全身性疼痛疾患の非ヒトモデル動物及びその製造方法、並びに、全身性疼痛疾患の治療薬のスクリーニング方法
【課題】全身性疼痛疾患と同様の症状を発現し、全身性疼痛疾患の発症メカニズムや治療法の研究に好適に利用でき、安価かつ容易に製造可能な、全身性疼痛疾患の非ヒトモデル動物を提供すること。更に、中高年の女性に圧倒的に多く発症している全身性疼痛疾患の症状に対応し、雄と雌とで症状の差を有する全身性疼痛疾患の非ヒトモデル動物を提供すること。
【解決手段】拘束ストレス、情動性ストレス及びSARTストレスのうちいずれかを与えられた動物からなることを特徴とする全身性疼痛疾患の非ヒトモデル動物である。更に、前記モデル動物は、性腺を摘出されていることが好ましい。
【解決手段】拘束ストレス、情動性ストレス及びSARTストレスのうちいずれかを与えられた動物からなることを特徴とする全身性疼痛疾患の非ヒトモデル動物である。更に、前記モデル動物は、性腺を摘出されていることが好ましい。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、全身性疼痛疾患と同様の症状を発現し、全身性疼痛疾患の発症メカニズムや治療法の研究に好適に利用でき、安価かつ容易に製造可能な、全身性疼痛疾患の非ヒトモデル動物及びその製造方法、並びに、全身性疼痛疾患の治療薬のスクリーニング方法に関する。
【背景技術】
【0002】
疼痛は、しばしば急性疼痛と慢性疼痛に分類される。急性疼痛は、組織損傷に対する反応であって、生体への警告としての役割が強い。一方、慢性疼痛は、長期持続性疾患(例えば、癌、関節リウマチなど)の随伴が見られる場合もあるが、急性の組織損傷や長期持続性疾患が治癒したにも関わらず疼痛が継続される場合や、原因不明の理由により疼痛が継続される場合がある。
【0003】
全身性疼痛疾患は、このような原因が特定できない慢性疼痛の一つであり、身体の広範囲に強い痛みを引き起こす原因不明の疾患である。また、全身性疼痛疾患は、中高年の女性に圧倒的に多く発症している。全身性疼痛疾患は、検査による生態的異常所見が難しく、また、慢性化する傾向が多くみられるため、難治性慢性疼痛として位置づけられている。一般に、軽度〜中度の疼痛の治療には、例えばNSAIDなどの、非オピオイド鎮痛薬が用いられ、重度の疼痛の治療には、例えばモルヒネなどのオピオイド鎮痛薬が用いられている。しかしながら、全身性疼痛疾患は、このような治療薬でも症状を改善することができない。
【0004】
全身性疼痛疾患の患者においては、慢性疼痛が日常生活や仕事に支障をきたすだけではなく、何科にかかればよいのかわからない、専門の医師が少なく検査によっても確定診断されない、治療薬がない、怠け病とみられるなど精神的な不安を抱えるケースも少なくない。事実、全身性疼痛疾患においては、痛み以外にも、疲労感、うつ、不安などの症状が合併されるケースが、数多く報告されている。
また、全身性疼痛疾患は、中高年の女性に圧倒的に多く発症しており、手術や事故による身体的外傷や、ストレスによる精神的要因が、発症の背景に大きく関与していることが分かっているが、具体的な発症メカニズムや治療法に関しては、ほとんど分かっていない。
【0005】
一方、常温と寒冷環境を反復負荷させるストレス(SARTストレス)を与えられたモデル動物は、副交感神経優位型の自律神経失調症のモデル動物として一般に知られており、持続的低血圧、免疫バランスの異常、痛覚過敏など多種の異常が報告されている。更に、このSARTストレスを与えられたモデル動物は、線維筋痛症をはじめとした全身性疼痛症候群のモデル動物としても有用であると言われている(非特許文献1参照)。
しかしながら、前記SARTストレスを与えられたモデル動物は、温度変化を強いることによる身体的な負荷をかけるため予期しない副作用の併発の危険性があったり、安定した温度管理のできる低温飼育用の設備を必要とするために製造コストがかかったりする。更には、前記SARTストレスを与えられたモデル動物は、雄と雌とで症状の差がないために、中高年の女性に圧倒的に多く発症する全身性疼痛疾患の症状に対してより一層対応した、性差を有するモデル動物が求められている。
【0006】
したがって、現在までのところ、全身性疼痛疾患と同様の症状を発現し、全身性疼痛疾患の発症メカニズムや治療法の研究に好適に利用でき、安価かつ容易に製造可能な、全身性疼痛疾患のモデル動物は、未だ提供されておらず、その速やかな提供が強く求められているのが現状である。更には、中高年の女性に圧倒的に多く発症している全身性疼痛疾患の症状に対応し、雄と雌とで症状の差を有する、全身性疼痛疾患のモデル動物は、未だ提供されておらず、その速やかな提供が強く求められているのが現状である。
【0007】
【非特許文献1】Fibronews2004(http://fibro.jp/fibronews2004.htm)、国際シンポジウム開かれる(第1回)、4段目
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、前記従来における諸問題を解決し、以下の目的を達成することを課題とする。即ち、本発明は、全身性疼痛疾患と同様の症状を発現し、全身性疼痛疾患の発症メカニズムや治療法の研究に好適に利用でき、安価かつ容易に製造可能な、全身性疼痛疾患の非ヒトモデル動物及びその製造方法、並びに、全身性疼痛疾患の治療薬のスクリーニング方法を提供することを目的とする。更には、中高年の女性に圧倒的に多く発症している全身性疼痛疾患の症状に対応し、雄と雌とで症状の差を有する、全身性疼痛疾患の非ヒトモデル動物及びその製造方法、並びに、全身性疼痛疾患の治療薬のスクリーニング方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を解決するため、本発明者らは鋭意検討した結果、以下のような知見を得た。即ち、拘束ストレス又は情動性ストレスを与えたマウスは、SARTストレスを与えたマウスと同様に、全身性でかつ慢性の疼痛を示し、全身性疼痛疾患のモデル動物として好適に利用できることを知見した。
また、マウスから性腺を摘出し、このマウスに対して拘束ストレス、情動性ストレス又はSARTストレスを与えた場合には、卵巣を摘出した雌に比べて、精巣を摘出した雄において疼痛が緩和されており、性腺を摘出されたマウスは、中高年女性の発症率が高い全身性疼痛疾患のモデル動物として、より好適であることを知見した。さらに、情動性ストレスを与えたマウスでの精巣摘出による疼痛緩和は正常値レベルにまで達したことから、より臨床像に近いものであった。
【0010】
本発明は、本発明者らによる前記知見に基づくものであり、前記課題を解決するための手段としては、以下の通りである。即ち、
<1> 拘束ストレスを与えられた動物からなることを特徴とする全身性疼痛疾患の非ヒトモデル動物である。
<2> 情動性ストレスを与えられた動物からなることを特徴とする全身性疼痛疾患の非ヒトモデル動物である。
<3> 性腺を摘出されてなる<1>から<2>のいずれかに記載のモデル動物である。
<4> 室温環境と冷温環境との反復負荷によるストレスを与えられた動物からなり、性腺を摘出されてなることを特徴とする全身性疼痛疾患の非ヒトモデル動物である。
<5> ストレスが、2回以上繰り返し与えられたストレスである<1>から<4>のいずれかに記載のモデル動物である。
<6> ストレスが、3日間以上与えられたストレスである<1>から<5>のいずれかに記載のモデル動物である。
<7> 全身性疼痛疾患が、モルヒネ投与により改善されない疾患である<1>から<6>のいずれかに記載のモデル動物である。
<8> 全身性疼痛疾患が、慢性疲労症候群、過敏性腸症候群、緊張型頭痛、顎関節症、筋筋膜痛症候群、心的外傷後ストレス障害、うつ病性疼痛、脳卒中後疼痛、視床痛及び線維筋痛症のうちいずれかである請求項1から7のいずれかに記載のモデル動物である。
<9> 動物に拘束ストレスを与える工程を含むことを特徴とする全身性疼痛疾患の非ヒトモデル動物の製造方法である。
<10> 動物に情動性ストレスを与える工程を含むことを特徴とする全身性疼痛疾患の非ヒトモデル動物の製造方法である。
<11> ストレスを与える工程の前に、性腺を摘出する工程を含む<9>から<10>のいずれかに記載の製造方法である。
<12> 動物から性腺を摘出する工程と、前記動物に室温環境と冷温環境との反復負荷によるストレスを与える工程を含むことを特徴とする全身性疼痛疾患の非ヒトモデル動物の製造方法である。
<13> ストレスを与える工程が2回以上繰り返される<9>から<12>のいずれかに記載の製造方法である。
<14> ストレスを与える工程が3日間以上行われる<9>から<13>のいずれかに記載の製造方法である。
<15> 全身性疼痛疾患が、モルヒネ投与により改善されない疾患である<9>から<14>のいずれかに記載の製造方法である。
<16> 全身性疼痛疾患が、慢性疲労症候群、過敏性腸症候群、緊張型頭痛、顎関節症、筋筋膜痛症候群、心的外傷後ストレス障害、うつ病性疼痛、脳卒中後疼痛、視床痛及び線維筋痛症のうちいずれかである<9>から<15>のいずれかに記載の製造方法である。
<17> <1>から<8>のいずれかに記載のモデル動物を用いる全身性疼痛疾患の治療薬のスクリーニング方法である。
<18> モデル動物に対して被験物質を投与する工程と、
前記被験物質を投与されたモデル動物に対して刺激を与え、疼痛を誘発させる工程と、
前記誘発された疼痛を測定する工程と、
前記被験物質が、前記疼痛を緩和したか否かを評価する工程と、を含む<17>に記載のスクリーニング方法である。
<19> 機械刺激、熱刺激、化学刺激及び電気刺激のうち少なくとも1つにより疼痛を誘発させる<18>に記載のスクリーニング方法である。
<20> 疼痛閾値及び刺激に対する応答の大きさのうち少なくとも1つを指標として疼痛を測定する<18>から<19>のいずれかに記載のスクリーニング方法である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によると、従来における諸問題を解決することができ、全身性疼痛疾患と同様の症状を発現し、全身性疼痛疾患の発症メカニズムや治療法の研究に好適に利用でき、安価かつ容易に製造可能な、全身性疼痛疾患の非ヒトモデル動物及びその製造方法、並びに、全身性疼痛疾患の治療薬のスクリーニング方法を提供することができる。更には、中高年の女性に圧倒的に多く発症している全身性疼痛疾患の症状に対応し、雄と雌とで症状の差を有する、全身性疼痛疾患の非ヒトモデル動物及びその製造方法、並びに、全身性疼痛疾患の治療薬のスクリーニング方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
(全身性疼痛疾患の非ヒトモデル動物)
本発明の全身性疼痛疾患の非ヒトモデル動物(以下、「モデル動物」と称する。)は、ストレスを与えられた動物からなることを特徴とする。
【0013】
<ストレス>
前記ストレスとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、拘束性ストレス、情動性ストレス、SART(specific alteration of rhythm in temperature)ストレス、などが挙げられる。中でも、特に設備がなくても安価かつ容易にストレスを与えることができる点で、拘束性ストレスが好ましく、身体的な負荷をかけずにストレスを与えることができるので副作用の心配が少ない点で、情動性ストレスが好ましい。
【0014】
前記ストレスが与えられる回数としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、1回以上が好ましく、全身性疼痛疾患の症状が効果的に誘発される点で、2回以上繰り返し与えられることがより好ましく、5回以上繰り返し与えられることが更に好ましい。前記ストレスが2回以上繰り返し与えられる場合には、1日の中で繰り返しストレスが与えられてもよく、2日間以上かけて繰り返しストレスが与えられてもよい。
【0015】
前記ストレスが与えられる1回あたりの時間としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、10分間以上が好ましく、15分間〜2時間がより好ましく、30分間〜1時間が更に好ましい。
前記ストレスが与えられる期間としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、1日間以上が好ましく、全身性疼痛疾患の症状が効果的に誘発される点で、3日間以上がより好ましく、5日間以上が更に好ましい。前記ストレスが2日間以上与えられる場合には、ストレスが与えられる日が連続していてもよく、連続していなくてもよいが、全身性疼痛疾患の症状が効果的に誘発される点で、連続していることが好ましい。
【0016】
以下、前記拘束性ストレス、前記情動性ストレス及び前記SARTストレスについて、詳細に説明する。
【0017】
−拘束性ストレス−
前記拘束性ストレスとは、動物の行動の自由を制限することにより与えられるストレスである。
前記行動の自由を制限される動物の部位としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、全身、各関節(下肢、腕、指、首など)、などが挙げられる。中でも、全身性疼痛疾患の症状が効果的に誘発される点で、全身が好ましい。
【0018】
前記拘束性ストレスが与えられる回数としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、1回以上が好ましく、全身性疼痛疾患の症状が効果的に誘発される点で、2回以上繰り返し与えられることがより好ましく、5回以上繰り返し与えられることが更に好ましい。前記ストレスが2回以上繰り返し与えられる場合には、1日の中で繰り返しストレスが与えられてもよく、2日間以上かけて繰り返しストレスが与えられてもよい。
【0019】
前記拘束性ストレスが与えられる1回あたりの時間としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、10分間〜6時間が好ましく、20分間〜2時間がより好ましく、30分間〜1時間が更に好ましい。
前記拘束ストレスが与えられる期間としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、1日間以上が好ましく、全身性疼痛疾患の症状が効果的に誘発される点で、5日間以上がより好ましく、1週間以上が更に好ましい。前記拘束ストレスが2日間以上与えられる場合には、前記拘束ストレスが与えられる日が連続していてもよく、連続していなくてもよいが、全身性疼痛疾患の症状が効果的に誘発される点で、連続していることが好ましい。
【0020】
−情動性ストレス−
前記情動性ストレスとは、特に身体的なストレスが与えられることなく、一時的で急激な感情の動きにより与えられるストレスである。
前記感情としては、動物がストレスと感じる感情である限り、特に制限はなく、例えば、恐怖、怒り、悲しみ、仲間への危害に対する共感などが挙げられる。
【0021】
前記情動性ストレスが与えられる回数としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、1回以上が好ましく、全身性疼痛疾患の症状が効果的に誘発される点で、2回以上繰り返し与えられることがより好ましく、3回以上繰り返し与えられることが更に好ましく、5回以上繰り返し与えられることが特に好ましい。前記ストレスが2回以上繰り返し与えられる場合には、1日の中で繰り返しストレスが与えられてもよく、2日間以上かけて繰り返しストレスが与えられてもよい。
【0022】
前記情動性ストレスが与えられる1回あたりの時間としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、10分間〜3時間が好ましく、30分間〜1時間がより好ましい。
前記情動性ストレスが与えられる期間としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、1日間以上が好ましく、全身性疼痛疾患の症状が効果的に誘発される点で、3日間以上がより好ましく、5日間以上が更に好ましい。
前記情動性ストレスが2日間以上与えられる場合には、前記情動性ストレスが与えられる日が連続していてもよく、連続していなくてもよいが、全身性疼痛疾患の症状が効果的に誘発される点で、連続していることが好ましい。
【0023】
−SARTストレス−
前記SARTストレスとは、動物を室温下と冷温下とに交互に置くことで与えられるストレスである。
前記室温としては、動物が特に寒冷を感じない温度である限り、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、20〜26℃が好ましく、23〜25℃がより好ましく、24℃が特に好ましい。
前記室温下に動物を置く1回当たりの時間としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、0.5〜1.5時間が好ましく、0.5〜1時間がより好ましく、0.5時間が特に好ましい。
【0024】
前記冷温としては、動物が寒冷を感じる温度であり、かつ、前記室温未満である限り、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、−3〜6℃が好ましく、0〜4℃がより好ましく、4℃が特に好ましい。
前記冷温下に動物を置く1回当たりの時間としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、0.5〜1.5時間が好ましく、0.5〜1時間がより好ましく、0.5時間が特に好ましい。
【0025】
前記SARTストレスが与えられる回数としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、室温から冷温に移す作業を1回と数えるとき、1回以上が好ましく、全身性疼痛疾患の症状が効果的に誘発される点で、2回以上繰り返し与えられることがより好ましく、4回以上繰り返し与えられることが更に好ましい。前記ストレスが2回以上繰り返し与えられる場合には、1日の中で繰り返しストレスが与えられてもよく、2日間以上かけて繰り返しストレスが与えられてもよい。
前記SARTストレスが与えられる期間としては、1日間以上が好ましく、全身性疼痛疾患の症状が効果的に誘発される点で、3日間以上がより好ましく、1週間以上が更に好ましい。前記拘束ストレスが2日間以上与えられる場合には、前記拘束ストレスが与えられる日が連続していてもよく、連続していなくてもよいが、全身性疼痛疾患の症状が効果的に誘発される点で、連続していることが好ましい。
【0026】
<動物>
前記モデル動物の種としては、ヒト以外であれば特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、非ヒト哺乳類、鳥類、爬虫類、両生類などが挙げられ、これらの中でも非ヒト哺乳類が好ましい。また、前記非ヒト哺乳類としては、特に制限はなく、例えば、マウス、ラット、モルモット、イヌ、ネコ、ウサギ、ブタ、ウシ、サルなどが挙げられる。
【0027】
−性腺が摘出された動物−
前記動物としては、性腺が摘出されていてもよく、摘出されていなくてもよいが、性腺が摘出されていることが好ましい。
ここで、性腺を摘出した動物にストレスを与えることにより、全身性疼痛疾患のモデル動物を製造したところ、卵巣を摘出した雌に比べて、精巣を摘出した雄において疼痛が緩和されることが、後記する実施例において明らかとなった。性腺を摘出された動物は、例えば閉経などにより性ホルモンの分泌が低下した高齢の患者に見立てることができ、卵巣を摘出した雌において相対的に疼痛が過敏であることは、全身性疼痛疾患の患者が高齢の女性に多いことに一致する。
即ち、性腺が摘出された動物にストレスを与えることにより製造されたモデル動物は、性腺が摘出されていないモデル動物に比べて、全身性疼痛疾患の発症メカニズム及び治療法の研究に対して、より有効であることが期待できる。
なお、前記性腺を摘出された動物を利用する代わりに、性ホルモンの合成乃至分泌を阻害する薬剤を動物に投与することで得られる、性ホルモンの合成乃至分泌が阻害された動物を利用してもよい。
【0028】
<用途>
前記モデル動物は、全身性疼痛疾患と同様の症状を発現し、安価かつ容易に製造可能なので、全身性疼痛疾患の発症メカニズムや治療法の研究に好適に利用できる。前記全身性疼痛疾患の発症メカニズムや治療法の研究には、全身性疼痛疾患の治療薬のスクリーニングも含まれる。
【0029】
−全身性疼痛疾患−
前記全身性疼痛疾患としては、全身性で慢性の疼痛を呈する疾患である限り、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、線維筋痛症、慢性疲労症候群、過敏性腸症候群、緊張型頭痛、顎関節症、筋筋膜痛症候群、心的外傷後ストレス障害、うつ病性疼痛、脳卒中後疼痛、視床痛などが挙げられる。中でも、治療法が確立しておらず、全身性疼痛疾患の発症メカニズムや治療法の研究に対する需要が高い点で、モルヒネなどのオピオイド鎮痛剤が奏効しない疾患であることが好ましい。前記オピオイド鎮痛剤が奏効しない疾患としては、例えば、線維筋痛症、緊張型頭痛、視床痛などが挙げられる。
【0030】
(全身性疼痛疾患の非ヒトモデル動物の製造方法)
全身性疼痛疾患の非ヒトモデル動物の製造方法は、少なくとも動物にストレスを与える工程を含み、更に必要に応じてその他の工程を含む。
前記「動物にストレスを与える工程」については、前記(全身性疼痛疾患の非ヒトモデル動物)の項目における<ストレス>の項目で説明したものと同じであるので、説明を省略する。
【0031】
前記その他の工程としては、例えば、性腺を摘出する工程などが挙げられる。
前記性腺を摘出する工程は、前記動物にストレスを与える工程の前に行ってもよく、動物にストレスを与える工程の後に行ってもよいが、誘発される症状において顕著な性差が現れる点で、前記動物にストレスを与える工程の前に行うことが好ましい。
【0032】
(全身性疼痛疾患の治療薬のスクリーニング方法)
前記全身性疼痛疾患の治療薬のスクリーニング方法としては、前記モデル動物を用いる限り、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、下記(a)〜(c)工程を含むことが好ましく、必要に応じてその他の工程を含むことがより好ましい。
(a)工程:前記モデル動物に対して被験物質を投与する工程。
(b)工程:前記被験物質を投与されたモデル動物に対して刺激を与え、前記刺激により誘発された疼痛を測定する工程。
(c)工程:前記被験物質が、前記疼痛を緩和したか否かを評価する工程。
【0033】
なお、前記治療薬とは、全身性疼痛疾患の症状のうち少なくとも1つの症状を予防乃至改善することができる薬剤を意味する。前記全身性疼痛疾患の症状としては、疾患に応じて変わりうるが、例えば、全身性疼痛、慢性疼痛などが代表的である。
【0034】
<(a)工程>
−モデル動物−
前記(a)工程における前記モデル動物としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、前記拘束ストレスを与えられたモデル動物、前記情動性ストレスを与えられたモデル動物、前記SARTストレスを与えられたモデル動物などが挙げられる。前記モデル動物は、性腺が摘出されていてもよく、摘出されていなくてもよいが、性差を有する疾患に対する治療薬のスクリーニングに適している点で、性腺が摘出されたモデル動物が好ましい。
【0035】
−被験物質−
前記(a)工程における前記被験物質としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、細胞抽出物、細胞培養上清、発酵微生物産生物、海洋生物抽出物、植物抽出物、精製蛋白質、粗精製蛋白質、ペプチド、非ペプチド性化合物、合成低分子化合物、天然化合物などが挙げられる。
【0036】
−投与−
前記被験物質の、前記モデル動物への投与方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、腹腔内投与、血液中への注射、飼料(餌)への添加、腸内への注入、脊髄内投与などが挙げられる。
また、前記被験物質の、前記モデル動物への投与量としても、特に制限はなく、例えば、投与対象生物の種類、被験物質の種類、副作用の程度などに応じて適宜選択することができる。一般的には、ヒトでの体重あたりの投与量を、前記投与対象生物に換算して投与することができ、当業者であれば、適切な投与量を選択することが可能である。
【0037】
<(b)工程>
−刺激−
前記(b)工程における刺激方法としては、前記モデル動物に対して疼痛を誘発できる限り、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、機械刺激、熱刺激、化学刺激、電気刺激などが挙げられる。
【0038】
刺激する前記モデル動物の部位としては、前記モデル動物に対して疼痛を誘発できる限り、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、頭頸部、体幹部、四肢、尾部、口腔、鼻腔、胃、腸、鼓膜などにおける、上皮、筋肉、神経などが挙げられる。前記部位は、1箇所を刺激してもよいし、2箇所以上を刺激してもよいが、全身性疼痛を評価できる点で、2箇所以上の刺激が好ましく、3箇所以上の刺激がより好ましい。
【0039】
前記(b)工程における疼痛の測定方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、疼痛を感じ始めるときの刺激の大きさ(疼痛閾値)を指標とした測定;刺激に対する応答の大きさを指標とした測定;などが挙げられる。
【0040】
前記(b)工程における疼痛の測定期間としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、1日間以上が好ましく、慢性疼痛を評価できる点で、1週間以上がより好ましく、2週間以上が更に好ましい。
【0041】
<(c)工程>
前記(c)工程において、前記被験物質が、前記疼痛を緩和したか否かを評価する方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、前記被験物質を投与しなかった場合(対照)と比較して、前記被験物質を投与した場合に、前記モデル動物が示す疼痛の程度が低減(緩和)されたときに、前記被験物質は、全身性疼痛疾患を予防乃至改善する活性を有すると評価することができる。
以上、前記(a)工程〜(c)工程により、前記スクリーニング方法を行うことができる。前記スクリーニング方法によれば、高い精度で、かつ、効率的に、全身性疼痛疾患を予防乃至改善する物質をスクリーニングすることができる。更に、前記(a)工程において、性腺を摘出されたモデル動物を使用した場合には、全身性疼痛疾患の中でも症状に性差を有する疾患を予防乃至改善する物質を、より高い精度でスクリーニングすることができる。
【実施例】
【0042】
以下に本発明の実施例を説明するが、本発明は、これらの実施例に何ら限定されるものではない。
【0043】
(製造例1)
製造例1では、マウスにSARTストレスを与えることで、全身性疼痛疾患のモデル動物を製造した。
マウスとしては、C57BL6/J系雄性マウス 6週齢(20〜22g)を、各群8〜16匹用いた。
【0044】
−ストレス負荷群(SARTストレスを与えられたマウス)−
図1は、SARTストレスを与えられたマウスの製造方法を説明するための概念図である。
図1に示すように、マウスを、16時30分(これをストレス前日とする。)から4℃下で飼育し、翌10時(ストレス1日目)から30分毎に室温(24℃)と冷温(4℃)との環境下で16時30分まで繰り返し環境を変えて飼育し、その後、再び4℃下で飼育した。これをストレス2日目も繰り返し、ストレス3日目の10時に24℃に戻した。24℃に戻してから、1時間の適応時間が経過した時点(ストレス3日目の11時)でストレス負荷終了とした。このとき、ストレス3日目をストレス後1日目とした。なお、前記ストレス負荷期間中は、固形の餌と水分補給のための寒天をゲージ内に常において、自由に摂取できる環境にした。
【0045】
−正常対照群−
上記ストレス負荷群において、ストレス負荷期間中(ストレス1日目の16時30分〜ストレス3日目の11時)、常に24℃で飼育したこと以外は、上記ストレス負荷群と同様にして飼育することにより、正常対照群のマウスを製造した。
【0046】
(比較製造例1)
製造例1のストレス負荷群において、ストレス負荷期間中(ストレス1日目の16時30分〜ストレス3日目の11時)、常に4℃で飼育したこと以外は、製造例1のストレス負荷群と同様にして飼育することにより、比較製造例1のマウスを製造した。
【0047】
(製造例2)
製造例2では、マウスに拘束ストレスを与えることで、全身性疼痛疾患のモデル動物を製造した。
マウスとしては、C57BL6/J系雄性マウス 6週齢(20〜22g)を、各群8〜10匹用いた。
【0048】
−ストレス負荷群(拘束ストレスを与えられたマウス)−
図2は、拘束ストレスを与えられたマウスの製造方法を説明するための概念図である。
図2に示すように、空気腔を開けた50mlのコニカルチューブ内にマウスを押し込め、マウスを30分間拘束した。このとき、マウスとコニカルチューブ内壁との隙間が少なくなるように、ティッシュペーパーを詰めてマウスを固定した。また、コニカルチューブが転倒するのを防ぐため、外側はビニルテープで固定した。この作業を、1日に1回ずつ、5日間連続して行った。その後、1日間の適応時間が経過した時点(ストレス後1日目)でストレス負荷終了とした。なお、前記ストレス負荷期間中(コニカルチューブ中は除く)は、固形の餌と水分は、自由に摂取できる環境にした。
【0049】
−正常対照群−
上記ストレス負荷群において、ストレス負荷期間中、前記コニカルチューブを用いて拘束ストレスを与える作業を行わなかったこと以外は、上記ストレス負荷群と同様にして飼育することにより、正常対照群のマウスを製造した。
【0050】
(製造例3)
製造例3では、マウスに情動性ストレスを与えることで、全身性疼痛疾患のモデル動物を製造した。
マウスとしては、C57BL6/J系雄性マウス 6週齢(20〜22g)を、各群13〜20匹用いた。
【0051】
−ストレス負荷群(情動性ストレスを与えられたマウス)−
図3は、情動性ストレスを与えられたマウスの製造方法を説明するための概念図である。
図3に示すように、床から一定条件で電気刺激を与えるコミュニケーションボックスを、透明な板で9つに区切り、区切られた空間の床上に互いに交互になるように絶縁の板を置いた。2mAで1秒間の電気刺激が、1時間に120回ランダムに与えられえる設定にして、電気を流した。このとき、絶縁の板の上に配置されたマウスは、自分自身が電気刺激されることはないが、電気刺激されるマウスに囲まれるように配置されているために、心理的(情動性)ストレスが与えられる。この作業を、1日に1回ずつ、5日間連続して行った。その後、1日間の適応時間が経過した時点(ストレス後1日目)でストレス負荷終了とした。なお、前記ストレス負荷期間中(コミュニケーションボックス中は除く)は、固形の餌と水分は、自由に摂取できる環境にした。
【0052】
−正常対照群−
上記ストレス負荷群において、ストレス負荷期間中、前記コミュニケーションボックスを用いて情動性ストレスを与える作業を行わなかったこと以外は、上記ストレス負荷群と同様に飼育することにより、正常対照群のマウスを製造した。
【0053】
(比較製造例2)
製造例3のストレス負荷群において、ストレス負荷期間中、前記コミュニケーションボックスを用いて情動性ストレスを与える代わりに、前記コミュニケーションボックス内に他のマウスを配置せずに、直接的に電気刺激を与えたこと以外は、製造例3のストレス負荷群と同様に飼育することにより、比較製造例2のマウスを製造した。
【0054】
(実施例1)
実施例1では、製造例1〜3及び比較製造例1〜2で製造したマウスについて、慢性疼痛を評価した。慢性疼痛の評価方法としては、機械刺激誘発性疼痛試験により経時的な疼痛閾値を評価した。なお、前記機械刺激誘発性疼痛試験は、デジタル式von Frey法に従って行った。
【0055】
<方法>
−機械刺激誘発性疼痛試験−
プラスチックチップをマウスの足底部に押しやり、その回避応答までの重量閾値をデジタル測定した。結果を図4〜8に示す。
【0056】
<結果>
図4〜8は、機械刺激誘発性疼痛試験の結果を示す図であって、図4は、製造例1のマウスに対する機械刺激誘発性疼痛試験の結果を示す図であり、図5は比較製造例1のマウスに対する機械刺激誘発性疼痛試験の結果を示す図であり、図6は、製造例2のマウスに対する機械刺激誘発性疼痛試験の結果を示す図であり、図7は、製造例3のマウスに対する機械刺激誘発性疼痛試験の結果を示す図であり、図8は、比較製造例2のマウスに対する機械刺激誘発性疼痛試験の結果を示す図である。
【0057】
図4〜8において、縦軸(PWT)は、測定された重量閾値(g)を示す。横軸は、ストレス負荷開始前(pre)、ストレス負荷期間(stress)及びストレス後(post stress)における経過日数を示す。このとき、ストレス3日目はストレス後1日目に相当する。そして、図4〜8において、「stress(■)」とはストレス負荷群を示し、「control(□)」とは、その正常対照群を示す。
【0058】
図4に示すように、製造例1のストレス負荷群(SARTストレスを与えられたマウス)においては、ストレス後1日目から、機械刺激誘発性疼痛の閾値低下、即ち、疼痛過敏が観察された。この疼痛過敏は、少なくとも19日以上持続した。一方で、製造例1の正常対照群においては、機械刺激誘発性疼痛の経日的な閾値低下は観察されなかった。
図5に示すように、製造例1のストレス負荷群と同様のストレス期間を、常に冷温(4℃)下で飼育した低温ストレスマウス(比較製造例1)においては、ストレス後1日目には機械刺激誘発性疼痛の閾値低下、即ち、疼痛過敏が観察されるが、ストレス後3日目には回復傾向を示し慢性的な疼痛過敏は示さなかった。
【0059】
図6に示すように、製造例2のストレス負荷群(拘束ストレスを与えられたマウス)においては、ストレス後1日目から、機械刺激誘発性疼痛の閾値低下、即ち、疼痛過敏が観察された。この疼痛過敏は、少なくとも15日以上持続した。一方で、製造例2の正常対照群においては、機械刺激誘発性疼痛の経日的な閾値低下は観察されなかった。
【0060】
図7に示すように、製造例3のストレス負荷群(情動性ストレスを与えられたマウス)においては、ストレス後1日目から、機械刺激誘発性疼痛の閾値低下、即ち、疼痛過敏が観察された。この疼痛過敏は、少なくとも15日以上持続した。一方で、製造例3の正常対照群においては、機械刺激誘発性疼痛の経日的な閾値低下は観察されなかった。
図8に示すように、製造例3のストレス負荷群と同様のストレス期間を、情動性ストレスを与えずに直接的に電気刺激を負荷したマウス(比較製造例2)においては、ストレス後1日目から、機械刺激誘発性疼痛の閾値低下、即ち、疼痛過敏が観察されるが、ストレス後8日目には回復傾向を示し慢性的な疼痛過敏は示さなかった。
【0061】
実施例1の結果によれば、SARTストレスを与えられたマウス、拘束ストレスを与えられたマウス及び情動性ストレスを与えられたマウスは、いずれも慢性疼痛を呈することが示された。一方で、冷温ストレスを与えられたマウス及び電気刺激を与えられたマウスは、慢性疼痛を示さなかった。
【0062】
(実施例2)
−熱刺激誘発性疼痛試験−
実施例2では、製造例1〜3で製造したマウスについて、熱刺激誘発性疼痛試験を行った。なお、前記熱刺激誘発性疼痛試験は、Hargreaves thermal paw withdrawal法に従って行った。
【0063】
<方法>
ガラス板の上にマウスを置き、下から一定の熱刺激を与えた時の回避応答までの時間を測定した。結果を図9〜11に示す。
【0064】
<結果>
図9〜11は、熱刺激誘発性疼痛試験の結果を示す図であって、図9は、製造例1のマウスに対するストレス後1日目及び15日目における熱刺激誘発性疼痛試験の結果を示す図であり、図10は、製造例2のマウスに対するストレス後15日目の熱刺激誘発性疼痛試験の結果を示す図であり、図11は、製造例3のマウスに対するストレス後1日目の熱刺激誘発性疼痛試験の結果を示す図である。
図9〜11において、縦軸(PWL)は、回避応答までの時間(sec)を示し、横軸における「Stress」とはストレス負荷群を示し、「Control」とはその正常対照群を示す。
【0065】
図9の左のグラフに示すように、製造例1のストレス負荷群(SARTストレスを与えられたマウス)では、ストレス後1日目の閾値が6.38±0.12秒であり、その正常対照群の閾値が10.07±0.17秒であることと比べると、有意に下がることが確認された。また、図9の右のグラフに示すように、製造例1のストレス負荷群(SARTストレスを与えられたマウス)では、ストレス後15日目の閾値が6.28±0.48秒であり、その正常対照群の閾値が10.1±0.55秒であることと比べると、有意に下がることが確認された。
即ち、製造例1のストレス負荷群(SARTストレスを与えられたマウス)は、熱刺激誘発性疼痛試験においても、慢性的な疼痛過敏が観察された。
【0066】
図10に示すように、製造例2のストレス負荷群(拘束ストレスを与えられたマウス)では、ストレス後15日目の閾値が6.72±0.2秒であり、その正常対照群の閾値が9.99± 0.28秒であることと比べると、有意に下がることが確認された。
即ち、製造例2のストレス負荷群(拘束ストレスを与えられたマウス)は、熱刺激誘発性疼痛試験においても、慢性的な疼痛過敏が観察された。
【0067】
図11に示すように、製造例3のストレス負荷群(情動性ストレスを与えられたマウス)では、ストレス後1日目の閾値が6.89±0.38秒であり、その正常対照群の閾値が9.24±0.31秒であることと比べると、有意に下がることが確認された。また、この閾値の低下は、ストレス4日目から観察され、少なくとも15日間以上持続した(図示せず)。
即ち、製造例3のストレス負荷群(情動性ストレスを与えられたマウス)は、熱刺激誘発性疼痛試験においても、慢性的な疼痛過敏が観察された。
【0068】
(実施例3)
−化学刺激誘発性試験−
実施例3では、製造例1〜3で製造したマウスについて、化学刺激誘発性試験を行った。なお、前記化学刺激誘発性試験は、酢酸ライジング法に従って行った。
【0069】
<方法>
0.9%酢酸をマウスに腹腔内投与してからの20分間、マウスがライジング行動を行う頻度を計測した。なお、97%酢酸を生理食塩水に希釈することで0.9%酢酸を調製した。ライジング行動とは、マウスが痛みを感じたときにライジングする(体をのばす)行動を意味する。結果を図12〜14に示す。
【0070】
<結果>
図12〜14は、化学刺激誘発性疼痛試験の結果を示す図であって、図12は、製造例1のマウスに対するストレス後1日目及び15日目における化学刺激誘発性疼痛試験の結果を示す図であり、図13は、製造例2のマウスに対するストレス後15日目の化学刺激誘発性疼痛試験の結果を示す図であり、図14は、製造例3のマウスに対するストレス後1日目の化学刺激誘発性疼痛試験の結果を示す図である。
図12〜14において、縦軸(writhing)は、ライジング行動の頻度を示し、横軸における「Stress」とはストレス負荷群を示し、「Control」とは正常対照群を示す。
【0071】
図12の左のグラフに示すように、製造例1のストレス負荷群(SARTストレスを与えられたマウス)では、ストレス後1日目の頻度が49±0.5回であり、その正常対照群が31±1回であることと比べると、有意に過敏応答を生じることが確認された。また、図12の右のグラフに示すように、製造例1のストレス負荷群(SARTストレスを与えられたマウス)において、ストレス後15日目の頻度が39±0.5回であり、その正常対照群が30±3回であることと比べると、有意に慢性的な過敏応答を生じることが確認された。
即ち、製造例1のストレス負荷群(SARTストレスを与えられたマウス)は、化学刺激誘発性疼痛試験においても、慢性的な疼痛過敏が観察された。
【0072】
図13に示すように、製造例2のストレス負荷群(拘束ストレスを与えられたマウス)では、ストレス後15日目の頻度が39±2回であり、その正常対照群の頻度が32±0.9回であることと比べると、有意に過敏応答を生じることが確認された。
即ち、製造例2のストレス負荷群(拘束ストレスを与えられたマウス)においては、化学刺激誘発性疼痛試験においても、慢性的な疼痛過敏が観察された。
【0073】
図14に示すように、製造例3のストレス負荷群(情動性ストレスを与えられたマウス)では、ストレス後1日目の頻度が41±2回であり、その正常対照群の頻度が31±2回であることと比べると、有意に過敏応答を生じることが確認された。また、この頻度の上昇は、少なくとも15日間以上持続した(図示せず)。
即ち、製造例3のストレス負荷群(情動性ストレスを与えられたマウス)化学刺激誘発性疼痛試験においても、慢性的な疼痛過敏が観察された。
【0074】
(実施例4)
−電気刺激誘発性試験−
実施例4では、製造例1〜3で製造したマウスについて、電気刺激誘発性試験を行った。
【0075】
<方法>
neurometer(電気刺激装置)を用いて、低い値からマウスの右脚に一定感覚で刺激を与えていき、脚が初めて反応したときの値を測定した。また、与える電気の周波数を5Hz、250Hz、2,000Hzに変え、それぞれの周波数において同じ測定を行った。結果を図15〜17に示す。
【0076】
<結果>
図15〜17は、電気刺激誘発性疼痛試験の結果を示す図であって、図15は、製造例1のマウスに対するストレス後1日目の電気刺激誘発性疼痛試験の結果を示す図であり、図16は、製造例2のマウスに対するストレス後15日目の電気刺激誘発性疼痛試験の結果を示す図であり、図17は、製造例3のマウスに対するストレス後1日目の電気刺激誘発性疼痛試験の結果を示す図である。
図15〜17において、縦軸(Threshold(μA))は、脚が初めて反応したときの値を示し、横軸における「Stress」とはストレス負荷群を示し、「Control」とは正常対照群を示す。
【0077】
図15に示すように、製造例1のストレス負荷群(SARTストレスを与えられたマウス)とその正常対照群とを比較するとき、5Hzの電気刺激では閾値に変化は見られなかったものの(ストレス負荷群=70±10μA/正常対照群=78±7μA)、250Hz及び2,000Hzでは閾値に変化が見られた(250Hz:ストレス負荷群=92±8μAに対し、正常対照群=170±10μA、2,000Hz:ストレス負荷群=267±10μAに対し、正常対照群=334±12μA)。
即ち、製造例1のストレス負荷群において疼痛を誘発させるにはAβ及びAσ線維が重要であり、また、製造例1のストレス負荷群は、その正常対照群に比べ、有意に過敏応答を生じることが確認された。
【0078】
図16に示すように、製造例2のストレス負荷群(拘束ストレスを与えられたマウス)とその正常対照群とを比較して、5Hzの電気刺激では閾値に変化は見られなかったものの(ストレス負荷群=75.3±11μA/正常対照群=74±1μA)、250Hz及び2,000Hzでは閾値に変化が見られた(250Hz:ストレス負荷群=100±5μAに対し、正常対照群=185±15μA、2,000Hz:ストレス負荷群=243±9μAに対し、正常対照群=310±10μA)。
即ち、ストレス誘発性疼痛にはAβ及びAσ線維が重要であり、製造例2のストレス負荷群は、その正常対照群に比べ、有意に過敏応答を生じることが確認された。
【0079】
図17に示すように、製造例3のストレス負荷群(情動性ストレスを与えられたマウス)とその正常対照群とを比較して、5Hzの電気刺激では閾値に変化は見られなかったものの(ストレス負荷群=70±6.2μA/正常対照群=76.3±7.9μA)、250Hz及び2,000Hzでは閾値に変化が見られた(250Hz:ストレス負荷群=120±5.7μAに対し、正常対照群=165±6.7μA、2,000Hz:ストレス負荷群=245±9.6μAに対し、正常対照群=353±4.9μA)。
即ち、ストレス誘発性疼痛にはAβ及びAσ線維が重要であり、製造例3のストレス負荷群は、その正常対照群に比べ、有意に過敏応答を生じることが確認された。
【0080】
実施例1〜4の結果から、SARTストレス、拘束ストレス又は情動性ストレスを与えたマウスは、刺激部位が異なる、機械刺激誘発性疼痛試験、熱刺激誘発性疼痛試験、化学刺激誘発性疼痛試験及び電気刺激誘発性疼痛試験のいずれにおいても高い過敏応答を示し、痛みが全身性に引き起こされていることが示された。
【0081】
(製造例4)
<SARTストレスが与えられた性腺摘出マウスの製造>
製造例4では、マウスから性腺を摘出し、この性腺を摘出したマウスに対してSARTストレスを与えることで、全身性疼痛疾患のモデル動物を製造した。
マウスとしては、C57BL6/J系雄性マウス 6週齢(20〜22g)を、各群におおいて、雄性マウス16匹、雌性マウス16匹用いた。
【0082】
−性腺摘出群−
雌性マウスの卵巣をペントバルビタール麻酔下で摘出する手術を行った。マウスの背部の皮膚および腹膜を切断して卵巣および卵管をとりだし、子宮角を結紮して摘出した。一方、雄性マウスでは腹部の皮膚および腹膜を切断して精巣および周辺の精巣上頭を含めた部位を、精管を結紮して摘出した。術部を絹糸で縫合した後、覚醒まで37℃に保温した。手術後、3週間おいてストレス負荷を開始した。
【0083】
−偽手術群−
雌性マウスの背部の皮膚および腹膜を切断して、そのまま切断部位を絹糸で縫合し、覚醒まで37℃に保温した。雄性マウスでは腹部の皮膚および腹膜を切断して、そのまま切断部位を絹糸で縫合した。手術後、3週間おいてストレス負荷を開始した。
【0084】
−ストレス負荷群(SARTストレスを与えられた性腺摘出マウス)−
前記性腺摘出群及び前記偽手術群のそれぞれに対し、製造例1のストレス負荷群と同様の方法によりSARTストレスを与え、SARTストレスを与えられた性腺摘出マウスを製造した。
−−正常対照群−−
前記性腺摘出群及び偽手術群のそれぞれを、製造例1の正常対照群と同様の方法により飼育し、正常対照群のマウスを製造した。
【0085】
(製造例5)
<拘束ストレスが与えられた性腺摘出マウスの製造>
製造例5では、マウスから性腺を摘出し、この性腺を摘出したマウスに対して拘束ストレスを与えることで、全身性疼痛疾患のモデル動物を製造した。
マウスとしては、C57BL6/J系雄性マウス 6週齢(20〜22g)を、各群におおいて、雄性マウス16匹、雌性マウス16匹用いた。
【0086】
−ストレス負荷群(拘束ストレスを与えられた性腺摘出マウス)−
製造例4と同様の方法により作製した性腺摘出群及び偽手術群のそれぞれに対し、製造例2のストレス負荷群と同様の方法により拘束ストレスを与え、拘束ストレスを与えられた性腺摘出マウスを製造した。
−−正常対照群−−
製造例4と同様の方法により作製した性腺摘出群及び偽手術群のそれぞれを、製造例2の正常対照群と同様の方法により飼育し、正常対照群のマウスを製造した。
【0087】
(製造例6)
製造例6では、マウスから性腺を摘出し、この性腺を摘出したマウスに対して情動性ストレスを与えることで、全身性疼痛疾患のモデル動物を製造した。
マウスとしては、C57BL6/J系雄性マウス 6週齢(20〜22g)を、各群におおいて、雄性マウス16匹、雌性マウス16匹用いた。
【0088】
−ストレス負荷群(情動性ストレスを与えられた性腺摘出マウス)−
製造例4と同様の方法により作製した性腺摘出群及び偽手術群のそれぞれに対し、製造例3のストレス負荷群と同様の方法により情動性ストレスを与え、情動性ストレスを与えられた性腺摘出マウスを製造した。
−−正常対照群−−
製造例4と同様の方法により作製した性腺摘出群及び偽手術群のそれぞれを、製造例3の正常対照群と同様の方法により飼育し、正常対照群のマウスを製造した。
【0089】
(実施例5)
実施例5では、製造例4〜6で製造したマウスについて、慢性疼痛を評価した。慢性疼痛の評価方法としては、機械刺激誘発性疼痛試験により経時的な疼痛閾値を評価した。なお、前記機械刺激誘発性疼痛試験は、デジタル式von Frey法に従って行った。
【0090】
<方法>
−機械刺激誘発性疼痛試験−
プラスチックチップをマウスの足底部に押しやり、その回避応答までの重量閾値をデジタル測定した。結果を図18〜20に示す。
【0091】
<結果>
図18〜20は、機械刺激誘発性疼痛試験の結果を示す図であって、図18は、製造例4のマウスに対する機械刺激誘発性疼痛試験の結果を示す図であり、図19は、製造例5のマウスに対する機械刺激誘発性疼痛試験の結果を示す図であり、図20は、製造例6のマウスに対する機械刺激誘発性疼痛試験の結果を示す図である。
【0092】
図18〜20において、左のグラフは、偽手術群(Sham)についての結果を示すグラフであり、右のグラフは、性腺摘出群(Gonadectomy)についての結果を示すグラフである。
図18〜20において、縦軸(PWT)は、測定された重量閾値(g)を示す。横軸は、ストレス負荷開始前(pre)、ストレス負荷期間(stress)及びストレス後(post stress)における経過日数を示す。
図18〜20において、黒四角(■)はSARTストレスが与えられた雄を、黒丸(●)はSARTストレスが与えられた雌を、白四角(□)は正常対照群の雄を、白丸(○)は正常対照群の雌を、示す。
【0093】
図18の右のグラフに示すように、製造例4のSARTストレスを与えられた性腺摘出マウス(■及び●)は、ストレス後1日目から、機械刺激誘発性疼痛の閾値低下、即ち、疼痛過敏が観察された。これらの疼痛過敏は、少なくとも12日以上持続した。一方で、その正常対照群(□及び○)においては、機械刺激誘発性疼痛の閾値低下が観察されなかった。
【0094】
更に、図18の右のグラフにおいて、製造例4のSARTストレスを与えられた性腺摘出マウス(■及び●)のうち、精巣を摘出された雄のマウス(■)と、卵巣を摘出された雌のマウス(●)とを比較した。卵巣を摘出された雌のマウス(●)に比べ、精巣を摘出された雄のマウス(■)において、機械刺激誘発性疼痛の閾値上昇、即ち、疼痛過敏の緩和が観察された。具体的には、ストレス後1日目において、精巣を摘出された雄マウスと卵巣を摘出された雌マウスとの間には、有意な性差が認められた。回復時期においては、共に12日以上過敏を生じたまま変化は見られなかった。上記の性差は、統計的に有意であった。
一方で、図18の左のグラフに示すように、偽手術群においては、性差が観察されなかった。
【0095】
図19の右のグラフに示すように、拘束ストレスを与えられた性腺摘出マウス(■及び●)は、ストレス後1日目から、機械刺激誘発性疼痛の閾値低下、即ち、疼痛過敏が観察された。これらの疼痛過敏は、少なくとも15日以上持続した。一方で、その正常対照群(□及び○)においては、機械刺激誘発性疼痛の閾値低下が観察されなかった。
【0096】
更に、図19の右のグラフにおいて、製造例5の拘束ストレスを与えられた性腺摘出マウス(■及び●)のうち、精巣を摘出された雄のマウス(■)と、卵巣を摘出された雌のマウス(●)とを比較した。卵巣を摘出された雌のマウス(●)に比べ、精巣を摘出された雄のマウス(■)において、機械刺激誘発性疼痛の閾値上昇、即ち、疼痛過敏の緩和が観察された。具体的には、精巣を摘出された雄のマウスではストレス後22日目にはストレス負荷開始日と同じ疼痛閾値にまで回復するが、雌マウスでは、依然として疼痛過敏を示したままであった。上記の性差は、統計的に有意であった。
一方で、図19の左の図で示すように、偽手術群においては、性差が観察されなかった。
【0097】
図20の右のグラフに示すように、情動ストレスを与えられた性腺摘出マウス(■及び●)は、ストレス後1日目から、機械刺激誘発性疼痛の閾値低下、即ち、疼痛過敏が観察された。これらの疼痛過敏は、少なくとも15日以上持続した。一方で、その正常対照群(■及び●)においては、機械刺激誘発性疼痛の閾値低下が観察されなかった。
【0098】
更に、図20の右のグラフにおいて、製造例6の情動性ストレスを与えられた性腺摘出マウス(■及び●)のうち、精巣を摘出された雄のマウス(■)と、卵巣を摘出された雌のマウス(●)とを比較した。卵巣を摘出された雌のマウス(●)に比べ、精巣を摘出された雄のマウス(■)において、機械刺激誘発性疼痛の閾値上昇、即ち、疼痛過敏の緩和が観察された。具体的には、精巣を摘出された雄のマウスでは15日目にはストレス負荷開始日と同じ疼痛閾値にまで回復するが、雌マウスでは、依然として疼痛過敏を示したままであった。上記の性差は、統計的に有意であった。
一方で、図20の左のグラフで示すように、偽手術群においては、性差が観察されなかった。
また、情動性ストレスを与えられたマウスにおいては、精巣摘出により、疼痛が正常値レベルにまで緩和されたことから、情動性ストレスを与えられたモデル動物は、他のモデル動物に比べてより臨床像に近いことが示された。
【0099】
実施例3の結果によれば、SARTストレスを与えられた性腺摘出マウス、拘束ストレスを与えられた性腺摘出マウス及び情動性ストレスを与えられた性腺摘出マウスは、いずれも、卵巣を摘出された雌のマウスに比べ、精巣を摘出された雄のマウスにおいて、疼痛過敏が緩和されることが示された。
【産業上の利用可能性】
【0100】
本発明のモデル動物は、全身性疼痛疾患と同様の症状を発現し、安価かつ容易に製造可能であるので、全身性疼痛疾患の発症メカニズムや治療法の研究に好適に利用できる。特に、全身性疼痛疾患の治療薬をスクリーニングするためのモデル動物として好適に利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0101】
【図1】図1は、SARTストレスを与えたマウスの製造方法を説明するための概念図である。
【図2】図2は、拘束ストレスを与えたマウスの製造方法を説明するための概念図である。
【図3】図3は、情動性ストレスを与えたマウスの製造方法を説明するための概念図である。
【図4】図4は、製造例1のマウスに対する機械刺激誘発性疼痛試験の結果を示す図である。
【図5】図5は、比較製造例1のマウスに対する機械刺激誘発性疼痛試験の結果を示す図である。
【図6】図6は、製造例2のマウスに対する機械刺激誘発性疼痛試験の結果を示す図である。
【図7】図7は、製造例3のマウスに対する機械刺激誘発性疼痛試験の結果を示す図である。
【図8】図8は、比較製造例2のマウスに対する機械刺激誘発性疼痛試験の結果を示す図である。
【図9】図9は、製造例1のマウスに対するストレス後1日目及び15日目における熱刺激誘発性疼痛試験の結果を示す図である。
【図10】図10は、製造例2のマウスに対するストレス後15日目の熱刺激誘発性疼痛試験の結果を示す図である。
【図11】図11は、製造例3のマウスに対するストレス後1日目の熱刺激誘発性疼痛試験の結果を示す図である。
【図12】図12は、製造例1のマウスに対するストレス後1日目及び15日目における化学刺激誘発性疼痛試験の結果を示す図である。
【図13】図13は、製造例2のマウスに対するストレス後15日目の化学刺激誘発性疼痛試験の結果を示す図である。
【図14】図14は、製造例3のマウスに対するストレス後1日目の化学刺激誘発性疼痛試験の結果を示す図である。
【図15】図15は、製造例1のマウスに対するストレス後1日目の電気刺激誘発性疼痛試験の結果を示す図である。
【図16】図16は、製造例2のマウスに対するストレス後15日目の電気刺激誘発性疼痛試験の結果を示す図である。
【図17】図17は、製造例3のマウスに対するストレス後1日目の電気刺激誘発性疼痛試験の結果を示す図である。
【図18】図18は、製造例4のマウスに対する機械刺激誘発性疼痛試験の結果を示す図である。
【図19】図19は、製造例5のマウスに対する機械刺激誘発性疼痛試験の結果を示す図である。
【図20】図20は、製造例6のマウスに対する機械刺激誘発性疼痛試験の結果を示す図である。
【技術分野】
【0001】
本発明は、全身性疼痛疾患と同様の症状を発現し、全身性疼痛疾患の発症メカニズムや治療法の研究に好適に利用でき、安価かつ容易に製造可能な、全身性疼痛疾患の非ヒトモデル動物及びその製造方法、並びに、全身性疼痛疾患の治療薬のスクリーニング方法に関する。
【背景技術】
【0002】
疼痛は、しばしば急性疼痛と慢性疼痛に分類される。急性疼痛は、組織損傷に対する反応であって、生体への警告としての役割が強い。一方、慢性疼痛は、長期持続性疾患(例えば、癌、関節リウマチなど)の随伴が見られる場合もあるが、急性の組織損傷や長期持続性疾患が治癒したにも関わらず疼痛が継続される場合や、原因不明の理由により疼痛が継続される場合がある。
【0003】
全身性疼痛疾患は、このような原因が特定できない慢性疼痛の一つであり、身体の広範囲に強い痛みを引き起こす原因不明の疾患である。また、全身性疼痛疾患は、中高年の女性に圧倒的に多く発症している。全身性疼痛疾患は、検査による生態的異常所見が難しく、また、慢性化する傾向が多くみられるため、難治性慢性疼痛として位置づけられている。一般に、軽度〜中度の疼痛の治療には、例えばNSAIDなどの、非オピオイド鎮痛薬が用いられ、重度の疼痛の治療には、例えばモルヒネなどのオピオイド鎮痛薬が用いられている。しかしながら、全身性疼痛疾患は、このような治療薬でも症状を改善することができない。
【0004】
全身性疼痛疾患の患者においては、慢性疼痛が日常生活や仕事に支障をきたすだけではなく、何科にかかればよいのかわからない、専門の医師が少なく検査によっても確定診断されない、治療薬がない、怠け病とみられるなど精神的な不安を抱えるケースも少なくない。事実、全身性疼痛疾患においては、痛み以外にも、疲労感、うつ、不安などの症状が合併されるケースが、数多く報告されている。
また、全身性疼痛疾患は、中高年の女性に圧倒的に多く発症しており、手術や事故による身体的外傷や、ストレスによる精神的要因が、発症の背景に大きく関与していることが分かっているが、具体的な発症メカニズムや治療法に関しては、ほとんど分かっていない。
【0005】
一方、常温と寒冷環境を反復負荷させるストレス(SARTストレス)を与えられたモデル動物は、副交感神経優位型の自律神経失調症のモデル動物として一般に知られており、持続的低血圧、免疫バランスの異常、痛覚過敏など多種の異常が報告されている。更に、このSARTストレスを与えられたモデル動物は、線維筋痛症をはじめとした全身性疼痛症候群のモデル動物としても有用であると言われている(非特許文献1参照)。
しかしながら、前記SARTストレスを与えられたモデル動物は、温度変化を強いることによる身体的な負荷をかけるため予期しない副作用の併発の危険性があったり、安定した温度管理のできる低温飼育用の設備を必要とするために製造コストがかかったりする。更には、前記SARTストレスを与えられたモデル動物は、雄と雌とで症状の差がないために、中高年の女性に圧倒的に多く発症する全身性疼痛疾患の症状に対してより一層対応した、性差を有するモデル動物が求められている。
【0006】
したがって、現在までのところ、全身性疼痛疾患と同様の症状を発現し、全身性疼痛疾患の発症メカニズムや治療法の研究に好適に利用でき、安価かつ容易に製造可能な、全身性疼痛疾患のモデル動物は、未だ提供されておらず、その速やかな提供が強く求められているのが現状である。更には、中高年の女性に圧倒的に多く発症している全身性疼痛疾患の症状に対応し、雄と雌とで症状の差を有する、全身性疼痛疾患のモデル動物は、未だ提供されておらず、その速やかな提供が強く求められているのが現状である。
【0007】
【非特許文献1】Fibronews2004(http://fibro.jp/fibronews2004.htm)、国際シンポジウム開かれる(第1回)、4段目
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、前記従来における諸問題を解決し、以下の目的を達成することを課題とする。即ち、本発明は、全身性疼痛疾患と同様の症状を発現し、全身性疼痛疾患の発症メカニズムや治療法の研究に好適に利用でき、安価かつ容易に製造可能な、全身性疼痛疾患の非ヒトモデル動物及びその製造方法、並びに、全身性疼痛疾患の治療薬のスクリーニング方法を提供することを目的とする。更には、中高年の女性に圧倒的に多く発症している全身性疼痛疾患の症状に対応し、雄と雌とで症状の差を有する、全身性疼痛疾患の非ヒトモデル動物及びその製造方法、並びに、全身性疼痛疾患の治療薬のスクリーニング方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を解決するため、本発明者らは鋭意検討した結果、以下のような知見を得た。即ち、拘束ストレス又は情動性ストレスを与えたマウスは、SARTストレスを与えたマウスと同様に、全身性でかつ慢性の疼痛を示し、全身性疼痛疾患のモデル動物として好適に利用できることを知見した。
また、マウスから性腺を摘出し、このマウスに対して拘束ストレス、情動性ストレス又はSARTストレスを与えた場合には、卵巣を摘出した雌に比べて、精巣を摘出した雄において疼痛が緩和されており、性腺を摘出されたマウスは、中高年女性の発症率が高い全身性疼痛疾患のモデル動物として、より好適であることを知見した。さらに、情動性ストレスを与えたマウスでの精巣摘出による疼痛緩和は正常値レベルにまで達したことから、より臨床像に近いものであった。
【0010】
本発明は、本発明者らによる前記知見に基づくものであり、前記課題を解決するための手段としては、以下の通りである。即ち、
<1> 拘束ストレスを与えられた動物からなることを特徴とする全身性疼痛疾患の非ヒトモデル動物である。
<2> 情動性ストレスを与えられた動物からなることを特徴とする全身性疼痛疾患の非ヒトモデル動物である。
<3> 性腺を摘出されてなる<1>から<2>のいずれかに記載のモデル動物である。
<4> 室温環境と冷温環境との反復負荷によるストレスを与えられた動物からなり、性腺を摘出されてなることを特徴とする全身性疼痛疾患の非ヒトモデル動物である。
<5> ストレスが、2回以上繰り返し与えられたストレスである<1>から<4>のいずれかに記載のモデル動物である。
<6> ストレスが、3日間以上与えられたストレスである<1>から<5>のいずれかに記載のモデル動物である。
<7> 全身性疼痛疾患が、モルヒネ投与により改善されない疾患である<1>から<6>のいずれかに記載のモデル動物である。
<8> 全身性疼痛疾患が、慢性疲労症候群、過敏性腸症候群、緊張型頭痛、顎関節症、筋筋膜痛症候群、心的外傷後ストレス障害、うつ病性疼痛、脳卒中後疼痛、視床痛及び線維筋痛症のうちいずれかである請求項1から7のいずれかに記載のモデル動物である。
<9> 動物に拘束ストレスを与える工程を含むことを特徴とする全身性疼痛疾患の非ヒトモデル動物の製造方法である。
<10> 動物に情動性ストレスを与える工程を含むことを特徴とする全身性疼痛疾患の非ヒトモデル動物の製造方法である。
<11> ストレスを与える工程の前に、性腺を摘出する工程を含む<9>から<10>のいずれかに記載の製造方法である。
<12> 動物から性腺を摘出する工程と、前記動物に室温環境と冷温環境との反復負荷によるストレスを与える工程を含むことを特徴とする全身性疼痛疾患の非ヒトモデル動物の製造方法である。
<13> ストレスを与える工程が2回以上繰り返される<9>から<12>のいずれかに記載の製造方法である。
<14> ストレスを与える工程が3日間以上行われる<9>から<13>のいずれかに記載の製造方法である。
<15> 全身性疼痛疾患が、モルヒネ投与により改善されない疾患である<9>から<14>のいずれかに記載の製造方法である。
<16> 全身性疼痛疾患が、慢性疲労症候群、過敏性腸症候群、緊張型頭痛、顎関節症、筋筋膜痛症候群、心的外傷後ストレス障害、うつ病性疼痛、脳卒中後疼痛、視床痛及び線維筋痛症のうちいずれかである<9>から<15>のいずれかに記載の製造方法である。
<17> <1>から<8>のいずれかに記載のモデル動物を用いる全身性疼痛疾患の治療薬のスクリーニング方法である。
<18> モデル動物に対して被験物質を投与する工程と、
前記被験物質を投与されたモデル動物に対して刺激を与え、疼痛を誘発させる工程と、
前記誘発された疼痛を測定する工程と、
前記被験物質が、前記疼痛を緩和したか否かを評価する工程と、を含む<17>に記載のスクリーニング方法である。
<19> 機械刺激、熱刺激、化学刺激及び電気刺激のうち少なくとも1つにより疼痛を誘発させる<18>に記載のスクリーニング方法である。
<20> 疼痛閾値及び刺激に対する応答の大きさのうち少なくとも1つを指標として疼痛を測定する<18>から<19>のいずれかに記載のスクリーニング方法である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によると、従来における諸問題を解決することができ、全身性疼痛疾患と同様の症状を発現し、全身性疼痛疾患の発症メカニズムや治療法の研究に好適に利用でき、安価かつ容易に製造可能な、全身性疼痛疾患の非ヒトモデル動物及びその製造方法、並びに、全身性疼痛疾患の治療薬のスクリーニング方法を提供することができる。更には、中高年の女性に圧倒的に多く発症している全身性疼痛疾患の症状に対応し、雄と雌とで症状の差を有する、全身性疼痛疾患の非ヒトモデル動物及びその製造方法、並びに、全身性疼痛疾患の治療薬のスクリーニング方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
(全身性疼痛疾患の非ヒトモデル動物)
本発明の全身性疼痛疾患の非ヒトモデル動物(以下、「モデル動物」と称する。)は、ストレスを与えられた動物からなることを特徴とする。
【0013】
<ストレス>
前記ストレスとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、拘束性ストレス、情動性ストレス、SART(specific alteration of rhythm in temperature)ストレス、などが挙げられる。中でも、特に設備がなくても安価かつ容易にストレスを与えることができる点で、拘束性ストレスが好ましく、身体的な負荷をかけずにストレスを与えることができるので副作用の心配が少ない点で、情動性ストレスが好ましい。
【0014】
前記ストレスが与えられる回数としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、1回以上が好ましく、全身性疼痛疾患の症状が効果的に誘発される点で、2回以上繰り返し与えられることがより好ましく、5回以上繰り返し与えられることが更に好ましい。前記ストレスが2回以上繰り返し与えられる場合には、1日の中で繰り返しストレスが与えられてもよく、2日間以上かけて繰り返しストレスが与えられてもよい。
【0015】
前記ストレスが与えられる1回あたりの時間としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、10分間以上が好ましく、15分間〜2時間がより好ましく、30分間〜1時間が更に好ましい。
前記ストレスが与えられる期間としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、1日間以上が好ましく、全身性疼痛疾患の症状が効果的に誘発される点で、3日間以上がより好ましく、5日間以上が更に好ましい。前記ストレスが2日間以上与えられる場合には、ストレスが与えられる日が連続していてもよく、連続していなくてもよいが、全身性疼痛疾患の症状が効果的に誘発される点で、連続していることが好ましい。
【0016】
以下、前記拘束性ストレス、前記情動性ストレス及び前記SARTストレスについて、詳細に説明する。
【0017】
−拘束性ストレス−
前記拘束性ストレスとは、動物の行動の自由を制限することにより与えられるストレスである。
前記行動の自由を制限される動物の部位としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、全身、各関節(下肢、腕、指、首など)、などが挙げられる。中でも、全身性疼痛疾患の症状が効果的に誘発される点で、全身が好ましい。
【0018】
前記拘束性ストレスが与えられる回数としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、1回以上が好ましく、全身性疼痛疾患の症状が効果的に誘発される点で、2回以上繰り返し与えられることがより好ましく、5回以上繰り返し与えられることが更に好ましい。前記ストレスが2回以上繰り返し与えられる場合には、1日の中で繰り返しストレスが与えられてもよく、2日間以上かけて繰り返しストレスが与えられてもよい。
【0019】
前記拘束性ストレスが与えられる1回あたりの時間としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、10分間〜6時間が好ましく、20分間〜2時間がより好ましく、30分間〜1時間が更に好ましい。
前記拘束ストレスが与えられる期間としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、1日間以上が好ましく、全身性疼痛疾患の症状が効果的に誘発される点で、5日間以上がより好ましく、1週間以上が更に好ましい。前記拘束ストレスが2日間以上与えられる場合には、前記拘束ストレスが与えられる日が連続していてもよく、連続していなくてもよいが、全身性疼痛疾患の症状が効果的に誘発される点で、連続していることが好ましい。
【0020】
−情動性ストレス−
前記情動性ストレスとは、特に身体的なストレスが与えられることなく、一時的で急激な感情の動きにより与えられるストレスである。
前記感情としては、動物がストレスと感じる感情である限り、特に制限はなく、例えば、恐怖、怒り、悲しみ、仲間への危害に対する共感などが挙げられる。
【0021】
前記情動性ストレスが与えられる回数としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、1回以上が好ましく、全身性疼痛疾患の症状が効果的に誘発される点で、2回以上繰り返し与えられることがより好ましく、3回以上繰り返し与えられることが更に好ましく、5回以上繰り返し与えられることが特に好ましい。前記ストレスが2回以上繰り返し与えられる場合には、1日の中で繰り返しストレスが与えられてもよく、2日間以上かけて繰り返しストレスが与えられてもよい。
【0022】
前記情動性ストレスが与えられる1回あたりの時間としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、10分間〜3時間が好ましく、30分間〜1時間がより好ましい。
前記情動性ストレスが与えられる期間としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、1日間以上が好ましく、全身性疼痛疾患の症状が効果的に誘発される点で、3日間以上がより好ましく、5日間以上が更に好ましい。
前記情動性ストレスが2日間以上与えられる場合には、前記情動性ストレスが与えられる日が連続していてもよく、連続していなくてもよいが、全身性疼痛疾患の症状が効果的に誘発される点で、連続していることが好ましい。
【0023】
−SARTストレス−
前記SARTストレスとは、動物を室温下と冷温下とに交互に置くことで与えられるストレスである。
前記室温としては、動物が特に寒冷を感じない温度である限り、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、20〜26℃が好ましく、23〜25℃がより好ましく、24℃が特に好ましい。
前記室温下に動物を置く1回当たりの時間としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、0.5〜1.5時間が好ましく、0.5〜1時間がより好ましく、0.5時間が特に好ましい。
【0024】
前記冷温としては、動物が寒冷を感じる温度であり、かつ、前記室温未満である限り、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、−3〜6℃が好ましく、0〜4℃がより好ましく、4℃が特に好ましい。
前記冷温下に動物を置く1回当たりの時間としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、0.5〜1.5時間が好ましく、0.5〜1時間がより好ましく、0.5時間が特に好ましい。
【0025】
前記SARTストレスが与えられる回数としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、室温から冷温に移す作業を1回と数えるとき、1回以上が好ましく、全身性疼痛疾患の症状が効果的に誘発される点で、2回以上繰り返し与えられることがより好ましく、4回以上繰り返し与えられることが更に好ましい。前記ストレスが2回以上繰り返し与えられる場合には、1日の中で繰り返しストレスが与えられてもよく、2日間以上かけて繰り返しストレスが与えられてもよい。
前記SARTストレスが与えられる期間としては、1日間以上が好ましく、全身性疼痛疾患の症状が効果的に誘発される点で、3日間以上がより好ましく、1週間以上が更に好ましい。前記拘束ストレスが2日間以上与えられる場合には、前記拘束ストレスが与えられる日が連続していてもよく、連続していなくてもよいが、全身性疼痛疾患の症状が効果的に誘発される点で、連続していることが好ましい。
【0026】
<動物>
前記モデル動物の種としては、ヒト以外であれば特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、非ヒト哺乳類、鳥類、爬虫類、両生類などが挙げられ、これらの中でも非ヒト哺乳類が好ましい。また、前記非ヒト哺乳類としては、特に制限はなく、例えば、マウス、ラット、モルモット、イヌ、ネコ、ウサギ、ブタ、ウシ、サルなどが挙げられる。
【0027】
−性腺が摘出された動物−
前記動物としては、性腺が摘出されていてもよく、摘出されていなくてもよいが、性腺が摘出されていることが好ましい。
ここで、性腺を摘出した動物にストレスを与えることにより、全身性疼痛疾患のモデル動物を製造したところ、卵巣を摘出した雌に比べて、精巣を摘出した雄において疼痛が緩和されることが、後記する実施例において明らかとなった。性腺を摘出された動物は、例えば閉経などにより性ホルモンの分泌が低下した高齢の患者に見立てることができ、卵巣を摘出した雌において相対的に疼痛が過敏であることは、全身性疼痛疾患の患者が高齢の女性に多いことに一致する。
即ち、性腺が摘出された動物にストレスを与えることにより製造されたモデル動物は、性腺が摘出されていないモデル動物に比べて、全身性疼痛疾患の発症メカニズム及び治療法の研究に対して、より有効であることが期待できる。
なお、前記性腺を摘出された動物を利用する代わりに、性ホルモンの合成乃至分泌を阻害する薬剤を動物に投与することで得られる、性ホルモンの合成乃至分泌が阻害された動物を利用してもよい。
【0028】
<用途>
前記モデル動物は、全身性疼痛疾患と同様の症状を発現し、安価かつ容易に製造可能なので、全身性疼痛疾患の発症メカニズムや治療法の研究に好適に利用できる。前記全身性疼痛疾患の発症メカニズムや治療法の研究には、全身性疼痛疾患の治療薬のスクリーニングも含まれる。
【0029】
−全身性疼痛疾患−
前記全身性疼痛疾患としては、全身性で慢性の疼痛を呈する疾患である限り、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、線維筋痛症、慢性疲労症候群、過敏性腸症候群、緊張型頭痛、顎関節症、筋筋膜痛症候群、心的外傷後ストレス障害、うつ病性疼痛、脳卒中後疼痛、視床痛などが挙げられる。中でも、治療法が確立しておらず、全身性疼痛疾患の発症メカニズムや治療法の研究に対する需要が高い点で、モルヒネなどのオピオイド鎮痛剤が奏効しない疾患であることが好ましい。前記オピオイド鎮痛剤が奏効しない疾患としては、例えば、線維筋痛症、緊張型頭痛、視床痛などが挙げられる。
【0030】
(全身性疼痛疾患の非ヒトモデル動物の製造方法)
全身性疼痛疾患の非ヒトモデル動物の製造方法は、少なくとも動物にストレスを与える工程を含み、更に必要に応じてその他の工程を含む。
前記「動物にストレスを与える工程」については、前記(全身性疼痛疾患の非ヒトモデル動物)の項目における<ストレス>の項目で説明したものと同じであるので、説明を省略する。
【0031】
前記その他の工程としては、例えば、性腺を摘出する工程などが挙げられる。
前記性腺を摘出する工程は、前記動物にストレスを与える工程の前に行ってもよく、動物にストレスを与える工程の後に行ってもよいが、誘発される症状において顕著な性差が現れる点で、前記動物にストレスを与える工程の前に行うことが好ましい。
【0032】
(全身性疼痛疾患の治療薬のスクリーニング方法)
前記全身性疼痛疾患の治療薬のスクリーニング方法としては、前記モデル動物を用いる限り、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、下記(a)〜(c)工程を含むことが好ましく、必要に応じてその他の工程を含むことがより好ましい。
(a)工程:前記モデル動物に対して被験物質を投与する工程。
(b)工程:前記被験物質を投与されたモデル動物に対して刺激を与え、前記刺激により誘発された疼痛を測定する工程。
(c)工程:前記被験物質が、前記疼痛を緩和したか否かを評価する工程。
【0033】
なお、前記治療薬とは、全身性疼痛疾患の症状のうち少なくとも1つの症状を予防乃至改善することができる薬剤を意味する。前記全身性疼痛疾患の症状としては、疾患に応じて変わりうるが、例えば、全身性疼痛、慢性疼痛などが代表的である。
【0034】
<(a)工程>
−モデル動物−
前記(a)工程における前記モデル動物としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、前記拘束ストレスを与えられたモデル動物、前記情動性ストレスを与えられたモデル動物、前記SARTストレスを与えられたモデル動物などが挙げられる。前記モデル動物は、性腺が摘出されていてもよく、摘出されていなくてもよいが、性差を有する疾患に対する治療薬のスクリーニングに適している点で、性腺が摘出されたモデル動物が好ましい。
【0035】
−被験物質−
前記(a)工程における前記被験物質としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、細胞抽出物、細胞培養上清、発酵微生物産生物、海洋生物抽出物、植物抽出物、精製蛋白質、粗精製蛋白質、ペプチド、非ペプチド性化合物、合成低分子化合物、天然化合物などが挙げられる。
【0036】
−投与−
前記被験物質の、前記モデル動物への投与方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、腹腔内投与、血液中への注射、飼料(餌)への添加、腸内への注入、脊髄内投与などが挙げられる。
また、前記被験物質の、前記モデル動物への投与量としても、特に制限はなく、例えば、投与対象生物の種類、被験物質の種類、副作用の程度などに応じて適宜選択することができる。一般的には、ヒトでの体重あたりの投与量を、前記投与対象生物に換算して投与することができ、当業者であれば、適切な投与量を選択することが可能である。
【0037】
<(b)工程>
−刺激−
前記(b)工程における刺激方法としては、前記モデル動物に対して疼痛を誘発できる限り、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、機械刺激、熱刺激、化学刺激、電気刺激などが挙げられる。
【0038】
刺激する前記モデル動物の部位としては、前記モデル動物に対して疼痛を誘発できる限り、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、頭頸部、体幹部、四肢、尾部、口腔、鼻腔、胃、腸、鼓膜などにおける、上皮、筋肉、神経などが挙げられる。前記部位は、1箇所を刺激してもよいし、2箇所以上を刺激してもよいが、全身性疼痛を評価できる点で、2箇所以上の刺激が好ましく、3箇所以上の刺激がより好ましい。
【0039】
前記(b)工程における疼痛の測定方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、疼痛を感じ始めるときの刺激の大きさ(疼痛閾値)を指標とした測定;刺激に対する応答の大きさを指標とした測定;などが挙げられる。
【0040】
前記(b)工程における疼痛の測定期間としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、1日間以上が好ましく、慢性疼痛を評価できる点で、1週間以上がより好ましく、2週間以上が更に好ましい。
【0041】
<(c)工程>
前記(c)工程において、前記被験物質が、前記疼痛を緩和したか否かを評価する方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、前記被験物質を投与しなかった場合(対照)と比較して、前記被験物質を投与した場合に、前記モデル動物が示す疼痛の程度が低減(緩和)されたときに、前記被験物質は、全身性疼痛疾患を予防乃至改善する活性を有すると評価することができる。
以上、前記(a)工程〜(c)工程により、前記スクリーニング方法を行うことができる。前記スクリーニング方法によれば、高い精度で、かつ、効率的に、全身性疼痛疾患を予防乃至改善する物質をスクリーニングすることができる。更に、前記(a)工程において、性腺を摘出されたモデル動物を使用した場合には、全身性疼痛疾患の中でも症状に性差を有する疾患を予防乃至改善する物質を、より高い精度でスクリーニングすることができる。
【実施例】
【0042】
以下に本発明の実施例を説明するが、本発明は、これらの実施例に何ら限定されるものではない。
【0043】
(製造例1)
製造例1では、マウスにSARTストレスを与えることで、全身性疼痛疾患のモデル動物を製造した。
マウスとしては、C57BL6/J系雄性マウス 6週齢(20〜22g)を、各群8〜16匹用いた。
【0044】
−ストレス負荷群(SARTストレスを与えられたマウス)−
図1は、SARTストレスを与えられたマウスの製造方法を説明するための概念図である。
図1に示すように、マウスを、16時30分(これをストレス前日とする。)から4℃下で飼育し、翌10時(ストレス1日目)から30分毎に室温(24℃)と冷温(4℃)との環境下で16時30分まで繰り返し環境を変えて飼育し、その後、再び4℃下で飼育した。これをストレス2日目も繰り返し、ストレス3日目の10時に24℃に戻した。24℃に戻してから、1時間の適応時間が経過した時点(ストレス3日目の11時)でストレス負荷終了とした。このとき、ストレス3日目をストレス後1日目とした。なお、前記ストレス負荷期間中は、固形の餌と水分補給のための寒天をゲージ内に常において、自由に摂取できる環境にした。
【0045】
−正常対照群−
上記ストレス負荷群において、ストレス負荷期間中(ストレス1日目の16時30分〜ストレス3日目の11時)、常に24℃で飼育したこと以外は、上記ストレス負荷群と同様にして飼育することにより、正常対照群のマウスを製造した。
【0046】
(比較製造例1)
製造例1のストレス負荷群において、ストレス負荷期間中(ストレス1日目の16時30分〜ストレス3日目の11時)、常に4℃で飼育したこと以外は、製造例1のストレス負荷群と同様にして飼育することにより、比較製造例1のマウスを製造した。
【0047】
(製造例2)
製造例2では、マウスに拘束ストレスを与えることで、全身性疼痛疾患のモデル動物を製造した。
マウスとしては、C57BL6/J系雄性マウス 6週齢(20〜22g)を、各群8〜10匹用いた。
【0048】
−ストレス負荷群(拘束ストレスを与えられたマウス)−
図2は、拘束ストレスを与えられたマウスの製造方法を説明するための概念図である。
図2に示すように、空気腔を開けた50mlのコニカルチューブ内にマウスを押し込め、マウスを30分間拘束した。このとき、マウスとコニカルチューブ内壁との隙間が少なくなるように、ティッシュペーパーを詰めてマウスを固定した。また、コニカルチューブが転倒するのを防ぐため、外側はビニルテープで固定した。この作業を、1日に1回ずつ、5日間連続して行った。その後、1日間の適応時間が経過した時点(ストレス後1日目)でストレス負荷終了とした。なお、前記ストレス負荷期間中(コニカルチューブ中は除く)は、固形の餌と水分は、自由に摂取できる環境にした。
【0049】
−正常対照群−
上記ストレス負荷群において、ストレス負荷期間中、前記コニカルチューブを用いて拘束ストレスを与える作業を行わなかったこと以外は、上記ストレス負荷群と同様にして飼育することにより、正常対照群のマウスを製造した。
【0050】
(製造例3)
製造例3では、マウスに情動性ストレスを与えることで、全身性疼痛疾患のモデル動物を製造した。
マウスとしては、C57BL6/J系雄性マウス 6週齢(20〜22g)を、各群13〜20匹用いた。
【0051】
−ストレス負荷群(情動性ストレスを与えられたマウス)−
図3は、情動性ストレスを与えられたマウスの製造方法を説明するための概念図である。
図3に示すように、床から一定条件で電気刺激を与えるコミュニケーションボックスを、透明な板で9つに区切り、区切られた空間の床上に互いに交互になるように絶縁の板を置いた。2mAで1秒間の電気刺激が、1時間に120回ランダムに与えられえる設定にして、電気を流した。このとき、絶縁の板の上に配置されたマウスは、自分自身が電気刺激されることはないが、電気刺激されるマウスに囲まれるように配置されているために、心理的(情動性)ストレスが与えられる。この作業を、1日に1回ずつ、5日間連続して行った。その後、1日間の適応時間が経過した時点(ストレス後1日目)でストレス負荷終了とした。なお、前記ストレス負荷期間中(コミュニケーションボックス中は除く)は、固形の餌と水分は、自由に摂取できる環境にした。
【0052】
−正常対照群−
上記ストレス負荷群において、ストレス負荷期間中、前記コミュニケーションボックスを用いて情動性ストレスを与える作業を行わなかったこと以外は、上記ストレス負荷群と同様に飼育することにより、正常対照群のマウスを製造した。
【0053】
(比較製造例2)
製造例3のストレス負荷群において、ストレス負荷期間中、前記コミュニケーションボックスを用いて情動性ストレスを与える代わりに、前記コミュニケーションボックス内に他のマウスを配置せずに、直接的に電気刺激を与えたこと以外は、製造例3のストレス負荷群と同様に飼育することにより、比較製造例2のマウスを製造した。
【0054】
(実施例1)
実施例1では、製造例1〜3及び比較製造例1〜2で製造したマウスについて、慢性疼痛を評価した。慢性疼痛の評価方法としては、機械刺激誘発性疼痛試験により経時的な疼痛閾値を評価した。なお、前記機械刺激誘発性疼痛試験は、デジタル式von Frey法に従って行った。
【0055】
<方法>
−機械刺激誘発性疼痛試験−
プラスチックチップをマウスの足底部に押しやり、その回避応答までの重量閾値をデジタル測定した。結果を図4〜8に示す。
【0056】
<結果>
図4〜8は、機械刺激誘発性疼痛試験の結果を示す図であって、図4は、製造例1のマウスに対する機械刺激誘発性疼痛試験の結果を示す図であり、図5は比較製造例1のマウスに対する機械刺激誘発性疼痛試験の結果を示す図であり、図6は、製造例2のマウスに対する機械刺激誘発性疼痛試験の結果を示す図であり、図7は、製造例3のマウスに対する機械刺激誘発性疼痛試験の結果を示す図であり、図8は、比較製造例2のマウスに対する機械刺激誘発性疼痛試験の結果を示す図である。
【0057】
図4〜8において、縦軸(PWT)は、測定された重量閾値(g)を示す。横軸は、ストレス負荷開始前(pre)、ストレス負荷期間(stress)及びストレス後(post stress)における経過日数を示す。このとき、ストレス3日目はストレス後1日目に相当する。そして、図4〜8において、「stress(■)」とはストレス負荷群を示し、「control(□)」とは、その正常対照群を示す。
【0058】
図4に示すように、製造例1のストレス負荷群(SARTストレスを与えられたマウス)においては、ストレス後1日目から、機械刺激誘発性疼痛の閾値低下、即ち、疼痛過敏が観察された。この疼痛過敏は、少なくとも19日以上持続した。一方で、製造例1の正常対照群においては、機械刺激誘発性疼痛の経日的な閾値低下は観察されなかった。
図5に示すように、製造例1のストレス負荷群と同様のストレス期間を、常に冷温(4℃)下で飼育した低温ストレスマウス(比較製造例1)においては、ストレス後1日目には機械刺激誘発性疼痛の閾値低下、即ち、疼痛過敏が観察されるが、ストレス後3日目には回復傾向を示し慢性的な疼痛過敏は示さなかった。
【0059】
図6に示すように、製造例2のストレス負荷群(拘束ストレスを与えられたマウス)においては、ストレス後1日目から、機械刺激誘発性疼痛の閾値低下、即ち、疼痛過敏が観察された。この疼痛過敏は、少なくとも15日以上持続した。一方で、製造例2の正常対照群においては、機械刺激誘発性疼痛の経日的な閾値低下は観察されなかった。
【0060】
図7に示すように、製造例3のストレス負荷群(情動性ストレスを与えられたマウス)においては、ストレス後1日目から、機械刺激誘発性疼痛の閾値低下、即ち、疼痛過敏が観察された。この疼痛過敏は、少なくとも15日以上持続した。一方で、製造例3の正常対照群においては、機械刺激誘発性疼痛の経日的な閾値低下は観察されなかった。
図8に示すように、製造例3のストレス負荷群と同様のストレス期間を、情動性ストレスを与えずに直接的に電気刺激を負荷したマウス(比較製造例2)においては、ストレス後1日目から、機械刺激誘発性疼痛の閾値低下、即ち、疼痛過敏が観察されるが、ストレス後8日目には回復傾向を示し慢性的な疼痛過敏は示さなかった。
【0061】
実施例1の結果によれば、SARTストレスを与えられたマウス、拘束ストレスを与えられたマウス及び情動性ストレスを与えられたマウスは、いずれも慢性疼痛を呈することが示された。一方で、冷温ストレスを与えられたマウス及び電気刺激を与えられたマウスは、慢性疼痛を示さなかった。
【0062】
(実施例2)
−熱刺激誘発性疼痛試験−
実施例2では、製造例1〜3で製造したマウスについて、熱刺激誘発性疼痛試験を行った。なお、前記熱刺激誘発性疼痛試験は、Hargreaves thermal paw withdrawal法に従って行った。
【0063】
<方法>
ガラス板の上にマウスを置き、下から一定の熱刺激を与えた時の回避応答までの時間を測定した。結果を図9〜11に示す。
【0064】
<結果>
図9〜11は、熱刺激誘発性疼痛試験の結果を示す図であって、図9は、製造例1のマウスに対するストレス後1日目及び15日目における熱刺激誘発性疼痛試験の結果を示す図であり、図10は、製造例2のマウスに対するストレス後15日目の熱刺激誘発性疼痛試験の結果を示す図であり、図11は、製造例3のマウスに対するストレス後1日目の熱刺激誘発性疼痛試験の結果を示す図である。
図9〜11において、縦軸(PWL)は、回避応答までの時間(sec)を示し、横軸における「Stress」とはストレス負荷群を示し、「Control」とはその正常対照群を示す。
【0065】
図9の左のグラフに示すように、製造例1のストレス負荷群(SARTストレスを与えられたマウス)では、ストレス後1日目の閾値が6.38±0.12秒であり、その正常対照群の閾値が10.07±0.17秒であることと比べると、有意に下がることが確認された。また、図9の右のグラフに示すように、製造例1のストレス負荷群(SARTストレスを与えられたマウス)では、ストレス後15日目の閾値が6.28±0.48秒であり、その正常対照群の閾値が10.1±0.55秒であることと比べると、有意に下がることが確認された。
即ち、製造例1のストレス負荷群(SARTストレスを与えられたマウス)は、熱刺激誘発性疼痛試験においても、慢性的な疼痛過敏が観察された。
【0066】
図10に示すように、製造例2のストレス負荷群(拘束ストレスを与えられたマウス)では、ストレス後15日目の閾値が6.72±0.2秒であり、その正常対照群の閾値が9.99± 0.28秒であることと比べると、有意に下がることが確認された。
即ち、製造例2のストレス負荷群(拘束ストレスを与えられたマウス)は、熱刺激誘発性疼痛試験においても、慢性的な疼痛過敏が観察された。
【0067】
図11に示すように、製造例3のストレス負荷群(情動性ストレスを与えられたマウス)では、ストレス後1日目の閾値が6.89±0.38秒であり、その正常対照群の閾値が9.24±0.31秒であることと比べると、有意に下がることが確認された。また、この閾値の低下は、ストレス4日目から観察され、少なくとも15日間以上持続した(図示せず)。
即ち、製造例3のストレス負荷群(情動性ストレスを与えられたマウス)は、熱刺激誘発性疼痛試験においても、慢性的な疼痛過敏が観察された。
【0068】
(実施例3)
−化学刺激誘発性試験−
実施例3では、製造例1〜3で製造したマウスについて、化学刺激誘発性試験を行った。なお、前記化学刺激誘発性試験は、酢酸ライジング法に従って行った。
【0069】
<方法>
0.9%酢酸をマウスに腹腔内投与してからの20分間、マウスがライジング行動を行う頻度を計測した。なお、97%酢酸を生理食塩水に希釈することで0.9%酢酸を調製した。ライジング行動とは、マウスが痛みを感じたときにライジングする(体をのばす)行動を意味する。結果を図12〜14に示す。
【0070】
<結果>
図12〜14は、化学刺激誘発性疼痛試験の結果を示す図であって、図12は、製造例1のマウスに対するストレス後1日目及び15日目における化学刺激誘発性疼痛試験の結果を示す図であり、図13は、製造例2のマウスに対するストレス後15日目の化学刺激誘発性疼痛試験の結果を示す図であり、図14は、製造例3のマウスに対するストレス後1日目の化学刺激誘発性疼痛試験の結果を示す図である。
図12〜14において、縦軸(writhing)は、ライジング行動の頻度を示し、横軸における「Stress」とはストレス負荷群を示し、「Control」とは正常対照群を示す。
【0071】
図12の左のグラフに示すように、製造例1のストレス負荷群(SARTストレスを与えられたマウス)では、ストレス後1日目の頻度が49±0.5回であり、その正常対照群が31±1回であることと比べると、有意に過敏応答を生じることが確認された。また、図12の右のグラフに示すように、製造例1のストレス負荷群(SARTストレスを与えられたマウス)において、ストレス後15日目の頻度が39±0.5回であり、その正常対照群が30±3回であることと比べると、有意に慢性的な過敏応答を生じることが確認された。
即ち、製造例1のストレス負荷群(SARTストレスを与えられたマウス)は、化学刺激誘発性疼痛試験においても、慢性的な疼痛過敏が観察された。
【0072】
図13に示すように、製造例2のストレス負荷群(拘束ストレスを与えられたマウス)では、ストレス後15日目の頻度が39±2回であり、その正常対照群の頻度が32±0.9回であることと比べると、有意に過敏応答を生じることが確認された。
即ち、製造例2のストレス負荷群(拘束ストレスを与えられたマウス)においては、化学刺激誘発性疼痛試験においても、慢性的な疼痛過敏が観察された。
【0073】
図14に示すように、製造例3のストレス負荷群(情動性ストレスを与えられたマウス)では、ストレス後1日目の頻度が41±2回であり、その正常対照群の頻度が31±2回であることと比べると、有意に過敏応答を生じることが確認された。また、この頻度の上昇は、少なくとも15日間以上持続した(図示せず)。
即ち、製造例3のストレス負荷群(情動性ストレスを与えられたマウス)化学刺激誘発性疼痛試験においても、慢性的な疼痛過敏が観察された。
【0074】
(実施例4)
−電気刺激誘発性試験−
実施例4では、製造例1〜3で製造したマウスについて、電気刺激誘発性試験を行った。
【0075】
<方法>
neurometer(電気刺激装置)を用いて、低い値からマウスの右脚に一定感覚で刺激を与えていき、脚が初めて反応したときの値を測定した。また、与える電気の周波数を5Hz、250Hz、2,000Hzに変え、それぞれの周波数において同じ測定を行った。結果を図15〜17に示す。
【0076】
<結果>
図15〜17は、電気刺激誘発性疼痛試験の結果を示す図であって、図15は、製造例1のマウスに対するストレス後1日目の電気刺激誘発性疼痛試験の結果を示す図であり、図16は、製造例2のマウスに対するストレス後15日目の電気刺激誘発性疼痛試験の結果を示す図であり、図17は、製造例3のマウスに対するストレス後1日目の電気刺激誘発性疼痛試験の結果を示す図である。
図15〜17において、縦軸(Threshold(μA))は、脚が初めて反応したときの値を示し、横軸における「Stress」とはストレス負荷群を示し、「Control」とは正常対照群を示す。
【0077】
図15に示すように、製造例1のストレス負荷群(SARTストレスを与えられたマウス)とその正常対照群とを比較するとき、5Hzの電気刺激では閾値に変化は見られなかったものの(ストレス負荷群=70±10μA/正常対照群=78±7μA)、250Hz及び2,000Hzでは閾値に変化が見られた(250Hz:ストレス負荷群=92±8μAに対し、正常対照群=170±10μA、2,000Hz:ストレス負荷群=267±10μAに対し、正常対照群=334±12μA)。
即ち、製造例1のストレス負荷群において疼痛を誘発させるにはAβ及びAσ線維が重要であり、また、製造例1のストレス負荷群は、その正常対照群に比べ、有意に過敏応答を生じることが確認された。
【0078】
図16に示すように、製造例2のストレス負荷群(拘束ストレスを与えられたマウス)とその正常対照群とを比較して、5Hzの電気刺激では閾値に変化は見られなかったものの(ストレス負荷群=75.3±11μA/正常対照群=74±1μA)、250Hz及び2,000Hzでは閾値に変化が見られた(250Hz:ストレス負荷群=100±5μAに対し、正常対照群=185±15μA、2,000Hz:ストレス負荷群=243±9μAに対し、正常対照群=310±10μA)。
即ち、ストレス誘発性疼痛にはAβ及びAσ線維が重要であり、製造例2のストレス負荷群は、その正常対照群に比べ、有意に過敏応答を生じることが確認された。
【0079】
図17に示すように、製造例3のストレス負荷群(情動性ストレスを与えられたマウス)とその正常対照群とを比較して、5Hzの電気刺激では閾値に変化は見られなかったものの(ストレス負荷群=70±6.2μA/正常対照群=76.3±7.9μA)、250Hz及び2,000Hzでは閾値に変化が見られた(250Hz:ストレス負荷群=120±5.7μAに対し、正常対照群=165±6.7μA、2,000Hz:ストレス負荷群=245±9.6μAに対し、正常対照群=353±4.9μA)。
即ち、ストレス誘発性疼痛にはAβ及びAσ線維が重要であり、製造例3のストレス負荷群は、その正常対照群に比べ、有意に過敏応答を生じることが確認された。
【0080】
実施例1〜4の結果から、SARTストレス、拘束ストレス又は情動性ストレスを与えたマウスは、刺激部位が異なる、機械刺激誘発性疼痛試験、熱刺激誘発性疼痛試験、化学刺激誘発性疼痛試験及び電気刺激誘発性疼痛試験のいずれにおいても高い過敏応答を示し、痛みが全身性に引き起こされていることが示された。
【0081】
(製造例4)
<SARTストレスが与えられた性腺摘出マウスの製造>
製造例4では、マウスから性腺を摘出し、この性腺を摘出したマウスに対してSARTストレスを与えることで、全身性疼痛疾患のモデル動物を製造した。
マウスとしては、C57BL6/J系雄性マウス 6週齢(20〜22g)を、各群におおいて、雄性マウス16匹、雌性マウス16匹用いた。
【0082】
−性腺摘出群−
雌性マウスの卵巣をペントバルビタール麻酔下で摘出する手術を行った。マウスの背部の皮膚および腹膜を切断して卵巣および卵管をとりだし、子宮角を結紮して摘出した。一方、雄性マウスでは腹部の皮膚および腹膜を切断して精巣および周辺の精巣上頭を含めた部位を、精管を結紮して摘出した。術部を絹糸で縫合した後、覚醒まで37℃に保温した。手術後、3週間おいてストレス負荷を開始した。
【0083】
−偽手術群−
雌性マウスの背部の皮膚および腹膜を切断して、そのまま切断部位を絹糸で縫合し、覚醒まで37℃に保温した。雄性マウスでは腹部の皮膚および腹膜を切断して、そのまま切断部位を絹糸で縫合した。手術後、3週間おいてストレス負荷を開始した。
【0084】
−ストレス負荷群(SARTストレスを与えられた性腺摘出マウス)−
前記性腺摘出群及び前記偽手術群のそれぞれに対し、製造例1のストレス負荷群と同様の方法によりSARTストレスを与え、SARTストレスを与えられた性腺摘出マウスを製造した。
−−正常対照群−−
前記性腺摘出群及び偽手術群のそれぞれを、製造例1の正常対照群と同様の方法により飼育し、正常対照群のマウスを製造した。
【0085】
(製造例5)
<拘束ストレスが与えられた性腺摘出マウスの製造>
製造例5では、マウスから性腺を摘出し、この性腺を摘出したマウスに対して拘束ストレスを与えることで、全身性疼痛疾患のモデル動物を製造した。
マウスとしては、C57BL6/J系雄性マウス 6週齢(20〜22g)を、各群におおいて、雄性マウス16匹、雌性マウス16匹用いた。
【0086】
−ストレス負荷群(拘束ストレスを与えられた性腺摘出マウス)−
製造例4と同様の方法により作製した性腺摘出群及び偽手術群のそれぞれに対し、製造例2のストレス負荷群と同様の方法により拘束ストレスを与え、拘束ストレスを与えられた性腺摘出マウスを製造した。
−−正常対照群−−
製造例4と同様の方法により作製した性腺摘出群及び偽手術群のそれぞれを、製造例2の正常対照群と同様の方法により飼育し、正常対照群のマウスを製造した。
【0087】
(製造例6)
製造例6では、マウスから性腺を摘出し、この性腺を摘出したマウスに対して情動性ストレスを与えることで、全身性疼痛疾患のモデル動物を製造した。
マウスとしては、C57BL6/J系雄性マウス 6週齢(20〜22g)を、各群におおいて、雄性マウス16匹、雌性マウス16匹用いた。
【0088】
−ストレス負荷群(情動性ストレスを与えられた性腺摘出マウス)−
製造例4と同様の方法により作製した性腺摘出群及び偽手術群のそれぞれに対し、製造例3のストレス負荷群と同様の方法により情動性ストレスを与え、情動性ストレスを与えられた性腺摘出マウスを製造した。
−−正常対照群−−
製造例4と同様の方法により作製した性腺摘出群及び偽手術群のそれぞれを、製造例3の正常対照群と同様の方法により飼育し、正常対照群のマウスを製造した。
【0089】
(実施例5)
実施例5では、製造例4〜6で製造したマウスについて、慢性疼痛を評価した。慢性疼痛の評価方法としては、機械刺激誘発性疼痛試験により経時的な疼痛閾値を評価した。なお、前記機械刺激誘発性疼痛試験は、デジタル式von Frey法に従って行った。
【0090】
<方法>
−機械刺激誘発性疼痛試験−
プラスチックチップをマウスの足底部に押しやり、その回避応答までの重量閾値をデジタル測定した。結果を図18〜20に示す。
【0091】
<結果>
図18〜20は、機械刺激誘発性疼痛試験の結果を示す図であって、図18は、製造例4のマウスに対する機械刺激誘発性疼痛試験の結果を示す図であり、図19は、製造例5のマウスに対する機械刺激誘発性疼痛試験の結果を示す図であり、図20は、製造例6のマウスに対する機械刺激誘発性疼痛試験の結果を示す図である。
【0092】
図18〜20において、左のグラフは、偽手術群(Sham)についての結果を示すグラフであり、右のグラフは、性腺摘出群(Gonadectomy)についての結果を示すグラフである。
図18〜20において、縦軸(PWT)は、測定された重量閾値(g)を示す。横軸は、ストレス負荷開始前(pre)、ストレス負荷期間(stress)及びストレス後(post stress)における経過日数を示す。
図18〜20において、黒四角(■)はSARTストレスが与えられた雄を、黒丸(●)はSARTストレスが与えられた雌を、白四角(□)は正常対照群の雄を、白丸(○)は正常対照群の雌を、示す。
【0093】
図18の右のグラフに示すように、製造例4のSARTストレスを与えられた性腺摘出マウス(■及び●)は、ストレス後1日目から、機械刺激誘発性疼痛の閾値低下、即ち、疼痛過敏が観察された。これらの疼痛過敏は、少なくとも12日以上持続した。一方で、その正常対照群(□及び○)においては、機械刺激誘発性疼痛の閾値低下が観察されなかった。
【0094】
更に、図18の右のグラフにおいて、製造例4のSARTストレスを与えられた性腺摘出マウス(■及び●)のうち、精巣を摘出された雄のマウス(■)と、卵巣を摘出された雌のマウス(●)とを比較した。卵巣を摘出された雌のマウス(●)に比べ、精巣を摘出された雄のマウス(■)において、機械刺激誘発性疼痛の閾値上昇、即ち、疼痛過敏の緩和が観察された。具体的には、ストレス後1日目において、精巣を摘出された雄マウスと卵巣を摘出された雌マウスとの間には、有意な性差が認められた。回復時期においては、共に12日以上過敏を生じたまま変化は見られなかった。上記の性差は、統計的に有意であった。
一方で、図18の左のグラフに示すように、偽手術群においては、性差が観察されなかった。
【0095】
図19の右のグラフに示すように、拘束ストレスを与えられた性腺摘出マウス(■及び●)は、ストレス後1日目から、機械刺激誘発性疼痛の閾値低下、即ち、疼痛過敏が観察された。これらの疼痛過敏は、少なくとも15日以上持続した。一方で、その正常対照群(□及び○)においては、機械刺激誘発性疼痛の閾値低下が観察されなかった。
【0096】
更に、図19の右のグラフにおいて、製造例5の拘束ストレスを与えられた性腺摘出マウス(■及び●)のうち、精巣を摘出された雄のマウス(■)と、卵巣を摘出された雌のマウス(●)とを比較した。卵巣を摘出された雌のマウス(●)に比べ、精巣を摘出された雄のマウス(■)において、機械刺激誘発性疼痛の閾値上昇、即ち、疼痛過敏の緩和が観察された。具体的には、精巣を摘出された雄のマウスではストレス後22日目にはストレス負荷開始日と同じ疼痛閾値にまで回復するが、雌マウスでは、依然として疼痛過敏を示したままであった。上記の性差は、統計的に有意であった。
一方で、図19の左の図で示すように、偽手術群においては、性差が観察されなかった。
【0097】
図20の右のグラフに示すように、情動ストレスを与えられた性腺摘出マウス(■及び●)は、ストレス後1日目から、機械刺激誘発性疼痛の閾値低下、即ち、疼痛過敏が観察された。これらの疼痛過敏は、少なくとも15日以上持続した。一方で、その正常対照群(■及び●)においては、機械刺激誘発性疼痛の閾値低下が観察されなかった。
【0098】
更に、図20の右のグラフにおいて、製造例6の情動性ストレスを与えられた性腺摘出マウス(■及び●)のうち、精巣を摘出された雄のマウス(■)と、卵巣を摘出された雌のマウス(●)とを比較した。卵巣を摘出された雌のマウス(●)に比べ、精巣を摘出された雄のマウス(■)において、機械刺激誘発性疼痛の閾値上昇、即ち、疼痛過敏の緩和が観察された。具体的には、精巣を摘出された雄のマウスでは15日目にはストレス負荷開始日と同じ疼痛閾値にまで回復するが、雌マウスでは、依然として疼痛過敏を示したままであった。上記の性差は、統計的に有意であった。
一方で、図20の左のグラフで示すように、偽手術群においては、性差が観察されなかった。
また、情動性ストレスを与えられたマウスにおいては、精巣摘出により、疼痛が正常値レベルにまで緩和されたことから、情動性ストレスを与えられたモデル動物は、他のモデル動物に比べてより臨床像に近いことが示された。
【0099】
実施例3の結果によれば、SARTストレスを与えられた性腺摘出マウス、拘束ストレスを与えられた性腺摘出マウス及び情動性ストレスを与えられた性腺摘出マウスは、いずれも、卵巣を摘出された雌のマウスに比べ、精巣を摘出された雄のマウスにおいて、疼痛過敏が緩和されることが示された。
【産業上の利用可能性】
【0100】
本発明のモデル動物は、全身性疼痛疾患と同様の症状を発現し、安価かつ容易に製造可能であるので、全身性疼痛疾患の発症メカニズムや治療法の研究に好適に利用できる。特に、全身性疼痛疾患の治療薬をスクリーニングするためのモデル動物として好適に利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0101】
【図1】図1は、SARTストレスを与えたマウスの製造方法を説明するための概念図である。
【図2】図2は、拘束ストレスを与えたマウスの製造方法を説明するための概念図である。
【図3】図3は、情動性ストレスを与えたマウスの製造方法を説明するための概念図である。
【図4】図4は、製造例1のマウスに対する機械刺激誘発性疼痛試験の結果を示す図である。
【図5】図5は、比較製造例1のマウスに対する機械刺激誘発性疼痛試験の結果を示す図である。
【図6】図6は、製造例2のマウスに対する機械刺激誘発性疼痛試験の結果を示す図である。
【図7】図7は、製造例3のマウスに対する機械刺激誘発性疼痛試験の結果を示す図である。
【図8】図8は、比較製造例2のマウスに対する機械刺激誘発性疼痛試験の結果を示す図である。
【図9】図9は、製造例1のマウスに対するストレス後1日目及び15日目における熱刺激誘発性疼痛試験の結果を示す図である。
【図10】図10は、製造例2のマウスに対するストレス後15日目の熱刺激誘発性疼痛試験の結果を示す図である。
【図11】図11は、製造例3のマウスに対するストレス後1日目の熱刺激誘発性疼痛試験の結果を示す図である。
【図12】図12は、製造例1のマウスに対するストレス後1日目及び15日目における化学刺激誘発性疼痛試験の結果を示す図である。
【図13】図13は、製造例2のマウスに対するストレス後15日目の化学刺激誘発性疼痛試験の結果を示す図である。
【図14】図14は、製造例3のマウスに対するストレス後1日目の化学刺激誘発性疼痛試験の結果を示す図である。
【図15】図15は、製造例1のマウスに対するストレス後1日目の電気刺激誘発性疼痛試験の結果を示す図である。
【図16】図16は、製造例2のマウスに対するストレス後15日目の電気刺激誘発性疼痛試験の結果を示す図である。
【図17】図17は、製造例3のマウスに対するストレス後1日目の電気刺激誘発性疼痛試験の結果を示す図である。
【図18】図18は、製造例4のマウスに対する機械刺激誘発性疼痛試験の結果を示す図である。
【図19】図19は、製造例5のマウスに対する機械刺激誘発性疼痛試験の結果を示す図である。
【図20】図20は、製造例6のマウスに対する機械刺激誘発性疼痛試験の結果を示す図である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
拘束ストレスを与えられた動物からなることを特徴とする全身性疼痛疾患の非ヒトモデル動物。
【請求項2】
情動性ストレスを与えられた動物からなることを特徴とする全身性疼痛疾患の非ヒトモデル動物。
【請求項3】
性腺を摘出されてなる請求項1から2のいずれかに記載のモデル動物。
【請求項4】
室温環境と冷温環境との反復負荷によるストレスを与えられた動物からなり、性腺を摘出されてなることを特徴とする全身性疼痛疾患の非ヒトモデル動物。
【請求項5】
ストレスが、2回以上繰り返し与えられたストレスである請求項1から4のいずれかに記載のモデル動物。
【請求項6】
ストレスが、3日間以上与えられたストレスである請求項1から5のいずれかに記載のモデル動物。
【請求項7】
全身性疼痛疾患が、モルヒネ投与により改善されない疾患である請求項1から6のいずれかに記載のモデル動物。
【請求項8】
全身性疼痛疾患が、慢性疲労症候群、過敏性腸症候群、緊張型頭痛、顎関節症、筋筋膜痛症候群、心的外傷後ストレス障害、うつ病性疼痛、脳卒中後疼痛、視床痛及び線維筋痛症のうちいずれかである請求項1から7のいずれかに記載のモデル動物。
【請求項9】
動物に拘束ストレスを与える工程を含むことを特徴とする全身性疼痛疾患の非ヒトモデル動物の製造方法。
【請求項10】
動物に情動性ストレスを与える工程を含むことを特徴とする全身性疼痛疾患の非ヒトモデル動物の製造方法。
【請求項11】
ストレスを与える工程の前に、性腺を摘出する工程を含む請求項9から10のいずれかに記載の製造方法。
【請求項12】
動物から性腺を摘出する工程と、前記動物に室温環境と冷温環境との反復負荷によるストレスを与える工程を含むことを特徴とする全身性疼痛疾患の非ヒトモデル動物の製造方法。
【請求項13】
ストレスを与える工程が2回以上繰り返される請求項9から12のいずれかに記載の製造方法。
【請求項14】
ストレスを与える工程が3日間以上行われる請求項9から13のいずれかに記載の製造方法。
【請求項15】
全身性疼痛疾患が、モルヒネ投与により改善されない疾患である請求項9から14のいずれかに記載の製造方法。
【請求項16】
全身性疼痛疾患が、慢性疲労症候群、過敏性腸症候群、緊張型頭痛、顎関節症、筋筋膜痛症候群、心的外傷後ストレス障害、うつ病性疼痛、脳卒中後疼痛、視床痛及び線維筋痛症のうちいずれかである請求項9から15のいずれかに記載の製造方法。
【請求項17】
請求項1から8のいずれかに記載のモデル動物を用いる全身性疼痛疾患の治療薬のスクリーニング方法。
【請求項18】
モデル動物に対して被験物質を投与する工程と、
前記被験物質を投与されたモデル動物に対して刺激を与え、疼痛を誘発させる工程と、
前記誘発された疼痛を測定する工程と、
前記被験物質が、前記疼痛を緩和したか否かを評価する工程と、を含む請求項17に記載のスクリーニング方法。
【請求項19】
機械刺激、熱刺激、化学刺激及び電気刺激のうち少なくとも1つにより疼痛を誘発させる請求項18に記載のスクリーニング方法。
【請求項20】
疼痛閾値及び刺激に対する応答の大きさのうち少なくとも1つを指標として疼痛を測定する請求項18から19のいずれかに記載のスクリーニング方法。
【請求項1】
拘束ストレスを与えられた動物からなることを特徴とする全身性疼痛疾患の非ヒトモデル動物。
【請求項2】
情動性ストレスを与えられた動物からなることを特徴とする全身性疼痛疾患の非ヒトモデル動物。
【請求項3】
性腺を摘出されてなる請求項1から2のいずれかに記載のモデル動物。
【請求項4】
室温環境と冷温環境との反復負荷によるストレスを与えられた動物からなり、性腺を摘出されてなることを特徴とする全身性疼痛疾患の非ヒトモデル動物。
【請求項5】
ストレスが、2回以上繰り返し与えられたストレスである請求項1から4のいずれかに記載のモデル動物。
【請求項6】
ストレスが、3日間以上与えられたストレスである請求項1から5のいずれかに記載のモデル動物。
【請求項7】
全身性疼痛疾患が、モルヒネ投与により改善されない疾患である請求項1から6のいずれかに記載のモデル動物。
【請求項8】
全身性疼痛疾患が、慢性疲労症候群、過敏性腸症候群、緊張型頭痛、顎関節症、筋筋膜痛症候群、心的外傷後ストレス障害、うつ病性疼痛、脳卒中後疼痛、視床痛及び線維筋痛症のうちいずれかである請求項1から7のいずれかに記載のモデル動物。
【請求項9】
動物に拘束ストレスを与える工程を含むことを特徴とする全身性疼痛疾患の非ヒトモデル動物の製造方法。
【請求項10】
動物に情動性ストレスを与える工程を含むことを特徴とする全身性疼痛疾患の非ヒトモデル動物の製造方法。
【請求項11】
ストレスを与える工程の前に、性腺を摘出する工程を含む請求項9から10のいずれかに記載の製造方法。
【請求項12】
動物から性腺を摘出する工程と、前記動物に室温環境と冷温環境との反復負荷によるストレスを与える工程を含むことを特徴とする全身性疼痛疾患の非ヒトモデル動物の製造方法。
【請求項13】
ストレスを与える工程が2回以上繰り返される請求項9から12のいずれかに記載の製造方法。
【請求項14】
ストレスを与える工程が3日間以上行われる請求項9から13のいずれかに記載の製造方法。
【請求項15】
全身性疼痛疾患が、モルヒネ投与により改善されない疾患である請求項9から14のいずれかに記載の製造方法。
【請求項16】
全身性疼痛疾患が、慢性疲労症候群、過敏性腸症候群、緊張型頭痛、顎関節症、筋筋膜痛症候群、心的外傷後ストレス障害、うつ病性疼痛、脳卒中後疼痛、視床痛及び線維筋痛症のうちいずれかである請求項9から15のいずれかに記載の製造方法。
【請求項17】
請求項1から8のいずれかに記載のモデル動物を用いる全身性疼痛疾患の治療薬のスクリーニング方法。
【請求項18】
モデル動物に対して被験物質を投与する工程と、
前記被験物質を投与されたモデル動物に対して刺激を与え、疼痛を誘発させる工程と、
前記誘発された疼痛を測定する工程と、
前記被験物質が、前記疼痛を緩和したか否かを評価する工程と、を含む請求項17に記載のスクリーニング方法。
【請求項19】
機械刺激、熱刺激、化学刺激及び電気刺激のうち少なくとも1つにより疼痛を誘発させる請求項18に記載のスクリーニング方法。
【請求項20】
疼痛閾値及び刺激に対する応答の大きさのうち少なくとも1つを指標として疼痛を測定する請求項18から19のいずれかに記載のスクリーニング方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【公開番号】特開2009−195200(P2009−195200A)
【公開日】平成21年9月3日(2009.9.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−42422(P2008−42422)
【出願日】平成20年2月25日(2008.2.25)
【出願人】(506190463)株式会社Argenes (2)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年9月3日(2009.9.3)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年2月25日(2008.2.25)
【出願人】(506190463)株式会社Argenes (2)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]