説明

免疫療法としての酵母ベースのワクチン

【課題】腫瘍性形質変化()により引き起こされる疾病を含む、免疫療法で治療可能な疾病についての安全かつ効果的なワクチンおよび免疫賦活剤を開発すること。
【解決手段】動物をから守る方法であって、当該動物におけるの少なくともひとつの症状を緩和または予防するために、を有する、またはを発生させる恐れのある動物に対して、ワクチンを投与することが含まれる。上記ワクチンは、(a)酵母媒体、および(b)酵母媒体で発現される融合タンパク質、を含んでいる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、概して、体液性および細胞性免疫の誘発を行う異種抗原を含む、酵母ベース
のワクチンの利用に関するものである。また、本発明の一態様において、本発明は、動物
の種々の癌の治療および予防を行う異種抗原を含む、酵母ベースのワクチンの利用に関す
るものである。
【背景技術】
【0002】
新生組織形成、すなわち、新生かつ異常な増殖に起因した急速な細胞増殖は、多くの疾
病の特徴である。そのような疾病は、非常に深刻な疾病であり、時としては生命に危険を
及ぼす。一般的に、細胞および組織の腫瘍性の成長は、通常の細胞の増殖よりも、細胞増
殖が著しいことにより特徴づけられる。腫瘍性の成長では、煽動要素(instigating fact
or)(例えば、発癌プロモーター、発癌物質、ウイルスなど)が存在しなくなった後にも
、細胞が増殖し続ける。上記の細胞増殖は、健常組織との構造機構および/または協調性
を欠く傾向にあり、通常は、良性または悪性であり得る組織の塊(例えば腫瘍など)を作り出す。
【0003】
悪性の細胞増殖、すなわち悪性腫瘍は、世界中で主要な死亡原因となっており、腫瘍性疾患
の効果的な治療法を開発することは、多くの研究活動の目的とされている。癌を治
療および防止するための、種々の斬新な試みがなされてきたが、多くの癌の死亡率
は高いままである。さらに、多くの癌は治療が困難であったり、または従来の治療
法に大した反応を見せない可能性もある。
【0004】
例えば、肺癌は米国で2番目に一般的な癌である。肺癌は、全癌の15%を占め
、癌による全死亡者数の28%を占めている。2002年には、肺癌と診断される数は1
77000件、および死亡件数は166000件になると見積もられており、この死亡率
は、結直腸癌、前立腺癌、乳ガンを合わせたものよりも高い。80%の原発性肺腫瘍は、
非小細胞肺癌(NSCLC)である。一般的な化学療法は、多剤療法と比較して、効果が
ないままである。また、多剤療法には深刻な毒性が伴い、最小限の延命効果をもたらすの
みである。
【0005】
別の例として、多形膠芽腫(神経膠腫)は、成人の間で最も一般的な原発性悪性脳腫瘍(primary malignant brain tumor)
である。外科手術、放射線治療、および化学療法を利用しても、治療率および患者の平均
生存時間は改善されていないままである。また、他の腫瘍が脳に転移した場合、血液脳関
門により薬剤送達が制約されることから、これら腫瘍は末梢性化学療法にあまり良く反応
しない。従って、脳腫瘍をよりよく考慮した治療的なアプローチが必要であることは明確
である。
【0006】
上記のようなアプローチのひとつに、免疫療法が含まれる。神経の末梢で準備刺激を受
けたリンパ球は、血液脳関門および標的脳組織を横断することができることが、以前より
知られている。脳腫瘍の免疫療法の主要なターゲットは、脳腫瘍細胞内で特異的に発現し
ている新生抗原または変異抗原に対して、免疫反応を誘発するワクチンである。最終的な
目標は、頭蓋内腫瘍に対して、広く、活発かつ持続的な免疫防御を提供する、ワクチンア
プローチを提供することである。
【0007】
疾病の予防、および、既定の疾病の治療にワクチン(免疫療法ワクチン)が広く一般的
に利用されている。タンパク抗原(例えば、DNA組換え技術により開発が可能になった
サブユニットワクチンなど)は、免疫賦活剤なしに投与された場合に、弱い体液性(抗体
)免疫しか発生させず、そのため限られた免疫原性しか発生しないということで期待外れ
であった。また、サブユニットワクチン、死亡したウイルスワクチンおよび遺伝子組換え
生ウイルスワクチンには、免疫賦活剤と共にこれらワクチンを投与した場合、強い体液性
免疫を活性化しているようだが、これらワクチンは細胞性感染防御免疫を誘発しない、と
いうさらなる欠点がある。
【0008】
また、免疫賦活剤(adjuvant)は、マウスで強力な免疫反応を活性化する目的に実験的に利用されて
おり、ヒトワクチンへと利用されることが好ましいが、ヒトへの使用が承認された賦活剤
はほんの僅かである。実際、米国で使用が承認された免疫賦活剤は、アルミニウム塩、水
酸化アルミニウム、およびリン酸アルミニウムのみであるが、いずれのものも、細胞性免
疫を活性化するものではない。また、アルミニウム塩製剤は、凍結または凍結乾燥するこ
とができない。さらに、上記の免疫賦活剤は、全ての抗原に対して効果的ではない。その
うえ、ほぼ全ての免疫賦活剤は、細胞傷害Tリンパ球(CTL)の誘発を引き起こさない
。CTLは、ウイルスタンパク質、および、変異した「自己」タンパク質を含む異常タン
パク質を合成する細胞の破壊に必要とされる。CTLを刺激するワクチンを、全ての悪性
腫瘍(例えば、メラノーマ、前立腺癌、卵巣癌など)を含む種々の疾病の治療に利用しようと
、精力的な研究が行われている。このように、一般的には、CTLおよび細胞性免疫を活
性化する免疫賦活剤が必要とされている。
【0009】
酵母は、サブユニット・タンパクワクチンの生産に用いられてきた。しかし、酵母はタ
ンパク質の生産に利用されてはいるが、酵母細胞またはその細胞亜画分が実際に患者に供
給されることは無かった。また、酵母は、ワクチン接種の前に、非特異的な方法で免疫反
応を準備するために(すなわち、食菌作用の活性化、ならびに補体およびインターフェロ
ンの生成のために)、動物に与えられてきた。その効果は曖昧なもので、このような手順
によっては、細胞性感染防御免疫は発生しなかった。これに関しては、例えば、非特許文献1(Fattal-G
erman et al., 1992, Dev. Biol. Stand. 77,115-120; Bizzini et al., 1990,
FEMS Microbiol. Immunol. 2,155-167などを参考にされたい。
1998年11月3日にDukeらに交付された、特許文献1(米国特許第5830463号によっ
て、少なくともひとつの免疫反応の調節を行うことが可能な化合物を運搬する、非病原性
酵母の使用方法が公開され、上記の複合体が、細胞性および体液性免疫の活性化に有効で
あることが示された。より具体的には、米国特許第5830463号は、異種抗原を発現
するように遺伝操作がなされた酵母は、動物に投与されると細胞性および体液性免疫の両
方を誘導できることを示している。
今日の癌の治療法およびワクチン技術の進歩にも関わらず、以下のような疾病に
対する、安全かつ効果的なワクチンおよび免疫賦活剤を開発することは、急務のままであ
り続けている。なお、上記の疾病とは、腫瘍性形質変化(癌)により引き起こされ
る疾病を含む、免疫療法で治療可能な疾病のことであり、特に、従来技術の癌治療
法および一般的なワクチン療法を用いた治療方法に抵抗性の癌のことである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】

【特許文献1】米国特許第5830463号明細書
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】Fattal-German et al., 1992, Dev. Biol. Stand. 77,115-120; Bizzini et al., 1990, FEMS Microbiol. Immunol. 2,155-167
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0012】
〔発明の概要〕
本発明のある実施形態は、動物を癌から守る方法に関する。上記方法には、当該
動物における癌の少なくともひとつの症状を緩和または予防するために、癌
を有する、または癌を発生させる恐れのある動物に対して、ワクチンを投与することが
含まれる。上記ワクチンは、(a)酵母媒体(yeast vehicle)、および(b)酵母媒体で発現される融合タ
ンパク質、を含んでいる。上記融合タンパク質は、(i)少なくともひとつの癌抗原、お
よび(ii)上記癌抗原のN末端に結合したペプチド、を含んでいる。上記ペプチドは、
上記癌抗原とは異種の少なくとも二つのアミノ酸残基から構成されている。上記ペ
プチドは、酵母媒体における融合タンパク質の発現を安定化させるものであるか、または
、発現した融合タンパク質の翻訳後修飾を防止するものである。上記融合タンパク質には
、下記の追加の必要条件がある。すなわち、(1)上記融合タンパク質の第1位のアミ
ノ酸残基はメチオニンである、(2)上記融合タンパク質の第2位のアミノ酸残基はグ
リシンでもプロリンもない、(3)上記融合タンパク質の第2〜6位のアミノ酸残基の
、いずれもメチオニンではない、および、(4)上記融合タンパク質の第2〜5位のア
ミノ酸残基は、いずれもリジンでもアルギニンでもない、ことが必要条件である。本発明
の一態様において、上記ペプチドは、少なくとも2〜6個の、上記癌抗原とは異種の
アミノ酸残基から構成されている。別の一態様において、上記ペプチドは、M−X−X
−X−X−Xというアミノ酸配列を有しており、当該配列において、Xはグリ
シン、プロリン、リジン、アルギニンを除く任意のアミノ酸であり、Xはメチオニン
、リジン、アルギニンを除く任意のアミノ酸であり、Xはメチオニン、リジン、アル
ギニンを除く任意のアミノ酸であり、Xはメチオニン、リジン、アルギニンを除くあ
らゆるアミノ酸であり、Xはメチオニンを除く任意のアミノ酸であってよい。本発明
の一態様において、Xはプロリンである。別の一態様において、上記ペプチドはM−A
−D−E−A−P(配列番号1)というアミノ酸配列を含んでいる。
【0013】
本発明の別の実施形態は、動物を癌から守る方法に関する。上記方法には、当該
動物における癌の少なくともひとつの症状を緩和または予防するために、癌
を有する、または癌を発生させる恐れのある動物に対して、ワクチンを投与することが
含まれる。上記ワクチンは、(a)酵母媒体、および(b)酵母媒体で発現される融合タ
ンパク質、を含んでいる。上記融合タンパク質は、(i)少なくともひとつの癌抗原、お
よび(ii)上記癌抗原のN末端に結合した酵母タンパク質、を含んでいる。上記酵母タ
ンパク質は、約2〜約200の、酵母の内在性タンパク質のアミノ酸から構成されている
。上記ペプチドは、酵母媒体における融合タンパク質の発現を安定化させるものであるか
、または、発現した融合タンパク質の翻訳後修飾を防止するものである。本発明の一態様
において、融合タンパク質の同定および精製を行うために、上記酵母タンパク質には、抗
体エピトープが含まれている。
【0014】
上述の、いずれの本発明の実施形態においても、以下の付加的な態様が企図されている
。本発明の一態様においては、上記融合タンパク質には、少なくとも二つまたはそれより多く
の癌抗原が含まれる。別の態様において、上記融合タンパク質には、ひとつまたはそれより多
くの癌抗原の免疫原性領域(immunogenic domain)が少なくともひとつまたはそれより多く含まれる。別の態様において
、上記癌抗原は、メラノーマ(melanoma)、扁平上皮癌、乳癌、頭頚部癌、甲状腺癌、軟部組織肉腫、骨肉
腫、精巣癌、前立腺癌、卵巣癌、膀胱癌、皮膚癌、脳腫瘍、脈管腫、血管肉腫、肥胖細胞
腫、原発性肝癌、肺癌、膵臓癌、消化器癌、腎細胞癌、造血性腫瘍形成、および、これら
の転移癌、を含む群より選択される癌に関連した抗原である。
【0015】
さらなる別の態様において、上記癌抗原は、ras遺伝子によりコードされた野生型ま
たは変異型のタンパク質である。例えば、癌抗原には、K−ras、N−ras、H−r
as遺伝子を含む群より選択されたras遺伝子、によってコードされた野生型または変
異型のタンパク質が含まれていても良い。本発明の一態様において、ras遺伝子は、ひ
とつまたは複数の変異を有するRasタンパク質をコードしている。別の態様において、
癌抗原は、野生型Rasタンパク質の少なくとも5〜9つの連続したアミノ酸残基の断片
を含んでおり、上記断片は、野生型Rasタンパク質の第12、13、59、または61
位に相当するアミノ酸残基を含んでいる。また、これら第12、13、59、または6
1位のアミノ酸残基は、野生型Rasタンパク質から変異したものになっている。
【0016】
さらなる別の態様において、癌抗原は、複数の領域を含む融合タンパク質構造物より構
成される。上記複数の領域の各領域は、腫瘍性タンパク質由来のペプチドより構成されて
いる。上記ペプチドは、上記腫瘍性タンパク質に見られる、造腫瘍性に関連する変異に関
わる変異アミノ酸とその両側のアミノ酸とを含む、少なくとも4アミノ酸残基を備えてい
る。この態様において、融合タンパク質構造物は、他の変異した癌抗原とフレームを合わ
せて融合した、以下の群から選択されるペプチドの少なくともひとつから構成されている
。すなわち、上記ペプチドは、(a)少なくとも配列番号3の第8〜16位の配列を含
んでおり、配列番号3の第12位に相当するアミノ酸残基が、配列番号3と比較して変
異しているペプチド、(b)少なくとも、配列番号3の第9〜17位の配列を含んでお
り、配列番号3の第13位に相当するアミノ酸残基が、配列番号3と比較して変異して
いるペプチド、(c)少なくとも、配列番号3の第55〜63位の配列を含んでおり、
配列番号3の第59位に相当するアミノ酸残基が、配列番号3と比較して変異している
ペプチド、および、(d)少なくとも、配列番号3の第57〜65位の配列を含んでお
り、配列番号3の第61位に相当するアミノ酸残基が、配列番号3と比較して変異して
いるペプチド、を含む群より選択される。本発明の一態様において、上記の変異した癌抗
原は、野生型Rasタンパク質配列と比較して、少なくともひとつの変異を有するRas
タンパク質である。
【0017】
上述の方法のいずれかの方法のある実施形態において、本発明のワクチンは気道(respiratory tract)へと
投与される。別の実施形態においては、非口径の投与経路から、本発明のワクチンが投与
される。さらなる別の実施形態においては、本発明のワクチンは、さらに樹状細胞または
マクロファージを含んでいる。この実施形態では、融合タンパク質を発現する酵母媒体が
、生体外で、樹状細胞またはマクロファージへと送達される。そして、癌抗原を発現する
酵母媒体が含まれる樹状細胞、またはマクロファージが、動物へと投与される。この実施
形態の一態様において、樹状細胞または酵母媒体には、付加的に遊離抗原(free antigen
)が含まれている。
【0018】
ある態様において、上記ワクチンは治療用ワクチンとして投与される。別の態様におい
て、上記ワクチンは、予防的ワクチンとして投与される。ある態様において、上記動物は
、脳腫瘍(brain cancer)、肺癌、乳癌、メラノーマ、および腎臓癌を含む群より選択される癌を有しているか
、または、癌が発生する虞がある。別の態様において、上記動物は癌を有しており、本発
明のワクチンの投与は、上記動物から癌が外科的切除された後に行われる。さらなる別の
態様においては、上記動物は癌を有しており、上記動物の癌の外科的切除の後、および、
骨髄非切除の同種幹細胞移植(non-myeloablative allogeneic stem cell transplantation)
の後に、本発明のワクチンの投与が行われる。さらなる別の態様においては、上記動
物は癌を有しており、上記動物の癌の外科的切除の後、骨髄非切除の同種幹細胞移植の後
、および、ドナーの同種リンパ球の注入の後に、本発明のワクチンの投与が行われる。
【0019】
本発明の別の実施形態は、動物を脳腫瘍または肺癌から守る方法に関する。上記方法に
は、動物において、脳腫瘍または肺癌の少なくともひとつの症状を緩和または予防するた
めに、脳腫瘍または肺癌を有する、または発生される虞のある動物に対して、酵母媒体と
、少なくともひとつの癌抗原とを含むワクチンを、動物の気道へと投与することが含ま
れる。この実施形態において、上記ワクチンには、上述の任意の融合タンパク質、およ
びその他の抗原が含まれていても構わない。ある態様においては、上記ワクチンは、少な
くとも二つまたはそれより多くの癌抗原を含んでいる。別の態様では、上記癌抗原は、少なく
ともひとつまたはそれより多くの癌抗原を含む融合タンパク質である。さらなる別の態様では
、上記癌抗原は、ひとつまたはそれより多くの癌抗原の、免疫原性領域を少なくともひとつま
たはそれより多く含んでいる融合タンパク質である。
【0020】
この実施形態の一態様では、経鼻投与によって、上記ワクチンが投与される。別の態様
では、気管内投与によって、上記ワクチンが投与される。さらなる別の態様では、上記酵
母媒体および上記癌抗原は、生体外で樹状細胞またはマクロファージへと送達され、そし
て、上記酵母媒体および癌抗原を含む樹状細胞またはマクロファージが、動物の気道へ
と投与される。
【0021】
ある態様において、本発明の方法は、多形性神経膠芽腫などの原発性脳腫瘍、または他
の器官からの転移癌を含む(しかし、これに限定されるものではない)、脳腫瘍から動物
を守るものである。別の実施形態においては、本発明の方法は、原発性肺癌(例えば、非
小細胞癌、小細胞癌、腺癌など)、または他の器官からの転移癌を含む(しかし、これに
限定されるものではない)、肺癌から動物を守るものである。ある態様では、本発明のワ
クチンは治療用ワクチンとして投与される。ある態様では、本発明のワクチンは、予防的
ワクチンとして投与される。
【0022】
本発明のさらなる別の実施形態は、動物において、抗原特異的な体液性免疫反応、およ
び、抗原特異的な細胞性免疫反応を誘発する方法に関する。上記方法は、動物に治療用組
成物を投与する工程を含んでおり、上記治療用組成物は、(a)酵母媒体、および(b)
酵母媒体で発現される融合タンパク質、を含んでいる。上記融合タンパク質は、(i)少
なくともひとつの抗原、および(ii)上記抗原のN末端に結合したペプチド、を含んで
いる。上記ペプチドは、上記抗原とは異種の少なくとも二つのアミノ酸残基から構
成されている。上記ペプチドは、酵母媒体における融合タンパク質の発現を安定化させる
か、または、発現した融合タンパク質の翻訳後修飾を防止するものである。
【0023】
上記融合タンパク質には、下記の追加の必要条件がある。すなわち、上記融合タンパク
質の第1位のアミノ酸残基はメチオニンであること、上記融合タンパク質の第2位の
アミノ酸残基はグリシンでもプロリンでもないこと、上記融合タンパク質の第2〜6位
のアミノ酸残基は、いずれもメチオニンではないこと、および、上記融合タンパク質の第
2〜5位のアミノ酸残基は、いずれもリジンでもアルギニンでもないこと、が必要条件
である。本発明のある態様において、上記ペプチドは、少なくとも6つの、上記抗原と異種のアミノ酸残基から構成されている。別の態様において、上記ペプチドは、M−X
−X−X−X−Xというアミノ酸配列を有しており、当該配列において、X
はグリシン、プロリン、リジン、アルギニンを除く任意のアミノ酸、Xはメチオニン
、リジン、アルギニンを除く任意のアミノ酸、Xはメチオニン、リジン、アルギニン
を除く任意のアミノ酸、Xはメチオニン、リジン、アルギニンを除く任意のアミノ
酸、および、Xはメチオニンを除く任意のアミノ酸、であってよい。ある態様におい
て、Xはプロリンである。ある態様において、上記ペプチドはM−A−D−E−A−P
(配列番号1)というアミノ酸配列を含んでいる。本発明のある態様において、上記抗原
は、以下のものを含む群より選択される。すなわち、ウイルス抗原、過剰発現した哺乳動
物の細胞表面分子、細菌性抗原、真菌性抗原、原虫抗原、蠕虫抗原、外寄生体抗原、癌抗
原、ひとつまたはそれより多くの変異アミノ酸を有する哺乳動物細胞分子、哺乳動物細胞で出
生前または新生期に一般的に(normally)発現されるタンパク質、疫学的因子(ウイルスなど)の挿入
により発現が誘導されるタンパク質、遺伝子転座によって発現が誘導されるタンパク質、
および、制御配列の変異によって発現が誘導されるタンパク質を含む群から選択される。
【0024】
本発明の別の実施形態は、上述の方法で利用方法が説明されたワクチンに関する。
【0025】
本発明のさらなる別の実施形態は、動物において、抗原特異的な体液性免疫反応、およ
び、抗原特異的な細胞性免疫反応を誘発する方法に関する。上記方法は、動物に治療用組
成物を投与する工程を含んでおり、上記治療用組成物は、(a)酵母媒体、および(b)
酵母媒体で発現される融合タンパク質、を含んでいる。上記融合タンパク質は、(i)少
なくともひとつの抗原、および(ii)上記抗原のN末端に結合した酵母タンパク質、を
含んでいる。上記酵母タンパク質は、約2〜約200の、酵母の内在性タンパク質のアミ
ノ酸から構成されている。上記酵母タンパク質は、酵母媒体における融合タンパク質の発
現を安定化させるか、または、発現した融合タンパク質の翻訳後修飾を防止するものであ
る。本発明の一態様において、融合タンパク質の同定および精製のために、上記酵母タン
パク質には、抗体エピトープが含まれている。
【0026】
本発明の別の実施形態は、上述の方法で利用方法が説明されたワクチンに関する。
【0027】
本発明のさらなる別の実施形態は、癌を有する患者を治療する方法に関する。上
記方法には、(a)癌を有する患者を、安定した混合骨髄キメリズムの定着に有効
である、骨髄非切除の幹細胞移植により治療する工程であって、上記幹細胞は、同種のド
ナーから提供されるものである工程と、(b)同種のドナーから患者へと提供されたリン
パ球を投与する工程と、(c)工程(b)の後に、酵母媒体および少なくともひとつの癌
抗原を含むワクチンを、患者へと投与する工程と、が含まれる。本発明の一態様において
、上記方法には、工程(a)の前に、同種のドナーへと、酵母媒体および少なくともひと
つの癌抗原を含むワクチンを投与する工程が含まれる。別の実施形態においては、上記方
法には、工程(a)の前に、患者から腫瘍を切除する工程が含まれる。
【0028】
この方法のある態様において、上記ワクチンは、少なくとも二つまたはそれより多くの癌抗
原を含んでいる。別の態様では、上記癌抗原は、ひとつまたはそれより多くの癌抗原を含む融
合タンパク質である。さらなる別の態様では、上記癌抗原は、ひとつまたはそれより多くの癌
抗原の、免疫原性領域をひとつまたはそれより多く含んでいる融合タンパク質である。別の態
様において、癌抗原は、以下のような複数の領域を含む融合タンパク質構造物より構成さ
れる。上記複数の領域の各領域は、腫瘍性タンパク質由来のペプチドより構成されている
。上記ペプチドは、上記腫瘍性タンパク質に見られる、造腫瘍性に関連する変異に関わる
変異アミノ酸とその両側のアミノ酸とを含む、少なくとも4アミノ酸残基を備えている。
【0029】
別の態様において、酵母媒体は、融合タンパク質である癌抗原を発現している。なお、
上記融合タンパク質は、(a)少なくともひとつの癌抗原、および(b)上記癌抗原のN
末端に結合したペプチドを含んでいる。なお、上記ペプチドは、上記癌抗原とは異種の、
少なくとも二つのアミノ酸残基から構成されている。また、上記ペプチドは、酵母媒
体における融合タンパク質の発現を安定化させるか、または、発現した融合タンパク質の
翻訳後修飾を防止するものである。また、上記融合タンパク質の第1位のアミノ酸残基
はメチオニンであり、上記融合タンパク質の第2位のアミノ酸残基はグリシンでもプロ
リンでもなく、上記融合タンパク質の第2〜6位のアミノ酸残基は、いずれもメチオニ
ンではなく、上記融合タンパク質の第2〜5位のアミノ酸残基は、いずれもリジンでも
アルギニンでもない。別の一態様において、酵母媒体は融合タンパク質である癌抗原を発
現している。なお、上記融合タンパク質は、(a)少なくともひとつの癌抗原、および(
b)上記癌抗原のN末端に結合した酵母タンパク質、を含んでいる。なお、上記酵母タン
パク質は、約2〜約200の、酵母のタンパク質に内在性のアミノ酸から構成されている
。また、上記酵母タンパク質は、酵母媒体における融合タンパク質の発現を安定化させる
か、または、発現した融合タンパク質の翻訳後修飾を防止するものである。
【0030】
この実施形態の一態様では、経鼻投与によって、上記ワクチンが投与される。別の態様
では、非経口投与によって、上記ワクチンが投与される。別の態様では、上記酵母媒体お
よび上記癌抗原は、生体外で樹状細胞またはマクロファージへと送達され、そして、上記
酵母媒体および癌抗原を含む樹状細胞またはマクロファージが、動物の気道へと投与さ
れる。
【0031】
上述の、本発明の任意の方法および組成物においては、本発明には、酵母媒体に関す
る以下のような特徴が含まれている。本発明のある実施形態において、酵母媒体は、酵母全体、酵母スフェロプラスト、酵母細胞質体、酵母形骸、および酵母亜細胞膜抽出物または
その画分、を含む群より選択される。本発明の一態様において、酵母媒体の調製に用いら
れる酵母細胞または酵母スフェロプラストには、抗原をコードする組換え核酸分子が形質
転換されており、その結果、酵母細胞または酵母スフェロプラストにより抗原が組換え技
術的(recombinantly)に発現される。この態様において、組換え技術的に抗原を発現す
る酵母細胞または酵母スフェロプラストは、酵母細胞質体、酵母形骸、および酵母亜細胞
膜抽出物またはその画分、を含む酵母媒体の作成に使用される。本発明の一態様において
、酵母媒体は非病原性の酵母由来である。別の態様において、酵母媒体は、Saccha
romyce属、Schizosaccharomyce属、Kluveromyce属
、Hansenula属、Candida属、およびPichia属を含む群より選択さ
れた酵母由来である。本発明の一態様において、Saccharomyce属は、S.c
erevisiaeである。
【0032】
一般的に、酵母媒体および抗原は、本明細書に示されているどのような技法を用いて組
み合わせられても良い。本発明の一態様においては、酵母媒体の細胞内に、癌抗原が充填
される。別の態様において、癌抗原は、共有結合または非共有結合によって酵母媒体へと
付着される。さらなる別の態様において、酵母媒体および癌抗原は、攪拌することによっ
て組み合わせられる。別の態様において、抗原は、酵母媒体によって、もしくは、酵母媒
体が得られる酵母細胞または酵母スフェロプラストによって、組換え技術的に発現される。
本発明の好ましい実施形態では、例えば以下が提供される:
(項目1)
動物を癌から守る方法であって、癌を有する動物、または癌を発生
させる虞のある動物に対して、ワクチンを投与することにより、当該動物における癌の少なくともひとつの症状を緩和または予防することを含む方法であって、
上記ワクチンは、
(a)酵母媒体と、
(b)上記酵母媒体によって発現される融合タンパク質とを含み、
上記融合タンパク質は、
(i)少なくともひとつの癌抗原と、
(ii)上記癌抗原のN末端に結合したペプチドとを含み、
上記ペプチドは、上記癌抗原とは異種の少なくとも二つのアミノ酸残基から構成
されており、
また、上記ペプチドは、上記酵母媒体における上記融合タンパク質の発現を安定化させ
るものであるか、または、発現した上記融合タンパク質の翻訳後修飾を防止するものであ
り、
上記融合タンパク質の第1位のアミノ酸残基は、メチオニンであり、
上記融合タンパク質の第2位のアミノ酸残基は、グリシンでもプロリンでもなく、
上記融合タンパク質の第2〜6位のアミノ酸残基は、いずれもメチオニンではなく、
上記融合タンパク質の第2〜5位のアミノ酸残基は、いずれもリジンでもアルギニン
でもないことを特徴とする動物を癌から守る方法。
(項目2)
上記ペプチドは、少なくとも2〜6つの、上記癌抗原とは異種のアミノ酸残基から
構成されていることを特徴とする項目1に記載の方法。
(項目3)
上記ペプチドは、M−X−X−X−X−Xというアミノ酸配列を有しており、
上記配列において、
は、グリシン、プロリン、リジン、アルギニンを除く任意のアミノ酸であり、
は、メチオニン、リジン、アルギニンを除く任意のアミノ酸であり、
は、メチオニン、リジン、アルギニンを除く任意のアミノ酸であり、
は、メチオニン、リジン、アルギニンを除く任意のアミノ酸であり、
は、メチオニンを除く任意のアミノ酸であることを特徴とする項目1に記載の
方法。
(項目4)
はプロリンであることを特徴とする項目3に記載の方法。
(項目5)
上記ペプチドは、M−A−D−E−A−P(配列番号1)というアミノ酸配列を含んで
いることを特徴とする項目1に記載の方法。
(項目6)
動物を癌から守る方法であって、癌を有する動物、または癌を発生
させる虞のある動物に対して、ワクチンを投与することにより、当該動物における癌
の少なくともひとつの症状を緩和または予防することを含む方法であって、
上記ワクチンは、
(a)酵母媒体と、
(b)上記酵母媒体によって発現される融合タンパク質とを含み、
上記融合タンパク質は、
(i)少なくともひとつの癌抗原と、
(ii)上記癌抗原のN末端に結合した酵母タンパク質を含んでおり、
上記酵母タンパク質は、約2〜約200の、酵母の内在性タンパク質のアミノ酸から構
成されており、
また、上記酵母タンパク質は、上記酵母媒体における上記融合タンパク質の発現を安定
化させるものであるか、または、発現した上記融合タンパク質の翻訳後修飾を防止するも
のであることを特徴とする動物を癌から守る方法。
(項目7)
上記酵母タンパク質は、上記融合タンパク質の同定および精製を行うための抗体エピト
ープを含んでいることを特徴とする項目6に記載の方法。
(項目8)
上記融合タンパク質には、少なくとも二つまたはそれより多くの癌抗原が含まれていること
を特徴とする項目1または6に記載の方法。
(項目9)
上記融合タンパク質には、ひとつまたはそれより多くの癌抗原の免疫原性領域が少なくとも
ひとつまたはそれより多く含まれていることを特徴とする項目1または6に記載の方法。
(項目10)
上記癌抗原は、メラノーマ、扁平上皮癌、乳癌、頭頚部癌、甲状腺癌、軟部組織肉腫、骨肉
腫、精巣癌、前立腺癌、卵巣癌、膀胱癌、皮膚癌、脳腫瘍、脈管腫、血管肉腫、肥胖細胞
腫、原発性肝癌、肺癌、膵臓癌、消化器癌、腎細胞癌、造血性腫瘍形成、および、これら
の転移癌、を含む群より選択される癌に関連した抗原であることを特徴とする請求
項1または6に記載の方法。
(項目11)
上記癌抗原は、ras遺伝子によりコードされた野生型または変異型のタンパク質であ
ることを特徴とする項目1または6に記載の方法。
(項目12)
上記癌抗原は、K−ras、N−ras、H−ras遺伝子を含む群より選択されたr
as遺伝子によってコードされている、野生型または変異型のタンパク質であることを特
徴とする項目11に記載の方法。
(項目13)
上記ras遺伝子は、ひとつまたは複数の変異を有するRasタンパク質をコードして
いることを特徴とする項目11に記載の方法。
(項目14)
上記癌抗原は、野生型Rasタンパク質の、少なくとも5〜9つの連続したアミノ酸残
基の断片を含んでおり、
上記断片は、野生型Rasタンパク質の第12、13、59、61位に相当するアミ
ノ酸残基のいずれかを含んでおり、
また、上記第12、13、59、61位のアミノ酸残基は、野生型Rasタンパク質
から変異していることを特徴とする項目1または6に記載の方法。
(項目15)
上記癌抗原は、複数の領域を含む融合タンパク質構造物より構成されており、
上記複数の領域のそれぞれは、腫瘍性タンパク質由来のペプチドより構成されており、
上記ペプチドは、上記腫瘍性タンパク質に見られる変異アミノ酸とその両側のアミノ酸
とを含む、少なくとも4アミノ酸残基を備えており、
上記変異は、造腫瘍性に関連するものであることを特徴とする項目1または6に記載
の方法。
(項目16)
上記融合タンパク質構造物は、他の変異した癌抗原とフレームを合わせて融合した、少
なくともひとつのペプチドから構成されており、
上記ペプチドは、
(a)少なくとも配列番号3の配列の第8〜16位の配列を含んでおり、配列番号3
の配列の第12位に相当するアミノ酸残基が、配列番号3の配列と比較して変異してい
るペプチドと、
(b)少なくとも、配列番号3の配列の第9〜17位の配列を含んでおり、配列番号
3の配列の第13位に相当するアミノ酸残基が、配列番号3の配列と比較して変異して
いるペプチドと、
(c)少なくとも、配列番号3の配列の第55〜63位の配列を含んでおり、配列番
号3の配列の第59位に相当するアミノ酸残基が、配列番号3の配列と比較して変異し
ているペプチドと、
(d)少なくとも、配列番号3の配列の第57〜65位の配列を含んでおり、配列番
号3の配列の第61位に相当するアミノ酸残基が、配列番号3の配列と比較して変異し
ているペプチドと、を含む群より選択されることを特徴とする項目15に記載の方法。
(項目17)
上記変異した癌抗原は、野生型Rasタンパク質の配列と比較して、少なくともひとつ
の変異を有するRasタンパク質であることを特徴とする項目16に記載の方法。
(項目18)
上記酵母媒体は、酵母全体、酵母スフェロプラスト、酵母細胞質体、酵母形骸、酵母亜細
胞膜抽出物またはその画分、を含む群より選択されることを特徴とする項目1または6
に記載の方法。
(項目19)
上記酵母媒体の調製に用いられる酵母細胞または酵母スフェロプラストは、上記癌抗原
をコードする組換え核酸分子によって形質転換されており、その結果、上記酵母細胞また
は上記酵母スフェロプラストによって、上記癌抗原が組換え技術的に発現されることを特
徴とする項目1または6に記載の方法。
(項目20)
上記組換え癌抗原を発現する上記酵母細胞または上記酵母スフェロプラストは、酵母細
胞質体、酵母形骸、酵母亜細胞膜抽出物またはその画分、を含む酵母媒体の作成に利用さ
れることを特徴とする項目19に記載の方法。
(項目21)
上記酵母媒体は非病原性の酵母由来であることを特徴とする項目1または6に記載の
方法。
(項目22)
上記酵母媒体は、Saccharomyce属、Schizosaccharomyce属、Kluveromyce属、
Hansenula属、Candida属、Pichia属を含む群より選択された酵母由来のものであることを特徴とする項目1または6
に記載の方法。
(項目23)
Saccharomyce属は、S.cerevisiaeであることを特徴とする項目1または6に記載の方法。
(項目24)
上記ワクチンは、呼吸管へと投与されることを特徴とする項目1または6に記載の方
法。
(項目25)
上記ワクチンは、非経口の投与経路から投与されることを特徴とする項目1または6
に記載の方法。
(項目26)
上記ワクチンは、さらに、樹状細胞またはマクロファージを含んでおり、
上記融合タンパク質を発現する上記酵母媒体は、生体外で、上記樹状細胞または上記マ
クロファージへと送達され、
上記癌抗原を発現する上記酵母媒体を含有する、上記樹状細胞または上記マクロファー
ジは、上記動物へと投与されることを特徴とする項目1または6に記載の方法。
(項目27)
上記樹状細胞または上記酵母媒体には、付加的に遊離抗原が含まれていることを特徴と
する項目26に記載の方法。
(項目28)
上記ワクチンは、治療用ワクチンとして投与されることを特徴とする項目1または6
に記載の方法。
(項目29)
上記ワクチンは、予防的ワクチンとして投与されることを特徴とする項目1または6
に記載の方法。
(項目30)
上記動物は、脳腫瘍、肺癌、乳癌、メラノーマ、および腎臓癌を含む群より選択される癌を
有しているか、上記癌を発生する虞があるものであることを特徴とする項目1または6
に記載の方法。
(項目31)
上記動物は癌を有しており、上記ワクチンの投与は、上記動物から癌が外科的切除され
た後に行われることを特徴とする項目1または6に記載の方法。
(項目32)
上記動物は癌を有しており、上記ワクチンの投与は、上記動物の癌の外科的切除の後、
および、骨髄非切除の同種幹細胞移植の後に行われることを特徴とする項目1または6
に記載の方法。
(項目33)
上記動物は癌を有しており、上記ワクチンの投与は、上記動物の癌の外科的切除の後、
骨髄非切除の同種幹細胞移植の後、および、同種ドナーのリンパ球の注入の後に行われる
ことを特徴とする項目1または6に記載の方法。
(項目34)
動物を脳腫瘍または肺癌から守る方法であって、脳腫瘍または肺癌を有する動物、また
は、脳腫瘍または肺癌を発生させる虞のある動物に対して、酵母媒体と、少なくともひと
つの癌抗原とを含むワクチンを上記動物の呼吸管へ投与し、当該動物において、脳腫瘍ま
たは肺癌の少なくともひとつの症状を緩和または予防することを含むことを特徴とする動
物を脳腫瘍または肺癌から守る方法。
(項目35)
上記ワクチンは、少なくとも二つまたはそれより多くの癌抗原を含んでいることを特徴とす
る項目34に記載の方法。
(項目36)
上記癌抗原は、少なくともひとつまたはそれより多くの癌抗原を含む融合タンパク質である
ことを特徴とする項目34に記載の方法。
(項目37)
上記癌抗原は、ひとつより多くの癌抗原の、免疫原性領域を少なくともひとつより多く含む融合
タンパク質であることを特徴とする項目34に記載の方法。
(項目38)
上記癌抗原は、複数の領域を含む融合タンパク質構造物より構成されており、
上記複数の領域のそれぞれは、腫瘍性タンパク質由来のペプチドより構成されており、
上記ペプチドは、上記腫瘍性タンパク質に見られる変異アミノ酸とその両側のアミノ酸
と含む、少なくとも4アミノ酸残基を備えており、
上記変異は、造腫瘍性に関連するものであることを特徴とする項目34に記載の方法

(項目39)
上記酵母媒体は、融合タンパク質である癌抗原を発現しており、
上記融合タンパク質は、
(a)少なくともひとつの癌抗原と、
(b)上記癌抗原のN末端に結合したペプチドとを含んでおり、
上記ペプチドは、上記癌抗原とは異種の少なくとも二つのアミノ酸残基から構成
されており、
また、上記ペプチドは、上記酵母媒体における上記融合タンパク質の発現を安定化させ
るものであるか、または、発現した融合タンパク質の翻訳後修飾を防止するものであり、
上記融合タンパク質の第1位のアミノ酸残基は、メチオニンであり、
上記融合タンパク質の第2位のアミノ酸残基は、グリシンでもプロリンでもなく、
上記融合タンパク質の第2〜6位のアミノ酸残基は、いずれもメチオニンではなく、
上記融合タンパク質の第2〜5位のアミノ酸残基は、いずれもリジンでもアルギニン
でもないことを特徴とする項目34に記載の方法。
(項目40)
上記酵母媒体は融合タンパク質である上記癌抗原を発現しており、
上記融合タンパク質は、
(a)少なくともひとつの癌抗原と、
(b)上記癌抗原のN末端に結合した酵母タンパク質とを含んでおり、
上記酵母タンパク質は、約2〜約200の、内在性の酵母タンパク質のアミノ酸から構
成されており、
上記酵母タンパク質は、上記酵母媒体における上記融合タンパク質の発現を安定化させ
るものであるか、または、発現した上記融合タンパク質の翻訳後修飾を防止するものであ
ることを特徴とする項目34に記載の方法。
(項目41)
上記酵母媒体は、酵母全体、酵母スフェロプラスト、酵母細胞質体、酵母形骸、酵母亜細
胞膜抽出物またはその画分、を含む群より選択されることを特徴とする項目34に記載
の方法。
(項目42)
上記酵母媒体の調製に用いられる、酵母細胞または酵母スフェロプラストは、上記癌抗
原をコードする組換え核酸分子によって形質転換されており、その結果、上記酵母細胞ま
たは上記酵母スフェロプラストによって、上記癌抗原が組換え技術的に発現されることを
特徴とする項目34に記載の方法。
(項目43)
組換え技術によって上記癌抗原を発現する上記酵母細胞または上記酵母スフェロプラス
トは、酵母細胞質体、酵母形骸、酵母亜細胞膜抽出物またはその画分、を含む酵母媒体の
作成に利用されることを特徴とする項目42に記載の方法。
(項目44)
上記酵母媒体の細胞内に、上記癌抗原が充填されることを特徴とする項目34に記載
の方法。
(項目45)
上記癌抗原は、共有結合または非共有結合によって上記酵母媒体へと付着されることを
特徴とする項目34に記載の方法。
(項目46)
上記酵母媒体および上記癌抗原は、攪拌されることによって組み合わせられることを特
徴とする項目34に記載の方法。
(項目47)
上記ワクチンは、経鼻投与によって投与されることを特徴とする項目34に記載の方
法。
(項目48)
上記ワクチンは、気管内投与によって投与されることを特徴とする項目34に記載の
方法。
(項目49)
上記酵母媒体および上記癌抗原は、生体外で樹状細胞またはマクロファージへと送達さ
れ、
上記酵母媒体および上記癌抗原を含む上記樹状細胞または上記マクロファージは、上記
動物の呼吸管へと投与されることを特徴とする項目34に記載の方法。
(項目50)
上記動物を脳腫瘍から守ることを特徴とする項目34に記載の方法。
(項目51)
上記脳腫瘍は、原発性の脳腫瘍であることを特徴とする項目50に記載の方法。
(項目52)
上記脳腫瘍は、多形性神経膠芽腫であることを特徴とする項目50に記載の方法。
(項目53)
上記脳腫瘍は、異なる器官からの転移癌であることを特徴とする項目50に記載の方
法。
(項目54)
上記動物を肺癌から守ることを特徴とする項目34に記載の方法。
(項目55)
上記肺癌は、原発性の肺癌であることを特徴とする項目54に記載の方法。
(項目56)
上記肺癌は、非小細胞癌、小細胞癌、腺癌を含む群から選択されることを特徴とする請
求項54に記載の方法。
(項目57)
上記肺癌は、異なる器官からの転移癌であることを特徴とする項目54に記載の方法

(項目58)
上記ワクチンは、治療用ワクチンとして投与されることを特徴とする項目34に記載
の方法。
(項目59)
上記ワクチンは、予防的ワクチンとして投与されることを特徴とする項目34に記載
の方法。
(項目60)
上記酵母媒体は、非病原性の酵母由来であることを特徴とする項目34に記載の方法

(項目61)
上記酵母媒体は、Saccharomyce属、Schizosaccharomyce属、Kluveromyce属、
Hansenula属、Candida属、Pichia属を含む群より選択された酵母由来であることを特徴とする項目34に記載の方法。
(項目62)
Saccharomyce属は、S.cerevisiaeであることを特徴とする項目34に記載の方法。
(項目63)
動物において、抗原特異的体液性免疫反応および抗原特異的細胞性免疫反応を誘発する
方法であって、上記方法には、上記動物に対して、治療用組成物を投与することが含まれ
ており、
上記治療用組成物には、
(a)酵母媒体と、
(b)上記酵母媒体によって発現される融合タンパク質とが含まれており、
上記融合タンパク質には、
(i)少なくともひとつの癌抗原と、
(ii)上記癌抗原のN末端に結合したペプチドとが含まれており、
上記ペプチドは、上記癌抗原とは異種の少なくとも二つのアミノ酸残基から構成
されており、
上記ペプチドは、上記酵母媒体における上記融合タンパク質の発現を安定化させるもの
であるか、または、発現した上記融合タンパク質の翻訳後修飾を防止するものであり、
上記融合タンパク質の第1位のアミノ酸残基は、メチオニンであり、
上記融合タンパク質の第2位のアミノ酸残基は、グリシンでもプロリンでもなく、
上記融合タンパク質の第2〜6位のアミノ酸残基は、いずれもメチオニンではなく、
上記融合タンパク質の第2〜5位のアミノ酸残基は、いずれもリジンでもアルギニン
でもないことを特徴とする動物において抗原特異的体液性免疫反応および抗原特異的細胞
性免疫反応を誘発する方法。
(項目64)
上記ペプチドは、少なくとも6つの、上記癌抗原とは異種のアミノ酸残基から構成
されていることを特徴とする項目63に記載の方法。
(項目65)
上記ペプチドは、M−X−X−X−X−Xというアミノ酸配列を有しており、
上記配列において、
は、グリシン、プロリン、リジン、アルギニンを除く任意のアミノ酸であり、
は、メチオニン、リジン、アルギニンを除く任意のアミノ酸であり、
は、メチオニン、リジン、アルギニンを除く任意のアミノ酸であり、
は、メチオニン、リジン、アルギニンを除く任意のアミノ酸であり、
は、メチオニンを除く任意のアミノ酸であることを特徴とする項目63に記載
の方法。
(項目66)
は、プロリンであることを特徴とする項目65に記載の方法。
(項目67)
上記ペプチドは、M−A−D−E−A−P(配列番号1)というアミノ酸配列を含んで
いることを特徴とする項目63に記載の方法。
(項目68)
上記抗原は、ウイルス抗原、過剰発現した哺乳動物の細胞表面分子、細菌性抗原、真菌
性抗原、原虫抗原、蠕虫抗原、外寄生体抗原、癌抗原、ひとつまたはそれより多くの変異アミ
ノ酸を有する哺乳動物細胞分子、哺乳動物細胞で出生前または新生期に一般的に発現され
るタンパク質、疫学的因子(ウイルスなど)の挿入により発現が誘導されるタンパク質、
遺伝子転座によって発現が誘導されるタンパク質、制御配列の変異によって発現が誘導さ
れるタンパク質、を含む群から選択されることを特徴とする項目63に記載の方法。
(項目69)
動物において、抗原特異的体液性免疫反応および抗原特異的細胞性免疫反応を誘発する
方法であって、上記方法には、上記動物に対して、治療用組成物を投与することが含まれ
ており、
上記治療用組成物は、
(a)酵母媒体と、
(b)上記酵母媒体で発現される融合タンパク質とを含んでおり、
上記融合タンパク質は、
(i)少なくともひとつの抗原と、
(ii)上記抗原のN末端に結合した酵母タンパク質とを含んでおり、
上記酵母タンパク質は、約2〜約200の、内在性の酵母タンパク質のアミノ酸から構
成されており、
上記酵母タンパク質は、上記酵母媒体における上記融合タンパク質の発現を安定化させ
るものであるか、または、発現した上記融合タンパク質の翻訳後修飾を防止するものであ
ることを特徴とする動物において抗原特異的体液性免疫反応および抗原特異的細胞性免疫
反応を誘発する方法。
(項目70)
上記酵母タンパク質には、上記融合タンパク質の同定および精製を行うための抗体エピ
トープが含まれていることを特徴とする項目69に記載の方法。
(項目71)
ワクチンであって、
上記ワクチンには、
(a)酵母媒体と、
(b)上記酵母媒体によって発現される融合タンパク質とが含まれており、
上記融合タンパク質には、
(i)少なくともひとつの癌抗原と、
(ii)上記癌抗原のN末端に結合したペプチドとが含まれており、
上記ペプチドは、上記癌抗原とは異種の少なくとも二つのアミノ酸残基から構成
されており、
上記ペプチドは、上記酵母媒体における上記融合タンパク質の発現を安定化させるもの
であるか、または、発現した上記融合タンパク質の翻訳後修飾を防止するものであり、
上記融合タンパク質の第1位のアミノ酸残基は、メチオニンであり、
上記融合タンパク質の第2位のアミノ酸残基は、グリシンでもプロリンでもなく、
上記融合タンパク質の第2〜6位のアミノ酸残基は、いずれもメチオニンではなく、
上記融合タンパク質の第2〜5位のアミノ酸残基は、いずれもリジンでもアルギニン
でもないことを特徴とするワクチン。
(項目72)
上記ペプチドは、少なくとも6つの、上記癌抗原とは異種のアミノ酸残基から構成
されていることを特徴とする項目71に記載のワクチン。
(項目73)
上記ペプチドは、M−X−X−X−X−Xというアミノ酸配列を有しており

上記配列において、
は、グリシン、プロリン、リジン、アルギニンを除く任意のアミノ酸であり、
は、メチオニン、リジン、アルギニンを除く任意のアミノ酸であり、
は、メチオニン、リジン、アルギニンを除く任意のアミノ酸であり、
は、メチオニン、リジン、アルギニンを除く任意のアミノ酸であり、
は、メチオニンを除く任意のアミノ酸であることを特徴とする項目71に記載
のワクチン。
(項目74)
は、プロリンであることを特徴とする項目73に記載のワクチン。
(項目75)
上記ペプチドは、M−A−D−E−A−P(配列番号1)というアミノ酸配列を含んで
いることを特徴とする項目73に記載のワクチン。
(項目76)
上記抗原は、ウイルス抗原、哺乳動物の細胞表面分子、細菌性抗原、真菌性抗原、原虫
抗原、蠕虫抗原、外寄生体抗原、癌抗原、ひとつまたはそれより多くの変異アミノ酸を有する
哺乳動物細胞分子、哺乳動物細胞で出生前または新生期に一般的に発現されるタンパク質
、疫学的因子(ウイルスなど)の挿入により発現が誘導されるタンパク質、遺伝子転座に
よって発現が誘導されるタンパク質、制御配列の変異によって発現が誘導されるタンパク
質、を含む群から選択されることを特徴とする項目73に記載のワクチン。
(項目77)
上記抗原は、癌抗原であることを特徴とする項目73に記載のワクチン。
(項目78)
ワクチンであって、
(a)酵母媒体と、
(b)上記酵母媒体で発現される融合タンパク質とを含んでおり、
上記融合タンパク質は、
(i)少なくともひとつの癌抗原と、
(ii)上記癌抗原のN末端に結合した酵母タンパク質とを含んでおり、
上記酵母タンパク質は、約2〜約200の、内在性酵母タンパク質のアミノ酸から構成
されており、
上記ペプチドは、上記酵母媒体における上記融合タンパク質の発現を安定化させるもの
であるか、または、発現した上記融合タンパク質の翻訳後修飾を防止するものであること
を特徴とするワクチン。
(項目79)
上記酵母タンパク質には、上記融合タンパク質の同定および精製を行うための抗体エピ
トープが含まれていることを特徴とする項目78に記載のワクチン。
(項目80)
癌を有する患者を治療する方法であって、
上記方法には、
(a)癌を有する患者を、安定した混合骨髄キメリズムの定着に有効である、骨
髄非切除の幹細胞移植により、同種のドナーから提供される幹細胞を用いて治療する工程
と、
(b)同種のドナーから得られたリンパ球を上記患者に投与する工程と、
(c)工程(b)の後に、酵母媒体と少なくともひとつの癌抗原とを含むワクチンを、
上記患者に投与する工程と、が含まれることを特徴とする癌を有する患者を治療す
る方法。
(項目81)
上記工程(a)の前に、上記同種のドナーに、酵母媒体と少なくともひとつの癌抗原と
を含むワクチンを投与する工程をさらに含むことを特徴とする項目80に記載の方法。
(項目82)
上記工程(a)を行う前に、上記患者から腫瘍を除去する工程を含むことを特徴とする
項目80に記載の方法。
(項目83)
上記ワクチンは、少なくとも二つまたはそれより多くの癌抗原を含んでいることを特徴とす
る項目80に記載の方法。
(項目84)
上記癌抗原は、ひとつまたはそれより多くの癌抗原を含む融合タンパク質であることを特徴
とする項目80に記載の方法。
(項目85)
上記癌抗原は、ひとつまたはそれより多くの癌抗原の免疫原性領域をひとつまたはそれより多く
含む融合タンパク質であることを特徴とする項目80に記載の方法。
(項目86)
上記癌抗原は、複数の領域を含む融合タンパク質構造物より構成されており、
上記複数の領域のそれぞれは、腫瘍性タンパク質由来のペプチドより構成されており、
上記ペプチドは、上記腫瘍性タンパク質に見られる変異アミノ酸とその両側のアミノ酸
と含む、少なくとも4アミノ酸残基を備えており、
上記変異は、造腫瘍性に関連するものであることを特徴とする項目80に記載の方法。
(項目87)
上記酵母媒体は、融合タンパク質である癌抗原を発現しており、
上記融合タンパク質は、
(a)少なくともひとつの癌抗原と、
(b)上記癌抗原のN末端に結合したペプチドとを含んでおり、
上記ペプチドは、上記癌抗原とは異種の少なくとも二つのアミノ酸残基から構成
されており、
上記ペプチドは、上記酵母媒体における上記融合タンパク質の発現を安定化させるもの
であるか、または、発現した上記融合タンパク質の翻訳後修飾を防止するものであり、
上記融合タンパク質の第1位のアミノ酸残基は、メチオニンであり、
上記融合タンパク質の第2位のアミノ酸残基は、グリシンでもプロリンでもなく、
上記融合タンパク質の第2〜6位のアミノ酸残基は、いずれもメチオニンではなく、
上記融合タンパク質の第2〜5位のアミノ酸残基は、いずれもリジンでもアルギニン
でもないことを特徴とする項目80に記載の方法。
(項目88)
上記酵母媒体は融合タンパク質である上記癌抗原を発現しており、
上記融合タンパク質は、
(a)少なくともひとつの癌抗原と、
(b)上記癌抗原のN末端に結合した酵母タンパク質とを含んでおり、
上記酵母タンパク質は、約2〜約200の、内在性酵母タンパク質のアミノ酸から構成
されており、
上記酵母タンパク質は、上記酵母媒体における上記融合タンパク質の発現を安定化させ
るものであるか、または、発現した上記融合タンパク質の翻訳後修飾を防止するものであ
ることを特徴とする項目80に記載の方法。
(項目89)
上記酵母媒体は、酵母全体、酵母スフェロプラスト、酵母細胞質体、酵母形骸、酵母亜細
胞膜抽出物またはその画分、を含む群より選択されることを特徴とする項目80に記載
の方法。
(項目90)
上記酵母媒体の調製に用いられる酵母細胞または酵母スフェロプラストは、癌抗原をコ
ードする組換え核酸分子によって形質転換されており、その結果、上記酵母細胞または上
記酵母スフェロプラストにより、上記癌抗原が組換え技術的に発現されることを特徴とす
る項目80に記載の方法。
(項目91)
組換え技術によって上記癌抗原を発現する上記酵母細胞または上記酵母スフェロプラス
トは、酵母細胞質体、酵母形骸、酵母亜細胞膜抽出物またはその画分、を含む酵母媒体の
作成に利用されることを特徴とする項目90に記載の方法。
(項目92)
上記酵母媒体の細胞内に、上記癌抗原が充填されることを特徴とする項目80に記載
の方法。
(項目93)
上記癌抗原は、共有結合または非共有結合によって上記酵母媒体へと付着されているこ
とを特徴とする項目80に記載の方法。
(項目94)
上記酵母媒体および上記癌抗原は、攪拌されることによって組み合わせられることを特
徴とする項目80に記載の方法。
(項目95)
上記ワクチンは、経鼻投与によって投与されることを特徴とする項目80に記載の方
法。
(項目96)
上記ワクチンは、非経口投与によって投与されることを特徴とする項目80に記載の
方法。
(項目97)
上記酵母媒体および上記癌抗原は、生体外で樹状細胞またはマクロファージへと送達さ
れ、上記酵母媒体および癌抗原を含む上記樹状細胞または上記マクロファージが、上記動
物の呼吸管へと投与されることを特徴とする項目80に記載の方法。
(項目98)
上記酵母媒体は非病原性の酵母由来であることを特徴とする項目80に記載の方法。
(項目99)
上記酵母媒体は、Saccharomyce属、Schizosaccharomyce属、Kluveromyce属、
Hansenula属、Candida属、Pichia属を含む群より選択された酵母由来であることを特徴とする項目80に記載の方法。
(項目100)
Saccharomyce属は、S.cerevisiaeであることを特徴とする項目80に記載の方法。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】図1は、酵母ベースのRas61ーVAXワクチンが、生体内において、既存のウレタン誘導性肺腫瘍を制御していることを示す棒グラフである。
【図2】図2は、酵母ベースのRasVーVAXワクチンが、皮下または鼻腔内経路から投与されたときに、肺腫瘍の成長を阻害する特定のタンパク質を提供していることを示す棒グラフである。
【図3】図3は、Gagを発現した酵母ベースのワクチンが、鼻腔内経路から投与されると頭蓋内腫瘍から保護するが、皮下経路による投与ではこの限りではないことを示す棒グラフである。
【図4】図4は、EGFR(EGFR−tm VAX)を発現している酵母ベースのワクチンが、皮下または鼻腔内経路から投与されたときに、EGFRを発現している頭蓋内腫瘍の攻撃から保護することを示す、生存性のグラフである。
【図5】図5は、骨髄非切除の同種幹細胞移植と連携して、乳癌抗原を発現した酵母ベースのワクチンを使用することで、腫瘍の攻撃から保護されることを示す棒グラフである。
【図6】図6は、メラノーマ抗原を発現した酵母ベースのワクチンが、抗原を発現したメラノーマ腫瘍の攻撃から保護することを示した棒グラフである。
【図7】図7は、本発明の酵母ベースのワクチンに利用される、様々な変異Ras融合タンパク質の構造を概略的に示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
本発明は、概して、免疫療法で治療可能な種々の疾病および病状を、治療および/また
は予防する組成物および方法に関する。また、ある特定の実施形態においては、本発明は
、概して、動物の癌を治療および/または予防する組成物および方法に関する。本
発明には、酵母媒体および抗原を含む、酵母ベースのワクチンを使用することが含まれる
。上記抗原は、動物において抗原特異的な細胞性および体液性免疫を誘発するものが選択
される。また、上記ワクチンは予防的および/または治療的なワクチン接種、ならびに、
種々の疾病および病状の予防および/または治療に、使用される。特に、本発明の発明者
らは、生体内において、肺癌、脳腫瘍、乳癌、および腎臓癌を含む種々の形態の癌の、悪
性腫瘍を減少させるために、酵母ベースのワクチンを利用する方法を本明細書に示してい
る。また、本明細書には、癌の治療に使用できるだけでなく、その他の様々な免疫療法学
的方法および組成物に応用が可能な、酵母ベースのワクチンに改良することについても記
されている。
【0035】
本発明の発明者らは、以前に、細胞傷害性T細胞(CTL)反応を含む、細胞性免疫を
誘発するワクチン技術を公開している。上記のワクチン技術には、酵母およびその派生物
をワクチン媒介体として使用することが含まれている。また、上記技術においては、抗原
に対する免疫反応を誘発するように、上記酵母には、関連抗原を発現するように、遺伝子
操作がなされているか、または、関連抗原が充填されている。一般的には、米国特許第5
830463号に、上記技術の説明がなされている。また、上記特許文献の内容を、参考
文献として、本明細書に盛り込んである。
【0036】
本発明は、米国特許第5830463号に記載の従来の酵母ワクチン技術を利用し、酵
母媒体、選択された癌抗原を用いて癌を縮小させる方法に、具体的な改良を加えるもので
ある。また、本発明は、安定性が向上した新規タンパク質を含む新しい酵母媒体と共に、
その免疫反応の誘発が治療学的利点を有すると思われる、任意の疾病および病状を治療
するために、新規の酵母ワクチンを利用する方法が提供される。同時係属中(copending
)の米国特許出願書類第09/991363号にも、本発明の種々の実施例において使用
することができる、酵母ワクチンの一般的な説明がなされており、当該特許文献の内容を
、参考文献として本明細書に盛り込んである。
【0037】
特に、発明者らは、以下のことを発見した。すなわち、末梢の腫瘍を破壊するために、
免疫化の様々な経路が一様に有効である可能性もあるが、本発明に用いられる酵母ベース
のワクチンは、肺に特異的であると思われる、エフェクター細胞を刺激できることを発見
した。従って、その他の投与経路もまた効果的であるが、気道(例えば、経鼻投与、吸
入、気管内投与など)を通して酵母ワクチンを投与することで、試験を行った限りでは、
その他の投与経路では達成できない、思いの外に強力な免疫反応および抗腫瘍効果を提供
することができる。
【0038】
特に、本発明の発明者らは、酵母ワクチンを末梢に投与するよりも、気道へと投与す
ることの方が、肺癌の腫瘍をより一層縮小することを発見した。さらに驚くべきことは、
脳腫瘍に関する結果であった。試験を行った全ての試験モデルにおいて、気道へと酵母
ワクチンを投与することで、強力な抗腫瘍反応が誘発されたが、末梢へのワクチン投与(
皮下投与)は、脳内において抗腫瘍反応の誘発には効果があまりなかった。また、脳腫瘍
に関する、ある試験モデルにおいては、末梢への投与により、脳内に顕著な抗腫瘍反応を
提供することができなかった。
【0039】
従って、本発明の酵母ベースのワクチンは、肺の内部に独特の免疫エフェクター細胞前
躯体を刺激することができ、さらに、上記の免疫細胞は、血液脳関門を通過し、頭蓋内腫
瘍の成長過程に影響を及ぼすことに、特に効果的であると思われる。本発明の発明者らは
、公知の理論に束縛されることなく、少なくとも脳腫瘍および肺癌に対して有効なワクチ
ンを設計するにあたっては免疫化の経路が重要な要素であるかもしれない、と考えている
。本発明の酵母ベースのワクチンは、複数の経路からの免疫化を非常に容易に行えること
から、当該ワクチンは、幾つかの癌の治療において従来はその可能性が正当に評価されて
いなかった、非常に特化した免疫反応を引き起こすという有望性を有している。
【0040】
本発明の発明者らは、既にLuznikらによって示されている混合同種骨髄キメラ方
法(mixed allogeneic bone marrow chimera protocol)(Blood 101 (4): 1645-1652, 2
003、当該文献の内容を、参考文献として、本明細書に盛り込んである)に新しい修正を
加え、当該方法において本発明の酵母ワクチンを利用することにより、生体内に、非常に
優れた治療的免疫反応および抗癌反応が誘導されることを発見した。注目に値することに
、被移植者由来の完全な腫瘍標品を使用する必要なしに、および、顆粒球マクロファージ
コロニー刺激因子(GM−CSF)などの生体反応変更因子を用いてワクチンを増強する
必要なしに、および、従来公知の免疫賦活剤を使用する必要なしに、上記の結果を得るこ
とができる。さらに、本発明の酵母媒体を利用することにより、抗原および抗原配合物の
選択が柔軟になり、また、抗原にする細胞性免疫を大きく増強することができる。そのう
え、本発明は、制御された、選択的な方法で本発明の酵母ワクチンのワクチン接種をドナ
ーに行うことで、上記方法をさらに強化することができる。
【0041】
さらに、本発明の発明者らは、酵母媒体の異種タンパク質の発現を安定させる、および
/または、発現された異種タンパク質の翻訳後修飾を防ぐ、新規の融合タンパク質を利用
して、酵母ベースのワクチン技術を改良した。具体的には、本発明の発明者らは、酵母で
発現する異種抗原の新規な構造物を本明細書に示している。なお、好ましい抗原タンパク
質またはペプチドは、そのアミノ末端基に、(a)合成ペプチド、または(b)酵母内在
性タンパク質の少なくとも一部分、が融合されている。(a)および(b)のような融合
タンパク質によって、酵母中におけるタンパク質発現の安定性が向上され、および/また
は、酵母細胞によるタンパク質の翻訳後修飾が防止される。また、上記の融合ペプチドは
、抗体などの選択作用因子(selection agenet)によって認識されるように設計されてい
るエピトープを提供すると共に、上記構造物中のワクチン接種される抗原に対する免疫反
応に、マイナスの影響を与えないと思われる。このような作用因子は、本発明において有
用であるタンパク質の同定、選択、および精製に有用である。
【0042】
さらに、本発明は、抗原構造物のC末端に融合されたペプチドの利用方法、特にタンパ
ク質の選択および同定に関する利用方法、をも考慮するものである。上記のようなペプチ
ドには、ペプチドタグ(6Xヒスチジンなど)またはその他の抗原決定タグなどの、あら
ゆる合成または天然ペプチドが含まれるが、これらに限定されるものではない。本発明の
、抗原のC末端に結合したペプチドは、上述のような、付加的なN末端のペプチドの有無
に関係なく使用されても良い。
【0043】
最後に、本発明の発明者らは、酵母ベースのワクチンに利用される、ひとつまたはそれ
より多くの抗原由来の免疫原性領域が、同じ構造物中に供されている新規の融合タンパク質抗
原について、説明を行っている。上記のような融合タンパク質は、単一のワクチン構造物
中に、自然界で発生する、抗原のひとつまたは複数の部位における、幾つかの異なる変異
および/または変異の組合せを網羅することが好ましい場合に、特に有用である。例えば
、自然界において腫瘍細胞表現型に関連した、ras遺伝子の発癌遺伝子には、幾つかの
異なる変異が存在することが知られている。膵臓癌の78%、結腸直腸癌の34%、非小
細胞肺癌の27%、卵巣癌の24%において、Rasタンパク質の第12アミノ酸をコー
ドするコドンに変異が発見されている。また、種々の癌において、第13、59、61
位に異なる変異が見出されている。本発明の発明者らは、この酵母ベースのワクチンアプ
ローチを利用した融合タンパク質の生産について説明を行っている。上記融合タンパク質
は、rasの変異に基づいた融合タンパク質を含み、同じ部位に起こる幾つかの変異、お
よび/または、ひとつ以上の部位で起こる変異の組合せを獲得することができるものであ
り、それらが同じ抗原ワクチンにおいて存在するものであるが、これに限定されるもので
はない。
【0044】
本発明で使用される方法および組成物の一般的な説明を述べると、ここで説明されるワ
クチンおよび方法は、強力なワクチンの処方において非常に効果的なT細胞の活性化を行
う効果的な抗原送達を完成させたものであり、上記方法は、補助的な免疫賦活物質または
生物学的媒体(biological mediator)を必要としないものである。ここで説明されるワ
クチンアプローチは、これが理想的なワクチン候補たる多くの特性を有している。その特
性には、構築の容易さ、低費用の大量生産、生物学的安定性、および安全性などが含まれ
ているが、これらに限定されるものではない。 マウス、ラット、ウサギ、ピッグテール
マカク(Macaca nemestrina)、赤毛猿マカク、免疫不全のCB.17
scidマウス(非発表の観測)に対して、初回接種、または繰り返しの投与を行った時点で
、何れの場合においても、酵母全体の投与による著しい副作用は見出されなかった。さらに
、上記特許文献第09/991363に示されているように、MHCクラスIおよびクラ
スIIプロセッシング経路へと抗原を効果的に送達することにより、樹状細胞を強力な抗
原提示細胞(APC)へと成長させる、酵母−抗原複合体の能力は、酵母ベースのワクチ
ン媒介体が、種々の感染症および癌を標的とした細胞性免疫の誘発を行う、強力な方法を
提供することができることを示すものである。実際に、本明細書に示されたデータおよび
酵母ベースのワクチン技術の発展は、以前は高く評価されていなかった技術に、非常に重
大な進歩をもたらすと同時に、その一般的原理を証明してゆくものである。
【0045】
本発明において、酵母媒体は、ワクチンの抗原または本発明の治療用組成物と連携して
利用できる、または免疫賦活剤として利用できる、いかなる酵母細胞(例えば細胞全体
または無傷細胞)またはその派生物(以下参照)であっても構わない。上記の酵母媒体に
は、生きている無傷の酵母微生物(すなわち、細胞壁を含む全ての構成要素を有する酵母
細胞)、殺された(死んだ)無傷の酵母微生物、またはそれらの派生物が含まれるが、こ
れらに限定されるものではない。また、上記の派生物には、酵母スフェロプラスト(すな
わち、細胞壁の欠如した酵母細胞)、酵母細胞質体(すなわち、細胞壁および細胞核が欠
如した酵母細胞)、酵母形骸(すなわち、細胞壁、細胞核、細胞質)が欠如した酵母細胞
、酵母亜細胞膜抽出物またはその画分(酵母亜細胞小粒に関する前述の記載を参照)が含
まれる。
【0046】
酵母スフェロプラストは、一般的に、酵母細胞壁を酵素で分解することにより生成され
る。このような方法は、例えば、「Franzusoff et al., 1991, Meth. Enzymol. 194, 662
-674」に説明されており、上記文献の内容を、参考文献として、本明細書に盛り込んであ
る。酵母細胞質体は、一般的に、酵母細胞の核摘出により生成される。このような方法は
、例えば、「Coon, 1978, Natl. Cancer Inst. Monogr. 48, 45-55」に説明されており、
上記文献の内容を、参考文献として、本明細書に盛り込んである。酵母形骸は、一般的に
、透過処理または溶解処理された細胞を再封することにより生成される。酵母形骸は、少
なくとも幾つかの細胞小器官を含んでいてもよいが、必ずしもそうである必要性はない。
このような方法は、例えば、「Franzusoff et al., 1983, J. Biol. Chem. 258, 3608-36
14」、および「Bussey et al., 1979, Bioclaim. Biophys. Acta 553,185-196」に説明さ
れており、上記文献の内容を、参考文献として、本明細書に盛り込んである。酵母亜細胞
膜抽出物またはその画分とは、本質的に核または細胞質が欠如した酵母細胞膜のことを意
味している。その小粒はいかなるサイズであっても構わない。そのサイズには、天然の酵
母細胞膜のサイズから、超音波処理、または再封の前に行われる、その他の当業者に公知
の膜分解方法、により生成される微粒子サイズに至るまでのサイズが含まれている。酵母
亜細胞膜抽出物を生成する方法は、例えば、「Franzusoff et al., 1991, Meth. Enzymol
. 194, 662-674」などに説明されている。また、酵母細胞膜の一部分を含む酵母細胞抽出
物の画分を利用してもかまわないし、酵母細胞膜抽出物の生成に先立ち、酵母によって抗
原が組換え技術的に発現される場合には、目的の抗原を含む酵母細胞抽出物の画分を利用
してもかまわない。
【0047】
本発明の酵母媒体の作成に、任意の酵母菌株を利用することができる。酵母は、子嚢
菌類、端子菌類、および不完全菌類の3つの分類のうちのひとつに属する、単細胞微生物
である。病原性酵母株またはその非病原性変異株を本発明に利用しても良いが、非病原性
株を利用することがより好ましい。酵母株の好適な属には、Saccharomyce属
、Candida属(病原性である可能性がある)、Cryptococcus属、Ha
nsenula属、Kluyveromyce属、Pichia属、Rhodotor
ula属、Schizosaccharomyce属、およびYarrowia属が含ま
れる。Saccharomyce属、Candida属、Hansenula属、Pic
hia属、およびSchizosaccharomyce属がより好適であり、Sacc
haromyce属が特に好適である。好適な酵母株には、Saccharomyces
cerevisiae、Saccharornyces carlsbergensi
s、Candida albicans、Candida kefyr、Candida
tropicalis、Cryptococcus laurentii、Crypt
ococcus neoformans、Hansenula anomala、Han
senula polymorpha、Kluyveromyces fragilis
、Kluyveromyces lactis、Kluyveromyces marx
ianus var. lactis、Pichia pastoris、Rhodot
orula rubra、Schizosaccharomyces pombe、およ
びYarrowia lipolyticaが含まれる。
【0048】
なお、これらの多くの種のさまざまな亜種、類、特殊種などが前述の種に含まれている
、と理解されたい。より好適な酵母株には、S.cerevisiae、C.albic
ans、H.polymorpha、P.pastors、およびS.pombeが含ま
れる。取り扱いが容易なことと、食品添加物として、「一般的に安全と認められている食
品」または「GRAS」であることから(GRAS, FDA proposed Rule 62FR18938, April 1
7, 1997)、S.Cerevisiaeが特に好適である。本発明のある実施例では、プ
ラスミドを特に高コピー数で複製することができる、S.Cerevisiae cir
°株などの酵母株が用いられる。
【0049】
ある実施形態において、本発明の好適な酵母媒体は、当該酵母媒体と抗原とが送達され
る細胞型と融合できるものであり、樹状細胞またはマクロファージなどと融合できる酵母
媒体である。その結果、酵母媒体、多くの実施形態においては抗原が、上記細胞型に、特
に効果的に送達される。ここでは、「標的細胞型と酵母媒体との融合」とは、酵母細胞膜
またはその小粒が、標的細胞型(例えば、樹状細胞またはマクロファージなど)の膜と融
合し、融合細胞を形成できることを意味している。
【0050】
ここでは、融合細胞とは、細胞の融合によって生成される原形質の多核性集合体のこと
である。多くのウイルス表面タンパク質(HIV、インフルエンザウイルス、ポリオウイ
ルスおよびアデノウイルスなどの、免疫不全ウイルスのものを含む)、およびその他のフ
ソゲン(fusogen)(卵子および精子の融合に関与するものを含む)が、2つの膜間(す
なわち、ウイルスおよび哺乳類の細胞膜間、または哺乳類の細胞膜間)の融合を生じさせ
ることが可能であると知られている。例えば、その表面にHIV gp120/gp41
異種抗原を生成する酵母媒体は、CD4+Tリンパ球と融合することができる。なお、標
的部分(targeting moiety)を酵母媒体中へと組み込むことは、ある状況下においては好
ましい場合もあるが、このことは必須ではないことに注意されたい。本発明の発明者らは
、以前に、樹状細胞によって(マクロファージなどの他の細胞と同様に)、本発明の酵母
媒体が容易に取り込まれることを示している。
【0051】
酵母媒体は、患者に直接投与される製剤を含む、本発明の組成物へと調剤されてもよく
、または、当業者に公知の技術を用いて、最初に樹状細胞などのキャリアへと充填されて
もよい。例えば、液体窒素またはドライアイスに晒して凍結乾燥または凍結することによ
り、酵母媒体が乾燥されても構わない。
【0052】
酵母媒体を含む製剤は、ベーキングまたは醸造作業に酵母を利用して、ケーキまたは錠
剤に酵母をパックすることにより調製されても構わない。さらに、樹状細胞への添加また
はその他のタイプの抗原の投与に先立ち、酵母媒体は、宿主細胞に許容的な等張緩衝液
などの、薬学的に許容可能な賦形剤と混合されても構わない。上記のような賦形剤の例に
は、水、生理食塩水、リンガー溶液、ブドウ糖溶液、ハンク溶液(Hank's solution)、
および、その他の水性であり生理的にバランスのとれている食塩溶液、が含まれる。また
、不揮発性油、胡麻油、オレイン酸エチル、中性脂肪などの非水性の媒体が使用されても
構わない。その他の有用な製剤形態には、ナトリウムカルボキシメチルセルロース、ソル
ビトール、グリセロール、またはデキストランなどの、粘性の増強剤を含有する懸濁液が
含まれる。賦形剤には、等張性および化学的安定性を増強する物質などの、添加物が少量
含まれていてもよい。
【0053】
緩衝液の例には、リン酸バッファー、重炭酸塩バッファー、およびTrisバッファー
が含まれる。また、保存剤の例には、チメロサール、メタ−(m−)またはオルト−(o-)
クレゾール、ホルマリン、およびベンジルアルコールが含まれる。一般的な製剤形態は、
注射可能な液状、または、注射用の懸濁液または溶液として適切な液体へと溶解できる固
相、のいずれかであってよい。従って、非液状の製剤形態において、賦形剤は、例えば、
デキストロース、ヒト血漿アルブミン、および/または投与の前に滅菌水または滅菌生理
食塩水に加えられる保存剤などを含有していても構わない。
【0054】
本発明のある治療用組成物またはワクチンの構成要素には、動物のワクチン接種のため
の、少なくともひとつの抗原が含まれる。上記の組成物またはワクチンは、ひとつまたは
それより多くの抗原を含んでいても良く、また、上記の抗原には、ひとつまたはそれより多くの抗
原の免疫原性領域が、ひとつまたはそれより多く含まれている事が好ましい。本発明において
、「抗原」という用語は、一般的に以下のような意味で用いられている。すなわち、自然
発生的または合成的に得られたタンパク質の任意の部分(ペプチド、タンパク質の一部
分、完全長のタンパク質)、細胞組成物(細胞全体、細胞溶解液、または崩壊した細胞
)、生物体(完全な生物体、細胞溶解液または崩壊した細胞)、炭水化物またはその他の
分子、もしくはこれらの一部分であって、抗原特異的な免疫反応(体液性および/または
細胞性免疫反応)を誘発するものであるか、または、上記抗原が投与された動物の細胞お
よび組織内部で遭遇する同種または同様の抗原に対して、拮抗因子(toleragen)として
作用するものである。
【0055】
本発明のある実施形態において、免疫反応を刺激することが好ましい場合、「抗原」と
いう用語は、「免疫源」という用語と同義語として利用されており、また、「抗原」とい
う用語は、体液性または細胞性免疫反応を誘発する(すなわち抗原性の)、タンパク質、
ペプチド、細胞組成物、有機体、またはその他の分子を表す文言として用いられる。従っ
て、免疫源を動物に投与すると(例えば、本発明のワクチンを利用して)、動物の組織内
部で遭遇する、同種または同様の抗原に対して、抗原特異的な免疫反応が開始される。こ
のように、本発明のある実施形態において、特定の抗原に対して動物にワクチン接種を行
う事は、抗原の投与の結果、当該抗原に対して免疫反応が誘発される、ということを意味
している。ワクチン接種は、接種の後に抗原(または抗原の源)に接触すると、上記抗原
(またはその源)に対して、動物の疾病および病状を緩和および防止する免疫反応が誘発
されるという、予防的または治療的な効果に至ることが好ましい。ワクチン接種の概念に
関しては、当技術分野において公知である。本発明の組成物の投与によって誘発される免
疫反応は、ワクチンの投与を行わなかった場合と比較した時に、免疫反応の任意の様相
(例えば、細胞反応、体液性免疫、サイトカインの生合成など)に見られる検出可能な変
化であっても構わない。
【0056】
本発明の別の実施形態においては、特定の抗原に対する免疫反応を抑制することが好ま
しい場合、抗原に拮抗因子が含まれても構わない。本発明では、拮抗因子とは、抗原に対
する免疫反応を変化または減少させるように、ある分量、ある形状、ある投与経路で提供
される、タンパク質、ペプチド、細胞組成物、有機体またはその他の分子のことを表して
おり、好ましくは、拮抗因子または当該拮抗因子を発現または提示する細胞との接触に応
じて、免疫系細胞が、非反応性化、不応答性化、不活性化、または変性されることを表し
ている。
【0057】
「ワクチン接種抗原」は、免疫源または拮抗因子であっても構わない。「ワクチン接種
抗原」とは、生物学的反応(免疫反応、免疫寛容の誘発)が、当該ワクチン抗原に対して
誘発されるような、ワクチンに利用される抗原のことである。
【0058】
特定の抗原の免疫原性領域は、動物に投与された時に免疫原として作用するエピトープ
を少なくともひとつ含んだ、抗原の任意の部分(すなわち、ペプチド断片やサブユニッ
ト)であって構わない。例えば、単一のタンパク質に複数の異なる免疫原性領域が含まれ
ていても良い。
【0059】
エピトープとは、免疫反応を誘発するのに十分である特定の抗原内部のひとつの免疫原
性部位、または、免疫反応の抑制、欠如、または免疫反応の不活性化を補助するのに十分
である、特定の抗原内部のひとつの拮抗因子部位、のことを意味している。当分野に熟達
した当業者は、T細胞エピトープが、B細胞エピトープとサイズおよび組成において異な
り、さらに、クラスIMHC経路を通じて提示されるエピトープが、クラスIIMHC経
路通じて提示されるエピトープと異なるということを認知しているであろう。抗原は、単
一のエピトープと同じ大きさでも、それより大きくても構わない。また、抗原は、複数の
エピトープを含んでいても構わない。このように、抗原のサイズは約5〜12アミノ酸(
例えばペプチド)の小ささであっても良く、また、多量体や融合タンパク質、キメラタン
パク質を含む完全長のタンパク質、細胞全体、微生物全体、またはそれらの一部分(ホ
ールセルの溶解液または微生物の抽出物など)と同等の大きさであっても構わない。
【0060】
さらに、抗原には、炭水化物が含まれており、この炭水化物は、癌細胞などで発現され
ており、本発明の酵母媒体または組成物中へと充填されてもよい。幾つかの実施形態(す
なわち、酵母媒体の組換え核酸分子から抗原が発現される場合など)において、上記抗原
が、細胞または微生物の完全体ではなく、タンパク質、融合タンパク質、キメラタンパク
質、またはその断片であることが高く評価されるであろう。ある好適な実施形態において
は、上記抗原は、腫瘍抗原または感染症病原体の抗原(すなわち、病原体抗原)を含む群
から選択される。本発明のある実施形態において、上記抗原は、ウイルス抗原、過剰発現
した哺乳動物の細胞表面分子、細菌性抗原、真菌性抗原、原虫抗原、蠕虫抗原、外寄生体
抗原、癌抗原、ひとつまたはそれより多くの変異アミノ酸を有する哺乳動物細胞分子、哺乳動
物細胞で出生前または新生期に一般的に発現されるタンパク質、疫学的因子(ウイルスな
ど)の挿入により発現が誘導されるタンパク質、遺伝子転座によって発現が誘導されるタ
ンパク質、および、制御配列の変異によって発現が誘導されるタンパク質を含む群から選
択される。
【0061】
本発明において、本発明の組成物または媒体への利用に適した抗原には、同一の抗原由
来である二つまたはそれより多くの免疫原性領域またはエピトープ、同じ細胞や組織や器官由
来である二つまたはそれより多くの免疫原性領域またはエピトープ、もしくは、異なる細胞や
組織や器官由来である、二つまたはそれより多くの異なる抗原の免疫原性領域またはエピトー
プが含まれていても良い。好ましくは、上記の抗原は、上記酵母株とは異種の(すなわち
、遺伝子操作または生物学的な操作が行われていない酵母株によって自然に生成されたタ
ンパク質ではない)なものである。
【0062】
本発明のある実施形態は、本発明のワクチンの抗原として利用される、改良された種々
のタンパク質に関する。特に、本発明により、酵母媒体における異種タンパク質の発
現を安定化させ、および/または発現した異種のタンパク質の翻訳後修飾を防止する、新
規の融合タンパク質構造物が提供される。これらの融合タンパク質は、一般的には、組換
えタンパク質として、酵母媒体によって発現される。例えば、無傷の酵母または酵母スフ
ェロプラストによって発現され、付加的に、酵母細胞質体、酵母形骸、または酵母細胞膜
抽出物またはその画分によって、さらに処理を受ける。しかし、本発明のある実施形態に
おいては、本発明のワクチンを生成するために、ひとつまたはそれより多くの上記のような融
合タンパク質は、上述のように、酵母媒体に充填されるか、または、酵母媒体と混合また
は複合される。
【0063】
本発明に有用である、上記のような融合構造物のひとつは、(a)完全長の抗原の免疫
原性領域およびエピトープに加え、本明細書の他の部分にも記載されているように、種々
の融合タンパク質および複数の抗原構造物を含む、少なくともひとつの抗原、および(b
)合成ペプチド、を含有した融合タンパク質である。上記の合成ペプチドは、癌抗原のN
末端に結合されることが好ましい。このペプチドは、癌抗原とは異種である少なくとも
二つのアミノ酸残基より構成されている。このペプチドは、酵母媒体における融合タンパ
ク質の発現を安定化させるもの、または、発現した融合タンパク質の翻訳後修飾を防止す
るものである。
【0064】
上記合成ペプチドおよび抗原のN末端部分によって融合タンパク質が形成され、この融
合タンパク質には以下の必要条件がある。すなわち、(1)上記融合タンパク質の第1位
のアミノ酸残基はメチオニンである。すなわち、合成ペプチドの第1アミノ酸はメチオ
ニンである。(2)上記融合タンパク質の第2位のアミノ酸残基はグリシンでもプロリ
ンでもない。すなわち、上記合成ペプチドの第2位のアミノ酸残基はグリシンでもプロ
リンでもない。(3)上記融合タンパク質の第2〜第6位のアミノ酸残基は、いずれも
メチオニンではない。すなわち、上記合成ペプチドの第2〜第6位のアミノ酸残基は、
いずれもメチオニンではないか、上記合成ペプチドが6アミノ酸よりも短い場合は、上記
合成ペプチドまたは上記タンパク質は、メチオニンを含まない。(4)上記融合タンパク
質の第2〜5位のアミノ酸残基は、いずれもリジンおよびアルギニンではない。すなわ
ち、第2〜5位のアミノ酸残基は、いずれもリジンおよびアルギニンではないか、上記
合成ペプチドが5アミノ酸よりも短い場合は、上記合成ペプチドまたは上記タンパク質は
、リジンおよびアルギニンを含まない。上記合成ペプチドは、2アミノ酸という短さであ
ってもよいが、少なくとも2〜6アミノ酸(3、4、5アミノ酸を含む)であることが好
ましい。また、合成ペプチドは6アミノ酸以上の長さであっても良く、完全長のものとし
ては、最大約200アミノ酸の長さであっても構わない。
【0065】
本発明のある実施形態において、上記ペプチドは、M−X−X−X−X−X
というアミノ酸配列を有しており、当該配列において、Mはメチオニン、Xはグリシン
、リジン、アルギニンを除く任意のアミノ酸、Xはメチオニン、リジン、アルギニン
を除く任意のアミノ酸、Xはメチオニン、リジン、アルギニンを除く任意のアミノ
酸、Xはメチオニン、リジン、アルギニンを除く任意のアミノ酸、および、Xはメ
チオニンを除く任意のアミノ酸、である。
【0066】
本発明のある実施形態において、Xはプロリンである。酵母細胞中で抗原の発現の安
定性を高める、および/または、酵母中でタンパク質の翻訳後修飾を防止する典型的な合
成配列には、M−A−D−E−A−P(配列番号1)という配列が含まれる。本発明の発
明者らは、この融合物質が、発現された生成物の安定性の増強するだけでなく、構造物中
のワクチン接種抗原に対する免疫反応に何ら悪影響を与えないと考えている。さらに、上
記の合成融合ペプチドは、抗体などの選択作用因子によって認識されるエピトープを提供
するように設計されてもよい。
【0067】
本発明において、「異種のアミノ酸」(heterologous amino acids)とは、特定のアミノ酸配列に関して天然には見
出されない(すなわち、自然界において生体内に見出されない)アミノ酸配列であるか、
または、特定のアミノ酸配列が有する機能とは関わっていないアミノ酸配列であるか、ま
たは、自然発生の核酸配列が、アミノ酸配列が得られるような生物に一般的なコドンを用
いて翻訳される場合に、その遺伝子中に発生する特定のアミノ酸配列をコードする、自然
発生の核酸配列を有する核酸によってコードされていないアミノ酸配列である。従って、
癌抗原に異種である少なくとも二つのアミノ酸残基は、自然発生的には癌抗原には見
出されない、任意の二つのアミノ酸残基である。
【0068】
別の本発明の実施形態は、融合タンパク質に関するものである。上記融合タンパク質は
、(a)完全長の抗原の免疫原性領域およびエピトープと同様に、本明細書の他の部分に
も記載されているように、種々の融合タンパク質および複数の抗原構造物が含まれる、少
なくともひとつの抗原、および、(b)少なくとも内在性酵母タンパク質の一部分、を含
んでおり、(a)は(b)へと融合されている。内在性酵母タンパク質は、好適には、癌
抗原のN末端に結合されており、当該内在性酵母タンパク質は、酵母中におけるタンパク
質発現の安定性を大きく向上させ、および/または、酵母細胞によるタンパク質の翻訳後
修飾を防止している。さらに、合成ペプチドと結合した内在性酵母抗原において、この融
合相手は、構造物中のワクチン接種抗原に対する免疫反応に、何ら悪影響を及ぼさない。
内在性抗原に選択的に結合する抗体は、既に利用可能であるかもしれないし、直ちに抗体
の生成が行われるかもしれない。最後に、タンパク質を特定の細胞部位に誘導することが
好ましい場合(例えば、分泌経路、ミトコンドリア、核へと誘導する場合)、上記構造物
は、細胞機構が輸送システムに関して最適化されるように、酵母タンパク質の内在性シグ
ナルを利用しても構わない。
【0069】
内在性(endogenous)酵母タンパク質は、内在性酵母タンパク質の約2〜約200(または最大22k
Da)のアミノ酸から構成されている。この酵母タンパク質は、酵母媒体における融合タ
ンパク質の発現を安定化させる、または、発現した融合タンパク質の翻訳後修飾を防止す
る。この実施形態には、任意の内在性酵母タンパク質を利用しても構わない。特に好適
なタンパク質には、SUC2、アルファ因子シグナルリーダー配列、SEC7、CPY、
グルコースおよびサイトゾルの局在化によりその発現が抑制される、ホスホエノールピル
ビン酸カルボキシキナーゼPCK1、ホスホグリセロキナーゼPGK、トリオースリン酸
イソメラーゼTPI遺伝子産物、局在化および細胞壁への固定を行うCwp2p、細胞が
熱処理された時に発現される、より熱安定性である熱ショックタンパク質SSA1、SS
A3、SSA4、SSC1、KRA2、ミトコンドリア内部へと移入されるミトコンドリ
アタンパク質CYC1、娘細胞形成の初期段階において、酵母の芽の局在化を行うBUD
遺伝子、アクチン管束に固定するACT1が含まれるが、これに限定されるものではない
。なお、SUC2は、酵母インベルターゼであり、同じプロモータにより細胞基質中およ
び分泌経路へと誘導的にタンパク質を発現することのできる、優れた候補であるが、培地
中の炭素源に依存性である。
【0070】
本発明の一実施形態において、内在性酵母タンパク質/ペプチドまたは合成ペプチドは
、融合タンパク質の同定および精製のために、抗体エピトープを有している。融合タンパ
ク質に選択的に結合できる抗体は、利用可能であるか、または生成できることが好ましい
。本発明では、「選択的に結合する」という表現は、本発明の、抗体、抗原結合性断片、
または結合相手が、特定のタンパク質に優先的に結合できることを意味している。より具
体的には、「選択的に結合する」という表現は、あるタンパク質が他のもの(例えば、抗
原、その断片、または、抗体の結合相手など)に対して特異的に結合することを意味して
いる。その結合レベルは、一般的な試験法(例えば、免疫学的検定法など)によって測定
することができ、さらに、上記選択的な結合の結合レベルは上記試験法のバックグラウン
ドコントロールを、統計的に大きく上回っている。例えば、免疫学的検定法を行う場合、
コントロールには、一般的に、抗体または抗原結合性断片を単体で含有する(すなわち、
抗原を含まない)反応ウェル/チューブが用いられるが、この際、抗原が存在しない状態
における抗体または抗原結合性断片の反応性(例えば、ウェルへの非特異的な結合など)
がバックグラウンドと見なされる。上記結合性は、酵素免疫測定法(例えばELISA、
免疫ブロット法など)を含む、当技術分野において一般的な種々の方法を用いて測定する
ことができる。
【0071】
抗体は、免疫グロブリン領域を含んでいることを特徴としており、従って、これらの抗
体はタンパク質の免疫グロブリン・スーパーファミリーのひとつであると分類される。単
離された本発明の抗体には、上記のような抗体を含む血清、または種々の程度に精製され
た抗体が含まれても良い。本発明の完全な抗体は、ポリクローナルまたはモノクローナル
であっても構わない。あるいは、完全な抗体と同等の機能を有するものが本発明に使用さ
れても構わない。上記完全な抗体と同等の機能を有するものには、ひとつまたはそれより多く
の抗体領域が不完全であるか、または欠落している抗原結合性断片(例えば、Fv、Fa
b、Fab’、F(ab)断片など)、一本鎖抗体または一つ以上のエピトープに結合
できる抗体(例えば、二重特異性抗体など)および、ひとつまたはそれより多くの異なる抗原
に結合できる抗体(例えば、二重特異性または多重特異性抗体)を含む、遺伝子操作がな
された抗体またはその抗原結合性断片が含まれる。
【0072】
一般的に、抗体の生産においては、ウサギ、羊、ハムスター、モルモット、マウス、ラット、または鶏が含まれるが、これに限定されるものではない好適な実験動物が、抗体が
望まれている抗原に晒される。通常は、効果的な分量の抗原を動物に注射して、動物に免
疫を付与する。なお、効果的な分量とは、動物によって抗体の生産が誘発されるために必
要となる分量のことを意味している。その後、所定の期間に渡り、動物の免疫系が反応す
る。上記免疫系が抗原に対する抗体を生産していることが見出されるまで、ワクチン接種
工程が繰り返されても構わない。抗原に特異的なポリクローナル抗体を得るために、望ま
しい抗体を有する動物から血清が収集される。鶏の場合、抗体は卵から収集されても構わ
ない。上記の血清は試薬として有用である。例えば、硫酸アンモニウムで血清を処理する
ことなどによって、血清(または卵)から、ポリクローナル抗体がさらに精製されても良
い。
【0073】
モノクローナル抗体は、Kohler and Milsteinの方法論(Nature 2
56: 495-497, 1975)に基づいて生産されても構わない。例えば、Bリンパ球は、ワクチ
ン接種を受けた動物の脾臓(または任意の適切な組織)から回収され、その後、適切な
培養培地中で成長し続けることができるハイブリドーマ細胞の個体群を得るために、骨髄
腫細胞と融合される。望ましい抗体を生産するハイブリドーマ細胞は、ハイブリドーマ細
胞によって生産された抗体の、目的とする抗原への結合能を試験することによって選択さ
れる。
【0074】
また、本発明の範囲は、非抗体ペプチドにも及んでいる。時として結合相手と表現され
る上記非抗体ペプチドは、本発明のタンパク質に特異的に結合するように設計されており
、さらに必要に応じて、本発明のタンパク質の活性化または阻害を行うものである。上記
ペプチドの設計の例としては、所定の特異性リガンドを有するペプチドがBesteらに
より公開されている(Proc. Natl. Acad. Sci. 96: 1898-1903,1999)。なお、この文献
の内容を、参考文献として、本明細書に盛り込んである。
【0075】
本発明のさらなる別の実施形態において、ワクチンの抗原タンパク質は、二つまたはそ
れより多くの抗原を含む融合タンパク質として生産される。ある態様において、上記融合タン
パク質は、二つまたはそれより多くの免疫グロブリン領域、または、ひとつまたはそれより多くの
抗原の二つまたはそれより多くのエピトープを含んでいても良い。特に好適な実施形態におい
て、上記融合タンパク質は、抗原の、二つまたはそれより多くの免疫グロブリン領域を含んで
おり、好適には抗原の複数の領域を含んでいる。上記複数の領域は、幾つかの異なる変異
、および/または、抗原のひとつまたは2〜3の部位に自然に発生し得る変異の組合せ、
を含んでいる。このことは、様々な患者において、様々に変化する変異を起こすことが知
られている非常に特異的な抗原に対して、ワクチンを提供する事ができるという特有の利
点を提供するものである。上記のワクチンは、様々な患者に、抗原特異的免疫を付与する
ことができる。例えば、本発明において有用である複数の領域の融合タンパク質は、複数
の領域を有していても構わない。それぞれの領域は、特定のタンパク質由来のペプチドよ
り構成されており、当該ペプチドは、少なくとも4つのアミノ酸残基より構成されている
。上記アミノ酸残基は、上記ペプチドの両側部にあり、タンパク質中に見出される変異し
たアミノ酸を含んでいる。なお、上記変異は、特定の疾病(癌など)に関連した変異であ
る。
【0076】
Ras遺伝子は、幾つかの変異が特定の部位に起こる事が知られており、それら変異が
ひとつまたはそれより多くの種類の癌の成長に関係していることが知られている、発癌遺伝子
のひとつの例である。それゆえ、癌において変異していることが知られている、所定のア
ミノ酸残基を含むペプチドより構成される、融合タンパク質を構築することができる。上
記融合タンパク質には、特定部位の変異の幾つか、または公知の変異全てをカバーするよ
うに、その各領域に、異なる変異を含有させてもよい。
【0077】
例えば、Rasに関して、当業者は、その両端に少なくとも4つのアミノ酸を有すると
ともに、第12位を有する、複数の免疫原領域を提供することができる。それぞれの領
域の上記第12位においては、変異していないRasタンパク質に一般的であるグリシ
ンが、それぞれ異なる置換基によって置き換えられている。
【0078】
ある例において、癌抗原は、野生型Rasタンパク質の、少なくとも5〜9つの連続し
たアミノ酸残基の断片を含んでおり、上記断片は、野生型Rasタンパク質の第12、1
3、59、61位に相当するアミノ酸残基を含んでいる。また、これら第12、13、
59、61位のアミノ酸残基は、野生型Rasタンパク質から変異したものになってい
る。ある一態様において、融合タンパク質構造物は、他の変異した癌抗原の構造とフレー
ムを合わせて融合した、少なくともひとつのペプチド、例えば、野生型のRasタンパク
質配列と比較して、少なくともひとつの変異を含んでいるRasタンパク質、から構成さ
れている。
【0079】
上記ペプチドは以下の群より選択される。すなわち、(a)少なくとも配列番号3の第
8〜16位の配列を含んでおり、配列番号3の第12位に相当するアミノ酸残基が、
配列番号3と比較して変異しているペプチド、(b)少なくとも、配列番号3の第9〜1
7位の配列を含んでおり、配列番号3の第13位に相当するアミノ酸残基が、配列番
号3と比較して変異しているペプチド、(c)少なくとも、配列番号3の第55〜63位
の配列を含んでおり、配列番号3の第59位に相当するアミノ酸残基が、配列番号3
と比較して変異しているペプチド、および、(d)少なくとも、配列番号3の第57〜6
5位の配列を含んでおり、配列番号3の第61位に相当するアミノ酸残基が、配列番
号3と比較して変異しているペプチド、を含む群より選択される。タンパク質のこの領域
において、ヒトおよびネズミの配列は同一であり、さらに、K−Ras、H−Ras、N−
Rasはこの領域において同一であることから、これらの部位は、配列番号5、7、9、
11、13のいずれにも対応するものであることに注意されたい。
【0080】
本発明において、その他の抗原に対しても、上記のような方法が特に有用であることは
、当分野に熟達した当業者に高く評価されるであろう。なお、上記のその他の抗原には、
TP53(p53として知られる)、p73、BRAF、APC、Rb−1、Rb−2、
VHL、BRCA1、BRCA2、AR(アンドロゲン受容体)、Smad4、MDR1
、および/またはFlt−3が含まれるが、これらに限定されるものではない。
【0081】
本発明のある実施形態において、本明細書に示される任意のアミノ酸配列は、特定の
アミノ酸配列のC末端および/またはN末端それぞれへと、少なくとも1〜最大約20の
、付加的な異種アミノ酸が付加されて生産されても構わない。その結果として生産さ
れるタンパク質またはペプチドは、特定のアミノ酸配列から「本質的に構成される」と表
現されるかもしれない。上述のように、本発明において、異種アミノ酸とは、特定の
アミノ酸配列を含んでいる、天然には見出されない(すなわち、自然界において生体内に
見出されない)アミノ酸配列、または、特定のアミノ酸配列の機能と関連していないアミ
ノ酸配列、または、自然発生の核酸配列が、アミノ酸配列が得られるような有機体に一般
的なコドンを用いて翻訳される場合に、遺伝子中に発生するような特定のアミノ酸配列を
コードする、自然発生の核酸配列を含んでいる核酸によってコードされていないアミノ酸
配列、のことである。同様に、「本質的に構成される」という表現が、核酸配列を表す際
に用いられる場合、上記表現は、特定のアミノ酸配列をコードする核酸配列の5’末端お
よび/または3’末端のそれぞれに、上記核酸配列を含むように、少なくとも1〜最大約
60の付加的な異種核酸を有する核酸配列のことを意味している。異種核酸は、
天然の遺伝子中に発生するときに、特定のアミノ酸配列をコードする核酸配列に隣接して
見出されない(すなわち、天然中に、生体内に見出されない)、付加的な機能性をタンパ
ク質に付与するタンパク質をコードしていない、または、特定のアミノ酸配列を有するタ
ンパク質の機能性を変化させる核酸配列である。
【0082】
本発明に有用な腫瘍抗原は、腫瘍細胞由来の、タンパク質、糖タンパク質、または腫瘍
細胞由来の表面炭水化物、腫瘍抗原由来のエピトープ、腫瘍細胞全体、腫瘍細胞の混合物
、およびそれらの一部分(溶解物など)を含んでいてもよい。ある実施形態において、本
発明に有用な腫瘍抗原は、自家腫瘍細胞サンプルより単離または由来(derived)しても構わない。
自家腫瘍細胞サンプルは、治療用組成物が投与されることになっている動物から得る事が
できる。従って、上記のような抗原は、免疫反応が誘発される癌に存在しているであろう
。ある一態様において、ワクチンに供される癌抗原は、少なくとも二つ、好適には複数の
、組織学的に同じ腫瘍種である自家腫瘍細胞サンプルより単離または抽出される。本発明
において、複数の同種腫瘍細胞サンプルとは、通常は、少なくとも主要組織適合複合体(
MHC)において、および一般的にその他の遺伝子座において、遺伝的に異なる、2また
はそれより多くの同種の動物から単離される、組織学的に同じ腫瘍種である腫瘍サンプルであ
る。従って、これらが一緒に投与される場合、多数の腫瘍抗原は、腫瘍抗原が得られるあ
らゆる個人に存在する、ほぼ全ての腫瘍抗原を代表することができる。本発明の方法のこ
の実施形態は、組織学的に同じ腫瘍種の腫瘍由来である癌抗原の発現において、個々の患
者間にある自然変動を補正するワクチンを提供するものである。従って、この治療用組成
物の投与は、種々の腫瘍抗原に対する免疫反応の誘発に有効である。このために、同じ治
療用組成物が、様々に異なる個体に投与されても構わない。幾つかの実施例形態において
は、幅広いワクチンを提供するために、組織学的に異なる腫瘍種である腫瘍由来の抗原が
、動物に投与されても良い。
【0083】
抗原が単離または由来する腫瘍は、メラノーマ、扁平上皮癌、乳癌、頭頚部癌、甲状腺癌
、軟部組織の肉腫、骨肉腫、精巣癌、前立腺癌、卵巣癌、膀胱癌、皮膚癌、脳腫瘍、脈管
腫、血管肉腫、肥胖細胞腫、原発性肝癌、肺癌、膵臓癌、消化器癌、腎細胞癌、造血性腫
瘍形成、および、これらの転移癌、を含む任意の腫瘍または癌であることが好ましいが
、これらに限定されるものではない。
【0084】
本発明のワクチンに利用される、具体的な癌抗原の例には、MAGE(MAGE3、M
AGEA6、MAGEA10を含むが、これらに限定されるものではない)、NY−ES
O−1、gp100、チロシナーゼ、EGF−R、PSA、PMSA、CEA、HER2
/neu、Muc−1、hTERT、MART1、TRP−1、TRP−2、BCR−a
bl、および、p53(TP53)と、p73と、ras遺伝子と、BRAFと、APC
(腺腫様多発結腸ポリープ)と、mycと、VHL(von Hippel’s Lin
dau protein)と、Rb−1(網膜胚種細胞腫)と、Rb−2と、BRCA1
と、BRCA2と、AR(アンドロゲン受容体)と、Smad4と、MDR1と、Flt
−3との発癌性変異型、が含まれるが、これらに限定されるものではない。
【0085】
本発明において、癌抗原には、癌を獲得する、または成長させる危険性に関するもの、
もしくは、上記のような抗原に対する免疫反応が、癌に対する治療的効果を有する可能性
がある、他の任意の抗原に加えて、上述の任意の抗原が含まれても構わない。例えば
、癌抗原には、腫瘍抗原、ひとつまたはそれより多くの変異アミノ酸を有する哺乳動物細胞分
子、哺乳動物細胞で出生前または新生期に一般的に発現されるタンパク質、疫学的因子(
ウイルスなど)の挿入により発現が誘導されるタンパク質、遺伝子転座によって発現が誘
導されるタンパク質、および、制御配列の変異によって発現が誘導されるタンパク質が含
まれるが、これらに限定されるものではない。また、これらの抗原の幾つかは、その他の
種類の疾病(例えば、自己免疫疾患など)に対する抗原としても有用であるかもしれない。
【0086】
本発明の一態様において、本発明の組成物に有用である抗原は、病原体(病原体全体を
含む)由来の抗原、特に、感染症に関する(感染症の原因となる、または感染症を助長す
る)病原体由来の抗原である。感染症の病原体由来の抗原は、T細胞によって認識される
エピトープを有する抗原、B細胞によって認識されるエピトープを有する抗原、病原体に
よって排他的に発現されている抗原、および、病原体およびその他の細胞によって発現さ
れている抗原、を含んでいても良い。病原体抗原は、細胞全体、および完全な病原性有
機体、溶解物、抽出物またはその画分を含んでいても良い。場合によって、抗原は、常は
動物の病原体とは見なされないが、そのワクチン接種が好ましいとされる有機体またはそ
の一部を含んでいても良い。上記抗原は、それに対してワクチンが投与される感染症病原
体中に存在するほぼ全ての抗原を代表する、ひとつまたは複数の抗原を含んでいても良い
。その他の実施形態においては、同じ病原体または異なる病原体の、ひとつまたはそれ以
上の異なる菌株由来の抗原が、治療効力および/またはワクチンの効率を高めるために用
いられても構わない。
【0087】
本発明において、病原体抗原には、細菌、ウイルス、寄生生物、または真菌によって発
現される抗原が含まれるが、これらに限定されるものではない。本発明の方法に利用され
る好適な病原体抗原は、動物に慢性感染症を引き起こす抗原を含んでいる。ある実施形態
において、本発明の方法または組成物に利用される病原体抗原は、ウイルス由来の抗原を
含んでいる。本発明のワクチンに利用されるウイルス抗原は、env、gag、rev、
tar、tat、ヌクレオカプシドタンパク質、および、免疫不全ウイルス(例えば、H
IV、FIVなど)由来の逆転写産物、B型肝炎ウイルス表面抗原およびコア抗原、C型
肝炎ウイルス抗原、インフルエンザヌクレオカプシドタンパク質、パラインフルエンザヌ
クレオカプシドタンパク質、ヒト乳頭腫16型のE6およびE7タンパク質、エプスタイ
ン・バー・ウイルスのLMP−1、LMP−2、およびEBNA−2、疱疹LAAおよび
糖タンパク質D、さらに、これらと同様に、他のウイルス由来の類似タンパク質を含んで
いるが、これらに限定されるものではない。
【0088】
本発明に利用される特に好適なウイルス抗原は、HIV−1gag、HIV−1env
、HIV−1pol、HIV−1tat、HIV−1nef、HbsAG、HbcAg、
C型肝炎コア抗原、HPVのE6およびE7、HSV糖タンパク質D、ならびに、炭疽菌
防御抗原を含むが、これらに限定されるものではない。
【0089】
本発明の組成物(ワクチン)に含有される、その他の好適な抗原は、望ましくないまた
は有害な免疫反応を抑制することができる抗原が含まれる。上記の望ましくないまたは有
害な免疫反応には、例えば、アレルゲン、自己免疫性抗原、催炎物質、GVHDに関わる
抗原、特定の腫瘍、敗血症性ショック抗原、および、移植片拒否反応に関する抗原により
引き起こされるものがある。上記のような化合物には、抗ヒスタミン剤、サイクロスポリ
ン、副腎皮質ホルモン、FK506、有害な免疫反応の発生に関与するT細胞受容体に対
応するペプチド、Fasリガンド(すなわち、細胞外または細胞基質領域の細胞性Fas
受容体に結合し、アポトーシスを誘発する化合物など)、寛容化またはアレルギーを生じ
る状態で存在する適切なMHC複合体、T細胞受容体、および自己免疫性抗原が含まれる
が、これらに限定されるものではない。また、上記のような化合物には、細胞性および/
または体液性免疫を増強または抑制することができる、生体反応修飾物質を組み合わせた
ものが好適である。
【0090】
本発明に有用なその他の抗原および抗原の組み合わせが、当分野に熟達した当業者に明確な
ものとされるであろう。しかし、本発明は、上述の抗原を利用することに制限されるもの
ではない。
【0091】
本発明において、「酵母媒体−抗原複合物」または「酵母−抗原複合物」という用語は
、一般的に、酵母媒体と抗原との任意の会合体を表している。当該会合には、酵母(遺
伝子組換え酵母)による抗原の発現、酵母への抗原の移入、上記酵母と上記抗原との物理
的な付着、および、緩衝液やその他の溶液、または製剤形態(formulation)などにおけ
る、酵母と抗原との混合、が含まれる。これらの種類の複合物は、以下にその詳細が説明
されている。
【0092】
ある実施形態において、酵母細胞によって抗原が発現されるように、抗原をコードする
異種核酸分子を用いて、本発明の酵母媒体に利用される酵母細胞が形質転換される。
このような酵母は、ここでは遺伝子組換え酵母または遺伝子組換え酵母媒体と表現されて
いる。その後、酵母細胞は、樹状細胞の内部に充填されても良い。なお、この時に、酵母
細胞は、無傷な細胞、または死亡した酵母細胞であっても構わない。または、酵母スフェ
ロプラスト、酵母細胞質体、酵母形骸、酵母亜細胞小粒の形成などにより派生物化し、そ
の後に派生物を樹状細胞内に充填しても構わない。抗原を発現する遺伝子組換えスフェロ
プラストを作成するために、酵母スフェロプラストに、組換え核酸分子を用いて直接形質
移入が行われても構わない(例えば、完全な酵母からスフェロプラストを作成し、その後
形質導入を行う)。
【0093】
本発明においては、単離された核酸分子または核酸配列とは、その自然環境から取り出
された核酸分子または配列である。従って、「単離された」という語は、核酸分子が精製
されたという意味を必ずしも反映するものではない。酵母媒体の形質移入に有用な、単離
された核酸分子には、DNA、RNA、もしくは、DNAまたはRNAのいずれかの派生
物、が含まれる。単離された核酸分子は、二本鎖または一本鎖であっても構わない。本発
明に有用である、単離された核酸分子には、タンパク質またはその断片をコードする核酸
分子が含まれる。なお、上記断片には、本発明の組成物に有用であるエピトープがすくな
くともひとつは含まれている。
【0094】
本発明の酵母媒体に形質転換される核酸分子には、ひとつまたはそれより多くのタンパク質
、またはその一部分をコードする核酸配列が含まれていても構わない。上記の核酸分子は
、部分的な、または完全なコード領域、調節領域、またはそれらの組合せを含んでいても
良い。酵母株の利点としては、多くの核酸分子を保有できる能力と、多くの異種タンパク
質を生産することができる能力とが挙げられる。本発明の酵母媒体によって生産される、
好適な抗原数は、酵母媒体によって無理なく生産される、任意の抗原数であってよい。
一般的に、抗原の数は、少なくとも1つ〜少なくとも5つまたはそれより多くの範囲内であり
、約2〜約5の化合物であることがより好ましい。
【0095】
酵母媒体内の核酸分子によってコードされるペプチドまたはタンパク質は、完全長タン
パク質であってもよい。または、上記ペプチドまたはタンパク質は、修飾されたタンパク
質が天然のタンパク質とほぼ同等の生物学的機能を有するように、あるいは、必要に応じ
て、天然タンパク質と比較してその機能が増強または阻害されているように、アミノ酸が
削除(例えば、タンパク質の末端部が削除されたもの)、挿入、倒置、置換された、およ
び/または誘導体化(例えば、アセチル化、グリコシル化、リン酸化、グリセロホスファ
チジルイノシトール(GPI)アンカーによるテザー化など)された、機能的に同等のタ
ンパク質であってもよい。修飾は、当技術分野において公知の方法を用いて行われてよい
。なお、当該公知の方法には、タンパク質の直接修飾、もしくは、ランダムなまたは意図
した突然変異を発生させる、典型的な技法またはDNA組換え技術などを利用した、タン
パク質をコードする核酸配列の修飾が含まれるが、これらに限定されるものではない。機
能的に同等のタンパク質は、タンパク質の生物学的活性を測定する検定法を利用して選択
されてもよい。
【0096】
本発明の酵母媒体における抗原の発現は、当業者に公知の方法を利用することで達成さ
れる。簡潔に述べると、宿主酵母細胞に形質転換された時に、核酸分子が恒常的に発現
または発現が抑制されるように、核酸分子が転写調節配列に実行可能に連鎖されるような
方法で、少なくともひとつの好適な抗原をコードする核酸分子が、発現ベクターに挿入さ
れる。ひとつまたはそれより多くの抗原をコードする核酸分子は、ひとつまたはそれより多くの転
写調節配列に実行可能に連鎖した、ひとつまたはそれより多くの発現ベクター上にあっても構
わない。
【0097】
本発明の組換え分子において、核酸分子は制御配列を含む発現ベクターと動作可能に連
鎖している。上記制御配列は、転写調節配列、翻訳調節配列、複写物の元配列などの制御
配列、および、酵母細胞に適合性であり、核酸分子の発現を調節するその他の制御配列で
ある。特に、本発明の組換え分子には、ひとつまたはそれより多くの転写調節配列と操作可能
に連鎖した核酸分子が含まれる。なお、「操作可能に連鎖」(operatively linked)という表現は、宿主細胞に
移入(すなわち、形質転換、形質導入、または形質移入)された時に核酸分子が発現でき
るような方法で、核酸分子が転写調節配列に連鎖していることを表している。
【0098】
生成されるタンパク質の分量を調節できる転写調節配列には、転写の開始、伸長、およ
び終止を調節する配列が含まれる。特に重要な転写調節配列は、プロモーターおよび上流
域活性化配列などの、転写の開始を調節する配列である。任意の好適な酵母プロモータ
ー、および、当業者に公知の様々なプロモーターが、本発明に利用されても構わない。S
accharomyces cerevisiaeでの発現に好適なプロモーターには、
以下の酵母タンパク質をコードする遺伝子のプロモーターが含まれるが、これらに限定さ
れるものではない。すなわち、アルコール脱水素酵素I(ADH1)またはII(ADH
2)、CUP1、ホスホグリセリン酸キナーゼ(PGK)、トリオースリン酸イソメラー
ゼ(TPI)、グリセルアルデヒド−3−リン酸脱水素酵素(GAPDH、TDH3(ト
リオースリン酸脱水素酵素)とも呼ばれる)、ガラクトキナーゼ(GAL1)、ガラクト
ース−1−リン酸ウリジルトランスフェラーゼ(GAL7)、ウリジン二リン酸ガラクト
ースエピメラーゼ(GAL10)、チトクロームcl(CYC1)、Sec7タンパク質
(SEC7)、および酸性ホスファターゼ(PH05)が含まれるが、これらに限定され
るものではない。また、ADH2/GAPDHおよびCYC1/GAL10プロモーター
などの雑種プロモーターがより好適である。また、細胞内のグルコース濃度が低い時(例
えば、約0.1%〜約0.2%)に誘導されるADH2/GAPDHプロモーターがさら
に好適である。
【0099】
同様に、多くの上流域活性化配列(UAS、エンハンサーとも呼ばれる)が知られてい
る。Saccharomyces cerevisiaeでの発現に好適な上流域活性化
配列には、以下のものが含まれるが、これらに限定されるものではない。すなわち、PC
K1、TP1、TDH3、CYC1、ADH1、ADH2、SUC2、GAL1、GAL
7、およびGAL10タンパク質をコードする遺伝子のUSA、同様に、GAL4遺伝子
産物によって活性化されるその他のUASが含まれる。特に好適なものは、ADH2 U
ASである。ADH2 UASはADR1遺伝子産物によって活性化されることから、
異種遺伝子がADH2 UASへと操作可能に連結されている場合には、ADR1が過
剰発現されることが好ましい。Saccharomyces cerevisiaeにお
ける好適な転写終止配列には、アルファ因子、GAPDH、およびCYC1遺伝子の終止
配列が含まれる。
【0100】
メチルトロフィック酵母(methyltrophic yeast)における遺伝子の発現を行う、好適
な転写調節配列には、アルコールオキシダーゼおよびギ酸脱水素酵素をコードする遺伝子
の転写調節領域が含まれる。
【0101】
本発明の酵母細胞への核酸分子の形質移入は、細胞へと核酸分子を投与する、任意の
方法によって達成される。上記方法には、拡散、能動輸送、液槽内超音波処理、エレクト
ロポレーション、微量注射法、リポフェクション、吸着、およびプロトプラスト融合が含
まれるが、これらに限定されるものではない。当業者に公知の方法を利用して、形質移入
される核酸分子を酵母染色体に組み込んでも、または染色体外ベクター上に維持しても構
わない。上記のような核酸分子を維持する酵母媒体の例に関しては、本明細書に詳細に記
されている。上述のように、酵母細胞質体、酵母形骸、および酵母亜細胞膜抽出物または
その画分は、形質移入された無傷の酵母微生物または酵母スフェロプラストによって、組
換え技術的に生産されても良い。上記の酵母微生物または酵母スフェロプラストは、望ま
しい核酸分子を有しており、その内部に抗原を生産している。さらに、上記酵母微生物ま
たは酵母スフェロプラストには、望ましい抗原を含む細胞質体、形骸、もしくは亜細胞膜
抽出物またはその画分を生産するために、当業者に公知の方法を利用した、さらなる処理
が施されている。
【0102】
組換え酵母媒体の生産と、酵母媒体による抗原の発現に効果的な条件には、酵母株が培
養される効果的な培地が含まれる。一般的に、効果的な培地は、吸収可能な炭水化物、窒
素およびリン酸源、さらに適切な塩、無機物、金属、およびビタミンや成長因子などのそ
の他の栄養素を含む、水性の培地である。培地には、複合的な栄養源が含まれていてもよ
く、また、最小培地に限定されても構わない。
【0103】
本発明の酵母株は、様々な容器中で培養されても構わない。なお。上記容器には、バイ
オリアクター、エルレンマイヤーフラスコ、試験管、マイクロタイター皿、およびペトリ
皿が含まれるが、これらに限定されるものではない。酵母株に適した温度、pH、および
酸素含有量で培養が行われる。このような培養条件は、当分野に熟達した当業者に公知で
ある(例えば、「Guthrie et al. (eds.), 1991, Methods in Enzymology, vol. 194, Ac
ademic Press, San Diego」などを参照のこと)。
【0104】
本発明のある実施形態において、酵母媒体における抗原の組換え技術的な発現に代わる
方法として、酵母媒体の細胞内に、タンパク質またはペプチド抗原が、もしくは、抗原と
して作用する炭水化物やその他の分子が充填される。その後、細胞内に抗原を含有する酵
母媒体は、患者に投与されても、または、樹状細胞などのキャリアへと充填(以下参照)
されても構わない。ここでは、ペプチドは約30〜50アミノ酸と、同等またはそれ以下
のアミノ酸配列より構成されており、また、タンパク質は約30〜50以上のアミノ酸の
アミノ酸配列より構成されている。なお、タンパク質は多量体であっても構わない。抗原
として有用であるタンパク質またはペプチドは、T細胞エピトープと同等の小ささであっ
てもよい(すなわち、5アミノ酸以上の長さ)。また、タンパク質またはペプチドは、複
数のエピトープ、タンパク質断片、完全長のタンパク質、キメラタンパク質、または融合
タンパク質よりも大きな、任意の適切なサイズであっても構わない。ペプチドおよびタ
ンパク質は、自然的に、または合成的に誘導体化されても構わない。そのような修飾作用
には、糖鎖付加、リン酸化、アセチル化、ミリスチル化、プレニル化、パルトミトイル化
、アミド化、および/または、グリセロホスファチジルイノシトールの付加が含まれるが
、これらに限定されるものではない。ペプチドおよびタンパク質は、拡散、能動輸送、リ
ポソーム融合、エレクトロポレーション、食細胞作用、凍結融解サイクル、および液槽内
超音波処理などの、当業者に公知の方法を用いて本発明の酵母媒体へと挿入されても構わ
ない。ペプチド、タンパク質、炭水化物、または他の分子を直接積載することができる酵
母媒体には、無傷の酵母、スフェロプラスト、形骸、または細胞質体が含まれる。スフェ
ロプラスト、形骸、または細胞質体が生産された後に抗原が充填されてもよいが、樹状細
胞への充填よりも前に抗原が充填される必要がある。また、無傷の酵母に抗原が充填され
、その後に、上記酵母からスフェロプラスト、形骸、細胞質体、または亜細胞小片が調製
されても構わない。任意の数量の抗原が、この実施形態の酵母媒体に挿入されても構わ
ない。例えば、微生物の積載能力によって、哺乳類の腫瘍細胞の積載能力によって、また
は、それらの一部分によって決定されるような、少なくとも1、2、3、4もしくは最大
100または1000までの任意の整数個の抗原が挿入されても構わない。
【0105】
本発明の別の実施形態において、抗原は物理的に酵母媒体へと付着されている。酵母媒
体への抗原の物理的な付着は、当技術分野において適切である、任意の方法により達成
される。なお、上記方法には、共有結合性および非共有結合性の会合法が含まれる。この
会合法には、酵母媒体の外部表面へと抗原を化学的に架橋結合させる方法、または、抗体
やその他の結合相手を利用することなどにより、酵母媒体の外部表面へと抗原を生物学的
に結合させる方法が含まれるが、これらに限定されるものではない。化学的架橋結合は、
例えば、グルタルアルデヒド結合、光アフィニティ・ラベリング、カルボジイミドによる
処理、ジスルフィド結合とのリンクが可能な化合物による処理、および当分野で一般的な
他の架橋連結を行う化合物による処理を含む方法によって達成されても構わない。これら
以外に、化合物が酵母媒体と接触されても構わない。この化合物は、酵母の外部表面が特
定の電荷特性を有する抗原とより容易に融合または結合するように、酵母細胞膜の脂質二
重層の電荷を変化させる、または、細胞壁の組成を変化させるものである。また、抗体、
結合ペプチド、可溶性受容体、およびその他のリガンドなどの標的因子が、融合タンパク
質として、または、抗原の酵母媒体への結合に関与する抗原として、抗原に組み込まれて
も構わない。
【0106】
さらなる別の実施形態において、酵母媒体および抗原は、緩衝液または他の好適な製剤
中で酵母媒体および抗原を穏やかに混合する、などといった、より受動的、非特異的、ま
たは非共有結合性のメカニズムによって互いに結合されている。
【0107】
本発明のある実施形態において、酵母媒体および抗原の双方は、本発明の治療用組成物
またはワクチンを形成するために、樹状細胞またはマクロファージなどのキャリアへと充
填される。双方の成分が充填された、様々な形態を達成することが可能であり、これに関
しては以下にその詳細が記載されている。ここでは、「充填」(loaded)という用語およ
びこれの派生語は、細胞内(例えば、樹状細胞など)への成分(例えば、酵母媒体および
/または抗原など)の挿入、導入、または侵入のことを表している。細胞内に成分を充填
することは、細胞の細胞内区画へと(例えば、原形質膜を通して、少なくとも、細胞質体
、食胞、リソソーム、または細胞のある細胞内空間へと)、成分を挿入または導入するこ
とを表している。細胞内に成分を充填する事に関しては、成分が、強制的に細胞内に入る
こと(例えばエレクトロポレーション)、または、成分があるプロセスを通じて、本質的
に細胞内に入りやすい状況(例えば、細胞と接触して、または近接して)に置かれること
(例えば、食細胞作用)を用いた、任意の方法を参考にされたい。充填方法には、拡散
、能動輸送、リポソーム融合、エレクトロポレーション、食細胞作用、および、液槽内超
音波処理が含まれるが、これらに限定されるものではない。好適な実施形態においては、
樹状細胞に酵母媒体および/または抗原を充填する受動的なメカニズムが利用される。こ
のような受動的なメカニズムには、樹状細胞による、酵母媒体および/または抗原の食細
胞作用が含まれる。
【0108】
本発明のある実施形態において、ワクチン組成物には、生体反応修飾物質(biological response modifier compound)、または、上
記修飾物質を生成する能力(すなわち、当該修飾物質をコードする核酸分子を形質移入す
ることによって)が含まれていても構わない。しかしながら、上記修飾物質は、強力な免
疫反応を達するために必ずしも必要ではない。例えば、酵母媒体に、少なくともひとつの
抗原、および少なくともひとつの生体反応修飾物質が、形質移入または充填されても構わ
ない。生体反応修飾物質は、免疫反応を調節することができる化合物である。特定の生体
反応修飾物質は防御免疫反応を刺激することができ、一方で、他のものは有害な免疫反応
を抑制することができる。特定の生体反応修飾物質は、細胞性免疫反応を選択的に増強し
、一方、他のものは選択的に体液性免疫反応を増強する。すなわち、特定の生体反応修飾
物質は、体液性免疫と比較して細胞性免疫が高レベルに増加した(その逆も然り)免疫反
応を刺激することができる。免疫反応の刺激または抑制を測定する、および、細胞性免疫
反応を体液性免疫反応と区別する、当業者に公知である多くの方法がある。
【0109】
好適な生体反応修飾物質には、インターロイキン2(IL−2)、インターロイキン4
(IL−4)、インターロイキン10(IL−10)、インターロイキン12(IL−1
2)、インターフェロンガンマ(IFN−ガンマ)、インシュリン様成長因子I(IGF
−1)、トランスフォーミング成長因子ベータ(TGF−β)ステロイド類、プロスタグラ
ンジン、およびロイコトリエンなどの、サイトカイン、ホルモン、脂質派生物、小分子化
合物薬、および他の増殖調節因子が含まれるが、これらに限定されるものではない。酵母
媒体のIL−2、IL−12、および/またはIFN−ガンマを発現(すなわち、生成)
し、好ましくは分泌する能力は、細胞性免疫を選択的に増強する。一方で、酵母媒体のI
L−4、IL−5、および/またはIL−10を発現し、好ましくは分泌する能力は、体
液性免疫を選択的に増強する。
【0110】
本発明の酵母媒体は、動物を疾病から保護する事ができる、種々の抗原と結合すること
ができ、さらに、酵母媒体および抗原を樹状細胞またはマクロファージへと充填し、本発
明のワクチンを形成することで、その能力をさらに増強することができる。従って、本発
明の治療用組成物またはワクチンを利用する方法は、動物の免疫反応を好適に誘発し、そ
の結果、免疫反応の誘発の影響を受けやすい(amenable)、癌または感染症を含む疾病か
ら動物が保護される。ここでは、「疾病から保護する」という表現は、疾病の徴候を減少
させる、疾病の発生を減少させる、および/または、疾病の重症度を減少させることを表
している。動物を保護するということは、本発明の組成物が動物に投与された時に、疾病
の発生を防止する、および/または治療する、または疾病の徴候、徴候、または原因を軽
減する、組成物の能力のことを表していてもよい。このように、動物を疾病から保護する
ことには、疾病の発生を防止すること(予防的処置または予防的ワクチン)、および疾病
を患っている、または疾病の初期症状を示している動物を治療すること(治療的処置また
は治療的ワクチン)、の双方が含まれる。特に、動物を疾病から保護することは、有益な
、または防御的な免疫反応を発生させることで、動物の免疫反応を誘発することによって
達成される。また、場合によっては、過剰活性化した、または有害な免疫反応の抑制(例
えば、減少、阻害、または阻止)が付加的に行われる。「疾病」という用語は、動物の健
常状態からの、任意の逸脱状態のことを表しており、疾病の症状が見られる状態、およ
び、症状はまだ見られないが、健常状態からの逸脱(例えば、感染、遺伝子の変異、遺伝
子的異常など)が発生した状態、が含まれる。
【0111】
より具体的には、ここで説明されるワクチンは、本発明の方法に基づいて動物に投与さ
れた時に、疾病の軽減(例えば、疾病の少なくともひとつの症状または臨床的徴候を緩和
すること)、疾病の除去、疾病に関連した腫瘍または病巣の縮小、疾病に関連した腫瘍ま
たは病巣の除去、原疾患によって引き起こされる後遺症の防止または軽減(例えば、原発
性癌に起因する転移癌)、疾病の予防、および疾病に対するエフェクター細胞免疫の刺激
、を含む結果を生み出すことが好ましい。
【0112】
本発明の方法および組成物を利用して治療または防止される癌には、メラノーマ、扁平上皮
癌、乳癌、頭頚部癌、甲状腺癌、軟部組織肉腫、骨肉腫、精巣癌、前立腺癌、卵巣癌、膀
胱癌、皮膚癌、脳腫瘍、脈管腫、血管肉腫、肥胖細胞腫、原発性肝癌、肺癌、膵臓癌、消
化器癌、腎細胞癌、造血性腫瘍形成、および、これらの転移癌、が含まれるが、これらに
限定されるものではない。
【0113】
本発明の治療用組成物を用いる治療に、特に好適な癌には、原発性肺癌、転移肺
癌、原発性脳腫瘍、および、転移脳腫瘍が含まれる。治療に好適な脳腫瘍には、多形性神
経膠芽腫が含まれるが、これに限定されるものではない。治療に好適な肺癌には、非小細
胞癌、小細胞癌、および腺癌が含まれるが、これらに限定されるものではない。本発明の
治療用組成物は、悪性および良性腫瘍を含む癌などを形成しうる腫瘍を治療するために、
動物に免疫反応を誘発することに有用である。癌を有する動物の組織内における癌抗原の
発現は、癌の緩和、癌に付随する腫瘍の縮小、癌に付随する腫瘍の除去、転移癌の予防、
癌の予防、および、癌に対抗するエフェクター細胞性免疫の刺激、を含む群より選択され
た結果を生み出す事が好ましい。
【0114】
本発明の特定の利点のひとつに、酵母媒体および抗原の組合せは、付加的な免疫賦活
剤が無くとも強力な免疫反応を誘発することから、本発明の治療用組成物は補助剤やキャ
リアなどの免疫賦活薬と共に投与される必要がない、ということがある。この免疫反応は
、これらの組成物を樹状細胞に充填することで強化される。これに関しては、米国特許第
09/991363号に記されている。しかしながら、この特徴は、本発明の組成物中に
免疫賦活剤を使用する事を排除するものではない。従って、ある実施形態において、本発
明の組成物は、ひとつまたはそれより多く免疫賦活剤および/またはキャリアを含んでいても
良い。
【0115】
一般的に、免疫賦活剤は、特定の抗原に対する、動物の免疫反応を増強する物質である
。好適な免疫賦活剤には、フロイントアジュバント(Freund's adjuvant)、他の細菌細
胞壁の成分、アルミニウムベースの塩、カルシウムベースの塩、珪石、ポリヌクレオチド
、変性毒素、血清タンパク質、ウイルス性コートタンパク質、他の細菌由来の派生物、ガ
ンマインターフェロン、Hunter’s Titermax補助物質(CytRxTM, Inc.
Norcross, GA)などのブロック重合体補助薬、Ribi補助物質(Ribi ImmunoChem Rese
arch, Inc., Hamilton, MTから購入可能)、および、Quil A(available from Sup
erfos Biosector A/S, Denmarkより購入可能)などのサポニンおよびそれらの派生物、が
含まれるが、これらに限定されるものではない。
【0116】
キャリアは、一般的に、治療を受ける動物において、治療用組成物の半減期を増加させ
る化合物である。好適なキャリアには、重合体の制御放出製剤(polymeric controlled
release formulation)、生体分解性植込錠、リポソーム、油、エステル、およびグリコー
ルが含まれるが、これらに限定されるものではない。
【0117】
また、本発明の治療用組成物は、ひとつまたはそれより多くの薬学的に許容可能な賦形剤を
含んでいても構わない。ここでは、「薬学的に許容可能な賦形剤」とは、本発明の方法に
おいて有用な治療用組成物の送達に適しており、生体内または生体外での使用に適してい
る、任意の物質のことを意味している。好適な薬学的に許容可能な賦形剤は、酵母媒体
または細胞が身体の標的細胞、組織、または部位に到達した時に、酵母媒体(抗原が付随
している)または樹状細胞(酵母媒体および抗原が充填されている)が、標的部位(標的
部位は全身性であってもよいことに注意されたい)において免疫反応を誘発することがで
きる状態に、酵母媒体(または、酵母媒体を含有する樹状細胞)を維持することができる
。本発明の好適な賦形剤には、ワクチンを運搬するが、ワクチンをある部位へと特異的に
誘導しない賦形剤または製剤形態(ここでは、非誘導性キャリアと称される)が含まれる
。薬学的に許容可能な賦形剤の例には、水、塩水、リン酸塩、緩衝塩水、リンガー溶液、
ブドウ糖溶液、血清含有溶液、ハンク溶液、他の水性の生理的平衡液、油、エステル、お
よびグリコールが含まれるが、これらに限定されるものではない。水性キャリアは、例え
ば、化学安定性および等張性を高めることなどによって、受容体の生理的状態に近似させ
るために必要となる、適切な補助剤を含んでいても構わない。
【0118】
適切な補助剤には、例えば、酢酸ナトリウム、塩化ナトリウム、乳酸ナトリウム、塩化
カリウム、塩化カルシウム、および、リン酸緩衝液、Tris緩衝液、重炭酸塩緩衝液の
作成に用いられるその他の物質が含まれる。また、補助剤には、チメロサール、メタまた
はオルト−クレゾール、ホルマリン、およびベンゾールアルコールなどの、保存剤が含ま
れていても良い。
【0119】
本発明には、本発明の組成物またはワクチンを動物に送達することが含まれる。投与工
程は、生体内または生体外で行われても構わない。生体外投与とは、既定の工程の一部分
が患者の体外で行われることを意味している。例えば、酵母媒体および抗原を細胞内へと
充填できるように、病気状態にある患者から細胞集団(樹状細胞)を取り出し、そこへ本
発明の組成物を投与した後に、この細胞を患者へと戻すことなどである。本発明の治療用
組成物は、任意の好適な投与手段を用いて、患者へと戻されても、または、患者へと投
与されても構わない。
【0120】
酵母媒体および抗原が充填された樹状細胞を含む、ワクチンまたは組成物の投与は、全
身性、粘膜性、および/または、標的部位の近傍(例えば、腫瘍の付近など)におい
て行われてもよい。好適な投与経路は、予防または治療される病気、使用される抗原、お
よび/または標的細胞集団または組織の種類に依存的であることは、当業者には公知であ
る。好適な投与方法には、静脈内投与、腹腔内投与、筋肉内投与、結節筋投与、冠状動脈
内投与、動脈内投与(例えば、頚動脈内)、皮下投与、経皮送達、気管内投与、皮下投与
、関節内投与、脳室内投与、吸入(例えば、エアゾール)、頭蓋内投与、髄腔内投与、眼
内投与、経耳投与、鼻腔内投与、経口投与、肺内投与、カテーテルの含浸、および組織の
中への直接注入が含まれるが、これらに限定されるものではない。
【0121】
特に好適な投与経路には、静脈内投与、腹膜内投与、皮下投与、皮内投与、結節筋投与
、筋肉内投与、経皮投与、吸引、鼻腔内投与、経口投与、眼内投与、関節内投与、頭蓋内
投与、および髄腔内投与が含まれる。非経口的な送達経路には、皮内、筋肉内、腹膜内、
胸膜腔内、肺内、静脈内、皮下、心房のカテーテル、および静脈カテーテル経路が含まれ
ていても良い。経耳送達には、点耳剤が含まれてもよく、鼻腔内送達には、点鼻剤および
鼻腔内注射が含まれてもよく、眼内送達には、点眼液が含まれてもよい。
【0122】
エアロゾール(吸入)送達は、従来技術において標準的な方法を利用して行われても良
い。例えば、「Sibling et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 189: 11277-11281,1992」
などを参照。なお、上記文献の内容を、参考文献として、本明細書に盛り込んである。例
えば、ある実施形態において、本発明の組成物またはワクチンは、適切な吸入装置または
噴霧器を用いた、噴霧送達に適した組成物へと形成されても構わない。経口送達には、口
を通して摂取される固体および液体が含まれていてもよく、経口送達は、粘膜性免疫の発
生に有用である。また、酵母媒体を含む組成物は、例えば、錠剤やカプセルとして、経口
送達のために容易に調製でき、食物や飲料中に調剤することもできる。粘膜性免疫を調節
する他の投与経路は、感染症、上皮癌、免疫抑制性疾患、および上皮領域に影響を及ぼす
その他の疾病の治療に有用である。上記のような経路には、気管支、皮内、筋肉内、鼻腔
内、その他の呼吸器系、直腸、皮下、局所的、経皮的、経膣的、および、尿道経路が含ま
れる。
【0123】
より好適な送達経路は、呼吸器系へと組成物またはワクチンを送達する任意の経路で
あり、鼻腔内、気管内、吸入等を含むが、これに限定されるものではない。上述に説明さ
れているように、および実施例に示されているように、本発明の発明者らは、この経路か
ら本発明のワクチンを投与することは、少なくとも皮下からの送達と比較して優れた結果
をもたらすこと、および、特に脳腫瘍および肺癌の治療に有効であることを明らかにして
いる。
【0124】
本発明において、効果的な投与プロトコル(すなわち、効果的な方法でワクチンまたは
治療用組成物を投与すること)には、適切な用量パラメーターおよび投与方法が含まれる
。上記適切な用量パラメーターおよび投与方法は、疾病または病状を有する、もしくは疾
病または病状にかかる危険性のある動物の免疫反応を誘発し、その結果、好適に動物を疾
病から保護するものである。効果的な用量パラメーターは、特定の疾病の技術分野におい
て一般的な方法を利用して決定されても良い。このような方法には、例えば、生存率、副
作用(すなわち、毒性)、疾病の進行度および退行度を決定することが含まれる。特に、
癌を治療する時の、本発明の治療用組成物の用量パラメーターの有効性は、応答率を評価
することにより決定される。上記の応答率とは、全患者のうち、部分的または完全に回復
するという反応を見せた患者の割合のことを意味している。回復は、例えば、腫瘍のサイ
ズを測定することや、組織サンプル中に癌細胞が存在するかどうかの顕微鏡検査などによ
って決定することができる。
【0125】
本発明において、適切な一回の用量は、好適な期間に渡り、一回または複数回投与され
た時に、動物に抗原特異的免疫反応を誘発することができる用量である。用量は、治療さ
れる疾病または病状に応じて様々に変化する。例えば、癌の治療において、好適な一回の
用量は、治療される癌が原発性癌か、または転移癌かによって変更されてもよい。当分野
に熟達したある当業者は、動物のサイズや投与経路に基づいて、容易に一回に投与される
用量を決定することができるであろう。
【0126】
本発明の治療用組成物またはワクチンの好適な一回の用量は、当該治療用組成物または
ワクチンが好適な期間に渡って一回または複数回投与された時に、抗原特異的免疫反応を
誘発するために特定の患者の身体の細胞種、組織、または領域に、効果的に酵母媒体およ
び抗原を提供することができる用量である。例えば、ある実施形態において、本発明の酵
母媒体の一回の用量は、組成物が投与される有機体の体重1キログラムあたり、約1×1
〜約5×10の酵母細胞相当量である。より好適には、本発明の酵母媒体の一回の
用量は、一用量あたり(すなわち、生物あたり)約0.1Y.U.(1×10細胞)〜
約100Y.U.(1×10細胞)である。この値には、0.1×10細胞単位で増
加する任意の中間値の用量が含まれている(すなわち、1.1×10、1.2×10
、1.3×10)。この用量の範囲は、マウス、サル、ヒトなどを含む、任意のサ
イズの任意の生物において、効果的に使用され得る。
【0127】
酵母媒体および抗原を樹状細胞に充填してワクチンが投与される場合、本発明のワクチ
ンの好適な一回の用量は、1個体への1回の投与当たり、約0.5×10〜約40×1
樹状細胞である。好適には、一回の用量は、1個体あたり約1×10〜約20×1
樹状細胞、より好適には、1個体あたり約1×10〜約10×10樹状細胞であ
る。抗原に対する免疫反応が弱まっている、もしくは特定の抗原または抗原群に対して、
免疫反応を提供する、またはメモリー反応(memory response)を誘発する必要が有る場
合、治療用組成物の「追加免疫(booster)」が行われることが好ましい。追加免疫は、
最初の投与が行われた後、約2週間〜数年間投与されても構わない。ある実施形態におい
て、投与スケジュールは、有機体の体重1キログラムあたり、約1×10〜約5×10
の酵母細胞相当量の組成物を、約1カ月間〜約6カ月間に渡り、約1回〜約4回投与す
る、というものである。
【0128】
動物に投与される用量の数値は、疾病の状態および個々の患者の治療に対する反応に依
存的であることは、当分野に熟達した当業者には明らかであろう。例えば、巨大な腫瘍は
、小さな腫瘍よりも多くの用量を必要とするかもしれないし、慢性的な疾患は、急性疾患
よりも多くの用量を必要とするかもしれない。しかしながら、もしも巨大な腫瘍を有する
患者が、小さな腫瘍を有する患者よりも治療用組成物に良好に反応する場合は、巨大な腫
瘍を有する患者は、小さな腫瘍を有する患者よりも、少ない用量しか必要としない場合も
あるかもしれない。従って、好適な用量の数値には、特定の疾病の治療に必要となるあら
ゆる数値が含まれることは、本発明の範囲に含まれる。
【0129】
本発明の別の実施形態において、癌などの疾病および病状を治療する方法は、治療の効
果を高めるその他の治療的アプローチと組み合わされても構わない。例えば、癌の治療に
おいては、動物から腫瘍が摘出された後に、本発明のワクチンの投与が行われても構わな
い。別の態様においては、後述するように、動物からの腫瘍の外科的切除、および骨髄非
切除の同種幹細胞移植の後に、ワクチンの投与が行われても構わない。さらなる別の態様
においては、動物からの腫瘍の外科的切除、骨髄非切除の同種幹細胞移植、およびドナー
の同種リンパ球の注入の後に、ワクチンの投与が行われる。
【0130】
本発明の別の実施形態は、癌を有する患者を治療する方法に関する。上記方法には、
(a)安定な混合骨髄キメリズムの構築に有効である、骨髄非切除の同種幹細胞移植によ
って、癌を有する患者を治療する工程であって、上記幹細胞は同種のドナーから提供され
たものである工程と、(b)同種のドナーから得られたリンパ球を患者に投与する工程と
、(c)工程(b)の後に、酵母媒体および少なくともひとつの癌抗原を有するワクチン
を患者に投与する工程と、が含まれる。骨髄非切除の同種幹細胞移植によって、安定した
混合骨髄キメリズムを構築する方法は、既に、Luznikらの「Blood 101 (4): 1645-
1652,2003」および、他のもの(例えば、Appelbaum et al., 2001, Hematology pp.62-8
6など)において、その詳細が記されている。簡単に説明すると、患者は、非致死性、骨
髄非切除の全身性放射線治療および免疫抑制治療(例えば、放射線療法と化学療法の組合
せ)を受け、同種のドナー由来の幹細胞(例えば、骨髄)を含む細胞集団の投与を受ける
。この治療により、受容患者に安定した混合骨髄キメリズムが構築される。すなわち、ド
ナーおよび宿主の免疫細胞が存在することになる。Luznikらのプロトコールにお
いては、その後、受容者にはドナーのリンパ球が輸液され、その後に、自家腫瘍細胞のワ
クチン、GM−CSF源、および組織適合性抗原源が投与される。この治療方法により、
多くの実験動物が、長期間に渡り腫瘍から解放されて生存できた、という結果が得られて
いる。
【0131】
本発明は、骨髄非切除の同種幹細胞移植を本発明の酵母ベースのワクチンを用いる方法
と組み合わせることで、骨髄非切除の同種幹細胞移植および癌細胞ワクチン接種プロトコ
ールを改善するものである。実施例5に例示されているように、本発明の方法と、Luz
nikらのプロトコールとの、癌の治療効果はほぼ同じであるが、本発明の方法は、前述
の説明で述べられたように、受容者由来である自家腫瘍細胞抗原を利用する必要がなく、
生体反応修飾物質またはその他の免疫賦活剤(例えば、GM−CSFおよび組織適合性抗
原源など)を利用する必要もない。本発明の修正された方法は、様々な抗原特異的抗原を
選択および組み合わせてワクチンに利用することができるという付加的な利点を供すると
共に、従来技術の自家腫瘍細胞を利用した方法は、その効果がその患者のみに限定される
のに対して、本発明の方法は、癌患者が広く一般的に利用できるワクチンを提供するとい
う付加的な利点をも供するものである。また、本発明は、本発明の酵母ベースのワクチン
を利用した、ドナーの幹細胞とリンパ球のワクチン接種を可能とするものである。上記幹
細胞とリンパ球は、受容体に投与されるワクチンと同じ、または僅かに異なる抗原を発現
することができ、このことは、さらにワクチンの効率を高めると考えられる。
【0132】
本発明のこの実施例形態において、安定した混合骨髄キメリズムの構築に有効である骨
髄非切除の、同種のドナーから提供された幹細胞移植によって、癌を有する患者を治療す
る工程は、当技術分野において既に詳細に記載されているように(例えば、Luznik
らの上述の文献や、「Appelbaum et al., 2001, Hematology pp.62-86」など)行われる
。同種リンパ球の注入工程(b)は、任意の適切な方法に基づいて実行されても構わな
い。上記方法には、ウルトラフェレーシス法(Ultrapheresis technique)などの当技術
分野において公知の方法により、同種リンパ球をドナーの末梢血から収集すること、およ
び受容患者へと注入することが含まれる。最終的に、既に説明されたように、患者に本発
明の酵母ベースのワクチンが投与される。この実施形態の一態様において、本発明の方法
には、工程(a)に先立ち、酵母媒体および少なくともひとつの癌抗原を有するワクチン
を、ドナーに投与する工程が含まれる。別の一態様においては、工程(a)を行う前に、
患者から腫瘍を除去する工程が含まれる。
【0133】
本発明の方法において、ワクチンおよび治療用組成物は、霊長類、齧歯類、家畜、およ
び家庭内のペットなどを制限なく含む、脊椎網、哺乳網の任意のメンバーに投与されて
も構わない。家畜には、食物として摂取される、または有用な製品を産出する(羊毛を産
出する羊など)哺乳類が含まれる。保護される好適な哺乳類には、ヒト、イヌ、ネコ、マ
ウス、ラット、ヤギ、ヒツジ、ウシ、ウマ、およびブタが含まれるが、上記哺乳類は特に
ヒトであることが好ましい。本発明において、「患者」という用語は、診断、予防、また
は上述の治療処置の対象となる、任意の動物を表すために用いられている。
【0134】
以下の実験結果は、例示のみを目的としたものであり、本発明の範囲を限定するもので
はない。
【実施例】
【0135】
〔実施例1〕
以下の例は、生体内において、非小細胞肺癌(NSCLC)を治療するために、癌抗原
を含む酵母ベースのワクチンを投与した結果を示している。
【0136】
Rasの変異は、ヒト、ネズミ、ネズミ、およびハムスターの肺腺癌に共通のものであ
る。実際、ras原癌遺伝子ファミリーの変異は、ヒトの癌および実験動物の癌において
、最も一般的な発癌性の変異である。本発明の発明者らは、ras変異に特異的な変異タ
ンパク質に誘導されるように設計された酵母ベースのワクチンが、マウス肺腺癌モデルに
おいて、腫瘍の破壊につながる免疫反応を誘発できるかどうかを試験した。この実験の最
終的な目標は、上記のようなワクチンを、ヒトの肺癌に対して有効に利用できる、という
ことを証明することであった。
【0137】
この実験に使用されるモデルは、A/Jマウスにウレタン(推定的な発癌性代謝物であ
るビニルカルバメートへと代謝される、カルバミン酸エチル)が注射されたマウスモデル
である。およそ6週間で過形成症が、8〜10週間で良性腫瘍が確認され、8カ月後に悪
性腫瘍の初期症状が確認される。10カ月後までには、腫瘍は肺葉の全体を占め、そして
、12カ月後に、呼吸促迫でマウスが死亡する。この実験では、腫瘍細胞において、第6
1位のアミノ酸残基をコードするコドン(コドン61とも呼ばれる)に存在する、ひと
つのK−ras変異が発現している。
【0138】
本発明の発明者らは、第61コドン(配列番号5のK−ras配列に関する)が変異し
たマウスのK−rasタンパク質を発現するように、遺伝子操作がなされた酵母株である
、Ras61−VAX(GlobeImmune)を作成した。上記のK−rasタンパ
ク質は、マウス肺癌およびマウス肺癌細胞株において自然に発現されている変異K−ra
sタンパク質である。ウレタン注射モデルにおいて誘発された腫瘍の成長を防止する、ま
たはその腫瘍のサイズを縮小させる能力に関して、Ras61−VAXを用いて第61コ
ドンの変異に対して免疫が付与された動物の試験を行った。
【0139】
その結果、Ras61−VAXを用いて免疫付与がなされた動物は、マウスをウレタン
に晒すことで自然に発生した既存の肺癌に対して、有効な防御能を示すことが明らかとな
った。コントロールの動物と比較して、免疫付与がなされた動物では、腫瘍の数および腫
瘍のサイズの双方の値が大幅に減少した(図1)。これらの結果は、変異K−rasタン
パク質が発現した本発明の酵母ベースのワクチンを利用することにより、癌により引き起
こされる疾病を治療および/または予防する治療的介入が実行可能であり、有用なもので
あることを示すものである。
【0140】
さらに、図2には、Ras61−VAX(変異はQ61Rのみ)の皮下投与により免疫
が付与されたC57BL/6マウスと、2つの変異を有する変異Rasタンパク質(Ra
sV−VAX、G12V+Q61R)が発現した酵母ワクチンの皮下投与または経鼻投与
がなされたマウスとを、1日目、8日目、22日目、および36日目に比較した、実験の
結果が示されている。29日目に、10000のCMT64細胞を皮下投与することで、
マウスを攻撃した。なお、CMT64細胞は、第12アミノ酸がグリシンからバリンへと
変異した(G12V)、変異K−rasタンパク質を内在的に発現するものである。図2
は、59日目(攻撃から30日後)の腫瘍のサイズ、および、腫瘍を発症した動物数/全
動物数(上のバー)の数値を示している。図2に示すように、Ras61−VAXの投与
は、肺癌の成長に対して、最小限の防御能を提供した(7体のうち2体の動物が腫瘍を発
症しなかった)。また、RasV−VAXの投与は、腫瘍の大きさおよび数を大幅に減少
することにより、特異的な免疫療法的防御能を提供した(皮下投与により免疫付与された
8体のうち4体の動物が腫瘍を発症せず、経鼻投与により免疫付与された8体のうち7体
の動物が腫瘍を発症しなかった)。驚くべきことに、ワクチンの経鼻投与は、同じワクチ
ンの皮下投与と比較して、非常に優れた結果を示した。これらの結果は、酵母ベースのワ
クチン製品を利用した分子的免疫療法の特異性を強調するものである。これらの研究は、
免疫性の腫瘍の成長阻止は、関連したアミノ酸変異を有する癌抗原を含む酵母ベースのワ
クチンの投与に依存していた、という必要条件を明らかにした。
【0141】
〔実施例2〕
以下の例は、生体内において、脳腫瘍を治療するための、癌抗原を含む酵母ベースのワ
クチンの使用方法を示すものである。
【0142】
以下の実験において、Gagタンパク質を発現したワクチン(GI−VAX)、または
PBS(リン酸緩衝生理食塩水)(疑似注射)を用いた皮下注射または経鼻投与によって
、5匹のマウスのグループに2度免疫付与(0日目および7日目)を行い、14日目に腫
瘍発現Gagタンパク質を用いてマウスを攻撃した。ふたつの独立した研究の結果から、
疑似注射されたマウスと比較して、さらに驚くべきことに、皮下経路からワクチンが投与
された動物と比較して、経鼻投与によりワクチンが投与されたマウスは、頭蓋内腫瘍の攻
撃に対する生存期間が長くなることが明らかになった(図3)。なお、皮下ワクチン接種も、皮下
腫瘍の攻撃から動物を保護した(データ図示されず)。これらの結果は、本発明の方法は
、鼻腔内へと投与された時に有効に利用されることを示すものである。また、これらの結
果は、その他の投与経路では有効な効果が生じない場合にも、気道への投与が頭蓋内腫
瘍に対して有効である可能性があることを示すものである。
【0143】
〔実施例3〕
以下の例は、脳腫瘍およびメラノーマを生体内で治療するための、ヒトの癌抗原(EGFR
(epidermal growth factor receptor))を含む酵母ベースのワクチンの使用方法を示す
ものである。
【0144】
防御免疫反応を誘発するための免疫療法的方法の効力は、多くの重要な不定要素に依存
している。まず第1に、ワクチンは、標的抗原を認識する免疫系を活性化すること、すな
わち、免疫賦活活性を提供することが、できなければならない。酵母ベースのワクチンに
おいては、本発明の発明者らは既に、酵母を樹状細胞に取り込むことで、MHCクラスI
およびクラスIIタンパク質の発現を活性化制御し、サイトカインの生産を誘発すること
を示している。これらのことは、免疫賦活活性の顕著な特徴である(Stubb et al., Natu
re Med (2001) 7, 625-629)。内在的な免疫システムが酵母によって活性化される程度は
、細菌細胞壁由来のリポポリサッカライド(LPS)を使用することで観察されるものと
同じである。第2に、ワクチンは、標的抗原の免疫優勢なエピトープの表面提示を免疫系
に促進せねばならない。発明者らは既に、免疫系の細胞性(CTL)および体液性(抗体
)反応を刺激する抗原エピトープの送達に、酵母ベースのワクチンが非常に有効であるこ
とを示している(Stubbs et al, Nature Medicine (2001) 7,625-629)。第3に、そして
最も重要なことに、免疫系を刺激することで、身体において免疫反応が必要とされる部位
に、免疫反応が開始されなければならない。以下に示されるように、驚くべきことである
が、ワクチンの投与経路は、身体の異なる部位において発症した腫瘍に対する、免疫反応
の効果に影響を及ぼすように思われる。
【0145】
EGFR−tm VAX(EGFRを癌抗原として発現する本発明の酵母ワクチン)の
免疫原性を試験するために、上記攻撃実験で使用された神経膠腫腫瘍細胞を変更する必要
があった。ヒトのEGFRを発現するように、B16マウスメラノーマ細胞と9Lラット
神経膠腫腫瘍細胞の形質移入が行われた(それぞれ、B16−E細胞および9L−E細胞
と称す)。その後、クローンされた9L−E細胞株は、hEGFRの発現が高い細胞、発
現が中程度の細胞、または発現が低い細胞へと分類された。従って、B16−E細胞およ
び9L-E細胞は、酵母ワクチン中に含まれる抗原(すなわち、ヒトEGFR)を有して
おり、悪性細胞でEGFRを異なる様式で発現するヒト神経膠腫の適切な代理モデルを提
供するものである。この研究の目的は、ラットの頭蓋内に移植された、致死的な用量の9
L-E神経膠腫細胞の攻撃に対して、酵母ベースの送達手段が、防御免疫を引き起こすこ
とを示すことであった。
【0146】
B16−E細胞および9L-E細胞は、細胞流動計測法によって評価された際に、均一
的にクローンされており、ヒトEGFRを発現することが示された。ワクチンが投与され
ていない場合に、ヒトEGFRタンパク質の異種発現が腫瘍の免疫拒絶反応(immu
ne rejection)を引き起こさないことを確実にするために、形質移入されたB16−E細
胞は、まず最初に、マウスにおいて、その皮下腫瘍の形成能力が試験された(データ図示
せず)。形質移入された9L-E細胞は、ラットの皮下および頭蓋内に腫瘍を形成した(
データ図示されず)。これで、マウスにおけるB16−E腫瘍の攻撃、および、ラットに
おける9L-E細胞の攻撃に対する、EGFR−tm VAX酵母ワクチンの動物を防御
する能力の有効性の試験を行う準備が整った。
【0147】
予備的なワクチンの攻撃の研究は、EGFR−tm VAXの皮下投与が、皮下に移植
された、致死量のB16−E神経膠腫細胞による攻撃から、動物を保護するのに有効かど
うかを決定するために設計された。このアプローチは、腫瘍細胞死を効果的に引き起こす
ための新しい標的癌抗原を使用する、本発明の発明者らの標準的手段のひとつを代表する
ものである。この研究から、EGFR−tm VAXで免疫付与された動物は、疑似注射
された動物(1/6の動物が腫瘍を発症しなかった)(データ図示されず)と比較して、
B16−E腫瘍の攻撃から保護されている(4/6の動物が腫瘍を発症しなかった)こと
が示された。これらの結果により、EGFRは細胞性免疫反応を誘発する適切な抗原とし
ての役割を果たし、EGFR−tmワクチンは、腫瘍の攻撃に対して防御免疫反応を引き
起こすということが確認された。従って、次に、ラットにおける9L-E神経膠腫の頭蓋
内の攻撃に対する、EGFR−tm VAXの有効性の試験を行った。
【0148】
また、発明者らは上述の実験において、経鼻投与されたときに(i.n.)、酵母ベースの
ワクチンは、ワクチンの皮下投与と同等の、皮下のメラノーマの攻撃に対する防御能を提供で
きることも示した(データ図示されず)。従って、次の試験において、皮下B16メラノーマ
の攻撃に対して防御免疫反応を誘発することが示された、酵母ベースの免疫療法用EGF
R−VAX製品が、頭蓋内腫瘍の攻撃に対しても免疫療法的防御を提供することができる
かどうかを試験した。
【0149】
ラットモデルにおける、神経膠腫腫瘍細胞を用いた頭蓋内攻撃によって、EGFR−t
m VAXの有効性および投与経路の影響について、さらなる試験を行った。2000万
個の、hEGFR(EGFR-vax)が発現した酵母細胞、または酵母(ベクターのみを含
む)を、0日目、7日目、21日目に経鼻経路(i.n.)または皮下経路(s.c.)
から投与して、動物(1グループあたり8体)に免疫を付与した。1250個の、形質移
入されなかった9Lラット神経膠腫細胞(9Lのみ)、またはhEGFRを発現している
9Lを、頭蓋内に投与することで、免疫付与動物を攻撃した。体重の損失が、動物の死亡
が迫っていることを示すことから、ラットの体重を毎日観察した。
【0150】
その結果(図4)、EGFR−VAX酵母により免疫が付与された動物の50%は、ラ
ット9L神経膠腫を発現している癌抗原による、致死的な頭蓋内腫瘍の攻撃から、完全に
防御されていることが示された。一方で、癌抗原が欠如した腫瘍の成長を阻止した動物は
存在しなかった。すなわち、ワクチンが抗原特異的免疫を誘導した。さらに、至死的な攻
撃に屈した、残りのEGFR−VAXによる免疫付与動物も、コントロール動物と比較し
て、生存時間が延長されていることが示された。
【0151】
さらに、皮下投与と比較して、経鼻投与で免疫付与された動物は、生存率が統計的に有
意に改善されていることは、非常に興味深くまた驚くべき結果であり、その結果は、マウ
スにおける頭蓋内(メラノーマ)腫瘍の攻撃に対する防御に関する、上述の結果(実施例2参
照)を再現するものであった。
【0152】
このラットの頭蓋内腫瘍の攻撃モデルは、ヒトの神経膠腫のものに非常に近いと考えら
れていることから、これら研究の肯定的な結果は、臨床試験へと移行するために、非常に
優れた前臨床データを提供するものである。追加研究には、用量の範囲、スケジュール、
外科的切除研究、および、免疫系が9L神経膠腫の付加的な(未知の)癌抗原に関して「
学習した」かどうかを確認するための、9L−E生存体の9L腫瘍の再攻撃、同様に、E
GFR−vIII変異タンパク質を発現した酵母媒体の試験が含まれており、これら追加
試験により、臨床用グレードのワクチン製品を生産する基礎が確立されるであろう。
【0153】
上述のデータは、複数の免疫付与経路が末梢癌を破壊するのに有効であるかもしれない
が、本発明の酵母ベースのワクチンは、肺に独特であるかもしれない、初回抗原刺激エフ
ェクター細胞に特に効果的であることが示唆された。酵母ベースのワクチンは、独特のエ
フェクター細胞前躯体を刺激することができることから、経鼻投与により活性化された免
疫細胞は、血液脳関門を通過し、一連の頭蓋内腫瘍の成長に影響を及ぼすことに、特に効
果的であると思われる。従って、脳腫瘍に対して有効な酵母ベースのワクチンを設計する
にあたって、従来はさほど評価されていなかった、免疫の付与経路が非常に重要である可
能性がある。酵母ベースのワクチンは、複数の経路からの免疫付与を非常に容易に行える
ことから、当該ワクチンは、幾つかの癌の治療において従来はその可能性が正当に評価さ
れていなかった、非常に特化した免疫反応を引き起こすという有望性を有している。
【0154】
〔実施例4〕
以下の例は、生体内において、腎臓癌を治療するための、癌抗原を含む酵母ベースのワ
クチンの使用法を示すものである。
【0155】
2001年には、米国内で約31800人の個人が腎臓癌(RCC)と診断され、その
うち11600人が死亡すると見積もられている。この数値は、全ての癌の約2%〜3%
に相当し、腫瘍による全死亡者数の2%を占めている。かつては、患者は血尿、腹部腫瘤
、痛み、および体重の損失、の三徴候を示したが、現在、偶然診断される頻度が増加した
ために、以前より少数の患者がこれらの徴候を有している。潜在的には外科手術により治
療可能であるが、細胞が既に血管系に達していることから、多くの患者はこの疾病が再発
性であると診断される。そのうえ、転移性RCCの療法は非常に限られている。ホルモン
および化学療法的アプローチへの応答率は10%未満であり、さらに、このアプローチは
、生存率に明確な変化をもたらさない。しかしながら、この疾病に免疫学的治療法を使用
することには、長年にわたり関心が寄せられてきた。極めて稀な自然退行の例に加え、治
療の効果が現れた限られた一部の患者(その一部の患者においては完全寛解した)におい
て、α−インターフェロンおよびインターロイキン−2の双方が、「重要な」役割を果た
している事が示された。有望な無作為試験はごくわずかしかなかったが、Cytokin
e Working Groupからの最近の要約書には、高用量のIL−2に対する反
応率は、IL−2/α−インターフェロンの皮下投与が行われている通院患者と比較して
約半分の反応率である、8%の完全反応率、および25%の概ね反応率であった、と記録
されている。全体的に、これまで使用されてきたアプローチは、RCCに対して明確な効
果を示しはするものの、疾病への特異性および効力の双方を欠くものであった。
【0156】
60%より多くのRCCは、VHLに不活性化変異を有している。この不活性化変異は、大
腸癌におけるAPCの役割と同様に、RCCの「ゲートキーパー」遺伝子としての役割を
果たすと考えられている。VHLによりコードされているタンパク質は、E3ユビキチン
−結合(SCF)複合体の必須構成要素である。SCF複合体は、VHL/elongi
nCB/Cul−2(VCB)として知られており、特定のタンパク質を26Sプロテア
ソームによるタンパク破壊の標的にするものである。多くのVHLの変異は、ミスセンス
またはフレームがシフトしたタンパク質を生成する結果となり、癌特異的抗原として認識
されるべき新規のエピトープが生成される。以下の実験は、本発明の新規の酵母ベースの
ワクチンを投与した後に、RCCの変異VHLタンパク質が免疫反応の標的となり得ると
いう仮説について試験を行うものである。
【0157】
マウスにおいては、変異したVHLによって媒介される腫瘍に相当する腫瘍が存在して
いない。従って、本発明の発明者らは、野生型、もしくは、Y98またはR167(配列
番号17のマウスの配列に関連した部位)に発生したふたつの特異的な変異を有する構築
物であって、マウスのVHL配列をコードする発現構築物を調製するために、既知のヒト
VHL配列(配列番号16)、およびクローンされたマウスVHL(配列番号17)を利
用した。これらの2つの位の変異は、ヒトの腫瘍で頻繁に見出されるホットスポットに
対応している。第98チロシンは、HIP1αなどのVHL標的物質のための表面露出結
合部位を形成しており、一方、第167アルギニンは、αヘリックスH1の安定化に重要
である。これらの残基の双方は、溶媒に著しく露出されるものであり、免疫機構の認識に
とってはアクセスしやすいものであると思われる。以下のBLAST比較で示されるよう
に、ヒトおよびマウスのVHLアミノ酸配列は、これら2つのホットスポットを含む第5
8位〜第190位においてほぼ同一である。
【0158】
【表1】

【0159】
従って、これらのマウスの構築物を利用して得られた結果は、ヒトRCCにおける有効
性に関して、かなり正確な評価を供するであろう。Y98は高い頻度でヒスチジンへと変
異され、一方で、R167は一般的にグルタミンまたはトリプトファンへと変異される。
また、R167はフレームシフト変異の影響を受ける。R167コドンの内部にひとつの
グアニン残基を挿入すると、直後に終止コドン(TGA)を有する、新規のフレームシフ
トペプチド(REPSQA)が生成される。本発明の発明者らは、既知のVHL変異の特
徴を再現する、潜在的に免疫原性の変異VHLタンパク質を作成するために、Y98のヒ
スチジンミスセンス変異(Y98H)、およびR167のフレームト変異(R167fr
)の双方を発生させた。フレームシフトVHLタンパク質は、より大きな新規のエピトー
プを発現することができ、その結果、より免疫原性である可能性がある。単一のミスセン
スY98H変異は、単一のアミノ酸しか変異されていないために、このアプローチのより
厳密な試験となるであろう。
【0160】
部位突然変異プロトコールとPCR(ポリメラーゼ連鎖反応)の双方を使用して、これ
らの変異を完全長のmVHLに導入した。簡単に説明すると、変異と未熟終止コドンを導
入するために、特定のPCRプライマーを利用してR133変異を作成した。この変異型
および野生型(WT)VHLを、酵母の発現に利用される酵母発現ベクターpYEX−B
Xへとクローンし、また、メラノーマ細胞での発現および形質移入に利用される哺乳類の
発現ベクターpUPへとクローンした。Y64点変異は、既に成功事例が示されてい
る、Clonetechの部位突然変異プロトコールを利用して作成した。
【0161】
挿入断片は、メラノーマ細胞の形質移入および発現のために、酵母発現ベクターpYE
X−BX、および哺乳類の発現ベクターpUPへとクローンされた。この目標を達成する
ために、本発明の発明者らは、VHLタンパク質を発現するように酵母を遺伝子操作し、
マウスで種々のワクチン製剤の有効性を試験した。pYEX−BXプラスミドは、S.c
erevisiaeへの形質転換の後に、ネズミVHLタンパク質の発現制御を可能にす
る、銅誘導プロモーターを含んでいる。
【0162】
恒常的(constitutive)発現制御を行うCMV初期プロモーターに制御される、VHL遺伝子を有する発
現ベクターは、B16メラノーマ細胞へと形質移入された。生体外で成長された細胞株は
、マウスへと注射されると腫瘍として成長した。このことから、変異VHL構築物は、そ
れ自身は免疫原性ではなく、形質移入細胞に致死的でないことが確認された。最初のワク
チン接種/腫瘍攻撃実験には、実験0日目および7日目に、20×10個のR133ト
ランケーション変異体(VHLtrunc)を発現した酵母を、皮下投与することで免疫
が付与された、18匹の6週齢のC57B6マウスが用いられた。14日目に、以下のよ
うに腫瘍を皮下投与して、マウスを攻撃した。すなわち、6匹のマウスには、2.5×1
個の形質移入されていないB16が接種された。6匹のマウスには、2.5×10
個のVHLwtを発現したB16が接種された。6匹のマウスには、2.5×10個の
VHL VHLtruncを発現したB16が接種された。攻撃から21日後に、マウス
の腫瘍の成長が評価された。この実験の結果は、以下の表2に示されている。
【0163】
【表2】

【0164】
これらの結果は、VHLtruncワクチン(トランケーションの前の、独自の9つの
アミノ酸を標的とする)は、B16 VHL tMutの腫瘍攻撃からの防御能を提供す
るが、この免疫付与により、形質移入されていないB16、またはB16 VHLwtの
攻撃からはマウスが防御されないことが示された。従って、ワクチン接種プロトコールは
、強力な免疫反応を発生させるが、この反応は、動物が免疫付与された抗原に対してのみ
に限定されている可能性がある。しかしながら、このトランケーション変異は、野生型V
HLとは大きく異なる配列を有するために、より少ない変異(すなわち、たった1残基の
み)により、変異型および野生型の双方に対して免疫反応を生じさせることが可能であろ
う。
【0165】
2番目のワクチン接種/攻撃実験(表3)では、野生型VHLワクチン(mVHLwt
VAX)、または上述のトランケーション変異VHLワクチン(mVHLtrunc V
AX)の何れかにより、マウスに免疫が付与された。上述の最初の実験に示されているよ
うに、マウスをグループに分割し、形質移入されていないB16、野生型VHLを発現す
るB16、または変異型VHLを発現するB16を用いてマウスを攻撃した。この結果か
ら、先と同様に、トランケーションVHLワクチンによるワクチン接種は腫瘍の攻撃に対
する防御能を提供するものの、先と同様に野生型の腫瘍の攻撃からはマウスを防御しない
ことが示された。また、野生型の腫瘍が接種されたマウスは、野生型の腫瘍の攻撃から防
御されなかった。このことは、ワクチンが野生型タンパク質の耐性を発生させなかったこ
とを示している。しかしながら、変異型VHLを発現した腫瘍を用いてマウスを攻撃した
場合、野生型タンパク質を用いて免疫を付与したマウスの50%が攻撃から防御されてい
た。このことは、変異VHLは、マウスの免疫機構により、ある程度は認識されていると
いうことを示している。これらの実験において示された、酵母ベースのワクチンの特異性
および有効性から、ヒトにおける最も一般的な変異を標的とした酵母を作成することは、
比較的容易な作業であり、このことは、ヒトにおける治療用ワクチンとしての、潜在的な
ワクチン接種アプローチの下地を作るものであろう。
【0166】
【表3】

【0167】
〔実施例5〕
以下の例は、生体内において、乳癌を治療するための、癌抗原を含む酵母ベースのワク
チンの利用方法を示すものである。
【0168】
肺、乳房、および結腸を含む、中実の臓器の早期腫瘍患者のほとんどは、原発性癌を外
科的に切除することにより治療が可能である。しかしながら、多くの患者に、血行性転移
が存在または再発している。ほんの一部の例外を除き、この血行性転移は、外科手術、放
射線療法、化学療法、または同種幹細胞移植(alloSCT)を含む、現在利用可能な
物理療法による治療が不可能である。同様に、最近設計された癌ワクチンは、最近確立さ
れた疾病の動物モデルにおいて特筆すべき効果を示すものであるが、いったん癌の発生か
ら5日が経過すると、または、転移が発生すると、一般的に、これらワクチンは単剤とし
て効果を発揮しない(Borello et al., 2000, Blood 95: 3011-3019)。このことは、通
常、癌の発生には、癌抗原に対する寛容性の発生が付随することが原因のひとつとされて
おり、治療を成功させるためには、この寛容性を破壊することが必要不可欠であるためで
ある(Ye et al., 1994, Proc. Natl. Acad. Sci. USA. 91: 3916-3920; Staveley-O'Car
roll et al., 1998, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 95: 1178-1183)。骨髄非切除all
oSCTの後のワクチン接種により、付加的な改善がなされているが、しかし発生から3
日以上が経過した癌にはその効果を発揮できない(Anderson et al., 2000, Blood 95: 2
426-2433)。最近、Luznikらは(上記参照)、マウスの乳癌モデルにおいて、安定
した混合骨髄キメリズムの構築に有効である骨髄非切除の幹細胞移植(NST)プロトコ
ールの後のワクチン接種は、癌特異性が大きく増強された免疫反応を生ずることができ、
この免疫反応は、原発性癌の発生から2週間後に、移植片対宿主病(GVHD)を発症す
ることなく、転移癌を排除することができた、と発表している。なお、この内容を、参考
文献として、本明細書に盛り込んである。ワクチン接種単体、もしくは自家SCTまたは
完全なalloSCTの何れかの後のワクチン接種と比較して、大きく増強されたこの戦
略の効率は、混合キメリズムの形成において相互作用する、宿主およびドナーの免疫系
の作用に依存性である。
【0169】
Luznikらの実験において、投与されたワクチンは、顆粒球マクロファージコロニ
ー刺激因子(GM−CSF)と混合された、放射線照射が行われた自家腫瘍細胞から構成
されている。以下の実験において、本発明の発明者らは、同じ動物モデルにおいて、GM
−CSFを生産する細胞と混合された、放射線が照射された自家腫瘍細胞の代わりに、酵
母ベースのワクチンを利用して、同様の効果が得られるということを明らかにした。手短
に述べると、本発明の発明者らは、CUP1プロモーターの制御下にある、マウス乳癌ウ
イルス(MMTV)のgp70タンパク質をコードした酵母発現ベクターが形質移入され
た、Saccharomyces cerevisiae酵母(Yeast gp70−
IT)よりなる、酵母ベースのワクチンを作成した。gp70タンパク質は、MMTVに
感染したBalb/cマウスに発生した、自然発生の乳癌において発現されている。
【0170】
Luznikらによって説明されているプロトコールに従って、0日目に、1万の4T
1腫瘍細胞(MMTV gp70を発現した、Balb/c由来の自然発生の乳癌細胞)
を、Balb/cマウスへと皮下投与した。皮下腫瘍は、MHC適合性のB10.D2ド
ナーからの骨髄非切除の同種幹細胞移植(NST)に先立ち、13日目に切除された。N
STは、13日目には200のcGyTBI、14日目には1000万のドナーの静脈内
の骨髄細胞、17日目には腹膜内の200m/kgのシクロホスファミドから構成されて
いた。B10.D2骨髄を受容したマウスは、その後、以下の何れかを受容する。すなわ
ち、(a)28日目に2000万個のB10.D2脾細胞を受容した後はさらなる治療を
行わないか(ワクチン投与せず)、(b)28日目に2000万のB10.D2脾細胞を
受容し、31日目に自家腫瘍ワクチン(10個の放射線照射4T1腫瘍細胞と、5×1
個のB78H1/GM−CSFと、GM−CSF分泌物と、MHC陰性の第3細胞株
とを混合したもの)を受容するか、または、(c)28日目に2000万のB10.D2
脾細胞を受容し、31日目に本発明の酵母ベースgp70−ITワクチンを受容する。
【0171】
図5から容易に理解できるように、本発明の酵母ベースのワクチンは、致死的な腫瘍の
再発に対して、GM−CSFを生産する自家腫瘍細胞により誘発される防御能と区別がつ
かないほどの防御能を発生させた。患者の自家腫瘍細胞と、第3のGM−CSF生産細胞
株との混合物を利用することと比較して、本発明の酵母ベースのワクチンアプローチの臨
床有用性は、容易に高く評価されるものであろう。その有用性には、幅広い患者への適用
性、結果のばらつきの減少、免疫付与を行う抗原設計の性能向上、安全性の向上、ワクチ
ンにGM−CSFなどの生体反応修飾物質を用いる必要性がない、などが含まれるが、こ
れらに限定されるものではない。
【0172】
〔実施例6〕
以下の例は、生体内において、メラノーマを治療するための、癌抗原を含む酵母ベースのワ
クチンの利用方法を示すものである。
【0173】
この実験では、表4に示されているように、5匹のマウスの5つのグループを利用した
。グループAでは、マウスは腫瘍による攻撃の4週間前および2週間前に、PBSの注射
を受け、腫瘍の攻撃後10日目および17日目に、50×10の酵母ベースhMART
−1ワクチン(ヒトMART−1を発現する酵母媒体)の注射を受けた。グループBでは
、マウスは腫瘍による攻撃の4週間前および2週間前に、および、腫瘍の攻撃後10日目
および17日目に、50×10の酵母ベースhMART−1ワクチンの注射を受けた。
グループCでは、マウスは腫瘍による攻撃の4週間前および2週間前に、PBSの注射を
受け、腫瘍の攻撃後には何の投与も行わなかった。グループDでは、マウスは腫瘍による
攻撃の4週間前および2週間前に、50×10の酵母ベースhMART−1ワクチンの
注射を受け、腫瘍の攻撃後には何の投与も行わなかった。グループEでは、マウスは腫瘍
による攻撃の4週間前および2週間前に、50×10のEGFRワクチン(EGFRを
発現する酵母媒体)の注射を受け、腫瘍の攻撃後には何の投与も行わなかった。0日目に
、全てのマウスに、皮下投与されたD16メラノーマ細胞による腫瘍の攻撃がなされた。グル
ープA〜Dのマウスには、内在性マウスMART−1(細胞は、ヒトMART−1が形質
移入されていない)を発現した、5万のD16メラノーマ細胞が与えられた。また、グループ
Eには、EGFRの形質移入が行われた、5万のD16メラノーマ細胞が与えられた。
【0174】
【表4】

【0175】
その結果が図6に示されている。グループB(腫瘍の攻撃前および後に免疫付与された
もの)およびグループD(腫瘍の攻撃前に免疫付与されたもの)のマウスは、腫瘍の被害
が大幅に減ぜられていることが明らかとなった。このことから、メラノーマ抗原を発現した酵
母ワクチンは、種族間に渡り、メラノーマ腫瘍に対して効果的であることが示された。
【0176】
〔実施例7〕
以下の例は、本発明の酵母媒体で発現する融合タンパク質の構築について示したもので
あり、この融合タンパク質は、複数の免疫原性領域および同じ抗原の複数の変異を有する
ものである。
【0177】
種々のRasファミリーメンバーのヌクレオチドおよびアミノ酸配列は、当技術分野において公
知である。配列番号2は、ヒトのK−ras(GenBank Accession N
o.NM_033360としても知られる)をコードした核酸配列である。配列番号2は
、ここでは配列番号3として示されているヒトのK−rasをコードしている。配列番号
4は、ネズミのK−ras(GenBank Accession No.NM_021
284としても知られる)をコードした核酸配列である。配列番号4は、ここでは配列番
号5として示されているネズミのK−rasをコードしている。配列番号6は、ヒトのH
−ras(GenBank Accession No.NM_005343としても知
られる)をコードした核酸配列である。配列番号6は、ここでは配列番号7として示され
ているヒトのH−rasをコードしている。
【0178】
配列番号8は、ネズミのH−ras(GenBank Accession No.N
M_08284としても知られる)をコードした核酸配列である。配列番号8は、ここで
は配列番号9として示されているネズミのH−rasをコードしている。配列番号10は
、ヒトのN−ras(GenBank Accession No.NM_002524
としても知られる)をコードした核酸配列である。配列番号10は、ここでは配列番号1
1として示されているヒトのN−rasをコードしている。配列番号12は、ネズミのN
−ras(GenBank Accession No.NM_010937としても知
られる)をコードした核酸配列である。配列番号12は、ここでは配列番号13として示
されているヒトのN−rasをコードしている。
【0179】
図7は、本発明の酵母ベースのワクチンに利用される、複数の抗原/免疫原性領域を含
む、様々な融合タンパク質の例を概略的に示した図である。これらの典型的な融合構築物
において、K−Rasタンパク質のアミノ酸第3位〜アミノ酸第165位(配列
番号3の第3位〜第165位)が用いられた。これらはまた、N−Rasお
よびH−Rasにおいても等価なアミノ酸である。すなわち、N−RasまたはH−Rasの第3〜
第165位を用いて、同じ結果を得ることができる。
【0180】
そして、この配列の第12位において、通常はこの位置に起こる変異である、グリシ
ンの、バリン、システイン、またはアスパラギン酸残基への置換が発生する(GI−10
14、GI−4015、およびGI−4016を参照)。また、第61位において、通
常はこの位置に起こる変異である、グルタミンのアルギニンへの変異が発生する。第2の
配列が、この配列に融合(付加)される。この第2の配列は、配列番号3のK−ras全
長アミノ酸第56〜第69位由来の領域である。この第2の配列は、通常この位置に起
こる変異である、第61位のグルタミン酸残基がロイシンへと置換された変異を含んで
いる。これら3つの配列は、より長い配列のN末端にQ61Lドメインが融合された状態
で図中に示されているが、ドメインの順番が倒置された別の構築物も生産される。GI−
1014をコードする構築物のヌクレオチド、および翻訳されたアミノ酸配列は、それぞ
れ、配列番号14および配列番号15により示されている。
【0181】
また、図7には、マルチ抗原Ras融合ワクチン(GI−4018)も示されている。
この融合ワクチンには、上述の第12位の変異、および上述の第61位の両方の変異
、の3つ全てを含んでいる。この融合タンパク質は、以下のようにして構築される。配列
番号1を含む合成配列に、様々なRasの変異を含む4つのポリペプチドが続く。
図7に示された4つのうちの第1番目には、K−Ras(配列番号3)のN末端の第3残
基〜第30残基が含まれている。ここでは、配列番号3における第12位に相当するアミノ酸残基に
は、この位置において自然発生するグリシンがバリンに置換されることによって変異が発
生している。4つの領域のうちの第2番目には、配列番号3のアミノ酸第3残基〜第39
残基が含まれている。ここでは、配列番号3における第12位に相当するアミノ酸残基には、この位置
において自然発生するグリシンがシステインに置換されることによって変異が発生して
いる。4つの領域のうちの第3番目は、配列番号3のアミノ酸第3位〜第165位
からなる。これは、第12位において自然発生するグリシンのアスパラギン酸への置換、および
、第61位において自然発生するグルタミン酸のアルギニンへの置換を含んでいる。4つの領域のうちの第4番目は、配列番号3の
K−ras完全長(K−ras spanning)アミノ酸の第56位〜第69位由来の領域である。この領
域には、第61位に、この位置において自然発生するグルタミン酸残基が
ロイシンに置換される変異を含んでいる。再度述べるが、図7においては、上記領域は
この順序で描かれているが、領域の順番は、必要に応じて再配置できるものであると理解
されたい。
【0182】
この例は、単純に、本発明に有用である抗原構築物が、どのようにして構築されるかを
示すことを目的としている。異なる抗原由来の領域、同じ抗原由来の複数の領域、または
、異なる変異を有するリピート領域を利用した、同様の方法が、その他の抗原に利用され
ても構わない。単一のワクチン構築物において、構築物が複数の異なる変異を有すること
が好ましい時、および/または、抗原のひとつの部位に、自然に起こり得る複数の変異の
組合せを有することが好ましい時に、この種の構築物は特に有用である。
【0183】
本明細書に示された全ての引例は、元の内容をそのまま、参考文献として、本明細書に
盛り込んだものである。
【0184】
本発明の様々な実施例が詳細に示されたが、当分野に熟達した当業者には、これらの実
施形態に変更、修正を加えることが可能であることは明白である。そのような変更、修正
を加えたものも、本発明の範囲内に含まれるということは、容易に理解されうることであ
ろう。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
動物を癌から守るための治療用組成物であって、該組成物は、
a)酵母媒体;および
b)該酵母媒体によって発現された融合タンパク質を含み、
該融合タンパク質は、
i)少なくともひとつの抗原またはその免疫原性領域;および
ii)該抗原またはその免疫原性領域のN末端に結合したペプチドを含み、
該ペプチドは、該抗原とは異種の少なくとも二つのアミノ酸残基からなり、
ここで、該ペプチドは、該酵母媒体における該融合タンパク質の発現を安定化させるか、または、該発現した融合タンパク質の翻訳後修飾を防止し;
ここで、該融合タンパク質の第1位のアミノ酸残基はメチオニンであり;
ここで、該融合タンパク質の第2位のアミノ酸残基はグリシンでもプロリンでもなく;
ここで、該融合タンパク質の第2位〜第6位のアミノ酸残基は、いずれもメチオニンではなく;そして
ここで、該融合タンパク質の第2位〜第5位のアミノ酸残基は、いずれもリジンでもアルギニンでもない、治療用組成物。
【請求項2】
治療用組成物であって、
a)酵母媒体;および
b)該酵母媒体によって発現された融合タンパク質を含み、
該融合タンパク質は、
i)少なくともひとつの抗原またはその免疫原性領域;および
ii)該抗原またはその免疫原性領域のN末端に結合したペプチドを含み、
該ペプチドは、M−X−X−X−X−Xというアミノ酸配列を含み、
ここで、Xは、グリシン、プロリン、リジンまたはアルギニンを除く任意のアミノ酸であり、
ここで、Xは、メチオニン、リジンまたはアルギニンを除く任意のアミノ酸であり、
ここで、Xは、メチオニン、リジンまたはアルギニンを除く任意のアミノ酸であり、
ここで、Xは、メチオニン、リジンまたはアルギニンを除く任意のアミノ酸であり、そして
ここで、Xは、メチオニンを除く任意のアミノ酸である、治療用組成物。
【請求項3】
がプロリンである、請求項2に記載の治療用組成物。
【請求項4】
前記ペプチドは、前記抗原またはその免疫原性領域のアミノ酸配列に対して異種の2と6との間のアミノ酸残基からなる、請求項1〜3のいずれか1項に記載の治療用組成物。
【請求項5】
前記ペプチドは、M−A−D−E−A−P(配列番号1)というアミノ酸配列を含む、請求項1〜3のいずれか1項に記載の治療用組成物またはワクチン。
【請求項6】
前記抗原は、癌抗原、ウイルス抗原、過剰発現した哺乳動物の細胞表面分子、細菌性抗原、真菌性抗原、原虫抗原、蠕虫抗原、外寄生体抗原、癌抗原、ひとつまたはそれより多くの変異アミノ酸を有する哺乳動物細胞分子、哺乳動物細胞で出生前または新生期に一般的に発現されるタンパク質、疫学的因子の挿入により発現が誘導されるタンパク質、遺伝子転座によって発現が誘導されるタンパク質、および制御配列の変異によって発現が誘導されるタンパク質からなる群より選択される、請求項1〜5のいずれか1項に記載の治療用組成物。
【請求項7】
前記抗原が癌抗原である、請求項1〜5のいずれか1項に記載の治療用組成物。
【請求項8】
メラノーマ、扁平上皮癌、乳癌、頭頚部癌、甲状腺癌、軟部組織肉腫、骨肉腫、精巣癌、前立腺癌、卵巣癌、膀胱癌、皮膚癌、脳腫瘍、脈管腫、血管肉腫、肥胖細胞腫、原発性肝癌、肺癌、膵臓癌、消化器癌、腎細胞癌、造血性腫瘍形成、および、これらの転移癌からなる群より選択される癌から動物を守るための治療用組成物であって、該組成物は、
a)酵母媒体;および
b)少なくともひとつの癌抗原またはその免疫原性領域
を含む、治療用組成物。
【請求項9】
前記癌が、肺癌、脳腫瘍、腎臓癌、乳癌およびメラノーマからなる群より選択されるからなる群より選択される、請求項8に記載の治療用組成物。
【請求項10】
脳腫瘍または肺癌から動物を守るための治療用組成物であって、該組成物は、
a)酵母媒体;および
b)少なくともひとつの癌抗原またはその免疫原性領域
を含み、該組成物は、該動物の気道への該組成物の送達のために処方されている、治療用組成物。
【請求項11】
乳癌を有し、かつ安定した混合骨髄キメリズムの確立に有効である骨髄非切除の幹細胞移植、続いて該同種のドナーから得られたリンパ球の該患者への投与によって処置された患者を治療するための治療用組成物であって、ここで、該幹細胞は、同種のドナーから提供されており、ここで、該組成物は、
a)酵母媒体;および
b)少なくともひとつの癌抗原またはその免疫原性領域
を含む、治療用組成物。
【請求項12】
前記融合タンパク質は、少なくとも2つまたはそれより多くの抗原を含む、請求項1〜11のいずれか1項に記載の治療用組成物。
【請求項13】
前記融合タンパク質は、ひとつまたはそれより多くの抗原の少なくともひとつまたはそれより多くの免疫原性領域を含む、請求項1〜11のいずれか1項に記載の治療用組成物。
【請求項14】
前記癌抗原が、メラノーマ、扁平上皮癌、乳癌、頭頚部癌、甲状腺癌、軟部組織肉腫、骨肉腫、精巣癌、前立腺癌、卵巣癌、膀胱癌、皮膚癌、脳腫瘍、脈管腫、血管肉腫、肥胖細胞腫、原発性肝癌、肺癌、膵臓癌、消化器癌、腎細胞癌、造血性腫瘍形成、および、これらの転移癌からなる群より選択される癌に関連する抗原である、請求項7〜13のいずれか1項に記載の治療用組成物。
【請求項15】
前記癌抗原は、腫瘍抗原、ひとつまたはそれより多くの変異アミノ酸を有する哺乳動物細胞分子、哺乳動物細胞で出生前または新生期に一般的に発現されるタンパク質、疫学的因子の挿入により発現が誘導されるタンパク質、遺伝子転座によって発現が誘導されるタンパク質および/または制御配列の変異によって発現が誘導されるタンパク質から選択される、請求項7〜13のいずれか1項に記載の治療用組成物。
【請求項16】
前記癌抗原は、複数の領域を含む融合タンパク質構造物からなり、
ここで、該それぞれの領域は、腫瘍性タンパク質由来のペプチドからなり、
該ペプチドは、該タンパク質に見られる変異アミノ酸とその両側のアミノ酸とを含む、少なくとも4つのアミノ酸残基からなり、
ここで、該変異は、造腫瘍性に関連する、請求項7〜13のいずれか1項に記載の治療用組成物。
【請求項17】
前記癌抗原が、Ras、CEA、EGF−R、Muc−1、BCR−abl、MAGE、NY−ESO−1、gp100、チロシナーゼ、PSA、PMSA、HER2/neu、hTERT、MART1、TRP−1、TRP−2、p53の発癌性変異型(TP53)、p73、BRAF、APC(腺腫様多発結腸ポリープ)、myc、VHL(von Hippel’s Lindau protein)、Rb−1(網膜胚種細胞腫)、Rb−2、BRCA1、BRCA2、AR(アンドロゲン受容体)、Smad4、MDR1またはFlt−3から選択される、請求項7〜13のいずれか1項に記載の治療用組成物。
【請求項18】
前記癌抗原は、ras遺伝子によりコードされた野生型または変異型のタンパク質である、請求項7〜13のいずれか1項に記載の治療用組成物。
【請求項19】
前記癌抗原は、野生型または変異型のEGF−Rである、請求項7〜13のいずれか1項に記載の治療用組成物。
【請求項20】
前記酵母媒体は、酵母全体、酵母スフェロプラスト、酵母細胞質体、酵母形骸および酵母亜細胞膜抽出物またはその画分からなる群より選択される、請求項1〜19のいずれか1項に記載の治療用組成物。
【請求項21】
前記酵母媒体が、酵母全体、酵母スフェロプラスト、酵母細胞質体および酵母形骸からなる群より選択される、請求項1〜20のいずれか1項に記載の治療用組成物。
【請求項22】
前記酵母媒体は、酵母全体または酵母スフェロプラストである、請求項1〜21のいずれか1項に記載の治療用組成物。
【請求項23】
前記酵母媒体は、殺された酵母全体である、請求項1〜22のいずれか1項に記載の治療用組成物。
【請求項24】
前記酵母媒体は、Saccharomyces、Schizosaccharomyces、Kluveromyces、Hansenula、CandidaおよびPichiaからなる群より選択された酵母由来である、請求項1〜23のいずれか1項に記載の治療用組成物。
【請求項25】
前記酵母媒体は、S.cerevisiae由来である、請求項1〜24のいずれか1項に記載の治療用組成物。
【請求項26】
前記組成物は、生体反応修飾物質をさらに含む、請求項1〜25のいずれか1項に記載の治療用組成物。
【請求項27】
本明細書中に記載の発明。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2010−254721(P2010−254721A)
【公開日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−181980(P2010−181980)
【出願日】平成22年8月16日(2010.8.16)
【分割の表示】特願2004−563714(P2004−563714)の分割
【原出願日】平成15年12月16日(2003.12.16)
【出願人】(505226437)グローブイミューン,インコーポレイテッド (10)
【Fターム(参考)】