説明

全身性エリテマトーデス様病巣の発達抑制のための薬剤を調製するためのデオキシスパガリンの使用

【課題】副作用をほとんどもしくは全く伴わない自己免疫疾患の効率的療法は、稀であるか、またはほとんどの場合存在しないので、過反応性炎症性疾患および自己免疫疾患の治療を改善することが継続的に求められており、過反応性炎症性疾患および自己免疫疾患の治療剤、特に全身性エリテマトーデス様病巣の発達抑制のための薬剤を開発する。
【解決手段】過反応性炎症性疾患および自己免疫疾患に対する治療および/または予防のための薬剤、特に全身性エリテマトーデス様病巣の発達抑制のための薬剤を調製するためのデオキシスパガリン(DSG)の使用であって、前記治療はサイクルにおいて実施される、使用。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血管炎などの過反応性炎症性疾患、および自己免疫疾患の治療のための薬剤を調製するためのデオキシスパガリンまたはそのアナログの使用に関する。
【背景技術】
【0002】
デオキシスパガリン(DSG)は、スパガリン(Bacillus laterosporusより単離される天然産物)の合成誘導体である。それは、抗腫瘍活性を有することが最初に見出され、続いて、実験的移植において免疫抑制作用を有することが見出された。15−デオキシスパガリンについては、特許文献1(米国特許第4,518,532)および、特許文献2(米国特許第4,525,299号(梅澤ら)に記載されている。また、特許文献3(米国特許第4,851,446号(梅澤ら))は15−デオキシスパガリンおよび関連化合物の投与を含む免疫抑制方法について記載している。さらなる研究において、DSGは、移植拒絶の多くの動物モデルにおいて免疫抑制活性を示すことが認められている。ヒトにおける臨床的な移植では、腎移植片移植患者においてDSG治療の安全性および有効性が証明された。さらに、DSGは、自己免疫疾患の動物モデル(非特許文献1:C.Odakaら、Immunology,95,370−376,1998)および過反応性炎症性疾患(特許文献4:欧州特許第0 673 646号)において免疫抑制効果を示したことが開示されている。
過反応性炎症性疾患は、身体が、非特異的刺激に制御されない炎症反応を伴い過剰に反応することを特徴とする。この炎症反応(過反応)は病理学的変化を引き起こし、疾患の発症およびその慢性化の確立を招く。過反応性炎症性疾患の定義および例については、上記特許文献4(欧州特許0 673 646)(本明細書において明確に取り入れられている)が参考にされる。血管炎は、そのような過反応性炎症性疾患の一例である。
血管炎の命名および定義の仕方に対する一般的アプローチは、非特許文献2(Jennetteら、1994、「全身性血管炎の命名。国際コンセンサス会議の提案」Arthritis and Rheumatism, 37,187−92)のコンセンサスに従い、本明細書において参考として取り入れられている。この命名法によれば、さまざまな形態の血管炎の違いは、原則として、特性と認められる罹患した血管のサイズに依存する。従って、用語「血管炎」は、細い血管の血管炎(ウェーゲナー肉芽腫、チャーグ−ストラウス症候群、顕微鏡的多発性動脈炎、ヘノッホ−シェーンライン紫斑病、本態性クリオグロブリン血症性血管炎)、中規模サイズの血管の血管炎(皮膚白血球破壊性血管炎)および太い血管の血管炎(結節性多発性動脈炎、川崎病、巨細胞(側頭)動脈炎、高安動脈炎)を包含する。それらの顕著な特徴は、非特許文献3(「Oxford Textbook of Clinical Nephrology」、第2版(1998)、第2巻、4.5章)(本明細書において参考として取り入れられている)に例示されている。例えば、分類の短い列挙について記載した880頁の表1を参照のこと。
【0003】
血管炎の臨床像は非常に多様である。該臨床像は、原発性疾患として現れるか、または他の疾患と関連し得る。単一の患者において異なるサイズの血管が冒され得る。病因および病原論は、血管炎患者の大多数において不明である。
該疾患の特定のスペクトルは、ANCAと呼ばれる抗好中球細胞質抗体に関連することが発見された。現在、それらは、ウェーゲナー肉芽腫に関連するだけではなく、顕微鏡的多発性血管炎および腎性血管炎(即ち、孤立性巣状壊死性糸球体腎炎)にも緊密に関連するが、これらの所見はウェーゲナー肉芽腫における所見よりも異質であることが明らかになっている。
【0004】
自己免疫疾患は、臨床異常を引き起こす身体自身の組織の成分に対する体液性、補体または細胞性免疫によって特徴づけられる。ここで言及されるそれらの組織は、同種移植片であっても、異種移植片であってもよく、対宿主性移植片病(GvHD)は、本明細書の目的の対象となる自己免疫疾患の一つであると考えられる。自己免疫疾患の例としては、膠原病、血管炎、関節炎、肉芽腫、クローン病などの臓器特異的自己免疫病、潰瘍性大腸炎および対宿主性移植片病がある。多くの疾患において、自己免疫機構は少なくとも疾患の分子レベルでの原因として疑われている。ヒト自己免疫疾患のさまざまな動物モデルが存在し、可能な治療法を試験するために使用される。本発明により治療され得る疾患はまた、慢性免疫増殖性症候群、モノクローナル高ガンマグロブリン血症、ホジキン病および非ホジキンリンパ腫ならびに慢性増殖性CD8細胞疾患のような免疫系の悪性疾患を包含する。本発明により治療され得る疾患は、一般に、非特許文献4(Peter/Pichler、「Klinische Immunologie」第2版、Urban & Schwarzenberg,1996、X−XIV頁(Teil C Klinik))に記載の疾患を包含する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】米国特許第4,518,532号
【特許文献2】米国特許第4,525,299号
【特許文献3】米国特許第4,851,446号
【特許文献4】欧州特許第0 673 646号
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】C.Odakaら、Immunology,95,370−376,1998
【非特許文献2】Jennetteら、1994、「全身性血管炎の命名。国際コンセンサス会議の提案」Arthritis and Rheumatism, 37,187−92
【非特許文献3】「Oxford Textbook of Clinical Nephrology」、第2版(1998)、第2巻、4.5章
【非特許文献4】Peter/Pichler、「Klinische Immunologie」第2版、Urban & Schwarzenberg,1996、X−XIV頁(Teil C Klinik)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
多くの過反応性炎症性疾患および自己免疫疾患の治療法は、不十分であると認識されるべきである。多くの場合、これは、使用される薬剤の重度の副作用による。例えば、アルツハイマー病、急性出血性膵炎および敗血症などの過反応性炎症性疾患には、適切な治療法はない。
血管炎については、治療の初期の試みとして経口用コルチコステロイド(OCS)の使用が含まれる。その後、ステロイド耐性疾患においてシクロホスファミドが追加された。血管炎の一形態であるウェーゲナー肉芽腫の標準的治療は、シクロホスファミド(CYC)および経口用コルチコステロイド(OCS)の併用である。プレドニゾロンおよびシクロホスファミドまたはアザチオプリンを含むさまざまな治療レジメについては、上記で言及した非特許文献2「Oxford Textbook of Clinical Nephrology、890頁」に開示されている。
【0008】
しかし、これらの治療法は、比較的多数の治療耐性症例、顕著な再発率および副作用を含むいくつかの欠点を伴う。例えば、CYCによる長期治療は、重大な薬物関連の罹患および死亡の危険を伴う。また、患者によっては、シクロホスファミドに短期間暴露されるだけでも、明白なCYC毒性、例えば、骨髄抑制、毒性肝炎または出血性膀胱炎および続発性癌が生じる。
【0009】
同様に、副作用をほとんどもしくは全く伴わない自己免疫疾患の効率的療法は、稀であるか、またはほとんどの場合存在しない。
従って、過反応性炎症性疾患および自己免疫疾患、特に、全身性エリテマトーデス様病巣を発症する疾患の治療を改善することが継続的に求められている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の一態様によれば、血管炎を含む過反応性炎症性疾患、および自己免疫疾患、特に、全身性エリテマトーデス様病巣を発症する疾患を予防するか、安定化するかまたは緩解させる新規の方法が開示される。本方法は、15−デオキシスパガリンまたはその誘導体もしくはアナログからなる群より選択された成分の治療的な有効量を、かかる治療を必要とする哺乳動物種に2以上の治療サイクルで投与することを含む。即ち、本発明は、
(1)48時間以内の投与間隔によるデオキシスパガリンの連続投与を5日〜4週間続けること(治療サイクル)を、デオキシスパガリンを投与しない10日〜5週間の中間期を入れ、少なくとも2回繰り返す、全身性エリテマトーデス様病巣の発達抑制のための薬剤を調製するためのデオキシスパガリンの使用、及び
(2)15−デオキシスパガリンが使用されることを特徴とする上記(1)に記載の使用、
に関するものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明のDSG投与によれば、従来のDSGの連続投与の場合に比べて、ほぼ半分の投与量において、全身性エリテマトーデス(SLE)様病巣の発達を、従来のDSGの連続投与よりも顕著に抑制する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】1回目の治療サイクルならびに白血球細胞(白血球)、リンパ球および好中球のレベルを示す。斜線領域は1回目のサイクルに対応する(DSG投与期間)
【図2】追跡調査中のBVAS(Birmingham血管炎活動度スコア)を示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
ここで言及されるように、上記で規定された自己免疫疾患は、また、免疫が同種移植片または異種移植片上の組織の成分に対して向けられる疾患、即ち、対宿主性移植片病(GvHD)を包含する。該疾患はまた、自己免疫機構が病因に関与する疾患を含む。
【0014】
用語「過反応性炎症性疾患」は、特許文献4(欧州特許0 673 646号)(本明細書において参考として取り入れられる)において規定される通りに使用される。血管炎は、過反応性炎症性疾患の一例であり、上記の記載内容ならびに非特許文献3(「Oxford Textbook of Clinical Nephrology」、1998、4.5章(上記において参照されている)および非特許文献2(Jennetteら、1994、「全身性脈管炎の命名。国際コンセンサス会議の提案」Arthritis and Rheumatism, 37, 187−92(両者とも本明細書において参考として取り入れられている)の通りに規定される。免疫系の悪性疾患(例えば、記の非特許文献4(Peter/Pichlerを参照のこと)もまた、本発明に従って治療され得る。
【0015】
本出願において使用される疾患「を予防する」という語句は、疾患の発生または進行を部分的または完全に阻害することを指す。
【0016】
疾患の重症度および寛解は、主に臨床的判断によって規定される。さらに、血管炎の重症度は、 バ−ミンガム血管炎活動度スコア(Birmingham Vasculitis Activity Score、BVAS)(Luqmaniら、Baillieres Clin. Rheumatol. (1997)11(2):423−446)を使用して一般的に規定される。
【0017】
過反応性炎症性疾患および自己免疫疾患を予防するか、安定化するかまたは緩解させるために、本発明の方法を使用することができる。
本発明によれば、これらの疾患の治療においてさまざまな材料を使用することができる。好適な材料としては、15−デオキシスパガリン(DSG)およびそのアナログが挙げられる。本明細書において使用される、「アナログ」は、さらにDSGおよびスパガリンの関連化合物ならびに誘導体を指す。本発明において使用され得るそのような化合物は、特に、欧州特許0 701 817、欧州特許0 669 316、欧州特許0 600 762、欧州特許0 212 606、欧州特許0 213 526、欧州特許0 347 820、欧州特許0 105 193、欧州特許0 241 797、欧州特許181 592、WO94/0414、WO96/24579、欧州特許0 743 300、欧州特許0 765 866、欧州特許0 349 297、WO99/03504および独国特許出願第35 06 330号に開示されている。
特に、しかし独占的ではなく、以下の式(I):
【0018】

【0019】
(式中、Yは4〜12、好ましくは6〜10の炭素を有するアルキレン基、またはアルキレン残基(S)中に合計で2〜5個、好ましくは2〜4個の炭素を有するメタもしくはパラモノジアルキレンフェニルラジカル置換基であり、Xは、α-もしくはβ-位で置換基として水酸基、メトキシ基もしくはヒドロキシメチル基を有し得る1〜5個の炭素、好ましくは1〜3個の炭素を有するアルキレンラジカルか、またはNH−X−CO−はアミノ酸残基、特にGly、L−His、L−およびD−Ser、γ−ABAおよびDL−HABAである)
を特徴とする化合物を使用することができる。
さらに、好適な化合物は、式(II):
【0020】

【0021】
(式中、Aは単結合、−CH2−、−CH2−O−、−CH2−NH−、−CH(OH)−、−CHF−または−CH(OCH3)−であり;nは6または8である)
を特徴とする。
また、式(III):
【0022】

【0023】
(式中、nは6または8であり、Aは単結合、−CH2−、−CH(OH)−、−CHF−、−CH(OCH3)−、−CH2−NH−または−CH2−O−およびその付加塩を意味する)
の化合物が好ましい。
【0024】
DSGの有用な誘導体の具体例は、それぞれ式(IV)および式(V)、
【0025】

【0026】

【0027】
によって表される。
【0028】
15−デオキシスパガリンおよびその調製のための方法については、米国特許第4,518,532号および同第4,525,299号(梅澤ら)に記載されており、一方、米国特許第4,851,446号(梅澤ら)は15−デオキシスパガリンおよび関連化合物の投与を含む免疫抑制方法について記載している。その特許第4,525,299号および特許第4,851,446号の特許はそれぞれ本明細書において参考として取り入れられている。
【0029】
本発明の好適な実施態様によれば、DSGまたはそのアナログもしくは誘導体は皮下的に投与される。従って、意外なことに、通常使用される他の免疫抑制剤とは対照的に、局所の合併症を伴うことなく、DSGを皮下注射により投与することができ、DSGは短時間で全身有効濃度に達するのに効率的であることが見出された。日本化薬株式会社(日本)の塩酸グスペリムス製剤(スパニジン注)に関する説明書(1994年4月)では、3時間にわたる静脈内輸注が推奨されているように、この様式の投与の可能性および有効性はさらに驚くべきものであった。
【0030】
本発明に従い、DSGまたはそのアナログによる治療は2回またはそれ以上の治療サイクルで実施する。1つの治療サイクルは、DSGまたはそのアナログの一連の連日投与と規定する。本明細書において使用される用語「治療サイクル」はまた、(少なくとも2回の)一連の連続する投与を包含し、ここで、薬物の2回の投与間の期間は、24時間未満または24時間より大きく、例えば、48時間である。但し、これらの連続する投与は、1回の治療サイクル内で行われる2回の連続する投与間の期間よりも相当に長い期間だけ次回の治療サイクル(ブロック)と離れている治療「ブロック」または「サイクル」を形成するものとする。しかし、該2回の連続する投与間の期間は、好ましくは48時間未満、特に12〜24時間である。
【0031】
驚くべきことに、薬物を投与しない中間期が間に入る連続の治療サイクルは、連続投与(即ち、サイクルではない)よりも効率的であることが見出された。本発明は理論的機構に限定されないが、多サイクル治療は免疫細胞集団に対する累進的な免疫調節効果を提供し得ることが想定される。このことは、繰り返し回復すること(前駆細胞からの成熟および分化)および調節または適切に調節された細胞集団の選択によって達成され得る。病因に直接的または間接的に関与する細胞集団を、これらの調節を繰り返し行う間に消滅させたり、またはそうでなければ不活化してもよい。
【0032】
本発明の好適な実施態様によれば、治療サイクルは少なくとも5日間、好ましくは少なくとも約7日間、より好ましくは少なくとも約10日間、特に少なくとも約14日間継続する。全ての活性化された成熟細胞およびこの期間に成熟する全ての細胞が影響を受けることを確実にするためには、より後者の期間が好ましい。好適な実施態様によれば、治療サイクルは約18〜21日間継続するが、より長期のサイクルを使用することもできる。
【0033】
本発明のもう1つの好適な実施態様によれば、治療のそれぞれのサイクルは、末梢血中において3,000〜4,000/μlの白血球細胞の濃度を目的としている。従って、患者の白血球細胞数は定期的に測定され、白血球細胞の減少がモニターされる。白血球細胞数が1,000〜5,000/μl、好ましくは2,500〜5,000/μl、特に3,000〜4,000/μlの範囲に低下したら直ちに治療を停止し、白血球細胞の濃度を少なくとも約4,000〜8,000/μlの範囲に回復させる。
【0034】
驚くべきことに、治療効率もまた、患者の末梢血における顆粒球、特に好中球(白血球細胞に加えてまたは代わりに)のレベルをモニターし、それに従って治療サイクルの期間およびそれらの中間期を調整することによって、最適化することができることが見出された。従って、本発明のもう1つの好適な実施態様によれば、患者の好中球数は定期的に測定され、好中球の減少がモニターされる。赤血球、白血球(WBC)、血小板および網状赤血球を計数して血液サンプルの全血球算定(ヘモグラム)から、ならびに血液スメア中の100個の有核細胞を計数することによって実施される鑑別血球計算から数を決定してもよい。(標準的方法についてはPschyrembel、「Klinisches Worterbuch」、de Gruyter、196頁および326頁に見出すことができる)。レベルが約500〜約4,000/μl血液、好ましくは、1,000〜4,000/μl血液、特に2,000〜3,000/μl血液に低下した場合、サイクルを終了する。末梢血中リンパ球(TおよびB細胞)のレベルも減少するが、程度は小さい。好中球の濃度は、次回のサイクルを開始する前に少なくとも約3,000〜6,000/μlの範囲に回復させる。
【0035】
従って、驚くべきことに、患者の末梢血における白血球細胞数、特に好中球数の減少および回復は、サイクル治療の最適化のためのパラメータとして有利に使用され得ることが見出された。この相関関係により、これらの細胞集団が(調節機構を介して)病因に直接的または間接的に関連していることを示すことができるが、この仮定は本発明を限定するものではない。
【0036】
先行技術の文献を通して、DSGまたはそのアナログによって誘発された白血球減少症は、本薬物の有害な副作用として記載されていることに注意する。対照的に、本発明の好適な実施態様によれば、白血球、特に好中球数の制御されたおよび規定された減少を目的とし、これを利用する。何故なら、驚くべきことに、これらのパラメータは過反応性炎症性疾患および自己免疫疾患の多サイクル治療の最適化を可能にすることが見出されたからである。
【0037】
白血球細胞および好中球のレベルがそれぞれ患者によって変動し得ることは公知である。従って、本発明の好適な実施態様によれば、治療サイクルの期間または間隔はモニターされ、白血球細胞(WBC)または好中球のそれぞれの阻害百分率に従って測定される。この好適な実施態様によれば、治療サイクルは、少なくとも約20%のWBCレベルの減少(阻害)を目的にしている(言い換えれば、サイクルの終了時に僅か80%以下のWBCが残る。)。約50〜約80%のWBCの阻害が好ましい。しかし、95%まであるいはそれ以上のより高い阻害率を使用することができ、WBCの残留レベルが患者に危機的でない限り、そのような阻害率が好ましい。言い換えれば、WBCレベルの顕著な減少が好ましく、下限は健康上の問題が生じない忍容性であるWBCレベルである。従って、WBC(または好中球、下記を参照のこと)のレベルは、WHO毒性等級3〜4(約1000WBC/μlまたは500好中球/μlに相当する)まで減少させることができる。
【0038】
同様に、本発明の好適な実施態様によれば、治療サイクルの期間および間隔を決定するために好中球の阻害百分率がモニターされる。従って、治療サイクルは、末梢血中好中球を少なくとも25%阻害することを目的にし得る。好適な阻害率は55%〜90%であるが、より高い阻害率を使用することもでき、そのような阻害率がまさに好ましい。上記のように、下限は、患者に健康上の問題を引き起こさない忍容性の好中球の最小レベルによって決定される(上記を参照のこと)。
【0039】
WBCおよび好中球の好適な回復は、上記のように規定されている(少なくとも約4,000〜8,000 WBC/μlまたは少なくとも約3,000〜6,000好中球/μl)。
【0040】
好適な実施態様によれば、少なくとも0.2mg/kg患者の体重/日、好ましくは少なくとも0.3mg/kg患者の体重/日の用量を有利に使用して、合理的なサイクル時間内の患者の白血球細胞の累積的かつ再現可能な減少を誘導することができる。さらなる好適な実施態様によれば、少なくとも0.5mg DSG/kg患者の体重/日の用量を使用する。
【0041】
しかし、0.01または0.05〜0.2mg/kg患者の体重/日の間の皮下用量であって、具体的には、そのような低用量によって良好な制御可能かつ合理的に累積的なWBC/好中球の減少を生じる場合の用量を用いることが好ましい。
【0042】
本発明の実施態様によれば、2回の治療サイクル間の期間は4〜20日間である。しかし、特定の場合、白血球細胞および他の臨床パラメータの回復に依存して、2回の治療サイクル間の期間はより短くても、またより相当に長くてもよい。好ましくは、2回の治療サイクルの間の中間期は10日〜5週間、特に2〜4週間の間である。
【0043】
好適な実施態様によれば、以下のプロトコールに従うことができる:WBC数が14日未満内に3,000/μl以下に低下する場合、サイクルを終了し、以後の治療サイクルではデオキシスパガリンまたはそのアナログの用量を減少する(例えば、0.5mg/kg/日〜0.25mg/kg/日)。WBC数が治療サイクルの14日目〜21日目に3,000/μl以下に低下する場合、サイクルを終了し、同一の用量で以後の治療サイクルを実施する。サイクルの21日目にWBC数が3,000/μl以下に低下しなかった場合、そのようなWBC数に到達するまで最大4週間まで該サイクルを延長する。この実施態様によれば、2回の治療サイクル間の間隔は、一般に約14日間である。しかし、2回の治療サイクル間の間隔において再発または疾患活性の増加が認められる場合、前回のサイクルの終了から14日未満内に新規の治療サイクルを開始してもよい。但し、少なくとも4,000/μlのWBC数に再度到達していることが必要である。
【0044】
生命が脅かされるおそれのある症例および再発または疾患の活性の顕著な増加が認められる患者に好適である、別の実施態様によれば、3,000/μl以下のWBC数に到達するまで、または最大10日間まで、約5mg/kg/日の用量を静脈内(例えば、3時間の緩徐な輸注)に使用することができる。次いで、治療サイクルに続いて、少なくとも4,000 WBC/μlに再度到達するまで休止する。好ましくは、間隔の間に再発が認められない限り、2回の治療サイクル間の間隔は約14日間である。疾患の制御が達成された場合は、直ちに、サイクル治療は、スパガリンまたはそのアナログを減量して継続することができる。
【0045】
本発明の好適な一態様によると、血管炎、特にANCA関連血管炎の治療において、DSGまたはそのアナログが使用される。血管炎に関連する全ての複合的範囲の臨床症状を改善および消失し得ることが見出された。従って、驚くべきことに、DSGまたはそのアナログもしくは誘導体による治療の2〜6サイクル後、急性または慢性疾患の活性が存在しなかったことから完全な緩解が認められたことが見出された。このことは、例えば、シクロホスファミドおよび経口用コルチコイド(OCS)のように、細胞傷害性薬剤をステロイドと併用する標準的な療法によって高い再発率および不完全な軽減が認められることとは対照的である。また、DSGまたはそのアナログもしくは誘導体の使用で有毒な副作用は生じなかった。
【0046】
従って、好適な実施態様によれば、治療は、上記のように少なくとも2回、好ましくは、少なくとも3〜4回の治療サイクルを含む。多くの症例において、典型的に6〜12サイクルが好ましいことが見出された。
【0047】
本発明のもう1つの実施態様によれば、DSGまたはそのアナログもしくは誘導体は、当該分野において治療される疾患の治療において有益な効果を有することが、公知の他の化合物と組み合わせて使用される。血管炎の場合、例えば、経口用コルチコステロイド(OCS)を使用することができる。また、OCSを本発明のDSG治療と同時に投与する場合、OCSの用量を、例えば、16mg/日から約6mg/日(約0.02〜約0.08mg/kg体重/日に相当する)に顕著に減少することができることが見出された。
【0048】
同様に、さまざまな自己免疫疾患の場合、コルチコステロイドなどの免疫抑制剤と併用してもよい。一般に使用される用量は、専門医に明らかである。
上記のデオキシスパガリン化合物は、薬学的に受容可能な塩の形で典型的に使用される。薬学的に受容可能である限り、無機または有機酸の任意の塩を使用することができる。好適な例としては、塩化物、または塩酸塩、具体的には、三塩酸塩が挙げられる。受容可能な塩の例は、WO99/03504(本明細書において参考として取り入れられている)に見出すことができる。
【0049】
皮下投与が好ましいが、他の任意の様式の投与を使用することもできる。従って、薬剤は、経口、静脈内、皮内、腹腔内、髄腔内、眼内、眼、頬側、鼻腔、経皮、皮膚、局所、吸入、筋肉内または直腸投与用に調製することができる。
DSGおよび関連化合物の臨床治療用量は、約0.01〜約100 mg/日/kg患者の体重、好ましくは、0.1〜5mg/日/kgであり、単一または分割された用量で投与することができる。経口投与の場合、500 mg/日/kgまで使用することができる。
【0050】
本発明はまた、ラセミ混合物中のDSGおよび関連化合物、ならびにDSGまたはそのアナログの(+)および(−)異性体を使用して実施することができる。
【0051】
本発明の方法を実施する場合、使用する薬剤をヒト、その上、サル、イヌ、ネコ、ラットなどの他の哺乳動物種に投与することができる。
治療に使用する薬剤は、錠剤、カプセル、エリキシル剤または注射剤などの従来の剤形に組み入れることができる。上記の剤形はまた、必要な担体材料、賦形剤、滑沢剤、緩衝液、抗菌剤、バルキング剤(マンニトールなど)、抗酸化剤(例えば、アスコルビン酸もしくは重亜硫酸ナトリウム)、あるいは専門医に周知もしくは明らかである他の必要なまたは有益な添加剤を含むであろう。賦形剤および担体の例は、WO99/03504(本明細書において参考として取り入れられている)に見出すことができる。
【実施例】
【0052】
以下の参考例及び実施例は本発明のさらなる例示である。しかし、これらの実施例は本発明の範囲を制限することを意図しない。
【0053】
参考例1
35歳、男性のウェーゲナー病患者が、長年の間さまざまな形態の免疫抑制治療を受けていたにもかかわらず進行性かつ再発性の疾患を患った。ANCA関連全身性血管炎の診断を組織学的に確認した。患者には維持免疫抑制を行っていたにもかかわらず、上気道に重度の病変が認められた。患者はまた、気管切開を必要とする声門下狭窄、舌肉芽腫、鞍鼻変形、嗄声、全副鼻腔炎および難聴を伴う左中耳炎を示した。患者は、血管炎の治療のためにほとんど全ての治療上標準的な治療手段を受けていた。その有益な効果については文献に記載されている。
従って、患者にシクロホスファミド(CYC)およびOCS(経口用コルチコステロイド)を投与したところ、4週間後に毒性肝炎を示した。さらなる治療暦として、アザチオプリン(AZA)、Mycophenolate Mofetil(MMF)、ATG(抗胸腺グロブリン)、MTX(メトトレキセート)、IVG(静脈内免疫グロブリン)および血漿浄化が行われたが、数度の再発を招いた。DSG治療前のBVASによる疾患活性は12であった。
使用したDSGは、日本化薬株式会社(日本)の塩酸グスペリムス製剤(100mg/バイアル)(スパニジン注射液)であった。処方はまた、非有効成分として200mgのラクトースを含有した。凍結乾燥DSG(100mg)を生理食塩水で再構成し、19日間にわたって、0.5mg/kg/日で皮下投与した。この治療サイクルの間、末梢血中白血球細胞数が、1日目の12,300白血球細胞(WBC)/μlから19日目には3,460 WBC/μlに低下した。DSGによる治療を中止したところ、白血球細胞数は33日目に9,600/μlに回復した。副作用は認められなかった。白血球細胞および好中球のレベルを定期的にモニターした。治療サイクルの終了数日後にこれらのレベルが最低レベルに達し、次いで、ほとんど予想通りの様式で回復した。
2回目のDSG治療サイクルを33日目に開始し、52日目までDSGの皮下投与を継続した(WBC数3500/μl)。52日目〜65日目の治療休止(WBC数11,500/μl)後、66日目〜85日目に3回目の治療サイクルを実施した(それぞれ、WBC数12,000/μlおよびWBC数3800/μl)。
好中球数は、サイクルの終了時に常に2000/μl〜3000/μlの範囲であり、以後のサイクルの開始時には4000/μlを超えていた。
1回目の治療サイクルならびに白血球細胞(白血球)、リンパ球および好中球のレベルを図1に示す。斜線領域は1回目のサイクルに対応する(DSG投与期間)。
追跡調査中のBVAS(バ−ミンガム血管炎活動度スコア)を図2に示す。
DSGによる最初の2回の治療サイクル後、患者の臨床症状は顕著に改善した。
3回目のサイクル後、臨床判断およびBVAS(=0)によって決定されたように完全な寛解が認められた。さらに、初回の16mgのメチルプレドニゾロン(約0.2mg/kg体重に対応する)から6mg(約0.08mg/kg体重に対応する)にステロイドを減量することが可能であった。全ての治療サイクル中、DSGの有害な副作用は認められず、薬物に良好な忍容性が認められた。これまで再発を誘発することなくこれを行うことはできなかった。
結論として、本参考例は、治療上困難であった本患者においてさえ、DSGによるサイクル治療はきわめて有効であったことを示す。
【0054】
参考例2
50歳、女性のANCA関連全身性血管炎を有するウェーゲナー病患者は、末梢神経、腎、腸および眼にも病変を伴っていた。ANCA関連全身性血管炎の診断を組織学的および免疫学的に確認した。
患者は、麻痺を伴う多発性単神経炎、壊死性糸球体腎炎、小腸区域の狭窄、洞炎、漿液性中耳炎(serotympanon)および上強膜炎を示した。患者にはまた、CYC+OCS、AZAおよびMMFを含むさまざまな治療を受けており、頻繁に再発していた。
従って、参考例1に記載のように、DSGを皮下投与した(0.5mg/kg/日)。
2回の治療サイクルはそれぞれ14日間および21日間であり、白血球細胞数が3000〜4000/μlの範囲(好中球2000〜3000/μl)のときに終了した。白血球細胞および好中球のレベル定期的にモニターした。白血球細胞数が4000/μlを超え、好中球が3500/μlを超えるときに治療サイクルを開始した。
19の開始時BVASから開始しても、2回の治療サイクル(BVAS=0)後、完全な寛解が認められた。
追跡調査中のBVAS(バ−ミンガム血管炎活動度スコア)を図2に示す。
【0055】
実施例
MRL/lprマウスは全身性エリテマトーデス(SLE)様病巣を発症する。該疾患は、リンパ節肥大、自己抗原に対する抗体の発達、および糸球体腎炎を特徴とする。従って、これらのマウスは自己免疫疾患の良好なモデルを供与する。
雄性MRL/MpJ−lpr/lpr(MRL/lpr)マウスをCharles River Japan(Atsugi、Kanagawa、Japan)より入手した。マウスを、特定病原体非感染条件で維持した。
DSGを入手し、参考例1に記載のように調製した。
DSGを13週目〜20週目(58日間)に投与した。
(A)1.5mg/kgの1日用量で静脈投与または
(B)1日用量で1.5mg/kg DSG静脈投与による3回の10日間の治療サイクルで1回目および2回目のサイクルの後に14日間の中間期(DSGなし)を伴う。
それぞれの治療群(AおよびB)は10匹のマウスから成った。食塩水を投与する1組の対照MRL/lprマウス(10)を含めた。
実験の終了時(59日目)に、根本 久一ら、J.Antibiotics, (1990),1590−1591に記載のようにリンパ節の重量、血清抗DNA力価およびBUN(血液尿素窒素)を測定した。末梢血中白血球細胞のレベルは、対照群で約18,000/μlであったのに比べ、AおよびB群の両方において約6,000/μlまで減少した。
しかし、本発明に従って治療したB群のマウスでは、A群と比較して、腸間膜、腋窩、肘、鼡径、下顎および腸骨リンパ節の重量が顕著に減少した。また、BUNおよび抗DNA力価は、A群と比較して、B群では顕著に低いレベルであった。
従って、自己免疫疾患の早期における本発明のDSGによるサイクル治療は、等量のDSGの連日投与よりも優れており、SLE様病巣の発達を抑制するのにより効率的である。B群において投与されたDSGの総用量は、A群において投与された量のほぼ半分であったことから、このことはさらに驚くべきことである。
【産業上の利用可能性】
【0056】
今回、予想外なことに、15−デオキシスパガリン(DSG)またはそのアナログは、治療を治療サイクルで実施する場合に過反応性炎症性疾患および自己免疫疾患の治療において高い有効性を示すことが見出された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
48時間以内の投与間隔によるデオキシスパガリンの連続投与を5日〜4週間続けること(治療サイクル)を、デオキシスパガリンを投与しない10日〜5週間の中間期を入れ、少なくとも2回繰り返す、全身性エリテマトーデス様病巣の発達抑制のための薬剤を調製するためのデオキシスパガリンの使用。
【請求項2】
15−デオキシスパガリンが使用されることを特徴とする請求項に記載の使用。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−263397(P2009−263397A)
【公開日】平成21年11月12日(2009.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−168344(P2009−168344)
【出願日】平成21年7月17日(2009.7.17)
【分割の表示】特願2000−619410(P2000−619410)の分割
【原出願日】平成12年4月14日(2000.4.14)
【出願人】(501444051)ユーロニッポンカヤク ゲーエムベーハー (1)
【出願人】(000004086)日本化薬株式会社 (921)
【Fターム(参考)】