説明

免震装置の耐火被覆構造

【課題】大きさの異なる2つの構造体の間に配置される免震装置に対して、簡易な構成で、かつ、優れた耐火性能を有する耐火被覆構造を提供する。
【解決手段】第1の構造体SLを囲む水平耐火パネル2と免震装置10を囲む垂直耐火パネル3とを備え、垂直耐火パネル3は第2の構造体SUに取り付けられる第1の耐火パネル30と第1の耐火パネル30と対向するよう水平耐火パネル2に取り付けられる第2の耐火パネル31とを含む。水平耐火パネル2は第1の構造体SLに固定された固定部材40,41に固定される。第1の耐火パネル30は第2の構造体SUに固定された上部固定部材32に、第2の耐火パネル31は水平耐火パネル2に固定された下部固定部材33に、それぞれ固定され、各耐火パネル30,31の間にスリットPが形成される。固定部材40,41と下部固定部材33とは接触しないよう水平耐火パネル2に配備される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、上下に離間するとともに対向する面の大きさが異なる2つの構造体の間に介在する免震装置を耐火被覆して、火災などの熱から保護するための免震装置の耐火被覆構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、上下に離間した2つの構造体の間に介在する免震装置の耐火被覆構造が種々提案されている。例えば、特許文献1には、免震装置の周囲を取り囲むように、上下に離間した2つの構造体から耐火板をそれぞれ下または上方向に突設させている。各耐火板はヒンジ部材を介して構造体に対して前後方向に揺動可能となっており、これにより、通常時には、免震装置は各耐火板により火や熱が遮断されるが、免震装置の点検時には、免震装置を取り囲んでいる各耐火材を開けることにより、内部の免震装置の確認作業を容易にできるようになっている。
【0003】
ところで、このような免震装置には、鋼板とゴムとを交互に積み重ねて構成した積層ゴム支承を用いた積層ゴム型免震装置や、すべり板およびすべり支承により構成したすべり型免震装置、転がり支承を用いた転がり型免震装置など、各種の免震装置が提案されており、上記した特許文献1に記載の耐火被覆構造は、主に積層ゴム型免震装置の耐火被覆を目的としている。
【0004】
しかし、免震装置として積層ゴム型免震装置を採用した場合には、免震装置を配置する上下の構造体は、その大きさ(断面積)が一致しているのが一般的である。これに対し、免震装置としてすべり型免震装置を採用した場合には、すべり板をすべり支承の移動範囲に対応するように、すべり板の平面寸法をすべり支承の幅(すべり支承が断面視で円形状の場合はその直径)に少なくとも免震変位の2倍を加えた大きさにするのが一般的であるので、すべり板を設ける一方の構造体の大きさ(断面積)を、すべり支承を設ける他方の構造体の大きさ(断面積)よりも大きく形成するものが多く見られる。
【0005】
そのため、特許文献1に記載されたような耐火被覆構造は、このすべり型免震装置のような、大きさの異なる2つの構造体の間に配置する必要がある免震装置に対しては適用することができず、仮に適用しても、上下の構造体の大きさが異なるために免震装置を十分に被覆することができない。そこで、上下の構造体の大きさの不一致に対応した耐火被覆構造も提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【0006】
この特許文献2に記載された耐火被覆構造では、すべり板は断面積が大きく形成された下側の構造体の上端に埋め込まれており、すべり支承が固定された断面積の小さい上側の構造体には、すべり支承の周囲を囲むように耐火ボードが吊設されている。また、すべり板が固定された下側の構造体には、すべり板上の前記耐火ボードの外側に位置する部分に耐火ブランケットが敷設されており、これにより、すべり支承の周囲を耐火ボードで被覆し、この耐火ボードよりも外側にあるすべり板を耐火ブランケットで被覆するようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】実用新案登録第3142272号公報
【特許文献2】特開2008−57228号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記した特許文献2に記載の耐火被覆構造では、すべり板およびベース板とコンクリートとに段差があると、地震時の移動で耐火ブランケットがすべり板の角などに接触して損傷するおそれがあるために、すべり板を構造体の端部に埋め込んで表面をフラットにする必要があり、その施工が煩雑になるという問題がある。また、免震装置全体が耐火被覆されるが、耐火ボードと耐火ブランケットとを組み合わせて被覆しているため、耐火ボードと耐火ブランケットとの境界では熱膨張率の差が生じ、この熱膨張率の差に起因して耐火性能が低下するという問題がある。
【0009】
本発明は、上記した問題に着目してなされたもので、例えばすべり型免震装置のような、大きさ(断面積)の異なる2つの構造体の間に配置される免震装置に対して、簡易な構成で、しかも、優れた耐火性能を有する免震装置の耐火被覆構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の免震装置の耐火被覆構造は、上下に離間するとともに対向する面の大きさが異なる2つの構造体の間に介在する免震装置の周囲を囲って免震装置を火災などの熱から保護するものであり、前記構造体のうち、大きさ(例えば断面積)が小さい側の第1の構造体の外周を取り囲むように水平に架設される水平耐火パネルと、前記免震装置の周囲を取り囲むように縦設される垂直耐火パネルとを備えている。前記垂直耐火パネルは、前記構造体のうち、大きさ(断面積)が大きい側の第2の構造体の前記第1の構造体と対向する面の周縁に沿って取り付けられる第1の耐火パネルと、前記第1の耐火パネルと対向するように前記水平耐火パネルに取り付けられる第2の耐火パネルとを含んでいる。前記水平耐火パネルは、第1の構造体の外周との間に隙間が生じないように前記第1の構造体に固定された複数の第1の固定部材に固定されている。前記第1の耐火パネルは、第2の構造体の前記対向面との間に隙間が生じないように、前記第2の構造体に固定された複数の第2の固定部材に固定されるとともに、前記第2の耐火パネルは、前記水平耐火パネルとの間に隙間が生じないように、前記水平耐火パネルに固定された複数の第3の固定部材に固定されて、前記第1の耐火パネルと前記第2の耐火パネルとの間には、スリットが形成され、前記第1の固定部材と第3の固定部材とは、接触しないように前記水平耐火パネルに配備されていることを特徴としている。
【0011】
上記した構成の耐火被覆構造によれば、免震装置が大きさの異なる上下の構造体の間に配置されている場合であっても、免震装置の周囲が垂直耐火パネルで被覆されるとともに、構造体のサイズの違いによって免震装置の上方または下方に生じる垂直耐火パネルと第1の構造体との間の間隙が水平耐火パネルで覆われるため、免震装置全体を耐火パネルのみで耐火被覆することが可能となる。そのため、耐火被覆構造を簡易な構造とすることができるうえ、耐火被覆構造全体として熱膨張率の差が生じないので、従来の耐火パネルと耐火ブランケットとを組み合わせた耐火被覆構造と比べて、耐火性能を向上させることができる。
【0012】
本発明の好ましい実施態様においては、前記第1の構造体は、断面形状が矩形状をなしており、前記水平耐火パネルは、長さが前記第1の構造体の幅とほぼ等しい2枚の短形耐火パネルと、長さが前記第2の構造体の幅とほぼ等しい2枚の長形耐火パネルとからなり、その端面同士を突き合わせて全体として矩形状に構成されている。前記短形耐火パネルの両端面には、凸部が形成されている一方、前記長形耐火パネルの突き合わせ端面には、前記凸部が嵌合することが可能な凹部が形成されていることを特徴としている。
【0013】
この実施態様によれば、各耐火パネル同士を、いわゆる実接ぎによって連結することにより、水平耐火パネルにおいては、外部から目地などを介して熱が内部に侵入することを抑制することができるため、耐火被覆構造の耐火性能を向上できる。
【0014】
本発明のさらに好ましい実施態様においては、前記水平耐火パネルには、前記第1の固定部材および第3の固定部材との固定位置に、ボルトがそのネジ頭部が前記水平耐火パネルから突き出るようにして埋設されており、前記ボルトを前記第1の固定部材および第3の固定部材に形成したボルト挿入孔に挿入して螺合したナットで締め付けることにより、前記水平耐火パネルと前記第1の固定部材および第3の固定部材とが一体化されることを特徴としている。
【0015】
この実施態様によれば、水平耐火パネルと第1、第3の各固定部材とを固定するボルトは、水平耐火パネルを貫通することなく水平耐火パネルの内部に埋め込まれるので、このボルトが熱橋となって外部の熱を内部に誘導することがなく、耐火被覆構造の耐火性能の低下を防止できる。
【0016】
本発明のさらに好ましい実施態様においては、前記第1の耐火パネルまたは第2の耐火パネルには、前記スリットの幅よりも厚さが小さい耐火ゴムシートが前記免震装置を取り囲むように取り付けられていることを特徴としている。
【0017】
この実施態様によれば、スリットに耐火ゴムシートが挿入されているので、免震装置に対する耐火機能を向上させることができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、免震装置が大きさの異なる上下の構造体の間に配置されている場合であっても、簡易な構成で、かつ、耐火性能に優れた免震装置の耐火被覆構造を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の一実施例である免震装置の耐火被覆構造の一部切り欠き断面図である。
【図2】図1のA−A線に沿う断面図である。
【図3】図1のB−B線に沿う断面図である。
【図4】図2のC−C線に沿う断面図である。
【図5】図2のD−D線に沿う断面図である。
【図6】短形耐火パネルおよび長形耐火パネルの外観を示す斜視図である。
【図7】第1の耐火パネルの外観を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の一実施例である免震装置の耐火被覆構造1について図面を参照しつつ説明する。図1に示すように、本実施例に係る免震装置の耐火被覆構造1は、上側の構造体SUと、この構造体SUの下方に隣接する下側の構造体SLとの間に介在して建物の免震を図る免震装置10に適用されるものである。なお、本実施例における構造体SU,SLは、建物の断面矩形状の支柱である。
【0021】
免震装置10は、図1〜図3に示すように、下側の構造体SLの上端面に設けられたすべり支承11と、上側の構造体SUの下端面に設けられたすべり板12とから構成されたすべり型免震装置により構成されている。すべり支承11は、すべり板12の表面上を滑ることで地震による建物応答加速度を低減する部材であり、円柱形状を呈する剛すべり支承に免震ゴムを積層した弾性すべり支承で構成されている。
【0022】
すべり板12は、平面視八角形状を呈するステンレス板で構成されており、上側の構造体SUの下端面に固定されたベース板13に取り付けられている。このすべり板12は、すべり支承11の滑り移動範囲に対応した平面寸法に形成されており、よって、すべり板12の平面視寸法はすべり支承11と比べて非常に大きく、そのために、すべり板12が固定される上側の構造体SUは、すべり支承11が固定される下側の構造体SLよりもそのサイズ(断面積)が大きくなっている。ここで、本書では、以下、断面積の大きさが小さい方の構造体SLを「第1の構造体SL」と、断面積の大きさが大きい方の構造体SUを「第2の構造体SU」と、それぞれいうことにする。なお、上記したようなすべり型免震装置10は周知のものであるので、ここではその詳細な説明については省略する。
【0023】
耐火被覆構造1は、免震装置10の周囲を囲って免震装置10を火災の熱から保護するものであり、免震装置10の下方域を被覆する水平耐火パネル2と、免震装置10の側方域を被覆する4枚の垂直耐火パネル3とを備えている。
【0024】
前記水平耐火パネル2は、図2、図4〜図6に示すように、外形が上側の第2の構造体SUの外形に沿った矩形状をなしているとともに、下側の第1の構造体SLを臨ませることが可能な開口部20を有しており、第1の構造体SLの外周を取り囲むように水平に架設されている。水平耐火パネル2の内周面と第1の構造体SLの外周面との間には、これらの間の隙間を埋めるために、耐火性、断熱性、可撓性に優れたセラミックファイバーブランケット14を介在させている。また、水平耐火パネル2の外部に露出する外周面および下端面には、鋼板25(図6に示す)が貼設されて被覆されている。
【0025】
本実施例の水平耐火パネル2は、長さ寸法が第1の構造体SLの幅寸法とほぼ等しい2枚の短形耐火パネル21,21と、長さ寸法が第2の構造体SUの幅寸法とほぼ等しい2枚の長形耐火パネル22,22とで構成されている(図6を参照)。各耐火パネル21,22は、良好な耐火性(不燃性および耐熱性)、断熱性を有し、かつ、経年劣化の少ないガラス繊維混入のケイ酸カルシウム板で構成されており、本実施例では、4枚のケイ酸カルシウム板を縦に重ねかつ一体接合して各耐火パネル21,22を形成している。
【0026】
各耐火パネル21,22同士は、いわゆる実接ぎによって連結されている。短形耐火パネル21の両端部には、差し込み用の凸部23,23が設けられている。一方、長形耐火パネル22の内側側面の両端位置には、前記凸部23を嵌合可能な凹部24,24が形成されており、各凸部23が各凹部24に嵌合するよう短形耐火パネル21を長形耐火パネル22に突き合わせることで、前記水平耐火パネル2が形成される。
【0027】
このように、各耐火パネル21,22同士を実接ぎによって連結することにより、水平耐火パネル2の裏面においては、目地からの熱の侵入を抑制することができ、耐火性能を向上できる。なお、図6中、25は、水平耐火パネル2の外周を取り囲むようにして貼設された前記亜鉛めっき鋼板である。
【0028】
このようにして形成された水平耐火パネル2は、長形耐火パネル22の上端面の中央1箇所に配置された第1の固定部材40と、短形耐火パネル21の上端面の端部2箇所に配置された第2の固定部材41とによって第1の構造体SLに固定される。第1の固定部材40は、板金をL字に曲げ加工したアングル材で構成されており、長形耐火パネル22の上端面と第1の構造体ULの外周面とに沿うように配置されている。第1の固定部材40の第1の構造体SLと接する側の面は、第1の構造体SLの外周面のネジ穴45(図5に示す)にボルト留めされ、これにより第1の固定部材40は第1の構造体SLに取り付け固定されている。
【0029】
第2の固定部材41は、平面視L字状の底板部41aとL字型側板部41bとを備えた構成されたものであり、底板部41aが短形耐火パネル21の上端面に沿うように配置されている。L字型側板部41bの第1の構造体SLと接する側の面は、第1の固定部材40と同様、第1の構造体SUの外周面にボルト留めされ、これにより第2の固定部材41は第1の構造体SLに取り付け固定されている。
【0030】
なお、図2中、42は、上記した固定部材40と同様、板金をL字に曲げ加工したアングル材で構成された第3の固定部材であり、長形耐火パネル22の上端面と第2の固定部材41のL字型側板部41bとに沿うように、各長形耐火パネル22の端部2箇所に配置されている。第3の固定部材42は、第2の固定部材41のL字型側板部41bと接する側の面がL字型側板部41bにボルト留めされることで第2の固定部材41を介して第1の構造体ULと一体化されている。
【0031】
各耐火パネル21,22の各固定部材40,41,42が配置される位置には、それぞれナット44が埋設されている。各固定部材40,41,42には、各耐火パネル21,22のナット埋設位置と対応する位置にボルト挿入孔43(図5に示す)が形成されており、ボルト挿入孔43に、ナット44と螺合するアンカーボルト4を上方から挿入してナット44にねじ込むことで、各耐火パネル21,22は、各固定部材40,41,42を介して第1の構造体ULと一体化される。
【0032】
なお、各耐火パネル21,22の各固定部材40,41,42が配置される位置に、それぞれ各耐火パネル21,22の上端面から頭部が突き出るようにしてアンカーボルト4を埋設し、各固定部材40,41,42のボルト挿入孔43にアンカーボルト4を挿入してその頭部部分を螺合したナット44で締め付けることで、各耐火パネル21,22を第1の構造体ULに一体化するように構成してもよい。
【0033】
前記の各垂直耐火パネル3は、免震装置10の上部側方を被覆する上側4枚の第1の耐火パネル30と、下部側方を被覆する下側4枚の第2の耐火パネル31とから構成されている。
【0034】
上側の第1の耐火パネル30は、図3〜図5、および図7に示すように、免震装置10を取り囲むように、上側の第2の構造体SUの下端面(第1の構造体ULとの対向面)の各辺に沿って配置されている。各第1の耐火パネル30の両側端面30A,30Aは、傾斜面となっており、隣接する第1の耐火パネル30の側端面30Aを突き合わせることによって、隙間が生じることなく連結される。この各第1の耐火パネル30は、第2の構造体SUの四隅に配置された上部固定部材32によって第2の構造体SUの下端面に取り付け固定される。なお、第1の耐火パネル30の上端面、下端面および外側側面には、鋼板33が貼設されて被覆されている。
【0035】
前記上部固定部材32は、平坦な平面部32aの周縁からL字型の側面部32aが吊設された構成のものであり、平面部32aが第2の構造体SUの下端面にボルト留めされて第2の構造体SUに取り付け固定されている。なお、平面部32aを免震装置10のベース板13の下端面にボルト留めすることで、上部固定部材32を第2の構造体SUに取り付け固定するように構成してもよい。
【0036】
上部固定部材32のL字の側面部32aは、隣接する2枚の第1の耐火パネル30の内面に突き合わされており、各第1の耐火パネル30は、その側端面30Aを隣接する第1の耐火パネル30の側端面30Aと突き合わせた状態で、各上部固定部材32の側面部32bにボルト留めされることで、第2の構造体SUと一体化されている。
【0037】
なお、各上部固定部材32の側面部32bと各第1の耐火パネル30との間には、これらの間の隙間を埋めるために、セラミックファイバーブランケット15を介在させている。また、各第1の耐火パネル30と第2の構造体SUとの間にも、第2の構造体SUの端面の不陸による隙間をなくすために、セラミックファイバーブランケット16を介在させている。
【0038】
下側の第2の耐火パネル31は、図2、図4、および図5に示すように、免震装置10を取り囲むように、水平耐火パネル2の上端面(第2の構造体SUとの対向面)の各辺に沿って配置されている。各第2の耐火パネル31も、第1の耐火パネル30と同様に、その両側端面31Aは傾斜面となっており、隣接する各第2の耐火パネル31の側端面31Aを突き合わせることにより、隙間が生じることなく連結される。なお、第2の耐火パネル31の構成は、図7に示す第1の耐火パネル30の構成とほぼ同じであり、ここでは図示は省略する。
【0039】
各第2の耐火パネル31は、水平耐火パネル2に固定された複数(本実施例では8つ)の下部固定部材33によって、水平耐火パネル2の上端面に取り付け固定される。この下部固定部材33は、水平耐火パネル2に固定されている前記第1〜第3の各固定部材40〜42と直接接触しないよう間隔をあけた状態で、水平耐火パネル2の各辺に等間隔で配置されており、水平耐火パネル2(各耐火パネル21,22)の上端面に沿う平坦な下面部33aの周縁からL字型の側面部33bが立設された構成のものである。四隅の下部固定部材33はL字の側面部33bの2つの面が、その他の下部固定部材33はL字の側面部33bのいずれか一方の面が、それぞれ第2の耐火パネル31の内面に突き合わされている。
【0040】
水平耐火パネル2(各耐火パネル21,22)の各下部固定部材33の下面部33aに対応する位置には、それぞれナット44が埋設されている。各下部固定部材33の下面部33aには、ボルト挿入孔43(図5に示す)が形成されており、このボルト挿入孔43にナット44と螺合するアンカーボルト4を上方から挿入してナット44にねじ込むことで、各下部固定部材33は水平耐火パネル2上に固定されている。
【0041】
各第2の耐火パネル31は、その側端面31Aを隣接する第2の耐火パネル31の側端面31Aと突き合わせた状態で、各下部固定部材33の側面部33bにボルト留めされることで、水平耐火パネル2と一体化されている。なお、各下部固定部材33の側面部33bと各第2の耐火パネル31との間には、これらの間の隙間を埋めるために、セラミックファイバーブランケット17を介在させている。また、各第2の耐火パネル31と水平耐火パネル2との間にも、セラミックファイバーブランケット18を介在させている。
【0042】
下側の各第2の耐火パネル31の上端面と、上側の各第1の耐火パネル30の下端面とはそれぞれ対向しており、これらの間にスリットPを形成している。このスリットPには、耐火ゴムシート19が挿入されており、免震装置10を包囲するように上側の各第1の耐火パネル30の下端面に接着されている。この耐火ゴムシート19は、遮炎性および遮熱性を有するとともに熱膨張性を有するものであり、例えば、日本インシュレーション株式会社製の「JICタイカテープEP−HD」(商品名)を用いることができる。
【0043】
なお、耐火ゴムシート19の下面と下側の各第2の耐火パネル31の上端面との間には、隙間Qが形成されており、この隙間Qによって、地震による振動で耐火ゴムシート19と各第2の耐火パネル31とが接触することがないようになっている。
【0044】
また、各第1の耐火パネル30の下端面の耐火ゴムシート19の内側位置に、さらに耐火スポンジ(図示せず)を並設することもできる。この場合、前記耐火スポンジの下端は、各第2の耐火パネル31の上端面と接触させ、前記耐火スポンジによってスリットPが塞がれるようになっている。このような耐火スポンジは、遮炎性および遮熱性を有するとともに熱膨張性を有するものであり、ウレタンフォームなどの樹脂成分に膨張性黒鉛などの無機充填剤などが配合されたものを利用でき、例えば、日本インシュレーション株式会社製の「JICタイカブロックEP−HD」(商品名)を用いることができる。この耐火スポンジを設けることにより、耐火被覆構造1の耐火性能を向上させることができるとともに、内部へのゴミなどの侵入を防止することもできる。
【0045】
上記した構成の耐火被覆構造1によれば、免震装置10が大きさの異なる上下の構造体SU,SLの間に配置されている場合であっても、免震装置10の側方周囲が垂直耐火パネル3で被覆されるとともに、構造体SU,SLのサイズの違いによって免震装置10の下方(または上方)に生じる垂直耐火パネル3と第1の構造体UL(断面積の大きさが小さい側の構造体)との間の間隙が水平耐火パネル2で覆われるため、免震装置10全体を耐火パネルのみで耐火被覆することが可能となる。そのため、耐火被覆構造1を簡易な構造とすることができるうえ、耐火被覆構造1全体として熱膨張率の差が生じないので、従来の耐火パネルと耐火ブランケットとを組み合わせた耐火被覆構造と比べて、耐火性能を向上させることができる。
【0046】
また、水平耐火パネル2は、4枚の各耐火パネル21,22を実接ぎによって緊密に連結された構成になっているので、連結部の構造強度を向上することができるとともに、水平耐火パネル2の裏面においては、外部から目地などを介して熱が内部に侵入することを抑制することができ、連結部における耐火性能の低下を防止することができる。
【0047】
さらに、水平耐火パネル2と第1〜第3の各固定部材40〜42とを固定するアンカーボルト4は、一端部が水平耐火パネル2を貫通することなく水平耐火パネル2の内部に埋め込まれるので、このアンカーボルト4が熱橋となって耐火被覆構造1外部の熱を内部に誘導することがなく、耐火性能が低下することがない。
【0048】
加えて、水平耐火パネル2上に固定される第1〜第3の各固定部材40〜42(水平耐火パネル2と構造体SLとを固定)と下部固定部材33(水平耐火パネル2と第2の耐火パネル31とを固定)とが接触(一体化)せずに間隔をあけて配備されているので、火災時などにおける各固定部材33,40〜42の熱膨張による変形を極力抑制することができ、これに伴う水平耐火パネル2の変形や目地開き、さらには、止め具の抜けなどの固定力の低下による水平耐火パネル2の脱落を抑えることができる。
【0049】
なお、上記した実施例では、上側の構造体SUの方が下側の構造体SLよりも、そのサイズ(断面積)が大きい場合における免震装置の耐火被覆構造について説明したが、本発明の耐火被覆構造は、下側の構造体SLの方が上側の構造体SUよりもサイズ(断面積)が大きい場合についても適用できるのは言うまでもない。
【0050】
この場合には、上記した実施例とは上下が逆になるように耐火被覆構造が構成される。すなわち、水平耐火パネル2を上側の構造体SUの外周を取り囲むように水平に架設するとともに、垂直耐火パネル3は、上側の第1の耐火パネル30を、免震装置10を取り囲むように、水平耐火パネル2の下端面(下側の構造体SLとの対向面)の各辺に沿って配置し、下側の第2の耐火パネル31を、免震装置10を取り囲むように、下側の構造体ULの上端面(上側の構造体SUとの対向面)の各辺に沿って配置するようにする。
【0051】
また、上記した実施例では、建物の断面矩形状の支柱間に介在する免震装置に、本発明に係る耐火被覆構造を適用しているが、これに限定されるものではなく、例えば、断面円形の支柱間に介在する免震装置へ適用してもよい。この場合、水平耐火パネル2を平面視円形状に構成するとともに、垂直耐火パネル3の第1、第2の各耐火パネル30,31を円弧状に構成するようにしてもよい。また、建物の支柱間に介在する免震装置以外にも、建物の支柱と基礎との間に設けられた免震装置などに適用してもよい。
【符号の説明】
【0052】
1 耐火被覆構造
2 水平耐火パネル
3 垂直耐火パネル
4 アンカーボルト
10 免震装置
19 耐火ゴムシート
21 短形耐火パネル
22 長形耐火パネル
23 凸部
24 凹部
30 第1の耐火パネル
31 第2の耐火パネル
32 上部固定部材
33 下部固定部材
43 ボルト挿入孔
44 ナット
40〜42 固定部材
SL 第1の構造体
SU 第2の構造体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
上下に離間するとともに対向する面の大きさが異なる2つの構造体の間に介在する免震装置の耐火被覆構造であって、
前記構造体のうち、大きさが小さい側の第1の構造体の外周を取り囲むように水平に架設される水平耐火パネルと、前記免震装置の周囲を取り囲むように縦設される垂直耐火パネルとを備え、
前記垂直耐火パネルは、前記構造体のうち、大きさが大きい側の第2の構造体の前記第1の構造体と対向する面の周縁に沿って取り付けられる第1の耐火パネルと、前記第1の耐火パネルと対向するように前記水平耐火パネルに取り付けられる第2の耐火パネルとを含み、
前記水平耐火パネルは、第1の構造体の外周との間に隙間が生じないように前記第1の構造体に固定された複数の第1の固定部材に固定され、
前記第1の耐火パネルは、第2の構造体の前記対向面との間に隙間が生じないように、前記第2の構造体に固定された複数の第2の固定部材に固定されるとともに、前記第2の耐火パネルは、前記水平耐火パネルとの間に隙間が生じないように、前記水平耐火パネルに固定された複数の第3の固定部材に固定されて、前記第1の耐火パネルと前記第2の耐火パネルとの間には、スリットが形成され、
前記第1の固定部材と第3の固定部材とは、接触しないように前記水平耐火パネルに配備されていることを特徴とする免震装置の耐火被覆構造。
【請求項2】
前記第1の構造体は、断面形状が矩形状をなしており、
前記水平耐火パネルは、長さが前記第1の構造体の幅とほぼ等しい2枚の短形耐火パネルと、長さが前記第2の構造体の幅とほぼ等しい2枚の長形耐火パネルとからなり、その端面同士を突き合わせて全体として矩形状に構成されており、
前記短形耐火パネルの両端面には凸部が形成されているとともに、前記長形耐火パネルの突き合わせ端面には前記凸部が嵌合することが可能な凹部が形成されていることを特徴とする請求項1に記載の免震装置の耐火被覆構造。
【請求項3】
前記水平耐火パネルには、前記第1の固定部材および第3の固定部材との固定位置に、ボルトがそのネジ頭部が前記水平耐火パネルから突き出るようにして埋設されており、前記ボルトを前記第1の固定部材および第3の固定部材に形成したボルト挿入孔に挿入して螺合したナットで締め付けることにより、前記水平耐火パネルと前記第1の固定部材および第3の固定部材とが一体化されることを特徴とする請求項1または2に記載の免震装置の耐火被覆構造。
【請求項4】
前記第1の耐火パネルまたは第2の耐火パネルには、前記スリットの幅よりも厚さが小さい耐火ゴムシートが前記免震装置を取り囲むように取り付けられていることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の免震装置の耐火被覆構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−32697(P2011−32697A)
【公開日】平成23年2月17日(2011.2.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−178818(P2009−178818)
【出願日】平成21年7月31日(2009.7.31)
【出願人】(000149136)日本インシュレーション株式会社 (19)
【Fターム(参考)】