説明

全芳香族ポリアミド繊維構造物

【課題】制電性と耐熱耐火性を有する全芳香族ポリアミド繊維構造物を提供する。
【解決手段】制電性パラ型全芳香族ポリアミド繊維を含む全芳香族ポリアミド繊維構造物であって、下記要件を満足することを特徴とする全芳香族ポリアミド繊維構造物。
1)制電性パラ型全芳香族ポリアミド繊維の表面および体積漏洩抵抗値が1×1010Ω以下、300℃での熱収縮率が2.5%以下、強度が5cN/dtex以上および初期ヤング率が200cN/dtex以上であること。
2)制電性パラ型全芳香族ポリアミド繊維が導電性カーボンを練りこんだパラ型全芳香族ポリアミド繊維であること。
3)該全芳香族ポリアミド繊維構造物の摩擦帯電電荷量が7μC/m以下であること。
4)該全芳香族ポリアミド繊維構造物の火炎暴露による収縮・炭化・穴開きまでの時間が85秒以上であること。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、制電性と耐熱耐火性を有した全芳香族ポリアミド繊維構造物に関する。
【背景技術】
【0002】
有機繊維、例えばポリエステル系繊維、全芳香族ならびに脂肪族ポリアミド系繊維などの合成繊維は導電性が低く、摩擦帯電性が高く、即ち摩擦により静電気が発生する。従って該合成繊維よりなる布帛は、高電位の帯電が認められ、塵埃の付着、放電による弊害が生じる。また半合成繊維や天然繊維、例えばアセテート、レーヨン、シルク、羊毛などは、吸湿性を有しているために、前者合成繊維に対して摩擦帯電性が低い傾向であるが、低湿度の場合は例外もある。
【0003】
一方、耐炎性(難燃性)や耐熱性や必要とする用途には全芳香族ポリアミド繊維が汎用的に使用されているが、防爆環境などでの使用の際、摩擦による静電気が着火エネルギーとならないことが必要とされている。
前記全芳香族ポリアミド(以下アラミドと略記)繊維にはコーネックス、ノーメックスに代表されるメタ系アラミド繊維とテクノーラ、ケブラーおよびトワロンに代表されるパラ型アラミド繊維とがある。
【0004】
これらのアラミド繊維は、ナイロン6、ナイロン66などの従来より広く使用されている脂肪族ポリアミド繊維に比較して、剛直な分子構造と高い結晶性のために耐熱性、耐炎性(難燃性)などの熱的性質、ならびに耐薬品性、強力な耐放射線性、電気特性などの安全性に優れた性質を有している。従ってバグフィルターなどの産業資材用やカーテンなどのインテリア用、耐炎性(難燃性)や耐熱性を必要とする防護衣料などの衣料および雑貨などとして広く使用されている。
【0005】
また従来より防爆環境での使用の際、着火エネルギーを発生させないように制電性脂肪族ポリアミド繊維やポリエステル系繊維を混綿、交織させ、摩擦による静電気発生を抑制していた。しかしながら、これらは溶融繊維であり、耐熱・耐燃焼性が低く、高制電性ならびに難燃性を満たすものではなかった。
【0006】
さらに繊維に制電性を付与する方法としては、導電性塗料による表面コーティング、表面加工処理する無電解メッキ、バインダー樹脂加工および/またはバインダー析出加工(特許文献4など)などがあるが、金属特有の色調を呈すること、洗濯あるいは摩擦・摩耗耐久性が十分得られないなどにより、耐久静電・高耐熱・難燃性が要求される電気資材、航空・車両資材、或いは消防服などの耐熱防護服用途に汎用に用いることが難しいという問題があった。
また更にメタ型アラミド繊維による導電加工糸(特許文献5)があるが、導電性が十分に付与・発現しているとは言い難いものであった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平10−310944号公報
【特許文献2】特開2000−110042号公報
【特許文献3】特開2005−307391号公報
【特許文献4】特開2007−269879号公報
【特許文献5】特公昭63−30432号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記従来技術の有する問題点を解決し、高強度で制電性と耐熱耐火性を有する全芳香族ポリアミド繊維構造物を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は上記目的を達成するために鋭意検討した結果得られたもので、
本発明によれば、
制電性パラ型全芳香族ポリアミド繊維を含む全芳香族ポリアミド繊維構造物であって、下記要件を満足する全芳香族ポリアミド繊維構造物。
1)制電性パラ型全芳香族ポリアミド繊維の表面および体積漏洩抵抗値が1×1010Ω以下、300℃での熱収縮率が2.5%以下、強度が5cN/dtex以上および初期ヤング率が200cN/dtex以上であること。
2)制電性パラ型全芳香族ポリアミド繊維が導電性カーボンを練りこんだパラ型全芳香族ポリアミド繊維であること。
3)該全芳香族ポリアミド繊維構造物の摩擦帯電電荷量が7μC/m以下であること。
4)該全芳香族ポリアミド繊維構造物の火炎暴露による収縮・炭化・穴開きまでの時間が85秒以上であること。
【0010】
好ましくは、メタ型全芳香族ポリアミド繊維およびパラ型全芳香族ポリアミド繊維からなり、制電性パラ型全芳香族ポリアミド繊維以外のパラ型全芳香族ポリアミド繊維の含有量が全芳香族ポリアミド繊維構造物全重量に対して5wt%以上である全芳香族ポリアミド繊維構造物であり、制電性パラ型全芳香族ポリアミド繊維含有量が全芳香族ポリアミド繊維構造物全重量に対して1wt%以上である全芳香族ポリアミド繊維構造物であり、全芳香族ポリアミド繊維構造物が、製編織物、乾式・湿式不織布、紡績糸の群から選ばれる少なくとも一種である全芳香族ポリアミド繊維構造物であり、制電性パラ型全芳香族ポリアミド繊維が短繊維であり、該短繊維の含有量が全芳香族ポリアミド繊維構造物全重量に対して5%以上である全芳香族ポリアミド繊維構造物、
が提供される。
【発明の効果】
【0011】
導電性カーボン含有制電性パラ型全芳香族ポリアミド繊維を特定量含むことにより、摩擦帯電電荷量が7μC/m以下であり、火炎暴露による収縮・炭火・穴開きまでの時間が85秒以上である制電性と耐熱耐火性に優れた全芳香族ポリアミド繊維構造物が得られる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明における全芳香族ポリアミド繊維は、ポリパラフェニレンテレフタルアミド(PPTA)あるいはコポリパラフェニレン−3,4’オキシジフェニレンテレフタルアミド(PPODPA)、特に好ましくはPPODPA繊維(帝人テクノプロダクツ株製テクノーラ)、或いはメタ型芳香族ポリアミド繊維である、ポリメタフェニレンイソフタルアミド繊維(帝人テクノプロダクツ株製テイジンコーネックス)などが好ましく例示される。繊維の形態としては長繊維であっても短繊維であっても良い。
【0013】
本発明に使用する制電性パラ型全芳香族ポリアミドはパラ型全芳香族ポリアミドに導電性カーボンを練りこんだものである。
導電性カーボンとしては、導電性カーボンブラック等の公知のものを使用することができる。導電性カーボンブラックの種類としては、例えばオイルファーネス系の“ケッチェンブラックEC”(日本EC社製)、“コンダクテックス975”、“コンダクテックスSC”(コロンビアン社製)やアセチレン系の“デンカブラック”(デンカ社製)等公知の導電性カーボンブラックの他、サーマルブラック、チャネルブラック、ケッチェンブラックなどが使用できる。
【0014】
導電性カーボンの配合率は、粒子の種類、粒子径、導電性およびマトリックスポリマーの性質や結晶性などによって変わるが、通常はポリマー全重量に対して5〜40重量%が好ましい。該配合量が5%未満の場合は導電性が低下し、40%を超える場合はポリマー中への均一分散が困難となり製糸性が低下する。
【0015】
導電性カーボンを練りこむ方法としては、従来公知の方法が用いられる。例えばパラ型全芳香族ポリアミドの溶液に、導電性カーボンを高濃度に練りこんだパラ型全芳香族ポリアミドのマスターバッチを用意し、導電性カーボンが所定の濃度になるように添加し混合均一化することも好ましく行われる。
【0016】
制電性パラ型全芳香族ポリアミド繊維は、繊維の表面および体積漏洩抵抗値が1×1010Ω以下、300℃での熱収縮率が2.5%以下、強度が5cN/dtex以上および初期ヤング率が200cN/dtex以上であることが重要である。繊維の表面および体積漏洩抵抗値が1×1010Ωを超える場合は静電気が発生しやすく好ましくない。また300℃での熱収縮率が2.5%を超える場合は火事や高温化での繊維構造物の熱収縮が大きく好ましくない。また強度が5cN/dtex未満および初期ヤング率が200cN/dtex未満の場合は繊維構造物の強度が低下し好ましくない。
【0017】
上記制電性パラ型全芳香族ポリアミド繊維の製造方法としては上記の導電性カーボンを均一分散させたパラ型全芳香族ポリアミドポリマー溶液を乾式、湿式、乾湿式などの公知の方法で紡糸し、延伸して得られる。好ましいパラ型全芳香族ポリアミドとしてはコポリパラフェニレン−3,4’オキシジフェニレンテレフタルアミド(PPODPA)であり、NMPなどの極性溶媒に溶解状態で導電性カーボンを投入し、湿式紡糸することにより容易に繊維化される。
【0018】
本発明の全芳香族ポリアミド繊維構造物中の制電性パラ型全芳香族ポリアミド繊維の配合量としては、繊維構造物全重量に対して1%以上好ましくは5%以上であることが繊維構造物の摩擦帯電電荷量を7μC/m以下とする上で好ましい。1%未満では摩擦帯電電荷量を7μC/m以下とすることが難しく静電気が発生しやすくなる。
【0019】
本発明の全芳香族ポリアミド繊維構造物に用いる上記制電性パラ型全芳香族ポリアミド繊維以外の他の全芳香族ポリアミド繊維としては、メタ型全芳香族ポリアミド繊維と導電性カーボンを練り込んでいないパラ型全芳香族ポリアミド繊維(単にパラ型全芳香族ポリアミド繊維と呼ぶ場合がある)の3種を用いることが好ましい。
【0020】
メタ型全芳香族ポリアミド繊維とは、主骨格を構成する芳香環がアミド結合によりメタ型に結合されてなるものであるが、ポリマーの全繰返し単位の85モル%以上がメタフェニレンイソフタルアミド単位であるものを対象とし、特にポリメタフェニレンイソフタルアミドホモポリマーが好ましい。全繰返し単位の15モル%以下、好ましくは5モル%以下で共重合し得る第3成分としては、ジアミン成分として、例えばパラフェニレンジアミン、3,4’−ジアミノジフェニルエーテル、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、パラキシリレンジアミン、ビフェニレンジアミン、3,3’−ジクロルベンジジン、3,3’−ジメチルベンジジン、3,4’−ジアミノジフェニルメタン、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、1,5−ナフタレンジアミン等の芳香族ジアミンが、また酸成分として、例えばテレフタル酸、ナフタレン−2,6−ジカルボン酸、ナフタレン−2,7−ジカルボン酸等の芳香族ジカルボン酸が挙げられる。また、これらの芳香族ジアミン及び芳香族ジカルボン酸は、その芳香族環の水素原子の一部がハロゲン原子やメチル基等のアルキル基によって置換されていてもよい。
【0021】
メタ型全芳香族ポリアミド繊維としては帝人テクノプロダクツ株製テイジンコーネックスやデュポン社製ノーメックスが挙げられる。
前記メタ型芳香族ポリアミド繊維には、機能特性を保持するために難燃剤や紫外線吸収剤が含まれていても良い。
【0022】
メタ型全芳香族ポリアミド繊維の全芳香族ポリアミド繊維構造物中の配合比率は全芳香族ポリアミド繊維構造物全重量に対して95〜50%であることが好ましい。95%を超える場合は全芳香族ポリアミド繊維構造物の強度が低下し、50%未満の場合全芳香族ポリアミド繊維構造物の風合いが硬くなり好ましくない。
【0023】
本発明の全芳香族ポリアミド繊維構造物に用いる導電性カーボンを練り込んでいないパラ型全芳香族ポリアミド繊維は、300℃熱収縮率が2.5%以下、単繊維強度が5cN/dtex以上、ヤング率200cN/dtex以上であることが好ましい。この範囲を外れる場合構造物の強度が低下したり、高温化での収縮が大きく好ましくない。好ましいパラ型全芳香族ポリアミド繊維としてはポリパラフェニレンテレフタルアミド(PPTA)あるいはコポリパラフェニレン−3,4’オキシジフェニレンテレフタルアミド(PPODPA)をあげることができる。
【0024】
また上記導電性カーボンを練り込まないパラ型全芳香族ポリアミド繊維の配合量は繊維構造物全重量に対して5%以上であることが好ましい。5%未満の場合は繊維構造物の強度が低下し好ましくない。
本発明の全芳香族ポリアミド繊維構造物は、製編織物、乾式・湿式不織布、紡績糸の群から選ばれる少なくとも一種である。
【0025】
好ましい態様として、制電性パラ型全芳香族ポリアミド繊維が短繊維でメタ型全芳香族ポリアミド短繊維及びパラ型全芳香族ポリアミド短繊維と混紡して紡績糸とし、製編織して布帛とすることが挙げられる。紡績糸中の制電性全芳香族ポリアミド繊維の含有量は紡績糸全重量に対して1%以上より好ましくは5%以上であり、パラ型全芳香族ポリアミド短繊維の含有量が紡績糸全重量に対して5%以上であることが好ましい。この構成の時、該紡績糸を用いて製編織した全芳香族ポリアミド繊維構造物(布帛)は、体積および表面電気抵抗が1×1010Ω以下、300℃熱収縮率が2.5%以下、単繊維強度が5cN/dtex以上、初期ヤング率200cN/dtex以上の制電性パラ型全芳香族繊維を1%以上含み、及び300℃熱収縮率が2.5%以下、単繊維強度が5cN/dtex以上、初期ヤング率200cN/dtex以上のパラ型全芳香族ポリアミド繊維を5wt%以上を含み、残りがメタ型全芳香族ポリアミド繊維を含むことになり、摩擦帯電電荷量が7μC/m以下、火炎暴露による収縮・炭化・穴開きまでの時間が85秒以上である高制電性高耐熱耐火性で且つ混紡糸であるため風合いのよい全芳香族ポリアミド繊維構造物(布帛)とすることができる。
【実施例】
【0026】
以下、実施例を挙げて、本発明の構成および効果を詳細に説明する。
尚、実施例/比較例で行った被染色物の評価方法は下記の方法に従って行った。
【0027】
<原糸および原綿特性>
・表面および体積漏洩抵抗値(電気抵抗値:Ω)
JIS L1094参考法準拠し、市販の電気抵抗測定装置を用い、20℃×RH60%の雰囲気下で測定した。糸長2cmのサンプルを印加電圧100Vで電気抵抗値(Ω/cm)を繊維表面、断面(体積)抵抗の両方を測定した。いずれも1×1010Ω以下である場合、○とした。
・300℃での熱収縮率
TMAを用いて測定すべく、昇温は常温から100℃/分で600℃まで行い、300℃での収縮率が2.5%以下である場合、○とした。
・強度
JIS L 1013に準拠して行った。5cN/dtex以上を○とした。
・初期ヤング率
前記強伸度測定チャートより、初期傾きを通常既知方法にて算出した。200cN/dtex以上を○とした。
【0028】
<製編織物などの布帛特性>
・摩擦帯電電荷量(クーロン:C)
JIS L1094 5.3に準拠し、制電性製編織物としては、7μC/m以下である場合、○とした。
・火炎暴露による収縮・炭化・穴開き性
1)試料準備
試料(サイズ14×14cm)をたるませて(例えば530g程度の重りを載せ)、ピン枠にセットする。これをn=4準備する。
2)火炎準備
都市ガスバーナーをガス流量とエア供給部を回しながら、炎の長さ13〜15cmになるように調整する。またこの際の炎温度は1100〜1200℃で青炎である。ついで、該バーナー上部縁から上方距離6〜7cmの位置にサンプルが接触するように適正な三脚を準備する。
3)測定
バーナーが三脚の中心および適正な火炎であることを確認し、三脚にピン枠セットされたサンプルを載せる。それと同時にストップウォッチでサンプルが炭化・小穴(亀裂)開くまでの時間(秒)を記す。該時間を火炎暴露による収縮・炭化・穴開きまでの時間とする。
【0029】
[実施例1]
常法で得られたメタ系全芳香族ポリアミド繊維の帝人テクノプロダクツ株製コーネックスの短繊維(繊度、カット長、強度、伸度はそれぞれ1.7dtex、51mm、3.5cN/dtex、41.6%)、同じく常法で得られたパラ型全芳香族ポリアミド繊維の帝人テクノプロダクツ株製テクノーラの短繊維(繊度、カット長、強度、伸度はそれぞれ1.7dtex、51mm、25cN/dtex、3%)を用意した。
【0030】
(制電性パラ型全芳香族ポリアミド繊維の作成)
導電性カーボンとしてMPS−1504 Black(T)(大日精化社製)にN−メチルピロリドンを添加混合して導電性カーボンが10重量%のN−メチルピロリドン溶液を作成した。この導電性カーボン分散液をコポリパラフェニレン−3,4’オキシジフェニレンテレフタルアミドの6重量%のN−メチルピロリドン溶液に対して、導電性カーボンが15重量%になるように添加して紡糸原液を作成し、孔径0.3mmでホール数100のノズルから吐出し半乾半湿式紡糸法により紡糸し、水洗乾燥後4倍に延伸し550℃で熱セットして製糸し制電性パラ型全芳香族ポリアミド長繊維を得た。公知の方法により捲縮カットして短繊維化した。繊度、カット長、強度、伸度はそれぞれ1.7dtex、51mm、25cN/dtex、3%であった。
【0031】
(全芳香族ポリアミド繊維構造物の作成)
上記のメタ系全芳香族ポリアミド繊維、パラ型全芳香族ポリアミド繊維及び制電性パラ型全芳香族ポリアミド繊維短繊維とを93重量%、5重量%および2重量%の割合となるように公知の方法で混紡、合撚し36/2紡績糸とし、次いで製織(55本/in×54本/in)し平織物(製織巾165cm×100m)を得た。次に該布帛をオープンソーパーを用いてスコアロール400(花王製)で1g/l、ソーダ灰1g/lで精練後、シリンダー乾燥した。次いで200℃×45秒〜1分間プレ・セットした。
得られた加工布帛の特性を評価した結果、摩擦帯電電荷量は7μC/m以下、火炎暴露における収縮・炭化・穴開き性が110秒であり、制電性ならびに耐熱・耐火性に優れていた。
ここで制電性パラ型全芳香族ポリアミド繊維短繊維の表面および体積漏洩抵抗値は1×1010Ω以下、300℃での熱収縮率は2.5%以下、ならびに強度および初期ヤング率はそれぞれ5cN/dtex以上、200cN/dtex以上で基準をクリアーしていた。
【0032】
[実施例2]
メタ型全芳香族ポリアミド短繊維を90重量%、制電性パラ型全芳香族ポリアミド繊維短繊維を5重量%とした以外は、実施例1と同様に処理し評価した結果、摩擦帯電電荷量は7μC/m以下、火炎暴露における収縮・炭化・穴開き性が105秒であり、制電性ならびに耐熱・耐火性に優れていた。
【0033】
[実施例3]
メタ型全芳香族ポリアミド短繊維を85重量%、制電性パラ型全芳香族ポリアミド繊維短繊維を10重量%とした以外は、実施例1と同様に処理し評価した結果、摩擦耐電電荷量は7μC/m以下、火炎暴露における収縮・炭化・穴開き性が102秒であり、制電性ならびに耐熱・耐火性に優れていた。
【0034】
[実施例4]
メタ系全芳香族ポリアミド繊維の帝人テクノプロダクツ株製コーネックスの短繊維および帝人テクノプロダクツ株製テクノーラの短繊維とを95重量%および5重量%の割合になるように通常の方法で混紡、合撚し36/2紡績糸とし、次いで製織(55本/in×54本/in)、但し製経において、インチ毎に1本、実施例1で用いた制電性パラ型全芳香族ポリアミド短繊維を含む紡績糸36/2を配列させ、平織物(製織巾165cm×100m)を得た。得られた加工布帛を実施例1と同様に処理し評価した結果、摩擦耐電電荷量は7μC/m以下、火炎暴露における収縮・炭化・穴開き性が120秒であり、制電性ならびに耐熱・耐火性に優れていた。
【0035】
[実施例5]
実施例4において、制電性パラ型全芳香族ポリアミド短繊維を含む紡績糸の代わりに制電性パラ型全芳香族ポリアミド長繊維を用いて布帛を作成、処理し評価した結果、摩擦耐電電荷量は7μC/m以下、火炎暴露における収縮・炭化・穴開き性が100秒であり、制電性ならびに耐熱・耐火性に優れていた。
【0036】
[実施例6]
制電性パラ型全芳香族ポリアミド長繊維を公知の方法により牽切加工しスパンライク糸(GTN)とした以外は、実施例2と同様に処理し評価した結果、摩擦耐電電荷量は7μC/m以下、火炎暴露における収縮・炭化・穴開き性が105秒であり、制電性ならびに耐熱・耐火性に優れていた。
【0037】
[実施例7]
実施例1において、得られた加工布帛を下記染浴で常温から2℃/分の速度で昇温し、120℃で60分間(日阪製液流染色機)染色・仕上げ加工した以外は、実施例1と同様に処理し評価した結果、染色仕上げ加工にかかわらず、摩擦耐電電荷量は7μC/m以下、火炎暴露における収縮・炭化・穴開き性が97秒であり、制電性ならびに耐熱・耐火性に優れていた。
・染料C.I.Basic Blue 54(Kayacryl Blue GSL−ED) 6 %owf
・硝酸Na 25 g/l
・酢酸 0.3 cc/l
・分散剤 0.5 g/l
・ベンジルアルコール 60 g/l
浴比1:30
次いで、染色された試料を下記洗浄浴で80℃×20分間ソーピングした。
・スコアロール#400 1g/l
・ソーダ灰 1g/l
還元洗浄後、十分水洗して乾燥、ファイナル・セット(180℃×1分間)した。
【0038】
[比較例1]
実施例1において制電性パラ型全芳香族ポリアミド繊維短繊維を使用せず、パラ型全芳香族ポリアミド繊維を使用した以外は同様に処理し評価した。その結果、火炎暴露における収縮・炭化・穴開き性が108秒であるが、摩擦耐電電荷量は7μC/m以上で制電性劣位であった。
【0039】
[比較例2]
実施例1で使用した制電性パラ型全芳香族ポリアミド繊維短繊維に代わって、DuPont製P−140(S/C型コンジュゲート制電短繊維(S:Ny66、C:導電カーボンポリマー)):繊度、カット長、強度、伸度はそれぞれ1.7dtex、51mm、3.5cN/dtex、40%)を用いた以外は、実施例1と同様に処理し評価した。その結果、得られた加工布帛は、摩擦耐電電荷量は7μC/m以下、火炎暴露における収縮・炭化・穴開き性は120秒であり、布帛の制電性ならびに耐熱・耐火性に優れていたが、300℃での熱収縮率ならびに強伸度および初期ヤング率ともに×で、布帛の強度が低下し、また高温化での収縮が大きいものであった。
【0040】
[比較例3]
実施例1で使用した制電性パラ型全芳香族ポリアミド繊維短繊維に代わって、KBセーレン製T931(S/C型コンジュゲート制電短繊維(S:Ny6、C:導電カーボンポリマー))を用いた以外は、実施例1と同様に処理し評価した。その結果、得られた加工布帛は、摩擦耐電電荷量は7μC/m以下、火炎暴露における収縮・炭化・穴開き性が100秒であり、布帛の制電性ならびに耐熱・耐火性に優れていたが、300℃での熱収縮率ならびに強伸度および初期ヤング率ともに×で、布帛の強度が低下し、また高温化での収縮が大きいものであった。
【0041】
[比較例4]
実施例1で使用した制電性パラ型全芳香族ポリアミド繊維短繊維に代わって、KBセーレン製T931(S/C型コンジュゲート制電短繊維(S:Ny6、C:導電カーボンポリマー))を5重量%用いた以外は、実施例1と同様に処理し評価した。その結果、得られた加工布帛は、摩擦耐電電荷量は7μC/m以下、火炎暴露における収縮・炭化・穴開き性が85秒以下であり、耐熱・耐火性劣位であり、制電性ならびに耐熱・耐火性を両立することができなかった。
【0042】
[比較例5]
実施例1で使用した制電性パラ型全芳香族ポリアミド繊維短繊維に代わって、KBセーレン製T638(S/偏芯C型コンジュゲート制電短繊維(S:Ny6、C:白色導電ポリマー))を2重量%用いた以外は、実施例1と同様に処理し評価した。その結果、得られた加工布帛は、摩擦耐電電荷量は7μC/m以上、火炎暴露における収縮・炭化・穴開き性が95秒であり、制電性劣位であり、制電性ならびに耐熱・耐火性を両立することができなかった。
【0043】
[比較例6]
実施例1で使用した制電性パラ型全芳香族ポリアミド繊維短繊維に代わって、クラカーボ製KC275S(S/C型コンジュゲート制電短繊維(S:PETおよびNy二層、C:導電カーボンポリマー))を2重量%用いた以外は、実施例1と同様に処理し評価した。その結果、得られた加工布帛は、摩擦耐電電荷量は7μC/m以上、火炎暴露における収縮・炭化・穴開き性が98秒であり、布帛の制電性ならびに耐熱・耐火性に優れていたが、300℃での熱収縮率ならびに強伸度および初期ヤング率ともに×で、布帛の強度が低下し、また高温化での収縮が大きいものであった。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明の全芳香族ポリアミド繊維構造物は制電性と高耐熱耐火性を有するので消防服や耐火服、防護服やカーテンなどのインテリア用として有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
制電性パラ型全芳香族ポリアミド繊維を含む全芳香族ポリアミド繊維構造物であって、下記要件を満足することを特徴とする全芳香族ポリアミド繊維構造物。
1)制電性パラ型全芳香族ポリアミド繊維の表面および体積漏洩抵抗値が1×1010Ω以下、300℃での熱収縮率が2.5%以下、強度が5cN/dtex以上および初期ヤング率が200cN/dtex以上であること。
2)制電性パラ型全芳香族ポリアミド繊維が導電性カーボンを練りこんだパラ型全芳香族ポリアミド繊維であること。
3)該全芳香族ポリアミド繊維構造物の摩擦帯電電荷量が7μC/m以下であること。
4)該全芳香族ポリアミド繊維構造物の火炎暴露による収縮・炭化・穴開きまでの時間が85秒以上であること。
【請求項2】
全芳香族ポリアミド繊維がメタ型全芳香族ポリアミド繊維およびパラ型全芳香族ポリアミド繊維からなり、パラ型全芳香族ポリアミド繊維のうち制電性パラ型全芳香族ポリアミド繊維以外のパラ型全芳香族ポリアミド繊維の含有量が全芳香族ポリアミド繊維構造物全重量に対して5wt%以上である請求項1記載の全芳香族ポリアミド繊維構造物。
【請求項3】
制電性パラ型全芳香族ポリアミド繊維の含有量が全芳香族ポリアミド繊維構造物全重量に対して1wt%以上である請求項1〜2いずれかに記載の全芳香族ポリアミド繊維構造物。
【請求項4】
全芳香族ポリアミド繊維構造物が、製編織物、乾式・湿式不織布、紡績糸の群から選ばれる少なくとも一種である請求項1〜3いずれかに記載の全芳香族ポリアミド繊維構造物。
【請求項5】
制電性パラ型全芳香族ポリアミド繊維が短繊維であり、該短繊維の含有量が全芳香族ポリアミド繊維構造物全重量に対して5%以上である請求項1〜4いずれかに記載の全芳香族ポリアミド繊維構造物。

【公開番号】特開2012−31524(P2012−31524A)
【公開日】平成24年2月16日(2012.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−169261(P2010−169261)
【出願日】平成22年7月28日(2010.7.28)
【出願人】(303013268)帝人テクノプロダクツ株式会社 (504)
【Fターム(参考)】