説明

全圧測定電極付き四重極質量分析計及びこれを用いる真空装置

【課題】 高精度の圧力測定を行い、且つ高精度のガス分析も同時に行える四重極質量分析計を提供すること。また、1台の真空装置に取り付ける圧力計測を四重極質量分析計だけにして、電離真空計を廃止することのできる手段を提供すること。
【解決手段】 本発明は、イオン電流強度から真空装置(9)内のガス種類別の分圧強度を測定する四重極質量分析計(Q)において、グリッド電極(2)とイオン集束電極(4)とで形成する画定空間(A)内に、イオン密度を探査する全圧測定電極(1)を設けた全圧測定電極付き四重極質量分析計である。また、本発明は、イオン電流強度から該真空装置(9)内のガス種類別の分圧強度を測定する四重極質量分析計(Q)だけが取り付けられ、該四重極質量分析計以外の電離真空計を持たない真空装置である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は真空装置内のガス分子の気体分子密度即ち圧力を測定する電離真空計と、同じくガス分子の気体の種類別の分子密度を、質量分析法を用いて調べる四重極型質量分析計に関するものである。
【背景技術】
【0002】
この種の四重極型質量分析計は、別名で残留ガス分析計や分圧計、マスフィルターと称される場合がある。従来の四重極型質量分析計を、図10を用いて説明する。
【0003】
図10において、真空装置9内に残留するガス密度(圧力)を測定する方法としては、通常全体の圧力を計測する全圧計Gと、ガスの種類別強度を測定する分圧計Q’の2つが有って、真空装置9には両方の測定器を備えるのが一般的である。
【0004】
高真空、超高真空、極高真空の全領域に渡って測定できる前者の全圧計としては電離真空計(G)、後者の分圧計としては電子衝撃型イオン源を搭載した四重極型質量分析計(Q‘)が現時点での主流となっている。どちらも電子源には熱陰極型フィラメントを使用するのが一般的である。
【0005】
この電離真空計G(図10ではBeyard-Alpert型電離真空計、以下、「BA型」と称する。)では、グランド電位より20~100ボルト正電位にバイアス33’された熱陰極フィラメント(以下、「フィラメント」と称する。)3’から放出された電子が、フィラメント電位よりさらに120ボルト程度高い電位にバイアス22’されているグリッド電極2‘に向かって加速され、加速後グリッド電極2’を通過し、また通過後の電子は反対側で反射され、電子はグリッド電極2’の内外に振動する。この振動の過程で電子の一部はグリッド電極2‘に衝突し吸収される。この時グリッド電極2’で失われる分の電子をフィラメント3’から常に補給し、一定の電子が常にグリッド電極の内外に振動できるようになっているのが電離真空計Gである。
【0006】
この振動電子は、グリッド電極内に飛び込んできた真空装置9内の残留ガス分子に衝突し、グリッド電極内に正イオンを作る。この正イオンは針状のコレクター電極7’に集められ、グランド電位に置かれた微少電流計8’に流れ込み、強度が測定される。この電流は、残留気体分子密度(圧力)Pに比例し、P に対するイオン電流(信号電流)Iは、
【0007】
I=SIeP ・・・・・・・・・・・・・・・・式 (1)
で表される。S (Pa-1)は感度係数と称される比例常数で、Iはグリッド電極に衝突する電子ビーム電流である。即ち、Iを測定すれば真空装置内の圧力を求めることができる。
【0008】
これに対して四重極質量分析計Q‘の場合は、同じ形式のグリッド電極2と熱陰極フィラメント3の他にイオン集束電極4を組み合わせたイオン源10を用いる。イオン源10は円筒状(BA型)グリッド電極2の一方の端をオープンにし、この該グリッド直径より僅かに大きい中央に孔hの開いた板状のイオン集束電極4が配置され、画定空間Aを形成する。
【0009】
更にイオン集束電極4の外側には、該イオン集束電極の孔hより僅かに小さい孔rの開いた全圧測定用板状電極5‘が配置され、真空端子を介して大気側で微少電流計50に接続されている。即ち、四重極質量分析計Q’では、全圧測定用板状電極5’が電離真空計Gのコレクター電極7’と同じ役目を果たしている。
【0010】
画定空間Aで発生したイオンは、イオン集束電極4側に引きつけられて集束され、全圧測定用板状電極5‘に向かって加速を受け、一部は該全圧測定用板状電極5’に衝突して失われ、残りが該全圧測定用板状電極5に開けられた中央の孔rを通過し、反対側にイオンビームBとなって放出される。従って、この該全圧測定用板状電極5‘に導線51を接続してグランド電位に置いた微少電流計50に繋げば、イオンビームBとなって放出される割合k、(ここでk<1)を差し引いた残り (1-k) のイオン電流から電離真空計Gと同じようにして次式を用いて真空装置9内の圧力を求めることができる。
【0011】
I = (1-k)SIeP ・・・・・・・・・・・・・・・・式 (2)
【0012】
また、割合kでイオンビームBとして取り出されたイオンは、四重極質量分析部6(以下、「四重極」と称する)に入射し、イオンの質量別に分別され、通過後検出部7に入り、微少電流計8で質量別強度が求められる。
【0013】
しかし、四重極6のイオンの通過率は、入射イオン(同一の質量のイオン)の数%程度であるから、分別されたイオン電流強度は非常に小さくなる。圧力が高く、イオン電流が十分に大きい場合は、そのままの電流を微少電流計8で読むことが可能であるが、圧力が低くなってイオン電流の強度が10-10A以下になった場合は、微少電流増幅が困難になる。この場合は、イオンビームB‘を電気信号に変換する検出部7の内部に配置されている2次電子増倍管Eに繋いでイオンビームB’を100~10000倍に電子雪崩現象を用いて真空側で一旦増幅し、増幅後に微少電流計8に導き、質量に応じたイオン電流強度が求められる。
【0014】
従って、四重極質量分析計Q‘だけで、全圧と分圧の両方を測定することが可能であるから、真空装置9内に電離真空計Gと四重極質量分析計Q’の両方を装着する必要は無く、四重極質量分析計Q‘だけで十分その目的を達成出来ることになる。しかし、実際には真空装置9に両方を付けるのが一般的である。その理由を次に現象別に分けて説明する。
(i)図10でイオン源10からのイオンビームBが四重極6に入射され、四重極6に印加される電圧が変化して、目的の質量mに応じたイオンだけが該四重極6を通過し、増倍管Eで増幅され、その質量mに応じた強度が微少電流計8で検出されるのであるが、そのイオン強度は、質量mが大きくなるにしたがて、1/m〜1/√mの割合で減少する欠点が四重極質量分析計にはある。更には増倍管Eの増幅率も質量mが大きくなるにしたがって減少する傾向がある。この2つの質量差別現象により、微少電流計8から得られる各スペクトルの微少電流の総和と、全圧微少電流計50の値は、ガスの組成によって大きく異なり、比例関係にない。
【0015】
更に、検出部7で増倍管Eを使用する場合はベーキングや使用頻度によって増倍率が低下するので、四重極質量分析計Q‘のスペクトルから得られるピーク電流は絶対圧でいくらの圧力相当するのか、全く分からなくなってしまう(圧力変化に伴う各スペクトル間の強度比は同じ)。これを補佐するのが全圧測定板状電極5’を通して得られるイオン電流信号で、全圧測定で絶対圧を読み、その絶対圧のガス成分比を常に補正する必要があり、全圧測定板状電極5’が備え付けられているのが四重極質量分析計Q‘である。
(ii)しかし、四重極質量分析計Q‘の最大の目的は、真空装置内のガス分析をする計測器であり、有効利用できるイオン電流はイオン源で生成されたイオンの割合k(ここでk<1/2程度)であり、四重極6を通過することによりさらに小さくなるので、イオン源10内の画定空間Aで生成されるイオンのイオン通過率kを出来るだけ高くする必要がある。このために従来の四重極質量分析計Q’に搭載されているイオン源10では、イオン集束電極4の電位を最適値に調整する必要がある。そうしたときはイオン透過率kが変化し、式(2)を使って絶対圧が求められなくなる。
【0016】
また、グリッド電極2とイオン集束電極4の画定空間Aに生成されるイオン生成分布密度は、真空装置内の圧力が高くなると、イオンの密度が増して分布が変化し、(1-k)の値も変化し、該全圧測定用板状電極5‘から得られるイオン電流が圧力の比例直線から外れてくる。
(iii)更に、次の様な問題もある。従来の四重極質量分析計Q‘に搭載されているイオン源10ではグリッド電極2、イオン集束電極4、全圧測定用板状電極5’、四重極ケース56の各電極間距離を1mm~2mm程度に狭く組み立てる必要があり、それぞれの電位も大きく異なる。このために実際の四重極質量分析計Q‘では、図11に示したように、セラミックパイプ53にセラミックワッシャー52と電極2,4,5’を交互に積層しながら距離と絶縁の両方を満足させる構造が採られ、各電極に異なるバイアスが印加される。通常、グリッド電極2に220V、イオン集束電極に200V、そして全圧測定用板状電極5’には四重極ケース56と同じグランド電位(0V)にバイアスされる。
【0017】
ところがアルミナセラミックの絶縁抵抗率は20℃でσ=1014Ω・cm程度あるが、熱陰極フィラメント3からの熱でこのイオン源10周辺の電極及びセラミック部品の温度は100℃近くまで温度が上昇する。このためセラミックの抵抗率はσ=1013Ω・cm以下に下がる。例としてイオン集束電極4と全圧測定用板状電極5‘の間のセラミックの厚さを1mm、支える場所を三カ所とすると、このワッシャー型セラミック絶縁体52の合計面積は、1cm2程度になるから全抵抗はR=1×1012Ωとなり、イオン集束電極4とグリッド電極2の間には
I = V/R=200/1×1012=2×10-10A
程度の漏れ電流Lが発生することになる。この漏れ電流Lによって発生する疑似圧力表示Pは、式(2)を使って計算でき、その圧力は、感度係数をS=1×10-2Pa、電子電流を Ie=2×10-3A,
イオンビームBの割合をk=0.7と仮定して
【0018】
P =L÷[(1-k)SIe] = 2×10-10÷[0.3×10-2×2×10-3]≒3.3×10-5Pa
となる。これは絶縁セラミック52,53に汚れが全くなく理想的な絶縁状態の時であり、実際にはリーク電流による影響を受けないでイオン集束電極5‘を用いて全圧測定ができるのは、10-5Pa以上の高い圧力でしかないことになる。
(iv)一方、図10の従来の四重極質量分析計Q‘で全圧測定を行う場合は、四重極フリンジフィールドの問題がある。これは4本の四重極6の互いに交差する2本は短結されて2電極となり、その2電極に±U直流電圧にVcosωtの交流電圧が重畳され、U/Vが常に一定に成るように質量mに応じて走査され(mが小さいときはUも小さく、mが大きくなるとUも大きくなる)、それに応じた電界が4本の四重極6に印加される。この四重極6に入射させるイオンの運動エネルギーは通常10エレクトロンボルト以下に減速しなければならないから、四重極6の中心電位は該グリッド電極2の電位に近く、グランド電位の該全圧測定用板状電極5’より200V以上高い電位に置かれることになる。分析質量mが大きい場合は、300~400V程度の高電圧が該全圧測定用板状電極5’の裏側に存在することになる。従って、イオン集束電極4を出たイオンビームBは、一旦全圧測定用板状電極5‘で最大限に加速され、全圧測定用板状電極5’の孔rを通過した直後から、イオンビームBは四重極6の入り口で減速されるような電界が働くことになる。
【0019】
このためイオンの一部は四重極6の入り口で一部跳ね返され(以下、「四重極フリンジフィールド問題」と称する。)、全圧測定用板状電極5‘に四重極6から反対側から跳ね返されたイオンが流れ込み、その跳ね返される量は質量mによって異なるため、イオンの組成によっって全圧測定に大きな差が生じるようになる。
【0020】
上述の四重極フリンジフィールド問題を解決するために、図12に示すような電子リペラー電極57を用いて、図10の全圧測定板状電極5‘を廃止する方法の四重極質量分析計Q‘’が提案され公知となっている(特開平7−037547号公報)。
【0021】
しかし、この従来の方法は、前述した全圧測定用板状電極5‘を用いる方法よりも欠点が多い。その理由を図12の電子リペラー電極57を全圧測定電極として用いる場合のイオン源10の部分の断面を表した図13を用いて説明する。
【0022】
図13において、円筒状グリッド電極2及び円環状フィラメント3を取り囲むように電子リペラー電極57が配置される。フィラメント3から出た電子はグリッド電極2に加速され反対側に飛び出した後、電子リペラー電極57で跳ね返され、グリッド電極の内外に振動を繰り返して気体分子に衝突してイオンを作る。イオンはグリッド電極2の中だけでなく、グリッド電極2と電子リペラー電極57間cにも生成する。電子リペラー電極57はグランドレベルに置かれ、微少電流計50に接続されている。即ち、グリッド電極2とリペラー電極57間に生じたイオンを電子リペラー電極57に引き寄せて測定でき、この電流は圧力に比例するから同じく式(1)を使って圧力を求めることができる(感度Sの値は異なる)。全圧測定はリペラー電極57で行うことができるので、四重極フリンジフィールドによるイオンの跳ね返りの影響が出なく、正確な圧力測定が行える旨、前記特開平7−037547号公報で述べられている。
【0023】
しかし、これにも大きな問題が二つある。一つ目は、電子はグリッド電極2の内外に振動を繰り返すが、既に説明したように、最終的にはグリッド電極2に衝突する。電子は120V内外のエネルギーを持ってグリッド電極2に衝突するから、グリッド電極2の表面からは衝突する電子の約1/105に相当する分の軟X線がxとして発生する。この軟X線のxはその周りを囲んでいる電子リペラー電極57に吸収される。
【0024】
ところがこの吸収された軟X線のxの内の1/100程度が、光電効果により該電子リペラー電極57から光電子eとして放出される。即ちグリッド電極2に衝突する電子に対して、その電流の1/107に相当する電子が電子リペラー電極57から発生する。電子リペラー電極57にイオンが流れ込むことと、電子リペラー電極から電子が発生することは、微少電流計50の向きとしては同じ方向になるので、このX線光電効果による電流に相当する値、即ち疑似圧力表示をするようになる。これは電子リペラー電極57にイオンが流れ込まなくても(ガス分子が無くなっても)現れる現象である。
【0025】
この現象が初めて明らかにされたのは1940年代の米国で、3極管型(ヘヤピンフィラメント、円筒状スパイラルグリッド、それを囲む円筒状コレクター)電離真空計の指示圧が10-6Pa以下に下がらないことに起因している。それを改良するために生まれたのが図10,図12に示した従来型のBA型電離真空計Gである。この現象は電離真空計のX線限界と称されている。電子リペラー電極をイオンコレクターとして用いるアイデアは、正にこの3極管型電離真空計と同じ構造に戻ることになる。仮に電子電流がIe=2mAだとすると、電子リペラー電極57の感度はS=0.05/Pa程度と見積もれるから、これを式(1)に代入すると軟X線による疑似圧力Px
【0026】
Px = Ii/SIe
= (Ie×10-7)÷SIe
= 10-7÷S = 2×10-6(Pa)
と予測でき、これ以下の圧力は測れないことになる。
【0027】
更に、電子リペラー電極57で全圧測定を行う場合の2つ目の問題は、イオン生成空間cに熱陰極フィラメント3が存在するため、この熱陰極フィラメント3から発生する陽イオン(アルカリ金属イオンなど)jが電子リペラー電極57に入ることを防げないことである。熱陰極フィラメント3から発生する陽イオンjも圧力に関係ないイオンであり、これが発生することにより、例えガス分子がゼロになったとしても、微少電流計50は、このイオンの流入があるため指示値が下がらないことになる。これに対して、グリッド電極2の内側にはフィラメントから発生する陽イオンjは電位的にグリッド内部には侵入できないので、図10で従来の全圧測定板状電極5‘を用いる全圧測定法では、フィラメントからの陽イオンjの問題は起こらない。
【0028】
以上(i)~(iv)の多岐に渡って真空装置9内の圧力を測る問題を説明したことから明らかになったように、従来の四重極質量分析計Q‘、Q’‘を用いて測れるのは、残留ガスのガス成分間の相対的比率即ち分圧だけが求められるのであって、その絶対値を求めることははなはだ困難である。これを補佐するにはもう一つ全体の絶対圧力を正確に求める電離真空計Gが必要になる。特に10-5Pa以下の超高真空の圧力で用いるこれまでの真空装置9では、四重極質量分析計Q’またはQ‘’と電離真空計Gの両測定器が必要であった。分圧の定量分析は、四重極質量分析計で定性ガス分析を行い、電離真空計から得られた値を四重極質量分析計で得た比率に分散させて行う必要があった。
【0029】
しかし、両測定器を同一真空装置9に取り付けたとしても、10-7Pa以下の超高真空領域では、四重極質量分析計Q’又はQ‘’と、単純構造の電離真空計Gとでは自己ガス放出が大きく異なるため、得られた分圧と全圧がかけ離れた値を示すことが多かった。このため折角二つの測定器を用意しながらも、どちらも十分にその機能が果たせない上、二つを付けるという不経済な問題があった。
【特許文献1】特開平7−037547号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0030】
発明によって解決しなければならい課題を整理すると、
(1)全圧測定板状電極で圧力を測る場合、感度がイオン源内の電極間の電位の微妙な調整や圧力領域で変化すること。
(2)全圧測定板状電極で圧力を測る場合、電極間のリーク電流により測定限界が10-5Paにとどまってしまうこと。
(3)全圧測定板状電極で圧力を測る場合、四重極フリンジフィールドの問題が発生すること。
(4)電子リペラー電極で全圧を測定しようとするとX線限界が大きいこと。
(5)電子リペラー電極で全圧を測定しようとするとフィラメントからの陽イオンによる擾乱が起こること。
(6)従来の四重極質量分析計で全圧を測定する場合の測定限界は、全てが10-6Pa程度であること。
(7)真空装置の圧力を測定するのに、四重極質量分析計と電離真空計の二つが必要であること。
(8)電離真空計を用いて全圧を測定した値と、四重極質量分析計を用いて分圧を測定してその合計を求めた値との間に差が出ること。
【0031】
本発明は、上記(1)〜(8)課題を解決することを目的としてなされたものである。
【0032】
即ち、本発明は、四重極質量分析計Qのイオン源10を形成するグリッド電極2の内部に全圧測定電極1を新たに設け、これに電極の電位を切り替える手段を加えることにより、高精度の圧力測定を行い、且つ高精度の定量的ガス分析も行える四重極質量分析計Qを提供するものである。
【0033】
更に全圧測定電極1を加えて電位を切り替える手段を加えることにより、全圧測定電極1を設けない場合と同一の状態を作り、低い圧力での絶対圧測定を可能ならしめることにある。
【0034】
また、本発明は、全圧測定用板状電極5に漏れ電流の発生しないイオン源電極間の絶縁構造を設けることにより、信頼性の高い全圧測定の行える四重極質量分析計Qを提供するものである。
【0035】
更に、本発明は、1台の真空装置に取り付ける圧力計測を四重極質量分析計だけにして、電離真空計を廃止することのできる手段を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0036】
本願の発明は、真空装置(9)内において少なくともグリッド電極(2)とイオン集束電極(4)とで画定空間(A)を形成し、該グリッド電極(2)の外側に配置した電子源(3)から放出された電子をグリッド電極(2)に向かって加速し、加速された電子がグリッド電極(2)の編み目を通過後内外に振動を続ける過程で、該画定空間(A)に飛来する気体分子をイオン化し、該イオン化したイオンを該イオン集束電極(4)の中央に開けた孔(h)から該画定空間(A)外にイオンビーム(B)として放出する電子衝撃型イオン源(10)と、
【0037】
該イオン源(10)から得られるイオンビーム(B)を、イオンの電荷対質量比に応じて分離する、四重極質量分析部(6)と、
【0038】
該四重極質量分析部(6)を通過して分離された質量別のイオンビーム(B’)を捕らえて電流信号に変換する検出部(7)と、
を備え、
【0039】
得られるイオン電流強度から該真空装置(9)内のガス種類別の分圧強度を測定する四重極質量分析計Qにおいて、
【0040】
グリッド電極(2)とイオン集束電極(4)とで形成する画定空間(A)内に、イオン密度を探査する全圧測定電極(1)を設けた全圧測定電極付き四重極質量分析計である。
【0041】
このように、全圧測定電極1をイオン源(10)内の画定空間(A)に新たに設けることにより、グリッド電極2とイオン集束電極4とで形成される画定空間Aに生成するイオンを、n対1-nの割合で分割し、前者を全圧測定に、後者を分圧測定に振り分け、全圧測定と分圧測定をそれぞれに於いて互いに影響を与えることなく、同一のグリッド電極(2)と熱陰極フィラメント(3)を用いて得られるイオン電流を計測することによって従来の課題(1)〜(8)を一挙に解決し、真空装置内の高精度の定量的圧力測定を行うことが出来るものである。
【0042】
本発明では、好ましくは全圧測定電極1の形状は針状にし、グリッド電極2の筒方向の長さの1/4〜1/2まで侵入させることにより、グリッド電極2内の画定空間Aに生成するイオン総量の90%から95%(n=0.9〜0.95)を全圧測定電極1に取り込むことが可能になる。これにより従来の電離真空計Gと同等の高精度全圧計測を提供することができる。
【0043】
更に好ましくは、この全圧測定電極1を、グランド電位にある微少電流計11からグリッド電極22の電位に切り替えてやれば、画定空間A内に生成した正イオンは、この全圧測定電極1に捕らえられなくなるから、全てのイオンはイオン集束電極4に向かうことになり、四重極質量分析計Qの感度を飛躍的に向上させることも可能となる。
【0044】
更には全圧測定用板状電極5の必要性が無くなるので、四重極フリンジフィールドの問題から開放され、高精度の質量分析が可能になる。
【0045】
また、本発明は、真空装置(9)内において少なくともグリッド電極(2)とイオン集束電極(4)とで画定空間(A)を形成し、該グリッド電極(2)の外側に配置した熱陰極フィラメント(3)から放出された電子をグリッド電極(2)に向かって加速し、加速された電子がグリッド電極(2)を通過後グリッド電極の内外に振動を続けることによって、該画定空間(A)に飛来する気体分子をイオン化し、該イオン化したイオンを該イオン集束電極(4)の中央に開けた穴(h)から該画定空間(A)外にイオンビーム(B)として放出する電子衝撃型イオン源(10)と、
【0046】
このイオン源から得られるイオンビーム(B)を、イオンの電荷対質量比に応じて分離する、四重極質量分析部(6)と、
【0047】
該質四重極(6)を通過して分離された質量別のイオンビーム(B’)を捕らえて電流信号に変換する検出部(7)と、
を備え、
【0048】
得られるイオンビーム強度から該真空装置内(9)のガス種類別の分圧強度を測定する四重極質量分析計(Q)において、
【0049】
グリッド電極(2)とイオン集束電極(4)とで形成する画定空間(A)内の全圧測定をイオン集束電極(4)と四重極電極(6)の間に中央に該イオン集束電極(4)の中央に開けられた穴(h)の直径より小さい孔(r)の開いた全圧測定板状電極(5)を配置する手段であって、該全圧測定板状電極(5)は、グランド電位にある固定体(58,59)によって電気的に絶縁されて固定され、プラス電位に接触している絶縁体(52)に対して無接触である構成の全圧測定電極付き四重極質量分析計である。
【0050】
このように、本発明は、グリッド電極2とイオン集束電極4とで形成された画定空間A内に新たに全圧測定電極を加えないで、従来の構造のままで、全圧測定の精度を上げることのできる発明である。
【0051】
即ち、イオンビームを通過させる穴を設けた全圧測定用板状電極5の絶縁固定部に漏れ電流が発生しないようにすれば良いのであるから、これを無くす方法としては、全圧測定用板電極5を支える絶縁セラミックが、グランド電位より高い電位の部分に接触しないようにすれば漏れ電流がセラミックに流れることはない。これを可能ならしめるには、セラミック絶縁部の固定部分をグリッド電極2やイオン集束電極4と分離させて、グランド電位(電位差の発生しない)に置かれたネジやセラミックで押さえることによって課題を解決することが可能になる。
【0052】
また、本発明は、少なくともグリッド電極(2)とイオン集束電極(4)とで画定空間(A)を形成して、真空装置(9)内において残留ガス分子の分子密度を計測する手段と、
【0053】
該グリッド電極(2)の外側に配置した電子源(3)から放出された電子をグリッド電極(2)に向かって加速し、加速された電子がグリッド電極(2)の内外に振動を続ける過程で、該画定空間(A)に飛来する気体分子をイオン化し、該イオン化したイオンを該イオン集束電極(4)の中央に開けた孔(h)から該画定空間(A)外にイオンビーム(B)として放出するグリッド電極(2)とイオン集束電極(4)とで形成する画定空間(A)内に、イオン密度を探査する全圧測定電極(1)を設けた電子衝撃型イオン源(10)と、
【0054】
このイオン源から得られるイオンビーム(B)を、イオンの電荷対質量比に応じて分離する、四重極質量分析部(6)と、
【0055】
該四重極質量分析部(6)を通過して分離された質量別のイオンビーム(B’)を捕らえて電流信号に変換する検出部(7)と、
を備え、
【0056】
得られるイオン電流強度から該真空装置(9)内のガス種類別の分圧強度を測定する四重極質量分析計(Q)だけが取り付けられ、該四重極質量分析計以外の電離真空計を持たない真空装置である。
【0057】
即ち、1つの真空装置に取り付ける残留するガス密度(圧力)を測定する測定器が1つであるためには、全圧測定と分圧測定の両面の機能を備えてなければならないから、四重極質量分析計の全圧測定機構を新しく発案し、その発案機能は従来の全圧測定器である電離真空計と同等かそれ以上の能力を発揮する機構でなければならない。従来最も広く使われてきたこの種の電離真空計はBA型電離真空計であるから、この機能を四重極質量分析計にドッキングさせ、更にはドッキングさせることによる相乗効果により、従来の電離真空計を用いることなく、本請求項の四重極質量分析計によって従来以上の機能を発現させることが可能となる。
【発明の効果】
【0058】
以上説明したとおり、本発明の四重極質量分析計は、単一のイオン源から得られるイオン電流を全圧測定するイオンと、ガス分析するイオンとに分け、それぞれが高精度で行える機構と機能を加え、リーク電流の発生を防ぎ、バックグランドノイズ(X線限界)を差し引けるような構成のイオン源を実現させた事により、従来に比べて3桁以上低い超高真空領域までの全圧測定を行うと同時に、残留ガスの質量分析も同時に定量的に行うことが可能になり、極高真空領域のガス分析と全圧計測も可能ならしめる効果を発揮させることができる。
【0059】
このことにより、真空装置内に全圧計と四重極質量分析計の2台を付けるのは不経済であるから、当然残留ガス分析計に全圧測定電極を設けてどちらも同時に測定すれば、経済的に有利であり、且つ全圧計と残留ガス質量分析計の間のイオン生成のバラツキによる誤差が全く発生しない効果を奏するものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0060】
次に、図面を参照しながら本発明を詳細に説明する。
【0061】
図1は、本発明による四重極質量分析計Qだけを真空装置9に取り付けた例を示したものである。また図2はその構成の斜視図である。
【0062】
本例において、四重極質量分析計Qのイオン源10を構成するグリッド電極2は、直径5〜10mm、高さ10〜20mmの金網を用いて円筒状に形成したBA型であり、このグリッド電極2の一方をオープン状態にした部分に、中央に2〜4mmの孔の開いた板状のイオン集束電極4を配置して画定空間Aを形成し、更にはグリッド電極2の外側に、円環状熱陰極フィラメント3を配置している。
【0063】
このイオン源10において、イオン集束電極4と対向するグリッド電極2の金網部分の編み目又は金網に開けた小穴から、金属線針金(直径0.1〜1mm)の全圧測定電極1を、該グリッド電極2の縁からグリッド電極筒長1/4〜1/2程度まで侵入させる。針金1の他端は、セラミックスリーブの中を通したシールド導線12を介して、グランド電位におかれた独立真空端子13(図1)に固定され、大気側で電気接点14に接続されている。電気接点a側を選んだ場合は、グランド電位に置かれた微少電流増幅11に全圧測定電極1が接続されることになる。電気接点bを選んだ場合は、全圧測定電極1は、グリッド電極2に電位を与えている導線23に導線24を介して接続され、全圧測定電極1はグリッド電極2と同電位になる。また、イオン集束電極4は、画定空間Aからイオンを集束させながら引き出して、イオンビームBを形成する。
【0064】
また、円筒グリッド電極2の外側から画定空間Aに全圧測定電極1の挿入する方法としては、図3に示したようにグリッド電極の横から挿入しても良い。
【0065】
更にグリッド電極構造としては、金網状に限らず、化学腐食法やレイザーエッチング法などにより、板状の金属材料に穴を開け、フォーミングによって円筒状グリッド電極を形成しても良い。図4及び図5に示したグリッド電極2は、白金80%イリジウム20%の合金の薄肉板を、エッチング法により上下に4本のタブを付けた2枚の金網に形成し、これらを半円筒状61にフォーミング後、2個向かい合わせ、上のタブ62を内側に曲げて集合し、同質材の小円環63にスポット溶接で固定される。そして、下側のタブ64は逆に外側に曲げ、半円金具上65にスポット溶接で固定して、該グリッド電極2が形成される。このグリッド電極2を用いると、グリッド温度を、この2つの半円筒グリッドを2個の直列抵抗体と見立てて、電流Dを流すことによって、コントロールすることが出来る利点がある。即ち、この温度コントロールにより、グリッド電極2のガス放出を低減させたり、表面温度を上げてガスを吸着させなくするなど、超高真空や極高真空のガス分析時に威力を発揮させることが可能になる。
【0066】
次に電気接点14をaに接続した場合の全圧測定原理について図1及び図2を用いて説明する。
【0067】
真空装置9を真空ポンプ(図示せず)で排気し、四重極質量分析計Qを動作させられる10-2Pa以下の圧力になったら、フィラメント3を点灯する。フィラメント3からは電子が放射され、グリッド電極には2mAの一定の電子が流れる。ここでフィラメント電位33は100ボルト、グリッド電極電位を220ボルト(フィラメント-グリッド電極間電圧22は120ボルト)に設定する。この状態でイオン源10を動作させると、グリッド電極内部の画定空間AにS=10-2/Pa程度の割合でイオンが生成される。イオン電流としては2mAを掛けてSIe=2×10-5A/Paが得られる。電気接点14をa側に接続した状態で、全圧測定電極1に取り込まれるイオンの割合をnとすると、微少電流計11を用いて測定できる圧力Pは、式(1)を変形して
【0068】
P=Ii/nSIe となる。
n,S,Ieは全て常数なので、一度高い圧力で常数を求めておけば、高精度で圧力Pが求められる。
【0069】
他方、図1及び図2に示したようなグリッド電極2と針状の全圧測定電極1の組み合わせでも、前述のX線限界と称される圧力に無関係な電流が全圧測定電極1に発生するが、該全圧測定電極1の電極形状が針金なので、グリッド電極2内で発生するX線の該全圧測定電極1への入射確率が、従来公知の図13の電子リペラー電極57ような場合に比べて1/500程度低くできるので、超高真空まで圧力測定をすることが可能になる。更に1/500になったときのX線による残留電流は、一定であり、予め十分に圧力の低い超高真空領域で一度だけ、このオフセット値を求めておき、この値を差し引く回路をイオン電流増幅器に入れておけば、圧力測定の非直線化を防止し、10-9Paまで全圧測定を可能ならしめる。
【0070】
図1で全圧測定電極1をa側に接続して測定しているときの画定空間Aで生成された残りのイオンビームBの強度は(1−n)SIeとなり、イオン集束電極4の孔hを通過し、(1−n)SIeの割合でイオンビームBとして四重極6に送られて質量別のイオンビームB’に分けられ、検出器7で増幅され、微少電流計7で読み取られる。同じく n, S, Ieは全て常数であるからマススペクトルの質量別の相対的強度は一定となり、その比率は画定空間A内の分圧を示すことになる。
【0071】
次に図1で電気接点14をbに接続した場合の機能について説明する。
【0072】
この場合は全圧測定電極1の電位はグリッド電極2の電位と同じになるので、画定空間Aに生成されたイオンは全圧測定電極1には完全に入れなくなる。すると画定空間Aに生成された全てのイオンはイオン集束電極4の孔hに向かって流れ、SIe分がイオンビームとなって四重極6に送られる。ガス分析スペクトルの強度はaの時に比べ、1/(1−n)の割合で増し、マススペクトル間の相対強度を変化させることなく全体強度を高くすることができる。nは予め圧力の高い領域で高精度で求めておくことができるので、超高真空に達した時点で、電気接点14を絶対値の分かったaから1/(1−n)倍高いbに切り替えてスペクトルの強度をその場で増大してやれば、それ以下の超高真空に圧力が下がった場合でも、絶対圧の分かった定量的ガス分析が可能になる。
【0073】
次に、本発明に係る実施の形態の調査結果を説明する。
【0074】
図1に図4及び図5のグリッド電極を適用した本発明に係る実施の形態の調査を、図10に示す小形真空装置(容積1.5L)を用いて行った。
【0075】
本装置においては、オールメタルバルブ73を介して、350L/sの排気速度を持つ磁気浮上ターボ分子ポンプ74及び、その後段に設けた30L/sの小形複合ターボ分子ポンプ75で排気し、最後にダイヤフラムポンプ76で真空が作成される。また、チャンバー71には、純窒素ガスが導入出来るように窒素ボンベ78が繋がれ、バリアブルリークバルブ77でチャンバーの圧力が調整される。圧力は10-9Pa〜10-3Paの範囲をエクストラクター型電離真空計(以下「EXG」と称する。)で行い、10-3Pa〜10-1Paの範囲はスピニングローター型粘性真空計(以下、「SRG」と称する。)を用いて行うことができる。
【0076】
この小形真空装置に本例の全圧測定電極付き四重極質量分析計Qを取り付けて、調査を行った。システムベーキング後、グリッド電極2(図4と図5)に対しては電流Dを流して1000℃に加熱して脱ガス操作を行った。その後電流Dを調整してグリッドの温度を500℃(残留ガスの吸着を避けるため)に保って実験を行った。EXGが5×10-9Paの到達圧から徐々に純窒素ガスを導入し、その時の圧力(EXGの読み)上昇に伴う全圧測定電極1の電流計の読みと、窒素ガスのピークであるm=28の電流計の読みを調べた。その結果を同じグラフ上に全圧を-〇-丸印で、分圧を-△-三角印でプロットすると図7のようになった。途中、3×10-3Paでは増倍管Eの増幅を外し、最大圧0.8Paまで調べた。その後、リークバルブを閉じ再び圧力を10-8Paまで下げ、図1の電気接点をb側に接続し、再び窒素を導入して圧力を上昇させ、圧力とm=28のピークの関係を調べた。その結果も同じ図7のグラフ上に-□-四角印で示した。
【0077】
グリッド電極2に衝突する電子によって発生する軟X線が全圧測定電極1に入射して、この全圧測定電極1から電子が飛び出すことによる一定な残留電流(X線限界)が1.75×10-12A程度有るので、グラフのプロット-〇-丸印はこの値を全体のイオン電流値から差し引いた値をプロットしてある。グラフより明らかな様に、グラフ上のw点(全圧測定電極1を用いての測定下限)の10-9Paから1Paまでの非常に広い範囲の圧力変化に対して完全に45°の直線に載り、本発明により高精度の圧力測定が行えることが本調査で明らかにすることが出来た。即ち、従来のBA型電離真空計をも凌駕する9桁の非常にワイドレンジの全圧測定法が本発明により提供することが出来るものである。
【0078】
ここでm=28の-△-三角印の曲線上でYで示した部分が直線から少し下回っているのは、到達真空のところではスペクトルの主成分がm=2の水素であり、m=28は一酸化炭素によるm=28が少し残って窒素のm=28と重なっていることに起因している。即ち、グラフ上のm=28は、この四重極分析計Qからの出力であるのに対して、EXGでは、水素の圧力を主に圧力表示としているためである。窒素ガスが漸次導入されて真空装置9内の圧力が高められて行くと、相対的に水素は小さくなり、10-7Pa以上では比例関係が成立するようになる。さらに、10-3Pa以上ではイオン電流が大きくなるので、増倍管Eを消すことにより、m=28のピーク強度は0.1Pa
までその直線性が保たれるが、これ以上の圧力ではイオンが残留気体分子に衝突するようになりピークの直線性は失われる。
【0079】
次に、図1で電気接点14をb側に切り替えた場合の結果(図7の□-四角印)について説明する。この場合は画定空間A内で生成されたイオンの100%がイオン集束電極4側に引き寄せられるので、m=28のピーク強度は26倍に増し、全圧測定はなくなる。この場合も到達圧の1.8×10-8Pa(一度窒素ガスを導入しているので10-9Paまでは下がらない)付近では、水素のピークが支配的になりグラフの直線から外れる。ここで重要なことは、電気接点をaからbに切り替えることにより、-△-三角印の直線が26倍高い-□-四角印の直線に完全に平行移動していることである。-□-四角印上の破線直線を圧力の低い方へ延長した場合、10-14Aの横軸との交点Vは10-11Paの極高真空領域である。超高真空以下、極高真空の残留ガスの主成分は水素であるが、圧力は超高真空から徐々に時間を要して下がり、一瞬にして極高真空に達することはないので、圧力降下の途中において、本例の全圧測定電極1を用いて電気接点をa側で○丸印の全圧に対する△三角印のスペクトルの総和を10-8Pa台で求めておくことができる。その後、電気接点をb側に切り替えれば、絶対圧の分かったスペクトルの総和が26倍感度を高めた形で□四角印のスペクトル群に切り替わることができるので、□四角印のスペクトル群の降下曲線の延長状である交点Vの10-11Paまで下がった時のピーク値は絶対圧に対応した値であるから、極高真空領域における定量的な分圧測定が可能になったことを意味している。
【0080】
次に、図面8を参照しながら本発明の他の実施の形態について説明する。
【0081】
イオン集束電極4とグランド電位の四重極ケース56の間には電位差が200V程有り、リーク電流Lが発生することは避けられない。このリーク電流が全圧測定用板状電極5に流れ込むために、従来は全圧測定用板状電極5を用いての全圧測定は10-6Pa台が限界になることは既に説明した。
【0082】
そこで本発明が案出されたものであり、次の手段により前記課題を解決したものである。即ち全圧測定用板状電極5の四重極ケース56に対する固定は、グランド電位にある固定具58,59によって電気的に絶縁して固定し、プラス電位に接触している絶縁体52,53から完全に切り離し、独立して四重極ケースに固定することによって、リーク電流Lが全圧測定用板電極5に流れ込まないようにしたものである。
【0083】
次に、本発明に係る他の実施の形態(装着状態は図示せず)の調査結果を説明する。
【0084】
図8に基づく本発明に係る他の実施の形態の調査を、図6に示す装置を用いて行った。圧力(EXGとSRGの読み)上昇に伴う全圧測定板状電極5の読みを-○-丸印で、m=28のピークの読みを-□-四角印で図9に示す。イオン集束電極4の孔hを通過して来るグリッド電極2からのX線が、全圧測定板状電極5のイオン通過孔r付近の金属に吸収され、光電効果によて発生する光電子の残留電流(X線限界)が5.6×10-7A程度ある。-□-四角印はこのオフセット値を差し引いてプロットしてある。圧力変化に対するイオン電流は、10-8Paの超高真空から10-2Paまで完全な直線に載っており、全圧測定用板電極5用いて10-8Pa台までの全圧測定が可能になったことを示している。グラフ上のZの部分は、残留ガスの主成分が水素であるため、m=28のピーク値は相対的に小さくなり、圧力の直線から小さい方に外れる理由は、既に説明した。
【0085】
このように、本例によれば、従来のリーク電流による測定限界が、10-5Pa台であったから、約3桁低い圧力測定を提供することが可能になった。
【0086】
尚、本発明の各実施の形態の説明では、電子源として熱陰極フィラメント3を用いて説明したが、電子源はこれに限らず、スピント型エミッターやカーボンナノチューブエミッターなどの冷陰極エミッター、又はレーザーを用いたイオン生成など適宜のものを用いることが出来る。
【0087】
また、全圧測定電極1は針状電極に限らず、針金の先端に導電性小球をつけたもの、リング、円板などいかなる形状のものでも良い。また、グリッド電極2の天頂に開ける孔の径を大きく取って、イオンをグリッド電極2の外側に一旦ビームとして引き出し、該イオンビームを偏向させて、グリッド電極2の外側で全圧測定電極1に集める方式であっても良い。また、グリッド電極2は、金網に限らず、化学エッチングやレーザー打ち抜きなどにより板材に孔を開けた物や、編み目の全く無いパイプの横に電子の侵入のスリットを設けて電子がスリットの隙間からパイプ体に入射させるCISタイプのものであっても良い。また、グリッド電極材は、ステンレス、モリブデン、タングステン、白金合金など適宜のものを用いることが出来る。また、グリッド電極2は線をスパイラル状に巻いて作っても良い。更には、例えばグリッド電極2に電流を流しグリッド電極温度を変化させられるように、別の機構が入っている物であっても良い。要するに、本発明においては、グリッド電極(2)とイオン集束電極(4)とで画定空間(A)を形成し、真空装置(9)の気体分子がグリッド電極と略同圧を形成出来るグリッド電極であり、該グリッド電極(2)の外側に配置した電子源(3)から放出された電子をグリッド電極(2)に向かって加速し、加速された電子が該画定空間(A)に飛来する気体分子をイオン化し、該イオン化したイオンを該イオン集束電極(4)の中央に開けた孔(h)から該画定空間(A)外にイオンビーム(B)として放出する電子衝撃型イオン源(10)の構成において、該画定空間A内に発生するイオンを、全圧を測定する分と、四重極6で質量分析する分圧の分とに分けることを目的として、該画定空間A内に全圧測定電極(1)を設けた電極構成のイオン源(10)、又は画定空間(A)外の該イオン集束電極(4)と四重極(6)との間にリーク電流の発生しない構造を持った全圧測定板状電極(5)であれば、いかなる構成であっても良い。
【産業上の利用可能性】
【0088】
本発明は、真空技術が不可欠な半導体産業、各種薄膜の成膜産業、表面分析機器、電子顕微鏡などの各種商品開発、生産技術、さらには加速器科学など基礎研究部門等使用される真空装置の圧力と残留ガス分析に使用される測定器に好適である。
【図面の簡単な説明】
【0089】
【図1】本発明1の全圧測定電極付き四重極質量分析計の構成と真空装置への装着状態である。
【図2】本発明1の針状全圧測定電極付き四重極質量分析計の構成斜視図である。
【図3】本発明1の針状全圧測定電極のグリッド電極への挿入例である。
【図4】通電温度コントロール型エッチング格子グリッド電極と針状全圧測定電極の組み合わせ状態を示す側面図である。
【図5】通電温度コントロール型エッチング格子グリッド電極と針状全圧測定電極の組み合わせ状態を示す正面図である。
【図6】本発明の調査のための真空装置図である。
【図7】本発明の四重極質量分析計Qの圧力変化に対する信号出力の調査結果である。
【図8】本発明のイオン源部の全圧測定用板状電極5の構成図である。
【図9】本発明の全圧測定用板状電極5を用いた場合の四重極質量分析計の圧力変化に対する信号出力の調査結果である。
【図10】従来型四重極質量分析計と従来型全圧測定電離真空計を同一真空装置に取り付けた状態図である。
【図11】従来型イオン源の電極絶縁組み立ての状態図である。
【図12】従来型の電子リペラー電極を全圧測定電極とする四重極質量分析計の構成と真空装置に取り付けた状態図である。
【図13】従来型の電子リペラー電極を全圧測定電極とする場合の問題点の説明図である。
【符号の説明】
【0090】
Q 本発明の四重極質量分析計のセンサーヘッド全体
Q’ 従来型の四重極質量分析計のセンサーヘッド全体
G 従来型BAゲージ型電離真空計のセンサーヘッド全体
1 全圧測定電極
2 円筒状グリッド電極
3 熱陰極フィラメント(電子源)
4 イオン集束電極
5 全圧測定板状電極
5’ 従来の全圧測定板状電極
6 四重極質量分析部
E 2次電子増倍管
7 検出部
8 分圧用微少電流増幅器
9 真空排気装置
2’ BA型電離真空計のグリッド電極
3’ BA型電離真空計の熱陰極フィラメント
7’ BA型電離真空計の針状イオンコレクター電極
A グリッド電極とイオン集束電極によって囲まれている画定空間
B イオンビーム
B’ 質量分析された後のイオンビーム
h イオン集束電極のイオン取りだし孔
r 全圧測定板状電極のイオンビーム通過孔
33’ 熱陰極フィラメントのバイアス電源
22’ 熱陰極フィラメントとグリッド電極間のバイアス電源
10 イオン源部
11 本発明全圧測定のための微少電流計
12 全圧測定電極1を保持するシールド導線
13 全圧測定のための絶縁真空端子
14 電流切り替え電気接点
20 セラミック絶縁真空端子
22 フィラメントとグリッド電極間のバイアス電源
23 グリッド電極への導線
24 電気接点とグリッド電極間を結ぶ導線
33 フィラメントバイアス電源
41 イオン集束電源への導線
44 イオン集束電極へのバイアス電源
50 従来型全圧測定のための微少電流増幅器
51 従来型全圧測定電極と微少電流計増幅器を結ぶ導線
52 セラミックワッシャー
53 セラミックスリーブ
54 取り付けビス
55 取り付けワッシャー
56 グランド電位に置かれる四重極ケース
57 電子リペラー電極
58 セラミック絶縁材
61 半円筒エッチンググリッド
62 半円筒エッチンググリッドの上部のタブ
63 タブを接合する小円環
64 半円筒エッチンググリッドの下部のタブ
65 下部のタブを集合する半円リング
D グリッド電極の加熱電流
70 スピニングローター粘性真空計
71 小形真空チャンバー
72 エクストラクター型電離真空計
73 オールメタルアングルバルブ
74 350L/sの磁気浮上ターボ分子ポンプ
75 30L/sの複合ターボ分子ポンプ
76 ダイヤフラム真空ポンプ
77 オールメタルリークバルブ
78 純窒素ガスボンベ
79 四重極質量分析計のコントローラー
Y グラフ上の水素ガスによる非直線部
w 全圧測定電極による圧力測定の下限
v 分圧測定法による測定下限の予想点
Z グラフ上の水素ガスによる非直線部
c 電子リペラー電極とグリッド電極に挟まれた空間
e X線光電子
x グリッド電極から発生する軟X線
j 熱陰極フィラメントから放出される陽イオン
35 熱陰極フィラメントの支持金具

【特許請求の範囲】
【請求項1】
真空装置(9)内において少なくともグリッド電極(2)とイオン集束電極(4)とで画定空間(A)を形成し、該グリッド電極(2)の外側に配置した電子源(3)から放出された電子をグリッド電極(2)に向かって加速し、加速された電子がグリッド電極(2)の編み目を通過後、該グリッド電極(2)の内外に振動を続ける過程で、該画定空間(A)に飛来する気体分子をイオン化し、該イオン化したイオンを該イオン集束電極(4)の中央に開けた孔(h)から該画定空間(A)外にイオンビーム(B)として放出する電子衝撃型イオン源(10)と、
このイオン源(10)から得られるイオンビーム(B)を、イオンの電荷対質量比に応じて分離する、四重極質量分析部(6)と、
該四重極質量分析部(6)を通過して分離された質量別のイオンビーム(B’)を捕らえて電流信号に変換する検出部(7)と、
を備え、
得られるイオン電流強度から該真空装置(9)内のガス種類別の分圧強度を測定する四重極質量分析計(Q)において、
グリッド電極(2)とイオン集束電極(4)とで形成する画定空間(A)内に、イオン密度を探査する全圧測定電極(1)を設けたことを特徴とする全圧測定電極付き四重極質量分析計。
【請求項2】
前記請求項1において、前記全圧測定電極(1)は、針金状の一端を前記グリッド電極(2)に設けられた孔又はグリッド電極(2)の編目から画定空間(A)に侵入させていることを特徴とする全圧測定電極付き四重極質量分析計。
【請求項3】
前記請求項1において、前記全圧測定電極(1)を該グリッド電極(2)の外側で保持する導線(12)は、該グリッド電極(2)の外側に生成するイオンが侵入できないように電気的にシールドされていることを特徴とする全圧測定電極付き四重極質量分析計。
【請求項4】
前記請求項1において、前記全圧測定電極は(1)は、前記真空装置(9)の真空容器の壁に設けられた絶縁真空端子(13)に導線(12)を介して接続され、大気圧側で、該絶縁真空端子(13)の他方をグランド電位に置かれた微少電流増幅器(11)に接続していることを特徴とする全圧測定電極付き四重極質量分析計。
【請求項5】
前記請求項4において、前記全圧測定電極は(1)は、前記真空装置(9)の真空容器の壁に設けられた絶縁真空端子(13)に導線(12)を介して接続され、大気圧側で、該絶縁真空端子(13)の他方を電気接点(14)の切り替えによって、グリッド電極(2)に電圧を供給する導線(23)の電位、又はグランド電位に置かれた微少電流増幅器(11)のいずれか一方を選択できるようにしたことを特徴とする全圧測定電極付き四重極質量分析計。
【請求項6】
真空装置(9)内において、少なくともグリッド電極(2)とイオン集束電極(4)とで画定空間(A)を形成し、該グリッド電極(2)の外側に配置した電子源(3)から放出された電子をグリッド電極(2)に向かって加速し、加速された電子がグリッド電極(2)を通過後該グリッド電極(2)の内外に振動を続けることによって、該画定空間Aに飛来する気体分子をイオン化し、該イオン化したイオンを該イオン集束電極(4)の中央に開けた穴(h)から該画定空間(A)外にイオンビーム(B)として引き出す電子衝撃型イオン源(10)と、
このイオン源から得られるイオンビーム(B)を、イオンの電荷対質量比に応じて分離する、四重極質量分析部(6)と、
該質量分析部(6)を通過して分離された質量別のイオンビーム(B’)を捕らえて電流信号に変換する検出部(7)と、
を備え、
得られるイオン電流の強度から該真空装置内(9)のガス種類別の分圧強度を測定する四重極質量分析計(Q)において、
グリッド電極(2)とイオン集束電極(4)とで形成する画定空間(A)内の全圧測定を、画定空間(A)外のイオン集束電極(4)と四重極電極(6)の間に該イオン集束電極(4)の中央に開けられた穴(h)の直径より小さい開孔(r)を持つ全圧測定板状電極(5)を配置する手段であって、該全圧測定板状電極(5)は、はグランド電位にある固定体(58,59)によって電気的に絶縁されて固定され、プラス電位に接触している絶縁体(52)に対して無接触であることを特徴とする全圧測定電極付き四重極質量分析計。
【請求項7】
少なくともグリッド電極(2)とイオン集束電極(4)とで画定空間(A)を形成して、真空装置(9)内において残留ガス分子の分子密度を計測する手段と、
該グリッド電極(2)の外側に配置した電子源(3)から放出された電子をグリッド電極(2)に向かって加速し、加速された電子がグリッド電極(2)の内外に振動を続ける過程で、該画定空間(A)に飛来する気体分子をイオン化し、該イオン化したイオンを該イオン集束電極(4)の中央に開けた孔(h)から該画定空間(A)外にイオンビーム(B)として放出するグリッド電極(2)とイオン集束電極(4)とで形成する画定空間(A)内に、イオン密度を探査する全圧測定電極(1)を設けた電子衝撃型イオン源(10)と、
このイオン源から得られるイオンビーム(B)を、イオンの電荷対質量比に応じて分離する、四重極質量分析部(6)と、
該四重極質量分析部(6)を通過して分離された質量別のイオンビーム(B’)を捕らえて電流信号に変換する検出部(7)と、
を備え、
得られるイオン電流強度から該真空装置(9)内のガス種類別の分圧強度を測定する四重極質量分析計(Q)だけが取り付けられ、該四重極質量分析計以外の電離真空計を持たない真空装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2006−266854(P2006−266854A)
【公開日】平成18年10月5日(2006.10.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−85044(P2005−85044)
【出願日】平成17年3月23日(2005.3.23)
【出願人】(503008974)有限会社真空実験室 (7)
【Fターム(参考)】