説明

全固体電池

【課題】電極体が積層方向に加圧される全固体電池において、電極体に作用する積層方向の加圧力の低下を抑制する。
【解決手段】板状壁により形成された外装部材70と、外装部材内に収納された電極体80とを備え、外装部材を変形させて電極体が積層方向に加圧される全固体電池において、外装部材内が負圧とされている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体電解質を備えた全固体電池に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池は、他の二次電池に比較して、エネルギー密度が高く、高電圧での動作が可能である。それにより、小型軽量化が可能であり、携帯電話等の情報機器に使用されるだけでなく、ハイブリッド自動車又は電気自動車のバッテリとして使用されることが提案されている。
【0003】
リチウムイオン二次電池は、正極と負極と、これらの間の電解質とを具備している。電解質は、液体(好ましくは非水系)又は固体とすることができるが、電解質として使用される液体は一般的に可燃性であり、厳重な液漏れ等の対策が必要となるために、電解質を固体とすることが好ましい。このように、電解質として正極と負極とに間に固体電解質が配置された電池が全固体電池と称されている。
【0004】
正極及び負極は集電体と活物質層とを具備しており、全固体電池においては、固体電解質と各活物質層との界面が固固界面となり、電解質が液体である場合の固液界面に比較してイオン伝導抵抗(以下、界面抵抗)が増大し易い。また、活物質層はリチウムイオンを吸蔵及び放出する際に膨張又は収縮することがあり、何もしなければ、活物質層の収縮時に固体電解質との間の界面抵抗が増大してしまう。
【0005】
このような固体電解質と正極及び負極の活物質層との間の界面抵抗を低く維持するために、正極、固体電解質、及び負極の積層構造の電極体を積層方向に加圧することが望ましい。例えば、電極体を収納する外装部材の外側に外装部材を厚さ方向に押圧する押圧機構を配置し、押圧機構により発生させた押圧力によって外装部材を変形させて電極体を積層方向に加圧することが提案されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2010−113966
【特許文献2】特開2008−140633
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
電池の外装部材は、内部の電極体を保護しなければならず、適度な剛性が必要である。それにより、外装部材の各壁のそれぞれは、適度な剛性を有する板状とされている。それにより、ラミネートフィルムのように電極体に密着させることはできず、外装部材の内側には電極体だけでなく空気等の気体が存在することとなる。
【0008】
このような外装部材内の気体が熱膨張すると、外装部材の外側に作用する押圧力によって電極体に作用する加圧力が低下して、固体電解質と正極及び負極の活物質層との間の界面抵抗を低く維持することが困難となる。
【0009】
従って、本発明の目的は、板状壁により形成された外装部材と、外装部材内に収納された電極体とを備え、外装部材を変形させて電極体が積層方向に加圧される全固体電池において、電極体に作用する積層方向の加圧力の低下を抑制することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明による請求項1に記載の全固体電池は、板状壁により形成された外装部材と、前記外装部材内に収納された電極体とを備え、前記外装部材を変形させて前記電極体が積層方向に加圧される全固体電池において、前記外装部材内が負圧とされていることを特徴とする。
【0011】
本発明による請求項2に記載の全固体電池は、請求項1に記載の全固体電池において、前記外装部材内は0.1MPa未満の負圧とされていることを特徴とする。
【0012】
本発明による請求項3に記載の全固体電池は、請求項1に記載の全固体電池において、前記外装部材内は100Pa以下の負圧とされていることを特徴とする。
【0013】
本発明による請求項4に記載の全固体電池は、請求項1から3のいずれか一項に記載の全固体電池において、前記外装部材は金属製容器であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明による請求項1に記載の全固体電池によれば、電極体を収納する外装部材内が負圧とされているために、外装部材内が負圧とされていない場合に比較して、外装部材内の気体が熱膨張しても、外装部材を変形させて電極体を積層方向に加圧する加圧力を大きく低下させることはなく、電極体に作用する積層方向の加圧力の低下を抑制することができる。
【0015】
本発明による請求項2に記載の全固体電池によれば、請求項1に記載の全固体電池において、外装部材内は0.1MPa未満の負圧とされているために、外装部材内の気体が熱膨張しても、電極体に作用する積層方向の加圧力の低下を抑制することができる。
【0016】
本発明による請求項3に記載の全固体電池によれば、請求項1に記載の全固体電池において、外装部材内は100Pa以下の負圧とされているために、外装部材内の気体が熱膨張しても、電極体に作用する積層方向の加圧力の低下を十分に抑制することができる。
【0017】
本発明による請求項4に記載の全固体電池によれば、請求項1から3のいずれか一項に記載の全固体電池において、外装部材は金属製容器であるために、外装部材内を負圧に維持し易い。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明による全固体電池が複数連結された組電池を示す斜視図である。
【図2】本発明による全固体電池を厚さ方向に切断したときの部分縦断面図である。
【図3】捲回により積層された電極体が外装部材に収納されている全固体電池を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
図1は本発明による全固体電池が複数(図1では4つ)連結された組電池200を示している。同図において、四つの全固体電池100は厚さ方向D1に連結され、全ての全固体電池100を直列接続するために、各全固体電池100の正極端子76及び負極端子78は、隣接する全固体電池100の負極端子78及び正極端子76に隣接するように配置されている。
【0020】
このように配置された四つの全固体電池100において、外側二つの全固体電池100の外側には、一対の拘束板60A及び60Bが配置される。各拘束板60A及び60Bは、全固体電池100の横幅(厚さ方向D1に垂直な正極端子76及び負極端子78の配置方向である幅方向D2の長さ)より長い横幅を有し、全固体電池100から横方向に突出する突出部分を有している。二つの拘束板60A及び60Bの互いに対向する突出部分には、それぞれ、締付け用のビーム材62が取り付けられ、各ビーム材62を二つの拘束板60A及び60Bの突出部にビス66により締め付けることにより、各全固体電池100のそれぞれは、厚さ方向に押圧される。ビーム材62及びビス66は、スタッドボルト及びナットとすることも可能である。拘束板60A及び60Bと、ビーム材62と、ビス66とは、全固体電池100の外装部材を厚さ方向に押圧する押圧機構として機能する。
【0021】
図2は、全固体電池100を厚さ方向に切断したときの部分縦断面図である。同図において、70は全固体電池100の外装部材である。図2において、外装部材70は、幅方向D2及び高さ方向D3に延在する側壁として図示されている。本実施形態の全固体電池は、例えば、リチウムイオン電池である。
【0022】
同図において、10は正極であり、20は負極である。正極10は、正極端子76に電気的に接続される板状の正極集電子12を有し、正極集電子12の負極20側には、正極活物質を含む正極活物質層14が形成されている。正極集電子12は、アルミニウム又はニッケル等から形成することができる。また、正極活物質としては、コバルト酸リチウム等を使用することができる。
【0023】
一方、20は負極であり、負極端子78に電気的に接続される板状の負極集電子22を有し、負極集電子22の正極10側には、負極活物質を含む負極活物質層24が形成されている。負極集電子22は、銅又はニッケル等から形成することができる。また、負極活物質としては、黒鉛のような炭素材料等を使用することができる。
【0024】
正極10と負極20との間には、固体電解質層40が配置されており、固体電解質としては、Li7311等を使用することができる。30は、正極活物質と負極活物質との接触に伴う短絡等を防止するために、固体電解質層40内に配置されたセパレータであり、ポリテトラフルオロエチレン又はポリプロピレン等の樹脂製の多孔質膜や、セラミック製の多孔質膜等とすることができる。固体電解質層40が十分な絶縁性を有する場合には、セパレータを省略することも可能である。
【0025】
こうして、少なくとも、正極10と固体電解質層40と負極20とを積層して形成される電極体80において、放電時には、リチウム分子が負極集電子22に電子を渡してイオン化して、負極活物質層24からリチウムイオンとなって放出され、固体電解質層40を通って正極活物質層14へ到達し、リチウム化合物となって吸蔵され、また、充電時には、正極活物質層14内のリチウム化合物が分離されてリチウムイオンとして放出され、固体電解質層40を通って負極活物質層24へ到達し、リチウム分子として吸蔵される。
【0026】
このように、正極活物質層14と固体電解質層40との間のリチウムイオンの吸放出及び負極活物質層24と固体電解質層40との間のリチウムイオンの吸放出の際のイオン伝導抵抗(界面抵抗)を十分に小さくするには、電極体80を積層方向に加圧することが必要である。また、このような加圧により、リチウムイオンが放出されるときの正極活物質層14及び負極活物質層24の収縮に際して、固体電解質層40との間の界面抵抗の増加を抑制することができる。
【0027】
前述の押圧機構は、電極体80を収納する外装部材70の外側に位置して、外装部材70を厚さ方向に押圧し、この押圧力によって外装部材70を変形させて電極体80を積層方向に加圧するものである。電極体80を積層方向に加圧するための外装部材70の変形は、弾性変形とすることが好ましい。
【0028】
図2において、50は、このような外装部材70の変形に際して、外装部材70と正極集電子12との間、及び、外装部材70と負極集電子22との間の直接的な接触を防止するための絶縁部材であり、セパレータ30と同様な樹脂等により形成される。
【0029】
外装部材70は、内部の電極体80を保護しなければならず、適度な剛性が必要である。それにより、外装部材70の各壁のそれぞれは、適度な剛性を有する板状とされている。本実施形態の外装部材70は、図1に示すように、直方体であり、図2に示すように、厚さ方向に互いに対向する側壁を有している。外装部材70の各壁は、アルミニウム等の金属又は硬質プラスチック等を材料とし、溶接、曲げ加工、及び、押し出し成型等を組み合わせて、直方体の外装部材70を形成する。特に、外装部材70は缶構造のような金属製容器とすることが好ましい。
【0030】
こうして、本実施形態の全固体電池の外装部材70は、ラミネートフィルムのように電極体80に密着させることはできず、外装部材70の内側は、図2に示すように、電極体80と外装部材70との間に隙間Sが形成され、何もしなければ、この隙間Sには、空気等の気体が存在することとなる(前述したように、押圧機構により押圧力による外装部材70の変形によって、この部分の隙間Sは部分的に無くなって、外装部材70と絶縁部材50とが接触することにより、電極体80は積層方向に加圧される)。
【0031】
このような外装部材70内の気体が熱膨張すると、外装部材70の外側に作用する押圧力によって電極体80に作用する加圧力を低下させるために、固体電解質40と正極活物質層14及び負極活物質層24との間の界面抵抗を低く維持することが困難となる。
【0032】
そのために、本実施形態の全固体電池の外装部材70は、気密に形成されると共に、真空ポンプにより内部の気体を抜くための一般的な接続部(図示せず)を備えており、接続部に接続された真空ポンプにより外装部材70の内部は負圧とされる。
【0033】
それにより、外装部材70内が負圧とされていない場合に比較して、外装部材70内の気体が熱膨張しても、外装部材70の外側に作用する押圧力により外装部材70を変形させて電極体80を積層方向に加圧する加圧力を大きく低下させることはなく、電極体80に作用する積層方向の加圧力の低下を抑制することができる。
【0034】
外装部材70内の負圧は、0.1MPa未満とされ、特に、100Pa以下とすることが好ましく、それにより、外装部材70内の気体が熱膨張しても、電極体80に作用する積層方向の加圧力の低下を十分に抑制することができる。
【0035】
外装部材70が缶構造のような金属製容器とされていれば、外装部材70内を0.1MPa未満100Paより大きな低真空とするだけでなく、100Pa以下0.1Paより大きな中真空とすることも、0.1Pa以下10-5Paより大きな高真空とすることも可能である。
【0036】
また、固体電解質として硫化物が使用される場合において、過充電等によりH2Sが発生することがあるが、本実施形態のように外装部材70内が負圧とされていれば、外装部材70内の圧力が過剰に高まることを防止することができる。
【0037】
また、外装部材70内が負圧とされていると、外装部材70の厚さ方向の押圧力がそれほど大きくなくても、外装部材70を容易に変形させて電極体80を積層方向に加圧することができる。また、押圧機構を設けなくても、外装部材70内の負圧の程度を大きくすれば、外装部材70の外側に作用する大気圧との圧力差により外装部材70を変形させて電極体80を積層方向に加圧することも可能である。
【0038】
電極体80は、図2に示すように積層して形成されるだけでなく、シート状電極体を捲回により積層して形成することができ、図3は、このような捲回電極体80が、外装部材70内に配置された全固体電池100を示している。この場合にも、外装部材70が押圧機構による押圧力により厚さ方向D1に押圧されると、外装部材70は変形して絶縁部材を介して捲回電極体80に接触し、捲回電極体80が積層方向に加圧される。捲回電極体80の場合には、積層方向は、一方向だけでなく、中心からの全ての放射方向となる。
【0039】
本実施形態において、外装部材の外側に作用する押圧力は、拘束板60A及び60Bと、ビーム材62と、ビス66とにより構成される押圧機構により機械的に発生させるようにしたが、例えば、気体及び液体の圧力を利用して、外装部材70の外側に作用する押圧力を発生させるようにしても良い。
【符号の説明】
【0040】
60A 拘束板
60B 拘束板
62 ビーム材
66 ビス
70 外装部材
80 電極体
100 全固体電池

【特許請求の範囲】
【請求項1】
板状壁により形成された外装部材と、前記外装部材内に収納された電極体とを備え、前記外装部材を変形させて前記電極体が積層方向に加圧される全固体電池において、前記外装部材内が負圧とされていることを特徴とする全固体電池。
【請求項2】
前記外装部材内は0.1MPa未満の負圧とされていることを特徴とする請求項1に記載の全固体電池。
【請求項3】
前記外装部材内は100Pa以下の負圧とされていることを特徴とする請求項1に記載の全固体電池。
【請求項4】
前記外装部材は金属製容器であることを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の全固体電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−62174(P2013−62174A)
【公開日】平成25年4月4日(2013.4.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−200556(P2011−200556)
【出願日】平成23年9月14日(2011.9.14)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】