説明

免疫調節活性を有する細胞集団、その製造方法及び使用

間葉系幹細胞(MSC)及び/又は線維芽細胞集団を末梢血白血球に約2時間〜約25日間接触させることを含む、免疫調節性細胞の調製及び/又は産生の方法が特に提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(発明の分野)
本発明は、免疫調節性細胞を提供する方法及びその必要のある哺乳動物の免疫調節のための該細胞の治療用使用に関する。
【背景技術】
【0002】
(発明の背景)
高等な脊椎動物における免疫系は、多様な疾患の原因因子である細菌、真菌、及びウイルスなどの微生物を含む、脊椎動物の体に入ることができる種々の抗原に対する防御の最前線である。その上、免疫系は、自己免疫疾患又は免疫病理疾患、免疫不全症候群、アテローム硬化症、及び種々の新生物疾患を含むその他の多様な疾患又は障害にも関与している。これらの疾患を治療するための方法が利用できるが、多くの現在の療法は、十分な結果を提供するものではなく、また著しい副作用のリスクを有する。新たに現れる治療的ストラテジーの中で、細胞療法に基づいたものは、多数の疾患を治療するための潜在的に有用なツールとなると思われる。したがって、前記目的を達成するために、研究者により、多大な努力が現在なされている。
【0003】
(自己免疫疾患)
自己免疫疾患は、細菌、ウイルス、及び任意のその他の外来産物から体を守ることを意味する体の免疫系が、機能不全を起こして、健康な組織、細胞、及び器官に対して病理学的反応を生じるときに起こる。
【0004】
T細胞及びマクロファージは、有益な保護を提供するが、有害又は致命的な免疫学的応答も生じ得る。自己免疫疾患は、器官特異的又は全身性であり得るし、種々の病原性機構によって引き起こされる。全身性自己免疫疾患は、ポリクローナルB細胞活性化、並びに免疫調節性T細胞、T細胞受容体、及びMHC遺伝子の異常を含む。器官特異的な自己免疫疾患の例は、糖尿病、甲状腺機能亢進症、自己免疫副腎機能不全、真正赤血球性貧血、多発性硬化症、及びリウマチ性心臓炎である。代表的な全身性自己免疫疾患は、全身性エリテマトーデス、慢性炎、シェーグレン症候群、多発筋炎、皮膚筋炎、及び強皮症を含む。
【0005】
自己免疫疾患の現在の治療は、コルチゾン、アスピリン誘導体、ヒドロキシクロロキン、メトトレキセート、アザチオプリン、及びシクロホスファミド、又はこれらの組み合わせなどの免疫抑制剤を投与することを含む。しかし、免疫抑制剤を投与するときに直面するジレンマは、より効率的に自己免疫疾患が治療されるほど、患者は、感染による攻撃に無防備のままになり、発達中の腫瘍に対して感受性が高まることである。したがって、自己免疫疾患の治療のための新たな療法に対して多大な需要がある。
【0006】
(炎症性疾患)
炎症は、体の白血球及び分泌された因子が、細菌及びウイルスなどの外来物質による感染から我々の体を保護するプロセスであり、自己免疫疾患において共通のプロセスである。サイトカイン及びプロスタグランジンとして知られている分泌因子は、このプロセスを制御し、血液又は患部組織への秩序だった自己制御式のカスケードで放出される。一般に、慢性炎症性疾患のための現在の治療は、非常に限られた効能を有し、これらの多くは、副作用の発生率が高いか、又は疾患進行を完全に予防することができない。今まで、理想的な治療は全くなく、これらの種類の病状についての治療法は全くない。したがって、炎症性疾患の治療のための新たな療法に対する多大な需要がある。
【0007】
(T細胞応答の阻害)
全ての免疫応答は、T細胞によって制御されている。自己免疫応答を誘発する可能性のある自己反応性細胞は、正常なT細胞レパートリーの一部を含むが、健康な状態において、これらの活性化は、サプレッサー細胞によって防止される。サプレッサーT細胞は、元来は1970年代において記述されたが、T細胞サブセットの特徴づけの著しい進歩がごく最近になされ、そのとき、これらは調節性T細胞と名前を変えられた。
【0008】
調節(サプレッサー)活性を有する種々のCD4+、CD8+、ナチュラルキラー細胞、並びにγ、及びδT細胞のサブセットがある。調節性T細胞の2つの主要なタイプは、CD4+集団、すなわち、胸腺で発生する内在性の調節性T細胞、及び末梢で誘導されるIL-10又はTGF-βを分泌する調節性T細胞(TrI細胞)に特徴づけられた。胸腺において発生したCD4+CD25+、Foxp3を発現する、内在性の調節性T細胞は移動して、末梢において維持される。
【0009】
(細胞療法)
調節性T細胞の投与は、免疫疾患及び炎症性疾患の主な原因の対処において多大な可能性を有することが長らく特定されている。しかし、調節性T細胞の大規模製造において使用するのに好適な製造プロトコルは現在全くなく、そのため調節性T細胞療法の臨床的な発展はひどく限定されている。
【0010】
間葉系幹細胞(MSC)は、多能性成人幹細胞であり、間葉系タイプの細胞(脂肪細胞、骨芽細胞、及び軟骨細胞)だけでなく、筋細胞、神経細胞、内皮細胞、星状細胞、及び上皮細胞へも分化できる。正常な成人骨髄(BM-MSC)において最初に報告されたが、MSCは、また、臍帯血、末梢血、及び脂肪組織などのその他の供給源から得ることができる。間葉系幹細胞のインビボ投与が、調節性T細胞のアップレギュレーションに関連するようであることが観察された。さらに、調節性T細胞のインビトロ製造(免疫疾患及び炎症性疾患の治療における使用のため)の方法は当分野に公知である。例えば、PCT特許出願第WO2007039150号は、間葉系幹細胞を末梢血白血球に接触させることによる、前記細胞の製造方法を提供している。しかし、研究用途ではなく、臨床における使用に好適な方法で調節性T細胞を製造する手段に対する、長らく感じられてきた必要性が依然として存在する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】実施例1i)により製造された細胞集団のフローサイトメトリー(FACS)ドットプロットプロファイルである。
【0012】
【図2】実施例1i)により製造された細胞集団のグラフ表示である。
【0013】
【図3】25、100、500、及び1,000 IU/mlのIL-2を使用して実施例1ii)により製造された種々の細胞集団のグラフ表示である。
【0014】
【図4】PBL培養物のみ(「PBL」)、ASC+PBL共培養(「ASC」)、又は線維芽細胞+PBL共培養(「FIB」)を使用して実施例1iii)により製造された種々の細胞集団のグラフ表示である。
【発明の概要】
【0015】
一態様において、本発明は、レシピエント対象の治療における使用に好適な免疫調節性細胞の調製及び/又は産生に関する。前記細胞並びにそれを含むキットは、本発明のさらなる態様を構成する。他の態様において、本発明は、医薬としての、医薬の製造における、移植寛容を誘導するための、自己免疫疾患を治療するための、又は炎症性疾患を治療するための、前記免疫調節性細胞の使用に関する。
【0016】
他の態様において、本発明は、対象の免疫系の調節が有益である障害の1つ以上の症状の予防、治療、又は寛解のための医薬、例えば、移植寛容を誘導する医薬、又は自己免疫疾患を治療する医薬、又は炎症性疾患を治療する医薬、又は、例えば4型過敏症反応を含むがこれに限定されないアレルギーを治療するための医薬の製造における前記免疫調節性細胞の使用に関する。
【0017】
他の態様において、本発明は、自己免疫疾患、炎症性疾患、又は移植された臓器及び組織の拒絶を含む免疫学的に媒介される疾患に関連する1つ以上の症状を予防、治療、又は寛解させるための、前記免疫調節性細胞の使用に関する。他の態様において、本発明は、自己免疫疾患、炎症性疾患、又は免疫学的に媒介される疾患のいずれかを患っている対象の前記障害又は疾患に関連する1つ以上の症状を予防、治療、又は寛解させる方法であって、そのような治療を必要とする前記対象に、予防上又は治療上有効な量の前記免疫調節性細胞を投与する方法に関する。本発明は、併用療法におけるそのような方法の利用にも関し、換言すると、本発明の免疫調節性細胞は1種以上の他の薬剤と、第2若しくはさらなる薬剤と同時に、又は別々に、例えば連続的に同時投与される。
【0018】
他の態様において、本発明は、前記免疫調節性細胞及び医薬担体を含む医薬組成物に関する。
他の態様において、本発明は、前記免疫調節性細胞を含むキットに関する。
【発明を実施するための形態】
【0019】
(発明の詳細な説明)
本発明は、免疫調節性を有する免疫調節性細胞の調製及び/又は産生の方法を提供する。
【0020】
(定義)
本記載の理解を容易にするために、本発明の状況におけるいくつかの用語及び表現の意味が以下で説明されるだろう。さらなる定義が、必要に応じて説明の中に含まれるだろう。
【0021】
本明細書では「同種異系である」という用語は、同じ種の異なる個体からのものを意味するように採用されるものとする。2つ以上の個体は、1つ以上の座位での遺伝子が同一でないときに、互いに同種異系であると言われる。
【0022】
本明細書では「自己由来である」という用語は、同じ個体からのものを意味するために採用されるものとする。
【0023】
「抗原提示細胞」(APC)という用語は、主要組織適合遺伝子複合体MHCと複合体形成した表面外来抗原を提示する細胞集団をいう。体内のほぼ全ての細胞は、T細胞に抗原を提示することができるが、「抗原提示細胞」(APC)という用語は、表面MHC II(HLA DP、DQ、DR)を発現する分化した細胞に本明細書では限定され、この発現が誘導される細胞(例えば、限定されないが、B細胞及びCD4 PHA芽球)、及び単球-マクロファージ系統に由来する細胞(例えば、限定されないが、樹状細胞)の両方を含む。
【0024】
「自己免疫疾患」という用語は、対象自体の細胞、組織、及び/又は器官への対象の免疫反応によって生じる細胞、組織、及び/又は器官の傷害によって特徴づけられる対象の状態をいう。本発明の免疫調節性細胞で治療することができる、自己免疫疾患の代表的で非限定的な例には、円形脱毛、強直性脊椎炎、抗リン脂質症候群、自己免疫アジソン病、副腎の自己免疫疾患、自己免疫溶血性貧血、自己免疫肝炎、自己免疫卵巣炎及び精巣炎、自己免疫血小板減少、ベーチェット病、水疱性類天疱瘡、心筋症、セリアックスプルー-皮膚炎、慢性疲労免疫性機能不全症候群(CFIDS)、慢性炎症性脱髄性多発性ニューロパシー、チャーグ-ストラウス症候群、瘢痕性類天疱瘡、クレスト症候群、寒冷凝集素疾患、円板状狼蒼、本態性混合型クリオグロブリン血症、線維筋痛-線維筋炎、糸球体腎炎、グレーブス病、ギランバレー、橋本甲状腺炎、特発性肺線維症、特発性血小板減少紫斑(ITP)、IgA神経障害、若年性関節炎、扁平苔癬、メニエール病、混合型結合組織病、多発性硬化症、1型又は免疫介在性真性糖尿病、重症筋無力症、尋常天疱瘡、悪性貧血、結節性多発動脈炎、多発性軟骨炎、多腺性症候群、リウマチ性多発筋痛、多発筋炎及び皮膚筋炎、原発性無ガンマグロブリン血症、原発性胆汁性肝硬変、乾癬、乾癬性関節炎、レイノー現象、ライター症候群、サルコイドーシス、強皮症、進行性全身性硬化、シェーグレン症候群、グッドパスチャー症候群、全身強直性症候群、全身性エリテマトーデス、紅斑性狼蒼、高安動脈炎、側頭動脈炎/巨細胞性動脈炎、潰瘍性大腸炎、ブドウ膜炎、疱疹状皮膚炎血管炎などの脈管炎、白斑、ウェゲナー肉芽腫症、抗糸球体基底膜疾患、抗リン脂質症候群、神経系の自己免疫疾患、家族性地中海熱、ランバート-イートン筋無力症症候群、交感神経性眼炎、多腺性内分泌障害、乾癬などがある。
【0025】
「炎症性疾患」という用語は、炎症、例えば、慢性炎症によって特徴づけられる対象における状態をいう。炎症性疾患の代表的で非限定的な例には、セリアック病、関節リウマチ(RA)、炎症性腸疾患(IBD)、喘息、脳炎、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、炎症性骨溶解、アレルギー障害、敗血症性ショック、肺線維症(例えば、特発性肺線維症)、炎症性バキュルチディス(vacultides)(例えば、結節性多発動脈炎、ウェゲナー肉芽腫症、高安動脈炎、側頭動脈炎、及びリンパ腫性肉芽腫)、外傷後の血管形成術(例えば、血管形成術後の再狭窄)、未分化脊椎関節症、未分化関節症、関節炎、炎症性骨溶解、慢性肝炎、及び慢性のウイルス又は細菌の感染により生じる慢性炎があるが、これらに限定されない。
【0026】
「免疫学的に媒介される炎症性疾患」という用語は、正常な免疫応答の調節不全から生じる、それに関連する、又はそれにより誘引される慢性又は急性の炎症により特徴付けられる任意の疾患、例えば、クローン病、1型糖尿病、関節リウマチ、炎症性腸疾患、乾癬、乾癬性関節炎、強直性脊椎炎、全身性エリテマトーデス、橋本病、移植片対宿主病、シェーグレン症候群、悪性貧血、アジソン病、強皮症、グッドパスチャー症候群、潰瘍性大腸炎、自己免疫溶血性貧血、不妊、重症筋無力症、多発性硬化症、バセドー病、血小板減少性紫斑、ギランバレー症候群、アレルギー、喘息、アトピー病、動脈硬化症、心筋炎、心筋症、糸球体腎炎、再生不良性貧血、及び臓器移植後の拒絶を意味するために採用されるものとする。
【0027】
細胞集団に適用される「単離された」という用語は、ヒト又は動物の体から単離された細胞集団であって、インビボ又はインビトロで前記細胞集団に関連する1つ以上の細胞集団を実質的に含まないものをいう。「MHC」(主要組織適合遺伝子複合体)という用語は、細胞表面抗原提示タンパク質をコードする遺伝子のサブセットをいう。ヒトにおいて、これらの遺伝子は、ヒト白血球抗原(HLA)遺伝子と称される。本明細書では、略語MHC又はHLAは、同義的に使用される。「対象」という用語は、動物、好ましくは非霊長類(例えば、ウシ、ブタ、ウマ、ネコ、イヌ、ネズミ、又はマウス)、及び霊長類(例えば、サル、又はヒト)を含む哺乳類をいう。好ましい実施態様において、対象は、ヒトである。
【0028】
「免疫調節性」という用語は、免疫系の1種以上の生物学的活性の阻害又は減少をいう。「抗原特異的免疫調節性」という用語は、アロ抗原及び自己抗原を含む特異的抗原又は抗原群に関連する免疫系の1種以上の生物学的活性の阻害又は減少をいう。「免疫調節性」という用語は、「抗原特異的免疫調節性」を含むように採用されるものとする。
【0029】
本明細書では「免疫調節性薬剤」、「免疫調節性細胞集団」、「免疫調節性細胞」、又は「免疫調節性細胞群」という用語は、1種以上の免疫細胞(例えば、限定されないが、T細胞)の1種以上の生物学的活性(例えば、限定されないが、増殖、分化、プライミング、エフェクター機能、サイトカインの産生、又は抗原の発現)を阻害する、若しくは減少させる薬剤、細胞(群)、又はその集団を意味するために採用されるものとする。本発明の方法により産生できる免疫調節性細胞は、CD4+細胞及びCD25+細胞から選択されるT細胞などの調節性T細胞を含む。
【0030】
「T細胞」という用語は、T細胞受容体(TCR)を発現するリンパ球のサブセットである免疫系の細胞をいう。「調節性T細胞」(本明細書において、T-調節細胞とも称される)という用語は、免疫系の活性化を能動的に抑制し、病理学的な自己反応性、すなわち自己免疫疾患を予防するT細胞サブセットをいう。「調節性T細胞」、又は「T-調節細胞」という用語は、内在性t細胞(CD4+CD25+FoxP3+ T-調節細胞としても知られる)、及びFoxP3分子を発現しない適応T細胞(Tr1細胞又はTh3細胞としても知られる)の両方を含むように採用されるものとする。
【0031】
本方法の特に好ましい実施態様において、前記免疫調節性薬剤、細胞(群)、又はその集団は、調節性T細胞であるが、本方法の代わりの実施態様において、これらは、調節性T細胞の免疫抑制機能を行うことができるように修飾されたその他の表現型の細胞でもよい。例えば、その他の表現型の細胞は、前記修飾より前に、次の能力の1つ以上を欠いていてもよい:混合リンパ球反応の抑制;細胞傷害性T細胞反応の抑制;DC成熟の阻害;炎症性サイトカインのT細胞産生の阻害。
【0032】
本明細書では、細胞表面マーカーに関して使用される「ネガティブ」又は「-」は、細胞集団において、前記マーカーを発現する細胞が20%未満、10%、好ましくは9%未満、8%未満、7%未満、6%未満、5%未満、4%未満、3%未満、2%未満、1%未満、又は存在しないことを意味するために採用されるものとする。細胞表面マーカーの発現は、例えば、従来の方法及び装置(例えば、市販の抗体、及び当該技術分野において公知の標準的なプロトコルで使用されるBeckman Coulter Epics XL FACSシステム)を使用して、特異的な細胞表面マーカーについて、フローサイトメトリーにより決定してもよい。
【0033】
本明細書では、間葉系幹細胞(本明細書において、「MSC」とも称される)という用語は、間葉織に元々由来する多分化能細胞型を意味するために採用されるものとする。
【0034】
本明細書では、細胞表面マーカーに関して使用される「有意な発現」、又はその同等用語である「ポジティブ」、及び「+」は、細胞集団において、細胞の20%超、好ましくは、30%超、40%超、50%超、60%超、70%超、80%超、90%超、又は全てが、前記マーカーを発現することを意味するために採用されるものとする。
【0035】
細胞表面マーカーの発現は、例えば、従来の方法及び装置(例えば、市販の抗体、及び当該技術分野において公知の標準的なプロトコルで使用されるBeckman Coulter Epics XL FACSシステム)を使用して特異的な細胞表面マーカーについてフローサイトメトリーにより決定してもよく、それは、従来の方法及び装置(例えば、市販の抗体、及び当該技術分野において公知の標準的なプロトコルで使用されるBeckman Coulter Epics XL FACSシステム)を使用して、バックグラウンドシグナルを超える、フローサイトメトリーにおける特異的な細胞表面マーカーのシグナルを示す。バックグラウンドシグナルは、従来のFACS解析において、それぞれの表面マーカーを検出するために使用される特異的抗体と同じアイソタイプの非特異的抗体によってもたらされるシグナル強度と定義される。マーカーがポジティブとみなされるには、観察される特異的なシグナルは、従来の方法及び装置(例えば、市販の抗体、及び当該技術分野において公知の標準的なプロトコルで使用されるBeckman Coulter Epics XL FACSシステム)を使用して、バックグラウンドシグナル強度より、少なくとも20%強く、好ましくは少なくとも30%強く、少なくとも40%強く、少なくとも50%強く、少なくとも60%強く、少なくとも70%強く、少なくとも80%強く、少なくとも90%強く、少なくとも500%強く、少なくとも1000%強く、少なくとも5000%強く、又は少なくとも10000%強い。
【0036】
さらにまた、前記細胞表面マーカー(例えば、細胞受容体及び膜貫通タンパク質)に対する、市販されている公知のモノクローナル抗体を、関連した細胞を同定するために使用することができる。
【0037】
「結合組織」という用語は、間葉織から由来する組織をいい、その組織の細胞が細胞外基質の中に含まれるという点で特徴づけられるいくつかの組織を含む。結合組織の例には脂肪及び軟骨組織があるが、これらに限定されない。
【0038】
本明細書に使用される「線維芽細胞」という用語は、線維芽細胞様滑膜細胞を含むように採用されるものとする。
「グルテン」という用語は、グリアジン及びグルテニン成分を含むタンパク質を意味するために採用されるものとする。
【0039】
本明細書では、患者又は対象に直接関連して使用される場合、「治療する」、「治療」、及び「治療すること」という用語は、炎症性疾患、自己免疫疾患、又は移植された臓器及び組織の拒絶を含む免疫学的に媒介される疾患を含むがこれらに限定されない障害に関連する1つ以上の症状の寛解であって、本発明の免疫調節性細胞又はそれを含む医薬組成物を、前記治療を必要とする対象に投与することにより生じる、前記寛解を意味するために採用されたものとする。
【0040】
「併用療法」という用語は、本発明の免疫調節性細胞又はそれを含む医薬組成物を、他の活性薬剤又は治療方法と共に、炎症性疾患、自己免疫疾患、又は移植された臓器及び組織の拒絶を含む免疫学的に媒介される疾患を含むがこれらに限定されない障害に関連する1つ以上の症状を寛解させるための本発明の方法で使用することを意味する。これらの他の薬剤又は治療は、コルチコステロイド及び非ステロイド抗炎症化合物を含むがこれらに限定されない、そのような障害の治療のための公知の薬物及び療法を含み得る。
【0041】
本発明の免疫調節性細胞又はその医薬組成物は、コルチコステロイド、非ステロイド抗炎症化合物、又は炎症の治療に有用な他の薬剤と組み合わせてもよい。本発明の薬剤と他の療法又は治療方法とを組み合わせた使用は、同時でよく、又は連続的に与えてもよく、すなわち、前記免疫調節性細胞又はそれを含む医薬組成物が他の療法又は治療方法の前又は後に与えられるように、2つの治療が分割されてもよい。担当医は、免疫調節性細胞又はそれを含む医薬組成物を、他の薬剤、療法、又は治療方法と組み合わせて投与する適切な順序を決定できる。
【0042】
(詳細な説明)
一態様において、本発明は、免疫系の活性化を抑制し、かつ病理学的な自己反応性、すなわち自己免疫疾患を予防する免疫調節性細胞の調製及び/又は産生の方法に関する。一実施態様において、前記免疫調節性細胞は、調節性T細胞であり、特に好ましい実施態様において、前記免疫調節性細胞は、Foxp3+CD4+CD25+ T調節性細胞及び/又はIL-10/TGFbを産生する調節性Tr1細胞である。本発明の方法に従って調製及び/又は産生される免疫調節性細胞は、本発明のさらなる態様を構成する。
【0043】
前記方法は、MSC及び/又は線維芽細胞集団を末梢血白血球と接触させるか、又はそれと共に培養することを含む。前記接触又は培養期間は、好ましくは約2時間〜約25日間であり、より好ましくは約10〜約18日間であり、さらに好ましくは約4〜16日間である。例となる期間は、およそ14〜16日間である。さらなる実施態様において、前記培養又は接触は、少なくとも4、少なくとも10、少なくとも12、少なくとも14、又は少なくとも15日間である。この共培養により免疫調節性細胞の産生を生じ、それを対象の治療に利用できる。
【0044】
本発明は、LPS、IL-4、IL-2、及びGM-CSFからなる群から選択される少なくとも1種の作用物質の存在下で、MSC及び/又は線維芽細胞集団を末梢血白血球と接触させるか、又はそれと共に培養することを含む方法も提供する。
【0045】
したがって、本発明の免疫調節性細胞の調製及び/又は産生のための前記方法において、MSC及び/又は線維芽細胞集団は、LPS、IL-4、IL-2、及びGM-CSFからなる群から選択される少なくとも1つの作用物質の存在下で、末梢血白血球と共にインビトロで培養される。培養期間は、好ましくは約2時間〜約25日間であり、より好ましくは、約10〜約18日間であり、さらに好ましくは約4〜16日間である。例となる期間は、およそ14〜16日間である。さらなる実施態様において、前記培養又は接触は、少なくとも4、少なくとも10、少なくとも12、少なくとも14、又は少なくとも15日間実施される。この共培養により、免疫調節性細胞の産生を生じ、これを対象の治療のために使用することができる。
【0046】
(MSC及び/又は線維芽細胞集団)
MSC及び/又は線維芽細胞集団という用語は、間葉系幹細胞を基本的に含む複数の細胞;線維芽細胞を基本的に含む複数の細胞;間葉系幹細胞及び線維芽細胞を基本的に含む複数の細胞のいずれかを記載するように使用されるものとする。前記MSC及び/又は線維芽細胞集団中の細胞数と末梢血白血球との比がそれぞれ1:1〜1:150であることが好ましい。前記MSC及び/又は線維芽細胞集団中の細胞数と末梢血白血球との比が1:30〜1:5であることがさらに好ましい。したがって、一実施態様において、これは、25末梢血白血球ごとに約1 MSC、25末梢血白血球ごとに1 MSC及び1線維芽細胞、又は10末梢血白血球ごとに1 MSCになり得る。
【0047】
本方法の一実施態様において、前記作用物質は、LPS(グラム陰性細菌内毒素リポポリサッカリド)である。LPS濃度は、0.01〜100μg/mlであることが好ましく、前記濃度が、1〜50μg/ml、例えば約10μg/mlであることがさらに好ましい。
【0048】
本方法の一実施態様において、前記作用物質はIL-2である。LPS濃度が、約0.01〜1000 IU/mlであることが好ましく、前記濃度が最大約500、最大約600、最大約700、最大約800、又は最大約900 IU/mLであることがさらに好ましい。
【0049】
代わりの実施態様において、前記作用物質は、GM-CSF及びIL-4のいずれかである。GM-CSF及びIL-4は、両方ともサイトカインである。その濃度が、1〜2000IU/mlであることが好ましく、前記濃度が、500〜1000IU/mlであることがさらに好ましい。
【0050】
本方法のさらなる実施態様において、IL-4及びGM-CSFの両作用物質が、本発明の方法において使用される。GM-CSFの濃度のIL-4の濃度に対する比は、5:1〜1:1であり、前記作用物質のそれぞれの濃度は1〜2000IU/mlであることが好ましく、前記濃度が、500〜1000IU/mlであることがさらに好ましい。したがって、一実施態様において、これは、500IU/mlのIL-4に対して約1000IU/mlのGM-CSFでよい。
【0051】
本発明の方法(複数可)は、温度及び二酸化炭素が制御された環境、例えばインキュベーター中で実施されるのが好ましい。該方法は、およそ哺乳類の体温、地域差を考慮して、例えば摂氏37度にて実施(preformed)される。本発明の方法は、二酸化炭素濃度が0%〜10%で、より好ましくは、1%〜5%である環境において実施されることが好ましい。
【0052】
前記方法における使用に好適なMSC及び/又は線維芽細胞集団及び末梢血白血球、並びにその製造方法は、本発明の他の方法における使用に関して先に記載されたものによる。
【0053】
本発明の方法において、好ましくはMSC細胞集団(特にヒト由来のもの)がPBLと接触させられる。
【0054】
(線維芽細胞)
本発明の方法に使用される線維芽細胞は、細胞外基質の合成及び維持に関連する間葉織誘導結合組織であり、線維芽細胞様滑膜細胞を含むように採用されるものとする。線維芽細胞は、任意の好適な動物、最も好ましくはヒトから得ることができる。
【0055】
(MSC)
本発明の方法に使用されるMSCは、好ましくは結合組織に由来する。好ましい実施態様において、前記MSCは脂肪組織に由来し、さらに好ましい実施態様において、脂肪組織の間質分画に由来する。代わりの実施態様において、前記MSCは、硝子軟骨の軟骨細胞から得られる。さらなる実施態様において、前記MSCは皮膚から得られる。他の実施態様において、前記MSCは骨髄から得られる。
【0056】
MSCは、任意の好適な動物、最も好ましくはヒトの任意の好適な結合組織の供給源から得ることができる。前記細胞が、好ましくは出生後の病的でない哺乳動物供給源(例えば、齧歯類;霊長類)から得られることが好ましい。好ましい実施態様において、MSCは、脂肪組織の間質分画、硝子軟骨、骨髄、又は皮膚などがあるがこれらに限定されない結合組織の供給源から得られる。最も好ましくは、前記方法のMSCは、病的でない、出生後のヒトの間質脂肪組織から得られる。
【0057】
本発明の方法により調製される免疫調節性細胞の意図されるレシピエントに関して、上述の前記方法において使用されるMSC及び/又は線維芽細胞は、同種異系(ドナー)又は自己(対象)由来のいずれかでよい。前記方法の一実施態様において、前記MSC及び/又は線維芽細胞は同種異系由来である。
【0058】
本発明の方法において使用されるMSC及び/又は線維芽細胞は、(i)APCに特異的なマーカーを発現せず、(ii)IDOを恒常的に発現せず、(iii)IFN-ガンマによる刺激によりIDOを発現し、かつMSCの場合には(iv)少なくとも2つの細胞系統に分化する能力を示すという点で特徴づけることができる。しかし、本発明の方法において使用されるMSC及び/又は線維芽細胞は、好ましくは、(i)APCに特異的なマーカーを発現せず、(ii)IDOを恒常的に発現し、或いは(iii)IFN-ガンマによる刺激によりIDOを発現し、かつMSCの場合には、(iv)少なくとも2つの細胞系統に分化する能力を示すという点で特徴づけられる。
【0059】
(MSC表現型マーカー)
本発明の方法において使用されるMSCは、好ましくは、APC表現型に関連するマーカーに対してネガティブである。したがって、前記MSCが、以下のマーカー:CD 11b; CD 11c; CDI 14; CD 45; HLAIIの少なくとも1つ、2つ、3つ、4つ、又は好ましくは全てに対してネガティブであることが好ましい。さらに、MSCは、以下の細胞表面マーカー:CD31; CD34; CD 133の少なくとも1つ、2つ、又は好ましくは全てに対してネガティブであることが好ましい。
【0060】
特別な実施態様において、本方法に使用されるMSCは、好ましくは、以下の細胞表面マーカーCD9、CD44、CD54、CD90、及びCD105の少なくとも1つ、2つ、3つ、4つ、又は好ましくは全てを発現する(すなわち、ポジティブである)点を特徴とする。好ましくは、MSCは、前記細胞表面マーカー(CD9、CD44、CD54、CD90、及びCD105)の少なくとも1つ、2つ、3つ、4つ、又は好ましくは全ての著しい発現レベルを有することを特徴とする。
【0061】
任意に、MSCは、細胞表面マーカーCD 106 (VCAM-1)に対してネガティブでもよい。本発明の方法における使用に好適なMSCの例は、当分野、例えば、引用によりその全体が本明細書に組み込まれる国際公開第2007039150号に記載されている。
【0062】
(IDOの発現)
本発明の方法に使用されるMSCが、恒常的に、又はIFN-ガンマによる刺激のいずれかにより、IDO(インドールアミン2,3-ジオキシゲナーゼ)を発現することが好ましい。したがって、一実施態様において、それらはIDOを恒常的に発現する。他の実施態様において、それらは、IFN-ガンマによる刺激でIDOを発現する。さらに、前記細胞が、最大3ng/mlの濃度で使用されるインターロイキン-1(IL-1)、最大50ng/mlの濃度で使用される腫瘍壊死因子-アルファ(TNF-アルファ)、又は最大100ng/mlの濃度で使用される内毒素LPSなどの、炎症誘発性メディエーターによる刺激によりそれ自体でIDOを発現しないことが好ましい。例えば3ng/ml以上でのIFN-ガンマによる刺激は、MSC中にHLAIIの発現をも誘導して、細胞表面マーカーに対して本明細書において定義されるポジティブなシグナルを与え得る。前記発現は、特定のタンパク質の発現の検出を可能にする公知の技術を利用して当業者により検出できる。好ましくは、前記技術は細胞サイトメトリー技術である。
【0063】
(分化)
本発明の方法における使用に好適なMSCは、増殖して、少なくとも2種、より好ましくは3種、4種、5種、6種、7種以上の細胞系統に分化する能力を呈することがある。前記MSCが分化できる細胞系統の代表的で非限定的な例には、骨細胞、脂肪細胞、軟骨細胞、腱細胞、筋細胞、心筋細胞、造血支持間質細胞、内皮細胞、神経細胞、星状細胞、及び肝細胞がある。MSCは、従来の方法により増殖して他の系統の細胞に分化できる。分化した細胞を特定し、次いで未分化の対応物から単離する方法も、当分野に公知の方法により実施できる。
【0064】
(MSC細胞培養)
前記MSCを、エキソビボで増殖させることができる。すなわち、単離後、前記MSCを、培養培地中でエキソビボで維持して増殖させることができる。そのような培地は、例えば、抗生物質(例えば、100単位/mlのペニシリン及び100[mu]g/mlストレプトマイシン)を含み、又は抗生物質を含まず、2 mMグルタミンを含み、2〜20%ウシ胎児血清(FBS)を補ったダルベッコ変法イーグル培地(DMEM)で構成されている。使用される細胞のために必要に応じて培地及び/又は培地補足物質の濃度を変更又は調節することは、当業者の技量の範囲内である。血清は、生育力及び増殖に必要な細胞性及び非細胞性の因子及び成分を含むことが多い。血清の例には、ウシ胎児血清(FBS)、ウシ血清(BS)、仔ウシ血清(CS)、ウシ胎児血清(FCS)、ウシ新生仔血清(NCS)、ヤギ血清(GS)、ウマ血清(HS)、ブタ血清、ヒツジ血清、ウサギ血清、ラット血清(RS)などがある。前記MSCがヒト由来のものである場合、細胞培養培地が、好ましくは自己由来のヒトの血清を補われることも、本発明の範囲内である。補体カスケードの成分を不活性化するために必要と考えられる場合、血清を55〜65℃で熱失活できることが理解される。血清濃度の調節、培養培地からの血清の除去を利用して、1種以上の所望の細胞種の生存を促進できる。好ましくは、前記MSCは、約2%から約25%のFBS濃度が有益となろう。他の実施態様において、血清が、当分野に知られている血清アルブミン、血清トランスフェリン、セレン、及びリコンビナントタンパク質、例えばインスリン、血小板由来成長因子(PDGF)、及び塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)を含むがこれに限定されない、の組み合わせにより置換されている、限定された組成の培養培地中でMSCを増殖させることもできる。
【0065】
多くの細胞培養培地はすでにアミノ酸を含んでいるが、細胞の培養前に追加が必要なものもある。そのようなアミノ酸には、L-アラニン、L-アルギニン、L-アスパラギン酸、L-アスパラギン、Lシステイン、L-シスチン、L-グルタミン酸、L-グルタミン、L-グリシンなどがあるが、これらに限定されない。
【0066】
また典型的には抗菌剤を細胞培養物に使用して、細菌、マイコプラズマ、及び真菌による汚染を軽減する。典型的には、使用される抗生物質及び抗真菌剤は、ペニシリン/ストレプトマイシンの混合物であるが、アンホテレシン(Fungizone(登録商標))、アムピシリン、ゲンタマイシン、ブレオマイシン、ハイグロマイシン、カナマイシン、ミトマイシンなどを含んでもよいが、これらに限定されない。
【0067】
ホルモンも好都合には細胞培養物中で使用でき、D-アルドステロン、ジエチルスチルベストロール(DES)、デキサメタゾン、b-エストラジオール、ヒドロコルチゾン、インスリン、プロラクチン、プロゲステロン、ソマトスタチン/ヒト成長ホルモン(HGH)などがあるが、これらに限定されない。
【0068】
(増殖した細胞)
一実施態様において、MSC及び/又は線維芽細胞は、本発明の方法における使用の前に増殖されていてもよい。細胞増殖の方法は当分野に公知である。
【0069】
(照射された細胞)
一実施態様において、MSC及び/又は線維芽細胞は、本発明の方法におけるその使用の前に照射されていてもよい。細胞の照射はその増殖能力及び生存時間を低下させる。
【0070】
照射は、ガンマ照射装置などの電離放射線の好適な制御された供給源を利用して実施できる。照射条件は、MSC及び/又は線維芽細胞の長期の成長停止を起こす放射線量を与えるのに必要な曝露時間を決定するために、当業者により実験的に調整されなければならない。一実施態様において、前記放射線量は、1〜100 Gy;5〜85 Gy、10〜70 Gy、12〜60 Gyからなる群から選択される範囲内であるが、前記放射線量が15〜45 Gyの範囲内であることが特に好ましい。
【0071】
(IFN-ガンマにより刺激されたMSC)
一実施態様において、MSC及び/又は線維芽細胞は、本発明の方法における使用の前にインターフェロンガンマにより刺激されていてよい。MSCの刺激のためのそのIFN-ガンマ処理は当分野に公知であり、当業者により実施できる。
【0072】
(マイトマイシンCにより処理されたMSC)
一実施態様において、MSC及び/又は線維芽細胞は、本発明の方法における使用の前にマイトマイシンCにより処理されていてよい。MSCのマイトマイシンC処理は当分野に公知であり、当業者により実施できる。
【0073】
さらに、望まれる場合、MSC及び/又は線維芽細胞を、本発明の方法における使用の前に、照射、IFN-ガンマ、及びマイトマイシンCからなる群から選択される複数の処理に付すことができる。
【0074】
前記MSCの維持条件は、細胞を未分化の形態のまま保つことができる細胞性因子も含むことがある。分化の前に細胞分化を阻害する補足物質を培養培地から除去すべきであることは、当業者には明らかである。全ての細胞がこれらの因子を必要とするわけではないことも明らかである。実際に、これらの因子は、細胞の種類によっては望まれない効果を誘発することがある。
【0075】
(末梢血白血球(PBL)の調製)
本発明の上述の方法により調製される免疫調節性細胞の意図されるレシピエントに関して、前記方法に利用される末梢血白血球は、自己由来又は同種異系由来でよい。しかし、それらが自己由来である(すなわち、その後に免疫調節性細胞又はその任意の治療、医薬、若しくは医薬組成物を受け取る対象から得られた)ことが望ましい。全血からの末梢血白血球の単離の方法は当分野に公知であり、フィコール-ハイパーク法及び/又は赤血球溶解手順又はLeucoPREP(商標)細胞分離装置(Becton Dickinson & Co.社製)及びHISTOPAQUE(商標)(Sigma Diagnostics社製)溶液などの市販の手段の利用を含む。
【0076】
(抗原特異的免疫調節性細胞の調製方法)
本発明は、選択された抗原又は抗原の群に特異的な免疫調節性細胞(以下で抗原特異的免疫調節性細胞とも称する)の調製及び/又は産生並びにその抗原又は抗原の群に関連する疾患又は障害の治療におけるこれらの使用の方法を提供する。そのような抗原の例は、自己免疫疾患、例えば、関節リウマチ、クローン病、4型過敏症反応、狼瘡、乾癬、及び当分野に公知であり本明細書の他の部分に記載される他の自己免疫疾患において役割を果たすものである。一実施態様において、前記抗原特異的免疫調節性細胞は調節性T細胞であり、特に好ましい実施態様において、前記抗原特異的免疫調節性細胞は、Foxp3+CD4+CD25+ T調節細胞及び/又はIL-10/TGFb産生調節性Tr1細胞である。本発明の前記方法に従って調製及び/又は産生された、選択された抗原又は抗原の群に特異的な抗原特異的免疫調節性細胞は、本発明のさらなる態様を構成する。
【0077】
一実施態様において、前記方法は、MSC及び/又は線維芽細胞集団を、末梢血白血球及び選択された抗原又は抗原の群に接触させることを含む。前記接触又は培養の期間は、好ましくは約2時間〜約25日間であり、より好ましくは約10〜約18日間、さらに好ましくは約4〜16日間である。例となる期間は約14〜16日間である。さらなる実施態様において、前記培養又は接触は、少なくとも4、少なくとも10、少なくとも12、少なくとも14、又は少なくとも15日間実施される。この共培養により免疫調節性細胞の産生を生じ、それを対象の治療に使用できる。
【0078】
本発明は、MSC及び/又は線維芽細胞集団を、LPS、IL-4、IL-2、及びGM-CSFからなる群から選択される少なくとも1種の作用物質の存在下で、末梢血白血球及び選択された抗原又は抗原の群に接触させるか、又は共培養することを含む方法も提供する。
【0079】
抗原特異的免疫調節性細胞の調製及び/又は産生の方法における他の実施態様において、MSC及び/又は線維芽細胞集団は、LPS、IL-4、IL-2、及びGM-CSFからなる群から選択される少なくとも1種の作用物質並びに選択された抗原、抗原の群、又は前記抗原若しくは複数の抗原を発現及び/又は提示する細胞型の存在下で、末梢血白血球と共にインビトロで培養される。
【0080】
代わりの実施態様において、抗原特異的免疫調節性細胞の調製及び/又は産生の方法は、(a)末梢血白血球を、LPS、IL-4、IL-2、及びGM-CSFからなる群から選択される少なくとも1種の作用物質の存在下で、選択された抗原又は抗原の群に接触させること、(b)前記細胞集団を、MSC及び/又は線維芽細胞集団と接触させることを含む。
【0081】
一実施態様において、選択された抗原又は抗原の群に特異的である免疫調節性細胞の調製及び/又は産生の方法であって:
(a)末梢血白血球を、LPS、IL-4、IL-2、及びGM-CSFからなる群から選択される少なくとも1種の作用物質の存在下で、前記選択された抗原又は抗原の群に接触させること、
(b)前記細胞集団を、MSC及び/又は線維芽細胞集団と接触させること
を含む方法が提供される。
【0082】
抗原特異的免疫調節性細胞の調製及び/又は産生の前記方法の工程(a)において、末梢血白血球は、選択された抗原、抗原の群、又は前記抗原若しくは複数の抗原を発現及び/又は提示する細胞型の存在下で、インビトロで培養される。約2、4、6、12、24、48時間、又はそれより長い培養期間、好ましくは約12〜約24時間の培養期間の後で、本発明の細胞集団は、任意に前記抗原、抗原の群、又は前記抗原を保持する細胞の除去後に、MSC及び/又は線維芽細胞集団と共にさらに共培養される。培養期間は、好ましくは約2時間〜約25日間、より好ましくは約10〜約18日間、さらに好ましくは約4〜16日間である。例となる期間は約14〜16日間である。さらなる実施態様において、前記培養は、少なくとも4、少なくとも10、少なくとも12、少なくとも14、又は少なくとも15日間実施される。培養期間は、好ましくは約2時間〜約25日間であり、より好ましくは約10〜約18日間、さらに好ましくは約4〜16日間である。さらなる実施態様において、前記培養又は接触は、少なくとも4、少なくとも10、少なくとも12、少なくとも14、又は少なくとも15日間実施される。この共培養により、免疫調節性細胞の産生を生じ、それを対象の治療に使用できる。この共培養により、選択された抗原に特異的な免疫調節性細胞の産生を生じ、それを対象の治療に使用できる。
【0083】
この方法に使用される本発明のMSC及び/又は線維芽細胞集団は、抗原特異的免疫調節性細胞がのちに投与される対象(自己由来)又はドナー(同種異系)からでよい。それらが同種異系であることが好ましい。
【0084】
(抗原(群))
抗原特異的免疫調節性細胞の調製及び/又は産生の前記方法に使用される抗原は、選択された抗原、抗原の群、又は前記抗原若しくは複数の抗原を発現及び/又は提示する細胞型でよい。一実施態様において、前記抗原は、自己免疫疾患を患っている患者に由来する自己抗原の混合物、ペプチド抗原、核酸、改変ペプチドリガンド、組み換えタンパク質、又はその断片からなる群から選択される。一実施態様において、前記抗原は関節炎に関連している(限定はされないが、コラーゲン抗原など)。代わりの実施態様において、前記抗原はセリアック病(或いは、小児脂肪便症、セリアックスプルー、非熱帯性スプルー、地方病性スプルー(endemic sprue)、グルテン性腸炎又はグルテン過敏性腸炎、及びグルテン不耐性と称される)に関連している。セリアック病に関連する抗原は、数種の形態のプロラミン(限定はされないが、グリアジン、ホルデイン、及び/又はセカリンの抗原など)を含むグルテンファミリーの構成要素である。さらなる実施態様において、前記抗原は多発性硬化症に関連している(限定はされないが、ミエリン抗原など)。そのような抗原の単離、精製、及び調製の方法は、当業者に公知である。
【0085】
(免疫調節性細胞の選択)
特定の態様において、本発明は、レシピエントの対象への投与に好適な免疫調節性細胞を提供する。したがって、前記免疫調節性細胞が相対的な表現型均一性を有することが好ましい。したがって、本発明の方法の任意の工程において、本発明の免疫調節性細胞は、不均一な細胞培養物から選択される。本発明の免疫調節性細胞及び抗原特異的免疫調節性細胞は、当業者に公知である従来の手段により選択及び単離できる。そのような技術の例にはFACS及び免疫磁気細胞分離がある。
【0086】
(細胞増殖)
前記方法の一実施態様において、本発明の免疫調節性細胞は、当分野に公知である培養技術を利用してエキソビボで数を増やすことができる。代わりの処理方法として、本発明の免疫調節性細胞は、細胞増殖を全くせずにインビボで直接投与してもよい。
【0087】
(本発明の免疫調節性細胞の使用)
本発明の免疫調節性細胞は、自己免疫疾患、炎症性疾患、並びに移植された臓器及び組織の拒絶を含む免疫学的に媒介される疾患を含むがこれらに限定されない、対象の免疫系の調節が有益である障害に関連する1つ以上の症状の予防、治療、又は寛解に使用できる。そのような使用は、本発明の追加の態様を構成する。
【0088】
そのため、他の態様において、本発明の免疫調節性細胞は医薬として使用される。特別な実施態様において、本発明の免疫調節性細胞を含む医薬は、移植寛容を誘導するために(移植された臓器及び組織の拒絶の症状を緩和することを含む)、又は自己免疫疾患若しくは炎症性疾患又は免疫が媒介する炎症性疾患を含む免疫学的に媒介される疾患の症状を治療し、それにより緩和するために、前記障害又は疾患を患っている対象において使用されることがある。そのため、本発明の免疫調節性細胞を使用して、前記障害のいずれかを患っている対象の自己免疫疾患又は炎症性疾患の症状を治療的又は予防的に治療し、それにより緩和でき、又は前記疾患を患っている対象の免疫学的に媒介される疾患の症状を緩和できる。本発明の免疫調節性細胞は、自己免疫疾患、炎症性疾患、又は免疫学的に媒介される疾患の治療に有益である。治療可能な前記疾患及び障害の代表的で非限定的な例は、「定義」の見出しですでに列記されているものである。特別な実施態様において、前記炎症性疾患は、慢性炎症性疾患、例えば、セリアック病、多発性硬化症、乾癬、IBD、又はRAなどである。他の態様において、本発明は、自己免疫疾患、炎症性疾患、並びに移植された臓器及び組織の拒絶を含む免疫学的に媒介される疾患を含むがこれらに限定されない、対象の免疫系の調節が有益である障害に関連する1つ以上の症状を予防、治療、又は寛解させるための医薬の調製のための本発明の免疫調節性細胞の使用に関する。したがって、本発明は、免疫応答の抑制、又は移植寛容の誘導、又は自己免疫疾患の治療、又は炎症性疾患の治療のための医薬の調製のための本発明の免疫調節性細胞の使用をさらに意味する。前記自己免疫疾患及び炎症性疾患の例は先に言及されている。特別な実施態様において、疾患は、炎症性疾患、例えば、セリアック病、多発性硬化症、乾癬、IBD、又はRAなどの慢性炎症性疾患である。
【0089】
(抗原特異的免疫調節性細胞の使用)
本発明は、対象、最も好ましくは末梢血白血球が得られた対象への、前記抗原特異的免疫調節性細胞の投与による、前記選択された抗原又は抗原の群に関連した疾患及び障害の治療における、本発明の方法に従って調製及び/又は産生される抗原特異的免疫調節性細胞の使用を提供する。
【0090】
したがって、別の態様においては、前記抗原特異的免疫調節性細胞は、医薬として使用される。特定の実施態様において、本明細書に記載される抗原特異的免疫調節性細胞を含む医薬は、前記選択された抗原又は抗原の群に関連した疾患及び障害の治療のために使用してもよい。したがって、抗原特異的免疫調節性細胞は、自己免疫疾患又は炎症性疾患のいずれかに罹患している対象における前記障害の症状を、治療的又は予防的に治療し、それにより軽減するために、又は免疫学的に媒介される疾患に罹患している対象における前記疾患の症状を軽減するために使用することができる。本発明の抗原特異的免疫調節性細胞は、自己免疫疾患、炎症性疾患、又は免疫学的に媒介される疾患の治療において有用である。治療することができる前記疾患及び障害の代表的で非限定的な例は、「定義」の見出しで先に記載されたものである。特別な実施態様において、前記炎症性疾患は、例えば、セリアック病、多発性硬化症、乾癬、IBD、又はRAなどの慢性炎症性疾患である。別の態様において、本発明は、自己免疫疾患、炎症性疾患、並びに移植された臓器及び組織の拒絶を含む免疫学的に媒介される疾患を含むがこれらに限定されない、対象の免疫系の調整が有益である障害に関連する1つ以上の症状を予防し、治療し、又は寛解させる医薬の調製のための本発明の抗原特異的免疫調節性細胞の使用に関する。したがって、本発明は、前記抗原(群)に関連する免疫応答を抑制するための医薬の調製のための、本明細書に記載された抗原特異的免疫調節性細胞の使用をさらに意味する。前記自己免疫疾患及び炎症性疾患の例は先に言及された。特定の実施態様において、疾患は、炎症性疾患、例えば、セリアック病、多発性硬化症、乾癬、IBD、又はRAなどの慢性炎症性疾患である。
【0091】
本発明は、選択された抗原又は抗原の群に関連する疾患及び障害の治療又は予防の方法であって、本発明の方法に従って産生された免疫調節性細胞を、その必要のある対象に投与することを含む方法も提供する。好適には、前記免疫調節性細胞は、対象から得られるPBLにより調製及び/又は産生された。
【0092】
本明細書では、「本発明の免疫調節性細胞」という用語は、増殖及び非増殖の免疫調節性細胞の両方並びに抗原特異的免疫調節性細胞を含む、本明細書に記載される本発明の方法により調製及び/又は産生される全ての免疫調節性細胞を意味するように採用されるものとする。
【0093】
(医薬組成物)
本発明は、自己免疫疾患、炎症性疾患、並びに移植された臓器及び組織の拒絶を含む免疫学的に媒介される疾患などの、対象の免疫系の調整が有益である障害に関連する1つ以上の症状の治療、予防、及び寛解のための医薬組成物を提供する。
【0094】
したがって、別の態様において、本発明は、本発明の免疫調節性細胞及び医薬担体を含む医薬組成物(以下本発明の医薬組成物という)に関する。前記の種類の細胞の2種以上の組み合わせは、本発明によって提供される医薬組成物の範囲内に含まれる。
【0095】
本発明の医薬組成物は、予防的若しくは治療的に有効な量の、1種以上の予防的又は治療的な薬剤(すなわち、本発明の免疫調節性細胞)及び医薬担体を含む。適切な医薬担体は、当該技術分野において公知であり、好ましくは、米国連邦政府若しくは州政府の監査機関に承認され、又は米国薬局方、若しくは欧州薬局方、又は動物、より詳細にはヒトにおける使用のためのその他の一般に認識された薬局方に収載されるものである。「担体」という用語は、それと共に治療的な薬剤が投与される希釈剤、アジュバント、賦形剤、又は媒体をいう。組成物は、必要に応じて、微量のpH緩衝剤も含むことができる。適切な医薬担体の例は、E W Martinによる「レミントンの製薬科学(Remington's Pharmaceutical Science)」に記述されている。このような組成物は、対象への適当な投与のための形態を提供するために、適切な量の担体と共に、予防的又は治療的に有効な量の、好ましくは精製された形態の予防的又は治療的な薬剤を含む。処方は、投与の様式に適合すべきである。好ましい実施態様において、医薬組成物は、無菌で、対象、好ましくは動物対象、より好ましくは、哺乳動物対象、及び最も好ましくはヒト対象への投与のために適した形態である。
【0096】
本発明の医薬組成物は、多様な形態であり得る。これらは、例えば、凍結乾燥製剤、液体溶液又は懸濁液、注射可能及び注入可能な溶液などの固体、半固体、及び液体の剤形を含む。好ましい形態は、意図される投与の様式及び治療的な適用に依存する。
【0097】
本発明の免疫調節性細胞集団又はそれを含む医薬組成物の、その必要がある対象への投与は、従来の手段によって実施することができる。特定の実施態様において、前記細胞集団は、インビトロ(例えば、埋め込み、又は生着前の移植片として)、又はインビボで動物組織に直接のいずれかで、細胞を所望の組織に移植することを含む方法によって、対象に投与される。細胞は、任意の適切な方法によって所望の組織へ移植することができ、その方法は一般に組織の種類によって様々だろう。例えば、細胞を含む培養培地に移植片を浸すこと(又はそれを注入すること)によって、細胞を移植片へ移植することができる。或いは、細胞を、集団を確立するための組織内の所望の部位に播種することができる。細胞は、(細胞を播種することができる)カテーテル、トロカール、カニューレ、ステントなどの装置を使用して、インビボで部位へ移植することができる。
【0098】
本発明の細胞集団及び医薬組成物は、併用療法において使用することができる。具体的な実施態様において、併用療法は、1種以上の抗炎症剤に対して不応性である炎症性疾患の対象に投与される。別の実施態様において、併用療法は、非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)、ステロイド性抗炎症薬、β-アゴニスト、抗コリン作動性薬剤、及びメチルキサンチンを含むがこれらに限定されないその他の種類の抗炎症剤と組み合わせて使用される。NSAIDの例には、イブプロフェン、セレコキシブ、ジクロフェナク、エトドラク、フェノプロフェン、インドメタシン、ケトララック(ketoralac)、オキサプロジン、ナブメントン(nabumentone)、スンダク(suhndac)、トルメチン、ロフェコキシブ、ナプロキセン、ケトプロフェン、ナブメトンなどがあるが、これらに限定されない。このようなNSAIDは、シクロオキシゲナーゼ酵素(例えば、COX-I、及び/又はCOX-2)を阻害することによって機能する。ステロイド性抗炎症薬の例には、糖質コルチコイド、デキサメタゾン、コルチゾン、ヒドロコルチゾン、プレドニゾン、プレドニゾロン、トリアムシノロン、アザルフィ[オタ]ジン(azulf[iota]dine)、並びにトロンボキサン及びロイコトリエンなどのエイコサノイドがあるが、これらに限定されない。インフリキシマブのようなモノクローナル抗体も使用することができる。
【0099】
上記の実施態様によると、本発明の併用療法は、このような抗炎症剤の投与の前に、同時に、又はその後に使用することができる。さらに、このような抗炎症剤は、リンパ組織誘導因子及び/又は免疫調節剤として本明細書に特徴づけられる薬剤を包含しない。
【0100】
(キット)
本発明は、さらに、免疫調節性細胞の調製及び/又は使用において有用なキットに関する。前記キットは、i)MSC及び/又は線維芽細胞集団、ii)LPS、IL-4、IL-2、及びGM-CSFからなる群から選択される少なくとも1種の作用物質を含む。
【0101】
一実施態様において、前記作用物質は、LPS(グラム陰性細菌内毒素リポポリサッカリド)である。LPS濃度が0.01〜100μg/mlであることが好ましく、前記濃度が、1〜50μg/ml、例えば約10μg/mlであることがさらに好ましい。
【0102】
本方法の一実施態様において、前記作用物質は、IL-2である。LPS濃度が約0.01〜1000 IU/mlであることが好ましく、前記濃度が、最大約500、最大約600、最大約700、最大約800、又は最大約900 IU/mlであることがさらに好ましい。
【0103】
代わりの実施態様において、前記作用物質は、GM-CSF及びIL-4のいずれかである。その濃度が1〜2000 IU/mlであることが好ましく、前記濃度が500〜1000 IU/mlであることがさらに好ましい。
【0104】
さらなる実施態様において、作用物質IL-4及びGM-CSFの両方が、混合物として、又は別々の容器においてのいずれかで、本発明の前記キットに提供される。GM-CSFの濃度のIL-4の濃度に対する比が、5:1、又は1:1の間にあり、かつ前記作用物質のそれぞれの濃度が、1〜2000 IU/mlであることが好ましく、前記濃度が、500〜1000 IU/mlであることがさらに好ましい。したがって、一実施態様において、これは、500 IU/mlのIL-4に対して約1000 IU/mlのGM-CSFでもよい。
【0105】
好ましくは、前記MSC及び/又は線維芽細胞集団は同種異系集団である。一実施態様において、前記細胞集団は基本的にMSCから構成される。さらなる実施態様において、前記細胞集団は基本的に線維芽細胞から構成される。さらなる代わりの実施態様において、前記細胞集団は、基本的に線維芽細胞及びMSCの両方から構成される。本発明のキットに使用されるMSC及び/又は線維芽細胞集団は、好ましくはヒトの供給源に由来する。好ましい実施態様において、前記MSCは脂肪組織に由来し、さらに好ましい実施態様において、脂肪組織の間質分画に由来する。代わりの実施態様において、前記MSCは、硝子軟骨の軟骨細胞から得られる。さらなる実施態様において、前記MSCは皮膚から得られる。他の実施態様において、前記MSCは骨髄から得られる。
【0106】
さらなる実施態様において、前記キットは、iii)1種以上の抗原又は前記1種以上の抗原を発現及び/又は提示する細胞型をさらに含む。さらなる実施態様において、本発明の前記キットは、iv)免疫調節性細胞の調製及び/又は産生に使用するための説明書を含んでいてよい。
【0107】
さらなる実施態様において、本発明は、本発明の免疫調節性細胞による対象の治療において有用なキットを提供する。前記キットは、i)本発明の方法に従って調製及び/又は産生される免疫調節性細胞集団又はその医薬若しくは医薬組成物、並びにii)シリンジ、注射装置、カテーテル、トロカール、カニューレ、及びステントなどがあるがこれらに限定されない、前記細胞を投与するための装置を含む。さらなる実施態様において、本発明の前記キットは、iv)対象の治療において有用な説明書を含んでいてもよい。
【0108】
本発明の特徴及び利点は、以下の非限定的な実施例によりさらに説明される。
【実施例】
【0109】
(実施例1)
以下の試験の目的は、PBMCと幹細胞との共培養物を利用するT細胞調製の最適パラメーターを特定することであった。したがって、発明者らは、共培養時間を変える効果、共培養物へのIL-2の添加、及び脂肪誘導幹細胞に代わる線維芽細胞の使用も調査した。
【0110】
(材料及び方法)
細胞の単離及び共培養は、わずかな変更を加えて、抗原を添加せずに、基本的に「ヒト脂肪誘導間葉系幹細胞は、関節リウマチにおいてインビトロで炎症反応及びT細胞反応を減らし、調節性T細胞を誘導する(Human adipose-derived mesenchymal stem cells reduce inflammatory and T cell responses and induce regulatory T cells in vitro in rheumatoid arthritis)」 Ann Rheum Dis. 2010 Jan;69(1):241-8.に記載されるとおり実施した。
【0111】
(ヒト幹細胞の単離及び増殖)
ヒト脂肪誘導MSC (hASC)は、基本的に、Zuk PA, Zhu M, Mizuno H, Huang J, Futrell JW, Katz AJらの文献「ヒト脂肪組織由来の多系統細胞:細胞に基づく療法の意味(Multilineage cells from human adipose tissue: implications for cell-based therapies)」 Tissue Eng 2001;7:211-28に記載されるとおり得た。ヒト脂肪組織は、局所麻酔及び全身の鎮静状態下での脂肪吸引により得た。先を丸くした中空のカニューレを、小さな切開(直径0.5 cm未満)を通して皮下空間に導入した。軽く吸引しながら、脂肪組織の機械的破壊のために、脂肪組織腹壁コンパートメントを通してカニューレを動かした。食塩水及び血管収縮剤エピネフリンを脂肪組織コンパートメントに注射して血液の損失を最小限にした。このようにして、治療すべき患者のそれぞれから80〜100 mlの生の吸引脂肪(lipoaspirate)を得た。
生の吸引脂肪を、滅菌リン酸緩衝食塩水(PBS; Gibco BRL社製、ペイズリー、スコットランド、英国)で完全に洗浄して、血球、食塩、及び局所麻酔剤を除去した。細胞外基質を、平衡塩類溶液(5 mg/ml; Sigma社製、セントルイス、アメリカ合衆国)中でII型コラゲナーゼ(0.075%; Gibco BRL社製)により37℃で30分間消化して、細胞分画を放出させた。次いで、コラゲナーゼを、10%ウシ胎児血清(FBS; Gibco BRL社製)を含む、等体積の細胞培養培地(ダルベッコ変法イーグル培地(DMEM; Gibco BRL社製)の添加により不活性化した。細胞の懸濁液を、250 x gで10分間遠心分離した。赤血球の溶解のために、細胞を0.16 M NH4Clに再懸濁化させ、室温で5分間静置した。該混合物を250 x gで遠心分離し、細胞を10% FBS及び1%アンピシリン/ストレプトマイシン混合物(Gibco BRL社製)を含むDMEMに再懸濁化させ、次いで40μmメッシュに通して濾過し、10〜30×103細胞/cm2の濃度で、組織培養フラスコに播種した。
細胞を、空気中5% CO2の雰囲気中で37℃で24時間培養した。次いで、培養フラスコをPBSで洗浄し、接着してない細胞及び細胞断片を除いた。およそ80%コンフルエンスに達するまで、培養培地を3〜4日ごとに交換し、同じ培地及び同じ条件下で培養したままにした。次いで、細胞をトリプシン-EDTA(Gibco BRL社製)により1:3の希釈率で継代培養したが、これはおよそ約5〜6×103細胞/cm2の細胞密度に相当する。
【0112】
(PBMC調製)
PBMCは、Ficollplaque Plus (GE Healthcare Biosciences AB,ウプサラ)を利用してバフィーコートから密度沈降により単離した。勾配界面から回収した細胞を洗浄し、必要となるまで保存した。
【0113】
(細胞培養物)
(長期培養分析)
PBLを、1:25の比でhASCと共に、96ウェルプレート中の100 UI/mlのIL-2を加えた完全培地で共培養した。対照として、PBLをhASCなしで培養した。培養を最大26日間維持し、FACS分析のために一定の間隔で細胞を採取することにより、増殖を評価した。
【0114】
(IL-2濃度分析)
PBLを、1:25の比でhASCと共に、96ウェルプレート中の25 UI/ml、100 UI/ml、500 UI/ml、又は1000 UI/mlのIL-2を加えた完全培地で共培養した。対照として、PBLをhASCなしで培養した。15日間の培養後、FACS分析のために細胞を採取することにより、増殖を評価した。
【0115】
(線維芽細胞培養分析)
PBMCを、1:25の比でhASCの代わりに線維芽細胞と共に、96ウェルプレート中の100 UI/mlのIL-2を加えた完全培地で共培養した。第1の対照として、PBMCをさらなる細胞型を添加せずに共培養し、第2の対照として、PBMCを線維芽細胞の代わりにASCと共に共培養した。15日間の培養後、FACS分析のために細胞を採取することにより、増殖を評価した。
【0116】
(FACS分析)
調節性T細胞の集団を検出するために、細胞を、CD25及びCD4、並びに他の関連するマーカー(例えば、FOXP3、結果を示さず)に対する標識抗体で染色した。洗浄の後、細胞を固定し、FACScalibur(BD Bioscience社製)を使用して得た。CellQuest-proソフトウェアを、獲得及び解析のために使用した。各アッセイ法の前にCALIBRITEビーズ(BD Bioscience社製)を使用して、サイトメーターを較正した。データを、ゲーティングされたリンパ球に関して解析した(前方、及び側方散乱特性に基づく)。
【0117】
(結果)
長期培養分析
【表1】

【0118】
図1は、実施例1 i)に従って調製した細胞集団のフローサイトメトリー(FACS)ドットプロットプロファイルを与える。第4日(図A)、第15日(図B)、及び第21日(図C)に、細胞を単離し、膜マーカーCD4及びCD25に対する蛍光標識抗体で染色した。調節性T細胞集団は、第4日には分析した細胞集団の4%を、第15日には53%を、第21日には22%を構成する。
【0119】
図2は、実施例1 i)に従って調製した細胞集団のグラフ表示を与える。第2、4、10、16、18、及び23日に、細胞を単離し、膜マーカーCD4及びCD25に対する蛍光標識抗体で染色した。共培養物中のCD25ポジティブ細胞の量は、全CD4ポジティブ細胞集団のパーセンテージとして表示されている。
【0120】
調節性T細胞の調製のためのASC PBL共培養の最適期間が約4〜約16日間、最も好ましくはおよそ15日間であると結論付けた。
【0121】
(IL-2濃度分析)
図3は、25、100、500、及び1,000 UI/mlのIL-2を使用して実施例1 ii)により調製した種々の細胞集団のグラフ表示を与える。細胞を単離し、膜マーカーCD4及びCD25に対する蛍光標識抗体で染色した。共培養物中のCD25ポジティブ細胞の量は、全CD4ポジティブ細胞集団のパーセンテージとして表示されている。調節性T細胞の調製のための最適なIL-2濃度は、およそ1000 UI/mlであると決定した。
【0122】
(線維芽細胞分析)
図4は、PBL培養物のみ(「PBL」)、ASC+PBL共培養(「ASC」)、又は線維芽細胞+PBL共培養(「FIB」)を使用して実施例1iii)により調製した種々の細胞集団のグラフ表示を与える。細胞を単離し、膜マーカーCD4及びCD25に対する蛍光標識抗体で染色した。共培養物中のCD25ポジティブ細胞の量は、全CD4ポジティブ細胞集団のパーセンテージとして表示されている。
hASCの使用が好ましいが、ASC線維芽細胞共培養も調節性T細胞の調製に利用できることを決定した。
【0123】
したがって、本発明を、本発明の具体的な態様、特徴、及び代表的な実施態様に関連して本明細書に説明してきたが、本発明の効用はそのようには限定されず、むしろ多くの他の態様、特徴、及び実施態様に拡大し、かつそれらを包含することが認識されるだろう。したがって、以下に述べる請求項は、その趣旨及び範囲内に、そのような態様、特徴、及び実施態様の全てを含むように、それ相応に幅広く解釈されるものとする。
【0124】
明細書及びそれに続く特許請求の範囲全体で、文脈により他の意味が要求されない限り、「含む(comprise)」という言葉及び「含む(comprises)」及び「含んでいる(comprising)」などの変形は、述べられた整数、工程、整数の群、又は工程の群を包むが、他の整数、工程、整数の群、又は工程の群を排除しないことを意味するように理解されるだろう。
【0125】
本明細書において言及される全ての特許及び特許出願は、引用によりそれら全体が本明細書に組み込まれる。
【図1A】

【図1B】

【図1C】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
間葉系幹細胞(MSC)及び/又は線維芽細胞集団を末梢血白血球に約2時間〜約25日間接触させることを含む、免疫調節性細胞の調製及び/又は産生の方法。
【請求項2】
前記接触が約10〜約18日間実施される、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記接触が約4〜16日間実施される、請求項1又は請求項2記載の方法。
【請求項4】
MSC及び/又は線維芽細胞集団をIL-2の存在下で末梢血白血球に接触させることを含む、免疫調節性細胞の調製及び/又は産生の方法。
【請求項5】
IL-2の濃度が最大約500、最大約600、最大約700、最大約800、又は最大約900IU/mlである、請求項4記載の方法。
【請求項6】
MSC及び/又は線維芽細胞集団を、LPS、IL-4、IL-2、及びGM-CSFからなる群から選択される少なくとも1種の作用物質の存在下で、末梢血白血球に接触させることを含む、免疫調節性細胞の調製及び/又は産生の方法。
【請求項7】
選択された抗原又は抗原の群に特異的である免疫調節性細胞の調製及び/又は産生の方法であって、MSC及び/又は線維芽細胞集団を、LPS、IL-4、IL-2、及びGM-CSFからなる群から選択される少なくとも1種の作用物質の存在下で、末梢血白血球及び選択された抗原又は抗原の群に接触させることを含む、前記方法。
【請求項8】
選択された抗原又は抗原の群に特異的である免疫調節性細胞の調製及び/又は産生の方法であって:
(a)末梢血白血球を、LPS、IL-4、IL-2、及びGM-CSFからなる群から選択される少なくとも1種の作用物質の存在下で、該選択された抗原又は抗原の群に接触させること、
(b)該細胞集団を、MSC及び/又は線維芽細胞集団と接触させることを含む、前記方法。
【請求項9】
前記作用物質がLPSである、請求項6〜8のいずれか一項記載の方法。
【請求項10】
前記作用物質がIL-2である、請求項6〜8のいずれか一項記載の方法。
【請求項11】
前記作用物質がIL-4及びGM-CSFである、請求項6〜8のいずれか一項記載の方法。
【請求項12】
MSC細胞集団が末梢血白血球と接触させられる、請求項1〜11のいずれか一項記載の方法。
【請求項13】
前記MSCが脂肪組織に由来する、請求項1〜12のいずれか一項記載の方法。
【請求項14】
前記MSC及び/又は線維芽細胞集団が、末梢血白血球と、約2時間〜約25日間接触させられる、請求項4〜13のいずれか一項記載の方法。
【請求項15】
前記接触が約10〜約18日間実施される、請求項14記載の方法。
【請求項16】
前記接触が約4〜16日間実施される、請求項14又は請求項15記載の方法。
【請求項17】
前記免疫調節性細胞がT細胞、例えば、CD4+細胞及びCD25+細胞から選択されるT細胞である、請求項1〜16のいずれか一項記載の方法。
【請求項18】
請求項1〜17のいずれか一項の方法に従って得ることができる免疫調節性細胞。
【請求項19】
医薬として使用するための請求項18記載の免疫調節性細胞。
【請求項20】
医薬の調製のための請求項18記載の免疫調節性細胞の使用。
【請求項21】
請求項18記載の免疫調節性細胞及び医薬担体を含む医薬組成物。
【請求項22】
i)請求項18記載の免疫調節性細胞又は請求項21記載の医薬組成物及びii)該細胞を投与するための装置を含むキット。
【請求項23】
(i)MSC及び/又は線維芽細胞集団並びにii)LPS、IL-4、IL-2、及びGM-CSFからなる群から選択される少なくとも1種の作用物質を含むキット。
【請求項24】
前記作用物質がLPSである、請求項23記載のキット。
【請求項25】
前記作用物質がIL-4又はGM-CSFである、請求項23記載のキット。
【請求項26】
自己免疫疾患、炎症性疾患、慢性炎症性疾患からなる群から選択される疾患を治療するための、請求項18又は19記載の細胞、請求項20に従って調製された医薬、請求項21記載の医薬組成物、又は請求項22〜25のいずれか一項記載のキット。
【請求項27】
セリアック病、多発性硬化症、乾癬、炎症性腸疾患(IBD)、及び関節リウマチ(RA)からなる群から選択される疾患を治療するための、請求項18又は19記載の細胞、請求項20に従って調製された医薬、請求項21記載の医薬組成物、又は請求項22〜25のいずれか一項記載のキット。
【請求項28】
対象における前記選択された抗原又は抗原の群に関連する疾患及び障害の治療における、請求項8記載の方法により産生された免疫調節性細胞の使用。
【請求項29】
前記免疫調節性細胞が、前記対象から得られる末梢血白血球により調製及び/又は産生されたものである、請求項28記載の使用。

【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2013−507945(P2013−507945A)
【公表日】平成25年3月7日(2013.3.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−534715(P2012−534715)
【出願日】平成22年10月22日(2010.10.22)
【国際出願番号】PCT/EP2010/066007
【国際公開番号】WO2011/048222
【国際公開日】平成23年4月28日(2011.4.28)
【出願人】(511110463)セルルエリク エス.エー. (2)
【Fターム(参考)】