説明

全血検体の成分測定方法

【課題】本発明は、血液中の特定成分の測定において、全血状態から迅速に測定結果を得る方法に関する。
【解決手段】以下の工程を含むことを特徴とする全血検体の成分測定方法。(1)全血検体を、酸化剤および界面活性剤を含む溶液と希釈する工程。(2)希釈した検体の目的成分を測定する工程。(3)希釈した検体のヘモグロビン(Hb)量を定量する工程。(4)(2)における測定結果を、(3)における定量値に基づいてヘマトクリット(Ht)補正を行うことにより、血清または血漿を測定した際の測定結果に換算する工程。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血液中の特定成分の測定において、全血状態から迅速に測定結果を得る方法に関する。さらに得られた測定結果から、血清又は血漿を仮想的に測定した場合の測定値へ変換する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
医療分野、医学研究分野などにおいて、血液中の特定成分を測定することが必要とされ、そのために種々の測定方法が開発され、実施されている。
【0003】
一般的な測定方法としては、患者や被測定者から血液を採取し、得られた血液(以下、全血という)を遠心分離し、上澄み(血清又は血漿)を得、これを適当な緩衝液により希釈し、この希釈物と血清又は血漿中の特定成分と反応する試薬とを接触させることにより生じる物理化学的変化を測定する方法が挙げられる。
【0004】
別の観点では、最近、ポイント・オブ・ケアテスティング(POCT)の観点から「患者の身辺」または病院での「ベッドサイド」で、より迅速な検査が行われることが望まれているが、血清又は血漿を検体とする場合は、採血管の遠心分離作業を必要とし、一連の測定作業が煩雑になるだけでなく測定までに要する時間が長くなる問題点がある。
【0005】
しかし、全血を検体とする場合には、多量に含まれる血球成分が測定値へ干渉する問題点がある。これを解決するため、予め血球成分の測定への影響を考慮するために、血液中に占める血球の容積の割合を示す数値であるヘマトクリット値を利用して、補正を行う方法が考案されている。
【0006】
例えば、特許文献1には、発色組成物を含有してなる多層分析色素子により、500〜590nmの範囲内で定められた一の波長の光を用いて赤血球内の色素の赤色濃度を測定する一方で、500nmよりも短波長側領域または590nmよりも長波長側領域の範囲内で定められた一の波長の光を用いて血液検体の発色濃度を測定する方法が開示されており、このような構成の定量方法によれば、発色濃度から得られるグルコース値を、赤色濃度から得られるヘマトクリット値を用いて補正しつつ、グルコース濃度を定量することができるとされている。
また、特許文献2には、ヘモグロビンに特異的な吸収波長の光で測定された前記血液検体の光学特性と、前記呈色反応で生成した色素に特異的な、ヘモグロビンに特異的な吸収波長とは異なる吸収波長の光で測定された前記血液検体の光学特性とに基づいて、前記血液検体のヘマトクリット値を算出し、ヘマトクリット補正を行う方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2000−262298
【特許文献2】特開2009−236487
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1および特許文献2に記載の方法は、赤血球の色素の赤色濃度またはヘモグロビンに特異的な吸収波長の光学特性値を用いて、予め用意された検量線に基づいて、ヘマトクリット値を算出する方法である。したがって、この方法では、赤血球またはヘモグロビンの酸化・還元状態の影響を受けるため、ヘマトクリット値を正確に測定するのは困難である。
すなわち、検量線は一義的に定められた条件(酸化・還元状態)において決定されたものであるのに対して、実際の赤血球の酸化・還元状態は測定に供される血液資料毎に異なるものである。そのため、赤血球の色素の赤色濃度またはヘモグロビンに特異的な吸収波長の光学特性値を用いてヘマトクリットを算出する方法では、ヘマトクリット値を正確に測定できず、ヘマトクリット値に起因する測定誤差を適切に補正するのは困難である。
【0009】
本発明は上記の先行技術における問題点を解決することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、酸化剤および界面活性剤を含む溶液で全血検体を処理することにより
ヘモグロビンの酸化還元状態を一定にできることを見出し、本方法を用いることでヘモグロビン濃度からのヘマトクリットの補正の精度が向上し、その結果、全血検体の成分測定精度が向上することを見出し本発明に到達した。
さらに本発明によれば迅速にヘモグロビンの酸化還元状態を一定にできることより測定時間が大幅に短縮されるため、全血検体の成分測定を迅速に行うことが可能となる。
【0011】
すなわち、本発明は以下のような構成からなる。
[項1]
以下の工程を含むことを特徴とする全血検体の成分測定方法。
(1)全血検体を、酸化剤および界面活性剤を含む溶液と希釈する工程。
(2)希釈した検体の目的成分を測定する工程。
(3)希釈した検体のヘモグロビン(Hb)量を定量する工程。
(4)(2)における測定結果を、(3)における定量値に基づいてヘマトクリット(Ht)補正を行うことにより、血清または血漿を測定した際の測定結果に換算する工程。
[項2]
酸化剤が亜硝酸塩を含むものである項1に記載の方法。
[項3]
希釈した検体中の亜硝酸塩の終濃度が1.4mM以上である項1〜2のいずれかに記載の方法。
[項4]
希釈した検体中の亜硝酸塩の終濃度が1.4mM以上270mM以下である項1〜2のいずれかに記載の方法。
[項5]
酸化剤が亜硝酸ナトリウムまたは亜硝酸カリウムを含むものであることを特徴とする項1〜4に記載の方法。
[項6]
界面活性剤が以下の(a)〜(h)のうちいずれかである項1に記載の方法。
(a)下記式(I)で示される化合物
R−O−X ・・・(I)
(Rは、炭素数が9〜18のアルキル基または置換アルキル基であり、Xは、ポリオキシエチレン残基である。)
(b)コール酸またはその誘導体
(c)サポニン
(d)ジギトニン
(e) シュークロースモノラウレート
(f) n-ドデシル-β-D-マルトシド
(g)オクチルチオグルコシド
[項7]
以下の工程を含む全血検体の成分測定方法に用いるための希釈用溶液であって、酸化剤および界面活性剤を含むことを特徴とする希釈用溶液。
(1)全血検体を、希釈用溶液と希釈する工程。
(2)希釈した検体の目的成分を測定する工程。
(3)希釈した検体のヘモグロビン(Hb)量を定量する工程。
(4)(2)における測定結果を、(3)における定量値に基づいてヘマトクリット(Ht)補正を行うことにより、血清または血漿を測定した際の測定結果に換算する工程。
[項8]
項7の希釈用溶液を含む、全血検体の成分を測定するためのプロダクト。
【発明の効果】
【0012】
本発明により、ヘモグロビンの酸化還元状態を迅速に一定状態にでき、その結果、ヘモグロビン濃度からのヘマトクリット補正の精度と速度が向上するため全血検体からの測定精度と速度が向上する。
また本発明で用いる酸化剤は特定成分の測定に用いる試薬への影響が少ない、(同一検体から複数の項目測定が可能)などの効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】全血検体を、本発明の方法で用いる酸化剤および界面活性剤を含む溶液で希釈した際の、505nmの吸光度の時間経過を示す。
【図2】HbA1c測定における本発明の方法と対照法との相関を示す。
【図3】GLU測定における本発明の方法と対照法との相関を示す。
【図4】CRE測定における本発明の方法と対照法との相関を示す。
【図5】BUN測定における本発明の方法と対照法との相関を示す。
【図6】T−CHO測定における本発明の方法と対照法との相関を示す。
【図7】HDL−C測定における本発明の方法と対照法との相関を示す。
【図8】LDL−C測定における本発明の方法と対照法との相関を示す。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の実施の形態について詳細に説明すれば以下のとおりであるが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0015】
本発明の測定方法の特徴的な構成
本発明の全血検体の成分測定方法は、以下の工程を含むことを特徴とする。
(1)全血検体を、酸化剤および界面活性剤を含む溶液と希釈する工程。
(2)希釈した検体の目的成分を測定する工程。
(3)希釈した検体のヘモグロビン(Hb)量を定量する工程。
(4)(2)における測定結果を、(3)における定量値に基づいてヘマトクリット(Ht)補正を行うことにより、血清または血漿を測定した際の測定結果に換算する工程。
【0016】
用語の説明
「全血検体」
本発明の成分測定方法が対象とする検体は特に断らない限り全血であるが、本明細書において「全血検体」とは、全血に血球成分を全部または一部維持したまま適宜希釈等の処理を行ったものも含まれる。
【0017】
「全血検体を希釈した検体」
本明細書において、「希釈した検体」(以下、「希釈した検体」を「希釈液」とも記す。)とは上述の定義による「全血検体」を他の溶液で希釈することを意味する。希釈に用いる溶液(以下、希釈に用いる溶液を「希釈用溶液」とも記す。)の組成は、「酸化剤および界面活性剤を含む溶液」を用いること以外は特に限定されない。また、希釈の方法も特に限定されない。
希釈のタイミングは、「ヘモグロビン量の定量」が完了するよりは前でないといけないが、「ヘモグロビン量の定量」と少なくとも一部の時間を共有して同時進行しても良い。希釈のタイミングは、「目的成分の測定」に対しては前でも後でも同時進行でも良く特に制限されない。
【0018】
「目的成分の測定」
本発明の成分測定方法が対象とする目的成分およびその測定方法は、特に限定されない。
目的成分としては、総タンパク質(TP)、アルブミン(Alb)、コリンエステラーゼ、乳酸脱水素酵素(LDH)、AST(GOT)、ALT(GPT)、γ−GTP、アルカリホスファターゼ、総ビリルビン(T.B)、直接ビリルビン(D.B) 、アミラーゼ(AMY)、クレアチニン(CRE)、クレアチンキナーゼ(CK)、総コレステロール(T−CHO)、中性脂肪(トリグリセリド)、HDLコレステロール(HDL−C)、LDLコレステロール(LDL−C)、尿素窒素(BUN)、ナトリウム(Na)、カリウム(K)、クロール(Cl)、カルシウム(CA)、無機リン(IP)、鉄(血清鉄:FE)、不飽和鉄結合能(UIBC)、グルコース(GLU)、HbA1c、グリコアルブミン、インスリン、C反応性蛋白(CRP)、CEA、AFP、PSA、BNP、NT−proBNPなどが挙げられる。
目的成分の測定方法としては、検体と目的成分に反応する試薬とを接触させることにより生じる物理化学的変化を測定する方法など、種々の公知の測定原理を用いた方法が挙げられる。物理化学的変化としては、色素の化学変化や凝集による光学的・電気化学的変化などが例示され、その手段として、酵素などを介してもよい。
波長は、適宜設定すればよく300nmから850nmの間であれば、特に限定されない。ヘモグロビン量の定量と同じ波長を用いることもできる。
【0019】
「ヘモグロビン量の定量」
ヘモグロビン量定量方法は限定されるものではなく、種々の公知の方法を用いてよい。例えば赤血球の色素の赤色濃度を測定するのであれば、被検液を450nmから700nmの範囲内のいずれかの波長で吸光度を測定する方法が例示される。測定波長の下限は450nm、さらには480nmが好ましく、上限は700nm、さらには660nmが好ましい。ヘモグロビンをメト化して測定する場合、480nmから550nmの波長または550nmから660nmの範囲内のいずれかの波長で吸光度を測定することが例示される。特に500nm付近(490nmから510nm)または630nm付近(620nmから640nm)が好ましい。
【0020】
「ヘマトクリット補正」
希釈した検体の目的成分の測定結果を、ヘモグロビン定量値に基づいてヘマトクリット補正を行うことにより、血清または血漿を測定した際の測定結果に換算する方法は、特に限定されるものではなく、種々の公知の方法を用いてよい。例えば、上述の特許文献1または特許文献2に記載の方法を用いることができる。
【0021】
「酸化剤」
本発明の成分測定方法で用いる酸化剤としては、特に限定されないが、フェリシアン化物、亜硝酸塩、硝酸塩、アジ化物、過マンガン酸カリウムなどが使用できる。
この中で、亜硝酸塩を含むものが特に好ましい。亜硝酸塩としては特に限定されないが、亜硝酸ナトリウムまたは亜硝酸カリウムを含むものが好ましい。亜硝酸塩が好ましいのは、生体成分の検出に一般的に用いられるトリンダー色素、カップラー、ロイコ色素への影響や成分特異的な酵素に対して影響が小さいためである。
亜硝酸塩に、さらに硝酸塩を含有させても良い。硝酸塩としては特に限定されないが、硝酸アンモニウムなどが例示できる。
好ましい亜硝酸塩と硝酸塩の組合せとしては、亜硝酸ナトリウムと硝酸アンモニウム
亜硝酸カリウムと硝酸アンモニウムの組み合わせが例示できる。
【0022】
全血検体を酸化剤および界面活性剤を含む溶液と希釈する工程で得られた、希釈液中の亜硝酸塩の濃度は、下限が1.4mM、1.45mM、4mM、7mM、15mM、36mMであることが好ましい。上限は270mM、268.25mM、200mM、150mM、100mM、75mMであることが好ましい。
【0023】
なお、本明細書において、希釈液中の亜硝酸塩の終濃度は、原則として、希釈用溶液の製造時における亜硝酸塩の添加濃度に希釈倍率を乗じたもので示す。希釈用溶液の製造時の亜硝酸塩の添加濃度がわからない場合は、該溶液の亜硝酸濃度を公知の方法で実測した値に希釈倍率を乗じることにより求めることができる。それも出来ない場合は、希釈液の亜硝酸濃度を公知の方法で実測する。
【0024】
希釈倍率は限定されないが、2倍以上が好ましい。
更に好ましくは4倍以上、80倍以下である。検体に対する希釈倍率を4倍以上とすることで検体の均一化がより迅速に進む。一方で希釈上限倍率としては、測定項目ごとの測定限界感度を下回らない範囲で希釈することが好ましく、例えば80倍、好ましくは50倍以下に希釈する。
【0025】
「界面活性剤」
本発明の成分測定方法で用いる界面活性剤としては、特に限定されないが、以下の(a)〜(g)のうちいずれかが例示できる。
(a)下記式(I)で示される化合物
R−O−X ・・・(I)
(Rは、炭素数が9〜18のアルキル基または置換アルキル基であり、Xは、ポリオキシエチレン残基である。)
このような化合物としては、エマルゲン130K、エマルゲン150、エマルゲン147、エマルゲン120が例示できる。
(b)コール酸またはその誘導体
このような化合物としては特に限定されないが、コール酸(CAS番号:81−25−4)、デオキシコール酸(CAS番号:83−44−3)、グリココール酸(CAS番号:475−31−0)、タウロコール酸(CAS番号:81−24−3)などが例示できる。
(c)サポニン
このような化合物としては特に限定されないが、例えばCAS番号:8047−15−2が付与されている物質が市販されている。
(d)ジギトニン
このような化合物としては特に限定されないが、例えばCAS番号:11024−24−1が付与されている物質が市販されている。
(e) シュークロースモノラウレート
このような化合物としては特に限定されないが、例えばCAS番号:25339−99−5が付与されている物質が市販されている。
(f) n-ドデシル-β-D-マルトシド
このような化合物としては特に限定されないが、例えばCAS番号:69227−93−6が付与されている物質が市販されている。
(g)オクチルチオグルコシド
このような化合物としては特に限定されないが、例えばCAS番号:85618−21−9が付与されている物質が市販されている。
【0026】
酸化剤と界面活性剤の組合せは、特に限定されない。例えば、以下のような組合せが例示できる。具体的には実施例に記載の組合せが例示できる。
・酸化剤:亜硝酸ナトリウムまたは亜硝酸カリウム(さらに硝酸アンモニウムが添加されていても良い。)
・界面活性剤:デオキシコール酸、Sucrose monolaurate、n−Dodesyl−β−D−maltoside、エマルゲン130K、サポニン、ジギトニン、オクチルチオグルコシド、エマルゲン150、エマルゲン147およびエマルゲン120からなる群からなるいずれか1つ以上
【0027】
あるいは以下の組合せでもよい。
・亜硝酸ナトリウム、デオキシコール酸およびシュークロースモノラウレート
・亜硝酸ナトリウム、硝酸アンモニウム、デオキシコール酸およびシュークロースモノラウレート
・亜硝酸カリウム、硝酸アンモニウム、デオキシコール酸およびエマルゲン130K
・亜硝酸カリウム、硝酸アンモニウム、デオキシコール酸およびオクチルチオグルコシド
・亜硝酸ナトリウム、デオキシコール酸およびオクチルチオグルコシド
・亜硝酸ナトリウム、シュークロースモノラウレートおよびオクチルチオグルコシド
・亜硝酸ナトリウム、硝酸アンモニウム、シュークロースモノラウレートおよびオクチルチオグルコシド
・亜硝酸ナトリウム、デオキシコール酸およびサポニン
・亜硝酸ナトリウム、硝酸アンモニウム、デオキシコール酸およびサポニン
・亜硝酸ナトリウム、シュークロースモノラウレートおよびサポニン
・亜硝酸ナトリウム、硝酸アンモニウム、シュークロースモノラウレートおよびサポニン
中でも「亜硝酸ナトリウム、デオキシコール酸およびシュークロースモノラウレート
」または「亜硝酸ナトリウム、硝酸アンモニウム、デオキシコール酸およびシュークロースモノラウレート」の組合せが、より迅速にHbの酸化還元状態を一定にできるという理由により好ましい。
【0028】
後述の実施例で示したように、この酸化剤と界面活性剤の組合せにより、ヘモグロビン吸収波長のタイムコースが短時間で安定するようになった。
この点について発明者らが、その機序をさらに検討したところ、ヘモグロビンの酸化還元状態が迅速に一定の状態に到達したためタイムコースが安定化したと推定された。
その結果として、全血検体の成分測定に要する時間が大幅に短縮され、迅速な測定方法を確立するに至った。
【0029】
すなわち、本願発明の別の局面は、以下の工程を含み、測定時間が10分、好ましくは5分、さらに好ましくは3分、さらに好ましくは2分、さらに好ましくは60秒以下である全血検体の成分測定方法である。
(1)全血検体を、酸化剤および界面活性剤を含む溶液と希釈する工程。
(2)希釈した検体の目的成分を測定する工程。
(3)希釈した検体のヘモグロビン(Hb)量を定量する工程。
(4)(2)における測定結果を、(3)における定量値に基づいてヘマトクリット(Ht)補正を行うことにより、血清または血漿を測定した際の測定結果に換算する工程。
【0030】
上記測定方法において、目的成分を測定する工程は特に限定されず、種々の公知の方法が利用できる。
例えば、汎用の自動分析機に適用できる2試薬系の方法が例示できる。この方法では、検体に第一試薬(R1)を加えて予め定められた時間定められた温度でインキュベート(第一反応)した後、さらに第二試薬(R2)を加えて予め定められた時間定められた温度でインキュベート(第二反応)し、この間に起こる物理化学的変化を反映する吸光度変化を、測定する。
第一反応の時間と第二反応の時間は分析機の性能に応じて適宜設定することができる。たとえば、5分−5分、2.5分−2.5分、1.5分−1.5分、1分−1分、30秒−30秒などとすればよい。第一反応と第二反応の時間は同じにする必要はなく、どちらかを他方より長くしてもよい。
【0031】
上記測定方法において、Hb量を定量する工程は、目的成分の測定と別に行っても良いし、目的成分を測定する工程と同時に行ってもよい。目的成分を測定する工程と同時に行う場合、例えば、目的成分を測定する工程の第一反応の反応液において、色素の赤色濃度を測定することができる。こうすれば分析機の測定チャネルを増やさなくて済む利点がある。
測定の目的成分が複数に亘る場合は、任意の1つの目的成分を測定する工程においてHb量を定量し、その結果を他の成分の測定に反映させてもよい。
【0032】
後述の実施例でも示すように、全血検体を、本発明の方法で用いる酸化剤および界面活性剤を含む溶液で希釈することによって、迅速にHbの吸光度が一定になる。
このような現象がおこる理由は、本発明の界面活性剤を用いることでHbの溶血および試料の均一化が迅速に行われ、同時に、本発明の酸化剤によってHbがメト化されるため、迅速にヘモグロビンの酸化還元状態を一定にすることができるからであると考察される。
これにより、好ましくは希釈後60秒、50秒、40秒、30秒、20秒、10秒以下でHbの吸光度が一定になり、迅速なHb定量が可能となることから、トータルでの測定時間が、好ましくは10分、5分、3分、2分、60秒以下と大幅に短縮されるため、迅速な測定が可能となる。
【0033】
本発明の全血検体の成分測定方法について、具体的な事例を示して更に説明する。本発明は以下の事例により限定されるものではない。
[1]酸化剤および界面活性剤入りの前処理液で検体を希釈し500nmまたは630nmを測定(Hb定量)する。得られた吸光度を(A)ABSとする。
なお、500nmは490nmから510nmの波長であれば良く、630nmは620nmから640nmの波長であれば良い。
[2][1]のサンプルと測定項目の試薬を混合し、反応による発色が生じる前に測定項目の測定波長を測定(例えば、GLUまたはBUNを、NADを利用して測定する場合は340nm。例えば、CREを、4−アミノアンチピリンとトリンダー試薬との縮合により生成するキノン色素を利用して測定する場合は540nm)する。得られた吸光度を(B)ABSとする。
[3]反応による発色が生じた後に測定項目を測定する。得られた吸光度を(C)ABSとする。
[4](A)よりHt値(%)を求める。得られたHt値を(D)%とする。
[5](C)−(B)=(E)より全血中の測定項目濃度を算出する。
[6](E)×100/100−(D)の式より(E)を(D)で補正し、全血成分中の測定項目の値を血漿または血清中の値に変換して測定項目の値(F)を求める。
【0034】
全血検体の成分測定方法に用いるための希釈用溶液
本発明はまた、以下の工程を含む全血検体の成分測定方法に用いるための希釈用溶液であって、酸化剤および界面活性剤を含むことを特徴とする希釈用溶液である。
(1)全血検体を、希釈用溶液と希釈する工程。
(2)希釈した検体の目的成分を測定する工程。
(3)希釈した検体のヘモグロビン(Hb)量を定量する工程。
(4)(2)における測定結果を、(3)における定量値に基づいてヘマトクリット(Ht)補正を行うことにより、血清または血漿を測定した際の測定結果に換算する工程。
【0035】
本発明の希釈用溶液に用いる酸化剤、界面活性剤についての詳細は、上記の、本発明の全血検体の成分測定方法に関する説明によりサポートされる。
本発明の希釈用溶液には、上記のほか、必要な組成があれば適宜添加してもよい。
【0036】
全血検体の成分を測定するためのプロダクト
本発明はまた、上記の希釈用溶液を含む、全血検体の成分を測定するためのプロダクトである。これらのプロダクトには、全血検体を測定するための試薬、キット、センサーなど種々の形態が例示できる。
なお、本明細書において「プロダクト」とは、使用者が当該用途を実行する目的で用いる1セットのうち一部または全部を構成する製品であって、本発明の希釈用溶液を含むものを意味する。
【0037】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明は以下の実施例により限定されるものではない。
【実施例1】
【0038】
[実施例1]溶血時間とHb定量

<希釈用溶液>
実施例1
下記を含む水溶液を、下記の操作方法を実行したときに希釈液中で表記の濃度になるように作製した。
亜硝酸ナトリウム 14.5mM
デオキシコール酸 0.1%
シュークロースモノラウレート 0.05%
比較例1
下記を含む水溶液を、下記の操作方法を実行したときに希釈液中で表記の濃度になるように作製した。
アニリン 0.1% (分子量93.13 0.1%=10.7mM)
Tween20 0.1%

<操作方法>
全血検体を希釈用溶液で20倍に希釈し、希釈後、所定の経過時間(表1および図1では「処理時間」)における505nm(主波長)の波長を測定し吸光度を求めた。
【0039】
【表1】

【0040】
表1および図1から、本発明(実施例)および比較例の添加剤について溶血時間とHb定量性がわかる。
本発明の界面活性剤を用いることでHbの溶血および試料の均一化を迅速に行い、同時に酸化剤である亜硝酸塩によってHbがメト化されHbの酸化還元状態が一定になる。
本発明の実施例によれば希釈後10秒で迅速なHb定量が可能となることが確認された。これに対し比較例では、300秒(5分)以上経過しても酸化還元状態が一定にならないことが確認された。
【実施例2】
【0041】
[実施例2]添加剤とHb定量および測定試薬のブランク、感度に与える影響

<希釈用溶液>
表2記載の各添加剤を含む水溶液を、下記の操作方法を実行したときに希釈液中で表記の濃度になるように作製した。

<操作方法>
1.Hb定量
全血検体を希釈用溶液で20倍に希釈し、希釈10秒後の505nm(主波長)の波長を測定し吸光度を求めた。なお、表2中 NO.27、28のフェロシアン化カリウムを用いた比較例は630nm(主波長)を測定し、505nmでの測定値に換算した値を示した。
2.HbA1c測定
下記のHbA1c測定試薬を用いた。
(1)ブランク測定
37℃にインキュベートされたR1;120μLに各希釈用溶液10μLを添加し、37℃で反応を開始し、5分後に660nmの主波長と800nmの副波長を測定し、主波長−副波長より吸光度を求めた。
(2)感度測定
日立7180形自動分析機を用いた。
(HbA1c濃度の測定)
37℃にインキュベートされたR1;120μLに検体1および検体2を各々の希釈用溶液で1/20倍希釈した希釈液から10μLを添加し、37℃で反応を開始した。
R1を添加してから5分後にR2;40μLを添加した。R2添加前及びR2添加5分後の660nmの主波長と800nmの副波長との吸光度差を測定した。
検体2の吸光度差から検体1の吸光度差を減じて、感度を算出した。
検体1;HbA1c低値検体
Hb 101.0μmol/L、HbA1c 3.54μmol/L、HbA1c%が5.0%
検体2;HbA1c高値検体
Hb 153.8μmol/L、HbA1c 13.70μmol/L、HbA1c%が10.2%

<HbA1c測定試薬>
R1
PIPES 50mmol/L(pH7.0)
FAOD(フルクトシルアミノ酸オキシダーゼ)(FPO−301(東洋紡績) 2.0KU/L
DA−67(3,7−ビス(ジメチルアミノ)−10H−フェノチアジン、CAS番号115871−18−6)(和光純薬) 50μmol/L
カタラーゼ 100KU/L(東洋紡績)
ポリオキシエチレンラウリルエーテル(花王) 1.0% (重量%)
R2
PIPES 50mmol/L(pH7.0)
CaCl 10mmol/L
フェロシアン化カリウム 0.01g/L
ペルオキシダーゼ(PEO−302 東洋紡績)20KU/L
サーモリシン(天野エンザイム) 5000KU/L
【0042】
【表2】

【0043】
表2より本発明の添加剤はHb定量を10秒で完了でき、かつ測定試薬に影響を与えないことがわかった。
表2の実験番号1の実施例において、実施例1と同じように、10秒経過以降は505nmの吸光度は約190mABSで一定になっていた。したがって、10秒経過後の吸光度が190mABS前後に達していれば、Hbの酸化還元状態が一定になっていると言える。
表2の各実験番号の実施例においては、10秒後の吸光度が、いずれも190mABS前後の値を示しており、HbA1c測定も、試薬ブランク、感度ともに問題ないレベルであった。
一方、実験番号8〜11および20の比較例においては、HbA1c測定は実験番号10の感度を除いて良好であったものの、190mABSを大きく下回り、Hbのメト化が十分でない状態にあることが示唆された。
また、表2の実験番号27および28の比較例においては、Hbのメト化は十分であったものの、HbA1c測定時の試薬ブランクが異常に大きくなり、感度も各実験番号の実施例と比較して大幅に低下した。酸化剤のフェロシアン化カリウムが、HbA1c測定に影響を与えたと考えられる。
【実施例3】
【0044】
[実施例3]HbA1c、GLU同時測定
本特許の方法を用いて全血試料からHbA1cおよびGLUの同時測定を行い、それぞれ対照法との相関性を比較した。

<希釈用溶液>
下記を含む水溶液を、下記の操作方法を実行したときに希釈液中で表記の濃度になるように作製した。
亜硝酸ナトリウム 14.5mM
デオキシコール酸 0.05%
シュークロースモノラウレート 0.05%

(1)HbA1c、GLU同時測定
(a)HbA1c測定
<HbA1c測定試薬>
R1、R2とも実施例2と同じ。
<操作方法>
(Hb濃度の測定)
37℃にインキュベートされたR1;120μLに下記の方法で希釈した検体を10μL添加し、37℃で反応を開始し、1分後に505nmの吸光度を測定した。
結果を、キャリブレーター1(Hb 101.0μmol/L、HbA1c 3.54μmol/L、HbA1c%が5.0%)とキャリブレーター2(Hb 153.8μmol/L、HbA1c 13.70μmol/L、HbA1c%が10.2%)とを用いて作成した検量線と対比してHb濃度を求めた。
(HbA1c濃度の測定)
また、R1添加、1分後にR2;40μLを添加した。R2添加前及び添加1分後の660nmの吸光度を測定した。結果を、上記と同じキャリブレーター1とキャリブレーター2とを用いて作成した検量線と対比してHbA1c濃度を求めた。
(HbA1c % の測定)
上記で得られた各検体のHb濃度(μmol/L)とHbA1c濃度(μmol/L)から、下記式によりHbA1c(%)を算出した。
HbA1c(%)=
{96.3×HbA1c濃度(μmol/L)/Hb濃度(μmol/L)}+1.6

(b)GLU(グルコース)測定
<GLU測定試薬>
R1
MOPSP 50mmol/L(pH7.0)(同仁化学)
ヘキソキナーゼ(HXK−311 東洋紡績) 4.0KU/L
β−NAD(ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸)(オリエンタル酵母) 1.0%(重量%)
ポリオキシエチレンラウリルエーテル(花王) 0.1% (重量%)
塩化マグネシウム六水和物 (ナカライ) 0.27%(重量%)
R2
TAPS 100mmol/L(pH8.5)(同仁化学)
ポリオキシエチレンラウリルエーテル(花王) 0.1% (重量%)
ATP(アデノシン−5’−三リン酸二ナトリウム ロシュ)0.2% (重量%)
グルコース−6−リン酸脱水素酵素(G6D−321 東洋紡績) 6.0KU/L

<操作方法>
37℃にインキュベートされたR1;160μLに下記の方法で希釈した検体を1.8μL添加し、37℃で反応を開始した。R1添加、1分後にR2;53μLを添加した。R2添加前及び添加1分後の主波長340nmおよび副波長450nmの吸光度を測定した。全血測定結果は、蒸留水(ブランク)とグルコース200mg/dLのキャリブレーターを用いて作成した検量線と対比しグルコース濃度を求めた。さらに上記Hb定量値より予め算出しておいたHb量とHt値の相関式よりHt値を検体ごとに算出し、検体ごとにHt補正を行い、全血測定結果を血漿測定結果に換算した。

<検体希釈方法>
血糖採血管で採取した検体(n=60)を上記の希釈用溶液で1/20希釈しHbA1cおよびGLUを測定した。

<対照法>
HbA1c; 対照法はHPLC法であるHA−8180(アークレイ)を用いて、通法に従い測定を実施した。
GLU ; 対照法は酵素法であるアクアオート カイノスGLU試薬(カイノス)を用いた。上記血糖採血管を3000rpmで10分間遠心し、得られた血漿を試料として用い、通法に従い測定を実施した。
【0045】
図2および図3よりそれぞれHbA1c、GLUの対照法と比較し良好な相関性であることを確認した。本結果より全血検体からHbA1cとGLUを同時に、かつ約2分という短時間で測定可能であることがわかった。
また、本実施例の測定タイムコースの生データを参照して、R1添加1分後のデータの代わりにR1添加30秒後の吸光度データ、R2添加1分後のデータの代わりにR1添加30秒後の吸光度データを取り出して、同様の処理を行った結果からも、対照法との良好な相関が確認された。本結果より全血検体からHbA1cとGLUを同時に、かつ約1分という短時間で測定可能であることがわかった。
【実施例4】
【0046】
[実施例4]CRE(クレアチニン)測定
本特許の方法を用いて全血試料からCREの測定を行い、対照法との相関性を比較した。

<希釈用溶液>
下記を含む水溶液を、下記の操作方法を実行したときに希釈液中で表記の濃度になるように作製した。
亜硝酸ナトリウム 14.5mM
デオキシコール酸 0.05%
シュークロースモノラウレート 0.05%

<CRE測定試薬>
R1
PIPES 100mM (pH7.4)(同仁化学)
クレアチンアミジノヒドロラーゼ(CRH−229 東洋紡績) 80U/mL
ザルコシンオキシダーゼ(SAO−351 東洋紡績) 10U/mL
カタラーゼ(CAO−509 東洋紡績) 200U/mL
アスコルビン酸オキシダーゼ(ASO−311 東洋紡績) 10U/mL
トリトンX−100(ナカライ) 0.1%
N−エチル−N−(2−ヒドロキシ−3−スルホプロピル)−m−トルイジン 2mM
(同仁化学)
R2
PIPES 100mM (pH7.4)(同仁化学)
クレアチニンアミドヒドロラーゼ(CNH−311東洋紡績) 320U/ml
ペルオキシダーゼ(PEO−302 東洋紡績) 15U/mL
4−アミノアンチピリン (積水メディカル) 3.2mM

<操作方法>
37℃にインキュベートされたR1;120μLに下記の方法で希釈した検体を2.7μL添加し、37℃で反応を開始した。R1添加、1分後にR2;40μLを添加した。R2添加前及び添加1分後の主波長546nmおよび副波長800nmの吸光度を測定した。全血測定結果は、蒸留水(ブランク)とクレアチニン5mg/dLのキャリブレーターを用いて作成した検量線と対比しクレアチニン濃度を求めた。さらに、実施例3と同様に、予め算出しておいたHb量とHt値の相関式よりHt値を検体ごとに算出し、検体ごとにHt補正を行い、全血測定結果を血漿測定結果に換算した。

<検体希釈方法>
EDTA−2Na採血管で採取した検体(n=30)を上記の希釈用溶液で1/20希釈しCRE濃度を測定した。

<対照法>
対照法は上記実施例4の試薬にて、全血検体を遠心し(上記採血管を3000rpmで10分間遠心)、得られた血漿を試料として用い、測定を実施した。
【0047】
図4より対照法と比較し良好な相関性であることを確認した。本結果より全血検体から約2分という短時間でCRE濃度を測定できることがわかった。
また、本実施例の測定タイムコースの生データを参照して、R1添加1分後のデータの代わりにR1添加30秒後の吸光度データ、R2添加1分後のデータの代わりにR1添加30秒後の吸光度データを取り出して、同様の処理を行った結果からも、対照法との良好な相関が確認された。本結果より全血検体から約1分という短時間でCRE濃度を測定できることがわかった。
【実施例5】
【0048】
[実施例5]BUN(尿素窒素)測定
本特許の方法を用いて全血試料からBUNの測定を行い、対照法との相関性を比較した。

<希釈用溶液>
下記を含む水溶液を、下記の操作方法を実行したときに希釈液中で表記の濃度になるように作製した。
亜硝酸ナトリウム 14.5mM
デオキシコール酸 0.05%
シュークロースモノラウレート 0.05%

<BUN測定試薬>
R1
Bicine 100mM (pH8.8)(同仁化学)
2−ケトイソヘキサン酸ナトリウム(ナカライ) 0.05% (重量%)
β−NADH(オリエンタル酵母) 0.025%
ロイシンデヒドロゲナーゼ(LED−201 東洋紡績) 1.0KU/L
TritonX−100(ナカライ) 0.1%(重量%)
R2
Bicine 100mM (pH8.5)(同仁化学)
2−ケトイソヘキサン酸ナトリウム(ナカライ) 0.05% (重量%)
β−NADH(オリエンタル酵母) 0.025%
ロイシンデヒドロゲナーゼ(LED−201 東洋紡績) 2.0KU/L
ウレアーゼ(URH−201 東洋紡績) 115KU/L
TritonX−100(ナカライ) 0.1%(重量%)

<操作方法>
37℃にインキュベートされたR1;120μLに下記の方法で希釈した検体を6.0μL添加し、37℃で反応を開始した。検体添加後、33秒から54秒の340nmの吸光度変化を測定した(A)。R1添加、1分後にR2;40μLを添加した。検体添加後、68秒から103秒の340nmの吸光度変化を測定した(B)。全血測定結果は、蒸留水(ブランク)とBUN50mg/dLのキャリブレーターを用いて作成した検量線と対比し(B)−(A)よりBUN濃度を求めた。
さらに、実施例3と同様に、予め算出しておいたHb量とHt値の相関式よりHt値を検体ごとに算出し、検体ごとにHt補正を行い、全血測定結果を血漿測定結果に換算した。

<検体希釈方法>
EDTA−2Na採血管で採取した検体(n=30)を上記の希釈用溶液で1/8希釈しBUN濃度を測定した。

<対照法>
対照法は上記実施例5の試薬にて、全血検体を遠心し(上記採血管を3000rpmで10分間遠心)、得られた血漿を試料として用い、測定を実施した。
【0049】
図5より対照法と比較し良好な相関性であることを確認した。本結果より全血検体から約2分という短時間でBUN濃度を測定できることがわかった。
また、本実施例の測定タイムコースの生データを参照して、R1添加1分後のデータの代わりにR1添加30秒後の吸光度データ、R2添加1分後のデータの代わりにR1添加30秒後の吸光度データを取り出して、同様の処理を行った結果からも、対照法との良好な相関が確認された。本結果より全血検体から約1分という短時間でBUN濃度を測定できることがわかった。
【実施例6】
【0050】
[実施例5]T−CHO、HDL−C、LDL−C測定
本特許の方法を用いて全血試料からT−CHO、HDL−C、LDL−Cを同時測し、照法との相関性を比較した。

<希釈用溶液>
下記を含む水溶液を、下記の操作方法を実行したときに希釈液中で表記の濃度になるように作製した。
亜硝酸ナトリウム 14.5mM
デオキシコール酸 0.05%
シュークロースモノラウレート 0.05%

<T−CHO測定試薬>
R1
PIPES 100mM (pH7.0)(同仁化学)
EDTA・3Na 0.01% (重量%)
塩化ナトリウム 1.46% (重量%)
塩化カルシウム 0.002% (重量%)
塩化マグネシウム六水和物 0.08%(重量%)
N−エチル−N−スルホプロピル−m−アニシジン 0.02% (重量%)
コレステロールエステラーゼ(COE−311 東洋紡績) 0.65KU/L
ペルオキシダーゼ(PEO−301 東洋紡績) 3KU/L、
アスコルビン酸オキシダーゼ(ASO−311 東洋紡績) 5KU/L
ポリオキシエチレンジスチレン化フェニルエーテル(花王) 0.1%(重量%)
ポリオキシエチレンアルキルフェノールエーテル(花王) 0.03%(重量%)
ポリオキシエチレンアルキルエーテル(花王) 0.15%(重量%)
TritonX−114(ナカライ) 0.4%(重量%)
R2
PIPES 100mM (pH7.0)(同仁化学)
EDTA・3Na 0.02% (重量%)
アジ化ナトリウム 0.005%(重量%)
4−アミノアンチピリン 0.02%(重量%)
フェロシアン化カリウム 0.0015%(重量%)
コレステロールオキシダーゼ(COO−311 東洋紡績) 1KU/L
ポリオキシエチレンジスチレン化フェニルエーテル(花王) 0.1%(重量%)
ポリオキシエチレンアルキルフェノールエーテル(花王) 0.03%(重量%)
ポリオキシエチレンオレイルエーテル(花王) 0.05%(重量%)
[操作方法]
37℃にインキュベートされたR1;120μLに下記の方法で希釈した検体を1.5μL添加し、37℃で反応を開始した。R1添加、1分後にR2;60μLを添加した。R2添加前及び添加1分後の主波長600nmおよび副波長800nmの吸光度を測定した。全血測定結果は、蒸留水(ブランク)と180mg/dL T−CHO標準血清の測定吸光度より算出して求めた。さらに、実施例3と同様に、予め算出しておいたHb量とHt値の相関式よりHt値を検体ごとに算出し、検体ごとにHt補正を行い、全血測定結果を血漿測定結果に換算した。

<HDL−C測定>
[試薬]
R1
PIPES 50mM (pH6.5)(同仁化学)
エチレンジアミン四酢酸ニナトリウム塩 0.2mmol/L
塩化マグネシウム 5mmol/L
塩化カルシウム 0.1mmol/L
N,N−ビス(3−D−グルコンアミドプロピル)デオキシコラミド(同仁化学社製) 0.1%
コレステロールエステラーゼ(COE−301 東洋紡績) 2U/mL
コレステロールオキシダーゼ(COO−321 東洋紡績) 3U/mL
カタラーゼ(微生物由来 ロシュ) 100U/mL
N−エチル−N−スルホプロピル−3−メトキシアニリン(同仁化学社製) 0.1g/L
R2
HEPES 100mM (pH8.2) (同仁化学)
エチレンジアミン四酢酸ニナトリウム塩 0.2mmol/L
塩化カルシウム 0.1mmol/L
エマルゲンA90(花王社製) 0.3%
ペルオキシダーゼ(PEO−301 東洋紡績) 8U/mL
4−アミノアンチピリン 0.4g/L
[操作方法]
37℃にインキュベートされたR1;150μLに下記の方法で希釈した検体を1.6μL添加し、37℃で反応を開始した。R1添加、1分後にR2;50μLを添加した。R2添加前及び添加1分後の主波長600nmおよび副波長800nmの吸光度を測定した。全血測定結果は、蒸留水(ブランク)と70mg/dL HDL−C標準血清の測定吸光度より算出して求めた。さらに、実施例3と同様に、予め算出しておいたHb量とHt値の相関式よりHt値を検体ごとに算出し、検体ごとにHt補正を行い、全血測定結果を血漿測定結果に換算した。

<LDL−C測定>
[試薬]
R1
PIPES−NaOH 50mM pH7.5
エチレンジアミン四酢酸ニナトリウム塩 0.2mmol/L
塩化カルシウム 0.1mmol/L
3−[(3−コラミドプロピル)ジメチルアンモニオ]プロパンスルホン酸(同仁化学社製) 0.2%
カゼイン(和光純薬) 2.5g/L
コレステロールエステラーゼ(COE−311 東洋紡績) 0.1U/mL
コレステロールオキシダーゼ(COO−321 東洋紡績) 3U/mL
カタラーゼ(微生物由来 ロシュ) 100U/mL
4−アミノアンチピリン
R2
PIPES−NaOH 50mM pH7.5
エチレンジアミン四酢酸ニナトリウム塩 0.2mmol/L
塩化マグネシウム 10mmol/L
塩化カルシウム 0.1mmol/L
ポリオキシプロピレン(2)ポリオキシエチレンデシルエーテル(エマレックスDAPE0207:日本エマル
ジョン社製) 0.3%
ペルオキシダーゼ(PEO−301 東洋紡績) 8U/mL
N−エチル−N−スルホプロピル−3−メトキシアニリン(同仁化学社製) 0.4g/L
[操作方法]
37℃にインキュベートされたR1;150μLに下記の方法で希釈した検体を1.6μL添加し、37℃で反応を開始した。R1添加、1分後にR2;50μLを添加した。R2添加前及び添加1分後の主波長600nmおよび副波長800nmの吸光度を測定した。全血測定結果は、蒸留水(ブランク)と100mg/dL LDL−C標準血清の測定吸光度より算出して求めた。さらに、実施例3と同様に、予め算出しておいたHb量とHt値の相関式よりHt値を検体ごとに算出し、検体ごとにHt補正を行い、全血測定結果を血漿測定結果に換算した。

<検体希釈方法>
EDTA−2Na採血管で採取した検体(n=30)を上記の希釈用溶液で1/20希釈しT−CHO、HDL−C、LDL−C濃度を測定した。

<対照法>
対照法は上記実施例6の試薬にて、全血検体を遠心し(上記採血管を3000rpmで10分間遠心)、得られた血漿を試料として用い、測定を実施した。

【0051】
図6、図7、図8よりT−CHO、HDL−C、LDL−Cのいずれも対照法と比較し良好な相関性であることを確認した。本結果より全血検体からT−CHO、HDL−C、LDL−Cを同時に、かつ約2分という短時間で測定可能であることがわかった。
また、本実施例の測定タイムコースの生データを参照して、R1添加1分後のデータの代わりにR1添加30秒後の吸光度データ、R2添加1分後のデータの代わりにR1添加30秒後の吸光度データを取り出して、同様の処理を行った結果からも、対照法との良好な相関が確認された。本結果より全血検体からT−CHO、HDL−C、LDL−Cを同時に、かつ約1分という短時間で測定可能であることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明は、医療分野、医学研究分野などにおいて、血液中の特定成分を測定する際に有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の工程を含むことを特徴とする全血検体の成分測定方法。
(1)全血検体を、酸化剤および界面活性剤を含む溶液と希釈する工程。
(2)希釈した検体の目的成分を測定する工程。
(3)希釈した検体のヘモグロビン(Hb)量を定量する工程。
(4)(2)における測定結果を、(3)における定量値に基づいてヘマトクリット(Ht)補正を行うことにより、血清または血漿を測定した際の測定結果に換算する工程。
【請求項2】
酸化剤が亜硝酸塩を含むものである請求項1に記載の方法。
【請求項3】
希釈した検体中の亜硝酸塩の終濃度が1.4mM以上である請求項1〜2のいずれかに記載の方法。
【請求項4】
希釈した検体中の亜硝酸塩の終濃度が1.4mM以上270mM以下である請求項1〜2のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
酸化剤が亜硝酸ナトリウムまたは亜硝酸カリウムを含むものであることを特徴とする請求項1〜4に記載の方法。
【請求項6】
界面活性剤が以下の(a)〜(h)のうちいずれかである請求項1に記載の方法。
(a)下記式(I)で示される化合物
R−O−X ・・・(I)
(Rは、炭素数が9〜18のアルキル基または置換アルキル基であり、Xは、ポリオキシエチレン残基である。)
(b)コール酸またはその誘導体
(c)サポニン
(d)ジギトニン
(e) シュークロースモノラウレート
(f) n-ドデシル-β-D-マルトシド
(g)オクチルチオグルコシド
【請求項7】
以下の工程を含む全血検体の成分測定方法に用いるための希釈用溶液であって、酸化剤および界面活性剤を含むことを特徴とする希釈用溶液。
(1)全血検体を、希釈用溶液と希釈する工程。
(2)希釈した検体の目的成分を測定する工程。
(3)希釈した検体のヘモグロビン(Hb)量を定量する工程。
(4)(2)における測定結果を、(3)における定量値に基づいてヘマトクリット(Ht)補正を行うことにより、血清または血漿を測定した際の測定結果に換算する工程。
【請求項8】
請求項7の希釈用溶液を含む、全血検体の成分を測定するためのプロダクト。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−36959(P2013−36959A)
【公開日】平成25年2月21日(2013.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−175704(P2011−175704)
【出願日】平成23年8月11日(2011.8.11)
【出願人】(000003160)東洋紡株式会社 (3,622)
【Fターム(参考)】