説明

免疫障害により誘起される疾患の治療のための医薬組成物およびポリア抽出物

本発明は、免疫障害により誘起される疾患の治療における、下記化学式(I)で示されるラノスタンまたはそれらの製薬上許容されうる塩の新規な使用に関する。


式中、RはHまたはCHであり;RはOCOCH、=OまたはOHであり;RはHまたはOHであり;Rは−C(=CH)−C(CH(ここでRはHまたはOHである)または−CH=C(CH)−R(ここでRはCHまたはCHOHである)であり;RはHまたはOHであり;およびRはCHまたはCHOHである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、アレルギーなどの免疫障害により誘起される疾患の治療におけるラノスタン化合物の新規な用途に関する。
【背景技術】
【0002】
背景技術の記載
免疫グロブリンE(IgE)は、免疫グロブリン(または「抗体」)分子の1種である。IgEは、ヒト血清中で他の免疫グロブリン:IgG、IgM、IgAおよびIgDよりも低濃度で存在する。IgEは、寄生虫に対する保護の役割を有すると考えられるが、少なくとも寄生虫感染が重大な問題ではない先進国では、必要な役割を、または有用な役割でさえも担うものとして明確に確立されていない。IgEはアレルギー性鼻炎(「花粉症」)、喘息、じんましん、ならびに食物および薬物のアレルギーを含む即時型過敏症アレルギー反応のメディエータとして知られている。
【0003】
IgE−媒介性アレルギー反応において、IgEはB細胞によって分泌された後、Fc部分を通して、好塩基球、肥満細胞およびランゲルハンス細胞の表面に存在するFcεRI受容体に結合する。これらの細胞の表面に結合したIgEが今アレルゲンに接触および結合した場合、これは結合したIgE分子および下部の受容体の架橋を引き起こし、ヒスタミン、セロトニン、ロイコトリエンなどの薬理的メディエータおよびアナフィラキシーなどの遅反応性物質の放出のトリガとなる。これらのメディエータは、アレルギー反応の病理的発現を引き起こす。
【0004】
いくつかの、または全てのIgE−媒介性アレルギー状態の罹患歴を有する患者の一部は、アトピー性皮膚炎と呼ばれる痛みのある皮膚症状をも患う。
【0005】
アレルギー性疾患の中で喘息を例にとると、免疫反応時間は即時型喘息反応と遅発型喘息反応とに分けられうる。即時型喘息反応は、アレルゲンとの接触後15〜30分以内に起こる、肥満細胞から放出された炎症性メディエータによって引き起こされる反応である。患者が同じアレルゲンに再びさらされたとき、アレルゲンは肥満細胞に結合したIgEを識別してこれに結合し、肥満細胞を活性化し、細胞中の顆粒はより多くのヒスタミン、ロイコトリエン、IL−2、IL−4、IL−5およびGM−CSFなどのサイトカイン、ならびに走化性因子(chemoattractant factor)などを含む炎症性物質が放出されるように脱顆粒され、これによって血管の透過性が上昇し、気道の平滑筋が収縮する。これらの炎症性物質、サイトカインおよび走化性因子は即時型喘息反応だけでなく遅発型反応にも影響を与える。
【0006】
好酸球および好中球によって引き起こされる反応は遅発型反応に関連する。即時型反応から4〜6時間後、肥満細胞から放出されたサイトカインおよび走化性因子は好酸球および好中球などの炎症細胞をひきつけ、浸潤をもたらすであろう。さらに、上皮細胞、内皮細胞および線維芽細胞から分泌されるエオタキシンなどのサイトカインは走化性因子の主要な部分であり、これはさらに好酸球またはTh2免疫細胞を肺の気管支での炎症部位に移動させる。MBP(主要塩基性タンパク質)、ECP(好酸球カチオン性タンパク質)、好酸球由来神経毒、EPO(好酸球ペルオキシダーゼ)およびロイコトリエンなどの多くの炎症性タンパク質が、活性化されたときに好酸球から分泌されるであろう。これらの炎症性タンパク質は気道の平滑筋を刺激して収縮させ、血管の透過性を上昇させ、気道の上皮組織が直接傷つけられるように気道浮腫を引き起こし、したがって上皮細胞はその完全性を失う。気道は過剰の粘液を分泌し、これは気道を閉塞させたり狭くしたりするだけではなく、好中球の浸潤および肥満細胞の脱顆粒を引き起こし、これによって好酸球の浸潤が増加する。その結果、喘息の程度がより深刻になる。
【0007】
本出願の出願人は、台湾特許出願第92113393号(台湾特許公開第200425900号、2004年12月1日公開)において、人体の免疫力の増強において有用な医薬組成物を開示した。当該組成物は有効な成分のラノスタン(lanostane)化合物を含む。人体の免疫力増強のためのポリア(Poria)抽出物も開示され、当該抽出物は、5〜60重量%のラノスタン化合物を含み、セコラノスタン(secolanostane)を含まない。抽出物はマツホド(Poria cocos (Schw) Wolf)の代謝産物、菌核粒子(sclerotium)または発酵産物から調製される。
【0008】
アレルギーが治療できる物質または方法は研究者ばかりでなく一般の人々にとっても重要な問題である。これまでにラノスタン化合物がアレルギーの治療に有効であることの報告はない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
発明の概要
本発明の第一の目的はアレルギーなどの免疫障害により誘起される疾患の治療におけるラノスタン化合物の新規な用途を提供することである。
【0010】
本発明の他の一の目的は有効な成分としてラノスタン化合物を含む免疫障害により誘起される疾患(例えばアレルギー)の治療のための医薬組成物を提供することである。
【0011】
本発明の他の一の目的はラノスタン化合物を用いて免疫障害により誘起される疾患(例えばアレルギー)を治療する方法を提供することである。
【0012】
哺乳類(例えばヒト)における免疫障害により誘起される疾患(例えばアレルギー)を治療しうる医薬組成物であって、活性成分として下記化学式(I)で表されるラノスタン:
【0013】
【化1】

【0014】
式中、RはHもしくはCHであり;RはOCOCH、=OもしくはOHであり;RはHもしくはOHであり;Rは−C(=CH)−C(CH(ここでRはHまたはOHである)、もしくは−CH=C(CH)−R(ここでRはCHまたはCHOHである)であり;RはHもしくはOHであり;およびRはCHもしくはCHOHである;またはそれらの製薬上許容されうる塩を前記疾患の治療に有効な量で含む、医薬組成物である。
【0015】
本発明はまた、哺乳類における免疫障害により誘起される疾患の治療のための薬剤の作製における上記化学式(I)で示されるラノスタンの使用を提供する。
【0016】
好ましくは、前記アレルギーはアレルギー性鼻炎、アレルギー性結膜炎、アレルギー性喘息、アトピー性皮膚炎、咽喉(gullet)アレルギー、アトピー性湿疹、またはリウマチ性関節炎である。より好ましくは、前記アレルギーはアレルギー性喘息である。
【0017】
好ましくは、化学式(I)を有するラノスタンは、
【0018】
【化2】

【0019】
【化3】

【0020】
または
【0021】
【化4】

【0022】
である。
【0023】
好ましくは、前記医薬組成物はラノスタン(I)またはそれらの製薬上許容されうる塩を組成物の0.1〜60重量%で含む。
【0024】
本発明のアレルギーの治療のための医薬組成物は一般に、例えば錠剤、丸薬、ソフトカプセル、ハードカプセル、微細顆粒、粉末またはペレットなどの形態で経口で患者に投与されうる。本発明の医薬組成物は、水溶液として経口または非経口で投与されうる液体の形態でありうる。本発明の医薬組成物は、エタノール、水などの混和性溶媒に分散され、スプレー、ローション、軟膏、チンキ剤、エマルションまたはアンプルの形態で非経口で投与されうる。
【0025】
好ましくは、前記医薬組成物は経口投与される。
【0026】
本発明のさらなる目的は、前記ラノスタン(I)の原料としてのポリア抽出物の使用である。前記ポリア抽出物は1〜60重量%のラノスタン(I)を含み、およびセコラノスタンを実質的に含まない。
【0027】
好ましくは、前記ポリア抽出物は以下の工程を含む方法で調製される:
a)水、メタノール、エタノールまたはそれらの混合溶媒により、マツホドの代謝産物、発酵産物または菌核粒子を抽出し;
b)前記a)工程で得られた液体抽出物を濃縮し;
c)前記b)工程で得られた濃縮物をシリカゲルカラムに導入し;
d)極性の低い溶離液で前記シリカゲルカラムを溶出し、得られた溶出液を集め;および
e)前記溶出液を濃縮して濃縮溶出液を生成する。
【0028】
好ましくは、e)工程で得られた濃縮溶出液の有する、ジクロロメタン:メタノール=96:4の混合溶媒で展開され、紫外線ランプおよびヨウ素蒸気で検出される、薄層クロマトグラフィーによるクロマトグラフィー値(Rf)が0.1以上である。
【0029】
好ましくは、a)工程における抽出は95%エタノールを用いて行われる。
【0030】
好ましくは、a)工程における抽出は、マツホドの代謝産物、発酵産物または菌核粒子を沸騰水で抽出し;得られた抽出水溶液にpH値が9〜11になるまで塩基を添加し;塩基性水溶液を回収し;塩基性水溶液にpH値が4〜6になるまで酸を添加し、沈殿を形成し;沈殿を回収し;沈殿をエタノールで抽出し;および液体抽出物を回収することを含む。
【0031】
好ましくは、工程b)で得られた濃縮物が、さらに体積比1:1の95%v/vメタノール水溶液およびn−ヘキサンを含む二相溶媒で抽出され、メタノール層が二相溶媒抽出混合物から分離され、および前記メタノール層が濃縮され、工程c)でシリカゲルカラムに供給されて用いられる濃縮物を形成する。
【0032】
好ましくは、工程d)における前記極性の低い溶離液がジクロロメタンおよびメタノールを96.5:3.5の体積比で含む混合溶媒である。
【0033】
好ましくは、前記ポリア抽出物が5〜35重量%の前記ラノスタン(I)を含む。
【0034】
好ましくは、本発明の医薬組成物は希釈剤、賦形剤、または担体をさらに含む。
【発明を実施するための形態】
【0035】
発明を実施するための最良の形態
ここで行なった以下の実験では、オボアルブミン(OVA)をアレルゲンとして用いることによってマウスをアレルギー性になるように誘導し、マウスのOVE−特異的IgE抗体の出現から誘起された喘息にマウスが罹患していることを確認した。実験期間の間、異なる群のマウスにポリア抽出物または純粋なラノスタン化合物を与えて飼育し、1か月の飼育後各マウスに気道過敏性試験を行い、これによってマウスの喘息の深刻さの程度を反映する重要な指数を決定した。本発明者らはまた、マウスの気管支肺胞洗浄液(BALF)中の異なる免疫細胞を、これらが、特に好酸球および好中球が影響されているかについて観察した。さらに、走化性因子であるエオタキシンは、本発明においてサイトカインの分泌が劇的に変化したかを観察するための重要な観察因子であった。上記の3つの薬理的または炎症性物質、気道過敏性、炎症細胞および走化性因子(エオタキシン)の観察から、ポリア抽出物およびラノスタン化合物は喘息の予防および治療のための優れた薬剤であることがわかる。
【0036】
本発明で開示された、哺乳類(例えば、ヒト)による栄養素の摂取を促進させるポリア抽出物は台湾特許公開第200425900号に開示されているのと同様の方法で調製することができ、それはマツホドを通常の抽出方法で抽出して粗抽出物を入手し、その粗抽出物をクロマトグラフィーによりラノスタン(lanostane)の低極性留分(ジクロロメタン:メタノール=96:4の溶離液を使用)およびセコラノスタン(secolanostane)の高極性留分(ジクロロメタン:メタノールが90:10および0:100の溶離液を使用)に分離し、ここでジクロロメタン:メタノール=96:4の混合溶媒によって薄層クロマトグラフィーで展開したときに、ラノスタン留分はクロマトグラフィー値(Rf)が0.1以上のところで検出され、また、セコラノスタン留分はRfが0.1未満のところで検出される。いくつかのラノスタンは前記ラノスタン留分をシリカゲルカラムクロマトグラフィーにより溶出することで分離される。ここで使用される溶離液はジクロロメタン:メタノール=97:3〜95:5である。
【実施例】
【0037】
以下の実施例は本発明をさらに詳細に説明するために提示されるものであり、本発明の範囲を限定するために使用されてはならない。
【0038】
本明細書中に記載される百分率および他の量は、特にことわりのないかぎり質量基準である。百分率は合計100%となるような任意の範囲で選択される。
【0039】
実施例1:
ポリア粉末を中国で成長したマツホド(Poria cocos(Schw) Wolf)30kgから製造した。このポリア粉末を、95%エタノール120Lを用いて24時間かけて抽出した。この混合物をろ過し、ろ液を得た。さらに3回残渣を抽出してろ過した。ろ液を合わせて濃縮し、265.2gの量の乾燥抽出物を得た。乾燥抽出物を、二相抽出剤(n−ヘキサン:95%メタノール=1:1)を用いて分配抽出し、そこからメタノール層を除き、その後、濃縮して246.9gの量の乾燥固形物を得た。乾燥固形物の分離を、乾燥固形物の10〜40倍の重量のシリカゲルを充填したシリカゲルカラムを用いて行った。70〜230メッシュの直径を有する前記シリカゲルは、Merck社製のSilica Gel 60である。前記カラムを次の溶離液を順に用いて溶出した:ジクロロメタン:メタノール=96:4の混合溶媒;ジクロロメタン:メタノール=90:10の混合溶媒;および純粋メタノール。溶出液を、薄層クロマトグラフィー(TLC)によって試験し、ここでは検出に紫外線ランプおよびヨウ素蒸気を用い、ジクロロメタン:メタン=96:4の混合溶媒を展開液として使用した。TLCにおいて類似の組成を有する溶出液を混合した。
【0040】
ジクロロメタン:メタノール=96:4の混合溶媒を用いて行なった溶出からは、78gの量のPCM部分を得た。前記PCMは薄層クロマトグラフィーにおいて6つのスポット跡を示した。ジクロロメタン:メタノール=90:10および純粋メタノールの溶離液を用いた溶出により得られた溶出液を混合し、168gの量のPCW部分を得た。
【0041】
前記PCM部分を、ジクロロメタン:メタノール=96.5:3.5の溶離液および同様のシリカゲルカラムを使用してさらに分離し、K1(K1−1およびK1−2)、K2(K2−1およびK2−2)、K3、K4、K4a、K4b、K5、K6aおよびK6bの精製ラノスタン成分を得た。なお、前記分離工程および同定分析データの詳細については、上述の台湾特許公開第200425900号に記載されている。
【0042】
前記K1〜K6b化合物は下記の構造を有する:
【0043】
【化5】

【0044】
PCM部分から分離されたラノスタン化合物K1〜K6bの量を下記表に列記する。PCM部分は、ラノスタン化合物K1〜K6bを約15重量%含む。
【0045】
【表1】

【0046】
実施例2:
ポリア100kgを水800kg中で3時間煮沸し、その後放置して50℃になるまで冷却し、5N NaOH溶液を用いて、pH値を11になるように調整し、次いでその溶液を3時間攪拌した。遠心分離機を使用して、固形物から液体を分離し、分離した固形物にさらに水800kgを加えた。pH値をNaOHで11に調整し、攪拌し、遠心分離により固形物を除くことを含む、上記の手順を繰り返した。得られた2つの液体を合わせて、50℃で真空濃縮して100kgの溶液とし、次いで、3N HClを用いてpH値を6.5になるように調整して、沈殿を生成した。前記沈殿を溶液から分離し、続いて40LのHOで洗浄し、沈殿を回収するために遠心分離し;沈殿を水8Lを用いて噴霧乾燥し、380gの粉末を得た。その後、前記粉末を4Lのエタノールを用いて3回抽出し、抽出溶液を合わせて濃縮し、エタノール抽出物238.9gを得た。このエタノール抽出物238.9gは、実施例1のTLC分析からセコラノスタン化合物を含まないことがわかり、次いでHPLCで分離され、抽出物1グラムにつき、K2を185.93mg、K3を20.34mg、K4を15.82mgおよびK1を4.52mgを与えた。言い換えれば、抽出物1グラムは約226.07mgのラノスタン化合物を含む。
【0047】
実施例3:
ポリア抽出物または純粋なラノスタン化合物を用いた喘息のマウスの治療の実験
この実施例では、オボアルブミン(OVA)をアレルゲンとして用いることによってマウスをアレルギー性になるように誘導し、マウスのOVE−特異的IgE抗体の出現からマウスが誘起された喘息に罹患していることを確認した。実験期間の間、異なる群のマウスにポリア抽出物または純粋なラノスタン化合物を与えて飼育し、1か月の飼育後各マウスに気道過敏性試験を行い、これによってマウスの喘息の深刻さの程度を反映する重要な指数を決定した。この実施例においては、マウスの気管支肺胞洗浄液(BALF)中の異なる免疫細胞を、これらが、特に好酸球および好中球が影響されているかについても観察した。さらに、走化性因子であるエオタキシンは、この実施例においてサイトカインの分泌が劇的に変化したかを観察するための重要な観察因子であった。
【0048】
実験方法:
(1)実験動物:Inbred BALB/c雌マウスを標準的な研究用えさを適宜用いて飼育した。室温を19〜24℃に維持し、相対湿度を50〜70%とした。動物実験は台湾輔仁大学の実験動物の保護と使用のガイドラインにしたがって行なった。BALB/cマウスを8匹ずつの10の群に分けた。
【0049】
(2)実験的な喘息動物モデルの確立:免疫化プロトコルは過去に記載したもの(Sy,L.B,et al.Propolis extracts exhibit an immunoregulatory activity is an ova−sensitized airway inflammatory animal model.Int Immunopharm 6:1053−1060.(2006))と同様であり修正して実施した。簡潔には、BALB/cマウスを、2mgのアジュバント水酸化アルミニウム(Al(OH),77161,Pierce)を加えた10μg/mlおよび30μg/mlのOVA(アルブミン、鶏卵、A−5503、Sigma)の腹腔内注射を用いて、8週齢および10週齢でそれぞれ免疫化した。2回目の腹腔内注射を受けた後のマウスをチャンバに入れ、超音波ネプライザ(DeVilbiss Pulmo−Aide,5650D,USA)を用いて、全てのマウスを8mlの2%OVAエアロゾルに20分間露出して吸入させた。
【0050】
(3)実験動物のグループ化:10群のOVA−感作喘息マウスを、治療していない喘息群(As);実施例2で調製されたポリア抽出物および純粋な化合物K1、K2およびK3での治療群(1PCE、1K1、1K2、1K3、2PCE、2K1、2K2および2K3);ならびにコントロール薬物群(Pred)に分けた。1PCE群の治療群の各マウスは、毎日0.0372mgの実施例2で調製されたPCEエタノール抽出物を摂取した(1PCE)。2PCEは、1PCE群の2倍のPCEの投与量(0.0744mg)を与えたマウスを意味する。1K1、1K2および1K3の治療群の各マウスは、毎日0.0087mgのK1、K2およびK3をそれぞれ摂取した。2K1、2K2および2K3は、1K1、1K2および1K3群と比較してK1、K2およびK3の2倍の投与量(0.0174mg)を与えたマウスを意味する。Pred群の各マウスには、致死させる前に連続5日間1日あたり0.1mgのプレドニゾロンを投与した。上記PCE、K1、K2、K3およびプレドニゾロン化合物ははじめにエタノールに溶解させ、最終的にリン酸緩衝溶液(PBS)に溶解させた。各マウスに各回合計体積0.4mLを強制投与した。
【0051】
(4)気道過敏性試験:
気道過敏性(AHR)値は喘息の程度の深刻さに比例して上昇し、このためAHR値の減少は喘息が緩和したかどうかを決定するための重要な指標である。すべての群の各マウスについて、最後の露出(吸入)を行なった、治療群における投与の29日目の次の日にAHR試験を行なった。AHRはBuxcoシステム(Biosystem XA;Buxco Electronics Inc.Sharon,CT,USA)を用いて試験し、ここでマウスをチャンバに入れ、異なる濃度(25mg/mlおよび50mg/ml)のPBSまたはメタコリンのエアロゾルを超音波ネプライザを用いてチャンバに導入した。導入から3分後、1分あたりのAHRの平均値を記録した。メタコリンによって誘起される気道の収縮は、メタコリン濃度が上昇した場合により顕著であった。Penh(増大の中断(pause of enhance))値はシステムの変換器(差圧変換器、Buxco)およびプリアンプ(MAX II,Buxco)から導いたデータを集めることによって計算した。Penhの相対増加率はPenh%=Penhメタコリン/PenhPBSとして計算した;ここでPenhメタコリンはマウスがメタコリンエアロゾルを3分間吸入した後のPenhの平均値であり、PenhPBSはマウスがPBSエアロゾルを3分間吸入した後のPenhの平均値である。
【0052】
(5)気管支肺胞洗浄液(BALF)および肺組織構造:
AHR分析を終えた全ての群のマウスを、次の日に致死させた。すぐに肺を気管カニューレ(18 GA,angiocath,B.D.)を介して2%ウシ胎児血清(FBS)および2mM 2Na−EDTAを含むハンクス平衡塩溶液(HBSS,SH30016.01,Hyclone,USA)1mlを用いて3回洗浄した。約3mlのBALFを集めた。1回目に集めたBALFを1500rpmで5分間、4℃で遠心分離した。集めたBALFの上澄みを、サイトカイン濃度を決定するために−20℃で保管した。2回目および3回目に集めたBALFを合わせて1回目に集めたBALFと同一の条件下で遠心分離した。上澄みをデカンテーションして得られた細胞を少したたいてこれらを分離し、これに1回目の遠心分離から得られた細胞を添加した。全細胞数は0.5mlのCM−10を用いて決定し、この際、細胞の密度を3×10細胞/mlに調整した。この後行なう実験ではセルの固定化にCytospin遠心分離機(Cytospin 4 Cytocentrifuge,Thermo Shandon,USA)を用いた。マウス一匹当り200μlの細胞懸濁液を500rpmで4分間遠心分離し、スライドガラスを準備してこの上で細胞懸濁液を空気中で乾燥させた。この細胞をLiuの染色溶液(Liu A and Liu B,Delta,232,Japan)を用いて染色した。油浸レンズを備えた顕微鏡(Olympus,BX41TF,Japan)を用いて1000倍の倍率下で細胞を観察した。各スライド上で好酸球、好中球、リンパ球および単球の4つの異なる細胞を含む200の白血球が計測された。実験結果は全BALF細胞に対するリンパ球の特定の亜集団の百分率として表した。
【0053】
(6)エオタキシン濃度測定:
気管支肺胞洗浄液中のエオタキシン濃度は、商品名R&Dで市販されているキットを用いてサンドイッチ−ELISAによって測定した。簡潔には、はじめにELISAプレートを特定のAbsで被覆し、4℃で一晩放置した。実験を行なう前に、このプレートを1%PBS−BSAで処理し、洗浄した。次いで上澄みをELISAプレートに添加し、これを室温で2時間維持し、その後ビオチン結合Absを添加した。さらに室温で2時間維持した後、次いでアビジン結合HRPを添加してさらに2時間放置した。次いで基質テトラメチルベンジジン(TMB)を着色のために添加し、吸収波長をOD450波長で測定した。濃度は標準値に基づく補間によって計算した。
【0054】
(7)生物学的統計的解析:
全てのデータは平均±SDとして表した。統計的に有意な差のために全ての解析はAs群の治療と比較してステューデントのt検定を用いて行なった。p値<0.05であれば有意であると考えた。
【0055】
【表2】

【0056】
【表3】

【0057】
【表4】

【0058】
結果:
1.表1から、メタコリン濃度が上昇するにつれてAHRの値も群の中で上昇することがわかる。2K2群はAs群に比べて最も低いAHR値を示し、より強いメタコリン(50mg/mL)の刺激を受けたとき、1K1、2K2、および1K3群もまたAs群に比べて有意に低いAHR値を示す。AHR値が高いほどマウスがより深刻な気道過敏性反応に苦しむことを示す。得られた結果から本発明のマツホドの抽出物および成分が喘息の予防/治療効果を有することが示された。Pred群はより低いAHR値を示したが、As群に対して統計的に有意ではない。したがって、本発明のマツホドの抽出物および成分は喘息治療のための一般的な医療用ステロイドに比べて、喘息によって引き起こされる気道の収縮の観点から喘息の予防/治療効果においてより有利である。
【0059】
2.表2に示した結果から、As群はOVA−感作マウスのBALF中の好酸球の百分率が最も高く、Pred群は百分率が最も低いが統計的優位性はないことがわかる。しかしながら、Pred群におけるリンパ球の百分率はAs群のものに比べて有意に高い。それにもかかわらず、1PCE、2PCE、1K1および2K1を投与されたマウスはAs群に比べてBALF中の好中球の百分率が有意に低い。この結果は、マツホドの成分が肺組織において受ける炎症細胞の浸潤を弱めうることを示す。
【0060】
3.喘息の開始段階の活動期においては、多くの種類の炎症性タンパク質が局所炎症に含まれる。この実施例においては、BALF中のエオタキシン濃度を分析し、その結果を表3に示す。気道気管支上の上皮細胞、内皮細胞および線維芽細胞など、多くの種類の細胞がエオタキシンを分泌しうる。分泌されたエオタキシンは好酸球またはTh2細胞を気道気管支に誘導しうる(Rankin et al.,Eotaxin and eosinophil recruitment:implication for human disease.Mol Med Today 6:20−27.(2000))。表3のデータから、1PCE、1K1、2K1および1K3を投与されたマウスはAs群に比べてBALF中のエオタキシン濃度が有意に低いことがわかる。Pred群のマウスについてはAs群に比べてエオタキシン濃度の有意な差はみられなかった。この結果は、本発明に開示されたマツホドの成分が炎症性タンパク質エオタキシンの分泌を阻害することによって気道の炎症細胞による浸潤を防ぎうることを支持する。したがって、本発明のマツホドの成分は喘息治療のための一般的な医療用ステロイド(Pred)に比べて、肺組織において受ける炎症細胞(好酸球またはTh2リンパ球)の浸潤を弱める点で喘息の予防/治療効果においてより有利である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
哺乳類における免疫障害により誘起される疾患の治療のための薬剤の作製における、活性成分としての下記化学式(I)で示されるラノスタンまたはそれらの製薬上許容されうる塩の使用:
【化1】

式中、RはHまたはCHであり;RはOCOCH、=OまたはOHであり;RはHまたはOHであり;Rは−C(=CH)−C(CH(ここでRはHまたはOHである)または−CH=C(CH)−R(ここでRはCHまたはCHOHである)であり;RはHまたはOHであり;およびRはCHまたはCHOHである。
【請求項2】
前記免疫障害により誘起される疾患がアレルギーである、請求項1に記載の使用。
【請求項3】
前記アレルギーが、アレルギー性鼻炎、アレルギー性結膜炎、アレルギー性喘息、アトピー性皮膚炎、咽喉アレルギー、アトピー性湿疹、またはリウマチ性関節炎である、請求項2に記載の使用。
【請求項4】
前記アレルギーが、アレルギー性喘息である、請求項3に記載の使用。
【請求項5】
前記ラノスタン(I)が、
【化2】

【化3】

または
【化4】

である、請求項1に記載の使用。
【請求項6】
前記薬剤が前記ラノスタン(I)またはそれらの製薬上許容されうる塩を0.1〜60重量%で含む、請求項1に記載の使用。
【請求項7】
前記薬剤が経口投与される、請求項1に記載の使用。
【請求項8】
前記哺乳類がヒトである、請求項1に記載の使用。
【請求項9】
ポリア抽出物が前記活性成分として使用され、前記ポリア抽出物はラノスタン(I)を1〜60重量%含み、セコラノスタンを実質的に含まない、請求項1に記載の使用。
【請求項10】
前記ポリア抽出物が以下の工程を含む方法で調製される、請求項9に記載の使用:
a)水、メタノール、エタノールまたはこれらの混合溶媒によって、マツホドの代謝産物、発酵産物または菌核粒子を抽出し;
b)前記a)工程から得られた液体抽出物を濃縮し;
c)前記b)工程から得られた濃縮物をシリカゲルカラムに導入し;
d)極性の低い溶離液で前記シリカゲルカラムを溶出し、得られた溶出液を集め;
e)前記溶出液を濃縮して濃縮溶出液を生成する。
【請求項11】
前記e)工程から得られた濃縮溶出液の有する、ジクロロメタン:メタノール=96:4の混合溶媒で展開され、紫外線ランプおよびヨウ素蒸気で検出される、薄層クロマトグラフィーによるクロマトグラフィー値(Rf)が0.1以上である、請求項10に記載の使用。
【請求項12】
前記a)工程における抽出が、95%エタノールを用いて行われる、請求項10に記載の使用。
【請求項13】
前記a)工程における抽出が、マツホドの代謝産物、発酵産物または菌核粒子を沸騰水により抽出し;得られた抽出水溶液にpH値が9〜11になるまで塩基を添加し;塩基性水溶液を回収し;塩基性水溶液にpH値が4〜6になるまで酸を添加し、沈殿を形成し;沈殿を回収し;沈殿をエタノールで抽出し;および液体抽出物を回収することを含む、請求項10に記載の使用。
【請求項14】
前記b)工程から得られた濃縮物が、体積比が1:1である95%v/vメタノール水溶液およびn−ヘキサンを含む二相溶媒でさらに抽出され、メタノール層が二相溶媒抽出混合物から分離され、および前記メタノール層が濃縮され、前記c)工程でシリカゲルカラムに供給される濃縮物を形成する、請求項12または13に記載の使用。
【請求項15】
前記d)工程における前記極性の低い溶離液がジクロロメタンおよびメタノールを96.5:3.5の体積比で含む混合溶媒である、請求項10に記載の使用。
【請求項16】
前記ポリア抽出物が5〜35重量%の前記ラノスタン(I)を含む、請求項9に記載の使用。
【請求項17】
前記ラノスタン(I)が、
【化5】

【化6】

【化7】

または
【化8】

である、請求項9に記載の使用。

【公表番号】特表2011−525481(P2011−525481A)
【公表日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−513841(P2011−513841)
【出願日】平成20年6月24日(2008.6.24)
【国際出願番号】PCT/CN2008/001218
【国際公開番号】WO2009/155730
【国際公開日】平成21年12月30日(2009.12.30)
【出願人】(510118145)杏輝天力(杭州)藥業有限公司 (4)
【Fターム(参考)】