説明

免疫細胞活性化材およびカラム

【課題】免疫細胞を活性化できるとともに、生体への安全性に優れた材料及び該材料を充填したカラム、並びに該カラムを効果的に使用する方法を提供する。
【解決手段】アミノ基または水酸基と共有結合しうる官能基を有する水不溶性担体にリポタイコ酸を固定化してなることを特徴とする免疫細胞活性化材、及び該免疫細胞活性化材が充填されたカラム、並びに抗悪性腫瘍剤の投与と併用して体外循環に使用することを特徴とするカラムの使用方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、感染症や癌治療に使用できる免疫細胞活性化材およびカラム並びに該カラムの使用方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
先進国では寿命の延長に伴い、癌で死亡する人の割合が急増している。また、高齢化による感染症の増加も問題である。これらは加齢による免疫能低下が原因と考えられる。腫瘍の治療には、主として抗悪性腫瘍剤が使われるが、抗悪性腫瘍剤は腫瘍細胞だけでなく、正常な骨髄細胞をも破壊するので、患者の免疫能の低下を招く。
例えば、抗悪性腫瘍剤投与による副作用として好中球減少症が起きることが多く、この場合、日和見感染の危険が高まる。この予防のために、グラヌロサイト・コロニー刺激因子(G−CSF)の投与が行われているが、癌の転移や増殖に効果があるわけではなく、逆に、癌の増殖を助長する危険性もある。また、抗悪性腫瘍剤投与によって好中球だけでなく、リンパ球等の他の免疫細胞も損傷を受けるので、病原菌に対するだけでなく、癌に対する防御能も低下する。
【0003】
従って、このように加齢や抗悪性腫瘍剤投与などにより免疫能の低下した患者の免疫を高める方法が望まれている。特に、化学療法を受けている癌患者において、抗悪性腫瘍剤の使用量を減らして免疫系の損傷を防ぐと共に、免疫細胞を活性化して免疫を高めるような方法の出現が望まれている。
【0004】
免疫を活性化する方法の一つとして、白血球を体外に導き、免疫を高めるような材料に接触させる方法が考えられる。このような体外循環用の細胞活性化材は以前も考えられていて、グラム陰性菌細胞壁由来のリポポリサッカライドを固定化した繊維(非特許文献1)やレクチンの一種であるポークウッドマイトジェンを固定化したビーズ(非特許文献2)が報告されている。
しかし、これらのリガンドであるリポポリサッカライド、ポークウッドマイトジェンはいずれも毒性の強い物質であり、これらをカラム本体(筒体)に詰めて、体外循環に使った時は、万一、担体から血液中に遊離して全身に回れば、患者がショックを起こす危険がある。
したがって、より安全性に優れた免疫活性化材が必要である。
【非特許文献1】Tani T, et al. Therapeutic Apheresis 4,167-172, 2000.
【非特許文献2】Numa K, et al. Cancer Immunol Immunother, 32, 125-130, 1990.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記問題を解消するため、免疫細胞を活性化できるとともに、生体への安全性に優れた材料、及び該材料を充填したカラムを提供することを課題とする。また、抗悪性腫瘍剤の投与量を減少することができる該カラムの使用方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者等は、上記課題を解決するために、安全に使用することのできる免疫活性化材が得られないか、種々検討した結果、毒性の低いリポタイコ酸を、そのアミノ基または水酸基との共有結合により水不溶性担体に固定化した材料が、ラット脾細胞の細胞性免疫を活性化することを見出し、本発明に到達した。
【0007】
すなわち本発明は、アミノ基または水酸基と共有結合しうる官能基を有する水不溶性担体にリポタイコ酸を固定化してなる免疫細胞活性化材である。
【0008】
前記リポタイコ酸は合成することも可能であるが、グラム陽性菌由来のものが好ましい。特に安全性に優れたリポタイコ酸として、溶血性連鎖球菌及び枯草菌に由来するものが挙げられる。
【0009】
前記アミノ基または水酸基と共有結合しうる官能基は、活性ハロゲン基、イソチオシアナート基、イソシアナート基、アルデヒド基及びカルボキシル基からなる群から選ばれる少なくとも一つであることが好ましい。
【0010】
また、前記水不溶性担体は、芳香族化合物重合体であることが好ましい。
【0011】
また、前記免疫細胞活性化材の形状は、繊維、膜、中空糸または粒状であることが好ましい。該活性化材は、カラムに充填して用いるのに好適である。また、該カラムは、体循環治療用カラムとして用いることができる。
【0012】
さらに、本発明者らは、上記体外循環カラムのより有効な使用方法を検討した結果、癌治療の際に、抗悪性腫瘍剤と共に用いて治療の効果を高め、ひいては抗悪性腫瘍剤の投与量を軽減することに成功し、本発明を完成した。
【0013】
すなわち、本発明は、上記体外循環カラムの使用方法であって、抗悪性腫瘍剤の投与と併用して(すなわち、抗悪性腫瘍剤の投与前あるいは投与後または投与と同時に)、体外循環に使用することを特徴とするカラムの使用方法である。より好ましい使用方法は、抗悪性腫瘍剤を投与した後、体外循環に使用する方法である。
【0014】
前記抗悪性腫瘍剤は、代謝拮抗性抗悪性腫瘍剤であることが好ましく、ゲムシタビンであることがより好ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明の免疫細胞活性化材によれば、キラー細胞の誘導に結びつく細胞活性化を引き起こすことができる。また、本発明の使用方法によれば、進行癌の治療または患者の延命およびクオリティ・オブ・ライフの向上が可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明でいうアミノ基または水酸基と共有結合しうる官能基とは、アミノ基または水酸基と化学反応して共有結合を形成しうる官能基であれば、何でも良く特に限定されない。具体例を上げると、クロルメチル基、ブロムメチル基、ヨードメチル基等で代表されるハロメチル基、クロルアセチル基、ブロムアセチル基、ヨードアセチル基等で代表されるハロアセチル基等で代表される活性ハロゲン基、イソチオシアナート基、イソシアナート基、アルデヒド基、カルボキシル基等およびこれらの誘導体が挙げられるが、目的に応じ、適宜、これらの群から選ばれる一つあるいは複数が用いられる。
【0017】
本発明でいう水不溶性担体とは、ポリスチレン、ポリビニルトルエンで代表されるビニル芳香族化合物重合体、芳香族ポリスルホン重合体、ポリエーテルイミド、芳香族ポリイミド重合体、ポリアクリル酸エステル系重合体、ポリメタアクリル酸エステル系重合体、ポリビニルアルコール系重合体、ポリ塩化ビニル、ガラス等、実質上、水に不溶性の重合体で、かつ、リポタイコ酸を化学結合で固定化することができる重合体の成型品を意味する。
具体例をあげると、芳香族化合物重合体の場合、その芳香核の一部が下記一般式(1)
−(CHn −A−(CHm −Y (1)
(式中、nは1以上20以下の整数を表し、mは0以上20以下の整数を表し、nとmは同一でも異なっていてもよい。Aは酸素原子、硫黄原子、窒素原子、尿素基、アミド基またはメチレン基を示し、YはCl、Br、I、−N=C=O、−N=C=Sを表す)で示される官能基を結合しているものが挙げられる。
【0018】
本発明の上記担体に用いられる重合体(および共重合体)の分子量は、成型できるものであればよく特に制限はないが、成形性の良さから、通常、5万以上500万以下、とりわけ、10万以上100万以下のものが好ましく用いられる。
【0019】
本発明の重合体中における官能基の適正な量、即ち密度は、幹となる重合体の化学構造および用途によって異なるが、少なすぎるとその機能が発現されず、多すぎると利用されずに無駄になる。従って、例えば、一般式(1)で表される官能基を有する芳香族化合物重合体の場合、官能基の量は、通常、繰り返し単位(単量体)当たり0.001〜4個、とりわけ、0.01〜1個が好ましい。
【0020】
リポタイコ酸は溶血性連鎖状球菌、枯草菌、黄色ブドウ球菌等のグラム陽性菌の細胞壁に存在する化合物であるが、菌体をブタノール等の有機溶媒で抽出した後、混入するタンパク質を分解・除去し、適宜、クロマト精製して、純粋な形で得ることができる(例えば、J.Immunotherapy 1993:13:232-242)。
【0021】
リポタイコ酸の固定化密度は、少なすぎるとその機能が発現されず、多すぎると利用されずに無駄になる。従って、リポタイコ酸の量は、通常、繰り返し単位当たり0.0000001〜0.04個、とりわけ、0.00001〜0.005個が好ましい。しかし、体外循環材料として用いる場合、免疫細胞活性化材表面に固定化されたリポタイコ酸は血液細胞と接触できるので、有効に働くが、免疫細胞活性化材の内部に存在するリポタイコ酸は血液細胞と接触する機会が無いので、有効に働かない。従って、リポタイコ酸の固定化密度は成型品表面での密度が重要である。その観点からは、官能基を有する水不溶性担体を形成後、リポタイコ酸の溶液に入れて固定化する方法で製造したものが好ましい。
一方、体外循環の際、安全に体外に取り出せる血液量はヒトの場合、200mLと言われているので、カラムの大きさには限界があり、従って、充填できる活性化材の量に限界がある。これらを勘案すると、前記方法で製造した免疫細胞活性化材におけるリポタイコ酸の固定化密度は、0.01mg/g〜10mg/gが好ましく、リポタイコ酸の効率的利用の観点で0.1mg/g〜1mg/gがさらに好ましい。
担体に固定化されたリポタイコ酸の量は、固定化時の固定化反応母液中に残存するリポタイコ酸量から簡便に求めることができるが、リポタイコ酸固定化物(免疫細胞活性化材)を分析して求めることも可能である。
後者の方法としては、リポタイコ酸固定化物を抗リポタイコ酸抗体水溶液に浸して、抗原-抗体結合を進行させたあと、当該水溶液中に残存する遊離抗体量を測定し、反応前の抗体量との差を求めることにより容易に定量することができる。その他、リポタイコ酸固定化物を酸で加水分解処理した後、加水分解液中に含まれるグリセリン、リン酸、グルコース、アミノ糖、アミノ酸、長鎖脂肪酸などを高速液体クロマトグラフィーなどで分析することによって定量することも可能である。
【0022】
本発明の免疫細胞活性化材は、対応するリポタイコ酸の溶液に、担体を加え、そのまま、あるいは、必要に応じて縮合剤を加えることによって反応させ、製造することができる。具体的には、担体がクロルメチル基、ブロムメチル基、ヨードメチル基等で代表されるハロメチル基、クロルアセチル基、ブロムアセチル基、ヨードアセチル基等で代表されるハロアセチル基等で代表される活性ハロゲン基を有する場合は、リポタイコ酸水溶液のpHを7〜12に調整することにより固定化反応を進めることができる。また、担体がイソチオシアナート基、イソシアナート基を有する場合は、反応液に触媒として第3級アミンを加えることにより進めることができる。この場合、尿素結合やチオウレイド結合、もしくは、チオ尿素結合やチオウレイド結合でリポタイコ酸を固定化する。担体がカルボキシル基を有する場合は、反応液にジシクロヘキシルカルボジイミドや水溶性カルボジイミドなどのペプチド縮合剤を加えることにより得ることができる。
反応溶媒としては、リポタイコ酸を溶解するものであれば良く、特に限定されないが、水のほか、ジメチルスルホキシド、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミドおよびN−メチルピロリドンなど、担体を膨潤させる有機溶媒が好ましく用いられる。
【0023】
本発明でいう免疫細胞活性化は、第1に癌細胞やウイルス感染細胞を駆除する役割を持つキラー細胞の増殖や活性化を意味する細胞性免疫の活性化である。第2に癌細胞やウイルスに対する抗体の産生に関与する細胞の活性化を意味する液性免疫の活性化である。癌の治療においては細胞性免疫がとりわけ重要であると言われている。このキラー細胞の増殖・活性化にはインターロイキンー12(以下IL−12と呼ぶ。)とインターフェロン−γが重要な役割を持つことが分かっているので、IL−12やインターフェロン−γを誘導できることが免疫細胞活性化材の重要な機能である。なお、本発明の作用機構は明確でなく、これを明らかにするには、さらなる検討が必要であるが、活性化の初期に樹状細胞やそのトールライクレセプター類が関与しているものと考えられる。
【0024】
本発明の免疫活性材の形状は、繊維、膜、フイルム、中空糸、不織布、粒状物およびこれらの高次加工品であり、用途に応じ、適宜、選択される。これらは、体外循環用カラムに充填し、癌治療用として用いることができる。この場合、抗悪性腫瘍剤と併用して用いるのが効果的である。
【0025】
本発明で用いる抗悪性腫瘍剤としては、単独使用で抗腫瘍性を示す薬剤であれば良く、特に制限されない。具体例を挙げると、ゲムシタビン、フルオロウラシル、テガフール、シタラビン、メトトレキセートなどで代表される代謝拮抗性抗悪性腫瘍剤、シクロホスファミドで代表されるアルキル化剤、ビンクリスチン、ビンブラスチン、ビンデシン、エトポシド、イリノテカン、ドセタキセル、パクリタキセルなどで代表されるアルカロイド系抗悪性腫瘍剤、ドキソルビシン、エピルビシン、ビラルビシン、ダウノルビシン、マイトマイシンC、アクチノマイシンD、ペプロマイシン、ネオカルチノスタチン、ブレオマイシンなどで代表される抗生物質抗悪性腫瘍剤、ゲフィチニブなどで代表される酵素阻害性抗悪性腫瘍剤、シスプラチン、カルボプラチンなどがある。なかでも代謝拮抗性抗悪性腫瘍剤が、アルキル化剤に認められるような発癌性が無く、且つ、骨髄などに対する毒性も低いので、好ましい。さらに、代謝拮抗性抗悪性腫瘍剤のなかでもゲムシタビンは、腫瘍細胞内での代謝が遅いために抗腫瘍効果が持続し、多くの固形腫瘍に対して抗腫瘍効果を示すので、特に、好ましい。
【0026】
本発明における抗悪性腫瘍剤の好ましい投与方法としては、腫瘍の近くの組織に注射する方法、静脈に注射する方法、筋肉内に注射する方法、経口で投与する方法などがあり、特に制限はされないが、薬の特性に応じて適宜採用することが好ましい。投与量が少なすぎると、本発明の効果が低く、投与量が多すぎると、骨髄抑制などが起き、腫瘍免疫の誘導が抑制され、抗腫瘍効果が逆に低下してしまう。一般的には個々の抗悪性腫瘍剤に指定された適正投与量の100分の1以上2分の1以下の使用が望ましい。抗悪性腫瘍剤の投与時期は、体外循環治療の前でも後でも同時でもよいが、体外循環治療に先だって行われるのがより好ましい。特に好ましくは体外循環治療の24時間から200時間前、より好ましくは24時間から100時間前におこなわれる。
【0027】
本発明で用いる免疫細胞活性化材の表面積は成型品1グラム当たり0.1平方メートル以上であることが好ましく、より好ましくは、1平方メートル以上である。ただし無限に大きくはできないので、実際上、限界があり、100平方メートル以下が好ましい。この表面積は窒素ガス吸着法(BET法)で求めることができる。
【0028】
本発明で用いる体外循環カラムの作製は、例えば綿状、筒編み状、フェルト状のリポタイコ酸を固定化した免疫細胞活性化材を、空隙容積が200mL程度以下になるようにして、適度の大きさの円筒形のカラム本体に詰めることで達成できる。
体外循環の基本的な実施方法としては、採血用穿刺カテーテル、抗凝固剤を連続的に投与するための輸液ポンプを接続したドリップチャンバー、血液ポンプ、ドリップチャンバー、本発明の体外循環カラム、ドリップチャンバー、返血用穿刺カテーテルの順に適度の太さのチューブを用いて連結し、体外循環回路を作製し、これに血液を流すことで行うことが出来る。採血および返血は大腿や腕の動脈もしくは静脈に穿刺して行う。大型の哺乳動物に対しては通常、血液透析器や吸着型血液浄化器のために市販されている体外循環装置と血液回路を使用することができる。体外循環の時間は10分から300分間、通常、30分から120分間行われるのが好ましい。体外循環の際に用いる抗凝固剤には特に制限はなく、ヘパリンやフサンなどが用いられる。
【0029】
本発明の使用方法による治療では、抗悪性腫瘍剤(抗癌剤)の使用量が少なくて済むので、副作用が少ない利点がある。さらに、患者のQOLを低下させない利点がある。
【実施例】
【0030】
本発明を実施例に基づいて具体的に説明する。なお、本実施例中のリポタイコ酸の濃度及びNK活性の分析は以下に従った。
1.リポタイコ酸濃度の分析
フェノール硫酸法で求めた。即ち、直径20mmのガラス製試験管にリポタイコ酸を含有する水溶液2mLと5%フェノール水1mLを加えた後、5mLの濃硫酸を急速に添加し、振とうした。この液を30分間静置した後、485nmの吸光度を測定し、検量線から濃度を求めた。なお、検量線作成の際、反応触媒としてトリエチルアミンを使用した場合は、処理前の溶液の吸光度から得たトリエチルアミンを同濃度になるよう加え、検量線を作製した。
2.NK活性の測定
(YAC−1細胞の調製)
NK細胞感受性の癌細胞であるYAC−1細胞は、ペニシリンGを50単位/mL、ストレプトマイシンを50マイクログラム/mL、2−メルカプトエタノールを50マイクロモル/L含有し、ウシ胎児血清を10体積%となるよう添加したPRMI1640培地(以下完全培地と略称する)中で経代培養した。
(ラット脾細胞)
ラットをネンブタールで麻酔した後、腹部大動脈から失血・屠殺させ、脾臓を採取した。脾臓を完全培地中で細かく砕き、細胞を採取した後、赤血球を除くため低浸透圧液で処理し、溶血させた。得られた細胞を完全培地に浮遊させ、脾細胞液とした。
(YAC−1細胞のユーロピウムラベルとNK活性の測定)
YAC−1細胞のユーロピウムラベルは文献(Nagao F, Tanaka M, 1992 Medical Immunology, 23 (1), 84-88)に従って行った。脾細胞とユーロピウムラベルしたYAC−1細胞を40:1、20:1、10:1、5:1(細胞数比)で混合した後、37℃の炭酸ガスインキュウベーター中、20時間培養した。ユーロピウム溶出量の測定はWallac社製 ARVOTM SX DELFIA 1420 マルチラベルカウンターを用いて測定した。
【0031】
[実施例1]
(水不溶性担体1の調製)
1.原糸の調製
36島の海島複合繊維であって、島が更に芯鞘複合によりなるものを次の成分を用いて、紡糸速度800m/分、延伸倍率3倍の製糸条件で得た。
島の芯成分;ポリプロピレン
島の鞘成分;ポリスチレン90重量%、ポリプロピレン10重量%
海成分;エチレンテレフタレート単位を主たる繰り返し単位とし、共重合成分として5−ナトリウムスルホイソフタル酸3wt%含む共重合ポリエステル
複合比率(重量比率);芯:鞘:海=40:40:20
上記で得られた三成分複合繊維を苛性ソーダ水溶液中で加熱して、海成分を溶解し、芯鞘型のポリプロピレン補強ポリスチレン繊維として、直径4μmの原糸1を得た。
2.水不溶性担体の調製
ニトロベンゼン700mLと硫酸460mLの混合液にパラホルムアルデヒド3.6g(0.2重量%)を加え、20℃で溶解した後、0℃に冷却し、127g(7重量%)のN−メチロール−α−クロルアセトアミドを加えて、5℃以下で溶解した。これに39gの上記原糸1を浸し、室温で2時間静置した。その後、繊維を取り出し、大過剰の冷メタノール中に入れ、洗浄した。繊維をメタノールで良く洗った後、水洗し、乾燥して、57.5gのα−クロルアセトアミドメチル化ポリスチレン繊維(水不溶性担体1)を得た(繰り返し単位当たりの官能基密度:1)。
【0032】
[実施例2]
(水不溶性担体2の調製)
チオシアン化ナトリウム20gを400mLのジメチルホルムアミド400mlに溶かした溶液に13gの水不溶性担体1を浸し、室温で48時間浸漬した。繊維を取り出し、水洗後、真空乾燥して、13gのα−チオイソシアナトアセトアミドメチル化ポリスチレン繊維(水不溶性担体2)を得た。
【0033】
[実施例3]
(水不溶性担体3の調製)
ニトロベンゼン16mLと硫酸32mLの混合溶液を0℃に冷却後、4.2gのN−ヒドロキシメチル−2−クロルアセタミドを加えて、溶解し、これを、10℃のユーデルポリスルホンP3500の1.5Lのニトロベンゼン溶液(150g/1.5L)に、良く攪拌しながら加え、さらに、室温で3時間攪拌した。その後、反応混合物を大過剰の冷メタノール中に入れ、ポリマーを沈殿させた。沈殿をメタノールで良く洗った後、乾燥して、150gの2−クロルアセタミドメチル化ポリスルホン(繰り返し単位当たりの官能基密度:0.05;重合体−A)を得た。
10gの重合体−Aを500mLのテトラヒドロフランに溶解し、重合体−Aの溶液とした。この溶液中に、単糸繊度0.7デニールのナイロンー6の筒編み40.0gを浸した。20時間後、筒編みを取り出し、液を切って、風乾燥し、さらに、真空乾燥して、40.5gのコーティング編み地(水不溶性担体3)を得た。
【0034】
[実施例4]
(水不溶性担体4の調製)
ニトロベンゼン600mLと硫酸390mLの混合溶液にパラホルムアルデヒド3gを20℃で溶解した後、0℃に冷却し、75.9gのN−ヒドロキシ−2−クロルアセトアミドを加えて、5℃以下で溶解した。これに10gの実施例1で調製した原糸1を浸し、室温で2時間静置した。その後、繊維を取りだし、大過剰の冷メタノール中に入れ、洗浄した。繊維をメタノールで良く洗った後、水洗し、乾燥して、15.0gのポリプロピレン補強2−クロルアセトアミドメチル化ポリスチレン繊維(水不溶性担体4)を得た。
【0035】
[実施例5]
(免疫細胞活性化材1の調製)
リポタイコ酸の固定1
Bacillus subtilis由来のリポタイコ酸(シグマ社)10mgを炭酸緩衝液(pH8.3)に溶かして100mLとし、これに5.45gの水不溶性担体1を加え、室温で48h振とうした。繊維を取り出し、水洗し、本発明にかかる免疫細胞活性化材1を得た。固定化前と固定化後の水溶液のリポタイコ酸濃度の差から固定化量を算出した。リポタイコ酸固定化密度は0.56mg/g (92pmol/g )であった。
【0036】
[実施例6]
(免疫細胞活性化材2の調製)
リポタイコ酸の固定2
Bacillus subtilis由来のリポタイコ酸(シグマ社)10mgを炭酸緩衝液(pH9.1)に溶かして100mLとし、これに5.55gの水不溶性担体1を加え、室温で48h振とうした。繊維を取り出し、水洗し、本発明にかかる免疫細胞活性化材2を得た。固定化前と固定化後の水溶液のリポタイコ酸濃度の差から固定化量を算出した。リポタイコ酸固定化密度は0.61mg/g (100pmol/g )であった。
【0037】
[実施例7]
(免疫細胞活性化材3の調製)
リポタイコ酸の固定3
Bacillus subtilis由来のリポタイコ酸(シグマ社)10mgを炭酸緩衝液(pH10.0)に溶かして100mLとし、これに5.25gの水不溶性担体1を加え、室温で48h振とうした。繊維を取り出し、水洗し、本発明にかかる免疫細胞活性化材3を得た。固定化前と固定化後の水溶液のリポタイコ酸濃度の差から固定化量を算出した。リポタイコ酸固定化密度は0.63mg/g (103pmol/g )であった。
【0038】
[実施例8]
(免疫細胞活性化材4の調製)
リポタイコ酸の固定4
Streptococcus pyrogenes由来のリポタイコ酸(シグマ社)10mgをリン酸緩衝生理食塩液(pH7.4)に溶かして100mLとし、これに6.0gの水不溶性担体1を加え、室温で48h振とうした。繊維を取り出し、水洗し、本発明にかかる免疫細胞活性化材4を得た。固定化前と固定化後の水溶液のリポタイコ酸濃度の差から固定化量を算出した。固定化密度は0.22mg/g (37pmol/g )であった。
【0039】
[実施例9]
(免疫細胞活性化材5の調製)
リポタイコ酸の固定5
Streptococcus pyrogenes由来のリポタイコ酸(シグマ社)10mgをPBSに溶かして100mLとし、これに6.0gの水不溶性担体2を加え、室温で1h振とうした後、トリエチルアミン0.2mLを加え、室温で48h振とうした。繊維を取り出し、水洗し、本発明にかかる免疫細胞活性化材5を得た。固定化前と固定化後の水溶液のリポタイコ酸濃度の差から固定化量を算出した。固定化密度は0.61mg/g(100pmol/g )であった。
【0040】
[実施例10]
(免疫細胞活性化材6の調製)
リポタイコ酸の固定6
Bacillus subtilis由来のリポタイコ酸(シグマ社)10mgを炭酸緩衝液(pH10.0)に溶かして100mLとし、これに5.25gの水不溶性担体3を加え、室温で48h振とうした。編み地を取り出し、水洗し、本発明にかかる免疫細胞活性化材6を得た。固定化前と固定化後の水溶液のリポタイコ酸濃度の差から固定化量を算出した。リポタイコ酸固定化密度は0.25mg/g(41pmol/g)であった。
【0041】
[実施例11]
(免疫細胞活性化材7の調製)
リポタイコ酸の固定7
Streptococcus pyrogenes由来のリポタイコ酸(シグマ社)10mgを炭酸緩衝液(pH9.1)に溶かして100mLとし、これに5.55gの水不溶性担体4を加え、室温で48h振とうした。繊維を取り出し、水洗し、本発明にかかる免疫細胞活性化材7を得た。固定化前と固定化後の水溶液のリポタイコ酸濃度の差から固定化量を算出した。リポタイコ酸固定化密度は0.56mg/gであった。
【0042】
[実施例12]
(カラム1の作製)
内径1cm内容積2mlのポリプロピレン製円筒形カラム本体に0.15gの免疫細胞活性化材5を充填して、本発明にかかる体外循環カラム1を調製した。カラム1は体外循環直前に1000単位のヘパリンナトリウムを含む生理食塩水で予備洗浄し、さらに500mLの生理食塩水で洗浄して用いた。
【0043】
[実施例13]
(カラム2の作製)
内径1cm内容積2mlのポリプロピレン製円筒形カラム本体に0.15gの免疫細胞活性化材7を充填して、本発明にかかる体外循環カラム2を調製した。体外循環前に10単位/mL濃度のヘパリンナトリウムを含む生理食塩水15mLで予備洗浄して用いた。
【0044】
[実施例14]
(免疫細胞活性化材の効果の検討)
免疫細胞活性化材5を用いて、ラット脾細胞によるイン・ビボ試験によって、本発明に係る免疫細胞活性化材の効果を検討した
【0045】
ラット脾細胞の活性効果の検討
WKAH/Hkmラット(雄、10週令)の背部皮下に4−ジメチルアミノアゾベンゼン誘発肝癌細胞KDH−8{矢野 諭、北海道医誌、68巻5号、654−664(1993)}を1×10個接種して、担癌ラットを調製した。腫瘍接種2週間後(腫瘍体積:3.2mL)に脾臓を採取し、完全培地(RPMI1400培地:ウシ胎児血清10体積%含有、2−メルカプトエタノール50マイクログラム/L含有、ストレプトマイシン50マイクログラム/mL含有、ペニシリン−G50単位/mL含有)中で破砕し、血球細胞を取り出した後、赤血球を溶血させて、完全培地に浮遊させた脾細胞液(2×10個/mL濃度)を調製した。癌細胞を接種しなかった同週令の正常ラットからも同様にして脾細胞液(2×10個/mL濃度)を調製した。
【0046】
0.1gの本発明に係る免疫細胞活性化材5を完全培地10mL中37℃で1h振とうした後、この完全培地(以後、洗浄培地と呼ぶ)から免疫細胞活性化材を分離し、上記2種類の脾細胞液5mL中で37℃で1h振とうした。免疫細胞活性化材を除去した後、脾細胞液を37℃の炭酸ガスインキュベーター中で48時間培養した。
比較として脾細胞のみを完全培地中で培養したものと、脾細胞を洗浄培地に浮遊させたものを調製した。脾細胞濃度はいずれも2×10個/mL濃度として培養を開始した。6種の細胞培養液を遠心して培養上清を採取し、サイトカイン濃度を測定した。
上清1:活性化材1h処理後の担癌ラット脾細胞の脾細胞液中培養上清
上清2:担癌ラット脾細胞の完全培地中培養上清
上清3:担癌ラット脾細胞の洗浄培地中培養上清
上清4:活性化材1h処理後の正常ラット脾細胞の脾細胞液中培養上清
上清5:正常ラット脾細胞の完全培地中培養上清
上清6:正常ラット脾細胞の洗浄培地中培養上清
【0047】
IL−12の測定結果を表1に示す。
【表1】


表1から明らかなように、本発明に係る免疫細胞活性化材がキラー細胞の誘導に重要な役割を持つIL−12を強力に産生させることが分かる。
【0048】
[実施例15]
(体外循環治療効果の検討)
ラットを用いたイン・ビボ試験により、本発明に係るカラム1を用いて体外循環治療を行い、生存期間の延長効果を検討した。
【0049】
担癌ラットの調製と体外循環治療
11匹の12週令WKAH:Hkmラット(雄)の背部皮下に1×10個のKDH−8細胞を接種して担癌モデルラットを調製した。KDH細胞接種7日後のラット4匹について、右大腿動脈および右大腿静脈に24G×3/4"のサーフロー留置針(テルモ(株))を挿入・固定し、マイクロチューブポンプN−100(東京理科器械(株))とカラム1を直列に連結して、回路を作成し、血流速度2ml/分で、60分間、体外循環した。体外循環中はヘパリンナトリウム注射液(武田薬品工業(株))を100U/hの速度で持続注入した。体外循環治療群の腫瘍接種後平均生存日数は64.5±1.5日であった。一方、体外循環治療を施さなかった担癌ラットの腫瘍接種後平均生存日数は55.7±2.7日であった。このように有意に(t検定;p<0.001)生存日数の延長が認められたことから、本発明にかかる体外循環カラムが生存期間の延長に効果のあることが確認できた。
【0050】
[実施例16]
(体外循環治療効果の検討)
ラットを用いたイン・ビボ試験により、本発明に係るカラム1を用いて体外循環治療を行い、NK活性に対する効果を検討した。
(担癌ラットの調製と体外循環治療)
4匹の10週令WKAH:Hkmラット(雄)の背部皮下に1×10個のKDH−8細胞を接種して担癌モデルラットを調製した。KDH細胞接種11日後のラット2匹について、右大腿動脈および右大腿静脈に24G×3/4"のサーフロー留置針(テルモ(株))を挿入・固定し、マイクロチューブポンプN−100(東京理科器械(株))とカラム1を直列に連結して、回路を作成し、血流速度2ml/分で、60分間、体外循環して、体外循環治療群とした。体外循環中はヘパリンナトリウム注射液(武田薬品工業株式会社)を100U/hの速度で持続注入した。腫瘍接種後25日目に体外循環治療群2匹と無治療群2匹のラットから脾臓細胞を取り出し、YAC―1細胞に対する細胞障害活性(NK活性)を調べた。両群2匹ずつのNK活性の平均値を図示すると、図1のようになった。図から体外循環治療群のNK活性が高いことが分かる。
【0051】
[実施例17]
(抗悪性腫瘍剤と併用した際の効果の検討)
ラットを用いたインビボ試験により、本発明に係るカラム2と抗悪性腫瘍剤の併用治療の効果を検討した。
【0052】
1.担癌ラットの調製
12週令のWKAH:Hkmラット(雄)を吸入麻酔薬セボフレン(丸石製薬(株)製)で麻酔した後、背部皮下に4−ジメチルアミノアゾベンゼン誘発肝癌細胞KDH−8{矢野 諭、北海道医誌、68巻5号、654−664(1993)}を1×10個接種した。腫瘍は100%の確率で生着した。
【0053】
2.抗悪性腫瘍剤投与
癌細胞接種7日後(ラット体重:400〜430g)、0.6mgの塩酸ゲムシタビン(株式会社日本イーライリリー社、注射用品を生理食塩水に溶解し、20mg/mLとして使用)を腫瘍の近くに注射した。
【0054】
3.体外循環治療
担癌ラット12匹中、4匹は無治療群とし、4匹を抗悪性腫瘍剤投与のみの治療群とした。残りの4匹についてKDH細胞接種9日後(抗悪性腫瘍剤投与の2日後)、体外循環治療を施行して抗悪性腫瘍剤投与後体外循環治療群とした。右大腿動脈および右大腿静脈に24G×3/4"のサーフロー留置針(テルモ(株))を挿入・固定し、マイクロチューブポンプN−100(東京理科器械(株))と上記カラム2を直列に連結して、回路を作成した。大腿動脈から採血し、カラム2を通した後、大腿静脈に返血した。血流速度2ml/minで1時間、体外循環した。体外循環中はヘパリンナトリウム注射液(武田薬品工業(株))を100単位/hの速度で持続注入した。
【0055】
無治療群4匹の腫瘍接種後平均生存日数は50.3±1.7日であった。
抗悪性腫瘍剤投与治療群4匹の腫瘍接種後平均生存日数は61.5±3.3日であった。
抗悪性腫瘍剤投与後体外循環治療群4匹の腫瘍接種後平均生存日数は71.5±6.2日であった。
【0056】
平均生存日数の統計学的有意差(t検定;p<0.001)は無治療群と抗悪性腫瘍剤投与後体外循環治療群間ではP<0.01で、抗悪性腫瘍剤投与治療群と抗悪性腫瘍剤投与後体外循環治療群間ではP<0.05であり、本発明の抗悪性腫瘍剤投与後の体外循環治療が有効であることが示された。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】本発明に係るカラムを用いて体外循環治療を行った場合のNK活性に対する効果を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アミノ基または水酸基と共有結合しうる官能基を有する水不溶性担体にリポタイコ酸を固定化してなる免疫細胞活性化材。
【請求項2】
前記リポタイコ酸がグラム陽性菌に由来するものであることを特徴とする請求項1に記載の免疫細胞活性化材。
【請求項3】
前記リポタイコ酸が溶血性連鎖状球菌に由来するものであることを特徴とする請求項1に記載の免疫細胞活性化材。
【請求項4】
前記リポタイコ酸が枯草菌に由来するものであることを特徴とする請求項1に記載の免疫細胞活性化材。
【請求項5】
前記アミノ基または水酸基と共有結合しうる官能基が、活性ハロゲン基、イソチオシアナート基、イソシアナート基、アルデヒド基、カルボキシル基の群から選ばれる少なくとも一つであることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか1項に記載の免疫細胞活性化材。
【請求項6】
前記水不溶性担体が芳香族化合物重合体であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の免疫細胞活性化材。
【請求項7】
形状が繊維、膜、中空糸または粒状物であることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の免疫細胞活性化材。
【請求項8】
請求項7記載の免疫細胞活性化材が充填されていることを特徴とするカラム。
【請求項9】
体外循環治療用であることを特徴とする請求項8記載のカラム。
【請求項10】
請求項9記載のカラムの使用方法であって、抗悪性腫瘍剤の投与前あるいは投与後または投与と同時に、体外循環に使用することを特徴とするカラムの使用方法。
【請求項11】
抗悪性腫瘍剤を投与した後、体外循環に使用することを特徴とする請求項10記載のカラムの使用方法。
【請求項12】
前記抗悪性腫瘍剤が代謝拮抗性抗悪性腫瘍剤であることを特徴とする請求項10または11記載のカラムの使用方法。
【請求項13】
前記代謝拮抗性抗悪性腫瘍剤がゲムシタビンであることを特徴とする請求項12記載のカラムの使用方法。

【図1】
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【公開番号】特開2008−7901(P2008−7901A)
【公開日】平成20年1月17日(2008.1.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−181378(P2006−181378)
【出願日】平成18年6月30日(2006.6.30)
【出願人】(899000046)関西ティー・エル・オー株式会社 (75)
【Fターム(参考)】