免震装置
【課題】地震波によって生じる応答加速度、相対変位の双方を低減させる。
【解決手段】固定ベース11上において、圧縮ばね12bを介して上向きに付勢する支持材12と、縦横のスライドレール13、13、14、14を介して水平方向に相対移動自在に支持する移動フレーム20と、水平の規制板23とを設け、支持材12は、上端の球面を介して規制板23の凹部23aの内面に滑り接触させる。
【解決手段】固定ベース11上において、圧縮ばね12bを介して上向きに付勢する支持材12と、縦横のスライドレール13、13、14、14を介して水平方向に相対移動自在に支持する移動フレーム20と、水平の規制板23とを設け、支持材12は、上端の球面を介して規制板23の凹部23aの内面に滑り接触させる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、たとえば美術工芸品や、精密機械器具などの任意の物品を地震による過大な振動から有効に保護するために使用する免震装置に関する。
【背景技術】
【0002】
地震の揺れから建築物を保護する免震装置として、圧縮ばねによる縦揺れ緩衝手段と、皿部材による横揺れ緩衝手段とを一体に組み合わせる形式が提案されている(特許文献1)。
【0003】
縦揺れ緩衝手段は、伸縮自在のガイド部材の外部に圧縮ばねを装着して構成されている。また、横揺れ緩衝手段は、ガイド部材の先端の軸受に回転自在に収納するボールと、このボールを受ける皿部材とを組み合わせて構成されている。そこで、このものは、ガイド部材の基端側、皿部材の背面側をそれぞれ建物側、建物基礎側に固定することにより、地震の揺れが建物基礎から建物に直接伝達されることを防止し、建物を有効に保護することができるという。
【特許文献1】特開2006−200184号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
かかる従来技術によるときは、縦揺れ緩衝手段の圧縮ばねは、建物の重量を支持するために十分強力にする必要があり、地震波の縦揺れを遮断することが実質的に難しい上、このような強力な圧縮ばねを皿部材と組み合わせても、建物に加わる応答加速度が小さくならず、免震効果が必ずしも十分でないという問題があった。
【0005】
そこで、この発明の目的は、かかる従来技術の問題に鑑み、物品を載せる移動フレームをスライドレールによって支持することにより、地震波によって生じる応答加速度、相対変位の双方を効果的に低減させ、必要な免震効果を容易に実現することができる免震装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
かかる目的を達成するためのこの発明の構成は、固定ベース上において、圧縮ばねを介して上向きに付勢する支持材と、固定ベースに組み合わせる縦横のスライドレールを介して支持し、支持材に対して水平方向に相対移動自在の移動フレームと、移動フレームに搭載し、円錐形の凹部を下面に形成する水平の規制板とを備えてなり、支持材は、上端の球面を介して凹部の内面に滑り接触しながら移動フレームを定位置に復元させることをその要旨とする。
【0007】
なお、凹部は、頂部の曲面と、曲面に連続する周辺部の傾斜面とを組み合わせて形成することができ、傾斜面は、傾斜角を異ならせて複数段階に形成することができる。
【0008】
また、移動フレームには、複数のばねを介して保持する水平板を搭載してもよい。
【発明の効果】
【0009】
かかる発明の構成によるときは、支持材は、圧縮ばねを介して上向きに付勢され、上端の球面を介して規制板の下面の凹部の内面に滑り接触し、規制板と一体の移動フレームを定位置に復元させることができる。支持材は、規制板の凹部の内面に接触することにより、規制板の相対移動を妨げる摩擦力に加えて、凹部の頂部に向かう復元力を規制板に及ぼすことができるからである。一方、規制板を搭載する移動フレームは、縦横のスライドレールを介して水平移動自在に支持されているため、移動フレーム自体の重量や、移動フレームに載せる物品の重量は、支持材を付勢する圧縮ばねの負荷になることがなく、したがって、圧縮ばねのばね定数は、地震波によって移動フレームや移動フレーム上の物品に生じる応答加速度、相対変位の双方を効果的に低減させるように、適切に設定することができる。
【0010】
規制板の下面の凹部は、頂部の曲面と、それに連続する周辺部の傾斜面とすることにより、最も単純で、しかも有効な形態に形成することができる。ただし、頂部の曲面は、たとえば支持材の上端の球面の凸の曲率半径以上の凹の曲率半径とし、半径10mm程度の小さな範囲に限定することが好ましい。また、周辺部の傾斜面は、たとえば傾斜角10°±2°に設定することにより、地震波によって移動フレームや移動フレーム上の物品に生じる応答加速度、相対変位の双方を効果的に低減させることができる。なお、傾斜面の傾斜角が過大であると、相対変位が小さくなるが、応答加速度が過大になり、傾斜角が過小であると、応答加速度が小さくなるが、相対変位が過大となる。
【0011】
凹部の傾斜面は、たとえば半径10〜50mmの傾斜角θ1 =10°±3°とし、半径50mm以上の傾斜角θ2 =7°±3°とすることにより、2段階に設定することができる。また、傾斜面は、たとえば半径10〜50mmの傾斜角θ1 =10°±2°、半径50〜100mmの傾斜角θ2 =7°±3°、半径100mm以上の傾斜角θ3 =8°±2°として、3段階に設定してもよい。ただし、応答加速度、相対変位の双方を低減させるために、θ1 >θ2 、θ1 >θ3 >θ2 とすることが好ましいが、それに限定するものではない。
【0012】
複数のばねを介して移動フレームに搭載する水平板上には、任意の免震対象物の物品を載せることができる。水平板用のばねは、地震の際に上下に伸縮し、地震波による縦揺れが水平板上の物品に伝達するのを遮断する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、図面を以って発明の実施の形態を説明する。
【0014】
免震装置は、固定ベース11上に設置する支持材12と、縦横のスライドレール13、13、14、14を介して支持する移動フレーム20とを主要部材としてなる(図1、図2)。なお、移動フレーム20には、規制板23が搭載されている。
【0015】
固定ベース11は、地表F上の台座11aの上面に固定するブロック体である。固定ベース11の上面には、支持材12用のガイド筒12aが立設されており、ガイド筒12aには、支持材12を上向きに付勢する圧縮ばね12bが収納されている。支持材12は、ガイド筒12aの内径に適合する胴部12cの上端に球12dを付設して構成されており、胴部12cの下端には、圧縮ばね12bと組み合わせるための小径部12eが垂設されている。
【0016】
スライドレール13、13は、固定ベース11に対して摺動自在に組み合わされている。また、各スライドレール13の両端には、それぞれスライドブロック13aが固定されており(図3、図4)、スライドブロック13a、13aには、スライドレール13、13に直交するスライドレール14が摺動自在に組み合わされている。なお、移動フレーム20は、底板21を介してスライドレール14、14上に組み付けられており、底板21の中心部には、固定ベース11上の支持材12用のガイド筒12aを下から上に貫通させる大径の丸孔21aが形成されている。
【0017】
移動フレーム20は、正方形の底板21の四隅部に支柱22、22…を立設し(図1、図2)、支柱22、22…の上端に規制板23を下向きにねじ止めして構成されている。規制板23の下面には、円錐形の凹部23aが形成されている(図2、図5)。
【0018】
規制板23の凹部23aは、頂部の半径R1 ≦10mmの範囲が凹の曲率半径Ra >Rb の曲面に形成されている。ただし、Rb は、支持材12の上端の球12dの表面が形成する球面の凸の曲率半径である。また、半径R1 >10mmの範囲は、頂部の曲面に連続する周辺部の傾斜面に形成され、傾斜角θ=10°±2°に形成されている。
【0019】
規制板23上には、水平板24が搭載されている(図1、図2)。水平板24の四隅部には、それぞれ脚24aが垂設されており、規制板23の四隅部には、それぞれ脚24a用の鍔付き有底のガイドブッシュ24bが下向きに付設されている。なお、各ガイドブッシュ24bには、脚24aを上向きに付勢するばね24cが収容されている(図6)。ばね24cは、たとえばコイルばねであり、ばね24cの下端、上端は、それぞれガイドブッシュ24bの底面、脚24aの下面に連結されている。すなわち、ばね24cは、上下に伸縮することにより、下向きの引張力、上向きの圧縮力を発生する。
【0020】
移動フレーム20は、縦横のスライドレール13、13、14、14を介し、固定ベース11上の支持材12に対して水平方向に相対移動自在に支持されている。ただし、移動フレーム20は、地震が発生していない静的な状態では、支持材12の上端の球12dが規制板23の凹部23aの頂部に位置する定位置に復帰している。
【0021】
地震が発生して固定ベース11が水平方向に横揺れすると、移動フレーム20は、固定ベース11上の支持材12に対して水平方向に相対移動し、支持材12の上端の球12dは、規制板23の凹部23aの内面に滑り接触しながら凹部23aの頂部から相対移動する。そこで、圧縮ばね12bを介して上向きに付勢されている支持材12は、凹部23aの傾斜面の傾斜角θに基づき、規制板23、移動フレーム20を定位置に復帰させる復元力を生じるとともに、規制板23の相対移動を妨げる方向に摩擦力を生じ、移動フレーム20の水平板24上に載せる免震対象物の物品に生じる応答加速度、相対変位の双方を低減させることができる。ただし、地震波の縦揺れは、水平板24の脚24a、24a…を上向きに付勢するばね24c、24c…によって遮断される。ばね24c、24c…は、上下に伸縮し、水平板24を地震がないときの静的な位置に保持するように働くからである。
【0022】
図7は、1995年兵庫県南部地震の実際の地震波による免震装置のシミュレーション解析データの一例である。同図(A)によれば、凹部23aの傾斜面の傾斜角θ=8°〜12°において、移動フレーム20に生じる応答加速度、相対変位の双方が効果的に低減されている。また、同図(B)によれば、圧縮ばね12bのばね定数k=4000〜6000N/mにおいて、応答加速度、相対変位の双方が効果的に低減されている。ただし、図7の縦軸は、応答加速度(m/s2 )、相対変位(m)の各最大値を示している。なお、シミュレーション解析は、2004年新潟県中越地震の地震波を使用しても、ほぼ同様の結果が得られており、実験結果ともよく一致した。
【0023】
また、実際の地震波による加振実験データの一例を図8に示す。同図(A)は、入力地震波の加速度波形であり、同図(B)、(C)は、それぞれ移動フレーム20に生じた応答加速度、相対変位の実測波形である。図8によれば、応答加速度は約1/3に低減され、相対変位は約85mmに低減されている。
【他の実施の形態】
【0024】
固定ベース11を平板状に変更するとともに、補助板15を介して移動フレーム20用の縦横のスライドレール13、13、14、14を組み立てることができる(図9、図10)。
【0025】
固定ベース11上のスライドブロック11b、11b…には、補助板15の下面のスライドレール13、13が摺動自在に組み合わされている。また、補助板15上のスライドブロック13a、13a…には、移動フレーム20の底板21の下面のスライドレール14、14が摺動自在に組み合わされている。なお、補助板15には、固定ベース11上の支持材12用のガイド筒12aを下から上に貫通させるために、底板21の丸孔21aと同様の大径の丸孔15aが形成されている。
【0026】
移動フレーム20の支柱22、22…は、それぞれブラケット22a、22aを介して底板21の四隅部に立設されている。また、水平板24の四隅部の脚24a、24a…は、それぞれ規制板23の四隅部のガイドブッシュ24bを上から下に摺動自在に貫通しており、ガイドブッシュ24b上には、水平板24を上向きに付勢するばね24cが装着されている。なお、ばね24cの下端、上端は、それぞれガイドブッシュ24bの上端面、水平板24の下面と一体の脚24aの上端の外フランジの下面に連結されている。地震の際には、ガイドレール13、13、14、14を介して移動フレーム20が水平方向に相対移動し、先きの実施の形態と同様にして、水平板24上に載せる物品を地震の揺れから有効に保護することができる。
【0027】
移動フレーム20に搭載する規制板23は、下面の凹部23aの断面形状を変化させてもよい(図11)。
【0028】
図11(A)は、図5の形状を再掲しており、頂部の半径R≦R1 =10mmの範囲を断面円弧状の曲面とし、半径R>R1 の範囲は、頂部の曲面に連続する周辺部の傾斜面(傾斜角θ=10°±2°)としている。同図(B)は、周辺部の傾斜面を傾斜角θ=θ1 、θ2 の2段階とし、半径R=R2 =50mmで区切っている。なお、傾斜角θは、たとえばθ1 =10°±3°、θ2 =7°±3°である。同図(C)は、周辺部の傾斜面を3段階とし、半径R=R1 =10mm〜R2 =50mmの傾斜角θ1 =10°±2°、半径R=R2 =50mm〜R3 =100mmの傾斜角θ2 =7°±3°、半径R≧R3 =100mmの傾斜角θ3 =8°±2°としている。
【0029】
ただし、図11(B)では、θ1 >θ2 とし、同図(C)では、θ1 >θ3 >θ2 とする。図11(B)は、同図(A)より応答加速度、相対変位の双方の低減効果が優れており、図11(C)は、同図(B)よりさらに優れていることが確認できた。なお、図11(C)において、θ1 >θ2 >θ3 とすれば、相対変位が大きくなるが、応答加速度を抑えることができ、θ1 <θ2 <θ3 とすれば、相対変位を抑えることができるが、応答加速度が大きくなる。
【0030】
以上の説明において、支持材12の上端は、規制板23の凹部23aの内面に滑らかに滑り接触させるために、上方に凸の球面を形成すればよく、必ずしも球12dを付設する必要はない。たとえば、十分な外径の丸棒状の支持材12の上端をドーム状に仕上げるだけでもよい。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】全体模式斜視図
【図2】図1のX−X線矢視相当断面図
【図3】図2のY−Y線矢視相当断面図
【図4】図2のZ−Z線矢視相当断面図
【図5】要部拡大断面図(1)
【図6】要部拡大断面図(2)
【図7】動作特性説明線図(1)
【図8】動作特性説明線図(2)
【図9】他の実施の形態を示す全体正面図
【図10】図9のA−A線矢視相当断面図
【図11】他の実施の形態を示す図5相当説明図
【符号の説明】
【0032】
θ…傾斜角
11…固定ベース
12…支持材
12b…圧縮ばね
13、14…スライドレール
20…移動フレーム
23…規制板
23a…凹部
24…水平板
24c…ばね
特許出願人 国立大学法人 福井大学
株式会社 江沼チヱン製作所
代理人 弁理士 松 田 忠 秋
【技術分野】
【0001】
この発明は、たとえば美術工芸品や、精密機械器具などの任意の物品を地震による過大な振動から有効に保護するために使用する免震装置に関する。
【背景技術】
【0002】
地震の揺れから建築物を保護する免震装置として、圧縮ばねによる縦揺れ緩衝手段と、皿部材による横揺れ緩衝手段とを一体に組み合わせる形式が提案されている(特許文献1)。
【0003】
縦揺れ緩衝手段は、伸縮自在のガイド部材の外部に圧縮ばねを装着して構成されている。また、横揺れ緩衝手段は、ガイド部材の先端の軸受に回転自在に収納するボールと、このボールを受ける皿部材とを組み合わせて構成されている。そこで、このものは、ガイド部材の基端側、皿部材の背面側をそれぞれ建物側、建物基礎側に固定することにより、地震の揺れが建物基礎から建物に直接伝達されることを防止し、建物を有効に保護することができるという。
【特許文献1】特開2006−200184号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
かかる従来技術によるときは、縦揺れ緩衝手段の圧縮ばねは、建物の重量を支持するために十分強力にする必要があり、地震波の縦揺れを遮断することが実質的に難しい上、このような強力な圧縮ばねを皿部材と組み合わせても、建物に加わる応答加速度が小さくならず、免震効果が必ずしも十分でないという問題があった。
【0005】
そこで、この発明の目的は、かかる従来技術の問題に鑑み、物品を載せる移動フレームをスライドレールによって支持することにより、地震波によって生じる応答加速度、相対変位の双方を効果的に低減させ、必要な免震効果を容易に実現することができる免震装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
かかる目的を達成するためのこの発明の構成は、固定ベース上において、圧縮ばねを介して上向きに付勢する支持材と、固定ベースに組み合わせる縦横のスライドレールを介して支持し、支持材に対して水平方向に相対移動自在の移動フレームと、移動フレームに搭載し、円錐形の凹部を下面に形成する水平の規制板とを備えてなり、支持材は、上端の球面を介して凹部の内面に滑り接触しながら移動フレームを定位置に復元させることをその要旨とする。
【0007】
なお、凹部は、頂部の曲面と、曲面に連続する周辺部の傾斜面とを組み合わせて形成することができ、傾斜面は、傾斜角を異ならせて複数段階に形成することができる。
【0008】
また、移動フレームには、複数のばねを介して保持する水平板を搭載してもよい。
【発明の効果】
【0009】
かかる発明の構成によるときは、支持材は、圧縮ばねを介して上向きに付勢され、上端の球面を介して規制板の下面の凹部の内面に滑り接触し、規制板と一体の移動フレームを定位置に復元させることができる。支持材は、規制板の凹部の内面に接触することにより、規制板の相対移動を妨げる摩擦力に加えて、凹部の頂部に向かう復元力を規制板に及ぼすことができるからである。一方、規制板を搭載する移動フレームは、縦横のスライドレールを介して水平移動自在に支持されているため、移動フレーム自体の重量や、移動フレームに載せる物品の重量は、支持材を付勢する圧縮ばねの負荷になることがなく、したがって、圧縮ばねのばね定数は、地震波によって移動フレームや移動フレーム上の物品に生じる応答加速度、相対変位の双方を効果的に低減させるように、適切に設定することができる。
【0010】
規制板の下面の凹部は、頂部の曲面と、それに連続する周辺部の傾斜面とすることにより、最も単純で、しかも有効な形態に形成することができる。ただし、頂部の曲面は、たとえば支持材の上端の球面の凸の曲率半径以上の凹の曲率半径とし、半径10mm程度の小さな範囲に限定することが好ましい。また、周辺部の傾斜面は、たとえば傾斜角10°±2°に設定することにより、地震波によって移動フレームや移動フレーム上の物品に生じる応答加速度、相対変位の双方を効果的に低減させることができる。なお、傾斜面の傾斜角が過大であると、相対変位が小さくなるが、応答加速度が過大になり、傾斜角が過小であると、応答加速度が小さくなるが、相対変位が過大となる。
【0011】
凹部の傾斜面は、たとえば半径10〜50mmの傾斜角θ1 =10°±3°とし、半径50mm以上の傾斜角θ2 =7°±3°とすることにより、2段階に設定することができる。また、傾斜面は、たとえば半径10〜50mmの傾斜角θ1 =10°±2°、半径50〜100mmの傾斜角θ2 =7°±3°、半径100mm以上の傾斜角θ3 =8°±2°として、3段階に設定してもよい。ただし、応答加速度、相対変位の双方を低減させるために、θ1 >θ2 、θ1 >θ3 >θ2 とすることが好ましいが、それに限定するものではない。
【0012】
複数のばねを介して移動フレームに搭載する水平板上には、任意の免震対象物の物品を載せることができる。水平板用のばねは、地震の際に上下に伸縮し、地震波による縦揺れが水平板上の物品に伝達するのを遮断する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、図面を以って発明の実施の形態を説明する。
【0014】
免震装置は、固定ベース11上に設置する支持材12と、縦横のスライドレール13、13、14、14を介して支持する移動フレーム20とを主要部材としてなる(図1、図2)。なお、移動フレーム20には、規制板23が搭載されている。
【0015】
固定ベース11は、地表F上の台座11aの上面に固定するブロック体である。固定ベース11の上面には、支持材12用のガイド筒12aが立設されており、ガイド筒12aには、支持材12を上向きに付勢する圧縮ばね12bが収納されている。支持材12は、ガイド筒12aの内径に適合する胴部12cの上端に球12dを付設して構成されており、胴部12cの下端には、圧縮ばね12bと組み合わせるための小径部12eが垂設されている。
【0016】
スライドレール13、13は、固定ベース11に対して摺動自在に組み合わされている。また、各スライドレール13の両端には、それぞれスライドブロック13aが固定されており(図3、図4)、スライドブロック13a、13aには、スライドレール13、13に直交するスライドレール14が摺動自在に組み合わされている。なお、移動フレーム20は、底板21を介してスライドレール14、14上に組み付けられており、底板21の中心部には、固定ベース11上の支持材12用のガイド筒12aを下から上に貫通させる大径の丸孔21aが形成されている。
【0017】
移動フレーム20は、正方形の底板21の四隅部に支柱22、22…を立設し(図1、図2)、支柱22、22…の上端に規制板23を下向きにねじ止めして構成されている。規制板23の下面には、円錐形の凹部23aが形成されている(図2、図5)。
【0018】
規制板23の凹部23aは、頂部の半径R1 ≦10mmの範囲が凹の曲率半径Ra >Rb の曲面に形成されている。ただし、Rb は、支持材12の上端の球12dの表面が形成する球面の凸の曲率半径である。また、半径R1 >10mmの範囲は、頂部の曲面に連続する周辺部の傾斜面に形成され、傾斜角θ=10°±2°に形成されている。
【0019】
規制板23上には、水平板24が搭載されている(図1、図2)。水平板24の四隅部には、それぞれ脚24aが垂設されており、規制板23の四隅部には、それぞれ脚24a用の鍔付き有底のガイドブッシュ24bが下向きに付設されている。なお、各ガイドブッシュ24bには、脚24aを上向きに付勢するばね24cが収容されている(図6)。ばね24cは、たとえばコイルばねであり、ばね24cの下端、上端は、それぞれガイドブッシュ24bの底面、脚24aの下面に連結されている。すなわち、ばね24cは、上下に伸縮することにより、下向きの引張力、上向きの圧縮力を発生する。
【0020】
移動フレーム20は、縦横のスライドレール13、13、14、14を介し、固定ベース11上の支持材12に対して水平方向に相対移動自在に支持されている。ただし、移動フレーム20は、地震が発生していない静的な状態では、支持材12の上端の球12dが規制板23の凹部23aの頂部に位置する定位置に復帰している。
【0021】
地震が発生して固定ベース11が水平方向に横揺れすると、移動フレーム20は、固定ベース11上の支持材12に対して水平方向に相対移動し、支持材12の上端の球12dは、規制板23の凹部23aの内面に滑り接触しながら凹部23aの頂部から相対移動する。そこで、圧縮ばね12bを介して上向きに付勢されている支持材12は、凹部23aの傾斜面の傾斜角θに基づき、規制板23、移動フレーム20を定位置に復帰させる復元力を生じるとともに、規制板23の相対移動を妨げる方向に摩擦力を生じ、移動フレーム20の水平板24上に載せる免震対象物の物品に生じる応答加速度、相対変位の双方を低減させることができる。ただし、地震波の縦揺れは、水平板24の脚24a、24a…を上向きに付勢するばね24c、24c…によって遮断される。ばね24c、24c…は、上下に伸縮し、水平板24を地震がないときの静的な位置に保持するように働くからである。
【0022】
図7は、1995年兵庫県南部地震の実際の地震波による免震装置のシミュレーション解析データの一例である。同図(A)によれば、凹部23aの傾斜面の傾斜角θ=8°〜12°において、移動フレーム20に生じる応答加速度、相対変位の双方が効果的に低減されている。また、同図(B)によれば、圧縮ばね12bのばね定数k=4000〜6000N/mにおいて、応答加速度、相対変位の双方が効果的に低減されている。ただし、図7の縦軸は、応答加速度(m/s2 )、相対変位(m)の各最大値を示している。なお、シミュレーション解析は、2004年新潟県中越地震の地震波を使用しても、ほぼ同様の結果が得られており、実験結果ともよく一致した。
【0023】
また、実際の地震波による加振実験データの一例を図8に示す。同図(A)は、入力地震波の加速度波形であり、同図(B)、(C)は、それぞれ移動フレーム20に生じた応答加速度、相対変位の実測波形である。図8によれば、応答加速度は約1/3に低減され、相対変位は約85mmに低減されている。
【他の実施の形態】
【0024】
固定ベース11を平板状に変更するとともに、補助板15を介して移動フレーム20用の縦横のスライドレール13、13、14、14を組み立てることができる(図9、図10)。
【0025】
固定ベース11上のスライドブロック11b、11b…には、補助板15の下面のスライドレール13、13が摺動自在に組み合わされている。また、補助板15上のスライドブロック13a、13a…には、移動フレーム20の底板21の下面のスライドレール14、14が摺動自在に組み合わされている。なお、補助板15には、固定ベース11上の支持材12用のガイド筒12aを下から上に貫通させるために、底板21の丸孔21aと同様の大径の丸孔15aが形成されている。
【0026】
移動フレーム20の支柱22、22…は、それぞれブラケット22a、22aを介して底板21の四隅部に立設されている。また、水平板24の四隅部の脚24a、24a…は、それぞれ規制板23の四隅部のガイドブッシュ24bを上から下に摺動自在に貫通しており、ガイドブッシュ24b上には、水平板24を上向きに付勢するばね24cが装着されている。なお、ばね24cの下端、上端は、それぞれガイドブッシュ24bの上端面、水平板24の下面と一体の脚24aの上端の外フランジの下面に連結されている。地震の際には、ガイドレール13、13、14、14を介して移動フレーム20が水平方向に相対移動し、先きの実施の形態と同様にして、水平板24上に載せる物品を地震の揺れから有効に保護することができる。
【0027】
移動フレーム20に搭載する規制板23は、下面の凹部23aの断面形状を変化させてもよい(図11)。
【0028】
図11(A)は、図5の形状を再掲しており、頂部の半径R≦R1 =10mmの範囲を断面円弧状の曲面とし、半径R>R1 の範囲は、頂部の曲面に連続する周辺部の傾斜面(傾斜角θ=10°±2°)としている。同図(B)は、周辺部の傾斜面を傾斜角θ=θ1 、θ2 の2段階とし、半径R=R2 =50mmで区切っている。なお、傾斜角θは、たとえばθ1 =10°±3°、θ2 =7°±3°である。同図(C)は、周辺部の傾斜面を3段階とし、半径R=R1 =10mm〜R2 =50mmの傾斜角θ1 =10°±2°、半径R=R2 =50mm〜R3 =100mmの傾斜角θ2 =7°±3°、半径R≧R3 =100mmの傾斜角θ3 =8°±2°としている。
【0029】
ただし、図11(B)では、θ1 >θ2 とし、同図(C)では、θ1 >θ3 >θ2 とする。図11(B)は、同図(A)より応答加速度、相対変位の双方の低減効果が優れており、図11(C)は、同図(B)よりさらに優れていることが確認できた。なお、図11(C)において、θ1 >θ2 >θ3 とすれば、相対変位が大きくなるが、応答加速度を抑えることができ、θ1 <θ2 <θ3 とすれば、相対変位を抑えることができるが、応答加速度が大きくなる。
【0030】
以上の説明において、支持材12の上端は、規制板23の凹部23aの内面に滑らかに滑り接触させるために、上方に凸の球面を形成すればよく、必ずしも球12dを付設する必要はない。たとえば、十分な外径の丸棒状の支持材12の上端をドーム状に仕上げるだけでもよい。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】全体模式斜視図
【図2】図1のX−X線矢視相当断面図
【図3】図2のY−Y線矢視相当断面図
【図4】図2のZ−Z線矢視相当断面図
【図5】要部拡大断面図(1)
【図6】要部拡大断面図(2)
【図7】動作特性説明線図(1)
【図8】動作特性説明線図(2)
【図9】他の実施の形態を示す全体正面図
【図10】図9のA−A線矢視相当断面図
【図11】他の実施の形態を示す図5相当説明図
【符号の説明】
【0032】
θ…傾斜角
11…固定ベース
12…支持材
12b…圧縮ばね
13、14…スライドレール
20…移動フレーム
23…規制板
23a…凹部
24…水平板
24c…ばね
特許出願人 国立大学法人 福井大学
株式会社 江沼チヱン製作所
代理人 弁理士 松 田 忠 秋
【特許請求の範囲】
【請求項1】
固定ベース上において、圧縮ばねを介して上向きに付勢する支持材と、前記固定ベースに組み合わせる縦横のスライドレールを介して支持し、前記支持材に対して水平方向に相対移動自在の移動フレームと、該移動フレームに搭載し、円錐形の凹部を下面に形成する水平の規制板とを備えてなり、前記支持材は、上端の球面を介して前記凹部の内面に滑り接触しながら前記移動フレームを定位置に復元させることを特徴とする免震装置。
【請求項2】
前記凹部は、頂部の曲面と、該曲面に連続する周辺部の傾斜面とを組み合わせて形成することを特徴とする請求項1記載の免震装置。
【請求項3】
前記傾斜面は、傾斜角を異ならせて複数段階に形成することを特徴とする請求項2記載の免震装置。
【請求項4】
前記移動フレームには、複数のばねを介して保持する水平板を搭載することを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか記載の免震装置。
【請求項1】
固定ベース上において、圧縮ばねを介して上向きに付勢する支持材と、前記固定ベースに組み合わせる縦横のスライドレールを介して支持し、前記支持材に対して水平方向に相対移動自在の移動フレームと、該移動フレームに搭載し、円錐形の凹部を下面に形成する水平の規制板とを備えてなり、前記支持材は、上端の球面を介して前記凹部の内面に滑り接触しながら前記移動フレームを定位置に復元させることを特徴とする免震装置。
【請求項2】
前記凹部は、頂部の曲面と、該曲面に連続する周辺部の傾斜面とを組み合わせて形成することを特徴とする請求項1記載の免震装置。
【請求項3】
前記傾斜面は、傾斜角を異ならせて複数段階に形成することを特徴とする請求項2記載の免震装置。
【請求項4】
前記移動フレームには、複数のばねを介して保持する水平板を搭載することを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか記載の免震装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2010−96270(P2010−96270A)
【公開日】平成22年4月30日(2010.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−267540(P2008−267540)
【出願日】平成20年10月16日(2008.10.16)
【出願人】(504145320)国立大学法人福井大学 (287)
【出願人】(000143260)株式会社江沼チヱン製作所 (14)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年4月30日(2010.4.30)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年10月16日(2008.10.16)
【出願人】(504145320)国立大学法人福井大学 (287)
【出願人】(000143260)株式会社江沼チヱン製作所 (14)
【Fターム(参考)】
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