説明

全芳香族液晶ポリエステル

【課題】機械的特性に優れるとともに、高周波帯域における誘電特性に優れる全芳香族液晶ポリエステルを提供すること。
【解決手段】特定の比率で6−オキシ−2−ナフトイル繰返し単位、4,4’−ジオキシビフェニル繰返し単位および芳香族ジカルボニル繰返し単位を含む全芳香族液晶ポリエステルについて、少量のベンゼンジオキシ単位を含ませることにより、衝撃強度などの機械的性質が著しく改善された全芳香族液晶ポリエステルを提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、機械的特性に優れるとともに、高周波帯域における誘電特性に優れる全芳香族液晶ポリエステルに関する。
【背景技術】
【0002】
現代社会においては、日常生活のマルチメディア化や、有料道路におけるETC装置やGPSに代表されるITS(高度道路交通システム、Intelligent Transport Systems)の利用が急速に進んでいる。これに伴う情報通信のトラフィックの爆発的な増加に対応するべく、情報を伝送する周波数の高周波化が進んでいる。
【0003】
このように高周波化された情報通信装置に用いられる材料としては、高周波帯域(特にギガヘルツ帯域)における誘電特性に優れ、生産性や軽量性に優れたエンジニアリングプラスチック材料が有望視されており、各種通信機器、電子デバイスなどの筐体やパッケージ、誘電体デバイス等としての適用が期待されている。
【0004】
上述のエンジニアリングプラスチックの中でも、サーモトロピック液晶ポリエステル樹脂(以下液晶ポリエステル樹脂またはLCPと略称する)は、
(1)比誘電率(εr)が使用周波数領域帯域で一定であり、誘電正接(tanδ)が低いなど誘電特性に優れる、
(2)低膨張特性(環境寸法安定性)、耐熱性、難燃性、剛性等の機械物性など種々の物性に優れている、
(3)成形時の流動性に優れ、薄肉部、微細部を有する成形品を容易に加工できる、
などの優れた性質を有することから、高周波用途において特に期待されている材料である。
【0005】
以上説明した液晶ポリエステル樹脂の中でも、誘電特性、耐熱性、成型加工性などが特に優れることから、特定の比率で6−オキシ−2−ナフトイル繰返し単位、4,4’−ジオキシビフェニル繰返し単位および芳香族ジカルボニル繰返し単位を含む全芳香族液晶ポリエステルについて、近年、活発に開発が進んでいる(特許文献1〜3を参照)。
【0006】
しかし、6−オキシ−2−ナフトイル繰返し単位を多量に含む、特許文献1〜4に記載の液晶ポリエステルは、誘電特性は優れるものの、衝撃強度などの機械的性質に劣るものであり、日常の使用において落下などによる衝撃を受けやすい携帯電話などの部品には使用しにくいという問題がある。
【0007】
これらのことから、誘電特性に優れると共に、衝撃強度などの機械的性質に優れる全芳香族液晶ポリエステル樹脂が求められている。
【特許文献1】特開2004−196930号公報
【特許文献2】特開2004−244452号公報
【特許文献3】特開2004−250687号公報
【特許文献4】特開2007−154169号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、高周波帯域での誘電特性に優れ、衝撃強度などの機械的性質に優れる全芳香族液晶ポリエステルを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、特定の比率で6−オキシ−2−ナフトイル繰返し単位、4,4’−ジオキシビフェニル繰返し単位および芳香族ジカルボニル繰返し単位を含む全芳香族液晶ポリエステルについて、少量のベンゼンジオキシ単位を含ませることにより、衝撃強度などの機械的性質が著しく改善されることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
即ち、本発明は、式(I)、式(II)、式(III)、および式(IV)で表される繰り返し単位からなる全芳香族液晶ポリエステルであって、
i)全芳香族液晶ポリエステル中の全繰返し単位の合計量に対する、式(I)で表される繰返し単位のモル比率が40〜80モル%であって、
ii)式(II)で表される繰り返し単位と式(III)で表される繰り返し単位の合計量と、式(IV)で表される繰返し単位のモル比が90/100〜100/90であって、
iii)式(II)で表される繰返し単位と式(III)で表される繰返し単位の合計量に対する、式(II)で表される繰返し単位のモル比率が80〜99.9モル%である、全芳香族液晶ポリエステルを提供する:
【化1】

【化2】

【化3】

【化4】

[式(III)において、−O−は互いにメタ位またはパラ位に結合する;
式(IV)において、Arは2価の芳香族基である]。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本明細書および特許請求の範囲において、「芳香族基」とは、6員の単環または縮合環、あるいは6員の単環または縮合環が、炭素-炭素結合、オキシ基、炭素原子数1〜6のアルキレン基、アミノ基、カルボニル基、スルフィド基、スルフィニル基、および、スルホニル基からなる群より選択される連結基により連結されたものであり、芳香族基中の環数4までのものとする。
【0012】
本発明の全芳香族液晶ポリエステルは当業者にサーモトロピック液晶ポリエステルと呼ばれる異方性溶融相を形成する液晶ポリエステルである。
【0013】
全芳香族液晶ポリエステルの異方性溶融相の性質は直交偏向子を利用した通常の偏向検査法、すなわち、ホットステージにのせた試料を窒素雰囲気下で観察することにより確認できる。
【0014】
本発明に係る全芳香族液晶ポリエステルは、以下の式(I)〜式(IV)で表される繰返し単位のみから構成されるものである:
【化5】

【化6】

【化7】

【化8】

[式(III)において、−O−は互いにメタ位またはパラ位に結合する;
式(IV)において、Arは2価の芳香族基である]。
【0015】
これらの各繰返し単位から構成される全芳香族液晶ポリエステルは、構成成分およびポリマー中の組成比、シークエンス分布によっては、異方性溶融相を形成するものとしないものが存在するが、本発明の全芳香族液晶ポリエステルは異方性溶融相を形成するものに限られる。
【0016】
以下、式(I)〜式(IV)で表される繰返し単位を与える単量体について説明する。
【0017】
式(I)で表される繰返し単位を与える単量体としては、6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸、ならびにこれらのアシル化物、エステル誘導体、酸ハロゲン化物などのエステル形成性誘導体が挙げられる。
【0018】
本発明の全芳香族液晶ポリエステルにおいて、全繰返し単位中の式(I)で表される繰返し単位の含有量は、40〜80モル%であり、より好ましくは45〜70モル%であり、特に好ましくは50〜65モル%である。
【0019】
式(II)で表される繰返し単位を与える単量体としては、4,4’−ジヒドロキシビフェニル、ならびにこれらのアシル化物などのエステル形成性誘導体が挙げられる。
【0020】
式(III)で表される繰返し単位を与える単量体としては、ハイドロキノンおよび/またはレゾルシン、ならびにこれらのアシル化物などのエステル形成性誘導体が挙げられる。
【0021】
式(II)で表される繰返し単位の、式(II)で表される繰返し単位および式(III)で表される繰返し単位の合計量に対するモル比率としては、得られる全芳香族液晶ポリエステルの機械的性質が優れる点で、80〜99.9モル%、より好ましくは85〜99モル%、特に好ましくは90〜98モル%である。式(II)で表される繰返し単位の、式(II)で表される繰返し単位および式(III)で表される繰返し単位の合計量に対するモル比率が80モル%未満である場合には、耐熱性が著しく低下するために好ましくない。
【0022】
式(IV)で表される繰返し単位を与える単量体としては、たとえばテレフタル酸、イソフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、1,6−ナフタレンジカルボン酸、2,7−ナフタレンジカルボン酸、1,4−ナフタレンジカルボン酸、4,4’−ジカルボキシビフェニル等の芳香族ジカルボン酸、これらのアルキル、アルコキシまたはハロゲン置換体、ならびにそれらのエステル誘導体、酸ハロゲン化物などのエステル形成性誘導体が挙げられる。
【0023】
本発明の全芳香族液晶ポリエステルにおいて、以上説明した単量体により与えられる式(IV)で表される繰返し単位における基−Ar−としては、以下に示す群から選択されるものが挙げられる。
【化9】

【0024】
これらの中では、得られる全芳香族液晶ポリエステルの機械物性、耐熱性、融点温度、成形性を適度なレベルに調整しやすいことから、式(IV)で表される繰返し単位としては、以下の式(1)〜(3)で表される繰返し単位から選択される1種以上のものが好ましい。
【化10】

【0025】
本発明の全芳香族液晶ポリエステルにおいて、全繰返し単位中の、芳香族ジオキシ繰返し単位(式(II)で表される繰返し単位と式(III)で表される繰返し単位の合計量)と芳香族ジカルボキシ繰返し単位(式(IV)で表される繰返し単位)のモル比率は、90/100〜100/90であるのが好ましく、95/100〜100/95であるのがより好ましい。
【0026】
以下、本発明の全芳香族ポリエステルの製造方法について説明する。
本発明の全芳香族液晶ポリエステルの製造方法に特に制限はなく、前記の単量体の組み合わせからなるエステル結合を形成させる公知の重縮合方法、例えば溶融アシドリシス法、スラリー重合法などを用いることができる。
【0027】
溶融アシドリシス法とは、本発明で用いる全芳香族液晶ポリエステルの製造方法に用いるのに好ましい方法であり、この方法は、最初に単量体を加熱して反応物質の溶融液を形成し、続いて反応を続けて溶融ポリマーを得るものである。なお、縮合の最終段階で副生する揮発物(例えば、酢酸、水等)の除去を容易にするために真空を適用してもよい。
【0028】
スラリー重合法とは、熱交換流体の存在下で反応させる方法であって、固体生成物は熱交換媒質中に懸濁した状態で得られる。
【0029】
溶融アシドリシス法およびスラリー重合法の何れの場合においても、液晶ポリエステルを製造する際に使用する重合性単量体成分は、ヒドロキシル基をアシル化した変性形態、すなわち低級アシル化物として反応に供することもできる。低級アシル基は炭素原子数2〜5のものが好ましく、炭素原子数2または3のものがより好ましい。特に好ましくは前記単量体のアセチル化物を反応に用いる方法が挙げられる。
【0030】
単量体のアシル化物は、別途アシル化して予め合成したものを用いてもよいし、全芳香族液晶ポリエステルの製造時に単量体に無水酢酸等のアシル化剤を加えて反応系内で生成せしめることもできる。
【0031】
溶融アシドリシス法またはスラリー重合法の何れの場合においても反応時、必要に応じて触媒を用いてもよい。
触媒の具体例としては、ジアルキルスズオキシド(たとえばジブチルスズオキシド)、ジアリールスズオキシドなどの有機スズ化合物;二酸化チタン、三酸化アンチモン、アルコキシチタンシリケート、チタンアルコキシドなどのチタン化合物;カルボン酸のアルカリまたはアルカリ土類金属塩(たとえば酢酸カリウム);無機酸塩類(たとえば硫酸カリウム);ルイス酸(例えば三フッ化硼素);ハロゲン化水素(例えば塩化水素)などの気体状酸触媒などが挙げられる。
【0032】
触媒の使用割合は、通常モノマーに対して10〜1000ppm、好ましくは20〜200ppmである。
【0033】
このようにして重縮合反応され得られた、本発明の全芳香族液晶ポリエステルは、溶融状態で重合反応槽より抜き出された後に、ペレット状、フレーク状、または粉末状に加工される。
【0034】
ペレット状、フレーク状、または粉末状の全芳香族液晶ポリエステルは、所望により、耐熱性を高めるなどの目的で、真空下、または窒素、ヘリウムなどの不活性ガス雰囲気下において固相状態で熱処理を行ってもよい。
【0035】
また、本発明の全芳香族液晶ポリエステルは、ギガヘルツ帯域の高周波領域において低い誘電正接を示すものである。具体的には長さ85mm、幅1.75mm、厚さ1.75mmのスティック状試験片を用いて、1GHzにおいて測定した誘電正接が、0.001以下、より好ましくは0.0008以下と非常に低いものである。
【0036】
本発明の全芳香族液晶ポリエステルの誘電正接については、空洞共振器摂動法によって測定することが出来る。
【0037】
さらに、本発明の全芳香族液晶ポリエステルは、12.7×64×2.0mmの短冊状曲げ試験片を用いてASTM D256に準拠して測定したIzod衝撃強度が100J/m以上、より好ましくは130J/m以上と高いものである。
【0038】
上記のようにして得られた、本発明の全芳香族液晶ポリエステルに、無機充填材および/または有機充填材を配合して、全芳香族液晶ポリエステル組成物としてもよい。
【0039】
本発明の全芳香族液晶ポリエステルに配合してもよい、無機充填材および/または有機充填材としては、たとえばガラス繊維、シリカアルミナ繊維、アルミナ繊維、炭素繊維、チタン酸カリウム繊維、ホウ酸アルミニウム繊維、アラミド繊維、タルク、マイカ、グラファイト、ウォラストナイト、ドロマイト、クレイ、ガラスフレーク、ガラスビーズ、ガラスバルーン、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、および酸化チタンからなる群から選択される1種以上が挙げられる。これらの中では、ガラス繊維が物性とコストのバランスが優れている点で好ましい。
【0040】
本発明の全芳香族液晶ポリエステル組成物における、無機充填材および/または有機充填材の配合量は、全芳香族液晶ポリエステル100重量部に対して、0.1〜200重量部、好ましくは1〜100重量であるのがよい。
【0041】
前記の無機充填材および/または有機充填剤の配合量が200重量部を超える場合には、成形加工性が低下したり、成形機のシリンダーや金型の磨耗が大きくなる傾向がある。
【0042】
本発明の全芳香族液晶ポリエステルまたは全芳香族液晶ポリエステル組成物には、本発明の効果を損なわない範囲でさらに、高級脂肪酸、高級脂肪酸エステル、高級脂肪酸アミド、高級脂肪酸金属塩(ここで高級脂肪酸とは炭素原子数10〜25のものをいう)、ポリシロキサン、フッ素樹脂などの離型改良剤;染料、顔料などの着色剤;酸化防止剤;熱安定剤;紫外線吸収剤;帯電防止剤;界面活性剤などから選ばれる1種または2種以上を組み合わせて配合してもよい。
【0043】
高級脂肪酸、高級脂肪酸エステル、高級脂肪酸金属塩、フルオロカーボン系界面活性剤などの外部滑剤効果を有するものについては、全芳香族液晶ポリエステルまたはその組成物を成形するに際して、予め、全芳香族液晶ポリエステルまたはその組成物のペレットの表面に付着せしめてもよい。
【0044】
また、本発明の全芳香族液晶ポリエステルまたはその組成物には、本発明の目的を損なわない範囲で、さらに、本発明の全芳香族液晶ポリエステルと同様の温度域で成形加工可能である他の樹脂成分を配合してもよい。他の樹脂成分としては、たとえばポリアミド、ポリエステル、ポリアセタール、ポリフェニレンエーテル、およびその変性物、ならびにポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルイミド、ポリアミドイミドなどの熱可塑性樹脂や、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂などの熱硬化性樹脂が挙げられる。他の樹脂成分は、単独で、あるいは2種以上を組み合わせて配合することができる。他の樹脂成分の配合量は特に限定的ではなく、全芳香族液晶ポリエステルまたは全芳香族液晶ポリエステル組成物の用途や目的に応じて適宜定めればよい。典型的には全芳香族液晶ポリエステルまたはその組成物中の全芳香族液晶ポリエステル100重量部に対して、他の樹脂の合計配合量が0.1〜100重量部、特に0.1〜80重量部となる範囲で添加される。
【0045】
これらの無機充填剤および/または有機充填材、強化材、添加剤、並びに他の樹脂などは、全芳香族液晶ポリエステル中に添加され、バンバリーミキサー、ニーダー、一軸もしくは二軸押出機などを用いて、全芳香族液晶ポリエステルの結晶融解温度近傍ないし結晶融解温度+30℃ で溶融混練して組成物とすることができる。
【0046】
この様にして得られた、本発明の全芳香族液晶ポリエステルまたはその組成物は、射出成形機、押出機などを用いる公知の成形方法によって、成形品、フィルム、シート、および不織布などに加工される。
【0047】
本発明の全芳香族液晶ポリエステルまたは全芳香族液晶ポリエステル組成物は、高周波帯域における誘電特性に優れるとともに、衝撃強度などの機械的性質に優れるため、アンテナ、コネクター、基板などの高周波用途で用いられる電子部品の材料として特に好適に用いられる。
【実施例】
【0048】
以下、実施例により本発明を詳細に説明する。
実施例および比較例において、結晶融解温度(Tm)、荷重たわみ温度(DTUL)、引張強度、曲げ強度、Izod衝撃強度、誘電正接(tanδ)は以下の方法で測定した。
【0049】
1)結晶融解温度(Tm)
示差走査熱量計としてセイコーインスツルメント株式会社製 Exstar6000を用い、液晶ポリエステルの試料を、室温から20℃/分の昇温条件で測定した際に観測される吸熱ピーク温度(Tm1)の観測後、Tm1より20〜50℃高い温度で10分間保持する。ついで、20℃/分の降温条件で室温まで試料を冷却した後に、再度20℃/分の昇温条件で測定した際の吸熱ピークを観測し、そのピークトップを示す温度を全芳香族液晶ポリエステルの融点とした。
【0050】
2)荷重たわみ温度(DTUL)
全芳香族液晶ポリエステルの試料を射出成形機(日精樹脂工業(株)製UH1000−110)を用いて長さ127mm、幅12.7mm、厚さ3.2mmの短冊状試験片に成形し、これを用いてASTM D648に準拠し、荷重1.82MPa、昇温速度2℃/分で測定した。
【0051】
3)引張強度
型締め圧15トンの射出成形機(住友重機械工業株式会社製 MINIMAT M26/15)を用いてシリンダ温度350℃、金型温度70℃で射出成形し、図1の厚み2.0mmのダンベル状試験片を得た。引張試験はINSTRON5567(インストロンジャパン カンパニイリミテッド社製万能試験機)を用いて、スパン間距離25.4mm、引っ張り速度5mm/minで行った。
【0052】
4)曲げ強度
型締め圧15トンの射出成形機(住友重機械工業株式会社製 MINIMAT M26/15)を用いてシリンダ温度350℃、金型温度70℃で射出成形し、12.7×64×2.0mmの短冊状曲げ試験片を得た。曲げ試験は、3点曲げ試験をINSTRON5567(インストロンジャパン カンパニイリミテッド社製万能試験機)を用いて、スパン間距離40.0mm、圧縮速度1.3mm/minで行った。
【0053】
5)Izod衝撃強度
曲げ強度測定に用いた試験片と同じ試験片を用いて、ASTM D256に準拠して測定した。
【0054】
6)誘電正接(tanδ)
射出成形機(日精樹脂工業株式会社製 PS40)を用いて、長さ85mm、幅1.75mm、厚さ1.75mmのスティック状試験片を作成し、その試験片を用いて、ベクトルネットワークアナライザー(アジレントテクノロジー社製)にて1GHzにおける誘電正接を空洞共振器摂動法により測定した。
【0055】
以下、合成例および実施例における略号は以下の化合物を表す。
〔液晶ポリエステル樹脂モノマー〕
BON6:6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸
BP:4,4’−ジヒドロキシビフェニル
HQ:ハイドロキノン
RE:レゾルシン
TPA:テレフタル酸
【0056】
実施例1
トルクメーター付き攪拌装置および留出管を備えた反応容器にBON6、BP、HQ、およびTPAを表1に示す組成比で、総量6.5molとなるように仕込み、次いで酢酸カリウム26.7mg(全モノマーに対して22.6ppm)および、全モノマーの水酸基量(モル)に対して1.03倍モルの無水酢酸を仕込み、次の条件で脱酢酸重合を行った。
【0057】
表1:合成例1モノマー組成比
【表1】

【0058】
窒素ガス雰囲気下に室温〜150℃まで1時間で昇温し、同温度にて60分間保持した。次いで、副生する酢酸を留去させつつ350℃まで7時間かけて昇温した後、90分かけて10mmHgにまで減圧し、所定のトルクを示した時点で重合反応を終了した。反応容器から内容物を取り出し、冷却固化し、粉砕機で粉砕することにより全芳香族液晶ポリエステルのペレットを得た。重合時の留出酢酸量は、ほぼ理論値どおりであった。
【0059】
得られた全芳香族液晶ポリエステルの、結晶融解温度、荷重たわみ温度、引張強度、曲げ強度、Izod衝撃強度、および誘電正接(1GHz)の測定値を表2に記載する。
【0060】
実施例2〜6、比較例1、および比較例2
モノマーの組成比、および酢酸カリウムの使用量を表2に記載のものに変えることの他は、実施例1と同様にして、全芳香族液晶ポリエステルを得た。
【0061】
得られた全芳香族液晶ポリエステルの、結晶融解温度、荷重たわみ温度、引張強度、曲げ強度、Izod衝撃強度、および誘電正接(1GHz)の測定値を表2に記載する。
【0062】
表2:全芳香族液晶ポリエステルの物性値
【表2】

*:1GHzでの測定値。
【0063】
BP、HQ、およびREの合計量に対して、90〜96モル%程度のBPをモノマーとして用いた、実施例1〜6の全芳香族液晶ポリエステルは、芳香族ジオールとしてBPのみを用いた比較例1および比較例2の全芳香族液晶ポリエステルと比較し、引張強度、曲げ強度、Izod衝撃強度の何れの機械的性質についても優れる物であった。
【0064】
また、実施例1〜6の何れの全芳香族液晶ポリエステルも、比較例と同様に低い誘電正接を示しており、機械的性質を改良することにより誘電特性が損なわれていないことが判る。
【0065】
比較例3
トルクメーター付撹拌装置および留出管を備えた反応容器に、BON6(80モル%)、BP(9モル%)、HQ(1モル%)、およびTPA(10モル%)を総量6.5molとなるように仕込んだ他は、実施例1と同様に重合反応を行ったところ、160℃付近で反応容器の内容物が塊状になり撹拌困難となったため、全芳香族液晶ポリエステルは得ることはできなかった。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】引張強度試験に用いたダンベル状試験片の模式図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(I)、式(II)、式(III)、および式(IV)で表される繰り返し単位からなる全芳香族液晶ポリエステルであって、
i)全芳香族液晶ポリエステル中の全繰返し単位の合計量に対する、式(I)で表される繰返し単位のモル比率が40〜80モル%であって、
ii)式(II)で表される繰り返し単位と式(III)で表される繰り返し単位の合計量と、式(IV)で表される繰返し単位のモル比が90/100〜100/90であって、
iii)式(II)で表される繰返し単位と式(III)で表される繰返し単位の合計量に対する、式(II)で表される繰返し単位のモル比率が80〜99.9モル%である、全芳香族液晶ポリエステル:
【化1】

【化2】

【化3】

【化4】

[式(III)において、−O−は互いにメタ位またはパラ位に結合する;
式(IV)において、Arは2価の芳香族基である]。
【請求項2】
式(II)で表される繰返し単位と式(III)で表される繰返し単位の合計量に対する、式(II)で表される繰返し単位のモル比率が90〜98モル%である、請求項1に記載の全芳香族液晶ポリエステル。
【請求項3】
式(IV)で表される繰返し単位が、以下の式(1)〜(3)で表される繰り返し単位からなる群より選択される1種以上のものである、請求項1または2に記載の全芳香族液晶ポリエステル。
【化5】

【請求項4】
12.7×64×2.0mmの短冊状曲げ試験片を用いてASTM D256に準拠して測定したIzod衝撃強度が100J/m以上である、請求項1〜3の何れかに記載の全芳香族液晶ポリエステル。
【請求項5】
長さ85mm、幅1.75mm、厚さ1.75mmのスティック状試験片を用いて、1GHzにおいて測定した誘電正接が0.001以下である請求項1〜4の何れかに記載の全芳香族液晶ポリエステル。
【請求項6】
請求項1〜5の何れかに記載の全芳香族液晶ポリエステル100重量部に対し、無機充填材および/または有機充填材の1種以上を0.1〜200重量部含んでなる全芳香族液晶ポリエステル組成物。
【請求項7】
無機充填材および/または有機充填材が、ガラス繊維、シリカアルミナ繊維、アルミナ繊維、炭素繊維、チタン酸カリウム繊維、ホウ酸アルミニウム繊維、アラミド繊維、タルク、マイカ、グラファイト、ウォラストナイト、ドロマイト、クレイ、ガラスフレーク、ガラスビーズ、ガラスバルーン、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、および酸化チタンからなる群から選択される1種以上のものである、請求項6に記載の全芳香族液晶ポリエステル組成物。
【請求項8】
無機充填材がガラス繊維である、請求項7に記載の全芳香族液晶ポリエステル組成物。
【請求項9】
請求項1〜5の何れかに記載の全芳香族液晶ポリエステルまたは請求項6〜8の何れかに記載の全芳香族液晶ポリエステル組成物を成形してなる成形品。
【請求項10】
アンテナ、コネクター、または基板である、請求項9に記載の成形品。

【図1】
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【公開番号】特開2009−108190(P2009−108190A)
【公開日】平成21年5月21日(2009.5.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−281825(P2007−281825)
【出願日】平成19年10月30日(2007.10.30)
【出願人】(000189659)上野製薬株式会社 (76)
【Fターム(参考)】