免震ジョイント
【課題】振動特性の大きく異なる部位において、大きな圧縮および引張変位を許容できる安価な免震ジョイントを提供すること。
【手段】振動特性の異なる部位同士の接続部分の壁部材20に設けられる免震ジョイント4であって、アスファルト乳剤、硬化材および高吸水性材料を含む混合組成物の硬化層6を壁部材20の間隙に介在させてなる免震ジョイント4としている。
【手段】振動特性の異なる部位同士の接続部分の壁部材20に設けられる免震ジョイント4であって、アスファルト乳剤、硬化材および高吸水性材料を含む混合組成物の硬化層6を壁部材20の間隙に介在させてなる免震ジョイント4としている。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地下構造物同士の接続部分に設けられる免震ジョイントに関する。
【背景技術】
【0002】
地震の際には、軟質部分と硬質部分の境界は、振動特性が異なるために、極めて大きな変位で伸縮を繰り返すことがわかっている。また、地下構造物としての地下通路とそこに隣接するビルの地下部との間も、人工的に作られた軟質部分と硬質部分の境界である。なぜなら、高層建築物の地下部は、極めて剛性が高いので地中部においては地盤を拘束するが、地下通路は、大量の土砂を取り除いて形成されているので質量および剛性が共に小さいためである。
【0003】
一方、これまでの地下構造物は、硬質のアスファルト材を地下構造物の周囲に配置することにより、強度を向上させて耐震対策としてきた。しかし、硬質材料のみで地下構造物を構成すると、地震等において大きな変位の伸縮に追随できずに地下構造物が破壊に至る可能性が高い。特に、軟質部分と硬質部分の境界は、極めて大きな変位で伸縮を繰り返すために、破壊されやすい。また、壁面の破壊により、地下水等が地下構造物の内部に入り込むという問題がある。
【0004】
そこで、従来、地震により最も破壊されやすい部分には、止水板を備えるジョイント50を設けている。図12には、従来のジョイント50の構成を示す。従来のジョイント50は、地下構造物のコンクリート壁60の内壁側に地下構造物への浸水を防ぐための伸縮可能な止水板51を設ける。そして、通常、伸縮目地として用いられるエラスタイト52にて土砂70の側を充填することにより、ジョイント50を構成している。(例えば、特許文献1参照。)
【0005】
【特許文献1】特開2007−197927号公報(段落番号0002等)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、上述のジョイントには以下のような問題がある。まず、エラスタイトは、高周波数の伸縮および大きな伸縮には対応できずに破壊に至るという問題である。特に、大きな引張変位には対応できないため、地震による伸縮で地下構造物に亀裂が生じ、最悪の場合には地下構造物が破壊に至るのを防止できない。さらに、軟質部分と硬質部分の境界においては、地震による伸縮が大きいために、大きな変位にも耐えうる高価な伸縮可撓性の止水板を設ける必要がある。
【0007】
そこで、本発明者らは鋭意検討の末、アスファルト系乳剤、硬化材および高吸水性材料を含む混合組成物の硬化層が、高周波数の圧縮および引張による変位に耐えうることを見い出し、当該混合組成物の硬化層をジョイントに採用することを提案し、本発明の完成に至った。
【0008】
本発明は、振動特性が大きく異なる部位において、大きな圧縮および引張変位を許容できる安価な免震ジョイントを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
かかる目的を達成するため、振動特性の異なる部位同士の接続部分の壁部材に設けられる免震ジョイントであって、アスファルト乳剤、硬化材および高吸水性材料を含む混合組成物の硬化層を壁部材の間隙に介在させてなる免震ジョイントとしている。
【0010】
このような免震ジョイントとすることにより、大きな圧縮および引張変位に対応できる安価な免震ジョイントとすることができる。それは、アスファルト乳剤、硬化材および高吸水性材料を含む混合組成物は、幅方向の圧縮力あるいは引張力に対して、それぞれ約0.5倍〜1.5倍程度の幅に変形でき、かつ、高周波数の変位移動に追随できる特異な物性を有するためである。また、当該混合組成物自体が吸水性を有し、防水性にも優れているため、地下構造物内への漏水の防止効果も得ることができる。さらに、当該混合組成物は、アスファルト乳剤を含むものであるため、アスファルト等との界面における密着性も良好であり、施工が簡単である。
【0011】
また、別の発明では、上述の発明に加えて、接続部位は、地下構造物と高層建築物の地下埋設部分との接続部であるものとしている。
【0012】
このような部位に免震ジョイントを用いることにより、効果的に耐震性能を付与することができる。高層建築物の地下部は、極めて剛性が高いので地中部においては地盤を拘束するが、一方、地下通路は、大量の地盤質量を取り除いて形成されているので質量および剛性が共に小さいことから振動幅が大きくなる。したがって、高層建築物と地下通路との接続部では、地震による伸縮が最も大きく、大きなゆがみが集中する部位となることが、本発明者らにより解析された。このような伸縮幅の最も大きい箇所にて振動を吸収できる免震ジョイントを用いることにより、他の部分の被害を最小にできる。
【0013】
また、別の発明では、上述の発明に加えて、混合組成物の硬化層よりも地下構造物の内壁側には、伸縮性の止水板を設けるものとしている。
【0014】
このような免震ジョイントとすることにより、たとえ予想される地震等よりも大きな変位量により免震ジョイントが耐えられない事態においても、少なくとも地下構造物内への漏水を防止できる。
【0015】
また、別の発明では、上述の発明に加えて、混合組成物の硬化層を支持する側壁を有し、接続部分に過剰な圧縮力が加わると、側壁は、混合組成物の硬化層の外側に開放される免震ジョイントとしている。
【0016】
このような免震ジョイントとすることにより、地下の土圧により免震ジョイントが変形するのを防ぐことができるが、地震などの異常な応力による変位には対応できる免震ジョイントとすることができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、振動特性の大きく異なる部位において、大きな圧縮および引張変位を許容できる安価な免震ジョイントを提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明の免震ジョイントについて、図面を参照しながら説明する。
【0019】
図1は、本発明の実施の形態に係る免震ジョイントが用いられる地下構造物を上空から見た際の部分透過図である。図2は、図1のA−A線を含む紙面に垂直な平面にて切断した場合における断面図である。図3は、図1のB−B線を含む紙面に垂直な平面にて切断した場合における断面図である。
【0020】
本実施の形態において、地下構造物は、地下鉄経路3と、地下鉄経路3をコの字型に囲むように形成されている地下歩道1と、地下歩道1から地下歩道1の両脇に連立する高層ビル10の地下部に接続される連絡通路2を含む。
【0021】
本実施の形態においては、地下歩道1の幅は、例えば20m程度とすることができ、連絡通路2は、地下歩道1から約5〜6mの長さで設けられて、高層ビル10の地下部分と連接されている。地下歩道1を取り囲む地盤が均一かつ良好である場合には、地下歩道1の内部に大きな振動特性の違いはない。ここで、振動特性の違いとは、振幅の違いおよび振動周期の違いを含む。
【0022】
高層ビル10の地下部分、地下通路1および連絡通路2は、その剛性および質量の違いより振動特性が大きく異なる。このため、地震の際には、高層ビル10の地下部分と連絡通路2、および地下通路1と連絡通路2は、それぞれ互いに接近し、あるいは離れる方向に変位する。したがって、免震ジョイント4は、地下歩道1と連絡通路2との間、および連絡通路2と高層ビル10との間の各接続部分に設ける必要がある。
【0023】
免震ジョイント4は、振動特性の異なる地下構造物間の接続部分(コンクリート壁20)に、コンクリート壁20と同じ厚さで、例えば幅10cmにて環状に設けられる。また、免震ジョイント4は、地下構造物の内壁側(以後、内壁側という。)から順に、シーリング材層8、止水板7、混合組成物の硬化層6、側壁9から構成されている。
【0024】
シーリング材層8は、シーリング材にて構成される。シーリング材は、各種部材間の接合部や隙間(目地)に充填または装着して、気密性を付与する。シーリング材としては、接合、接着、断熱、防音、防振若しくは電気絶縁などの機能を付与する市販のシーリング材を用いることができる。さらに、地下構造物の内壁の美観のために、シーリング材の内壁側の面は、壁紙、タイルあるいは装飾板等により装飾されていても良い。また、シーリング材層8の厚さは、用いるシーリング材の用途あるいは種類に応じて当業者が判断することが好ましい。
【0025】
止水板7は、市販のゴム製止水板から好適に構成される。市販のゴム製止水板は、たとえば、断面が細長状であり、板状部に定着リブ部が設けられ、かつ中央に中空の六角形状のバルブ部が設けられた帯状構造である。伸縮自在な可撓性の止水板と比較して、5倍以上安価であり、かつ、定着リブ部をコンクリート内に埋め込むだけで設置できるため、設置が容易である。
【0026】
混合組成物の硬化層6は、アスファルト乳剤、硬化材および高吸水性材料を主に含む混合組成物からなる。また、その混合組成物の硬化層6は、伸縮率50〜150%の範囲で伸縮自在である。免震ジョイント4は、この実施の形態において、幅10cmにて環状に設けられているため、混合組成物の硬化層6を挟持する両方の地下構造物に引張応力が加わった際に、免震ジョイント4は、15cmまで伸びることができる。
【0027】
混合組成物に含まれるアスファルト乳剤は、蒸発原油精製時の最終段階において、重油を減圧蒸留して得られるストレートアスファルト、特殊乳化剤および安定剤を含む水溶液中に粒子径が数μmとなるように乳化分散させた水中油滴型エマルジョンである。アスファルト乳剤としては、市販のものを用いることができるが、例えば、ノニオンタイプのアスファルト乳剤は、セメント、フィラーおよび各種混和剤等と均一混合が可能できるため、好適に用いられる。
【0028】
混合組成物に含まれる硬化材としては、市販されているセメント、石膏を用いることができる。具体的には、普通ポルトランドセメント、超早強ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント、中庸熱ポルトランドセメント、高炉セメント、シリカセメントあるいはフライアッシュセメント等を用いることができる。その中でも、早強ポルトランドセメントは、初期に高強度を発現できるために、好適に用いられる。硬化材は、混合組成物の強度を向上させるために用いられ、アスファルト乳剤100重量%に対し、20〜40重量%混練されることが好ましい。
【0029】
混合組成物に含まれる高吸水性材料としては、市販されているエチルセルロース系あるいはヒドロキシエチルセルロース系等のセルロース系粉末、アクリル系粉末、植物性繊維、若しくはポリアクリル酸ナトリウム等の高吸収性ポリマーを用いることができる。その中でも、高吸水性ポリマーを好適に用いることができる。
【0030】
また、高吸水性ポリマーとしては、粉末状のものを用いると、混合組成物がゲル化するまでに時間がかかると共に、柔らかくなりすぎるため、液状の高吸水性ポリマーを用いることが好ましい。具体的には、油中に数ミクロンの球状等の高吸水性ポリマーを分散させたエマルジョン(油中水滴型エマルジョン)を好適に用いることができる。このようなエマルジョンが水中に分散されると、油と吸水性ポリマーとの間で相転換を生じ、吸水性ポリマーは、速やかに水を吸収できる。また、油中水滴型エマルジョンを用いることにより、吸水性ポリマーを水中に均一に分散できる。したがって、アスファルト乳剤と硬化材との混合物中に、油中水滴型エマルジョンを分散させると、高吸水性ポリマーがアスファルト乳剤中の水を吸水するため、混合組成物を増粘し、ゲル化させることができる。なお、高吸水性材料は、必要な粘度および物性に応じて、アスファルト乳剤100重量%に対し、3〜10重量%混練されることが好ましい。
【0031】
アスファルト乳剤、硬化材および高吸水性材料を主に含む混合組成物は、直射日光が当たらず、かつ地下水が存在する地下にて好適に用いられる。地上で用いる場合には、高吸水性材料として用いられるポリアクリル酸ナトリウムが、直射日光中の紫外線によりポリアクリル酸ソーダに分解されるため、混合組成物中に水分を保持できなくなる。また、混合組成物は、乾燥状態の場所にて用いられると、高吸水性材料中の水分が失われてしまうため、混合組成物が高硬度に硬化する傾向がある。
【0032】
また、上述の混合組成物の硬化層6は、アスファルト乳剤、硬化材を主に含むため、コンクリート壁20との間の密着性が高い。したがって、例えば弾性体や発泡材料などの衝撃吸収体を免震ジョイント4の一部に用いる場合に必要となるコンクリート壁20への衝撃吸収体の取り付け作業が必要なくなる。したがって、作業効率を向上させることができる。また、混合組成物の硬化層6自体に防水性があるため、止水板がなくても止水機能が得られる。
【0033】
図3に示す側壁9は、土圧に対して免震ジョイント4が不必要に変形することを防ぐために用いられる。しかし、混合組成物の硬化層6は、地震などにおいて変形することにより、生じた変位を許容する必要がある。したがって、地震等により過剰な衝撃が免震ジョイント4に加えられると、側壁9が免震ジョイント4の土砂200側(すなわち、環状に形成される免震ジョイント4の外側)に開くように、蝶番(不図示)を取り付けてある。側壁9としては、例えば、ベニヤ板に蝶番を取り付けたものを用いることができる。
【0034】
以上のような構成を有する免震ジョイント4の施工方法について、以下に説明する。図5は、本実施の形態に係る免震ジョイント4の施工方法を説明するフローチャートである。
【0035】
まず、地下構造物のコンクリート壁20の部分に免震ジョイント4を設置するために設けられた空隙部の内壁側に、止水板7を設置する(ステップS101)。具体的には、止水板7を配置し、止水板7のリブ部をコンクリート等により埋設し固定することにより、止水板7を設置できる。
【0036】
次に、型枠を内壁側に、側壁9を土砂200側に設置する(ステップS102)。型枠としては、ベニヤ板を好適に用いることができる。土砂と接する面に配置する側壁9には、蝶番を取り付けてあるベニヤ板を用いることができる。側壁9および型枠は、混合組成物がゲル化するまでの成形用の型としての役割を有する。また、混合組成物を注入する工程のために、少なくとも1箇所の注入口を設けておく。
【0037】
次に、側壁9と地下構造物のコンクリート壁20との間の空間に、混合組成物を注入する(ステップS103)。具体的には、アスファルト乳剤および硬化材を混合した液体と高吸水性材料とを混合した混合組成物を攪拌後で、かつそれらが完全にゲル化する前に、ポンプを用いて注入口より注入する。そして、混合組成物が完全にゲル化し、外部の水に溶解しない状態になるまで、約7日放置する(ステップS104)。
【0038】
そして、混合組成物が完全にゲル化して混合組成物の硬化層6となった後に、型枠を取り外す(ステップS105)。その後、止水板7の内壁側を、シーリング材で埋めることにより、シーリング材層8を形成する(ステップS105)。
【0039】
以上のようにして、免震ジョイント4が施工される。
【0040】
以上、本発明の一実施の形態について説明したが、本発明は、上述の形態に限定されることなく、種々変形した形態にて実施可能である。
【0041】
例えば、上述の実施の形態では、土砂200と接する面のみ側壁9を有し、一方、地下構造物の内壁側には側壁9を配置しないものとしているが、土砂200側および地下構造物の内壁側の両方に側壁9を有する構造でも良い。しかし、内壁側の外観を良好にするためには、内壁側には側壁9を設けない方が良い。
【0042】
また、上述の実施の形態では、混合組成物が完全にゲル化した後には、地下構造物の内壁側の型枠を取り外しているが、そのまま残しても良い。また、地下構造物の内壁側の側壁9には蝶番を設けずに、土砂200側の側壁9のみに蝶番を設けても良い。
【0043】
また、上述の実施の形態では、側壁9の形態は、パネル板に蝶番を設けた形態としているが、他の形態でも良い。例えば、側壁9として、ある一定以上の応力に対してのみ破損する膜等を用いてもよい。
【0044】
また、上述の実施の形態では、側壁9の土砂200側の地盤は柔らかいものと仮定しているので、地震等の応力に対して側壁9は、土砂200側へ開くことができる。しかし、地盤が固い部位に免震ジョイント4を用いる場合には、例えば、側壁9の土砂200側に、変形可能な弾性体等を配置したり、あるいは空間を設けてもよい。
【0045】
また、上述の実施の形態では、地下歩道1を取り囲む地盤は均一かつ良好であるため、地震により最も大きな伸縮が生じると想定される場所は連絡通路2と高層ビル10との接続部分である。しかし、地下歩道1を取り囲む地盤が均一でない場所において、例えば、軟質地盤と硬質地盤との境界に地下構造物を建築する場合には、連絡通路2と高層ビル10との接続部分以外に、地盤急変部にも本発明の免震ジョイントを設けることができる。
【実施例】
【0046】
次に、免震ジョイントを地下通路と高層建築物の地下埋設部分との接続部に設けた際の効果を、有限要素法(FEM)モデルを用いて、建設予定の札幌市地下通路について解析を行った結果について説明する。
【0047】
(1)想定地および想定地震動
本解析では、建設予定の札幌地下通路を解析対称とした。また、想定地震動として、鉄道局が定めている、内陸直下型地震を想定した「G1スペクトルII適合波」(以下、G1−L2波と言う。)にて検討した。図6には時間に対する加速度、図7には時間に対する速度、図8にはフーリエスペクトル、そして、図9には擬似速度応答スペクトルを、それぞれ示す。
【0048】
(2)2次元FEMモデル化条件
本実施例では、地下通路と隣接建物との接続部に生じる変形量を調べるために、地下道の軸垂直方向を解析対象とした。
【0049】
また、隣接建物からの反射波、解析モデルの側面および底面が、境界であると認識されての反射が発生しないようなFEMモデルとしている。具体的には、隣接建物からの反射波が十分に減衰する程度の距離を確保した。また、解析モデルの側面にはエネルギー伝達面を設ける一方で、解析モデルの底面には粘性境界を設けることにより、解析モデルの側面および底面からの反射波の影響が生じないようにした。さらに、周波数領域における複素応答法を採用し、本来は非線形である地盤を等価線形性であるようにした。
【0050】
隣接建物としては、平面形状を縦50m×横50m程度とし、地上21階の鉄骨造ビルを想定し、基礎部分の並進(スウェイ)および回転(ロッキング)を考慮した2質点3自由度の解析モデルであって、ひずみレベルに応じた等価な線形モデルとした。線形モデルは、非線形復元力特性を設定し、直接積分法による非線形解析を別途実施し、その結果より設定した。2質点3自由度モデルのスウェイバネおよびロッキングばねは、別途実施するインピーダンス解析の結果により、各値を設定した。また、2質点3自由度モデルの入力動は、建物の埋め込みを考慮した有効入力動と別途算定して設定した。
【0051】
表1には、入力した地盤物性値を示す。地盤物性値は、札幌市地下通路の建設予定地で実施されたPS検層を元にして設定した。PS検層は、地層の弾性波(P波およびS波)の速度を測定する方法であり、震源を地表に設置し、孔井内の孔壁に密着させた受震器でその波動を記録するダウンホール式のPS検層で測定した。各深度で得られた初動到達時間を縦に深度軸、横に時間軸とする図にプロットして走時曲線図を作成し、補正を加えて地層の弾性波の速度を算出した結果を表1に示す。
【0052】
【表1】
【0053】
図10に地下通路の片側にビルが連立している場合における解析モデルを示す。また、図8には、GI−L2波により図7の地下通路に生じる最大変位分布を示す。図11より、連絡通路とビルとの接続点で最大歪みが発生することがわかる。
【0054】
図10の解析モデルにてGI−L2波により地下連絡通路と隣接建物の間に生じる最大変位量を、本発明にかかる免震ジョイントを導入した場合および導入しなかった場合についてそれぞれ実施例1および比較例1として表2に示す。
【0055】
【表2】
【0056】
比較例1では、ビル側の接続部分にて最大歪みが発生し、その相対変位量は約22mmである。これは、地下通路の壁を圧縮破壊もしくはせん断破壊させるのに十分な変位である。しかし、実施例1では、免震ジョイントを導入することにより、免震ジョイントを導入しない場合と比べて、最大相対変位量が約1割減少している。
【0057】
なお、本発明に係る免震ジョイントの特有の機能は、より詳細には、図13〜図21に示すとおりである。
【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明に係る免震ジョイントは、地下構造物等の建造物に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】本発明の実施の形態に係る免震ジョイントが用いられる地下構造物を上空から見た際の平面図である。
【図2】図1のA−A線を含む紙面に垂直な平面にて切断した場合における断面図である。
【図3】図1のB−B線を含む紙面に垂直な平面にて切断した場合における断面図である。
【図4】図2が示す免震ジョイントのうち、地下構造物床下側にある免震ジョイントを拡大した拡大断面図である。
【図5】本実施の形態に係る免震ジョイントを施工する工程を説明するフローチャートである。
【図6】実施例にて用いた想定地震動の加速度を示すグラフである。
【図7】実施例にて用いた想定地震動の速度を示すグラフである。
【図8】実施例にて用いた想定地震動のフーリエスペクトルを示すグラフである。
【図9】実施例にて用いた想定地震動の擬似速度応答を示すグラフである。
【図10】地下通路の片側にビルが連立している場合における解析モデルを示す。
【図11】地下通路の片側にビルが連立している場合における解析結果を示す。
【図12】従来のジョイントの構成を示す断面図である。
【図13】接続部分の設計と性能設定に関する検討結果をより詳細に述べたものである。
【図14】接続部分の設計と性能設定に関する検討結果をより詳細に述べたものである。
【図15】接続部分の設計と性能設定に関する検討結果をより詳細に述べたものである。
【図16】接続部分の設計と性能設定に関する検討結果をより詳細に述べたものである。
【図17】接続部分の設計と性能設定に関する検討結果をより詳細に述べたものである。
【図18】接続部分の設計と性能設定に関する検討結果をより詳細に述べたものである。
【図19】接続部分の設計と性能設定に関する検討結果をより詳細に述べたものである。
【図20】接続部分の設計と性能設定に関する検討結果をより詳細に述べたものである。
【図21】接続部分の設計と性能設定に関する検討結果をより詳細に述べたものである。
【符号の説明】
【0060】
1…地下歩道(地下構造物)
2…連絡通路(地下構造物)
4…免震ジョイント
6…混合組成物の硬化層
7…止水板
8…シーリング材層
9…側壁
20…コンクリート壁(接続部分の壁部材)
【技術分野】
【0001】
本発明は、地下構造物同士の接続部分に設けられる免震ジョイントに関する。
【背景技術】
【0002】
地震の際には、軟質部分と硬質部分の境界は、振動特性が異なるために、極めて大きな変位で伸縮を繰り返すことがわかっている。また、地下構造物としての地下通路とそこに隣接するビルの地下部との間も、人工的に作られた軟質部分と硬質部分の境界である。なぜなら、高層建築物の地下部は、極めて剛性が高いので地中部においては地盤を拘束するが、地下通路は、大量の土砂を取り除いて形成されているので質量および剛性が共に小さいためである。
【0003】
一方、これまでの地下構造物は、硬質のアスファルト材を地下構造物の周囲に配置することにより、強度を向上させて耐震対策としてきた。しかし、硬質材料のみで地下構造物を構成すると、地震等において大きな変位の伸縮に追随できずに地下構造物が破壊に至る可能性が高い。特に、軟質部分と硬質部分の境界は、極めて大きな変位で伸縮を繰り返すために、破壊されやすい。また、壁面の破壊により、地下水等が地下構造物の内部に入り込むという問題がある。
【0004】
そこで、従来、地震により最も破壊されやすい部分には、止水板を備えるジョイント50を設けている。図12には、従来のジョイント50の構成を示す。従来のジョイント50は、地下構造物のコンクリート壁60の内壁側に地下構造物への浸水を防ぐための伸縮可能な止水板51を設ける。そして、通常、伸縮目地として用いられるエラスタイト52にて土砂70の側を充填することにより、ジョイント50を構成している。(例えば、特許文献1参照。)
【0005】
【特許文献1】特開2007−197927号公報(段落番号0002等)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、上述のジョイントには以下のような問題がある。まず、エラスタイトは、高周波数の伸縮および大きな伸縮には対応できずに破壊に至るという問題である。特に、大きな引張変位には対応できないため、地震による伸縮で地下構造物に亀裂が生じ、最悪の場合には地下構造物が破壊に至るのを防止できない。さらに、軟質部分と硬質部分の境界においては、地震による伸縮が大きいために、大きな変位にも耐えうる高価な伸縮可撓性の止水板を設ける必要がある。
【0007】
そこで、本発明者らは鋭意検討の末、アスファルト系乳剤、硬化材および高吸水性材料を含む混合組成物の硬化層が、高周波数の圧縮および引張による変位に耐えうることを見い出し、当該混合組成物の硬化層をジョイントに採用することを提案し、本発明の完成に至った。
【0008】
本発明は、振動特性が大きく異なる部位において、大きな圧縮および引張変位を許容できる安価な免震ジョイントを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
かかる目的を達成するため、振動特性の異なる部位同士の接続部分の壁部材に設けられる免震ジョイントであって、アスファルト乳剤、硬化材および高吸水性材料を含む混合組成物の硬化層を壁部材の間隙に介在させてなる免震ジョイントとしている。
【0010】
このような免震ジョイントとすることにより、大きな圧縮および引張変位に対応できる安価な免震ジョイントとすることができる。それは、アスファルト乳剤、硬化材および高吸水性材料を含む混合組成物は、幅方向の圧縮力あるいは引張力に対して、それぞれ約0.5倍〜1.5倍程度の幅に変形でき、かつ、高周波数の変位移動に追随できる特異な物性を有するためである。また、当該混合組成物自体が吸水性を有し、防水性にも優れているため、地下構造物内への漏水の防止効果も得ることができる。さらに、当該混合組成物は、アスファルト乳剤を含むものであるため、アスファルト等との界面における密着性も良好であり、施工が簡単である。
【0011】
また、別の発明では、上述の発明に加えて、接続部位は、地下構造物と高層建築物の地下埋設部分との接続部であるものとしている。
【0012】
このような部位に免震ジョイントを用いることにより、効果的に耐震性能を付与することができる。高層建築物の地下部は、極めて剛性が高いので地中部においては地盤を拘束するが、一方、地下通路は、大量の地盤質量を取り除いて形成されているので質量および剛性が共に小さいことから振動幅が大きくなる。したがって、高層建築物と地下通路との接続部では、地震による伸縮が最も大きく、大きなゆがみが集中する部位となることが、本発明者らにより解析された。このような伸縮幅の最も大きい箇所にて振動を吸収できる免震ジョイントを用いることにより、他の部分の被害を最小にできる。
【0013】
また、別の発明では、上述の発明に加えて、混合組成物の硬化層よりも地下構造物の内壁側には、伸縮性の止水板を設けるものとしている。
【0014】
このような免震ジョイントとすることにより、たとえ予想される地震等よりも大きな変位量により免震ジョイントが耐えられない事態においても、少なくとも地下構造物内への漏水を防止できる。
【0015】
また、別の発明では、上述の発明に加えて、混合組成物の硬化層を支持する側壁を有し、接続部分に過剰な圧縮力が加わると、側壁は、混合組成物の硬化層の外側に開放される免震ジョイントとしている。
【0016】
このような免震ジョイントとすることにより、地下の土圧により免震ジョイントが変形するのを防ぐことができるが、地震などの異常な応力による変位には対応できる免震ジョイントとすることができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、振動特性の大きく異なる部位において、大きな圧縮および引張変位を許容できる安価な免震ジョイントを提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明の免震ジョイントについて、図面を参照しながら説明する。
【0019】
図1は、本発明の実施の形態に係る免震ジョイントが用いられる地下構造物を上空から見た際の部分透過図である。図2は、図1のA−A線を含む紙面に垂直な平面にて切断した場合における断面図である。図3は、図1のB−B線を含む紙面に垂直な平面にて切断した場合における断面図である。
【0020】
本実施の形態において、地下構造物は、地下鉄経路3と、地下鉄経路3をコの字型に囲むように形成されている地下歩道1と、地下歩道1から地下歩道1の両脇に連立する高層ビル10の地下部に接続される連絡通路2を含む。
【0021】
本実施の形態においては、地下歩道1の幅は、例えば20m程度とすることができ、連絡通路2は、地下歩道1から約5〜6mの長さで設けられて、高層ビル10の地下部分と連接されている。地下歩道1を取り囲む地盤が均一かつ良好である場合には、地下歩道1の内部に大きな振動特性の違いはない。ここで、振動特性の違いとは、振幅の違いおよび振動周期の違いを含む。
【0022】
高層ビル10の地下部分、地下通路1および連絡通路2は、その剛性および質量の違いより振動特性が大きく異なる。このため、地震の際には、高層ビル10の地下部分と連絡通路2、および地下通路1と連絡通路2は、それぞれ互いに接近し、あるいは離れる方向に変位する。したがって、免震ジョイント4は、地下歩道1と連絡通路2との間、および連絡通路2と高層ビル10との間の各接続部分に設ける必要がある。
【0023】
免震ジョイント4は、振動特性の異なる地下構造物間の接続部分(コンクリート壁20)に、コンクリート壁20と同じ厚さで、例えば幅10cmにて環状に設けられる。また、免震ジョイント4は、地下構造物の内壁側(以後、内壁側という。)から順に、シーリング材層8、止水板7、混合組成物の硬化層6、側壁9から構成されている。
【0024】
シーリング材層8は、シーリング材にて構成される。シーリング材は、各種部材間の接合部や隙間(目地)に充填または装着して、気密性を付与する。シーリング材としては、接合、接着、断熱、防音、防振若しくは電気絶縁などの機能を付与する市販のシーリング材を用いることができる。さらに、地下構造物の内壁の美観のために、シーリング材の内壁側の面は、壁紙、タイルあるいは装飾板等により装飾されていても良い。また、シーリング材層8の厚さは、用いるシーリング材の用途あるいは種類に応じて当業者が判断することが好ましい。
【0025】
止水板7は、市販のゴム製止水板から好適に構成される。市販のゴム製止水板は、たとえば、断面が細長状であり、板状部に定着リブ部が設けられ、かつ中央に中空の六角形状のバルブ部が設けられた帯状構造である。伸縮自在な可撓性の止水板と比較して、5倍以上安価であり、かつ、定着リブ部をコンクリート内に埋め込むだけで設置できるため、設置が容易である。
【0026】
混合組成物の硬化層6は、アスファルト乳剤、硬化材および高吸水性材料を主に含む混合組成物からなる。また、その混合組成物の硬化層6は、伸縮率50〜150%の範囲で伸縮自在である。免震ジョイント4は、この実施の形態において、幅10cmにて環状に設けられているため、混合組成物の硬化層6を挟持する両方の地下構造物に引張応力が加わった際に、免震ジョイント4は、15cmまで伸びることができる。
【0027】
混合組成物に含まれるアスファルト乳剤は、蒸発原油精製時の最終段階において、重油を減圧蒸留して得られるストレートアスファルト、特殊乳化剤および安定剤を含む水溶液中に粒子径が数μmとなるように乳化分散させた水中油滴型エマルジョンである。アスファルト乳剤としては、市販のものを用いることができるが、例えば、ノニオンタイプのアスファルト乳剤は、セメント、フィラーおよび各種混和剤等と均一混合が可能できるため、好適に用いられる。
【0028】
混合組成物に含まれる硬化材としては、市販されているセメント、石膏を用いることができる。具体的には、普通ポルトランドセメント、超早強ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント、中庸熱ポルトランドセメント、高炉セメント、シリカセメントあるいはフライアッシュセメント等を用いることができる。その中でも、早強ポルトランドセメントは、初期に高強度を発現できるために、好適に用いられる。硬化材は、混合組成物の強度を向上させるために用いられ、アスファルト乳剤100重量%に対し、20〜40重量%混練されることが好ましい。
【0029】
混合組成物に含まれる高吸水性材料としては、市販されているエチルセルロース系あるいはヒドロキシエチルセルロース系等のセルロース系粉末、アクリル系粉末、植物性繊維、若しくはポリアクリル酸ナトリウム等の高吸収性ポリマーを用いることができる。その中でも、高吸水性ポリマーを好適に用いることができる。
【0030】
また、高吸水性ポリマーとしては、粉末状のものを用いると、混合組成物がゲル化するまでに時間がかかると共に、柔らかくなりすぎるため、液状の高吸水性ポリマーを用いることが好ましい。具体的には、油中に数ミクロンの球状等の高吸水性ポリマーを分散させたエマルジョン(油中水滴型エマルジョン)を好適に用いることができる。このようなエマルジョンが水中に分散されると、油と吸水性ポリマーとの間で相転換を生じ、吸水性ポリマーは、速やかに水を吸収できる。また、油中水滴型エマルジョンを用いることにより、吸水性ポリマーを水中に均一に分散できる。したがって、アスファルト乳剤と硬化材との混合物中に、油中水滴型エマルジョンを分散させると、高吸水性ポリマーがアスファルト乳剤中の水を吸水するため、混合組成物を増粘し、ゲル化させることができる。なお、高吸水性材料は、必要な粘度および物性に応じて、アスファルト乳剤100重量%に対し、3〜10重量%混練されることが好ましい。
【0031】
アスファルト乳剤、硬化材および高吸水性材料を主に含む混合組成物は、直射日光が当たらず、かつ地下水が存在する地下にて好適に用いられる。地上で用いる場合には、高吸水性材料として用いられるポリアクリル酸ナトリウムが、直射日光中の紫外線によりポリアクリル酸ソーダに分解されるため、混合組成物中に水分を保持できなくなる。また、混合組成物は、乾燥状態の場所にて用いられると、高吸水性材料中の水分が失われてしまうため、混合組成物が高硬度に硬化する傾向がある。
【0032】
また、上述の混合組成物の硬化層6は、アスファルト乳剤、硬化材を主に含むため、コンクリート壁20との間の密着性が高い。したがって、例えば弾性体や発泡材料などの衝撃吸収体を免震ジョイント4の一部に用いる場合に必要となるコンクリート壁20への衝撃吸収体の取り付け作業が必要なくなる。したがって、作業効率を向上させることができる。また、混合組成物の硬化層6自体に防水性があるため、止水板がなくても止水機能が得られる。
【0033】
図3に示す側壁9は、土圧に対して免震ジョイント4が不必要に変形することを防ぐために用いられる。しかし、混合組成物の硬化層6は、地震などにおいて変形することにより、生じた変位を許容する必要がある。したがって、地震等により過剰な衝撃が免震ジョイント4に加えられると、側壁9が免震ジョイント4の土砂200側(すなわち、環状に形成される免震ジョイント4の外側)に開くように、蝶番(不図示)を取り付けてある。側壁9としては、例えば、ベニヤ板に蝶番を取り付けたものを用いることができる。
【0034】
以上のような構成を有する免震ジョイント4の施工方法について、以下に説明する。図5は、本実施の形態に係る免震ジョイント4の施工方法を説明するフローチャートである。
【0035】
まず、地下構造物のコンクリート壁20の部分に免震ジョイント4を設置するために設けられた空隙部の内壁側に、止水板7を設置する(ステップS101)。具体的には、止水板7を配置し、止水板7のリブ部をコンクリート等により埋設し固定することにより、止水板7を設置できる。
【0036】
次に、型枠を内壁側に、側壁9を土砂200側に設置する(ステップS102)。型枠としては、ベニヤ板を好適に用いることができる。土砂と接する面に配置する側壁9には、蝶番を取り付けてあるベニヤ板を用いることができる。側壁9および型枠は、混合組成物がゲル化するまでの成形用の型としての役割を有する。また、混合組成物を注入する工程のために、少なくとも1箇所の注入口を設けておく。
【0037】
次に、側壁9と地下構造物のコンクリート壁20との間の空間に、混合組成物を注入する(ステップS103)。具体的には、アスファルト乳剤および硬化材を混合した液体と高吸水性材料とを混合した混合組成物を攪拌後で、かつそれらが完全にゲル化する前に、ポンプを用いて注入口より注入する。そして、混合組成物が完全にゲル化し、外部の水に溶解しない状態になるまで、約7日放置する(ステップS104)。
【0038】
そして、混合組成物が完全にゲル化して混合組成物の硬化層6となった後に、型枠を取り外す(ステップS105)。その後、止水板7の内壁側を、シーリング材で埋めることにより、シーリング材層8を形成する(ステップS105)。
【0039】
以上のようにして、免震ジョイント4が施工される。
【0040】
以上、本発明の一実施の形態について説明したが、本発明は、上述の形態に限定されることなく、種々変形した形態にて実施可能である。
【0041】
例えば、上述の実施の形態では、土砂200と接する面のみ側壁9を有し、一方、地下構造物の内壁側には側壁9を配置しないものとしているが、土砂200側および地下構造物の内壁側の両方に側壁9を有する構造でも良い。しかし、内壁側の外観を良好にするためには、内壁側には側壁9を設けない方が良い。
【0042】
また、上述の実施の形態では、混合組成物が完全にゲル化した後には、地下構造物の内壁側の型枠を取り外しているが、そのまま残しても良い。また、地下構造物の内壁側の側壁9には蝶番を設けずに、土砂200側の側壁9のみに蝶番を設けても良い。
【0043】
また、上述の実施の形態では、側壁9の形態は、パネル板に蝶番を設けた形態としているが、他の形態でも良い。例えば、側壁9として、ある一定以上の応力に対してのみ破損する膜等を用いてもよい。
【0044】
また、上述の実施の形態では、側壁9の土砂200側の地盤は柔らかいものと仮定しているので、地震等の応力に対して側壁9は、土砂200側へ開くことができる。しかし、地盤が固い部位に免震ジョイント4を用いる場合には、例えば、側壁9の土砂200側に、変形可能な弾性体等を配置したり、あるいは空間を設けてもよい。
【0045】
また、上述の実施の形態では、地下歩道1を取り囲む地盤は均一かつ良好であるため、地震により最も大きな伸縮が生じると想定される場所は連絡通路2と高層ビル10との接続部分である。しかし、地下歩道1を取り囲む地盤が均一でない場所において、例えば、軟質地盤と硬質地盤との境界に地下構造物を建築する場合には、連絡通路2と高層ビル10との接続部分以外に、地盤急変部にも本発明の免震ジョイントを設けることができる。
【実施例】
【0046】
次に、免震ジョイントを地下通路と高層建築物の地下埋設部分との接続部に設けた際の効果を、有限要素法(FEM)モデルを用いて、建設予定の札幌市地下通路について解析を行った結果について説明する。
【0047】
(1)想定地および想定地震動
本解析では、建設予定の札幌地下通路を解析対称とした。また、想定地震動として、鉄道局が定めている、内陸直下型地震を想定した「G1スペクトルII適合波」(以下、G1−L2波と言う。)にて検討した。図6には時間に対する加速度、図7には時間に対する速度、図8にはフーリエスペクトル、そして、図9には擬似速度応答スペクトルを、それぞれ示す。
【0048】
(2)2次元FEMモデル化条件
本実施例では、地下通路と隣接建物との接続部に生じる変形量を調べるために、地下道の軸垂直方向を解析対象とした。
【0049】
また、隣接建物からの反射波、解析モデルの側面および底面が、境界であると認識されての反射が発生しないようなFEMモデルとしている。具体的には、隣接建物からの反射波が十分に減衰する程度の距離を確保した。また、解析モデルの側面にはエネルギー伝達面を設ける一方で、解析モデルの底面には粘性境界を設けることにより、解析モデルの側面および底面からの反射波の影響が生じないようにした。さらに、周波数領域における複素応答法を採用し、本来は非線形である地盤を等価線形性であるようにした。
【0050】
隣接建物としては、平面形状を縦50m×横50m程度とし、地上21階の鉄骨造ビルを想定し、基礎部分の並進(スウェイ)および回転(ロッキング)を考慮した2質点3自由度の解析モデルであって、ひずみレベルに応じた等価な線形モデルとした。線形モデルは、非線形復元力特性を設定し、直接積分法による非線形解析を別途実施し、その結果より設定した。2質点3自由度モデルのスウェイバネおよびロッキングばねは、別途実施するインピーダンス解析の結果により、各値を設定した。また、2質点3自由度モデルの入力動は、建物の埋め込みを考慮した有効入力動と別途算定して設定した。
【0051】
表1には、入力した地盤物性値を示す。地盤物性値は、札幌市地下通路の建設予定地で実施されたPS検層を元にして設定した。PS検層は、地層の弾性波(P波およびS波)の速度を測定する方法であり、震源を地表に設置し、孔井内の孔壁に密着させた受震器でその波動を記録するダウンホール式のPS検層で測定した。各深度で得られた初動到達時間を縦に深度軸、横に時間軸とする図にプロットして走時曲線図を作成し、補正を加えて地層の弾性波の速度を算出した結果を表1に示す。
【0052】
【表1】
【0053】
図10に地下通路の片側にビルが連立している場合における解析モデルを示す。また、図8には、GI−L2波により図7の地下通路に生じる最大変位分布を示す。図11より、連絡通路とビルとの接続点で最大歪みが発生することがわかる。
【0054】
図10の解析モデルにてGI−L2波により地下連絡通路と隣接建物の間に生じる最大変位量を、本発明にかかる免震ジョイントを導入した場合および導入しなかった場合についてそれぞれ実施例1および比較例1として表2に示す。
【0055】
【表2】
【0056】
比較例1では、ビル側の接続部分にて最大歪みが発生し、その相対変位量は約22mmである。これは、地下通路の壁を圧縮破壊もしくはせん断破壊させるのに十分な変位である。しかし、実施例1では、免震ジョイントを導入することにより、免震ジョイントを導入しない場合と比べて、最大相対変位量が約1割減少している。
【0057】
なお、本発明に係る免震ジョイントの特有の機能は、より詳細には、図13〜図21に示すとおりである。
【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明に係る免震ジョイントは、地下構造物等の建造物に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】本発明の実施の形態に係る免震ジョイントが用いられる地下構造物を上空から見た際の平面図である。
【図2】図1のA−A線を含む紙面に垂直な平面にて切断した場合における断面図である。
【図3】図1のB−B線を含む紙面に垂直な平面にて切断した場合における断面図である。
【図4】図2が示す免震ジョイントのうち、地下構造物床下側にある免震ジョイントを拡大した拡大断面図である。
【図5】本実施の形態に係る免震ジョイントを施工する工程を説明するフローチャートである。
【図6】実施例にて用いた想定地震動の加速度を示すグラフである。
【図7】実施例にて用いた想定地震動の速度を示すグラフである。
【図8】実施例にて用いた想定地震動のフーリエスペクトルを示すグラフである。
【図9】実施例にて用いた想定地震動の擬似速度応答を示すグラフである。
【図10】地下通路の片側にビルが連立している場合における解析モデルを示す。
【図11】地下通路の片側にビルが連立している場合における解析結果を示す。
【図12】従来のジョイントの構成を示す断面図である。
【図13】接続部分の設計と性能設定に関する検討結果をより詳細に述べたものである。
【図14】接続部分の設計と性能設定に関する検討結果をより詳細に述べたものである。
【図15】接続部分の設計と性能設定に関する検討結果をより詳細に述べたものである。
【図16】接続部分の設計と性能設定に関する検討結果をより詳細に述べたものである。
【図17】接続部分の設計と性能設定に関する検討結果をより詳細に述べたものである。
【図18】接続部分の設計と性能設定に関する検討結果をより詳細に述べたものである。
【図19】接続部分の設計と性能設定に関する検討結果をより詳細に述べたものである。
【図20】接続部分の設計と性能設定に関する検討結果をより詳細に述べたものである。
【図21】接続部分の設計と性能設定に関する検討結果をより詳細に述べたものである。
【符号の説明】
【0060】
1…地下歩道(地下構造物)
2…連絡通路(地下構造物)
4…免震ジョイント
6…混合組成物の硬化層
7…止水板
8…シーリング材層
9…側壁
20…コンクリート壁(接続部分の壁部材)
【特許請求の範囲】
【請求項1】
振動特性の異なる部位同士の接続部分の壁部材に設けられる免震ジョイントであって、
アスファルト乳剤、硬化材および高吸水性材料を含む混合組成物の硬化層を上記壁部材の間隙に介在させてなることを特徴とする免震ジョイント。
【請求項2】
前記接続部分は、地下構造物と高層建築物の地下埋設部分との接続部であることを特徴とする請求項1に記載の免震ジョイント。
【請求項3】
前記混合組成物の硬化層よりも前記地下構造物の内壁側には、
伸縮性の止水板を設けることを特徴とする請求項1または2に記載の免震ジョイント。
【請求項4】
前記混合組成物の硬化層を支持する側壁を有し、
前記接続部分に過剰な圧縮力が加わると、当該側壁は、前記混合組成物の硬化層の外側に開放されることを特徴とする請求項1から3のいずれか1つに記載の免震ジョイント。
【請求項1】
振動特性の異なる部位同士の接続部分の壁部材に設けられる免震ジョイントであって、
アスファルト乳剤、硬化材および高吸水性材料を含む混合組成物の硬化層を上記壁部材の間隙に介在させてなることを特徴とする免震ジョイント。
【請求項2】
前記接続部分は、地下構造物と高層建築物の地下埋設部分との接続部であることを特徴とする請求項1に記載の免震ジョイント。
【請求項3】
前記混合組成物の硬化層よりも前記地下構造物の内壁側には、
伸縮性の止水板を設けることを特徴とする請求項1または2に記載の免震ジョイント。
【請求項4】
前記混合組成物の硬化層を支持する側壁を有し、
前記接続部分に過剰な圧縮力が加わると、当該側壁は、前記混合組成物の硬化層の外側に開放されることを特徴とする請求項1から3のいずれか1つに記載の免震ジョイント。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図20】
【図21】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図18】
【図19】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図20】
【図21】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図18】
【図19】
【公開番号】特開2009−52233(P2009−52233A)
【公開日】平成21年3月12日(2009.3.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−218406(P2007−218406)
【出願日】平成19年8月24日(2007.8.24)
【出願人】(591123724)札幌市 (4)
【出願人】(397028016)株式会社日水コン (18)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年3月12日(2009.3.12)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年8月24日(2007.8.24)
【出願人】(591123724)札幌市 (4)
【出願人】(397028016)株式会社日水コン (18)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]