説明

免震エレベータ

【課題】大地震発生時に建築物に大きな揺れが生じても影響を受けることなく、運転を短期間で再開することのできる免震エレベータを提供する。
【解決手段】昇降路3内に地震感知器17が基部に固定されたエレベータ架構が免震装置7を介して設置され、その基部側面と昇降路の側壁3Bの間に制震装置8が設けてある。エレベータ架構4の内側には、ガイドレールが取り付けられる。建物の乗場出入口20に各々対向する位置に複数の乗場側ドアが設けられ、各階のエレベータ乗場出入口20とこれに対向する乗場側ドアとの間には相対変位に追従する伸縮通路21で連絡されている。地震動は免震装置7とダンパー8によって抑制されて小さなものとなり、保守点検員による点検を必要とせずに簡易な安全確認試験によって運行を再開でき、高層ビルの住人の生活を守ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地震によって停止したエレベータを簡易な安全点検検査で運行開始できるようにした免震エレベータに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、エレベータの地震対策としては、例えば、特許文献1に記載されているように、免震装置を介在した建物の下層と上層間の昇降路内に、剛性枠体または筐枠をコイルスプリングを介して配設し、剛性筺枠にエレベータかごのガイドレールを保持して、地震発生時にガイドレールの変形や破壊を防止することが提案されている。
【0003】
ガイドレールの変形や破壊の防止は、図5に示すように、免震装置A1を介して建物の下層A2と上層A3間を連通する昇降路A4内に剛性筺枠A5が設けてあり、その上端部を上層A3に、下端部を下層A2にそれぞれコイルスプリングA6を介して揺動自在に支持し、この剛性筺枠A5内にエレベータかごA7のガイドレールA8を図示してしないショックアブソーバを介して支持するものである。
【0004】
同図に示す構造において、地震が発生して建物の下層A2と上層A3間に相対変位が生ずると、図6に示すように、下層A2と上層A3間の変位に対応して剛性筺枠A5が揺動し、その動きはコイルスプリングA6によって吸収されると共に、ガイドレールA8と剛性筺枠A5間の変位は、ショックアブソーバによって吸収され、ガイドレールA8の変形及び破壊を防止している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第4566306号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載されたものは、地震発生時に、建物の下層と上層間で剛性筺枠が揺動変位することによって、ガイドレールが昇降路壁に直接取り付けられている場合に比べ、ガイドレールに作用する曲げ荷重や剪断荷重を緩和することができる。
【0007】
しかしながら、昇降路やガイドレールの振動自体を抑制するものでないので、エレベータに設置した地震感知器は地震を感知し、それが大きな揺れであると、エレベータの運行は自動的に停止されてしまう。
【0008】
地震発生時のエレベータの運行については、国土交通省の「昇降機耐震設計・施工指針2009年版」で規定されており、エレベータを停止させる地震動の数値が定められており、その数値によって運転開始前に安全点検しなければならないが、エレベータが受けた地震動の数値が大きな場合は、運転を再開させるためには、エレベータ管理会社の点検員が点検する作業が必須となる。
【0009】
しかしながら、大地震の場合、殆どのビルのエレベータが地震を検知して停止するため、点検員が派遣されるのは優先度の高い建物のエレベータからであり、一般住宅の点検は後回しにされ復旧までには日数を要している。そのため、高層、超高層の一般住宅では、階段を利用するしかなく、老人や幼児のいる家庭では日常生活にも不便となる。
【0010】
そこで、本発明は、地震発生時に建物が大きく揺れても、昇降路やガイドレールが影響を受けることなく、エレベータに設置した地震感知器の数値が簡単な検査によって運転を再開することができるレベルに抑制することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の免震エレベータは、昇降路底部に免震装置が設置してあり、この免震装置に、基部に地震感知器が設けてあるエレベータ架構が昇降路の壁との間にスペースを設けて載置されていると共に、少なくともエレベータ架構の基部に制振装置が設けてあるエレベータである。
【0012】
また、免震装置の上に設置され、少なくともエレベータ架構とエレベータ昇降路の間に制振装置を設けたエレベータにおいて、エレベータ昇降路を拡大して昇降路内に通常のエレベータを1基以上設置できるようにし、昇降路内に複数のエレベータが走行するようにすることも可能である。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、基部に地震感知器を設けたエレベータ架構が免震装置上に設置されており、更に、少なくともエレベータ架構の基部とエレベータ昇降路の壁間に制振装置が設けてあることから、地震の発生によって建築物が大きく揺れても、建築物の揺れは、免震装置で緩衝されてエレベータ架構に揺れが伝達され、更にエレベータ架構の基部には制振装置が設けてあるためにエレベータ架構の基部の振幅は小さくなり、従って、エレベータ架構の基部に設置してある地震感知器が感知する地震動の数値が小さなものとなり、エレベータが自動停止する地震動の数値を超えたとしても、保守点検員を派遣して目視による検査を必要としない簡易な検査によってエレベータの運行再開が可能な範囲に抑制することができるので、地震によるエレベータの自動停止後の運転再開を短時間でおこなうことができるというメリットがある。
【0014】
エレベータかご及び釣合錘を走行自在に案内する複数のガイドレールやエレベータの吊りロープを駆動する駆動装置は、地震発生時にも実質的に静止状態に保たれているエレベータ架構に取り付けられているため、エレベータの運行を最低限確保することが可能となるので、数日間にわたる点検作業でエレベータの運行が停止されるという居住者の生活を脅かす状態を回避することができる。
【0015】
また、乗場側ドアを地震の揺れの影響を受けにくいエレベータ架構側に取り付けているため、地震発生後に乗場側ドアとかご側ドアの位置関係がずれて、これらの開閉動作に支障が出る危険性を低減することができる。
【0016】
さらに、各階のエレベータ乗場出入口とこれに対向する乗場側ドアとの間を、昇降路とエレベータ架構間の相対変位に追従する伸縮通路で連絡しているため、エレベータ乗場出入口と対向する乗場側ドアとの隙間が地震の揺れによって変化しても、エレベータかごへの乗り降りを支障なく安全におこなうことができる。
【0017】
また、エレベータ架構が、通常のエレベータを1基以上収容している共通の昇降路内に収容されているため、通常の昇降路とは別に、エレベータ架構を収容する専用の昇降路を設ける場合と比較して、施工コストを低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の免震エレベータを組み込んだ建物の全体断面図。
【図2】本発明の免震エレベータの昇降路の基部及び上部の拡大断面図。
【図3】本発明の免震エレベータの昇降路の基部の横断面図。
【図4】本発明の免震エレベータの別の実施形態の昇降路の基部の横断面図。
【図5】従来の免震エレベータの一例を示す昇降路の縦断面図。
【図6】従来の免震エレベータの地震発生時の状態を示す昇降路の縦断面図。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、実施形態の図面に基づいて本発明を説明する。図1は、本発明の免震エレベータの1実施形態を示す昇降路の縦断面図であって、図2は、昇降路の底部及び上部を拡大した断面図である。図1及び図2に示す免震エレベータ1は、通常のエレベータと同様に、建物2に設けた昇降路3の内部に設置されるものである。
【0020】
昇降路3の内部にはエレベータ架構4が収容されており、昇降路3とエレベータ架構4の間にはスペース41が設けてある。このエレベータ架構4は、鋼材をトラス構造または格子体等に組んだもので、横断面が矩形状に組み立てられていて、その内部には、エレベータかご5や釣合錘6が昇降するための空間が形成されている。鋼材として高張力鋼を使用すると、地震による大きな揺れに対してもエレベータ架構の靭性によって、エレベータ架構が破壊されるのを防止するものである。
【0021】
エレベータ架構4は、図2に示すように、昇降路3の底部3Aに免震装置7が設置されており、その基部に地震感知器17が固定して設けてある。この地震感知器17の検知した地震による振動の信号は、エレベータの運行制御装置(図示しない)に送られ、振動が所定の値を超えるとエレベータの運行を停止するものである。
免震装置7は、ボールやローラ、積層ゴム等を用いたものであり、建築物の免震装置として周知の構造のものであり、エレベータ架構4を水平面内の2次元方向に移動可能に支持するものである。
【0022】
エレベータ架構4の基部には、昇降路3の壁3Bとの間に、水平動を抑制する制震装置8が設置してあり、この例では、エレベータ架構4の基部と昇降路3の壁3Bとの間に設置してある。制震装置8は、オイルダンパーが用いられていて、図3に示すように、エレベータ架構4の基部の4隅とこれらに対向する昇降路3の壁3Bの4隅の内壁面との間に、互いに90度異なる向きの対を一対ずつ設けてある。
制振装置8は少なくともエレベータ架構4の基部には水平方向の移動を抑制するために設ける必要がある。上部においては、建物とエレベータ架構の地震応答解析によって大きな揺れが予測される個所に設置するか、または、適宜の間隔で設置するようにしてもよい。
【0023】
エレベータ架構4の内側には、エレベータかご5の左右の側壁の外側にそれぞれ取り付けられているガイドシュー9にそれぞれ係合してエレベータかご5の昇降を案内する一対のガイドレール10が取り付けられている。
【0024】
また、エレベータ架構4の内側には、一対のガイドレール10に並行して、釣合錘6の左右側面にそれぞれ取り付けられているガイドシュー11にそれぞれ係合して釣合錘6の昇降を案内する一対の用のガイドレール12が取り付けられている。
【0025】
図1及び図2に示すように、エレベータかご5と釣合錘6は、エレベータ架構4の上端部内側に設置されている駆動装置(図示せず)に設けられているトラクションシーブ13と、ガイドシーブ(そらせ車)14に掛け渡された吊りロープ15の両端にそれぞれ連結されている。
【0026】
なお、図示は省略しているが、通常のエレベータと同様に、エレベータかご5にはガバナの遠心錘を回転させるガバナロープが連結されていて、エレベータかご5の降下速度が所定の値を超えた場合にはガバナが動作してガバナロープの動きを停止させ、ガバナロープを介してエレベータかご5に取り付けられている対の楔型ストッパでガイドレール10を両側から挟み込んでエレベータかご5を強制的に制動停止させる構造になっている。
【0027】
また、図2に示すように、エレベータ架構4の底部上面には、前述した楔型ストッパが有効に動作せず、エレベータかご5が最下階より下方までオーバーランした場合に備えて、エレベータかご5の下面に上端が当たってこれを最終的に停止させる緩衝シリンダ16が設けられている。
【0028】
図2及び図3に示すように、エレベータ架構4の各階のフロアに対向する面には乗場側ドア装置18が取り付けられている。これらの乗場側ドア装置18に設けられている乗場側ドア18Aは、背後にエレベータかご5が到着していないときには、通常のエレベータと同様に、乗場側ドア装置18に組み込まれている図示しない施錠機構により常時は閉じた状態にロックされている。
【0029】
そして、エレベータかご5が到着してかご側ドア装置19が駆動されると施錠機構のロックが解除され、乗場側ドア18Aはかご側ドア19Aと連動して開閉動作されるようになっている。
【0030】
また、各階のエレベータ乗場出入口20とこれに対向する乗場側ドア18A間は、伸縮通路21によって連絡されている。伸縮通路21は、図2に示すように、伸縮変位及び揺動変位自在な伸縮床プレート21Aと伸縮床プレート21A上方を幌状に包囲する蛇腹式の伸縮周壁21Bから構成されていて、地震発生時の揺れによって、昇降路3の側壁に設けられている各階のエレベータ乗場出入口20と、エレベータ架構4側に設けられている乗場側ドア18Aとが相対変位しても伸縮通路21がこれを吸収できるようになっている。
【0031】
前述したように構成されている免震エレベータ1は、エレベータ架構4が、昇降路3の底部3A上に免震装置7を介して支持されているため、地震が発生して建築物が揺れても、免震装置7によってエレベータ架構4の揺れは抑制されて小さな振幅に抑えることができる。そのため、免震エレベータ1は、エレベータ架構4の揺れを免震装置7で吸収できる程度の地震では、支障なく運転を継続することが可能である。
【0032】
免震エレベータ1は、エレベータ架構4内の地震感知器17とは別に建物2側に設置した地震感知器(図示せず)が所定の揺れを検出した場合において、通常のエレベータと同様にエレベータかご5の運転を一時的に停止させたり、最寄り階へ移動して停止した後、かご側ドア装置19を駆動してかご側ドア19Aと乗場側ドア18Aを開く等の動作をおこなうようにすることもできる。
【0033】
この場合にも、エレベータ架構4に設けられた地震感知器17が検出する揺れが所定の大きさに達しないかぎり、免震エレベータ1は、点検のための人員派遣を必要としない検査によって安全を確認した後に運転を再開することができる。
【0034】
図4は、本発明に係る免震エレベータの別の実施形態を示す昇降路の底部横断面図であって、免震エレベータ1Aは、通常のエレベータ1Bと共通の大きな昇降路3'内に設置されている。
【0035】
免震エレベータ1Aは、前述した免震エレベータ1が単独で昇降路内に設置された実施形態における免震エレベータ1と基本的には同一構造であり、エレベータ架構4'内にガイドレール10'、12'にそれぞれ案内されて昇降するエレベータかご5'と釣合錘6'を備えている。
【0036】
エレベータ架構4'の基部の外側面の4隅に設置されている制震装置8'の他端は、鋼製のブラケット(図示しない)を介して昇降路3'の壁に間接的に連結されている。または、制振装置の他端が固定される反力ブロック81が昇降路3' の底部に形成してある。
【0037】
一方、免震エレベータ1Aの隣に設置されている通常のエレベータ1Bは、そのエレベータかご5Aと釣合錘6Aのそれぞれのガイドレール10A、12Aが、図示しない鋼製ブラケットを介して昇降路3'の側壁に間接的に支持されている。
【0038】
また、昇降路3'の側壁の各階のフロアに対応する位置には、免震エレベータ1Aのエレベータ乗場出入口20'と、通常のエレベータ1Bのエレベータ乗場出入口20Aとが並んで配置されている。
【0039】
このうち、エレベータ乗場出入口20Aは、直接乗場側ドア18aに面しているが、エレベータ乗場出入口20'と乗場側ドア18A'との間には、前述した図1〜図3に示す伸縮通路21と同様な構造の伸縮通路21'が設けられている。
【0040】
なお、図4に示す実施形態においては、一つの共通の昇降路3'内に免震エレベータ1Aと通常のエレベータ1Bをそれぞれ1基ずつ収容しているが、共通の昇降路内に収容する免震エレベータと通常のエレベータの数は、設置する建物の構造に応じて適宜増減可能である。
【0041】
図4に示す例は、本発明の免震エレベータの応用例であり、低層階においてはエレベータ架構4’は建物に固定していないが、高層・中層階においてはエレベータ架構4’を建物に取り付け固定してもよく、また、制振装置8’を高さ方向に適宜の間隔で設置してもよい。
【0042】
以上、説明したように、本発明の免震エレベータは、中高層建築物の昇降路内に設置して利用できる他、建物外壁面に設置した昇降路内にも適用可能である。
【符号の説明】
【0043】
1、1A 免震エレベータ
1B 通常エレベータ
2 建物
3、3' 昇降路
3A 底部
3B 側壁
4、4' エレベータ架構
41 スペース
5、5'、5A エレベータかご
6、6'、6A 釣合錘
7 免震装置
8、8' 制震装置
81 反力ブロック
9 ガイドシュー
10、10'10A ガイドレール
11 ガイドシュー
12、12'12A ガイドレール
13 トラクションシーブ
14 ガイドシーブ
15 吊りロープ
16 緩衝シリンダ
17 地震感知器
18 乗場側ドア装置
18A、18a 乗場側ドア
19 かご側ドア装置
19A かご側ドア
20、20'20A エレベータ乗場出入口
21、21' 伸縮通路
21A 伸縮床プレート
21B 伸縮周壁

【特許請求の範囲】
【請求項1】
昇降路の底部に免震装置が設置してあり、この免震装置に地震感知器が基部に設けてあるエレベータ架構が昇降路の壁との間にスペースを設けて載置されており、少なくともエレベータ架構の基部に水平動を抑制する制振装置が設けてある免震エレベータ。
【請求項2】
請求項1において、エレベータ架構内でエレベータかご及び釣合錘を走行自在に案内する複数のガイドレールと、エレベータ架構に取り付けられて、エレベータかごと釣合錘間を連結する吊りロープが掛け渡されたトラクションシーブを回転駆動する駆動装置と、エレベータかごに取り付けられているかご側ドアの開閉動作と連動して開閉され、昇降路側壁に形成された建物各階のエレベータ乗場出入口に各々対向する位置で、エレベータ架構側面に取り付けられた複数の乗場側ドアと、各階のエレベータ乗場出入口とこれに対向する乗場側ドアとの間をそれぞれ連絡し、昇降路とエレベータ架構間の相対変位に追従する伸縮通路とを備えたことを特徴とする免震エレベータ。
【請求項3】
請求項1または2において、昇降路内に免震装置に支持されたエレベータ架構を有しない通常のエレベータを1基以上設けたことを特徴とする請求項1記載の免震エレベータ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−18636(P2013−18636A)
【公開日】平成25年1月31日(2013.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−154892(P2011−154892)
【出願日】平成23年7月13日(2011.7.13)
【出願人】(592040826)住友不動産株式会社 (94)
【Fターム(参考)】