免震建物の構築方法、及び免震建物
【課題】免震建物の構築方法において、免震装置起因の地上階の建築仕様の制約を緩和して、地上階の設計自由度を高める。
【解決手段】地下階を有する既存建物の地下躯体を利用して免震建物を構築する方法である。前記既存建物の地上躯体を解体する地上躯体解体工程と、前記既存建物の地下躯体のうちの少なくとも一つの地下階を残置利用しながら前記地下躯体の上部の一部を解体して前記地下躯体を改造する地下躯体改造工程と、前記上部の一部が解体されて形成された地下空間に免震装置を配しつつ、前記免震装置を前記地下躯体に支持させる免震装置設置工程と、地上階を少なくとも有し、前記免震装置を介して前記地下躯体に免震支持された地上側躯体を形成する地上側躯体形成工程と、を有する。
【解決手段】地下階を有する既存建物の地下躯体を利用して免震建物を構築する方法である。前記既存建物の地上躯体を解体する地上躯体解体工程と、前記既存建物の地下躯体のうちの少なくとも一つの地下階を残置利用しながら前記地下躯体の上部の一部を解体して前記地下躯体を改造する地下躯体改造工程と、前記上部の一部が解体されて形成された地下空間に免震装置を配しつつ、前記免震装置を前記地下躯体に支持させる免震装置設置工程と、地上階を少なくとも有し、前記免震装置を介して前記地下躯体に免震支持された地上側躯体を形成する地上側躯体形成工程と、を有する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地下階を有する既存建物の地下躯体を利用して免震建物を構築する方法、及び免震建物に関する。
【背景技術】
【0002】
既存建物の立設場所に免震建物を新築する場合には、通常、既存建物の地上躯体及び地下躯体の両者を解体して、しかる後に、新しく地下躯体と地上躯体とを構築する。但し、この場合には、地上躯体及び地下躯体の解体に伴って解体ガラ等の多くの産業廃棄物が発生し、その処理が問題となることがある。また、地下躯体の解体に伴って、その振動や騒音が周囲に伝播して問題となることもある。
この点につき、特許文献1には、既存建物の地下躯体を利用して免震建物を構築することが開示されている。すなわち、先ず、既存建物の地上躯体については解体するが、地下躯体について解体せずに残置する。そして、その地下躯体から柱を上方に延設して、当該柱に免震装置を配置し、しかる後に、免震装置の上方に、新たに地上躯体を構築して免震装置に支持させる。
【0003】
そして、このような構築方法によれば、地下躯体分の解体ガラを削減できるとともに、地下躯体の解体工事に付随する振動・騒音の問題も解決可能である。
更には、既存建物の地下躯体の地下階を、新たに構築すべき免震建物の地下階として利用することもできて、免震建物の建設コストの抑制も図れる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002−174051号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、この構築方法では、免震装置は地上に設けられることになる。つまり、建物の地上階の一つ(例えば地上一階)に、免震装置を具備した免震層が配されることになるが、そうすると、当該地上階の一つが商用には使用不可となってデッドスペース化する等、本来商用スペースとして有効活用すべき地上階の建築仕様に大きな制約を課すことになる。
【0006】
本発明は、上記のような従来の問題に鑑みなされたものであって、その目的は、既存建物の地下躯体の地下階を利用することで建設コストを抑えて構築される免震建物に係り、免震装置起因の地上階の建築仕様の制約を緩和して、地上階の設計自由度を高めることにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
かかる目的を達成するために請求項1に示す発明は、
地下階を有する既存建物の地下躯体を利用して免震建物を構築する方法であって、
前記既存建物の地上躯体を解体する地上躯体解体工程と、
前記既存建物の地下躯体のうちの少なくとも一つの地下階を残置利用しながら前記地下躯体の上部の一部を解体して前記地下躯体を改造する地下躯体改造工程と、
前記上部の一部が解体されて形成された地下空間に免震装置を配しつつ、前記免震装置を前記地下躯体に支持させる免震装置設置工程と、
地上階を少なくとも有し、前記免震装置を介して前記地下躯体に免震支持された地上側躯体を形成する地上側躯体形成工程と、を有することを特徴とする。
【0008】
上記請求項1に示す発明によれば、免震装置は、既存建物の地下躯体の改造により形成された地下空間に配され、地上には一部も出ないようになっている。よって、免震装置起因の地上階の建築仕様の制約を緩和できて、地上階の設計自由度を高めることができる。
また、既存建物の地下躯体が具備する地下階の少なくとも一つが、残置利用されるので、その分だけ、免震建物の建設コストを抑えることができる。
【0009】
請求項2に示す発明は、請求項1に記載の免震建物の構築方法であって、
前記既存建物の地下躯体は、複数の地下階を有し、
前記免震装置は、前記既存建物の地下一階に相当する部分に設置され、
前記既存建物の地下躯体のうちで少なくとも地下二階の床部以下の部分は、残置利用されることを特徴とする。
上記請求項2に示す発明によれば、既存建物の地下躯体のうちで少なくとも地下二階の床部以下の部分は、残置利用される。つまり、既存建物の地下躯体のうちで免震装置を配置すべき地下一階の所定部分以外は、概ね残置利用される。よって、既存建物の地下躯体の解体対象範囲を、地下空間に免震装置を設置する必要最小限の範囲に概ね留めることができて、その結果、解体の作業量を大幅に減らすことができる。
【0010】
また、上述のように、既存建物の地下躯体の解体対象範囲を必要最小限の範囲に概ね留めることができるので、既存建物の地下躯体のうちで残置される部分の大きさを、大きく確保できる。その結果、残置される地下躯体の部分の自重でもって、免震建物の構築工事中に地下水等から付与される浮力に効果的に対抗可能となり、結果、浮上防止対策を緩和することができる。
【0011】
更に、既存建物の地下二階の床部は残置される。よって、免震建物の構築工事中に、既存建物の地下躯体の外壁部が土留め壁として機能する際の切梁として、当該地下二階の床部を有効に機能させることができて、結果、切梁支保工を軽減可能となる。
【0012】
請求項3に示す発明は、請求項2に記載の免震建物の構築方法であって、
更に、前記既存建物の地下一階の床部が残置利用されることを特徴とする。
上記請求項3に示す発明によれば、既存建物の地下躯体のうち、地下二階の床部以下の部分だけでなく、地下一階の床部まで残置利用される。よって、既存建物の地下躯体の解体対象範囲を、更に狭い範囲に留めることができて、その結果、解体の作業量のより一層の削減を図れる。
【0013】
また、上述のように既存建物の地下躯体の解体対象範囲をより狭くできるので、既存建物の地下躯体のうちで残置される部分の大きさを、より一層大きく確保できる。その結果、残置される地下躯体の部分の自重でもって、免震建物の構築工事中に地下水等から付与される浮力に、より効果的に対抗可能となる。
更に、残置される地下一階の床部は、前述の地下二階の床部と同様に、免震建物の構築工事中に土留め壁となる既存建物の地下躯体の外壁部を支える切梁として有効に機能し得て、結果、切梁支保工を更に軽減可能となる。
【0014】
請求項4に示す発明は、請求項1乃至3の何れかに記載の免震建物の構築方法であって、
前記地下躯体改造工程にて改造後の地下躯体の床部に、前記免震装置は配置されることを特徴とする。
上記請求項4に示す発明によれば、免震装置は、床部上に設置される。よって、免震建物の完成後の保守点検時に作業員は、床部を作業通路として利用できるので、免震装置の設置位置まで容易且つ安全に到達可能となる。また、点検作業時には床部を作業足場として使用できるので、同作業を安全且つ確実に行うことができる。
【0015】
請求項5に示す発明は、請求項4に記載の免震建物の構築方法であって、
前記免震装置は、前記地下躯体の梁部の直上、又は柱梁仕口部の直上に設置されることを特徴とする。
上記請求項5に示す発明によれば、免震装置から入力される水平力を、地下躯体は、柱梁部で受けることができる。よって、当該水平力は地下躯体の柱部と梁部とで負担することとなり、結果、柱部の水平方向の撓み変形の大幅な抑制を通して、柱部の破損を有効に防ぐことができる。
【0016】
請求項6に示す発明は、地下階を有する既存建物の地下躯体を利用して構築された免震建物であって、
前記既存建物の地下躯体のうちの少なくとも一つの地下階を残置利用しながら前記地下躯体の上部の一部を解体して改造された地下躯体と、
前記上部の一部が解体されて形成された地下空間に配されつつ、前記地下躯体に支持された免震装置と、
地上階を有し、前記免震装置に免震支持された地上側躯体と、を有することを特徴とする。
上記請求項6に示す発明によれば、免震装置は、既存建物の地下躯体の改造により形成された地下空間に配され、地上には一部も出ないようになっている。よって、免震装置起因の地上階の建築仕様の制約を緩和できて、地上階の設計自由度を高めることができる。
また、既存建物の地下躯体が具備する地下階の少なくとも一つが、残置利用されるので、その分だけ、免震建物の建設コストを抑えることができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、既存建物の地下躯体の地下階を利用することで建設コストを抑えて構築される免震建物に係り、免震装置起因の地上階の建築仕様の制約を緩和して、地上階の設計自由度を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1A】第1実施形態の免震建物11の構築方法の説明図である。
【図1B】同説明図である。
【図1C】同説明図である。
【図1D】同説明図である。
【図1E】同説明図である。
【図1F】同説明図である。
【図2A】第2実施形態の免震建物11aの構築方法の説明図である。
【図2B】同説明図である。
【図2C】同説明図である。
【図2D】同説明図である。
【図2E】同説明図である。
【図2F】同説明図である。
【図3A】第3実施形態の免震建物11bの構築方法の説明図である。
【図3B】同説明図である。
【図3C】同説明図である。
【図3D】同説明図である。
【図3E】同説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
===第1実施形態===
図1A乃至図1Fは、第1実施形態の免震建物11の構築方法の説明図である。何れの図も、縦断面視の模式図であるが、図の錯綜を防ぐべく、本来断面部分に示すべきハッチングについては省略している。
この構築方法では、図1Aの既存建物1の地下躯体1dを利用して、図1Fの免震建物11を構築する。すなわち、図1Aのような地上階及び地下階を有する既存建物1の地下躯体1dを利用して、最終的には、図1Fのような地上階を有する地上側躯体11uが地下躯体11dに免震支持された免震建物11を構築する。
【0020】
図1Aに示すように、既存建物1は、地盤G中に埋設された地下躯体1dと、地下躯体1dの上方に設けられた地上躯体1uとを有する。地上躯体1uは、当該地上躯体1uの外形をなす外壁部3,3…を有する。そして、外壁部3,3…によって内方に区画された空間には、床部5、柱部7、及び梁部9がそれぞれ複数設けられ、これにより、複数階の一例として全6階の地上階1F〜6Fが形成され、居室等として使用されている。同様に、地下躯体1dも、当該地下躯体1dの外形をなす外壁部3,3…を有する。そして、外壁部3,3…によって区画された内方空間には、床部5、柱部7、及び梁部9がそれぞれ複数設けられ、これにより、複数階の一例として全5階の地下階B1F〜B5Fが形成され、居室や地下駐車場等として使用されている。なお、地下躯体1dの下部には、地下ピットBPが、地下階の最下階B5Fの下方に隣接して設けられている。地下ピットBPは、例えば複数の横穴状空間Stを有し、給排水管や電線、ガス管等のインフラ設備用スペースとして使用される。
【0021】
この免震建物11の構築方法では、図1Bに示すように、先ず、既存建物1における地上躯体1uを解体する(地上躯体解体工程に相当)。ここで、地上躯体1uと言うのは、地上に位置する躯体のことを言う。そして、この例では、地上一階1Fの床部5の上面は、周囲の地面のレベルGLと同高、若しくはそれよりも若干高い位置に位置している。つまり、床部5及びこの床部5に連接して下方に突出する梁部9が、地上と地下との境界を跨っている場合もあるが、基本的には、当該地上一階1Fの床部5及び梁部9の大半の部分は、地下に位置している。そのため、ここでは、この床部5及び梁部9は、地下躯体1dに属するものとして扱っている。そして、その結果として、上述のように、この時点での解体対象範囲からは、地上一階1Fの床部5及びこの床部5に一体に連接して下方に突出する梁部9の両者は除外されている。
【0022】
但し、この帰属関係は、何等これに限らない。例えば、これら床部5と梁部9とが地上一階1Fを形成するという理由から、地上躯体1uに属するものとして扱っても良く、その場合には、上述の地上躯体1uの解体においては、地上一階1Fの床部5及び梁部9も解体されることになる。
【0023】
ちなみに、この地上躯体1uの解体の前に、地上一階1Fの床部5や地下一階B1Fの床部5を下方から仮設の突っ張り棒部材(不図示)で支保しておいても良く、このようにすれば、地上躯体1uの解体に用いる重機の地上一階1Fの床部5上の走行を、何等問題なく許容することができる。
【0024】
かかる地上躯体1uを解体したら、次に、免震装置70の設置スペースS70を地下に確保すべく、図1Cに示すように、地下躯体1dの上部の一部を解体する改造を行う(地下躯体改造工程に相当)。この例では、地下躯体1dの上部の一部として、図1Bに示す地上一階1Fの床部5と、この床部5に一体に連接して下方に突出する梁部9と、地下一階B1Fの柱部7とを解体して、図1Cのような状態にする。なお、前述したように、地上躯体1uの解体の際に地上一階1Fの床部5や梁部9を解体済みの場合には、この地下躯体1dの上部の一部としては、地下一階B1Fの柱部7だけが解体される。そして、これにより、地下躯体1dの改造が完了する。なお、以下では、図1Cの改造後の地下躯体1dを、改造前の地下躯体1dと区別する意味で、地下躯体11dと言う。なお、この地下躯体11dは、図1Fの免震建物11の地下躯体11dでもある。
【0025】
ここで、上述から明らかなように、既存建物1の地下躯体1dにおける解体対象範囲からは、地下躯体1dの外壁部3及び地下一階B1Fの床部5以下の部分1dpが除外されている。つまり、これらの部分3,1dpは、そのまま残置利用される。よって、解体の作業量を大幅に減らすことができて、建設コストの抑制を図れる。また、地下二階以下の地下階B2F〜B5Fは、図1Fに示す免震建物11の完成後もそのまま新たな地下階(新B1F〜新B4F)として残置利用される。よって、建設コストの更なる抑制を図れる。
【0026】
更には、この工事中においては、図1Cの地下躯体1dの外壁部3は土留め壁として機能するが、その際には、地下一階B1Fの床部5や梁部9を含め、それよりも下方の地下階B2F〜B5Fの各床部5や梁部9は、それぞれ土留め壁たる外壁部3を水平支保する切梁として機能する。よって、切梁支保工を緩和することができる。
【0027】
また、この第1実施形態では、地下躯体1dの解体対象範囲を、地上一階1Fの床部5と、この床部5に一体に連接して下方に突出する梁部9と、地下一階B1Fの柱部7というように、免震装置70の地下空間S70への配置に必要な最小範囲に留めている。よって、既存建物1の地下躯体1dのうちで残置される部分の大きさを大きく確保できて、その結果、この残置される部分の自重でもって、工事中に地下水等から付与される浮力に効果的に対抗可能となり、浮上防止対策を緩和することができる。
【0028】
このようにして地下躯体1dの上部の一部を解体したら、次に、図1Dに示すように、当該解体により形成された地下空間S70に免震装置70を設置する(免震装置設置工程に相当)。この例では、地下一階B1Fの柱部7が解体されて形成された空間に免震装置70が設置される。また、このとき、当該免震装置70は、地下一階B1Fの床部5の上面に設置されて支持される。よって、設置作業者は、当該床部5を作業足場として用いて設置作業を安全に行うことができる。また、当該床部5は、図1Fの免震建物11の完成後においても、免震装置70の定期保守点検作業時に免震装置70の設置場所へ行くための作業通路として、また同点検作業の作業足場として有効に使用され、作業安全性の向上に寄与する。
【0029】
ここで望ましくは、上述の免震装置70は、地下一階B1Fの床部5のなかでも梁部9又は柱梁仕口部Jの直上部分に設置されると良い。図1Dの例では、柱梁仕口部Jの直上に設けられている。そして、当該部分に設置されれば、免震建物11の完成後に免震装置70から入力される水平力を、地下躯体11dは梁部9と柱部7とで受けることができるので、当該水平力による柱部7への曲げモーメントの入力を軽減できる。そして、その結果として、柱部7の水平方向の撓み変形の大幅な抑制を通して、柱部7の破損を有効に防ぐことができる。
【0030】
ちなみに、この例では、梁部9及び柱梁仕口部Jは、床部5と一体化されているため、上述の柱部7の撓み変形は、床部5によっても更に抑制され得るが、当該床部5が無い場合、つまり水平面内の縦横に梁部9のみが格子状に配されている場合においても、梁部9又は柱梁仕口部Jの直上に免震装置70が配置されていれば、相応の柱部7の破損防止効果を得ることができる。
【0031】
また、より望ましくは、図1Dのように全ての免震装置70が、柱梁仕口部Jの直上部分又は梁部9の直上部分に設置されていると良いが、少なくとも一つの免震装置70が柱梁仕口部Jの直上部分又は梁部9の直上部分に設置されていれば、その近傍の柱部7の破損防止効果を得ることができる。よって、幾つかの免震装置70を柱梁仕口部J又は梁部9の直上に配置し、残りの免震装置70を、床部5のうちで柱梁仕口部Jや梁部9の直上以外の部分に配置しても良い。
【0032】
免震装置70としては、例えば積層ゴムや滑り支承、転がり支承が使用される。そして、これにより、図1Fに示すような免震建物11の完成後には、地上側躯体11uは地下躯体11d上にて水平免震されることになる。すなわち、地下躯体11dから地上側躯体11uへの水平方向の地震動の入力が軽減される。
【0033】
このようにして免震装置70を設置したら、次に、図1Eに示すように、免震装置70の上方に、新たに地上一階1Fの床部5及びこの床部5に一体に連接して下方に突出する梁部9を構築し、これにより、梁部9を介して床部5を免震装置70に支持させる。なお、このとき、前述のように、免震装置70は地下空間S70に配置されているので、この地上一階1Fの床部5の上面レベルを、周囲の地面のレベルGLに揃えることができ、或いは仮に高低差があったとしてもそれを若干量に収めることができる。よって、図1Fに示す免震建物11の地上階の設計にあっては、地上一階1Fから最上階12Fまでの全階に亘り、免震装置70がらみの制約から解放されて、地上階を自在に設計可能となる。
【0034】
ちなみに、地下一階B1Fの階高が高い場合には、図1Eの地上一階1Fの床部5の下方に隣接する梁部9と、免震装置70との間に嵩上げ用の柱部(不図示)を介装しても良い。
【0035】
また、この地上一階1Fの床部5及び梁部9は、地下躯体11dの外壁部3に対して縁切り状態となるように、所定隙間δを隔てて設けられている。これにより、地上一階1Fの床部5及び梁部9を含めその上方にこの後で設けられるべき図1Fの地上側躯体11uは、何等干渉無く地下躯体11d上を水平免震されるようになる。
【0036】
そうしたら、図1Fに示すように、この地上一階1Fの床部5の上に、形成すべき地上階の階数に応じた数量及びサイズの柱部7、梁部9、床部5、及び外壁部3を設け、これにより、複数階の一例として全12階の地上階を有した地上側躯体11uが形成される(地上側躯体形成工程に相当)。そして、以上をもって、第1実施形態の免震建物11が完成する。
【0037】
ちなみに、この免震建物11の完成後には、既存建物1において地下一階B1Fであった階に、免震装置70が設置されている。そのため、免震建物11の完成後は、この免震装置70が配置されている地下一階B1Fは免震ピット(免震層)となり、免震建物11の地下階の概念からは外される。従って、この免震建物11は、既存建物1よりも一つだけ地下階の階数が減ることになる。例えば、図1Aの既存建物1において地下二階B2Fや地下三階B3Fであった階が、それぞれ図1Fの免震建物11においては地下一階(新B1F)や地下二階B2F(新B2F)になるといったように、免震建物11の地下階の階番号は、既存建物1の地下階の階番号から一だけ繰り下げ更新されることになる。
【0038】
===第2実施形態===
図2A乃至図2Fは、第2実施形態の免震建物11aの構築方法の説明図である。何れの図も、縦断面視の模式図であるが、図の錯綜を防ぐべく、本来断面部分に示すべきハッチングについては省略している。
前述の第1実施形態では、免震装置70の設置スペースS70を地下に形成すべく、既存建物1の地下躯体1dの解体対象範囲として、地上一階1Fの床部5及びその下方に一体に連接する梁部9、並びに地下一階B1Fの柱部7を指定していたが(図1C)、解体前の図2Aと解体後の図2Bとの対比でわかるように、この第2実施形態では、これらに加えて更に、地下一階B1Fの床部5及びその下方に一体に連接する梁部9にまで解体対象範囲を拡張している点で主に相違する。
【0039】
なお、このようにしている理由は、図2Fの地下躯体11adにおいて新たな地下一階(新B1F)となるべき空間の階高を、図2Aの既存建物1において対応する地下階の階高たる地下二階B2Fの階高よりも大きくするためである。すなわち、図1Fと図2Fとの対比からわかるように、図1Fの第1実施形態の免震建物11と比べて、図2Fの第2実施形態の免震建物11aでは、新たな地下一階(新B1F)の階高が大きくなっている。ちなみに、この階高を大きくするニーズとしては、例えばこの地下一階(新B1F)を地下駐車場として利用するためなどが挙げられる。そして、これ以外の点は、概ね第1実施形態と同様であるため、以下では主に当該相違点について説明し、同内容の説明については省略する。
【0040】
以下、第2実施形態の免震建物11aの構築方法について説明する。
先ず、図2Aに示すように、地上躯体1uを解体する(地上躯体解体工程に相当)。
【0041】
次に、地下躯体1dを改造する(地下躯体改造工程に相当)。すなわち、先ず、図2Bに示すように、地下躯体1dの上部の一部を解体する。ここで、当該「上部の一部」とは、図2Aに示す地上一階1Fの床部5と、この床部5に一体に連接して下方に突出する梁部9と、地下一階B1Fの柱部7と、地下一階B1Fの床部5と、この床部5に一体に連接して下方に突出する梁部9である。従って、この解体により、図2Bのように地下二階B2Fの床部5上には、地下二階B2Fの柱部7及び外壁部3のみが残存した状態となる。そして、これらの残存部分、及び地下躯体1dの地下二階B2Fの床部5以下の部分1dpが、そのまま残置利用される。ちなみに、地下三階以下の地下階B3F〜B5Fは、図2Fの免震建物11aの完成後もそのまま新たな地下階(新B2F〜新B4F)として残置利用される。
【0042】
そうしたら、図2Cに示すように、免震装置70を載置支持するための支持躯体72を地下躯体1dに新設する。この支持躯体72は、地下二階B2Fの階高が拡大するような高さ位置に新設される。例えば、地下二階B2Fの各柱部7の上部に、それぞれ嵩上げ用の柱部7aを継ぎ足し、当該柱部7aに連続させて複数の梁部9aを設け、各梁部9aの梁端を地下躯体1dの外壁部3に接続し、そして梁部9aの上部に一体に床部5aを設けることで、支持躯体72が形成される。そして、この支持躯体72の形成をもって、地下躯体1dの改造が完了し、当該地下躯体1dは、図2Fの免震建物11a用の地下躯体11adとして使用される。なお、同図2Fに示す免震建物11aの完成後には、この支持躯体72の下方に位置する地下二階B2Fが、新たな地下一階(新B1F)として機能するので、階高の拡大された地下一階(新B1F)が形成されたことになる。
【0043】
ちなみに、以降の工事中においては、この支持躯体72は、地下躯体11adの外壁部3を水平支保する切梁としても機能する。
【0044】
また、この図2Cの例では、支持躯体72は梁部9aに加えて床部5aを有し、これにより、第1実施形態の場合と同様に、当該床部5aを、免震装置70の設置作業時の作業通路や作業足場として利用可能としているが、この床部5aは無くても良い。
【0045】
このようにして支持躯体72を新設したら、次に、図2Dに示すように、支持躯体72の上に免震装置70を設置する(免震装置設置工程に相当)。免震装置70の設置位置は、例えば、支持躯体72が具備する柱梁仕口部J又は梁部9aの直上部分に設定される。そして、このようにすれば、支持躯体72の梁部9aの作用に基づいて、前述の第1実施形態の場合と同様の柱部の破損防止効果を、地下二階B2Fの柱部7a,7に対して奏することができる。但し、何等これに限るものでなく、床部5aのうちで柱梁仕口部Jや梁部9a以外の部分に免震装置70を設置しても良い。
【0046】
このようにして免震装置70を設置したら、次に、図2Eに示すように、免震装置70の上方に、新たに地上一階1Fの床部5及びその下方に一体に連接して梁部9を構築し、これにより、梁部9を介して床部5を免震装置70に支持させる。
【0047】
そして、図2Fに示すように、この地上一階1Fの床部5の上に、形成すべき地上階の階数に応じた数量及びサイズの柱部7、梁部9、床部5、及び外壁部3を設け、これにより、複数階の地上階を有した地上側躯体11auが形成される(地上側躯体形成工程に相当)。そして、以上をもって、第2実施形態の免震建物11aが完成する。
【0048】
===第3実施形態===
図3A乃至図3Eは、第3実施形態の免震建物11bの構築方法の説明図である。何れの図も、縦断面視の模式図であるが、図の錯綜を防ぐべく、本来断面部分に示すべきハッチングについては省略している。
前述の第1実施形態では、図1Fに示すように、免震装置70の設置スペースS70を、既存建物1の地下一階B1Fに相当する位置に形成していた。つまり、免震装置70の設置対象階を、既存建物1における地下一階B1Fに設定していたが、何等これに限るものではない。例えば、設置対象階を、最下階B5Fを除く地下二階B2F以下の何れの地下階B2F〜B4Fにしても良い。以下では、その場合の構築方法について、設置対象階を地下二階B2Fにした場合を例に説明する(図3E)。
【0049】
この免震建物11bの構築方法においても、先ず始めに、図3Aに示すように、地上躯体1uを解体する(地上躯体解体工程に相当)。
【0050】
次に、図3Bに示すように、地下躯体1dの上部の一部を解体して改造する(地下躯体改造工程に相当)。ここで、解体前の図3Aとの対比でわかるように、当該「上部の一部」とは、地下躯体1dの外壁部3を除き、地下躯体1dのうちで免震装置70の設置対象階の床部5よりも上方に位置する部分のことである。この例では、上述のように設置対象階が地下二階B2Fであるので、地下二階B2Fの床部5よりも上方に位置する部分が、解体対象となる。より具体的に言えば、図3Aの地上一階1Fの床部5と、この床部5に一体に連接して下方に突出する梁部9と、地下一階B1Fの柱部7と、地下一階B1Fの床部5と、この床部5に一体に連接して下方に突出する梁部9と、地下二階B2Fの柱部7とが、解体対象となる。
【0051】
そして、この解体後には、図3Bに示すように、地下二階B2Fの床部5上には、外壁部3のみが残存した状態となり、これにより、地下躯体1dの改造が完了する。すなわち、この残存部分3、及び地下躯体1dの地下二階B2Fの床部5以下の部分1dpは、図3Eの免震建物11の地下躯体11bdとして残置利用される。
【0052】
そうしたら、図3Cに示すように、地下二階B2Fの床部5の上面に免震装置70を設置する(免震装置設置工程に相当)。
【0053】
次に、図3Dに示すように、免震装置70の上方に、新たに地下一階B1Fの床部5及びその下方に一体に連接して梁部9を構築し、これにより、梁部9を介して床部5を免震装置70に支持させる。
【0054】
そして、この地下一階B1Fの床部5の上に、地下一階B1F及び地上階の階数に応じた数量及びサイズの柱部7、梁部9、床部5、及び外壁部3を設け、これにより、図3Eのような地下一階B1F及び複数階の地上階1F〜12Fを有した地上側躯体11buが形成される(地上側躯体形成工程に相当)。そして、以上をもって、第3実施形態の免震建物11bが完成する。
【0055】
===その他の実施の形態===
以上、本発明の実施形態について説明したが、上記の実施形態は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定して解釈するためのものではない。また、本発明は、その趣旨を逸脱することなく、変更や改良され得ると共に、本発明にはその等価物が含まれるのはいうまでもない。例えば、以下に示すような変形が可能である。
【0056】
上述の実施形態では、既存建物1の地上躯体1u、並びに免震建物11,11a,11bの地上側躯体11u,11au,11buの構造様式について述べていなかったが、これらの躯体1u,11u,11au,11buは、RC造で構築されていても良いし、S造でも良いし、SRC造でも良いし、更には、これらを複合した構造様式でも良い。
【0057】
上述の実施形態では、既存建物1の地下躯体1d、並びに免震建物11,11a,11bの地下躯体11d,11ad,11bdの構造様式について述べていなかったが、これらの躯体1d,11d,11ad,11bdは、地中に設けられることから、発錆の虞の無いRC造又はSRC造で構築されるのが望ましい。
【0058】
上述の実施形態では、既存建物1や免震建物11,11a,11bの地上階や地下階を幾つかの部屋に分割する間仕切り壁を例示してしなかったが、何等これに限るものではなく、間仕切り壁を設けても良い。
【0059】
上述の実施形態では、地下躯体11d,11ad,11bdに対する地上側躯体11u,11au,11buの水平振動を減衰するオイルダンパー等のダンパー部材や、地下躯体11d,11ad,11bdに対する地上側躯体11u,11au,11buの水平位置を基準位置に復帰するバネ等の弾性部材を例示していなかったが、何等これに限るものではなく、これらのダンパー部材や弾性部材を設けても良い。
【0060】
上述の実施形態では、エレベーター等の上下階を繋ぐ昇降手段については例示していなかったが、当該昇降手段としては、エレベーターやエスカレーター、階段等の周知のものを適用可能である。例えば、地上側躯体11u,11au,11bu内には、地上側躯体11u,11au,11buに属する各階を接続するようにエレベーターや階段等を設ければ良く、地下躯体内11d,11ad,11bdには、地下躯体11d,11ad,11bdに属する各階を接続するようにエレベーターや階段等を設ければ良い。また、地下躯体11d,11ad,11bdの階と、この地下躯体11d,11ad,11bdに免震支持された地上側躯体11u,11au,11buの階とを接続する昇降手段についても、免震による地下躯体11d,11ad,11bdと地上側躯体11u,11au,11buとの相対変位を許容した構造の昇降手段を適用すれば、何等問題なく達成可能である。例えば、地上側躯体11u,11au,11buが地下躯体11d,11ad,11bdに水平免震されている場合には、先ず、地下躯体11d,11ad,11bdの最下階から地上側躯体11u,11au,11buの最下階までに跨って、乗り継ぎ用のエレベーターシャフトを各階の床部を貫通して設け、このエレベーターシャフト内の中空空間に、昇降可能に乗り篭を設ける。そして、水平免震に係る地下躯体11d,11ad,11bdと地上側躯体11u,11au,11buとの間の水平相対変位を許容する構造としては、地上側躯体11u,11au,11buの階の床部5に貫通形成されたエレベーターシャフトを通すための孔部とエレベーターシャフトとの間に、想定される水平相対変位以上の隙間を設けることが考えられる。
【0061】
上述の実施形態では、積層ゴムなどの免震装置70によって地上側躯体11u,11au,11buを水平免震する場合を例示したが、何等水平免震に限るものではなく、例えば、鉛直免震すべく鉛直免震装置を適用しても良いし、更に言えば、水平免震及び鉛直免震の両機能を有する三次元免震装置を用いても良い。
【符号の説明】
【0062】
1 既存建物、1d 地下躯体、1dp 部分、1u 地上躯体、
3 外壁部、5 床部、5a 床部、7 柱部、7a 柱部、9 梁部、
11 免震建物、11d 地下躯体、11u 地上側躯体、
11a 免震建物、11ad 地下躯体、11au 地上側躯体、
11b 免震建物、11bd 地下躯体、11bu 地上側躯体、
70 免震装置、72 支持躯体、
J 柱梁仕口部、
BP ピット、St 空間、
S70 設置スペース(地下空間)、
G 地盤、GL 地面のレベル
【技術分野】
【0001】
本発明は、地下階を有する既存建物の地下躯体を利用して免震建物を構築する方法、及び免震建物に関する。
【背景技術】
【0002】
既存建物の立設場所に免震建物を新築する場合には、通常、既存建物の地上躯体及び地下躯体の両者を解体して、しかる後に、新しく地下躯体と地上躯体とを構築する。但し、この場合には、地上躯体及び地下躯体の解体に伴って解体ガラ等の多くの産業廃棄物が発生し、その処理が問題となることがある。また、地下躯体の解体に伴って、その振動や騒音が周囲に伝播して問題となることもある。
この点につき、特許文献1には、既存建物の地下躯体を利用して免震建物を構築することが開示されている。すなわち、先ず、既存建物の地上躯体については解体するが、地下躯体について解体せずに残置する。そして、その地下躯体から柱を上方に延設して、当該柱に免震装置を配置し、しかる後に、免震装置の上方に、新たに地上躯体を構築して免震装置に支持させる。
【0003】
そして、このような構築方法によれば、地下躯体分の解体ガラを削減できるとともに、地下躯体の解体工事に付随する振動・騒音の問題も解決可能である。
更には、既存建物の地下躯体の地下階を、新たに構築すべき免震建物の地下階として利用することもできて、免震建物の建設コストの抑制も図れる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002−174051号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、この構築方法では、免震装置は地上に設けられることになる。つまり、建物の地上階の一つ(例えば地上一階)に、免震装置を具備した免震層が配されることになるが、そうすると、当該地上階の一つが商用には使用不可となってデッドスペース化する等、本来商用スペースとして有効活用すべき地上階の建築仕様に大きな制約を課すことになる。
【0006】
本発明は、上記のような従来の問題に鑑みなされたものであって、その目的は、既存建物の地下躯体の地下階を利用することで建設コストを抑えて構築される免震建物に係り、免震装置起因の地上階の建築仕様の制約を緩和して、地上階の設計自由度を高めることにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
かかる目的を達成するために請求項1に示す発明は、
地下階を有する既存建物の地下躯体を利用して免震建物を構築する方法であって、
前記既存建物の地上躯体を解体する地上躯体解体工程と、
前記既存建物の地下躯体のうちの少なくとも一つの地下階を残置利用しながら前記地下躯体の上部の一部を解体して前記地下躯体を改造する地下躯体改造工程と、
前記上部の一部が解体されて形成された地下空間に免震装置を配しつつ、前記免震装置を前記地下躯体に支持させる免震装置設置工程と、
地上階を少なくとも有し、前記免震装置を介して前記地下躯体に免震支持された地上側躯体を形成する地上側躯体形成工程と、を有することを特徴とする。
【0008】
上記請求項1に示す発明によれば、免震装置は、既存建物の地下躯体の改造により形成された地下空間に配され、地上には一部も出ないようになっている。よって、免震装置起因の地上階の建築仕様の制約を緩和できて、地上階の設計自由度を高めることができる。
また、既存建物の地下躯体が具備する地下階の少なくとも一つが、残置利用されるので、その分だけ、免震建物の建設コストを抑えることができる。
【0009】
請求項2に示す発明は、請求項1に記載の免震建物の構築方法であって、
前記既存建物の地下躯体は、複数の地下階を有し、
前記免震装置は、前記既存建物の地下一階に相当する部分に設置され、
前記既存建物の地下躯体のうちで少なくとも地下二階の床部以下の部分は、残置利用されることを特徴とする。
上記請求項2に示す発明によれば、既存建物の地下躯体のうちで少なくとも地下二階の床部以下の部分は、残置利用される。つまり、既存建物の地下躯体のうちで免震装置を配置すべき地下一階の所定部分以外は、概ね残置利用される。よって、既存建物の地下躯体の解体対象範囲を、地下空間に免震装置を設置する必要最小限の範囲に概ね留めることができて、その結果、解体の作業量を大幅に減らすことができる。
【0010】
また、上述のように、既存建物の地下躯体の解体対象範囲を必要最小限の範囲に概ね留めることができるので、既存建物の地下躯体のうちで残置される部分の大きさを、大きく確保できる。その結果、残置される地下躯体の部分の自重でもって、免震建物の構築工事中に地下水等から付与される浮力に効果的に対抗可能となり、結果、浮上防止対策を緩和することができる。
【0011】
更に、既存建物の地下二階の床部は残置される。よって、免震建物の構築工事中に、既存建物の地下躯体の外壁部が土留め壁として機能する際の切梁として、当該地下二階の床部を有効に機能させることができて、結果、切梁支保工を軽減可能となる。
【0012】
請求項3に示す発明は、請求項2に記載の免震建物の構築方法であって、
更に、前記既存建物の地下一階の床部が残置利用されることを特徴とする。
上記請求項3に示す発明によれば、既存建物の地下躯体のうち、地下二階の床部以下の部分だけでなく、地下一階の床部まで残置利用される。よって、既存建物の地下躯体の解体対象範囲を、更に狭い範囲に留めることができて、その結果、解体の作業量のより一層の削減を図れる。
【0013】
また、上述のように既存建物の地下躯体の解体対象範囲をより狭くできるので、既存建物の地下躯体のうちで残置される部分の大きさを、より一層大きく確保できる。その結果、残置される地下躯体の部分の自重でもって、免震建物の構築工事中に地下水等から付与される浮力に、より効果的に対抗可能となる。
更に、残置される地下一階の床部は、前述の地下二階の床部と同様に、免震建物の構築工事中に土留め壁となる既存建物の地下躯体の外壁部を支える切梁として有効に機能し得て、結果、切梁支保工を更に軽減可能となる。
【0014】
請求項4に示す発明は、請求項1乃至3の何れかに記載の免震建物の構築方法であって、
前記地下躯体改造工程にて改造後の地下躯体の床部に、前記免震装置は配置されることを特徴とする。
上記請求項4に示す発明によれば、免震装置は、床部上に設置される。よって、免震建物の完成後の保守点検時に作業員は、床部を作業通路として利用できるので、免震装置の設置位置まで容易且つ安全に到達可能となる。また、点検作業時には床部を作業足場として使用できるので、同作業を安全且つ確実に行うことができる。
【0015】
請求項5に示す発明は、請求項4に記載の免震建物の構築方法であって、
前記免震装置は、前記地下躯体の梁部の直上、又は柱梁仕口部の直上に設置されることを特徴とする。
上記請求項5に示す発明によれば、免震装置から入力される水平力を、地下躯体は、柱梁部で受けることができる。よって、当該水平力は地下躯体の柱部と梁部とで負担することとなり、結果、柱部の水平方向の撓み変形の大幅な抑制を通して、柱部の破損を有効に防ぐことができる。
【0016】
請求項6に示す発明は、地下階を有する既存建物の地下躯体を利用して構築された免震建物であって、
前記既存建物の地下躯体のうちの少なくとも一つの地下階を残置利用しながら前記地下躯体の上部の一部を解体して改造された地下躯体と、
前記上部の一部が解体されて形成された地下空間に配されつつ、前記地下躯体に支持された免震装置と、
地上階を有し、前記免震装置に免震支持された地上側躯体と、を有することを特徴とする。
上記請求項6に示す発明によれば、免震装置は、既存建物の地下躯体の改造により形成された地下空間に配され、地上には一部も出ないようになっている。よって、免震装置起因の地上階の建築仕様の制約を緩和できて、地上階の設計自由度を高めることができる。
また、既存建物の地下躯体が具備する地下階の少なくとも一つが、残置利用されるので、その分だけ、免震建物の建設コストを抑えることができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、既存建物の地下躯体の地下階を利用することで建設コストを抑えて構築される免震建物に係り、免震装置起因の地上階の建築仕様の制約を緩和して、地上階の設計自由度を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1A】第1実施形態の免震建物11の構築方法の説明図である。
【図1B】同説明図である。
【図1C】同説明図である。
【図1D】同説明図である。
【図1E】同説明図である。
【図1F】同説明図である。
【図2A】第2実施形態の免震建物11aの構築方法の説明図である。
【図2B】同説明図である。
【図2C】同説明図である。
【図2D】同説明図である。
【図2E】同説明図である。
【図2F】同説明図である。
【図3A】第3実施形態の免震建物11bの構築方法の説明図である。
【図3B】同説明図である。
【図3C】同説明図である。
【図3D】同説明図である。
【図3E】同説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
===第1実施形態===
図1A乃至図1Fは、第1実施形態の免震建物11の構築方法の説明図である。何れの図も、縦断面視の模式図であるが、図の錯綜を防ぐべく、本来断面部分に示すべきハッチングについては省略している。
この構築方法では、図1Aの既存建物1の地下躯体1dを利用して、図1Fの免震建物11を構築する。すなわち、図1Aのような地上階及び地下階を有する既存建物1の地下躯体1dを利用して、最終的には、図1Fのような地上階を有する地上側躯体11uが地下躯体11dに免震支持された免震建物11を構築する。
【0020】
図1Aに示すように、既存建物1は、地盤G中に埋設された地下躯体1dと、地下躯体1dの上方に設けられた地上躯体1uとを有する。地上躯体1uは、当該地上躯体1uの外形をなす外壁部3,3…を有する。そして、外壁部3,3…によって内方に区画された空間には、床部5、柱部7、及び梁部9がそれぞれ複数設けられ、これにより、複数階の一例として全6階の地上階1F〜6Fが形成され、居室等として使用されている。同様に、地下躯体1dも、当該地下躯体1dの外形をなす外壁部3,3…を有する。そして、外壁部3,3…によって区画された内方空間には、床部5、柱部7、及び梁部9がそれぞれ複数設けられ、これにより、複数階の一例として全5階の地下階B1F〜B5Fが形成され、居室や地下駐車場等として使用されている。なお、地下躯体1dの下部には、地下ピットBPが、地下階の最下階B5Fの下方に隣接して設けられている。地下ピットBPは、例えば複数の横穴状空間Stを有し、給排水管や電線、ガス管等のインフラ設備用スペースとして使用される。
【0021】
この免震建物11の構築方法では、図1Bに示すように、先ず、既存建物1における地上躯体1uを解体する(地上躯体解体工程に相当)。ここで、地上躯体1uと言うのは、地上に位置する躯体のことを言う。そして、この例では、地上一階1Fの床部5の上面は、周囲の地面のレベルGLと同高、若しくはそれよりも若干高い位置に位置している。つまり、床部5及びこの床部5に連接して下方に突出する梁部9が、地上と地下との境界を跨っている場合もあるが、基本的には、当該地上一階1Fの床部5及び梁部9の大半の部分は、地下に位置している。そのため、ここでは、この床部5及び梁部9は、地下躯体1dに属するものとして扱っている。そして、その結果として、上述のように、この時点での解体対象範囲からは、地上一階1Fの床部5及びこの床部5に一体に連接して下方に突出する梁部9の両者は除外されている。
【0022】
但し、この帰属関係は、何等これに限らない。例えば、これら床部5と梁部9とが地上一階1Fを形成するという理由から、地上躯体1uに属するものとして扱っても良く、その場合には、上述の地上躯体1uの解体においては、地上一階1Fの床部5及び梁部9も解体されることになる。
【0023】
ちなみに、この地上躯体1uの解体の前に、地上一階1Fの床部5や地下一階B1Fの床部5を下方から仮設の突っ張り棒部材(不図示)で支保しておいても良く、このようにすれば、地上躯体1uの解体に用いる重機の地上一階1Fの床部5上の走行を、何等問題なく許容することができる。
【0024】
かかる地上躯体1uを解体したら、次に、免震装置70の設置スペースS70を地下に確保すべく、図1Cに示すように、地下躯体1dの上部の一部を解体する改造を行う(地下躯体改造工程に相当)。この例では、地下躯体1dの上部の一部として、図1Bに示す地上一階1Fの床部5と、この床部5に一体に連接して下方に突出する梁部9と、地下一階B1Fの柱部7とを解体して、図1Cのような状態にする。なお、前述したように、地上躯体1uの解体の際に地上一階1Fの床部5や梁部9を解体済みの場合には、この地下躯体1dの上部の一部としては、地下一階B1Fの柱部7だけが解体される。そして、これにより、地下躯体1dの改造が完了する。なお、以下では、図1Cの改造後の地下躯体1dを、改造前の地下躯体1dと区別する意味で、地下躯体11dと言う。なお、この地下躯体11dは、図1Fの免震建物11の地下躯体11dでもある。
【0025】
ここで、上述から明らかなように、既存建物1の地下躯体1dにおける解体対象範囲からは、地下躯体1dの外壁部3及び地下一階B1Fの床部5以下の部分1dpが除外されている。つまり、これらの部分3,1dpは、そのまま残置利用される。よって、解体の作業量を大幅に減らすことができて、建設コストの抑制を図れる。また、地下二階以下の地下階B2F〜B5Fは、図1Fに示す免震建物11の完成後もそのまま新たな地下階(新B1F〜新B4F)として残置利用される。よって、建設コストの更なる抑制を図れる。
【0026】
更には、この工事中においては、図1Cの地下躯体1dの外壁部3は土留め壁として機能するが、その際には、地下一階B1Fの床部5や梁部9を含め、それよりも下方の地下階B2F〜B5Fの各床部5や梁部9は、それぞれ土留め壁たる外壁部3を水平支保する切梁として機能する。よって、切梁支保工を緩和することができる。
【0027】
また、この第1実施形態では、地下躯体1dの解体対象範囲を、地上一階1Fの床部5と、この床部5に一体に連接して下方に突出する梁部9と、地下一階B1Fの柱部7というように、免震装置70の地下空間S70への配置に必要な最小範囲に留めている。よって、既存建物1の地下躯体1dのうちで残置される部分の大きさを大きく確保できて、その結果、この残置される部分の自重でもって、工事中に地下水等から付与される浮力に効果的に対抗可能となり、浮上防止対策を緩和することができる。
【0028】
このようにして地下躯体1dの上部の一部を解体したら、次に、図1Dに示すように、当該解体により形成された地下空間S70に免震装置70を設置する(免震装置設置工程に相当)。この例では、地下一階B1Fの柱部7が解体されて形成された空間に免震装置70が設置される。また、このとき、当該免震装置70は、地下一階B1Fの床部5の上面に設置されて支持される。よって、設置作業者は、当該床部5を作業足場として用いて設置作業を安全に行うことができる。また、当該床部5は、図1Fの免震建物11の完成後においても、免震装置70の定期保守点検作業時に免震装置70の設置場所へ行くための作業通路として、また同点検作業の作業足場として有効に使用され、作業安全性の向上に寄与する。
【0029】
ここで望ましくは、上述の免震装置70は、地下一階B1Fの床部5のなかでも梁部9又は柱梁仕口部Jの直上部分に設置されると良い。図1Dの例では、柱梁仕口部Jの直上に設けられている。そして、当該部分に設置されれば、免震建物11の完成後に免震装置70から入力される水平力を、地下躯体11dは梁部9と柱部7とで受けることができるので、当該水平力による柱部7への曲げモーメントの入力を軽減できる。そして、その結果として、柱部7の水平方向の撓み変形の大幅な抑制を通して、柱部7の破損を有効に防ぐことができる。
【0030】
ちなみに、この例では、梁部9及び柱梁仕口部Jは、床部5と一体化されているため、上述の柱部7の撓み変形は、床部5によっても更に抑制され得るが、当該床部5が無い場合、つまり水平面内の縦横に梁部9のみが格子状に配されている場合においても、梁部9又は柱梁仕口部Jの直上に免震装置70が配置されていれば、相応の柱部7の破損防止効果を得ることができる。
【0031】
また、より望ましくは、図1Dのように全ての免震装置70が、柱梁仕口部Jの直上部分又は梁部9の直上部分に設置されていると良いが、少なくとも一つの免震装置70が柱梁仕口部Jの直上部分又は梁部9の直上部分に設置されていれば、その近傍の柱部7の破損防止効果を得ることができる。よって、幾つかの免震装置70を柱梁仕口部J又は梁部9の直上に配置し、残りの免震装置70を、床部5のうちで柱梁仕口部Jや梁部9の直上以外の部分に配置しても良い。
【0032】
免震装置70としては、例えば積層ゴムや滑り支承、転がり支承が使用される。そして、これにより、図1Fに示すような免震建物11の完成後には、地上側躯体11uは地下躯体11d上にて水平免震されることになる。すなわち、地下躯体11dから地上側躯体11uへの水平方向の地震動の入力が軽減される。
【0033】
このようにして免震装置70を設置したら、次に、図1Eに示すように、免震装置70の上方に、新たに地上一階1Fの床部5及びこの床部5に一体に連接して下方に突出する梁部9を構築し、これにより、梁部9を介して床部5を免震装置70に支持させる。なお、このとき、前述のように、免震装置70は地下空間S70に配置されているので、この地上一階1Fの床部5の上面レベルを、周囲の地面のレベルGLに揃えることができ、或いは仮に高低差があったとしてもそれを若干量に収めることができる。よって、図1Fに示す免震建物11の地上階の設計にあっては、地上一階1Fから最上階12Fまでの全階に亘り、免震装置70がらみの制約から解放されて、地上階を自在に設計可能となる。
【0034】
ちなみに、地下一階B1Fの階高が高い場合には、図1Eの地上一階1Fの床部5の下方に隣接する梁部9と、免震装置70との間に嵩上げ用の柱部(不図示)を介装しても良い。
【0035】
また、この地上一階1Fの床部5及び梁部9は、地下躯体11dの外壁部3に対して縁切り状態となるように、所定隙間δを隔てて設けられている。これにより、地上一階1Fの床部5及び梁部9を含めその上方にこの後で設けられるべき図1Fの地上側躯体11uは、何等干渉無く地下躯体11d上を水平免震されるようになる。
【0036】
そうしたら、図1Fに示すように、この地上一階1Fの床部5の上に、形成すべき地上階の階数に応じた数量及びサイズの柱部7、梁部9、床部5、及び外壁部3を設け、これにより、複数階の一例として全12階の地上階を有した地上側躯体11uが形成される(地上側躯体形成工程に相当)。そして、以上をもって、第1実施形態の免震建物11が完成する。
【0037】
ちなみに、この免震建物11の完成後には、既存建物1において地下一階B1Fであった階に、免震装置70が設置されている。そのため、免震建物11の完成後は、この免震装置70が配置されている地下一階B1Fは免震ピット(免震層)となり、免震建物11の地下階の概念からは外される。従って、この免震建物11は、既存建物1よりも一つだけ地下階の階数が減ることになる。例えば、図1Aの既存建物1において地下二階B2Fや地下三階B3Fであった階が、それぞれ図1Fの免震建物11においては地下一階(新B1F)や地下二階B2F(新B2F)になるといったように、免震建物11の地下階の階番号は、既存建物1の地下階の階番号から一だけ繰り下げ更新されることになる。
【0038】
===第2実施形態===
図2A乃至図2Fは、第2実施形態の免震建物11aの構築方法の説明図である。何れの図も、縦断面視の模式図であるが、図の錯綜を防ぐべく、本来断面部分に示すべきハッチングについては省略している。
前述の第1実施形態では、免震装置70の設置スペースS70を地下に形成すべく、既存建物1の地下躯体1dの解体対象範囲として、地上一階1Fの床部5及びその下方に一体に連接する梁部9、並びに地下一階B1Fの柱部7を指定していたが(図1C)、解体前の図2Aと解体後の図2Bとの対比でわかるように、この第2実施形態では、これらに加えて更に、地下一階B1Fの床部5及びその下方に一体に連接する梁部9にまで解体対象範囲を拡張している点で主に相違する。
【0039】
なお、このようにしている理由は、図2Fの地下躯体11adにおいて新たな地下一階(新B1F)となるべき空間の階高を、図2Aの既存建物1において対応する地下階の階高たる地下二階B2Fの階高よりも大きくするためである。すなわち、図1Fと図2Fとの対比からわかるように、図1Fの第1実施形態の免震建物11と比べて、図2Fの第2実施形態の免震建物11aでは、新たな地下一階(新B1F)の階高が大きくなっている。ちなみに、この階高を大きくするニーズとしては、例えばこの地下一階(新B1F)を地下駐車場として利用するためなどが挙げられる。そして、これ以外の点は、概ね第1実施形態と同様であるため、以下では主に当該相違点について説明し、同内容の説明については省略する。
【0040】
以下、第2実施形態の免震建物11aの構築方法について説明する。
先ず、図2Aに示すように、地上躯体1uを解体する(地上躯体解体工程に相当)。
【0041】
次に、地下躯体1dを改造する(地下躯体改造工程に相当)。すなわち、先ず、図2Bに示すように、地下躯体1dの上部の一部を解体する。ここで、当該「上部の一部」とは、図2Aに示す地上一階1Fの床部5と、この床部5に一体に連接して下方に突出する梁部9と、地下一階B1Fの柱部7と、地下一階B1Fの床部5と、この床部5に一体に連接して下方に突出する梁部9である。従って、この解体により、図2Bのように地下二階B2Fの床部5上には、地下二階B2Fの柱部7及び外壁部3のみが残存した状態となる。そして、これらの残存部分、及び地下躯体1dの地下二階B2Fの床部5以下の部分1dpが、そのまま残置利用される。ちなみに、地下三階以下の地下階B3F〜B5Fは、図2Fの免震建物11aの完成後もそのまま新たな地下階(新B2F〜新B4F)として残置利用される。
【0042】
そうしたら、図2Cに示すように、免震装置70を載置支持するための支持躯体72を地下躯体1dに新設する。この支持躯体72は、地下二階B2Fの階高が拡大するような高さ位置に新設される。例えば、地下二階B2Fの各柱部7の上部に、それぞれ嵩上げ用の柱部7aを継ぎ足し、当該柱部7aに連続させて複数の梁部9aを設け、各梁部9aの梁端を地下躯体1dの外壁部3に接続し、そして梁部9aの上部に一体に床部5aを設けることで、支持躯体72が形成される。そして、この支持躯体72の形成をもって、地下躯体1dの改造が完了し、当該地下躯体1dは、図2Fの免震建物11a用の地下躯体11adとして使用される。なお、同図2Fに示す免震建物11aの完成後には、この支持躯体72の下方に位置する地下二階B2Fが、新たな地下一階(新B1F)として機能するので、階高の拡大された地下一階(新B1F)が形成されたことになる。
【0043】
ちなみに、以降の工事中においては、この支持躯体72は、地下躯体11adの外壁部3を水平支保する切梁としても機能する。
【0044】
また、この図2Cの例では、支持躯体72は梁部9aに加えて床部5aを有し、これにより、第1実施形態の場合と同様に、当該床部5aを、免震装置70の設置作業時の作業通路や作業足場として利用可能としているが、この床部5aは無くても良い。
【0045】
このようにして支持躯体72を新設したら、次に、図2Dに示すように、支持躯体72の上に免震装置70を設置する(免震装置設置工程に相当)。免震装置70の設置位置は、例えば、支持躯体72が具備する柱梁仕口部J又は梁部9aの直上部分に設定される。そして、このようにすれば、支持躯体72の梁部9aの作用に基づいて、前述の第1実施形態の場合と同様の柱部の破損防止効果を、地下二階B2Fの柱部7a,7に対して奏することができる。但し、何等これに限るものでなく、床部5aのうちで柱梁仕口部Jや梁部9a以外の部分に免震装置70を設置しても良い。
【0046】
このようにして免震装置70を設置したら、次に、図2Eに示すように、免震装置70の上方に、新たに地上一階1Fの床部5及びその下方に一体に連接して梁部9を構築し、これにより、梁部9を介して床部5を免震装置70に支持させる。
【0047】
そして、図2Fに示すように、この地上一階1Fの床部5の上に、形成すべき地上階の階数に応じた数量及びサイズの柱部7、梁部9、床部5、及び外壁部3を設け、これにより、複数階の地上階を有した地上側躯体11auが形成される(地上側躯体形成工程に相当)。そして、以上をもって、第2実施形態の免震建物11aが完成する。
【0048】
===第3実施形態===
図3A乃至図3Eは、第3実施形態の免震建物11bの構築方法の説明図である。何れの図も、縦断面視の模式図であるが、図の錯綜を防ぐべく、本来断面部分に示すべきハッチングについては省略している。
前述の第1実施形態では、図1Fに示すように、免震装置70の設置スペースS70を、既存建物1の地下一階B1Fに相当する位置に形成していた。つまり、免震装置70の設置対象階を、既存建物1における地下一階B1Fに設定していたが、何等これに限るものではない。例えば、設置対象階を、最下階B5Fを除く地下二階B2F以下の何れの地下階B2F〜B4Fにしても良い。以下では、その場合の構築方法について、設置対象階を地下二階B2Fにした場合を例に説明する(図3E)。
【0049】
この免震建物11bの構築方法においても、先ず始めに、図3Aに示すように、地上躯体1uを解体する(地上躯体解体工程に相当)。
【0050】
次に、図3Bに示すように、地下躯体1dの上部の一部を解体して改造する(地下躯体改造工程に相当)。ここで、解体前の図3Aとの対比でわかるように、当該「上部の一部」とは、地下躯体1dの外壁部3を除き、地下躯体1dのうちで免震装置70の設置対象階の床部5よりも上方に位置する部分のことである。この例では、上述のように設置対象階が地下二階B2Fであるので、地下二階B2Fの床部5よりも上方に位置する部分が、解体対象となる。より具体的に言えば、図3Aの地上一階1Fの床部5と、この床部5に一体に連接して下方に突出する梁部9と、地下一階B1Fの柱部7と、地下一階B1Fの床部5と、この床部5に一体に連接して下方に突出する梁部9と、地下二階B2Fの柱部7とが、解体対象となる。
【0051】
そして、この解体後には、図3Bに示すように、地下二階B2Fの床部5上には、外壁部3のみが残存した状態となり、これにより、地下躯体1dの改造が完了する。すなわち、この残存部分3、及び地下躯体1dの地下二階B2Fの床部5以下の部分1dpは、図3Eの免震建物11の地下躯体11bdとして残置利用される。
【0052】
そうしたら、図3Cに示すように、地下二階B2Fの床部5の上面に免震装置70を設置する(免震装置設置工程に相当)。
【0053】
次に、図3Dに示すように、免震装置70の上方に、新たに地下一階B1Fの床部5及びその下方に一体に連接して梁部9を構築し、これにより、梁部9を介して床部5を免震装置70に支持させる。
【0054】
そして、この地下一階B1Fの床部5の上に、地下一階B1F及び地上階の階数に応じた数量及びサイズの柱部7、梁部9、床部5、及び外壁部3を設け、これにより、図3Eのような地下一階B1F及び複数階の地上階1F〜12Fを有した地上側躯体11buが形成される(地上側躯体形成工程に相当)。そして、以上をもって、第3実施形態の免震建物11bが完成する。
【0055】
===その他の実施の形態===
以上、本発明の実施形態について説明したが、上記の実施形態は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定して解釈するためのものではない。また、本発明は、その趣旨を逸脱することなく、変更や改良され得ると共に、本発明にはその等価物が含まれるのはいうまでもない。例えば、以下に示すような変形が可能である。
【0056】
上述の実施形態では、既存建物1の地上躯体1u、並びに免震建物11,11a,11bの地上側躯体11u,11au,11buの構造様式について述べていなかったが、これらの躯体1u,11u,11au,11buは、RC造で構築されていても良いし、S造でも良いし、SRC造でも良いし、更には、これらを複合した構造様式でも良い。
【0057】
上述の実施形態では、既存建物1の地下躯体1d、並びに免震建物11,11a,11bの地下躯体11d,11ad,11bdの構造様式について述べていなかったが、これらの躯体1d,11d,11ad,11bdは、地中に設けられることから、発錆の虞の無いRC造又はSRC造で構築されるのが望ましい。
【0058】
上述の実施形態では、既存建物1や免震建物11,11a,11bの地上階や地下階を幾つかの部屋に分割する間仕切り壁を例示してしなかったが、何等これに限るものではなく、間仕切り壁を設けても良い。
【0059】
上述の実施形態では、地下躯体11d,11ad,11bdに対する地上側躯体11u,11au,11buの水平振動を減衰するオイルダンパー等のダンパー部材や、地下躯体11d,11ad,11bdに対する地上側躯体11u,11au,11buの水平位置を基準位置に復帰するバネ等の弾性部材を例示していなかったが、何等これに限るものではなく、これらのダンパー部材や弾性部材を設けても良い。
【0060】
上述の実施形態では、エレベーター等の上下階を繋ぐ昇降手段については例示していなかったが、当該昇降手段としては、エレベーターやエスカレーター、階段等の周知のものを適用可能である。例えば、地上側躯体11u,11au,11bu内には、地上側躯体11u,11au,11buに属する各階を接続するようにエレベーターや階段等を設ければ良く、地下躯体内11d,11ad,11bdには、地下躯体11d,11ad,11bdに属する各階を接続するようにエレベーターや階段等を設ければ良い。また、地下躯体11d,11ad,11bdの階と、この地下躯体11d,11ad,11bdに免震支持された地上側躯体11u,11au,11buの階とを接続する昇降手段についても、免震による地下躯体11d,11ad,11bdと地上側躯体11u,11au,11buとの相対変位を許容した構造の昇降手段を適用すれば、何等問題なく達成可能である。例えば、地上側躯体11u,11au,11buが地下躯体11d,11ad,11bdに水平免震されている場合には、先ず、地下躯体11d,11ad,11bdの最下階から地上側躯体11u,11au,11buの最下階までに跨って、乗り継ぎ用のエレベーターシャフトを各階の床部を貫通して設け、このエレベーターシャフト内の中空空間に、昇降可能に乗り篭を設ける。そして、水平免震に係る地下躯体11d,11ad,11bdと地上側躯体11u,11au,11buとの間の水平相対変位を許容する構造としては、地上側躯体11u,11au,11buの階の床部5に貫通形成されたエレベーターシャフトを通すための孔部とエレベーターシャフトとの間に、想定される水平相対変位以上の隙間を設けることが考えられる。
【0061】
上述の実施形態では、積層ゴムなどの免震装置70によって地上側躯体11u,11au,11buを水平免震する場合を例示したが、何等水平免震に限るものではなく、例えば、鉛直免震すべく鉛直免震装置を適用しても良いし、更に言えば、水平免震及び鉛直免震の両機能を有する三次元免震装置を用いても良い。
【符号の説明】
【0062】
1 既存建物、1d 地下躯体、1dp 部分、1u 地上躯体、
3 外壁部、5 床部、5a 床部、7 柱部、7a 柱部、9 梁部、
11 免震建物、11d 地下躯体、11u 地上側躯体、
11a 免震建物、11ad 地下躯体、11au 地上側躯体、
11b 免震建物、11bd 地下躯体、11bu 地上側躯体、
70 免震装置、72 支持躯体、
J 柱梁仕口部、
BP ピット、St 空間、
S70 設置スペース(地下空間)、
G 地盤、GL 地面のレベル
【特許請求の範囲】
【請求項1】
地下階を有する既存建物の地下躯体を利用して免震建物を構築する方法であって、
前記既存建物の地上躯体を解体する地上躯体解体工程と、
前記既存建物の地下躯体のうちの少なくとも一つの地下階を残置利用しながら前記地下躯体の上部の一部を解体して前記地下躯体を改造する地下躯体改造工程と、
前記上部の一部が解体されて形成された地下空間に免震装置を配しつつ、前記免震装置を前記地下躯体に支持させる免震装置設置工程と、
地上階を少なくとも有し、前記免震装置を介して前記地下躯体に免震支持された地上側躯体を形成する地上側躯体形成工程と、を有することを特徴とする免震建物の構築方法。
【請求項2】
請求項1に記載の免震建物の構築方法であって、
前記既存建物の地下躯体は、複数の地下階を有し、
前記免震装置は、前記既存建物の地下一階に相当する部分に設置され、
前記既存建物の地下躯体のうちで少なくとも地下二階の床部以下の部分は、残置利用されることを特徴とする免震建物の構築方法。
【請求項3】
請求項2に記載の免震建物の構築方法であって、
更に、前記既存建物の地下一階の床部が残置利用されることを特徴とする免震建物の構築方法。
【請求項4】
請求項1乃至3の何れかに記載の免震建物の構築方法であって、
前記地下躯体改造工程にて改造後の地下躯体の床部に、前記免震装置は配置されることを特徴とする免震建物の構築方法。
【請求項5】
請求項4に記載の免震建物の構築方法であって、
前記免震装置は、前記地下躯体の梁部の直上、又は柱梁仕口部の直上に設置されることを特徴とする免震建物の構築方法。
【請求項6】
地下階を有する既存建物の地下躯体を利用して構築された免震建物であって、
前記既存建物の地下躯体のうちの少なくとも一つの地下階を残置利用しながら前記地下躯体の上部の一部を解体して改造された地下躯体と、
前記上部の一部が解体されて形成された地下空間に配されつつ、前記地下躯体に支持された免震装置と、
地上階を有し、前記免震装置に免震支持された地上側躯体と、を有することを特徴とする免震建物。
【請求項1】
地下階を有する既存建物の地下躯体を利用して免震建物を構築する方法であって、
前記既存建物の地上躯体を解体する地上躯体解体工程と、
前記既存建物の地下躯体のうちの少なくとも一つの地下階を残置利用しながら前記地下躯体の上部の一部を解体して前記地下躯体を改造する地下躯体改造工程と、
前記上部の一部が解体されて形成された地下空間に免震装置を配しつつ、前記免震装置を前記地下躯体に支持させる免震装置設置工程と、
地上階を少なくとも有し、前記免震装置を介して前記地下躯体に免震支持された地上側躯体を形成する地上側躯体形成工程と、を有することを特徴とする免震建物の構築方法。
【請求項2】
請求項1に記載の免震建物の構築方法であって、
前記既存建物の地下躯体は、複数の地下階を有し、
前記免震装置は、前記既存建物の地下一階に相当する部分に設置され、
前記既存建物の地下躯体のうちで少なくとも地下二階の床部以下の部分は、残置利用されることを特徴とする免震建物の構築方法。
【請求項3】
請求項2に記載の免震建物の構築方法であって、
更に、前記既存建物の地下一階の床部が残置利用されることを特徴とする免震建物の構築方法。
【請求項4】
請求項1乃至3の何れかに記載の免震建物の構築方法であって、
前記地下躯体改造工程にて改造後の地下躯体の床部に、前記免震装置は配置されることを特徴とする免震建物の構築方法。
【請求項5】
請求項4に記載の免震建物の構築方法であって、
前記免震装置は、前記地下躯体の梁部の直上、又は柱梁仕口部の直上に設置されることを特徴とする免震建物の構築方法。
【請求項6】
地下階を有する既存建物の地下躯体を利用して構築された免震建物であって、
前記既存建物の地下躯体のうちの少なくとも一つの地下階を残置利用しながら前記地下躯体の上部の一部を解体して改造された地下躯体と、
前記上部の一部が解体されて形成された地下空間に配されつつ、前記地下躯体に支持された免震装置と、
地上階を有し、前記免震装置に免震支持された地上側躯体と、を有することを特徴とする免震建物。
【図1A】
【図1B】
【図1C】
【図1D】
【図1E】
【図1F】
【図2A】
【図2B】
【図2C】
【図2D】
【図2E】
【図2F】
【図3A】
【図3B】
【図3C】
【図3D】
【図3E】
【図1B】
【図1C】
【図1D】
【図1E】
【図1F】
【図2A】
【図2B】
【図2C】
【図2D】
【図2E】
【図2F】
【図3A】
【図3B】
【図3C】
【図3D】
【図3E】
【公開番号】特開2012−237111(P2012−237111A)
【公開日】平成24年12月6日(2012.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−105487(P2011−105487)
【出願日】平成23年5月10日(2011.5.10)
【出願人】(000000549)株式会社大林組 (1,758)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年12月6日(2012.12.6)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年5月10日(2011.5.10)
【出願人】(000000549)株式会社大林組 (1,758)
【Fターム(参考)】
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