は、CuaおよびKastelein(2006年)Nat.Immunol.7:557〜559頁;TatoおよびO’Shea(2006年)Nature 441:166〜168頁;IwakuraおよびIshigame(2006年)J.Clin.Invest.116:1218〜1222頁により詳細に論じられる。「IL−17産生細胞」はまた米国特許出願公開第2004/0219150号の表10Bの遺伝子またはポリペプチド(たとえばマイトジェン応答Pタンパク質、ケモカインリガンド2、インターロイキン−17(IL−17)、RAR関連転写因子、および/またはサイトカインシグナル伝達抑制因子3)を発現するT細胞を意味し、IL−23アゴニストによる処置を用いる発現は、IL−12アゴニストを用いる処置よりも大きく、ここで「よりも大きい」は、以下のように定義される。IL−23アゴニストを用いる発現は、通常、IL−12処置を用いるよりも、少なくとも5倍大きい、典型的には少なくとも10倍大きい、より典型的には少なくとも15倍大きい、最も典型的には少なくとも20倍大きい、好ましくは少なくとも25倍大きい、および最も好ましくは少なくとも30倍大きい。発現は、たとえば、実質的に純粋なIL−17産生細胞の集団の処置で測定することができる。Th17応答は、Th17細胞の活性および/または増殖が、Th1応答の抑制と典型的には共役して増強される免疫応答である。
【0083】
その上、「IL−17産生細胞」は、上記に定義されるように、細胞発生または細胞分化の経路で、IL−17産生細胞への分化に傾倒する前駆細胞(progenitor cell)または前駆細胞(precursor cell)を含む。IL−17産生細胞に至る前駆細胞(progenitor cell)または前駆細胞(precursor cell)は、流入領域リンパ節(DLN)中に見つけることができる。加えて、「IL−17産生細胞」は、たとえばホルボールエステル、イオノフォア、および/または発癌物質によってたとえば活性化された、さらに分化された、保存された、凍結された、乾燥された、不活性化された、たとえばアポトーシス、タンパク質分解、もしくは脂質酸化によって部分的に分解された、またはたとえば組換え技術によって改変された上記に定義されるようなIL−17産生細胞を包含する。
【0084】
本明細書に使用されるように、用語「単離核酸分子」は、単離核酸分子が抗体核酸の天然源(natural source)中に通常付随している少なくとも1つの混入核酸分子から同定され、分離される核酸分子を指す。単離核酸分子は、自然に見つけられる形態または状況以外のものである。したがって、単離核酸分子は、天然細胞中に存在する核酸分子と区別される。しかしながら、単離核酸分子は、たとえば、核酸分子が、天然細胞の位置と異なる染色体位置にある、抗体を通常発現する細胞中に含有される核酸分子を含む。
【0085】
本明細書に使用されるように、用語「免疫調節剤」は、免疫応答を抑制するまたは調整する天然作用物質または合成作用物質を指す。免疫応答は、液性応答または細胞性応答であり得る。免疫調節剤は、免疫抑制剤または抗炎症剤を包含する。
【0086】
本明細書に使用されるような「免疫抑制剤」、「免疫抑制薬」、または「免疫抑制物質」は、免疫系の活性を阻害するまたは防止するために免疫抑制治療で使用される治療剤である。臨床的に、それらは、移植器官および移植組織(たとえば骨髄、心臓、腎臓、肝臓)の拒絶を防止するためにならびに/または自己免疫疾患もしくは自己免疫性が起源である可能性がすこぶる高い疾患(たとえば関節リウマチ、重症筋無力症、全身性エリテマトーデス、潰瘍性大腸炎、多発性硬化症)の処置で使用される。免疫抑制薬は、4つの群に分類することができる:グルココルチコイド細胞増殖抑制剤;抗体(生物学的応答調節物質またはDMARDを含む);イムノフィリンに作用する薬剤;増殖障害の処置で使用される、既知の化学療法剤(chemotherpeutic agent)を含む他の薬剤。多発性硬化症については、特に、本発明の抗体は、コパキソン(copaxone)として知られている、新しいクラスのミエリン結合性タンパク質様治療剤と共に投与することができる。
【0087】
「抗炎症剤」または「抗炎症薬」は、ステロイド性治療剤および非ステロイド性治療剤の両方を表わすために使用される。コルチコステロイドとしても知られているステロイドは、副腎によって天然に産生されるホルモンであるコルチゾールに非常によく類似している薬剤である。ステロイドは、全身性血管炎(血管の炎症)および筋炎(筋肉の炎症)などのある種の炎症状態の主な処置として使用される。ステロイドはまた、関節リウマチ(体の両側の関節に生じる慢性炎症性関節炎);全身性エリテマトーデス(異常な免疫系機能によって引き起こされる全身性疾患);シェーグレン症候群(眼乾燥症および口腔乾燥症を引き起こす慢性の障害)などの炎症状態を処置するために選択的に使用されてもよい。
【0088】
NSAIDと一般に略される非ステロイド性抗炎症薬は、鎮痛効果、解熱効果、および抗炎症効果を有する薬剤であり、それらは、痛み、発熱、および炎症を低下させる。用語「非ステロイド性」は、これらの薬剤とステロイドを区別するために使用され、これらは(広範囲の他の効果の中で)、類似のエイコサノイド抑制、抗炎症作用を有する。NSAIDは、以下の状態の症状の軽減のために一般に必要とされる:関節リウマチ;骨関節炎;炎症性関節症(たとえば強直性脊椎炎、乾癬性関節炎、ライター症候群);急性痛風;月経困難症;転移部骨痛;頭痛および片頭痛;術後痛;炎症および組織傷害のための軽度から中程度の痛み;発熱;ならびに腎仙痛。NSAIDは、サリチル酸塩、アリールアルカン酸(arlyalknoic acid)、2−アリールプロピオン酸(プロフェン)、N−アリールアントラニル酸(フェナム酸)、オキシカム、コキシブ、およびスルホンアニリドを含む。
【0089】
「インターロイキン−17」(または「IL−17」もしくは「IL−17A」)は、他に示されない限り、1つまたは2つのポリペプチド鎖からなるタンパク質を意味し、各鎖は、NCBIタンパク質配列データベースアクセッション番号NP_002181、AAH67505、AAH67503、AAH67504、AAH66251、AAH66252、またはその自然発生改変体のいずれかに記載されるようなヒトIL−17Aの成熟形態の配列から本質的になる。「インターロイキン−17F」(または「IL−17F」)は、1つまたは2つのポリペプチド鎖からなるタンパク質を意味し、各鎖は、NCBIタンパク質配列データベースアクセッション番号NP_443104.1に記載されるようなヒトIL−17Fの成熟形態の配列から本質的になる。
【0090】
「IL−17R」または「IL−17RA」は、国際公開第96/29408号またはNCBIタンパク質配列データベースアクセッション番号NP_055154、Q96F46、CAJ186450、もしくはこれらの配列の自然発生改変体のいずれかに記載されるようなヒトIL−17RAの成熟形態の配列から本質的になる単一ポリペプチド鎖を意味する。
【0091】
「IL−17RC」は、国際公開第02/38764号またはNCBIタンパク質配列データベースアクセッション番号NP_703191、NP_703190、およびNP_116121もしくはこれらの配列の自然発生改変体のいずれかに記載されるようなヒトIL−17RCの成熟形態の配列から本質的になる単一ポリペプチド鎖を意味する。
【0092】
「IL−17受容体」は、IL−17RA、IL−17RC、もしくは他のIL−17受容体サブユニットまたはこれらの受容体サブユニットのうちの2つの二量体の複合体(ホモ二量体もしくはヘテロ二量体)を意味する。
【0093】
「インターロイキン−23(または「IL−23」)は、2つのポリペプチドサブユニット、p19およびp40からなるタンパク質を意味する。p19サブユニット(IL−23p19、IL23Aとしても知られている)の配列は、NCBIタンパク質配列データベースアクセッション番号NP_057668、AAH67511、AAH66267、AAH66268、AAH66269、AAH667512、AAH67513、またはこれらの配列の自然発生改変体のいずれかで提供される。p40サブユニット(IL−12p40、IL12Bとしても知られている)の配列は、NCBIタンパク質配列データベースアクセッション番号NP_002178、P29460、AAG32620、AAH74723、AAH67502、AAH67499、AAH67498、AAH67501、またはこれらの配列の自然発生改変体のいずれかに記載される通りである。
【0094】
「インターロイキン−23R」または「IL−23R」は、NCBIタンパク質配列データベースアクセッション番号NP_653302(IL23R、遺伝子ID149233)またはその自然発生改変体に記載されるようなヒトIL−23Rの成熟形態の配列から本質的になる単一ポリペプチド鎖を意味する。さらなるIL−23R配列改変体は、国際公開第01/23556号および国際公開第02/29060号に開示される。
【0095】
「インターロイキン−12Rβ1」または「IL−12Rβ1」は、NCBIタンパク質配列データベースアクセッション番号NP_714912、NP_005526(IL12RB1、遺伝子ID 35p4)またはその自然発生改変体に記載されるようなヒトIL−12Rβ1の成熟形態の配列から本質的になる単一ポリペプチド鎖を意味する。
【0096】
「TNF−α」は、NCBIタンパク質配列データベースアクセッション番号NP_000585(TNF、遺伝子ID7124)またはその自然発生改変体に記載されるようなヒトTNF−αの成熟形態の配列から本質的になる単一ポリペプチド鎖を意味する。
【0097】
「TNF−α受容体」は、NCBIタンパク質配列データベースアクセッション番号NP_001056に記載されるような腫瘍壊死因子受容体1前駆体(TNFRSF1A、遺伝子ID7132)、またNCBIタンパク質配列データベースアクセッション番号NP_001057に記載されるような腫瘍壊死因子受容体2前駆体(TNFRSF1B、遺伝子ID7133)、またはその自然発生改変体のいずれかの成熟形態を指す。
【0098】
「インターロイキン−1β」または「IL−1β」は、NCBIタンパク質配列データベースアクセッション番号NP_000567(IL1B、遺伝子ID3553)またはその自然発生改変体に記載されるようなヒトIL−1βの成熟形態の配列から本質的になる単一ポリペプチド鎖を意味する。
【0099】
「インターロイキン−1β受容体」は、NCBIタンパク質配列データベースアクセッション番号NP_000868(IL1R1、遺伝子ID3554)またはその自然発生改変体に記載されるようなヒトIL−1β受容体I型前駆体の成熟形態の配列から本質的になる単一ポリペプチド鎖を意味する。
【0100】
「CD161」は、米国特許第5,965,401号に開示されるNK細胞の表面抗原を指す。このタンパク質はまた、たとえばKLRB1およびNKRP1Aとしても知られている。遺伝子ID3820を参照されたい。CD161のアミノ酸配列は、GenBank(NCBI)アクセッション番号NP_002249で入手可能である。
【0101】
「PGE2」は、プロスタグランジンE2を指す。「PGE2アンタゴニスト」は、PGE2の合成またはその受容体(複数可)へのPGE2の結合の遮断などの任意のメカニズムによってPGE2の活性を阻害する任意の作用物質を指す。
【0102】
明細書および特許請求の範囲の全体にわたって使用されるような語句「〜から本質的になる(consists essentially of)」または「〜から本質的になる(consist essentially of)」もしくは「〜から本質的になる(consisting essentially of)」などの変形は、任意の記載される要素または要素の群の包含および特定された投薬計画、方法、または組成物の基本的なまたは新規な特性を実質的に変化させない、記載される要素と類似のまたはそれと異なる性質を持つ他の要素の任意選択の包含を示す。非限定的な例として、記載されるアミノ酸配列から本質的になる結合性化合物はまた、結合性化合物の特性に実質的に影響しない1つまたは複数のアミノ酸残基の置換を含む、1つまたは複数のアミノ酸を含んでいてもよい。
【0103】
II.免疫性障害のための組合せ治療
本発明は、IL−23のアンタゴニストおよび少なくとも1つの他の炎症促進性サイトカイン、たとえばIL−17A、IL−17F、TNF−α、およびIL−1βのアンタゴニストを用いる組合せ治療を伴う、自己免疫疾患などの免疫性障害を有する被験体の処置のための組成物および方法を提供する。
【0104】
多くのサイトカインは、神経障害の病理または回復での役割を有する。IL−6、IL−17、インターフェロン−ガンマ(IFNガンマ、IFN−γ)、および顆粒球コロニー刺激因子(GM−CSF)は、多発性硬化症と関連してきた。Matuseviciusら(1999年)Multiple Sclerosis 5:101〜104頁;Lockら(2002年)Nature Med.8:500〜508頁。IL−1アルファ、IL−1ベータ、および形質転換成長因子ベータ1(TGF−ベータ1)は、ALS、パーキンソン病、およびアルツハイマー病で役割を果たす。Hoozemansら(2001年)Exp.Gerontol.36:559〜570頁;GriffinおよびMrak(2002年)J.Leukocyte Biol.72:233〜238頁;Ilzeckaら(2002年)Cytokine 20:239〜243頁。TNF−アルファ、IL−1ベータ、IL−6、IL−8、インターフェロン−ガンマ、およびIL−17は、脳虚血に対する応答を調整するようにみえる。たとえばKostulasら(1999年)Stroke 30:2174〜2179頁;Liら(2001年)J.Neuroimmunol.116:5〜14頁を参照されたい。血管内皮細胞成長因子(VEGF)はALSと関連する。ClevelandおよびRothstein(2001年)Nature 2:806〜819頁。
【0105】
炎症性腸障害、たとえばクローン病、潰瘍性大腸炎、セリアック病、および過敏性腸症候群は、免疫系の細胞およびサイトカインによって媒介される。たとえば、潰瘍性大腸炎は、IL−5、IL−13、およびTGF−βの増加と関連するが、クローン病は、IL−12およびIFNγの増加と関連する。IL−17発現もまた、クローン病および潰瘍性大腸炎を増加させ得る。たとえばPodolsky(2002年)New Engl.J.Med.347:417〜429頁;BoumaおよびStrober(2003年)Nat.Rev.Immunol.3:521〜533頁;Bhanら(1999年)Immunol.Rev.169:195〜207頁;Hanauer(1996年)New Engl.J.Med.334:841〜848頁;Green(2003年)The Lancet 362:383〜391頁;McManus(2003年)New Engl.J.Med.348:2573〜2574頁;HorwitzおよびFisher(2001年)New Engl.J.Med.344:1846〜1850頁;Andohら(2002年)Int.J.Mol.Med.10:631〜634頁;Nielsenら(2003年)Scand.J.Gastroenterol.38:180〜185頁;Fujinoら(2003年)Gut 52:65〜70頁を参照されたい。
【0106】
皮膚、関節、CNSの炎症疾患および増殖障害は、類似の免疫応答を誘発し、したがって、IL−23/IL−23R遮断は、炎症性腸疾患、クローン病、潰瘍性大腸炎、関節リウマチ、乾癬性関節炎、乾癬、アトピー性皮膚炎、多発性硬化症、I型糖尿病、およびSLEなどの多くの免疫媒介性炎症性障害の処置で有用であることが分かる。IL−23/IL−23R阻害剤はまた、増殖障害、たとえば癌および腫瘍の処置での使用を見い出す。これらの多様な障害のIL−23の記載は、以下の公開されたPCT出願に見つけることができる:国際公開第04/081190号;国際公開第04/071517号;国際公開第00/53631号;および国際公開第01/18051号。IL−23/IL−23R阻害剤はまた、細菌感染症、マイコバクテリア感染症、ウイルス感染症、および真菌感染症などの、慢性感染症を含む感染症の処置での使用を見い出してもよい。
【0107】
IL−23は、最近、多くの自己免疫疾患の病原に関係しているTh17細胞の発達で重要な役割を果たす。いくつかの自己免疫炎症性障害の病原でのTh17細胞の役割は、IL−23が、IL−17、TNF−α、およびIL−1βなどの様々な炎症促進性エフェクターサイトカインの「上流」にあることを示唆する。IL−23は、続いて起こる病原性の免疫応答のエフェクター(急性)期ではなく、主として病原性の免疫応答の発達の初期の事象に関与するといった点で、「上流」にあると表現される。たとえばThakkerら(2007年)J.Immunol.178:2589頁を参照されたい。これらの後の急性期サイトカインは、疾患の再発に関連する徴候および症状を生じさせる局所的な炎症を発生させる。IL−23は、対照的に、Th17細胞の長期的な生存および増殖にとってより重要であるようにみえる。本発明の方法および組成物のいくつかの実施形態で活用されるのは、異常な炎症性応答における様々なサイトカインの生物学的役割のこの差異である。
【0108】
いくつかの実施形態では、本発明の方法および組成物は、疾患の徴候および症状を急速に低下させるために、処置の初期での、自己免疫疾患などの免疫性障害を有する被験体への、急性期サイトカイン(たとえばIL−17A、IL−17F、TNF−α、およびIL−1β)のアンタゴニストの投与を含む。急性期サイトカインのアンタゴニストは、便宜上、本明細書で、「急性期治療薬」と呼ばれる。一実施形態では、1つを超える急性期治療薬が使用される。典型的には、急性期治療薬を用いる処置が始められる場合、被験体は再発を経験している。この最初の処置は、IL−23のアンタゴニストの投与と組み合わせられ、これは、任意選択で、急性期治療薬(複数可)を用いる処置と同時にまたはその間に始められ、急性期治療薬(複数可)の投与が中止された後に継続する。急性期治療薬は、徴候および症状の比較的急速な軽減をもたらすことが意図されるのに対して、IL−23アンタゴニストは、主として、将来の再発の徴候および症状について反復の可能性を低下させることが意図される。疾患の1つ、2つ、またはすべての症状の解消の後に急性期治療薬の必要性はもはや無しでよいが、IL−23アンタゴニストを用いる処置は、再発を予防するために、無症状の患者においてでさえ必要とされてもよい。治療薬の特異的な組合せおよびそれらの投与の各タイミングは、自己免疫障害、特に再発寛解型の特徴を持つ障害ための包括的な疾患管理プロトコルを提供する。
【0109】
本発明で有用なアンタゴニストは、IL−17A、IL−17F、TNF−α、IL−1β、またはIL−23の機能的受容体の細胞外ドメインを含む可溶性受容体を含む。可溶性受容体は、標準的な方法に従って、調製し、使用することができる。たとえばJonesら(2002年)Biochim.Biophys.Acta 1592:251〜263頁;Prudhommeら(2001年)Expert Opinion Biol.Ther.1:359〜373頁;Fernandez−Botran(1999年)Crit.Rev.Clin.Lab Sci.36:165〜224頁を参照されたい。
【0110】
好ましいIL−23アンタゴニストは、IL−23、IL−23p19、IL−12p40、IL−23R、IL−12Rβ1、およびIL−23R/IL−12Rβ1複合体のいずれかに結合し、活性を阻害する抗体である。他の好ましいIL−23アンタゴニストは、IL−23Rの細胞外ドメイン、たとえばGenBank AAM44229のアミノ酸1〜353またはその断片から本質的になるIL−23結合ポリペプチドである。
【0111】
阻害性のIL−23p19特異抗体およびIL−23R特異抗体などの本発明のIL−23アンタゴニストは、腹腔マクロファージによるIL−1βおよびTNF−αならびにTh17細胞によるIL−17の産生を低下させることを含むが、これらに限定されない任意の様式で、IL−23の生物学的活性を阻害することができる。Langrishら(2004年)Immunol, Rev.202:96〜105頁を参照されたい。IL−23アンタゴニストはまた,IL−17A、IL−17F、CCL7、CCL17、CCL20、CCL22、CCR1、およびGM−CSFの遺伝子発現を阻害することができる。Langrishら(2005年)J.Exp.Med.201:233〜240頁を参照されたい。IL−23アンタゴニストはまた、IL−23がTh17細胞の増殖または生存を増強する能力を遮断する。CuaおよびKastelein(2006年)Nat.Immunol.7:557〜559頁。IL−23アンタゴニストの阻害活性は、炎症性障害、自己免疫障害、および増殖障害の処置で有用となる。そのような障害の例は、PCT特許出願国際公開第04/081190号;国際公開第04/071517号;国際公開第00/53631号;および国際公開第01/18051号に記載されている。IL−23アンタゴニスト活性の測定のための例示的なアッセイは、以下に、実施例2および3に提供される。IL−23p19に対する例示的な抗体は、PCT特許出願国際公開第2007/024846号、米国特許出願公開第2007/0009526号、および第2007/0048315号ならびに本願と同一の譲受人に譲渡された、同時係属中の米国特許出願第60/891,413号および第60/891,409号に開示される。IL−23のアンタゴニストはまた、米国特許出願第2006/0193821号に開示されるようにアプタマーを含む。IL−23の他の核酸阻害剤は、たとえば米国特許出願公開第2005/0261219号に開示されるように、アンチセンスポリヌクレオチドおよびsiRNA分子を含む。さらなる抗IL−23抗体は、米国特許出願公開第2006/0067936号に開示される。IL−23の産生を低下させる化合物は、米国特許出願公開第2006/0135518号に開示される。
【0112】
本発明で使用される好ましいIL−17アンタゴニストは、IL−17、IL−17RA、IL−17RC、ならびにIL−17RAおよびIL−17RCを含むヘテロマー複合体のいずれかに特異的に結合し、その活性を阻害する抗体である。より好ましくは、IL−17アンタゴニストの標的は、IL−17またはIL−17RAである。特に好ましいIL−17アンタゴニストは、IL−17に特異的に結合し、その活性を阻害する。IL−17Aに対する例示的な抗体は、国際公開第2006/013107号および国際公開第2008/021156号に開示される。
【0113】
本発明で使用される好ましいTNF−αアンタゴニストは、TNF−αまたはその受容体に特異的に結合し、その活性を阻害する抗体である。例示的な抗TNF−α抗体は、たとえばインフリキシマブ、エタネルセプト、およびアダリムマブとして入手可能である。
【0114】
本発明で使用される好ましいIL−1βアンタゴニストは、IL−1βまたはその受容体に特異的に結合し、その活性を阻害する抗体である。IL−1βに対する例示的な抗体は、CDP484(ペグ化抗IL−1β断片)および米国特許出願公開第2003/0124617号に開示される抗体を含む。IL−1βアンタゴニストはまた、IL−1受容体アンタゴニストのアナキンラ(Kineret(登録商標)IL−1受容体アンタゴニスト)を含む。そのような作用物質は、関節リウマチの処置での使用を見い出している。GabayおよびArend(1998年)Springer Semin.Immunopathol.20:229頁。
【0115】
本発明で使用される他の好ましいIL−23アンタゴニストは、二重特異性抗体または二重特異性抗体断片であり、これはまた、IL−17A、IL−17F、TNF−α、およびIL−1βからなる群から選択されるサイトカインの活性に拮抗する。そのような二重特異性アンタゴニストは、以下の組合せに特異的に結合し、その活性を阻害する:IL−17およびIL−23;IL−17およびIL−23p19;IL−17およびIL−12p40;IL−17およびIL−23R/IL−12RB1複合体;IL−17およびIL−23R;IL−17およびIL−12RB1;IL−17RAおよびIL−23;IL−17RAおよびIL−23p19;IL−17RAおよびIL−12p40;IL−17RAおよびIL−23R/IL−12RB1複合体;IL−17RAおよびIL−23R;IL−17RAおよびIL−12RB1;IL−17RCおよびIL−23;IL−17RCおよびIL−23p19;IL−17RCおよびIL−12p40;IL−17RCおよびIL−23R/IL−12RB1複合体;IL−17RCおよびIL−23R;IL−17RCおよびIL−12RB1;IL−17RA/IL−17RC複合体およびIL−23;IL−17RA/IL−17RC複合体およびIL−23p19;IL−17RA/IL−17RC複合体およびIL−12p40;IL−17RA/IL−17RC複合体およびIL−23R/IL−12RB1複合体;IL−17RA/IL−17RC複合体およびIL−23R;ならびにIL−17RA/IL−17RC複合体およびIL−12RB1。本発明で使用される二重特異性抗体によって標的とされる好ましい組合せは、IL−17およびIL−23、たとえばIL−17およびIL−23p19;IL−17RAおよびIL−23、たとえばIL−17RAおよびIL−23p19である。特に好ましい二重特異性抗体は、IL−17およびIL−23p19のそれぞれに特異的に結合し、その活性を阻害する。
【0116】
IL−17およびIL−23の活性の両方に拮抗する二重特異性抗体は、当技術分野で知られている任意の技術によって産生することができる。たとえば、二重特異性抗体は、2つの免疫グロブリン重鎖/軽鎖対の同時発現を使用して組換えで産生することができる。たとえばMilsteinら(1983年)Nature 305:537〜39頁を参照されたい。あるいは、二重特異性抗体は、化学的連結を用いて調製することができる。たとえばBrennanら(1985年)Science 229:81頁を参照されたい。これらの二機能性抗体はまた、ジスルフィド交換、ハイブリッドハイブリドーマ(クアドローマ)の産生によって、二重特異性抗体を組み立てる単一ポリペプチド鎖を産生するための転写および翻訳、または共有結合で会合して、二重特異性抗体を産生することができる1つを超えるポリペプチド鎖を産生するための転写および翻訳によって調製することができる。企図される二重特異性抗体はまた、全体的に、化学合成によって作製することもできる。二重特異性抗体は、2つの異なる可変領域、2つの異なる定常領域、可変領域および定常領域、または他の改変物を含んでいてもよい。
【0117】
前の2つの段落にリストされたIL−23アンタゴニスト二重特異性抗体の特異的な例は、TNF−αまたはIL−1βに対する拮抗作用にではなく、IL−17に対する拮抗作用に関するものであるが、TNF−αおよびIL−1βに拮抗する類似性の二重特異性抗体もまた本発明の範囲内である。そのようなIL−23アンタゴニスト二重特異性抗体は、たとえばTNF−αもしくはIL−1βまたはそれらの各受容体もしくは受容体サブユニットのいずれかに結合してもよい。
【0118】
二重特異性試薬もまた、本発明の方法および組成物での使用を見い出す。一実施形態では、本発明は、IL−23(たとえばp19および/またはp40)、IL−23R(たとえばIL−23Rおよび/またはIL−12Rβ1)、IL−17A、IL−17F、IL−17受容体(たとえばIL−17RAおよび/またはIL−17RC)、TNF−α、IL−1β、TNF−α受容体(およびその可溶性断片)、ならびにIL−1受容体(およびその可溶性断片)からなる群から選択される2つの標的に結合する二重特異性試薬を使用する組合せ治療に関する。いくつかの実施形態では、二重特異性試薬は、抗体の抗原結合部位に由来する第1のポリペプチドおよび可溶性受容体断片を含む第2のポリペプチドの複合体を含む。いくつかの実施形態では、第1および第2のポリペプチドは、抗体Fcドメイン、たとえばヒト重鎖IgG1またはIgG2aを含む融合タンパク質である。なお、さらなる実施形態では、Fcドメインは、2つのポリペプチド鎖の効率的なヘテロ二量体の会合を促進して、他の場合にはホモ二量体形成を生ずる可能性がある単一特異性(二価)形態ではなく、二重特異性試薬を形成する、「knobs into holes」アプローチを使用して改変される。Zhuら(1997年)Protein Sci.6:781頁を参照されたい。
【0119】
本発明で使用される抗体アンタゴニストは、抗体を調製するための、当技術分野で知られている任意の方法によって調製されてもよい。モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、およびヒト化抗体の調製は、SheperdおよびDean(編)(2000年)Monoclonal Antibodies、Oxford Univ.Press、New York、NY;KontermannおよびDubel(編)(2001年)Antibody Engineering、Springer−Verlag、New York;HarlowおよびLane(1988年)Antibodies A Laboratory Manual、Cold Spring Harbor Laboratory Press、Cold Spring Harbor、NY、139〜243頁;Carpenterら(2000年)J.Immunol.165:6205頁;Heら(1998年)J.Immunol.160:1029頁;Tangら(1999年)J.Biol.Chem.274:27371〜27378頁;Bacaら(1997年)J.Biol.Chem.272:10678〜10684頁;Chothiaら(1989年)Nature 342:877〜883頁;FooteおよびWinter(1992年)J.Mol.Biol.224:487〜499頁;およびVasquezらに発行された米国特許第6,329,511号に記載されている。
【0120】
所望の標的の任意の抗原形態は、抗体を生成するために使用することができ、これらは、所望の拮抗活性を有するものについてスクリーニングすることができる。誘発性抗原は、単一のエピトープもしくは複数のエピトープを含有するペプチドであってもよいし、またはそれは、単独のまたは当技術分野で知られている1つもしくは複数の免疫原性増強剤と組み合わせた全タンパク質であってもよい。抗原ペプチドの免疫原性を改善するために、ペプチドは担体タンパク質とコンジュゲートしていてもよい。抗原はまた、単離完全長タンパク質、細胞表面タンパク質(たとえば、抗原の少なくとも一部分を用いてトランスフェクトされた細胞を用いて免疫する)、または可溶性タンパク質(たとえば、タンパク質の細胞外ドメイン部分のみを用いて免疫する)であってもよい。抗原は、遺伝的改変細胞によって発現されてもよく、抗原をコードするDNAは、ゲノムDNAまたは非ゲノムDNA(たとえばプラスミド上の)である。
【0121】
高い抗原性が予測される領域から本質的になるペプチドは、抗体生成に使用することができる。たとえば、Vector NTI(登録商標) Suite(Informax,Inc、Bethesda、MD)を使用するParker plotを用いる分析によって決定されるように、ヒトp19の抗原性の高い領域は、GenBank AAQ89442(gi37183284)のアミノ酸16〜28;57〜87;110〜114;136〜154;および182〜186に生じ、ヒトIL−23Rの抗原性の高い領域は、GenBank AAM44229(gi21239252)のアミノ酸22〜33;57〜63;68〜74;101〜112;117〜133;164〜177;244〜264;294〜302;315〜326;347〜354;444〜473;510〜530;および554〜558に生じる。
【0122】
免疫の任意の適切な方法を使用することができる。そのような方法は、アジュバント、他の免疫刺激剤、繰り返しの追加免疫の使用および1つまたは複数の免疫経路の使用を含むことができる。免疫はまた、DNAベクター免疫によって行うことができる。Wangら(1997年)Virology 228:278〜284頁。あるいは、動物は、興味のある抗原を有する細胞を用いて免疫することができ、これは、精製抗原を用いる免疫よりも優れた抗体生成をもたらし得る。Kaithamanaら(1999年)J.Immunol.163:5157〜5164頁。
【0123】
好ましい抗体アンタゴニストは、モノクローナル抗体であり、これらは、当業者によく知られている種々の技術によって得られてもよい。モノクローナル抗体を生成するための方法は、一般に、Stitesら(編)(1982年)BASIC AND CLINICAL IMMUNOLOGY(第4版)Lange Medical Publications、Los Altos、CAおよびそこに引用される参考文献;HarlowおよびLane(1988年)ANTIBODIES:A LABORATORY MANUAL CSH Press;Goding(1986年)MONOCLONAL ANTIBODIES:PRINCIPLES AND PRACTICE(第2版)Academic Press、New York、NYに記載されている。典型的には、免疫された哺乳類宿主から単離された脾細胞は、通例、骨髄腫細胞を用いる融合によって、不死化されて、ハイブリドーマを産生する。KohlerおよびMilstein(1976年)Eur.J.Immunol.6:511〜519頁;Meyaardら(1997年)Immunity 7:283〜290頁;Wrightら(2000年)Immunity 13:233〜242頁;Prestonら(1997年)Eur.J.Immunol.27:1911〜1918頁を参照されたい。不死化の代替方法は、エプスタインバーウイルス、癌遺伝子、もしくはレトロウイルスを用いる形質転換または当技術分野で知られている他の方法を含む。たとえばDoyleら(1994年版および定期的な増刊)CELL AND TISSUE CULTURE:LABORATORY PROCEDURES、John Wiley and Sons、New York、NYを参照されたい。単一の不死化細胞から生じるコロニーは、適切な結合アッセイおよび生物学的アッセイを使用して、所望の特異性、親和性、および阻害活性の抗体の産生のためにスクリーニングされる。たとえば、標的に対する抗体の結合特性は、たとえば表面プラズモン共鳴法(Karlssonら(1991年)J.Immunol.Methods 145:229〜240頁;Neriら(1997年)Nat.Biotechnol.15:1271〜1275頁;Jonssonら(1991年)Biotechniques 11:620〜627頁)によってまたは競合ELISA(Friguetら(1985年)J.Immunol.Methods 77:305〜319頁;Hubble(1997年)Immunol.Today 18:305〜306頁)によって測定することができる。
【0124】
あるいはヒトB細胞からのDNAライブラリーをスクリーニングすることによって、モノクローナル抗体またはその結合性断片をコードするDNA配列を単離してもよい。たとえばHuseら(1989年)Science 246:1275〜1281頁を参照されたい。他の適切な技術は、ファージ抗体ディスプレイライブラリーをスクリーニングすることを含む。Huseら(1989年)Science 246:1275〜1281頁;Wardら(1989年)Nature 341:544〜546頁;Clacksonら(1991年)Nature 352:624〜628頁;Marksら(1991年)J.Mol.Biol.222:581〜597頁;Presta(2005年)J.Allergy Clin.Immunol.116:731頁。
【0125】
本発明で使用される好ましいモノクローナル抗体は、「キメラ」抗体(免疫グロブリン)を含み、結果として生じるキメラ抗体が、親の哺乳類抗体よりも、ヒト被験体に対し有害な免疫応答を誘発する可能性がより少なくなるように、可変ドメインは、ラットまたはマウスなどの実験哺乳類動物で生成される親抗体からのものであり、定常ドメインは、ヒト抗体から得る。より好ましくは、本発明で使用されるモノクローナル抗体は、「ヒト化抗体」であり、可変ドメイン中の超可変ループ(たとえば相補性決定領域またはCDR)のすべてまたは実質的にすべては、非ヒト免疫グロブリンのものに対応し、可変ドメイン中のフレームワーク(FR)領域のすべてまたは実質的にすべては、ヒト免疫グロブリン配列のものである。本発明で使用される特に好ましいモノクローナル抗体は、「完全ヒト抗体」、たとえばヒト免疫グロブリンタンパク質配列のみを含む抗体である。完全ヒト抗体は、それが産生される細胞種からの糖鎖を含有していてもよく、たとえば、マウス、マウス細胞、またはマウス細胞に由来するハイブリドーマで産生される場合、完全ヒト抗体は、典型的には、マウス糖鎖を含有する。
【0126】
本発明の二重特異性試薬は、細胞表面抗原など、2つの異なる抗原への単一試薬(たとえば抗体)の同時の結合が、さらなる特異性および/または毒性をもたらす状況で特に有用であり得る。たとえば、二重特異性抗体などの二重特異性試薬もまた、病原性Th17細胞などの病原性のT細胞サブセットと関連する細胞表面タンパク質に結合する作用物質を用いて生成されてもよい。1つの例では、そのような細胞表面タンパク質は、IL−23RおよびCD161(NK細胞表面抗原、KLRB1(遺伝子ID3820)およびNKRPIAとも呼ばれる)である。米国特許第5,965,401号および第5,770,387号もまた参照されたい。CD161のアミノ酸配列は、GenBank(NCBI)データベースでアクセッション番号NP_002249の下で入手可能である。本明細書で実証されるように(実施例4ならびに図1および2を参照されたい)、記憶T細胞(CD4/CD45RO/CD45RA)の表面上のCD161の存在は、IL−17の産生および病原性と相互に関連する。病原性Th17細胞はまた、IL−23Rを発現することも知られている。CD161およびIL−23Rの両方に結合する二重特異性試薬は、最も病原性のT細胞のみに対して高度に選択的であることが予想される。そのような特異性試薬は、非常に病原性のTh17細胞の存在および局在性を測定するためのツールとして、処置を受けている被験体を含む被験体の診断およびモニターでの使用を見い出す。これらの試薬はまた、それらが、病原性の標的細胞、つまりCD161およびIL−23Rの両方を発現する細胞の殺滅を特異的に促進することができる場合、治療の適用での使用をも見い出す。試薬、たとえばヒトIgG1定常ドメインを含む抗体は、病原性Th17細胞のADCC(抗原依存性細胞傷害)依存性の殺滅を促進し得る。試薬はまた、そのような病原性Th17細胞に毒性ペイロード、たとえば放射性核種または他の毒素を送達するために使用されてもよい。
【0127】
病原性Th17細胞によって引き起こされる疾患の処置での使用を見い出してもよい、さらなる二重特異性試薬は、これらの細胞上に見つけられる2つ以上の細胞表面分子に向けられる試薬を含み、上記の2つ以上の細胞表面分子の組合せに対する試薬の特異性は、試薬を、病原性の細胞に対してより特異的なものにする。そのような増強された特異性は、細胞表面分子のいずれか1つを発現する非標的細胞に対する望まれない作用によって引き起こされる副作用を低下させることに役立ち得る。たとえば、二重特異性試薬は、CD161およびCD4、CD45RO、CCR4、CCR6、インテグリン−β7、EP2、EP4、IL−1R1、またはTNF−αを含むが、これらに限定されない、病原性Th17細胞に関連する他の細胞表面マーカーに向けられてもよい。あるいは、二重特異性試薬は、以下の細胞表面タンパク質のいずれか2つに対して向けられてもよい:CD161、CD4、CD45RO、CCR4、CCR6、インテグリン−β7、EP2、EP4、IL−1R1、およびTNF−α。
【0128】
病原性ヒトTh17細胞の生成におけるPGE2、IL−23、およびIL−1βの役割
マウスでの研究を伴う最近の刊行物は、IL−6およびTGF−βは、Th17細胞を生成するのに必要であり、十分であることならびにIL−23は、これらの細胞の維持および生存の促進に重要であることを実証した。Veldhoenら(2006年)Immunity 24:179〜189頁;Dong(2006年)Nat.Rev.Immunol.6(4):329〜333頁。しかしながら、これらの結果は、ヒト系で再現されておらず、Th17細胞の生成、したがってヒトの自己免疫疾患および増殖疾患において、IL−6およびTGF−βの重要性の問題を未解決のままにしている。
【0129】
出願人らは、これらのIL−6/TGF−β駆動型のマウスTh17細胞がIL−17Aだけではなく、非常に高いレベルの免疫抑制サイトカインIL−10をも分泌することを見い出した。IL−23駆動型Th17細胞は、マウスの受動伝達モデル(passive transfer model)で、実験的自己免疫性脳脊髄炎(EAE)を誘発することができるのに対して(Langrishら(2005年)J.Exp.Med.201:233頁)、IL−6/TGF−β駆動型マウスTh17細胞は、非病原性である。マウスでの、出願人らのさらなる実験は、現在、プロスタグランジンE2(PGE2)が、IL−1βと組み合わせて、IL−10ではなく高いレベルのIL−17Aを分泌する新規なマウスCD4Th17集団の形成を駆動することを実証する。これらの作用は、CD4+T細胞が、IL−1βならびにPGE2受容体サブユニットIL−1R1、IL−1Racp、EP2、およびEP4を発現するといった観察(定量的PCRによる)と一致している。これらの同じマウスIL−1β/PGE2駆動型Th17細胞は、転写因子FOXP3の発現の増加を示す。
【0130】
マウスでのこれらの結果により、出願人らは、ヒトでの類似の病原性Th17系統を探索した。IL−6およびTGF−βの存在下での培養は、ヒトTh17細胞の発達を促進しなかったが、出願人らは、PGE2がIL−1βと相乗的に作用して、ヒトTh17細胞の病原性のサブセットの形成を促進することを見い出した。これらの病原性Th17細胞は、高いレベルのIL−17Aおよび非常に低いレベルのIFN−γを産生し、Th1(IFN−γ産生)表現型から離れて、Th17(IL−17産生)表現型へ向かう極性化の程度が高いことを示す。データを図3A〜3Bに提示する。実施例5もまた参照されたい。これらの細胞はまた、高いレベルのIL−17Fをも発現し、多発性硬化症(MS)、クローン病(CD)、および関節リウマチ(RA)などのヒト自己免疫疾患の病原に関与している可能性が高い。さらなるデータ(図4〜6)は、PGE2が、Th17の生物学で役割を果たすという結論を支持する。
【0131】
プロスタグランジン、特にプロスタグランジンE2(PGE2)は炎症性応答の調節で重要な役割を果たす。発熱、痛覚過敏、および動脈拡張の重要な媒介物質であるPGE2は、微小血管の透過性の増強を伴って炎症組織への血流を増加させ、浮腫をもたらす。シクロオキシゲナーゼ阻害剤などのプロスタグランジン合成阻害剤は、有効な抗炎症剤として臨床的に使用される。しかしながら、PGE2はまた、抗炎症特性をも発揮することができ、好中球、単球、およびリンパ球の機能、特にTh1細胞の重要な負の調節因子である。Harrisら(2002年)Trends Immunol.23:144頁。この明らかな逆説は、数十年間、多くの研究者らを当惑させてきた。PGE2、IL−23、およびIL−1βの生物学の間の相互作用は、現在、この逆説に対する解答を明らかにし得る。文献は、IL−23およびTヘルパー細胞のIL−23依存性Th17集団が、慢性炎症および自己免疫で必須の役割を果たすことを実証する。Chenら(2007年)Arthritis Rheum.56:2936頁;Cuaら(2003年)Nature 421:744頁;Langrishら(2005年)J.Exp.Med.201:233頁;Murphyら(2003年)J.Exp.Med.198:1951頁;Wilsonら(2007年)Nature Immunol.8:950頁。樹状細胞なしの培養系を使用して、本明細書に開示される結果は、ここに、IL−1βおよびIL−23の存在下でのPGE2が、Th17細胞の分化および炎症促進性機能を促進することを示す。PGE2は、ナイーブヒトT細胞に直接作用し、プロスタグランジン受容体EP2およびEP4媒介のシグナル伝達を介してIL−23受容体発現を上方制御する。さらに、PGE2は、IL−1βおよびIL−23と相乗作用を示して、報告されたTh17表現型と一致する、ROR−γt、IL−17、およびCCR6の発現を駆動する。Th17サイトカイン発現を増強しながら、PGE2は、IL−10産生を阻害する。したがって、分化の間に存在する、炎症性サイトカインおよびPGE2などの非サイトカイン免疫調整物質の組合せは、Th17細胞の最終の表現型を決定する。これらの知見は、Th17細胞の発達および調節の重大な因子としての炎症性微小環境の役割を強調する。
【0132】
上記に言及されるように、PGE2曝露は、マウスで、転写因子FOXP3の発現を増加させ、類似の結果は、ヒトCD4+T細胞で報告されている。Baratelliら(2005年)J.Immunol.175:1483頁;Mahicら(2006年)J.Immunol.177:246頁。理論によって制限されるのを意図することなく、TGF−βがマウスで果たすのと同じ役割を、PGE2が、ヒトでのTh17細胞の生成で果たす可能性がある。作用のメカニズムに関わらず、PGE2は、病原性ヒトTh17細胞の生成に必要であるようにみえる。
【0133】
PGE2は、以前に、未成熟骨髄由来樹状細胞からのIL−23およびIL−1βの産生を誘発することが示されており、PGE2の炎症促進性の役割および関節リウマチなどの自己免疫疾患での有力な役割を示唆する。Sheibanieら(2004年)FASEB J.18:1318頁。PGE2は、IL−23/IL−17経路に対する効果を介しての、炎症性腸疾患および関節リウマチ(コラーゲン誘発性の関節炎)のマウスモデルでの効果を有することが示された。Sheibanieら(2007年)J.Immunol.178:8138頁;Sheibanieら(2007年)Arthritis Rheum.56:2608頁。Jeffordら(2003年)Blood 102:1753頁もまた参照されたい。PGE2が、IL−12産生を下方制御しながら、マクロファージおよび樹状細胞中でIL−23およびIL−1βの産生を増強するので、これらの効果は、生得的な細胞に対するPGE2作用に起因した。Sheibanieら(2004年)FASEB J.18:1318頁。しかしながら、本明細書に提示される結果は、PGE2がTh17の発達に直接関与することを示す。
【0134】
病原性ヒトTh17細胞が、PGE2およびIL−1βまたはPGE2およびIL−23を用いるCD4T細胞の処理によってインビトロで作り出すことができるといった事実は、病原性ヒトTh17細胞をインビトロで生成するための改善された方法をもたらし、これらの細胞は、基礎的な生物医学的研究および薬剤スクリーニングでの使用を見い出す。有力な治療用化合物は、インビトロでのそのような病原性ヒトTh17細胞の発達、維持を防止する、またはその病原性作用を遮断するそれらの能力についてスクリーニングすることができる。
【0135】
病原性Th17細胞の形成および維持において、PGE2、IL−1β、およびIL−23によって果たされる重要な役割を考慮すると、これらの分子の2つ以上を標的とする組合せ治療が、自己免疫障害または増殖障害の処置で有用となる可能性もまた高い。PGE2、IL−1β、およびIL−23のアンタゴニストは、Th17細胞の発達および維持を促進する際のそのような分子の生物学的活性を遮断する作用物質を含み、したがって、分子自体またはそれらの受容体(またはそのサブユニット)のいずれかに結合するアンタゴニストを含む。アンタゴニストはまた、小分子阻害剤などのように、これらの分子のいずれかの活性を低下させる作用物質を含む。アンタゴニストはまた、IL−1βもしくはIL−23またはPGE2の合成に関与するタンパク質(たとえば酵素)の発現を低下させる作用物質を含む。アンタゴニストは、抗体またはその抗原結合性断片、核酸阻害剤(siRNAもしくはアンチセンスオリゴヌクレオチドなど)、可溶性受容体断片、小分子などを含んでいてもよい。
【0136】
ヒトで病原性Th17細胞の形成を防止するための組合せ治療の例示的な方法は、IL−1βのアンタゴニストまたはIL−23のアンタゴニストと組み合わせた、PGE2のアンタゴニストの使用を含む。PGE2の例示的なアンタゴニストは、PGE2合成に関与するシクロオキシゲナーゼ(COX)および他の酵素のアンタゴニストを含む。例示的なCOX阻害剤は、アスピリン、インドメタシン、ジクロフェナク、イブプロフェン、ナプロキセン、ジフルニサル、エトドラク、フェノプロフェン、フルルビプロフェン、ケトプロフェン、ケトロラク、メフェナム酸、メロキシカム、ナブメトン、オキサプロジン、ピロキシカム、サルサレート、スリンダク、およびトルメチンを含み、COX−2特異的阻害剤であるセレコキシブ、バルデコキシブ、ルミラコキシブ、およびロフェコキシブをも含む。COX−2阻害剤は、ラットでの、実験的自己免疫性神経炎(EAN)および実験的自己免疫性前部ブドウ膜炎(EAAU)の処置についてならびにMSの動物モデルである実験的自己免疫性脳脊髄炎(EAE)の処置について示唆されてきた。それぞれ、Miyamotoら(2002年)Muscle Nerve 25:280頁;Boraら(2005年)Ocul.Immunol.Inflamm.13:183頁;およびNiら(2007年)J.Neuroimmunol, 186:94頁を参照されたい。セレコキシブは、マウスのEAEモデルで得られたデータに基づいた多発性硬化症の処置について示唆されてきた。Miyamotoら(2006年)Brain 129:1984頁。
【0137】
PGE2のアンタゴニストはまた、PGES−2などのPGE2シンターゼ(PGES)(Per−Johan Jakobssonら(1999年)Proc.Natl.Acad Sci.(U.S.A.) 96:7220頁)ならびにPGES−1(米国特許第7,169,580号)を含む、PGE2の合成に特異的に関与する酵素のいずれかのアンタゴニストを含む。そのようなPGE2特異的合成酵素の特異的な阻害は、望まれない副作用を同時に低下させながら、他のプロスタグランジンのレベルに影響せずに、PGE2レベルを変化させる利点を有することが予想される。そのような特異的阻害剤は、小分子、アンタゴニスト抗体もしくはその抗原結合性断片、またはsiRNAもしくはアンチセンス核酸などの核酸アンタゴニストを含む。
【0138】
PGE2のアンタゴニストはまた、CD4+T細胞の表面上に発現される、関係のある受容体、つまりEP2およびEP4のアンタゴニストを含む。これらの2つの受容体は、本明細書で総称してEP2/4と呼ばれる。EP2/4は、関節リウマチの処置のための治療標的として提唱されてきた。Akaogiら(2006年)Endocr.Metab.Immune Disord.Drug Targets 6:383頁。EP2およびEP4の例示的なアンタゴニストは、アンタゴニスト抗体またはその抗原結合性断片、ならびにAH6809およびAH23848を含む。たとえばMahicら(2006年)J.Immunol.177:246頁を参照されたい。EP2およびEP4の例示的なアンタゴニストはまた、siRNAまたはアンチセンス核酸などの核酸アンタゴニストをも含む。例示的なEP4アンタゴニストは、国際公開第2000/016760号に開示される。EP2は、NCBI遺伝子データベースで遺伝子ID PTGER2にさらに記載され、タンパク質配列は、GenBank Ref.NP_000947.2で入手可能である。EP4は、遺伝子ID PTGER4にさらに記載され、タンパク質配列は、GenBank Ref.NP_000949.1で入手可能である。
【0139】
IL−1βのアンタゴニストは、IL−1βのアンタゴニストを含み、IL−1受容体アンタゴニスト(IL−1Ra、アナキンラ)ならびに受容体サブユニットIL−1R1およびIL−1Racpのアンタゴニストをも含む。ノックアウトマウスでのIL−1R1の排除は、Th17細胞の誘発を抑止し、野生型マウスのEAEの発生を著しく低下させることも示されており、Th17細胞および自己免疫疾患の形成でのIL−1機能の役割を示唆する。Suttonら(2006年)J.Exp.Med.203:1685頁。
【0140】
IL−23のアンタゴニストは、p19サブユニットおよびp40サブユニットのアンタゴニストなどのIL−23のアンタゴニストならびに受容体サブユニットIL−23RおよびIL−12Rβ1のアンタゴニストを含む。好ましい実施形態では、アンタゴニストは、IL−23特異サブユニットp19およびIL−23Rにそれらが向けられるという点でIL−23特異的である。IL−23p19に対する、例示的な操作された抗体は、本願と同一の譲受人に譲渡された米国仮特許出願第60/891,409号および第60/891,413号(両方とも2007年2月23日に出願された)に、米国特許出願公開第2007/0009526号および第2007/0048315号に、ならびに国際特許公開第2007/076524号、第2007/024846号、および第2007/147019号に開示される。IL−23p40に特異的な抗体は、米国特許第7,247,711号に開示される。
【0141】
例示的な組合せ治療計画は、PGE2およびIL−1βのアンタゴニスト、EP2/4およびIL−1R1のアンタゴニスト、またはEP2/4およびIL−23Rのアンタゴニストを含むが、これらに限定されない。ある場合には、好ましくはたとえば二重特異性作用物質を介して、同じ細胞中の両方の標的を同時に標的とし得る。そのような組合せ治療は、病原性ヒトTh17細胞の発達および分化を有効に遮断し、それによって、ヒトの自己免疫障害および増殖障害を阻害し得る。好ましい実施形態では、2つ以上のアンタゴニストは、同じ経路の異なる部分のアンタゴニストよりは、むしろ異なるメカニズムの経路のアンタゴニストである。他の実施形態では、少なくとも1つの阻害剤は、可溶性リガンドよりは、むしろ細胞表面受容体に結合する。いくつかの実施形態では、2つ以上のアンタゴニストは、少なくとも1つの細胞表面受容体に結合する、二重特異性抗体またはその抗原結合性断片などの二機能性試薬を含む。いくつかの実施形態では、本発明の二機能性試薬の両方の標的は、細胞表面受容体、たとえばEP2/4およびIL−23RまたはIL−1R1である。
【0142】
III.医薬製剤、投薬、および投与
IL−17アンタゴニストおよびIL−23アンタゴニストは、典型的には、医薬組成物として患者に投与され、アンタゴニストは、薬学的に許容可能な担体または賦形剤と混合される。たとえばRemington’s Pharmaceutical Sciences and U.S.Pharmacopeia:National Formulary、Mack Publishing Company、Easton、PA(1984年)を参照されたい。医薬組成物は、投与の意図される経路に適切な任意の様式で調合されてもよい。医薬製剤の例として、凍結乾燥粉末、スラリー、水性溶液、懸濁液、および徐放性処方物を含む。(たとえばHardmanら(2001年)GoodmanおよびGilman’s The Pharmacological Basis of Therapeutics、McGraw−Hill、New York、NY;Gennaro(2000年)Remington:The Science and Practice of Pharmacy、Lippincott,Williams, and Wilkins、New York、NY;Avisら(編)(1993年)Pharmaceutical Dosage Forms.Parenteral Medications、Marcel Dekker、NY;Liebermanら(編)(1990年)Pharmaceutical Dosage Forms:Tablets、Marcel Dekker、NY;Liebermanら(編)(1990年)Pharmaceutical Dosage Forms:Disperse Systems、Marcel Dekker、NY;WeinerおよびKotkoskie(2000年)Excipient Toxicity and Safety、Marcel Dekker, Inc.、New York,NYを参照されたい)。
【0143】
投与の経路は、医薬組成物中に使用されるアンタゴニストまたは他の治療薬の特性に依存する。投与の適切な経路は、たとえば、経口投与、吸入投与、直腸投与、局所投与、皮膚投与、経粘膜投与、または腸管投与;筋肉内注射、皮下注射、動脈内注射または静脈内注射、髄内注射および鞘内注射、直接室内注射、静脈内注射、腹腔内注射、鼻腔内注射、または眼内注射を含む非経口的送達を含んでいてもよい。
【0144】
あるいは、多くの場合デポー処方物または徐放性処方物で、たとえば、直接、関節炎の関節または免疫病理によって特徴付けられる病原体誘発性の病巣の中へ、抗体の注射を介して、全身性の様式よりもむしろ局所性の様式で、抗体を投与してもよい。さらに、標的薬剤送達系(たとえば、たとえば関節炎の関節または免疫病理によって特徴付けられる病原体誘発性の病巣を標的とする組織特異的抗体でコートされたリポソーム)で、抗体を投与してもよい。リポソームは、罹患組織を標的とし、罹患組織によって選択的に取り込まれる。米国特許出願公開第2008/0019975号は、より侵襲性のおよび/またはより局所的な経路による治療薬のより低用量の投与を伴う誘発計画、その後の、より侵襲性の少ないおよび/またはより局所的ではない経路(たとえば全身的に)による、治療薬のより高用量の投与を伴う維持計画を含む誘発維持処置計画を記載する。
【0145】
中枢神経系への遺伝子移入ベクターの注射もまた記載されている。たとえばCuaら(2001年)J.Immunol.166:602〜608頁;Sidmanら(1983年)Biopolymers 22:547〜556頁;Langerら(1981年)J.Biomed.Mater.Res.15:167〜277頁;Langer(1982年)Chem.Tech.12:98〜105頁;Epsteinら(1985年)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 82:3688〜3692頁;Hwangら(1980年)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 77:4030〜4034頁;米国特許第6,350466号および第6,316,024号を参照されたい。そのようなベクターは、アンチセンス核酸またはsiRNAが、具体的には、MSなどのCNSの免疫炎症性障害の処置でサイトカインアンタゴニストとして使用されることになる本発明の実施形態で有益であり得る。
【0146】
本発明の医薬組成物は、免疫性障害の1つまたは複数の症状を改善するまたは防止する任意の処置計画に従って投与されてもよい。処置計画の選択は、アンタゴニストの半減期、患者の症状の重症度、および任意の有害作用のタイプまたは長さを含むが、これらに限定されないいくつかの組成物依存性の因子および患者依存性の因子に依存する。好ましくは、投与計画は、許容可能なレベルの副作用と調和した、患者に送達される治療薬の量を最大限にする。治療用抗体および小分子の適正用量の選択の手引き(guidance)が入手可能である。たとえばWawrzynczak(1996年)Antibody Therapy、Bios Scientific Pub.Ltd、Oxfordshire、UK;Kresina(編)(1991年)Monoclonal Antibodies、Cytokines and Arthritis、Marcel Dekker、New York、NY;Bach(編)(1993年)Monoclonal Antibodies and Peptide Therapy in Autoimmune Diseases、Marcel Dekker、New York、NY;Baertら(2003年)New Engl.J.Med.348:601〜608頁;Milgromら(1999年)New Engl.J.Med.341:1966〜1973頁;Slamonら(2001年)New Engl.J.Med.344:783〜792頁;Beniaminovitzら(2000年)New Engl.J.Med.342:613〜619頁;Ghoshら(2003年)New Engl.J.Med.348:24〜32頁;Lipskyら(2000年)New Engl.J.Med.343:1594〜1602頁を参照されたい。
【0147】
単独でまたは免疫抑制剤と組み合わせて投与される抗体組成物の毒性および治療効果は、たとえばLD50(集団の50%に対して致死的な用量)およびED50(集団の50%で治療的に有効な用量)を決定するための、細胞培養物または実験動物での標準的な薬学の手順によって決定することができる。毒性作用および治療的作用の間の用量比は、治療指数であり、それは、ED50に対するLD50の比として表現することができる。高い治療指数を示す抗体が好ましい。これらの細胞培養アッセイおよび動物研究から得られたデータは、ヒトで使用されるある範囲の投薬量を処方する際に使用することができる。そのような化合物の投薬量は、好ましくは、ほとんどまたは全く毒性がないED50を含む循環濃度の範囲内にある。投薬量は、用いられる剤形および投与の経路に依存して、この範囲内で変動してもよい。
【0148】
抗体などの生物学的アンタゴニストは、連続注入によってまたはたとえば1日当たり1回、1週間当たり1回、もしくは1週間当たり2〜7回、1週おき、または1カ月当たり1回の間隔の用量によって提供されてもよい。毎週の用量の合計は、一般に、少なくとも0.05μg/kg体重、0.2μg/kg体重、0.5μg/kg体重、1μg/kg体重、10μg/kg体重、100μg/kg体重、0.2mg/kg体重、1.0mg/kg体重、2.0mg/kg体重、10mg/kg体重、25mg/kg体重、50mg/kg体重、またはそれ以上である。たとえばYangら(2003年)New Engl.J.Med.349:427〜434頁;Heroldら(2002年)New Engl.J.Med.346:1692〜1698頁;Liuら(1999年)J.Neurol.Neurosurg.Psych.67:451〜456頁;Portieljiら(20003)Cancer Immunol.Immunother.52:133〜144頁を参照されたい。小分子治療剤、たとえばペプチド模倣物質、天然産物、または有機化学物質の所望の用量は、モル/kgベースで、抗体またはポリペプチドとほぼ同じである。
【0149】
適正用量の決定は、たとえば、処置に影響することが当技術分野で知られているもしくは疑われるまたは処置に影響することが予測されるパラメーターまたは因子を使用して、臨床家によって成される。一般に、用量は、やや最適用量未満の量から始まり、その後、あらゆる負の副作用と比較して、所望または最適の効果が達成されるまで少量ずつ増加させることによって増加する。重要な診断尺度は、たとえば炎症の症状または産生される炎症性サイトカインのレベルの尺度を含む。好ましくは、使用される生物製剤は、実質的に、処置の標的とされる動物と同じ種に由来し(たとえば、ヒト被験体の処置のためのヒト化抗体)、それによって、試薬に対するあらゆる免疫応答を最小限とする。
【0150】
IL−23アンタゴニストと共にIL−17または他の急性期サイトカインのアンタゴニストを使用する処置計画は、処置する医師によって典型的には決定され、また患者の年齢、病歴、疾患症状、ならびに異なるタイプの投薬および投薬計画に対する耐性を考慮に入れる。一般に、処置計画は、過度に攻撃的な免疫系を抑制するように設計され、体が最終的に体自体を再調節することを可能にし、結果として、患者が、限られた時間(たとえば1年間)、不適当な免疫応答を抑制するために全身性の投薬を続けた後に、次いで、投薬は、自己免疫性の攻撃が再発することなく、次第に減らし、止めることができることが多い。時に、攻撃の再開が生じ、その場合には、患者は、再処置されなければならない。
【0151】
したがって、ある場合には、医師は、処方された期間の間、服用するためのいくらかの用量のアンタゴニストを患者に処方し、その後、アンタゴニストを用いる治療は、中止されてもよい。好ましくは、疾患の1つまたは複数の急性の症状が消失する最初の処置期間の後に、医師は、ある期間、アンタゴニスト治療を継続し、投与されるアンタゴニストの量および/または頻度は、処置が止められる前に徐々に低下させられる。
【0152】
本発明はまた、IL−17アンタゴニストまたは他の急性期サイトカインアンタゴニストがIL−23アンタゴニストと組み合わせて使用される処置計画を企図する。(続く説明は、IL−17のみを指すが、本発明は、必要に応じて、TNF−αおよびIL−1βなどの他の急性期サイトカインを指す。)そのような計画は、免疫性障害の急性期を処置するのにとりわけ有用であり得、IL−17アンタゴニストは、既存のTh17細胞の活性を阻害し、一方、IL−23アンタゴニストは、新しいTh17細胞の生成を防止する。そのような組合せ治療は、より低用量のIL−17アンタゴニストを使用するおよび/またはより短い期間、IL−17アンタゴニストを投与する、免疫性障害の有効な処置を提供し得る。症状が改善するにつれて、IL−17アンタゴニストを用いる治療は、好ましくは中止され、一方、IL−23アンタゴニストの投与は、疾患の再発に結びつき得る、新しい自己反応性Th17細胞の生成を防止するために継続される。2つのアンタゴニストは、単一組成物または別の組成物で同時に投与されてもよい。あるいは、2つのアンタゴニストは別の間隔で投与されてもよい。異なる用量のアンタゴニストもまた使用されてもよい。同様に、二重特異性アンタゴニストはまた、急性期に投与され、徐々に中止され、疾患の退行を維持するためにIL−23アンタゴニストを用いる処置を後続させてもよい。
【0153】
処置計画はまた、免疫性障害の1つもしくは複数の症状を改善するためのまたはアンタゴニスト治療からの有害作用を防止するもしくは改善するための他の治療薬の使用を含んでいてもよい。第2の治療薬、たとえばサイトカイン、抗体、ステロイド、化学療法剤、抗生物質、または放射線との同時投与または処置のための方法は、当技術分野でよく知られている。たとえばHardmanら(編)(2001年)Goodman and Gilman’s The Pharmacological Basis of Therapeutics、第10版、McGraw−Hill、New York、NY;PooleおよびPeterson(編)(2001年)Pharmacotherapeutics for Advanced Practice:A Practical Approach、Lippincott,Williams & Wilkins、Phila.,PA;ChabnerおよびLongo(編)(2001年)Cancer Chemotherapy and Biotherapy、Lippincott,Williams & Wilkins、Phila.、PAを参照されたい。本発明の医薬組成物はまた、他の免疫抑制剤または免疫調節剤を含有してもよい。抗炎症剤、コルチコステロイド、デキサメタゾン、フルオロメトロン(flurometholone)、およびプレドニゾロン、シクロスポリン、タクロリムス(つまりFK−506)、シロリムス、インターフェロン、可溶性サイトカイン受容体(たとえばsTNRFおよびsIL−1R)、ミコフェノール酸モフェチル、15−デオキシスパーガリン、サリドマイド、グラチラマー、アザチオプリン、レフルノミド、シクロホスファミド、クロラムブシル、インドメタシン、アスピリン、フルビプロフェン、およびジクロフェナクなどの非ステロイド性消炎剤、代謝拮抗物質(たとえばメトトレキサート、アザチオプリン)などを含むが、これらに限定されない適切な免疫抑制剤を用いることができる。医薬組成物はまた、光線治療および放射線などの他の治療様式と共に用いることができる。
【0154】
2つ以上の異なる治療物質(たとえばIL−17アンタゴニストおよびIL−23アンタゴニスト、IL−17アンタゴニストおよびIL−17活性またはIL−23活性に拮抗しない治療薬)が使用される本明細書に記載される治療のいずれかでは、異なる治療物質は、互いに関連して投与される、すなわち、それらは、別の組成物として、同じ医薬組成物中で同時に投与されてもよいまたはそれらの物質は、別の時間におよび異なる順序で投与されてもよいことが理解される。
IV.使用
本発明は、免疫性障害、具体的には再発寛解型パターンをたどる自己免疫障害の処置のための方法および組成物を提供する。例示的な疾患は、MS、関節リウマチ、乾癬性関節炎、乾癬、アトピー性皮膚炎、炎症性腸疾患、クローン病、潰瘍性大腸炎、およびI型糖尿病を含む。エピトープの拡散(eptitope spreading)は、新しいエピトープが、新しい抗原特異的な病原性Th17細胞の形成を駆動する、多くの炎症性自己免疫疾患の再発寛解型の性質の原因であり得る。IL−23シグナル伝達に対する干渉は、新しい病原性Th17細胞の生成を防止することによってこのプロセスを止める。
【0155】
様々な他の自己免疫障害は、Th17細胞が最初に生じる組織以外の組織で疾患を引き起こす「遊走」Th17細胞を含み得る。そのような疾患は、乾癬性関節炎、ブドウ膜炎、若年発症関節炎、および多発性硬化症を含むが、これらに限定されない。IL−23指向性治療もまた、そのような疾患の処置で有用であることが予想される。病原性Th17細胞は、元のそれらの組織からの遊走の間に、全身治療による破壊の標的とされてもよい。
【0156】
Th17細胞は、IL−23、IL−17、IL−12p70、IL−12p40、TNF−α、IL−1、IL−6、IL−22、IFN−γ、IL−22、CCL20(MIP−3α)、およびCXCL1(GRO)を含む、特有のパターンの血清バイオマーカーの発現に基づいて同定することができる。これらのバイオマーカーのいずれか1つまたは任意の組合せの測定は、疾患におけるTh17細胞媒介の病理の役割、したがって、治療としてのIL−23中和の有望な治療効果を評価するために使用されてもよい。バイオマーカーはまた、たとえば処置の経過の間の疾患進行をモニターするために使用されてもよい。
【0157】
本発明の方法および組成物はまた、癌、たとえば腫瘍の処置で使用されてもよく、異常な、IL−23媒介のTh17応答は、腫瘍の近傍で炎症を促進し、逆説的にIL−12媒介のTh1型腫瘍監視を抑制する。国際公開第2004/081190号を参照されたい。急性炎症性応答の一時的な抑制および抗IL−23治療の長期的な維持は、IL−12媒介のTh1腫瘍監視の回復を促進し、腫瘍根絶を促進し得る。
【0158】
方法は、たとえば再発寛解型MSおよび原発性進行性MSを含む多発性硬化症(MS)、アルツハイマー病、筋萎縮性側索硬化症(別名ALS;ルー ゲーリック病)、虚血性脳傷害、プリオン病、およびHIV関連認知症の処置のために提供される。神経障害性疼痛、外傷後ニューロパシー、ギラン−バレー症候群(GBS)、末梢多発性神経障害、および神経再生を処置するための方法もまた提供される。
【0159】
多発性硬化症または神経系の他の炎症性障害もしくは炎症性状態の1つまたは複数の以下の特徴、症状、側面、所見、または徴候を処置するまたは改善するための方法が提供される:脳病変、ミエリン病変、脱髄、脱髄斑、視覚障害、バランスまたは協調の喪失、痙縮、感覚障害、失禁、疼痛、脱力、疲労、麻痺、認知障害、精神緩徐、複視、視神経炎、感覚異常、歩行失調、疲労、ウートッフ症状(Uhtoff’s symptom)、神経痛、失語症、失行症、痙攣、視野損失、認知症、錐体外路系の徴候、うつ病、健康感または他の情緒的症状、慢性進行性ミエロパシー、およびガドリニウム増強病変を含む、磁気共鳴画像法(MRI)によって検出される症状、誘発電位記録によって検出される症状、または脳脊髄液の検査によって検出される症状。たとえばKenealyら(2003年)J.Neuroimmunol.143:7〜12頁;Noseworthyら(2000年)New Engl.J.Med.343:938〜952頁;Millerら(2003年)New Engl.J.Med.348:15〜23頁;Changら(2002年)New Engl.J.Med.346:165〜173頁;BruckおよびStadelmann(2003年)Neurol.Sci.24 増刊5:S265〜S267頁を参照されたい。
【0160】
その上、本発明は、炎症性腸障害、たとえばクローン病、潰瘍性大腸炎、セリアック病、および過敏性腸症候群を処置するおよび診断するための方法を提供する。炎症性腸障害の1つまたは複数の以下の症状、側面、所見、または徴候を処置するまたは改善するための方法が提供される:食物の吸収不良、腸運動性の変化、感染症、発熱、腹痛、下痢、直腸出血、体重減少、栄養失調の徴候、肛門周囲の疾患、腹部塊、および成長不全、ならびに狭窄、フィステル、中毒性巨大結腸症、穿孔、および癌などの腸管合併症ならびに脆弱性、アフタ性潰瘍、および線状潰瘍などの内視鏡的な知見、敷石状外観、偽ポリープ、ならびに直腸合併症、および加えて抗酵母抗体を含む。たとえばPodolsky、前掲;Hanauer、前掲;HorwitzおよびFisher、前掲を参照されたい。
【0161】
乾癬、アトピー性皮膚炎、関節リウマチ、骨関節炎、および乾癬性関節炎を含む関節炎などの炎症性障害、SLEおよびI型糖尿病などの自己免疫障害、自己免疫性心筋炎(Sondereggerら(2006年)Eur.J.Immunol.36:2844頁)ならびに癌などの増殖障害の処置もまた企図される。たとえばPCT特許出願国際公開第04/081190号;国際公開第04/071517号;国際公開第00/53631号;および国際公開第01/18051号を参照されたい。
【0162】
広範囲の本発明は、以下の実施例に関して最も理解され、これらは、本発明を特定の実施形態に限定することを意図するものではない。本明細書に記載の特定の実施形態は、ただ例の目的で提示され、本発明は、添付される特許請求の範囲が権利を与えられる全範囲の等価物と共に、添付される特許請求の範囲の用語によって限定されるものとする。
【実施例】
【0163】
(実施例1)
一般的な方法
分子生物学における標準的な方法を記載する。Maniatisら、(1982年)Molecular Cloning、A Laboratory Manual、Cold Spring Harbor Laboratory Press、Cold Spring Harbor、NY;Sambrook and Russell(2001年)Molecular Cloning、第3版、Cold Spring Harbor Laboratory Press、Cold Spring Harbor、NY;Wu(1993年)Recombinant DNA、第217巻、Academic Press、San Diego、CA。標準的な方法はAusbelら、(2001年)Current Protocols in Molecular Biology、第1〜4巻、John Wiley and Sons、Inc.New York、NY中にも載っており、これは細菌細胞におけるクローニングおよびDNA変異誘発(第1巻)、哺乳動物細胞および酵母におけるクローニング(第2巻)、複合糖質およびタンパク質発現(第3巻)、およびバイオインフォマティクス(第4巻)を記載している。
【0164】
免疫沈降、クロマトグラフィー、電気泳動、遠心分離、および結晶化を含めたタンパク質精製のための方法を記載する。Coliganら、(2000年)Current Protocols in Protein Science、第1巻、John Wiley and Sons、Inc.、New York。化学分析、化学修飾、翻訳後修飾、融合タンパク質の生成、タンパク質のグリコシル化を記載する。たとえば、Coliganら、(2000年)Current Protocols in Protein Science、第2巻、John Wiley and Sons、Inc.、New York;Ausbelら、(2001年)Current Protocols in Molecular Biology、第3巻、John Wiley and Sons、Inc.、NY、NY、16.0.5〜16.22.17頁;Sigma−Aldrich、Co.(2001年)Products for Life Science Research、St.Louis、MO;45〜89頁;Amersham Pharmacia Biotech(2001年)BioDirectory、Piscataway、N.J.384〜391頁を参照。ポリクローナルおよびモノクローナル抗体の産生、精製、および断片化を記載する。Coliganら、(2001年)Current Protocols in Immunology、第1巻、John Wiley and Sons、Inc.、New York;Harlow and Lane(1999年)Using Antibodies、Cold Spring Harbor Laboratory Press、Cold Spring Harbor、NY; Harlow and Lane、上記。リガンド/受容体相互作用を特徴付けするための標準的な技法が利用可能である。たとえば、Coliganら、(2001年)Current Protocols in Immunology、第4巻、John Wiley Inc.、New Yorkを参照。
【0165】
蛍光標識細胞分取(fluorescence activated cell sorting)検出システム(FACS(登録商標))を含めた、フローサイトメトリーのための方法が利用可能である。たとえば、Owensら、(1994年)Flow Cytometry Principles for Clinical Laboratory Practice、John Wiley and Sons、Hoboken、NJ;Givan(2001年)Flow Cytometry、第2版;Wiley−Liss、Hoboken、NJ;Shapiro(2003年)Practical Flow Cytometry、John Wiley and Sons、Hoboken、NJ中を参照。たとえば診断用試薬として使用するための、核酸プライマーおよびプローブ、ポリペプチド、および抗体を含めた核酸を改変するのに適した蛍光試薬が利用可能である。Molecular Probes(2003年)Catalogue、Molecular Probes、Inc.、Eugene、OR;Sigma−Aldrich(2003年)Catalogue、St.Louis、MO。
【0166】
免疫系の組織学の標準的な方法を記載する。たとえば、Muller−Harmelink(ed.)(1986年)Human Thymus:Histopathology and Pathology、Springer Verlag、New York、NY;Hiattら、(2000年)Color Atlas of Histology、Lippincott、Williams、and Wilkins、Phila、PA;Louisら、(2002年)Basic Histology:Text and Atlas、McGraw−Hill、New York、NYを参照。
【0167】
たとえば抗原断片、リーダー配列、タンパク質フォールディング、機能性ドメイン、グリコシル化部位、および配列アラインメントを決定するための、ソフトウェアパッケージおよびデータベースが利用可能である。たとえば、GenBank、Vector NTI(登録商標)Suite(Informax、Inc、Bethesda、MD);GCG Wisconsin Package(Accelrys、Inc.、San Diego、CA);DeCypher(登録商標)(TimeLogicCrop.、Crystal Bay、Nevada);Menneら、(2000年)Bioinformatics16:741〜742頁;Menneら、(2000年)Bioinformatics Applications Note16:741〜742頁;Wrenら、(2002年)Comput.Methods Programs Biomed.68:177〜181頁;von Heijne(1983年)Eur.J.Biochem.133:17〜21頁;von Heijne(1986年)Nucleic Acids Res.14:4683〜4690頁を参照。
【0168】
(実施例2)
IL−23アンタゴニストを評価するための増殖バイオアッセイ
IL−23/IL−23Rを生物学的に中和するIL−23アンタゴニストの能力を、組換えIL−23受容体を発現する細胞を使用する短期の増殖バイオアッセイの適用によって評価する。トランスフェクタントBa/F3−2.2lo細胞はヒトIL−23に応答して増殖し、かつ応答はIL−23アンタゴニストによって阻害され得る。アッセイ用に選択するIL−23の濃度は、用量応答曲線の直線領域内、プラトー付近およびEC50を超える範囲内に存在するように選択する。増殖、またはその欠如は、アラマーブルー(alamar blue)、代謝活性の検出に基づく増殖指標色素を使用する、比色分析手段によって測定する。IL−23/IL−23Rを中和するIL−23アンタゴニストの能力は、そのIC50値、またはIL−23誘導型増殖の半最大阻害を誘導するアンタゴニストの濃度によって評価する。
【0169】
アッセイは本質的に以下のように行う。Ba/F3トランスフェクタントは、RPMI−1640培地、10%ウシ胎児血清、50μMの2−メルカプトエタノール、2mMのL−グルタミン、50μg/mLのペニシリン−ストレプトマイシン、および10ng/mLのマウスIL−3中に維持する。増殖バイオアッセイは、RPMI−1640培地、10%ウシ胎児血清、50μMの2−メルカプトエタノール、2mMのL−グルタミン、および50μg/mLのペニシリン−ストレプトマイシン中で実施する。
【0170】
ウェル当たり150μLで96ウェルの平底プレート(Falcon3072または同様)においてアッセイを実施する。IL−23とIL−23アンタゴニストの両方を、たとえば1:3の連続希釈で、一連の濃度で調製する。興味のあるIL−23アンタゴニストの滴定液は、細胞を加える前にIL−23と共にプレインキュベートする。細胞を加えた後、バイオアッセイプレートは40〜48時間、加湿した組織培養チャンバー中でインキュベートする(37℃、5%CO)。培養期の最後に、アラマーブルー(Biosourceカタログ番号DAL1100)を16.5μL/ウェルで加え、5〜12時間放置して発色させる。次いで吸光度を570nmおよび600nmで読み取り(VERSAmaxマイクロプレートリーダー、Molecular Probe、Eugene、Oregon、USA)、かつOD570〜600を得る。二連の実験をそれぞれのサンプルに実施する。GraphPad Prism(登録商標)3.0ソフトウェア(Graphpad Software Inc.、San Diego、California、USA)を使用して、吸光度をサイトカインまたは抗体濃度に対してプロットし、かつIC50値はS字状(sigmoidal)用量応答曲線の非線形回帰(曲線の当てはめ)を使用して決定する。
【0171】
(実施例3)
IL−17産生に基づくIL−23に関する脾細胞アッセイ
本発明のIL−23アンタゴニストの生物学的活性を、本質的にAggarwalら、(2003年)J.Biol.Chem.278:1910頁およびStumhoferら、(2006年)Nature Immunol.7:937頁中に記載されたように、脾細胞アッセイを使用して評価してもよい。この脾細胞アッセイは、マウス脾細胞によるIL−17産生のレベルとしてサンプル中のIL−23の活性を測定する。次いでIL−23アンタゴニストの阻害活性を、所与のサンプル中のIL−23/IL−23Rの活性を50%低下させるのに必要なアンタゴニストの濃度(IC50)を決定することによって評価する。このアッセイによって測定したようにIC50は平衡解離結合定数(K)以上である、すなわち、KはIC50以下であり得る。通常通り、より低いIC50およびK値はより高い活性および親和性を反映する。
【0172】
簡単に言うと、8〜12週齢の雌性C57BL/6Jマウス(Jackson Laboratories、Bar Harbor、Maine、USA)から脾臓を得る。脾臓を砕き、2回ペレット状にし、かつ細胞濾過器(70μmナイロン製)を通して濾過する。回収した細胞は、ヒトIL−23(10ng/ml)およびマウス抗CD3e抗体(1μg/ml)(BD Pharmingen、Franklin Lakes、New Jersey、USA)の存在下で、アッセイするIL−23アンタゴニスト有りまたはなしで、96ウェルプレート中において培養する(4×10個細胞/ウェル)。IL−23アンタゴニストは、一連の3倍希釈で加える。細胞は72時間培養し、ペレット状にし、かつ上清はサンドウィッチELISAによりIL−17のレベルに関してアッセイする。
【0173】
IL−17のELISAは以下のように実施する。プレートは捕捉抗IL−17抗体(100ng/ウェル)で4℃において一晩コートし、洗浄およびブロッキングする。サンプルおよび標準物を加え、振とうしながら室温で2時間インキュベートする。プレートを洗浄し、ビオチン化抗IL−17検出抗体(100ng/ウェル)を加え、振とうしながら室温で1時間インキュベートする。捕捉抗体と検出抗体は、いずれもマウスIL−17と結合するが交差遮断しない異なる抗体である。プレートを洗浄し、かつ結合した検出抗体は、ストレプトアビジン−HRP(西洋わさびペルオキシダーゼ)およびTMB(3,3’,5,5’−テトラメチルベンジジン)を使用して検出する。次いでプレートを450〜650nmで読み取り、かつサンプル中のIL−17の濃度は、標準物との比較によって計算する。
【0174】
(実施例4)
クローン病では病原性Th17細胞においてCD161が発現される
Th17細胞は多数の自己免疫性の炎症障害および増殖障害の病理に関与している。IL−23Rは、Th17細胞によって発現される既知の細胞表面受容体サブユニットである。本明細書に記載する実験は、ヒトNKおよびT細胞で発現されることが知られているC型レクチンCD161は、病原性Th17細胞で優先的に発現されることを示す。このような病原性細胞は、IL−23RとCD161の両方と同時に結合する治療剤によって特異的に標的化することができる。さらに、これらの細胞の表面上のIL−23RとCD161の両方の存在は、診断および研究目的で細胞を選別する好都合な手段をもたらす。
【0175】
結腸および末梢血(PB)サンプルを、クローン病患者から得る。粘膜固有層単核細胞(LPMC)は、粘膜上皮層の剥離、コラゲナーゼによる粘膜固有層の消化、および密度勾配遠心分離によって結腸サンプルから調製する。末梢血単核細胞(PBMC)は、密度勾配遠心分離および赤血球の溶解によってPBから単離する。
【0176】
CD患者由来の結腸サンプルは、フローサイトメトリーにより測定して、正常被験体由来の結腸サンプルより約20倍多くのCD161CD4記憶T細胞を含む。図1A参照。FACS(登録商標)フローサイトメトリーにより精製した粘膜固有層のCD161Thmem細胞は、CDサンプルと正常サンプルの両方で(ELISAにより測定して)CD161Thmem細胞より4〜6倍多くのIL−17を産生することが分かっている。図1B参照。増大したIL−17産生と増大した細胞数の組合せは、CD161Thmem細胞が、CD患者の結腸におけるIL−17の主な供給源であることを示す。さらなるFACS(登録商標)フローサイトメトリーの実験は、CD161Thmem細胞の約3分の1がIL−23Rを発現し、かつIL−23の存在下でのCD161Thmem細胞の培養によってIL−17産生が約3倍高まったことを実証する。遺伝子発現プロファイリング(図1C)は、CD161Thmem細胞が、CD161細胞と比較して、Th17の表現型の特徴であるより高いレベルの様々な炎症促進性サイトカイン(IL−23R、IL−17、およびIL−22)を発現するが、Th1関連サイトカインIFN−γは発現しないことを実証する。
【0177】
PBMCを用いた類似の実験もまた、循環CD161CD4記憶T細胞が、Th17の表現型と一致した遺伝子発現およびサイトカイン産生プロファイルを示すことを示す。図2Aは、Th17細胞と関係があることが知られているいくつかの遺伝子(IL−23RA、ROR−γTおよびIL−17A)が、CD161細胞と比較してCD161細胞中で有意に上方制御されることを示す。図2Bは、既知のTh17関連サイトカインIL−17A、IL−22およびIL−17Fの産生が、CD161細胞と比較してCD161細胞中で有意に多いことを示す。
【0178】
このTh17の表現型はクローン病患者において増大する。FACS(登録商標)フローサイトメトリーにより精製したPBMC由来のCD161Thmem細胞は、CD161細胞よりも有意に高いレベルのIL−17を発現するが、IFN−γ産生のレベルは異ならない(いずれもRT定量的PCRにより測定して)。FACS(登録商標)フローサイトメトリーは、正常被験体由来のPBMC CD161Thmem細胞に関する約30%と比較して、CD患者由来のPBMC CD161Thmem細胞の約45%がIL−23Rを発現することを実証し、かつRT定量的PCRは、正常PBMCとCD PBMCの両方において、IL−23Rの発現が、CD161Thmem細胞と比較してCD161Thmem細胞において幾分高いことを示す。CD患者由来のPBMC CD161Thmem細胞は、IL−23と共に培養したとき、IL−17の産生増大も示す。
【0179】
総合すると、CDおよび正常被験体由来のLPMCおよびPBMCで得た結果は、本明細書に記載するCD161Thmem細胞サブセットが、以前から自己免疫性炎症障害に関係している同じ病原性Th17細胞を表わすという概念と一致する。
【0180】
血液から活性な炎症領域に遊走する病原性Th17細胞の能力も調べる。健康なヒトドナー由来のPBMCを使用する実験から、インテグリン−β7細胞の割合およびCCR6細胞の割合は、CD161細胞と比べて、CD161CD4記憶T細胞において約2倍であることが実証される(データ示さず)。インテグリン−α4と複合体形成するインテグリン−β7は、MAdCAM−1(消化管にホーミングするリンパ球に必要不可欠な組織特異的内皮細胞接着分子)と結合する。Briskinら、(1993年)Nature 363:461頁およびBerlinら、(1993年)Cell 74:185頁。CCR6はCD4記憶T細胞において優先的に発現され、かつ上皮部位への輸送を容易にする。Liaoら、(1999年)J.Immunol.162:186頁。その独特のケモカインリガンドCCL20(MIP−3α)はクローン病の炎症において劇的に誘導される。Kwonら、(2002年)Gut 51:818頁およびKaserら、(2004年)J.Clin.Immunol.24:74頁。これらの結果は、本明細書に記載するCD161CD4記憶T細胞が、消化管の炎症と関係がある細胞に予想されるホーミングおよびケモカイン受容体シグネチャーを示すことを実証する。
【0181】
(実施例5)
IL−1β、IL−23およびPGE2は病原性ヒトTh17細胞の発達を相乗的に駆動する
この実施例中で使用する方法は一般に、Wilsonら、(2007年)Nature Immunology 8:950頁で記載されたのと同様である。より具体的には、以下のように細胞培養を実施する。ナイーブCD4CD45ROT細胞は、以前に記載されたのと同様に(Wilsonら、(2007年)、上記)単離および培養する。記憶CD4CD45RAT細胞は、製造業者の説明書に従い、記憶T細胞単離キット、ヒト(Miltenyi、Auburn、CA)を使用して単離する。示した場合、50ng/mlのhIL−23、50ng/mlのhIL−1β(R&D Systems、Minneapolis、MN)、10μMのPGE2(Sigma、St.Louis、MO)、10μMのブタプロスト(EP2選択的アゴニスト)、35μMのミソプロストール(EP4、EP3>EP1>EP2非選択的アゴニスト)、および/または10μMのスルプロストン(EP1、EP3アゴニスト、Cayman Chemical、Ann Arbor、MI)を加える。
【0182】
細胞分取(cell sorting)は以下のように実施する。CD4CCR6およびCD4CCR6細胞サブセットは、抗CCR6および抗CD4抗体(BD Biosciences、San Diego、CA)を使用する細胞分取によって精製する。細胞分取はFACS(登録商標)Aria機器(BD Biosciences)を用いて実施する。
【0183】
細胞表面タンパク質を分析するために、細胞は抗CD4、抗CD3、抗CD45RA、抗CCR6(BD Biosciences)、および/または抗IL−23R(R&D Systems)抗体で染色する。データはLSR IIサイトメーターで得て、FlowJoソフトウェア(Tree Star、Ashland、OR)を用いて分析する。
【0184】
ELISAおよび電気化学発光アッセイは以前に記載されたのと同様に(Wilsonら、(2007年)、上記)実施する。IL−10のELISAはR&D Systemsからのキットを使用して実施する。
【0185】
リアルタイム定量的PCRは、以前に記載されたのと同様に(Wilsonら、(2007年)、上記)実施する。
【0186】
(多数群に関する)マンホイットニーまたは一元配置(one−way)ANOVA検定を統計分析に使用する。0.05以下のP値を有意であるとし、かつすべてのデータは平均+標準誤差として表わす。
【0187】
実験を実施して、サイトカイン産生に対するIL−12、IL−23、IL−1βおよび/またはPGE2の影響を決定する。ナイーブヒトPBMC CD4Tリンパ球を抗CD2、抗CD3、および抗CD28で被覆したビーズで活性化し、IL−2、IL−12、IL−23、PGE2、IL−1β、またはPGE2とIL−1βの組合せの存在下で10〜12日間培養する。培養したT細胞は、48時間IL−2の存在下で抗CD2、抗CD3、および抗CD28で被覆したビーズで再刺激し、次いで細胞を含まない上清をIL−17AおよびIFN−γ産生に関して評価する。これらの結果はそれぞれ図3Aおよび3Bで表わす。IL−1βとPGE2の両方の存在下で培養した細胞はIL−17Aの増加した発現、およびIFN−γの低い発現を示す。
【0188】
さらなる実験を実施して、培養物中のナイーブヒトCD4T細胞におけるIL−23Rの発現に対するPGE2、またはそのアゴニストの影響を決定する。PGE2への曝露は、スルプロストンではなくEP受容体アゴニストであるブタプロストおよびミソプロストールへの曝露と同様に(図4B)、IL−23Rを発現するCD4T細胞の割合を2倍より多くする(図4A)。ブタプロスト(EP2特異的)およびミソプロストール(EP4、EP3>EP1>EP2)はPGE2の影響に模擬しているが、一方EP1/EP3アゴニストであるスルプロストンはそうではないという事実は、PGE2シグナル伝達は、ナイーブヒトCD4T細胞に対するその影響を媒介する際にEP2受容体および/またはEP4受容体を介して起こることを示唆する。さらに、IL−1R1遺伝子発現は、PGE2に応答して増大する(データ示さず)。
【0189】
図5A〜5C中に示すように、PGE2およびEP受容体アゴニストは、IL−1βおよびIL−23と共に、培養物中のナイーブヒトCD4T細胞によるサイトカイン発現に対して影響を有する。これらの結果は、PGE2がIL−1βおよびIL−23と共に、EP2受容体およびEP4受容体を介してヒトTh17細胞の発達を高めることを示唆する。EP2アゴニストであるブタプロストは、ミソプロストールよりIL−17発現の幾分大きな増大を誘導する。抗炎症性サイトカインであるIL−10の下方制御(図5C)も、Th17媒介型炎症を誘導する際のPGE2に関する役割と一致する。IL−10がマウス中でTh17細胞の病原性を抑えることを示唆する、Jankovic & Trinchieri(2007年)Nature Immunol.8:1281頁およびMcGeachyら、(2007年)Nature Immunol.8:1390頁も参照。ブタプロストとミソプロストールで得た結果の比較は、IL−17Aの増大がEP2によって主に媒介され、一方IL−10の低下はEP4によって主に媒介されることを示唆する。
【0190】
PGE2をIL−1βおよびIL−23に加えたときにCCR6を発現したナイーブヒトCD4T細胞の割合の増大を示す図6Aにおいて示すように、Th17サイトカイン産生と関係があるCCR6発現(図6Bおよび6C)もPGE2に応答性がある。Acosta−Rodriguezら、(2007年)Nature Immunol.8:639頁およびAnnunziatoら、(2007年)J.Exp.Med.204:1849頁;Singhら、(2008年)J.Immunol.180:214頁も参照。実験的自己免疫性脳症(EAE)、関節リウマチおよび乾癬において、CCR6は病原性T細胞の動員と関係がある。Homeyら、(2000年)J.Immunol.164:6621頁;Kohlerら、(2003年)J.Immunol.170:6298頁;Ruthら、(2003年)Lab.Invest.83:579頁。図3〜6中に示す結果は、病原性エフェクターTh17細胞の発達を促進する際のPGE2に関する役割と一致する。
【0191】
図7A(タンパク質発現)および7B(遺伝子発現)で示す結果は、PGE2が活性化記憶T細胞において病原性Th17表現型を増大させることを実証する。特に、PGE2は一般に、IL−17Aレベルの増大およびROR−γtの発現を促進し、これらの両方が病原性Th17細胞と関係があるが、IFN−γまたはIL−10レベルの増大は促進せず、T−betの発現も増大させない。活性化/記憶T細胞は炎症組織中で主な細胞集団となるので、かつナイーブヒトT細胞に関して前に示したデータを踏まえると、本明細書で示す結果は、リンパ節におけるT細胞分化の間および、組織炎症の部位の活性化の間の両方に存在する、炎症性サイトカインと非サイトカイン免疫調節因子の組合せは、Th17細胞の最終的な表現型を決定するはずであることを示唆する。したがって、炎症性サイトカインおよび非サイトカイン免疫調節因子のアンタゴニストなどの治療剤を用いた介入は、全身投与したとき、および炎症部位(または近辺)に局所投与したときもともに、有益であると予想できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
明細書中に記載の発明。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−251002(P2012−251002A)
【公開日】平成24年12月20日(2012.12.20)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2012−212022(P2012−212022)
【出願日】平成24年9月26日(2012.9.26)
【分割の表示】特願2009−551701(P2009−551701)の分割
【原出願日】平成20年2月26日(2008.2.26)
【出願人】(596129215)メルク・シャープ・アンド・ドーム・コーポレーション (785)
【氏名又は名称原語表記】Merck Sharp & Dohme Corp.
【住所又は居所原語表記】One Merck Drive,Whitehouse Station,New Jersey 08889,U.S.A.
【Fターム(参考)】