説明

全反射顕微鏡

【課題】単一の光ファイバーを用いて多波長のレーザ光を照明光とした場合の照明光学系の色収差による全反射照明ずれを補正可能な全反射蛍光観察を提供すること。
【解決手段】対物レンズ23を介して標本41に全反射照明を行う全反射顕微鏡1であって、異なる波長の複数の光源11、12からの照明光を導く導光光学系5と、前記導光光学系5から射出した前記照明光を、前記対物レンズ23の瞳面25の全反射照明範囲に集光させる照明光学系7と、前記照明光学系7の色収差による前記全反射照明範囲からの集光ずれを補正する補正手段43、45とを有する全反射顕微鏡1。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の波長の光を照明光として用いる全反射顕微鏡に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、バイオ分野において蛍光観察や蛍光解析に全反射顕微鏡が多く用いられるようになっている。さらに、多波長の励起光を用いた全反射蛍光観察も行われるようになり、これに対応した全反射顕微鏡が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2001−272606号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、従来の多波長を用いる全反射顕微鏡において、単一の光ファイバーに複数の波長のレーザ光を導入して照明光学系に導いた場合、照明光学系が有する色収差のために一部の波長のレーザ光が全反射可能な範囲から逸脱してしまい、全反射照明観察が行えなくなるという問題がある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記課題を解決するため、本発明は、対物レンズを介して標本に全反射照明を行う全反射顕微鏡であって、異なる波長の複数の光源からの照明光を導く導光光学系と、前記導光光学系から射出した前記照明光を、前記対物レンズの瞳面の全反射照明範囲に集光させる照明光学系と、前記照明光学系の色収差による前記前記全反射照明範囲からの集光ずれを補正する補正手段と、を有することを特徴とする全反射顕微鏡を提供する。
【発明の効果】
【0005】
本発明によれば、単一の光ファイバーを用いて多波長のレーザ光を照明光とした場合の照明光学系の色収差による照明光の集光ずれを補正可能な全反射蛍光観察を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
以下、本発明の実施の形態にかかる全反射顕微鏡に関し図面を参照しつつ説明する。
【0007】
図1は、実施の形態にかかる全反射顕微鏡の概略構成図を示す。図2は、対物レンズの瞳面における全反射照明範囲と複数の光源スポットの例を示す。
【0008】
図1、図2において、全反射顕微鏡1は、光源3と、光ファイバー5と、照明光学系7と、結像光学系9とから構成されている。
【0009】
光源3は、波長の異なる複数のレーザ光源11、12と光ファイバー5の入射端面5aにレーザ光を集光するためのレンズ13、14及びミラー15、16からなる光学系から構成されている。
【0010】
光ファイバー5の入射端面5aに集光された複数の波長のレーザ光は、光ファイバー5の射出端面5bから出射され照明光学系7に導入される。なお、光ファイバー5は、各波長で共用し小さな光源像と均一照明を得るため単一シングルファイバーを用いることが好ましい。
【0011】
照明光学系7は、光ファイバー5の射出端面5bを焦点位置とするレンズL1で略平行な光にされレンズL2を介してダイクロイックミラー21に入射し、ダイクロイックミラー21で選択された光が対物レンズ23方向に反射される。また、ダイクロイックミラー21は、照明光の各波長に対応するダイクロイックミラー21を光軸に挿脱あるいは交換可能に構成されている。
【0012】
レンズL2は、略平行にされた光を対物レンズ23の瞳面25上に集光する作用を有する。このレンズL2は、レンズL2を光軸方向に沿って移動させる移動手段43を有し、瞳面25に集光する光の合焦位置を光軸方向に移動することが可能である。
【0013】
ダイクロイックミラー21は、ダイクロイックミラー21を光軸と照明光の中心位置とを結ぶ軸に対して遥動させる遥動手段45有し、瞳面25上での照明光の中心位置を半径方向に交差する方向に移動することが可能である。
【0014】
上記移動手段43、および遥動手段45は、顕微鏡の制御装置46により駆動の制御が行われる。なお、制御装置46は、前もって測定された照明光学系7の各波長に対する色収差情報と移動手段43の移動量と方向、遥動手段45の遥動量をテーブルに記憶しておき、選択された照明光の各波長に対応してテーブルを参照し移動手段43、遥動手段45を駆動するように構成することも可能である。このように構成することで、照明光の各波長に対応した最適な全反射照明状態を達成することができる。
【0015】
光ファイバー5の射出端面5bは、対物レンズ23の瞳面25上の全反射照明範囲31内に光が集光される位置に光軸に垂直な面内で移動調整後固定されている。
【0016】
対物レンズ23から射出した光は、標本41にカバーガラス42側から全反射角度で入射し、カバーガラス42と標本41との界面でエバネッセント波を発生し、このエバネッセント波で励起された蛍光が標本41から発生する。なお、蛍光は励起光に対し全方向に発光するため、励起光の入射角を同じにすれば方位角によらず同じ条件の照明を達成することができる。
【0017】
標本41で発生した蛍光は、対物レンズ23で集光され、ダイクロイックミラー21を透過して結像レンズ26を介して不図示の光検出器で検出され、不図示の画像処理部で画像処理を施され不図示のモニタに表示される。このようにして、光源3からのレーザ光で励起された蛍光が観察可能な全反射顕微鏡1が構成されている。
【0018】
全反射顕微鏡1では高い解像度を得るために高NAの対物レンズ23が使用されている。例えば、NA1.40以上で倍率100程度の対物レンズ23が使用される。このような対物レンズ23の瞳面25において、全反射照明範囲31を見積もると、例えば倍率100倍(NA=1.45、f=2mm)の場合、瞳面25における全反射照明範囲31は、約0.14mmの幅となり狭い輪帯領域となる(図2参照)。標本41に対して全反射照明を行うためには、この狭い輪帯状の全反射照明範囲31内にレーザ光を集光させる必要がある。
【0019】
一方、照明光学系7には、色収差が存在し多波長光を照明光として使用する場合に、一部の波長の光が全反射照明範囲31からずれて集光される。例えば、対物レンズ23で、基準波長λ1の光の縦方向色収差(光軸に沿った方向でピントずれとなる)がほぼゼロで、波長λ2の光の縦方向色収差が光軸方向に1mm存在する場合、f=2mm、実視野0.25mmφの倍率100倍の対物レンズ23の場合、瞳面25位置では半径約0.06mmのボケが生じ、上記の輪帯幅0.14mmに対して無視できない量となる。
【0020】
また、照明光学系7は、横方向色収差(瞳面25で半径方向のずれとなる)を有し、これは基準波長λ1の光の集光中心に対して波長λ2の光の集光中心が半径方向にずれてしまう。図2は、上記集光状態を破線の円λ1、λ2で示している。
【0021】
このように、縦方向色収差と横方向色収差のために、波長λ2の光は全反射照明範囲31から一部が非全反射照明範囲32にはみ出てしまい、結果として多波長の全反射照明観察を不可能にしてしまう。
【0022】
本実施の形態にかかる全反射顕微鏡1では、瞳面25上における、縦方向色収差による焦点ボケを補正するためのレンズL2の移動手段43と、横方向色収差による集光中心のずれを補正するためのダイクロイックミラー21の遥動手段45が配置されている。
【0023】
縦方向色収差による焦点ボケは、図2の破線に示すように基準波長λ1の集光サイズに比べ波長λ2の集光サイズが大きくなり、一部が全反射照明範囲31から非全反射照明範囲32にはみ出してしまう。この際、波長λ2の光の集光サイズを小さくする方向(波長λ2の光が合焦する方向)にレンズL1を移動手段43で光軸に沿って移動させ、集光サイズが全反射照明範囲31内に全て入るようにする。このとき基準波長λ1の光は僅かに焦点ボケ状態となり集光サイズは僅かに大きくなるが、全反射照明範囲31から非全反射照明範囲32に一部がはみ出すことがない状態にする。
【0024】
さらに、横方向色収差による半径方向の集光中心のずれを補正するために、ダイクロイックミラー21を遥動手段45により遥動する。この遥動により、集光中心は、図2の破線に示す位置から実線で示す位置に、光軸と集光中心とを結ぶ半径方向に対してほぼ直交する周方向に集光中心を移動する。なお、図2において全反射照明範囲31のLとL1の長さを比較すると、それぞれの位置の動径のなす角度がθの場合、L1=L/sinθとなり、L1の方が僅かながら長くなるため、照明光の集光位置に対して余裕を持たせることができるという利点がある。
【0025】
この結果、照明光の集光位置は、図2の破線λ1、λ2で示す位置から実線λ1、λ2で示す位置に移動され、全反射照明範囲31に余裕を持って波長λ1、λ2の照明光を位置付けすることが可能になる。
【0026】
以上述べたように、本実施の形態にかかる全反射顕微鏡1は、全反射顕微鏡1の照明光学系7に存在する各波長に対する色収差を良好に補正し、各波長の集光位置を全反射照明範囲31内に正確に位置付けすることができ、多波長の照明光を用いた全反射照明観察が可能になる。
【0027】
なお、上記実施の形態の説明では、縦方向色収差と横方向色収差の両方の色収差の補正を行った場合について説明したが、どちらか一方の色収差補正で照明光の状態を補正できる場合は、一方の補正のみを行うことで上記効果を奏することは言うまでもない。また、上記説明では、波長を二波長(λ1、λ2)の場合について説明したが、三波長以上の場合にも適用できることは言うまでもない。
【0028】
なお、上述の実施の形態は例に過ぎず、上述の構成や形状に限定されるものではなく、本発明の範囲内において適宜修正、変更が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】実施の形態にかかる全反射顕微鏡の概略構成図を示す。
【図2】対物レンズの瞳面における全反射照明範囲と複数の光源スポットの例を示す。
【符号の説明】
【0030】
1 全反射顕微鏡
3 光源
5 光ファイバー
7 照明光学系
9 結像光学系
11、12 レーザ光源
21 ダイクロイックミラー
23 対物レンズ
25 対物レンズの瞳面
43 移動手段
45 遥動手段
L1 レンズ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
対物レンズを介して標本に全反射照明を行う全反射顕微鏡であって、
異なる波長の複数の光源からの照明光を導く導光光学系と、
前記導光光学系から射出した前記照明光を、前記対物レンズの瞳面の全反射照明範囲に集光させる照明光学系と、
前記照明光学系の色収差による前記全反射照明範囲からの集光ずれを補正する補正手段と、
を有することを特徴とする全反射顕微鏡。
【請求項2】
前記補正手段は、前記照明光学系に配置された少なくとも一つのレンズを当該照明光学系の光軸に沿って移動させる移動手段を有することを特徴とする請求項1に記載の全反射顕微鏡。
【請求項3】
前記補正手段は、前記照明光学系に配置されたダイクロイックミラーを、前記ダイクロイックミラーのミラー面における当該照明光学系の光軸と前記照明光の中心位置を結ぶ軸を中心軸として遥動させる遥動手段を有することを特徴とする請求項1に記載の全反射顕微鏡。
【請求項4】
前記導光光学系は光ファイバーからなり、
前記光源はレーザ光源を含むことを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の全反射顕微鏡。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−185636(P2008−185636A)
【公開日】平成20年8月14日(2008.8.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−16798(P2007−16798)
【出願日】平成19年1月26日(2007.1.26)
【出願人】(000004112)株式会社ニコン (12,601)
【Fターム(参考)】