説明

免疫測定用粒子懸濁液及び免疫測定用試薬キット

【課題】
免疫測定用粒子懸濁液及び免疫測定用試薬キットにおいて、安価で簡便に粒子の分散性を向上した、免疫測定に用いられる免疫測定用粒子懸濁液及びそれを含む免疫測定用試薬キットを提供することを目的とする。
【解決手段】
免疫測定に用いられる粒子とシリコン系消泡剤とを含む免疫測定用粒子懸濁液、並びに、粒子及びシリコン系消泡剤を含む試薬と、目的物質及び粒子に結合可能な抗原又は抗体を含む試薬と、目的物質に結合可能な標識抗原又は標識抗体を含む試薬とを含む免疫測定用試薬キットを提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、免疫測定用粒子懸濁液及び免疫測定用試薬キットに関する。
【背景技術】
【0002】
試料中の抗体又は抗原を検出するための免疫測定法として、検出対象の抗体又は抗原に結合する抗原又は抗体を固定化した粒子を用いる方法が知られている。この方法では、検出対象の抗体又は抗原を前記の粒子と接触させることで、粒子上で抗原−抗体複合体を形成する。そして、粒子上に形成された抗原−抗体複合体を標識物質で標識することで、検出対象の抗体又は抗原を検出する。
【0003】
一般的に、上述した免疫測定法では、抗原又は抗体を固定化した粒子を懸濁した試薬が用いられる。ここで、粒子を懸濁した試薬に含まれる粒子は、凝集する場合がある。凝集した粒子を含む試薬を測定に用いると、検査の精度が低下する恐れがある。そのため、試薬を使用する際、試薬中の粒子を十分に分散させる必要がある。
【0004】
ここで、粒子を懸濁した試薬における、粒子の分散性を向上させるために、粒子表面に所定の化合物を、被覆又は吸着させることも知られている。例えば、特許文献1には、粒子表面を化学修飾によりクエン酸で被覆し、粒子の分散性を向上させる方法が開示されている。また、特許文献2には、粒子表面に所定量の二塩基性有機酸化合物及び/または三塩基性有機酸化合物を吸着させ、粒子の分散性を向上させる方法が開示されている。しかしながら、特許文献1及び2の方法は、粒子表面の処理が煩雑で、且つ費用がかかるという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−282582号公報
【特許文献2】特開2007−169209号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明では、このような事情を鑑みてなされたものであり、安価で簡便に粒子の分散性を向上した、免疫測定用粒子懸濁液及びそれを含む免疫測定用試薬キットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記の課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、免疫測定用粒子懸濁液にシリコン系消泡剤を添加することにより、粒子の分散性が向上することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は
(1)免疫測定に用いられる粒子と、シリコン系消泡剤とを含む免疫測定用粒子懸濁液;
(2)前記シリコン系消泡剤が、水溶性のシリコン系消泡剤である上記(1)に記載の懸濁液;
(3)前記水溶性のシリコン系消泡剤が、エマルジョン型又は自己乳化型のシリコン系消泡剤である上記(2)に記載の懸濁液;
(4)多価カルボン酸又はその塩をさらに含む、上記(1)〜(3)のいずれかに記載の懸濁液;
(5)前記多価カルボン酸が、クエン酸又は酒石酸である上記(4)に記載の懸濁液;
(6)前記粒子が、磁性粒子である上記(1)〜(5)のいずれかに記載の懸濁液:
(7)粒子及びシリコン系消泡剤を含む試薬と、目的物質及び粒子に結合可能な、抗原又は抗体を含む試薬と、目的物質に結合可能な、標識抗原又は標識抗体を含む試薬と、を含む免疫測定用試薬キット;
(8)標的物質が酵素であり、酵素と反応するための基質を含む試薬をさらに含む上記(7)に記載の免疫測定用試薬キット;
(9)前記基質が、発光基質、蛍光基質又は発色基質である上記(8)に記載の免疫測定用試薬キット;
を提供する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、安価で簡便に粒子の分散性を向上した免疫測定用粒子懸濁液、及びそれを含む免疫測定用試薬キットを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】免疫分析装置の全体構成を示す斜視図である。
【図2】図1に示した免疫分析装置の平面図である。
【図3】図1に示した試薬設置部の全体構成を示す斜視図である。
【図4】図3に示した試薬設置部の試薬保持部の平面図である。
【図5】懸濁液1〜3を用いて、磁性粒子の分散性測定を行った場合の、相対吸光度のパーセンテージを示すグラフである。
【図6】懸濁液1、2及び4を用いて、磁性粒子の分散性測定を行った場合の、相対吸光度のパーセンテージを示すグラフである。
【図7】懸濁液1及び5〜7を用いて、磁性粒子の分散性測定を行った場合の、相対吸光度のパーセンテージを示すグラフである。
【図8】懸濁液1及び8〜10を用いて、磁性粒子の分散性測定を行った場合の、相対吸光度のパーセンテージを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本実施形態における免疫測定用粒子懸濁液は、免疫測定に用いられる粒子と、シリコン系消泡剤が含まれている。
【0012】
ここで、免疫測定は、固相として粒子を用いる免疫測定であれば、特に制限されない。一般的な、粒子を用いる免疫測定では、後述する目的物質を、目的物質に結合可能な抗原又は抗体を介して粒子上に結合させる。これにより、粒子上に、目的物質と、抗原又は抗体とを含む複合体が形成される。そして、粒子上に形成された複合体を標識し、その標識を用いて目的物質を検出する。
【0013】
また、粒子は、上記の免疫測定に用いられる粒子であれば、特に限定されない。免疫測定で用いられる具体的な粒子としては、例えば、磁性粒子、ラテックス、赤血球、ゼラチン粒子などが挙げられる。本実施形態における粒子としては、磁性粒子が好ましい。
【0014】
ここで、磁性粒子としては、磁性を有する材料を基材として含み、上記の免疫測定に用いられる粒子であれば、特に制限されない。このような磁性粒子は当該技術において公知であり、基材として例えばFe及び/又はFe、コバルト、ニッケル、フェライト、マグネタイトなどを用いたものが知られている。
【0015】
本実施形態においてシリコン系消泡剤は、珪素化合物を含む消泡剤であればよく、特に制限されない。ここで、本実施形態におけるシリコン系消泡剤としては、水系での使用という観点から、水溶性のシリコン系消泡剤が好ましい。具体的な水溶性のシリコン系消泡剤としては、エマルジョン型又は自己乳化型のシリコン系消泡剤が挙げられる。また、これらのシリコン系消泡剤は市販されており、容易に入手可能である。市販のシリコン系消泡剤の具体例としては、KS−538(信越シリコーン(株))、KM−70(信越シリコーン(株))、KM−72F(信越シリコーン(株))、TSA770(コメンタティブ(株))、TSA732(コメンタティブ(株))、TSA7341(コメンタティブ(株)、AntifoamSI(和光純薬工業(株))、SM5571(東レシリコーン(株))などが挙げられる。これら市販のシリコン系消泡剤の中で、商品名「AntifoamSI」は、特に優れた分散作用を発揮できるので好適である。
【0016】
また、本実施形態の粒子の懸濁液は、多価カルボン酸又はその塩をさらに含むことができる。多価カルボン酸又はその塩をさらに含むことで、懸濁液に含まれる粒子の分散性をさらに向上させることができる。ここで、多価カルボン酸又はその塩としては、例えば、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、リンゴ酸、グルタル酸、アジピン酸、マレイン酸、フマル酸、酒石酸、エチレンジアミン二酢酸、イミノ二酢酸、N−(2−アセトアミド)イミノ二酢酸、トリカルバリル酸、アコニット酸、ニトリロ三酢酸、ニトリロ三プロピオン酸、ジアミノプロパン四酢酸、ジアミノプロパノール四酢酸、及びグリコールエーテルジアミン四酢酸、又はそれらの塩などが挙げられる。好ましい多価カルボン酸又はその塩としては、クエン酸及び酒石酸、又はそれらの塩が挙げられ、特にクエン酸又はその塩が好ましい。より具体的な、多価カルボン酸又はその塩としては、クエン酸三ナトリウム二水和物や酒石酸カリウムナトリウム四水和物などが挙げられる。
【0017】
本実施形態の免疫測定用粒子懸濁液における多価カルボン酸又はその塩の濃度は、懸濁液中の粒子の分散性や免疫測定の条件などに応じて適宜調整すればよく、特に制限されない。なお、懸濁液中の粒子の分散性を向上させるために、懸濁液における多価カルボン酸又はその塩の濃度は、0.1mM以上が好ましく、特に1mM以上が好ましい。免疫測定におけるpHの影響を抑えるために、懸濁液における多価カルボン酸又はその塩の濃度は、20mM以下が好ましく、特に10mM以下が好ましい。すなわち、該濃度は、0.1mM〜20mMが好ましく、特に1mM〜10mMが好ましい。
【0018】
なお、本実施形態の免疫測定用粒子懸濁液は、免疫測定の試薬に含むことができる、その他の成分をさらに含んでもよい。その他の成分としては、例えば、緩衝剤、保存剤、及び血清タンパク質などが挙げられる。
【0019】
本実施形態における免疫測定用試薬キットには、目的物質及び粒子に結合可能な抗原又は抗体を含む第1試薬と、粒子及びシリコン系消泡剤を含む第2試薬と、目的物質に結合可能な標識抗原又は標識抗体を含む第3試薬とが含まれている。
【0020】
ここで、本実施形態における第2試薬は、上述の免疫測定用粒子懸濁液と同様である。
【0021】
本実施形態において、目的物質は、免疫測定により検出可能な物質であれば、特に限定されない。すなわち、目的物質は、抗原抗体反応により、粒子上に目的物質と抗原又は抗体とを含む複合体の形成が可能であれば良い。目的物質の例としては、タンパク質、核酸、糖、及び脂質などが挙げられる。より具体的な目的物質としてはヒト免疫不全ウイルス(HIV)及びそれに対する抗体、ヒトT細胞向性ウイルス1型(HTLV−1)及びそれに対する抗体、C型肝炎ウイルス(HCV)及びそれに対する抗体、B型肝炎ウイルス(HBV)及びそれに対する抗体、癌胎児性抗原(CEA)、C反応性タンパク質(CRP)、PSA、CYFRA、ProGRP、梅毒トレポネーマ(TP)抗体、CA19−9、CA125、CA15−3、トロポニン、α1−アンチトリプシン、α1−ミクログロブリン、β2−ミクログロブリン、TPAb、TgAb、TPOAb,TRAb,ハプトグロブリン、トランスフェリン、セルロプラスミン、フェリチン、アルブミン、ヘモグロビンA1、ヘモグロビンA1C、ミオグロビン、ミオシン、デュパン−2、α−フェトプロテイン(AFP)、組織ポリペプチド抗原(TPA)、脳性ナトリウム利尿ペプチド(BNP)、アポリポタンパクA1、アポリポタンパクE、リウマチ因子、抗ストレプトリジンO(ASO)、アンチトロンビンIII(AT−III)、プラスミン・α2プラスミンインヒビター複合体(PIC)、トロンビン・アンチトロンビンIII複合体(TAT)、トロンボモジュリン(TM)、組織プラスミノゲンアクチベーター・プラスミノゲンアクチベーターインヒビターI複合体(tPAI・C)、甲状腺ホルモン(サイロキシン(T3)、遊離サイロキシン(FT3)、トリオードサイロニン(T4)、遊離トリオードサイロニン(FT4))、甲状腺刺激ホルモン(TSH)、黄体ホルモン(LH)、卵胞刺激ホルモン(FSH)、インスリン、SP−A、HCG、プロラクチン(PRL)、E2、プロゲステロンなどが挙げられる。
【0022】
本実施形態の第1試薬における、「目的物質及び粒子に結合可能な抗原または抗体」の抗原または抗体は、上述した目的物質と抗原抗体反応により結合する抗体または抗原であれば良い。また、この抗原または抗体は、上述の粒子に結合可能である。抗原または抗体を粒子に結合可能にする様式としては、当該技術において公知の様式を用いることができる。好ましくは、抗原または抗体に粒子結合部位を結合させ、粒子に粒子結合部位に結合可能な結合物質を固定化する。これにより、粒子結合部位と結合物質との結合を利用して、抗原または抗体を、粒子に結合可能にすることができる。
【0023】
上記の粒子結合部位と結合物質は、本実施形態の免疫測定用試薬キットによる免疫測定の条件下で、特異的に結合できる物質の組み合わせであれば特に限定されない。これらの組み合わせとして、例えばビオチンとアビジン類、ハプテンと抗ハプテン抗体、ニッケルとヒスチジンタグ、グルタチオンとグルタチオン−S−トランスフェラーゼなどが挙げられる。粒子結合部位と結合物質の組み合わせとしては、ビオチンとアビジン類との組み合わせが好ましい。粒子結合部位と結合物質との組み合わせに用いられる各々の物質は、どちらを粒子結合部位または結合物質に使用しても良い。より好ましい組み合わせとしては、粒子結合部位がビオチンを含み、結合物質がアビジン類を含む組み合わせが挙げられる。なお、本明細書において「アビジン類」は、アビジン及びストレプトアビジンを含むことを意味する。
【0024】
なお、粒子結合部位を抗原または抗体に結合させる方法は、当該技術において公知である。例えば、粒子結合部位がビオチンを含む場合、抗原または抗体中のアミノ基やチオール基などと反応性を有する基を介してビオチンを抗体に結合させることができる。アミノ基と反応性を有する基としてはNHS基が挙げられ、チオール基と反応性を有する基としてはマレイミド基などが挙げられる。
【0025】
また、結合物質を粒子に固定化する方法も、当該技術において公知である。該固定化は、例えば物理的吸着法、共有結合法、イオン結合法、これらの組み合わせなどにより行うことができる。例えば、結合物質がアビジン類である場合、物理的吸着によりアビジンを粒子に直接固定化することができる。また、アビジン類と結合可能な物質、例えばビオチンが結合した粒子にアビジン類を結合させることで、アビジン類を粒子に固定化することもできる。また、特開2006−226689号公報に記載の方法により、アビジン類を粒子に固定化することも可能である。なお、アビジン類を結合させた粒子は、例えばJSR株式会社やダイナルバイオテック社などから購入することもできる。
【0026】
本実施形態において、第3試薬における「目的物質に結合可能な標識抗原または標識抗体」の抗原または抗体は、標識物質により標識され、且つ、上述の「目的物質及び粒子に結合可能な抗原または抗体」における抗原または抗体とは異なる目的物質の結合部位を認識する抗原または抗体であれば良い。
【0027】
上記の標識物質は、通常の免疫測定法において用い得る標識物質であれば特に限定されない。例えば、酵素、蛍光物質、放射性同位元素などが挙げられる。ここで、酵素としては、例えば、アルカリホスファターゼ、ペルオキシダーゼ、グルコースオキシダーゼ、チロシナーゼ、及び酸性ホスファターゼなどが挙げられる。また、蛍光物質としては、フルオレセインイソチオシアネート(FITC)、グリーン蛍光タンパク質(GFP)、及びルシフェリンなどが挙げられる。放射性同位元素としては、125I、14C、及び32Pなどが挙げられる。本実施形態における標識物質としては、酵素が好ましい。
【0028】
また、標識物質が酵素である場合、上記の試薬キットは、該酵素に対する基質を含む第4試薬をさらに含むことが好ましい。ここで、基質としては、当該技術において公知の基質を用いればよく、標識物質として用いる酵素に応じて、適宜選択すればよい。例えば、酵素としてアルカリホスファターゼを用いる場合の基質としてはCDP−Star(商標登録)、(4−クロロ−3−(メトキシスピロ{1,2−ジオキセタン−3,2'―(5'−クロロ)トリクシロ[3.3.1.13,7]デカン}−4−イル)フェニルリン酸2ナトリウム)、CSPD(商標登録)(3−(4−メトキシスピロ{1,2−ジオキセタン−3,2−(5'−クロロ)トリシクロ[3.3.1.13,7]デカン}−4−イル)フェニルリン酸2ナトリウム)などの化学発光基質;p−ニトロフェニルホスフェート、5−ブロモ−4−クロロ−3−インドリルリン酸(BCIP)、4−ニトロブルーテトラゾリウムクロリド(NBT)、ヨードニトロテトラゾリウム(INT)などの発光基質;4−メチルウムベリフェニル・ホスフェート(4MUP)などの蛍光基質;5−ブロモ−4−クロロ−3−インドリルリン酸(BCIP)、5−ブロモ−6−クロロ−インドリルリン酸2ナトリウム、p−ニトロフェニルリンなどの発色基質が挙げられる。
【0029】
なお、抗原や抗体を標識物質で標識する方法は、当該分野において公知である。例えば、抗原または抗体のチオール(−SH基)を用いて上記の標識物質を抗原または抗体と結合させる方法が知られている。より具体的には、チオール基と反応できる官能基、例えばマレイミド基を導入した上記の標識物質を、抗原または抗体と反応させることにより、抗原または抗体を標識物質で標識できる。
【0030】
なお、標識抗原または標識抗体は、標識物質の種類に応じて、当該分野で用いられる公知の方法で検出することができる。例えば、標識物質が酵素である場合、上述の基質との反応で生じた発光、蛍光または発色を、分光光度計やルミノメータなどを用いて検出することで、標識抗原または標識抗体を検出することができる。また、標識物質が蛍光物質である場合、蛍光物質からの蛍光を、分光光度計やルミノメータなどを用いて検出することで、標識抗原または標識抗体を検出することができる。また、標識物質が放射性同位体である場合、放射性同位体からの放射線を、シンチレーションカウンターなどを用いて検出することで、標識抗原または標識抗体を検出することができる。
【0031】
本実施形態における免疫測定用試薬キットに含まれる各試薬は、液体であってもよいし、用時に水などを加えて用いるため固体であってもよい。
【0032】
液体の形態の試薬は、適切な溶媒中に、少なくとも上記の各成分を溶解したものであればよい。適切な溶媒としては、水、pH6〜10の緩衝液などが挙げられる。該緩衝液としては、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)、トリエタノールアミン塩酸塩緩衝液(TEA)、トリス塩酸緩衝液(Tris−HCl)、2−モルホリノエタンスルホン酸(MS)などを用いることができる。該緩衝液は、界面活性剤、保存液、血清タンパク質などの公知の添加剤を含んでいてもよい。
【0033】
上記の固体の形態の試薬は、上記の成分が溶解された適切な溶媒を、凍結乾燥などにすることにより得ることができる。
【0034】
また、本実施形態の免疫測定用試薬キットは、免疫分析装置に好適に用いることができる。以下、本実施形態の免疫測定用試薬キット1000を用いた免疫分析装置1による、血液などの検体に含まれる測定対象の抗原(目的物質)の測定について説明する。
【0035】
免疫測定用試薬キット1000は、目的物質及び前記磁性粒子に結合可能な捕捉抗体を含む第1試薬と、磁性粒子及びシリコン系消泡剤を含む第2試薬と、目的物質に結合可能な標識抗体を含む第3試薬と、発光基質を有する第4試薬が含まれている。
【0036】
この免疫分析装置1は、図1および図2に示すように、測定機構部2と、測定機構部2の前面側に配置された検体搬送部(サンプラ)3と、測定機構部2に電気的に接続されたPC(パーソナルコンピュータ)からなる制御装置4とを備えている。また、測定機構部2は、検体分注アーム5と、試薬設置部6および7と、試薬分注アーム8、9および10と、1次反応部11および2次反応部12と、キュベット供給部13と、BF分離部14と、検出部15とから構成されている。
【0037】
まず、検体搬送部3により吸引位置1aに搬送された試験管100内の検体は、検体分注アーム5により、1次反応部11に保持されるキュベット150内に分注される。次に、試薬設置部6に保持された第1試薬が、試薬分注アーム8により、1次反応部11に保持されている検体が分注されたキュベット150内に分注される。これにより、検体中の目的物質と捕捉抗体が結合し、目的物質と捕捉抗体からなる第1複合体が形成される。次に、試薬設置部7に保持された第2試薬が、試薬分注アーム9により、1次反応部11に保持されている第1複合体を含むキュベット150内に分注される。これにより、第1複合体と磁性粒子が結合し、第1複合体と磁性粒子からなる第2複合体が形成される。次に、1次反応部11の容器搬送部11cによりキュベット150は、BF分離部14に搬送される。そして、BF分離部14によって、キュベット150内の試料から未反応の捕捉抗体が、第2複合体から分離される。次に、2次反応部12の容器搬送部12cにより、BF分離部14により処理されたキュベット150が、2次反応部12に搬送される。そして、試薬設置部7に保持された第3試薬が、試薬分注アーム9により、2次反応部12に保持されている第2複合体を含むキュベット150内に分注される。これにより、第2複合体と標識抗体が結合し、第2複合体と標識抗体からなる第3複合体が形成される。次に、容器搬送部12cによりキュベット150は、BF分離部14に搬送される。そして、BF分離部14によって、キュベット150内の試料から未反応の標識抗体が、第3複合体から分離される。次に、容器搬送部12cにより、BF分離部14により処理されたキュベット150が、2次反応部12に搬送される。そして、第4試薬が、第4試薬分注アーム(図示せず)により、2次反応部12に保持されている第3複合体を含むキュベット150内に分注される。これにより、第3複合体に含まれる標識抗体と、発光基質とが反応し光が生じる。そして、検出部15により、前記光を光電子増倍管(Photo Multiplier Tube)で取得することにより、その検体に含まれる抗原の量を測定する。
【0038】
試薬設置部7は、図3に示すように、第2試薬が収容される試薬容器310を保持する試薬収容具300を設置するために設けられている。ここで、図4に示すように、第2試薬を収容する試薬容器310(試薬収容具300)を保持するラック600は、ステッピングモータ23の駆動により回転軸22が矢印A方向及び矢印B方向に往復回転可能に構成されている。すなわち、ラック600を矢印A方向及び矢印B方向に往復回転させることにより第2試薬を攪拌して、一般的な粒子と比較して重量の大きい粒子である磁性粒子が沈殿するのを抑制している。より具体的には、ラック600は、一定の速さで、一定の角度αの角度範囲を往復動する。ここで、速度を早くし、且つ角度αを大きくすれば、当然試薬を十分に撹拌できる。しかしながら、本実施形態の免疫測定用試薬キット1000の第2試薬は、シリコン系消泡剤を含有するため、従来よりも遅い各速度で十分に磁性粒子を分散させることができる。
【実施例1】
【0039】
<懸濁液1〜3及び磁性粒子保存バッファーの調製>
懸濁液1〜3及び磁性粒子保存バッファーを、以下の通りに調製した。
(1)懸濁液1
市販の磁性粒子(平均粒径2μm) 0.5%
MES(2-morpholonoethanesulphonic acid)(pH6.5) 20mM
BSA 0.1%
NaN3 0.1%
(2)懸濁液2
市販の磁性粒子(平均粒径2μm) 0.5%
MES(2-morpholonoethanesulphonic acid)(pH6.5) 20mM
BSA 0.1%
NaN3 0.1%
AntifoamSI(和光純薬(株)) 0.015%
(3)懸濁液3
市販の磁性粒子(平均粒径2μm) 0.5%
MES(2-morpholonoethanesulphonic acid)(pH6.5) 20mM
BSA 0.1%
NaN3 0.1%
AntifoamSI(和光純薬(株)) 0.015%
クエン酸ナトリウム 10mM
(4)磁性粒子保存バッファー
MES(2-morpholonoethanesulphonic acid)(pH6.5) 20mM
BSA 0.1%
NaN3 0.1%
【0040】
<粒子の分散性評価>
懸濁液1〜4をそれぞれに対応する容器へ4mL分注し、十分に攪拌/静置した後、磁性粒子が沈殿した状態でHISCL−2000i(シスメックス株式会社)に設置した。
次いで、HISCL−2000iによる攪拌動作を開始し、該動作開始から2分後、4分後、6分後及び10分後に懸濁液1〜4の上澄みを20μLサンプリングし、磁性粒子保存バッファー 980μLで希釈後、分光光度計により600nmの吸光度を測定した。
【0041】
ここで磁性粒子が完全に分散したときの吸光度を100%としたときの相対吸光度(%)を次式で求め、分散性の評価を実施した。
【0042】
【数1】

【0043】
懸濁液1〜4の相対吸光度の値をグラフにして、図5に示す。
これらの結果から、シリコン系消泡剤を含有する懸濁液を用いることにより、磁性粒子の分散性が向上し、かつ磁性粒子が短時間で分散できることがわかる。
また、シリコン系消泡剤及びクエン酸ナトリウムを含有する懸濁液を用いることにより、クエン酸ナトリウムが含まれることによって、磁性粒子の分散性がさらに向上することがわかる。
【0044】
次に、シリコン系消泡剤及びクエン酸ナトリウムを含有する懸濁液による分散性の向上が、クエン酸のみに起因するものであるか、多価カルボン酸に起因するものであるかを調べるため、クエン酸以外の多価カルボン酸として酒石酸カリウムナトリウム四水和物を用いて実施例2を行った。
【実施例2】
【0045】
<懸濁液4の調製>
懸濁液4を、以下の通りに調製した。
懸濁液4
市販の磁性粒子(平均粒径2μm) 0.5%
MES(2-morpholonoethanesulphonic acid)(pH6.5) 20mM
BSA 0.1%
NaN3 0.1%
AntifoamSI(和光純薬(株)) 0.015%
酒石酸カリウムナトリウム四水和物 10mM
【0046】
<粒子の分散性評価>
懸濁液4、実施例1で調製された懸濁液1及び2を、前記実施例1の粒子の分散性評価を用いて分散性の評価を実施した。
【0047】
懸濁液1、2及び4の相対吸光度の値をグラフにして、図6に示す。
これらの結果から、シリコン系消泡剤及び酒石酸カリウムナトリウム四水和物を含有する懸濁液を用いることにより、磁性粒子の分散性が向上し、かつ磁性粒子が短時間で分散できることがわかる。
また、磁性粒子の分散性を向上する効果は、クエン酸ナトリウム、酒石酸カリウムナトリウム四水和物とともに多価カルボン酸からなる群より選択される少なくとも1つを用いることにより、より向上することがわかる。
【0048】
次に、シリコン系消泡剤及び多価カルボン酸を含有する懸濁液による分散性の向上が、多価カルボン酸の濃度に起因するかを調べるため、多価カルボン酸としてクエン酸ナトリウムを用いて実施例3を行った。
【実施例3】
【0049】
<懸濁液5〜7の調製>
懸濁液5〜7を、以下の通りに調製した。
懸濁液5
市販の磁性粒子(平均粒径2μm) 0.5%
MES(2-morpholonoethanesulphonic acid)(pH6.5) 20mM
BSA 0.1%
NaN3 0.1%
AntifoamSI(和光純薬(株)) 0.015%
クエン酸ナトリウム 0.1mM
(2)懸濁液6
市販の磁性粒子(平均粒径2μm) 0.5%
MES(2-morpholonoethanesulphonic acid)(pH6.5) 20mM
BSA 0.1%
NaN3 0.1%
AntifoamSI(和光純薬(株)) 0.015%
クエン酸ナトリウム 1mM
懸濁液7
市販の磁性粒子(平均粒径2μm) 0.5%
MES(2-morpholonoethanesulphonic acid)(pH6.5) 20mM
BSA 0.1%
NaN3 0.1%
AntifoamSI(和光純薬(株)) 0.015%
クエン酸ナトリウム 10mM
【0050】
<粒子の分散性評価>
懸濁液5〜7及び実施例1で調製された懸濁液1を、前記実施例1の粒子の分散性評価を用いて分散性の評価を実施した。
【0051】
懸濁液1及び5〜7の相対吸光度の値をグラフにして、図7に示す。
これらの結果から、シリコン系消泡剤及びクエン酸ナトリウムを含有する懸濁液において、クエン酸ナトリウム濃度が高くなると、磁性粒子の分散性が増し、かつ磁性粒子がより短時間で分散できることがわかる。
また、懸濁液1の値と比較して、懸濁液7は磁性粒子の分散性が向上した。これにより、懸濁液に含有するクエン酸濃度が0.1mM以上であれば分散性の効果を得られることがわかる。
【0052】
次に、シリコン系消泡剤及び多価カルボン酸を含有する懸濁液による分散性の向上が、多価カルボン酸のみに起因するかを調べるため、シリコン系消泡剤の非存在下で、多価カルボン酸としてクエン酸ナトリウムを用いて実施例4を行った。
【実施例4】
【0053】
<懸濁液8〜10の調製>
懸濁液8〜10を、以下の通りに調製した。
(1)懸濁液8
市販の磁性粒子(平均粒径2μm) 0.5%
MES(2-morpholonoethanesulphonic acid)(pH6.5) 20mM
BSA 0.1%
NaN3 0.1%
クエン酸ナトリウム 0.1mM
(2)懸濁液9
市販の磁性粒子(平均粒径2μm) 0.5%
MES(2-morpholonoethanesulphonic acid)(pH6.5) 20mM
BSA 0.1%
NaN3 0.1%
クエン酸ナトリウム 1mM
懸濁液10
市販の磁性粒子(平均粒径2μm) 0.5%
MES(2-morpholonoethanesulphonic acid)(pH6.5) 20mM
BSA 0.1%
NaN3 0.1%
クエン酸ナトリウム 10mM
【0054】
<粒子の分散性評価>
懸濁液8〜10及び実施例1で調製された懸濁液1を、前記実施例1の粒子の分散性評価を用いて分散性の評価を実施した。
【0055】
懸濁液1及び8〜10の相対吸光度の値をグラフにして、図8に示す。
これらの結果から、懸濁液8〜10では、顕著な磁性粒子の分散性が見られなかった。また、シリコン系消泡剤及び多価カルボン酸を含有しない懸濁液1では、前記同様に、顕著な磁性粒子の分散性が見られなかった。これにより、多価カルボン酸における磁性粒子の分散性は、シリコン系消泡剤存在下に起因するものであり、多価カルボン酸のみに起因するものではないことがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
免疫測定に用いられる粒子と、シリコン系消泡剤とを含む免疫測定用粒子懸濁液。
【請求項2】
前記シリコン系消泡剤が、水溶性のシリコン系消泡剤である請求項1に記載の懸濁液。
【請求項3】
前記水溶性のシリコン系消泡剤が、エマルジョン型又は自己乳化型である請求項2記載の懸濁液。
【請求項4】
多価カルボン酸又はその塩をさらに含む請求項1乃至3のいずれかに記載の懸濁液。
【請求項5】
前記多価カルボン酸又はその塩は、クエン酸、酒石酸、クエン酸塩又は酒石酸塩である請求項4に記載の懸濁液。
【請求項6】
前記粒子が、磁性粒子である請求項1乃至5のいずれかに記載の懸濁液。
【請求項7】
粒子及びシリコン系消泡剤を含む試薬と、
目的物質及び粒子に結合可能な、抗原又は抗体を含む試薬と、
目的物質に結合可能な、標識抗原又は標識抗体を含む試薬と、
を含む免疫測定用試薬キット。
【請求項8】
標的物質が酵素であり、酵素と反応するための基質を含む試薬をさらに含む請求項7に記載の免疫測定用試薬キット。
【請求項9】
前記基質が、発光基質、蛍光基質又は発色基質である請求項8に記載の免疫測定用試薬キット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−47788(P2011−47788A)
【公開日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−196365(P2009−196365)
【出願日】平成21年8月27日(2009.8.27)
【出願人】(390014960)シスメックス株式会社 (810)
【Fターム(参考)】