説明

全芳香族ポリアミド成形体

【課題】本発明の目的は、上記問題点を解消し一定の低比重の全芳香族ポリアミド成形体及びその製造方法を提供するものである。
【解決手段】水膨潤フィブリル化芳香族ポリアミド繊維を湿式抄造法によりシート化し凍結乾燥する方法により得られる下記要件を満足する全芳香族ポリアミド成形体。
a)成形体の比重が0.05〜0.2であること。
b)厚さ1mmあたりのガーレー透気度が1000秒/100ml以上であること。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、全芳香族ポリアミド成形体およびその製造方法に関するものである。特に低密度,低比重の全芳香族ポリアミド成形体およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
アラミドすなわち全芳香族ポリアミドは、一般に300℃以上の融点を有し、耐熱性、力学特性に優れたポリマーであるが、その融点の高さ故に、著しく成形性が制限され、現在に至っても広範囲に技術が実用に至っているのは、液晶紡糸成形、湿式成形による繊維およびフィルムのみである。それ以外の成形方法としては、粉末アラミドをガラス転移温度以上の高温にて高圧力でプレス成形する成形法が挙げられる。
しかしながら、この方法では高密度の芳香族ポリアミド成形体しか得られず、従来のプラスチック成形体に求められる軽量性が不十分であった。
【0003】
これに対し、特開2003−24344号公報(特許文献1)では芳香族ポリアミドで構成されるポリマーと、発泡剤と有機溶媒とを含むドープを成形型に投入し、ドープを加熱して有機溶媒を該成形型から蒸散し、発泡剤を熱分解させて発泡させ低比重の芳香族ポリアミド成形体とする製造方法が開示されている。
確かに低比重の高強度アラミド成形体がえられるものの、しかしながら、この方法では芳香族ポリアミドポリマーを溶かすために多量の有機溶媒を使用しなければならない点、また、発泡倍率を調整することが難しく一定の比重の成形体が得られにくいという問題点があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−24344号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、上記問題点を解消し一定の低比重の全芳香族ポリアミド成形体及びその製造方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、従来技術における上記課題を解決するため鋭意研究した結果得られたもので、水膨潤フィブリル化芳香族ポリアミド繊維を湿式抄造法によりシート化し、凍結後、減圧下で脱水する(いわゆるフリーズドライ加工)ことにより、芳香族ポリアミド多孔体が得られることを見出した。
【0007】
即ち本発明によれば、
下記要件を満足する全芳香族ポリアミド成形体、
a)成形体の比重が0.05〜0.2であること。
b)厚さ1mmあたりのガーレー透気度が1000秒/100ml以上であること。
上記全芳香族ポリアミド成形体の製造方法であって、水膨潤フィブリル化芳香族ポリアミド繊維を湿式抄造法によりシート化し、凍結乾燥する全芳香族ポリアミド成形体の製造方法、
好ましくは水膨潤フィブリル化芳香族ポリアミド繊維の含水率が60%以上である全芳香族ポリアミド成形体の製造方法、
が提供される。
【発明の効果】
【0008】
本発明により、軽量かつ面方向の異方性が小さく、高い剛性及び耐衝撃性を有する芳香族ポリアミド成形体が容易に得られる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の低比重アラミド成形体について説明する。
本発明における「芳香族ポリアミド繊維」とは、アミド結合の60%以上、好ましくは85%以上が芳香環に直接結合した線状高分子化合物からなる繊維状物を意味する。このような芳香族ポリアミド繊維としては特に限定はしないが、例えば、ポリメタフェニレンイソフタルアミド繊維(帝人テクノプロダクツ製、コーネックス)、ポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維(帝人アラミド製、トワロン)、ポリ(パラフェニレン)−コポリ(3,4−ジフェニルエーテル)テレフタルアミド繊維(帝人テクノプロダクツ製、テクノーラ)などが挙げられる。
【0010】
本発明における水膨潤フィブリル化芳香族ポリアミド繊維とは、全芳香族ポリアミドポリマーからなり、フィブリッドと呼ばれる微小のフィブリルを有する薄葉状、鱗片状の小片、又は、ランダムにフィブリル化した微小短繊維で、且つ繊維の結晶構造が強固に形成されること無く、非結晶状態で水分子又は水分が結晶構造内に存在するようなものを指す。
【0011】
該水膨潤フィブリル化芳香族ポリアミド繊維を湿式抄造法によりシート化し成形体を作成した際は、微小なフィブリルが互いに交絡して繊維ネットワークを形成し、丈夫な成形体となる。
【0012】
上述したフィブリッドとしては、繊維形成性高分子重合体溶液を水系凝固浴に導入して得られた成形物を、乾燥することなく回収し、必要に応じて叩解等のフィブリル化することにより得られる。例えば、WO2004/099476 A1、特公昭35−11851号公報、特公昭37−5732号公報等に記載された方法により、ポリマー重合体溶液をその沈澱剤と剪断力の存在する系において混合することにより製造されるフィブリッドや、特公昭59−603号公報に記載された方法により、光学的異方性を示す高分子重合体溶液から成形した分子配向性を有する非晶質含水成形物であり、必要に応じて叩解処理を施すことができる。この叩解処理は、デイスクリファイナー、ビーター、その他の機械的切断作用を及ぼす抄紙原料処理機器によって実施することができる。
【0013】
該水膨潤フィブリル化芳香族ポリアミド繊維は結晶構造内に存在する水分が加熱・減圧などにより除去される際に大きく収縮し、繊維ネットワークを強固にする。したがって水膨潤フィブリル化芳香族ポリアミド繊維の含水率は50%以上であることが好ましい。50%未満であれば成形前に水膨潤フィブリル化芳香族ポリアミド繊維が収縮してしまい、強度の低い成形体しか得られない。
【0014】
本発明の全芳香族ポリアミド成形体とは、上記水膨潤フィブリル化芳香族ポリアミド繊維から形成されるものであり、その比重は0.05〜0.2であることが好ましい。比重が0.05未満である場合は、成形体中の気孔が過多となり、繊維交絡が減少するため機械的強度の面から成形体の取り扱い性が悪化し、好ましくない。また、比重が0.2を超える場合は、成形体の軽量性が損なわれるだけでなく、包含する気孔の量も少なくなるため、後述する気泡のクッション効果が発現しにくくなり好ましくない。
【0015】
本発明の全芳香族ポリアミド成形体の製造方法としては特に限定はしないが、例えば、水膨潤フィブリル化芳香族ポリアミド繊維(帝人アラミド製、トワロン−ジェットスパンパルプ、ジェットスパンフィブリッド)を公知の湿式抄造法にてシート状に成形し、得られた湿潤シートを凍結乾燥する方法が挙げられる。この水膨潤フィブリル化芳香族ポリアミド繊維は上述のように繊維構造の内部に多量の水分を含んでいるため、通常の乾燥工程では繊維内部から水分が除去されることで、繊維が自己収縮して成形体が緻密化してしまうため、低比重化及び衝撃吸収性を付与するためには、凍結乾燥などによって膨潤形態を維持したまま乾燥することが必要となる。
【0016】
凍結乾燥の方法は成書に記載されている一般的な方法で行うことができ、資料を液体窒素、ドライアイス等に数秒〜数分浸漬して−100℃〜0℃で成形体の水分を凍結させた後、公知の真空乾燥機で減圧下(10−3mmHg程度)で1hr〜数日かけて水分を脱水乾燥する。
【0017】
凍結乾燥後の成形体は強度を高める上で必要に応じて加熱及び/又は加圧して非結晶部分を結晶構造化すると同時に目的の比重に調整することが好ましい。好ましくは120〜300℃で加熱後、ロール加熱機等加圧機で例えば面圧0.49〜3.9kPaで行なうことが好ましい。
また薄層シートを積層し、加熱、加圧により本発明の全芳香族成形体の目付、厚さ、比重等を調整することが好ましい。
【0018】
本発明におけるガーレー透気度とは JIS P8117で規定された方法により測定され、多孔質材料の場合は、この値が大きいほどクローズドポアが多いことを意味し、その値としては、厚み1mmあたり1000秒以上であることが好ましい。一般に多孔質材料のクローズドポアとは、空気を内包した気泡を指し、クローズドポア内に取り込まれた空気がクッションとなり、加えられた衝撃を吸収する役割を果たすため、これは衝撃吸収部材においては重要である。このことから、原綿繊維ウェブをニードルパンチングなどで繊維交絡を持たせた一般的な不織布などは、多孔質ではあるが、オープンポアが多いためガーレー透気度は小さく、クッションとなる気泡が少ないため衝撃に対して十分な吸収効果が得られない。
【0019】
従って、軽量でかつ十分な衝撃吸収性を発現するためには、多孔質であること、つまり比重が小さいことと、その気孔がクローズドポアであること、つまりガーレー透気度が大きいことが重要である。
【0020】
本発明における成形体においては、比重及びガーレー透気度の値を損なわない範囲で、種々の添加剤を用いることが出来る。添加剤としては、成形体の機械的強度を向上させる目的で使用する、芳香族ポリアミド繊維、芳香族ポリエステル繊維、ポリベンザゾール繊維、炭素繊維、ガラス繊維などの繊維材料、クローズドポアを形成する目的で使用する、内部に気泡を有するバルーン系フィラーなどを添加することが出来る。
【0021】
以上のように本発明によれば、軽量かつ面方向の異方性が小さく、高い剛性及び耐衝撃性を有する成形体が得られるため、自動車などの自動変速機用クラッチなど摩擦係合装置用摩擦材部材の芯材として用いた時に摩擦部材の回転により生じる慣性を低減することができ、自動車全体の燃費向上に有効である。
【実施例】
【0022】
以下に本発明を実施例に基づき具体的に説明する。なお本発明はこれらに限定されるものではない。
(物性評価)
下記項目の物性評価は次の方法で行った。
1、成形体の見かけ比重
成形体の見かけ比重は、重量、面積及び厚みの計測値から算出した。
2、成形体のガーレー透気度
成形体のガーレー透気度はJIS P8117に準拠して測定し、厚み1mmに換算した。
【0023】
[実施例1]
水膨潤フィブリル化芳香族ポリアミド繊維(帝人アラミド製;商品名「トワロン−ジェットスパンフィブリッド」12.5gを水1.5Lとともに公知の離解機にて離解し、25×25cm角のTAPPI式手漉きマシ−ンを用いて目付約200g/mの湿潤シートを作成し、得られた湿潤シートをろ紙で挟み、角型シートマシンプレス機にて1kg/cmで5分間圧搾脱水した。これにより、寸法=25×25cm、厚み約2mmの湿紙シートを得た。
次に、該湿紙シートを液体窒素に1分浸漬し凍結させた後、真空オーブン中に室温、減圧下で3日間静置することで完全に脱水し、凍結乾燥成形体を得た。
得られた成形体の物性を表1に記載する。
【0024】
[実施例2]
実施例1において、湿潤シート原料として、水膨潤フィブリル化芳香族ポリアミド繊維を11.25g、芳香族ポリアミド短繊維(帝人アラミド製;商品名「トワロン1080」、カット長6mm)を1.25g使用したこと以外は同様の方法で成形体を得た。得られた成形体の物性を表1に記載する。
【0025】
[比較例1]
実施例1において、液体窒素による凍結、および真空乾燥を行わず、湿紙シートを室温、大気圧下で5日間静置した。得られた成形体は収縮が著しく、元の湿紙寸法から大きく変形し、不定形であったため物性測定ができなかった。
【0026】
[比較例2]
実施例2において、液体窒素による凍結、および真空乾燥を行わず、湿紙シートを室温、大気圧下で5日間静置した。得られた成形体の物性を表1に記載する。
【0027】
[比較例3]
芳香族ポリアミド短繊維(帝人アラミド製;商品名「トワロン1072」)を公知のカーディング装置にて、100g/mの繊維ウェブを作成した。スクリムとして芳香族ポリアミド織物(帝人テクノプロダクツ製;商品名「CO2016」、平織り、目付=66g/m)を使用し、上記の繊維ウェブで挟み、公知のニードルパンチング装置にてニードルパンチ処理(200本/cm)を行い、不織布繊維成形体を得た。得られた成形体の物性を表1に記載する。
【0028】
実施例1、2は水膨潤フィブリル化繊維からなる湿紙シートを凍結乾燥することで、低比重かつガーレー透気度が大きい成形体を得ることができた。一方、比較例2は凍結乾燥を行わなかったため、水膨潤フィブリル化繊維が自己収縮し、緻密な成形体であった。また、比較例3ではニードルパンチ不織布であるため、多孔質であり低比重ではあるが、気孔がオープンポアであるため、ガーレー透気度が著しく低いものであった。
【0029】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0030】
本発明の芳香族ポリアミド成形体は内部に多数の気孔を有するため軽量で高耐熱性を有する衝撃吸収部材として有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記要件を満足する全芳香族ポリアミド成形体。
a)成形体の比重が0.05〜0.2であること。
b)厚さ1mmあたりのガーレー透気度が1000秒/100ml以上であること。
【請求項2】
請求項1記載の全芳香族ポリアミド成形体の製造方法であって、水膨潤フィブリル化全芳香族ポリアミド繊維を湿式抄造法によりシート化し、凍結乾燥することを特徴とする全芳香族ポリアミド成形体の製造方法。
【請求項3】
水膨潤フィブリル化全芳香族ポリアミド繊維の含水率が50%以上である請求項2に記載する全芳香族ポリアミド成形体の製造方法。

【公開番号】特開2011−94267(P2011−94267A)
【公開日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−250548(P2009−250548)
【出願日】平成21年10月30日(2009.10.30)
【出願人】(303013268)帝人テクノプロダクツ株式会社 (504)
【Fターム(参考)】