説明

六フッ化リン酸リチウム・カーボネート錯体及びその前駆体の製造方法

【課題】 本発明の課題は、上記問題点を解決し、効率的且つ簡便な方法により、収率良く、電解液等へそのまま適用が可能な六フッ化リン酸リチウム・カーボネート錯体の製造方法を提供するものである。
【解決手段】 本発明の課題は、六フッ化リン酸リチウム・カーボネート錯体の製造方法によって解決される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、有機合成反応用触媒や半導体材料のドーピング剤として有用な六フッ化リン酸リチウム・カーボネート錯体及びその前駆体である六フッ化リン酸リチウム・エーテル錯体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、六フッ化リン酸リチウム・カーボネート錯体や六フッ化リン酸リチウム・エーテル錯体の製造方法としては、例えば、固体の六フッ化リン酸リチウムをジエチルカーボネートやエチレンカーボネートに溶解させて、六フッ化リン酸リチウム・2(ジエチルカーカーボネート)や六フッ化リン酸リチウム・4(エチレンカーボネート)が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平10−259189号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
六フッ化リン酸リチウムは、公知の化合物であり、その製造方法も知られているが、その物自体が大気中の水分に不安定な場合があるため、それらの長期的に安定な六フッ化リン酸リチウムの錯体を得ることが望まれていた。又、その錯体について言えば、電解液等にそのまま添加できる配位化合物、例えば、六フッ化リン酸リチウム・カーボネート錯体は、電解液の主成分がカーボネート化合物である場合には、何らの処理を施すことなく使用できることから、そのような錯体の製造方法の開発が望まれていた。
【0005】
本発明の課題は、即ち、上記問題点を解決し、効率的且つ簡便な方法により、収率良く、電解液等へそのまま適用が可能な六フッ化リン酸リチウム・カーボネート錯体及びその製造方法を提供するものである。
【0006】
本発明の課題は、又、六フッ化リン酸リチウム・カーボネート錯体に容易に誘導することが可能な六フッ化リン酸リチウム・エーテル錯体の製造方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の課題は、六フッ化リン酸リチウムの無水又は含水カルボン酸エステル溶液とエーテル化合物とを接触させる六フッ化リン酸リチウム・エーテル錯体の製造方法によって解決される。
【0008】
本発明の課題は、又、六フッ化リン酸リチウム・エーテル錯体とカーボネート化合物とを接触させる六フッ化リン酸リチウム・カーボネート錯体の製造方法によっても解決される。
【発明の効果】
【0009】
本発明により、有機合成反応用触媒や半導体材料のドーピング剤として有用な六フッ化リン酸リチウム・カーボネート錯体及びその前駆体である六フッ化リン酸リチウム・エーテル錯体の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明は、
(1)六フッ化リン酸リチウムの水溶液から六フッ化リン酸リチウムの無水又は含水カルボン酸エステル溶液を準備し、
(2)次いで、エーテル化合物とを接触させる六フッ化リン酸リチウム・エーテル錯体を製造することにあり、
(3)更に、先に得られた六フッ化リン酸リチウム・エーテル錯体を前駆体として、これとカーボネート化合物とを接触させて六フッ化リン酸リチウム・カーボネート錯体を製造することにある。
なお、その際に(1)→(2)→(3)のルートを全て経由することが望ましいが、必要に応じて、1又は複数のルートを省略した破線矢印のルートを経由して行うこともできる。
【0011】
【化1】

【0012】
(1)六フッ化リン酸リチウムの無水又は含水カルボン酸エステル溶液の準備
本発明では、まず、六フッ化リン酸リチウムの水溶液とカルボン酸エステルとを接触させて、六フッ化リン酸リチウムの無水又は含水カルボン酸エステル溶液を製造するものである(以下、操作(1)と称する)。なお、無水カルボン酸エステル溶液とは、実質的に水を含まないカルボン酸エステル溶液(水の含量は1%未満)を示し、含水カルボン酸エステル溶液とは、相当量の水を含むカルボン酸エステル溶液(水の含量は1%以上、45%以下)を示す。
【0013】
本発明の操作(1)に使用するカルボン酸エステルとしては、通常のカルボン酸エステル以外に、本明細書においては、炭酸ジエステル類や多価カルボン酸多価エステルも含む広義のカルボン酸エステルを示し、例えば、ギ酸メチル、ギ酸エチル、ギ酸プロピル、ギ酸ブチル、ギ酸ペンチル、ギ酸フェニル、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル、酢酸ペンチル、酢酸フェニル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、プロピオン酸プロピル、プロピオン酸フェニル等の脂肪族カルボン酸エステル類;クロロ酢酸メチル、クロロ酢酸エチル、クロロ酢酸フェニル、トリフルオロ酢酸メチル、トリフルオロ酢酸エチル、トリフルオロ酢酸フェニル等のハロゲン化脂肪族カルボン酸エステル類;安息香酸メチル、安息香酸エチル、安息香酸プロピル、フタル酸ジメチル、フタル酸ジエチル等の芳香族カルボン酸エステル類;炭酸ジメチル、炭酸ジエチル、炭酸ジブチル、炭酸ジフェニル等の炭酸ジエステル類;シュウ酸ジメチル、シュウ酸ジエチル、シュウ酸ジブチル、シュウ酸ジフェニル等のシュウ酸エステル類が挙げられるが、好ましくは脂肪族カルボン酸エステル類、炭酸ジエステル類、シュウ酸ジエステル類、更に好ましくは酢酸メチル、酢酸エチル、ギ酸メチル、ギ酸エチル、炭酸ジメチル、炭酸ジエチル、シュウ酸ジエチル、より好ましくは酢酸メチル、酢酸エチル、ギ酸エチル、炭酸ジメチルが使用される。なお、これらのカルボン酸エステルは、単独又は二種以上を混合して使用しても良い。
【0014】
前記カルボン酸エステルの使用量は、水溶液の容量、六フッ化リン酸リチウムや共存する無機塩(六フッ化リン酸リチウム製造の際に生成)の濃度により適宜調整するが、六フッ化リン酸リチウム1gに対して、好ましくは0.1〜100ml、更に好ましくは0.2〜50ml、特に好ましくは0.5〜5mlである。なお、これらのカルボン酸エステルは、単独又は二種以上を混合して使用しても良く、更に、六フッ化リン酸リチウムの製造に影響を及ぼさないカルボン酸エステル以外の有機溶媒が含まれていても良い。
【0015】
本発明の操作(1)は、例えば、六フッ化リン酸リチウムの水溶液とカルボン酸エステルとを混合して接触させる方法によって行われるが、好ましくは六フッ化リン酸リチウムの水溶液とカルボン酸エステルとを混合して、カルボン酸エステルで六フッ化リン酸リチウムを抽出する等の方法によって行われる。なお、その際の温度は好ましくは−50〜100℃、更に好ましくは−20〜50℃、より好ましくは0〜30℃であり、圧力は特に制限されない。なお、六フッ化リン酸リチウムの無水カルボン酸エステルを準備する際には、例えば、フッ化リチウム、塩化リチウム、臭化リチウム、ヨウ化リチウム等の水溶性リチウムイオン化合物を必要量添加して水溶液の塩濃度を高めることにより、六フッ化リン酸リチウムのカルボン酸エステル層への移層を効率的に行うことが出来る。その際には、リチウムイオンか、リチウムより小さな原子半径を有する陽イオンを含むイオン性化合物を用いるのが望ましい。
【0016】
本発明の操作(1)で使用する六フッ化リン酸リチウムの水溶液は、例えば、公知の方法で合成することもできるし、市販品をそのまま使用することもできる。なお、合成する場合には、例えば、ヘキサフルオロリン酸水溶液(約65重量%)とリチウム化合物(例えば、水酸化リチウム、水酸化リチウム水和物、炭酸リチウム等)とを反応させることで容易に得ることができる。
【0017】
なお、本発明の操作(1)で得られた無水又は含水六フッ化リン酸リチウムのカルボン酸エステル溶液は、操作(2)を行う前に、六フッ化リン酸リチウム塩の分解をきたさないようにしながら、脱水や濃縮して使用することもできる。又、六フッ化リン酸リチウムとエーテル化合物とを反応させて六フッ化リン酸リチウム・エーテル錯体のカルボン酸エステル溶液を得た後に、貧溶媒(六フッ化リン酸リチウム・エーテル錯体が溶解しにくい溶媒)を必要に応じて加えても良い。
【0018】
(2)六フッ化リン酸リチウム・エーテル錯体の製造
本発明の六フッ化リン酸リチウム・エーテル錯体の製造は、無水又は含水カルボン酸エステル中の六フッ化リン酸リチウムとエーテル化合物とを接触させることにより六フッ化リチウム・エーテル錯体を製造するものである(以下、操作(2)と称する)。
【0019】
本発明の操作(2)で使用するエーテル化合物としては、例えば、ジメチルエーテル、ジエチルエーテル、ジブチルエーテル、メチルブチルエーテル、ジフェニルエーテル等の直鎖エーテル類;ジメトキシエタン、ジエトキシエタン、ジエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル等の直鎖ポリエーテル類;エチレンオキシド、プロピレンオキシド、オキセタン、ジメチルオキセタン、テトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン等の環状エーテル類;ジオキセタン、ジオキサン、ジオキソラン、トリオキサン等の環状ポリエーテル類が挙げられるが、好ましくはエーテル化合物が2つ以上のエーテル基を有する化合物である直鎖ポリエーテル類、環状ポリエーテル類、更に好ましくはエーテル化合物が2つ以上のエーテル基を有する化合物が環状化合物である環状ポリエーテル類が使用される(各種位置異性体を含む)。
なお、本発明の明細書におけるエーテル基とは、広い意味での「炭素−酸素−炭素の結合」を示し、カルボキシル化合物やカーボネート化合物のケト基に隣接する「炭素−酸素−炭素の結合」をも含むものと定義する。
【0020】
前記エーテル化合物の量は、六フッ化リン酸リチウム1gに対して、好ましくは0.1〜50ml、更に好ましくは0.5〜20ml、より好ましくは1.0〜10mlである。
【0021】
本発明の操作(2)は、例えば、第1工程で得られた六フッ化リン酸リチウムのム髄又は含水カルボン酸エステル溶液とエーテル化合物を混合し、攪拌しながら反応させる等の方法によって行われる。その際の反応温度や反応圧力は特に制限されない。
【0022】
操作(2)の終了後、減圧濃縮、共沸脱水等により六フッ化リン酸リチウム・エーテル錯体を単離した後に操作(3)を行うことも出来るが、減圧濃縮、共沸脱水等により必要量のカルボン酸エステル化合物及び/又は水を除去した後、六フッ化リン酸リチウム・エーテル錯体を単離することなく、引き続き(3)工程を行うことも出来る。
【0023】
(3)六フッ化リン酸リチウム・カーボネート錯体の製造
本発明の六フッ化リン酸リチウム・カーボネート錯体の製造は、先に得られた六フッ化リン酸リチウム・エーテル錯体を前駆体として、これとカーボネート化合物とを接触させて六フッ化リン酸リチウム・カーボネート錯体を製造するものである(以下、操作(3)と称する)。
【0024】
本発明の操作(3)で使用するカーボネート化合物としては、例えば、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ジプロピルカーボネート、メチルエチルカーボネート、ジブチルカーボネート、ジフェニルカーボネート、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート等が挙げられるが、好ましくはエチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、更に好ましくは、エチレンカーボネートが使用される。
【0025】
前記カーボネート化合物の使用量は、六フッ化リン酸リチウム・エーテル錯体1モルに対して、好ましくは0.1〜50モル、更に好ましくは0.5〜10モル、特に好ましくは0.9〜5.0モルである。
【0026】
本発明の操作(3)は、例えば、六フッ化リチウム・エーテル錯体とカーボネート化合物とを混合して、攪拌しながら反応させる等の方法によって行われる。その際の反応温度は、好ましくは−20〜150℃、更に好ましくは0〜100、より好ましくは10〜60℃であるが、六フッ化リン酸リチウム・エーテル錯体又はカーボネート錯体の分解を抑制するため、反応が進行する範囲で温度は低いことが望ましい。反応圧力は特に制限されないが、減圧によりエーテル化合物を系外に除去しながら行うことが好ましい。
【0027】
操作(3)の終了後、例えば、溶液状態において不溶物を乾燥条件下で濾過し、濾液と共沸溶媒を加えて脱水させることにより、高純度且つ低水分の六フッ化リン酸リチウム・カーボネート錯体を得ることが出来る。その際の共沸溶媒としては、例えば、炭酸ジメチル、炭酸ジエチル、メチルエチルカーボネート、ジメトキシエタン、トルエン等が好適に使用される。
【0028】
なお、得られた六フッ化リン酸リチウム・カーボネート錯体は、無水条件で固体として単離することもできるが、炭酸ジメチル、炭酸ジエチル、メチルエチルカーボネート、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ビニレンカーボネート等の電解液成分となる有機溶媒を加え、固体として単離せずにそのままリチウム電池用電解液に供することもできる。
【0029】
本発明によって得られる六フッ化リン酸リチウム・カーボネート錯体や六フッ化リン酸リチウム・エーテル錯体は、リンの核磁気共鳴スペクトル(31P−NMR)によりその存在を確認でき、又、プロトンの核磁気共鳴スペクトル(H−NMR)により配位したカーボネート化合物やエーテル化合物の数を確認することが可能である。
【0030】
前記の六フッ化リン酸リチウム・エーテル錯体や六フッ化リン酸リチウム・カーボネート錯体、又はそれらの混合物より、遊離の六フッ化リン酸リチウムを製造することもできる。即ち、六フッ化リン酸リチウム・カーボネート錯体及び六フッ化リン酸リチウム・エーテル錯体からなる群より選ばれる少なくとも1種の錯体を、例えば、減圧下で処理する等の方法によって、エーテル化合物やカーボネート化合物を取り除くことで、六フッ化リン酸リチウムを得ることができる。
【0031】
以上の一連の操作によって、六フッ化リン酸リチウムから、六フッ化リン酸リチウムのカーボネート錯体や前駆体としてのエーテル錯体、更には六フッ化リン酸リチウムそのものを得ることができる(即ち、水溶液からの六フッ化リン酸リチウムの取得)。
【実施例】
【0032】
次に、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明の範囲はこれらに限定されるものではない。
なお、六フッ化リン酸リチウムの分析は、六フッ化リン酸リチウムの標品(東京化成品)を基にして核磁気共鳴スペクトルにより行った。
プロトン核磁気共鳴スペクトル(H−NMR)、内部標準;メチルジフェニルホスフィンオキシド又は炭酸ジエチル
リン核磁気共鳴スペクトル(31P−NMR)、内部標準;メチルジフェニルホスフィンオキシド
リチウム核磁気共鳴スペクトル(Li−NMR)
【0033】
参考例1(六フッ化リン酸リチウム水溶液の合成)
攪拌装置ならびに温度計を備えた内容量250mlのプラスチック製容器に、水27mlを加えて氷浴中で0〜10℃に冷却し、液温を同温度に保ちながら、65質量%ヘキサフルオロリン酸水溶液(Aldrich社製)77.2g(344mmol)をゆるやかに滴下した。次いで、水酸化リチウム1水和物25.4g(605mmol)を水127mlに溶解した液を、液温を維持しながらゆるやかに滴下して、溶液のpHを7〜9付近として六フッ化リン酸リチウム水溶液を合成した。
得られた溶液の物性値は以下の通りであった。
【0034】
31P−NMR;−145.0(7重線)
【0035】
実施例1(操作(1);六フッ化リン酸リチウムの酢酸エチル溶液の合成)
参考例1で合成した六フッ化リン酸リチウム水溶液に、塩化リチウム40g(944mmol)を加えて混合させて320gの液を得た。その内160gを取り、酢酸エチル60mlを用いて2回抽出して、六フッ化リン酸リチウムの酢酸エチル溶液149gを得た。得られた溶液を31P−NMRで確認したところ、六フッ化リン酸リチウムが25.4g存在していた(ヘキサフルオロリン酸基準の反応収率;97%)。
【0036】
実施例2(操作(2);六フッ化リン酸リチウム・ジオキサン錯体の合成)
攪拌装置を備えたプラスチック容器に、第1工程で得られた六フッ化リン酸リチウムの酢酸エチル溶液57.2g(64.4mmol)に1,4−ジオキサン200mlを20℃以下で加え、バス温50℃で減圧濃縮した。再度1,4−ジオキサン200mlを加えた後生成した白色固体を窒素雰囲気にて濾過し、無水へキサンで洗浄した後に、窒素を通気して乾燥させ、白色結晶として純度98%の六フッ化リン酸リチウム・ジオキサン錯体(六フッ化リン酸リチウム:ジオキサン=1:2)20.5gを得た(ヘキサフルオロリン酸基準の単離収率;94%)。
六フッ化リン酸リチウム・ジオキサン錯体は、以下の物性を有する新規化合物である。
【0037】
31P−NMR(CDCN,δ(ppm));−145.0(7重線)
H−NMR(CDCN、δ(ppm));3.59(1重線、16H(=8H×2))
【0038】
参考例2(操作(1);六フッ化リン酸リチウムの含水酢酸エチル混合溶液の合成)
攪拌装置及び温度計を備えた内容量500mlのPFA(テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体)製容器に、酢酸エチル200ml及び炭酸リチウム51g(953mmol)を加え氷浴中で混合液を0〜10℃に冷却し、液温を同温度に保ちながら、65質量%ヘキサフルオロリン酸水溶液(Aldrich社製)77.2g(344mmol)をゆるやかに滴下した。滴下終了後、攪拌しながら0〜10℃で1時間反応させた。反応終了後、反応液を濾過し、六フッ化リン酸リチウムの酢酸エチル混合溶液281gを得た(水/酢酸エチル=1/10)。なお、当該混合溶液には六フッ化リン酸リチウムが52g含まれていた(ヘキサフルオロリン酸基準の反応収率;100%)。
【0039】
実施例3(操作(2);六フッ化リン酸リチウム・ジオキサン錯体の合成)
攪拌装置を備えたプラスチック容器に、参考例2で得られた六フッ化リン酸リチウムの水/酢酸エチル溶液100g(122mmol)に1,4−ジオキサン50mlを20℃以下で加え、バス温50℃で減圧濃縮した。再度1,4−ジオキサン50mlを加えて減圧濃縮し、生成したスラリーに1,4−ジオキサン100mlを加え窒素雰囲気にて濾過し、無水へキサンで洗浄した後に、窒素を通気して乾燥させ、白色結晶として純度100%の六フッ化リン酸リチウム・ジオキサン錯体(六フッ化リン酸リチウム:ジオキサン=1:2)31gを得た(ヘキサフルオロリン酸基準の単離収率;76%)。
六フッ化リン酸リチウム・ジオキサン錯体は、以下の物性を有する新規化合物である。
【0040】
31P−NMR(CDCN,δ(ppm));−145.0(7重線)
H−NMR(CDCN、δ(ppm));3.59(1重線、16H(=8H×2))
【0041】
実施例4(操作(3);六フッ化リン酸リチウム・エチレンカーボネート錯体の合成)
攪拌装置を備えた内容量50mlのPFA(テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体)製容器に、実施例3で合成した六フッ化リン酸リチウム・ジオキサン錯体10g(31mmol)及びエチレンカーボネート10g(114mmol)を加え、攪拌しながら減圧下(0.13〜1.3kPa)にて60℃で4時間反応させた。
反応終了後、反応液に無水クロロホルム50mlを加え、生成した下層のオイルに無水トルエン50mlを加え減圧濃縮を2回繰り返し、析出した固体を濾過後、無水クロロホルムで洗浄した。得られた固体を窒素で通気乾燥したところ、白色結晶として純度54%(31P−NMRにより算出)の六フッ化リン酸リチウム・エチレンカーボネート錯体(六フッ化リン酸リチウム:エチレンカーボネート=1:4)15.4gを得た(六フッ化リン酸リチウム・ジオキサン錯体基準の単離収率;54%)。
なお、六フッ化リン酸リチウム・エチレンカーボネート錯体は、以下の物性を有する化合物である。
【0042】
31P−NMR(CDCN,δ(ppm));−145.0(7重線)
H−NMR(CDCN、δ(ppm));4.43(1重線、16H(=4H×4))
【0043】
実施例5(六フッ化リン酸リチウム・ジオキサン錯体を添加した電解質溶液)
実施例3で得られた六フッ化リン酸リチウム・ジオキサン錯体1gを、ジメチルカーボネート及びエチレンカーボネートの混合溶媒10ml(=7:3(容量比))に添加して溶解させると、混合溶液の温度はほとんど上昇することがなく、均一な電解液が得られる。
【0044】
実施例6(六フッ化リン酸リチウム・エチレンカーボネート錯体を添加した電解質溶液)
実施例4で得られた六フッ化リン酸リチウム・エチレンカーボネート錯体1gを、ジメチルカーボネート及びエチレンカーボネートの混合溶媒10ml(=7:3(容量比))に添加して溶解させると、混合溶液の温度はほとんど上昇することがなく、均一な電解液が得られる。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明により、例えば、有機合成反応用触媒や半導体材料のドーピング剤として有用な六フッ化リン酸リチウム・カーボネート錯体及びその前駆体である六フッ化リン酸リチウム・エーテル錯体を提供することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
六フッ化リン酸リチウムの無水又は含水カルボン酸エステル溶液とエーテル化合物とを接触させる六フッ化リン酸リチウム・エーテル錯体の製造方法。
【請求項2】
六フッ化リン酸リチウム・エーテル錯体とカーボネート化合物とを接触させる六フッ化リン酸リチウム・カーボネート錯体の製造方法。
【請求項3】
六フッ化リン酸リチウムの無水又は含水カルボン酸エステル溶液とエーテル化合物とを接触させた後、次いで、得られた六フッ化リン酸リチウム・エーテル錯体とカーボネート化合物とを接触させる六フッ化リン酸リチウム・カーボネート錯体の製造方法。
【請求項4】
エーテル化合物が2つ以上のエーテル基を有する化合物である請求項1又は3記載の六フッ化リン酸リチウム・エーテル錯体の製造方法。
【請求項5】
エーテル化合物が2つ以上のエーテル基を有する化合物が環状化合物である請求項4に記載の六フッ化リン酸リチウム・エーテル錯体の製造方法。
【請求項6】
六フッ化リン酸リチウム・カーボネート錯体及び六フッ化リン酸リチウム・エーテル錯体からなる群より選ばれる少なくとも1種の錯体を用いた六フッ化リン酸リチウムの製造方法。
【請求項7】
六フッ化リン酸リチウム・エーテル錯体。
【請求項8】
六フッ化リン酸リチウム・エーテル錯体から誘導される六フッ化リン酸リチウム・カーボネート錯体。
【請求項9】
六フッ化リン酸リチウム・エーテル錯体及び六フッ化リン酸リチウム・カーボネート錯体からなる群より選ばれる少なくとも1種の錯体を添加したリチウム電池用電解液。

【公開番号】特開2012−170830(P2012−170830A)
【公開日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−31997(P2011−31997)
【出願日】平成23年2月17日(2011.2.17)
【出願人】(000000206)宇部興産株式会社 (2,022)
【Fターム(参考)】