説明

免疫複合体製剤

本発明は、粒子が実質的に存在しない免疫複合体製剤、すなわち以下:免疫複合体、ならびに以下;ショ糖、ポリソルベート20、ポリソルベート80、シクロデキストリン、ブドウ糖、グリセロール、ポリエチレングリコール、マンニトール、塩化ナトリウム、およびアミノ酸、から成る群より選択される1つまたはそれより多くの賦形剤、を包含する免疫複合体製剤であって、その場合製剤がpH4.5から7.6を有する緩衝化水溶液である、前記免疫複合体製剤を提供する。本発明はまた、実質的に凝集体を含まない免疫複合体製剤、すなわち、以下:免疫複合体;ならびに、ヒスチジン、ショ糖、グリシン、および塩化ナトリウムから成る群より選択される1つまたはそれより多くの賦形剤、を包含する免疫複合体製剤であって、その場合製剤がpH4.5から7.6を有する緩衝化水溶液である、前記免疫複合体製剤を提供する。本発明はさらに、粒子および凝集体の双方とも実質的に存在しない、免疫複合体製剤を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[01]本出願は、35 U.S.C.§119(e)の下に2005年8月3日に提出された出願第60/704,902号;2005年8月11日に提出された60/707,162号;2006年5月4日に提出された60/746,454号;および2006年5月4日に提出された60/746,456号に対する利益を主張し、これらの開示を各々本明細書によりそれらの全内容において参照として援用する。
【0002】
(発明の技術分野)
[02]本発明は、抗体、および1つまたは数個の共有結合により連結された薬剤の分子、で構成される医薬化合物である、免疫複合体(immunoconjugate)の安定な製剤の調製のための方法に関する。
【背景技術】
【0003】
(発明の背景)
[03]免疫複合体は、癌およびその他の状態の治療のための、非常に強力かつ特異的な物質として開発されている。免疫複合体は、標的細胞抗原、例えば腫瘍細胞抗原、を特異的に認識する抗体、および1つまたは数個の共有結合により連結された薬剤の分子、特に細胞毒性薬剤、例えばメイタンシノイド、タキサン、またはCC−1065類似体、から構成される。そのような免疫複合体に対して使用されるもう1つの名称は、抗体−薬剤複合体である。免疫複合体は、循環血中では不活性であるが、標的細胞表面に結合すると、細胞により内部に取り込まれる。まだ完全には理解されていないメカニズムにより、薬剤はその後抗体からはずれ、それらの薬理学的効果を発することができる。
【0004】
[04]標的細胞、例えば癌組織を構成する細胞、への細胞毒性薬剤の標的型の送達は、細胞毒性薬剤の治療指標を、強力に改善する。典型的には免疫複合体として使用される細胞毒性薬剤は、従来の化学療法薬より100から1000倍強力である。そのような免疫複合体の例は、国際(PCT)特許出願第WO 00/02587号、02/060955号、および02/092127号;米国特許第5,475,092号、6,340,701号、6,171,586号、6,706,708 B2号、および6,756,397 B2号;ならびにChari et al., Cancer Res., 52, 127-131 (1992)に開示されている。
【0005】
[05]免疫複合体のような医薬化合物は一般に、1つまたはそれより多くの医薬的に受容可能な担体、賦形剤、および/または安定剤と組み合わせて、患者への投与、ならびに医薬化合物の保存および輸送を可能にする医薬組成物を提供する。他のタンパク質医薬剤と同様に免疫複合体は、分解、例えば酸化、脱アミド化、ならびに粒子および凝集体の形成、等を起こしやすい(Manning et al., Pharm. Res. 6, 903-918 (1989); Ahern and Manning, Stability of Protein Pharmaceuticals: Part A, Chemical and Physical pathways of Protein Degradation, Plenum, New York, (1992); およびCleland et al., Crit. Rev. Ther. Drug Carrier Syst. 10, 307-377 (1993))。
【0006】
[06]タンパク質医薬剤における粒子の形成は、特に医薬化合物を不安定化し、したがって製剤を臨床的使用に関してはより低下した効力とする、または有害とさえする可能性がある。例えば注射される医薬製剤中の粒子は、患者における静脈への有意な傷害、または長期化した静脈のうっ滞を引き起こし得る。加えて凝集体の形成は、タンパク質医薬剤の主たる分解経路であり(Chari et al., Pharm Res. 20, 1325-1336 (2003))、望ましくない影響、例えば免疫原性へと導くと思われる。
【0007】
[07]しばしば疎水性の低分子である薬剤、殊に細胞毒性薬剤の、親水性のモノクローナル抗体との複合体化は、免疫複合体に付加的な不安定性を誘起する。免疫複合体の抗体成分に起因し得る特性に対処することは、安定な液体または凍結乾燥の医薬製剤の作製に重要な意味を持つ。このため、WO 2004/004639 A2および米国特許出願第2004/0,241,174 A1号は、免疫複合体の組成物について記載している。しかしながらこれらの組成物は、免疫複合体の医薬組成物における粒子および凝集体の形成に、十分に対処しているとは言えない。
【0008】
[08]したがって、粒子および/または凝集体が実質的に存在しない、そして保存および輸送の間に粒子および/または凝集体が実質的に存在しないままである、免疫複合体の医薬組成物が依然として必要とされている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
[09]本発明は、粒子および/または凝集体が実質的に存在しない、そして保存および輸送の間の粒子および/または凝集体の形成を防止する、免疫複合体の医薬組成物を提供する。医薬組成物の使用に関する方法もまた提供する。本発明のこれらおよびその他の利点、ならびに付加的な発明の特徴を、本明細書に提供した本発明の記載から明らかにしていく。
【課題を解決するための手段】
【0010】
(発明の簡単な概要)
[10]本発明は、免疫複合体の医薬組成物中の粒子および凝集体の形成は、ある種の賦形剤を使用することにより阻害することができる、という発見に基づく。この新規製剤は、医薬化合物のより高い安定性および実質的により長い有効期間をもたらし、患者の安全性の保証を提供する。
【0011】
[11]本発明の1つの側面は、粒子が実質的に存在しない免疫複合体製剤、すなわち以下:免疫複合体、ならびに以下:ショ糖、ポリソルベート20、ポリソルベート80、シクロデキストリン、ブドウ糖、グリセロール、ポリエチレングリコール、マンニトール、塩化ナトリウム、およびアミノ酸、から成る群より選択される1つまたはそれより多くの賦形剤、を包含する免疫複合体製剤であって、製剤がpH4.5から7.6を有する緩衝化水溶液である前記複合体製剤、を提供する。
【0012】
[12]本発明の第2の側面は、凝集体が実質的に存在しない免疫複合体製剤、すなわち以下:免疫複合体、ならびにヒスチジン、ショ糖、グリシン、および塩化ナトリウムから成る群より選択される1つまたはそれより多くの賦形剤、を包含する免疫複合体製剤であって、製剤がpH4.5から7.6を有する緩衝化水溶液である前記複合体製剤、を提供する。
【0013】
[13]本発明はさらに、粒子および凝集体の双方とも実質的に存在しない、免疫複合体製剤を提供する。
【0014】
(発明の詳細な説明)
[14]本発明は、粒子および/または凝集体が実質的に存在しない、そして長期間の保存にわたり、また輸送中も粒子および/または凝集体が実質的に存在しないままである、免疫複合体の安定な医薬組成物を提供する。本発明は、免疫複合体の医薬組成物中の粒子および凝集体の形成が、ある種の賦形剤を使用することにより阻害することができる、という発見に基づく。新規製剤は、医薬化合物のより高い安定性および実質的により長い有効期間をもたらし、患者の安全性の保証を提供する。
【0015】
[15]そのような製剤は、可視(50μmより大きい)および肉眼不可視(5μmより大きい)の粒子の形成を阻害または低減する賦形剤を含めることにより調製する。本明細書で使用する場合、“粒子が実質的に存在しない”組成物は、10μmより大きいサイズの粒子は1容器当たり6000カウント以下でなければならず、そして25μmより大きいサイズの粒子は1容器当たり600カウント以下でなければならないことを求める、米国薬局方(USP)検査<788>に通るものとする。米国薬局方、Rockville, MD により編集されたUSP28、第788章の”Particulate Matter in Injections,” 2004を参照のこと。本明細書で使用する場合、“凝集体が実質的に存在しない”組成物は、保存および輸送の間も凝集体が存在しないままであり、その結果、免疫複合体モノマーレベルが組成物の有効期間を通して95%より高いまま維持される。
【0016】
[16]本発明の免疫複合体組成物の典型的な有効期間は、4℃で、約1から5年、好ましくは1から4年、より好ましくは2から4年である。
【0017】
[17]粒子が実質的に存在しない本発明の免疫複合体製剤は、免疫複合体、ならびにショ糖、ポリソルベート20、ポリソルベート80、シクロデキストリン、ブドウ糖、グリセロール、ポリエチレングリコール、マンニトール、塩化ナトリウム、およびアミノ酸、から成る群より選択される1つまたはそれより多くの賦形剤を包含し、その場合製剤は、pH4.5から7.6を有する緩衝化水溶液である。製剤は、以下:(i)0.1−12% ショ糖、(ii)0.005−1.0% ポリソルベート20、(iii)0.5−2% ベータ−シクロデキストリン、(iv)2−8% グリセロール、(v)1−5% PEG6000、(vi)2−8% マンニトール、(vii)0.005−1.0% ポリソルベート80、(viii)5−20mM ヒスチジン、(ix)100−300mM グリシン、および(x)50−300mM 塩化ナトリウムから成る群より選択される1つまたはそれより多くの賦形剤を包含してよい。
【0018】
[18]ある種の好ましい態様において、粒子が実質的に存在しない本発明の製剤は、好ましくは以下:(i)5−10% ショ糖;(ii)0.005−0.2% ポリソルベート20;(iii)0.5−1% ベータ−シクロデキストリン;(iv)2−5% グリセロール;(v)2−3% PEG6000;(vi)3−5% マンニトール;(vii)0.005−0.2% ポリソルベート80;(viii)10−15mM ヒスチジン;(ix)130−250mM グリシン、および(x)100−200mM 塩化ナトリウム、から成る群より選択される1つまたはそれより多くの賦形剤を包含する。
【0019】
[19]好ましい態様において、緩衝化水溶液は、ヒスチジン、コハク酸塩、クエン酸塩、リン酸塩、および酢酸塩の1つまたはそれより多く含有してよく、そしてpHは好ましくは5.0から7.0である。製剤のpHは、より好ましくは5.0から6.0である。
【0020】
[20]本発明のある種の態様において、製剤の免疫複合体は、huMy9−6、huC242、huN901、DS6、トラスツツマブ、ビバツツマブ(bivatuzumab)、シブロツツマブ(sibrotuzumab)、およびリツキシマブから成る群より選択されるヒト化抗体を包含する;そして/または免疫複合体は、メイタンシノイド、タキサン、およびCC−1065から成る群より選択される細胞毒性薬剤を包含する。本発明の製剤中の免疫複合体の濃度は、1ml当たり約0.5から20.0mgの間の範囲とすることができる。好ましくは免疫複合体の濃度は、1ml当たり0.5から10mgである。
【0021】
[21]凝集体が実質的に存在しない本発明の免疫複合体製剤は、以下:免疫複合体;ならびに、ヒスチジン、ショ糖、グリシン、および塩化ナトリウムから成る群より選択される1つまたはそれより多くの賦形剤、を包含し、その場合製剤はpH4.5から7.6を有する緩衝化水溶液である。好ましくは免疫複合体製剤は、5−200mM ヒスチジン、100−200mM グリシン、および2−8% ショ糖より選択される1つまたはそれより多くの賦形剤を包含する。
【0022】
[22]ある種の好ましい態様において、賦形剤は、5−100mM ヒスチジン、もしくは100−150mM グリシンである、または製剤は、2−8% ショ糖、および100−150mM グリシンを含有する。ある種のその他の好ましい態様において、製剤は、10mM ヒスチジン、5% ショ糖、および130mM グリシンを含有する。
【0023】
[23]好ましい態様において緩衝化水溶液は、ヒスチジン、コハク酸塩、クエン酸塩、リン酸塩、および酢酸塩の1つまたはそれより多くを含有してよく、そしてpHは好ましくは5.0から7.0である。製剤のpHは、より好ましくは5.0から6.0である。
【0024】
[24]本発明のもう1つの側面において、凝集体が実質的に存在しない製剤はさらに、製剤には粒子もまた実質的に存在しないように、ポリソルベート20および/またはポリソルベート80を包含する。
【0025】
[25]本発明のある種の態様において、製剤の免疫複合体は、huMy9−6、huC242、huN901、DS6、トラスツツマブ、ビバツツマブ、シブロツツマブ、およびリツキシマブから成る群より選択されるヒト化抗体を包含する;そして/または免疫複合体は、メイタンシノイド、タキサン、およびCC−1065から成る群より選択される細胞毒性薬剤を包含する。本発明の製剤中の免疫複合体の濃度は、1ml当たり約0.5から20.0mgの間の範囲とすることができる。好ましくは免疫複合体の濃度は、1ml当たり0.5から10mgである。
【0026】
[26]本発明のある種の好ましい態様において、免疫複合体製剤は、凝集体および粒子の双方とも実質的に存在しない。例えば本発明は、本質的には:0.5−10mg/mlの濃度のhuN901−DM1免疫複合体;5−15mM ヒスチジン、および/または5−15mM コハク酸塩;0.1−10% ショ糖、および/または100−300mM グリシン;0.005−0.2% ポリソルベート80、および/または0.005−0.2% ポリソルベート20から成る免疫複合体製剤を提供し、その場合前記製剤はpH5−6を有する緩衝化水溶液である。製剤は、凝集体および粒子の双方とも実質的に存在しないままである限り、付加的な成分を所望により加えてもよい。
【0027】
[27]もう1つの例において、免疫複合体製剤は本質的には:(a)0.5−10mg/mlの濃度のhuC242−DM4免疫複合体;5−15mM ヒスチジン;0.1−10% ショ糖、および/または100−300mM グリシン;0.005−0.2% ポリソルベート80、および/または0.005−0.2% ポリソルベート20から成り、その場合前記製剤は、pH5−6を有する緩衝化水溶液である。製剤は、凝集体および粒子の双方とも実質的に存在しないままである限り、付加的な成分を所望により加えてもよい。
【0028】
[28]一般に、本発明と組み合わせて使用してよい適切な賦形剤は、無機塩、有機酸、糖類、アミノ酸、ポリソルベート、ポリエチレングリコール、およびそれらの組み合わせを含むがこれに限定されない、多様なカテゴリーから選択してよい。好ましい賦形剤は、無機塩、有機カルボン酸、糖類、アミノ酸、ポリソルベート、ポリエチレングリコール、アルブミン、グリセロール、およびそれらの組み合わせから成る群より選択される。
【0029】
[29]適切な無機塩の例として、塩化ナトリウム、塩化カルシウム、硫酸マグネシウム、塩化マグネシウム、硫酸ナトリウム、およびそれらの組み合わせを含むがこれに限定されない。塩化ナトリウムは本発明において使用するための好ましい賦形剤である。
【0030】
[30]適切な有機カルボン酸の例として、酒石酸(ラセミの酒石酸、D−酒石酸およびL−酒石酸を含む)、マレイン酸、酢酸、クエン酸、コハク酸、グルクロン酸、およびそれらの組み合わせを含むが、これに限定されない。“酸”は、本明細書において使用する場合、酸ならびにそのあらゆる水和物および塩、すなわちクエン酸塩およびコハク酸塩をいう。コハク酸が、本発明において使用するための好ましい賦形剤である。
【0031】
[31]適切な糖類の例として、ショ糖、トレハロース、ブドウ糖、マンニトール、シクロデキストリン、およびそれらの組み合わせを含むが、これに限定されない。ショ糖およびシクロデキストリンが、本発明において使用するための好ましい賦形剤である。
【0032】
[32]適切なアミノ酸の例として、ヒスチジン、グリシン、リジン、アルギニン、およびそれらの組み合わせを含むが、これに限定されない。ヒスチジンおよびグリシンが、本発明で使用するための好ましい賦形剤である。
【0033】
[33]適切なアルブミンの例として、ヒト血清アルブミンを含む。
【0034】
[34]適切なポリエチレングリコールの例は、約200から20,000Daの分子量のポリエチレングリコールである。好ましいポリエチレングリコールは、PEG4000、PEG5000、PEG6000、PEG8000、およびPEG10000である。
【0035】
[35]適切なポリソルベートの例は、ポリソルベート20(TWEEN−20(登録商標))およびポリソルベート80である。
【0036】
[36]適切なシクロデキストリンの例は、アルファ−、ベータ−、およびガンマ−シクロデキストリンである。
【0037】
[37]この発明の教示より、当業者は、所定の免疫複合体溶液において粒子および/または凝集体が実質的に存在しない製剤を、最もよく提供するはずである賦形剤を、容易に決定することができる。
【0038】
[38]好ましくは免疫複合体製剤の浸透圧は、ほぼヒト血液の値(すなわち等張)である。
【0039】
[39]適切な浸透圧調節 (tonicifying)剤の例は、塩、アミノ酸、および糖質である。好ましい塩は、1価のナトリウム塩を含む。好ましいアミノ酸は、ヒスチジン、グリシン、リジン、およびアルギニンを含む。最も好ましいのはグリシンである。好ましい糖質は、単糖、二糖、直鎖オリゴ糖、および環式オリゴ糖を含む。好ましい二糖はショ糖である。適切な量の塩、糖類、および/またはアミノ酸を本発明の製剤に加えて、所望の浸透圧を達成することができる。
【0040】
[40]医薬化合物は、標的細胞抗原を特異的に認識する抗体、および1つまたは数個の共有結合により連結された細胞毒性薬剤、例えばメイタンシノイド、タキサン、またはCC−1065類似体、の分子で構成される免疫複合体である。
【0041】
[41]抗体は、あらゆる種類の細胞に対して、ただし一般的には破壊すべき標的細胞、例えば腫瘍細胞(特に固形腫瘍細胞)、ウイルスに感染した細胞、微生物に感染した細胞、寄生体に感染した細胞、自己免疫細胞(自己抗体を産生する細胞)、活性化細胞(移植片拒絶、もしくは移植片対宿主病に伴うもの)、または他のあらゆるタイプの罹患した細胞もしくは異常な細胞に対して、特異的であることができる。
【0042】
[42]抗体は、現在公知の、または公知となるあらゆる種類であってよく、そして細胞表面上の抗原に結合することができる(例えば相補性決定領域(CDR)を含有する)、あらゆる免疫グロブリン、あらゆる免疫グロブリンフラグメント、例えばFab、F(ab’)、dsFv、sFv、二重特異性抗体、および三重特異性抗体、または免疫グロブリンキメラ、を含むことができる。あらゆる適切な抗体を、細胞結合物質(cell-binding-agent)として使用することができる。当業者は、適当な抗体の選択は標的である細胞集団に依存することになることを認識するだろう。このことについては、特定の細胞集団(典型的にはそして好ましくは罹患した細胞集団)で選択的に発現される細胞表面分子(すなわち抗原)のタイプおよび数が、本発明の組成物において使用するための適当な抗体の選択を支配することになる。細胞表面の発現プロフィールは、腫瘍細胞タイプを含む広く多様な細胞タイプについて知られており、あるいは知られていない場合には、通例の分子生物学的および組織化学的技術を使用して決定することができる。
【0043】
[43]抗体はポリクローナル抗体またはモノクローナル抗体であることができるが、最も好ましくはモノクローナル抗体である。本明細書で使用する場合“ポリクローナル”抗体は、典型的には免疫された動物の血清中に含有される、抗体分子の不均一な集団をいう。“モノクローナル”抗体は、特定の抗原に特異的である抗体分子の均一な集団をいう。モノクローナル抗体は、典型的にはBリンパ球(“B細胞”)の単一のクローンにより産生される。モノクローナル抗体は、標準的なハイブリドーマ技術を含む当業者に公知の多様な技術を使用して得てよい(例えばKohler and Milstein, Eur. J. Immunol., 5: 511-519 (1976), Harlow and Lane (編), Antibodies: A Laboratory Manual, CSH Press (1988)、および C.A. Janeway et al. (編), Immunobiology, 第5版, Garland Publishing, New York, NY (2001)を参照のこと)。手短にはモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマ法は典型的には、適切なあらゆる動物、典型的および好ましくはマウス、に抗原(すなわち“免疫原”)を注射することを伴う。その後動物を屠殺し、その脾臓から単離したB細胞をヒト骨髄腫細胞と融合させる。際限なく増殖し、in vitroで所望の特異性を有する高力価の抗体を継続的に分泌する、ハイブリッド細胞(すなわち“ハイブリドーマ”)が産生される。当該技術に公知のあらゆる適当な方法を使用して、所望の特異性を有する抗体を産生するハイブリドーマ細胞を同定することができる。そのような方法として、例えば酵素結合免疫吸着検定法(ELISA)、ウェスタンブロット解析、およびラジオイムノアッセイを含む。ハイブリドーマの集団をスクリーニングして、その各々が抗原に対して単一の抗体種を分泌する個々のクローンを単離する。各ハイブリドーマは単一のB細胞との融合に由来するクローンであるため、そのハイブリドーマが産生するすべての抗体分子は、それらの抗原結合部位およびアイソタイプを含めて、構造上同一である。モノクローナル抗体はまた、EBV−ハイブリドーマ技術(例えばHaskard and Archer, J. Immuol.Methods, 74(2): 361-67 (1984)、およびRoder et al., Methods Enzymol., 121: 140-67 (1986)を参照のこと)、バクテリオファージベクター発現系(例えばHuse et al., Science, 246: 1275-81 (1989)を参照のこと)、または抗体フラグメント、例えばFabおよびscFv(1本鎖可変領域)を包含するファージディスプレーライブラリー(例えば米国特許第5,885,793号および5,969,108号、ならびに国際特許出願WO 92/01,047およびWO 99/06,587を参照のこと)を含む、他の適切な技術を使用して作製してもよい。
【0044】
[44]モノクローナル抗体は、あらゆる適切な動物から単離または産生させることができるが、好ましくは哺乳類、より好ましくはマウスまたはヒト、そして最も好ましくはヒトで産生させる。マウスで抗体を産生させるための方法は当業者に周知されており、本明細書に記載する。ヒト抗体に関して、ポリクローナル抗体は、適当な抗原でワクチン接種または免疫されたヒト被験者の血清より単離することができることを、当業者は認識するだろう。あるいはヒト抗体は、ヒト以外の動物、例えばマウスにおいてヒト抗体を産生するための公知の技術を適用することにより、作製することができる。(例えば米国特許第5,545,806号、5,569,825号、および5,714,352号、ならびに米国特許出願公開第2002/0,197,266 A1を参照のこと)。
【0045】
[45]ヒトの治療に適用するための理想的な選択肢である一方で、ヒト抗体、特にヒトモノクローナル抗体は、典型的にはマウスモノクローナル抗体に比して作製はより困難である。しかしながらマウスモノクローナル抗体は、ヒトに投与した時に急速なホストの抗体応答を誘発し、そのことが抗体−薬剤複合体の治療的または診断的潜在能力を低減させる可能性がある。これらの合併症を回避するため、モノクローナル抗体は好ましくは、ヒト免疫系により“外来”として認識されないものとする。
【0046】
[46]このために、ファージディスプレイを使用して、抗体を作製することができる。このことについては、抗体の抗原結合可変(V)ドメインをコードするファージライブラリーを、標準的な分子生物学技術およびリコンビナントDNA技術を使用して作製することができる(例えばSambrook et al. (編), Molecular Cloning, A Laboratory Manual, 第3版, Cold Spring Harbor Laboratory Press, New York (2001)を参照のこと)。所望の特異性を有する可変領域をコードするファージを、所望の抗原への選択的結合について選択し、選択された可変ドメインを包含する完全なヒト抗体を再構成する。モノクローナル抗体の特徴を有するヒト抗体が細胞により分泌されるように、再構成された抗体をコードする核酸配列を、適切な細胞株、例えばハイブリドーマの産生のために使用される骨髄種細胞内に導入する(例えばJaneway et al., 上記、Huse et al., 上記、および米国特許第6,265,150号を参照のこと)。あるいはモノクローナル抗体は、特定のヒト重鎖および軽鎖の免疫グロブリン遺伝子に関して遺伝子導入されたマウスから作製することができる。そのような方法は、当該技術において公知であり、例えば米国特許第5,545,806号および5,569,825号、ならびにJaneway et al.,上記に記載されている。
【0047】
[47]最も好ましくは、抗体はヒト化抗体である。本明細書で使用する場合、“ヒト化”抗体は、抗体の抗原結合ループを形成する、マウスモノクローナル抗体の相補性決定領域(CDR)が、ヒト抗体分子のフレームワーク上に移植されているものである。マウスおよびヒトの抗体のフレームワークの類似性のおかげで、このアプローチで、抗原としてはヒト抗体と同一であるが、CDR配列が由来するマウスモノクローナル抗体と同じ抗原に結合するモノクローナル抗体を産生できることが、当該技術において一般に承認されている。ヒト化抗体を作製するための方法は当該技術において周知されており、例えばJaneway et al.,上記、米国特許第5,225,539号、5,585,089号、および5,693,761号、欧州特許第0,239,400 B1号、ならびに英国特許第2,188,638号に、詳細に記載されている。ヒト化抗体はまた、米国特許第5,639,641号、およびPedersen et al., J. Mol. Biol., 235: 959-973 (1994)、に記載されている抗体の表面再修飾 (resurfacing)技術を使用して作製することもできる。本発明の組成物の免疫複合体に利用する抗体は、最も好ましくはヒト化モノクローナル抗体であるが、上に記載したようなヒトモノクローナル抗体およびマウスモノクローナル抗体もまた、本発明の範囲内である。
【0048】
[48]少なくとも1つの抗原結合部位を有し、したがって標的細胞の表面上に存在する少なくとも1つの抗原または受容体を認識し結合する抗体フラグメントもまた、本発明の範囲内である。この点において、インタクトな抗体分子のタンパク質分解による開裂は、抗原を認識し結合する能力を保持する多様な抗体フラグメントを生成することができる。例えばプロテアーゼであるパパインを用いての抗体分子の限定的な消化は、典型的には3つのフラグメントを生成し、そのうち2つは同一であり、親抗体分子の抗原結合(antigen binding)活性を保持しているため、Fabフラグメントという。酵素ペプシンを用いての抗体分子の開裂は通常2つの抗体フラグメントを生成し、そのうち1つは、抗体分子の双方の抗原結合(antigen binding)アームを保持しており、したがってF(ab’)フラグメントという。ジチオスレイトールまたはメルカプトエチルアミンを用いてのF(ab’)フラグメントの還元により、Fab’フラグメントというフラグメントを生成する。合成ペプチドを介して抗体軽鎖の可変(V)ドメインに連結された抗体重鎖のVドメインを包含する切断型Fabフラグメントから成る、1本鎖可変(single-chain variable)領域フラグメント(sFv)抗体フラグメントは、通例のリコンビナントDNAテクノロジー技術を使用して作製することができる(例えばJaneway et al.,上記を参照のこと)。同様にジスルフィド安定化可変(disulfide-stabilized variable)領域フラグメント(dsFv)は、リコンビナントDNAテクノロジーにより調製することができる(例えばReiter et al., Protein Engineering, 7: 697-704 (1994)を参照のこと)。しかしながら本発明の文脈における抗体フラグメントは、抗体フラグメントのこれらの例示的タイプに限定されない。所望の細胞表面の受容体または抗原を認識し結合する、あらゆる適切な抗体フラグメントを利用することができる。抗体フラグメントについては、さらに例えば、Parham, J. Immunol., 131: 2895-2902 (1983), Spring et al., J. Immunol., 113: 470-478 (1974),およびNisonoff et al., Arch. Biochem. Biophys., 89: 230-244 (1960)に記載されている。抗体−抗原の結合は、当該技術において公知のあらゆる適切な方法、例えばラジオイムノアッセイ(RIA)、ELISA、ウェスタンブロット、免疫沈降法、および競合的阻害アッセイ、を使用してアッセイすることができる(例えばJaneway et al.,上記、および米国特許出願公開第2002/0,197,266 A1を参照のこと)。
【0049】
[49]加えて、抗体はキメラ抗体、またはその抗原結合フラグメントであることができる。“キメラ”により、抗体が、少なくとも2つの異なる種から得られたまたは由来する、少なくとも2つの免疫グロブリンまたはそのフラグメント(例えば2つの異なる免疫グロブリン、例えばネズミ科の(murine)免疫グロブリン可変領域と組み合わせたヒト免疫グロブリン定常領域)を包含することを意味する。抗体はまた、ドメイン抗体(dAb)またはその抗原結合フラグメント、例えばラクダ科抗体(例えばDesmyter et al., Nature Struct. Biol., 3: 752, (1996)を参照のこと)、またはサメ抗体、例えば新規抗原受容体(IgNAR)(例えばGreenberg et al., Nature, 374: 168 (1995)、およびStanfield et al., Science, 305: 1770-1773 (2004)を参照のこと)であることができる。
【0050】
[50]あらゆる適切な抗体を本発明の文脈において使用することができる。例えばモノクローナル抗体J5は、急性リンパ芽球性白血病共通抗原(CALLA)に特異的であるネズミ科IgG2a抗体であり(Ritz et al., Nature, 283: 583-585 (1980))、CALLAを発現する細胞(例えば急性リンパ芽球性白血病細胞)を標的とするために使用することができる。モノクローナル抗体MY9は、CD33抗原に特異的に結合するネズミ科IgG1抗体であり(Griffin et al., Leukemia Res., 8: 521 (1984))、CD33を発現する細胞(例えば急性骨髄性白血病(AML)細胞)を標的とするために使用することができる。
【0051】
[51]同様にモノクローナル抗体である抗B4(B4ともいう)は、B細胞上のCD19抗原に結合するネズミ科IgG1抗体であり(Nadler et al., J. Immunol., 131: 244-250 (1983))、B細胞またはCD19を発現する罹患細胞(例えば非ホジキンリンパ腫細胞、および慢性リンパ芽球性白血病細胞)を標的とするために使用することができる。N901は、小細胞肺腫瘍を含む神経内分泌由来の細胞上に見出されるCD56(神経細胞接着分子)抗原に結合する、ネズミ科モノクローナル抗体であり、神経内分泌由来の細胞に対して薬剤を標的に向かわせるため、免疫複合体において使用することができる。J5、MY9、およびB4の抗体は好ましくは、免疫複合体の一部としてそれらを使用する前に、表面再修飾またはヒト化する。抗体の表面再修飾またはヒト化は、例えばRoguska et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 91: 969-73 (1994)、に記載されている。
【0052】
[52]加えて、モノクローナル抗体C242はCanAg抗原に結合し(例えば米国特許第5,552,293号を参照のこと)、CanAgを発現する腫瘍、例えば結腸直腸癌、膵臓癌、非小細胞肺癌、および胃癌に対して、免疫複合体を標的に向かわせるために使用することができる。HuC242は、モノクローナル抗体C242のヒト型である(例えば米国特許第5,552,293号を参照のこと)。HuC242が産生されるハイブリドーマは、ECACC同定番号90012601にて登録されている。HuC242は、CDR移植法(例えば米国特許第5,585,089号、5,693,761号、および5,693,762号を参照のこと)、または表面再修飾技術(例えば米国特許第5,639,641号を参照のこと)を使用して調製することができる。HuC242を、CanAg抗原を発現する腫瘍細胞、例えば結腸直腸癌、膵臓癌、非小細胞肺癌、および胃癌の細胞に対して、免疫複合体を標的に向かわせるために使用することができる。
【0053】
[53]卵巣癌細胞および前立腺癌細胞を標的とするために、抗MUC1抗体を免疫複合体における細胞結合物質として使用することができる。抗MUC1抗体は、例えば抗−HMFG−2(例えばTaylor-Papadimitriou et al., Int. J. Cancer, 28: 17-21 (1981)を参照のこと)、hCTM01(例えばvan Hof et al., Cancer Res., 56: 5179-5185 (1996))、
およびDS6を含む。前立腺癌細胞はまた、細胞結合物質として抗前立腺特異膜抗原(PSMA)、例えばJ591を使用することにより、免疫複合体を用いて標的に向かわせることができる(例えばLiu et al., Cancer Res., 57: 3629-3634 (1997)を参照のこと)。さらにHer2抗原を発現する癌細胞、例えば乳癌、前立腺癌および卵巣癌の細胞は、抗体トラスツツマブを使用して標的に向かわせることができる。インスリン様増殖因子受容体に結合する抗−IGF−IR抗体もまた、免疫複合体において使用することができる。
【0054】
[54]特に好ましい抗体は、ヒト化モノクローナル抗体であり、その例として、huN901、huMy9−6、huB4、huC242、DS6、トラスツツマブ、ビバツツマブ、シブロツツマブ、およびリツキシマブを含む(例えば米国特許第5,639,641号、および5,665,357号;米国特許出願公開第2005−0118183号、国際特許出願WO 02/16,401、Pedersen et al.,上記、Roguska et al.,上記、Liu et al.,上記、Nadler et al.,上記、Colomer et al., Cancer Invest., 19: 49-56 (2001), Heider et al., Eur. J. Cancer, 31A: 2385-2391 (1995), Welt et al., J. Clin. Oncol., 12: 1193-1203 (1994)、およびMaloney et al., Blood, 90: 2188-2195 (1997)を参照のこと)。最も好ましくは抗体は、huN901ヒト化モノクローナル抗体、またはhuMy9−6ヒト化モノクローナル抗体である。その他のモノクローナル抗体も当該技術において知られており、本発明と関連して使用することができる。
【0055】
[55]免疫複合体は、あらゆる適切な薬剤、典型的には細胞毒性物質を包含することができる。“細胞毒性物質”は本明細書で使用する場合、細胞の死に至らせる、細胞死を誘発する、または細胞の生存率を減少させる、あらゆる化合物をいう。適切な細胞毒性物質は、例えばメイタンシノイドおよびメイタンシノイド類似体、タキソイド、CC−1065およびCC−1065類似体、ならびにドラスタチンおよびドラスタチン類似体を含む。本発明の好ましい態様において細胞毒性物質は、メイタンシノールおよびメイタンシノール類似体を含むメイタンシノイドである。メイタンシノイドは、微小管の形成を阻害し、哺乳類細胞に対して高毒性である化合物である。適切なメイタンシノール類似体の例は、修飾された芳香環を有するもの、および他の位置での修飾を有するものを含む。そのようなメイタンシノイドは、例えば米国特許第4,256,746号、4,294,757号、4,307,016号、4,313,946号、4,315,929号、4,322,348号、4,331,598号、4,361,650号、4,362,663号、4,364,866号、4,424,219号、4,371,533号、4,450,254号、5,475,092号、5,585,499号、5,846,545号、および6,333,410号に記載されている。
【0056】
[56]修飾された芳香環を有するメイタンシノール類似体の例は、以下:(1)C19−デクロロ(米国特許第4,256,746号)(アンサマイトシンP2のLAH還元により調製)、(2)C−20−ヒドロキシ(またはC−20−デメチル)+/−C−19−デクロロ(米国特許第4,361,650号および4,307,016号)(Streptomyces(ストレプトマイセス属)またはActinomyces(アクチノマイセス属)を使用してのデメチル化、またはLAHを使用しての脱塩素により調製)、ならびに(3)C−20−デメトキシ、C−20−アシルオキシ(−OCOR)、+/−デクロロ(米国特許第4,294,757号)(塩化アシルを使用してのアシル化により調製)、を含む。
【0057】
[57]芳香環以外の位置の修飾を有するメイタンシノール類似体の例は、以下:(1)C−9−SH(米国特許第4,424,219号)(メイタンシノールと、HSまたはPとの反応により調製)、(2)C−14−アルコキシメチル(デメトキシ/CHOR)(米国特許第4,331,598号)、(3)C−14−ヒドロキシメチルまたはアシルオキシメチル(CHOHまたはCHOAc)(米国特許第4,450,254号)(Nocardia(ノカルジア属)より調製)、(4)C−15−ヒドロキシ/アシルオキシ(米国特許第4,364,866号)(Streptomycesによるメイタンシノールの変換により調製)、(5)C−15−メトキシ(米国特許第4,313,946号および4,315,929号)(Trewia nudifloraより単離)、(6)C−18−デメチル(米国特許第4,362,663号および4,322,348号)(Streptomycesによるメイタンシノールのデメチル化により調製)、ならびに(7)4,5−デオキシ(米国特許第4,371,533号)(メイタンシノールの三塩化チタン/LAH還元により調製)を含む。
【0058】
[58]本発明の好ましい態様において免疫複合体は、細胞毒性物質として、N2’−デアセチル−N2’−(3−メルカプト−1−オキソプロピル)−メイタンシンとしても知られる、チオールを含有するメイタンシノイドDM1を利用する。DM1の構造は式(I):
【0059】
【化1】

により表される。
【0060】
[59]本発明のもう1つの好ましい態様において、免疫複合体は、細胞毒性物質としてN2’−デアセチル−N2’−(4−メチル−4−メルカプト−1−オキソペンチル)−メイタンシンとしても知られる、チオールを含有するメイタンシノイドDM4を利用する。DM4の構造は式(II):
【0061】
【化2】

により表される。
【0062】
[60]例えば、イオウ原子を持つ炭素原子上にモノアルキルまたはジアルキルの置換を持つ、チオールおよびジスルフィドを含有するメイタンシノイドを含む、その他のメイタンシンを、本発明の文脈において使用してよい。特に好ましいのは、C位,C14ヒドロキシメチル、C15ヒドロキシ、またはC20デスメチルの官能基に、立体的に妨害されたスルフヒドリル基を持つアシル基でアシル化されたアミノ酸側鎖を有するメイタンシノイドであり、ここでチオール官能基を持つアシル基の炭素原子は、1または2の置換基を有しており、前記置換基はCH、C、1から10の炭素原子を有する直鎖もしくは分枝鎖のアルキルもしくはアルケニル、3から10の炭素原子を有する環式のアルキルもしくはアルケニル、フェニル、置換されたフェニル、または複素環式芳香族もしくはヘテロシクロアルキルのラジカルであり、そしてさらにここで置換基の1つはHであることができ、そしてここでアシル基は、カルボニル官能基およびイオウ原子の間に少なくとも3つの炭素原子の長さの直鎖を有する。
【0063】
[61]本発明の文脈において使用するための付加的なメイタンシンは、式(III)により表される化合物:
【0064】
【化3】

を含み、
式中Y’は
【0065】
【化4】

を表し、
ここでRおよびRは、各々独立して1から10の炭素原子を有する直鎖のアルキルもしくはアルケニル、好ましくはCHもしくはC、3から10の炭素原子を有する分枝鎖もしくは環式のアルキルもしくはアルケニル、フェニル、置換されたフェニル、または複素環式芳香族もしくはヘテロシクロアルキルのラジカルであり、そしてここでRはまた、Hであることもでき、
ここでA、B、Dは3−10の炭素原子を有するシクロアルキルもしくはシクロアルケニル、シンプルなアリールもしくは置換されたアリール、または複素環式芳香族、もしくはヘテロシクロアルキルのラジカルであり、
ここでR、R、R、R、R、R、R、R10、R11、およびR12は各々独立して、H、1から10の炭素原子を有する直鎖のアルキルもしくはアルケニル、好ましくはCHもしくはC、3から10の炭素原子を有する分枝鎖もしくは環式のアルキルもしくはアルケニル、フェニル、置換されたフェニル、または複素環式芳香族、もしくはヘテロシクロアルキルのラジカルであり、
ここでl、m、n、p、q、r、s、u、およびtは、各々独立してゼロ、または1から5の整数であるが、ただしl、m、n、p、q、r、s、u、およびtの少なくとも2つは、いずれの時にも同時にゼロではなく、そして
ここでZはH、SRまたはCORであり、ここでRは、1から10の炭素原子を有する直鎖のアルキルもしくはアルケニル、3から10の炭素原子を有する分枝鎖もしくは環式のアルキルもしくはアルケニル、シンプルなアリールもしくは置換されたアリール、または複素環式芳香族、もしくはヘテロシクロアルキルのラジカルである。
【0066】
[62]式(III)の好ましい態様は、式中(a)RがHであり、Rがメチルであり、そしてZがHである、(b)RおよびRがメチルであり、そしてZがHである、(c)RがHであり、Rがメチルであり、そしてZが−SCHである、ならびに(d)RおよびRがメチルであり、そしてZが−SCHである、式(III)の化合物を含む。
【0067】
[63]そのような付加的なメイタンシンはまた、式(IV−L)、(IV−D)、または(IV−D,L)により表される化合物:
【0068】
【化5】

を含み、
式中、Yは
【0069】
【化6】

を表し、
ここでRおよびRは、各々独立してH、1から10の炭素原子を有する直鎖のアルキルもしくはアルケニル、好ましくはCHもしくはC、3から10の炭素原子を有する分枝鎖もしくは環式のアルキルもしくはアルケニル、フェニル、置換されたフェニル、または複素環式芳香族もしくはヘテロシクロアルキルのラジカルであり、
ここでR、R、R、R、R、およびRはおのおの独立して、H、1から10の炭素原子を有する直鎖のアルキルもしくはアルケニル、好ましくはCHもしくはC、3から10の炭素原子を有する分枝鎖もしくは環式のアルキルもしくはアルケニル、フェニル、置換されたフェニル、または複素環式芳香族もしくはヘテロシクロアルキルのラジカルであり、
ここでl、m、およびnは、各々独立して1から5の整数であり、そして加えてnはゼロであることができ、
ここでZはH、SRまたはCORであり、ここでRは、1から10の炭素原子を有する直鎖もしくは分枝鎖のアルキルもしくはアルケニル、3から10の炭素原子を有する環式のアルキルもしくはアルケニル、またはシンプルなアリールもしくは置換されたアリール、または複素環式芳香族もしくはヘテロシクロアルキルのラジカルであり、そして
ここでMayは、C−3、C−14ヒドロキシメチル、C−15ヒドロキシ、またはC−20デスメチルに側鎖を持つメイタンシノイドを表す。
【0070】
[64]式(IV−L)、(IV−D)および(IV−D,L)の好ましい態様は、(a)RがHであり、Rがメチルであり、R、R、R、およびRが各々Hであり、lおよびmが各々1であり、nが0であり、そしてZがHである、(b)RおよびRがメチルであり、R、R、R、Rが各々Hであり、lおよびmが1であり、nが0であり、そしてZがHである、(c)RがHであり、Rがメチルであり、R、R、R、およびRが各々Hであり、lおよびmが各々1であり、nが0であり、そしてZが−SCHである、または(d)RおよびRがメチルであり、R、R、R、Rが各々Hであり、lおよびmが1であり、nが0であり、そしてZが−SCHである、式(IV−L)、(IV−D)および(IV−D,L)の化合物を含む。
【0071】
[65]好ましくは細胞毒性物質は、式(IV−L)により表される。
【0072】
[66]付加的な好ましいメイタンシンはまた、式(V)により表される化合物:
【0073】
【化7】

を含み
式中Yは
【0074】
【化8】

を表し、
ここでRおよびRは、各々独立してH、1から10の炭素原子を有する直鎖のアルキルもしくはアルケニル、好ましくはCHもしくはC、3から10の炭素原子を有する分枝鎖もしくは環式のアルキルもしくはアルケニル、フェニル、置換されたフェニル、または複素環式芳香族もしくはヘテロシクロアルキルのラジカルであり、ここでR、R、R、R、R、およびRはおのおの独立して、H、1から10の炭素原子を有する直鎖のアルキルもしくはアルケニル、好ましくはCHもしくはC、3から10の炭素原子を有する分枝鎖もしくは環式のアルキルもしくはアルケニル、フェニル、置換されたフェニル、または複素環式芳香族もしくはヘテロシクロアルキルのラジカルであり、
ここでl、m、およびnは、各々独立して1から5の整数であり、そして加えてnはゼロであることができ、そして
ここでZはH、SRまたは−CORであり、ここでRは、メチル、1から10の炭素原子を有する直鎖のアルキルもしくはアルケニル、3から10の炭素原子を有する分枝鎖もしくは環式のアルキルもしくはアルケニル、またはシンプルなアリールもしくは置換されたアリール、または複素環式芳香族ラジカルもしくはヘテロシクロアルキルのラジカルである。
【0075】
[67]式(V)の好ましい態様は、(a)RがHであり、Rがメチルであり、R、R、R、およびRが各々Hであり;lおよびmが各々1であり;nが0であり;そしてZがHである、(b)RおよびRがメチルであり;R、R、R、Rが各々Hであり、lおよびmが1であり;nが0であり;そしてZがHである、(c)RがHであり、Rがメチルであり、R、R、R、およびRが各々Hであり、lおよびmが各々1であり、nが0であり、そしてZが−SCHである、または(d)RおよびRがメチルであり、R、R、R、Rが各々Hであり、lおよびmが1であり、nが0であり、そしてZが−SCHである、式(V)の化合物を含む。
【0076】
[68]まださらに好ましいメイタンシンは、式(VI−L)、(VI−D)、または(VI−D,L)により表される化合物:
【0077】
【化9】

を含み
式中、Y
【0078】
【化10】

を表し、
ここでRおよびRは、各々独立して1から10の炭素原子を有する直鎖のアルキルもしくはアルケニル、好ましくはCHもしくはC、3から10の炭素原子を有する分枝鎖もしくは環式のアルキルもしくはアルケニル、フェニル、置換されたフェニル、または複素環式芳香族もしくはヘテロシクロアルキルのラジカルであり、そしてここでRはまた、Hであることもでき、
ここでR、R、R、R、R、およびRはおのおの独立して、H、1から10の炭素原子を有する直鎖環式のアルキルもしくはアルケニル、好ましくはCHもしくはC、3から10の炭素原子を有する分枝鎖もしくは環式のアルキルもしくはアルケニル、フェニル、置換されたフェニル、または複素環式芳香族もしくはヘテロシクロアルキルのラジカルであり、
ここでl、m、およびnは、各々独立して1から5の整数であり、そして加えてnはゼロであることができ、
ここでZはSRまたはCORであり、ここでRは、1から10の炭素原子を有する直鎖のアルキルもしくはアルケニル、3から10の炭素原子を有する分枝鎖もしくは環式のアルキルもしくはアルケニル、またはシンプルなアリールもしくは置換されたアリール、または複素環式芳香族もしくはヘテロシクロアルキルのラジカルであり、そして
ここでMayは、メイタンシノイドである。
【0079】
[69]付加的な好ましいメイタンシンは、式(VII)により表される化合物:
【0080】
【化11】

を含み、
式中、Y2’
【0081】
【化12】

を表し、
ここでRおよびRは、各々独立して、H、1から10の炭素原子を有する直鎖もしくは分枝鎖のアルキルもしくはアルケニル、好ましくはCHもしくはC、3から10の炭素原子を有する環式のアルキルもしくはアルケニル、フェニル、置換されたフェニル、または複素環式芳香族もしくはヘテロシクロアルキルのラジカルであり、ここでA、B、およびDは、各々独立して3から10の炭素原子を有するシクロアルキルもしくはシクロアルケニル、シンプルなアリールもしくは置換されたアリール、または複素環式芳香族もしくはヘテロシクロアルキルのラジカルであり、
ここでR、R、R、R、R、R、R、R10、R11、およびR12は、各々独立してH、1から10の炭素原子を有する直鎖のアルキルもしくはアルケニル、好ましくはCHもしくはC、3から10の炭素原子を有する分枝鎖もしくは環式のアルキルもしくはアルケニル、フェニル、置換されたフェニル、または複素環式芳香族もしくはヘテロシクロアルキルのラジカルであり、
ここでl、m、n、p、q、r、s、tおよびuは、各々独立してゼロ、または1から5の整数であるが、ただしl、m、n、p、q、r、s、t、およびuの少なくとも2つは、いずれの時にも同時にゼロではなく、そして
ここでZはSRまたは−CORであり、ここでRは、1から10の炭素原子を有する直鎖のアルキルもしくはアルケニル、3から10の炭素原子を有する分枝鎖もしくは環式のアルキルもしくはアルケニル、シンプルなアリールもしくは置換されたアリール、または複素環式芳香族もしくはヘテロシクロアルキルのラジカルである。
【0082】
[70]式(VII)の好ましい態様は、RがHであり、Rがメチルである式(VII)の化合物を含む。
【0083】
[71]メイタンシノイドに加えて、免疫複合体において使用する細胞毒性物質は、タキサンまたはその誘導体であることができる。タキサンは、細胞毒性の天然の生成物であるパクリタキセル(Taxol(登録商標))、および半合成誘導体であるドセタキセル(Taxotere(登録商標))を含む化合物のファミリーであり、これらは双方とも癌治療において広く使用されている。タキサンは、チューブリンの脱重合を阻害する紡錘体の毒物であり、細胞死に至らしめる。ドセタキセルおよびパクリタキセルは、癌の治療において有用な物質であるが、一方それらの正常細胞に対する非特異的毒性のために、それらの抗腫瘍活性は限定される。さらにパクリタキセルおよびドセタキセルのような化合物それ自体は、免疫複合体において使用するのに十分なほど強力ではない。
【0084】
[72]細胞毒性免疫複合体を調製する上で使用するための好ましいタキサンは、式(VIII)のタキサン:
【0085】
【化13】

である。
【0086】
[73]本発明の文脈において使用することのできるタキサンを合成するための方法は、タキサンを、細胞結合物質、例えば抗体と複合体化させるための方法と共に、米国特許第5,416,064号、5,475,092号、6,340,701号、6,372,738号、6,436,931号、6,596,757号、6,706,708号、および6,716,821号、ならびに米国特許出願公開第2004/0,024,049 A1に詳細に記載されている。
【0087】
[74]細胞毒性物質はまた、CC−1065またはその誘導体であることができる。CC−1065は、ストレプトマイセス・ゼレンシス(Streptomyces zelensis)の培養ブロスから単離される強力な抗腫瘍抗生物質である。CC−1065は、通常使用される抗癌剤、例えばドキソルビシン、メトトレキサート、およびビンクリスチンに比して、in vitroで約1000倍強力である(Bhuyan et al., Cancer Res., 42: 3532-3537 (1982))。CC−1065およびその類似体は、米国特許第5,585,499号、5,846,545号、6,340,701号、および6,372,738号に開示されている。CC−1065の細胞毒性効力は、そのアルキル化活性、およびそのDNA結合活性またはDNA挿入活性と相関されてきた。これら2つの活性は、分子の別個の部分に属する。この点において、アルキル化活性は、CC−1065のシクロプロパピロロインドール(CPI)サブユニットに含有され、DNA−結合活性は2つのピロロインドールサブユニットに属する。
【0088】
[75]数種のCC−1065類似体が当該技術において知られており、これらもまた免疫複合体の細胞毒性物質として使用することができる(例えばWarpehoski et al., J. Med. Chem., 31: 590-603 (1988)を参照のこと)。そのCPI部分がシクロプロパベンズインドール(CBI)部分により置き換えられた、一連のCC−1065類似体が開発されてきた(Boger et al., J. Org. Chem., 55: 5823-5833 (1990)、およびBoger et al., Bioorg. Med. Chem. Lett., 1: 115-120 (1991))。これらのCC−1065類似体は、マウスにおいて遅延された毒性を引き起こすことなく、親薬剤のin vitroの高い効力を維持している。CC−1065と同様に、これらの化合物もDNAの副溝に共有結合して細胞死を引き起こす、アルキル化物質である。
【0089】
[76]CC−1065類似体の治療での有効性は、腫瘍部位を標的とした送達を通してin vivoの分布を変化させ、非標的組織へのより低い毒性、したがってより低い全身への毒性が結果的に得られることにより、大きく改善することができる。このために、腫瘍細胞を特異的に標的とする細胞結合物質との、CC−1065の類似体および誘導体の複合体が、作製されてきた(例えば米国特許第5,475,092号、5,585,499号、および5,846,545号を参照のこと)。これらの複合体は典型的に、in vitro における高い標的特異的細胞毒性、およびマウスのヒト腫瘍異種移植片モデルにおける抗腫瘍活性を示す(例えばChari et al., Cancer Res., 55: 4079-4084 (1995)を参照のこと)。
【0090】
[77]CC−1065類似体を合成するための方法は、米国特許第5,475,092号、5,585,499号、5,846,545号、6,534,660号、6,586,618号、および6,756,397号、ならびに米国特許出願公開第2003/0,195,365 A1号に、詳細に記載されている。
【0091】
[78]メトトレキサート、ダウノルビシン、ドキソルビシン、ビンクリスチン、ビンブラスチン、メルファラン、マイトマイシンC、クロラムブシル、カリケアマイシン、ツブリシン(tubulysin)およびツブリシン類似体、デュオカルマイシンおよびデュオカルマイシン類似体、ドラスタチンおよびドラスタチン類似体もまた、本発明の文脈において使用することができる。ドキサルビシン化合物およびダウノルビシン化合物(例えば米国特許第6,630,579号を参照のこと)もまた薬剤として使用することができる。
【0092】
[79]免疫複合体は、in vitroの方法により調製してよい。薬剤またはプロドラッグを抗体と連結するため、連結基を使用する。適切な連結基は当該技術において周知であり、ジスルフィド基、酸に不安的な基、光に不安定な基、ペプチダーゼに不安定な基、およびエステラーゼに不安定な基を含む。好ましい連結基はジスルフィド基である。例えば免疫複合体は、抗体および薬剤またはプロドラッグ間のジスルフィド交換反応を使用して、構成することができる。薬剤分子はまた、中間の担体分子、例えば血清アルブミンを通して抗体に連結することもできる。
【0093】
[80]抗体は、二官能性架橋試薬との反応により修飾してよく、それにより抗体への架橋分子の共有結合付着をもたらす。本明細書で使用する場合、“二官能性架橋試薬”は、細胞結合物質を薬剤、例えば本明細書に記載した薬剤に共有結合により連結するあらゆる化学的部分である。本発明の好ましい態様において、連結部分の一部は薬剤により提供される。この点において薬剤は、抗体を薬剤に結合させるために使用されるより大きなリンカー分子の一部である連結部分を包含する。例えばメイタンシノイドDM1を形成するため、メイタンシンのC−3ヒドロキシル基の側鎖を、遊離スルフヒドリル基(SH)を有するように修飾する。メイタンシンのこのチオール化された形は、修飾された抗体と反応して、免疫複合体を形成することができる。それ故最終的なリンカーは、そのうちの1つが架橋試薬により提供され、他方はDM1由来の側鎖により提供される、2つの成分から組み立てられる。
【0094】
[81]リンカー試薬が、薬剤および抗体の、それぞれ治療性、例えば細胞毒性、および標的に向かう特性の保持を提供する限り、あらゆる適切な二官能性架橋試薬を、本発明に関連して使用することができる。好ましくはリンカー分子は、薬剤および抗体が互いに化学的にカップルする(例えば共有結合する)ように、化学的結合(上に記載したような)を通して薬剤を抗体に結合する。好ましくは、リンカー試薬は開裂可能なリンカーである。より好ましくは、リンカーはマイルドな条件、すなわち薬剤の活性が影響を受けない細胞内の条件の下で開裂する。適切な開裂可能なリンカーの例は、ジスルフィドリンカー、酸に不安的なリンカー、光に不安定なリンカー、ペプチダーゼに不安定なリンカー、およびエステラーゼに不安定なリンカーを含む。ジスルフィドを含有するリンカーは、生理学的条件下で起こり得るジスルフィド交換を通して開裂可能なリンカーである。酸に不安定なリンカーは、酸性のpHで開裂可能なリンカーである。例えばある種の細胞内の一区画、例えばエンドソームおよびリソソームは、酸性のpH(pH4−5)を有しており、酸に不安定なリンカーを開裂するのに適する条件を提供する。光に不安定なリンカーは、体表面で、および光の届き得る多くの体腔において有用である。さらに赤外光は組織を透過することができる。ペプチダーゼに不安定なリンカーは、細胞内および細胞外のある種のペプチドを開裂するために使用することができる(例えばTrouet et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 79: 626-629 (1982)、およびUmemoto et al., Int. J. Cancer, 43: 677-684 (1989)を参照のこと)。
【0095】
[82]好ましくは、薬剤はジスルフィド結合を通して抗体に連結する。リンカー分子は、抗体と反応することのできる反応性化学基を包含する。抗体との反応のための好ましい反応性化学基は、N−スクシンイミジルエステル、およびN−スルホスクシンイミジルエステルである。加えてリンカー分子は、薬剤と反応してジスルフィド結合を形成することのできる反応性化学基、好ましくはジチオピリジル基を包含する。特に好ましいリンカー分子は、例えばN−スクシンイミジル3−(2−ピリジルジチオ)プロピオネート(SPDP)(例えばCarlsson et al., Biochem. J., 173: 723-737 (1978)を参照のこと)、N−スクシンイミジル4−(2−ピリジルジチオ)ブタノエート(SPDB)(例えば米国特許第4,563,304号を参照のこと)、およびN−スクシンイミジル4−(2−ピリジルジチオ)ペンタノエート(SPP)(例えばCAS登録番号341498−08−6)を含む。
【0096】
[83]開裂可能なリンカーを好ましくは本発明の方法において使用するが、一方非開裂(non-cleavable)リンカーを使用してもまた、上に記載した免疫複合体を作製することができる。非開裂リンカーは、薬剤、例えばメイタンシノイド、タキサン、またはCC−1065類似体、を細胞結合物質、例えば抗体に、安定な共有結合の様式で連結する能力のある、あらゆる化学的部分である。したがって非開裂リンカーは、薬剤または抗体が活性を維持できる条件下で、酸に誘発される開裂、光に誘発される開裂、ペプチダーゼに誘発される開裂、エステラーゼに誘発される開裂、およびジスルフィド結合の開裂に対して、実質的に抵抗性がある。
【0097】
[84]薬剤および細胞結合物質間に非開裂リンカーを形成する適切な架橋試薬は、当該技術において周知されている。非開裂リンカーの例は、細胞結合物質との反応のためのN−スクシンイミジルエステル部分、またはN−スルホスクシンイミジルエステル部分、ならびに薬剤との反応のためのマレイミドまたはハロアセチルを基本とする部分、を有するリンカーを含む。マレイミドを基本とする部分を包含する架橋試薬は、N−スクシンイミジル4−(マレイミドメチル)シクロヘキサンカルボキシレート(SMCC)、SMCCの“長鎖”類似体であるN−スクシンイミジル−4−(N−マレイミドメチル)−シクロヘキサン−1−カルボキシ−(6−アミドカプロエート)(LC−SMCC)、κ−マレイミドウンデカン酸N−スクシンイミジルエステル(KMUA)、γ−マレイミド酪酸N−スクシンイミジルエステル(GMBS)、ε−マレイミドカプロン酸N−ヒドロキシスクシンイミドエステル(EMCS)、m−マレイミドベンゾイル−N−ヒドロキシスクシンイミドエステル(MBS)、N−(α−マレイミドアセトキシ)−スクシンイミドエステル(AMAS)、スクシンイミジル−6−(β−マレイミドプロピオンアミド)ヘキサノエート(SMPH)、N−スクシンイミジル4−(p−マレイミドフェニル)−ブチレート(SMPB)、およびN−(p−マレイミドフェニル)イソシアネート(PMPI)を含む。ハロアセチルを基本とする部分を包含する架橋試薬は、N−スクシンイミジル−4−(ヨードアセチル)−アミノベンゾエート(SIAB)、N−スクシンイミジルヨードアセテート(SIA)、N−スクシンイミジルブロモアセテート(SBA)およびN−スクシンイミジル3−(ブロモアセトアミド)プロピオネート(SBAP)を含む。
【0098】
[85]非開裂リンカーを形成するイオウ原子を含まないその他の架橋試薬もまた、本発明の方法において使用することができる。そのようなリンカーは、ジカルボン酸を基本とする部分から誘導することができる。適切なジカルボン酸を基本とする部分として、一般式(IX)のα,ω−ジカルボン酸を含むがこれに限定されない:
【0099】
【化14】

式中Xは、2から20の炭素原子を有する、直鎖または分枝鎖のアルキル基、アルケニル基、またはアルキニル基であり、Yは、3から10の炭素原子を持つ、シクロアルキル基またはシクロアルケニル基であり、Zは、6から10の炭素原子を持つ、置換されたもしくは置換されていない芳香族の基、またはヘテロ原子がN、OもしくはSより選択される置換されたもしくは置換されていない複素環式基であり、そして式中l、m、およびnは各々0または1であるが、ただしl、m、およびnは同時にすべてゼロではない。
【0100】
[86]本明細書に開示した非開裂リンカーの多くは、米国特許出願公開第2005−0169933 A1号に詳細に記載されている。
【0101】
[87]あるいは米国特許第6,441,163 B1号に開示されているように、薬剤を最初に修飾して、抗体との反応に適する反応性エステルを導入することができる。活性化されたリンカー部分を含有するこれらのメイタンシノイドの、抗体との反応は、開裂可能なまたは非開裂の抗体メイタンシノイド複合体を生成するもう1つの方法を提供する。
【0102】
[88]そのような医薬組成物の製造のための過程は、クロマトグラフィーまたはダイアフィルトレーションにより、原体(bulk)の医薬剤を適当な製剤バッファーにバッファー交換し、その後、溶液または固体のいずれかとして所望の量の適当な賦形剤を添加することを伴う。タンパク質濃度および/またはpHの最終的な調整をまた行って、所望の組成物を達成してよい。
【0103】
[89]本発明の免疫複合体は、本出願に記載した医薬製剤の形で、およびそれ故医薬的に受容可能な担体、賦形剤、または希釈剤と共に患者に投与してよい。使用する場合、“医薬的に受容可能な”は、哺乳類、好ましくはヒトの治療または診断において有用である物質をいう。投与の好ましい様式は、非経口、特に静脈内、筋肉内、皮下、腹腔内、またはリンパ管内の経路による。例えばRemington’s Pharmaceutical Sciences, 第16版、1980, Mack Publishing Company, Osol et al. 編、を参照のこと。そのような組成物はタンパク質、例えば血清タンパク質、例えばヒト血清アルブミン、バッファーまたは緩衝化物質、例えばリン酸塩、その他の塩、もしくは電解質、等を含んでよい。適切な希釈剤は、例えば無菌水、等張食塩水、ブドウ糖希釈水溶液、多価アルコールまたはそのようなアルコールの混合物、例えばグリセリン、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、等を含んでよい。製剤は、保存剤、例えばフェネチルアルコール、メチルパラベンおよびプロピルパラベン、等を含有してよい。所望であれば製剤は、0.05から約0.20重量パーセントの抗酸化物を含むことができる。
【0104】
[90]投与は、当業者の医師により有効であることが知られているあらゆる経路を介してよい。非経口投与が好ましい。本発明の製剤を投与するための好ましい非経口経路は、静脈内、筋肉内、皮下、腹腔内、動脈内を含む。本発明において使用する化合物の、静脈内、腹腔内、筋肉内、および皮下の投与経路が、より好ましい非経口投与経路である。本発明の製剤の静脈内、腹腔内、および皮下の投与経路が、なおより一層好ましい。
【0105】
[91]ある種の非経口経路を介しての投与は、本発明の製剤を患者の体内に、針またはカテーテルを通して導入することを伴ってよい。所望によりそのような投与は、無菌のシリンジ、または何らかの他の機械的なデバイス、例えば継続的な輸液システムにより推進してよい。本発明により提供した製剤は、シリンジ、注射器(injector)、ポンプ、もしくはあらゆるその他のデバイスを使用して、または非経口投与用に当該技術で認識されている重力により、投与してよい。製剤は、無菌液の投与剤形で非経口的に投与することができる。これらの製剤は、ボーラスまたは急速な注入として静脈内に投与してよく、またこれらの製剤は、それらの所望の治療的、診断的、または医学的効果に加えて、免疫複合体の放出を引き起こすことができる。
【0106】
[92]本発明の免疫複合体は、因子、例えば治療される疾患の容態または修飾される生物学的効果、免疫複合体が投与される様式、患者の年齢、体重および状態、ならびに担当医により決定されるその他の因子、に依存して広範囲の投与量にわたり有効である。したがってあらゆる所定の患者に投与される量は、個々人の基盤の下に決定することができる。
【0107】
[93]患者を治療するために投与される本発明の製剤の量は、多数の因子に依存してよく、その中に非限定的に、患者の性別、体重および年齢、治療される状態または疾患の根底にある原因、投与経路およびバイオアベイラビリティ、投与された免疫複合体の体内における持続性、製剤、ならびに免疫複合体の効力が含まれる。投与が間欠的である場合、1投与当たりの量はまた、投与の間隔、および製剤由来の免疫複合体のバイオアベイラビリティを考慮しなければならない。本発明の製剤の投与は、継続的であることができる。所望の臨床的結果を達成するための、本発明の製剤の投与の用量、および注入速度または頻度の設定をすることは、当業者の医師の技術の範囲内である。
【0108】
[94]投与される投与量はもちろん、公知の因子、例えば特定の物質の薬力学的特徴、ならびにその投与の様式および経路;レシピエントの年齢、健康状態、および体重;症状の性質および範囲、併用治療の種類、治療の頻度、ならびに所望の効果、に依存して変わることになる。通常、治療上有意な化合物の1日の投与量は、体重1キログラム当たり約0.1から100ミリグラムであることができる。
【0109】
[95]体内への投与に適する投与剤形は、1ユニット当たり約1ミリグラムから約500ミリグラムの治療上有意な化合物を含有する。これらの医薬組成物において、治療上有意な化合物は、普通、液体製剤中に約0.05−2%(重量)、そして組成物の総重量に基づいて再構成する前の凍結乾燥製剤中には2−50%の量で存在するものとする。
【0110】
[96]本発明はまた、上に記載した製剤の凍結乾燥粉末を用意する。好ましくは凍結乾燥製剤は、1つまたはそれより多くの付加的な成分、例えば溶解保護剤および/または充填剤を包含する。凍結乾燥粉末は水を用いて再構成して、再構成された溶液を作出することができる。本製剤は、免疫複合体を包含する凍結乾燥製剤について記載している、米国特許出願第2004/0,241,174 A1号(同記載を本明細書により参照として援用する)に記載されているように、凍結乾燥および再構成することができる。
【0111】
[97]凍結乾燥組成物の再構成の前の、本発明の凍結乾燥組成物を包含する各成分の相対量を、複合体1mg当たりの賦形剤(例えばバッファー、表面活性剤、充填剤、氷晶防止剤)のmgという表し方で記載することができる。
【0112】
[98]本明細書に記載したあらゆる適切な緩衝化剤を、本発明の凍結乾燥組成物と関連して使用することができるが、凍結乾燥組成物は、好ましくはコハク酸ナトリウムバッファーを包含する。緩衝化剤は、本発明の凍結乾燥組成物中にあらゆる適切な量で存在することができる。特に凍結乾燥組成物は所望により、複合体1mg当たり約0.1mgから約2mgの緩衝化剤(例えば複合体1mg当たり約0.1mgから約0.5mgの緩衝化剤、複合体1mg当たり約0.5mgから約1mgの緩衝化剤、または複合体1mg当たり約1mgから約2mgの緩衝化剤)を包含する。最も好ましくは凍結乾燥組成物は、複合体1mg当たり約0.3mgのコハク酸ナトリウムバッファーを包含する。
【0113】
[99]凍結乾燥組成物は所望により、複合体1mg当たり約0.005mgから約0.1mgのポリソルベート、そして好ましくは複合体1mg当たり約0.005mgから約0.01mgのポリソルベート、複合体1mg当たり約0.01mgから約0.05mgのポリソルベート、または複合体1mg当たり約0.05mgから約0.1mgのポリソルベートを包含する。ポリソルベートがポリソルベート20である場合、凍結乾燥組成物は好ましくは、複合体1mg当たり約0.02mgのポリソルベート20を包含する。
【0114】
[100]凍結および乾燥の間の組成物の活性成分の分解を防ぐため、本発明の凍結乾燥組成物はさらに、氷晶防止剤、好ましくはアモルファス氷晶防止剤を包含する。“氷晶防止剤”という用語は本明細書において使用する場合、凍結中に不安定な分子を保護する賦形剤をいう。凍結乾燥組成物において使用するための適切な氷晶防止剤は、当業者に公知であり、例えばグリセロール、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ポリエチレングリコール(PEG)、デキストラン、グルコース、トレハローズ、およびショ糖を含む。最も好ましくは氷晶防止剤はショ糖である。氷晶防止剤は、本発明の凍結乾燥組成物中にあらゆる適切な量で存在してよい。凍結乾燥組成物は所望により、複合体1mg当たり約0.5mgから約5mg、例えば約0.5mgから約2mgの氷晶防止剤、複合体1mg当たり約0.8mgの氷晶防止剤、複合体1mg当たり約2mgの氷晶防止剤、または複合体1mg当たり約4mgの氷晶防止剤を包含する。氷晶防止剤がショ糖である場合、凍結乾燥組成物は好ましくは、複合体1mg当たり約0.5mgから約2mg(例えば約1mg)のショ糖を包含する。
【0115】
[101]凍結乾燥組成物はさらに、充填剤、好ましくは結晶化可能な充填剤を含有することができる。充填剤は典型的には、凍結乾燥の結果生成される“ケーク”に構造および重量を提供するために、当該技術において使用される。当該技術において公知のあらゆる適切な充填剤を、本発明の凍結乾燥組成物と関連して使用してよい。適切な充填剤として、例えばマンニトール、デキストラン、およびグリシンを含む。本発明の組成物中に使用される充填剤は、最も好ましくはグリシンである。凍結乾燥組成物は、あらゆる適切な量の充填剤を含有することができるが、好ましくは凍結乾燥組成物は、複合体1mg当たり約2mgから約20mgの充填剤、そして好ましくは複合体1mg当たり約2mgから約10mgの充填剤、複合体1mg当たり約5mgから約10mgの充填剤、複合体1mg当たり約10mgから約15mgの充填剤、または複合体1mg当たり約15mgから約20mgの充填剤を含有することができる。充填剤がグリシンである場合、凍結乾燥組成物は好ましくは、複合体1mg当たり約3.8mgのグリシンを包含する。
【0116】
[102]したがって本発明に従って、5mg/mLの複合体(例えば、好ましくはDM1と化学的にカップルしたhuN901を包含する複合体)を含有するように再構成されるものとする凍結乾燥組成物の成分は、好ましくは(i)複合体1mg当たり約0.3mgのコハク酸ナトリウムバッファー、(ii)複合体1mg当たり約0.02mgのポリソルベート20、(iii)複合体1mg当たり約1mgのショ糖、(iv)複合体1mg当たり約3.8mgのグリシン、を包含する。一度水で再構成されると、そのような凍結乾燥組成物は好ましくは約5.5のpHを有する。さらに凍結乾燥組成物を水で再構成する場合、液体製剤に関連して上に述べた賦形剤の相対的濃度の記載が、前述の凍結乾燥組成物に適用される。
【0117】
[103]凍結乾燥の方法は当該技術において周知されており、例えばWang, W., Int. J. Pharm., 203, 1-60 (2000) に記載されている。例えば本発明の凍結乾燥組成物は、以下のステップ:(1)4℃の貯蔵温度および周囲圧での容器圧(ambient chamber pressure)で2.5時間予め冷却、(2)−50℃の貯蔵温度および周囲圧での容器圧で14時間凍結、(3)−20℃の貯蔵温度および周囲圧での容器圧で6時間、グリシンの再結晶化、(4)−50℃の貯蔵温度および周囲圧での容器圧で16時間で再凍結、(5)−13℃の貯蔵温度および100mTorrの圧で24時間、1回目の乾燥、(6)24℃の貯蔵温度および100mTorrの圧で10時間、2回目の乾燥、ならびに(7)24℃の貯蔵温度および周囲圧での容器圧で停止期、を包含する凍結乾燥サイクルを使用して、生成することができる。しかしながら凍結乾燥組成物は、上に記載した方法により生成される組成物に限定されない。実際にあらゆる適切な凍結乾燥法を使用して、凍結乾燥組成物を生成することができ、そして選択される凍結乾燥のパラメータ(例えば乾燥時間)は、凍結乾燥する溶液の体積を含む多様な因子に依存して変わることになることは、当業者には明らかであろう。
【0118】
[104]もう1つの態様において、本発明は、水溶液製剤を調製するためのキットへの方向づけを行い、このキットは凍結乾燥粉末を含有する第1の容器、および再構成安定剤を包含する水溶液製剤を含有する第2の容器の双方を含有する。溶液中の凍結乾燥粉末の濃度、各容器内に充填される溶液の体積、および容器の容積はすべて、最終的な投与量ユニット中の活性な本体の所望の濃度に依存して、適切に修飾することができる相互に関係するパラメータである。したがってこれらのパラメータは、広い範囲内で変動してよい。
【0119】
[105]本明細書に引用したすべての特許、公開、およびその他の参考文献は、特にそれらの全内容において参照として援用する。
【0120】
[106]以下の実施例により本発明をさらに記載するが、これら実施例は工程の説明であり、本発明を限定するものとして解釈されるべきではない。以下に提示する工程のパラメータは、特定の必要性に合うように当業者により採用および適応することができる。
【実施例】
【0121】
(実施例1)
[107]この実施例は、製剤化したMAb−DM1複合体サンプルの視覚的外観における、以下の製剤の賦形剤の効果を示す。
【0122】
[108]huN901−SPP−DM1のサンプルは、以下に列記した各賦形剤と共に140mM NaClを含む10mM リン酸バッファー pH6.5中に1.0mg/mLとした。賦形剤は、w/w%を基準(賦形剤の重量/溶液の重量)として、huN901−SPP−DM1サンプルに直接加えた。賦形剤の添加後直ちに製剤を濾過し、外観および粒子のカウントの検査を行った。その後サンプルは、試験の期間中4℃で保存し、2週および1ヶ月のタイムポイントで再度検査した。外観に関してサンプルは、透明性については白色の背景に対して、そして可視粒子の存否については白色光の下で黒色の背景に対して、少なくとも1.0mLの溶液を調べることにより検査した。結果は、可視粒子の存否として報告する。約5μm以上のサイズの肉眼不可視の粒子についてもまた、2および100μm間の粒度を測定するために更正されたHIAC粒子カウンターを用いて測定した。
【0123】
【表1】

ショ糖、TWEEN−20(登録商標)、ベータ−シクロデキストリン、ブドウ糖、グリセロール、マンニトール、ポリエチレングリコール(PEG)の正の効果が観察された。
【0124】
(実施例2)
[109]この実施例は、複合体の凝集に関して、huN901−SPP−DM1の安定性におけるアミノ酸の効果を示す。
【0125】
[110]huN901−SPP−DM1のサンプルは、以下のバッファー中に5.0mg/mLとし、2−8℃および25℃で12ヶ月間保存した。複合体の凝集体の含有量を、1、3、6および12ヶ月の時点でクロマトグラフィーアッセイにて検査した。
【0126】
(1)10mM リン酸ナトリウム、140mM NaCl、pH6.5。
【0127】
(2)10mM クエン酸ナトリウム、135mM NaCl、0.01% ポリソルベート20、pH5.5。
【0128】
(3)10mM クエン酸ナトリウム、130mM ヒスチジン、0.01% ポリソルベート20、pH5.5。
【0129】
(4)10mM クエン酸ナトリウム、110mM グリシン、80mM NaCl、0.01% ポリソルベート20、pH5.5。
【0130】
【表2】

[111]実施例1は、複合体の凝集体の形成の防止に関して、ヒスチジンが製剤を改善することを示す。
【0131】
(実施例3)
[112]この実施例は、複合体の凝集体の点から、huMy9−6−SPDB−DM4の安定性におけるヒスチジンの効果を示す。
【0132】
[113]huMy9−6−SPDB−DM4複合体は、以下:
(1)10mM クエン酸ナトリウム、135mM NaCl、pH5.5
(2)150mM ヒスチジン/ヒスチジン塩化物、pH5.5
中に5.0mg/mLにて製剤化した。
【0133】
[114]サンプルは、2−8℃、および25℃で6ヶ月間インキュベーションし、その後クロマトグラフィーアッセイにより複合体の凝集体について検査した。
【0134】
【表3】

[115]データは、凝集体の形成の防止におけるヒスチジンの有益な効果を示す。
【0135】
(実施例4)
[116]この実施例は、複合体の凝集体に関して、huC242−SPDB−DM4の安定性における、緩衝化剤、糖質およびアミノ酸の効果を示す。
【0136】
[117]huC242−SPDB−DM4のサンプルは、以下の溶液:
(1)10mM クエン酸ナトリウム、135mM NaCl、pH5.5
(2)10mM クエン酸ナトリウム、5% ショ糖、130mM グリシン、0.1%ポリソルベート80、pH5.5
(3)10mM ヒスチジン/ヒスチジン塩化物、5% ショ糖、130mM グリシン、pH5.5
中に5.0mg/mL。
【0137】
[118]複合体モノマーおよび凝集体の含有量に関する検査を、T、ならびに2−8℃および25℃での3ヶ月の保存後に行った。
【0138】
【表4】

[119]データは、ショ糖およびグリシンが上の組み合わせにおいて合わせて、複合体の凝集体に対する防止に関して、製剤を改善することを示す。最大の改善は、ショ糖およびグリシンの組み合わせをヒスチジンと共に使用した時に観察される。
【0139】
(実施例5)
[120]この実施例は、huN901−SPP−DM1複合体の凝集体の含有量における、グリシンと共にまたは含まずにショ糖を含有する様々な製剤の効果を示す。
【0140】
[121]以下の各液体製剤中の5.0mg/mLの濃度のhuN901−SPP−DM1のサンプルを、モノマーおよび凝集体の含有量について検査した。
【0141】
(1)10mM クエン酸ナトリウム、135mM NaCl、0.01% ポリソルベート20、pH5.5
(2)10mM クエン酸ナトリウム、60mM NaCl、5% ショ糖、pH5.5
(3)10mM クエン酸ナトリウム、60mM NaCl、0.01% ポリソルベート20、5% ショ糖、pH5.5
(4)10mM リン酸ナトリウム、140mM NaCl、pH6.5
(5)10mM コハク酸ナトリウム、0.25M グリシン、0.01% ポリソルベート20、0.5% ショ糖、pH5.5
[122]25℃で保存したサンプルを、3、6および12ヶ月の時点で凝集体の含有量について検査した。
【0142】
【表5】

[123]すべてのケースにおいて、ショ糖を含有する製剤は、ショ糖を含まないものより低い凝集体の含有量を有する。グリシンを含有する製剤(組成5)は、この実施例において最大の安定性を有した。
【0143】
(実施例6)
[124]この実施例は、撹拌により誘発される粒子の形成における、ポリソルベート80の効果を示す。このストレスの状態(撹拌)は、静的保存(実施例1で検討している)の間に遭遇するストレスとは反対に、液体の複合体を輸送し取り扱う間に遭遇する擬似的ストレスと期待される。
【0144】
[125]huC242−SPDB−DM4のサンプルは、以下のバッファー中に1mg/mLとし、USPタイプ1ガラスバイアル内に入れ(10mLのバイアル内に5mL)、これをFlurotec(登録商標)Stopperで封をした。バイアルを、Lab-Line Orbital Shakerを使用して室温で100rpmにて48時間震盪した。
【0145】
(1)10mM クエン酸ナトリウム、135mM 塩化ナトリウム、pH5.5
(2)10mM ヒスチジン、5% ショ糖、130mM グリシン、pH5.5
(3)10mM ヒスチジン、5% ショ糖、130mM グリシン、0.1% ポリソルベート80、pH5.5
(4)10mM ヒスチジン、1% ショ糖、250mM グリシン、pH5.5
(5)10mM ヒスチジン、1% ショ糖、250mM グリシン、0.1% ポリソルベート80、pH5.5
(6)10mM ヒスチジン、280mM グリシン、pH5.5
(7)10mM ヒスチジン、280mM グリシン、0.1% ポリソルベート80、pH5.5
(8)10mM ヒスチジン、10% ショ糖、pH5.5
(9)10mM ヒスチジン、10% ショ糖、0.1% ポリソルベート80、pH5.5
[126]48時間震盪後、すべてのバイアルを目視により検討した。ポリソルベート80を含有したもの(組成3、5、7および9)は透明のままだったが、ポリソルベート80を含有しなかったもの(組成1、2、4、6および8)はすべて濁っていた。これらのデータは、液体複合体の輸送および取り扱いの間に遭遇すると思われるような、撹拌による粒子を低減する上での、ポリソルベート80の有益な効果を実証する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下:
(a)免疫複合体;ならびに
(b)ショ糖、ポリソルベート20、ポリソルベート80、シクロデキストリン、ブドウ糖、グリセロール、ポリエチレングリコール、マンニトール、塩化ナトリウム、およびアミノ酸、から成る群より選択される1つまたはそれより多くの賦形剤、
を包含する免疫複合体製剤であって、
製剤が、pH4.5から7.6を有する緩衝化水溶液である、前記免疫複合体製剤。
【請求項2】
製剤が、以下:
(i)0.1−12% ショ糖、
(ii)0.005−1.0% ポリソルベート20、
(iii)0.5−2% ベータ−シクロデキストリン、
(iv)2−8% グリセロール、
(v)1−5% PEG6000、
(vi)2−8% マンニトール、
(vii)0.005−1.0% ポリソルベート80、
(viii)5−20mM ヒスチジン、
(ix)100−300mM グリシン、および
(x)50−300mM 塩化ナトリウム、
から成る群より選択される1つまたはそれより多くの賦形剤を包含する、請求項1に記載の製剤。
【請求項3】
製剤が、以下:
(i)5−10% ショ糖、
(ii)0.005−0.2% ポリソルベート20、
(iii)0.5−1% ベータ−シクロデキストリン、
(iv)2−5% グリセロール、
(v)2−3% PEG6000、
(vi)3−5% マンニトール、
(vii)0.005−0.2% ポリソルベート80、
(viii)10−15mM ヒスチジン、
(ix)130−250mM グリシン、および
(x)100−200mM 塩化ナトリウム
から成る群より選択される1つまたはそれより多くの賦形剤を包含する、請求項2に記載の製剤。
【請求項4】
緩衝化水溶液が、ヒスチジン、コハク酸塩、クエン酸塩、リン酸塩、および酢酸塩の1つまたはそれより多く含有する、請求項1に記載の製剤。
【請求項5】
pHが5.0から7.0である、請求項4に記載の製剤。
【請求項6】
pHが5.0から6.0である、請求項5に記載の製剤。
【請求項7】
免疫複合体が、huMy9−6、huC242、huN901、DS6、トラスツツマブ、ビバツツマブ、シブロツツマブ、およびリツキシマブ、から成る群より選択されるヒト化抗体を包含する、請求項1に記載の製剤。
【請求項8】
免疫複合体が、メイタンシノイド、タキサン、およびCC−1065、から成る群より選択される細胞毒性薬剤を包含する、請求項1に記載の製剤。
【請求項9】
以下:
(a)免疫複合体;ならびに
(b)ヒスチジン、ショ糖、グリシン、および塩化ナトリウム、から成る群より選択される、1つまたはそれより多くの賦形剤、
を包含する免疫複合体製剤であって、
製剤が、pH4.5から7.6を有する緩衝化水溶液である、前記免疫複合体製剤。
【請求項10】
製剤が、5−200mM ヒスチジン、100−200mM グリシン、および2−8% ショ糖、より選択される1つまたはそれより多くの賦形剤を包含する、請求項9に記載の製剤。
【請求項11】
賦形剤が、5−100mM ヒスチジン、または100−150mM グリシンである、請求項10に記載の製剤。
【請求項12】
製剤が、2−8% ショ糖、および100−150mM グリシンを含有する、請求項9に記載の製剤。
【請求項13】
製剤が、10mM ヒスチジン、5% ショ糖、および130mM グリシンを含有する、請求項12に記載の製剤。
【請求項14】
緩衝化水溶液が、ヒスチジン、コハク酸塩、クエン酸塩、リン酸塩、および酢酸塩の1つまたはそれより多く含有する、請求項9に記載の製剤。
【請求項15】
pHが5.0から7.0である、請求項14に記載の製剤。
【請求項16】
pHが5.0から6.0である、請求項14に記載の製剤。
【請求項17】
ポリソルベート20および/またはポリソルベート80をさらに包含する、請求項9に記載の製剤。
【請求項18】
免疫複合体が、huMy9−6、huC242、huN901、DS6、トラスツツマブ、ビバツツマブ、シブロツツマブ、およびリツキシマブ、から成る群より選択されるヒト化抗体を包含する、請求項9に記載の製剤。
【請求項19】
免疫複合体が、メイタンシノイド、タキサン、およびCC−1065、から成る群より選択される細胞毒性薬剤を包含する、請求項9に記載の製剤。
【請求項20】
本質的には、以下:
(a)0.5−10mg/mlの濃度のhuN901−DM1免疫複合体;
(b)5−15mM ヒスチジン、および/または5−15mM コハク酸塩;
(c)0.1−10% ショ糖、および/または100−300mM グリシン;
(d)0.005−0.2% ポリソルベート80、および/または0.005−0.2% ポリソルベート20、
から成る免疫複合体製剤であって、製剤が、pH5−6を有する緩衝化水溶液である、前記免疫複合体製剤。
【請求項21】
本質的には、以下:
(a)0.5−10mg/mlの濃度のhuC242−DM4免疫複合体;
(b)5−15mM ヒスチジン;
(c)0.1−10% ショ糖、および/または100−300mM グリシン;
(d)0.005−0.2% ポリソルベート80、および/または0.005−0.2% ポリソルベート20、
から成る免疫複合体製剤であって、製剤が、pH5−6を有する緩衝化水溶液である、前記免疫複合体製剤。

【公表番号】特表2009−503105(P2009−503105A)
【公表日】平成21年1月29日(2009.1.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−525189(P2008−525189)
【出願日】平成18年8月2日(2006.8.2)
【国際出願番号】PCT/US2006/030295
【国際公開番号】WO2007/019232
【国際公開日】平成19年2月15日(2007.2.15)
【出願人】(504039155)イミュノジェン・インコーポレーテッド (36)
【Fターム(参考)】