説明

全有機炭素計

【課題】 安全で安価な全有機炭素測定装置を提供する。
【解決手段】 電磁石14に通電し電磁石15には通電しない場合、遮蔽板7は電磁石14にひきつけられ、紫外線ランプ3から照射された紫外線は試料酸化流路5に照射され、試料溶液中の有機炭素が酸化され二酸化炭素となり、全炭素(TC)が二酸化炭素検出部で測定される。次に、電磁石14の通電を停止し電磁石15に通電すると、遮蔽板7は電磁石15にひきつけられ、紫外線ランプ3から照射された紫外線は遮蔽板7により遮蔽され試料酸化流路5には射されない。この結果、試料溶液中の有機炭素は酸化されず、無機体炭素(IC)が二酸化炭素検出部で測定される。得られたTC値からIC値を差し引くことでTOC値を得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水溶液中の全有機炭素(TOC)を測定する全有機炭素測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
水溶液中の有機物に含まれている炭素量で水溶液の汚染度を表す方法として全有機炭素(TOC)がある。TOCを測定するために、TOC計が使用されるが、TOCを測定する一般的な測定方法として、試料水溶液中の全炭素(TC)と無機体炭素(IC)とを測定し、TCの測定値からICの測定値を差し引いた値(TOC=TC−IC)として求める方法がある。
【0003】
従来の全有機炭素計の概略構成図を図5に示す。有機炭素を含む試料溶液が試料入り口31から導入され、リン酸リザーバー33に設置されたリン酸溶液がリン酸シリンジポンプ34により一定量が試料溶液に加えられ、さらにペルオキソ二硫酸塩リザーバー36に設置されたペルオキソ二硫酸塩溶液がペルオキソ二硫酸塩シリンジポンプ37により一定量が試料溶液に加えられる。試料にリン酸溶液が加えられることにより、試料に含まれる無機体炭素(IC)が二酸化炭素に変換される。この二酸化炭素量を導電率センサ41で測定することにより無機体炭素の濃度が測定される。一方、試料にペルオキソ二硫酸塩溶液が加えられ、試料酸化流路38において紫外線ランプ39により紫外線が照射されることにより、試料に含まれる全炭素が酸化されて二酸化炭素が発生する。この二酸化炭素量を導電率センサ42で測定することにより全炭素濃度が測定される。測定された全炭素の濃度から無機体炭素の濃度を差し引くことにより全有機炭素が得られる(たとえば特許文献1、2参照)。
【0004】
また、リン酸塩溶液およびペルオキソ二硫酸塩溶液と反応した試料溶液を2つの流路に分離することなく、ひとつの流路およびひとつの導電率センサで測定する全有機炭素計もある。この場合は、試料溶液に紫外線を照射する紫外線ランプをON/OFFすることにより無機体炭素および全炭素を測定する。つまり、紫外線を照射せずに試料溶液の導電率を測定する時に無機炭素を測定し、紫外線を照射しながら試料溶液の導電率を測定することにより全炭素を測定する。紫外線を照射したときに測定される炭素量から紫外線を照射しないときに測定される炭素量を差し引くことにより、全有機炭素量を測定することができる。
【0005】
ひとつの流路およびひとつの導電率センサで測定する全有機炭素計において、紫外線の照射、非照射を紫外線ランプのON/OFFで行うのではなく、試料溶液と紫外線ランプの間に遮蔽板を設置し、この遮蔽板をモータやソレノイドで駆動することにより紫外線の照射、非照射を制御する装置もある。
【0006】
【特許文献1】特開平4−507141号公報
【特許文献2】特開2001−153828号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来の技術において、試料溶液を2つの流路に分岐し一方は紫外線照射し、もう一方は紫外線照射をしない方法では、装置構成が複雑になりコストが高くなり装置が大型化してしまうという問題が発生する。紫外線ランプをON/OFFする方法では、紫外線ランプのON/OFFにともなう温度変化により測定値が変動してしまう、ON時の輝度安定に時間を要し測定時間が長くなってしまう、紫外線ランプの寿命が短くなってしまう、等の問題点がある。さらに、紫外線ランプから放射される低波長紫外線の作用で、空気中の酸素から有害なオゾンが発生するため、試料酸化部は空気から遮断した密閉空間にする必要があり、試料酸化部の気密を保ちながらモータやソレノイドの動きを遮蔽板に伝えなければならず、構造が複雑になりコストの上昇がさけられない。
【0008】
本発明は、上記問題を解決するためになされたものであり、複雑な構造を必要とせず、有害なオゾンの漏洩のない、安全で安価な全有機炭素測定装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記問題を解決するため、本発明の全有機炭素計は、試料溶液中の炭素を酸化して二酸化炭素に変換する試料酸化部と試料溶液中の二酸化炭素を検出する二酸化炭素検出部を有し、試料酸化部に紫外線ランプと紫外線ランプより照射される紫外線と試料溶液とを遮蔽する遮蔽板を備えた全有機炭素計において、遮蔽板が磁性金属よりなり、この遮蔽板の駆動を試料酸化部の外部から磁力によって行うものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、紫外線ランプより照射される紫外線から試料溶液を遮蔽する遮蔽板を磁性金属で作製し、この遮蔽板を磁力により遠隔操作することを可能としているので、空気から遮断した構造内にある試料酸化部にある遮蔽板を、複雑な駆動伝達構造を必要とせずに駆動することが可能となる。よって、オゾン漏洩のない安全な密閉酸化部構造を安価に実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
試料酸化部の内部には、試料溶液が導入される試料酸化流路と紫外線ランプが設置してあり、試料酸化流路と紫外線ランプとの間には磁性金属の遮蔽板を配置しておく。試料酸化部全体はアルミニウムのような非磁性体で構成し、内部の機密が保たれる構造としておく。遮蔽板は紫外線ランプと試料酸化流路の間で紫外線を通したりさえぎったりするようにスライドできるようアルミニウムブロック内側の溝に保持される構造としておく。アルミニウムブロック外側の側面に電磁石を配置しておき、この電磁石をアルミニウムブロックの外側で通電あるいは通電を停止することにより磁性体でできた遮蔽板を動かすことにより、試料酸化流路への紫外線の照射、非照射の制御を行う。試料酸化流路に紫外線が照射されているときには試料溶液中の有機炭素が酸化され二酸化炭素となり、試料溶液中の全炭素(TC)が測定される。試料酸化流路に紫外線が照射されていないときには試料溶液中の有機炭素が酸化されず、試料溶液中の無機体炭素(IC)のみが測定される。こうして得られるTC値からIC値を差し引くことで全有機炭素(TOC)値を得る。
【実施例1】
【0012】
以下、本発明の実施の形態を図を参照しながら詳細に説明する。図1は本発明の全有機炭素計の試料酸化部の概略構成図を示したものである。本発明の試料酸化部1は、紫外線ランプ3と、試料酸化流路5と、遮蔽板7と、上部アルミニウムブロック9と、下部アルミニウムブロック10と、フッ素樹脂パッキン12および電磁石14、15から構成されている。
【0013】
試料酸化部全体は非磁性材料であるアルミニウムのブロック材である上部アルミニウムブロック9と下部アルミニウムブロック10とから構成されており、内部の機密が保たれるように上部アルミニウムブロック9と下部アルミニウムブロック10の合わせ目はフッ素樹脂パッキン12によりシールされている。遮蔽板7は磁性金属である鉄製であり、図1中の矢印で示したように、紫外線ランプ3と試料酸化流路5の間で紫外線を通したり遮ったりするようにスライドできるよう下部アルミニウムブロック10の内側のガイドレール11に保持されている。下部アルミニウムブロック10の外部の側面には電磁石14、15が配置されている。
【0014】
図2に本発明の全有機炭素計の概略構成図を示す。試料注入機構21より注入された試料溶液は試料酸化部1に導入され、試料溶液中に含まれている炭素が二酸化炭素に酸化される。試料注入機構21および試料酸化部1に設置されている紫外線ランプ3の電源22は制御部23により制御されている。試料酸化部1で炭素が酸化され二酸化炭素を含んだ試料溶液は二酸化炭素検出部25により二酸化炭素濃度が測定される。二酸化炭素検出部25は試料溶液の導電率を測定することにより二酸化炭素濃度を測定する。二酸化炭素検出部25で検出された二酸化炭素濃度は制御部23と連動し信号演算部27によりTOC=TC−ICが計算され、全有機炭素が求められる。
【0015】
図3に遮蔽板7、紫外線ランプ3、試料酸化流路5および電磁石14、15の位置関係を示す。電磁石14に通電し電磁石15には通電しない場合、遮蔽板7は電磁石14にひきつけられ、紫外線ランプ3から照射された紫外線は試料酸化流路5に照射される(図3(a))。この結果、試料溶液中の有機炭素が酸化され二酸化炭素となり、全炭素(TC)が二酸化炭素検出部25で測定される。次に、電磁石14の通電を停止し電磁石15に通電すると、遮蔽板7は電磁石15にひきつけられ、紫外線ランプ3から照射された紫外線は遮蔽板7により遮蔽され試料酸化流路5には照射されない(図3(b))。この結果、試料溶液中の有機炭素は酸化されず、無機体炭素(IC)が二酸化炭素検出部25で測定される。こうして得られた測定値を信号演算部27においてTC値からIC値を差し引くことでTOC値を得ることができる。
【0016】
試料酸化部1は上部アルミニウムブロック9と下部アルミニウムブロック10およびフッ素樹脂パッキン12のみの非常に簡単な構造で密閉空間を作ることができている。紫外線ランプ3は常時点灯状態にあるので、試料酸化部1内の温度が紫外線ランプ3の影響で変動することはなく、また紫外線ランプ3の輝度も安定している。
【0017】
上記実施例においては遮蔽板7は鉄製の板を用いているが、これに限らず磁性体で磁石を用いて磁力により移動可能な材料であればいい。また、上部アルミニウムブロック9と下部アルミニウムブロック10にはアルミニウム材を用いているが、これに限らず磁力の影響を受けない非磁性材料であればいい。
【実施例2】
【0018】
図4に第2の実施例に用いる遮蔽板45の構成を示す。その他の構成は第1の実施例とまったく同様である。遮蔽板45は磁性材料よりなる磁性板47、48と、非磁性材料よりなる遮蔽部50とから構成されている。磁性板47、48と遮蔽部50は接着剤で固定され一体化されている。電磁石14に通電し電磁石15には通電しない場合、遮蔽板45は磁性板47により電磁石14にひきつけられ、紫外線ランプ3から照射された紫外線は試料酸化流路5に照射される(図3(a))。次に、電磁石14の通電を停止し電磁石15に通電すると、遮蔽板45は磁性板48により電磁石15にひきつけられ、紫外線ランプ3から照射された紫外線は遮蔽板7により遮蔽され試料酸化流路5には照射されない(図3(b))。
【0019】
遮蔽板45は全体が磁性材料である必要はなく、電磁石14、15によりひきつけられ、移動することが可能であれば一部分が磁性材料であればよい。
【産業上の利用可能性】
【0020】
ランプからの光を照射・非照射の切り替えが必要な装置、例えば純水製造装置、分光光度計等に適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の第1の実施例の全有機炭素計の試料酸化部の概略構成斜視図である。
【図2】本発明の第1の実施例の全有機炭素計の概略構成図である。
【図3】本発明の第1の実施例の全有機炭素計の試料酸化部の動作を示した図である。
【図4】本発明の第2の実施例の遮蔽板の構成図である。
【図5】従来の全有機炭素計の概略構成図である。
【符号の説明】
【0022】
1 試料酸化部
3 紫外線ランプ
5 試料酸化流路
7 遮蔽板
9 上部アルミニウムブロック
10 下部アルミニウムブロック
12 フッ素樹脂パッキン
14、15 電磁石
21 試料注入機構
22 電源
23 制御部
25 二酸化炭素検出部
27 信号演算部
31 試料入り口
33 リン酸リザーバー
34 リン酸シリンジポンプ
36 ペルオキソ二硫酸塩リザーバー
37 ペルオキソ二硫酸塩シリンジポンプ
38 試料酸化流路
39 紫外線ランプ
41、42 導電率センサ
45 遮蔽板
47、48 磁性板
50 遮蔽部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料溶液中の炭素を酸化して二酸化炭素に変換する試料酸化部と試料溶液中の二酸化炭素を検出する二酸化炭素検出部を有し、試料酸化部に紫外線ランプと紫外線ランプより照射される紫外線と試料溶液とを遮蔽する遮蔽板を備えた全有機炭素計において、前記遮蔽板の全部あるいは一部が磁性金属よりなり、この遮蔽板の駆動を試料酸化部の外部から磁力によって行うことを特徴とする全有機炭素計。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−40729(P2007−40729A)
【公開日】平成19年2月15日(2007.2.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−222499(P2005−222499)
【出願日】平成17年8月1日(2005.8.1)
【出願人】(000001993)株式会社島津製作所 (3,708)
【Fターム(参考)】