説明

免疫測定試薬

【課題】 CTBAに特異的な抗体の製造方法、および、該抗体を含むアクリルアミド検出試薬、アクリルアミド検出器、および、アクリルアミド検出キットの製造方法を提供すること。
【解決手段】 CTBA−KLH複合体を、非ヒト動物に免疫することにより、CTBAに特異的な抗体を製造することができる。また、このCTBAに特異的な抗体を含有させることによって、アクリルアミド検出試薬、アクリルアミド検出器、およびアクリルアミド検出キットを製造することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、[(2−カルバモイルエチル)チオ]安息香酸に対する特異的な抗体の製造方法、並びに該抗体を含むアクリルアミド検出試薬、アクリルアミド検出器、及びアクリルアミド検出キットの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
これまで、アクリルアミドの検出や測定は、LC/MSあるいはGC/MS等の質量分析法によって行われていた(例えば、特許文献1参照)。しかし、これらの方法には高価な機器と熟練が必要であると同時に時間がかかるため、安価かつ簡便・迅速なアクリルアミドの検出、測定方法の開発が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004−184215号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、[(2−カルバモイルエチル)チオ]安息香酸([(2-carbamoylethyl)thio]benzonic acid、以下、CTBAと称する)に特異的な抗体の製造方法、並びに該抗体を含むアクリルアミド検出試薬、アクリルアミド検出器、及びアクリルアミド検出キットの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
すなわち、本発明に係る複合体は、CTBAとスカシガイへモシアニン(KLH)との複合体である。ここで、CTBAは3−CTBA (3−[(2−カルバモイルエチル)チオ]安息香酸)または4−CTBA (4−[(2−カルバモイルエチル)チオ]安息香酸)であることが好ましい。
【0006】
本発明に係るCTBAに特異的な抗体の製造方法は、上記の複合体により非ヒト動物を免疫する工程を含むことを特徴とする。
【0007】
本発明に係るアクリルアミド検出試薬の製造方法は、CTBAに特異的な抗体を製造する工程と、製造された抗体を含有させる工程と、を含むことを特徴とする。
【0008】
本発明に係るアクリルアミド検出器の製造方法は、CTBAに特異的な抗体を製造する工程と、製造された抗体を含有させる工程と、を含むことを特徴とする。
【0009】
本発明に係るアクリルアミド検出キットの製造方法は、CTBAに特異的な抗体を製造する工程と、製造された抗体を含有させる工程と、を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、CTBAに特異的な抗体の製造方法、並びに該抗体を含むアクリルアミド検出試薬、アクリルアミド検出器、及びアクリルアミド検出キットの製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の一実施形態において、アクリルアミドに3−MBAを反応させることにより得られた3−CTBAの13C-NMRスペクトルである。
【図2】本発明の一実施形態において、アクリルアミドに3−MBAを反応させることにより得られた3−CTBAのH−NMRスペクトルである。
【図3】本発明の一実施形態において、3−CTBA−KLHおよび4−CTBA−KLHによりウサギを免疫して得られた抗血清を用いたアクリルアミド測定系による3−CTBAおよび4−CTBAの検量線を比較して示すグラフである。
【図4】本発明の一実施形態において、3−CTBA−KLHによりウサギを免疫して得られた抗血清を用いたアクリルアミド測定系による、アクリルアミドの検量線と検出下限値を示すグラフである。
【図5】本発明の一実施形態において、3−CTBA−KLHによりウサギを免疫して得られた抗血清を用いたアクリルアミド測定系による、3−CTBAの検量線とアクリルアミドの検量線を比較して示すグラフである。
【図6】本発明の一実施形態において、3−CTBA−KLHによりウサギを免疫して得られた抗血清を用いたアクリルアミド測定系によりアクリルアミドを測定した場合の、誤差プロファイルを示したグラフである。
【図7】本発明の一実施形態において、3−CTBA−KLHによりウサギを免疫して得られた抗血清を用いた測定系によるアクリルアミド構造類似体(アクリルアミド、メタクリルアミド、アクリロニトリル、アクリル酸、マレイン酸、マレアミド酸)の交差反応性を示したグラフである。
【図8】本発明の一実施形態において、3−CTBA−KLHによりウサギを免疫して得られた抗血清を用いた測定系と従来のLC/MS機器分析測定系により測定した、食品試料中のアクリルアミド含有量の相関を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、上記知見に基づき完成した本発明の実施の形態を、実施例を挙げながら詳細に説明する。
【0013】
実施の形態及び実施例に特に説明がない場合には、J. Sambrook, E. F. Fritsch & T. Maniatis (Ed.), Molecular cloning, a laboratory manual (3rd edition), Cold Spring Harbor Press, Cold Spring Harbor, New York (2001); F. M. Ausubel, R. Brent, R. E. Kingston, D. D. Moore, J.G. Seidman, J. A. Smith, K. Struhl (Ed.), Current Protocols in Molecular Biology, John Wiley & Sons Ltd.等の標準的なプロトコール集に記載の方法、あるいはそれを修飾したり、改変した方法を用いる。また、市販の試薬キットや測定装置を用いる場合には、特に説明が無い場合、それらに添付のプロトコールを用いる。
【0014】
なお、本発明の目的、特徴、利点、及びそのアイデアは、本明細書の記載により、当業者には明らかであり、本明細書の記載から、当業者であれば、容易に本発明を再現できる。以下に記載された発明の実施の形態及び具体的な実施例等は、本発明の好ましい実施態様を示すものであり、例示又は説明のために示されているのであって、本発明をそれらに限定するものではない。本明細書で開示されている本発明の意図ならびに範囲内で、本明細書の記載に基づき、様々に修飾ができることは、当業者にとって明らかである。
【0015】
==CTBAに特異的な抗体の製造方法==
本発明に係るCTBAに特異的な抗体(以下、抗CTBA抗体とも称する)は、周知の方法により、宿主となる非ヒト動物に対して免疫原となるCTBAを接種することにより製造することができる。
【0016】
CTBAを非ヒト動物に接種する際、抗体産生効率を向上させるために、周知の担体タンパク質と結合させてもよい。担体タンパク質は、例えば、ウシ血清アルブミン(BSA)、卵白アルブミン(OVA)、ヒト血清アルブミン(HSA)等の担体タンパク質であってもよいが、スカシガイへモシアニン(KLH)であることが好ましい。
【0017】
免疫原のCTBAは、非ヒト動物において抗CTBA抗体の産生を誘起する範囲で制限されず、2−CTBA、3−CTBA、4−CTBA等の何れのCTBAであってもよいが、担体タンパク質、特にKLHと結合させて免疫する場合には、3−CTBAあるいは4−CTBAであることが好ましい。以下に、3−CTBAと4−CTBAの構造式を示す。
【化1】

【0018】
CTBAと担体タンパク質との結合方法は特に制限されず、周知の方法から当業者が適宜選択できる。例えば、EDC(1-ethyl-3-(3-dimethylaminopropyl) carbodiimide)などのカルボジイミドを用いる方法や縮合法(mixed carbonic anhydride法)等を用いてもよいが、カルボジイミド−サクシニミド法を用いることが好ましい。
【0019】
また、抗体産生効率を向上させるために、免疫原を、1種類以上の免疫応答増強物質(アジュバント)と共に非ヒト動物に接種してもよい。アジュバントとしては、フロイント不完全アジュバント、フロイント完全アジュバント、水酸化アルミニウム、リン酸アルミニウムなどの鉱物塩、グラム陰性菌のリポ多糖類等を例示できるが、これらに制限されず、周知の物質から当業者が適宜選択できる。
【0020】
非ヒト動物の種類は特に制限されず、例えば、ウサギ、モルモット、ラット、マウス、ヤギ、ヒツジ、ウマ、ブタ等の哺乳類、または、ニワトリ、ハト、アヒル、ウズラ等の鳥類であってもよい。
【0021】
免疫原の接種方法は特に制限されないが、抗体産生効率を考慮すると注射による接種が好ましく、皮内投与、皮下投与、腹腔内投与、静脈内投与、筋肉内投与等が例示できる。
【0022】
非ヒト動物への免疫原の接種スケジュールは、製造する抗体の種類、動物の種類、コスト、設備等を考慮し、周知の方法に従って当業者が適宜決定することができるが、初回免疫後に1回、あるいは複数回の追加免疫を行うことが好ましい。
【0023】
本発明に係る抗体はポリクローナル抗体であっても、モノクローナル抗体であってもよく、使用目的、製造に係るコスト、設備等を考慮して当業者が適宜選択すればよい。ポリクローナル抗体は、当業者に周知の方法に従って、非ヒト動物に免疫原を接種し、血清を回収することにより製造することができる。血清の回収後、周知の方法に従って、抗体を単離精製してもよい。モノクローナル抗体は、例えば、マウスの脾臓細胞やリンパ球細胞等の抗体産生細胞とミエローマ細胞とを融合してハイブリドーマを調製し、CTBAに対して特異的な抗体を産生するハイブリドーマ・クローンを単離し、そのクローンの培養上清を回収することにより製造することができる。あるいは、培養上清を採取する代わりに、得られたハイブリドーマをマウス腹腔に注入し、腹水を回収してもよい。また、得られた培養上清や腹水から、周知の方法に従って、抗体を単離精製してもよい。
【0024】
ポリクローナル抗体やモノクローナル抗体の精製方法は特に制限されず、例えば、塩析、ゲル濾過、イオン交換クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー、電気泳動等、当業者に周知の方法から適宜選択することができる。
【0025】
なお、本明細書において、抗体は、免疫グロブリン全長からなる抗体、及び部分抗体を含む。部分抗体とは、抗原結合部位を含み、抗原結合活性を有する抗体の断片であり、Fab断片やF(ab‘)断片を例示できる。
【0026】
==CTBAに特異的な抗体の使用方法==
アクリルアミドをメルカプト安息香酸(以下、MBAと略す)と反応させることにより、CTBAへと変換することができる。従って、合成されたCTBAを検出することにより、アクリルアミドを検出することができる。
【0027】
MBAの一般試薬として2−メルカプト安息香酸(2−MBA)、3−メルカプト安息香酸(3−MBA)、4−メルカプト安息香酸(4−MBA)が知られている。これらのMBAと反応させることにより、アクリルアミドはそれぞれ2−CTBA、3−CTBA、4−CTBAへと変換される。本発明に係る抗CTBA抗体は、2−CTBA、3−CTBA、4−CTBA等のCTBAのうちいずれか一つを認識する抗体であっても、あるいは、複数のCTBAを認識することのできる抗体であってもよい。
【0028】
また、過剰量のMBAと反応させることにより、アクリルアミドを定量的にCTBAに変換することができる。このように変換されたCTBAの量はアクリルアミドの量を反映するため、CTBAの量を測定することにより、アクリルアミドの量を測定することができる。従って、CTBAに特異的な抗体を用いて、例えば、アクリルアミド検出試薬、アクリルアミド検出器、あるいはアクリルアミド検出キットを製造することができる。
【0029】
アクリルアミド検出試薬は、本発明に係る抗CTBA抗体を1種類あるいは2種類以上含有させて製造することができる。アクリルアミド検出試薬は、抗CTBA抗体を含むものであれば特に制限されず、例えば、リン酸緩衝液、炭酸緩衝液、HEPES緩衝液等の緩衝液、アジ化ナトリウム等の防腐剤、ブロックエース、ゼラチン、スキムミルク等の非特異反応を抑制するための物質、標識物質等の免疫学的手法によりCTBAを検出するために必要な物質、BSA、ヤギ血清等の安定剤をはじめとする、抗原の検出試薬に含ませる一般的な物質が1種類あるいは複数種類、抗体以外に含んでいてもよい。
【0030】
また、抗CTBA抗体やCTBAを媒体に固定化することにより、アクリルアミド検出器を製造することができる。ここで、媒体に固定化するCTBAは、1種類あるいは2種類以上の抗CTBA抗体が結合性を有する物質であって、例えば、CTBA自体であってもよく、抗体との結合性を有するCTBA断片等であってもよい。媒体としては、濾紙等の紙、ガラス、繊維、ニトロセルロース等の変性セルロース、ナイロンやプラスチック等から成るフィルター、メンブレン、プレート、ディッシュ、ラテックス粒子等を例示することができる。
【0031】
このような検出器の形状は特に限定されないが、一例として、抗CTBA抗体やCTBAが固定化されたイムノプレートやプラスチックチューブ等の、試料を受け入れることができる形状の検出器を挙げることができる。これらの検出器は、例えば、直接競合法、間接競合法、サンドイッチ法等のELISA(enzyme-linked immunosorbent assay)法、およびRIA(radioimmunoassay)法等によるアクリルアミドの検出や測定に使用することが可能である。
【0032】
例えば、検出器の一例として、直接競合ELISA法のためのイムノプレートが挙げられる。この場合、抗CTBA抗体がイムノプレートに固定化されている。使用方法としては、まず、液体試料中に含まれるアクリルアミドに過剰量のMBAを反応させてアクリルアミドを定量的にCTBAへ変換する。次に、このCTBA液体試料と一定量の標識CTBAとを検出器に添加する。この時、液体試料中のCTBAと標識CTBAが検出器に固定化された抗CTBA抗体を競争的に奪い合うことになり、試料に含まれるCTBAが少ないほど抗体と標識CTBAの複合体形成が多く、試料に含まれるCTBAが多いほど抗体と標識CTBAの複合体形成は少ない。続いて、イムノプレートに固定化された抗体に結合しなかった、余剰の液体試料と標識CTBAを洗浄除去した後、イムノプレートに残存する標識物質の量を測定する。予めイムノプレートに添加したCTBA量と残存標識物質量の関係を表す検量線を作成しておき、この検量線を用いて試料中のCTBA量を求める。このCTBA量から試料中のアクリルアミドの量を求めることができる。
【0033】
検出器は、間接競合ELISA法のためのイムノプレートであってもよい。この場合、CTBAがイムノプレートに固定化されている。まず、液体試料中に含まれるアクリルアミドを過剰量のMBAと反応させて定量的にCTBAへと変換する。このCTBA液体試料および一定量の抗CTBA抗体をイムノプレートへ添加すると、イムノプレートに固定化されたCTBAと液体試料中のCTBAが競争的に抗CTBA抗体を奪い合う。但し、抗体量≦CTBA量となるように測定系を設定しておく必要がある。液体試料に含まれるCTBAが少ないほどイムノプレートに固定化されたCTBAに結合する抗体が多く、試料に含まれるCTBAが多いほど固定化CTBAに結合する抗体は少ない。イムノプレートを洗浄した後、標識二次抗体を加えて固定化CTBAと複合体を形成している抗CTBA抗体に結合させる。次に、イムノプレートを洗浄した後、プレートに残存する標識物質の量を測定する。既知濃度のアクリルアミド溶液を用いて予め作成した、試料中のアクリルアミド量と残存標識物質量の関係を表す検量線から、試料中のアクリルアミド量を算出することが可能である。
【0034】
また、別の一例としては、クロマトグラフ媒体を有した検出器(イムノクロマトグラフ)が挙げられる。その構造は、例えば、液体試料を滴下または液体試料に浸す第一の部分と、CTBAがクロマトグラフ媒体に固定化された第二の部分と、免疫グロブリンが、第一、第二の部分を通過したことを確認できる物質、例えば、抗免疫グロブリン抗体やプロテインA等の抗CTBA抗体産生に用いた動物種の免疫グロブリンに特異的に反応する物質、あるいは、pH指示薬等がクロマトグラフ媒体に固定化された第三の部分を有し、第二の部分が第一の部分と第三の部分との間に備えられ、第一の部分には、標識物質で標識された一定量の抗CTBA抗体を含むものが例示できる。また、用いるクロマトグラフ媒体としては、例えば、ガラスやシリカ等の無機繊維からなる濾紙、ニトロセルロース等の修飾セルロース等が挙げられる。
【0035】
このような構造のイムノクロマトグラフの使用方法は、まず、液体試料中に含まれるアクリルアミドに過剰量のMBAを反応させ、アクリルアミドを定量的にCTBAへ変換する。この液体試料をクロマトグラフ媒体の第一の部分に滴下、あるいは、この液体試料にクロマトグラフ媒体の第一の部分を浸すと、液体試料は毛細管現象によりクロマトグラフ媒体の第一の部分から第二の部分を経て第三の部分を越えて移動する。この時、液体試料中にCTBAが含まれていれば、第一の部分に一定量含まれている標識抗CTBA抗体は液体試料に溶けた後CTBAと反応してCTBA−標識抗CTBA抗体の複合体を形成する。第一の部分に一定量含ませてある標識抗CTBA抗体のうち、液体試料中のCTBAと複合体を形成した標識抗CTBA抗体は、クロマトグラフ媒体中を移動して第二の部分へ到達してももはや第二の部分に固定化されたCTBAとは反応しない。第二の部分に固定化されたCTBAと複合体を形成できる標識抗CTBA抗体は、第一の部分で試料中のCTBAと複合体を形成せずに残存した標識抗CTBA抗体のみである。すなわち、液体試料中のCTBA量が少ないほど第二の部分における標識の発色は強くなり、液体試料中のCTBA量が多いほど標識の発色は弱くなる。この発色強度を、CTBA量がゼロの場合の発色強度と比較することにより液体試料中のCTBAの有無を判定することが可能となる。また、CTBA量と第二の部分における発色強度の関係を表す検量線を予め作成しておき、この検量線を用いて試料中のCTBA量を求めることもできる。液体試料が第一の部分へ添加された後、予定通り試料が第一、第二、第三の部分を通過すると、第三の部分に到達した標識抗CTBA抗体が抗CTBA抗体に結合性のある物質あるいはpH指示薬等により発色する。
【0036】
さらに、抗CTBA抗体やアクリルアミド検出試薬をはじめとする1種類あるいは複数種類の反応試薬を含有させて、アクリルアミド検出キットを製造することができる。抗CTBA抗体は、アクリルアミド検出器のように、媒体に固定化されていてもよい。反応試薬は、例えば、リン酸緩衝液、炭酸緩衝液、HEPES緩衝液等の緩衝液、アジ化ナトリウム等の防腐剤、ブロックエース、ゼラチン、スキムミルク等の非特異反応を抑制するためのブロッキング剤、標識物質、発色基質、二次抗体、発色増強剤等の免疫学的手法によりCTBAを検出するために必要な物質、BSA、ヤギ血清等の安定化剤等であってもよい。
【0037】
以上に説明したアクリルアミド検出試薬、アクリルアミド検出器、アクリルアミド検出キットにおいて、標識物質は、例えば蛍光物質(例えば、FITC、ローダミン、ファロイジン等)、金等のコロイド粒子、重金属(例えば、金、白金等)、色素タンパク質(例えば、フィコエリトリン、フィコシアニン等)、放射性同位元素(例えば、H、14C、32P、35S、125I、131I等)、酵素(例えば、ペルオキシダーゼ、アルカリフォスファターゼ等)、ビオチン、ストレプトアビジン等の物質を指すが、これらに制限されるものではなく、その他の公知の標識物質であってもよい。また、標識物質が酵素の場合、発色基質は特に制限されるものではなく、例えば、テトラメチルベンジジン(TMB)、o-フェニレンジアミン(o-phenylenediamine)、BCIP/Nitro−TB(5-bromo-4-chloro-3-indolylphosphate/nitrotetrazolium blue)、pNPP (para-nitorophenylphosphate)等が挙げられる。発色増強剤は、これらの基質の発色を増強させることができるものであれば特に制限されず、例えば、硫酸等が挙げられる。
【実施例】
【0038】
[実施例1]
本実施例では、アクリルアミドをメルカプト安息香酸(MBA)と反応させることにより、CTBAが得られることを示す。
【0039】
アクリルアミド(Sigma-Aldrich 社)を0.500g(7.03mmol)量りとり、蒸留水20mLに溶かした。次に1mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液35.2mLに3−MBA(Sigma-Aldrich 社)0.543 g(3.52mmol)を溶かして混合し、磁気撹拌した。室温で3時間反応させた後、ギ酸200L(0.244g、5.300mmol)を加えて3−CBTAの結晶を析出させた。結晶を吸引ろ過して、少量の蒸留水で洗浄した。得られた結晶を少量(約5mL)のメタノールで加熱しながら溶解させ、蒸留水(約2.5mL)をゆっくり加えた後、放冷した。4℃で一日放置し、十分に結晶を析出させた後、結晶を吸引ろ過して、少量の蒸留水で洗浄し、真空乾燥し白色顆粒状の3−[(2−カルバモイルエチル)チオ]安息香酸を得た。収量は0.523gであった。また、同様の条件下でアクリルアミドに2−MBA(和光純薬工業株式会社)あるいは4−MBA(東京化成工業株式会社)を反応させることによって、2−CTBAおよび4−CTBAを得た。
【0040】
==CTBAの純度検定法==
上記3−CTBAについて、重水素化メタノール溶媒に溶解して核磁気共鳴スペクトルを測定した。13C−NMRスペクトル測定は磁場強度100MHzで、H−NMRスペクトル測定は400MHzで行った。その結果、得られた産物が3−CTBAであることを確認できた。また、不純物が含まれていないことを確認できた(図1、2)。同様に、2−CTBAおよび4−CTBAの純度も確認した。
【0041】
[実施例2]
本実施例では、以下の(1)〜(3)に示すCTBA−KLHを作製した。
(1)2−CTBA−KLH
(2)3−CTBA−KLH
(3)4−CTBA−KLH
【0042】
==カルボジイミド−サクシニミド法によるCTBA−KLHの調製==
まず、2mLの0.15M NaCl含有0.1M HEPES−NaOH(pH 7.0〜7.5)に20mgのKLH(タンパク質濃度=10mg/mL)を溶解した。一方、3.4mg(15μmol)の2−CTBA、3−CTBAまたは4−CTBAを1mLの0.1M HEPES−NaOH(pH7.0〜7.5)に溶解し、15mMのCTBA溶液を調製した。CTBA溶液1mLに4.3mg(37.5μmol)の粉末N−ヒドロキシサクシニミドを加えて溶解した後、CTBAと等mol量(2.9mg)の粉末カルボジイミド(EDC)を加えて溶解した。溶解後、直ちに、上記のKLH溶液と混合し、室温で2時間反応させた。反応後の溶液を全て回収して透析チューブに入れ、透析外液(PBS)を激しく撹拌しながら透析した。この際、透析外液は透析チューブ内液の100倍量用い、透析開始から3時間後および一晩後にそれぞれ新しい外液に交換した。
【0043】
このようにして調製したCTBA−KLHについて、1分子のKLH当たりに結合したCTBAの分子数を測定した。具体的には、CTBA結合前のKLHと、結合後のKLHについてBladford法によりタンパク質濃度を測定した。この濃度を基に、CTBA結合前後のKLH、およびCTBA自体を1mg/mLに調製し、これらの溶液の紫外吸収スペクトルを測定した。CTBA結合前後のスペクトルの差から、1分子のKLHに結合したCTBAの分子数を算出した。
【0044】
その結果、1分子のKLH(分子量=7,000,000)に対し、2−CTBAでは110分子、3−CTBAでは650分子、4−CTBAでは540分子が結合されていた。従って、3−CTBAおよび4−CTBAは2−CTBAよりも多くの分子がKLHに結合できる。なお、この結果は、2−CTBAは3−CTBAや4−CTBAに比べてベンゼン環上の−COOH基と−S−CH−CH−CO−NHの距離が近いため、結合の際の反応が立体障害により阻害されることに起因すると考えられる。
【0045】
[実施例3]
本実施例では、実施例1で調製した3−CTBA−KLHおよび4−CTBA−KLHにより動物を免疫した。
【0046】
==ウサギに対する免疫方法==
3羽のウサギ(日本白色種、オス、13〜15週齢)を実施例1の3−CTBA−KLHまたは4−CTBA−KLHで初回免疫した後、14日後、28日後、42日後、および56日後に追加免疫を行った。これらのウサギから、初回免疫後35日後と49日後に試採血し、さらに63日後に全採血し、抗血清を得た。
【0047】
==モルモットに対する免疫方法==
3匹のモルモット(ハートレイ、メス、12週齢)を実施例1の3−CTBA−KLHまたは4−CTBA−KLHで免疫した後、14日後、28日後、42日後、および56日後に追加免疫を行った。これらのモルモットから、初回免疫後49日後に試採血し、さらに、63日後に全採血し、抗血清を得た。
【0048】
==ELISA法による抗体力価測定==
(イムノプレートへのCTBAの固定化)
実施例1と同様の方法を用い、KLHをBSAに置き換えることによりCTBA−BSA(表1参照)を調製した。96ウェルイムノプレート(MaxiSorp、Nunc社)の各ウェルに5μg/mLのCTBA−BSAを100μL加えた後、2時間放置してイムノプレートに結合させた。CTBA−BSA溶液をウェルから取り除いて0.05% Tween20を含有するリン酸緩衝化生理食塩水(以下、PBS−Tweenと略す)で洗浄した。ウェルをBSAでブロッキングした後、ブロッキング液を取り除き、一晩乾燥させた。なお、この工程はすべて室温(約25℃)で行った。
【表1】

【0049】
(抗体力価測定)
上記のようにしてCTBA−BSAを固定化したイムノプレートのウェルに、ウサギあるいはモルモットから採取した抗血清の稀釈系列(1000×2、n=0〜7)を添加し、室温で2時間放置した後、PBS−Tweenでウェルを洗浄した。各ウェルに0.5M NaCl、0.01%Tween20および0.1%BSAを含有する0.1M NaHCO(pH 8.3)(以下、NaHCO−Tween−NaCl−BSAと略す)により2000倍稀釈したペルオキシダーゼ標識抗ウサギIgGヤギ抗体(Bio-Rad社)あるいはペルオキシダーゼ標識抗モルモットIgGヤギ抗体(Jackson社)を100μLずつ加え、室温で2時間放置した後、ウェルをPBS−Tweenで洗浄した。次に、各ウェルにペルオキシダーゼの発色基質であるTMB(BioFX社)を100μL加えて室温に30分間放置した後、1N硫酸を各ウェルに100μLずつ加えて反応を停止させた。プレートリーダーを用いて、各ウェルの450nmにおける吸光度(OD450)を測定した。この測定値(OD450)を縦軸に、抗血清の稀釈倍率を横軸にとってグラフを作成し、吸光度の最大値(OD450=3.0)の半値(OD450=1.5)を与える抗血清稀釈倍率を以て抗体の力価とした。
【0050】
表2に、ウサギおよびモルモット各3個体から得られた抗血清における抗体力価を示す。
【表2】

【0051】
[実施例4]
本実施例では、間接競合ELISA法によるアクリルアミド測定系を構築した。
【0052】
実施例2で得られた各抗血清を用いたアクリルアミド測定系を確立するため、まず、イムノプレートに固定化するCTBA−BSAの濃度と抗血清稀釈倍率の最適な組み合わせをチェッカーボード・タイトレーション法によって決定した。
【0053】
==チェッカーボード・タイトレーション法==
イムノプレートを用いる間接競合ELISA法によってCTBAを定量する場合には、イムノプレートに固定化されたCTBA−BSAの量やウェル中へ添加する抗体量が多いほど抗原検出感度が低くなる。従って、CTBAの検出感度を高くするためには、「抗体モル数≦抗原モル数」を満たす範囲で固定化するCTBA−BSAの濃度をできるだけ低くし、かつ、ウェルに添加する抗体濃度をできるだけ低くすることが必要である。そこで、以下のようにCTBA−BSAと抗体稀釈倍率の最適な組合せを設定した。
【0054】
(チェッカーボード・タイトレーション用イムノプレートの調製)
表1に示した固定化用CTBA−BSAのタンパク質濃度を、炭酸緩衝液を用いて10、3、1、0.3、0.1、0.03、0.01、0.003μg/mlに調製し、各100μLを96ウェルイムノプレート(MaxiSorp、Nunc社)のウェルに加え、室温で2時間放置した。続いて、ウェル中のCTBA−BSAを取り除き、PBS−Tweenで洗浄し、BSAでブロッキングした後、ブロッキング液を取り除いて一晩乾燥させた。このようにして、異なる濃度のCTBA−BSAが固定化されたチェッカーボード・タイトレーション用イムノプレートを調製した。
【0055】
3−CTBAをウサギ1に接種し、49日目に得られた血清(3−CTBA抗血清)、および、4−CTBAをウサギ2に接種し、49日目に得られた血清(4−CTBA抗血清)(実施例2)の希釈系列を調製し、(100,000×3倍稀釈、n=0〜10)、このイムノプレートのウェルに添加した。実施例2の「抗体力価測定」に記載の方法と同様にして、1.5 付近のOD450値を与えることのできる最も低い固定化CTBA−BSA濃度と最も高い抗血清稀釈倍率の組み合わせを決定した(表3)。
【表3】

【0056】
==検量線の作成==
上記3−CTBA抗血清を用いた測定系(3−CTBA測定系)と4−CTBA抗血清を用いた測定系(4−CTBA測定系)によって、CTBAあるいはアクリルアミドを標準物質として測定し、検量線を作成した。
【0057】
(CTBAを標準物質として用いた検量線の作成)
実施例1で合成した3−CTBAあるいは4−CTBAをアクリルアミド換算濃度が0(ブランク)および0.1〜100,000 ng/mLとなるようにNaHCO−Tween−NaCl(0.5M NaClおよび0.01%Tween20を含有する0.1 M NaHCO (pH 8.3))に溶解した。これを表3に示す最適濃度の固定化CTBA−BSAを有するイムノプレートの各ウェルに50μL添加し、NaHCO−Tween−NaCl−BSAにより最適倍率に稀釈した抗血清(表3)を50μL加えた後、室温に2時間放置して抗原抗体反応させた。プレートをPBS−Tweenで洗浄した後、各ウェルにNaHCO−Tween−NaCl−BSAにより2000倍稀釈したペルオキシダーゼ標識抗ウサギIgGヤギ抗体(Bio-Rad社)を加え、室温で1時間放置した。ウェルをPBS−Tweenにより洗浄した後、各ウェルにペルオキシダーゼの発色基質であるTMB(BioFX社)溶液を100μL加え30分間室温で反応させた後、1N硫酸を100μLずつ加えて反応を停止させた。プレートリーダーを用いて、各ウェルの450nmにおける吸光度(OD450)を測定した。なお、この測定は三重測定で行った。
【0058】
このようにして得られた吸光度(OD450)の測定値を用い、以下のようにして検量線を作成した。まず、アクリルアミド換算濃度がゼロの時(ブランク)のOD450を100%とし、各アクリルアミド換算濃度について得られたOD450を%表示した値(B/B)をY軸にとり、アクリルアミド標準液の濃度(ng/mL)をX軸にとって片対数プロットした。このプロットに対し、4−パラメータロジスティック関数Y(=B/B0)=[(a-d)/{1+(X/c)b}]+dによるカーブフィッティングを行って曲線式を得た。
ここで、
a: B/B0の最大値(アクリルアミド換算濃度がゼロの時のB/B0
b: 変曲点(IC50)における曲線の傾き
c: 変曲点のアクリルアミド濃度(=IC50
d: B/B0の最小値(アクリルアミド濃度が無限大の時のB/B0
Y: B/B0
X: 濃度既知アクリアミド標準液の濃度
【0059】
次に、得られた曲線式Y(=B/B0)=[(a-d)/{1+(X/c)b}]+dを標準化した曲線式Y’(=(B/B0)’) =1/{1+(X/c)b}に変換し、これを検量線(x軸:X,y軸:Y')とした。ここで、B/B0と (B/B0)’ の関係は、<標準化したB/B0=(B/B0)’={(B/B0)-d}/(a-d)>である。
【0060】
合成3−CTBAおよび合成4−CTBAを標準物質として、免疫に用いたウサギ個体別に3−CTBA測定系および4−CTBA測定系の検量線を作成した。一例として、それぞれ最も感度の高かった個体の検量線を対比して図3に示すが、3−CTBA測定系の検量線では4−CTBA測定系に比較して、標準物質濃度の増減に対するY'値の増減が大きかった。このように、3−CTBA測定系では4−CTBA測定系に比較して、CTBAの濃度の変化をより高感度で検出できる。
【0061】
(アクリルアミドを標準物質として用いた検量線の作成)
CTBAを標準物質とした場合に検出感度がより高い3−CTBA測定系についてアクリルアミドを標準物質として用いてアクリルアミド検量線を作成した。抗血清は、合成3−CTBAを標準物質として用いた場合に最も感度の良かったウサギ1のものを用い、三重測定で行った。
【0062】
試験管に濃度が0および0.69〜500ng/mLのアクリルアミド標準水溶液(100μL)(関東化学株式会社)を入れておき、20μLの3−MBA溶液(1N NaOH中に3−MBA(Toronto Research Chemicals社)を48mg/mLの濃度に溶解して調製)を添加した後、37℃で2時間反応させ、アクリルアミドを3−CTBAに変換した。次に、各試験管にNaHCO−Tween−NaClを880μL加えて測定用試料溶液を調製した。
【0063】
チェッカーボード・タイトレーションにより決定した最適濃度の3−CTBA−BSAを固定化したイムノプレートの各ウェルへ上記の測定用サンプル溶液を50μL加えた。ここに、NaHCO−Tween−NaClにより最適組合せ稀釈倍率に稀釈した抗血清を50μL加え、室温で1時間放置して抗原抗体反応させた。各ウェルをTBS−Tween(0.05% Tween20を含有するTBS)で洗浄した後、ペルオキシダーゼ標識抗ウサギIgGヤギ抗体(NaHCO−Tween−NaCl−BSAにより1000倍希釈、Bio-Rad社)を加え、室温で30分放置した。ウェルをTBS−Tweenで洗浄した後、ペルオキシダーゼの発色基質であるTMB (BioFX社)溶液を100μL加え、室温で30分間反応させた。続いて、各ウェルに1N硫酸を100μLずつ加えて反応を停止させた。プレートリーダーを用いて、各ウェルの450nmにおける吸光度(OD450)を測定した。
【0064】
このようにして得た吸光度(OD450)の測定値を用い、CTBAを標準物質とした時と同様にして検量線を作成した(図4)。
【0065】
3−CTBAを標準物質とした場合とアクリルアミドを標準物質とした場合の検量線について、横軸のアクリルアミド濃度をそろえて比較したグラフを図5に示す。どちらの標準物質を用いた場合でも同様の検量線が得られた。この結果により、37℃で2時間反応させることにより、アクリルアミドが定量的にCTBAに変換されることが確認された。
【0066】
なお、図3と図4を比較すると、見かけ上、アクリルアミドを標準物質として用いた検量線は3−CTBAを標準物質として用いた検量線に比べて感度が約1/10であるかのように見える。これは、アクリルアミドを標準物質とした場合に測定用試料調製の段階でアクリルアミド溶液が10倍に希釈されているためである。
【0067】
==検出下限値の算出==
アクリルアミドを標準物質として作成した検量線を用いて、アクリルアミドの検出下限値をISO 11843-5:2008(E)(Capability of detection; Part 5: Methodology in the linear and non-linear calibration cases)に記載の方法によって求めた。ISO 11843-5:2008(E)によれば、検量線作成に用いた測定値に関して、アクリルアミド濃度がゼロの時(ブランク)の(B/B0)’の相対標準偏差(RSD; relative standard deviation)を、定数13.2で除した値を勾配とする直線により検量線Y’(=(B/B0)’)=1/{1+(X/c)b}に対して接線を引き、接点のX座標を検出下限値とする。計算の結果、図4に示すように、検出下限値は0.4ng/mL付近であった。
【0068】
==アクリルアミド定量値の誤差プロファイル==
3−CTBA測定系と4−CTBA測定系のうちでより検出感度の高い3−CTBA測定系について定量値のRSDを算出し、アクリルアミド定量値の誤差プロファイルを求めた(図6)。定量値のRSDは、アクリルアミド検量線の各濃度における(B/B0)’のRSD(n=3)をそのアクリルアミド濃度における検量線の勾配で割ることにより得られる。
【0069】
図4に示すように、検出下限値(定義はRSD=30%)を与えるアクリルアミド濃度は0.6ng/mL付近であり、ISO 11843-5:2008(E)で算出された検出下限値とよく一致していた。一方、アクリルアミドの定量範囲(定義はRSD≦10%の範囲)は、2〜500ng/mLの範囲である。
【0070】
このように、実施例2で製造された抗体を用いたアクリルアミド測定系が構築できた。このアクリルアミド測定系は検出下限値が約0.4ng/mL、かつ、定量域が2〜500ng/mLの優れた測定系である。
【0071】
[実施例5]
本実施例では、実施例3で構築したアクリルアミド測定系では、アクリルアミド構造類似体の交差反応性が低いことを示す。
【0072】
実施例3で構築したアクリルアミド測定系によって、アクリルアミド(関東化学株式会社)、メタクリルアミド(MP Bio 社)、アクリロニトリル(AccuStandard Inc.)、アクリル酸(ナカライテスク社)、マレイン酸(ナカライテスク社)およびマレアミド酸(FRINTON LABORATORIES Inc.)を測定し、縦軸にB/B、横軸に構造類似体のモル濃度をとったグラフを作成した。この結果を図7に示す。
【0073】
各構造類似体についてB/B=50%のモル濃度を読み取り、この濃度をIC50とした。IC50の逆数はこの測定系における構造類似体の相対的な反応性を表すため、アクリルアミドの1/IC50を100%として構造類似体の交差反応率を計算することができる。このようにして求めた交差反応率を表4に示す。
【表4】

【0074】
表4に示すように、最も交差反応率が高いアクリロニトリルでも交差反応率は1.43%であった。この結果は、抗CTBA抗体を用いたアクリルアミド測定系により、アクリルアミドを特異的に検出または測定できることを示している。
【0075】
[実施例6]
本実施例では、実施例3で構築したアクリルアミド測定系により食品試料中のアクリルアミドが測定できること、および、その信頼性が十分に高いことを示す。
【0076】
種々の食品(ポテトチップス1〜6(1、2はアクリルアミドを添加した市販品、3〜6は市販品)、ビスケット、かりんとう、ほうじ茶)中に含まれるアクリルアミドを文献(Nippon Shokuhin Kagaku Kaishi Vol.49,N0.12,822-825(2002))に従って測定試料を調製した。具体的には、まず、粉砕した各食品試料2gを100mLの純水に加え、ホモジナイズした。これを遠心分離した後にろ過し、上清1mLをISOLUTE(Biotage 社)500mgに通して溶出してくる液を捨て、更に3mLの水を通して溶出させた3mLを取って3-CTBA調製用試料とした(コンディショニング:メタノール3mL通液、水3mL通液)。
【0077】
==3−CTBA測定系(ELISA法)による測定==
固相抽出後の試料100μLに100μLの3−MBA(1N NaOH中に3−MBA(Toronto Research Chemicals社)を48mg/mLの濃度に溶解して調製)を添加し、37℃で2時間反応させて3−CTBAに変換した後、880μLのNaHCO−Tween−NaCl加えて測定試料とした。3−CTBA試料を、実施例4の「検量線の作成」の記載に従い測定した。
【0078】
==LC/MS機器分析による測定==
固相抽出後の試料を20μLに調製し、HP1100 LC/MSシステム(アジレントテクノロジー株式会社)による機器分析に供した。分析条件は以下の通りである。
カラム:C18カラム(Zorbax Eclipse XDB C18 4.6mm x 150mm)
溶媒:8%アセトニトリル−水
流速:0.45ml/min
温度:40 ℃
MSD:
positive m/z 72
Dry Gas Flow:11 L/min
Nebulizer Pressure: 40 psig
Dry Gas Temperature: 300 ℃
【0079】
測定結果を表5に示す。
【表5】

【0080】
3−CTBA測定系による測定値を縦軸にとり、LC/MS機器分析による測定値を横軸にとってプロットし、回帰直線を引いて両測定値の相関性を検討した結果、両者は決定係数R=0.99のよい一致を示した。この結果を図8に示した。
【0081】
図8に示すように、本発明に係る抗CTBA抗体を用いたアクリルアミド測定系による測定結果は従来の機器分析法による測定結果とよく一致し、十分に信頼性が高い。このように、本発明に係る抗CTBA抗体を用いる測定系により食品試料中のアクリルアミドを正確に測定することができる。機器分析法と比較しても、本アクリルアミド測定系は迅速、簡便、かつ安価に行えるため、食品中のアクリルアミド低減に向けた取り組みも容易となる。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
[(2−カルバモイルエチル)チオ]安息香酸(CTBA)とスカシガイへモシアニン(KLH)との複合体。
【請求項2】
請求項1に記載の複合体であって、
前記CTBAが3−CTBA(3−[(2−カルバモイルエチル)チオ]安息香酸)、または4−CTBA(4−[(2−カルバモイルエチル)チオ]安息香酸) であることを特徴とする複合体。
【請求項3】
CTBAに特異的な抗体の製造方法であって、
請求項1または2に記載の複合体を非ヒト動物に免疫する工程を含むことを特徴とする方法。
【請求項4】
請求項3に記載の方法でCTBAに特異的な抗体を製造する工程と、
製造された前記抗体を含有させる工程と、を含む、アクリルアミド検出試薬の製造方法。
【請求項5】
請求項3に記載の方法でCTBAに特異的な抗体を製造する工程と、
製造された前記抗体を含有させる工程と、を含む、アクリルアミド検出器の製造方法。
【請求項6】
請求項3に記載の方法でCTBAに特異的な抗体を製造する工程と
製造された前記抗体を含有させる工程と、を含む、アクリルアミド検出キットの製造方法。

【図3】
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【図4】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図1】
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【図2】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−195453(P2011−195453A)
【公開日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−45757(P2010−45757)
【出願日】平成22年3月2日(2010.3.2)
【出願人】(000006116)森永製菓株式会社 (130)
【Fターム(参考)】