説明

免疫賦活物質ならびにそれを含む医薬組成物、食品、飼料、および化粧品

【課題】アスコフィラムノドサム由来の新規な免疫賦活物質ならびにそれを含む医薬組成物、食品、飼料、および化粧品を提供する。
【解決手段】褐藻の一種であるアスコフィラムノドサムから抽出され、L−フコースおよびD−キシロースの他にD−グルクロン酸を主な構成成分とする硫酸化多糖であるアスコフィランを有効成分として含み、G−CSF産出誘導能、TNF−α産出誘導能、アポトーシス誘導能等の免疫賦活活性を有する免疫賦活物質、ならびにこの免疫賦活物質を含み免疫賦活活性を有する医薬組成物、食品、飼料、および化粧品である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アスコフィラムノドサム(Ascophyllum nodosum)から抽出されるアスコフィラン(ascophyllan)を有効成分として含む免疫賦活物質ならびにそれを含む医薬組成物、食品、飼料、および化粧品に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、免疫機能の異常と疾病の関連が注目を集めている。たとえば、抗ガン剤の副作用やHIV感染による免疫機能の低下は、いわゆる日和見感染を引き起こし、患者は死に至る場合もある。また、ガンは日本人の死亡原因の約三分の一を占めているが、免疫機能の異常が発症リスクを高めることが最近の研究で明らかになってきた。さらに、日常生活におけるストレスによる免疫機能の低下が疾病を引き起こす可能性についても明らかにされつつある。
このような状況を受けて、疾病の予防および治療の観点から、免疫賦活活性を有する医薬品、食品、および健康食品に関する研究開発が盛んに行われるようになっている。
【0003】
また、近年における医薬品や食品への安全志向の高まりを受けて、天然物、とりわけ海藻由来の免疫賦活物質が注目されている。
たとえば、特許文献1にはオゴノリ属に属する海藻の水性溶媒抽出画分にマクロファージ活性化作用があることが開示されている。特許文献2には、紅藻類に属する海藻から抽出した酸性多糖を酵素処理したものにマクロファージ活性化作用があることが開示されている。特許文献3には、ポルフィラン酵素分解物に活性化型インターロイキン12の産出誘導能があることが開示されている。特許文献4には、アマノリ由来の水溶性画分であるポルフィランが腸間膜リンパ節リンパ球のIgAの産出能および血清中IgA濃度を向上させることが開示されている。特許文献5には、アルギン酸分解物であるアルギン酸オリゴマーがヒト末血白血球に作用し腫瘍壊死因子を産出誘導することが開示されている。
また、特許文献6には、海藻由来の不飽和脂肪酸である4,7,10,13−ヘキサデカテトラエン酸、6,9,12,15−オクタデカテトラエン酸、5,8,11,14,17−エイコサペンタエン酸、9,12,15−オクタデカトリエン酸が、好酸球を活性化させることが開示されている。
【0004】
褐藻類の一種であるアスコフィラムノドサムは、北欧の海岸一帯に繁殖し、2mの長さにまで成長する大型の海藻であり、家畜の飼料やアルギン酸の抽出原料として用いられてきたが、近年は健康食品の原料としても用いられている(非特許文献1参照)。
【0005】
【特許文献1】特開平5−139988号公報
【特許文献2】特開平6−256208号公報
【特許文献3】特開2002−193828号公報
【特許文献4】特開2005−126429号公報
【特許文献5】特開2005−145885号公報
【特許文献6】特開2005−23028号公報
【非特許文献1】A.T.クリチェリー(Critchley)、大野著、「世界の海藻資源(Seaweed Resources of the world)」、国際協力事業団出版、1998年、p.205−209
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
アスコフィラムノドサムにはフコイダンを始め様々な硫酸化多糖が含まれていることが知られている。このうち、フコイダンについては、免疫賦活活性等の保健機能が注目を集めているものの、他の硫酸化多糖の生化学的な評価については、これまでほとんど行われていなかった。
本発明はかかる課題に鑑みてなされたもので、アスコフィラムノドサム由来の新規な免疫賦活物質ならびにそれを含む医薬組成物、食品、飼料、および化粧品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、アスコフィラムノドサムより抽出されるアスコフィランが種々の免疫賦活活性を有することを見出し、本発明を完成するに至った。
前記目的に沿う第1の発明に係る免疫賦活物質は、アスコフィラムノドサムから抽出されるアスコフィランを有効成分として含む。そのため、第1の発明に係る免疫賦活物質は、アスコフィランに由来する免疫賦活活性を有する。
アスコフィラン(ascophyllan)とは、アスコフィラムノドサムに含まれる特有の硫酸化多糖の一種で、その完全な構造は解明されていないが、電気泳動パターンの相違、その部分加水分解物の構造が3−O−D−キシロシル−L−フコースである点、および構成糖としてL−フコース以外にD−キシロース、およびD−グルクロン酸が含まれる点において、フコイダン等の他の海藻由来硫酸化多糖と区別される(たとえば、Larsen B, Proc. Int. Seaweed Symp. 5th, p.287-294, 1965参照)。
なお、本発明において、「アスコフィラン」とは、後述の方法によりアスコフィラムノドサムより抽出され、L−フコースおよびD−キシロースの他にD−グルクロン酸を主な構成成分とする任意の硫酸化多糖を意味する。また、本発明において「免疫賦活活性」とは、免疫担当細胞の活性化等に加え、腫瘍細胞等に対するアポトーシス誘導活性を含むものとする。
【0008】
第1の発明に係る免疫賦活物質において、前記アスコフィランは、その硫酸基含量が18〜22質量%であり、かつそのウロン酸含量が18〜22質量%であってもよい。
ここで、「硫酸基含量」とは、後述する硫酸バリウムによる比濁法により測定された硫酸基含量をいい、「ウロン酸含量」とは、後述するカルバゾール硫酸法により測定されたウロン酸含量をいう。
【0009】
第1の発明に係る免疫賦活物質は、G−CSF(Granulocyte Colony Stimulating Factor:顆粒球コロニー刺激因子)産出誘導能を有していてもよい。
G−CSFは、骨髄中の顆粒球系幹細胞に作用して分化を促進し、産出された顆粒球の骨髄からの流出を促し、顆粒球の機能を高める作用を有している。
現在は抗ガン剤治療時にみられる白血球減少にはG−CSF、M−CSF(マクロファージ産生刺激因子)などが投与され臨床効果をあげ、感染症のときの白血球増加症、ガン化学療法後や再生不良性貧血のときの白血球減少症などにおけるG−CSFの効果が研究されている。
【0010】
第1の発明に係る免疫賦活物質は、TNF−α(Tumor necrosis factor:腫瘍壊死因子)産出誘導能を有していてもよい。
TNF−αは腫瘍部位に出血性壊死を誘導するサイトカインで、種々の感染症において感染防御能を示す。TNF−αの産出を誘導する物質は、生体内の免疫系を活性化し免疫賦活効果が期待できる。
また、TNF−αは、リンホトキシン、Fasリガンド、TRAILとともにアポトーシス誘導能をもつデスリガンドと呼ばれるサイトカインである。TNF−αがレセプターに結合することにより細胞領域内にあるデスドメインにアダプター分子を介してイニシエーターカスパーゼが集合し、カスパーゼカスケードが活性化されることによりアポトーシスが引き起こされる。このことから、TNF−αとアポトーシスは非常に密接な関係にある。
【0011】
第1の発明に係る免疫賦活物質は、アポトーシス誘導能を有していてもよい。
アポトーシスとは、生体内における、正常な細胞交代のために生じる生理的な細胞死のことであり、病理的な細胞死である壊死(ネクローシス)とは区別されている。ガン細胞は、増殖の制御が効かなくなり、本来死ぬべき細胞が死ななくなって異常増殖を起こすものであるから、ガン細胞の増殖を抑えるための1つの方法として、アポトーシス誘導能を有する物質の利用が検討されている。
【0012】
第2の発明に係る医薬組成物は、第1の発明に係る免疫賦活物質を含み、免疫賦活活性を有する。
【0013】
第3の発明に係る食品は、第1の発明に係る免疫賦活物質を含み、免疫賦活活性を有する。
【0014】
第4の発明に係る飼料は、第1の発明に係る免疫賦活物質を含み、免疫賦活活性を有する。
【0015】
第5の発明に係る化粧品は、第1の発明に係る免疫賦活物質を含み、免疫賦活活性を有する。
【発明の効果】
【0016】
第1の発明に係る免疫賦活物質は、食品原料としても利用された実績を有するアスコフィラムノドサムから抽出されたアスコフィランを有効成分として含んでいる。そのため、アスコフィランに由来する免疫賦活活性を有する医薬組成物、食品、飼料、および化粧品の原料として安全に用いることができる。
【0017】
第1の発明に係る免疫賦活物質において、アスコフィランの硫酸基含量が18〜22質量%であり、かつウロン酸含量が18〜22質量%である場合には、特に免疫賦活活性の高い免疫賦活物質を得ることができる。
【0018】
第1の発明に係る免疫賦活物質がG−CSF産出誘導能を有している場合には、骨髄中での顆粒球の産生および血液中への放出の促進や、顆粒球機能の亢進等の効果を有する免疫賦活物質を得ることができる。
【0019】
第1の発明に係る免疫賦活物質がTNF−α産出誘導能を有している場合には、感染症に対する防御能の向上等の効果を有する免疫賦活物質を得ることができる。
【0020】
第1の発明に係る免疫賦活物質がアポトーシス誘導能を有している場合には、発ガン性変異を起こした細胞の除去等の効果を有する免疫賦活物質を得ることができる。
【0021】
第2の発明に係る医薬組成物は、第1の発明に係る免疫賦活物質を含み、免疫賦活活性を有するので、免疫疾患の治療薬の有効成分として用いることができる。
【0022】
第3の発明に係る食品は、第1の発明に係る免疫賦活物質を含んでいるので、免疫賦活活性をする機能性食品として用いることができる。
【0023】
第4の発明に係る飼料は、第1の発明に係る免疫賦活物質を含んでいるので、免疫賦活活性を有する機能性飼料として用いることができる。
【0024】
第5の発明に係る化粧品は、第1の発明に係る免疫賦活物質を含んでいるので、免疫賦活活性を有する機能性化粧品として用いることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
続いて、本発明を具体化した実施の形態につき説明し、本発明の理解に供する。
本発明の一実施の形態に係る免疫賦活物質は、褐藻の一種であるアスコフィラムノドサムから抽出されたアスコフィランを有効成分として含む。
【0026】
抽出原料であるアスコフィラムノドサムとしては、任意の産地のものを用いることができる。なお、生のままの藻体は水分含量が高いため、水洗により塩分を除去した藻体を乾燥し、粉末化したものを抽出原料として用いることが好ましい。
抽出原料として用いられるアスコフィラムノドサム乾燥粉末の平均的な組成は、蛋白質5〜10%、炭水化物45〜60%、灰分17〜20%、脂質2〜4%、水分10〜12%である。なお、前処理として、アスコフィラムノドサム乾燥粉末を酸水溶液で処理し、酸可溶分を除去しておいてもよい。
【0027】
アスコフィラムノドサム乾燥粉末からのアスコフィランの抽出は、アスコフィラムノドサム乾燥粉末の10〜100倍(質量比)の水を用いて行う。アスコフィラムノドサム乾燥粉末を加えた水を室温で12〜24時間撹拌すると、アスコフィランがアルギン酸等とともに水中に抽出される。必要ならば、水を新たに加え、100℃でさらに12〜24時間抽出を行ってもよい。このようにして得られる粗抽出物は、他の多糖、蛋白質、炭水化物、脂質、灰分、ミネラル、色素、ポリフェノール等を含んでいるが、いずれも人体および動物に対して何ら害を及ぼさないため、そのまま食品や飼料に添加することができる。
【0028】
純度の高いアスコフィランを得るためには、以下に述べるような方法で精製を行うことができる。抽出液に含まれるアルギン酸は、塩酸等を加えて抽出液のpHを低下させ、生成した沈殿をろ過することにより除去することができる。あるいは、アルギン酸リアーゼを添加し、アルギン酸のみを選択的に加水分解し、アルギン酸の加水分解物を透析により除去してもよい。抽出液にエタノールを添加すると得られる沈殿を水に溶解し、透析により脱塩した後凍結乾燥すると、ほぼ純粋なアスコフィランが得られる。さらに精製が必要な場合は、水−エタノールから再沈殿を行ってもよい。
【0029】
硫酸基およびD−グルクロン酸基を含み、ポリアニオンであるアスコフィランは、水溶性および免疫賦活活性を阻害しない任意のカチオンと塩を形成していてもよい。そのようなカチオンの一例としては、ナトリウムイオン、カリウムイオン、マグネシウムイオン、カルシウムイオン、アンモニウムイオン等が挙げられる。
【0030】
免疫賦活物質の有効成分として用いることのできるアスコフィランは、アスコフィラムノドサムより抽出され、L−フコースおよびD−キシロースの他にD−グルクロン酸を主な構成成分とする任意の硫酸化多糖であればよく、分子量等に特に制限はない。硫酸基含量およびウロン酸含量についても特に制限はないが、硫酸バリウムによる比濁法で測定された硫酸基含量が18〜22重量%であるものが好ましく、また、カルバゾール硫酸法で測定されたウロン酸含量が18〜22重量%であるものが好ましい。
【0031】
アスコフィランを担体等と混合することにより医薬組成物として用いることができる。医薬組成物のヒトあるいは動物に対する投与形態としては、経口、経直腸、非経口(例えば、静脈内投与、筋肉内投与、皮下投与など)等が挙げられ、投与量は、医薬組成物の製剤形態、投与方法、使用目的およびこれに適用される投与対象の年齢、体重、症状によって適宜設定され一義的に決定することは困難であるが、ヒトの場合、一般には製剤中に含有される有効成分の量で、好ましくは成人1日当り0.1〜2000mg/kgである。もちろん投与量は、種々の条件によって変動するので、上記投与量より少ない量で十分な場合もあるし、あるいは範囲を超えて必要な場合もある。
【0032】
経口投与製剤として調製する場合は、錠剤、顆粒剤、散剤、カプセル剤、コーティング剤、液剤、懸濁剤等の形態に調製することができ、非経口投与製剤にする場合には、注射剤、点滴剤、座薬等の形態に調製することができる。製剤化には、任意の公知の方法を用いることができる。例えば、アスコフィランと、製薬学的に許容し得る担体または希釈剤、安定剤、およびその他の所望の添加剤を配合して、上記の所望の剤形とすることができる。
【0033】
免疫賦活物質を含む食品としては、アスコフィランをそのまま食品として調製したもの、他の食品に添加したもの、あるいは、カプセル、錠剤等、食品または健康食品に通常用いられる任意の形態をとることができる。
食品中に配合して摂取あるいは投与する場合には、適宜、賦形剤、増量剤、結合剤、増粘剤、乳化剤、着色料、香料、食品添加物、調味料等と混合し、用途に応じて、粉末、顆粒、錠剤等の形に成形することができる。また、適宜、食品原料中に混合して食品を調製し、免疫賦活活性を有する機能性食品として製品化することによって摂取することができる。
【0034】
免疫賦活物質を含む飼料としては、アスコフィランをそのまま調製したもの、あるいは飼料に配合したもの等、様々な形態をとることができる。
飼料中に混合して、家畜などの動物に投与する場合には、予め飼料の原料中に混合して、機能性を付与した飼料として調製することができる。また、飼料に添加して投与することもできる。すなわち、アスコフィランを有効成分として含む免疫賦活物質は、豚、鶏、牛、馬、羊等の家畜や、魚類、ペット(犬、猫、鳥)等の飼料に添加することにより、安全かつ免疫賦活活性を有する機能性飼料として用いることができる。
【0035】
免疫賦活物質を含む化粧品としては、アスコフィランを化粧水、クリームに配合したもの等、様々な形態をとることができる。
化粧品等に配合して投与するには、適宜液状あるいはクリーム状化粧品中に混合して機能性化粧品等として調製することができる。その場合、化粧品等の調製に際してよく知られている、可溶化剤、安定剤、乳化剤等を用いることができる。
【実施例】
【0036】
次に、本発明の作用効果を確認するために行った実施例について説明する。
実施例1:アスコフィランの抽出
アスコフィランの抽出は、ラーセン(Larsen)らの方法(Acta Chemica Scandinavica,vol. 20, p.219-230, 1966)を用いて行った。
20gのアスコフィラムノドサム乾燥粉末を、500mLの0.2N塩酸中に入れ、一晩攪拌した。固形物をろ取し、再度0.2N塩酸を加えて4時間攪拌した後、固形物をろ取した。得られた固形物を蒸留水1000mL中に入れ攪拌後、NaOH溶液で中和した。その後、20℃において20時間攪拌し、ろ過により抽出液と固形物に分離した。得られた固形物を再度蒸留水1000mL中に入れ、攪拌しながら100℃で2時間抽出を行った。抽出後、ろ過により抽出液と固形物に分離した。2回分の抽出液を混合し、0.2N塩酸でpH1.3に調整した。一夜静置後、沈殿したアルギン酸をろ去した。NaOH溶液でろ液を中和後、エバポレーターを用いて濃縮した。得られた濃縮液を透析し、中和によって生成した塩を除去した。
脱塩後、溶液を100mLまで濃縮し、0.13Mリン酸緩衝溶液(pH7.5)50mLを加えた。この溶液に、3%w/vとなるように塩化ナトリウムを、次いでアルギン酸リアーゼを添加し、30℃で20時間反応させて残存するアルギン酸を分解した。加熱失活により酵素反応を停止し、アルギン酸分解物を透析により除去した。
こうして得られた水溶液に1M塩化ナトリウム水溶液30mLおよびエタノール180mLを滴下し、一夜静置した。その後、遠心分離により沈殿と上清に分離した。得られた沈殿を1%(w/v)になるように蒸留水に溶解し、1/5容の0.8M塩化ナトリウム水溶液、および6/5容のエタノールを滴下した。一夜静置した後、遠心分離により沈殿と上清に分離した。得られた沈殿物を水に溶解し、透析後、凍結乾燥を行うことにより、アスコフィラン0.85gを得た。
【0037】
実施例2:アスコフィランの組成分析
(1)糖組成の分析
アスコフィラン中の糖組成の分析は、安野らの方法(Biosci. Biotechnol. Biochem. vol. 63, p.1353-1359, 1999)を用いて行った。
反応用試験管に、アスコフィラン水溶液を10μLおよび8Mトリフルオロ酢酸水溶液10μLを加え、密栓後、ボルテックスミキサーで攪拌し、遠心により溶液を試験管の底に集めた。100℃で3時間加水分解後、空冷し、遠心により溶液を試験管の底に集めた。蓋を外し、溶液を蒸発乾固させた後、2−プロパノール40μLを加え、攪拌した。溶媒を再度蒸発させ、乾固した試料の入った反応用試験管にピリジン/メタノール(10/90、v/v)40μLを加え攪拌後、さらに、無水酢酸10μLを加え、攪拌した。溶液の汚染を防ぐために試験管にアルミホイルを被せ、室温で30分間放置した。その後、溶液を蒸発乾固させ、純水10μL、ABEE(4−アミノ安息香酸エチルエステル)化試薬(生化学工業株式会社カタログNo.400871)40μLを加え密栓した。攪拌後、遠心して溶液を試験管の底に集め、80℃で60分間反応させた。空冷後、遠心して溶液を試験管の底に集めた。蓋を外し、純水200μLおよびクロロホルム200μLを加えた。密栓後激しく攪拌し、遠心分離した。水層(上層)を回収し、HPLC(高速液体クロマトグラフィー)分析に供した。
【0038】
HPLC分析の条件は、下記のとおりである。
カラム:
ホーネンパックC18(生化学工業株式会社カタログNo.800445、カラム長75mm×内径4.6mm)
溶離液:
A 0.2Mホウ酸カリウム緩衝液(pH8.9)/アセトニトリル(93/7、v/v)
B 0.02%トリフルオロ酢酸/アセトニトリル(50/50、v/v)
溶離時間0〜50分は溶離液A、50〜55分は溶離液B、55〜75分は溶離液Aを用いて溶離を行った。
流速:1mL/min
検出法:UV(305nm)
【0039】
アスコフィランの糖組成分析の結果を表1に示した。なお、表1において、「Gal」、「Man」、「Glc」、「Xyl」、「Fuc」はそれぞれ、D−ガラクトース、D−マンノース、D−グルコース、D−キシロース、L−フコースを表し、糖組成は、L−フコースに対するモル比として記載した。
【0040】
【表1】

【0041】
文献(Larsen B, Proc. Int. Seaweed Symp.5th, p.287-294, 1965)には、アスコフィランに含まれるL−フコースとD−キシロースのモル比が1:1.1であることが報告されているが、今回の組成分析でも同様の結果が得られた。
また、オキナワモズク由来フコイダン、およびガゴメコンブ由来フコイダンの糖組成分析も同時に行ったが、これらのフコイダンは硫酸化L−フコースを主成分とする多糖(フカン)であり、アスコフィランとは明らかに異なる糖組成を有している。
【0042】
(2)硫酸基含量の定量
硫酸基含量の定量は、ドジソン(Dodgson)らの方法(硫酸バリウムによる比濁法)(Biochem. J., Vol. 84, p.106-110, 1962)を用いて行った。
アスコフィラン粉末5mgを試験管に採取し、2mLの1N塩酸を加えた。窒素雰囲気下で、試験管を封管し、110℃で5時間加水分解を行った。試験管を開封後、加水分解溶液0.2mLを採取し、3%トリクロロ酢酸水溶液3.8mLと混合した。さらに、BaCl−ゼラチン溶液1mLを加えて調製した試料溶液、およびBaClを含まないゼラチン溶液を添加したブランク溶液を15分間静置後、吸光光度計を用いて360nmの吸光度を測定し、試料溶液とブランク溶液の吸光度の差を求めた。濃度既知の硫酸カリウム水溶液を用いて作成した検量線に基づき、アスコフィランに含まれる硫酸基の含量を算出した結果、18.9%という定量値を得た。
【0043】
(3)ウロン酸含量の定量
ウロン酸含量の定量は、ビター(T. Bitter)とミューア(H. N. Muir)により改良されたカルバゾール硫酸法を用いて行った。
アスコフィラン水溶液0.5mLを試験管に採取し、硫酸試薬2.5mLを滴下した。混合溶液をよく攪拌した後、沸騰水浴中で10分間加熱した。室温まで冷却した後、カルバゾール試薬0.1mLを加えて混合し、さらに沸騰水浴中で15分間加熱した。室温まで冷却後、530nmの吸光度を測定した。濃度既知のグルクロン酸水溶液を用いて作成した検量線に基づき、アスコフィランに含まれるウロン酸含量を算出した結果、20.5%という定量値を得た。
【0044】
実施例3:アスコフィランのRAW264.7細胞に対するG−CSF産出誘導能測定
(1)RAW264.7細胞の培養
マクロファージ細胞として、マウス単球由来細胞株RAW264.7(ATCC番号TIB−71)を使用した。RAW264.7細胞の培養培地としては、ペニシリン(100units/mL)、およびストレプトマイシン(100μg/mL)を添加した、10%FBS(ウシ胎児血清)含有D−MEM培地を使用した。継代操作は、常法にしたがって行った。まず、フラスコ中の培地を除き、0.25%トリプシン/EDTA溶液を用いて細胞を剥離させ、培養培地を加えることによりトリプシンの反応を停止させた。1000rpmで1分間遠心分離を行い、上清を除き、細胞濃度が1×10個/mLとなるように増殖培地を添加した。こうして得られた細胞培養液を、25cmフラスコ中で培養した。培養は5%CO、37℃の条件下でインキュベーターにおいて行った。
【0045】
(2)アスコフィランのRAW264.7細胞への添加
(1)に記載の方法により25cmフラスコで培養したRAW264.7細胞を回収し、96ウェルマイクロプレートに、ウェルあたりの細胞数が2×10個となるよう播種した。5%CO、37℃の条件下で1日培養し、細胞がウェルの底面に付着していることを確認した後、培地を除き、培養培地に溶解したアスコフィラン溶液(125、250、500、1000μg/mL)を添加した。さらに1日培養後、細胞上清を採取し、G−CSF産出量の測定を行った。
【0046】
(3)アスコフィランのG−CSF産出誘導能の評価
G−CSFの測定はELISA法(酵素免疫吸着測定法)によって行った。ELISA用96ウェルプレートに、PBS(リン酸緩衝生理食塩水)で希釈した一次抗体(Monoclonal Anti-Mouse G-CSF Antibody)を、各ウェルあたり100μL添加した。室温で24時間静置後、洗浄溶液(0.025%Tween20(登録商標)を含むPBS溶液)で5回洗浄し、ブロッキング溶液(1%BSA(ウシ血清アルブミン)を含むPBS溶液)を1ウェルあたり200μL添加した。室温で24時間静置後、洗浄溶液で5回洗浄し、PBSで0〜2000pg/mLに希釈した標準溶液(Recombinant Mouse G-CSF)、アスコフィラン溶液を添加したRAW264.7細胞の培養液上清を希釈したものを1ウェルあたり100μL添加し、室温で2時間静置した。洗浄溶液で5回洗浄し、ブロッキング溶液で希釈した二次抗体(Biotinylated Anti-Mouse G-CSF Antibody)を添加し、室温で2時間静置した。洗浄溶液で5回洗浄し、ブロッキング溶液で希釈した酵素-抗体溶液(Streptavidin conjugated to horseradish-peroxidase)を、1ウェルあたり100μL添加し室温で20分間静置し、洗浄溶液で5回洗浄後、TMB(3,3’5,5’−テトラメチルベンジジン)ペルオキシダーゼ基質とペルオキシダーゼ基質溶液B(米国KPL社)を1:1で混合した基質溶液を1ウェルあたり100μL添加し室温で30分間静置した。反応停止剤として1Nリン酸水溶液を50μLずつ添加し、よく攪拌した後、マイクロプレートリーダーにより吸光度(A=450nm)を測定した。
【0047】
アスコフィランの添加量とR264.7細胞からのG−CSFの産出量との関係を表すグラフを図1に示す。RAW264.7細胞からのG−CSF産出量は、アスコフィランの添加濃度に依存して増加していることがわかる。
【0048】
実施例4:アスコフィランのRAW264.7細胞に対するTNF−α産出誘導能測定
(1)RAW264.7細胞の培養
マクロファージ細胞として、マウス単球由来細胞株RAW264.7(ATCC番号TIB−71)を使用した。RAW264.7細胞の培養培地としては、ペニシリン(100units/mL)、およびストレプトマイシン(100μg/mL)を添加した、10%FBS(ウシ胎児血清)含有D−MEM培地を使用した。継代操作は、常法にしたがって行った。まず、フラスコ中の培地を除き、0.25%トリプシン/EDTA溶液を用いて細胞を剥離させ、培養培地を加えることによりトリプシンの反応を停止させた。1000rpmで1分間遠心分離を行い、上清を除き、細胞濃度が1×10個/mLとなるように増殖培地を添加した。こうして得られた細胞培養液を、25cmフラスコ中で培養した。培養は5%CO、37℃の条件下でインキュベーターにおいて行った。
【0049】
(2)アスコフィランのRAW264.7細胞への添加
(1)に記載の方法により25cmフラスコで培養したRAW264.7細胞を回収し、96ウェルマイクロプレートに、ウェルあたりの細胞数が2×10個となるよう播種した。5%CO、37℃の条件下で1日培養し、細胞がウェルの底面に付着していることを確認した後、培地を除き、培養培地に溶解したアスコフィラン溶液(62.5、125、250、500、1000μg/mL)を添加した。さらに1日培養後、細胞上清を採取し、ELISA法により、TNF−α産出量の測定を行った。
【0050】
(3)アスコフィランのTNF−α産出誘導能測定
TNF−αの測定はELISA法によって行った。ELISA用96ウェルプレートにPBSで希釈した一次抗体(Anti-Mouse TNF alpha Monoclonal Antibody)を1ウェルあたり100μL添加した。室温で24時間静置後、洗浄溶液(0.025%Tween20(登録商標)を含むPBS溶液)で5回洗浄し、ブロッキング溶液(4%BSA(ウシ血清アルブミン)を含むPBS溶液)を1ウェルあたり200μL添加した。室温で24時間静置後、洗浄溶液で5回洗浄した。洗浄後、PBSで0〜1000pg/mLに希釈した標準溶液(Recombinant Mouse TNF alpha)、アスコフィラン溶液を添加したRAW264.7細胞の培養液上清を希釈したものを1ウェルあたり100μL添加し、室温で2時間静置した。洗浄溶液で5回洗浄し、ブロッキング溶液で希釈した二次抗体(Anti-Mouse TNF alpha Polyclonal Antibody)を添加し、室温で2時間静置した。洗浄溶液で5回洗浄し、ブロッキング溶液で希釈した酵素-抗体溶液(Anti-Rabbit IgG、HRP-Linked Whole Ab Donkey)を、1ウェルあたり100μL添加し室温で30分間静置し、洗浄溶液で5回洗浄後、TMB(3,3’5,5’−テトラメチルベンジジン)ペルオキシダーゼ基質とペルオキシダーゼ基質溶液B(米国KPL社)を1:1で混合した基質溶液を1ウェルあたり100μL添加し室温で30分間静置した。反応停止剤として1Nリン酸水溶液を50μLずつ添加し、よく攪拌した後、マイクロプレートリーダーにより吸光度(A=450nm)を測定した。
【0051】
アスコフィランの添加量とRAW264.7細胞からのTNF−αの産出量との関係を表すグラフを図2に示す。RAW264.7細胞からのTNF−α産出量は、アスコフィランの添加濃度に依存して増加していることがわかる。
【0052】
実施例5:アスコフィランのアポトーシス誘導能評価
(1)アポトーシス誘導能の評価
培養細胞として、ヒト組織球性リンパ腫U937細胞(ATCC番号CRL1593.2)を用いた。培地として、ペニシリン(100units/mL)およびストレプトマイシン(100μg/mL)を添加した、10%FBSを含むRPMI(Roswell Park Memorial Institute)1640培地を使用し、培養を行った。
対数増殖期に入った細胞溶液中の細胞数を、4.0×10個/mLになるよう調整し、細胞溶液を24ウェルプレートに1ウェルあたり0.9mLずつ分注した。その後、培養培地に溶解したアスコフィランを最終濃度が10、50、100、250μg/mLになるように添加した。37℃、5%CO存在下で4日間培養を行った。細胞の生死判定はトリパンブルー細胞分染法によって行った。
【0053】
アスコフィランのアポトーシス誘導能を表2に示す。アポトーシス活性(%)は、コントロール細胞(アスコフィラン無添加)に対する細胞増殖阻害率として表した。この結果より、アスコフィランはガン細胞に対し、増殖阻害作用があることが確認され、その作用は添加濃度に依存的し、ED50値(50%阻害率に必要な量)も36.1μg/mLと非常に低い値となった。
【0054】
【表2】

【0055】
(2)DNA断片化の検出
アスコフィランの細胞増殖阻害作用がアポトーシスによるものかを確認するために、細胞のDNAを抽出し、電気泳動を行うことによりDNA断片化の検出を行った。アポトーシスを起こした細胞ではヌクレオソーム単位の断片化が確認されることが分かっている。
【0056】
培養細胞として、ヒト組織球性リンパ腫U937細胞(ATCC番号CRL1593.2)を用いた。培地として、ペニシリン(100units/mL)およびストレプトマイシン(100μg/mL)を添加した、10%FBSを含むRPMI(Roswell Park Memorial Institute)1640培地を使用し、培養を行った。
対数増殖期に入った細胞溶液中の細胞数を、3.0×10個/mLになるよう調整し、細胞溶液を24ウェルプレートに1ウェルあたり0.9mLずつ分注した。その後、培養培地に溶解したアスコフィランを最終濃度が1mg/mLになるように添加した。37℃、5%CO存在下で培養を行った。
【0057】
3日間培養した細胞溶液を2mLチューブに移し、400Gで5分間遠心分離し、上清を取り除いた。細胞溶解緩衝液(50mM Tris−HCl、pH7.8、10mM EDTA・4Na、0.5%N−ラウロイルサルコシン酸ナトリウム)を加えて、よく攪拌した。1μLのRNase溶液を加えよく混和し、50℃、30分間インキュベートした。その後、1μLのプロテイナーゼK溶液を加えよく混和し、50℃、60分間インキュベートした。軽く遠心することによりチューブの壁面についた水滴を落とした。こうして得られた試料溶液を、マイクロピペッターを用いて2%アガロースゲルのウェルに流し込み、100Vで泳動を行った。電気泳動終了後、UVトランスイルミネーター上でアガロースゲルのポラロイド写真を撮った。
【0058】
37℃、5%CO下で3日間培養したU937細胞より抽出したDNAのアガロースゲル電気泳動パターンを示す写真を図3に示す。レーン1は分子量マーカー(pHYマーカー)、レーン2はアスコフィランを添加せずに培養したU937細胞より抽出したDNA、レーン3はアスコフィランを添加して培養したU937細胞より抽出したDNAの電気泳動パターンをそれぞれ示している。
レーン3において梯子状のパターンが観測されたことより、アスコフィランを添加した細胞のDNAはヌクレオソーム単位で断片化が起きていることが確認された。また、アスコフィランを添加していない細胞のDNAでは断片化は確認できなかった。このことから、アスコフィランによるU937細胞増殖阻害作用はアポトーシス誘導によるものであることが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】アスコフィランの添加量とRAW264.7細胞からのG−CSFの産出量との関係を表すグラフである。
【図2】アスコフィランの添加量とRAW264.7細胞からのTNF−αの産出量との関係を表すグラフである。
【図3】37℃、5%CO下で3日間培養したU937細胞より抽出したDNAのアガロースゲル電気泳動パターンを示す写真である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アスコフィラムノドサム(Ascophyllum nodosum)から抽出されるアスコフィラン(ascophyllan)を有効成分として含む免疫賦活物質。
【請求項2】
請求項1記載の免疫賦活物質において、前記アスコフィランは、その硫酸基含量が18〜22質量%であり、かつそのウロン酸含量が18〜22質量%である免疫賦活物質。
【請求項3】
請求項1および2のいずれか1項に記載の免疫賦活物質において、G−CSF産出誘導能を有する免疫賦活物質。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の免疫賦活物質において、TNF−α産出誘導能を有する免疫賦活物質。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の免疫賦活物質において、アポトーシス誘導能を有する免疫賦活物質。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の免疫賦活物質を含み、免疫賦活活性を有する医薬組成物。
【請求項7】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の免疫賦活物質を含み、免疫賦活活性を有する食品。
【請求項8】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の免疫賦活物質を含み、免疫賦活活性を有する飼料。
【請求項9】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の免疫賦活物質を含み、免疫賦活活性を有する化粧品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−120707(P2008−120707A)
【公開日】平成20年5月29日(2008.5.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−304240(P2006−304240)
【出願日】平成18年11月9日(2006.11.9)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.ポラロイド
【出願人】(000251130)林兼産業株式会社 (16)
【Fターム(参考)】