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免疫複合体の網羅的解析方法および新規関節リウマチバイオマーカー
説明

免疫複合体の網羅的解析方法および新規関節リウマチバイオマーカー

【課題】疾患の臨床診断のための新規マーカー探索方法、疾患の診断方法ならびに該方法で特定した新規マーカーを用いた関節リウマチの診断のための検査方法および診断キットなどの提供。
【解決手段】以下の工程を含む、疾患バイオマーカーの網羅的探索方法など。
(1)疾患患者および健常者由来の各試料からそれぞれ免疫複合体を回収する工程、
(2)それぞれの免疫複合体を分解し、分解産物を分離する工程、
(3)分離した分解産物を質量分析することによって、各試料中に含まれる抗原を網羅的に同定する工程、
(4)健常者と比較して疾患患者において特異的に同定される抗原を該疾患バイオマーカーとして選抜する工程

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被験者から捕集した免疫複合体を網羅的に解析し、健常人ドナーのそれと比較分析することによって、種々の疾患の新規バイオマーカーを見出す方法、および該方法によって見出された関節リウマチの新規バイオマーカーを標的とした、関節リウマチの検査キットおよび検査、薬効評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
抗体はBリンパ球から産生されるタンパク質の1種であり、体外から侵入する非自己(細菌、ウイルス等)を認識し、これらと結合することで白血球やマクロファージを活性化することによって生態防御に大きな役割を果たしている。このように抗体は、本来、非自己である生体異物を認識し、排除する働きをもつ。しかし、なんらかの契機で自己の正常な細胞や組織を認識する抗体が産生されると免疫複合体(イムノコンプレックス)が形成され、臓器や血管壁などの組織に沈着して障害を起こすことがある。このような疾患は自己免疫疾患と呼ばれ、関節リウマチ、全身性エリテマトーデス、バセドウ病を始めとする非常に多くの疾患が知られている。また、このほか、免疫複合体はウイルスや細菌感染、腫瘍などでも高値を示すことが知られている。このことから、液性免疫が関わる多くの感染症・自己免疫疾患では、産生される抗体の有無や量をもとに病態解明、診断および重症度判定が一般的に行われている。しかし、抗体陰性例の存在や抗体量が重篤度と合致しない例が多々報告され、臨床現場において十分に有効に活用されているとは言いがたい。また、抗原あるいは免疫複合体が病因あるいはマーカーになると予想される疾患であっても、外来・自己抗原の詳細な特定に至っていない疾患が多数存在するのが現状である。
一方、近年、プロテオーム解析が多くの生命分析科学研究領域において利用され始め、疾患の原因や発症のメカニズムの解明手段として有望視されてきている。特に全てのタンパク質を酵素分解によりペプチド断片化し、これを高速液体クロマトグラフィー/タンデム質量分析計(LC−MS/MS)で解析するショットガンプロテオミクスが開発され(非特許文献1)、疾患マーカーの探索などが迅速、効率的かつ再現性良く行えるようになってきた。また、特定疾患の解明を目的として、抗体を用いて抗原を精製し、その同定をLC−MS/MSによって行った例も報告されている(非特許文献2)。
しかし、臨床診断や病態解明の手段という観点から免疫複合体を形成する抗原そのものに着目し、これを網羅的に解析する手法はこれまでに開発されていない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】D. Figeys, Anal. Chem., 75, 2891−2905, 2003
【非特許文献2】H. Tjalsma et al., Proteomics Clin. Appl., 2, 167−180, 2008
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、疾患の臨床診断のための新規バイオマーカー探索方法、疾患の診断方法ならびに該探索方法で特定した新規バイオマーカーを用いた関節リウマチの診断のための検査、薬効評価方法および検査キットなどを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、健常人ドナーおよび自己免疫疾患(関節リウマチ)患者の血液から網羅的に回収した免疫複合体をトリプシン分解し、高速液体クロマトグラフィー/タンデム質量分析計に供試することで抗原解析を行い、それによって従来知られた関節リウマチのマーカーと異なる抗原分子を見出した。
本発明者らは、これらの知見に基づいてさらに研究を重ねた結果、本発明を完成するに至った。
【0006】
すなわち本発明は、
[1]以下の工程を含む、疾患バイオマーカーの網羅的探索方法;
(1)疾患患者および健常者由来の各試料からそれぞれ免疫複合体を回収する工程、
(2)それぞれの免疫複合体を分解し、分解産物を分離する工程、
(3)分離した分解産物を質量分析することによって、各試料中に含まれる抗原を網羅的に同定する工程、
(4)健常者と比較して疾患患者において特異的に同定される抗原を該疾患バイオマーカーとして選抜する工程
[2]疾患が、感染症、自己免疫疾患、悪性腫瘍、動脈硬化症、糖尿病から選択される、上記[1]に記載の方法;
[3]試料が血液、血清または組織である、上記[1]に記載の方法;
[4]工程(1)において、プロテインGまたはプロテインAを用いて免疫複合体を回収する上記[1]に記載の方法;
[5]工程(2)において、液体クロマトグラフィーによって分解産物を分離する上記[1]に記載の方法;
[6]工程(3)において、タンデム質量分析によって質量分析する上記[1]に記載の方法;
[7]以下の工程を含む、疾患に罹患しているか否かを検査または将来的に罹患するか否かを予測する方法;
(1)被験者および疾患患者由来の各試料からそれぞれ免疫複合体を回収する工程、
(2)それぞれの免疫複合体を分解し、分解産物を分離する工程、
(3)分離した分解産物を質量分析することによって、各試料中に含まれる抗原を網羅的に同定、定量する工程、
(4)被験者と疾患患者の間でそれぞれ同定された抗原を比較することによって、被験者が該疾患に罹患しているか否かを検査または将来的に罹患するか否かを予測する工程
[8]疾患が、感染症、自己免疫疾患、悪性腫瘍、動脈硬化症、糖尿病から選択される、上記[7]に記載の方法;
[9]試料が血液、血清または組織である、上記[7]に記載の方法;
[10]工程(1)において、プロテインGまたはプロテインAを用いて免疫複合体を回収する上記[7]に記載の方法;
[11]工程(2)において、液体クロマトグラフィーによって分解産物を分離する上記[7]に記載の方法;
[12]工程(3)において、タンデム質量分析によって質量分析する上記[7]に記載の方法;
[13]被験者由来の試料から回収した免疫複合体における、トロンボスポンジン−1および/または血小板第4因子の有無を検出する関節リウマチの検査方法;
[14]プロテインGまたはプロテインAを用いて免疫複合体を回収する上記[13]に記載の方法;
[15]治療中または治療を受けた関節リウマチ患者から経時的に採取された試料から回収した免疫複合体における、トロンボスポンジン−1および/または血小板第4因子の有無を検出することを含む、関節リウマチ患者に対する治療効果の評価方法;
[16]プロテインGまたはプロテインAを用いて免疫複合体を回収する上記[15]に記載の方法;
[17]トロンボスポンジン−1を特異的に認識する抗体および/または血小板第4因子を特異的に認識する抗体を含む、関節リウマチの検査用キット
を提供する。
【発明の効果】
【0007】
特定の疾患に罹患していると臨床的に判断された患者から免疫複合体を捕集し、抗原を解析することで、疾患特異的バイオマーカーを網羅的に探索することが可能である。また、なんらかの疾患に罹患している疑いがあるが、具体的な臨床的判断がなされていない被験者に対して、免疫複合体を捕集し、解析された抗原と特定の疾患の既知の抗原マーカーとを比較することによって、被験者がいずれの疾患に罹患しているかを検査または将来的に罹患するかを予測することができる。さらに、本発明では、関節リウマチ患者において見出された新規バイオマーカーの免疫複合体としての存在の有無を調べることにより、迅速かつ簡便に関節リウマチの検査、治療評価が可能になる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下に本発明について詳細に解説する。
本発明は、任意の疾患に罹患した患者由来の免疫複合体を網羅的に調べることによる、疾患バイオマーカーの探索方法に関する。
【0009】
本発明の疾患バイオマーカーの探索方法が適用される疾患は、特に制限はないが、例えば、感染症、自己免疫疾患、悪性腫瘍、動脈硬化症、糖尿病などが挙げられる。感染症としては、例えば、寄生性原虫感染症(マラリア、アメーバ赤痢、トキソプラズマ症、リーシュマニア症、クリプトスポリジウムなど)、ウイルス感染症(デング熱、ウエストナイル熱、インフルエンザ、後天性免疫不全症候群、狂犬病、マールブルグ出血熱、重症急性呼吸器症候群、水痘、帯状疱疹、手足口病、エボラ出血熱、咽頭結膜熱、伝染性紅斑、伝染性単核球症、天然痘、風疹、急性灰白髄炎、麻疹など)、細菌感染症(黄色ブドウ球菌、表皮ブドウ球菌、腸球菌、リステリア、髄膜炎球菌、淋菌、病原性大腸菌、肺炎桿菌、プロテウス菌、百日咳菌、緑膿菌、セラチア菌、シトロバクター、アシネトバクター、エンテロバクター、マイコプラズマ、クラミジア、クロストリジウムなどによる各種感染症、結核、コレラ、ジフテリア、赤痢、猩紅熱、炭疽、トラコーマ、梅毒、破傷風、ハンセン病、レジオネラ、レプトスピラ、ライム病、野兎病、Q熱など)などが挙げられる。自己免疫疾患としては、例えば、関節リウマチ、全身性エリテマトーデス、原発性胆汁性肝硬変、多発性筋炎、混合性結合組織病、結節性動脈周囲炎、バセドウ病、重症筋無力症、シェーグレン症候群、抗リン脂質抗体症候群、多発性硬化症、特発性血小板減少性紫斑病、天疱瘡、再発性多発性軟骨炎、多腺性自己免疫症候群などが挙げられる。悪性腫瘍としては、例えば、卵巣癌、子宮頚癌、子宮体癌、胃癌、肝臓癌、大腸癌、膵臓癌、胆嚢癌、腎臓癌、肺癌等が挙げられる。糖尿病としては1型糖尿病、2型糖尿病が挙げられる。
【0010】
本発明の疾患バイオマーカーの網羅的な探索方法は、以下の工程を含む。
(1)疾患患者および健常者由来の各試料からそれぞれ免疫複合体を回収する工程、
(2)それぞれの免疫複合体を分解し、分解産物を分離する工程、
(3)分離した分解産物を質量分析することによって、各試料中に含まれる抗原を網羅的に同定する工程、
(4)健常者と比較して疾患患者において特異的に同定される抗原を該疾患バイオマーカーとして選抜する工程
【0011】
本発明の探索方法が適用できる疾患患者は特に制限されないが、例えば、上記疾患に罹患していると臨床的に判断された疾患患者が挙げられ、例えば、ヒト、サル、ウシ、ウマ、ブタ、マウス、ラット、モルモット、ハムスター、イヌ、ネコ、ウサギ、ヒツジ、ヤギ等の哺乳動物が挙げられる。好ましくはヒトである。また、健常者とは、例えば、少なくとも上記疾患のいずれにも罹患していないと判断された者が挙げられる。
【0012】
本発明の探索方法に用いられる試料としては、上記疾患患者および健常者から採取されるものであって、検出対象である抗原と該抗原に結合する抗体からなる免疫複合体を含有するものであれば特に制限されない。そのような試料としては、例えば、全血、血漿、血清、リンパ液、唾液、脳脊髄液、関節液等の体液もしくはそのフラクション、粘膜、生検により得られる組織標本などが挙げられる。迅速且つ簡便に採取することができ、疾患患者および健常者への侵襲が少ないなどの点から、血液、血漿、血清、リンパ液、唾液等が特に好ましいが、疾患が悪性腫瘍などである場合には該悪性腫瘍を含む組織であってもよい。血液中の抗体濃度は約10mg/mlと見込まれ、抗体の0.001%が免疫複合体を形成していると仮定しても、血液10μlを用いて得られる免疫複合体の抗原量(平均分子量10,000)は一般的なLC−MS/MS装置の検出下限を上回ると予想される。従って、試料として血液、血漿、血清、リンパ液を用いる場合は少なくとも10μlを用いることが好ましい。
【0013】
上記試料中の免疫複合体は、自体公知の方法を用いて分離精製することができる。例えば、免疫グロブリンの分離精製法[例:塩析法、アルコール沈殿法、等電点沈殿法、電気泳動法、イオン交換体(例:DEAE)による吸脱着法、超遠心法、ゲルろ過法、プロテインAあるいはプロテインGなどの活性吸着剤により免疫複合体及び抗体のみを採取し、活性吸着剤との結合を解離させて免疫複合体を得る特異的精製法]に従って分離精製することができる。具体的には、下記実施例に記載の通り、プロテインAあるいはプロテインGなどの活性吸着剤が結合した担体(セファロースカラム、磁性ビーズなど)により血液、血清中から直接、免疫複合体及び抗体のみを捕集することができる。また、試料が組織である場合であっても、公知の方法に基づき、タンパク質画分を調製し、該画分中に含まれる免疫複合体を上記の手法に従い、分離精製することができる。また、該免疫複合体がヒト由来であった場合には、免疫複合体を構成する抗体はいずれのサブクラスであってもよく、IgG、IgM、IgA、IgDまたはIgEが含まれ、さらにIgGにはIgG1、IgG2、IgG3、IgG4が含まれてよい。従って、プロテインA、プロテインGに代えて、例えば、抗IgE抗体などを担体に固定することで、感染症初期やアレルギー疾患の解析を行うことも可能である。
【0014】
試料から捕集された免疫複合体は、そのまま分離してもよいが、抗体のジスルフィド結合を還元するために予め還元アルキル化してもよい。還元剤としては、例えば、ジチオスレイトール(DTT)等が挙げられる。さらに、プロテアーゼまたはペプチターゼによって免疫複合体を形成する抗体と抗原をペプチド断片に分解し、分解産物を分離することが好ましい。ペプチターゼ(プロテアーゼ)としては、例えば、トリプシンまたはペプシンが挙げられる。
【0015】
前記分解産物の分離は、自体公知の方法に従って行うことができる。このような方法としては、塩析や溶媒沈澱法などの溶解度を利用する方法、透析法、限外ろ過法、ゲルろ過法、およびSDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動法などの主として分子量の差を利用する方法、イオン交換クロマトグラフィーなどの荷電の差を利用する方法、アフィニティークロマトグラフィーなどの特異的親和性を利用する方法、液体クロマトグラフィーなどの疎水性の差を利用する方法、等電点電気泳動法などの等電点の差を利用する方法などが用いられる。これらの方法は、適宜組み合わせることもできる。本発明の分解産物を分離するには、分解産物がペプチドであること、次に質量分析に供試する際に容易であることから、液体クロマトグラフィーを用いることが好ましい。
【0016】
分離の際に用いられる液体クロマトグラフィー用充填剤の担体は、シリカゲル又は、ポリビニルアルコール等の合成樹脂の球状又は破砕状のものが好ましい。また、その平均粒径は、約0.5μmから約100μmのものが好ましく、より好ましくは約1μmから約50μm、さらに好ましくは約3μmから約5μmのものである。当業者であれば、平均粒径が小さいほど単位長あたりのカラム理論段数は大きくなるが、カラムの圧力損失も大きくなることなどを考慮して、適した粒径を選択することができる。また、本発明において用いられる液体クロマトグラフィー用充填剤の担体は、該担体に、置換又は未置換の炭化水素基を結合させたものであり、特に鎖長が炭素数8以上のものを用いることが好ましい。そのような炭化水素基の例としては、特に制限をされるものではないが、オクチル基、オクタデシル基、およびこれらの末端を改変した官能基等が挙げられ、オクタデシル基が好ましく用いられる。また、保持力は炭化水素基の鎖長に依存するので、当業者であれば、炭化水素基の鎖長の炭素数を調節することで、固定相における保持力を調節することができる。また、官能基として、フェニル基、ジオール基、ニトリル基、アミノ基などを用いて固定相の極性を調節することもできる。
【0017】
鎖長が炭素数8以下の置換又は未置換の炭化水素基としては、例えばトリメチル基、ブチル基、フェニル基、シアノプロピル基、アミノプロピル基等が挙げられる。
【0018】
本発明の液体クロマトグラフィー用充填剤に適するものとして、例えば市販されているオクチル基をシリカゲルに化学的に結合させた液体クロマトグラフィー用充填剤〔Acclaim(R) PepMap100 C8〕、オクタデシル基をシリカゲルに化学的に結合させた液体クロマトグラフィー用充填剤〔Acclaim(R) PepMap300 C18〕、〔Acclaim(R) PepMap100 C18〕などが挙げられる。これらの充填剤は、品質が安定しており、かつ入手が容易である点で適しているが、これらに制限されるものではない。
【0019】
液体クロマトグラフィー用充填剤に接触させる溶媒としては、水及び有機溶媒、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、アセトニトリル、酢酸エチル、ジオキサン、テトラヒドロフラン(THF)もしくはDMSOなどの混合溶媒系に塩を含むものを用いる。本発明の場合、例えば、後述の実施例においては、アセトニトリル中にギ酸を混合した溶媒を液体クロマトグラフィー用充填剤に接触させているが、これに限定されない。また、溶媒に濃度勾配(グラディエント)を付与し、例えば後述の実施例のように、アセトニトリル濃度が低い溶媒で極性の高い分子を溶出させ、順次アセトニトリル濃度を高めることによって、極性の低い分子を溶出させることができる。また溶出する際の溶出時間についても当業者は適宜設定することができる。
【0020】
また、分離の際に必要に応じて、硫安、クエン酸ナトリウム、クエン酸カリウム、リン酸カリウム、リン酸ナトリウム、硫酸ナトリウム、硫酸カリウム、硫酸マグネシウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム等の塩を用いて、溶媒のpHを調節することができるが、これらに制限されるものではない。
【0021】
溶媒のpHを調整することにより、溶質のイオン化を制御することができるが、本発明の場合、イオンモードとして、陽イオンを対象として検出するポジティブイオンモードを選択するため、pHは、2〜6が好ましく、2〜3がより好ましい。また、温度を一定にすることにより安定した成績を得ることが可能であるが、本実施形態における温度は0〜40℃が好ましく、より好ましくは10〜30℃がよい。
【0022】
質量分析は、イオン化された分析物を気相で測定する方法であり、該分析装置は大別すると、イオン源、イオン化された分析物の質量対電荷比(m/z)を測定する質量分析部、及びそれぞれのm/z値におけるイオンの数を記録するイオン検出部からなる。タンパク質やペプチド等の試料をイオン化するために最も一般的に用いられる技術として、例えば、エレクトロスプレーイオン化法(ESI)、大気圧化学イオン化法(APCI)及びマトリクス支援レーザー脱着/イオン化法(MALDI)等が挙げられる。ESIはキャピラリーに溶液状の試料を導入し、高電圧を印加することによって噴霧・イオン化させる方法であり、クロマトグラフィーや電気泳動などの分離手段と組み合わせて分析することができる。APCIは、400〜500℃の高温加熱によって試料溶液を強制的に気化させた後、コロナニードルの放電を利用してイオンを生成させる方法である。MALDIは、マトリックス(芳香族有機化合物など)中に試料を混在させて得られる結晶をレーザーパルスによって、試料を昇華及びイオン化する方法である。本発明の場合、抗原となるタンパク質が分析対象であるため、適用可能な分子量範囲が大きいほうが好ましい。従って、本発明の試料のイオン化にはESIまたはMALDIを用いるのがよいが、高価イオンを発生させやすい点でESIがより好ましい。
【0023】
前記イオン源でイオン化された試料は、質量分析部に高電圧で印加され引き込まれる。かかる電圧は、試料を分析できる範囲であれば当業者が適宜設定できるが、電圧が低すぎた場合、イオン化された試料の質量分析部への移動が不十分となり、電圧が高すぎた場合、イオン化された試料にフラグメンテーションが生じる。本発明を実施する際には、例えば、電圧1.0kV〜2.5kV、好ましくは1.2kV〜2.0kVで印加することができる。
【0024】
質量分析部は、選択された質量対電荷比(m/z)内においてイオンを分離する。分析データの感度や分解能、質量の正確さやマススペクトルデータから得られる情報の豊富さに重要な役割を果たしている。イオンの分離方法としては、6種類の基本的なタイプに分類することができ、それらは、磁場型、電場型、イオントラップ型、飛行時間(TOF)型、四重極型、及びフーリエ変換サイクロトロン型である。これらはそれぞれ長所と短所があり、単独で又は互いに連結して用いることができる。
【0025】
また、質量分析の途中で試料を断片化し、断片化されたイオンを分析する質量分析方法として、タンデム質量(MS/MS)分析法が用いられる。本発明の方法を実施するためには上記いずれの質量分析法を用いてもよく、当業者であればこれらと実質的に同一か又は類似の方法により本発明の方法を実施することができる。本発明では、タンデム質量分析法が好ましく用いられ、例えば、後述の実施例ではイオントラップ型タンデム質量分析法が用いられる。
【0026】
質量分析によって得られたスペクトル(例えば、タンデム質量分析によって得られたMS/MSスペクトル)は、公知の方法で解析できるが、公共のタンパク質/ペプチドデータベースと比較して抗原を決定することもできる。そのようなデータベースとしては、例えば、The Europe Bioinformatics Instituteによって提供されているInternational Protein Indexのタンパク質データベース、National Center Biotechnology Information (NCBI)に公開されているタンパク質データベース、Swiss−Protに公開されているタンパク質データベース等が挙げられる。
【0027】
本発明の探索方法は、上記手法により、健常者と比較して疾患患者において特異的に免疫複合体を形成している抗原を同定することによって、該抗原を含む免疫複合体を疾患特異的バイオマーカーとして選抜することができる。ここで「特異的」とは、疾患患者では健常者よりも免疫複合体を形成している抗原の検出頻度が高いことをさす。例えば、後述の実施例に示すように、関節リウマチ患者では健常者よりもトロンボスポンジン−1および血小板第4因子の検出頻度が極めて高い(後述の実施例の米国リウマチ学会(ACR)の基準を満たした関節リウマチ患者ではトロンボスポンジン−1は17/21、血小板第4因子は10/21の頻度でそれぞれ検出されている。一方、健常者ではいずれも検出されていない)。従って、トロンボスポンジン−1を含む免疫複合体および血小板第4因子を含む免疫複合体は関節リウマチの疾患マーカーであると判断することができる。この場合、「検出頻度が高い」とは、疾患患者における特定の抗原の検出頻度が試料の由来となった全疾患患者数に対して45%以上、好ましくは80%以上、最も好ましくは100%の患者において検出され、かつ健常者においては試料の由来となった健常者数に対して5%以下、好ましくは2%以下、最も好ましくは0%の健常者において検出されるような状態をさす。また、健常者と疾患患者との間で抗原の特異性が確認できない場合であっても、健常者と比較して疾患患者において検出量が変動する抗原は、該疾患特異的なマーカーであると判断することができる。検出量レベルの比較は、好ましくは、有意差の有無に基づいて行われる。
【0028】
また、本発明の探索方法は、特定疾患に罹患しているか否かを検査または将来的に罹患するか否かを予測する方法としても提供することができる。
即ち、以下の工程を含む、疾患に罹患しているか否かを検査または将来的に罹患するか否かを予測する方法を提供する。
(1)被験者および疾患患者由来の各試料からそれぞれ免疫複合体を回収する工程、
(2)それぞれの免疫複合体を分解し、分解産物を分離する工程、
(3)分離した分解産物を質量分析することによって、各試料中に含まれる抗原を網羅的に同定する工程、
(4)被験者と疾患患者の間でそれぞれ同定された抗原を比較することによって、被験者が該疾患に罹患しているか否かを検査または将来的に罹患するか否かを予測する工程
【0029】
本発明の検査または予測方法が適用できる被験者は特に制限されないが、例えば、前記疾患に罹患するおそれがあるか、もしくは罹患していることが疑われる被験者が挙げられ、例えば、前記の哺乳動物等が挙げられる。好ましくはヒトである。また、疾患患者とは、例えば、前記疾患に罹患していると臨床的に判断された者が挙げられる。その他、本発明の検査または予測方法に用いられる試料、免疫複合体の捕集方法、分離精製、質量分析方法等は前記の通りに従う。
【0030】
本発明の検査または予測方法は、上記手法により、被験者と疾患患者の間でそれぞれ同定された抗原を比較することによって、被験者が該疾患に罹患しているか否かを検査または将来的に罹患するか否かを予測することができる。前記の通り、後述の実施例に示すように、関節リウマチ患者では健常者よりも免疫複合体を形成するトロンボスポンジン−1および血小板第4因子の検出頻度が高い。従って、例えば、被験者において免疫複合体を形成するトロンボスポンジン−1および/または血小板第4因子が検出されれば、該被験者は関節リウマチに罹患している、または将来的に罹患する可能性があると判断することができる。また、健常者と疾患患者との間で抗原の特異性が確認できないが、健常者と比較して疾患患者において検出量が変動する抗原をバイオマーカーとして持つ疾患の場合は、被験者と疾患患者の間でそれぞれ同定された抗原の検出量を比較することによって、被験者が該疾患に罹患しているか否かを検査または将来的に罹患するか否かを予測することができる。
【0031】
あるいは、特定の疾患に罹患していないことが確認されている個体(ネガティブコントロール)及び、該特定の疾患に罹患していると臨床的に判断されている個体(ポジティブコントロール)から免疫複合体を捕集、解析し、被験者から回収されたそれと比較して検査または予測することができる。または、特定の疾患について抗原レベルと臨床的に該疾患に罹患していると判断される率との相関図をあらかじめ作成しておき、被験者から回収された免疫複合体の検出レベルをその相関図と比較してもよい。検出レベルの比較は、好ましくは、有意差の有無に基づいて行われる。
【0032】
本発明者らは、上記の疾患マーカーの探索方法を用いて、関節リウマチ患者から新規関節リウマチマーカーの同定を試みた。後述の実施例1の米国リウマチ学会(ACR)の基準を満たした関節リウマチ患者ではトロンボスポンジン−1は17/21、血小板第4因子は10/21の頻度でそれぞれ検出された。一方、健常者ではいずれも検出されていない。また、後述の実施例2の早期リウマチ患者では、トロンボスポンジン−1は公知のリウマチマーカーであるリウマチ因子および抗CCP抗体について陰性であった患者からも9/16の頻度で検出された。結果として、本発明者らは、トロンボスポンジン−1を含む免疫複合体および血小板第4因子を含む免疫複合体が関節リウマチの信頼性のある疾患マーカーであることを見出した。従って、本発明はまた、関節リウマチの検査方法を提供する。
【0033】
本発明は、被験者由来の試料から回収した免疫複合体における、トロンボスポンジン−1および/または血小板第4因子の有無を検出することを含む、該被験者が関節リウマチに罹患しているか否かを検査する方法に関する。そのトロンボスポンジン−1のヒトヌクレオチド配列(アミノ酸配列)は、GenBankにアクセッション番号NM_003246.2(NP_003237.2)として、血小板第4因子のヒトヌクレオチド配列(アミノ酸配列)はアクセッション番号NM_002619.2(NP_002616.1)として登録されている。
【0034】
本発明の検査方法が適用できる被験者は、特に制限されないが、例えば、関節リウマチに罹患しているおそれがある個体、もしくは罹患していることが疑われる個体、あるいは現に関節リウマチに罹患している個体、例えば、ヒト、サル、ウシ、ウマ、ブタ、マウス、ラット、モルモット、ハムスター、イヌ、ネコ、ウサギ、ヒツジ、ヤギ等が挙げられる。好ましくは、ヒトである。
【0035】
本発明の検査方法に用いられる試料としては、被験者から採取されるものであって、検出対象である抗原と該抗原に結合する抗体からなる免疫複合体を含有するものであれば特に制限されない。そのような試料としては、例えば、全血、血漿、血清、唾液、リンパ液、脳脊髄液、関節液等の体液もしくはそのフラクション、粘膜、生検により得られる組織標本などが挙げられる。迅速且つ簡便に採取することができ、被験者への侵襲が少ないなどの点から、血液、血漿、血清、唾液、リンパ液等が特に好ましいが、検査対象となる疾患が関節リウマチであることから、関節、滑膜などの組織サンプルも好ましく用いることができる。
【0036】
上記試料中の免疫複合体は、前記の通り、自体公知の方法を用いて分離精製することができる。即ち、免疫グロブリンの分離精製法[例:塩析法、アルコール沈殿法、等電点沈殿法、電気泳動法、イオン交換体(例:DEAE)による吸脱着法、超遠心法、ゲルろ過法、プロテインAあるいはプロテインGなどの活性吸着剤により免疫複合体及び抗体のみを採取し、活性吸着剤との結合を解離させて免疫複合体を得る特異的精製法]に従って分離精製することができる。好ましくは、下記実施例に記載の通り、プロテインAあるいはプロテインGなどの活性吸着剤が結合した担体(セファロースカラム、磁性ビーズなど)により血液、血清中から直接、免疫複合体のみを捕集することができる。また、試料が関節、滑膜組織である場合であっても、公知の方法に基づき、タンパク質画分を調製し、該画分中に含まれる免疫複合体を上記の手法に従い、分離精製することができる。
【0037】
被験者由来の試料から回収した免疫複合体におけるトロンボスポンジン−1および/または血小板第4因子の有無の検出は、それぞれトロンボスポンジン−1を特異的に認識する抗体および血小板第4因子を特異的に認識する抗体を用いて、免疫学的測定法(例:ELISA、FIA、RIA、ウェスタンブロット等)によって行うことができるし、トロンボスポンジン−1および/または血小板第4因子の検出は、MALDI−TOFMS等の質量分析法を用いても行うことができる。
【0038】
被験者がヒトである場合、トロンボスポンジン−1を特異的に認識する抗体および血小板第4因子を特異的に認識する抗体は、トロンボスポンジン−1および血小板第4因子ポリペプチドやその抗原性を有する部分ペプチド、具体的には、トロンボスポンジン−1について配列番号2、血小板第4因子について配列番号4に示されるペプチド配列の全部またはエピトープに当たる部分を有する部分ペプチドを免疫原として用い、既存の一般的な製造方法によって製造することができる。本明細書において、抗体には、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体(mAb)等の天然型抗体、遺伝子組換技術を用いて製造され得るキメラ抗体、ヒト化抗体や一本鎖抗体、およびこれらの結合性断片が含まれるが、これらに限定されない。好ましくは、抗体はポリクローナル抗体、モノクローナル抗体又はこれらの結合性断片である。結合性断片とは、特異的結合活性を有する前述の抗体の一部分の領域を意味し、具体的には例えばF(ab’)、Fab’、Fab、Fv、sFv、dsFv、sdAb等が挙げられる(Exp. Opin. Ther. Patents, Vol.6, No.5, p.441−456, 1996)。抗体のクラスは、特に限定されず、IgG、IgM、IgA、IgDあるいはIgE等のいずれのアイソタイプを有する抗体をも包含する。好ましくは、IgG又はIgMであり、精製の容易性等を考慮するとより好ましくはIgGである。
【0039】
個々の免疫学的測定法を本発明の検査方法に適用するにあたっては、特別の条件、操作等の設定は必要とされない。それぞれの方法における通常の条件、操作法に当業者の通常の技術的配慮を加えてトロンボスポンジン−1および血小板第4因子の測定系を構築すればよい。これらの一般的な技術手段の詳細については、総説、成書などを参照することができる。例えば、入江寛編「ラジオイムノアッセイ」(講談社、昭和49年発行)、入江寛編「続ラジオイムノアッセイ」(講談社、昭和54年発行)、石川栄治ら編「酵素免疫測定法」(医学書院、昭和53年発行)、石川栄治ら編「酵素免疫測定法」(第2版)(医学書院、昭和57年発行)、石川栄治ら編「酵素免疫測定法」(第3版)(医学書院、昭和62年発行)、「Methods in ENZYMOLOGY」 Vol. 70(Immunochemical Techniques(Part A))、 同書 Vol. 73(Immunochemical Techniques(Part B))、 同書 Vol. 74(Immunochemical Techniques(Part C))、 同書 Vol. 84(Immunochemical Techniques(Part D : Selected Immunoassays))、 同書 Vol. 92(Immunochemical Techniques(Part E : Monoclonal Antibodies and General Immunoassay Methods))、 同書 Vol. 121(Immunochemical Techniques(Part I : Hybridoma Technology and Monoclonal Antibodies))(以上、アカデミックプレス社発行)などを参照することができる。
【0040】
本発明の検査方法は、上記手法により、被験者由来の試料から回収した免疫複合体における、トロンボスポンジン−1および/または血小板第4因子の有無を検出することによって、被験者が関節リウマチに罹患しているか否かの検査を行うことができる。例えば、健常者由来の試料から回収した免疫複合体におけるトロンボスポンジン−1および/または血小板第4因子の検出量と比較して、被験者において検出量に有意な差を見出すことが出来れば、被験者が関節リウマチに罹患していると判断することができる。ここで判断可能な関節リウマチとは、米国リウマチ学会(ACR)の基準を満たしうる関節リウマチ、または米国リウマチ学会(ACR)の基準を満たさないが、リウマチ専門医が治療を要すると判断しうる関節リウマチをも含む。あるいは、リウマチ専門医がDMARDs(Disease Modifying Antirheumatic Drugs)を開始する必要があると判断しうる関節リウマチも含みうる。
【0041】
例えば、関節リウマチに罹患していないことが確認されている個体(ネガティブコントロール)及び、関節リウマチに罹患していると臨床的に判断されている個体(ポジティブコントロール)由来の試料から免疫複合体を回収し、被験者由来の試料から回収された免疫複合体におけるトロンボスポンジン−1および/または血小板第4因子の検出レベルがポジティブコントロール及びネガティブコントロールのそれと比較される。
【0042】
そして、トロンボスポンジン−1および/または血小板第4因子の検出レベルの比較結果より、測定対象のトロンボスポンジン−1および/または血小板第4因子の検出レベルが相対的に高い場合には、関節リウマチである確率が相対的に高いと判定することができる。逆に、測定対象のトロンボスポンジン−1および/または血小板第4因子の検出レベルが相対的に低い場合には、関節リウマチである確率が相対的に低いと判定することができる。
【0043】
上記関節リウマチの検査方法を、関節リウマチに対する治療を施された患者や関節リウマチ治療薬候補化合物を投与された実験動物(例、サル、イヌ、ラット、マウス等)に適用することにより、治療効果の評価を行うことができる。即ち、治療中または治療を受けた関節リウマチ患者から経時的に採取した試料から回収した免疫複合体におけるトロンボスポンジン−1および/または血小板第4因子をそれぞれ測定・比較し、治療前と比較して治療後のトロンボスポンジン−1および/または血小板第4因子を含む免疫複合体のレベルが抑制される傾向を示せば、治療効果が認められると判定することができる。
【0044】
本発明はまた、上記本発明の検査方法において好ましく使用され得る、関節リウマチを検査するための検査キットを提供する。該検査キットは、トロンボスポンジン−1を特異的に認識する抗体および/または血小板第4因子を特異的に認識する抗体を含有してなる。該検査するための剤が2以上の上記抗体を含む場合、各抗体は互いにトロンボスポンジン−1および血小板第4因子の異なるエピトープを特異的に認識し得るものである。なお、免疫複合体を形成していない遊離抗原を検出対象から除外するため、トロンボスポンジン−1を特異的に認識する抗体および/または血小板第4因子を免疫複合体として捕集した後、検出を行うことが好ましい。また、トロンボスポンジン−1を特異的に認識する抗体および血小板第4因子を特異的に認識する抗体としては、本発明の検査方法において前記した抗体が挙げられる。
【0045】
本発明の検査キットを構成する試薬として、トロンボスポンジン−1を特異的に認識する抗体および/または血小板第4因子を特異的に検出し得る抗体に加えて、トロンボスポンジン−1および/または血小板第4因子を検出するための反応において必要な他の物質であって、共存状態で保存することにより反応に悪影響を及ぼさない物質をさらに含有することができる。あるいは、該試薬は、トロンボスポンジン−1および/または血小板第4因子を検出するための反応において必要な他の物質を含有する別個の試薬とともに提供されてもよい。例えば、トロンボスポンジン−1および/または血小板第4因子を検出するための反応が抗原抗体反応の場合、当該他の物質としては、例えば、反応緩衝液、compeptitor抗体、標識された二次抗体(例えば、一次抗体がウサギ抗ヒトトロンボスポンジン−1および/またはウサギ抗ヒト血小板第4因子抗体の場合、ペルオキシダーゼやアルカリホスファターゼ等で標識されたマウス抗ウサギIgGなど)、ブロッキング液等が挙げられる。また、該検査キットは、免疫複合体の捕集のためのプロテインAまたはプロテインGを試薬として含有していてもよく、それらは担体(セファロースカラム、磁性ビーズなど)に固相化されていてもよい。
【0046】
以下に、本発明の実施例を示す。
【実施例】
【0047】
実施例1
試料の回収
米国リウマチ学会(ACR)の基準を満たす、佐世保中央病院の関節リウマチ(AR)患者21名から血清試料を回収した。また、健常人ドナー(13名)からも血清を回収し、コントロールとして用いた。全ての実験は、佐世保中央病院および長崎大学大学院医歯薬学総合研究科の組織倫理委員会に承認され、ヘルシンキ宣言に従って実施した。患者および健常人ドナーからはインフォームドコンセントを得た。
【0048】
免疫複合体(IC)の捕集と消化
プロテインGが固定化された磁性ビーズ(PureProteome, Millipore)を用いて免疫複合体を精製した。ビーズ40μlをリン酸緩衝生理食塩水(PBS, Wako Chemicals)500μlで洗浄し、PBSで希釈した血清(血清:PBS=1:9, v/v)100μlと共にゆっくり攪拌しながら30分間インキュベートした。免疫複合体が結合したビーズを磁石で回収し、PBS500μlで3回洗浄した。ビーズを10mMジチオスレイトール100μl中に再懸濁し、56℃で45分間インキュベートした後、55mMヨードアセトアミド100μlを加え、暗所、室温で30分間インキュベートした。続いて、トリプシン溶液(25mM重炭酸アンモニウム)を終濃度0.5mg/mlで添加し、混合液を37℃で一晩培養した。TFA(10%, v/v)を加えて、消化を停止させた後、抗原および抗体由来のペプチド消化物を含む上清を磁石を用いて回収した。最終的に、この混合液を減圧下、約80μlに濃縮した。
【0049】
ナノ−HPLC−MS/MSによるタンパク質同定
LCフロースプリッター(Accurate, Dionex, Sunnyvale, CA, USA)付きのLCポンプ(Surveyor MS pump, Thermo Fihser Scientific, Waltham, MA, USA)およびHCT PALオートサンプラー(CTC Analytics, Zwingen, Switzerland)からなるカスタムナノLCシステムを搭載したLC−エレクトロスプレーイオン化−タンデムMS(LCQ Fleet, Thermo Fisher Scientific, Waltham, MA, USA)にペプチド混合物(1μl)を供試した。インジェクションループ中のナノ−プレカラム(300μm i.d. × 5.0mm, L−C−18, Chemicals and Evaluation and Research, Tokyo, Japan)に試料を注入し、2%アセトニトリル中の1%TFAを用いて洗浄した。ペプチドをナノHPLCカラム(75μm, i.d., Acclaim PepMap100C18, 3μm, Dionex, Sunnyvale, CA, USA)で分離し、スプレー電圧1.2から2.0kVでMSにイオン噴霧した。移動相のグラディエント条件を以下のように設定し、分離を行った:移動相中の移動相B含量を10分間で5から23%に増加(90%アセトニトリル中に0.1%ギ酸[Kanto Kagaku, Tokyo, Japan])(移動相A:0.1%ギ酸);移動相B含量を70分間で24から34%に増加;移動相B含量を16分間で34から50%に増加;移動相B含量を0.1分間で50から100%に増加;移動相B含量100%を9分間維持(総分離時間:115分)。試料の全解析から最も強度の高い3つの前駆体質量の3つのタンデムMSスキャンにプロセスする(Xcaliber(R)ソフトウェアー[Thermo Fisher Scientific, Waltham, MA, USA]によってリアルタイムに決定)ことによって得られるデータの質を有するデュティサイクル長を最適化するように質量分析計を設定した。衝突エネルギーは35%とした。全体質量/電荷比の範囲を400−1500で全スペクトルを計測した。トランスファーキャピラリー温度を200℃に設定した。MS/MSデータをBioworks V3.3(Thermo Fisher Scientific, Waltham, MA, USA)を用いて抽出した。欧州バイオインフォマティクス研究所(EBI, Cambridge, UK)によって提供されるInternational Protein Index version 3.67(ダウンロード日;2009年12月10日)の公開されている非重複タンパク質データベースからヒトサブデータベースに対して以下のサーチパラメータでスペクトルを検索した:質量型、モノアイソトピック前駆体および断片;酵素、トリプシン(KR);酵素限界、2つまでの誤開裂を許容する全酵素的開裂;ペプチド許容、2.0原子質量単位;断片イオン許容、1.0原子質量単位;スコア結果数、250;計測されるイオンおよびイオンシリーズ、BおよびYイオン;静的修正、C(カルボキシメチル化);特異的修飾、M(酸化);NおよびQ(アミド分解)。経験的に決定されるタンパク質誤発見率(FDR)0、すなわちランダムヒットがゼロとなるようにフィルター基準値(関連ファクター[XCorr]およびタンパク質確率[P]を有するシングル、ダブル、トリプル電荷ペプチド)を調整した。リバースデータベースの固有ペプチドの数をフォワードデータベースの重要な固有ペプチドの数で割って、FDRを計算した。タンパク質は6アミノ酸長以上のペプチドについて同定した。仮に複数のタンパク質が見出されたペプチドを有するアミノ酸配列を共有していれば、それらのうち最も低い確率のタンパク質が最も一致すると判断され、ケラチンやトリプシンは潜在的な一致として除外された。
【0050】
結果
関節リウマチ患者および健常人ドナーに対する、広範なプロテオーム解析によって同定されたタンパク質を表1−1および表1−2に略記する。
【0051】
【表1−1】

【0052】
【表1−2】

【0053】
IgG、トリプシンおよびケラチン由来のペプチドは解析から除外した。FDR=0に基づいて補正されて決められるペプチド割り当てを断片化スペクトルの手動検定で確認した。アポリポタンパク質、補体、凝固タンパク質および接着タンパク質などの36の既知のヒトタンパク質を2以上の独立した試料から同定した。本解析で同定されたいくつかのタンパク質(クラステリン、アポリポタンパク質E、フィブロネクチンおよびビトロネクチン)を含む免疫複合体の沈着が関節炎の関節で見出されている(P.A. Monach et al., Proceeding of The National Acardemy of Science, 106, 15867−15872, 2009)ことを考慮すれば、発明者らの結果は、循環する免疫複合体が関節病変部に蓄積することを示唆している。
同定された抗原タンパク質のうち、トロンボスポンジン−1(TSP−1)が関節リウマチ患者では最も頻度が高く検出され、極めて特異的であった。TSP−1は好中球、内皮細胞および線維芽細胞を含む複数の細胞で生産される。TSP−1は関節リウマチ患者の生理機能に関与していると考えられてきており、関節リウマチ患者の滑膜組織に存在し(I. Gotis−Graham et al., Arthritis & Rheumatism, 40, 1780−1787, 1997)、その血漿中レベルは高いことが報告されている(M. Rico et al., Translation Research, 152, 95−98, 2008)。近年の研究では、TSP−1/形質転換増殖因子(transforming growth factor)/結合組織増殖因子(CTGF)経路が関節リウマチの進行に役割を果たしており、該経路においてTSP−1発現が引き金となって、下流CTGFの上方制御が血管形成およびびらん性関節炎病変に関連していることが示唆されている。
最も有名な診断マーカーはリウマチ因子(RF)であるが、関節リウマチでは特異性に乏しく(80.8%)(L. De Ryche et al., Ann. Rheum. Dis., 63, 1587−1593, 2004)、他の疾患でも観察される(Y. Renaudineau et al., Autoimmunity, 38, 11−16, 2005; T. Dorner et al., Current Opinion in Reumatology, 16, 246−253, 2004)。一方、シトルリンを含むタンパク質/ペプチド抗体(抗CCP)はリウマチ因子よりも関節リウマチに対して極めて高い特異性を有する。大多数の関節リウマチ患者はこれらの抗体を1つまたは両方有しているが、20%はそうではない。TSP−1の免疫複合体は関節リウマチに対して高度に特異的であり(100%)、検出感度も高く(81.0%)、有望な疾患バイオマーカーである。
プロテインG付きビーズに対する、フィブロネクチンおよびTSP−1の2つのタンパク質の非特異的結合を見出すために、血中の標準値の10倍以上高い濃度の標準タンパク質溶液を血清試料の代わりに用いた。フィブロネクチンもTSP−1も見出されなかったことは、関節リウマチ患者またはコントロールの血漿中においてそれらが検出されたことが、ビーズへの非特異的結合によるものではないことを示唆するものである。
抗CCP抗体は現在、関節リウマチの特異的マーカーとして広く認知され、シトルリン化されたフィブリノーゲンが関節リウマチ患者の血清の免疫複合体中に存在すること(X. Zhao et al., Arthritis Res. Ther., 10, R94, 2008)が報告されているため、発明者らはまた、シトルリンがアルギニンに置換されたペプチドを対象にMSスペクトルを検索した。シトルリン化されたチミジンキナーゼ2、GRAMドメイン含有タンパク質2およびプロトロンビンが21名の関節リウマチ患者のうち2名から見出され、その一方、4名の健常人からはシトルリン化されたプロトロンビンのみが見出された。
他方、IgGのFcドメインに結合し、関節リウマチの診断試験に用いられてきたリウマチ因子を7名の関節リウマチ患者のプロテオミクス手法によって検出した。抗CCP抗体に対して、データベース中にアミノ酸配列がエントリーされておらず、本実施例では検出されなかった。
TSP−1よりも検出感度が低い(52.4%)が、血小板第4因子(PF4)もまた、関節リウマチ患者に特異的に検出された(表2−1、2−2)。滑膜液中の血小板第4因子が増加していることが複数の研究で報告され、血小板第4因子は関節リウマチの慢性化に関与している可能性が示唆される。
【0054】
【表2−1】

【0055】
【表2−2】

【0056】
実施例2
試料の回収
次に長崎大学病院の早期関節リウマチ(AR)患者26名(ACR基準は満たしていないが、リウマチ専門医が治療要と認め、かつ治療が施されていない集団)から血清試料を回収した。26名の患者のうち、16名についてはリウマチ因子(RF)が陽性の血清反応陽性集団であった。さらに血清反応陽性集団16名のうち11名はACCP抗体についても陽性であった。また、残りの10名についてはRFおよびACCP抗体について陰性であった(血清反応陰性集団)。また、健常人ドナー(11名)からも血清を回収し、コントロールとして用いた。
【0057】
免疫複合体(IC)の捕集と消化、ナノ−HPLC−MS/MSによるタンパク質同定は実施例1と同様の方法で行った。同定されたタンパク質を表3―1および表3−2に略記する。
【0058】
【表3−1】

【0059】
【表3−2】

【0060】
TSP−1の検出頻度は、血清反応陽性早期リウマチ患者においては56.3%、血清反応陰性早期リウマチ患者においては50.0%の頻度で検出され、全体として早期リウマチ患者としては約54%の検出頻度であった。公知のリウマチのバイオマーカーであるRFや抗CCP抗体について陰性の患者にさえ50%の検出頻度があることから、早期リウマチ患者においても、TSP−1は有望な疾患バイオマーカーとして期待できる。
また、PF4については、血清反応陽性早期リウマチ患者においては18.8%(PF4とPF4 variantが検出された陽性患者3名。表3−2中にはどちらも陽性であった患者1名が含まれる。)の頻度で確認できたが、血清反応陰性早期リウマチ患者においては確認できなかった。
【産業上の利用可能性】
【0061】
本発明によれば、特定の疾患に罹患していると臨床的に判断された患者から免疫複合体を捕集し、抗原を解析することで、疾患特異的マーカーを網羅的に探索することが可能である。また、臨床的判断がなされていない被験者に対して、免疫複合体を捕集し、解析された抗原と既知の疾患マーカーと比較することによって、被験者がいずれの疾患に罹患しているかを検査または将来的に罹患するかを予測することができる。さらに、本発明では、関節リウマチにおいて見出された新規バイオマーカーの免疫複合体における検出レベルを調べることにより、迅速かつ簡便に関節リウマチの検査が可能になる。
本出願は、日本で出願された特願2010−231935(出願日:平成22年10月14日)を基礎としており、その内容はすべて本明細書に包含されるものとする。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の工程を含む、疾患バイオマーカーの網羅的探索方法。
(1)疾患患者および健常者由来の各試料からそれぞれ免疫複合体を回収する工程、
(2)それぞれの免疫複合体を分解し、分解産物を分離する工程、
(3)分離した分解産物を質量分析することによって、各試料中に含まれる抗原を網羅的に同定する工程、
(4)健常者と比較して疾患患者において特異的に同定される抗原を該疾患バイオマーカーとして選抜する工程
【請求項2】
疾患が、感染症、自己免疫疾患、悪性腫瘍、動脈硬化症、糖尿病から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
試料が血液、血清または組織である、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
工程(1)において、プロテインGまたはプロテインAを用いて免疫複合体を回収する請求項1に記載の方法。
【請求項5】
工程(2)において、液体クロマトグラフィーによって分解産物を分離する請求項1に記載の方法。
【請求項6】
工程(3)において、タンデム質量分析によって質量分析する請求項1に記載の方法。
【請求項7】
以下の工程を含む、疾患に罹患しているか否かを検査または将来的に罹患するか否かを予測する方法。
(1)被験者および疾患患者由来の各試料からそれぞれ免疫複合体を回収する工程、
(2)それぞれの免疫複合体を分解し、分解産物を分離する工程、
(3)分離した分解産物を質量分析することによって、各試料中に含まれる抗原を網羅的に同定、定量する工程、
(4)被験者と疾患患者の間でそれぞれ同定された抗原を比較することによって、被験者が該疾患に罹患しているか否かを検査または将来的に罹患するか否かを予測する工程
【請求項8】
疾患が、感染症、自己免疫疾患、悪性腫瘍、動脈硬化症、糖尿病から選択される、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
試料が血液、血清または組織である、請求項7に記載の方法。
【請求項10】
工程(1)において、プロテインGまたはプロテインAを用いて免疫複合体を回収する請求項7に記載の方法。
【請求項11】
工程(2)において、液体クロマトグラフィーによって分解産物を分離する請求項7に記載の方法。
【請求項12】
工程(3)において、タンデム質量分析によって質量分析する請求項7に記載の方法。
【請求項13】
被験者由来の試料から回収した免疫複合体における、トロンボスポンジン−1および/または血小板第4因子の有無を検出する関節リウマチの検査方法。
【請求項14】
プロテインGまたはプロテインAを用いて免疫複合体を回収する請求項13に記載の方法。
【請求項15】
治療中または治療を受けた関節リウマチ患者から経時的に採取された試料から回収した免疫複合体における、トロンボスポンジン−1および/または血小板第4因子の有無を検出することを含む、関節リウマチ患者に対する治療効果の評価方法。
【請求項16】
プロテインGまたはプロテインAを用いて免疫複合体を回収する請求項15に記載の方法。
【請求項17】
トロンボスポンジン−1を特異的に認識する抗体および/または血小板第4因子を特異的に認識する抗体を含む、関節リウマチの検査用キット。

【公開番号】特開2012−103238(P2012−103238A)
【公開日】平成24年5月31日(2012.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−215402(P2011−215402)
【出願日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【出願人】(504205521)国立大学法人 長崎大学 (226)
【Fターム(参考)】