説明

全フッ素化飽和炭化水素及び含フッ素界面活性剤を含む組成物

【課題】フルオロポリマーの製造に好適な新規組成物、及び、この組成物を使用したフルオロポリマー水性分散液を製造するための新規な製造方法を提供する。
【解決手段】炭素数が10〜20の全フッ素化飽和炭化水素、及び、含フッ素界面活性剤を含むことを特徴とする組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、全フッ素化飽和炭化水素及び含フッ素界面活性剤を含む組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、含フッ素モノマーを、開始剤と重合助剤を含む水性媒体中で重合する方法であり、重合助剤は800g/mol以上の数平均分子量を有するフルオロポリエーテル酸とフッ素系界面活性剤の組合せであるものが開示されている。
【0003】
特許文献2には、水、水素化末端基及び/又は水素化反復単位を有するフルオロポリオキシアルキレン、ハロゲンを任意に含んでもよいC−C20の脂肪族、芳香族又はその混合系炭化水素、並びに、フッ化界面活性剤を含むマイクロエマルジョンが開示されている。
【0004】
特許文献3には、水溶液、フッ化界面活性剤、及び パーフルオロポリエーテルからなるマイクロエマルジョンが開示されている。
【0005】
特許文献4には、水性マイクロエマルジョンの形で調製されたパーフルオロポリエーテルの存在下にフッ素化モノマーを重合する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】米国特許出願公開第2008/0269408号明細書
【特許文献2】特開平08−208974号公報
【特許文献3】米国特許第4990283号明細書
【特許文献4】米国特許第4864006号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、フルオロポリマーの製造に好適な新規組成物、及び、この組成物を使用したフルオロポリマー水性分散液を製造するための新規な製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、炭素数が10〜20の全フッ素化飽和炭化水素、及び、含フッ素界面活性剤を含むことを特徴とする組成物である。
【0009】
全フッ素化飽和炭化水素は、炭素数が12〜20であることが好ましい。
【0010】
含フッ素界面活性剤は、炭素数が4〜7であることが好ましい。
【0011】
更に、水を含むことが好ましい。
【0012】
含フッ素界面活性剤が組成物の98〜0.001質量%であることが好ましい。
【0013】
全フッ素化飽和炭化水素と含フッ素界面活性剤との質量比が100:100〜100:0.01であることが好ましい。
【0014】
本発明は、上述の組成物の製造方法であって、全フッ素化飽和炭化水素を、含フッ素界面活性剤に溶解させることにより組成物を得ることを特徴とする製造方法でもある。
【0015】
本発明は上述の組成物の存在下に、フルオロモノマーを重合してフルオロポリマーの粒子を含む水性分散液を得る工程を含むことを特徴とするフルオロポリマー水性分散液の製造方法でもある。
【0016】
本発明は、上述の製造方法により得られることを特徴とするフルオロポリマー水性分散液でもある。
【0017】
本発明は、上述のフルオロポリマー水性分散液から得られることを特徴とするフルオロポリマーのファインパウダーでもある。
【発明の効果】
【0018】
本発明の組成物は、フルオロポリマーの製造に好適に使用できる。本発明のフルオロポリマー水性分散液の製造方法は、上述の組成物を使用するものであるため、安定性が優れたフルオロポリマー水性分散液を製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明を具体的に説明する。
【0020】
本発明の組成物は、全フッ素化飽和炭化水素、及び、含フッ素界面活性剤を含むことを特徴とする。本発明の組成物は、含フッ素界面活性剤によって、全フッ素化飽和炭化水素が含フッ素界面活性剤中又は水中に均一に分散されている。このため、水性媒体中でフルオロモノマーを重合してフルオロポリマーを製造する方法に好適に利用することができ、ポリマーの性能を損なうことなく安定な水性分散液を得ることができる。
【0021】
全フッ素化飽和炭化水素は、熱分解温度が適当であり、取り扱い性に優れる観点から、炭素数が10〜20であり、12〜20であることが好ましく、16〜20であることがより好ましい。炭素数の相違する全フッ素化飽和炭化水素を2種以上使用してもよい。また、分岐型及び直鎖型の全フッ素化飽和炭化水素をいずれも使用することができるが、ペルフルオロアイオダイド2分子をカップリングした直鎖型が好ましく使用される。
【0022】
全フッ素化飽和炭化水素は、C2x+1(式中、Xは10〜20の整数であり、12、14、16、18又は20であることが好ましい。)で表される鎖状飽和炭化水素であることが好ましく、なかでも、ペルフルオロヘキサデカン、ペルフルオロオクタデカン、及び、ペルフルオロイコサンからなる群より選択される少なくとも1種であることがより好ましい。
【0023】
含フッ素界面活性剤は、全フッ素化飽和炭化水素を水に均一に分散させることが容易であることから、常温で液体である含フッ素界面活性剤であることが好ましい。含フッ素界面活性剤は、含フッ素アニオン界面活性剤であることが好ましく、炭素数が4〜7である含フッ素界面活性剤が好ましい。なかでも、炭素数が4〜7である含フッ素アニオン界面活性剤であることがより好ましく、炭素原子−炭素原子間に位置する酸素原子(例えば−CF−O−CF−)を有する含フッ素アニオン界面活性剤であってもよい。例として、直鎖又は分岐のパーフルオロアルキル基を有する炭素数が4〜7のパーフルオロアルキルカルボン酸、炭素原子−炭素原子間に酸素原子が挿入された、直鎖又は分岐のパーフルオロアルキル基を有する炭素数が4〜7のパーフルオロアルキルエーテルカルボン酸等が挙げられる。それらの中でも、パーフルオロヘキサン酸又はその塩であることが更に好ましく、パーフルオロヘキサン酸、パーフルオロヘキサン酸アンモニウム塩、パーフルオロヘキサン酸ナトリウム塩、又は、パーフルオロヘキサン酸カリウム塩であることが特に好ましく、パーフルオロヘキサン酸アンモニウム塩であることが格別好ましい。
【0024】
含フッ素界面活性剤は、全フッ素化飽和炭化水素を均一に分散させることが容易であることから、組成物の98〜0.001質量%であることが好ましく、98〜0.01質量%であることがより好ましく、50〜0.1質量%であることが更に好ましい。
【0025】
全フッ素化飽和炭化水素と含フッ素界面活性剤との質量比は、全フッ素化飽和炭化水素を均一に分散させることが容易であることから、100:100〜100:0.01であることが好ましく、100:10〜100:0.1であることがより好ましい。
【0026】
本発明の組成物は、更に、水を含むことが好ましい。また、水以外にも、アルコール、エーテル、ケトン等のフッ素非含有有機溶媒、及び/又は、沸点が40℃以下であるフッ素含有有機溶媒を含むものであってもよい。
【0027】
全フッ素化飽和炭化水素を、含フッ素界面活性剤に溶解させることにより組成物を得ることを特徴とする組成物の製造方法も本発明の一つである。本発明の組成物は、この製造方法により好適に製造することができる。含フッ素界面活性剤の水溶液に全フッ素化飽和炭化水素を溶解させてもよい。
【0028】
本発明の組成物の存在下にフルオロモノマーを重合してフルオロポリマーの粒子を含む水性分散液を得る工程を含むことを特徴とするフルオロポリマー水性分散液の製造方法も本発明の一つである。
【0029】
本発明の組成物は、含フッ素界面活性剤が水に対して0.0001〜2質量%の量になるように添加することが好ましく、より好ましい下限は0.001質量%であり、より好ましい上限は0.5質量%である。組成物の量が少なすぎると分散力が不充分となりやすく、組成物の量が多すぎると添加量に見合った効果が得られず、却って重合速度の低下や反応停止が起こる場合がある。組成物の添加量は、使用するフルオロモノマー等の種類、目的とするフルオロポリマーの分子量等によって適宜決定される。
【0030】
上記フルオロモノマーとしては、フルオロオレフィン、好ましくは炭素原子2〜10個を有するフルオロオレフィン;環式のフッ素化されたモノマー;式CY=CYOR又はCY=CYOROR(Yは、H又はFであり、R及びRは、水素原子の一部又は全てがフッ素原子で置換されている炭素数1〜8のアルキル基であり、Rは、水素原子の一部又は全てがフッ素原子で置換されている炭素数1〜8のアルキレン基である。)で表されるフッ素化アルキルビニルエーテル等が挙げられる。
【0031】
上記フルオロオレフィンは、より好ましくは、炭素原子2〜8個を有するものである。上記炭素原子2〜8個を有するフルオロオレフィンとしては、例えば、テトラフルオロエチレン[TFE]、ヘキサフルオロプロピレン[HFP]、クロロトリフルオロエチレン[CTFE]、フッ化ビニル、フッ化ビニリデン[VDF]、トリフルオロエチレン、ヘキサフルオロイソブチレン及びパーフルオロブチルエチレン等が挙げられる。上記環式のフッ素化されたモノマーとしては、好ましくは、パーフルオロ−2,2−ジメチル−1,3−ジオキソール[PDD]、パーフルオロ−2−メチレン−4−メチル−1,3−ジオキソラン[PMD]等が挙げられる。
【0032】
上記フッ素化アルキルビニルエーテルにおいて、上記R及びRは、好ましくは、炭素原子1〜4個を有するものであり、より好ましくは水素原子の全てがフッ素によって置換されているものであり、上記Rは、好ましくは炭素原子2〜4個を有するものであり、より好ましくは、水素原子の全てがフッ素原子によって置換されているものである。
【0033】
上記フッ素非含有モノマーとしては、上記フルオロモノマーと反応性を有する炭化水素系モノマー等が挙げられる。上記炭化水素系モノマーとしては、例えば、エチレン、プロピレン、ブチレン、イソブチレン等のアルケン類;エチルビニルエーテル、プロピルビニルエーテル、ブチルビニルエーテル、イソブチルビニルエーテル、シクロヘキシルビニルエーテル等のアルキルビニルエーテル類;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、n−酪酸ビニル、イソ酪酸ビニル、吉草酸ビニル、ピバリン酸ビニル、カプロン酸ビニル、カプリル酸ビニル、カプリン酸ビニル、バーサチック酸ビニル、ラウリン酸ビニル、ミリスチン酸ビニル、パルミチン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、安息香酸ビニル、パラ−t−ブチル安息香酸ビニル、シクロヘキサンカルボン酸ビニル、モノクロル酢酸ビニル、アジピン酸ビニル、アクリル酸ビニル、メタクリル酸ビニル、クロトン酸ビニル、ソルビン酸ビニル、桂皮酸ビニル、ウンデシレン酸ビニル、ヒドロキシ酢酸ビニル、ヒドロキシプロピオイン酸ビニル、ヒドロキシ酪酸ビニル、ヒドロキシ吉草酸ビニル、ヒドロキシイソ酪酸ビニル、ヒドロキシシクロヘキサンカルボン酸ビニル等のビニルエステル類;エチルアリルエーテル、プロピルアリルエーテル、ブチルアリルエーテル、イソブチルアリルエーテル、シクロヘキシルアリルエーテル等のアルキルアリルエーテル類;エチルアリルエステル、プロピルアリルエステル、ブチルアリルエステル、イソブチルアリルエステル、シクロヘキシルアリルエステル等のアルキルアリルエステル類等が挙げられる。
【0034】
上記フッ素非含有モノマーとしては、また、官能基含有炭化水素系モノマーであってもよい。上記官能基含有炭化水素系モノマーとしては、例えば、ヒドロキシエチルビニルエーテル、ヒドロキシプロピルビニルエーテル、ヒドロキシブチルビニルエーテル、ヒドロキシイソブチルビニルエーテル、ヒドロキシシクロヘキシルビニルエーテル等のヒドロキシアルキルビニルエーテル類;イタコン酸、コハク酸、無水コハク酸、フマル酸、無水フマル酸、クロトン酸、マレイン酸、無水マレイン酸、パーフルオロブテン酸等のカルボキシル基を有するフッ素非含有モノマー;グリシジルビニルエーテル、グリシジルアリルエーテル等のグリシジル基を有するフッ素非含有モノマー;アミノアルキルビニルエーテル、アミノアルキルアリルエーテル等のアミノ基を有するフッ素非含有モノマー;(メタ)アクリルアミド、メチロールアクリルアミド等のアミド基を有するフッ素非含有モノマー等が挙げられる。
【0035】
本発明における重合は、重合反応器に、上記組成物、及び、フルオロモノマーを仕込み、反応器の内容物を撹拌し、そして反応器を所定の重合温度に保持し、次に重合開始剤を加え、重合反応を開始することにより行う。重合反応開始前に、必要に応じて、水性媒体、添加剤等を反応器に仕込んでもよい。重合反応開始後に、目的に応じて、フルオロモノマー、重合開始剤、連鎖移動剤及び上記組成物等を追加添加してもよい。
【0036】
上記水性媒体は、重合を行わせる反応媒体であって、水を含む液体を意味する。上記水性媒体は、水を含むものであれば特に限定されず、水と、例えば、アルコール、エーテル、ケトン等のフッ素非含有有機溶媒、及び/又は、沸点が40℃以下であるフッ素含有有機溶媒とを含むものであってもよい。
【0037】
重合開始剤としては、上記重合温度範囲でラジカルを発生しうるものであれば特に限定されず、公知の油溶性及び/又は水溶性の重合開始剤を使用することができる。更に、還元剤等と組み合わせてレドックスとして重合を開始することもできる。上記重合開始剤の濃度は、モノマーの種類、目的とする重合体の分子量、反応速度によって適宜決定される。
【0038】
本発明の製造方法は、界面活性剤として、上記組成物に含まれる含フッ素界面活性剤を少なくとも1種用いれば、フルオロポリマーを効率よく製造することが可能である。また、本発明の製造方法において、界面活性剤として、揮発性を有するもの又はフルオロポリマーからなる成形体等に残存してもよいものであれば、上記組成物に含まれる含フッ素界面活性剤以外のその他の界面活性能を有する化合物を同時に使用してもよい。
【0039】
上記その他の界面活性能を有する化合物としては特に限定されず、例えば、アニオン系、カチオン系、ノニオン系又はベタイン系の界面活性剤の何れであってもよく、これらの界面活性剤は、ハイドロカーボン系のものであってよい。
【0040】
上記重合において、一般に、重合温度は5〜120℃であり、重合圧力は0.05〜10MPaGである。重合温度、重合圧力は、使用するフルオロモノマーの種類、目的とする重合体の分子量、反応速度によって適宜決定される。
【0041】
上記重合を行うことにより、平均一次粒子径50〜500nmのフルオロポリマー粒子を5〜45質量%含有するフルオロポリマー水性分散液を得ることができる。
【0042】
本明細書において、上記平均一次粒子径は、フルオロポリマー固形分濃度0.22質量%に調整したフルオロポリマー水性分散液の単位長さに対する550nmの投射光の透過率と、透過型電子顕微鏡写真により決定された平均一次粒子径との検量線をもとにして、上記透過率から間接的に決定した値である。
【0043】
上記フルオロポリマー粒子の濃度は、水性分散液1gを、送風乾燥機中で150℃、60分の条件で乾燥し、水性分散液の質量(1g)に対する、加熱残分の質量の割合を百分率で表したものである。
【0044】
上記フルオロポリマーは、上述のフルオロモノマーを重合することにより得られるものであり、目的に応じて、上述のフッ素非含有モノマーをも共重合させることもできる。
【0045】
本発明の製造方法により好適に製造されるフルオロポリマーとして、フルオロポリマーにおけるモノマーのモル分率が最も多いモノマー(以下、「最多モノマー」)がTFEであるTFE重合体、最多モノマーがVDFであるVDF重合体、及び、最多モノマーがCTFEであるCTFE重合体等が挙げられる。
【0046】
TFE重合体としては、好適には、TFE単独重合体等のテトラフルオロエチレン重合体〔PTFE〕重合体であってもよいし、(1)TFEと、(2)炭素原子2〜8個を有する1つ又は2つ以上のTFE以外のフルオロモノマー、特にHFP若しくはCTFE、及び/又は、(3)その他のモノマーとからなる共重合体であってもよい。上記(3)その他のモノマーとしては、例えば、炭素原子1〜5個、特に炭素原子1〜3個を有するアルキル基を持つフルオロ(アルキルビニルエーテル);フルオロジオキソール;パーフルオロアルキルエチレン;ω―ヒドロパーフルオロオレフィン等が挙げられる。
TFE重合体としては、また、TFEと、1つ又は2つ以上のフッ素非含有モノマーとの共重合体であってもよい。上記フッ素非含有モノマーとしては、例えば、エチレン、プロピレン等のアルケン類;ビニルエステル類;ビニルエーテル類が挙げられる。TFE重合体としては、また、TFEと、炭素原子2〜8個を有する1つ又は2つ以上のフルオロモノマーと、1つ又は2つ以上のフッ素非含有モノマーとの共重合体であってもよい。
【0047】
VDF重合体としては、好適には、VDF単独重合体[PVDF]であってもよいし、(1)VDF、(2)炭素原子2〜8個を有する1つ又は2つ以上のVDF以外のフルオロオレフィン、特にTFE、HFP若しくはCTFE、及び、(3)炭素原子1〜5個、特に炭素原子1〜3個を有するアルキル基を持つパーフルオロ(アルキルビニルエーテル)からなる共重合体等であってもよい。
【0048】
CTFE重合体としては、好適には、CTFE単独重合体であってもよいし、(1)CTFE、(2)炭素原子2〜8個を有する1つ又は2つ以上のCTFE以外のフルオロオレフィン、特にTFE若しくはHFP、及び、(3)炭素原子1〜5個、特に炭素原子1〜3個を有するアルキル基を持つパーフルオロ(アルキルビニルエーテル)からなる共重合体であってもよい。
CTFE重合体としては、また、CTFEと、1つ又は2つ以上のフッ素非含有モノマーとの共重合体であってもよく、上記フッ素非含有モノマーとしては、エチレン、プロピレン等のアルケン類;ビニルエステル類;ビニルエーテル類等が挙げられる。
【0049】
本発明の製造方法により得られるフルオロポリマー水性分散液は、上述の重合後、濃縮するか又は分散安定化処理してもよいし、凝析又は凝集に供して回収し乾燥して得られる粉末その他の固形物としてもよい。
【0050】
上記濃縮の方法としては、相分離、電気濃縮、限外ろ過等の公知の方法が挙げられる。上記濃縮を行うことにより、フルオロポリマー濃度を30〜70質量%にすることができる。濃縮により水性分散液の安定性が損なわれることがあるが、その場合は更に分散安定剤を添加してもよい。上記分散安定剤としては、上記組成物や、その他の各種の界面活性剤を添加してもよい。上記各種の分散安定剤としては、例えば、ポリオキシアルキルエーテル等の非イオン性界面活性剤、特に、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル(例えばローム&ハース社製のトライトンX−100(商品名))、ポリオキシエチレンイソトリデシルエーテル、ポリオキシエチレンイソトリデシルエーテル(第一工業製薬社製のノイゲンTDS80C(商品名)、ライオン社製のレオコールTD90D(商品名)、クラリアント社製のゲナポールX080(商品名))が挙げられるが、これらのみに限定されるものではない。
【0051】
上記分散安定剤の総量は、上記水性分散液の固形分に対し0.5〜20質量%の濃度である。0.5質量%未満であると、分散安定性に劣る場合があり、20質量%を超えると、存在量に見合った分散効果がなく実用的でない。上記分散安定剤のより好ましい下限は2質量%であり、より好ましい上限は12質量%である。
【0052】
上記重合を行うことにより得られた水性分散液は、また、用途によっては濃縮せずに分散安定化処理して、ポットライフの長いフルオロポリマー水性分散液に調製することもできる。使用する分散安定剤としては上記と同じものが挙げられる。
【0053】
本発明の製造方法により製造されるフルオロポリマーは、ガラス状、可塑性又はエラストマー性であり得る。これらのものは非晶性又は部分的に結晶性であり、圧縮焼成加工、溶融加工又は非溶融加工に供することができる。
【0054】
本発明の製造方法では、例えば、(I)非溶融加工性樹脂として、テトラフルオロエチレン重合体[TFE重合体]が、(II)溶融加工性樹脂として、エチレン/TFE共重合体[ETFE]、TFE/HFP共重合体[FEP]及びTFE/パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)共重合体[PFA、MFA等]が、(III)エラストマー性重合体として、TFE/プロピレン共重合体、TFE/プロピレン共重合体/第3モノマー共重合体(上記第3モノマーは、VDF、HFP、CTFE、パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)類等)、TFEとパーフルオロ(アルキルビニルエーテル)類とからなる共重合体;HFP/エチレン共重合体、HFP/エチレン/TFE共重合体;PVDF;VDF/HFP共重合体、HFP/エチレン共重合体、VDF/TFE/HFP共重合体等の熱可塑性エラストマー;及び、特公昭61−49327号公報に記載の含フッ素セグメント化ポリマー等が好適に製造されうる。
上記パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)は、式:
Rf(OCFQCFk1(OCRCFCFk2(OCFk3OCF=CF
(式中、Rfは炭素数1〜6のパーフルオロアルキル基を表す。k1、k2及びk3は、同一又は異なっていてもよい0〜5の整数である。Q、Q及びRは、同一又は異なって、F若しくはCFである。)で表されるものである。
【0055】
本発明の製造方法により好適に製造される上述の(I)非溶融加工性樹脂、(II)溶融加工性樹脂及び(III)エラストマー性重合体は、以下の態様で製造することが好ましい。
【0056】
(I)非溶融加工性樹脂
本発明の製造方法において、TFE重合体の重合は、通常、重合温度10〜100℃、重合圧力0.05〜5MPaGにて行われる。
上記重合は、攪拌機を備えた耐圧の反応容器に純水及び上述の組成物を仕込み、脱酸素後、TFEを仕込み、所定の温度にし、重合開始剤を添加して反応を開始する。反応の進行とともに圧力が低下するので、初期圧力を維持するように、追加のTFEを連続的又は間欠的に追加供給する。所定量のTFEを供給した時点で、供給を停止し、反応容器内のTFEをパージし、温度を室温に戻して反応を終了する。
【0057】
本明細書において、テトラフルオロエチレン重合体[TFE重合体]は、TFE単独重合体のみならず、TFEと変性モノマーとの共重合体であって、非溶融加工性であるもの(以下、「変性PTFE」という。)をも含む概念である。
上記TFE重合体の製造において、各種変性モノマーを併用することもできる。
【0058】
上記変性モノマーとしては、例えば、HFP、CTFE等のパーハロオレフィン;炭素原子1〜5個、特に炭素原子1〜3個を有するアルキル基を持つフルオロ(アルキルビニルエーテル);フルオロジオキソール等の環式のフッ素化されたモノマー;パーハロアルキルエチレン;ω―ヒドロパーハロオレフィン等が挙げられる。変性モノマーの供給は、目的や、TFEの供給に応じて、初期一括添加、又は、連続的若しくは間欠的に分割添加を行うことができる。
変性PTFE中の変性モノマー含有率は、通常、0.001〜2モル%の範囲である。
【0059】
上記TFE重合体の製造において、重合開始剤としては、過硫酸塩(例えば、過硫酸アンモニウム)や、ジコハク酸パーオキシド、ジグルタル酸パーオキシド等の有機過酸化物を、単独で又はこれらの混合物の形で使用することができる。また、亜硫酸ナトリウム等の還元剤と共用し、レドックス系にして用いてもよい。更に、重合中に、ヒドロキノン、カテコール等のラジカル捕捉剤を添加したり、亜硫酸アンモニウム等のパーオキサイドの分解剤を添加し、系内のラジカル濃度を調整することもできる。
【0060】
上記TFE重合体の製造において、連鎖移動剤としては、公知のものが使用できるが、例えば、メタン、エタン、プロパン、ブタン等の飽和炭化水素、クロロメタン、ジクロロメタン、ジフルオロエタン等のハロゲン化炭化水素類、メタノール、エタノール等のアルコール類、水素等が挙げられるが、常温常圧で気体状態のものが好ましい。
上記連鎖移動剤の使用量は、通常、供給されるTFE全量に対して、1〜1000ppmであり、好ましくは1〜500ppmである。
【0061】
上記TFE重合体の製造において、更に、反応系の分散安定剤として、実質的に反応に不活性であって、上記反応条件で液状となる炭素数が12以上の飽和炭化水素(但し、全フッ素化を除く)を、水性媒体100質量部に対して2〜10質量部で使用することもできる。また、反応中のpHを調整するための緩衝剤として、炭酸アンモニウム、リン酸アンモニウム等を添加してもよい。
【0062】
上記TFE重合体の重合が終了した時点で、一般に、固形分濃度が10〜50質量%、平均粒子径が0.05〜0.5μm、特に上述の組成物を使用することによって0.3μm以下の微小粒子径のTFE重合体からなる粒子を有する水性分散液を得ることができる。上記重合終了時のTFE重合体は、数平均分子量1,000〜10,000,000のものである。
【0063】
上記重合により得られたTFE重合体の水性分散液は、また、ノニオン性界面活性剤を加えることにより、安定化して更に濃縮し、目的に応じ、有機又は無機の充填剤を加えた組成物として各種用途に使用することも好ましい。上記組成物は、金属又はセラッミクスからなる基材上に被覆することにより、非粘着性と低摩擦係数を有し、光沢や平滑性、耐摩耗性、耐候性及び耐熱性に優れた塗膜表面とすることができ、ロールや調理器具等の塗装、ガラスクロスの含浸加工等に適している。
【0064】
上記TFE重合体の水性分散液又は後述するファインパウダーは、加工助剤として使用することも好ましい。加工助剤として使用する場合、上記水性分散液又は上記ファインパウダーをホストポリマー等に混合することにより、ホストポリマー溶融加工時の溶融強度向上や、得られたポリマーの機械的強度、電気特性、難燃性、滴下防止性、摺動性を向上することができる。
【0065】
上記TFE重合体の水性分散液又は後述するファインパウダーは、また、TFE重合体以外の樹脂と複合させてから加工助剤として使用することも好ましい。上記水性分散液又は上記ファインパウダーは、例えば、特開平11−49912号公報、特開2003−24693号公報、米国特許第5804654号明細書、特開平11−29679号公報、特開2003−2980号公報に記載されたPTFEの原料として好適である。上記水性分散液又は上記ファインパウダーを使用した加工助剤は、上記各刊行物に記載された加工助剤に比べてもなんら劣るものではない。
【0066】
上記TFE重合体の水性分散液は、熱溶融加工性フッ素樹脂の水性分散液と混合して凝析させることにより、共凝析粉末とすることも好ましい。上記共凝析粉末は、加工助剤として好適である。
【0067】
上記熱溶融加工性フッ素樹脂としては、例えば、FEP、PFA、ETFE、エチレン/ヘキサフルオロプロピレン/テトラフルオロエチレン共重合体(EFEP)等が挙げられるが、中でもFEPが好ましい。
【0068】
上記共凝析粉末を添加するフッ素非含有樹脂は、パウダー状であってもよいし、ペレット状であってもよいし、エマルジョンであってもよい。上記添加は、各樹脂を充分に混合する点で、押出混練、ロール混練等の公知の方法により剪断力を与えながら行うことが好ましい。
【0069】
上記TFE重合体の水性分散液は、塵埃抑制処理剤として使用することも好ましい。上記塵埃抑制処理剤は、発塵性物質と混合し、該混合物に20〜200℃の温度で圧縮−せん断作用を施すことによりTFE重合体をフィブリル化して発塵性物質の塵埃を抑制する方法、例えば特許第2827152号、特許第2538783号等の方法において、用いることができる。
【0070】
上記塵埃抑制処理剤は、建材分野、土壌安定材分野、固化材分野、肥料分野、焼却灰及び有害物質の埋立処分分野、防爆分野、化粧品分野等の塵埃抑制処理に好適に用いられる。
【0071】
上記TFE重合体の水性分散液は、分散紡糸法(Dispersion Spinning method)によりTFE重合体繊維を得る原料として使用することも好ましい。上記分散紡糸法とは、上記TFE重合体の水性分散液とマトリックス高分子の水性分散液とを混合し、当該混合物を押出加工して中間体繊維構造物を形成し、該中間体繊維構造物を焼成することによって上記マトリックス高分子を分解及びTFE重合体粒子の焼結を行ってTFE重合体繊維を得る方法である。
【0072】
上述の組成物を用いて高分子量PTFEを製造することもできる。乳化重合により得られる高分子量PTFE粉末は、PTFE多孔体(膜)の原料としても有用である。例えば高分子量PTFE粉末をペースト押出し圧延後、未焼成又は半焼成し、少なくとも1方向に延伸して(好ましくは、圧延方向にロール延伸し次いでテンターにより幅方向に延伸して)、PTFE多孔体(膜)を得ることができる。延伸することによりPTFEは容易にフィブリル化し、結節と繊維からなるPTFE多孔体(膜)となる。
【0073】
この多孔体(膜)は、各種フィルターとして有用であり、薬液フィルターとして、特にエアフィルター濾材として好ましく使用できる。
【0074】
上述の組成物を用いて、低分子量PTFEを重合することもできる。
【0075】
分子量60万以下の低分子量PTFE(PTFEマイクロパウダーとも呼ばれる)は、化学的安定性に優れ、表面エネルギーが極めて低いことに加え、フィブリル化が生じにくいので、滑り性や塗膜表面の質感を向上させる添加剤として、プラスチック、インク、化粧品、塗料、グリース等の製造に好適である(例えば、特開平10−147617号公報参照。)。
【0076】
また、更に連鎖移動剤の存在下、水性媒体中に重合開始剤及び乳化剤として上述の組成物を分散させ、TFE、又は、TFEと共重合し得るモノマーとTFEを重合させることによって、低分子量PTFEを得てもよい。
【0077】
乳化重合により得られる低分子量PTFEを粉末として用いる場合、上記水性分散液を凝析させることで粉末粒子(マイクロパウダー)とすることができる。
【0078】
上述の組成物を用いて得られたPTFEファインパウダーから、未焼成テープ(生テープ)を得ることもできる。
【0079】
(II)溶融加工性樹脂
(1)本発明の製造方法において、FEPの重合は、通常、重合温度60〜100℃、重合圧力0.7〜4.5MPaGにて行うことが好ましい。
FEPの好ましいモノマー組成(質量%)は、TFE:HFP=(60〜95):(5〜40)、より好ましくは(85〜90):(10〜15)である。上記FEPとしては、また、更に第3成分としてパーフルオロ(アルキルビニルエーテル)類を用い、全モノマーの0.5〜2質量%である範囲内で変性させたものであってもよい。
【0080】
上記FEPの重合において、連鎖移動剤としては、シクロヘキサン、メタノール、エタノール、四塩化炭素、クロロホルム、塩化メチレン、塩化メチル等を使用することが好ましく、pH緩衝剤としては、炭酸アンモニウム、燐酸水素二ナトリウム等を使用することが好ましい。
【0081】
(2)本発明の製造方法において、PFA、MFA等のTFE/パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)共重合体の重合は、通常、重合温度60〜100℃、重合圧力0.7〜2.5MPaGで行うことが好ましい。
TFE/PAVE共重合体の好ましいモノマー組成(モル%)は、TFE:PAVE=(95〜99.7):(0.3〜5)、より好ましくは(98〜99.5):(0.5〜2)である。上記PAVEとしては、式:CF=CFORf(式中、Rfは炭素数1〜6のパーフルオロアルキル基)で表されるものを使用することが好ましい。
【0082】
上記TFE/PAVE共重合体の重合において、連鎖移動剤としてシクロヘキサン、メタノール、エタノール、四塩化炭素、クロロホルム、塩化メチレン、塩化メチル、メタン、エタン等を使用することが好ましく、pH緩衝剤として、炭酸アンモニウム、燐酸水素二ナトリウム等を使用することが好ましい。
【0083】
(3)本発明の製造方法において、ETFEの重合は、通常、重合温度20〜100℃、重合圧力0.5〜0.8MPaGで行うことが好ましい。
【0084】
ETFEの好ましいモノマー組成(モル%)は、TFE:エチレン=(50〜99):(50〜1)である。上記ETFEとしては、また、更に第3モノマーを用い、全モノマーの0〜20質量%である範囲内で変性させたものであってもよい。好ましくは、TFE:エチレン:第3モノマー=(63〜94):(27〜2):(4〜10)である。上記第3モノマーとしては、パーフルオロブチルエチレン、パーフルオロブチルエチレン、2,3,3,4,4,5,5−ヘプタフルオロ−1−ペンテン(CH=CFCFCFCFH)、2−トリフルオロメチル−3,3,3−トリフルオロプロペン((CFC=CH)が好ましい。
【0085】
上記ETFEの重合において、連鎖移動剤として、シクロヘキサン、メタノール、エタノール、四塩化炭素、クロロホルム、塩化メチレン、塩化メチル等を使用することが好ましい。
【0086】
(4)本発明のフルオロポリマーの製造方法を使用して、電解質ポリマー前駆体を製造することもできる。本発明のフルオロポリマーの製造方法において、電解質ポリマー前駆体の重合は、重合温度20〜100℃、重合圧力0.3〜2.0MPaGで行うことが好ましい。電解質ポリマー前駆体とは、下記に示すようなビニルエーテルモノマーからなり、加水分解処理を経てイオン交換性ポリマーに変換しうるものである。
【0087】
電解質ポリマー前駆体に用いられるビニルエーテルモノマーとしては、
CF=CF−O−(CFCFY−O)−(CFY−A
(式中、Yは、フッ素原子、塩素原子又はパーフルオロアルキル基を表す。nは、0〜3の整数を表す。n個のYは、同一であってもよいし異なっていてもよい。Yは、フッ素原子又は塩素原子を表す。mは、1〜5の整数を表す。m個のYは、同一であってもよいし異なっていてもよい。Aは、−SO及び/又は−COZを表す。Xは、ハロゲン原子を表す。Zは、炭素数1〜4のアルコキシル基を表す。)で表される含フッ素モノマーを挙げることができる。電解質ポリマー前駆体の好ましい単量体組成(モル%)は、TFE:ビニルエーテル=(50〜93):(50〜7)である。
【0088】
電解質ポリマー前駆体は、全単量体の0〜20質量%である範囲内で第3モノマーにより変性させたものであってもよい。第3モノマーとしては、CTFE、フッ化ビニリデン、パーフルオロアルキルビニルエーテル、ジビニルベンゼン等の多官能モノマー等を挙げることができる。
【0089】
このようにして得られた電解質ポリマー前駆体は、例えば膜状に成形した後、アルカリ溶液による加水分解及び、鉱酸による処理を経て、高分子電解質膜として燃料電池等に使用することができる。
【0090】
(III)エラストマー性重合体
本発明の製造方法において、エラストマー性重合体の重合は、攪拌機を備えた耐圧の反応容器に純水及び上述の組成物を仕込み、脱酸素後、モノマーを仕込み、所定の温度にし、重合開始剤を添加して、反応を開始することができる。反応の進行とともに圧力が低下するので、初期圧力を維持するように、追加のモノマーを連続的又は間欠的に追加供給する。所定量のモノマーを供給した時点で、供給を停止し、反応容器内のモノマーをパージし、温度を室温に戻して反応を終了する。乳化重合する場合、ポリマーラテックスを連続的に反応容器より取り出すことが好ましい。
【0091】
特に、熱可塑性エラストマーを製造する場合、国際公開第00/01741号パンフレットに開示されているように、一旦上述の組成物を高濃度に存在させてフルオロポリマー微粒子を合成してから希釈して更に重合を行うことで、通常の重合に比べて、最終的な重合速度を速くできる方法を使用することも可能である。
【0092】
上記エラストマー性重合体の重合は、目的とするポリマーの物性、重合速度制御の観点から適宜条件を選択するが、例えば、重合温度は通常−20〜200℃、好ましくは5〜150℃、重合圧力は通常0.5〜10MPaG、好ましくは1〜7MPaGにて行うことができる。また、重合媒体中のpHは、公知の方法等により、後述するpH調整剤等を用いて、通常2.5〜9に維持することが好ましい。
【0093】
上記エラストマー性重合体の重合に用いるモノマーとしては、フッ化ビニリデンの他に、炭素原子と少なくとも同数のフッ素原子を有しフッ化ビニリデンと共重合し得る含フッ素エチレン性不飽和モノマーが挙げられる。
【0094】
上記含フッ素エチレン性不飽和モノマーとしては、トリフルオロプロペン、ペンタフルオロプロペン、へキサフルオロブテン、オクタフルオロブテンが挙げられる。なかでも、へキサフルオロプロペンは、それが重合体の結晶成長を遮断した場合に得られるエラストマーの特性のために特に好適である。上記含フッ素エチレン性不飽和モノマーとしては、また、トリフルオロエチレン、TFE及びCTFE等が挙げられるし、1種若しくは2種以上の塩素及び/又は臭素置換基をもったフルオロモノマーを用いることもできる。PAVE、例えばパーフルオロ(メチルビニルエーテル)も用いることができる。TFE及びHFPは、エラストマー性重合体を製造するのに好ましい。
【0095】
エラストマー性重合体の好ましいモノマー組成(質量%)は、フッ化ビニリデン:HFP:TFE=(20〜70):(30〜48):(0〜32)である。この組成のエラストマー性重合体は、良好なエラストマー特性、耐薬品性、及び、熱的安定性を示す。
【0096】
上記エラストマー性重合体の重合において、重合開始剤としては、公知の無機ラジカル重合開始剤を使用することができる。上記無機ラジカル重合開始剤としては、従来公知の水溶性無機過酸化物、例えば、ナトリウム、カリウム及びアンモニウムの過硫酸塩、過リン酸塩、過硼酸塩、過炭素塩又は過マンガン酸塩が特に有用である。上記ラジカル重合開始剤は、更に、還元剤、例えば、ナトリウム、カリウム又はアンモニウムの亜硫酸塩、重亜硫酸塩、メタ重亜硫酸塩、ハイポ亜硫酸塩、チオ硫酸塩、亜リン酸塩若しくはハイポ亜リン酸塩により、又は、容易に酸化される金属化合物、例えば第一鉄塩、第一銅塩若しくは銀塩により、更に活性化することができる。好適な無機ラジカル重合開始剤は、過硫酸アンモニウムであり、過硫酸アンモニウムと重亜硫酸ナトリウムと共にレドックス系において使用することが、より好ましい。
【0097】
上記重合開始剤の添加濃度は、目的とするポリマーの分子量や、重合反応速度によって適宜決定されるが、モノマー全量の0.0001〜10質量%、好ましくは0.01〜5質量%の量に設定する。
【0098】
上記エラストマー性重合体の重合において、連鎖移動剤としては、公知のものを使用することができるが、PVDFの重合では、炭化水素、エステル、エーテル、アルコール、ケトン、塩素化合物、カーボネート等を用いることができ、熱可塑性エラストマーでは、炭化水素、エステル、エーテル、アルコール、塩素化合物、ヨウ素化合物等を用いることができる。なかでも、PVDFの重合では、アセトン、イソプロピルアルコールが好ましく、熱可塑性エラストマーの重合では、イソペンタン、マロン酸ジエチル及び酢酸エチルは、反応速度が低下しにくいという観点から好ましく、I(CFI、I(CFI、ICHI等のジヨウ素化合物は、ポリマー末端のヨウ素化が可能で、反応性ポリマーとして使用できる観点から好ましい。
【0099】
上記連鎖移動剤の使用量は、供給されるモノマー全量に対して、通常0.5×10−3〜5×10−3モル%、好ましくは1.0×10−3〜3.5×10−3モル%である。
【0100】
上記エラストマー性重合体の重合において、PVDFの重合では、乳化安定剤としてパラフィンワックス等を好ましく用いることができ、熱可塑性エラストマーの重合では、pH調整剤として、リン酸塩、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等を好ましく用いることができる。
【0101】
本発明の製造方法によって得られるエラストマー性重合体は、重合が終了した時点で、一般に、固形分濃度が10〜40質量%、平均粒子径が0.03〜1μm、好ましくは0.05〜0.5μm、数平均分子量が1,000〜2,000,000のものである。
【0102】
本発明の製造方法によって得られるエラストマー性重合体は、必要に応じて、炭化水素系界面活性剤等の分散安定剤の添加、濃縮等をすることにより、ゴム成形加工に適した水性分散液にすることができる。上記水性分散液は、pH調節、凝固、加熱等を行い処理される。各処理は次のように行われる。
【0103】
上記pH調節は、硝酸、硫酸、塩酸若しくはリン酸等の鉱酸、及び/又は、炭素数5以下でpK=4.2以下のカルボン酸等を加え、pHを2以下とすることからなる。
【0104】
上記凝固は、アルカリ土類金属塩を添加することにより行われる。上記アルカリ土類金属塩としては、カルシウム又はマグネシウムの硝酸塩、塩素酸塩及び酢酸塩が挙げられる。
上記pH調節及び上記凝固は、いずれを先に行ってもよいが、先にpH調節を行うことが好ましい。
【0105】
各操作の後、エラストマーと同容量の水で洗浄を行い、エラストマー内に存在する少量の緩衝液や塩等の不純物を除去し、乾燥を行う。乾燥は、通常、乾燥炉内で、高温下、空気を循環させながら、約70〜200℃で行われる。
【0106】
上記フルオロモノマーとしては、テトラフルオロエチレン、又は、テトラフルオロエチレン及び変性モノマーであることが好ましく、フルオロポリマーとしては、非溶融加工性のTFE重合体であることが好ましい。
【0107】
上述の製造方法により得られることを特徴とするフルオロポリマー水性分散液も本発明の一つである。
【0108】
本発明のフルオロポリマー水性分散液は、平均一次粒子径50〜500nmのフルオロポリマー粒子が、上述の組成物の存在下で水中に分散しているものである。
【0109】
本発明のフルオロポリマー水性分散液は、フルオロポリマー粒子の濃度が5〜70質量%であることが好ましく、30〜70質量%であることがより好ましい。
【0110】
本発明の水性分散液は、通常、水性媒体を含む。水性媒体としては、上述したものが挙げられる。本発明の水性分散液は、含フッ素界面活性剤の含有量が水性媒体の質量に対し0.0001〜2質量%の量であることが好ましい。上記化合物の含有量は、より好ましい下限が0.001質量%であり、より好ましい上限が0.5質量%である。
【0111】
本発明のフルオロポリマーの水性分散液を、ノニオン界面活性剤の存在下に陰イオン交換樹脂と接触させる工程(I)と、工程(I)で得られた水性分散液を、水性分散体中の固形分濃度が水性分散体100質量%に対して30〜70質量%となるように濃縮する工程(II)とを含む製造方法により、含フッ素界面活性剤を含まず、濃縮されたフルオロポリマー水性分散液を得ることもできる。上記陰イオン交換樹脂と接触させる工程は、従来公知の方法で行うことができる。また、上記濃縮方法としては、上述のものが挙げられる。本発明の製造方法は、上記工程(I)の後、陰イオン交換樹脂を分離してフルオロポリマーの水性分散体を回収する工程を含むことが好ましい。
【0112】
本発明のフルオロポリマー水性分散液から得られることを特徴とするフルオロポリマーのファインパウダーも本発明の一つである。本発明のフルオロポリマーのファインパウダーは、上述のフルオロポリマー水性分散液からフルオロポリマーを凝析し、更に必要に応じて乾燥することにより得ることができる。
【0113】
上記凝析は、従来公知の方法により行うことができる。上記凝析の条件は、従来公知の方法に基づき、フルオロポリマーの組成や量に応じて適宜選択することができる。
【0114】
このような凝析方法として、例えば、フルオロポリマー水性分散液を10〜20質量%のポリマー濃度になるように水を用いて希釈し、場合によっては、pHを中性又はアルカリ性に調整した後、撹拌機付きの容器中で反応中の撹拌よりも激しく撹拌して行う方法が挙げられる。
【0115】
上記凝析は、メタノール、アセトン等の水溶性有機化合物、硝酸カリウム、炭酸アンモニウム等の無機塩や、塩酸、硫酸、硝酸等の無機酸等を凝析剤として添加しながら撹拌を行ってもよい。上記凝析は、また、インラインミキサー等を使用して連続的に行ってもよい。
【0116】
上記凝析前や凝析中に、着色のための顔料や機械的性質を改良するための各種充填剤を添加すれば、顔料や充填剤が均一に混合した顔料入り又は充填剤入りのファインパウダーを得ることができる。
【0117】
上記乾燥は、得られた湿潤粉末をあまり流動させない状態、好ましくは静置の状態を保ちながら、真空、高周波、熱風等の手段を用いて行う。上記乾燥は、10〜250℃、好ましくは100〜200℃の乾燥温度で行う。
【0118】
粉末同士の、特に高温での摩擦は、一般にファインパウダー型のTFE重合体に好ましくない影響を与える。これは、この種のTFE重合体からなる粒子が小さな剪断力によっても簡単にフィブリル化して、元の安定な粒子構造の状態を失う性質を持っているからである。
【0119】
本発明のファインパウダーは、平均粒子径が300〜700μmであることが好ましい。上記平均粒子径は、ASTM D−1457に準拠して測定したものである。
【0120】
上記ファインパウダーは、見掛け密度が0.35〜0.65g/mlであることが好ましい。上記見掛け密度は、JIS K−6891に準拠して測定したものである。
【0121】
上記ファインパウダーを製造する工程において生じる排水及び/又はガスから含フッ素界面活性剤を回収する工程と、回収した含フッ素界面活性剤を精製する工程とを含む回収方法によって、含フッ素界面活性剤を回収することもできる。上記回収及び精製は、従来公知の方法で行うことができる。
【0122】
本発明の製造方法から得られたフルオロポリマーの用途としては特に限定されず、水性分散液として使用する場合、基材上に塗布し乾燥した後必要に応じて焼成することよりなる塗装;不織布、樹脂成形品等の多孔性支持体を含浸させ乾燥した後、好ましくは焼成することよりなる含浸;ガラス等の基材上に塗布し乾燥した後、必要に応じて水中に浸漬し、基材を剥離して薄膜を得ることよりなるキャスト製膜等が挙げられ、これら適用例としては、水性分散型塗料、電極用結着剤、電極用撥水剤等が挙げられる。
【0123】
上記フルオロポリマーは、水性分散液の形態で、公知の顔料、増粘剤、分散剤、消泡剤、凍結防止剤、成膜助剤等の配合剤を配合することにより、又は、更に他の高分子化合物を複合して、コーティング用水性塗料として用いることができる。
【0124】
上記フルオロポリマーは、ファインパウダーである場合、成形用として好ましい。このようなファインパウダーの好適な用途としては、航空機及び自動車等の油圧系、燃料系のチューブ等が挙げられ、薬液、蒸気等のフレキシブルホース、電線被覆用途等が挙げられる。
【実施例】
【0125】
次に本発明を実施例に基づいて説明するが、本発明はかかる実施例のみに限定されるものではない。
【0126】
実施例の各数値は以下の方法により測定した。
【0127】
(ポリマー濃度)
水性分散液1gを、送風乾燥機中で300℃、30分の条件で乾燥し、水性分散液の質量(1g)に対する、加熱残分の質量の割合を百分率で表した。
【0128】
(ポリマー凝集量)
重合反応終了後に、水性分散液を200メッシュのSUS網でろ過した後、SUS網上に残った水性分散液凝集物、反応槽に残ったポリマー凝集物、及び、攪拌翼やバッフルに付着したポリマー凝集物を回収し、送風乾燥機中で300℃、1時間乾燥した後、重量を測定し、ポリマー凝集量とした。乳化剤の粒子安定化効果が高ければ、ポリマー濃度が高い領域でもポリマー凝集量が少なくなる。
【0129】
(平均一次粒子径)
固形分濃度を約0.02質量%に希釈し、単位長さに対する550nmの投射光の透過率と電子顕微鏡写真により決定された平均一次粒子径との検量線をもとにして、上記透過率から間接的に求めた。
【0130】
(標準比重〔SSG〕)
ASTM D−1457−69に従い測定した。
【0131】
実施例1
パーフルオロヘキサン酸アンモニウム塩の5%水溶液100gに、粉末状のペルフルオロヘキサデカンを0.005g(50ppm)加え、室温25℃にてスターラーで攪拌した。得られた水溶液は、透明均一な外観であった。
【0132】
実施例2
パーフルオロヘキサン酸アンモニウム塩の5%水溶液100gに、粉末状のペルフルオロドデカンを0.005g(50ppm)加え、室温25℃にてスターラーで攪拌した。得られた水溶液は、透明均一な外観であった。
【0133】
実施例3
パーフルオロヘキサン酸アンモニウム塩の50%水溶液100gに、粉末状のペルフルオロヘキサデカンを0.01g(100ppm)加え、室温25℃にてスターラーで攪拌した。得られた水溶液は、透明均一な外観であった。
【0134】
実施例4
パーフルオロヘキサン酸99gに、粉末状のペルフルオロヘキサデカンを1g加え、スターラーで攪拌した。均一な溶液が得られた。さらに、この混合物0.5gに水を加え、さらに0.1Nアンモニア水でpHを7に調整しながら全量を100gとしたところ、透明均一な外観の水溶液が得られた。
この水溶液の25℃における表面張力を、協和界面科学社製表面張力計を使用してWilmhelmy法(白金プレート法)によって測定したところ、36mN/mであった。比較として、パーフルオロヘキサン酸アンモニウム塩の0.5%水溶液の表面張力は、49mN/mであり、ペルフルオロヘキサデカンを含有する水溶液では、表面張力が低下しているのが解る。
【0135】
実施例5
(1)水性分散液の調製
内容積1Lの攪拌翼を備えたガラス製耐圧容器に、脱イオン水500mLにパーフルオロヘキサン酸アンモニウム塩2.25g及びパーフルオロヘキサデカン0.5mgを溶解した水溶液を入れ、パラフィンワックス(融点60℃)を15g、窒素圧入、脱圧を3回繰り返し、耐圧容器内の酸素を除去した後、更にテトラフルオロエチレン〔TFE〕モノマーで容器内を置換した。
次に70℃において、内圧が0.8MPaになるようにTFEモノマーを圧入し、更に0.05質量%の過硫酸アンモニウム〔APS〕水溶液5gを仕込み、反応を開始した。反応の進行に伴い、系内の圧力が低下するので、連続的にTFEを追加して、内圧を0.8MPaに維持した。
反応中の容器内を目視で観察し、4時間後に攪拌翼に付着が発生したため攪拌を停止し、TFEモノマーを脱圧して、反応を停止し、PTFE水性分散液を得た。
得られたPTFE水性分散液のポリマー濃度は21質量%、ポリマー凝集量は1.5gであり、平均一次粒子径は320nmであった。
【0136】
(2)PTFEファインパウダーの調製
得られた水性分散液をポリマー濃度が10%となるように、脱イオン水で希釈した後、20℃で攪拌することにより凝析を行った。得られた凝析粒子を回収し、10倍量の水で2回洗浄を行い、更に160℃で16時間乾燥してPTFEファインパウダーを得た。
得られたPTFEファインパウダーのSSGは2.158であった。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素数が10〜20の全フッ素化飽和炭化水素、及び、含フッ素界面活性剤を含むことを特徴とする組成物。
【請求項2】
全フッ素化飽和炭化水素は、炭素数が12〜20である請求項1記載の組成物。
【請求項3】
含フッ素界面活性剤は、炭素数が4〜7である請求項1又は2記載の組成物。
【請求項4】
更に、水を含む請求項1、2又は3記載の組成物。
【請求項5】
含フッ素界面活性剤が組成物の98〜0.001質量%である請求項1、2、3又は4記載の組成物。
【請求項6】
全フッ素化飽和炭化水素と含フッ素界面活性剤との質量比が100:100〜100:0.01である請求項1、2、3、4又は5記載の組成物。
【請求項7】
請求項1、2、3、4、5又は6記載の組成物の製造方法であって、
全フッ素化飽和炭化水素を、含フッ素界面活性剤に溶解させることにより組成物を得ることを特徴とする製造方法。
【請求項8】
請求項1、2、3、4、5又は6記載の組成物の存在下に、フルオロモノマーを重合してフルオロポリマーの粒子を含む水性分散液を得る工程を含むことを特徴とするフルオロポリマー水性分散液の製造方法。
【請求項9】
請求項8記載の製造方法により得られることを特徴とするフルオロポリマー水性分散液。
【請求項10】
請求項9記載のフルオロポリマー水性分散液から得られることを特徴とするフルオロポリマーのファインパウダー。

【公開番号】特開2013−60591(P2013−60591A)
【公開日】平成25年4月4日(2013.4.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−187013(P2012−187013)
【出願日】平成24年8月27日(2012.8.27)
【出願人】(000002853)ダイキン工業株式会社 (7,604)
【Fターム(参考)】