説明

免震式サッシ枠

【課題】地震発生時、建物躯体を構成する上階躯体8と下階躯体9とが層間変位した場合にも、窓枠2a及びガラス障子3a、3bが破損する事を防止する。
【解決手段】窓枠2aを、上枠4aと下枠5aと1対の竪枠6a、6aとを連結する事により矩形枠状に構成した枠本体16と、スライドレール17とから構成する。このスライドレール17を上階躯体8の下面に固定し、このスライドレール17に対して上枠4aをその長さ方向に関する移動のみを可能に係合させる。又、下枠5aを下階躯体9に対して固定する。1対の竪枠は、側部躯体に対して固定せずに、これら各側部躯体に対する相対変位を可能とする。これにより、地震発生時に、上枠4aをスライドレール17に対しその長さ方向に相対移動させて、枠本体16の全体形状を矩形枠状に維持する。これにより、前記課題を解決する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建物躯体の開口部に取り付けられる窓枠等のサッシ枠の改良に関する。具体的には、地震発生時に、サッシ枠の上下に存在する上部躯体と下部躯体とが水平方向に相対変位(層間変位)した場合にも、サッシ枠、延いてはこのサッシ枠の内側に建て込んだ障子等の建具が破損する事を防止する為に利用する、免震式のサッシ枠に関する。
【背景技術】
【0002】
採光、換気、或いは室内からの出入り等の為に、建物躯体の開口部に窓装置を設ける事が行われている。図9は、この様な窓装置1の1例を示している。この窓装置1は、窓枠2と、この窓枠2の内側に引き違い式に建て込まれた1対のガラス障子3a、3bとから構成されている。
【0003】
このうちの窓枠2は、水平方向に配置されて上辺を構成する上枠4と、同じく水平方向に配置されて下辺を構成する下枠5と、鉛直方向に配置されて左右の縦辺を構成する1対の竪枠6、6とから成り、これら各枠4〜6のそれぞれの端部を連結する事により矩形枠状に構成されている。これら各枠4〜6は、アルミニウム合金の押し出し成形材製である。このうちの上枠4は、この上枠4の上方に設けられ、建物躯体の開口部7の上辺を構成する上階躯体8に固定されている。又、前記下枠5は、この下枠5の下方に設けられ、前記開口部7の下辺を構成する下階躯体9に固定されている。又、前記各竪枠6、6は、これら各竪枠6、6の側方に設けられ、前記開口部7の側辺を構成する側部躯体10、10にそれぞれ固定されている。従って、この様な従来構造の窓装置1の場合、前記各枠4〜6は何れも、建物躯体(上階躯体8、下階躯体9及び側部躯体10)に対して相対移動する事はできない。尚、本明細書中で上階躯体とは、窓枠等のサッシ枠の上方に設けられた上部躯体のうちで、サッシ枠が取り付けられる対象フロアの天井及び上階フロアの床を構築する為の躯体として利用されるものを言い、同じく下階躯体とは、サッシ枠の下方に設けられた下部躯体のうちで、少なくともサッシ枠が取り付けられる対象フロアの床を構築する為の躯体として利用されるものを言う。
【0004】
前記両ガラス障子3a、3bは、それぞれの下辺に設けた各戸車を、前記下枠5の上面に設けた下部案内レールに係合させると共に、上端部に設けたガイドブロックを、前記上枠4に設けた上部案内レールに係合させる事により、前記窓枠2の内側に、水平移動可能に建て込まれている。
【0005】
上述の様な構造を有する従来構造の窓装置1の場合、地震発生時に、次の様な問題を生じる可能性がある。
地震発生時には、建物が振動させられ、前記上階躯体8と前記下階躯体9とが層間変位する事が知られている。そして、この様に上階躯体8と下階躯体9とが層間変位した場合、図10に誇張して示す様に、この上階躯体8に固定された前記上枠4と、前記下階躯体9に固定された前記下枠5とが、これら上階躯体8及び下階躯体9と共に、面内方向(図10の左右方向)で逆向きに変位する。これにより、前記両竪枠6、6が鉛直方向に対して傾き、前記窓枠2が本来の矩形枠状から平行四辺形枠状に歪む可能性がある。この結果、この窓枠2が破損する可能性があると共に、この窓枠2の内側に建て込まれたガラス障子3a、3b(図9等参照)の開閉動作が不能になったり、最悪の場合には、これら各ガラス障子3a、3bが破損する(特にガラスパネルが破損する)可能性もある。
尚、この様な問題は、引き違い式のガラス障子を建て込む窓枠に限らず、片引き式の障子等の引戸を建て込む窓枠、内開き戸又は外開き戸等の開き戸を組み込む窓枠、ガラスパネルを直接固定する固定式の窓枠や、戸枠等のサッシ枠でも生じる可能性がある。
【0006】
尚、本発明に関連する先行技術文献として、例えば特許文献1に記載された発明がある。この特許文献1には、地震発生時に、窓枠の内側に建て込んだ障子が開閉できなくなる事を防止する為に、窓枠を、外周枠と内周枠とを互いに相対変位可能に組み合わせた二重枠構造とする事が記載されている。この様な構造によれば、地震発生時に、このうちの外周枠のみを建物躯体と共に変位させて、内周枠を変位させずに済む。この為、この内周枠の内側に建て込んだ障子が開閉できなくなる事を防止できる。但し、この様な特許文献1に記載された構造の場合、枠材を二重に重ねる状態で窓枠を構成する為、窓枠の開口部が狭くなったり(開口面積が小さくなったり)、コストが嵩むと言った不都合を生じる可能性がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平9−13828号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上述の様な事情に鑑みて、地震発生時に、窓枠等のサッシ枠の上下に存在する上部躯体と下部躯体とが層間変位した場合にも、サッシ枠、延いてはこのサッシ枠の内側に建て込んだ建具が破損する事を防止できる構造を実現すべく発明したものである。又、本発明は、この様な構造を、サッシ枠の開口部を狭くする事なく、低コストで実現する事を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の免震式サッシ枠は、建物躯体の開口部に取り付けられるもので、枠本体と、スライドレールとを備える。
このうちの枠本体は、上枠と下枠と1対の竪枠とを有し、これら各枠のそれぞれの端部を連結して成るものであり、矩形枠(角部が直角状の四角形枠、方形枠)状に構成されている。
一方、前記スライドレールを、前記建物躯体の開口部の上辺を構成する上部躯体と同じく下辺を構成する下部躯体とのうちの一方の躯体に固定している。
又、前記上枠と前記下枠とのうちの一方の枠を、前記スライドレールをその内部に収納した状態で、このスライドレールに対してその長さ方向への相対移動(面内方向への移動)のみを可能に係合させている。
又、前記上枠と前記下枠とのうちの他方の枠を、前記上部躯体と前記下部躯体とのうちの他方の躯体に対して固定している。
又、前記各竪枠を、前記建物躯体の開口部の側辺を構成する側部躯体に対して固定せずに、これら各側部躯体との間に隙間を設けている。これにより、前記各竪枠を、これら各側部躯体に対する相対変位を可能としている。
そして、前記上部躯体と前記下部躯体とが水平方向に相対変位(層間変位)した場合に、前記上枠と前記下枠とのうちの一方の枠を、前記スライドレールに対してその長さ方向に相対移動させる事で、前記枠本体の全体形状を矩形枠状に維持する。
【0010】
本発明を実施する場合に好ましくは、例えば請求項2に記載した発明の様に、前記上枠と前記下枠とのうちの前記一方の枠と前記スライドレールとが摺接する部分に、滑り材を設ける。この滑り材としては、例えばポリアミド樹脂(ポリアミド6、ポリアミド66)等の合成樹脂や、フッ素樹脂等の合成樹脂製の低摩擦材を利用できる。或いは、摩擦係数の低い表面被膜(コーティング被膜)等を利用する事もできる。又、前記滑り材は、前記上枠と前記スライドレールとのうちの何れか一方又は両方に設ける事ができる。又、前記滑り材は、この滑り材を設ける部材の全長に亙って設ける事もできるし、部分的に(ピースで)設ける事もできる。
【0011】
又、本発明を実施する場合に好ましくは、例えば請求項3に記載した発明の様に、前記スライドレールの全長を、前記上枠と前記下枠とのうちの一方の枠の全長よりも短くし、このスライドレールの長さ方向両側部分に、変位吸収部材をそれぞれ設ける。
そして、前記上部躯体と前記下部躯体とが水平方向に相対変位した場合に、前記スライドレールと前記枠本体の一部又はこの枠本体に固定した部材との間で、前記各変位吸収部材を圧縮変形させる(押し潰す)。
この様な変位吸収部材としては、例えばゴムや合成樹脂をブロック状に形成したものや、板バネ等のバネを利用する事もできる。
【0012】
又、本発明を実施する場合に好ましくは、例えば請求項4に記載した発明の様に、前記上枠及び前記下枠の両端部にそれぞれ固定したコーナー補強片と、前記各竪枠にそれぞれ固定した竪枠補強枠の端部とを連結する。
【0013】
又、本発明を実施する場合に好ましくは、例えば請求項5に記載した発明の様に、前記一方の枠を上枠とし、この上枠に設けられた収納空間内に、前記スライドレールを屋内外方向(面外方向)に関する相対変位を不能に(がたつきなく)収納する。
【発明の効果】
【0014】
上述の様に構成する本発明によれば、地震発生時に、窓枠等のサッシ枠の上下に設けられる上部躯体と下部躯体とが層間変位した場合にも、サッシ枠、延いてはこのサッシ枠の内側に組み込んだ建具が破損する事を有効に防止できる。又、この様な構造を、サッシ枠の開口部を狭くする事なく、低コストで実現できる。
即ち、本発明の免震式サッシ枠の場合には、枠本体を構成する上枠と下枠とのうちの一方の枠を、上部躯体と下部躯体とのうちの一方の躯体に固定されたスライドレールに対して、その長さ方向に相対移動可能に係合させている。この為、地震発生時に、前記上部躯体と前記下部躯体とが水平方向に相対変位(層間変位)した場合に、前記一方の枠を、前記スライドレールに対してその長さ方向に相対移動させる事で、この一方の枠を、前記一方の躯体の動きに追従させずに、他方の躯体の動きにのみ追従させる事ができる。この為、前記上部躯体と前記下部躯体との層間変位に拘わらず、前記枠本体の全体形状を矩形枠状に維持できる。この結果、この枠本体が破損する事を有効に防止できると共に、この枠本体の内側に建て込んだ障子等の建具の開閉動作が行えなくなったり、この建具が破損する事も有効に防止できる。
又、本発明の免震式サッシ枠は、前記スライドレールを前記一方の枠の内部に収納している為、前記上枠と前記下枠との間の開口寸法が小さくなる事を防止できる。この為、枠本体の開口部が狭くなる(開口面積が小さくなる)事を防止できる。又、本発明の免震式サッシ枠は、前記スライドレールを設ける以外に、特別に新たな部材を必要とせず、又、構造を徒らに複雑化しなくて済む為、低コストで実現できる。
【0015】
又、前述した請求項2に記載した発明によれば、前記上枠と前記下枠とのうちの一方の枠と前記スライドレールとを、滑らかに(スムーズ)に相対変位させられる。又、相対変位する際の擦れ音等の異音が発生する事も防止できる。
【0016】
又、前述した請求項3に記載した発明によれば、前記スライドレールと前記枠本体との相対変位を減衰吸収できる。又、衝突音等の異音が発生する事も防止できる。
【0017】
又、前述した請求項4に記載した発明によれば、前記枠本体の剛性を高める事ができる。この為、この枠本体を矩形枠状に維持し易くなる。
【0018】
更に、前述した請求項5に記載した発明によれば、前記上枠を前記スライドレールに対して地震の大きさに応じて有効に相対移動させる事ができる。即ち、これら上枠とスライドレールとの係合部分には、下枠とスライドレールとを係合させるとした場合に加わる様な、枠本体及びこの枠本体の内側に建て込まれる建具等の重量が加わらずに済む。この為、前記上枠を前記スライドレールに対して地震の大きさに応じて有効に相対移動させる事ができる。
又、建具に吹き付ける風等による風圧によって、前記上枠が前記スライドレールに対して屋内外方向(面外方向)に変位する(がたつく)事を防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の実施の形態の1例の窓装置を屋内側から見た状態で示す略正面図。
【図2】同じく図1のA−A断面に相当する縦断面図。
【図3】同じく図1のB−B断面に相当する横断面図。
【図4】同じく図1のC部に相当する拡大図。
【図5】同じく図2のD部拡大図。
【図6】同じく図4相当部分を屋内側且つ上方から見た状態で示す部分切断斜視図。
【図7】同じく上枠とスライドレールと変位吸収部材のみを取り出して示す縦断面図。
【図8】同じく変位吸収部材のみを取り出して示す斜視図。
【図9】従来構造の窓装置を屋内側から見た状態で示す略正面図。
【図10】同じくガラス障子を省略して上階躯体と下階躯体とが層間変位した状態を誇張して示す略正面図。
【発明を実施するための形態】
【0020】
[実施の形態の1例]
図1〜8は、総ての請求項に対応する、本発明の実施の形態の1例を示している。本例は、本発明の免震式サッシ枠を、窓装置に適用した場合に就いて示している。本例の場合にも、窓装置1aを、窓枠2aと、この窓枠2aの内側に引き違い式に建て込んだ1対のガラス障子3a、3bとから構成している。
【0021】
このうちのガラス障子3a、3bは、従来から知られているものと同様に、それぞれの上辺を構成する上框11a、11bと、同じく下辺を構成する下框12a、12bと、それぞれが左右の縦辺を構成する竪框である、召し合わせ框13a、13b及び突き合わせ框14a、14bとにより、ガラスパネル15a、15bの四辺を囲んで成る。
【0022】
一方、本例の場合には、前記窓枠2aを、枠本体16と、スライドレール17とから構成している。このうちの枠本体16は、水平方向に配置されて上辺を構成する上枠4aと、同じく水平方向に配置されて下辺を構成する下枠5aと、鉛直方向に配置されて左右の縦辺を構成する1対の竪枠6a、6aとから成る。又、前記枠本体16は、これら各枠4a〜6aのそれぞれの端部同士を、タッピングねじ等を用いて連結する(上枠4a及び下枠5aの端面を竪枠6a、6aの内面に突き当てた状態で連結する)事により、矩形枠(角部が直角状である四角枠)状に構成されている。又、これら各枠4a〜6aは、それぞれアルミニウム合金の一体押し出し成形材製である。
【0023】
前記スライドレール17は、アルミニウム合金の一体押し出し成形材製或いはステンレス鋼製等の金属製であり、その全長は、前記上枠4a及び前記下枠5aの全長よりも短い(上枠4a及び下枠5aの全長の2/3〜4/5倍程度である)。又、前記スライドレール17は、本体板部18と、1対の保持部19a、19bと、1対のガイド溝20a、20bと、立壁部21と、固定溝22とを有する。このうちの本体板部18は、平板状で、建物躯体の開口部7の上辺を構成する上階躯体8の下面に対して平行に配置されている。又、前記各保持部19a、19bは、それぞれ断面略コ字形に形成されており、それぞれの開口部を反対側(それぞれ屋内側及び屋外側)に向けた状態で、前記本体板部18の下面の幅方向両端寄り部分に設けられている。又、前記各ガイド溝20a、20bは、前記本体板部18の幅方向両端部下面と、前記各保持部19a、19bの上面との間部分にそれぞれ形成されている。又、前記立壁部21は、前記本体板部18の上面の屋外寄り部分に立設する状態で設けられている。又、前記固定溝22は、この本体板部18の上面に幅方向に離隔した状態で形成された1対の係合片23a、23b同士の間部分に設けられており、上端開口部の幅が下側部分の幅よりも大きくなっている。この様な構成を有する、前記各保持部19a、19bと、前記各ガイド溝20a、20bと、前記立壁部21と、前記固定溝22とは、前記本体板部18の全長に亙り設けられている。
【0024】
又、前記各保持部19a、19bには、滑り材24、24が保持されている。これら各滑り材24、24は、ポリアミド樹脂(ポリアミド6、ポリアミド66)等の合成樹脂から成る低摩擦材製で、シールや接着材等の接着手段により、前記各保持部19a、19bの内側に接着固定されている。又、本例の場合、前記各滑り材24、24として長尺のものを使用し、これら各滑り材24、24を前記各保持部19a、19bの全長に亙り設けている。
【0025】
そして、本例の場合には、上述の様なスライドレール17を、前記上階躯体8の下面に対して、この上階躯体8に対する相対変位を不能に固定している。具体的には、前記本体板部18の上方に形成された固定溝22内に複数のアンカー25の基部を固定した状態で、これら各アンカー25の一部を前記上階躯体8の下面に対し溶接している。又、前記スライドレール17の上面と前記上階躯体8の下面との間部分に、モルタル26を充填している。これにより、前記スライドレール17を前記上階躯体8に対して相対変位を不能に固定している。尚、前記モルタル26は、前記スライドレール17や後述するシール45のバックアップ材等(図示省略)により堰き止められ、前記上枠4aまではまわらない。
【0026】
そして、前記枠本体16を構成する上枠4aを、この上枠4aの上方に位置する前記上階躯体8に対して固定(直接固定)する事なく、この上階躯体8に固定された前記スライドレール17をその内部に収納した状態で、このスライドレール17に対してその長さ方向(面内方向であり、図1、3、4、6の左右方向、図2、5、7の表裏方向)への移動のみを可能に係合させている。
【0027】
この為に、前記上枠4aのうちで、その下面に1対の上部案内レール27a、27bを設けた基板部28の上方に収納空間29を形成している。具体的には、前記上枠4aを構成する屋外側壁30及び屋内側壁31の上部を、前記基板部28よりも上方に延出させる事で、これら基板部28と屋外側壁30と屋内側壁31とにより三方を囲まれた部分に、上方が開口した前記収納空間29を形成している。又、前記屋内側壁31の上端部に、屋外側に向けて折れ曲がった屋内側突条32を形成すると共に、前記屋外側壁30の屋内側面のうちでこの屋内側突条32と同じ高さ位置に、屋内側に向けて突出する屋外側突条33を形成している。これら屋内側突条32及び屋外側突条33の板厚は、前記各ガイド溝20a、20bの溝幅よりも僅かに小さく、同じく突出量は、これら各ガイド溝20a、20bの溝深さよりも僅かに小さい。又、前記基板部28の上面から前記屋内側突条32及び屋外側突条33の下面までの高さ寸法を、前記スライドレール17の保持部19a、19bをがたつきなく挿入可能な大きさとしている。又、前記屋外側壁30の上端部を屋内側にクランク形に折り曲げて、その屋内側端部に垂直方向に立設した補助壁34を設けている。
【0028】
そして、上述の様に構成する前記上枠4aの収納空間29内に、前述の様に構成する前記スライドレール17を収納する。即ち、この上枠4aを構成する前記屋外側壁30と前記屋内側壁31とで前記スライドレール17を挟持する様にして、前記各ガイド溝20a、20bに前記屋内側、屋外側各突条32、33を係合させると共に、前記基板部28の上面と前記屋内側、屋外側突条32、33の下面との間部分に前記各保持部19a、19b(及び滑り材24、24)を挿入する。この様な収納作業は、前記窓枠2a(枠本体16)を構成するサッシ材を造る工場等で、前記上枠4aの端部を前記各竪枠6a、6aの端部と連結する以前に、前記スライドレール17をこの上枠4aの端部から挿入する事により行う。又、この様に収納した状態で、前記補助壁34の屋内側面を前記立壁部21の屋外側面に当接乃至近接対向させる。又、前記各滑り材24、24の先端面を、前記屋外側壁30の屋内側面及び前記屋内側壁31の屋外側面に、それぞれ摺接可能に当接させる。
【0029】
施工現場では、前記スライドレール17を、前記上枠4aの長さ方向中央位置に規制した状態で(本例の場合には、スライドレール17の両側部分に、後述する変位吸収部材43を設置する事で、このスライドレール17の位置決めが図られている)、このスライドレール17を前記上階躯体8の下面に対して固定する。これにより、前記上枠4aが、このスライドレール17に対してその長さ方向への相対移動のみを可能に係合した状態で、前記上階躯体8に支持される。又、前記上枠4aの屋外寄り部分の上面と、この上階躯体8の下面との間部分を、シール45により塞ぐ。
【0030】
一方、前記枠本体16を構成する下枠5aは、この下枠5aの下方に設けられ、前記開口部7の下辺を構成する下階躯体9の上面に対し固定している。この為に、この下枠5aの下面に形成した固定溝35に複数のアンカー25aの基部を固定した状態で、これら各アンカー25aの一部を前記下階躯体9の上面に溶接している。又、前記下枠5aの下面とこの下階躯体9の上面との間部分に、モルタル26aを充填している。これにより、前記下枠5aをこの下階躯体9に対して相対変位を不能に固定している。
【0031】
又、前記枠本体16を構成する両竪枠6a、6aは、前記開口部7の側辺を構成する側部躯体10、10に対し固定しておらず、これら各側部躯体10、10との間にそれぞれ隙間46、46を設けている。これにより、前記各竪枠6a、6aを、これら各側部躯体10、10に対する相対変位を可能としている。
【0032】
以上の様に、本例の枠本体16は矩形枠状に構成されている。又、この枠本体16の上辺を構成する上枠4aは、前記上階躯体8に固定された前記スライドレール17に対してその長さ方向に関する相対移動のみを可能に係合しており、同じく下辺を構成する下枠5aは前記下階躯体9に固定されており、同じく左右の縦辺を構成する1対の竪枠6a、6aは前記各側部躯体10、10に対して相対変位を可能とされている。
【0033】
又、本例の場合には、それぞれがアルミニウム合金の押し出し成形材製の各枠4a〜6aを組み合わせて成る前記枠本体16の剛性を高めるべく、この枠本体16を補強している。具体的には、前記上枠4a及び前記下枠5aの両端部に、コーナー補強片36をそれぞれ固定すると共に、前記各竪枠6a、6aの外側(側部躯体10側)に竪枠補強枠37、37をそれぞれ固定し、これらコーナー補強片36と竪枠補強枠37、37の端部とをそれぞれ連結(接合)している。
尚、前記上枠4aの端部に固定するコーナー補強片36と、前記下枠5aの端部に固定するコーナー補強片とは、互いに異なる構造(形状)を有するが、その機能はほぼ同じである。この為、図示並びに説明は、前記上枠4aの端部に固定するコーナー補強片36に関してのみ行う。
【0034】
前記各コーナー補強片36は、ステンレス等の鋼板製で、塞ぎ板部38と、1対の取付板部39a、39bと、押付板部40とを備える。このうちの塞ぎ板部38は、前記上枠4aへの取付状態で、前記収納空間29をその上方から覆う。又、前記両取付板部39a、39bは、前記塞ぎ板部38の幅方向(屋内外方向)両端部からそれぞれ下方及び上方にほぼ直角に折れ曲がる状態で形成されている。又、前記押付板部40は、前記塞ぎ板部38の長さ方向一端部から上方にほぼ直角に折れ曲がる状態で形成されている。そして、この様な構成を有するコーナー補強片36は、前記塞ぎ板部38により前記収納空間29の上方(開口部)を覆った状態で、屋内側の取付板部39aを前記屋内側壁31に、屋外側の取付板部39bを前記補助壁34に、それぞれねじ41、41を利用して固定する事で、前記上枠4aの端部に固定されている。
【0035】
又、前記各竪枠補強枠37、37は、ステンレス等の鋼板製で、断面略コ字形であり、その全長は前記各竪枠6a、6aの全長とほぼ同じである。この様な竪枠補強枠37、37は、複数のねじ41a、41aを利用して、前記各竪枠6a、6aの外側に固定されている。又、この様な竪枠補強枠37、37と前記各側部躯体10、10との間部分には、ロックウール42を充填している。尚、この様に前記各竪枠補強枠37、37と前記各側部躯体10、10との間部分にロックウール42を充填した場合にも、前記各竪枠6a、6aと前記各側部躯体10、10とは、前記各隙間46、46の大きさの分だけ相対変位する事が可能である。
【0036】
尚、前記上枠4a(及び前記下枠5a)の端部に固定したコーナー補強片36の端部(塞ぎ板部38の長さ方向他端部及び取付板部39aの屋外側面)と、前記各竪枠6a、6aに固定した竪枠補強枠37、37の端部とは、それぞれ溶接により連結(接合)されている。コーナー補強片36と竪枠補強枠37とは、それぞれ上枠4a、竪枠6aに取り付けた後に溶接する事もできる。何れにしても、前記各コーナー補強片36と前記各竪枠補強枠37、37とを直角に連結した状態で、前記枠本体16を補強している。
【0037】
又、本例の場合には、前記スライドレール17の長さ方向両側部分に、変位吸収部材43をそれぞれ設けている。これら各変位吸収部材43は、弾性を有するゴム製で、全体形状をブロック状(略直方体状)に構成している。そして、この様な変位吸収部材43を、前記上枠4aの基板部28の両端寄り部分の上面に載置した状態で、前記スライドレール17の端面(本体板部18、屋内側の保持部19bの一部、立壁部21及び係合片23a、23bの各端面)と、前記上枠4aの両端部に固定したコーナー補強片36を構成する押付板部40との間で、それぞれ挟持している。又、本例の場合には、前記各変位吸収部材43の屋外側面を前記上枠4aの補助壁34の屋内側面に突き当てると共に、屋内側端部の下端部に形成した係合切り欠き44を前記上枠4aの屋内側突条32に係合させる事で、前記各変位吸収部材43の屋内外方向に関する位置決めを図っている。尚、前記各変位吸収部材43は、接着等の固定手段により固定しても良いし、単に上記各部により挟持するだけでも良い。
【0038】
以上の様な構成を有する本例の場合には、地震発生時に、建物躯体を構成する前記上階躯体8と前記下階躯体9とが層間変位した場合にも、前記窓装置1aが破損する事を有効に防止できる。
即ち、本例の場合には、前記上枠4aを、前記上階躯体8に固定した前記スライドレール17に対して、その長さ方向に関する相対移動を可能に係合させている。この為、地震発生時に、前記上階躯体8と前記下階躯体9とが層間変位した場合に、前記上枠4aを、前記スライドレール17に対してその長さ方向に相対移動させる事で、この上枠4aを、前記上階躯体8の動きには追従させずに、前記下階躯体9の動きにのみ追従させる事ができる。この為、前記上階躯体8と前記下階躯体9との層間変位に拘わらず、前記枠本体16の全体形状を矩形枠状に維持できる。より具体的には、前記上階躯体8と前記下階躯体9との層間変位により、前記各側部躯体10、10の開口縁(側面)が、図1中に二点鎖線で示した様に鉛直方向に対して傾斜し、これら各側部躯体10、10と前記各竪枠6a、6a(又は竪枠補強枠37、37)とが当接するまでの間は、前記枠本体16の全体形状を矩形枠状に維持できる。建物の耐震性確保の面から、前記各側部躯体10、10が、前記2点鎖線で示す程、大きく傾斜する事はない。従って、前記枠本体16が破損する事を有効に防止できると共に、この枠本体16の内側に建て込んだ前記各ガラス障子3a、3bの開閉動作が行えなくなったり、これら各ガラス障子3a、3b(特にガラスパネル15a、15b)が破損する事も有効に防止できる。尚、前記上枠4aが前記スライドレール17に対して相対移動する際に、この相対移動量(層間変位量)が余程大きくならない限り、この上枠4aと前記上階躯体8との間部分に設けたシール45は、その許容変形量の範囲で変形するだけで、損傷せずに済む。
【0039】
又、本例の場合には、前記スライドレール17を前記上枠4aの内部に収納している為、この上枠4aと前記下枠5aとの間の開口寸法が小さくなる事を防止できる。この為、前記枠本体16の開口部が狭くなる(開口面積が小さくなる)事を防止できる。又、前記スライドレール17は、建物外部及び建物内部から目視できない為、このスライドレール17を設けた事によって、前記窓装置1aの意匠(デザイン)に影響を与える事もない。又、本例の場合には、前記スライドレール17以外に、特に新たな部材を必要とせず、徒に構造を複雑化しなくて済む為、低コスト化を図れる。
【0040】
又、前記スライドレール17を構成する保持部19a、19bに、低摩擦材製の滑り材24、24を設けている為、前記スライドレール17と前記上枠4aとを滑らかに相対変位させる事ができる。この為、前記枠本体16が歪む事を防止できて、この枠本体16の全体形状を矩形枠状に維持し易くなる。又、相対変位する際の擦れ音等の異音が発生する事も防止できる。
【0041】
又、前記各コーナー補助片36と前記各竪枠補強枠37、37とにより、前記枠本体16を補強している為、この枠本体16の剛性を高める事ができる。この為、地震発生時に、前記上階躯体8と前記下階躯体9とが層間変位した場合にも、前記枠本体16の角部を直角のまま維持して、この枠本体16の全体形状を矩形状に維持できる。従って、この枠本体16の破損防止の面から有利になると共に、前記各ガラス障子3a、3bの開閉動作及びこれら各ガラス障子3a、3b自体の破損防止の面からも有利になる。
【0042】
又、前記スライドレール17の端面と、前記各コーナー補強片36の押付板部40との間で、ゴム製の変位吸収部材43を挟持している為、地震発生時に、前記上枠4a(枠本体16)と前記スライドレール17とが相対変位する際に、前記各変位吸収部材43を圧縮変形させる(押し潰す)事ができる。この為、前記枠本体16と前記スライドレール17との相対変位を減衰吸収できる。又、衝突音等の異音が発生する事も防止できる。
【0043】
更に、本例の場合には、前記上枠4aを前記スライドレール17に対して地震の大きさに応じて有効に相対移動させる事ができる。即ち、これら上枠4aとスライドレール17との係合部分には、前記下枠5aとこのスライドレール17とを係合させるとした場合に加わる様な、前記枠本体16及びこの枠本体16の内側に建て込まれるガラス障子3a、3b等の重量が加わらずに済む。この為、前記上枠4aを前記スライドレール17に対して地震の大きさに応じて有効に相対移動させる事ができる。又、前記各ガラス障子3a、3bに吹き付ける風等による風圧によって、前記上枠4aが前記スライドレール17(上階躯体8)に対して屋内外方向(面外方向)に変位する(がたつく)事を防止できる。更に、本例の場合には、前記上枠4aの補助壁34と前記スライドレール17の立壁部21とを当接乃至近接対向させている為、この面からも前記上枠4aの屋内外方向に関するがたつきを防止できる。
【産業上の利用可能性】
【0044】
前述した実施の形態の1例では、スライドレールを建物躯体のうちの上階躯体に対して固定し、このスライドレールに対して上枠を係合させる構造に就いて説明したが、本発明を実施する場合に、前記スライドレールを建物躯体のうちの下階躯体(下部躯体)に対して固定し、このスライドレールに対して下枠を係合させる構成を採用する事もできる。又、前記実施の形態の1例では、上階躯体と上枠との間部分及び下階躯体と下枠との間部分にモルタルを充填した構造、並びに、側部躯体と竪枠との間にロックウールを充填した構造に就いて説明したが、本発明は、この様な構造に限定されるものではない。即ち、これらモルタルやロックウールの充填は設計仕様によるもので、本発明を実施する上では、充填してもしなくても良い。
【0045】
又、前記実施の形態の1例では、本発明を1対の引き違い式のガラス障子を組み込んだ窓枠装置(窓枠)に適用した場合に就いて説明したが、本発明はこの様な構造に限定されず、内側に建て込む建具の種類、数、構造等は問わない。例えば、1対の引き違い式のガラス障子を方立を挟んで複数建て込む構造や、片引き式の障子等の引戸、内開き戸又は外開き戸等の開き戸を建て込む構造にも適用できる。又、ガラスパネルを直接固定する固定式(FIX窓)の構造にも適用できるし、更には、戸枠等にも適用できる。
【符号の説明】
【0046】
1、1a 窓装置
2、2a 窓枠
3a、3b ガラス障子
4、4a 上枠
5、5a 下枠
6、6a 竪枠
7 開口部
8 上階躯体
9 下階躯体
10 側部躯体
11a、11b 上框
12a、12b 下框
13a、13b 召し合わせ框
14a、14b 突き合わせ框
15a、15b ガラスパネル
16 枠本体
17 スライドレール
18 本体板部
19a、19b 保持部
20a、20b ガイド溝
21 立壁部
22 固定溝
23a、23b 係合片
24 滑り材
25、25a アンカー
26、26a モルタル
27a、27b 上部案内レール
28 基板部
29 収納空間
30 屋外側壁
31 屋内側壁
32 屋内側突条
33 屋外側突条
34 補助壁
35 固定溝
36 コーナー補強片
37 竪枠補強枠
38 塞ぎ板部
39a、39b 取付板部
40 押付板部
41、41a ねじ
42 ロックウール
43 変位吸収部材
44 係合切り欠き
45 シール
46 隙間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
建物躯体の開口部に取り付けられる免震式サッシ枠であって、
上枠と下枠と1対の竪枠とを有し、これら各枠のそれぞれの端部を連結して成る矩形枠状の枠本体と、前記建物躯体の開口部の上辺を構成する上部躯体と同じく下辺を構成する下部躯体とのうちの一方の躯体に固定されたスライドレールとを備え、
前記上枠と前記下枠とのうちの一方の枠は、前記スライドレールをその内部に収納した状態で、このスライドレールに対してその長さ方向への相対移動のみを可能に係合しており、
前記上枠と前記下枠とのうちの他方の枠は、前記上部躯体と前記下部躯体とのうちの他方の躯体に対して固定されており、
前記各竪枠は、前記建物躯体の開口部の側辺を構成する側部躯体に対して固定されておらず、これら各側部躯体との間に隙間が設けられており、
前記上部躯体と前記下部躯体とが水平方向に相対変位した場合に、前記上枠と前記下枠とのうちの一方の枠が、前記スライドレールに対してその長さ方向に相対移動する事で、前記枠本体の全体形状が矩形枠状に維持される事を特徴とする免震式サッシ枠。
【請求項2】
前記上枠と前記下枠とのうちの一方の枠と前記スライドレールとが摺接する部分に、滑り材が設けられている、請求項1に記載した免震式サッシ枠。
【請求項3】
前記スライドレールの全長が前記上枠と前記下枠とのうちの一方の枠の全長よりも短く、このスライドレールの長さ方向両側に変位吸収部材が設けられており、前記上部躯体と前記下部躯体とが水平方向に相対変位した場合に、前記スライドレールと前記枠本体の一部又はこの枠本体に固定した部材との間で前記各変位吸収部材を圧縮変形させる、請求項1〜2のうちの何れか1項に記載した免震式サッシ枠。
【請求項4】
前記上枠及び前記下枠の両端部にそれぞれ固定されたコーナー補強片と、前記各竪枠にそれぞれ固定された竪枠補強枠の端部とが連結されている、請求項1〜3のうちの何れか1項に記載した免震式サッシ枠。
【請求項5】
前記一方の枠が上枠であり、この上枠に設けられた収納空間内に、前記スライドレールが屋内外方向に関する相対変位を不能に収納されている、請求項1〜4のうちの何れか1項に記載した免震式サッシ枠。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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