説明

免疫療法としての酵母ベースのワクチン

免疫療法で治療可能な種々の疾病および病状を、治療および/または予防する組成物および方法が示されている。また、ある特定の実施形態においては、動物の悪性腫瘍を治療および/または予防する組成物および方法が示されている。具体的には、酵母媒体および抗原を含む、酵母ベースのワクチンの使用方法に関する改良が示されている。なお、抗原は、抗原特異的な細胞性および体液性免疫を誘発するように選択されるものであり、また、ワクチンは予防的および/または治療的なワクチン接種、および、種々の疾病および病状の予防および/または治療に使用されるものである。

【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
〔技術分野〕
本発明は、概して、体液性および細胞性免疫の誘発を行う異種抗原を含む、酵母ベースのワクチンの利用に関するものである。また、本発明の一態様において、本発明は、動物の種々の癌の治療および予防を行う異種抗原を含む、酵母ベースのワクチンの利用に関するものである。
【0002】
〔背景技術〕
新生組織形成、すなわち、新生かつ異常な増殖に起因した急速な細胞増殖は、多くの疾病の特徴である。そのような疾病は、非常に深刻な疾病であり、時としては生命に危険を及ぼす。一般的に、細胞および組織の腫瘍性の成長は、通常の細胞の増殖よりも、細胞増殖が著しいことにより特徴づけられる。腫瘍性の成長では、煽動要素(instigating factor)(例えば、発癌プロモーター、発癌物質、ウイルスなど)が存在しなくなった後にも、細胞が増殖し続ける。上記の細胞増殖は、健常組織との構造機構および/または協調性を欠く傾向にあり、通常は、良性または悪性の、組織の塊(例えば腫瘍など)を作り出す。
【0003】
悪性の細胞増殖または悪性腫瘍は、世界中で主要な死亡原因となっており、腫瘍性疾患の効果的な治療法を開発することは、多くの研究活動の目的とされている。悪性腫瘍を治療および防止するための、種々の斬新な試みがなされてきたが、多くの悪性腫瘍の死亡率は高いままである。さらに、多くの悪性腫瘍は治療が困難であったり、または従来の治療法に大した反応を見せない可能性もある。
【0004】
例えば、肺癌は米国で2番目に一般的な癌である。肺癌は、全悪性腫瘍の15%を占め、癌による全死亡者数の28%を占めている。2002年には、肺癌と診断される数は177000件、および死亡件数は166000件になると見積もられており、この死亡率は、結直腸癌、前立腺癌、乳ガンを合わせたものよりも高い。80%の原発性肺腫瘍は、非小細胞肺癌(NSCLC)である。一般的な化学療法は、多剤療法と比較して、効果がないままである。また、多剤療法には深刻な毒性が伴い、最小限の延命効果をもたらすのみである。
【0005】
別の例として、多形膠芽腫(神経膠腫)は、成人の間で最も一般的な原発性悪性脳腫瘍である。外科手術、放射線治療、および化学療法を利用しても、治療率および患者の平均生存時間は改善されていないままである。また、他の腫瘍が脳に転移した場合、血液脳関門により薬剤送達が制約されることから、これら腫瘍は末梢性化学療法にあまり良く反応しない。従って、脳腫瘍をよりよく考慮した治療的なアプローチが必要であることは明確である。
【0006】
上記のようなアプローチのひとつに、免疫療法が含まれる。神経の末梢で準備刺激を受けたリンパ球は、血液脳関門および標的脳組織を横断することができることが、以前より知られている。脳腫瘍の免疫療法の主要なターゲットは、脳腫瘍細胞内で特異的に発現している新生抗原または変異抗原に対して、免疫反応を誘発するワクチンである。最終的な目標は、頭蓋内腫瘍に対して、広く、活発かつ持続的な免疫防御を提供する、ワクチンアプローチを提供することである。
【0007】
疾病の予防、および、既定の疾病の治療にワクチン(免疫療法ワクチン)が広く一般的に利用されている。タンパク抗原(例えば、DNA組換え技術により開発が可能になったサブユニットワクチンなど)は、免疫賦活剤なしに投与された場合に、弱い体液性(抗体)免疫しか発生させず、そのため限られた免疫原性しか発生しないということで期待外れであった。また、サブユニットワクチン、死亡したウイルスワクチンおよび遺伝子組換え生ウイルスワクチンには、免疫賦活剤と共にこれらワクチンを投与した場合、強い体液性免疫を活性化しているようだが、これらワクチンは細胞性感染防御免疫を誘発しない、というさらなる欠点がある。
【0008】
また、免疫賦活剤は、マウスで強力な免疫反応を活性化する目的に実験的に利用されており、ヒトワクチンへと利用されることが好ましいが、ヒトへの使用が承認された賦活剤はほんの僅かである。実際、米国で使用が承認された免疫賦活剤は、アルミニウム塩、水酸化アルミニウム、およびリン酸アルミニウムのみであるが、いずれのものも、細胞性免疫を活性化するものではない。また、アルミニウム塩製剤は、凍結または凍結乾燥することができない。さらに、上記の免疫賦活剤は、全ての抗原に対して効果的ではない。そのうえ、ほぼ全ての免疫賦活剤は、細胞傷害Tリンパ球(CTL)の誘発を引き起こさない。CTLは、ウイルスタンパク質、および、変異した「自己」タンパク質を含む異常タンパク質を合成する細胞の破壊に必要とされる。CTLを刺激するワクチンを、全ての悪性腫瘍(例えば、黒色腫、前立腺癌、卵巣癌など)を含む種々の疾病の治療に利用しようと、精力的な研究が行われている。このように、一般的には、CTLおよび細胞性免疫を活性化する免疫賦活剤が必要とされている。
【0009】
酵母は、サブユニット・タンパクワクチンの生産に用いられてきた。しかし、酵母はタンパク質の生産に利用されてはいるが、酵母細胞またはその細胞亜画分が実際に患者に供給されることは無かった。また、酵母は、ワクチン接種の前に、非特異的な方法で免疫反応を準備するために(すなわち、食菌作用の活性化、ならびに補体およびインターフェロンの生成のために)、動物に与えられてきた。その効果は曖昧なもので、このような手順によっては、細胞性感染防御免疫は発生しなかった。これに関しては、例えば、Fattal-German et al., 1992, Dev. Biol. Stand. 77,115-120; Bizzini et al., 1990, FEMSMicrobiol. Immunol. 2,155-167などを参考にされたい。
【0010】
1998年11月3日にDukeらに交付された、米国特許第5830463号によって、少なくともひとつの免疫反応の調節を行うことが可能な化合物を運搬する、非病原性酵母の使用方法が公開され、上記の複合体が、細胞性および体液性免疫の活性化に有効であることが示された。より具体的には、米国特許第5830463号は、異種抗原を発現するように遺伝操作がなされた酵母は、動物に投与されると細胞性および体液性免疫の両方を誘導できることを示している。
【0011】
今日の悪性腫瘍の治療法およびワクチン技術の進歩にも関わらず、以下のような疾病に対する、安全かつ効果的なワクチンおよび免疫賦活剤を開発することは、急務のままであり続けている。なお、上記の疾病とは、腫瘍性形質変化(悪性腫瘍)により引き起こされる疾病を含む、免疫療法で治療可能な疾病のことであり、特に、従来技術の悪性腫瘍治療法および一般的なワクチン療法を用いた治療方法に抵抗性の悪性腫瘍のことである。
【0012】
〔発明の概要〕
本発明のある実施形態は、動物を悪性腫瘍から守る方法に関する。上記方法には、当該動物における悪性腫瘍の少なくともひとつの症状を緩和または予防するために、悪性腫瘍を有する、または腫瘍を発生させる恐れのある動物に対して、ワクチンを投与することが含まれる。上記ワクチンは、(a)酵母媒体、および(b)酵母媒体で発現される融合タンパク質、を含んでいる。上記融合タンパク質は、(i)少なくともひとつの癌抗原、および(ii)上記癌抗原のN末端に結合したペプチド、を含んでいる。上記ペプチドは、上記癌抗原とは非相同的な、少なくとも二つのアミノ酸残基から構成されている。上記ペプチドは、酵母媒体における融合タンパク質の発現を安定化させるものであるか、または、発現した融合タンパク質の翻訳後修飾を防止するものである。上記融合タンパク質には、下記の追加の必要条件がある。すなわち、(1)上記融合タンパク質の第1位置のアミノ酸残基はメチオニンである、(2)上記融合タンパク質の第2位置のアミノ酸残基はグリシンでもプロリンもない、(3)上記融合タンパク質の第2〜6位置のアミノ酸残基の、いずれもメチオニンではない、および、(4)上記融合タンパク質の第2〜5位置のアミノ酸残基は、いずれもリジンでもアルギニンでもない、ことが必要条件である。本発明の一態様において、上記ペプチドは、少なくとも2〜6個の、上記癌抗原とは非相同的なアミノ酸残基から構成されている。別の一態様において、上記ペプチドは、M−X−X−X−X−Xというアミノ酸配列を有しており、当該配列において、Xはグリシン、プロリン、リジン、アルギニンを除くあらゆるアミノ酸であり、Xはメチオニン、リジン、アルギニンを除くあらゆるアミノ酸であり、Xはメチオニン、リジン、アルギニンを除くあらゆるアミノ酸であり、Xはメチオニン、リジン、アルギニンを除くあらゆるアミノ酸であり、Xはメチオニンを除くあらゆるアミノ酸であってよい。本発明の一態様において、Xはプロリンである。別の一態様において、上記ペプチドはM−A−D−E−A−P(配列番号1)というアミノ酸配列を含んでいる。
【0013】
本発明の別の実施形態は、動物を悪性腫瘍から守る方法に関する。上記方法には、当該動物における悪性腫瘍の少なくともひとつの症状を緩和または予防するために、悪性腫瘍を有する、または腫瘍を発生させる恐れのある動物に対して、ワクチンを投与することが含まれる。上記ワクチンは、(a)酵母媒体、および(b)酵母媒体で発現される融合タンパク質、を含んでいる。上記融合タンパク質は、(i)少なくともひとつの癌抗原、および(ii)上記癌抗原のN末端に結合した酵母タンパク質、を含んでいる。上記酵母タンパク質は、約2〜約200の、酵母の内在性タンパク質のアミノ酸から構成されている。上記ペプチドは、酵母媒体における融合タンパク質の発現を安定化させるものであるか、または、発現した融合タンパク質の翻訳後修飾を防止するものである。本発明の一態様において、融合タンパク質の同定および精製を行うために、上記酵母タンパク質には、抗体エピトープが含まれている。
【0014】
上述の、いずれの本発明の実施形態においても、以下の付加的な態様が企図されている。本発明の一態様においては、上記融合タンパク質には、少なくとも二つまたはそれ以上の癌抗原が含まれる。別の態様において、上記融合タンパク質には、ひとつまたはそれ以上癌抗原の免疫原性領域が少なくともひとつまたはそれ以上含まれる。別の態様において、上記癌抗原は、黒皮腫、扁平上皮癌、乳癌、頭頚部癌、甲状腺癌、軟部組織肉腫、骨肉腫、精巣癌、前立腺癌、卵巣癌、膀胱癌、皮膚癌、脳腫瘍、脈管腫、血管肉腫、肥胖細胞腫、原発性肝癌、肺癌、膵臓癌、消化器癌、腎細胞癌、造血性腫瘍形成、および、これらの転移癌、を含む群より選択される悪性腫瘍に関連した抗原である。
【0015】
さらなる別の態様において、上記癌抗原は、ras遺伝子によりコードされた野生型または変異型のタンパク質である。例えば、癌抗原には、K−ras、N−ras、H−ras遺伝子を含む群より選択されたras遺伝子、によってコードされた野生型または変異型のタンパク質が含まれていても良い。本発明の一態様において、ras遺伝子は、ひとつまたは複数の変異を有するRasタンパク質をコードしている。別の態様において、癌抗原は、野生型Rasタンパク質の少なくとも5〜9つの連続したアミノ酸残基の断片を含んでおり、上記断片は、野生型Rasタンパク質の第12、13、59、または61位置に相当するアミノ酸残基を含んでいる。また、これら第12、13、59、または61位置のアミノ酸残基は、野生型Rasタンパク質から変異したものになっている。
【0016】
さらなる別の態様において、癌抗原は、複数の領域を含む融合タンパク質構造物より構成される。上記複数の領域の各領域は、腫瘍性タンパク質由来のペプチドより構成されている。上記ペプチドは、上記腫瘍性タンパク質に見られる、造腫瘍性に関連する変異に関わる変異アミノ酸とその両側のアミノ酸とを含む、少なくとも4アミノ酸残基を備えている。この態様において、融合タンパク質構造物は、他の変異した癌抗原とフレームを合わせて融合した、以下の群から選択されるペプチドの少なくともひとつから構成されている。すなわち、上記ペプチドは、(a)少なくとも配列番号3の第8〜16位置の配列を含んでおり、配列番号3の第12位置に相当するアミノ酸残基が、配列番号3と比較して変異しているペプチド、(b)少なくとも、配列番号3の第9〜17位置の配列を含んでおり、配列番号3の第13位置に相当するアミノ酸残基が、配列番号3と比較して変異しているペプチド、(c)少なくとも、配列番号3の第55〜63位置の配列を含んでおり、配列番号3の第59位置に相当するアミノ酸残基が、配列番号3と比較して変異しているペプチド、および、(d)少なくとも、配列番号3の第57〜65位置の配列を含んでおり、配列番号3の第61位置に相当するアミノ酸残基が、配列番号3と比較して変異しているペプチド、を含む群より選択される。本発明の一態様において、上記の変異した癌抗原は、野生型Rasタンパク質配列と比較して、少なくともひとつの変異を有するRasタンパク質である。
【0017】
上述の方法のいずれかの方法のある実施形態において、本発明のワクチンは呼吸管へと投与される。別の実施形態においては、非口径の投与経路から、本発明のワクチンが投与される。さらなる別の実施形態においては、本発明のワクチンは、さらに樹状細胞またはマクロファージを含んでいる。この実施形態では、融合タンパク質を発現する酵母媒体が、生体外で、樹状細胞またはマクロファージへと送達される。そして、癌抗原を発現する酵母媒体が含まれる樹状細胞、またはマクロファージが、動物へと投与される。この実施形態の一態様において、樹状細胞または酵母媒体には、付加的に遊離抗原(free antigen)が含まれている。
【0018】
ある態様において、上記ワクチンは治療用ワクチンとして投与される。別の態様において、上記ワクチンは、予防的ワクチンとして投与される。ある態様において、上記動物は、脳腫瘍、肺癌、乳癌、黒皮腫、および腎臓癌を含む群より選択される癌を有しているか、または、癌が発生する虞がある。別の態様において、上記動物は癌を有しており、本発明のワクチンの投与は、上記動物から癌が外科的切除された後に行われる。さらなる別の態様においては、上記動物は癌を有しており、上記動物の癌の外科的切除の後、および、骨髄非切除の同種幹細胞移植(non-myeloablative allogeneic stem cell transplantation)の後に、本発明のワクチンの投与が行われる。さらなる別の態様においては、上記動物は癌を有しており、上記動物の癌の外科的切除の後、骨髄非切除の同種幹細胞移植の後、および、ドナーの同種リンパ球の注入の後に、本発明のワクチンの投与が行われる。
【0019】
本発明の別の実施形態は、動物を脳腫瘍または肺癌から守る方法に関する。上記方法には、動物において、脳腫瘍または肺癌の少なくともひとつの症状を緩和または予防するために、脳腫瘍または肺癌を有する、または発生される虞のある動物に対して、酵母媒体と、少なくともひとつの癌抗原とを含むワクチンを、動物の呼吸管へと投与することが含まれる。この実施形態において、上記ワクチンには、上述のあらゆる融合タンパク質、およびその他の抗原が含まれていても構わない。ある態様においては、上記ワクチンは、少なくとも二つまたはそれ以上の癌抗原を含んでいる。別の態様では、上記癌抗原は、少なくともひとつまたはそれ以上の癌抗原を含む融合タンパク質である。さらなる別の態様では、上記癌抗原は、ひとつまたはそれ以上の癌抗原の、免疫原性領域を少なくともひとつまたはそれ以上含んでいる融合タンパク質である。
【0020】
この実施形態の一態様では、経鼻投与によって、上記ワクチンが投与される。別の態様では、気管内投与によって、上記ワクチンが投与される。さらなる別の態様では、上記酵母媒体および上記癌抗原は、生体外で樹状細胞またはマクロファージへと送達され、そして、上記酵母媒体および癌抗原を含む樹状細胞またはマクロファージが、動物の呼吸管へと投与される。
【0021】
ある態様において、本発明の方法は、多形性神経膠芽腫などの原発性脳腫瘍、または他の器官からの転移癌を含む(しかし、これに限定されるものではない)、脳腫瘍から動物を守るものである。別の実施形態においては、本発明の方法は、原発性肺癌(例えば、非小細胞癌、小細胞癌、腺癌など)、または他の器官からの転移癌を含む(しかし、これに限定されるものではない)、肺癌から動物を守るものである。ある態様では、本発明のワクチンは治療用ワクチンとして投与される。ある態様では、本発明のワクチンは、予防的ワクチンとして投与される。
【0022】
本発明のさらなる別の実施形態は、動物において、抗原特異的な体液性免疫反応、および、抗原特異的な細胞性免疫反応を誘発する方法に関する。上記方法は、動物に治療用組成物を投与する工程を含んでおり、上記治療用組成物は、(a)酵母媒体、および(b)酵母媒体で発現される融合タンパク質、を含んでいる。上記融合タンパク質は、(i)少なくともひとつの抗原、および(ii)上記抗原のN末端に結合したペプチド、を含んでいる。上記ペプチドは、上記抗原とは非相同的な、少なくとも二つのアミノ酸残基から構成されている。上記ペプチドは、酵母媒体における融合タンパク質の発現を安定化させるか、または、発現した融合タンパク質の翻訳後修飾を防止するものである。
【0023】
上記融合タンパク質には、下記の追加の必要条件がある。すなわち、上記融合タンパク質の第1位置のアミノ酸残基はメチオニンであること、上記融合タンパク質の第2位置のアミノ酸残基はグリシンでもプロリンでもないこと、上記融合タンパク質の第2〜6位置のアミノ酸残基は、いずれもメチオニンではないこと、および、上記融合タンパク質の第2〜5位置のアミノ酸残基は、いずれもリジンでもアルギニンでもないこと、が必要条件である。本発明のある態様において、上記ペプチドは、少なくとも6つの、上記抗原と非相同的なアミノ酸残基から構成されている。別の態様において、上記ペプチドは、M−X−X−X−X−Xというアミノ酸配列を有しており、当該配列において、Xはグリシン、プロリン、リジン、アルギニンを除くあらゆるアミノ酸、Xはメチオニン、リジン、アルギニンを除くあらゆるアミノ酸、Xはメチオニン、リジン、アルギニンを除くあらゆるアミノ酸、Xはメチオニン、リジン、アルギニンを除くあらゆるアミノ酸、および、Xはメチオニンを除くあらゆるアミノ酸、であってよい。ある態様において、Xはプロリンである。ある態様において、上記ペプチドはM−A−D−E−A−P(配列番号1)というアミノ酸配列を含んでいる。本発明のある態様において、上記抗原は、以下のものを含む群より選択される。すなわち、ウイルス抗原、過剰発現した哺乳動物の細胞表面分子、細菌性抗原、真菌性抗原、原虫抗原、蠕虫抗原、外寄生体抗原、癌抗原、ひとつまたはそれ以上の変異アミノ酸を有する哺乳動物細胞分子、哺乳動物細胞で出生前または新生期に一般的に発現されるタンパク質、疫学的因子(ウイルスなど)の挿入により発現が誘導されるタンパク質、遺伝子転座によって発現が誘導されるタンパク質、および、制御配列の変異によって発現が誘導されるタンパク質を含む群から選択される。
【0024】
本発明の別の実施形態は、上述の方法で利用方法が説明されたワクチンに関する。
【0025】
本発明のさらなる別の実施形態は、動物において、抗原特異的な体液性免疫反応、および、抗原特異的な細胞性免疫反応を誘発する方法に関する。上記方法は、動物に治療用組成物を投与する工程を含んでおり、上記治療用組成物は、(a)酵母媒体、および(b)酵母媒体で発現される融合タンパク質、を含んでいる。上記融合タンパク質は、(i)少なくともひとつの抗原、および(ii)上記抗原のN末端に結合した酵母タンパク質、を含んでいる。上記酵母タンパク質は、約2〜約200の、酵母の内在性タンパク質のアミノ酸から構成されている。上記酵母タンパク質は、酵母媒体における融合タンパク質の発現を安定化させるか、または、発現した融合タンパク質の翻訳後修飾を防止するものである。本発明の一態様において、融合タンパク質の同定および精製のために、上記酵母タンパク質には、抗体エピトープが含まれている。
【0026】
本発明の別の実施形態は、上述の方法で利用方法が説明されたワクチンに関する。
【0027】
本発明のさらなる別の実施形態は、悪性腫瘍を有する患者を治療する方法に関する。上記方法には、(a)悪性腫瘍を有する患者を、安定した混合骨髄キメリズムの定着に有効である、骨髄非切除の幹細胞移植により治療する工程であって、上記幹細胞は、同種のドナーから提供されるものである工程と、(b)同種のドナーから患者へと提供されたリンパ球を投与する工程と、(c)工程(b)の後に、酵母媒体および少なくともひとつの癌抗原を含むワクチンを、患者へと投与する工程と、が含まれる。本発明の一態様において、上記方法には、工程(a)の前に、同種のドナーへと、酵母媒体および少なくともひとつの癌抗原を含むワクチンを投与する工程が含まれる。別の実施形態においては、上記方法には、工程(a)の前に、患者から腫瘍を切除する工程が含まれる。
【0028】
この方法のある態様において、上記ワクチンは、少なくとも二つまたはそれ以上の癌抗原を含んでいる。別の態様では、上記癌抗原は、ひとつまたはそれ以上の癌抗原を含む融合タンパク質である。さらなる別の態様では、上記癌抗原は、ひとつまたはそれ以上の癌抗原の、免疫原性領域をひとつまたはそれ以上含んでいる融合タンパク質である。別の態様において、癌抗原は、以下のような複数の領域を含む融合タンパク質構造物より構成される。上記複数の領域の各領域は、腫瘍性タンパク質由来のペプチドより構成されている。上記ペプチドは、上記腫瘍性タンパク質に見られる、造腫瘍性に関連する変異に関わる変異アミノ酸とその両側のアミノ酸とを含む、少なくとも4アミノ酸残基を備えている。
【0029】
別の態様において、酵母媒体は、融合タンパク質である癌抗原を発現している。なお、上記融合タンパク質は、(a)少なくともひとつの癌抗原、および(b)上記癌抗原のN末端に結合したペプチドを含んでいる。なお、上記ペプチドは、上記癌抗原とは非相同的な、少なくとも二つのアミノ酸残基から構成されている。また、上記ペプチドは、酵母媒体における融合タンパク質の発現を安定化させるか、または、発現した融合タンパク質の翻訳後修飾を防止するものである。また、上記融合タンパク質の第1位置のアミノ酸残基はメチオニンであり、上記融合タンパク質の第2位置のアミノ酸残基はグリシンでもプロリンでもなく、上記融合タンパク質の第2〜6位置のアミノ酸残基は、いずれもメチオニンではなく、上記融合タンパク質の第2〜5位置のアミノ酸残基は、いずれもリジンでもアルギニンでもない。別の一態様において、酵母媒体は融合タンパク質である癌抗原を発現している。なお、上記融合タンパク質は、(a)少なくともひとつの癌抗原、および(b)上記癌抗原のN末端に結合した酵母タンパク質、を含んでいる。なお、上記酵母タンパク質は、約2〜約200の、酵母のタンパク質に内在性のアミノ酸から構成されている。また、上記酵母タンパク質は、酵母媒体における融合タンパク質の発現を安定化させるか、または、発現した融合タンパク質の翻訳後修飾を防止するものである。
【0030】
この実施形態の一態様では、経鼻投与によって、上記ワクチンが投与される。別の態様では、非経口投与によって、上記ワクチンが投与される。別の態様では、上記酵母媒体および上記癌抗原は、生体外で樹状細胞またはマクロファージへと送達され、そして、上記酵母媒体および癌抗原を含む樹状細胞またはマクロファージが、動物の呼吸管へと投与される。
【0031】
上述の、本発明のあらゆる方法および組成物においては、本発明には、酵母媒体に関する以下のような特徴が含まれている。本発明のある実施形態において、酵母媒体は、全酵母、酵母スフェロプラスト、酵母細胞質体、酵母形骸、および酵母亜細胞膜抽出物またはその画分、を含む群より選択される。本発明の一態様において、酵母媒体の調製に用いられる酵母細胞または酵母スフェロプラストには、抗原をコードする組換え核酸分子が形質転換されており、その結果、酵母細胞または酵母スフェロプラストにより抗原が組換え技術的(recombinantly)に発現される。この態様において、組換え技術的に抗原を発現する酵母細胞または酵母スフェロプラストは、酵母細胞質体、酵母形骸、および酵母亜細胞膜抽出物またはその画分、を含む酵母媒体の作成に使用される。本発明の一態様において、酵母媒体は非病原性の酵母由来である。別の態様において、酵母媒体は、Saccharomyce属、Schizosaccharomyce属、Kluveromyce属、Hansenula属、Candida属、およびPichia属を含む群より選択された酵母由来である。本発明の一態様において、Saccharomyce属は、S.cerevisiaeである。
【0032】
一般的に、酵母媒体および抗原は、本明細書に示されているどのような技法を用いて組み合わせられても良い。本発明の一態様においては、酵母媒体の細胞内に、癌抗原が充填される。別の態様において、癌抗原は、共有結合または非共有結合によって酵母媒体へと付着される。さらなる別の態様において、酵母媒体および癌抗原は、攪拌することによって組み合わせられる。別の態様において、抗原は、酵母媒体によって、もしくは、酵母媒体が得られる酵母細胞または酵母スフェロプラストによって、組換え技術的に発現される。
【0033】
図1は、酵母ベースのRas61ーVAXワクチンが、生体内において、既存のウレタン誘導性肺腫瘍を制御していることを示す棒グラフである。
図2は、酵母ベースのRas61ーVAXワクチンが、皮下または鼻腔内経路から投与されたときに、肺腫瘍の成長を阻害する特定のタンパク質を提供していることを示す棒グラフである。
図3は、Gagを発現した酵母ベースのワクチンが、鼻腔内経路から投与されると頭蓋内腫瘍から保護するが、皮下経路による投与ではこの限りではないことを示す棒グラフである。
図4は、EGFR(EGFR−tm VAX)を発現している酵母ベースのワクチンが、皮下または鼻腔内経路から投与されたときに、EGFRを発現している頭蓋内腫瘍の攻撃から保護することを示す、生存性のグラフである。
図5は、骨髄非切除の同種幹細胞移植と連携して、乳癌抗原を発現した酵母ベースのワクチンを使用することで、腫瘍の攻撃から保護されることを示す棒グラフである。
図6は、黒色腫抗原を発現した酵母ベースのワクチンが、抗原を発現した黒色腫腫瘍細胞の攻撃から保護することを示した棒グラフである。
図7は、本発明の酵母ベースのワクチンに利用される、様々な変異Ras融合タンパク質の構造を概略的に示した図である。
【0034】
本発明は、概して、免疫療法で治療可能な種々の疾病および病状を、治療および/または予防する組成物および方法に関する。また、ある特定の実施形態においては、本発明は、概して、動物の悪性腫瘍を治療および/または予防する組成物および方法に関する。本発明には、酵母媒体および抗原を含む、酵母ベースのワクチンを使用することが含まれる。上記抗原は、動物において抗原特異的な細胞性および体液性免疫を誘発するものが選択される。また、上記ワクチンは予防的および/または治療的なワクチン接種、ならびに、種々の疾病および病状の予防および/または治療に、使用される。特に、本発明の発明者らは、生体内において、肺癌、脳腫瘍、乳癌、および腎臓癌を含む種々の形態の癌の、悪性腫瘍を減少させるために、酵母ベースのワクチンを利用する方法を本明細書に示している。また、本明細書には、癌の治療に使用できるだけでなく、その他の様々な免疫療法学的方法および組成物に応用が可能な、酵母ベースのワクチンに改良することについても記されている。
【0035】
本発明の発明者らは、以前に、細胞傷害性T細胞(CTL)反応を含む、細胞性免疫を誘発するワクチン技術を公開している。上記のワクチン技術には、酵母およびその派生物をワクチン媒介体として使用することが含まれている。また、上記技術においては、抗原に対する免疫反応を誘発するように、上記酵母には、関連抗原を発現するように、遺伝子操作がなされているか、または、関連抗原が充填されている。一般的には、米国特許第5830463号に、上記技術の説明がなされている。また、上記特許文献の内容を、参考文献として、本明細書に盛り込んである。
【0036】
本発明は、米国特許第5830463号に記載の従来の酵母ワクチン技術を利用し、酵母媒体、選択された癌抗原を用いて癌を縮小させる方法に、具体的な改良を加えるものである。また、本発明は、安定性が向上した新規タンパク質を含む新しい酵母媒体と共に、その免疫反応の誘発が治療学的利点を有すると思われる、あらゆる疾病および病状を治療するために、新規の酵母ワクチンを利用する方法が提供される。同時審査中(copending)の米国特許出願書類第09/991363号にも、本発明の種々の実施例において使用することができる、酵母ワクチンの一般的な説明がなされており、当該特許文献の内容を、参考文献として本明細書に盛り込んである。
【0037】
特に、発明者らは、以下のことを発見した。すなわち、抹消の腫瘍を破壊するために、免疫化の様々な経路が一様に有効である可能性もあるが、本発明に用いられる酵母ベースのワクチンは、肺に特異的であると思われる、エフェクター細胞を刺激できることを発見した。従って、その他の投与経路もまた効果的であるが、呼吸管(例えば、経鼻投与、吸入、気管内投与など)を通して酵母ワクチンを投与することで、試験を行った限りでは、その他の投与経路では達成できない、思いの外に強力な免疫反応および抗腫瘍効果を提供することができる。
【0038】
特に、本発明の発明者らは、酵母ワクチンを抹消に投与するよりも、呼吸管へと投与することの方が、肺癌の腫瘍をより一層縮小することを発見した。さらに驚くべきことは、脳腫瘍に関する結果であった。試験を行った全ての試験モデルにおいて、呼吸管へと酵母ワクチンを投与することで、強力な抗腫瘍反応が誘発されたが、抹消へのワクチン投与(皮下投与)は、脳内において抗腫瘍反応の誘発には効果があまりなかった。また、脳腫瘍に関する、ある試験モデルにおいては、抹消への投与により、脳内に顕著な抗腫瘍反応を提供することができなかった。
【0039】
従って、本発明の酵母ベースのワクチンは、肺の内部に独特の免疫エフェクター細胞前躯体を刺激することができ、さらに、上記の免疫細胞は、血液脳関門を通過し、頭蓋内腫瘍の成長過程に影響を及ぼすことに、特に効果的であると思われる。本発明の発明者らは、公知の理論に束縛されることなく、少なくとも脳腫瘍および肺癌に対して有効なワクチンを設計するにあたっては免疫化の経路が重要な要素であるかもしれない、と考えている。本発明の酵母ベースのワクチンは、複数の経路からの免疫化を非常に容易に行えることから、当該ワクチンは、幾つかの癌の治療において従来はその可能性が正当に評価されていなかった、非常に特化した免疫反応を引き起こすという有望性を有している。
【0040】
本発明の発明者らは、既にLuznikらによって示されている混合同種骨髄キメラ方法(mixed allogeneic bone marrow chimera protocol)(Blood 101 (4): 1645-1652, 2003、当該文献の内容を、参考文献として、本明細書に盛り込んである)に新しい修正を加え、当該方法において本発明の酵母ワクチンを利用することにより、生体内に、非常に優れた治療的免疫反応および抗癌反応が誘導されることを発見した。注目に値することに、被移植者由来の完全な腫瘍標品を使用する必要なしに、および、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM−CSF)などの生体反応変更因子を用いてワクチンを増強する必要なしに、および、従来公知の免疫賦活剤を使用する必要なしに、上記の結果を得ることができる。さらに、本発明の酵母媒体を利用することにより、抗原および抗原配合物の選択が柔軟になり、また、抗原にする細胞性免疫を大きく増強することができる。そのうえ、本発明は、制御された、選択的な方法で本発明の酵母ワクチンのワクチン接種をドナーに行うことで、上記方法をさらに強化することができる。
【0041】
さらに、本発明の発明者らは、酵母媒体の異種タンパク質の発現を安定させる、および/または、発現された異種タンパク質の翻訳後修飾を防ぐ、新規の融合タンパク質を利用して、酵母ベースのワクチン技術を改良した。具体的には、本発明の発明者らは、酵母で発現する異種抗原の新規な構造物を本明細書に示している。なお、好ましい抗原タンパク質またはペプチドは、そのアミノ末端基に、(a)合成ペプチド、または(b)酵母内在性タンパク質の少なくとも一部分、が融合されている。(a)および(b)のような融合タンパク質によって、酵母中におけるタンパク質発現の安定性が向上され、および/または、酵母細胞によるタンパク質の翻訳後修飾が防止される。また、上記の融合ペプチドは、抗体などの選択作用因子(selection agenet)によって認識されるように設計されているエピトープを提供すると共に、上記構造物中のワクチン接種される抗原に対する免疫反応に、マイナスの影響を与えないと思われる。このような作用因子は、本発明において有用であるタンパク質の同定、選択、および精製に有用である。
【0042】
さらに、本発明は、抗原構造物のC末端に融合されたペプチドの利用方法、特にタンパク質の選択および同定に関する利用方法、をも考慮するものである。上記のようなペプチドには、ペプチドタグ(6Xヒスチジンなど)またはその他の抗原決定タグなどの、あらゆる合成または天然ペプチドが含まれるが、これらに限定されるものではない。本発明の、抗原のC末端に結合したペプチドは、上述のような、付加的なN末端のペプチドの有無に関係なく使用されても良い。
【0043】
最後に、本発明の発明者らは、酵母ベースのワクチンに利用される、ひとつまたはそれ以上の抗原由来の免疫原性領域が、同じ構造物中に供されている新規の融合タンパク質抗原について、説明を行っている。上記のような融合タンパク質は、単一のワクチン構造物中に、自然界で発生する、抗原のひとつまたは複数の部位における、幾つかの異なる変異および/または変異の組合せを網羅することが好ましい場合に、特に有用である。例えば、自然界において腫瘍細胞表現型に関連した、ras遺伝子の発癌遺伝子には、幾つかの異なる変異が存在することが知られている。膵臓癌の78%、結腸直腸癌の34%、非小細胞肺癌の27%、卵巣癌の24%において、Rasタンパク質の第12アミノ酸をコードするコドンに変異が発見されている。また、種々の癌において、第13、59、61部位に異なる変異が見出されている。本発明の発明者らは、この酵母ベースのワクチンアプローチを利用した融合タンパク質の生産について説明を行っている。上記融合タンパク質は、rasの変異に基づいた融合タンパク質を含み、同じ部位に起こる幾つかの変異、および/または、ひとつ以上の部位で起こる変異の組合せを獲得することができるものであり、それらが同じ抗原ワクチンにおいて存在するものであるが、これに限定されるものではない。
【0044】
本発明で使用される方法および組成物の一般的な説明を述べると、ここで説明されるワクチンおよび方法は、強力なワクチンの処方において非常に効果的なT細胞の活性化を行う効果的な抗原送達を完成させたものであり、上記方法は、補助的な免疫賦活物質または生物学的媒体(biological mediator)を必要としないものである。ここで説明されるワクチンアプローチは、これが理想的なワクチン候補たる多くの特性を有している。その特性には、構築の容易さ、低費用の大量生産、生物学的安定性、および安全性などが含まれているが、これらに限定されるものではない。 マウス、ラット、ウサギ、ピッグテールマカク(Macaca nemestrina)、赤毛猿マカク、免疫不全のCB.17scidマウス(非発表の観測)に対して、初回接種、または繰り返しの投与を行った時点で、何れの場合においても、全酵母の投与による著しい副作用は見出されなかった。さらに、上記特許文献第09/991363に示されているように、MHCクラスIおよびクラスIIプロセッシング経路へと抗原を効果的に送達することにより、樹状細胞を強力な抗原提示細胞(APC)へと成長させる、酵母−抗原複合体の能力は、酵母ベースのワクチン媒介体が、種々の感染症および癌を標的とした細胞性免疫の誘発を行う、強力な方法を提供することができることを示すものである。実際に、本明細書に示されたデータおよび酵母ベースのワクチン技術の発展は、以前は高く評価されていなかった技術に、非常に重大な進歩をもたらすと同時に、その一般的原理を証明してゆくものである。
【0045】
本発明において、酵母媒体は、ワクチンの抗原または本発明の治療用組成物と連携して利用できる、または免疫賦活剤として利用できる、いかなる酵母細胞(例えばホールセルまたは無傷細胞)またはその派生物(以下参照)であっても構わない。上記の酵母媒体には、生きている無傷の酵母微生物(すなわち、細胞壁を含む全ての構成要素を有する酵母細胞)、殺された(死んだ)無傷の酵母微生物、またはそれらの派生物が含まれるが、これらに限定されるものではない。また、上記の派生物には、酵母スフェロプラスト(すなわち、細胞壁の欠如した酵母細胞)、酵母細胞質体(すなわち、細胞壁および細胞核が欠如した酵母細胞)、酵母形骸(すなわち、細胞壁、細胞核、細胞質)が欠如した酵母細胞、酵母亜細胞膜抽出物またはその画分(酵母亜細胞小粒に関する前述の記載を参照)が含まれる。
【0046】
酵母スフェロプラストは、一般的に、酵母細胞壁を酵素で分解することにより生成される。このような方法は、例えば、「Franzusoff et al., 1991, Meth. Enzymol. 194, 662-674」に説明されており、上記文献の内容を、参考文献として、本明細書に盛り込んである。酵母細胞質体は、一般的に、酵母細胞の核摘出により生成される。このような方法は、例えば、「Coon, 1978, Natl. CancerInst. Monogr. 48, 45-55」に説明されており、上記文献の内容を、参考文献として、本明細書に盛り込んである。酵母形骸は、一般的に、透過処理または溶解処理された細胞を再封することにより生成される。酵母形骸は、少なくとも幾つかの細胞小器官を含んでいてもよいが、必ずしもそうである必要性はない。このような方法は、例えば、「Franzusoff et al., 1983, J. Biol. Chem. 258, 3608-3614」、および「Bussey et al., 1979, Bioclaim. Biophys. Acta 553,185-196」に説明されており、上記文献の内容を、参考文献として、本明細書に盛り込んである。酵母亜細胞膜抽出物またはその画分とは、本質的に核または細胞質が欠如した酵母細胞膜のことを意味している。その小粒はいかなるサイズであっても構わない。そのサイズには、天然の酵母細胞膜のサイズから、超音波処理、または再封の前に行われる、その他の当業者に公知の膜分解方法、により生成される微粒子サイズに至るまでのサイズが含まれている。酵母亜細胞膜抽出物を生成する方法は、例えば、「Franzusoff et al., 1991, Meth. Enzymol. 194, 662-674」などに説明されている。また、酵母細胞膜の一部分を含む酵母細胞抽出物の画分を利用してもかまわないし、酵母細胞膜抽出物の生成に先立ち、酵母によって抗原が組換え技術的に発現される場合には、目的の抗原を含む酵母細胞抽出物の画分を利用してもかまわない。
【0047】
本発明の酵母媒体の作成に、あらゆる酵母菌株を利用することができる。酵母は、子嚢菌類、端子菌類、および不完全菌類の3つの分類のうちのひとつに属する、単細胞微生物である。病原性酵母株またはその非病原性変異株を本発明に利用しても良いが、非病原性株を利用することがより好ましい。酵母株の好適な属には、Saccharomyce属、Candida属(病原性である可能性がある)、Cryptococcus属、Hansenula属、Kluyveronzyce属、Pichia属、Rhodotorula属、Schizosaccharomyce属、およびYarrowia属が含まれる。Saccharomyce属、Candida属、Hansenula属、Pichia属、およびSchizosaccharomyce属がより好適であり、Saccharomyce属が特に好適である。好適な酵母株には、Saccharomyces cerevisiae、Saccharornyces carlsbergensis、Candida albicans、Candida kefyr、Candida tropicalis、Cryptococcus laurentfi、Cryptococcus neoformans、Hansenula anomala、Hansenula polymorpha、Kluyveromyces fragilis、Kluyveromyces lactis、Kluyveromyces marxianus var. lactis、Pichia pastoris、Rhodotorula rubra、Schizosaccharomyces pombe、およびYarrowia lipolyticaが含まれる。
【0048】
なお、これらの多くの種のさまざまな亜種、類、特殊種などが前述の種に含まれている、と理解されたい。より好適な酵母株には、S.cerevisiae、C.albicans、H.polymorpha、P.pastors、およびS.pombeが含まれる。取り扱いが容易なことと、食品添加物として、「一般的に安全と認められている食品」または「GRAS」であることから(GRAS, FDA proposed Rule 62FR18938, April 17, 1997)、S.Cerevisiaeが特に好適である。本発明のある実施例では、プラスミドを特に高コピー数で複製することができる、S.Cerevisiae cir°株などの酵母株が用いられる。
【0049】
ある実施形態において、本発明の好適な酵母媒体は、当該酵母媒体と抗原とが送達される細胞型と融合できるものであり、樹状細胞またはマクロファージなどと融合できる酵母媒体である。その結果、酵母媒体、多くの実施形態においては抗原が、上記細胞型に、特に効果的に送達される。ここでは、「標的細胞型と酵母媒体との融合」とは、酵母細胞膜またはその小粒が、標的細胞型(例えば、樹状細胞またはマクロファージなど)の膜と融合し、融合細胞を形成できることを意味している。
【0050】
ここでは、融合細胞とは、細胞の融合によって生成される原形質の多核性集合体のことである。多くのウイルス表面タンパク質(HIV、インフルエンザウイルス、ポリオウイルスおよびアデノウイルスなどの、免疫不全ウイルスのものを含む)、およびその他のフソゲン(fusogen)(卵子および精子の融合に関与するものを含む)が、2つの膜間(すなわち、ウイルスおよび哺乳類の細胞膜間、または哺乳類の細胞膜間)の融合を生じさせることが可能であると知られている。例えば、その表面にHIV gp120/gp41異種抗原を生成する酵母媒体は、CD4+Tリンパ球と融合することができる。なお、標的部分(targeting moiety)を酵母媒体中へと組み込むことは、ある状況下においては好ましい場合もあるが、このことは必須ではないことに注意されたい。本発明の発明者らは、以前に、樹状細胞によって(マクロファージなどの他の細胞と同様に)、本発明の酵母媒体が容易に取り込まれることを示している。
【0051】
酵母媒体は、患者に直接投与される製剤を含む、本発明の組成物へと調剤されてもよく、または、当業者に公知の技術を用いて、最初に樹状細胞などのキャリアへと充填されてもよい。例えば、液体窒素またはドライアイスに晒して凍結乾燥または凍結することにより、酵母媒体が乾燥されても構わない。
【0052】
酵母媒体を含む製剤は、ベーキングまたは醸造作業に酵母を利用して、ケーキまたは錠剤に酵母をパックすることにより調製されても構わない。さらに、樹状細胞への添加またはその他のタイプの抗原の投与に先立ち、酵母媒体は、ホスト細胞に許容的な等張緩衝液などの、薬学的に許容可能な賦形剤と混合されても構わない。上記のような賦形剤の例には、水、生理食塩水、リンガー溶液、ブドウ糖溶液、ハンク溶液(Hank's solution)、および、その他の水性であり生理的にバランスのとれている食塩溶液、が含まれる。また、不揮発性油、胡麻油、オレイン酸エチル、中性脂肪などの非水性の媒体が使用されても構わない。その他の有用な製剤形態には、ナトリウムカルボキシメチルセルロース、ソルビトール、グリセロール、またはデキストランなどの、粘性の増強剤を含有する懸濁液が含まれる。賦形剤には、等張性および化学的安定性を増強する物質などの、添加物が少量含まれていてもよい。
【0053】
緩衝液の例には、リン酸バッファー、重炭酸塩バッファー、およびTrisバッファーが含まれる。また、保存剤の例には、チメロサール、メタ−(m−)またはオルト−(o-)クレゾール、ホルマリン、およびベンジルアルコールが含まれる。一般的な製剤形態は、注射可能な液状、または、注射用の懸濁液または溶液として適切な液体へと溶解できる固相、のいずれかであってよい。従って、非液状の製剤形態において、賦形剤は、例えば、デキストロース、ヒト血漿アルブミン、および/または投与の前に滅菌水または滅菌生理食塩水に加えられる保存剤などを含有していても構わない。
【0054】
本発明のある治療用組成物またはワクチンの構成要素には、動物のワクチン接種のための、少なくともひとつの抗原が含まれる。上記の組成物またはワクチンは、ひとつまたはそれ以上の抗原を含んでいても良く、また、上記の抗原には、ひとつまたはそれ以上の抗原の免疫原性領域が、ひとつまたはそれ以上含まれている事が好ましい。本発明において、「抗原」という用語は、一般的に以下のような意味で用いられている。すなわち、自然発生的または合成的に得られたタンパク質のあらゆる部分(ペプチド、タンパク質の一部分、完全長のタンパク質)、細胞組成物(ホールセル、細胞溶解液、または崩壊した細胞)、生物体(完全な生物体、細胞溶解液または崩壊した細胞)、炭水化物またはその他の分子、もしくはこれらの一部分であって、抗原特異的な免疫反応(体液性および/または細胞性免疫反応)を誘発するものであるか、または、上記抗原が投与された動物の細胞および組織内部で遭遇する同種または同様の抗原に対して、拮抗因子(toleragen)として作用するものである。
【0055】
本発明のある実施形態において、免疫反応を刺激することが好ましい場合、「抗原」という用語は、「免疫源」という用語と同義語として利用されており、また、「抗原」という用語は、体液性または細胞性免疫反応を誘発する(すなわち抗原性の)、タンパク質、ペプチド、細胞組成物、有機体、またはその他の分子を表す文言として用いられる。従って、免疫源を動物に投与すると(例えば、本発明のワクチンを利用して)、動物の組織内部で遭遇する、同種または同様の抗原に対して、抗原特異的な免疫反応が開始される。このように、本発明のある実施形態において、特定の抗原に対して動物にワクチン接種を行う事は、抗原の投与の結果、当該抗原に対して免疫反応が誘発される、ということを意味している。ワクチン接種は、接種の後に抗原(または抗原の源)に接触すると、上記抗原(またはその源)に対して、動物の疾病および病状を緩和および防止する免疫反応が誘発されるという、予防的または治療的な効果に至ることが好ましい。ワクチン接種の概念に関しては、当技術分野において公知である。本発明の組成物の投与によって誘発される免疫反応は、ワクチンの投与を行わなかった場合と比較した時に、免疫反応のあらゆる様相(例えば、細胞反応、体液性免疫、サイトカインの生合成など)に見られる検出可能な変化であっても構わない。
【0056】
本発明の別の実施形態においては、特定の抗原に対する免疫反応を抑制することが好ましい場合、抗原に拮抗因子が含まれても構わない。本発明では、拮抗因子とは、抗原に対する免疫反応を変化または減少させるように、ある分量、ある形状、ある投与経路で提供される、タンパク質、ペプチド、細胞組成物、有機体またはその他の分子のことを表しており、好ましくは、拮抗因子または当該拮抗因子を発現または提示する細胞との接触に応じて、免疫系細胞が、非反応性化、不応答性化、不活性化、または変性されることを表している。
【0057】
「ワクチン接種抗原」は、免疫源または拮抗因子であっても構わない。「ワクチン接種抗原」とは、生物学的反応(免疫反応、免疫寛容の誘発)が、当該ワクチン抗原に対して誘発されるような、ワクチンに利用される抗原のことである。
【0058】
特定の抗原の免疫原性領域は、動物に投与された時に免疫原として作用するエピトープを少なくともひとつ含んだ、抗原のあらゆる部分(すなわち、ペプチド断片やサブユニット)であって構わない。例えば、単一のタンパク質に複数の異なる免疫原性領域が含まれていても良い。
【0059】
エピトープとは、免疫反応を誘発するのに十分である特定の抗原内部のひとつの免疫原性部位、または、免疫反応の抑制、欠如、または免疫反応の不活性化を補助するのに十分である、特定の抗原内部のひとつの拮抗因子部位、のことを意味している。当分野に熟達した当業者は、T細胞エピトープが、B細胞エピトープとサイズおよび組成において異なり、さらに、クラスIMHC経路を通じて提示されるエピトープが、クラスIIMHC経路通じて提示されるエピトープと異なるということを認知しているであろう。抗原は、単一のエピトープと同じ大きさでも、それより大きくても構わない。また、抗原は、複数のエピトープを含んでいても構わない。このように、抗原のサイズは約5〜12アミノ酸(例えばペプチド)の小ささであっても良く、また、多量体や融合タンパク質、キメラタンパク質を含む完全長のタンパク質、ホールセル、微生物全体、またはそれらの一部分(ホールセルの溶解液または微生物の抽出物など)と同等の大きさであっても構わない。
【0060】
さらに、抗原には、炭水化物が含まれており、この炭水化物は、癌細胞などで発現されており、本発明の酵母媒体または組成物中へと充填されてもよい。幾つかの実施形態(すなわち、酵母媒体の組換え核酸分子から抗原が発現される場合など)において、上記抗原が、細胞または微生物の完全体ではなく、タンパク質、融合タンパク質、キメラタンパク質、またはその断片であることが高く評価されるであろう。ある好適な実施形態においては、上記抗原は、腫瘍抗原または感染症病原体の抗原(すなわち、病原体抗原)を含む群から選択される。本発明のある実施形態において、上記抗原は、ウイルス抗原、過剰発現した哺乳動物の細胞表面分子、細菌性抗原、真菌性抗原、原虫抗原、蠕虫抗原、外寄生体抗原、癌抗原、ひとつまたはそれ以上の変異アミノ酸を有する哺乳動物細胞分子、哺乳動物細胞で出生前または新生期に一般的に発現されるタンパク質、疫学的因子(ウイルスなど)の挿入により発現が誘導されるタンパク質、遺伝子転座によって発現が誘導されるタンパク質、および、制御配列の変異によって発現が誘導されるタンパク質を含む群から選択される。
【0061】
本発明において、本発明の組成物または媒体への利用に適した抗原には、同一の抗原由来である二つまたはそれ以上の免疫原性領域またはエピトープ、同じ細胞や組織や器官由来である二つまたはそれ以上の免疫原性領域またはエピトープ、もしくは、異なる細胞や組織や器官由来である、二つまたはそれ以上の異なる抗原の免疫原性領域またはエピトープが含まれていても良い。好ましくは、上記の抗原は、上記酵母株に非相同的(すなわち、遺伝子操作または生物学的な操作が行われていない酵母株によって自然に生成されたタンパク質ではない)なものである。
【0062】
本発明のある実施形態は、本発明のワクチンの抗原として利用される、改良された種々のタンパク質に関する。特に、本発明により、酵母媒体における非相同的タンパク質の発現を安定化させ、および/または発現した相同性タンパク質の翻訳後修飾を防止する、新規の融合タンパク質構造物が提供される。これらの融合タンパク質は、一般的には、組換えタンパク質として、酵母媒体によって発現される。例えば、無傷の酵母または酵母スフェロプラストによって発現され、付加的に、酵母細胞質体、酵母形骸、または酵母細胞膜抽出物またはその画分によって、さらに処理を受ける。しかし、本発明のある実施形態においては、本発明のワクチンを生成するために、ひとつまたはそれ以上の上記のような融合タンパク質は、上述のように、酵母媒体に充填されるか、または、酵母媒体と混合または複合される。
【0063】
本発明に有用である、上記のような融合構造物のひとつは、(a)完全長の抗原の免疫原性領域およびエピトープに加え、本明細書の他の部分にも記載されているように、種々の融合タンパク質および複数の抗原構造物を含む、少なくともひとつの抗原、および(b)合成ペプチド、を含有した融合タンパク質である。上記の合成ペプチドは、癌抗原のN末端に結合されることが好ましい。このペプチドは、癌抗原と非相同的である少なくとも二つのアミノ酸残基より構成されている。このペプチドは、酵母媒体における融合タンパク質の発現を安定化させるもの、または、発現した融合タンパク質の翻訳後修飾を防止するものである。
【0064】
上記合成ペプチドおよび抗原のN末端部分によって融合タンパク質が形成され、この融合タンパク質には以下の必要条件がある。すなわち、(1)上記融合タンパク質の第1位置のアミノ酸残基はメチオニンである。すなわち、合成ペプチドの第1アミノ酸はメチオニンである。(2)上記融合タンパク質の第2位置のアミノ酸残基はグリシンでもプロリンでもない。すなわち、上記合成ペプチドの第2位置のアミノ酸残基はグリシンでもプロリンでもない。(3)上記融合タンパク質の第2〜第6位置のアミノ酸残基は、いずれもメチオニンではない。すなわち、上記合成ペプチドの第2〜第6位置のアミノ酸残基は、いずれもメチオニンではないか、上記合成ペプチドが6アミノ酸よりも短い場合は、上記合成ペプチドまたは上記タンパク質は、メチオニンを含まない。(4)上記融合タンパク質の第2〜5位置のアミノ酸残基は、いずれもリジンおよびアルギニンではない。すなわち、第2〜5位置のアミノ酸残基は、いずれもリジンおよびアルギニンではないか、上記合成ペプチドが5アミノ酸よりも短い場合は、上記合成ペプチドまたは上記タンパク質は、リジンおよびアルギニンを含まない。上記合成ペプチドは、2アミノ酸という短さであってもよいが、少なくとも2〜6アミノ酸(3、4、5アミノ酸を含む)であることが好ましい。また、合成ペプチドは6アミノ酸以上の長さであっても良く、完全長のものとしては、最大約200アミノ酸の長さであっても構わない。
【0065】
本発明のある実施形態において、上記ペプチドは、M−X−X−X−X−Xというアミノ酸配列を有しており、当該配列において、Mはメチオニン、Xはグリシン、リジン、アルギニンを除くあらゆるアミノ酸、Xはメチオニン、リジン、アルギニンを除くあらゆるアミノ酸、Xはメチオニン、リジン、アルギニンを除くあらゆるアミノ酸、Xはメチオニン、リジン、アルギニンを除くあらゆるアミノ酸、および、Xはメチオニンを除くあらゆるアミノ酸、である。
【0066】
本発明のある実施形態において、Xはプロリンである。酵母細胞中で抗原の発現の安定性を高める、および/または、酵母中でタンパク質の翻訳後修飾を防止する典型的な合成配列には、M−A−D−E−A−P(配列番号1)という配列が含まれる。本発明の発明者らは、この融合物質が、発現された生成物の安定性の増強するだけでなく、構造物中のワクチン接種抗原に対する免疫反応に何ら悪影響を与えないと考えている。さらに、上記の合成融合ペプチドは、抗体などの選択作用因子によって認識されるエピトープを提供するように設計されてもよい。
【0067】
本発明において、「非相同的アミノ酸」とは、特定のアミノ酸配列に関して天然には見出されない(すなわち、自然界において生体内に見出されない)アミノ酸配列であるか、または、特定のアミノ酸配列が有する機能とは関わっていないアミノ酸配列であるか、または、自然発生の核酸配列が、アミノ酸配列が得られるような生物に一般的なコドンを用いて翻訳される場合に、その遺伝子中に発生する特定のアミノ酸配列をコードする、自然発生の核酸配列を有する核酸によってコードされていないアミノ酸配列である。従って、癌抗原に非相同的である少なくとも二つのアミノ酸残基は、自然発生的には癌抗原には見出されない、あらゆる二つのアミノ酸残基である。
【0068】
別の本発明の実施形態は、融合タンパク質に関するものである。上記融合タンパク質は、(a)完全長の抗原の免疫原性領域およびエピトープと同様に、本明細書の他の部分にも記載されているように、種々の融合タンパク質および複数の抗原構造物が含まれる、少なくともひとつの抗原、および、(b)少なくとも内在性酵母タンパク質の一部分、を含んでおり、(a)は(b)へと融合されている。内在性酵母タンパク質は、好適には、癌抗原のN末端に結合されており、当該内在性酵母タンパク質は、酵母中におけるタンパク質発現の安定性を大きく向上させ、および/または、酵母細胞によるタンパク質の翻訳後修飾を防止している。さらに、合成ペプチドと結合した内在性酵母抗原において、この融合相手は、構造物中のワクチン接種抗原に対する免疫反応に、何ら悪影響を及ぼさない。内在性抗原に選択的に結合する抗体は、既に利用可能であるかもしれないし、直ちに抗体の生成が行われるかもしれない。最後に、タンパク質を特定の細胞部位に誘導することが好ましい場合(例えば、分泌経路、ミトコンドリア、核へと誘導する場合)、上記構造物は、細胞機構が輸送システムに関して最適化されるように、酵母タンパク質の内在性シグナルを利用しても構わない。
【0069】
内在性酵母タンパク質は、内在性酵母タンパク質の約2〜約200(または最大22kDa)のアミノ酸から構成されている。この酵母タンパク質は、酵母媒体における融合タンパク質の発現を安定化させる、または、発現した融合タンパク質の翻訳後修飾を防止する。この実施形態には、あらゆる内在性酵母タンパク質を利用しても構わない。特に好適なタンパク質には、SUC2、アルファ因子シグナルリーダー配列、SEC7、CPY、グルコースおよびサイトゾルの局在化によりその発現が抑制される、ホスホエノールピルビン酸カルボキシキナーゼPCK1、ホスホグリセロキナーゼPGK、トリオースリン酸イソメラーゼTPI遺伝子産物、局在化および細胞壁への固定を行うCwp2p、細胞が熱処理された時に発現される、より熱安定性である熱ショックタンパク質SSA1、SSA3、SSA4、SSC1、KRA2、ミトコンドリア内部へと移入されるミトコンドリアタンパク質CYC1、娘細胞形成の初期段階において、酵母の芽の局在化を行うBUD遺伝子、アクチン管束に固定するACT1が含まれるが、これに限定されるものではない。なお、SUC2は、酵母インベルターゼであり、同じプロモータにより細胞基質中および分泌経路へと誘導的にタンパク質を発現することのできる、優れた候補であるが、培地中の炭素源に依存性である。
【0070】
本発明の一実施形態において、内在性酵母タンパク質/ペプチドまたは合成ペプチドは、融合タンパク質の同定および精製のために、抗体エピトープを有している。融合タンパク質に選択的に結合できる抗体は、利用可能であるか、または生成できることが好ましい。本発明では、「選択的に結合する」という表現は、本発明の、抗体、抗原結合性断片、または結合相手が、特定のタンパク質に優先的に結合できることを意味している。より具体的には、「選択的に結合する」という表現は、あるタンパク質が他のもの(例えば、抗原、その断片、または、抗体の結合相手など)に対して特異的に結合することを意味している。その結合レベルは、一般的な試験法(例えば、免疫学的検定法など)によって測定することができ、さらに、上記選択的な結合の結合レベルは上記試験法のバックグラウンドコントロールを、統計的に大きく上回っている。例えば、免疫学的検定法を行う場合、コントロールには、一般的に、抗体または抗原結合性断片を単体で含有する(すなわち、抗原を含まない)反応ウェル/チューブが用いられるが、この際、抗原が存在しない状態における抗体または抗原結合性断片の反応性(例えば、ウェルへの非特異的な結合など)がバックグラウンドと見なされる。上記結合性は、酵素免疫測定法(例えばELISA、免疫ブロット法など)を含む、当技術分野において一般的な種々の方法を用いて測定することができる。
【0071】
抗体は、免疫グロブリン領域を含んでいることを特徴としており、従って、これらの抗体はタンパク質の免疫グロブリン・スーパーファミリーのひとつであると分類される。単離された本発明の抗体には、上記のような抗体を含む血清、または種々の程度に精製された抗体が含まれても良い。本発明の完全な抗体は、ポリクローナルまたはモノクローナルであっても構わない。あるいは、完全な抗体と同等の機能を有するものが本発明に使用されても構わない。上記完全な抗体と同等の機能を有するものには、ひとつまたはそれ以上の抗体領域が不完全であるか、または欠落している抗原結合性断片(例えば、Fv、Fab、Fab’、F(ab)断片など)、一本鎖抗体または一つ以上のエピトープに結合できる抗体(例えば、二重特異性抗体など)および、ひとつまたはそれ以上の異なる抗原に結合できる抗体(例えば、二重特異性または多重特異性抗体)を含む、遺伝子操作がなされた抗体またはその抗原結合性断片が含まれる。
【0072】
一般的に、抗体の生産においては、ウサギ、羊、ハムスター、モルモット、マウス、ネズミ、または鶏が含まれるが、これに限定されるものではない好適な実験動物が、抗体が望まれている抗原に晒される。通常は、効果的な分量の抗原を動物に注射して、動物に免疫を付与する。なお、効果的な分量とは、動物によって抗体の生産が誘発されるために必要となる分量のことを意味している。その後、所定の期間に渡り、動物の免疫系が反応する。上記免疫系が抗原に対する抗体を生産していることが見出されるまで、ワクチン接種工程が繰り返されても構わない。抗原に特異的なポリクローナル抗体を得るために、望ましい抗体を有する動物から血清が収集される。鶏の場合、抗体は卵から収集されても構わない。上記の血清は試薬として有用である。例えば、硫酸アンモニウムで血清を処理することなどによって、血清(または卵)から、ポリクローナル抗体がさらに精製されても良い。
【0073】
モノクローナル抗体は、Kohler and Milsteinの方法論(Nature 256: 495-497, 1975)に基づいて生産されても構わない。例えば、Bリンパ球は、ワクチン接種を受けた動物の脾臓(またはあらゆる適切な組織)から回収され、その後、適切な培養培地中で成長し続けることができるハイブリドーマ細胞の個体群を得るために、骨髄腫細胞と融合される。望ましい抗体を生産するハイブリドーマ細胞は、ハイブリドーマ細胞によって生産された抗体の、目的とする抗原への結合能を試験することによって選択される。
【0074】
また、本発明の範囲は、非抗体ペプチドにも及んでいる。時として結合相手と表現される上記非抗体ペプチドは、本発明のタンパク質に特異的に結合するように設計されており、さらに必要に応じて、本発明のタンパク質の活性化または阻害を行うものである。上記ペプチドの設計の例としては、所定の特異性リガンドを有するペプチドがBesteらにより公開されている(Proc. Natl. Acad. Sci. 96: 1898-1903,1999)。なお、この文献の内容を、参考文献として、本明細書に盛り込んである。
【0075】
本発明のさらなる別の実施形態において、ワクチンの抗原タンパク質は、二つまたはそれ以上の抗原を含む融合タンパク質として生産される。ある態様において、上記融合タンパク質は、二つまたはそれ以上の免疫グロブリン領域、または、ひとつまたはそれ以上の抗原の二つまたはそれ以上のエピトープを含んでいても良い。特に好適な実施形態において、上記融合タンパク質は、抗原の、二つまたはそれ以上の免疫グロブリン領域を含んでおり、好適には抗原の複数の領域を含んでいる。上記複数の領域は、幾つかの異なる変異、および/または、抗原のひとつまたは2〜3の部位に自然に発生し得る変異の組合せ、を含んでいる。このことは、様々な患者において、様々に変化する変異を起こすことが知られている非常に特異的な抗原に対して、ワクチンを提供する事ができるという特有の利点を提供するものである。上記のワクチンは、様々な患者に、抗原特異的免疫を付与することができる。例えば、本発明において有用である複数の領域の融合タンパク質は、複数の領域を有していても構わない。それぞれの領域は、特定のタンパク質由来のペプチドより構成されており、当該ペプチドは、少なくとも4つのアミノ酸残基より構成されている。上記アミノ酸残基は、上記ペプチドの両側部にあり、タンパク質中に見出される変異したアミノ酸を含んでいる。なお、上記変異は、特定の疾病(癌など)に関連した変異である。
【0076】
Ras遺伝子は、幾つかの変異が特定の部位に起こる事が知られており、それら変異がひとつまたはそれ以上の種類の癌の成長に関係していることが知られている、発癌遺伝子のひとつの例である。それゆえ、癌において変異していることが知られている、所定のアミノ酸残基を含むペプチドより構成される、融合タンパク質を構築することができる。上記融合タンパク質には、特定部位の変異の幾つか、または公知の変異全てをカバーするように、その各領域に、異なる変異を含有させてもよい。
【0077】
例えば、Rasに関して、当業者は、その両端に少なくとも4つのアミノ酸を有するとともに、第12位置を有する、複数の免疫原領域を提供することができる。それぞれの領域の上記第12位置においては、変異していないRasタンパク質に一般的であるグリシンが、それぞれ異なる置換基によって置き換えられている。
【0078】
ある例において、癌抗原は、野生型Rasタンパク質の、少なくとも5〜9つの連続したアミノ酸残基の断片を含んでおり、上記断片は、野生型Rasタンパク質の第12、13、59、61位置に相当するアミノ酸残基を含んでいる。また、これら第12、13、59、61位置のアミノ酸残基は、野生型Rasタンパク質から変異したものになっている。ある一態様において、融合タンパク質構造物は、他の変異した癌抗原の構造とフレームを合わせて融合した、少なくともひとつのペプチド、例えば、野生型のRasタンパク質配列と比較して、少なくともひとつの変異を含んでいるRasタンパク質、から構成されている。
【0079】
上記ペプチドは以下の群より選択される。すなわち、(a)少なくとも配列番号3の第8〜16位置の配列を含んでおり、配列番号3の第12位置に相当するアミノ酸残基が、配列番号3と比較して変異しているペプチド、(b)少なくとも、配列番号3の第9〜17位置の配列を含んでおり、配列番号3の第13位置に相当するアミノ酸残基が、配列番号3と比較して変異しているペプチド、(c)少なくとも、配列番号3の第55〜63位置の配列を含んでおり、配列番号3の第59位置に相当するアミノ酸残基が、配列番号3と比較して変異しているペプチド、および、(d)少なくとも、配列番号3の第57〜65位置の配列を含んでおり、配列番号3の第61位置に相当するアミノ酸残基が、配列番号3と比較して変異しているペプチド、を含む群より選択される。タンパク質のこの領域において、ヒトおよびネズミの配列は同一であり、さらに、KRas、H−Ras、N−Rasはこの領域において同一であることから、これらの部位は、配列番号5、7、9、11、13のいずれにも対応するものであることに注意されたい。
【0080】
本発明において、その他の抗原に対しても、上記のような方法が特に有用であることは、当分野に熟達した当業者に高く評価されるであろう。なお、上記のその他の抗原には、TP53(p53として知られる)、p73、BRAF、APC、Rb−1、Rb−2、VHL、BRCA1、BRCA2、AR(アンドロゲン受容体)、Smad4、MDR1、および/またはFlt−3が含まれるが、これらに限定されるものではない。
【0081】
本発明のある実施形態において、本明細書に示されるあらゆるアミノ酸配列は、特定のアミノ酸配列のC末端および/またはN末端それぞれへと、少なくとも1〜最大約20の、付加的な非相同的アミノ酸が付加されて生産されても構わない。その結果として生産されるタンパク質またはペプチドは、特定のアミノ酸配列から「本質的に構成される」と表現されるかもしれない。上述のように、本発明において、非相同的アミノ酸とは、特定のアミノ酸配列を含んでいる、天然には見出されない(すなわち、自然界において生体内に見出されない)アミノ酸配列、または、特定のアミノ酸配列の機能と関連していないアミノ酸配列、または、自然発生の核酸配列が、アミノ酸配列が得られるような有機体に一般的なコドンを用いて翻訳される場合に、遺伝子中に発生するような特定のアミノ酸配列をコードする、自然発生の核酸配列を含んでいる核酸によってコードされていないアミノ酸配列、のことである。同様に、「本質的に構成される」という表現が、核酸配列を表す際に用いられる場合、上記表現は、特定のアミノ酸配列をコードする核酸配列の5’末端および/または3’末端のそれぞれに、上記核酸配列を含むように、少なくとも1〜最大約60の付加的な非相同的核酸を有する核酸配列のことを意味している。非相同的核酸は、天然の遺伝子中に発生するときに、特定のアミノ酸配列をコードする核酸配列に隣接して見出されない(すなわち、天然中に、生体内に見出されない)、付加的な機能性をタンパク質に付与するタンパク質をコードしていない、または、特定のアミノ酸配列を有するタンパク質の機能性を変化させる核酸配列である。
【0082】
本発明に有用な腫瘍抗原は、腫瘍細胞由来の、タンパク質、糖タンパク質、または腫瘍細胞由来の表面炭水化物、腫瘍抗原由来のエピトープ、腫瘍細胞全体、腫瘍細胞の混合物、およびそれらの一部分(溶解物など)を含んでいてもよい。ある実施形態において、本発明に有用な腫瘍抗原は、自家腫瘍細胞サンプルより単離または抽出されても構わない。自家腫瘍細胞サンプルは、治療用組成物が投与されることになっている動物から得る事ができる。従って、上記のような抗原は、免疫反応が誘発される癌に存在しているであろう。ある一態様において、ワクチンに供される癌抗原は、少なくとも二つ、好適には複数の、組織学的に同じ腫瘍種である自家腫瘍細胞サンプルより単離または抽出される。本発明において、複数の同種腫瘍細胞サンプルとは、通常は、少なくとも主要組織適合複合体(MHC)において、および一般的にその他の遺伝子座において、遺伝的に異なる、2またはそれ以上の同種の動物から単離される、組織学的に同じ腫瘍種である腫瘍サンプルである。従って、これらが一緒に投与される場合、多数の腫瘍抗原は、腫瘍抗原が得られるあらゆる個人に存在する、ほぼ全ての腫瘍抗原を代表することができる。本発明の方法のこの実施形態は、組織学的に同じ腫瘍種の腫瘍由来である癌抗原の発現において、個々の患者間にある自然変動を補正するワクチンを提供するものである。従って、この治療用組成物の投与は、種々の腫瘍抗原に対する免疫反応の誘発に有効である。このために、同じ治療用組成物が、様々に異なる個体に投与されても構わない。幾つかの実施例形態においては、幅広いワクチンを提供するために、組織学的に異なる腫瘍種である腫瘍由来の抗原が、動物に投与されても良い。
【0083】
抗原が単離または抽出される腫瘍は、黒皮腫、扁平上皮癌、乳癌、頭頚部癌、甲状腺癌、軟部組織の肉腫、骨肉腫、精巣癌、前立腺癌、卵巣癌、膀胱癌、皮膚癌、脳腫瘍、脈管腫、血管肉腫、肥胖細胞腫、原発性肝癌、肺癌、膵臓癌、消化器癌、腎細胞癌、造血性腫瘍形成、および、これらの転移癌、を含むあらゆる腫瘍または癌であることが好ましいが、これらに限定されるものではない。
【0084】
本発明のワクチンに利用される、具体的な癌抗原の例には、MAGE(MAGE3、MAGEA6、MAGEA10を含むが、これらに限定されるものではない)、NY−ESO−1、gp100、チロシナーゼ、EGF−R、PSA、PMSA、CEA、HER2/neu、Muc−1、hTERT、MART1、TRP−1、TRP−2、BCR−abl、および、p53(TP53)と、p73と、ras遺伝子と、BRAFと、APC(腺腫様多発結腸ポリープ)と、mycと、VHL(von Hippel’s Lindau protein)と、Rb−1(網膜胚種細胞腫)と、Rb−2と、BRCA1と、BRCA2と、AR(アンドロゲン受容体)と、Smad4と、MDR1と、Flt−3との発癌性変異型、が含まれるが、これらに限定されるものではない。
【0085】
本発明において、癌抗原には、癌を獲得する、または成長させる危険性に関するもの、もしくは、上記のような抗原に対する免疫反応が、癌に対する治療的効果を有する可能性がある、他のあらゆる抗原に加えて、上述のあらゆる抗原が含まれても構わない。例えば、癌抗原には、腫瘍抗原、ひとつまたはそれ以上の変異アミノ酸を有する哺乳動物細胞分子、哺乳動物細胞で出生前または新生期に一般的に発現されるタンパク質、疫学的因子(ウイルスなど)の挿入により発現が誘導されるタンパク質、遺伝子転座によって発現が誘導されるタンパク質、および、制御配列の変異によって発現が誘導されるタンパク質が含まれるが、これらに限定されるものではない。また、これらの抗原の幾つかは、その他の種類の疾病(例えば、自己免疫疾患など)に対する抗原としても有用であるかもしれない。
【0086】
本発明の一態様において、本発明の組成物に有用である抗原は、病原体(病原体全体を含む)由来の抗原、特に、感染症に関する(感染症の原因となる、または感染症を助長する)病原体由来の抗原である。感染症の病原体由来の抗原は、T細胞によって認識されるエピトープを有する抗原、B細胞によって認識されるエピトープを有する抗原、病原体によって排他的に発現されている抗原、および、病原体およびその他の細胞によって発現されている抗原、を含んでいても良い。病原体抗原は、ホールセル、および完全な病原性有機体、溶解物、抽出物またはその画分を含んでいても良い。場合によって、抗原は、常は動物の病原体とは見なされないが、そのワクチン接種が好ましいとされる有機体またはその一部を含んでいても良い。上記抗原は、それに対してワクチンが投与される感染症病原体中に存在するほぼ全ての抗原を代表する、ひとつまたは複数の抗原を含んでいても良い。その他の実施形態においては、同じ病原体または異なる病原体の、ひとつまたはそれ以上の異なる菌株由来の抗原が、治療効力および/またはワクチンの効率を高めるために用いられても構わない。
【0087】
本発明において、病原体抗原には、細菌、ウイルス、寄生生物、または真菌によって発現される抗原が含まれるが、これらに限定されるものではない。本発明の方法に利用される好適な病原体抗原は、動物に慢性感染症を引き起こす抗原を含んでいる。ある実施形態において、本発明の方法または組成物に利用される病原体抗原は、ウイルス由来の抗原を含んでいる。本発明のワクチンに利用されるウイルス抗原は、env、gag、rev、tar、tat、ヌクレオカプシドタンパク質、および、免疫不全ウイルス(例えば、HIV、FIVなど)由来の逆転写産物、B型肝炎ウイルス表面抗原およびコア抗原、C型肝炎ウイルス抗原、インフルエンザヌクレオカプシドタンパク質、パラインフルエンザヌクレオカプシドタンパク質、ヒト乳頭腫16型のE6およびE7タンパク質、エプスタイン・バー・ウイルスのLMP−1、LMP−2、およびEBNA−2、疱疹LAAおよび糖タンパク質D、さらに、これらと同様に、他のウイルス由来の類似タンパク質を含んでいるが、これらに限定されるものではない。
【0088】
本発明に利用される特に好適なウイルス抗原は、HIV−1gag、HIV−1env、HIV−1pol、HIV−1tat、HIV−1nef、HbsAG、HbcAg、C型肝炎コア抗原、HPVのE6およびE7、HSV糖タンパク質D、ならびに、炭疽菌防御抗原を含むが、これらに限定されるものではない。
【0089】
本発明の組成物(ワクチン)に含有される、その他の好適な抗原は、望ましくないまたは有害な免疫反応を抑制することができる抗原が含まれる。上記の望ましくないまたは有害な免疫反応には、例えば、アレルゲン、自己免疫性抗原、催炎物質、GVHDに関わる抗原、特定の腫瘍、敗血症性ショック抗原、および、移植片拒否反応に関する抗原により引き起こされるものがある。上記のような化合物には、抗ヒスタミン剤、サイクロスポリン、副腎皮質ホルモン、FK506、有害な免疫反応の発生に関与するT細胞受容体に対応するペプチド、Fasリガンド(すなわち、細胞外または細胞基質領域の細胞性Fas受容体に結合し、アポトーシスを誘発する化合物など)、寛容化またはアレルギーを生じる状態で存在する適切なMHC複合体、T細胞受容体、および自己免疫性抗原が含まれるが、これらに限定されるものではない。また、上記のような化合物には、細胞性および/または体液性免疫を増強または抑制することができる、生体反応修飾物質を組み合わせたものが好適である。
【0090】
本発明に有用なその他の抗原および抗原の混合物が、当分野に熟達した当業者に明確なものとされるであろう。しかし、本発明は、上述の抗原を利用することに制限されるものではない。
【0091】
本発明において、「酵母媒体−抗原複合物」または「酵母−抗原複合物」という用語は、一般的に、酵母媒体と抗原とのあらゆる会合体を表している。当該会合には、酵母(遺伝子組換え酵母)による抗原の発現、酵母への抗原の移入、上記酵母と上記抗原との物理的な付着、および、緩衝液やその他の溶液、または製剤形態(formulation)などにおける、酵母と抗原との混合、が含まれる。これらの種類の複合物は、以下にその詳細が説明されている。
【0092】
ある実施形態において、酵母細胞によって抗原が発現されるように、抗原をコードする非相同的核酸分子を用いて、本発明の酵母媒体に利用される酵母細胞が形質転換される。このような酵母は、ここでは遺伝子組換え酵母または遺伝子組換え酵母媒体と表現されている。その後、酵母細胞は、樹状細胞の内部に充填されても良い。なお、この時に、酵母細胞は、無傷な細胞、または死亡した酵母細胞であっても構わない。または、酵母スフェロプラスト、酵母細胞質体、酵母形骸、酵母亜細胞小粒の形成などにより派生物化し、その後に派生物を樹状細胞内に充填しても構わない。抗原を発現する遺伝子組換えスフェロプラストを作成するために、酵母スフェロプラストに、組換え核酸分子を用いて直接形質移入が行われても構わない(例えば、完全な酵母からスフェロプラストを作成し、その後形質導入を行う)。
【0093】
本発明においては、単離された核酸分子または核酸配列とは、その自然環境から取り出された核酸分子または配列である。従って、「単離された」という語は、核酸分子が精製されたという意味を必ずしも反映するものではない。酵母媒体の形質移入に有用な、単離された核酸分子には、DNA、RNA、もしくは、DNAまたはRNAのいずれかの派生物、が含まれる。単離された核酸分子は、二本鎖または一本鎖であっても構わない。本発明に有用である、単離された核酸分子には、タンパク質またはその断片をコードする核酸分子が含まれる。なお、上記断片には、本発明の組成物に有用であるエピトープがすくなくともひとつは含まれている。
【0094】
本発明の酵母媒体に形質転換される核酸分子には、ひとつまたはそれ以上のタンパク質、またはその一部分をコードする核酸配列が含まれていても構わない。上記の核酸分子は、部分的な、または完全なコード領域、調節領域、またはそれらの組合せを含んでいても良い。酵母株の利点としては、多くの核酸分子を保有できる能力と、多くの異種タンパク質を生産することができる能力とが挙げられる。本発明の酵母媒体によって生産される、好適な抗原数は、酵母媒体によって無理なく生産される、あらゆる抗原数であってよい。一般的に、抗原の数は、少なくとも1つ〜少なくとも5つまたはそれ以上の範囲内であり、約2〜約5の化合物であることがより好ましい。
【0095】
酵母媒体内の核酸分子によってコードされるペプチドまたはタンパク質は、完全長タンパク質であってもよい。または、上記ペプチドまたはタンパク質は、修飾されたタンパク質が天然のタンパク質とほぼ同等の生物学的機能を有するように、あるいは、必要に応じて、天然タンパク質と比較してその機能が増強または阻害されているように、アミノ酸が削除(例えば、タンパク質の末端部が削除されたもの)、挿入、倒置、置換された、および/または誘導体化(例えば、アセチル化、グリコシル化、リン酸化、グリセロホスファチジルイノシトール(GPI)アンカーによるテザー化など)された、機能的に同等のタンパク質であってもよい。修飾は、当技術分野において公知の方法を用いて行われてよい。なお、当該公知の方法には、タンパク質の直接修飾、もしくは、ランダムなまたは意図した突然変異を発生させる、典型的な技法またはDNA組換え技術などを利用した、タンパク質をコードする核酸配列の修飾が含まれるが、これらに限定されるものではない。機能的に同等のタンパク質は、タンパク質の生物学的活性を測定する検定法を利用して選択されてもよい。
【0096】
本発明の酵母媒体における抗原の発現は、当業者に公知の方法を利用することで達成される。簡潔に述べると、ホスト酵母細胞に形質転換された時に、核酸分子が恒常的に発現または発現が抑制されるように、核酸分子が転写調節配列に実行可能に連鎖されるような方法で、少なくともひとつの好適な抗原をコードする核酸分子が、発現ベクターに挿入される。ひとつまたはそれ以上の抗原をコードする核酸分子は、ひとつまたはそれ以上の転写調節配列に実行可能に連鎖した、ひとつまたはそれ以上の発現ベクター上にあっても構わない。
【0097】
本発明の組換え分子において、核酸分子は制御配列を含む発現ベクターと動作可能に連鎖している。上記制御配列は、転写調節配列、翻訳調節配列、複写物の元配列などの制御配列、および、酵母細胞に適合性であり、核酸分子の発現を調節するその他の制御配列である。特に、本発明の組換え分子には、ひとつまたはそれ以上の転写調節配列と操作可能に連鎖した核酸分子が含まれる。なお、「操作可能に連鎖」という表現は、ホスト細胞に移入(すなわち、形質転換、形質導入、または形質移入)された時に核酸分子が発現できるような方法で、核酸分子が転写調節配列に連鎖していることを表している。
【0098】
生成されるタンパク質の分量を調節できる転写調節配列には、転写の開始、伸長、および終止を調節する配列が含まれる。特に重要な転写調節配列は、プロモーターおよび上流域活性化配列などの、転写の開始を調節する配列である。あらゆる好適な酵母プロモーター、および、当業者に公知の様々なプロモーターが、本発明に利用されても構わない。Saccharomyces cerevisiaeでの発現に好適なプロモーターには、以下の酵母タンパク質をコードする遺伝子のプロモーターが含まれるが、これらに限定されるものではない。すなわち、アルコール脱水素酵素I(ADH1)またはII(ADH2)、CUP1、ホスホグリセリン酸キナーゼ(PGK)、トリオースリン酸イソメラーゼ(TPI)、グリセルアルデヒド−3−リン酸脱水素酵素(GAPDH、TDH3(トリオースリン酸脱水素酵素)とも呼ばれる)、ガラクトキナーゼ(GAL1)、ガラクトース−1−リン酸ウリジルトランスフェラーゼ(GAL7)、ウリジン二リン酸ガラクトースエピメラーゼ(GAL10)、チトクロームcl(CYC1)、Sec7タンパク質(SEC7)、および酸性ホスファターゼ(PH05)が含まれるが、これらに限定されるものではない。また、ADH2/GAPDHおよびCYC1/GAL10プロモーターなどの雑種プロモーターがより好適である。また、細胞内のグルコース濃度が低い時(例えば、約0.1%〜約0.2%)に誘導されるADH2/GAPDHプロモーターがさらに好適である。
【0099】
同様に、多くの上流域活性化配列(UAS、エンハンサーとも呼ばれる)が知られている。Saccharomyces cerevisiaeでの発現に好適な上流域活性化配列には、以下のものが含まれるが、これらに限定されるものではない。すなわち、PCK1、TP1、TDH3、CYC1、ADH1、ADH2、SUC2、GAL1、GAL7、およびGAL10タンパク質をコードする遺伝子のUSA、同様に、GAL4遺伝子産物によって活性化されるその他のUASが含まれる。特に好適なものは、ADH2 UASである。ADH2 UASはADR1遺伝子産物によって活性化されることから、非相同的遺伝子がADH2 UASへと操作可能に連結されている場合には、ADR1が過剰発現されることが好ましい。Saccharomyces cerevisiaeにおける好適な転写終止配列には、アルファ因子、GAPDH、およびCYC1遺伝子の終止配列が含まれる。
【0100】
メチルトロフィック酵母(methyltrophic yeast)における遺伝子の発現を行う、好適な転写調節配列には、アルコールオキシダーゼおよびギ酸脱水素酵素をコードする遺伝子の転写調節領域が含まれる。
【0101】
本発明の酵母細胞への核酸分子の形質移入は、細胞へと核酸分子を投与する、あらゆる方法によって達成される。上記方法には、拡散、能動輸送、液槽内超音波処理、エレクトロポレーション、微量注射法、リポフェクション、吸着、およびプロトプラスト融合が含まれるが、これらに限定されるものではない。当業者に公知の方法を利用して、形質移入される核酸分子を酵母染色体に組み込んでも、または染色体外ベクター上に維持しても構わない。上記のような核酸分子を維持する酵母媒体の例に関しては、本明細書に詳細に記されている。上述のように、酵母細胞質体、酵母形骸、および酵母亜細胞膜抽出物またはその画分は、形質移入された無傷の酵母微生物または酵母スフェロプラストによって、組換え技術的に生産されても良い。上記の酵母微生物または酵母スフェロプラストは、望ましい核酸分子を有しており、その内部に抗原を生産している。さらに、上記酵母微生物または酵母スフェロプラストには、望ましい抗原を含む細胞質体、形骸、もしくは亜細胞膜抽出物またはその画分を生産するために、当業者に公知の方法を利用した、さらなる処理が施されている。
【0102】
組換え酵母媒体の生産と、酵母媒体による抗原の発現に効果的な条件には、酵母株が培養される効果的な培地が含まれる。一般的に、効果的な培地は、吸収可能な炭水化物、窒素およびリン酸源、さらに適切な塩、無機物、金属、およびビタミンや成長因子などのその他の栄養素を含む、水性の培地である。培地には、複合的な栄養源が含まれていてもよく、また、最小培地に限定されても構わない。
【0103】
本発明の酵母株は、様々な容器中で培養されても構わない。なお。上記容器には、バイオリアクター、エルレンマイヤーフラスコ、試験管、マイクロタイター皿、およびペトリ皿が含まれるが、これらに限定されるものではない。酵母株に適した温度、pH、および酸素含有量で培養が行われる。このような培養条件は、当分野に熟達した当業者に公知である(例えば、「Guthrie et al. (eds.), 1991, Methods in Enzymology, vol. 194, Academic Press, San Diego」などを参照のこと)。
【0104】
本発明のある実施形態において、酵母媒体における抗原の組換え技術的な発現に代わる方法として、酵母媒体の細胞内に、タンパク質またはペプチド抗原が、もしくは、抗原として作用する炭水化物やその他の分子が充填される。その後、細胞内に抗原を含有する酵母媒体は、患者に投与されても、または、樹状細胞などのキャリアへと充填(以下参照)されても構わない。ここでは、ペプチドは約30〜50アミノ酸と、同等またはそれ以下のアミノ酸配列より構成されており、また、タンパク質は約30〜50以上のアミノ酸のアミノ酸配列より構成されている。なお、タンパク質は多量体であっても構わない。抗原として有用であるタンパク質またはペプチドは、T細胞エピトープと同等の小ささであってもよい(すなわち、5アミノ酸以上の長さ)。また、タンパク質またはペプチドは、複数のエピトープ、タンパク質断片、完全長のタンパク質、キメラタンパク質、または融合タンパク質よりも大きな、あらゆる適切なサイズであっても構わない。ペプチドおよびタンパク質は、自然的に、または合成的に誘導体化されても構わない。そのような修飾作用には、糖鎖付加、リン酸化、アセチル化、ミリスチル化、プレニル化、パルトミトイル化、アミド化、および/または、グリセロホスファチジルイノシトールの付加が含まれるが、これらに限定されるものではない。ペプチドおよびタンパク質は、拡散、能動輸送、リポソーム融合、エレクトロポレーション、食細胞作用、凍結融解サイクル、および液槽内超音波処理などの、当業者に公知の方法を用いて本発明の酵母媒体へと挿入されても構わない。ペプチド、タンパク質、炭水化物、または他の分子を直接積載することができる酵母媒体には、無傷の酵母、スフェロプラスト、形骸、または細胞質体が含まれる。スフェロプラスト、形骸、または細胞質体が生産された後に抗原が充填されてもよいが、樹状細胞への充填よりも前に抗原が充填される必要がある。また、無傷の酵母に抗原が充填され、その後に、上記酵母からスフェロプラスト、形骸、細胞質体、または亜細胞小片が調製されても構わない。あらゆる数量の抗原が、この実施形態の酵母媒体に挿入されても構わない。例えば、微生物の積載能力によって、哺乳類の腫瘍細胞の積載能力によって、または、それらの一部分によって決定されるような、少なくとも1、2、3、4もしくは最大100または1000までのあらゆる整数個の抗原が挿入されても構わない。
【0105】
本発明の別の実施形態において、抗原は物理的に酵母媒体へと付着されている。酵母媒体への抗原の物理的な付着は、当技術分野において適切である、あらゆる方法により達成される。なお、上記方法には、共有結合性および非共有結合性の会合法が含まれる。この会合法には、酵母媒体の外部表面へと抗原を化学的に架橋結合させる方法、または、抗体やその他の結合相手を利用することなどにより、酵母媒体の外部表面へと抗原を生物学的に結合させる方法が含まれるが、これらに限定されるものではない。化学的架橋結合は、例えば、グルタルアルデヒド結合、光アフィニティ・ラベリング、カルボジイミドによる処理、ジスルフィド結合とのリンクが可能な化合物による処理、および当分野で一般的な他の架橋連結を行う化合物による処理を含む方法によって達成されても構わない。これら以外に、化合物が酵母媒体と接触されても構わない。この化合物は、酵母の外部表面が特定の電荷特性を有する抗原とより容易に融合または結合するように、酵母細胞膜の脂質二重層の電荷を変化させる、または、細胞壁の組成を変化させるものである。また、抗体、結合ペプチド、可溶性受容体、およびその他のリガンドなどの標的因子が、融合タンパク質として、または、抗原の酵母媒体への結合に関与する抗原として、抗原に組み込まれても構わない。
【0106】
さらなる別の実施形態において、酵母媒体および抗原は、緩衝液または他の好適な製剤中で酵母媒体および抗原を穏やかに混合する、などといった、より受動的、非特異的、または非共有結合性のメカニズムによって互いに結合されている。
【0107】
本発明のある実施形態において、酵母媒体および抗原の双方は、本発明の治療用組成物またはワクチンを形成するために、樹状細胞またはマクロファージなどのキャリアへと充填される。双方の成分が充填された、様々な形態を達成することが可能であり、これに関しては以下にその詳細が記載されている。ここでは、「充填」(loaded)という用語およびこれの派生語は、細胞内(例えば、樹状細胞など)への成分(例えば、酵母媒体および/または抗原など)の挿入、導入、または侵入のことを表している。細胞内に成分を充填することは、細胞の細胞内区画へと(例えば、原形質膜を通して、少なくとも、細胞質体、食胞、リソソーム、または細胞のある細胞内空間へと)、成分を挿入または導入することを表している。細胞内に成分を充填する事に関しては、成分が、強制的に細胞内に入ること(例えばエレクトロポレーション)、または、成分があるプロセスを通じて、本質的に細胞内に入りやすい状況(例えば、細胞と接触して、または近接して)に置かれること(例えば、食細胞作用)を用いた、あらゆる方法を参考にされたい。充填方法には、拡散、能動輸送、リポソーム融合、エレクトロポレーション、食細胞作用、および、液槽内超音波処理が含まれるが、これらに限定されるものではない。好適な実施形態においては、樹状細胞に酵母媒体および/または抗原を充填する受動的なメカニズムが利用される。このような受動的なメカニズムには、樹状細胞による、酵母媒体および/または抗原の食細胞作用が含まれる。
【0108】
本発明のある実施形態において、ワクチンの成分には、生体反応修飾物質、または、上記修飾物質を生成する能力(すなわち、当該修飾物質をコードする核酸分子を形質移入することによって)が含まれていても構わない。しかしながら、上記修飾物質は、強力な免疫反応を達するために必ずしも必要ではない。例えば、酵母媒体に、少なくともひとつの抗原、および少なくともひとつの生体反応修飾物質が、形質移入または充填されても構わない。生体反応修飾物質は、免疫反応を調節することができる化合物である。特定の生体反応修飾物質は防御免疫反応を刺激することができ、一方で、他のものは有害な免疫反応を抑制することができる。特定の生体反応修飾物質は、細胞性免疫反応を選択的に増強し、一方、他のものは選択的に体液性免疫反応を増強する。すなわち、特定の生体反応修飾物質は、体液性免疫と比較して細胞性免疫が高レベルに増加した(その逆も然り)免疫反応を刺激することができる。免疫反応の刺激または抑制を測定する、および、細胞性免疫反応を体液性免疫反応と区別する、当業者に公知である多くの方法がある。
【0109】
好適な生体反応修飾物質には、インターロイキン2(IL−2)、インターロイキン4(IL−4)、インターロイキン10(IL−10)、インターロイキン12(IL−12)、インターフェロンガンマ(IFN−ガンマ)、インシュリン様成長因子I(IGF−1)、トランスフォーミング成長因子ベータ(TGF−)ステロイド類、プロスタグランジン、およびロイコトリエンなどの、サイトカイン、ホルモン、脂質派生物、小分子化合物薬、および他の増殖調節因子が含まれるが、これらに限定されるものではない。酵母媒体のIL−2、IL−12、および/またはIFN−ガンマを発現(すなわち、生成)し、好ましくは分泌する能力は、細胞性免疫を選択的に増強する。一方で、酵母媒体のIL−4、IL−5、および/またはIL−10を発現し、好ましくは分泌する能力は、体液性免疫を選択的に増強する。
【0110】
本発明の酵母媒体は、動物を疾病から保護する事ができる、種々の抗原と結合することができ、さらに、酵母媒体および抗原を樹状細胞またはマクロファージへと充填し、本発明のワクチンを形成することで、その能力をさらに増強することができる。従って、本発明の治療用組成物またはワクチンを利用する方法は、動物の免疫反応を好適に誘発し、その結果、免疫反応の誘発の影響を受けやすい(amenable)、癌または感染症を含む疾病から動物が保護される。ここでは、「疾病から保護する」という表現は、疾病の徴候を減少させる、疾病の発生を減少させる、および/または、疾病の重症度を減少させることを表している。動物を保護するということは、本発明の組成物が動物に投与された時に、疾病の発生を防止する、および/または治療する、または疾病の徴候、徴候、または原因を軽減する、組成物の能力のことを表していてもよい。このように、動物を疾病から保護することには、疾病の発生を防止すること(予防的処置または予防的ワクチン)、および疾病を患っている、または疾病の初期症状を示している動物を治療すること(治療的処置または治療的ワクチン)、の双方が含まれる。特に、動物を疾病から保護することは、有益な、または防御的な免疫反応を発生させることで、動物の免疫反応を誘発することによって達成される。また、場合によっては、過剰活性化した、または有害な免疫反応の抑制(例えば、減少、阻害、または阻止)が付加的に行われる。「疾病」という用語は、動物の健常状態からの、あらゆる逸脱状態のことを表しており、疾病の症状が見られる状態、および、症状はまだ見られないが、健常状態からの逸脱(例えば、感染、遺伝子の変異、遺伝子的異常など)が発生した状態、が含まれる。
【0111】
より具体的には、ここで説明されるワクチンは、本発明の方法に基づいて動物に投与された時に、疾病の軽減(例えば、疾病の少なくともひとつの症状または臨床的徴候を緩和すること)、疾病の除去、疾病に関連した腫瘍または病巣の縮小、疾病に関連した腫瘍または病巣の除去、原疾患によって引き起こされる後遺症の防止または軽減(例えば、原発性癌に起因する転移癌)、疾病の予防、および疾病に対するエフェクター細胞免疫の刺激、を含む結果を生み出すことが好ましい。
【0112】
本発明の方法および組成物を利用して治療または防止される癌には、黒皮腫、扁平上皮癌、乳癌、頭頚部癌、甲状腺癌、軟部組織肉腫、骨肉腫、精巣癌、前立腺癌、卵巣癌、膀胱癌、皮膚癌、脳腫瘍、脈管腫、血管肉腫、肥胖細胞腫、原発性肝癌、肺癌、膵臓癌、消化器癌、腎細胞癌、造血性腫瘍形成、および、これらの転移癌、が含まれるが、これらに限定されるものではない。
【0113】
本発明の治療用組成物を用いる治療に、特に好適な悪性腫瘍には、原発性肺癌、転移肺癌、原発性脳腫瘍、および、転移脳腫瘍が含まれる。治療に好適な脳腫瘍には、多形性神経膠芽腫が含まれるが、これに限定されるものではない。治療に好適な肺癌には、非小細胞癌、小細胞癌、および腺癌が含まれるが、これらに限定されるものではない。本発明の治療用組成物は、悪性および良性腫瘍を含む癌などを形成しうる腫瘍を治療するために、動物に免疫反応を誘発することに有用である。癌を有する動物の組織内における癌抗原の発現は、癌の緩和、癌に付随する腫瘍の縮小、癌に付随する腫瘍の除去、転移癌の予防、癌の予防、および、癌に対抗するエフェクター細胞性免疫の刺激、を含む群より選択された結果を生み出す事が好ましい。
【0114】
本発明の特定の利点のひとつとに、酵母媒体および抗原の組合せは、付加的な免疫賦活剤が無くとも強力な免疫反応を誘発することから、本発明の治療用組成物は補助剤やキャリアなどの免疫賦活薬と共に投与される必要がない、ということがある。この免疫反応は、これらの組成物を樹状細胞に充填することで強化される。これに関しては、米国特許第09/991363号に記されている。しかしながら、この特徴は、本発明の組成物中に免疫賦活剤を使用する事を排除するものではない。従って、ある実施形態において、本発明の組成物は、ひとつまたはそれ以上免疫賦活剤および/またはキャリアを含んでいても良い。
【0115】
一般的に、免疫賦活剤は、特定の抗原に対する、動物の免疫反応を増強する物質である。好適な免疫賦活剤には、フロイントアジュバント(Freund's adjuvant)、他の細菌細胞壁の成分、アルミニウムベースの塩、カルシウムベースの塩、珪石、ポリヌクレオチド、変性毒素、血清タンパク質、ウイルス性コートタンパク質、他の細菌由来の派生物、ガンマインターフェロン、Hunter’s Titermax補助物質(CytRxTM, Inc. Norcross, GA)などのブロック重合体補助薬、Ribi補助物質(Ribi ImmunoChem Research, Inc., Hamilton, MTから購入可能)、および、Quil A(available from Superfos Biosector A/S, Denmarkより購入可能)などのサポニンおよびそれらの派生物、が含まれるが、これらに限定されるものではない。
【0116】
キャリアは、一般的に、治療を受ける動物において、治療用組成物の半減期を増加させる化合物である。好適なキャリアには、重合体の制御放出製剤(polymeric controlled release formulation)、生体分解性植込錠、リポソーム、油、エステル、およびグリコールが含まれるが、これらに限定されるものではない。
【0117】
また、本発明の治療用組成物は、ひとつまたはそれ以上の薬学的に許容可能な賦形剤を含んでいても構わない。ここでは、「薬学的に許容可能な賦形剤」とは、本発明の方法において有用な治療用組成物の送達に適しており、生体内または生体外での使用に適している、あらゆる物質のことを意味している。好適な薬学的に許容可能な賦形剤は、酵母媒体または細胞が身体の標的細胞、組織、または部位に到達した時に、酵母媒体(抗原が付随している)または樹状細胞(酵母媒体および抗原が充填されている)が、標的部位(標的部位は全身性であってもよいことに注意されたい)において免疫反応を誘発することができる状態に、酵母媒体(または、酵母媒体を含有する樹状細胞)を維持することができる。本発明の好適な賦形剤には、ワクチンを運搬するが、ワクチンをある部位へと特異的に誘導しない賦形剤または製剤形態(ここでは、非誘導性キャリアと称される)が含まれる。薬学的に許容可能な賦形剤の例には、水、塩水、リン酸塩、緩衝塩水、リンガー溶液、ブドウ糖溶液、血清含有溶液、ハンク溶液、他の水性の生理的平衡液、油、エステル、およびグリコールが含まれるが、これらに限定されるものではない。水性キャリアは、例えば、化学安定性および等張性を高めることなどによって、受容体の生理的状態に近似させるために必要となる、適切な補助剤を含んでいても構わない。
【0118】
適切な補助剤には、例えば、酢酸ナトリウム、塩化ナトリウム、乳酸ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、および、リン酸緩衝液、Tris緩衝液、重炭酸塩緩衝液の作成に用いられるその他の物質が含まれる。また、補助剤には、チメロサール、メタまたはオルト−クレゾール、ホルマリン、およびベンゾールアルコールなどの、保存剤が含まれていても良い。
【0119】
本発明には、本発明の組成物またはワクチンを動物に送達することが含まれる。投与工程は、生体内または生体外で行われても構わない。生体外投与とは、既定の工程の一部分が患者の体外で行われることを意味している。例えば、酵母媒体および抗原を細胞内へと充填できるように、病気状態にある患者から細胞集団(樹状細胞)を取り出し、そこへ本発明の組成物を投与した後に、この細胞を患者へと戻すことなどである。本発明の治療用組成物は、あらゆる好適な投与手段を用いて、患者へと戻されても、または、患者へと投与されても構わない。
【0120】
酵母媒体および抗原が充填された樹状細胞を含む、ワクチンまたは組成物の投与は、全身性、粘膜性、および/または、標的部位の近傍(例えば、悪性腫瘍の付近など)において行われてもよい。好適な投与経路は、予防または治療される病気、使用される抗原、および/または標的細胞集団または組織の種類に依存的であることは、当業者には公知である。好適な投与方法には、静脈内投与、腹腔内投与、筋肉内投与、結節筋投与、冠状動脈内投与、動脈内投与(例えば、頚動脈内)、皮下投与、経皮送達、気管内投与、皮下投与、関節内投与、脳室内投与、吸入(例えば、エアゾール)、頭蓋内投与、髄腔内投与、眼内投与、経耳投与、鼻腔内投与、経口投与、肺内投与、カテーテルの含浸、および組織の中への直接注入が含まれるが、これらに限定されるものではない。
【0121】
特に好適な投与経路には、静脈内投与、腹膜内投与、皮下投与、皮内投与、結節筋投与、筋肉内投与、経皮投与、吸引、鼻腔内投与、経口投与、眼内投与、関節内投与、頭蓋内投与、および髄腔内投与が含まれる。非経口的な送達経路には、皮内、筋肉内、腹膜内、胸膜腔内、肺内、静脈内、皮下、心房のカテーテル、および静脈カテーテル経路が含まれていても良い。経耳送達には、点耳剤が含まれてもよく、鼻腔内送達には、点鼻剤および鼻腔内注射が含まれてもよく、眼内送達には、点眼液が含まれてもよい。
【0122】
エアロゾール(吸入)送達は、従来技術において標準的な方法を利用して行われても良い。例えば、「Sibling et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 189: 11277-11281,1992」などを参照。なお、上記文献の内容を、参考文献として、本明細書に盛り込んである。例えば、ある実施形態において、本発明の組成物またはワクチンは、適切な吸入装置または噴霧器を用いた、噴霧送達に適した組成物へと形成されても構わない。経口送達には、口を通して摂取される固体および液体が含まれていてもよく、経口送達は、粘膜性免疫の発生に有用である。また、酵母媒体を含む組成物は、例えば、錠剤やカプセルとして、経口送達のために容易に調製でき、食物や飲料中に調剤することもできる。粘膜性免疫を調節する他の投与経路は、感染症、上皮癌、免疫抑制性疾患、および上皮領域に影響を及ぼすその他の疾病の治療に有用である。上記のような経路には、気管支、皮内、筋肉内、鼻腔内、その他の呼吸器系、直腸、皮下、局所的、経皮的、経膣的、および、尿道経路が含まれる。
【0123】
より好適な送達経路は、呼吸器系へと組成物またはワクチンを送達するあらゆる経路であり、鼻腔内、気管内、吸入等を含むが、これに限定されるものではない。上述に説明されているように、および実施例に示されているように、本発明の発明者らは、この経路から本発明のワクチンを投与することは、少なくとも皮下からの送達と比較して優れた結果をもたらすこと、および、特に脳腫瘍および肺癌の治療に有効であることを明らかにしている。
【0124】
本発明において、効果的な投与プロトコル(すなわち、効果的な方法でワクチンまたは治療用組成物を投与すること)には、適切な用量パラメーターおよび投与方法が含まれる。上記適切な用量パラメーターおよび投与方法は、疾病または病状を有する、もしくは疾病または病状にかかる危険性のある動物の免疫反応を誘発し、その結果、好適に動物を疾病から保護するものである。効果的な用量パラメーターは、特定の疾病の技術分野において一般的な方法を利用して決定されても良い。このような方法には、例えば、生存率、副作用(すなわち、毒性)、疾病の進行度および退行度を決定することが含まれる。特に、癌を治療する時の、本発明の治療用組成物の用量パラメーターの有効性は、応答率を評価することにより決定される。上記の応答率とは、全患者のうち、部分的または完全に回復するという反応を見せた患者の割合のことを意味している。回復は、例えば、腫瘍のサイズを測定することや、組織サンプル中に癌細胞が存在するかどうかの顕微鏡検査などによって決定することができる。
【0125】
本発明において、適切な一回の用量は、好適な期間に渡り、一回または複数回投与された時に、動物に抗原特異的免疫反応を誘発することができる用量である。用量は、治療される疾病または病状に応じて様々に変化する。例えば、癌の治療において、好適な一回の用量は、治療される癌が原発性癌か、または転移癌かによって変更されてもよい。当分野に熟達したある当業者は、動物のサイズや投与経路に基づいて、容易に一回に投与される用量を決定することができるであろう。
【0126】
本発明の治療用組成物またはワクチンの好適な一回の用量は、当該治療用組成物またはワクチンが好適な期間に渡って一回または複数回投与された時に、抗原特異的免疫反応を誘発するために特定の患者の身体の細胞種、組織、または領域に、効果的に酵母媒体および抗原を提供することができる用量である。例えば、ある実施形態において、本発明の酵母媒体の一回の用量は、組成物が投与される有機体の体重1キログラムあたり、約1×10〜約5×10の酵母細胞相当量である。より好適には、本発明の酵母媒体の一回の用量は、一用量あたり(すなわち、生物あたり)約0.1Y.U.(1×10細胞)〜約100Y.U.(1×10細胞)である。この値には、0.1×10細胞単位で増加するあらゆる中間値の用量が含まれている(すなわち、1.1×10、1.2×10、1.3×10)。この用量の範囲は、マウス、サル、ヒトなどを含む、あらゆるサイズのあらゆる生物において、効果的に使用される。
【0127】
酵母媒体および抗原を樹状細胞に充填してワクチンが投与される場合、本発明のワクチンの好適な一回の用量は、1個体への1回の投与当たり、約0.5×10〜約40×10樹状細胞である。好適には、一回の用量は、1個体あたり約1×10〜約20×10樹状細胞、より好適には、1個体あたり約1×10〜約10×10樹状細胞である。抗原に対する免疫反応が弱まっている、もしくは特定の抗原または抗原群に対して、免疫反応を提供する、またはメモリー反応(memory response)を誘発する必要が有る場合、治療用組成物の「追加免疫(booster)」が行われることが好ましい。追加免疫は、最初の投与が行われた後、約2週間〜数年間投与されても構わない。ある実施形態において、投与スケジュールは、有機体の体重1キログラムあたり、約1×10〜約5×10の酵母細胞相当量の組成物を、約1カ月間〜約6カ月間に渡り、約1回〜約4回投与する、というものである。
【0128】
動物に投与される用量の数値は、疾病の状態および個々の患者の治療に対する反応に依存的であることは、当分野に熟達した当業者には明らかであろう。例えば、巨大な腫瘍は、小さな腫瘍よりも多くの用量を必要とするかもしれないし、慢性的な疾患は、急性疾患よりも多くの用量を必要とするかもしれない。しかしながら、もしも巨大な腫瘍を有する患者が、小さな腫瘍を有する患者よりも治療用組成物に良好に反応する場合は、巨大な腫瘍を有する患者は、小さな腫瘍を有する患者よりも、少ない用量しか必要としない場合もあるかもしれない。従って、好適な用量の数値には、特定の疾病の治療に必要となるあらゆる数値が含まれることは、本発明の範囲に含まれる。
【0129】
本発明の別の実施形態において、癌などの疾病および病状を治療する方法は、治療の効果を高めるその他の治療的アプローチと組み合わされても構わない。例えば、癌の治療においては、動物から腫瘍が摘出された後に、本発明のワクチンの投与が行われても構わない。別の態様においては、後述するように、動物からの腫瘍の外科的切除、および骨髄非切除の同種幹細胞移植の後に、ワクチンの投与が行われても構わない。さらなる別の態様においては、動物からの腫瘍の外科的切除、骨髄非切除の同種幹細胞移植、およびドナーの同種リンパ球の注入の後に、ワクチンの投与が行われる。
【0130】
本発明の別の実施形態は、癌を有する患者を治療する方法に関する。上記方法には、
(a)安定な混合骨髄キメリズムの構築に有効である、骨髄非切除の同種幹細胞移植によって、癌を有する患者を治療する工程であって、上記幹細胞は同種のドナーから提供されたものである工程と、(b)同種のドナーから得られたリンパ球を患者に投与する工程と、(c)工程(b)の後に、酵母媒体および少なくともひとつの癌抗原を有するワクチンを患者に投与する工程と、が含まれる。骨髄非切除の同種幹細胞移植によって、安定した混合骨髄キメリズムを構築する方法は、既に、Luznikらの「Blood 101 (4): 1645- 1652,2003」および、他のもの(例えば、Appelbaum et al., 2001, Hematology pp.62-86など)において、その詳細が記されている。簡単に説明すると、患者は、非致死性、骨髄非切除の全身性放射線治療および免疫抑制治療(例えば、放射線療法と化学療法の組合せ)を受け、同種のドナー由来の幹細胞(例えば、骨髄)を含む細胞集団の投与を受ける。この治療により、受容患者に安定した混合骨髄キメリズムが構築される。すなわち、ドナーおよびホストの免疫細胞が存在することになる。Luznikらのプロトコールにおいては、その後、受容者にはドナーのリンパ球が輸液され、その後に、自家腫瘍細胞のワクチン、GM−CSF源、および組織適合性抗原源が投与される。この治療方法により、多くの実験動物が、長期間に渡り腫瘍から解放されて生存できた、という結果が得られている。
【0131】
本発明は、骨髄非切除の同種幹細胞移植を本発明の酵母ベースのワクチンを用いる方法と組み合わせることで、骨髄非切除の同種幹細胞移植および癌細胞ワクチン接種プロトコールを改善するものである。実施例5に例示されているように、本発明の方法と、Luznikらのプロトコールとの、癌の治療効果はほぼ同じであるが、本発明の方法は、前述の説明で述べられたように、受容者由来である自家腫瘍細胞抗原を利用する必要がなく、生体反応修飾物質またはその他の免疫賦活剤(例えば、GM−CSFおよび組織適合性抗原源など)を利用する必要もない。本発明の修正された方法は、様々な抗原特異的抗原を選択および組み合わせてワクチンに利用することができるという付加的な利点を供すると共に、従来技術の自家腫瘍細胞を利用した方法は、その効果がその患者のみに限定されるのに対して、本発明の方法は、癌患者が広く一般的に利用できるワクチンを提供するという付加的な利点をも供するものである。また、本発明は、本発明の酵母ベースのワクチンを利用した、ドナーの幹細胞とリンパ球のワクチン接種を可能とするものである。上記幹細胞とリンパ球は、受容体に投与されるワクチンと同じ、または僅かに異なる抗原を発現することができ、このことは、さらにワクチンの効率を高めると考えられる。
【0132】
本発明のこの実施例形態において、安定した混合骨髄キメリズムの構築に有効である骨髄非切除の、同種のドナーから提供された幹細胞移植によって、癌を有する患者を治療する工程は、当技術分野において既に詳細に記載されているように(例えば、Luznikらの上述の文献や、「Appelbaum et al., 2001, Hematology pp.62-86」など)行われる。同種リンパ球の注入工程(b)は、あらゆる適切な方法に基づいて実行されても構わない。上記方法には、ウルトラフェレーシス法(Ultrapheresis technique)などの当技術分野において公知の方法により、同種リンパ球をドナーの抹消血から収集すること、および受容患者へと注入することが含まれる。最終的に、既に説明されたように、患者に本発明の酵母ベースのワクチンが投与される。この実施形態の一態様において、本発明の方法には、工程(a)に先立ち、酵母媒体および少なくともひとつの癌抗原を有するワクチンを、ドナーに投与する工程が含まれる。別の一態様においては、工程(a)を行う前に、患者から腫瘍を除去する工程が含まれる。
【0133】
本発明の方法において、ワクチンおよび治療用組成物は、霊長類、齧歯類、家畜、および家庭内のペットなどを制限なく含む、脊椎網、哺乳網のあらゆるメンバーに投与されても構わない。家畜には、食物として摂取される、または有用な製品を産出する(羊毛を産出する羊など)哺乳類が含まれる。保護される好適な哺乳類には、ヒト、イヌ、ネコ、マウス、ラット、ヤギ、ヒツジ、ウシ、ウマ、およびブタが含まれるが、上記哺乳類は特にヒトであることが好ましい。本発明において、「患者」という用語は、診断、予防、または上述の治療処置の対象となる、あらゆる動物を表すために用いられている。
【0134】
以下の実験結果は、例示のみを目的としたものであり、本発明の範囲を限定するものではない。
【0135】
〔実施例〕
〔実施例1〕
以下の例は、生体内において、非小細胞肺癌(NSCLC)を治療するために、癌抗原を含む酵母ベースのワクチンを投与した結果を示している。
【0136】
Rasの変異は、ヒト、ネズミ、ネズミ、およびハムスターの肺腺癌に共通のものである。実際、ras原癌遺伝子ファミリーの変異は、ヒトの癌および実験動物の癌において、最も一般的な発癌性の変異である。本発明の発明者らは、ras変異に特異的な変異タンパク質に誘導されるように設計された酵母ベースのワクチンが、マウス肺腺癌モデルにおいて、腫瘍の破壊につながる免疫反応を誘発できるかどうかを試験した。この実験の最終的な目標は、上記のようなワクチンを、ヒトの肺癌に対して有効に利用できる、ということを証明することであった。
【0137】
この実験に使用されるモデルは、A/Jマウスにウレタン(推定的な発癌性代謝物であるビニルカルバメートへと代謝される、カルバミン酸エチル)が注射されたマウスモデルである。およそ6週間で過形成症が、8〜10週間で良性腫瘍が確認され、8カ月後に悪性腫瘍の初期症状が確認される。10カ月後までには、腫瘍は肺葉の全体を占め、そして、12カ月後に、呼吸促迫でマウスが死亡する。この実験では、腫瘍細胞において、第61部位のアミノ酸残基をコードするコドン(コドン61とも呼ばれる)に存在する、ひとつのK−ras変異が発現している。
【0138】
本発明の発明者らは、第61コドン(配列番号5のK−ras配列に関する)が変異したマウスのK−rasタンパク質を発現するように、遺伝子操作がなされた酵母株である、Ras61−VAX(GlobeImmune)を作成した。上記のK−rasタンパク質は、マウス肺癌およびマウス肺癌細胞株において自然に発現されている変異K−rasタンパク質である。ウレタン注射モデルにおいて誘発された腫瘍の成長を防止する、またはその腫瘍のサイズを縮小させる能力に関して、Ras61−VAXを用いて第61コドンの変異に対して免疫が付与された動物の試験を行った。
【0139】
その結果、Ras61−VAXを用いて免疫付与がなされた動物は、マウスをウレタンに晒すことで自然に発生した既存の肺癌に対して、有効な防御能を示すことが明らかとなった。コントロールの動物と比較して、免疫付与がなされた動物では、腫瘍の数および腫瘍のサイズの双方の値が大幅に減少した(図1)。これらの結果は、変異K−rasタンパク質が発現した本発明の酵母ベースのワクチンを利用することにより、癌により引き起こされる疾病を治療および/または予防する治療的介入が実行可能であり、有用なものであることを示すものである。
【0140】
さらに、図2には、Ras61−VAX(変異はQ61Rのみ)の皮下投与により免疫が付与されたC57BL/6マウスと、2つの変異を有する変異Rasタンパク質(RasV−VAX、G12V+Q61R)が発現した酵母ワクチンの皮下投与または経鼻投与がなされたマウスとを、1日目、8日目、22日目、および36日目に比較した、実験の結果が示されている。29日目に、10000のCMT64細胞を皮下投与することで、マウスを攻撃した。なお、CMT64細胞は、第12アミノ酸がグリシンからバリンへと変異した(G12V)、変異K−rasタンパク質を内在的に発現するものである。図2は、59日目(攻撃から30日後)の腫瘍のサイズ、および、腫瘍を発症した動物数/全動物数(上のバー)の数値を示している。図2に示すように、Ras61−VAXの投与は、肺癌の成長に対して、最小限の防御能を提供した(7体のうち2体の動物が腫瘍を発症しなかった)。また、RasV−VAXの投与は、腫瘍の大きさおよび数を大幅に減少することにより、特異的な免疫療法的防御能を提供した(皮下投与により免疫付与された8体のうち4体の動物が腫瘍を発症せず、経鼻投与により免疫付与された8体のうち7体の動物が腫瘍を発症しなかった)。驚くべきことに、ワクチンの経鼻投与は、同じワクチンの皮下投与と比較して、非常に優れた結果を示した。これらの結果は、酵母ベースのワクチン製品を利用した分子的免疫療法の特異性を強調するものである。これらの研究は、免疫性の腫瘍の成長阻止は、関連したアミノ酸変異を有する癌抗原を含む酵母ベースのワクチンの投与に依存していた、という必要条件を明らかにした。
【0141】
〔実施例2〕
以下の例は、生体内において、脳腫瘍を治療するための、癌抗原を含む酵母ベースのワクチンの使用方法を示すものである。
【0142】
以下の実験において、Gagタンパク質を発現したワクチン(GI−VAX)、またはPBS(リン酸緩衝生理食塩水)(疑似注射)を用いた皮下注射または経鼻投与によって、5匹のマウスのグループに2度免疫付与(0日目および7日目)を行い、14日目に腫瘍発現Gagタンパク質を用いてマウスを攻撃した。ふたつの独立した研究の結果から、疑似注射されたマウスと比較して、さらに驚くべきことに、皮下経路からワクチンが投与された動物と比較して、経鼻投与によりワクチンが投与されたマウスは、頭蓋内腫瘍の攻撃に対する生存期間が長くなることが明らかになった。なお、皮下ワクチン接種も、皮下腫瘍の攻撃から動物を保護した(データ図示されず)。これらの結果は、本発明の方法は、鼻腔内へと投与された時に有効に利用されることを示すものである。また、これらの結果は、その他の投与経路では有効な効果が生じない場合にも、呼吸管への投与が頭蓋内腫瘍に対して有効である可能性があることを示すものである。
【0143】
〔実施例3〕
以下の例は、脳腫瘍および黒皮腫を生体内で治療するための、ヒトの癌抗原(EGFR(epidermal growth factor receptor))を含む酵母ベースのワクチンの使用方法を示すものである。
【0144】
防御免疫反応を誘発するための免疫療法的方法の効力は、多くの重要な不定要素に依存している。まず第1に、ワクチンは、標的抗原を認識する免疫系を活性化すること、すなわち、免疫賦活活性を提供することが、できなければならない。酵母ベースのワクチンにおいては、本発明の発明者らは既に、酵母を樹状細胞に取り込むことで、MHCクラスIおよびクラスIIタンパク質の発現を活性化制御し、サイトカインの生産を誘発することを示している。これらのことは、免疫賦活活性の顕著な特徴である(Stubb et al., Nature Med (2001) 7, 625-629)。内在的な免疫システムが酵母によって活性化される程度は、細菌細胞壁由来のリポポリサッカライド(LPS)を使用することで観察されるものと同じである。第2に、ワクチンは、標的抗原の免疫優勢なエピトープの表面提示を免疫系に促進せねばならない。発明者らは既に、免疫系の細胞性(CTL)および体液性(抗体)反応を刺激する抗原エピトープの送達に、酵母ベースのワクチンが非常に有効であることを示している(Stubbs et al, Nature Medicine (2001) 7,625-629)。第3に、そして最も重要なことに、免疫系を刺激することで、身体において免疫反応が必要とされる部位に、免疫反応が開始されなければならない。以下に示されるように、驚くべきことであるが、ワクチンの投与経路は、身体の異なる部位において発症した腫瘍に対する、免疫反応の効果に影響を及ぼすように思われる。
【0145】
EGFR−tm VAX(EGFRを癌抗原として発現する本発明の酵母ワクチン)の免疫原性を試験するために、上記攻撃実験で使用された神経膠腫腫瘍細胞を変更する必要があった。ヒトのEGFRを発現するように、B16マウスメラノーマ細胞と9Lラット神経膠腫腫瘍細胞の形質移入が行われた(それぞれ、B16−E細胞および9L−E細胞と称す)。その後、クローンされた9L−E細胞株は、hEGFRの発現が高い細胞、発現が中程度の細胞、または発現が低い細胞へと分類された。従って、B16−E細胞および9L-E細胞は、酵母ワクチン中に含まれる抗原(すなわち、ヒトEGFR)を有しており、悪性細胞でEGFRを異なる様式で発現するヒト神経膠腫の適切な代理モデルを提供するものである。この研究の目的は、ラットの頭蓋内に移植された、致死的な用量の9L-E神経膠腫細胞の攻撃に対して、酵母ベースの送達手段が、防御免疫を引き起こすことを示すことであった。
【0146】
B16−E細胞および9L-E細胞は、細胞流動計測法によって評価された際に、均一的にクローンされており、ヒトEGFRを発現することが示された。ワクチンが投与されていない場合に、ヒトEGFRタンパク質の非相同的な発現が腫瘍の免疫拒絶反応(immune rejection)を引き起こさないことを確実にするために、形質移入されたB16−E細胞は、まず最初に、マウスにおいて、その皮下腫瘍の形成能力が試験された(データ図示せず)。形質移入された9L-E細胞は、ラットの皮下および頭蓋内に腫瘍を形成した(データ図示されず)。これで、マウスにおけるB16−E腫瘍の攻撃、および、ラットにおける9L-E細胞の攻撃に対する、EGFR−tm VAX酵母ワクチンの動物を防御する能力の有効性の試験を行う準備が整った。
【0147】
予備的なワクチンの攻撃の研究は、EGFR−tm VAXの皮下投与が、皮下に移植された、致死量のB16−E神経膠腫細胞による攻撃から、動物を保護するのに有効かどうかを決定するために設計された。このアプローチは、腫瘍細胞死を効果的に引き起こすための新しい標的癌抗原を使用する、本発明の発明者らの標準的手段のひとつを代表するものである。この研究から、EGFR−tm VAXで免疫付与された動物は、疑似注射された動物(1/6の動物が腫瘍を発症しなかった)(データ図示されず)と比較して、B16−E腫瘍の攻撃から保護されている(4/6の動物が腫瘍を発症しなかった)ことが示された。これらの結果により、EGFRは細胞性免疫反応を誘発する適切な抗原としての役割を果たし、EGFR−tmワクチンは、腫瘍の攻撃に対して防御免疫反応を引き起こすということが確認された。従って、次に、ラットにおける9L-E神経膠腫の頭蓋内の攻撃に対する、EGFR−tm VAXの有効性の試験を行った。
【0148】
また、発明者らは上述の実験において、経鼻投与されたときに(i.n.)、酵母ベースのワクチンは、ワクチンの皮下投与と同等の、皮下の黒色腫の攻撃に対する防御能を提供できることも示した(データ図示されず)。従って、次の試験において、皮下B16黒色腫の攻撃に対して防御免疫反応を誘発することが示された、酵母ベースの免疫療法用EGFR−VAX製品が、頭蓋内腫瘍の攻撃に対しても免疫療法的防御を提供することができるかどうかを試験した。
【0149】
ラットモデルにおける、神経膠腫腫瘍細胞を用いた頭蓋内攻撃によって、EGFR−tm VAXの有効性および投与経路の影響について、さらなる試験を行った。2000万個の、hEGFR(EGFR-vax)が発現した酵母細胞、または酵母(ベクターのみを含む)を、0日目、7日目、21日目に経鼻経路(i.n.)または皮下経路(s.c.)から投与して、動物(1グループあたり8体)に免疫を付与した。1250個の、形質移入されなかった9Lラット神経膠腫細胞(9Lのみ)、またはhEGFRを発現している9Lを、頭蓋内に投与することで、免疫付与動物を攻撃した。体重の損失が、動物の死亡が迫っていることを示すことから、ラットの体重を毎日観察した。
【0150】
その結果(図4)、EGFR−VAX酵母により免疫が付与された動物の50%は、ラット9L神経膠腫を発現している癌抗原による、致死的な頭蓋内腫瘍の攻撃から、完全に防御されていることが示された。一方で、癌抗原が欠如した腫瘍の成長を阻止した動物は存在しなかった。すなわち、ワクチンが抗原特異的免疫を誘導した。さらに、至死的な攻撃に屈した、残りのEGFR−VAXによる免疫付与動物も、コントロール動物と比較して、生存時間が延長されていることが示された。
【0151】
さらに、皮下投与と比較して、経鼻投与で免疫付与された動物は、生存率が統計的に有意に改善されていることは、非常に興味深くまた驚くべき結果であり、その結果は、マウスにおける頭蓋内(黒色腫)腫瘍の攻撃に対する防御に関する、上述の結果(実施例2参照)を再現するものであった。
【0152】
このラットの頭蓋内腫瘍の攻撃モデルは、ヒトの神経膠腫のものに非常に近いと考えられていることから、これら研究の肯定的な結果は、臨床試験へと移行するために、非常に優れた前臨床データを提供するものである。追加研究には、用量の範囲、スケジュール、外科的切除研究、および、免疫系が9L神経膠腫の付加的な(未知の)癌抗原に関して「学習した」かどうかを確認するための、9L−E生存体の9L腫瘍の再攻撃、同様に、EGFR−vIII変異タンパク質を発現した酵母媒体の試験が含まれており、これら追加試験により、臨床用グレードのワクチン製品を生産する基礎が確立されるであろう。
【0153】
上述のデータは、複数の免疫付与経路が末梢癌を破壊するのに有効であるかもしれないが、本発明の酵母ベースのワクチンは、肺に独特であるかもしれない、初回抗原刺激エフェクター細胞に特に効果的であることが示唆された。酵母ベースのワクチンは、独特のエフェクター細胞前躯体を刺激することができることから、経鼻投与により活性化された免疫細胞は、血液脳関門を通過し、一連の頭蓋内腫瘍の成長に影響を及ぼすことに、特に効果的であると思われる。従って、脳腫瘍に対して有効な酵母ベースのワクチンを設計するにあたって、従来はさほど評価されていなかった、免疫の付与経路が非常に重要である可能性がある。酵母ベースのワクチンは、複数の経路からの免疫付与を非常に容易に行えることから、当該ワクチンは、幾つかの癌の治療において従来はその可能性が正当に評価されていなかった、非常に特化した免疫反応を引き起こすという有望性を有している。
【0154】
〔実施例4〕
以下の例は、生体内において、腎臓癌を治療するための、癌抗原を含む酵母ベースのワクチンの使用法を示すものである。
【0155】
2001年には、米国内で約31800人の個人が腎臓癌(RCC)と診断され、そのうち11600人が死亡すると見積もられている。この数値は、全ての癌の約2%〜3%に相当し、腫瘍による全死亡者数の2%を占めている。かつては、患者は血尿、腹部腫瘤、痛み、および体重の損失、の三徴候を示したが、現在、偶然診断される頻度が増加したために、以前より少数の患者がこれらの徴候を有している。潜在的には外科手術により治療可能であるが、細胞が既に血管系に達していることから、多くの患者はこの疾病が再発性であると診断される。そのうえ、転移性RCCの療法は非常に限られている。ホルモンおよび化学療法的アプローチへの応答率は10%未満であり、さらに、このアプローチは、生存率に明確な変化をもたらさない。しかしながら、この疾病に免疫学的治療法を使用することには、長年にわたり関心が寄せられてきた。極めて稀な自然退行の例に加え、治療の効果が現れた限られた一部の患者(その一部の患者においては完全寛解した)において、α−インターフェロンおよびインターロイキン−2の双方が、「重要な」役割を果たしている事が示された。有望な無作為試験はごくわずかしかなかったが、Cytokine Working Groupからの最近の要約書には、高用量のIL−2に対する反応率は、IL−2/α−インターフェロンの皮下投与が行われている通院患者と比較して約半分の反応率である、8%の完全反応率、および25%の概ね反応率であった、と記録されている。全体的に、これまで使用されてきたアプローチは、RCCに対して明確な効果を示しはするものの、疾病への特異性および効力の双方を欠くものであった。
【0156】
60%以上のRCCは、VHLに不活性化変異を有している。この不活性化変異は、大腸癌におけるAPCの役割と同様に、RCCの「ゲートキーパー」遺伝子としての役割を果たすと考えられている。VHLによりコードされているタンパク質は、E3ユビキチン−結合(SCF)複合体の必須構成要素である。SCF複合体は、VHL/elonginCB/Cul−2(VCB)として知られており、特定のタンパク質を26Sプロテアソームによるタンパク破壊の標的にするものである。多くのVHLの変異は、ミスセンスまたはフレームがシフトしたタンパク質を生成する結果となり、癌特異的抗原として認識されるべき新規のエピトープが生成される。以下の実験は、本発明の新規の酵母ベースのワクチンを投与した後に、RCCの変異VHLタンパク質が免疫反応の標的となり得るという仮説について試験を行うものである。
【0157】
マウスにおいては、変異したVHLによって媒介される腫瘍に相当する腫瘍が存在していない。従って、本発明の発明者らは、野生型、もしくは、Y98またはR167(配列番号17のマウスの配列に関連した部位)に発生したふたつの特異的な変異を有する構築物であって、マウスのVHL配列をコードする発現構築物を調製するために、既知のヒトVHL配列(配列番号16)、およびクローンされたマウスVHL(配列番号17)を利用した。これらの2つの位置の変異は、ヒトの腫瘍で頻繁に見出されるホットスポットに対応している。第98チロシンは、HIP1αなどのVHL標的物質のための表面露出結合部位を形成しており、一方、第167アルギニンは、αヘリックスH1の安定化に重要である。これらの残基の双方は、溶媒に著しく露出されるものであり、免疫機構の認識にとってはアクセスしやすいものであると思われる。以下のBLAST比較で示されるように、ヒトおよびマウスのVHLアミノ酸配列は、これら2つのホットスポットを含む第58位置〜第190位置においてほぼ同一である。
【0158】
【表1】

【0159】
従って、これらのマウスの構築物を利用して得られた結果は、ヒトRCCにおける有効性に関して、かなり正確な評価を供するであろう。Y98は高い頻度でヒスチジンへと変異され、一方で、R167は一般的にグルタミンまたはトリプトファンへと変異される。また、R167はフレームシフト変異の影響を受ける。R167コドンの内部にひとつのグアニン残基を挿入すると、直後に終止コドン(TGA)を有する、新規のフレームシフトペプチド(REPSQA)が生成される。本発明の発明者らは、既知のVHL変異の特徴を再現する、潜在的に免疫原性の変異VHLタンパク質を作成するために、Y98のヒスチジンミスセンス変異(Y98H)、およびR167のフレームト変異(R167fr)の双方を発生させた。フレームシフトVHLタンパク質は、より大きな新規のエピトープを発現することができ、その結果、より免疫原性である可能性がある。単一のミスセンスY98H変異は、単一のアミノ酸しか変異されていないために、このアプローチのより厳密な試験となるであろう。
【0160】
部位突然変異プロトコールとPCR(ポリメラーゼ連鎖反応)の双方を使用して、これらの変異を完全長のmVHLに導入した。簡単に説明すると、変異と未熟終止コドンを導入するために、特定のPCRプライマーを利用してR133変異を作成した。この変異型および野生型(WT)VHLを、酵母の発現に利用される酵母発現ベクターpYEX−BXへとクローンし、また、メラノーマ細胞での発現および形質移入に利用される哺乳類の発現ベクターpUPへとクローンした。Y64部位の変異は、既に成功事例が示されている、Clonetechの部位突然変異プロトコールを利用して作成した。
【0161】
挿入断片は、メラノーマ細胞の形質移入および発現のために、酵母発現ベクターpYEX−BX、および哺乳類の発現ベクターpUPへとクローンされた。この目標を達成するために、本発明の発明者らは、VHLタンパク質を発現するように酵母を遺伝子操作し、マウスで種々のワクチン製剤の有効性を試験した。pYEX−BXプラスミドは、S.cerevisiaeへの形質転換の後に、ネズミVHLタンパク質の発現制御を可能にする、銅誘導プロモーターを含んでいる。
【0162】
恒常的発現制御を行うCMV初期プロモーターに制御される、VHL遺伝子を有する発現ベクターは、B16メラノーマ細胞へと形質移入された。生体外で成長された細胞株は、マウスへと注射されると腫瘍として成長した。このことから、変異VHL構築物は、それ自身は免疫原性ではなく、形質移入細胞に致死的でないことが確認された。最初のワクチン接種/腫瘍攻撃実験には、実験0日目および7日目に、20×10個のR133トランケーション変異体(VHLtrunc)を発現した酵母を、皮下投与することで免疫が付与された、18匹の6週齢のC57B6マウスが用いられた。14日目に、以下のように腫瘍を皮下投与して、マウスを攻撃した。すなわち、6匹のマウスには、2.5×10個の形質移入されていないB16が接種された。6匹のマウスには、2.5×10個のVHLwtを発現したB16が接種された。6匹のマウスには、2.5×10個のVHL VHLtruncを発現したB16が接種された。攻撃から21日後に、マウスの腫瘍の成長が評価された。この実験の結果は、以下の表2に示されている。
【0163】
【表2】

【0164】
これらの結果は、VHLtruncワクチン(トランケーションの前の、独自の9つのアミノ酸を標的とする)は、B16 VHL tMutの腫瘍攻撃からの防御能を提供するが、この免疫付与により、形質移入されていないB16、またはB16 VHLwtの攻撃からはマウスが防御されないことが示された。従って、ワクチン接種プロトコールは、強力な免疫反応を発生させるが、この反応は、動物が免疫付与された抗原に対してのみに限定されている可能性がある。しかしながら、このトランケーション変異は、野生型VHLとは大きく異なる配列を有するために、より少ない変異(すなわち、たった1残基のみ)により、変異型および野生型の双方に対して免疫反応を生じさせることが可能であろう。
【0165】
2番目のワクチン接種/攻撃実験(表3)では、野生型VHLワクチン(mVHLwtVAX)、または上述のトランケーション変異VHLワクチン(mVHLtrunc VAX)の何れかにより、マウスに免疫が付与された。上述の最初の実験に示されているように、マウスをグループに分割し、形質移入されていないB16、野生型VHLを発現するB16、または変異型VHLを発現するB16を用いてマウスを攻撃した。この結果から、先と同様に、トランケーションVHLワクチンによるワクチン接種は腫瘍の攻撃に対する防御能を提供するものの、先と同様に野生型の腫瘍の攻撃からはマウスを防御しないことが示された。また、野生型の腫瘍が接種されたマウスは、野生型の腫瘍の攻撃から防御されなかった。このことは、ワクチンが野生型タンパク質の耐性を発生させなかったことを示している。しかしながら、変異型VHLを発現した腫瘍を用いてマウスを攻撃した場合、野生型タンパク質を用いて免疫を付与したマウスの50%が攻撃から防御されていた。このことは、変異VHLは、マウスの免疫機構により、ある程度は認識されているということを示している。これらの実験において示された、酵母ベースのワクチンの特異性および有効性から、ヒトにおける最も一般的な変異を標的とした酵母を作成することは、比較的容易な作業であり、このことは、ヒトにおける治療用ワクチンとしての、潜在的なワクチン接種アプローチの下地を作るものであろう。
【0166】
【表3】

【0167】
〔実施例5〕
以下の例は、生体内において、乳癌を治療するための、癌抗原を含む酵母ベースのワクチンの利用方法を示すものである。
【0168】
肺、乳房、および結腸を含む、中実の臓器の早期腫瘍患者のほとんどは、原発性癌を外科的に切除することにより治療が可能である。しかしながら、多くの患者に、血行性転移が存在または再発している。ほんの一部の例外を除き、この血行性転移は、外科手術、放射線療法、化学療法、または同種幹細胞移植(alloSCT)を含む、現在利用可能な物理療法による治療が不可能である。同様に、最近設計された癌ワクチンは、最近確立された疾病の動物モデルにおいて特筆すべき効果を示すものであるが、いったん癌の発生から5日が経過すると、または、転移が発生すると、一般的に、これらワクチンは単剤として効果を発揮しない(Borello et al., 2000, Blood 95: 3011-3019)。このことは、通常、癌の発生には、癌抗原に対する寛容性の発生が付随することが原因のひとつとされており、治療を成功させるためには、この寛容性を破壊することが必要不可欠であるためである(Ye et al., 1994, Proc. Natl. Acad. Sci. USA. 91: 3916-3920; Staveley-O'Carroll et al., 1998, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 95: 1178-1183)。骨髄非切除alloSCTの後のワクチン接種により、付加的な改善がなされているが、しかし発生から3日以上が経過した癌にはその効果を発揮できない(Anderson et al., 2000, Blood 95: 2426-2433)。最近、Luznikらは(上記参照)、マウスの乳癌モデルにおいて、安定した混合骨髄キメリズムの構築に有効である骨髄非切除の幹細胞移植(NST)プロトコールの後のワクチン接種は、癌特異性が大きく増強された免疫反応を生ずることができ、この免疫反応は、原発性癌の発生から2週間後に、移植片対宿主病(GVHD)を発症することなく、転移癌を排除することができた、と発表している。なお、この内容を、参考文献として、本明細書に盛り込んである。ワクチン接種単体、もしくは自家SCTまたは完全なalloSCTの何れかの後のワクチン接種と比較して、大きく増強されたこの戦略の効率は、混合キメリズムの形成において相互作用する、ホストおよびドナーの免疫系の作用に依存性である。
【0169】
Luznikらの実験において、投与されたワクチンは、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM−CSF)と混合された、放射線照射が行われた自家腫瘍細胞から構成されている。以下の実験において、本発明の発明者らは、同じ動物モデルにおいて、GM−CSFを生産する細胞と混合された、放射線が照射された自家腫瘍細胞の代わりに、酵母ベースのワクチンを利用して、同様の効果が得られるということを明らかにした。手短に述べると、本発明の発明者らは、CUP1プロモーターの制御下にある、マウス乳癌ウイルス(MMTV)のgp70タンパク質をコードした酵母発現ベクターが形質移入された、Saccharomyces cerevisiae酵母(Yeast gp70−IT)よりなる、酵母ベースのワクチンを作成した。gp70タンパク質は、MMTVに感染したBald/cマウスに発生した、自然発生の乳癌において発現されている。
【0170】
Luznikらによって説明されているプロトコールに従って、0日目に、1万の4T1腫瘍細胞(MMTV gp70を発現した、Bald/c由来の自然発生の乳癌細胞)を、Bald/cマウスへと皮下投与した。皮下腫瘍は、MHC適合性のB10.D2ドナーからの骨髄非切除の同種幹細胞移植(NST)に先立ち、13日目に切除された。NSTは、13日目には200のcGyTBI、14日目には1000万のドナーの静脈内の骨髄細胞、17日目には腹膜内の200m/kgのシクロホスファミドから構成されていた。B10.D2骨髄を受容したマウスは、その後、以下の何れかを受容する。すなわち、(a)28日目に2000万個のB10.D2脾細胞を受容した後はさらなる治療を行わないか(ワクチン投与せず)、(b)28日目に2000万のB10.D2脾細胞を受容し、31日目に自家腫瘍ワクチン(10個の放射線照射4T1腫瘍細胞と、5×10個のB78H1/GM−CSFと、GM−CSF分泌物と、MHC陰性の第3細胞株とを混合したもの)を受容するか、または、(c)28日目に2000万のB10.D2脾細胞を受容し、31日目に本発明の酵母ベースgp70−ITワクチンを受容する。
【0171】
図5から容易に理解できるように、本発明の酵母ベースのワクチンは、致死的な腫瘍の再発に対して、GM−CSFを生産する自家腫瘍細胞により誘発される防御能と区別がつかないほどの防御能を発生させた。患者の自家腫瘍細胞と、第3のGM−CSF生産細胞株との混合物を利用することと比較して、本発明の酵母ベースのワクチンアプローチの臨床有用性は、容易に高く評価されるものであろう。その有用性には、幅広い患者への適用性、結果のばらつきの減少、免疫付与を行う抗原設計の性能向上、安全性の向上、ワクチンにGM−CSFなどの生体反応修飾物質を用いる必要性がない、などが含まれるが、これらに限定されるものではない。
【0172】
〔実施例6〕
以下の例は、生体内において、黒色腫を治療するための、癌抗原を含む酵母ベースのワクチンの利用方法を示すものである。
【0173】
この実験では、表4に示されているように、5匹のマウスの5つのグループを利用した。グループAでは、マウスは腫瘍による攻撃の4週間前および2週間前に、PBSの注射を受け、腫瘍の攻撃後10日目および17日目に、50×10の酵母ベースhMART−1ワクチン(ヒトMART−1を発現する酵母媒体)の注射を受けた。グループBでは、マウスは腫瘍による攻撃の4週間前および2週間前に、および、腫瘍の攻撃後10日目および17日目に、50×10の酵母ベースhMART−1ワクチンの注射を受けた。グループCでは、マウスは腫瘍による攻撃の4週間前および2週間前に、PBSの注射を受け、腫瘍の攻撃後には何の投与も行わなかった。グループDでは、マウスは腫瘍による攻撃の4週間前および2週間前に、50×10の酵母ベースhMART−1ワクチンの注射を受け、腫瘍の攻撃後には何の投与も行わなかった。グループEでは、マウスは腫瘍による攻撃の4週間前および2週間前に、50×10のEGFRワクチン(EGFRを発現する酵母媒体)の注射を受け、腫瘍の攻撃後には何の投与も行わなかった。0日目に、全てのマウスに、皮下投与されたD16黒色腫細胞による腫瘍の攻撃がなされた。グループA〜Dのマウスには、内在性マウスMART−1(細胞は、ヒトMART−1が形質移入されていない)を発現した、5万のD16黒色腫細胞が与えられた。また、グループEには、EGFRの形質移入が行われた、5万のD16黒色腫細胞が与えられた。
【0174】
【表4】

【0175】
その結果が図6に示されている。グループB(腫瘍の攻撃前および後に免疫付与されたもの)およびグループD(腫瘍の攻撃前に免疫付与されたもの)のマウスは、腫瘍の被害が大幅に減ぜられていることが明らかとなった。このことから、黒色腫抗原を発現した酵母ワクチンは、種族間に渡り、黒色腫腫瘍に対して効果的であることが示された。
【0176】
〔実施例7〕
以下の例は、本発明の酵母媒体で発現する融合タンパク質の構築について示したものであり、この融合タンパク質は、複数の免疫原性領域および同じ抗原の複数の変異を有するものである。
【0177】
種々のRasファミリーメンバーの核酸およびアミノ酸配列は、当技術分野において公知である。配列番号2は、ヒトのK−ras(GenBank Accession No.NM_033360としても知られる)をコードした核酸配列である。配列番号2は、ここでは配列番号3として示されているヒトのK−rasをコードしている。配列番号4は、ネズミのK−ras(GenBank Accession No.NM_021284としても知られる)をコードした核酸配列である。配列番号4は、ここでは配列番号5として示されているネズミのK−rasをコードしている。配列番号6は、ヒトのH−ras(GenBank Accession No.NM_005343としても知られる)をコードした核酸配列である。配列番号6は、ここでは配列番号7として示されているヒトのH−rasをコードしている。
【0178】
配列番号8は、ネズミのH−ras(GenBank Accession No.NM_08284としても知られる)をコードした核酸配列である。配列番号8は、ここでは配列番号9として示されているネズミのH−rasをコードしている。配列番号10は、ヒトのN−ras(GenBank Accession No.NM_002524としても知られる)をコードした核酸配列である。配列番号10は、ここでは配列番号11として示されているヒトのN−rasをコードしている。配列番号12は、ネズミのN−ras(GenBank Accession No.NM_010937としても知られる)をコードした核酸配列である。配列番号12は、ここでは配列番号13として示されているヒトのN−rasをコードしている。
【0179】
図7は、本発明の酵母ベースのワクチンに利用される、複数の抗原/免疫原性領域を含む、様々な融合タンパク質の例を概略的に示した図である。これらの典型的な融合タンパク質において、K−Rasタンパク質の第3アミノ酸部位〜第165アミノ酸部位(配列番号3の第3部位〜第165部位)が用いられる。この使用される部位は、N−rasおよびH−rasにおいても同じである。すなわち、N−rasまたはH−rasの第3〜第165部位を用いて、同じ結果を得ることができる。
【0180】
そして、この配列の第12部位において、通常はこの位置に起こる変異である、グリシンの、バリン、システイン、またはアスパラギン酸残基への置換が発生する(GI−1014、GI−4015、およびGI−4016を参照)。また、第61部位において、通常はこの位置に起こる変異である、グルタミンのアルギニンへの変異が発生する。第2の配列が、この配列に融合(付加)される。この第2の配列は、配列番号3のK−ras全長アミノ酸第56〜第69部位由来の領域である。この第2の配列は、通常この位置に起こる変異である、第61部位のグルタミン酸残基がロイシンへと置換された変異を含んでいる。これら3つの配列は、より長い配列のN末端にQ61Lドメインが融合された状態で図中に示されているが、ドメインの順番が倒置された別の構築物も生産される。GI−1014をコードする構築物のヌクレオチド、および翻訳されたアミノ酸配列は、それぞれ、配列番号14および配列番号15により示されている。
【0181】
また、図7には、マルチ抗原ras融合ワクチン(GI−4018)も示されている。この融合ワクチンには、上述の第12部位の変異、および上述の第61部位の両方の変異、の3つ全てを含んでいる。この融合タンパク質は、以下のようにして構築される。配列番号1を含む合成配列に、様々なrasの変異を含む4つのポリペプチドが付加される。図7に示された4つのうちの第1番目には、K−ras(配列番号3)のN末端の第3残基〜第30残基が含まれている。また、配列番号3における第12位置のアミノ酸残基には、この部位において自然発生する変異である、グリシンがバリンに置換される変異が発生している。図7に示された4つのうちの第2番目には、配列番号3の第3残基〜第39残基が含まれている。また、配列番号3における第12位置のアミノ酸残基には、この部位において自然発生する変異である、グリシンがシステインに置換される変異が発生している。図7に示された4つのうちの第3番目には、配列番号3の第3残基〜第165残基が含まれている。また、配列番号3における第12位置のアミノ酸残基には、この部位において自然発生する変異である、グリシンがアスパラギン酸に置換される変異が、および、第61位置には、この部位で自然発生する変異である、グルタミン酸がアルギニンに置換される変異が発生している。図7に示された4つのうちの第4番目には、配列番号3のK−ras完全長アミノ酸の第56残基〜第69残基由来の領域が含まれている。この領域には、第61部位に、この部位において自然発生する変異である、グルタミン酸残基がロイシンに置換される変異が発生している。再度述べるが、図7においては、上記領域は順序づけて描かれているが、領域の順番は、必要に応じて再配置できるものであると理解されたい。
【0182】
この例は、単純に、本発明に有用である抗原構築物が、どのようにして構築されるかを示すことを目的としている。異なる抗原由来の領域、同じ抗原由来の複数の領域、または、異なる変異を有するリピート領域を利用した、同様の方法が、その他の抗原に利用されても構わない。単一のワクチン構築物において、構築物が複数の異なる変異を有することが好ましい時、および/または、抗原のひとつの部位に、自然に起こり得る複数の変異の組合せを有することが好ましい時に、この種の構築物は特に有用である。
【0183】
本明細書に示された全ての引例は、元の内容をそのまま、参考文献として、本明細書に盛り込んだものである。
【0184】
本発明の様々な実施例が詳細に示されたが、当分野に熟達した当業者には、これらの実施形態に変更、修正を加えることが可能であることは明白である。そのような変更、修正を加えたものも、本発明の範囲内に含まれるということは、容易に理解されうることであろう。
【図面の簡単な説明】
【0185】
【図1】酵母ベースのRas61ーVAXワクチンが、生体内において、既存のウレタン誘導性肺腫瘍を制御していることを示す棒グラフである。
【図2】酵母ベースのRas61ーVAXワクチンが、皮下または鼻腔内経路から投与されたときに、肺腫瘍の成長を阻害する特定のタンパク質を提供していることを示す棒グラフである。
【図3】Gagを発現した酵母ベースのワクチンが、鼻腔内経路から投与されると頭蓋内腫瘍から保護するが、皮下経路による投与ではこの限りではないことを示す棒グラフである。
【図4】EGFR(EGFR−tm VAX)を発現している酵母ベースのワクチンが、皮下または鼻腔内経路から投与されたときに、EGFRを発現している頭蓋内腫瘍の攻撃から保護することを示す、生存性のグラフである。
【図5】骨髄非切除の同種幹細胞移植と連携して、乳癌抗原を発現した酵母ベースのワクチンを使用することで、腫瘍の攻撃から保護されることを示す棒グラフである。
【図6】黒色腫抗原を発現した酵母ベースのワクチンが、抗原を発現した黒色腫腫瘍細胞の攻撃から保護することを示した棒グラフである。
【図7】本発明の酵母ベースのワクチンに利用される、様々な変異Ras融合タンパク質の構造を概略的に示した図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
動物を悪性腫瘍から守る方法であって、悪性腫瘍を有する動物、または悪性腫瘍を発生させる虞のある動物に対して、ワクチンを投与することにより、当該動物における悪性腫瘍の少なくともひとつの症状を緩和または予防することを含む方法であって、
上記ワクチンは、
(a)酵母媒体と、
(b)上記酵母媒体によって発現される融合タンパク質とを含み、
上記融合タンパク質は、
(i)少なくともひとつの癌抗原と、
(ii)上記癌抗原のN末端に結合したペプチドとを含み、
上記ペプチドは、上記癌抗原とは非相同的な、少なくとも二つのアミノ酸残基から構成されており、
また、上記ペプチドは、上記酵母媒体における上記融合タンパク質の発現を安定化させるものであるか、または、発現した上記融合タンパク質の翻訳後修飾を防止するものであり、
上記融合タンパク質の第1位置のアミノ酸残基は、メチオニンであり、
上記融合タンパク質の第2位置のアミノ酸残基は、グリシンでもプロリンでもなく、
上記融合タンパク質の第2〜6位置のアミノ酸残基は、いずれもメチオニンではなく、
上記融合タンパク質の第2〜5位置のアミノ酸残基は、いずれもリジンでもアルギニンでもないことを特徴とする動物を悪性腫瘍から守る方法。
【請求項2】
上記ペプチドは、少なくとも2〜6つの、上記癌抗原とは非相同的なアミノ酸残基から構成されていることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
上記ペプチドは、M−X−X−X−X−Xというアミノ酸配列を有しており、
上記配列において、
は、グリシン、プロリン、リジン、アルギニンを除くあらゆるアミノ酸であり、
は、メチオニン、リジン、アルギニンを除くあらゆるアミノ酸であり、
は、メチオニン、リジン、アルギニンを除くあらゆるアミノ酸であり、
は、メチオニン、リジン、アルギニンを除くあらゆるアミノ酸であり、
は、メチオニンを除くあらゆるアミノ酸であることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項4】
はプロリンであることを特徴とする請求項3に記載の方法。
【請求項5】
上記ペプチドは、M−A−D−E−A−P(配列番号1)というアミノ酸配列を含んでいることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項6】
動物を悪性腫瘍から守る方法であって、悪性腫瘍を有する動物、または悪性腫瘍を発生させる虞のある動物に対して、ワクチンを投与することにより、当該動物における悪性腫瘍の少なくともひとつの症状を緩和または予防することを含む方法であって、
上記ワクチンは、
(a)酵母媒体と、
(b)上記酵母媒体によって発現される融合タンパク質とを含み、
上記融合タンパク質は、
(i)少なくともひとつの癌抗原と、
(ii)上記癌抗原のN末端に結合した酵母タンパク質を含んでおり、
上記酵母タンパク質は、約2〜約200の、酵母の内在性タンパク質のアミノ酸から構成されており、
また、上記酵母タンパク質は、上記酵母媒体における上記融合タンパク質の発現を安定化させるものであるか、または、発現した上記融合タンパク質の翻訳後修飾を防止するものであることを特徴とする動物を悪性腫瘍から守る方法。
【請求項7】
上記酵母タンパク質は、上記融合タンパク質の同定および精製を行うための抗体エピトープを含んでいることを特徴とする請求項6に記載の方法。
【請求項8】
上記融合タンパク質には、少なくとも二つまたはそれ以上の癌抗原が含まれていることを特徴とする請求項1または6に記載の方法。
【請求項9】
上記融合タンパク質には、ひとつまたはそれ以上の癌抗原の免疫原性領域が少なくともひとつまたはそれ以上含まれていることを特徴とする請求項1または6に記載の方法。
【請求項10】
上記癌抗原は、黒皮腫、扁平上皮癌、乳癌、頭頚部癌、甲状腺癌、軟部組織肉腫、骨肉腫、精巣癌、前立腺癌、卵巣癌、膀胱癌、皮膚癌、脳腫瘍、脈管腫、血管肉腫、肥胖細胞腫、原発性肝癌、肺癌、膵臓癌、消化器癌、腎細胞癌、造血性腫瘍形成、および、これらの転移癌、を含む群より選択される悪性腫瘍に関連した抗原であることを特徴とする請求項1または6に記載の方法。
【請求項11】
上記癌抗原は、ras遺伝子によりコードされた野生型または変異型のタンパク質であることを特徴とする請求項1または6に記載の方法。
【請求項12】
上記癌抗原は、K−ras、N−ras、H−ras遺伝子を含む群より選択されたras遺伝子によってコードされている、野生型または変異型のタンパク質であることを特徴とする請求項11に記載の方法。
【請求項13】
上記ras遺伝子は、ひとつまたは複数の変異を有するRasタンパク質をコードしていることを特徴とする請求項11に記載の方法。
【請求項14】
上記癌抗原は、野生型Rasタンパク質の、少なくとも5〜9つの連続したアミノ酸残基の断片を含んでおり、
上記断片は、野生型Rasタンパク質の第12、13、59、61位置に相当するアミノ酸残基のいずれかを含んでおり、
また、上記第12、13、59、61位置のアミノ酸残基は、野生型Rasタンパク質から変異していることを特徴とする請求項1または6に記載の方法。
【請求項15】
上記癌抗原は、複数の領域を含む融合タンパク質構造物より構成されており、
上記複数の領域のそれぞれは、腫瘍性タンパク質由来のペプチドより構成されており、
上記ペプチドは、上記腫瘍性タンパク質に見られる変異アミノ酸とその両側のアミノ酸とを含む、少なくとも4アミノ酸残基を備えており、
上記変異は、造腫瘍性に関連するものであることを特徴とする請求項1または6に記載の方法。
【請求項16】
上記融合タンパク質構造物は、他の変異した癌抗原とフレームを合わせて融合した、少なくともひとつのペプチドから構成されており、
上記ペプチドは、
(a)少なくとも配列番号3の配列の第8〜16位置の配列を含んでおり、配列番号3の配列の第12位置に相当するアミノ酸残基が、配列番号3の配列と比較して変異しているペプチドと、
(b)少なくとも、配列番号3の配列の第9〜17位置の配列を含んでおり、配列番号3の配列の第13位置に相当するアミノ酸残基が、配列番号3の配列と比較して変異しているペプチドと、
(c)少なくとも、配列番号3の配列の第55〜63位置の配列を含んでおり、配列番号3の配列の第59位置に相当するアミノ酸残基が、配列番号3の配列と比較して変異しているペプチドと、
(d)少なくとも、配列番号3の配列の第57〜65位置の配列を含んでおり、配列番号3の配列の第61位置に相当するアミノ酸残基が、配列番号3の配列と比較して変異しているペプチドと、を含む群より選択されることを特徴とする請求項15に記載の方法。
【請求項17】
上記変異した癌抗原は、野生型Rasタンパク質の配列と比較して、少なくともひとつの変異を有するRasタンパク質であることを特徴とする請求項16に記載の方法。
【請求項18】
上記酵母媒体は、全酵母、酵母スフェロプラスト、酵母細胞質体、酵母形骸、酵母亜細胞膜抽出物またはその画分、を含む群より選択されることを特徴とする請求項1または6に記載の方法。
【請求項19】
上記酵母媒体の調製に用いられる酵母細胞または酵母スフェロプラストは、上記癌抗原をコードする組換え核酸分子によって形質転換されており、その結果、上記酵母細胞または上記酵母スフェロプラストによって、上記癌抗原が組換え技術的に発現されることを特徴とする請求項1または6に記載の方法。
【請求項20】
上記組換え癌抗原を発現する上記酵母細胞または上記酵母スフェロプラストは、酵母細胞質体、酵母形骸、酵母亜細胞膜抽出物またはその画分、を含む酵母媒体の作成に利用されることを特徴とする請求項19に記載の方法。
【請求項21】
上記酵母媒体は非病原性の酵母由来であることを特徴とする請求項1または6に記載の方法。
【請求項22】
上記酵母媒体は、Saccharomyce属、Schizosaccharomyce属、Kluveromyce属、Hansenula属、Candida属、Pichia属を含む群より選択された酵母由来のものであることを特徴とする請求項1または6に記載の方法。
【請求項23】
Saccharomyce属は、S.cerevisiaeであることを特徴とする請求項1または6に記載の方法。
【請求項24】
上記ワクチンは、呼吸管へと投与されることを特徴とする請求項1または6に記載の方法。
【請求項25】
上記ワクチンは、非経口の投与経路から投与されることを特徴とする請求項1または6に記載の方法。
【請求項26】
上記ワクチンは、さらに、樹状細胞またはマクロファージを含んでおり、
上記融合タンパク質を発現する上記酵母媒体は、生体外で、上記樹状細胞または上記マクロファージへと送達され、
上記癌抗原を発現する上記酵母媒体を含有する、上記樹状細胞または上記マクロファージは、上記動物へと投与されることを特徴とする請求項1または6に記載の方法。
【請求項27】
上記樹状細胞または上記酵母媒体には、付加的に遊離抗原が含まれていることを特徴とする請求項26に記載の方法。
【請求項28】
上記ワクチンは、治療用ワクチンとして投与されることを特徴とする請求項1または6に記載の方法。
【請求項29】
上記ワクチンは、予防的ワクチンとして投与されることを特徴とする請求項1または6に記載の方法。
【請求項30】
上記動物は、脳腫瘍、肺癌、乳癌、黒皮腫、および腎臓癌を含む群より選択される癌を有しているか、上記癌を発生する虞があるものであることを特徴とする請求項1または6に記載の方法。
【請求項31】
上記動物は癌を有しており、上記ワクチンの投与は、上記動物から癌が外科的切除された後に行われることを特徴とする請求項1または6に記載の方法。
【請求項32】
上記動物は癌を有しており、上記ワクチンの投与は、上記動物の癌の外科的切除の後、および、骨髄非切除の同種幹細胞移植の後に行われることを特徴とする請求項1または6に記載の方法。
【請求項33】
上記動物は癌を有しており、上記ワクチンの投与は、上記動物の癌の外科的切除の後、骨髄非切除の同種幹細胞移植の後、および、同種ドナーのリンパ球の注入の後に行われることを特徴とする請求項1または6に記載の方法。
【請求項34】
動物を脳腫瘍または肺癌から守る方法であって、脳腫瘍または肺癌を有する動物、または、脳腫瘍または肺癌を発生させる虞のある動物に対して、酵母媒体と、少なくともひとつの癌抗原とを含むワクチンを上記動物の呼吸管へ投与し、当該動物において、脳腫瘍または肺癌の少なくともひとつの症状を緩和または予防することを含むことを特徴とする動物を脳腫瘍または肺癌から守る方法。
【請求項35】
上記ワクチンは、少なくとも二つまたはそれ以上の癌抗原を含んでいることを特徴とする請求項34に記載の方法。
【請求項36】
上記癌抗原は、少なくともひとつまたはそれ以上の癌抗原を含む融合タンパク質であることを特徴とする請求項34に記載の方法。
【請求項37】
上記癌抗原は、ひとつ以上の癌抗原の、免疫原性領域を少なくともひとつ以上含む融合タンパク質であることを特徴とする請求項34に記載の方法。
【請求項38】
上記癌抗原は、複数の領域を含む融合タンパク質構造物より構成されており、
上記複数の領域のそれぞれは、腫瘍性タンパク質由来のペプチドより構成されており、
上記ペプチドは、上記腫瘍性タンパク質に見られる変異アミノ酸とその両側のアミノ酸と含む、少なくとも4アミノ酸残基を備えており、
上記変異は、造腫瘍性に関連するものであることを特徴とする請求項34に記載の方法。
【請求項39】
上記酵母媒体は、融合タンパク質である癌抗原を発現しており、
上記融合タンパク質は、
(a)少なくともひとつの癌抗原と、
(b)上記癌抗原のN末端に結合したペプチドとを含んでおり、
上記ペプチドは、上記癌抗原とは非相同的な、少なくとも二つのアミノ酸残基から構成されており、
また、上記ペプチドは、上記酵母媒体における上記融合タンパク質の発現を安定化させるものであるか、または、発現した融合タンパク質の翻訳後修飾を防止するものであり、
上記融合タンパク質の第1位置のアミノ酸残基は、メチオニンであり、
上記融合タンパク質の第2位置のアミノ酸残基は、グリシンでもプロリンでもなく、
上記融合タンパク質の第2〜6位置のアミノ酸残基は、いずれもメチオニンではなく、
上記融合タンパク質の第2〜5位置のアミノ酸残基は、いずれもリジンでもアルギニンでもないことを特徴とする請求項34に記載の方法。
【請求項40】
上記酵母媒体は融合タンパク質である上記癌抗原を発現しており、
上記融合タンパク質は、
(a)少なくともひとつの癌抗原と、
(b)上記癌抗原のN末端に結合した酵母タンパク質とを含んでおり、
上記酵母タンパク質は、約2〜約200の、内在性の酵母タンパク質のアミノ酸から構成されており、
上記酵母タンパク質は、上記酵母媒体における上記融合タンパク質の発現を安定化させるものであるか、または、発現した上記融合タンパク質の翻訳後修飾を防止するものであることを特徴とする請求項34に記載の方法。
【請求項41】
上記酵母媒体は、全酵母、酵母スフェロプラスト、酵母細胞質体、酵母形骸、酵母亜細胞膜抽出物またはその画分、を含む群より選択されることを特徴とする請求項34に記載の方法。
【請求項42】
上記酵母媒体の調製に用いられる、酵母細胞または酵母スフェロプラストは、上記癌抗原をコードする組換え核酸分子によって形質転換されており、その結果、上記酵母細胞または上記酵母スフェロプラストによって、上記癌抗原が組換え技術的に発現されることを特徴とする請求項34に記載の方法。
【請求項43】
組換え技術によって上記癌抗原を発現する上記酵母細胞または上記酵母スフェロプラストは、酵母細胞質体、酵母形骸、酵母亜細胞膜抽出物またはその画分、を含む酵母媒体の作成に利用されることを特徴とする請求項42に記載の方法。
【請求項44】
上記酵母媒体の細胞内に、上記癌抗原が充填されることを特徴とする請求項34に記載の方法。
【請求項45】
上記癌抗原は、共有結合または非共有結合によって上記酵母媒体へと付着されることを特徴とする請求項34に記載の方法。
【請求項46】
上記酵母媒体および上記癌抗原は、攪拌されることによって組み合わせられることを特徴とする請求項34に記載の方法。
【請求項47】
上記ワクチンは、経鼻投与によって投与されることを特徴とする請求項34に記載の方法。
【請求項48】
上記ワクチンは、気管内投与によって投与されることを特徴とする請求項34に記載の方法。
【請求項49】
上記酵母媒体および上記癌抗原は、生体外で樹状細胞またはマクロファージへと送達され、
上記酵母媒体および上記癌抗原を含む上記樹状細胞または上記マクロファージは、上記動物の呼吸管へと投与されることを特徴とする請求項34に記載の方法。
【請求項50】
上記動物を脳腫瘍から守ることを特徴とする請求項34に記載の方法。
【請求項51】
上記脳腫瘍は、原発性の脳腫瘍であることを特徴とする請求項50に記載の方法。
【請求項52】
上記脳腫瘍は、多形性神経膠芽腫であることを特徴とする請求項50に記載の方法。
【請求項53】
上記脳腫瘍は、異なる器官からの転移癌であることを特徴とする請求項50に記載の方法。
【請求項54】
上記動物を肺癌から守ることを特徴とする請求項34に記載の方法。
【請求項55】
上記肺癌は、原発性の肺癌であることを特徴とする請求項54に記載の方法。
【請求項56】
上記肺癌は、非小細胞癌、小細胞癌、腺癌を含む群から選択されることを特徴とする請求項54に記載の方法。
【請求項57】
上記肺癌は、異なる器官からの転移癌であることを特徴とする請求項54に記載の方法。
【請求項58】
上記ワクチンは、治療用ワクチンとして投与されることを特徴とする請求項34に記載の方法。
【請求項59】
上記ワクチンは、予防的ワクチンとして投与されることを特徴とする請求項34に記載の方法。
【請求項60】
上記酵母媒体は、非病原性の酵母由来であることを特徴とする請求項34に記載の方法。
【請求項61】
上記酵母媒体は、Saccharomyce属、Schizosaccharomyce属、Kluveromyce属、Hansenula属、Candida属、Pichia属を含む群より選択された酵母由来であることを特徴とする請求項34に記載の方法。
【請求項62】
Saccharomyce属は、S.cerevisiaeであることを特徴とする請求項34に記載の方法。
【請求項63】
動物において、抗原特異的体液性免疫反応および抗原特異的細胞性免疫反応を誘発する方法であって、上記方法には、上記動物に対して、治療用組成物を投与することが含まれており、
上記治療用組成物には、
(a)酵母媒体と、
(b)上記酵母媒体によって発現される融合タンパク質とが含まれており、
上記融合タンパク質には、
(i)少なくともひとつの癌抗原と、
(ii)上記癌抗原のN末端に結合したペプチドとが含まれており、
上記ペプチドは、上記癌抗原とは非相同的な、少なくとも二つのアミノ酸残基から構成されており、
上記ペプチドは、上記酵母媒体における上記融合タンパク質の発現を安定化させるものであるか、または、発現した上記融合タンパク質の翻訳後修飾を防止するものであり、
上記融合タンパク質の第1位置のアミノ酸残基は、メチオニンであり、
上記融合タンパク質の第2位置のアミノ酸残基は、グリシンでもプロリンでもなく、
上記融合タンパク質の第2〜6位置のアミノ酸残基は、いずれもメチオニンではなく、
上記融合タンパク質の第2〜5位置のアミノ酸残基は、いずれもリジンでもアルギニンでもないことを特徴とする動物において抗原特異的体液性免疫反応および抗原特異的細胞性免疫反応を誘発する方法。
【請求項64】
上記ペプチドは、少なくとも6つの、上記癌抗原とは非相同的なアミノ酸残基から構成されていることを特徴とする請求項63に記載の方法。
【請求項65】
上記ペプチドは、M−X−X−X−X−Xというアミノ酸配列を有しており、
上記配列において、
は、グリシン、プロリン、リジン、アルギニンを除くあらゆるアミノ酸であり、
は、メチオニン、リジン、アルギニンを除くあらゆるアミノ酸であり、
は、メチオニン、リジン、アルギニンを除くあらゆるアミノ酸であり、
は、メチオニン、リジン、アルギニンを除くあらゆるアミノ酸であり、
は、メチオニンを除くあらゆるアミノ酸であることを特徴とする請求項63に記載の方法。
【請求項66】
は、プロリンであることを特徴とする請求項65に記載の方法。
【請求項67】
上記ペプチドは、M−A−D−E−A−P(配列番号1)というアミノ酸配列を含んでいることを特徴とする請求項63に記載の方法。
【請求項68】
上記抗原は、ウイルス抗原、過剰発現した哺乳動物の細胞表面分子、細菌性抗原、真菌性抗原、原虫抗原、蠕虫抗原、外寄生体抗原、癌抗原、ひとつまたはそれ以上の変異アミノ酸を有する哺乳動物細胞分子、哺乳動物細胞で出生前または新生期に一般的に発現されるタンパク質、疫学的因子(ウイルスなど)の挿入により発現が誘導されるタンパク質、遺伝子転座によって発現が誘導されるタンパク質、制御配列の変異によって発現が誘導されるタンパク質、を含む群から選択されることを特徴とする請求項63に記載の方法。
【請求項69】
動物において、抗原特異的体液性免疫反応および抗原特異的細胞性免疫反応を誘発する方法であって、上記方法には、上記動物に対して、治療用組成物を投与することが含まれており、
上記治療用組成物は、
(a)酵母媒体と、
(b)上記酵母媒体で発現される融合タンパク質とを含んでおり、
上記融合タンパク質は、
(i)少なくともひとつの抗原と、
(ii)上記抗原のN末端に結合した酵母タンパク質とを含んでおり、
上記酵母タンパク質は、約2〜約200の、内在性の酵母タンパク質のアミノ酸から構成されており、
上記酵母タンパク質は、上記酵母媒体における上記融合タンパク質の発現を安定化させるものであるか、または、発現した上記融合タンパク質の翻訳後修飾を防止するものであることを特徴とする動物において抗原特異的体液性免疫反応および抗原特異的細胞性免疫反応を誘発する方法。
【請求項70】
上記酵母タンパク質には、上記融合タンパク質の同定および精製を行うための抗体エピトープが含まれていることを特徴とする請求項69に記載の方法。
【請求項71】
ワクチンであって、
上記ワクチンには、
(a)酵母媒体と、
(b)上記酵母媒体によって発現される融合タンパク質とが含まれており、
上記融合タンパク質には、
(i)少なくともひとつの癌抗原と、
(ii)上記癌抗原のN末端に結合したペプチドとが含まれており、
上記ペプチドは、上記癌抗原とは非相同的な、少なくとも二つのアミノ酸残基から構成されており、
上記ペプチドは、上記酵母媒体における上記融合タンパク質の発現を安定化させるものであるか、または、発現した上記融合タンパク質の翻訳後修飾を防止するものであり、
上記融合タンパク質の第1位置のアミノ酸残基は、メチオニンであり、
上記融合タンパク質の第2位置のアミノ酸残基は、グリシンでもプロリンでもなく、
上記融合タンパク質の第2〜6位置のアミノ酸残基は、いずれもメチオニンではなく、
上記融合タンパク質の第2〜5位置のアミノ酸残基は、いずれもリジンでもアルギニンでもないことを特徴とするワクチン。
【請求項72】
上記ペプチドは、少なくとも6つの、上記癌抗原とは非相同的なアミノ酸残基から構成されていることを特徴とする請求項71に記載のワクチン。
【請求項73】
上記ペプチドは、M−X−X−X−X−Xというアミノ酸配列を有しており、
上記配列において、
は、グリシン、プロリン、リジン、アルギニンを除くあらゆるアミノ酸であり、
は、メチオニン、リジン、アルギニンを除くあらゆるアミノ酸であり、
は、メチオニン、リジン、アルギニンを除くあらゆるアミノ酸であり、
は、メチオニン、リジン、アルギニンを除くあらゆるアミノ酸であり、
は、メチオニンを除くあらゆるアミノ酸であることを特徴とする請求項71に記載のワクチン。
【請求項74】
は、プロリンであることを特徴とする請求項73に記載のワクチン。
【請求項75】
上記ペプチドは、M−A−D−E−A−P(配列番号1)というアミノ酸配列を含んでいることを特徴とする請求項73に記載のワクチン。
【請求項76】
上記抗原は、ウイルス抗原、哺乳動物の細胞表面分子、細菌性抗原、真菌性抗原、原虫抗原、蠕虫抗原、外寄生体抗原、癌抗原、ひとつまたはそれ以上の変異アミノ酸を有する哺乳動物細胞分子、哺乳動物細胞で出生前または新生期に一般的に発現されるタンパク質、疫学的因子(ウイルスなど)の挿入により発現が誘導されるタンパク質、遺伝子転座によって発現が誘導されるタンパク質、制御配列の変異によって発現が誘導されるタンパク質、を含む群から選択されることを特徴とする請求項73に記載のワクチン。
【請求項77】
上記抗原は、癌抗原であることを特徴とする請求項73に記載のワクチン。
【請求項78】
ワクチンであって、
(a)酵母媒体と、
(b)上記酵母媒体で発現される融合タンパク質とを含んでおり、
上記融合タンパク質は、
(i)少なくともひとつの癌抗原と、
(ii)上記癌抗原のN末端に結合した酵母タンパク質とを含んでおり、
上記酵母タンパク質は、約2〜約200の、内在性酵母タンパク質のアミノ酸から構成されており、
上記ペプチドは、上記酵母媒体における上記融合タンパク質の発現を安定化させるものであるか、または、発現した上記融合タンパク質の翻訳後修飾を防止するものであることを特徴とするワクチン。
【請求項79】
上記酵母タンパク質には、上記融合タンパク質の同定および精製を行うための抗体エピトープが含まれていることを特徴とする請求項78に記載のワクチン。
【請求項80】
悪性腫瘍を有する患者を治療する方法であって、
上記方法には、
(a)悪性腫瘍を有する患者を、安定した混合骨髄キメリズムの定着に有効である、骨髄非切除の幹細胞移植により、同種のドナーから提供される幹細胞を用いて治療する工程と、
(b)同種のドナーから得られたリンパ球を上記患者に投与する工程と、
(c)工程(b)の後に、酵母媒体と少なくともひとつの癌抗原とを含むワクチンを、上記患者に投与する工程と、が含まれることを特徴とする悪性腫瘍を有する患者を治療する方法。
【請求項81】
上記工程(a)の前に、上記同種のドナーに、酵母媒体と少なくともひとつの癌抗原とを含むワクチンを投与する工程をさらに含むことを特徴とする請求項80に記載の方法。
【請求項82】
上記工程(a)を行う前に、上記患者から腫瘍を除去する工程を含むことを特徴とする請求項80に記載の方法。
【請求項83】
上記ワクチンは、少なくとも二つまたはそれ以上の癌抗原を含んでいることを特徴とする請求項80に記載の方法。
【請求項84】
上記癌抗原は、ひとつまたはそれ以上の癌抗原を含む融合タンパク質であることを特徴とする請求項80に記載の方法。
【請求項85】
上記癌抗原は、ひとつまたはそれ以上の癌抗原の免疫原性領域をひとつまたはそれ以上含む融合タンパク質であることを特徴とする請求項80に記載の方法。
【請求項86】
上記癌抗原は、複数の領域を含む融合タンパク質構造物より構成されており、
上記複数の領域のそれぞれは、腫瘍性タンパク質由来のペプチドより構成されており、
上記ペプチドは、上記腫瘍性タンパク質に見られる変異アミノ酸とその両側のアミノ酸と含む、少なくとも4アミノ酸残基を備えており、
上記変異は、造腫瘍性に関連するものであることを特徴とする請求項80に記載の方法。
【請求項87】
上記酵母媒体は、融合タンパク質である癌抗原を発現しており、
上記融合タンパク質は、
(a)少なくともひとつの癌抗原と、
(b)上記癌抗原のN末端に結合したペプチドとを含んでおり、
上記ペプチドは、上記癌抗原とは非相同的な、少なくとも二つのアミノ酸残基から構成されており、
上記ペプチドは、上記酵母媒体における上記融合タンパク質の発現を安定化させるものであるか、または、発現した上記融合タンパク質の翻訳後修飾を防止するものであり、
上記融合タンパク質の第1位置のアミノ酸残基は、メチオニンであり、
上記融合タンパク質の第2位置のアミノ酸残基は、グリシンでもプロリンでもなく、
上記融合タンパク質の第2〜6位置のアミノ酸残基は、いずれもメチオニンではなく、
上記融合タンパク質の第2〜5位置のアミノ酸残基は、いずれもリジンでもアルギニンでもないことを特徴とする請求項80に記載の方法。
【請求項88】
上記酵母媒体は融合タンパク質である上記癌抗原を発現しており、
上記融合タンパク質は、
(a)少なくともひとつの癌抗原と、
(b)上記癌抗原のN末端に結合した酵母タンパク質とを含んでおり、
上記酵母タンパク質は、約2〜約200の、内在性酵母タンパク質のアミノ酸から構成されており、
上記酵母タンパク質は、上記酵母媒体における上記融合タンパク質の発現を安定化させるものであるか、または、発現した上記融合タンパク質の翻訳後修飾を防止するものであることを特徴とする請求項80に記載の方法。
【請求項89】
上記酵母媒体は、全酵母、酵母スフェロプラスト、酵母細胞質体、酵母形骸、酵母亜細胞膜抽出物またはその画分、を含む群より選択されることを特徴とする請求項80に記載の方法。
【請求項90】
上記酵母媒体の調製に用いられる酵母細胞または酵母スフェロプラストは、癌抗原をコードする組換え核酸分子によって形質転換されており、その結果、上記酵母細胞または上記酵母スフェロプラストにより、上記癌抗原が組換え技術的に発現されることを特徴とする請求項80に記載の方法。
【請求項91】
組換え技術によって上記癌抗原を発現する上記酵母細胞または上記酵母スフェロプラストは、酵母細胞質体、酵母形骸、酵母亜細胞膜抽出物またはその画分、を含む酵母媒体の作成に利用されることを特徴とする請求項90に記載の方法。
【請求項92】
上記酵母媒体の細胞内に、上記癌抗原が充填されることを特徴とする請求項80に記載の方法。
【請求項93】
上記癌抗原は、共有結合または非共有結合によって上記酵母媒体へと付着されていることを特徴とする請求項80に記載の方法。
【請求項94】
上記酵母媒体および上記癌抗原は、攪拌されることによって組み合わせられることを特徴とする請求項80に記載の方法。
【請求項95】
上記ワクチンは、経鼻投与によって投与されることを特徴とする請求項80に記載の方法。
【請求項96】
上記ワクチンは、非経口投与によって投与されることを特徴とする請求項80に記載の方法。
【請求項97】
上記酵母媒体および上記癌抗原は、生体外で樹状細胞またはマクロファージへと送達され、上記酵母媒体および癌抗原を含む上記樹状細胞または上記マクロファージが、上記動物の呼吸管へと投与されることを特徴とする請求項80に記載の方法。
【請求項98】
上記酵母媒体は非病原性の酵母由来であることを特徴とする請求項80に記載の方法。
【請求項99】
上記酵母媒体は、Saccharomyce属、Schizosaccharomyce属、Kluveromyce属、Hansenula属、Candida属、Pichia属を含む群より選択された酵母由来であることを特徴とする請求項80に記載の方法。
【請求項100】
Saccharomyce属は、S.cerevisiaeであることを特徴とする請求項80に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公表番号】特表2006−510718(P2006−510718A)
【公表日】平成18年3月30日(2006.3.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−563714(P2004−563714)
【出願日】平成15年12月16日(2003.12.16)
【国際出願番号】PCT/US2003/040281
【国際公開番号】WO2004/058157
【国際公開日】平成16年7月15日(2004.7.15)
【出願人】(505226437)グローブイミューン,インコーポレイテッド (10)
【Fターム(参考)】