説明

免震アイソレータと免震構造体

【課題】振動エネルギ吸収材料として錫プラグを使って安定な免震特性が得られる免震アイソレータ及び免震構造体を提供する。
【解決手段】免震アイソレータは、複数のゴム板12と複数の金属板14とが上下方向に交互に積層され、少なくとも1つの中空部16が上下方向に形成されてなる積層体18と、中空部16に圧入された錫プラグ20とを備え、錫プラグ20の外径aと積層体18の外径bとの比a/bが0.08以上0.27未満であるように構成されている。また、免震構造体は、免震アイソレータ22により構造物23を支承してなるものであって、構造物23により、免震アイソレータ22に加えられている面圧が15〜30MPaとされている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、構造物の免震等に用いられる免震アイソレータ及び免震構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、建築物、土木構造物、機器等を免震するための免震アイソレータが知られている。すなわち、従来の免震アイソレータにおいては、複数のゴム板と複数の鋼板とを交互に積層してなる積層体の中心に円柱状の中空部を設け、この中空部に、鉛からなる丸棒、すなわち鉛プラグを挿入している。この積層体を基礎や構造物に取付けるために、積層体の両端部に連結鋼板が固設され、この連結鋼板を介してそれぞれフランジ金具を複数の締付ボルトにより固定している。
【0003】
このような鉛プラグ入りの免震アイソレータは、建物等を安定に支持しながら地震発生時には水平方向に変形して地震エネルギを低減するという、従来の積層ゴムとダンパの両機能を併せ持っている。さらに、設置スペースを削減することができると共に、施工性も向上するという特色がある(特許文献1、特許文献2参照)。
【特許文献1】特公昭61−17984号公報
【特許文献2】特開平9−105441号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上記の技術には、次のような解決すべき課題があった。
鉛プラグ入り免震アイソレータは、有害物質である鉛を使用していることから、環境破壊の懸念が指摘されている。製造時の鉛の取扱いのみでなく、今後建物解体時に生じる鉛入り免震アイソレータの廃棄方法等で問題が生じる惧れがあり、鉛に替わる材料の要求が高まっている。
鉛の代替材料として、幾つかの振動エネルギ吸収材料が挙げられるが、従来から鉛以外の材料を使って鉛と同等以上の減衰効果を奏するエネルギ吸収体を備えた免震アイソレータが本格的に使用された例はない。
【0005】
図6は鉛と錫との物性比較を示す図である。図6に示すように、錫は、鉛に比べて引張強さ、降伏強度がかなり大きい。
【0006】
本発明は、振動エネルギ吸収材料として錫プラグを代表例とする高強度非鉛プラグを使って安定な免震特性が得られる免震アイソレータ及び免震構造体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の各実施例においては、それぞれ次のような構成により上記の課題を解決する。
〈構成1〉
複数のゴム板と複数の金属板とが上下方向に交互に積層され、少なくとも1つの中空部が上下方向に形成されてなる積層体と、上記中空部に圧入された高強度非鉛プラグとを備え、上記高強度非鉛プラグの外径aと上記積層体の外径bとの比a/bが0.08以上0.27未満であることを特徴とする免震アイソレータ。
【0008】
ここで、高強度非鉛プラグとは、塑性変形可能な金属プラグであって鉛よりも強度の高いものをいい、典型的には錫及び錫基合金であるが、アルミニウム、銅、亜鉛、及びこれらを基とする合金を含むものである。このような高強度非鉛プラグは単位体積あたりのエネルギ吸収量が大きいことから、従来の鉛プラグを用いる場合に比べ、プラグ外径を小さくすることができる。
【0009】
免震アイソレータにおけるプラグ外径が小さいと、免震アイソレータに加わる鉛直応力、すなわち面圧(MPa)の増加に伴う降伏後剛性の低下率が小さくなる。降伏後剛性とは、プラグが塑性変形する状態での免震アイソレータの変位に対する剛性をいい、後述の図2に示す履歴曲線では、履歴曲線の斜め水平部分の傾きに相当する。この傾向はプラグ材質が鉛、錫に限らない。また、これは、降伏後剛性の面圧依存性が小さいことから、建物の目的に応じてバランスのよい免震構造を設計でき、安定な免震特性が得られることになる。
【0010】
高強度非鉛プラグの外径aと、積層体の外径bとの比a/bが0.08より小さいと、高強度非鉛プラグといえども十分なエネルギ吸収効果が得られない。また、a/bが0.27より大きすぎると、免震アイソレータの降伏後剛性が過大となるという不具合がある。
【0011】
〈構成2〉
複数のゴム板と複数の金属板とが上下方向に交互に積層され、少なくとも1つの中空部が上下方向に形成されてなる積層体と、上記中空部に圧入された高強度非鉛プラグとを備え、上記高強度非鉛プラグの外径aと上記積層体の外径bとの比a/bが0.12以上0.20未満であることを特徴とする免震アイソレータ。
【0012】
構成2のa/bの値は、構成1のa/bの値と比べて、より好ましい範囲である。高強度非鉛プラグを用いることで、この程度の値までプラグ外径を小さくすることが可能となり、かつ優れた特性を発揮する。
【0013】
〈構成3〉
構成1又は2に記載の免震アイソレータにおいて、上記高強度非鉛プラグは錫又は錫基合金であることを特徴とする免震アイソレータ。
【0014】
錫プラグ又は錫基合金プラグは、鉛プラグと比べると、引張り強度、降伏強度が2倍程度大きく、またせん断降伏強度も約2倍と大きい。そのため、高強度非鉛プラグとして好適に用いることができる。
【0015】
〈構成4〉
構成1乃至3のいずれかに記載の免震アイソレータにより構造物を支承してなる免震構造体であって、上記構造物により上記免震アイソレータに加えられている面圧が7.5〜30MPaであることを特徴とする免震構造体。
【0016】
ここで、面圧とは免震アイソレータに対する鉛直応力をいう。高強度非鉛プラグを用いることでプラグ外径の割合が小さくなり、面圧の増加に伴う降伏後剛性の低下率が小さくなり、従来の鉛プラグを用いるものに比べ、免震アイソレータに加える適正な面圧が高くなる。したがって、より小型の免震アイソレータによって構造物を支持することが可能となる。構成4の面圧の範囲内だと、降伏後剛性の低下が少なく安定した免震特性が得られる。
【0017】
〈構成5〉
構成1乃至3のいずれかに記載の免震アイソレータにより構造物を支承してなる免震構造体であって、上記構造物により上記免震アイソレータに加えられている面圧が15〜30MPaであることを特徴とする免震構造体。
【0018】
さらに、高強度非鉛プラグを用いることで、従来の鉛プラグを用いた場合の面圧を大きく越える構成5の範囲の面圧が好適に採用される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態を実施例ごとに詳細に説明する。
【実施例1】
【0020】
図1は、実施例1の免震アイソレータを示す図で、(a)は平面図、(b)は縦断面図である。
図1に示すように、実施例1の免震アイソレータ22は、次のように構成された積層体18と錫プラグ20とを備えている。積層体18は、複数の天然ゴムからなるゴム板12と複数の鋼板からなる金属板14とを上下方向に交互に積層した、周知の構成をなすものである。積層体18には、少なくとも1つの円柱状の中空部16が上下方向に形成されている。この中空部16に、錫プラグ(錫からなる丸棒)20が圧入されている。
【0021】
積層体18の周囲には必要に応じて合成ゴムからなる保護ゴム19が施されている。そして、錫プラグ20の外径aと積層体18の外径bとの比a/bが0.08以上0.27未満であるように構成されている。より好ましくは、a/bが0.12以上0.20未満であるように構成されている。
【0022】
このような免震アイソレータ22は、例えば、次の工程を経て製造される。先ず、それぞれ中心に貫通孔を有する複数のゴム板12と複数の金属板14とを上下方向に交互に積層して積層体18を構成する。各ゴム板12と金属板14に中心孔を有することにより、積層体18の中心の上下方向に円柱状の中空部16が形成される。この積層体18の中空部16に、錫プラグ20を圧入する。
【0023】
錫プラグは、圧入されたとき、径方向に膨張して中空部16の内壁に密着される。このとき、錫プラグ20の外径aと積層体18の外径bとの比a/bが0.08以上0.27未満であるように構成される。その後、錫プラグ20を挿入した積層体18の受圧面に適度の圧力を印加した状態で、積層体18に、ゴム総肉厚の25〜250%の範囲のせん断ひずみを加えて最終的な免震アイソレータが製造される。
【0024】
ゴム総肉厚とは、金属板14を除き、全てのゴム板12の肉厚を積算した合計肉厚をいう。積層体18に所定の鉛直荷重を加えた状態でせん断力を加えることによって、後に鉛直荷重を減らした状態においても良好な免震特性を有することになる。
【0025】
〔検討〕
ここで、本発明者等は、鉛プラグと錫プラグを使用した免震アイソレータについて比較検討したので、その説明をする。
【0026】
〔試験体の構成〕
試験体として、図1と同様の構成の免震アイソレータを下記条件で製作した。
先ず、下記条件のゴム板12を33枚、金属板14を32枚使って中心に中空部16を有する積層体18を複数製作した。
中空部16に、純度99.9%の錫からなる錫プラグを200MPaで圧入してなる錫プラグ入り免震アイソレータと、中空部16に、純度99.99%の鉛からなる鉛プラグを60MPaで圧入してなる鉛プラグ入り免震アイソレータの2種類を製作した。
【0027】
これらの各免震アイソレータの両端部に、常法によりそれぞれ連結鋼板24を固設し、この連結鋼板24に、上下のフランジ金具26をそれぞれ配置し複数の締付ボルト29により固定してほぼ同じ大きさの錫プラグ入り免震アイソレータ22Aと鉛プラグ入り免震アイソレータ22Bとを製作した。
【0028】
なお、上記積層体のゴム板12としては、天然ゴムにより、外径500mm、内径75mm、肉厚3.75mmの円環状に形成したものを使用した。金属板14としては、鋼板により、外径510mm、内径100mm、肉厚3.2mmの円環状に形成されたものを使用した。連結鋼板24は、外径520mm、肉厚16mmの円環状をなすものであり、上下のフランジ金具26は、外径800mm、肉厚30mmの円板である。上下のフランジ金具26の各周囲には、それぞれ内径35mmの取付孔27が8箇所に、また、それぞれ内径20mmの吊りボルト用ねじ孔28が4箇所に設けられている。免震アイソレータの高さは、約310mmである。
【0029】
〔試験体への加力〕
上記2種類の各試験体に各種条件で加力し、下記(1)、(2)の試験を行い、それぞれの荷重・変位の関係を調べた。
なお、試験条件において、例えば、ゴム板の総肉厚の±100%のせん断ひずみを加えるために、積層体の両端部を保持した状態で、積層体を構成する金属板とゴム板のうち、金属板を除いた、全てのゴム板の肉厚を合計した総肉厚の100%のストロークで、両端部にせん断力を加えて水平方向に相対的に往復動させるものとした。免震アイソレータの受圧面に20MPaの鉛直荷重を加えた状態とは、実際の使用時の建築物等の支持荷重より若干大きい圧力を印加した状態を想定している。
【0030】
(1)錫プラグ入り免震アイソレータ22Aに、その両端部の受圧面に20MPaの鉛直荷重を加えた状態で、せん断力を加えてゴム板12の総肉厚の±100%のせん断ひずみを生じさせた。これを4サイクル実施した。
このときの錫プラグ入り免震アイソレータ22Aの荷重・変位の関係を図2に示す。また図2に示された結果から得られたサイクル数毎のエネルギ吸収量の累積値を図3に示す。なお、エネルギ吸収量は、図2に示される各閉ループの面積値と等価である。
【0031】
(2)鉛プラグ入り免震アイソレータ22Bに、その両端部の受圧面に20MPaの鉛直荷重を加えた状態で、せん断力を加えてゴム板12の総肉厚の±100%のせん断ひずみを生じさせた。これを4サイクル実施した。
このときの鉛プラグ入り免震アイソレータ22Bの荷重・変位の関係を図2に示す。また図2に示された結果から得られたサイクル数毎のエネルギ吸収量の累積値を図3に示す。
【0032】
図4に、ゴム外径500mmの積層体に、外径75mmのプラグと外径100mmのプラグをそれぞれ挿入してなる2種類の免震アイソレータの、降伏後剛性(降伏後せん断弾性率)のせん断歪み及び面圧との関係を示す。
図4の(a)は面圧7.5MPaをかけた状態での、せん断歪みと降伏後剛性との関係を示す図、(b)は100%のせん断歪みをかけた場合の、面圧と降伏後剛性との関係を示す図である。
図4(a)及び(b)では、プラグ径比a/b=75/500=0.15とプラグ径比a/b=100/500=0.2とを比較して示している。図4(b)では、面圧をkgf/cm2で表している。100kgf/cm2は約10MPaに相当する。
【0033】
図4(a)に示すように、せん断歪みの増加に伴い降伏後剛性は低下するが、プラグ径比a/b=0.15としたものは、a/b=0.2のものに比べ、広いせん断歪みにわたって降伏後剛性が安定している。
【0034】
また、図4(b)に示すように、プラグ径比a/b=0.15としたものは、a/b=0.2のものに比べ、面圧が7.5MPa以上の領域において、面圧の増加に対する降伏後剛性の低下の割合が少ない。これは、横方向のバネ定数が面圧の変化に対して安定であることを意味する。地震動により上下方向の加速度が生じ、面圧が変化した場合でも特性の変化が少なく、免震アイソレータを用いた免震設計を行う上で有利かつ使いやすいものとなっている。
【実施例2】
【0035】
図5は実施例2の免震構造体を示す概略図である。
図5において、この免震構造体32は、実施例1に示した本発明の免震アイソレータ22により、構造物23を支承してなるものであって、構造物23により免震アイソレータ22に加わる鉛直応力(面圧)が7.5〜30MPaである。
【0036】
すなわち、免震アイソレータ22は、複数のゴム板と複数の金属板とが上下方向に交互に積層され、少なくとも1つの中空部が上下方向に形成されてなる積層体18と、中空部16に圧入された錫プラグ20とを備え、かつ錫プラグの外径aと前記積層体の外径bとの比a/bが0.08〜0.27である。
【0037】
上記実施例では、錫プラグの外径aと前記積層体の外径bとの比a/bを0.12以上0.20未満とすることができ、また、免震アイソレータ22に加わる鉛直応力(面圧)を15〜30MPaとすることもできる。このようにすることで高強度非鉛プラグの特性がより発揮され、小型の免震アイソレータによって優れた免震効果を得ることができるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】実施例1の免震アイソレータを示す図で、(a)は平面図、(b)は縦断面図である。
【図2】免震アイソレータの荷重・変位の関係を示す線図である。
【図3】免震アイソレータのエネルギ吸収量を示す線図である。
【図4】同一のプラグ材料でプラグ径比を変えた場合の、降伏後剛性の、せん断歪み及び面圧との関係を示す線図である。
【図5】実施例2の免震構造体を示す概略図である。
【図6】鉛と錫との物性比較を示す図である。
【符号の説明】
【0039】
12 ゴム板
14 金属板
16 中空部
18 積層体
20 錫プラグ
22 免震アイソレータ
24 連結鋼板
26 フランジ金具
28 締付ボルト
30 鉛プラグ
32 免震構造体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のゴム板と複数の金属板とが上下方向に交互に積層され、少なくとも1つの中空部が上下方向に形成されてなる積層体と、
前記中空部に圧入された高強度非鉛プラグとを備え、
前記高強度非鉛プラグの外径aと前記積層体の外径bとの比a/bが0.08以上0.27未満であることを特徴とする免震アイソレータ。
【請求項2】
複数のゴム板と複数の金属板とが上下方向に交互に積層され、少なくとも1つの中空部が上下方向に形成されてなる積層体と、
前記中空部に圧入された高強度非鉛プラグとを備え、
前記高強度非鉛プラグの外径aと前記積層体の外径bとの比a/bが0.12以上0.20未満であることを特徴とする免震アイソレータ。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の免震アイソレータにおいて、
前記高強度非鉛プラグは錫又は錫基合金であることを特徴とする免震アイソレータ。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれかに記載の免震アイソレータにより構造物を支承してなる免震構造体であって、
前記構造物により前記免震アイソレータに加えられている面圧が7.5〜30MPaであることを特徴とする免震構造体。
【請求項5】
請求項1乃至3のいずれかに記載の免震アイソレータにより構造物を支承してなる免震構造体であって、
前記構造物により前記免震アイソレータに加えられている面圧が15〜30MPaであることを特徴とする免震構造体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−170233(P2006−170233A)
【公開日】平成18年6月29日(2006.6.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−359318(P2004−359318)
【出願日】平成16年12月13日(2004.12.13)
【出願人】(000002255)昭和電線電纜株式会社 (71)
【Fターム(参考)】