説明

入浴用昇降装置

【課題】半身不随の人、また腰や膝に故障を持つ老人などにとっては、浴槽の中で湯につかるためにしゃがむことがきわめて難しく、入浴時に必ず介助者を必要としていた。本発明は、簡単な構造で、浴槽への取り付けが容易で、操作しやすく、介助者無しで安全かつ手軽に入浴でき、また他の人が入浴する時にも邪魔にならない入浴用昇降装置を提供する。
【解決手段】着座部2および2つの支持部1および吊持材3で構成し、2つの該支持部を、浴槽4の左右の側壁41に固定し、該2つの支持部から、それぞれ2本ずつ、下に伸びる4本の吊持材で、該着座部の4隅を吊る構造であり、該吊持材においては、それぞれの一方の端を該支持部に固定し、他方の端を該着座部に回転軸を設置したドラムに固着し、該ドラムに該吊持材を巻き付けて、回転することにより、該吊持材を同期して巻き取りもしくは繰り出すことで、該着座部を一定の姿勢で昇降させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、体の不自由な人あるいは老齢者が一人で入浴する時、浴槽内で湯の中に体を入れ、また、湯の中から体を出すときに使用する入浴用昇降装置に関する。

【背景技術】
【0002】
従来、身障者や老人等の被介護者を入浴させるための入浴介助装置として、例えば、浴槽の底面の上に設置される脚部と、その脚部に固定される垂直な柱部とでL字型の支持枠を構成し、その柱部に昇降可能に取付けられる着座部を備え、着座部を昇降させる昇降駆動機構が柱部内に設けられたものが公知であった。
【0003】
例えば、特開平10−243987号では、L字型の支持枠と、この支持枠の垂直部に移動可能に取り付けられた昇降部材と着座部から構成される入浴介助装置が提案されている。
この案では、昇降部材と着座部の昇降を垂直なネジ棒の回転によって行っている。このネジ棒を回転するために、水平に配置した駆動軸の回転を笠歯車で垂直に転換している。水平に配置した駆動軸を回転するには、ラチェット付きのハンドルの上下動を回転に変換している。
【0004】
この昇降動作のためのハンドルの位置が垂直部に固定されているため、昇降する着座部に乗っている使用者からみると、自分との位置が大きく変わり、使用者自身では非常に操作しにくく、介助者が必要なものとなっていた。
【0005】
また、L字型の支持枠が大きくて重いので、設置には大変な労力がかかり、支持枠が浴槽の上部に長く突き出しており、邪魔になっていた。
【0006】
また、特開平6−14970にも、同様にL字型の支持枠と、この支持枠の垂直部に移動可能に取り付けられた昇降部材と着座部から構成される入浴介助装置が提案されている。この案では、昇降操作を行う操作レバーは着座部に固定されていて、使用者自身による操作が容易になっている。
【0007】
しかし、大型の支持枠が存在し、大きくて重い装置を据え付けなくてはならないという欠点は共通である。また、支持枠が浴槽の上部に長く突き出しており、邪魔になっていた。
【0008】
特開平4−300548号には、縦に伸びる大型の支持枠を不要とする案が提示されている。すなわち、浴槽の上面に載置されるコの字型の枠体と、該枠体の両側の腕部に設けられた巻き取り軸と駆動機構、ならびに着座用のシート部材とで構成し、該シート部材の左右側縁部をロープ等で吊って、該ロープを前記の駆動機構によって繰出し・巻上げて該シート部材を昇降するものである。電動方式で昇降操作を行うので、使用者自身による操作が容易になっている。
【0009】
この案は、大型の支持枠を不要として、浴槽への着脱操作を簡単にするものであると述べている。しかし、浴槽の両側の壁の上に置いた枠体内に駆動部と巻き取り用の軸を収納しており、左右の枠体を連結するために、全体としてコの字型の頑丈な枠体を必要としていて、全体が複雑で大型のものになるという欠点がある。また、左右の巻き取り用の軸を同期して駆動する必要があるので、機械的または電気的な同期機構を持った駆動機構を必要としているという欠点がある。
【0010】
また、浴槽の上に枠体を載せるため、使用者は高い枠体を乗り越えて着座用シート部材に乗り移るので、乗り移り用専用の椅子が必要であった。また、浴槽の上に保温用のカバーを置くことができず、複数の家人のいる一般家庭では使いにくいものであった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開平10−243987号
【特許文献2】特開平6−14970号
【特許文献3】特開平4−300548号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
半身不随の人また腰や膝に故障を持つ老人などにとっては、一般家庭の浴室の手摺等の安全設備のみでは、まず浴槽の内側に入ることが難しく、さらに浴槽の中で湯につかるためにしゃがむことがきわめて難しく、また滑りやすい浴槽では危険であり、入浴時に必ず介護者を必要としていた。
【0013】
そのため入浴時の介助装置が多数提案されているが、従来の技術の入浴用昇降装置の場合、介助装置が有っても、さらに介助者が必要であった。また、装置全体の構造が複雑で大型であり、一般家庭において簡便に利用できるものではなく、大がかり過ぎて、かえって手軽に入浴できない、また他の人が入浴する時に邪魔になるという、多くの欠点がある。片方の手でも使用可能な人にとっては、一人で入浴を可能とする、簡便な介助装置が期待されていた。
【0014】
本発明は、このような片側麻痺程度の身体不自由者や老人を対象に、上記従来の技術の問題点に鑑みてなされたもので、簡単な構造で、浴槽への取り付けが容易で、操作が容易であり、介助者無しで安全かつ手軽に入浴でき、また他の人が入浴する時にも邪魔にならない入浴用昇降装置を提供することを課題とする。

【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は、
浴槽内で、使用者を昇降させる入浴用昇降装置であって、
着座部と2つの支持部と4つの吊持材からなり、
2つの該支持部を、浴槽の左右の側壁の内側に、それぞれ固定し、
それぞれの該支持部と、該着座部に回転軸を固定したドラムの間を、該着座部の辺縁部の端を経由する2本の該吊持材でつなぐことにより、該着座部を吊り、
該ドラムは、該吊持材を巻き付けて回転することにより、4つの該吊持材を同時に巻き取りもしくは繰り出して、
該着座部を昇降させることを特徴とする入浴用昇降装置である。

【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、支持部にかかる使用者の体重を、浴槽の側壁に固定した支持部で支える構造とし、左右の支持部から下方に延伸した2本ずつの吊持部材で着座部の4隅を吊り、該吊持部材を巻き取るドラムを着座部に設置して、4本の吊該持部材を同時に繰り出しまた巻き取ることで前後左右の吊り上げ高さを同じとして、着座部の姿勢を常に保持しながら昇降する構造としたので、簡易で安価な装置を実現できた。
【0017】
すなわち、従来案のように、大きくて重い支持枠を使わず、構造が簡単で、簡便に浴槽に取り付けることができる。また、操作が容易であり、介助者無しで安全かつ手軽に入浴でき、また他の人が入浴する時にも邪魔にならない入浴用昇降装置を提供できる。

【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】浴槽に入浴用昇降装置を設置した状態を示す見取り図
【図2】入浴用昇降装置の図
【図3】真空吸着器を使う支持部の構造を示す断面図
【図4】真空吸着器の構造を示す断面図
【図5】吊持部材を支持部に留める構造を示す見取図
【図6】着座部の構造の説明図
【図7】操作アームの構造を示す部分断面図
【図8】滑り部材の説明図
【図9】浴槽に入る動作の説明図
【図10】浴槽内の入浴動作の説明図
【図11】固定部材を使う支持部の構造を示す断面図
【図12】固定部材の見取図
【図13】支持部を固定部材で固定する説明図
【図14】電動機で動作する着座部の構造の説明図
【図15】上限リミットスイッチの動作説明図
【図16】下限リミットスイッチの動作説明図
【図17】電気モーターの回路図
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明による入浴用昇降装置について、実施例をあげて、図1乃至図17を参照して、その構造ならびに機能を説明する。
【実施例1】
【0020】
図1は浴槽に入浴用昇降装置を設置した状態を示す見取り図である。浴槽の手前側半分を斜めに切断して入浴用昇降装置を見やすくしてある。図2(a)は平面図、図2(b)は着座部が上昇した位置にある正面図、図2(c)は着座部が下降した位置にある正面図である。
【0021】
図1および図2に示すように、浴槽4の左右の浴槽側壁41の内側に左右の支持部1aおよび支持部1bが固定してある。この時、支持部1の上面は、浴槽側壁41の上面と同じ高さにある。
【0022】
片側の支持部1aと、図で着座部2の左側の側縁部の端を、2本の吊持部材3がつないでいる。反対側の支持部1bについても同じである。合計4本の吊持部材3が有って着座部を吊っている。それぞれの吊持部材3の上端は支持部1に固定されている。それぞれの吊持部材3の下端は、着座部2の側縁部の端を通って、この図では見えないが、着座部2の内部にあるドラムに固定されている。
【0023】
図2(a)で見て取れるように、支持部1ならびに着座部2などからなる入浴用昇降装置は、浴槽4の底のカーブや浴槽後壁42の傾斜した部分を避けて、浴槽後壁42から若干離れた位置に設置されている。
【0024】
図2(a)には、支持部1aと支持部1bの間に着座部2が隙間なく挟まれている状態が示されている。両側の支持部1に挟まれているので、着座部2は、着座した使用者から見て左右方向(紙面で左右方向)に動くことがない。図2(b)に示すように、支持部1のP部の下側に有る凹みに、着座部2の4隅に有る着座部突起部213が嵌合しているので、着座部2は着座した使用者から見て前後方向(図2(a)の紙面で上下方向、図2(b)で紙面に垂直方向)に動くことがない。
【0025】
図2(b)には、一端を支持部1に固定された、図では見えていない吊持部材3が着座部2を吊って保持し、着座面211の上面が支持部1の上面と同じ高さにあって、上昇限度の位置に有る状態が示されている。着座部2の4隅に有る着座部突起部213は、支持部1のP部に下側から突き当たって、着座部2が現在の位置より上昇するのを遮っている。
【0026】
図2(c)には、一端を支持部1に固定された吊持部材3が着座部2を吊って保持し、着座部2が浴槽の底の直上まで下降した位置にある状態が示されている。4本の吊持部材3の他端は、着座部2の内部に有ってこの図では見えない1つの共通ドラムに固着されて、かつ吊持部材3は該1つの共通のドラムに巻き付けられている。吊持部材3は、ドラムから出て、この図では見えない滑車にガイドされて、着座部2の側縁部の端、すなわち4隅から繰り出されて、着座部2からみて真上に伸びている。
【0027】
まず、支持部1の構造と、浴槽の側壁41に固定する方法について説明する。支持部1を浴槽の側壁41に固定するには、支持部1の内部に固定設置された真空吸着器の吸着力を使う。
【0028】
図3は支持部1の構造を示す断面図である。図3(a)は図3(b)にA―A’で示す位置の正面視の断面図である。図3(b)は図3(a)にB―B’で示す位置の平面視の断面図である。図3(c)は図3(b)にC―C’で示す位置の側面視の断面図である。
【0029】
図3(a)は浴槽の内側から水平に、浴槽側面の壁を見た図であり、真空吸着器12の吸着面は、紙面に水平であり、紙面の奥側を向いている。
図3(b)は浴槽の上から、下方を見た図であり、真空吸着器12の吸着面は、紙面に垂直であり、吸着面は紙面で上側を向いている。
【0030】
図3に示すように、支持部1の側面には支持部側壁110a、110bが有り、内部には支持壁111a、110bが有って、合計4枚の壁が平行に並んでいる。4枚の壁を補強するために、横行支持壁112a、112bが支持部側壁110aから支持部側壁110bまで貫通している。
【0031】
図3に示されるように、支持部1の内部には3台の既知の真空吸着器12が配置されており、真空吸着器12の吸着器フレーム121が支持壁111もしくは横行支持壁112に一体化して、固定されている。
【0032】
詳しく述べれば、真空吸着器12aの吸着器フレーム121aが支持壁111aと一体化している。真空吸着器12bの吸着器フレーム121bが支持壁111bと一体化している。真空吸着器12cの吸着器フレーム121cが横行支持壁112aおよび横行支持壁112bと一体化している。横行支持壁112は、支持壁111と一体化している。このように、支持壁ならびに横行支持壁ならびに吸着器フレームは全体として一体化し、強固な支持部を形成している。
【0033】
図3(b)あるいは図3(c)で見て判るように、支持部フレーム11の浴槽の壁に当接する側において、支持部側壁110a、110bおよび支持壁111a、111bの端(図3(b)で上側、図3(c)で右側の端)は同一平面上にあり、真空吸着器12の吸着面は該平面から、浴槽の側壁に向かって僅かに出っ張るように配置されている。したがって、吸着面が浴槽の側壁に吸着すると、支持部フレーム11は僅かな隙間を空けて、浴槽の側壁と当接している。
【0034】
図3(c)では支持壁111aと、刳抜部113aが示されている。図3(c)に示すように、真空吸着器12aのレバー124aが自由に動作できるように、支持壁111aには、刳抜部113aがあって、レバー124aの動作する範囲が刳り抜かれているので、レバー124aの動作は、支持壁111aとは干渉しない。支持壁111bについても同じであり、レバー124bの動作は、支持壁111bとは干渉しない。
真空吸着器12cのレバー124cの動作は、横行支持壁112aならびに112bとは干渉しない。
【0035】
図4によって、既知の真空吸着器12の一例の構造と動作を説明する。真空吸着器12は吸着器フレーム121、円錐ゴム部122、ロッド123、レバー124ならびにピン125で構成されている。吸着器フレーム121と円錐ゴム部122は円形である。ロッド123の先端は、円形の円錐ゴム部122の中心に固着されている。
【0036】
この構成部材の中で、円錐ゴム部122だけは柔軟性のある材質で作られており、力を加えないと平らな円板であるが、固着してあるロッド123によって引っ張り力を加えると、円錐状に変形する。円錐ゴム部122が吸着面として働く。
【0037】
吸着器フレーム121、ロッド123、レバー124ならびにピン125の材質はプラスチック、金属などであり、適宜な方法により図示するような形状に加工してある。
【0038】
図4(c)は、図4(b)で紙面の右側から真空吸着器121の上部を見た図である。
図4(c)に示すように、ロッド123とレバー124は、両者に開けたピン穴を貫通するピン125で連結している。
【0039】
図4(a)または図4(b)に示すように、レバー124はピン125を中心にして、90度回転可能である。レバー124の吸着器フレーム121と接する位置の形状は、ピンを通す穴に対して偏心しており、ピンの中心からみた距離は、レバー124の長手方向に垂直な方向で長く、長手方向に平行な方向で短くなっている。
【0040】
したがって、真空吸着器12を浴槽側壁41に押し当てて、レバー124を、吸着器フレーム121に対して、図4(a)に示すように、垂直から、図4(b)に示すように、水平に倒すと、ピンを通している穴の位置が吸着器フレーム121から遠い方に移動するので、ロッド123は紙面で上方に移動し、円錐ゴム部122の中心を引っ張る。
【0041】
円錐ゴム部122の円周状の縁は浴槽の側壁と密着していて、気密構造をなしているので、図4(b)に示したように変形すると、両者の間にできる隙間の空気圧力が低下する。このようにして真空吸着器12は吸着力を発生する吸着面を作る。
【0042】
真空吸着器12の吸着力は、吸着面に対して水平方向ならびに垂直方向の力を支えることができる。例えば図3(c)に示す矢印Mの方向に、使用者の体重による力がかかると、真空吸着器12には下向き(重力方向)ならびに、水平方向(紙面で左方向)の引っ張り力がかかるが、この両方の力を支えることができる。
【0043】
この実施例では、3台の真空吸着器が1台の支持部に配置されている構造であるが、支持部を浴槽の側壁に固定して、使用者の体重を支える目的が達せられれば、真空吸着器は1台以上、何台の構成でも構わない。また、真空吸着器が支えられる力であるが、直径が120mmのもので最大運搬荷重は30kgのものがある。すなわち、3台では90kgの荷重を支えることができ、十分に使用者を支えることができる。
【0044】
ただし、支持部1が万一浴槽側壁41から外れて、落下するのを防止するために、支持部1と浴槽の底の間に補助的に、図示していない支柱を設置してもよい。
【0045】
この支持部1を浴槽4の長辺を成す一対の壁部である左右の浴槽側壁41の内側に、固定するには、図2(a)に示すように、片側の支持部1aを、上面を浴槽側壁4の縁の高さと一致させ、浴槽4の底のカーブした部分や浴槽後壁42の傾斜した部分を避けるように浴槽の後壁から適宜離れて、位置を決めて、片手で全体を抑えておき、図3(c)にHで示す矢印の方向からもう一方の手をさし入れて、3台の真空吸着器12のレバー124を順に、吸着面に垂直な位置から、水平な位置に倒して、吸着させればよい。
【0046】
もう1つの支持部1bは、反対側の浴槽側壁に、前後の距離を合わせて、支持部1aに対向する位置に、同様に真空吸着器12で固定する。
【0047】
支持部1の材質はプラスチック、金属、木材などを使うことができ、一体加工や部材の組み立てで作ることができる。組み立てて製造する場合は、部材の接着、あるいは図示しないネジ類による方法が使われる。
【0048】
次に、吊持部材の一端を支持部に固定する方法を説明する。吊持部材3として樹脂製ロープ、ワイヤーロープ等が使用可能である。ロープ1本あたりの切断荷重は、樹脂製ロープの場合は樹脂の種類などで異なるが、外径2mmで約30kg〜80kgであり、ワイヤーロープの場合は素線の数などで異なるが、外径1mmで約80kgであり、いずれも4本で十分に使用者を支えることができる。
【0049】
図3に丸で囲んで示すように、支持部1の真空吸着器12の吸着面の有る側と反対側にあるP部は、支持部フレーム11の他の部分より肉厚に作られている。P部には、吊持部材3の一端を固定するための溝141と穴142が有る。溝141は、P部に垂直方向に、穴142の中心まで、切り込みを入れたものである。穴142は、支持部フレーム11の上面から下に向かって、P部の厚みの途中まで開けてあり、貫通せずに、いわゆるメクラ穴になっている。
【0050】
図5に示すように、吊持部材3の先端には、直径が吊持部材3の直径より大きな円板状のストッパー31が、吊持部材3の長手方向に垂直に、接着など適宜な方法で、固定してある。ストッパー31の形状は円板状に限らず、球形などであっても構わない。
【0051】
溝141の幅gは、吊持部材3の直径より僅かに大きく、ストッパー31の直径より小さい。したがって、吊持部材3は溝141を通ることができ、ストッパー31は溝141を通ることができない。
穴142の直径は、吊持部材3の直径より大きく、ストッパー31の直径より僅かに大きい。したがって、ストッパー31は穴142の中に入ることができる。
【0052】
図5に吊持部材3の一端を支持部1に固定する方法を示している。図5(a)に示すように、吊持部材3を、ストッパー31の高さが支持部1の上面より高い位置に保持したまま、溝141の奥に突き当たるまで、矢印の方向へ水平移動し、その後、図5(b)に示すように、吊持部材3を、矢印の示す下方に移動する。吊持部材3の先端に固定してあるストッパー31は穴142の底に達して止まる。この状態になると、ストッパー31は、穴142の側壁に阻まれて、水平方向にも移動できなくなる。
【0053】
したがって、吊持部材3に、重力による下方向への力がかかっている限り、吊持部材3は支持部1に固定される。下方向への力に抗して、吊持部材3を上向きに動かせば、ストッパー31は穴142から開放されて、水平方向に動けるので、支持部1から自由に外すことができる。
【0054】
吊持部材3の一端を支持部1に固定する方法は、図5に図示して説明した方法に限らず、引っ掛けて、吊り下げる動作が容易にできるものであり、支持部のP部と着座部の着座突起部の間に入るものであれば、どのような方法を使っても構わない。例えば支持部1のP部の下側に第1のフックを設置し、吊持部材3の一端に固定した第2のフックを、それに引っ掛けるような構造であってもよい。
【0055】
次に、着座部2について図6の構造説明図を用いて説明する。図6(a)は裏面図である。図6(a)において紙面で見て上方が、使用者が着座するときの前方である。図6(b)は、図6(a)のD−D’で示した位置の正面視の断面図である。図6(c)は、図6(a)のE−E’で示した位置の正面視の断面図である。図6(c)は、図6(a)のF−F’で示した位置の側面視の断面図である。
【0056】
図6(a)に示すように、着座部フレーム21は長方形の着座面211と、着座面211を取り囲む4つの側面からなっており、着座面211を上面とする底の無い直方体状の箱である。加えて、直方体の4隅に着座部突起部213が突き出た形をしている。図6(a)において、直方体状の着座部フレーム21の、紙面で見て左右の縦の辺が、側縁部と呼ばれる部分である。
【0057】
着座部2が昇降するための機構類は、この直方体状の箱の内部にあって、裏面側から見る場合を除いて、外からは見えない。また着座面211の上に着座した使用者の体に、動く機構が触れることは無い。
【0058】
着座部突起部213の先端は、長方形の壁を縦にして2枚並べた形になっており、その間に軸が水平である滑車231を挟んでいる。滑車231の図示していない軸は、着座部突起部213の2枚の長方形の壁によって支持され、固定されている。
【0059】
図6(a)で見て取れるように、着座部2の中央付近に、着座面211の裏側に、垂直に固定されている回転軸223に、同軸上に、ドラム221ならびにウォームホィール222が、ウォームホィール222の方が着座面211に近く、設置されている。ドラム221ならびにウォームホィール222は一体となって回転する。
【0060】
ドラム221は、吊持部材を巻き付けたとき外れることが無いように、フランジが形成されている。フランジの間の巻き取り溝は、4本の吊持部材を同時に巻き取れるだけの幅と深さを有している。
【0061】
ウォーム歯車軸225が、着座面211の裏側に、着座部フレーム21と一体である軸受226によって支えられて、設置されている。ウォーム歯車軸225の回転によって、ウォーム歯車224が、ついでウォームホィール222が回転駆動される。
【0062】
ウォーム歯車軸225の両端は、着座面211の両側に開けてある開口部212の位置まで伸びている。ウォーム歯車軸225の両端部は、六角ナット端227であり、断面形状を六角ナット状にしてあり、操作アーム24のラチェット機構25に嵌合するようになっている。
【0063】
操作アーム24を、着座面211の表側から、開口部212を通して、裏側に通し、ラチェット機構25を、着座面211の裏側にある六角ナット端227に嵌合することができる。開口部212は着座部2の両側にあり、操作アーム24の位置を選んで付け替えることができる。これは、片側麻痺の使用者が健常な方の手で使えるように、左右どちら側でも選べるようにしてあるものである。
【0064】
図6(b)で見て取れるように、吊持部材3の経路を上から順にみると、着座部2の側縁部の端、すなわち4隅にある着座部突起部213を通って、滑車231によって垂直方向から水平方向に向きを変えて、着座部2の内部に向かっている。次に、図6(a)に示すように、着座部2の内部で、4本の吊持部材3a、3b、3c、3dは、同じ回転方向からドラム221に重なって巻き付けられる。
【0065】
すなわち、滑車231aを通過した吊持部材3aは、ガイドするための滑車232aを通過して、ドラム221に巻き付けられる。同じく、滑車231bを通った吊持部材3bは、ガイドするための滑車232bを通過して、ドラム221に巻き付けられる。
【0066】
同じく、滑車231cを通った吊持部材3cは、ガイドするための滑車232cを通過して、ドラム221に巻き付けられる。同じく、滑車231dを通った吊持部材3dは、ガイドするための滑車232dを通過して、ドラム221に巻き付けられる。
【0067】
滑車232a、232b、232c、232dは、着座部フレーム21と一体である滑車支持部233によって着座部フレーム21に固定してある。
【0068】
このとき、吊持部材3a、3b、3c、3dの端は、それぞれドラム221に固着してあって、繰り出しても外れないようになっている。
【0069】
4本の吊持部材3a、3b、3c、3dは、同じドラム221に同じ回転方向で巻きつけられるので、ドラム221の回転に従って、巻き取られもしくは繰り出されるとき、その長さは常に同じである。これによって、特別な同期機構を必要とせず、着座部2の前後左右の高さの同期を常に取ることができる。
【0070】
図7に操作アーム24の構造を示す。操作アーム24は握り部241、アーム242、 既知のラチェット機構25で構成されている。図6(d)に示すように、操作アーム24は、ウォーム歯車軸225に取り付けられた時、ウォーム歯車軸225を中心にして、約30度の角度の範囲で可動である。
【0071】
図7に示したように、操作アーム24は貫通した六角形のナットホール257を有するラチェットレンチであり、紙面上で手前側からも、奥側からもウォーム歯車軸225にアクセスして、左右の端部にある六角ナット端227に嵌合することができる。
【0072】
ラチェット機構25の付いた操作アーム24は、ウォーム歯車軸225の回転方向を正逆いずれかの方向にも切替えて、自在に回転させるものであって、一例として示したラチェット機構25の切替爪252を、図7で実線で示す方向に倒した時、アーム242を左に回せば、切替爪252が歯車251に掛かって、それに従ってウォーム歯車軸225も回転するが、アーム242を右に回せば、切替爪252が逃げて、ラチェット機構25は空転して、ウォーム歯車軸225は回転しない。
【0073】
ラチェット機構25の切替爪252を図7で破線で示す方向に倒した時は反対の動作となる。このように、アーム242の握り部241を使用者が持って、上下に揺動すれば、ウォーム歯車軸225は一方向に回転し、その回転方向は切替爪252を倒す方向によって選択できる。
【0074】
すなわち、このように、ラチェット機構25の切替爪252を倒す方向によって、ウォームホィール222の右回転、または左回転を選択できる。図6(a)を見ると、ウォームホィール222とドラム221が図上で右回転すると、4本の吊持部材3a、3b、3c、3dは同時に繰り出されることが判る。反対に、ドラム221が左回転すると、4本の吊持部材3a、3b、3c、3dは同時に巻き取られる。
【0075】
ドラム221から4本の吊持部材3a、3b、3c、3dが繰り出されると、着座部2は下降する。反対に、巻き取られると着座部2は上昇する。
【0076】
先に述べた通り、4本の吊持部材3a、3b、3c、3dの巻き取りもしくは繰り出し長さは常に同じであるので、4隅を吊持部材3a、3b、3c、3dで吊られている着座部2の姿勢は一定で、常に水平を保つ。
【0077】
着座部を構成する各部材の材質は、プラスチック、木材、金属などを使うことができ、一体加工や部材の組み立てで作ることができる。
【0078】
なお、吊持部材3をガイドする滑車は、同等の機能を持った滑り部材を代わりに使うことができる。図8(a)には滑車231を例に取って示してあるが、いずれの滑車にも、同様に適用できる。図8(b)には滑車の代わりに、吊持部材3の方向が変わる部分に滑り部材234を嵌め込んだ場合を示してある。滑り部材234の材質は、吊持部材3との間の摩擦係数の低いものを使うことができる。たとえば、テフロン(登録商標)系のプラスチックなどが使用できる。
【0079】
また、着座部2の駆動機構の構造は、ここに説明した通りでなくても構わない。例えば、ドラムとウォームホィールのセットを2つ備えて、左右の吊持部材を2本ずつ、別々のドラムで巻き取るような構造であっても構わない。この場合は、1つのウォーム歯車軸に2つのウォーム歯車を直列に配置して、同時に、同じ減速比で、2つのウォームホィールを回すことで、吊持部材の同期を取ることができる。
このような構造であると、ドラムとウォームホィールの直径を小さくできるという利点がある。
【0080】
また、例えば、ドラムとウォームホィールの軸を水平に配置しても良い。
【0081】
このような構造を持ち、浴槽に設置された昇降装置を使って入浴する方法を以下に説明する。図9は、使用者5が浴槽に入る動作の説明図である。説明上、使用者の左半身が麻痺しているものとする。図9(a)に示すように、はじめに、使用者は浴槽4に対して反対側を向いて立つ。このとき、浴槽の外では、補助の移乗用の椅子を使わない。
【0082】
次に、図9(b)に示すように、使用者は浴槽側壁41および支持部1の上面に腰をかける。浴槽側壁41および支持部1の上面は高さが同じであり、連続していて、十分に広いので、容易にかつ安定に腰をおろすことができる。
【0083】
次に、図9(c)に示すように、使用者は浴槽側壁41および支持部1の上面に腰をかけたまま、健常な方の右脚を持ち上げて、浴槽側壁41を跨ぐように浴槽4の中に入れる。その後、腰の位置を浴槽4の中の方にずらしながら、麻痺した方の脚を浴槽4の中に移動する。浴槽4に両脚が入ったら、腰の位置を更にずらして、着座部の中央に移る。
【0084】
この動作のとき、図2(b)に示すように、着座部2が上昇した位置にあって、着座部2は両側の支持部1に挟まれている。着座部2の4隅にある着座部突起部213が支持部1のP部の下側に出っ張っていて、下方から上方に支持部1に突き当たって止まることで、上面が同じ高さに揃っているので、移乗は容易である。
【0085】
着座部2が上昇した位置にある時、両側の支持部1aならびに支持部1bに挟まれていることにより、外から力がかかっても左右に移動しない。また同時に、着座部突起部213は、着座部2から左右に出っ張って、支持部1の下側に伸びて、支持部1の凹みに入っているので、外から力がかかっても前後に移動しない。
【0086】
すなわち、使用者が浴槽の中に移動して、着座部2に乗り移る時には重心の移動などにより着座部2にはいろいろな方向に力がかかるが、動揺せず安定に支えられており、不安感を与え無い。
【0087】
次に、図10によって浴槽内の入浴動作の説明をする。図10では、見やすくするために、操作アーム24の位置を、図9とは反対に、使用者の左側に描いてある。着座部2の中央に座った使用者5は、健常な側の手で操作アーム24のラチェット機構25の切替爪252を、着座部2が下降する方向に選択する。操作握り部241を握って、上下に揺動すると、着座部2は吊持部材3によって支持部1に吊られた状態で、水平を保った状態で降下してゆく。
【0088】
このとき、着座部2の内部にある機構は体に触れないので、安全である。
着座部2が浴槽4の底に着いたら、使用者5は操作アーム24の上下の揺動を止める。
【0089】
着座部2の昇降機構の主要な構造であるドラム221およびウォームホィール222の軸が垂直で、それらが水平に設置されていて、その結果、着座部2の高さが低いので、使用者5は浴槽4の底に近いところに腰を下ろすことができて、十分に湯に浸かることができる。
【0090】
また、操作アーム24は着座部2の左右どちら側にも取り付けることができるので、使用者5は健常な側を選択できる。
【0091】
次に、湯から出るときは、使用者5は、操作アーム24のラチェット機構25の切替爪252を、着座部2が上昇する方向に選択する。そして、握り部241を握って、上下に揺動すると、着座部2は吊持部材3によって支持部1に吊られた状態で、水平を保った状態で上昇してゆく。
【0092】
着座部2が上昇限度に来ると、支持部1に突き当たる。使用者5は操作アーム24の上下の揺動を止める。そして、浴槽4に入った時と逆の動作で、浴槽4から出る。
このように、簡単な方法で、安全に、一人で入浴できた。
【0093】
着座部を駆動する機構にウォーム歯車を使用したので、減速比が大きく取れ、更に、着座部に使用者が乗って、吊持部材に引っ張り力がかかってもドラムが逸走することが無いので、ブレーキ機構が不要であり、駆動機構と操作を簡素なものとすることができた。
【0094】
また、支持部の上面を浴槽の側壁の上面と同じ高さに設定して出っ張りが無いようにしたので、着座部と支持部と浴槽の側壁のそれぞれの上面が一体になり、着座部の補助としても機能するので、浴槽の外に移乗用の椅子を置く必要が無く、支持部に腰かけて、浴槽内に容易に移動することができる。また、支持部から、着座部に容易に乗り移ることができる。
【0095】
また、幅の違う浴槽に対しても、構造が簡単な支持部の幅を変えて製作するだけで容易に対応できる。

【実施例2】
【0096】
図11、図12ならびに図13を参照して、第2の実施例について、その構造と機能について説明する。第2の実施例においては、支持部を浴槽の壁に固定する方法が第1の実施例と異なっており、真空吸着器を使わず、浴槽の壁に固定した固定部を使うものである。
その他の構造や機能については第1の実施例と同じである。
【0097】
図11は、支持部1xの構造を示す断面図である。図11(a)は図11(b)にA―A’で示す位置における正面視の断面図である。図3(b)は図3(a)にB―B’で示す位置における平面視の断面図である。図3(c)は図3(a)にC―C’で示す位置における側面視の断面図である。支持部1xについて図3で説明したものと同じ部分については、同じ符号を使っている。支持部1xのP部の構造は、実施例1について図5をもって説明したものと同じである。
【0098】
図11に示すように、支持部1xの側面には支持部側壁110が有り、内部には支持壁111が有り、合計4枚の壁が平行に並んでいる。4枚の壁を補強するために、横行支持壁132が支持部側壁110aから支持部側壁110bまで貫通している。横行支持壁132の位置は、実施例1において有った位置と異なっている。
【0099】
支持部フレーム11の浴槽の壁に当接する側に、ラッチ部131が、2枚の支持壁111aと支持壁111bの間で、支持部フレーム11の上面から下に向かって伸びている。図11(b)ならびに図11(c)に示すように、ラッチ部131の厚みはTである。
【0100】
支持部1xの材質はプラスチック、金属、木材などを使うことができ、一体加工や部材の組み立てで作ることができる。組み立てて製造する場合は、部材の接着、あるいは図示しないネジ類による方法が使われる。
【0101】
図12は固定部15の見取り図である。固定部15は下側の水平部が厚いL字型をしてベース151を形成している。水平部の長さは、ラッチ部131の厚みと同じTである。固定部15のベース151の取付面153を浴槽の左右の側面の壁に向けて固定する。
【0102】
固定部15を浴槽側壁41に固定する時は、両側の固定部が正しく対向するように、浴槽後壁42からの距離を測って、同じ位置を求める。また、高さ方向についてはは、支持部1xの上面が浴槽側壁41の上面と同じ高さになるように決める。
【0103】
固定には、接着、または、それに加えて浴槽側壁に穴を開けて、固定部15に開けた図示しないネジ止め穴を使うなどの方法を使うことができる。取付面153は、接着強度が十分になるように、またはネジ止めできるように、十分な面積を取ってある。
【0104】
図13は、支持部1xを、浴槽側壁41に固定された固定部15に引っ掛ける形で、固定部15を使って、浴槽側壁41に固定する方法を示している。すなわち、図13(a)は支持部1xを浴槽側壁41に沿わせて、上方から固定部15のそばに近づけた状態を示している。
【0105】
支持部1xの姿勢を保ったまま、更に図13(a)の矢印のように下方向に動かすと、ラッチ部131の厚さはTであって、ラッチ受け152と浴槽41の壁の面とで形成された隙間の幅Tと同じであるので、隙間なく挿入できる。したがって、支持部1xは、浴槽側壁に対して垂直方向に動かない。
【0106】
図13(b)に示すように、ラッチ部131が、ラッチ受け152と浴槽の壁の面とで形成された隙間に挿入されて、ラッチ部131の先端が固定部15の水平部分が作る底まで達すると、突き当たって、支持部1xの上面は浴槽側壁41の上面と同じ高さになる位置で止まる。前に述べたように、固定部15の位置を、支持部1xの上面がこのような高さになるように、予め固定しておいたものである。
【0107】
図13(b)の矢印で示すように、この状態で固定された支持部1xに、上面に使用者の体重による力Mがかかると、垂直に下向きの力と、図で左回りのモーメントが発生する。固定部15は、浴槽側壁41に十分な強さで強く接着固定またはネジ止め固定されているので、壁に水平な力を支えると共に、壁に垂直な方向で引き剥がそうとする力も支えることができる。
【0108】
図12に示すように、固定部15のラッチ受け152の水平方向の長さはLであり、図12(a)、図12(b)に示すように、支持部1xの支持壁111aと支持壁111bの間の長さLと同じであるので、ラッチ受け152は2枚の支持壁の間に嵌合し、固定された支持部1xは、浴槽側壁に対して水平方向にも動かない。
【0109】
以上で、支持部1xは、使用者の体重を支える強度をもって、浴槽側壁に固定された。実施例2は支持部1xを浴槽側壁41に固定する方法が異なる以外は、実施例1において説明したものと同じであり、吊持部材、着座部を同じに構成すれば、同様の機能を発揮する。使用者は同様の操作を行えば、同様の効果を得ることができる。
【0110】
以上に説明したように、簡単な固定部を予め取り付けておくだけで容易に昇降装置の浴槽からの脱着が可能である。入浴用昇降装置全体を取外したあとでも、小さな固定部が残るだけなので、他の人が入浴する時や、浴槽を清掃するときにも邪魔にならない
【0111】
実施例1および実施例2において浴槽の側壁が垂直でなくとも構わないが、浴槽の側壁が垂直であるとき、追加の効果がある。支持部1xにおいてラッチ部131の垂直下方には、障害となる構造物が何も無いので、図13(a)にしめすように、垂直上方から浴槽側壁41に沿って、支持部を移動できるので、支持部を固定部に付け外しするとき、両側の支持部を同じ動作の中で同時に付け外しすることができる。
【0112】
すなわち、着座部を巻き上げた状態で、支持部と着座部が嵌合して一体になっているとき、両側の支持部を垂直方向に移動して、同時に固定部に固定しまたは外すことができるので、入浴用昇降装置全体をそのまま一体で取り付け、取外しができるので、作業が簡易となり、介護者の手間を大幅に減らすことができる。

【実施例3】
【0113】
図14、図15、図16ならびに図17を参照して、第3の実施例について、その構造と動作について説明する。実施例2は着座部2の昇降を人力で行わず、電気モーターで行うものである。図14は電動機で動作する着座部の構造の説明図である。図15は上限リミットスイッチの動作説明図であり、図16は下限リミットスイッチの動作説明図である。
【0114】
図14(a)は着座部の裏面図であり、図14(b)は正面図である。図14(a)において紙面の上方が、使用者が着座するときの前方である。着座部フレーム21の外形は開口部が無い点を除いて実施例1と同じである。
【0115】
実施例3においては、実施例1において使用者の人力で昇降するための操作アーム、ラチェット機構が無くなり、代わって図14で示すように、新たに電気モーター261、減速機262、電池263、スイッチボックス264、上昇リミットスイッチ267、下降リミットスイッチ268、配線269が設置された。この図では、上昇リミットスイッチ267は、下降リミットスイッチ268のかげに隠れており、見えない。
【0116】
図14(a)に示すように、電気モーター261、減速機262、電池263は着座面211の裏面に適宜な方法で固定されている。電池263は充電池であり、充電するときに、取り外しができるように、図示しないコネクターで接続されており、脱着が可能な構造になっている。
【0117】
図14(a)に示すように、滑車231b、滑車232b、ならびに滑車232cにガイドされる吊持部材3bの経路は、厚みのある電池263、電気モーター261、減速機262によって、着座部の厚みが増大するのを避けるため、これらと重ならない配置となっている。他の3本の吊持部材の経路については、いちいち述べないが、このために、ドラムに巻き付ける方向が、図6に示した場合と反対にしてある。
【0118】
図14(a)ならびに図14(b)に示すようにスイッチボックス264は着座部フレーム21の正面の垂直な側面の一部を切り欠いて、上昇押ボタン265ならびに下降押ボタン266が使用者によって操作できる位置にはめ込まれている。
【0119】
スイッチボックス264において、上昇押ボタン265と下降押ボタン266は、図示しない機械的なインターロックが付いており、両方を同時に押すことはできないようになっている。
【0120】
配線269は、電気モーター261、電池263のおのおのとスイッチボックス264の間を、それぞれ結んでいる。上昇リミットスイッチ267、下降リミットスイッチ268も同じであるが、配線は図示を省略してある。
【0121】
図15に、上昇リミットスイッチ267の取付位置と動作を示してある。図15(a)で示す着座部2の断面図の丸で囲んだ部分の拡大図が図15(b)ならびに図15(c)である。上昇リミットスイッチ267は、1つの着座部突起部213の内側側面の上部で、上昇リミットスイッチ267のレバーが着座部突起部213の上面より上に出る位置に、適宜な方法で、固定してある。
【0122】
図15(b)は着座部2が支持部1に突き当たっているとき以外の状態を示し、図15(c)は着座部2が支持部1に突き当たっているときを示している。図15(b)に示すように、着座部2が支持部1に突き当たっているとき以外は上昇リミットスイッチ267のレバーは押されていない。このとき上昇リミットスイッチ267の回路はオンとなっている。図15(c)に示すように、着座部2が浴槽4の支持部1に突き当たっているときは上昇リミットスイッチ267のレバーは押されている。このとき上昇リミットスイッチ267の回路はオフとなっている。
【0123】
図16に、下降リミットスイッチ268の取付位置と動作を示してある。図16(a)で示す着座部2の断面図の丸で囲んだ部分の拡大図が図16(b)ならびに図16(c)である。下降リミットスイッチ268は、1つの着座部突起部213の内側側面の下部で、下降リミットスイッチ268のレバーが着座部突起部213の下面より下に出る位置に、適宜な方法で、固定してある。
【0124】
図16(b)は着座部2が浴槽4の底についているとき以外の状態を示し、図16(c)は着座部2が浴槽4の底についているときを示している。図16(b)に示すように、着座部2が浴槽4の底についているとき以外は下降リミットスイッチ268のレバーは押されていない。このとき下降リミットスイッチ268の回路はオンとなっている。図16(c)に示すように、着座部2が浴槽4の底についているときは下降リミットスイッチ268のレバーは押されている。このとき下降リミットスイッチ268の回路はオフとなっている。
【0125】
着座部2に装備されたこれらの電気品は全て水密構造であり、着座部2が浴槽4の湯の中に入っても支障なく動作する。水密とする方法は、詳しく図示していないが、各機器を水密ケースの中に入れ、また電気モーターの回転軸は水密シールを使う。
【0126】
減速機262は水密であっても、水密でなくとも使用できる。減速機262を水密とする場合は、減速機ケースと出力軸の間に水密シールを入れ、電気モーター261のケースとの間に水密シールを入れる。この場合はモーター軸の水密シールは不要である。
【0127】
図17に、電気回路図を示した。図17は、例として、上昇押ボタン265を押して、回路がオンとなり、電気モーター261が回って、上昇する途中にある場合を示している。
【0128】
着座部2が上限の位置にあるとき、下降押ボタン266を押すと、電気モーター257は回転し、減速機252を介してウォーム歯車軸225を回転する。ウォーム歯車軸225が回転すると、図14で見て左回りにドラム221が回転して、吊持部材3が繰り出され、着座部2が下降する。
【0129】
下降押ボタン266を押すことを止めると、どの位置に有っても着座部2の下降は停止する。このように途中の位置では、上昇押ボタン265を押して上昇に切り替えることもできる。
【0130】
下降押ボタン266を押し続けて、着座部2が浴槽4の底に達すると、図16(c)に示したように、下降リミットスイッチ268のレバーは浴槽4の底によって押されて、回路はオフとなって電気モーター261は停止する。
【0131】
上昇押ボタン265を押すと、電気モーター261は下降時とは反対方向に回転し、着座部2は上昇する。
【0132】
上昇押ボタン265を押すことを止めると、どの位置に有っても着座部2の上昇は停止する。このように途中の位置では、下降押ボタン266を押して下降に切り替えることもできる。
着座部2が上昇限度に来て支持部1に突き当たると、図15(c)に示したように、上昇リミットスイッチ267のレバーは押されて、回路はオフとなって電気モーター261は停止する。
【0133】
電気回路は、説明したものに限定されない。例えば、昇降と下降をトグルスイッチで切り替えておき、動作ボタンを押すと、設定した方向に動作するようなものであっても構わない。
【0134】
入浴用昇降装置の使い方は、使用者が操作アームを揺動することが、上昇押ボタンおよび下降押ボタンを押すことに変わった点が異なるだけで、他は実施例1で説明したのと同様である。効果も同様である。
【0135】
この発明により簡易で安価な入浴用昇降装置を実現できた。すなわち、従来案のように、大きくて重い支持枠を使わず、簡便作業で容易に浴槽にとりつけることができ、浴室の改装等の必要もない。また、操作が容易であり、また、支持部が移乗用の椅子の役割も兼ねるので、体の不自由な人でも、介護者を必要とせず自力により入浴することができ、気兼ね無く自由に入浴することができる。さらに、着座部の高さが低いので、十分に湯に浸かることができる。
【0136】
不使用時には、着座部を下降しておくか、または外しておくことができ、他の人の入浴の邪魔になることがない。設置した状態で浴槽の縁の上面より上に出っ張るものがないので、浴槽に保温用のカバーを置ける。浴槽の掃除のときも、簡単に着座部を外すことができるので、邪魔にならない。
【産業上の利用可能性】
【0137】
本発明は、体の不自由な人あるいは老齢者が一人で入浴する時に使用する入浴用昇降装置として使える。
【符号の説明】
【0138】
1 支持部
1x 支持部
11 支持部フレーム
110a、110b 支持部側壁
111a、111b 支持壁
112a、112b 横行支持壁
113a、113b 刳抜部
12a、12b、12c、12d 真空吸着器
121a、121b、121c 吸着器フレーム
122 円錐ゴム部
123 ロッド
124a、124b、124c レバー
125 ピン
131 ラッチ部
132 横行支持壁
141 溝
142 穴
15 固定部
151 ベース
152 ラッチ受け
153 取付面
2 着座部
21 着座部フレーム
211 着座面
212 開口部
213 着座部突起部
22 駆動部
221 ドラム
222 ウォームホイール
223 回転軸
224 ウォーム歯車
225 ウォーム歯車軸
226 軸受
227 六角ナット端
231a、231b、231c、231d 滑車
232a、232b、232c、232d 滑車
233 滑車支持部
234 滑り部材
24 操作アーム
241 握り部
242 アーム
25 ラチェット機構
251 歯車
252 切替爪
253 支持ピン
254 ボール
255 バネ
256 挿入孔
257 ナットホール
261 電気モーター
262 減速機
263 電池
264 スイッチボックス
265 上昇押ボタン
266 下降押ボタン
267 上昇リミットスイッチ
268 下降リミットスイッチ
269 配線
270 コネクター
3a、3b、3c、3d 吊持部材
31 ストッパー
4 浴槽
41 浴槽側壁
42 浴槽後壁
5 使用者

【特許請求の範囲】
【請求項1】
浴槽内で、使用者を昇降させる入浴用昇降装置であって、
着座部と2つの支持部と4つの吊持材からなり、
2つの該支持部を、浴槽の左右の側壁の内側に、それぞれ固定し、
おのおのの該吊持材においては、該支持部より延伸し、該着座部の別々の隅を経由して、該着座部に回転軸を固定設置してあるドラムに固着してあり、
もって該着座部を吊り、
該ドラムは、4つの該吊持材を同時に巻き取りもしくは繰り出して、
該着座部を昇降させることを特徴とする入浴用昇降装置。
【請求項2】
請求項1において、
該支持部を、真空吸着器を用いて、固定したことを特徴とする入浴用昇降装置。
【請求項3】
請求項1において、
該支持部を、浴槽の左右の側壁の内側に固定した固定部を用いて、
固定したことを特徴とする入浴用昇降装置。
【請求項4】
請求項1において、
該ドラムの回転軸は該着座部の着座面に対して垂直であることを特徴とする入浴用昇降装置。
【請求項5】
請求項1において、
該着座部に設置された操作アームの揺動を該ドラムの回転に変換することを特徴とする入浴用昇降装置。
【請求項6】
請求項1において、
該着座部に設置された電動機を動力として、該ドラムを回転することを特徴とする入浴用昇降装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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