説明

免疫診断用中空ポリマー粒子およびその製造方法、ならびに免疫診断用試薬

【課題】保存安定性および取扱性に優れた免疫診断用中空ポリマー粒子およびその製造方法、ならびに免疫診断用試薬を提供すること。
【解決手段】免疫診断用中空ポリマー粒子は、生化学物質が表面に固定化され、中空率が5〜80%であり、かつ、平均粒径が0.03〜5.0μmである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、免疫診断用中空ポリマー粒子およびその製造方法、ならびに免疫診断用試薬に関する。
【背景技術】
【0002】
抗体、抗原などの免疫反応物質あるいは核酸を担体粒子に担持させ、特異的反応によって対応する抗原、抗体、酵素、核酸などの被検査物質を検出する方法は、臨床検査の重要な手段として利用されている(特開2006−266970号公報)。
【0003】
例えば、物理吸着あるいは化学結合により抗体を表面に担持させたポリマー粒子の分散液を調製し、前記抗体に対する抗原を含む検査液を添加する。ポリマー粒子表面における抗原−抗体の特異結合によって、粒子表面状態の変化あるいは粒子間の橋かけが生じて、ポリマー粒子が凝集する。
【0004】
このポリマー粒子の凝集は、適当なプレートの上において目視で観察できるが、通常は、凝集によって生じる検査液の濁度の変化を計器で計測する。
【0005】
現在の多くの測定システムでは、検査液を添加した後の濁度の変化速度を測定し、被検査物質の濃度に対する濁度の変化速度を示す検量線を用いて、測定された濁度の変化速度から被検査物質の定量を行う。また、一部の測定システムでは、検査液を添加した後の濁度の一定時間経過後の準平衡値に基づいて検量線を作成する。また、迅速診断を実現するために使われるレートアッセイの場合、反応途中の吸光度を計測し検量線とする方式もある。
【0006】
これら検量線では通常、抗原の濃度が低い領域(低濃度域)では傾きが小さく(被検査物質の濃度の変化量に対する、濁度の変化速度の変化量が小さい領域:前期鈍感領域)、次第に傾きが一定勾配となり(被検査物質の濃度の変化量に対する、濁度の変化速度の変化量が一定である領域:比例領域)、さらに、抗原の濃度が高い領域(高濃度域)では傾きが小さくなり(被検査物質の濃度の変化量に対する、濁度の変化速度の変化量が小さい領域:後期鈍感領域)、場合によっては、さらに高い濃度域で傾きが逆勾配の領域(プロゾーン領域)が生じることがある。
【0007】
ラテックス診断薬としては、検量線の比例領域が濃度域から始まり、かつ、該比例領域が高濃度域までできるだけ長く存在することが望まれる。また、プロゾーン領域が広くなると、実質的に測定可能範囲を狭めることになるので、プロゾーン領域ができるだけ高い濃度域で開始することが好ましい。
【0008】
このような要求特性から、従来、抗原濃度が低い場合の測定においては、僅かな粒子凝集が敏感に検知されるため、濁度変化に敏感に対応できる、粒径が大きな粒子が使用される。一方、比例領域を利用する測定においては、比例領域を可能な限り広くするために、免疫反応に基づく粒子凝集に対して吸光度変化を小さく抑える必要がある。このため、多くの抗原抗体反応が生じた場合に、少ない吸光度変化で済ませるためには、粒径の小さい粒子を使用するのが好ましい。
【0009】
一方、抗原濃度が低い場合の測定において感度を上げるために、粒径が大きな粒子が使用される場合であっても、粒径には上限が存在する。通常、0.5μm以上の粒子は下記の2つの理由により、あまり使用されない。第1の理由は、0.5μm以上の粒子になると、免疫反応に基づく粒子凝集に対する吸光度の変化が大きすぎるため、感度曲線の精密な制御が難しくなるためである。第2の理由は、粒子を用いて試薬(粒子分散液)を調製した後、臨床検査用測定機器に該試薬を設置した後、冷蔵保管している間に、粒子が自重によりゆっくりと沈降し、保管ボトル底に粒子が沈降する結果、粒子濃度に濃度勾配が生じ、均一な粒子分散液が採取できないためである。すなわち、長時間保存によって粒子が沈降する結果、試薬が不均一になり、正確な測定ができなくなるおそれがあるためである。
【0010】
このような粒子分散液の不均一さを解消するために、実際は、試薬を分注する前に、機械による吸排、振動、ボルテックスなどの物理的な操作により、粒子を再分散させる操作が必要であり、実際の臨床現場では、このような操作を人手に頼っている。しかし、いずれの方法においても、通常検査とは異なる試薬自身の確認作業に余分な人的負担および機械的負担を強いられるため、機械の大型化、多故障化、高価格化を招くうえに、実質的には、このような確認作業は採用されていないことが多い。
【特許文献1】特開2006−266970号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、沈降しにくく、かつ、抗体・抗原などの生化学物質を効率良く表面に固相化できる免疫診断用中空ポリマー粒子およびその製造方法、ならびに該中空ポリマー粒子を含む免疫診断用試薬を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の一態様に係る免疫診断用中空ポリマー粒子は、生化学物質が表面に固定化され、中空率が5〜80%であり、かつ、平均粒径が0.03〜5.0μmである。
【0013】
上記免疫診断用中空ポリマー粒子において、前記表面は、フェニル基を有する重合性単量体を含有するモノマー部を重合して得られたポリマー部から構成されることができる。この場合、前記ポリマー部は、前記生化学物質と反応しうる基を含むことができる。
【0014】
本発明の一態様に係る免疫診断用試薬は、上記免疫診断用中空ポリマー粒子を含む。
【0015】
本発明の一態様に係る免疫診断用中空ポリマー粒子の製造方法は、
中空ポリマー粒子の表面に生化学物質を固定化する工程を含む。
【0016】
上記免疫診断用中空ポリマー粒子の製造方法において、前記中空ポリマー粒子は、前記表面がポリマー部から構成され、シード粒子の存在下で、フェニル基を有する重合性単量体を含有するモノマー部を重合することにより、前記中空ポリマー粒子を形成する工程をさらに含むことができる。
【0017】
上記免疫診断用中空ポリマー粒子の製造方法において、前記表面には、前記生化学物質と反応しうる基が存在し、前記固定化する工程は、前記生化学物質と、前記生化学物質と反応しうる基とを反応させる工程を含むことができる。
【発明の効果】
【0018】
上記免疫診断用中空ポリマー粒子によれば、生化学物質が表面に固定化され、中空率が5〜80%であり、かつ、平均粒径が0.03〜5.0μmであることにより、上記免疫診断用中空ポリマー粒子を用いた免疫診断用試薬では、濁度計測における検量線での比例領域が広く、かつ、長期間保存しても粒子が沈降しにくい。すなわち、上記免疫診断用中空ポリマー粒子の中空率が5〜80%であることにより、粒子の屈折率を低減することができ、その結果、非中空ポリマー粒子に比べて、粒径に対する吸光度が小さくなるため、より広い測定範囲を確保することができる。また、上記免疫診断用試薬では、粒子が沈降しにくいため、臨床検査機器のメンテナンスを減らすことができ、その結果、コスト削減を図ることができる。
【0019】
さらに、上記免疫診断用中空ポリマー粒子を用いた免疫診断用試薬は、保存安定性に優れ、かつ、長期保存中の粒子の凝集が少ない。このことは、診断薬の品質保持の上で重要な特徴である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明の一実施形態に係る免疫診断用中空ポリマー粒子およびその製造方法、ならびに免疫診断用試薬について、具体的に説明する。
【0021】
1.免疫診断用中空ポリマー粒子
1.1.免疫診断用中空ポリマー粒子の構成
本発明の一実施形態に係る免疫診断用中空ポリマー粒子は、生化学物質が表面に固定化されている。生化学物質は例えば、物理吸着または化学結合によって、中空ポリマー粒子の表面に固定化することができる。中空ポリマー粒子の表面は、ポリマー部から構成されていることが好ましい。
【0022】
1.1.1.中空ポリマー粒子の構成
1.1.1−1.ポリマー部
中空ポリマー粒子の表面を構成するポリマー部は、フェニル基を有する重合性単量体を含有するモノマー部を重合して得られたものであることが好ましい。また、粒子の沈降速度をより遅くできる点で、ポリマー部は水よりも比重が小さいことが好ましい。水よりも比重が小さいポリマー部を製造するためには、例えば、ポリマー部がポリスチレン部位を含むことが挙げられる。
【0023】
フェニル基を有する重合性単量体としては特に限定されず、例えば、スチレン、ジビニルベンゼン、エチルスチレン、α−メチルスチレン、p−メチルスチレン、p−クロロスチレン、クロロメチルスチレン等が挙げられる。これらは単独で用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。これらの中では、スチレンが好ましく用いられる。
【0024】
モノマー部で使用する重合性単量体の総量における、フェニル基を有する重合性単量体の含有率は50%以上であるのが好ましく、65%以上がより好ましい。上記含有率が50%未満であると、免疫診断用途において、生化学物質の結合量が少なくなる恐れが出てくるので、好ましくない。また、上記含有率は、粒子の製造時の重合性単量体の添加量によって制御することができる。なお、重合性単量体の添加量は、重合性単量体の実導入量ではない。重合性単量体の実導入量は例えば、熱分解ガスクロマススペクトルのような分析機器で定量することができる。
【0025】
モノマー部で使用する重合性単量体として、必要に応じて、アクリレートおよびメタクリレートをさらに使用することもできる。アクリレートおよびメタクリレートの具体例としては、例えば、メチルメタアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、2−エチルヘキシルメタクリレート、n−ブチルアクリレート、n−ブチルメタクリレート、tーブチルアクリレート、tーブチルメタクリレート、イソブチルアクリレート、イソブチルメタクリレート、ペンチルアクリレート、ペンチルメタクリレート、ステアリルアクリレート、ステアリルメタクリレート、ラウリルアクリレート、ラウリルメタクリレートなどの鎖状アルキル基を有するアルキルアクリレートおよびアルキルメタクリレート、シクロヘキシルアクリレート、シクロヘキシルメタクリレート、シクロヘキシルエチレングリコールメタクリレート、シクロヘキシルジプロピレングリコールメタクリレートなどの環状脂肪族基を有するアルキルアクリレートおよびアルキルメタクリレート、メチル置換シクロヘキシルアクリレートなどのシクロヘキシル基の水素原子の一部が炭素数1〜4のアルキル基で置換された置換シクロヘキシルアクリレート、置換シクロヘキシルメタクリレートシクロヘキセンジメタクリレートなどが挙げられ、これらは単独でまたは2種以上を組み合わせて、上記フェニル基を有する重合性単量体の1種または2種以上と共重合することができる。
【0026】
中空ポリマー粒子の表面に、生化学物質と反応しうる基を導入するために、ラジカル重合性の不飽和結合を有する基および生化学物質と反応しうる基(例えばカルボキシル基)を分子中に有する重合性酸モノマーとの共重合も可能である。具体例としては、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、イタコン酸、フマル酸、マレイン酸などを挙げることができる。また、粒子表面に親水性を殖やす目的で、グリシジルメタアクリレートと共重合してもよい。これらは単独または組み合わせて使うことができる。これらの重合性酸モノマーは、上記フェニル基を有する重合性単量体の1種または2種以上、または、アクリレートおよびメタクリレートモノマーの1種または2種以上と共重合してもよい。モノマー部で使用する重合性単量体の総量における、重合性酸モノマーの添加量は、好ましくは0〜10重量%、より好ましくは0〜5重量%である。モノマー部で使用する重合性単量体の総量における重合性酸モノマーの添加量が0〜0.5重量%である中空ポリマー粒子は、表面に存在するカルボキシル基の量が少ないため、化学結合によって生化学物質を固定化する方法のみならず、物理吸着によって生化学物質を固定化する方法にも使用できる。
【0027】
また、中空ポリマー粒子は、染料または顔料などで染色または着色することができる。染料としては、例えば、スダンオレンジR、スダンブルーなどの油性染料、あるいは、オレンジII、コンゴーレッド、アントラゾールO、アリザリンレッドS、スピリットブルーなどの水溶性あるいはアルコール可溶性の染料を用いることができる。
【0028】
また、中空ポリマー粒子は蛍光性を有していてもよい。例えば、フルオレセイン、エオシン、ルモゲンLエローなどの有機蛍光染料または顔料、硫化亜鉛、硫化カドミウム、ユーロピウム化合物などの無機蛍光染料または顔料などを用いることによって、中空ポリマー粒子に蛍光性を付与することができる。これらのうち、染着性が良好である点で、油溶性の染料および油溶性の蛍光染料が好ましい。
【0029】
1.1.1−2.平均粒径および粒径分布
本発明の診断用中空ポリマー粒子の平均粒径は通常0.03〜5.0μmであり、好ましくは0.05〜1μmである。
【0030】
上記平均粒径が0.03μm未満である場合、粒子凝集による吸光度変化が小さすぎるため、免疫反応が起きても、反応を実質的に追跡できない場合があるため、好ましくない。また、上記平均粒径が0.03μm以下になると、粒子表面エネルギーが高くなり、粒子がコロイド的に不安定になるので、臨床検査試薬の製造段階で、試薬調製時の遠心分離工程に多くの時間がかかるため製造効率が低く、その結果、製造コストが高くなるうえに、品質保証が困難であるため、好ましくない。
【0031】
一方、上記平均粒径が5.0μmを超える場合、ラテックス凝集を測定原理とする自動臨床検査機器を使用した測定においても、粒子凝集による吸光度(濁度)変化が大きすぎる。特に、被測定物質の濃度が高い場合、粒子凝集による吸光度(濁度)の変化量が測定可能領域を超えてしまい、高濃度領域では被測定物質の濃度に応じた吸光度(濁度)変化量が得られず、定量的な測定ができなくなる。その結果、実質的に免疫反応のごく初期の段階しか追跡できないため好ましくない。
【0032】
中空ポリマー粒子の好適な粒径分布は、下記式で定義される変動係数(CV値)が20%以下であることが好ましく、より好ましくは15%以下であり、特に好ましくは10%以下である。粒径分布が20%を超える場合、該粒子を用いた免疫診断結果の再現性が低下するため好ましくない。
【0033】
[変動係数]
変動係数(CV値)(%)=(粒子径の標準偏差/平均粒径)×100(%)
中空ポリマー粒子の平均粒径は、透過型電子顕微鏡で測定することができる。電子線によるポリマー粒子の縮小率を補正するため、中空ポリマー粒子の平均粒径の値として、電子線照射時間と粒子縮小率との相関図から、照射時間ゼロのポイントを外挿した値を使用した。
【0034】
具体的には、撮影された粒子写真を画像解析装置により粒子200個を計測して、その平均粒径および標準偏差を算出した。この場合、粒径の標準として、JQAの標準物質およびトレーサビリティーが得られる標準解析格子を用いた。
【0035】
1.1.1−3.中空率
中空ポリマー粒子の中心部には空間が存在する。中空ポリマー粒子を透過型の電子顕微鏡で撮影すると、中心部にある空間を確認することができる。中空ポリマー粒子の中心部に空間部が存在することにより、粒子の見かけ比重が小さくなるため、中空ポリマー粒子を含む試薬を長期間保存した場合であっても、粒子の沈降が生じにくい。
【0036】
中空ポリマー粒子の中空率は5〜80%であり、10〜70%であるのが好ましく、10〜60%であるのがより好ましい。上記中空率が5%以下になると、中空による粒子自重の低減効果が小さくなり、上記効果が実質的に乏しいため好ましくない。また、上記中空率が80%以上になると、粒子外径と粒子内径との差が10%未満となり、粒子強度が極端に弱くなり、製造プロセス中の遠心分離、撹拌分散、超音波処理等の操作において、粒子がこれら物理的な衝撃に耐えがたく、破損する恐れがあるので、好ましくない。
【0037】
中空ポリマー粒子の中空率の測定は、上記粒径測定方法を用いて、粒子外径および粒子内径をそれぞれ測定し、下記の式から算出することができる。
【0038】
[中空率]
中空率(%)=(粒子内径)/(粒子外径)×100(%)
なお、1個の粒子が複数の中空構造を有する場合は、複数の内径を合計した和で計算する。
【0039】
1.1.1−4.生化学物質
中空ポリマー粒子の表面に固定化する生化学物質は、被測定物質と特異的に結合する物質である。生化学物質は、通常使用される生理活性物質であれば特に限定されないが、抗原又は抗体として機能するものが好ましく用いられる。
【0040】
生化学物質としては、例えば、タンパク質、各種抗原又は抗体、核酸、核タンパク質、エストロゲン脂質、レセプター、酵素等が挙げられる。
【0041】
抗原又は抗体としては、例えば、C反応性蛋白抗体(抗CRP抗体)、B型肝炎表面抗原(HBs抗原)、抗HBs抗体、人絨毛性ゴナドトロピン(HCG抗体)、β2マイクログロブリン、抗HCG抗体、ヒトフィブリノーゲン、フェリチン、イムノグロブリンG、リウマチ因子(RA)、α−フェトプロテイン(AFP)、マイコプラズマ抗原、マイコプラズマ抗原、エストロゲン、抗エストロゲン抗体等の免疫学的反応性を有する物質が挙げられる。
【0042】
また、抗体としては、免疫グロブリン分子自体の他、例えば、F(ab’)2のような免疫グロブリン分子の断片であってもよい。
【0043】
酵素としては、グリコースイソメラーゼ、グリコースオキシターゼ、α−アミラーゼ、パパイン、アミノアシラーゼなどが挙げられる。
【0044】
その他の生化学物質としては、胎児肺細胞、腎細胞、繊維芽細胞等の育成に固体表面を必要とする細胞、DNA,RNAのような核酸またはこれらの一部または断片、核蛋白があげられるが、目的に応じて、これらの物質を修飾したり、その一部に色相、酵素、蛍光体などの標識物質を導入したりすることができる。
【0045】
1.1.2.中空ポリマー粒子の製造
中空ポリマー粒子は例えば、(a)水性分散媒体中にシード粒子を分散させた状態で重合性モノマーを重合する方法、(b)ポリマー粒子中に発泡剤を含有させた後にこの発泡剤を重合する方法、(c)ポリマーにブタンなどの揮発性物質を封入し、その後揮発性物質をガス化膨潤させる方法、(d)ポリマーを溶融させ、これに空気などの気体ジェットを吹き付け、気泡を封入する方法、(e)ポリマー粒子の内部にアルカリ膨張性の物質を浸透させて、アルカリ膨潤性の物質を膨潤させる方法、(f)w/o/w型モノマーエマルジョンを作製し、重合を行う方法、(g)不飽和ポリエステル溶液中に顔料を懸濁させた懸濁液中でモノマーを重合する方法、(h)ポリマーの重合収縮により製造する方法等により製造することができる。このうち、生化学物質を固定する本発明の用途において、(a)法で調製した粒子が、有機溶媒、アルカリなどの有害物質の含有が少なく、粒子サイズ、中空率の制御も正確にできるため、好ましい。
【0046】
これらの製造方法は具体的には、特願平2−268029号公報、特許第3465826号明細書、特公平3−7688号公報、特公平4−68324号公報、特公平7−35448号公報などに開示されている。これらの製造方法を用いることにより、単一中空を有する中空ポリマー粒子を製造することができる。
【0047】
1.2.免疫診断用中空ポリマー粒子の製造
本実施形態に係る免疫診断用中空ポリマー粒子の製造方法は、中空ポリマー粒子の表面に生化学物質を固定化する工程を含む。ここで、本実施形態に係る免疫診断用中空ポリマー粒子の表面には、生化学物質と反応しうる基が存在することが好ましく、この場合、固定化する工程は、生化学物質と、生化学物質と反応しうる基とを反応させる工程を含むことができる。
【0048】
中空ポリマー粒子の表面に生化学物質を固定化する工程は、特に限定されないが、蛋白質の疎水部分と粒子表面ポリマー疎水部位との物理吸着により達成してもよいし、生化学物質中の反応性基(限定されないが、例えば、アミノ基、カルボキシル基、水酸基、チオール基)と、生化学物質と反応しうる基との反応による化学結合により達成してもよい。
【0049】
中空ポリマー粒子の表面組成は、粒子性能を発揮するのに大切な因子である。例えば、物理吸着により生化学物質の固定化を行う場合、疎水結合を利用して機能性のある生化学物質を担体固相表面に固定する点において、ポリマー部はポリスチレン部位を含むことが好ましい。また、例えば、化学結合により生化学物質の固定化を行う場合、生化学物質と反応しうる官能基としては、カルボキシル基、アミノ基、チオール基が好ましい。このうち、粒子調製の安定性が優れている点で、カルボキシル基が好ましい。この場合、適切なカップリング剤によって、中空ポリマー粒子表面に存在するカルボキシル基と、生化学物質(例えば蛋白質)中のアミノ基と反応させることにより、中空ポリマー粒子の表面に生化学物質を固定化することができる。
【0050】
また、本実施形態に係る免疫診断用中空ポリマー粒子に磁気応答性を付与することが必要である場合、本実施形態に係る免疫診断用中空ポリマー粒子に酸化鉄などの磁性体を導入させることも可能である。
【0051】
あるいは、本実施形態に係る免疫診断用中空ポリマー粒子を、DNAやRNAなどの核酸と特異的に反応させるには、シリカなどの無機成分を表面に導入することも可能である。
【0052】
さらに、本実施形態に係る免疫診断用中空ポリマー粒子自体を検出したい場合、例えば、量子発光体であるカンタムドットなどの無機微粒子を混在させてもよい。これらの無機物を含芯する方法は、例えば、特開2000−306718号公報、特開2004−205481号公報、特開2006−070063号公報などに開示されている。
【0053】
1.3.免疫診断用中空ポリマー粒子の作用効果および用途
1.3.1.免疫診断用試薬における一般的な問題点
一般的なポリマー粒子を用いた免疫診断用試薬では、長期間保存している間に、粒子の自重により粒子が徐々に保存管の底に沈降することがある。特に、粒径の大きいポリマー粒子を用いた試薬にその傾向が強い。すなわち、ポリマー粒子を用いた免疫診断用試薬は通常、長期間の保管に適しておらず、使用前の再分散操作が必要であることが多い。これは臨床診断現場にとって手間が多く、非常に大きな問題である。
【0054】
1.3.2.免疫診断用中空ポリマー粒子の作用効果
本実施形態に係る免疫診断用中空ポリマー粒子によれば、中空率が5〜80%であり、かつ、平均粒径が0.03〜5.0μmであることにより、粒子沈降性ならびに光学的性質(低屈折率)に優れている。より具体的には、本実施形態に係る免疫診断用中空ポリマー粒子によれば、中空率が5〜80%であり、かつ、平均粒径が0.03〜5.0μmであることにより、同一粒径および同一組成の非中空ポリマー粒子と比較して、粒子の沈降速度が少なくとも2倍以上遅い。よって、本実施形態に係る免疫診断用中空ポリマー粒子では、長時間保存しても粒子の沈降が生じにくく、臨床検査現場において、迅速検査を実現することができる。
【0055】
さらに、本実施形態に係る免疫診断用中空ポリマー粒子においては、従来、免疫診断用途として使用できないとされていた、0.5μm以上の粒径のポリマー粒子であっても、免疫診断用試薬として使用することができる。
【0056】
1.3.3.免疫診断用中空ポリマー粒子の用途
本実施形態に係る免疫診断用中空ポリマー粒子は、生化学物質が表面に固定化されており、該生化学物質と特異的に結合する物質(本明細書において、「被検査物質」ともいう)との結合により生じた該粒子の凝集を濁度または吸光度の変化として計測することにより、被検査物質を定量する臨床検査に用いることができる。
【0057】
2.免疫診断用試薬
本発明の一実施形態に係る免疫診断用試薬は、上記免疫診断用中空ポリマー粒子を含む。本実施形態に係る免疫診断用試薬は、適当な検体希釈液で希釈されてもよい。上記検体希釈液としては、pH5.0〜9.0の緩衝液であれば特に限定されないが、例えば、リン酸緩衝液、グリシン緩衝液、トリス緩衝液、ホウ酸緩衝液、クエン酸緩衝液等が挙げられる。
【0058】
本実施形態に係る免疫診断用試薬は、例えば、測定感度の向上や、抗原抗体反応の促進のために種々の増感剤を用いてもよい。上記増感剤としては、例えば、メチルセルロース、エチルセルロース等のアルキル化多糖類;プルラン、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリエチレングリコール等が挙げられる。
【0059】
本実施形態に係る免疫診断用試薬は、検体中に存在する他の物質により起こる非特異的凝集反応を抑制するため、又は、試薬の安定性を高めるために、アルブミン(牛血清アルブミン、卵性アルブミン)、カゼイン、ブロックエース、ゼラチン等のタンパク質、タンパク質分解物、アミノ酸、ペプチド、ポリペプチド、界面活性剤等を含有してもよい。特に、界面活性剤として抗体にダメージを与えないノニオン系界面活性剤、またはタンパク質酵素消化促進剤として市販品のRapigest SF(Waters社)などが好ましい。Rapigest SFの使用により、酵素消化促進のみならず、抗体・抗原反応効率を高め、かつ、非特異反応を抑える効果が得られる。これらの添加剤の添加濃度は、通常0.01−10%である。
【0060】
本実施形態に係る免疫診断用試薬を用いた免疫診断測定においては、従来の濁度を計測する検査機を用いることができる。ラテックス凝集を自動的に追跡できる装置としては、散乱光強度、透過光強度、吸光度等を検出できる光学機器が挙げられる。上記凝集の度合いを光学的に測定する方法としては、公知の方法を用いることができ、例えば、凝集の形成を濁度の増加としてとらえる比濁法、凝集の形成を粒度分布又は平均粒径の変化としてとらえる方法、凝集の形成による前方散乱光の変化を積分球を用いて測定し、透過光強度との比を比較する積分球濁度法等が挙げられる。上記の測定法においては、異なる時点で少なくとも2つの測定値を得、これらの時点間における測定値の増加分、すなわち、増加速度に基づき凝集の程度を求める速度試験(レートアッセイ)、及び、通常は反応の終点と考えられるある時点で1つの測定値を得、この測定値に基づき凝集の程度を求める終点試験(エンドポイントアッセイ)を利用できるが、測定の簡便性、迅速性の点から、比濁法による速度試験が好ましい。
【0061】
本実施形態に係る免疫診断用試薬を用いた免疫診断測定に適する臨床検査自動機としては、例えば、日立7070、7150、7170、LPIA−A700、S500などの市販の自動分析機が挙げられる。
【0062】
本実施形態に係る免疫診断用試薬によれば、濁度または吸光度の計測において、上記免疫診断用中空ポリマー粒子の低屈折率に起因して、検量線の比例領域が広い。上記免疫診断用中空ポリマー粒子の中空率が5〜80%であることにより、同一粒径および同一組成の非中空粒子と比較して、粒子全体の屈折率が低くなり、粒径に対する吸光度の値が小さい。このため、粒径が大きい粒子(例えば、平均粒径が0.5μm以上の粒子)を用いた場合であっても、抗原濃度が高い領域での測定が可能であり、測定可能な抗原濃度の範囲が広い。また、粒径が大きい粒子(例えば、平均粒径が0.5μm以上の粒子)は、粒子の表面エネルギーが小さいため、コロイド安定性が改善され、粒子調製および試薬調製が容易であり、かつ、保存安定性に優れている。
【0063】
本実施形態に係る免疫診断用試薬は長期間保存しても、粒子を再分散することなく、そのまま使用できる。具体的には、実際の臨床診断において、自動測定器の試薬保管庫に試薬を設置してから長期間経過した後であっても、粒子を再分散する必要がない。これにより、臨床診断現場のメンテナンスの手間を省くことができ、結果的にコスト削減を図ることができる。また、本実施形態に係る免疫診断用試薬中の粒子の分散性が良好であるため、再現性のよい評価結果が得られ、再検率を低下させることができる。
【0064】
3.実施例
以下、実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、本実施例において、%および部は、重量基準である。
【0065】
3.1.評価方法
3.1.1.平均粒径および平均内孔径
本実施例において、粒子の平均粒径および平均内孔径は、透過型電子顕微鏡[日本電子工業(株)製、JEM−1008X]により撮影された電子顕微鏡写真により測定した。
【0066】
3.1.2.沈降率
沈降率は、中空ポリマー粒子の0.1%粒子水分散液を15mlの試験管に密閉し、4℃にて2ヶ月静置し、その試験管上端の粒子分散液の570nmにおける吸光度(A570nm)の変化を測定し、下式により算出した。
[沈降率の計算式]
沈降率(%)=(抗体感作直後のA570nm−抗体感作後2ケ月後のA570nm)/(抗体感作直後のA570nm)×100%
【0067】
3.1.合成例1(中空ポリマー粒子の調製)
3.1.1.中空ポリマー粒子製造用シード粒子の製造
メチルメタクリレート(MMA)95部およびメタクリル酸(MAA)5部を、ラウリル硫酸ナトリウム0.05部および過硫酸カリウム0.3部を水500部に溶解して得られた水溶液に入れ、攪拌しながら70℃で5時間重合して、シード粒子(重合体微粒子)Sを得た。このシード粒子Sは、平均粒径が0.28μmであり、その水性分散体の固形分濃度は16.5%、pHは2.5であった。
【0068】
3.1.2.中空ポリマー粒子の製造
水300部に重合開始剤として過硫酸アンモニウム0.8部および還元剤として亜硫酸水素ナトリウム0.3部を溶解させ、シード粒子Sを固形分換算で30部添加し、その系の温度を60℃に保ちながら、スチレン98部、アクリル酸2部、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム0.1部、および水40部を混合乳化したモノマーエマルジョンを8時間かけて前記系に連続的に滴下し、滴下終了後、系の温度を80℃に昇温し3時間反応を行わせることにより、中空ポリマー粒子Aを得た。
【0069】
得られた中空ポリマー粒子Aの水性分散体の固形分濃度は37%であり、pHは2.0であった。また、得られた中空ポリマー粒子Aを透過型電子顕微鏡で観察した結果、平均粒径が0.30μmであり、平均内孔径が0.20μmの中空ポリマー粒子であることが確認された。
【0070】
3.2.合成例2(中空ポリマー粒子の調製)
合成例1における中空ポリマー粒子Aの製造において、重合性単量体であるスチレン98部およびアクリル酸2部の代わりに、スチレン100部とした以外は全く同様にして、表面がポリスチレン層で覆われた中空ポリマー粒子Bを得た。中空ポリマー粒子Bを透過型電子顕微鏡で観察したところ、平均粒径が0.32μmであり、平均内孔径が0.21μmの中空ポリマー粒子であることが確認された。
【0071】
3.3.比較合成例1(非中空ポリマー粒子の製造)
シード粒子Sを添加しないほかは中空ポリマー粒子Aの製造と全く同一の重合を行ない、ポリマー粒子Cを得た。
【0072】
このポリマー粒子Cの水性分散体の固形分濃度は37%であり、pHは2.0であった。また、このポリマー粒子Cを透過型電子顕微鏡で観察したところ、平均粒径0.31μmの非中空のポリマー粒子であることが確認された。
【0073】
以上の方法により、以下の表1に示す各種粒子が得られた。
【0074】
【表1】

【0075】
3.4.実施例1(抗体固定化粒子の調製)
合成例1および比較合成例1で得られた各種ポリマー粒子A、B、Cをそれぞれ1/15Mリン酸塩緩衝液(pH7.2)10mlと生理食塩水10mlの混合液(以下PBSと記す)に、粒子の濃度が1重量%になるように分散させた。次に、化学結合タイプである粒子A、Cの分散液にさらに1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩(同仁化学)を最終濃度が0.05%となるように添加した。これらの粒子分散液に抗CRP抗体(ウサギ)の1mg/ml液をそれぞれ等量加え、56℃で3時間ゆっくり回転しながら、抗CRP抗体を粒子表面に固相化した。その後、それぞれの粒子分散液に1%BSA/0.05%Rapigest SF 0.5mlを加え、室温で10時間ゆっくり振動を与えた。これらの操作後、粒子分散液を遠心管に移し替え、10000rpmの20〜30分で遠心分離し、粒子を沈殿として回収し、未反応抗体およびWSC等が含まれる上澄を除去した。続いて、pH7.4の50mMのトリス緩衝液にポリマー粒子分散液を再懸濁させ、間接超音波で10分間分散させた。この操作を2回繰り返し、最終的に粒子を0.8μmディスクフィルターに通してから、10mM PBS緩衝液/0.02%BSA/0.01%ポリビニルピロリドン(分子量36万)溶液で粒子固形分が0.05%となるように仕上げ、抗CRP抗体感作ラテックス分散液を得た。
【0076】
なお、抗CRP抗体を固定化した粒子の中空率および平均粒径は、抗CRP抗体を固定化する前の粒子の中空率および平均粒径とほとんど変わらなかった。
【0077】
このポリマー粒子分散液の570nmでの吸光度を測定し、4℃の冷蔵庫に保管した。経時的に吸光度測定をフォローし、粒子沈降性をモニターした。その結果を表2に示す。
【0078】
このラテックス分散液につき、CRP抗原標準液を用いて検量線を作成して、ラテックス診断薬としての性能を評価した。
装置:日立 7020型自動分析装置
使用波長:570nm、測定温度37℃
被検査物質(0〜100mg/dlのCRP標準液):3μl
第1試薬(牛血清アルブミン0.1%を含むPBS):200μl
第2試薬(ラテックス分散液):200μl
測定には、被検査物質、第1試薬、第2試薬の混合攪拌後、50秒目と200秒目の濁度の差(変化量)を計測するレートアッセイ法にて検量線を作成した。
【0079】
検量線において、比例領域が開始する被検査物質濃度をC1(mg/dl)、比例領域が終了する被検査物質濃度をC2(mg/dl)として表2に示した。また、プロゾーン領域が開始する被検査物質濃度(mg/dl)を表2に記した。
【0080】
【表2】

【0081】
表2によれば、合成例1および合成例2でそれぞれ得られた中空ポリマー粒子を使用した場合、比較合成例1で得られた非中空ポリマー粒子を使用した場合と比較して、粒子の沈降が生じにくいうえに、測定可能な比検査物質の濃度範囲が広いことが理解できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
中空率が5〜80%であり、かつ、平均粒径が0.03〜5.0μmである、生化学物質が表面に固定化された免疫診断用中空ポリマー粒子。
【請求項2】
請求項1において、
前記表面は、フェニル基を有する重合性単量体を含有するモノマー部を重合して得られたポリマー部から構成される、免疫診断用中空ポリマー粒子。
【請求項3】
請求項1または2に記載の免疫診断用中空ポリマー粒子を含む、免疫診断用試薬。
【請求項4】
中空ポリマー粒子の表面に生化学物質を固定化する工程を含む、請求項1に記載の免疫診断用中空ポリマー粒子の製造方法。
【請求項5】
請求項4において、
前記中空ポリマー粒子は、前記表面がポリマー部から構成され、
シード粒子の存在下で、フェニル基を有する重合性単量体を含有するモノマー部を重合することにより、前記中空ポリマー粒子を形成する工程をさらに含む、免疫診断用中空ポリマー粒子の製造方法。
【請求項6】
請求項4または5において、
前記表面には、前記生化学物質と反応しうる基が存在し、
前記固定化する工程は、前記生化学物質と、前記生化学物質と反応しうる基とを反応させる工程を含む、請求項1に記載の免疫診断用中空ポリマー粒子の製造方法。

【公開番号】特開2008−215816(P2008−215816A)
【公開日】平成20年9月18日(2008.9.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−49169(P2007−49169)
【出願日】平成19年2月28日(2007.2.28)
【出願人】(000004178)JSR株式会社 (3,320)
【Fターム(参考)】