説明

入荷された玄米の改質方法

【課題】 健康食品である玄米の炊飯性と食味を向上させる玄米改質方法。
【解決手段】まず入荷した玄米を調湿により含水量を一定として、玄米に含まれる酵素を活性化させ食味を向上させるとともに、玄米の表皮を極薄く研磨し玄米に含まれるビタミン、ミネラル等を消失しないようにするとともに、無洗米処理を湿式で行うことにより、精米率を上げなくとも、残留農薬低減できるようにした。特に入荷した玄米は、その流通経路により含水率が異なっているため、調湿により、含水率を一定化させ、食味、精米の作業性及び炊飯性を向上させた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、入荷された玄米を調湿工程、精米工程、無洗米処理工程により、玄米の炊飯性と食味を改質する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
玄米とは、稲の籾殻をとった状態の精白されていない米であり、種としての役目を失っておらず、栽培すれば芽が出てくる。玄米はビタミンB群をはじめとするビタミン類、ミネラル、食物繊維、抗酸化物質など栄養性及び機能性の高い成分をバランスよく含んでいる。表1に玄米と白米の成分の対比を示す(非特許文献1)。ビタミン、ミネラルは食べた物を体内でエネルギーに変換するために必要な成分であり、炭水化物を体内でブドウ糖に変化させ、各臓器組織に運ばれ、エネルギーとなる。また、食物繊維や抗酸化物質はダイオキシンのような有害物質を排泄する力が強く、コレステロールを減らし、さらに免疫力を上げるといわれている。現在、高齢者や子供も含めた生活習慣病の拡大が社会問題となっており、玄米はその予防に有効であるとされている。さらに国民の健康に対する意識の高まりから自然食品である玄米のニーズは高くなっている。
【0003】
それにもかかわらず、玄米の消費量は高くない。それは、玄米の炊飯が難しく、また味覚的にも白米や小麦粉より劣るためである。玄米での炊飯が難しいのは、図2の米粒の概略断面図及び図3の糠層の構造で示す糠層3は、水が浸透しにくく、特に表皮311は、撥水性があり、吸水性が低く炊飯時に水を十分吸収できないためである。そのため、食感は白米に較べると格段に落ちるばかりか、ボソボソ、パサパサして、粘りもなく食べにくく味覚に欠けている。
【0004】
玄米の構成は、図3に見られるように、主に胚芽5、糠層3(果皮31、種皮32、糊粉層34から成る。)胚乳4から成っている。白米にはない玄米の糠層や胚芽には、ビタミン、ミネラル、食物繊維等が豊富に含まれ、特にビタミンB1は白米の4倍以上、食物繊維が5倍、カルシウムが2倍、ビタミンB2は2倍ある。こうした胚芽や糠層を精米により除去することは、健康食品としての玄米の機能を消失させることになってしまう。
【0005】
一方、玄米では、「農薬・除草剤が糠の部分に残留する可能性が白米よりも高い」、「有機栽培や無農薬・低農薬の玄米の方が慣行栽培のものに比べ安全」との説があるが、残留農薬検査は玄米を対象として行われており、また農薬の残留は、通常定められた使用方法を遵守する限り問題とされない。従って、安全性に関する限り、玄米と白米、あるいは有機栽培その他の特別栽培による玄米と慣行栽培による玄米との間に有意の差はない。しかし、玄米は、人体に有害な農薬・除草剤が残留する可能性が白米よりも高く、健康を考えるなら有機栽培・無農薬・低農薬の玄米を用いた方が賢明である。玄米に残留する農薬(以下残留農薬)は精米により約83%、精米、米とぎで91%、精米、米とぎ、炊飯で95%除去される(非特許文献2)。一方、健康食品としての玄米では、精米をすることができず、安全性に問題がないとはいわれても、少しでも残留農薬を低減させることが望ましい。
【0006】
玄米を白米と同様に炊飯でき食感や食味を向上させる玄米の製造方法として、以下のような先行技術がある。玄米を水に浸漬した後スチーム処理し、このスチーム処理した前記玄米を攪拌しさらに再びスチーム処理する玄米の製造方法(特許文献1)、玄米の表皮層を研磨処理して果皮を除去するとともに果皮の下側の種子の一部を除去して管細胞組織を玄米表面に部分的に露出させて吸水性を向上させる方法(特許文献2)、互いに回転速度が異なる2つのナーリングローラを利用して籾殻を完全に除去した軟化玄米を提供し、ナーリング紋(不均一)が表面に形成されることによって優れた水の侵透性、食感及び消化性を有する栄養価が高く、炊飯が容易な軟化玄米を提供するもの(特許文献3)等がある。
【非特許文献1】栄養バランスに優れている玄米http://www.naozane.co.jp/kennkou/eiyou.htm
【非特許文献2】愛知県衛生研究所 2005/07/07http://www.pref.aichi.jp/eiseiken/3f/kome.html
【特許文献1】特開2004-194546
【特許文献2】特開2004-357608
【特許文献3】特願2000−510340
【0007】
前記特許文献1では、玄米を水に浸漬後、撹拌、スチーム処理しこれを繰り返すため設備や手間を多く必要とされ、玄米の含水率が考慮されていない。また特許文献2及び3でも玄米の表面研磨については検討されているが、含水率と食味との関係、さらには含水率と玄米の表面研磨方法との関係は検討されていない等の問題がある。
【0008】
本願の発明者は、これまでの経験により、玄米の炊飯のしやすさ(以下炊飯性)と食感を含む食味は、玄米の表皮等を研磨して、炊飯時等に水を浸透させやすくするだけでなく、玄米に含まれる水分量の安定化にもあると考えられた。すなわち、玄米を攪拌しつつ、水のミストを噴霧し乾燥させる工程を繰り返すことにより、玄米中に自然熱が生じ、この自然熱と乾燥操作により玄米中の胚が活動を始める。そして発芽の前段階としてアミラーゼ等の酵素作用により玄米中のたんぱく質を変化させ、澱粉は発芽の養分となるべく糖化される。これが玄米の食味を向上させることになるとの見解を有していた。
【0009】
そこで、まず入荷した玄米を調湿により含水量を一定として、玄米に含まれる酵素を活性化させ食味を向上させるとともに、玄米の表皮をごく薄く研磨して、玄米に含まれるビタミン、ミネラル等が失われないようにするとともに、水を吸収されやすくして、炊飯を白米と同じような条件でできるようにした。このように改質された玄米を湿式による無洗米処理して残留農薬をより低減させて、健康食品としての玄米を日常的に食することができるようにした。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
玄米は白米に比べビタミン、ミネラル等の栄養価は高いが、炊飯しにくい、食味・食感が悪い等の欠点がある。この欠点を解決するため、入荷した玄米を調湿工程、精米工程、無洗米工程を通し、効率よく玄米の炊飯性と食味を向上させることを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
すなわち、請求項1に係わる発明は、入荷した玄米について、調湿工程、精米工程及び無洗米処理工程により該玄米を改質する玄米改質方法である。
【0012】
わが国では、一般的に、米生産者が脱穀(籾殻を除く作業も含む。)作業を行い、玄米が、集荷団体や卸売り会社をへて小売の米穀店等に入荷される。入荷された玄米は、米穀店等で図4の米穀店等での作業工程に示す作業に沿って、白米として生産され最終消費者に配達される。図4の作業では、異物を除く作業、精米作業、選別作業に大別される。請求項1に係わる発明は、この異物を除く作業、選別作業は同様に行い、これに調湿工程、後述するように意義が異なる精米工程、及び無洗米処理工程を加えて玄米を改質する方法である。なお、図4は米穀店等の精米作業等の一例を示したものに過ぎず、この作業工程に限定するものではなく、工程の順序が逆になったり、図4には含まれない混米工程が入ったりする場合はある。ここで作業とは、被加工物である玄米に対する働きかけをいい、工程とは、その作業や作業時間等を総称した概念である。米生産者の手元を離れた玄米は、その流通過程において、異なる人や施設により玄米が管理されているため、小売の米穀店等に入荷される玄米の含水率は自ずと異なるものとなってくる。そこで、入荷した玄米の含水率を調湿工程により均一にして、玄米の食味や炊飯性を向上させるものである。このように調湿工程とは、玄米の含水率を一定にするため水と玄米を接触させ、さらに乾燥させる作業を繰り返す工程である。入荷する玄米の状態により、入荷した直後に調湿工程を行うかあるいは、いわゆる石抜の後にするか決められる。しかし調湿工程は、必ず精米工程より前に行なわれる。
【0013】
精米工程とは、一般的には、玄米の果皮部や胚芽を除去する工程をいうが、ここでは玄米の果皮や胚芽の1部のみを研磨して糠部や胚芽部分を残すことも含まれるものとする。無洗米とは、炊飯時等に洗ういわゆる研ぎを行う必要が無い米をいい、無洗米処理工程とは、無洗米に加工する工程をいい、玄米に付着した微細な糠部分等を水で洗い流し乾燥させる工程である。無洗米処理工程は、必ず精米工程の後に行われる。調湿工程、精米工程、無洗米処理工程のすべてを行って、玄米を改質させるものである。玄米を改質としたのは、入荷された玄米の食味や炊飯性等を向上させるものであり、玄米の生産とは言えないためである。
【0014】
請求項2に係わる発明は、請求項1の調湿工程は、玄米を水と接触させ、乾燥させる作業を繰り返し行い、玄米の含水率を14%〜17%とし、同項の精米工程は果皮部分を研磨し、さらに研磨した表面に水が浸透するための微細な孔をつけ、精米率を96%〜98%とし、同項の無洗米処理工程は、所定量の玄米を一定の流量の水により洗浄し、脱水乾燥させることとする請求項1の玄米改質方法である。
【0015】
調湿工程において、水と接触させるとは、玄米を水に浸漬させる、あるいはミスト状の水を玄米に噴霧することなど、玄米と水が接触することをいう。乾燥させるとは、玄米を常温乾燥あるいは赤外線、温風等で乾燥させることをいう。調湿工程は、専用機械による方法、あるいは噴霧器で玄米に水を噴霧し、ついで乾燥させる工程を繰り返すことにより行われる。含水率を上限17%としたのは、17%以上になると周囲の環境にもよるがカビ等が発生しやすくなるためである。調湿に用いる水は、一般的な水道水だけでなく、飲用に適する特殊な水も含まれる。例えばミネラルウォーター、セラミック濾過器を通過させた浄水、アルカリイオン水等である。ミネラルウォーターとは、地下水を原水とするものだけではなく地下水が原水ではないものや海洋深層水等も含むものである。セラミック濾過器を通過させた浄水とは、粘土等を焼成した多孔質のセラミック材料が水を浄化する機能があり、これを通過させた水である。アルカリイオン水は、基本的にはイオン交換膜を塩橋として電極間を隔てて電気分解によるものであり、アルカリイオン水は陽極側に存在する水である。
【0016】
精米工程において、皮部分を研磨し、さらに玄米の内部に水が浸透するための微細な孔をつけ、精米率を96%〜98%としたのは次のような理由からである。
【0017】
玄米の糠層や胚芽には、ビタミン、ミネラル、食物繊維等が豊富に含まれている。また玄米の食味は、図5に示すアリューロン層35にあるとする有力な説がある。こうした糠層や胚芽を除去する精米では、玄米としての特徴が失われる。そこで、調湿工程を経た表皮が軟化した玄米の果皮部分を薄く研磨し、その研磨した表面に微細な孔を付け、精米率96%〜98%として炊飯性を向上させ、食味を維持するものである。精米率とは、精米重量と玄米重量の比(重量%)で表される。搗精は、米の糠層と胚芽の取れ具合をしめすものである。搗精の程度を図5に示す。玄米の果皮部分を薄く研磨し、その研磨した表面に微細な孔を付ける精米工程は特殊であり、工業用ダイヤモンド(金剛砂といわれる。)を用いた精米機が使用されるが、この研磨ができ、精米率が96%〜98%であれば、精米機械の種類は問わない。
【0018】
前述のように玄米に残留する農薬は精米、米とぎで91%が除去される。精米工程での精米率は96%〜98%であり、精米工程により残留農薬が除去される可能性が少ない。そこで、無洗米処理には、水を使用しない乾式方法もあるが、本工程の玄米の無洗米処理においては、一定の流量の水により洗浄して、残留農薬もできるだけ低減しようとするものである。健康食品としての玄米では、できる限り残留農薬を除去することが望まれるためである。無洗米処理に使用する水も前記調湿に用いる水と同様に、一般的な水道水だけでなく、飲用に適する特殊な水、例えばミネラルウォーター、セラミック濾過器を通過させた浄水、アルカリイオン水等も含まれる。
【0019】
請求項3に係わる発明は、請求項1または請求項2のいずれかの玄米改質方法により改質された玄米である。
【0020】
本発明の特徴は、調湿、精米、無洗米処理のすべての工程を行うことにより玄米を改質することであり、中でも入荷した玄米の含水率を均一に14%から17%の範囲に維持することが重要である。そこで請求項1あるいは請求項2による玄米の改質方法により改質された玄米を保護対象とするものである。
【発明の効果】
【0021】
請求項1に係わる発明は、炊飯しやすく食味が優れた玄米を加工する工程を限定したものである。これらの各工程をすべて行うことにより、入荷された玄米は改質される。請求項2に係わる発明は、調湿工程、精米工程、無洗米処理工程を具体化したものである。調湿工程により玄米の含水量を14%〜17%に限定し、食味、炊飯性、及び精米の作業性を向上させるものである。また精米方法を具体化し、精米率を限定して、糠層や胚芽に含まれるビタミン、ミネラルを温存させ、さらに食味や炊飯性を向上させるものである。無洗米処理工程では、一定量の水により、玄米の残留農薬を除去し、健康食品としての志向性を高めるものである。請求項3に係わる発明は、このように改質された玄米を保護対象としたものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下に加工工程の実施例や簡単な試験結果を挙げる。
【実施例1】
【0023】
玄米を入荷するに当たり、水田の水質、生息小動物等を現地調査して入荷する玄米を選択する。入荷した後、外観検査等をした後、図6及び図7に示す工程に玄米を投入する。タンク6に入荷した玄米を入れ、まず調湿機7にかけて玄米の含水量を約16%とする。調湿機7では、ミスト状の水を噴霧し加水するが、約10分間噴霧した後、乾燥させる。この工程を繰り返して、徐々に玄米に水を浸透させていく。水は、セラミック濾過器を通過させた浄水を水槽14に入れ、これを調湿機に流している。入荷時の玄米の含水率にもよるが、14%程度の含水率の玄米であれば、約16%の含水率にするには6時間程要する。調湿は、調湿機によらなくても、発芽しない程度に、一定時間水に浸漬し、乾燥することを繰り返しても可能である。
【0024】
調湿した玄米をサンプル精米して食味鑑定等を行い、最適な配合を決定する。石抜機8により異物の除去を行って、鑑定に基づくブレンドを混米機9により行う。次に精米機10により精米を行うが、前述のように精米率が96%〜98%と玄米の果皮の一部を除き、その表面に微細な孔をつける。炊飯性、食感を向上させるためである。この精米方法は特殊であり、人工ダイヤモンド(金剛砂)が研磨用として備えられた精米機を使用した。図8に精米後の糠層の断面を示す。糠層には精米後の微細な孔315ができていて、管細胞314とつながり、さらに水が含浸しやすくなっている。また表皮は311は、ほとんど研磨されている。
【0025】
色彩選別機11で、不良米、異物、籾等を除いた後、無洗米処理機により無洗米とされ、小米選別機により砕米を除去し、計量・包装して出荷される。なお、図6、図7の工程図は図4の工程と異なるが、図6、図7は実施例であり、図4は一般的な工程を示したものであるためである。
【実施例2】
【0026】
前記工程において、調湿工程は、食味に影響を与えると思われるため、パネラーに目隠しをして、調湿工程を含むすべての工程を通して改質された玄米と、調湿工程のみを省いた玄米を炊飯して食感を含む食味の官能検査をしてもらった。その結果70人中50人までが調湿工程を経た玄米のほうが、調湿工程を省いた玄米より、粘りがあり食感もよく甘さがあるというものであった。
【産業上の利用可能性】
【0027】
健康食品として玄米は注目されているが、白米に比べ炊飯しにくく、また食感を含む食味がよくないことで敬遠されてきた。しかし、この工程を経て改質された玄米は上記のような欠点を克服することができた。そのため、今後は需要が伸びると期待される。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】(表1)玄米と白米の成分
【図2】米粒の概略断面図
【図3】糠層の構造
【図4】米穀店等での作業工程(稲作大百科第2版農文協)
【図5】搗精の程度
【図6】入荷から精米までの工程
【図7】色彩選別から出荷までの工程
【図8】精米後の糠層
【符号の説明】
【0029】
1 米の種子
2 籾殻
3 糠層 31
果皮 32 種皮 33 外胚乳 34 糊粉層 35 アリューロン層 311 表皮 312 中果皮 313 横細胞 314 管細胞
315 精米後の微細な孔
4 胚乳
5 胚芽
6 タンク(コンテナ)
7 調湿機
8 石抜機
9 混米機
10 精米機
11 色彩選別機
12 無洗米処理機
13 小米選別機
14 水槽

【特許請求の範囲】
【請求項1】
入荷した玄米について、調湿工程、精米工程及び無洗米処理工程により該玄米を改質する玄米改質方法。
【請求項2】
請求項1の調湿工程は、玄米を水と接触させ、乾燥させる作業を繰り返し行い、玄米の含水率を14%〜17%とし、同項の精米工程は果皮部分を研磨し、さらに研磨した表面に水が浸透するための微細な孔をつけ、精米率を96%〜98%とし、同項の無洗米処理工程は、所定量の玄米を一定の流量の水により洗浄し、脱水乾燥させることとする請求項1の玄米改質方法。
【請求項3】
請求項1または請求項2のいずれかの玄米改質方法により改質された玄米。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−50193(P2009−50193A)
【公開日】平成21年3月12日(2009.3.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−219141(P2007−219141)
【出願日】平成19年8月27日(2007.8.27)
【出願人】(507034470)
【Fターム(参考)】