説明

六方晶フェライト磁性粉末およびその製造方法、ならびに磁気記録媒体およびその製造方法

【課題】優れた電磁変換特性を有する磁気記録媒体を作製し得る六方晶フェライト磁性粉末をガラス結晶化法により製造するための手段を提供すること。
【解決手段】ガラス結晶化法による六方晶フェライト磁性粉末の製造方法。酸処理後の洗浄処理は、pH2.5〜5.0の範囲の酸性水溶液に、含有されるアニオン種が六方晶フェライト形成成分に含まれる二価カチオンと形成する塩の水(20℃)に対する溶解度が5.0g/100ml以上である電解質を少なくとも0.2mol/Lの濃度で添加した後に固液分離を行う工程を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、六方晶フェライト磁性粉末およびその製造方法に関するものであり、詳しくは、優れた電磁変換特性を有する磁気記録媒体を形成するために使用され得る六方晶フェライト磁性粉末およびその製造方法に関するものである。
更に本発明は、上記製造方法により得られた六方晶フェライト磁性粉末を磁性層に含む磁気記録媒体およびその製造方法にも関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、高密度記録用磁気記録媒体の磁性層には強磁性金属磁性粒子が主に用いられてきた。強磁性金属磁性粒子は主に鉄を主体とする針状粒子であり、高密度記録のために粒子サイズの微細化、高保磁力化が追求され各種用途の磁気記録媒体に用いられてきた。
【0003】
記録情報量の増加により、磁気記録媒体には常に高密度記録が要求されている。しかしながら更に高密度記録を達成するためには強磁性金属磁性粒子の改良には限界が見え始めている。これに対し、六方晶フェライト磁性粒子は、保磁力は永久磁石材料にも用いられた程に大きく、保磁力の基である磁気異方性は結晶構造に由来するため粒子を微細化しても高保磁力を維持することができる。更に、六方晶フェライト磁性粒子を磁性層に用いた磁気記録媒体はその垂直成分により高密度特性に優れる。このように六方晶フェライト磁性粒子は、高密度化に適した強磁性体である。
【0004】
六方晶フェライト磁性粉末の製法としては、ガラス結晶化法、水熱合成法、共沈法等が知られているが、磁気記録媒体用の六方晶フェライトの製法としては、磁気記録媒体に望まれる微粒子適性・単粒子分散適性を有する磁性粉末が得られる、粒度分布が狭い、等の点からガラス結晶化法が優れると言われている。そのため従来、ガラス結晶化法による六方晶フェライト磁性粉末の製法について、様々な検討が行われてきた(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−340673号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ガラス結晶化法による六方晶フェライト磁性粉末の製造工程は、一般に以下の工程からなるものである。
(1)六方晶フェライト形成成分およびガラス形成成分を含む原料混合物を溶融し、溶融物を得る工程;
(2)溶融物を急冷し固化物(非晶質体)を得る工程;
(3)上記固化物を加熱処理し、六方晶フェライト磁性粒子(以下、「六方晶フェライト粒子」または単に「粒子」ともいう。)およびガラス成分を析出させる工程;
(4)加熱処理物に酸処理および洗浄処理を施すことによりガラス成分を溶解除去し、六方晶フェライト磁性粒子を捕集する工程。
上記洗浄処理は、一般にデカンテーション、ろ過、遠心分離等の固液分離を伴う水洗であるため、六方晶フェライト粒子が水中で高度に分散してしまうことは、製造工程の長期化、歩留まりおよび生産効率の低下、設備上の制約等の原因となる。そのため従来、凝集剤を添加することで六方晶フェライト粒子の沈降を促進することが行われてきた。例えば上記特許文献1の実施例では、凝集剤としてシュウ酸アンモニウムが使用されている。
しかし本発明者らの検討により、上記の従来のガラス結晶化法により作製された六方晶フェライト磁性粉末では、優れた電磁変換特性を有する磁気記録媒体を得ることは容易ではないことが判明した。
【0007】
そこで本発明の目的は、優れた電磁変換特性を有する磁気記録媒体を作製し得る六方晶フェライト磁性粉末をガラス結晶化法により製造するための手段を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記目的を達成するためにガラス結晶化法における酸処理および洗浄処理に着目し検討を重ねた結果、従来の酸処理および洗浄処理では、六方晶フェライト粒子表面のガラス成分の除去が不十分であることが、電磁変換特性低下の原因であると推察するに至った。特に、高密度化のために微粒子化された六方晶フェライト粒子は、表面積が大きいためガラス成分が残留しやすいと考えられる。そこで本発明者らは、酸処理後の洗浄を強化することでガラス成分を高度に除去することを検討したが、単に水洗回数を増やすのみでは対策として不十分であった。
以上の知見に基づき本発明者らは更なる鋭意検討を重ねた結果、酸処理後の洗浄処理を、所定の酸性pH領域で、原料混合物中の六方晶フェライト形成成分に含まれていたバリウム等の二価元素のカチオンと水に難溶性の塩を形成しない電解質存在下で行うことで、六方晶フェライト粒子表面からガラス成分を高度に除去することができ、これにより優れた電磁変換特性を有する磁気記録媒体を形成可能な六方晶フェライト磁性粉末が得られること見出した。上記洗浄処理により六方晶フェライト粒子表面からガラス成分を高度に除去可能となる理由を、本発明者らは以下のように推定している。
酸処理後の洗浄は、従来は単なる水洗によって行われていたが、これを酸性条件下で行うことにより、酸処理により溶解しきれなかったガラス成分を溶解することができる。ただし、六方晶フェライト粒子の等電点は中性付近にあり、等電点より低いpH環境下では粒子表面は正電荷を帯びる。これに関連し、帯電した粒子を含有する水スラリーでは電解質濃度(イオン濃度)が分散/凝集状態に影響を及ぼすことが知られている。電解質濃度が低い場合、帯電した粒子の周りに電気二重層が広がり、この電気二重層の重なり合いを避けるように反発力が働き、帯電した粒子は分散し容易に沈降しない。したがって、単に酸性水溶液中で洗浄処理を行おうとしても、粒子が高度に分散してしまうため、固液分離には時間や設備上の困難を伴う。
これに対し、酸性水溶液中に所定量の電解質を添加すると、電離した電解質により系内のイオンバランスが崩れるため、電気二重層による分散安定化が阻害される結果、六方晶フェライト粒子を短時間で沈降させることが可能になる。ただし、ガラス成分の中には、六方晶フェライトの構造中に取り込まれず、ガラス成分中に含まれているバリウム等の上記二価元素が存在するため、前記酸性水溶液中にはイオン化した上記二価元素が含まれる。ここで電解質として従来凝集剤として使用されていたシュウ酸アンモニウムを使用すると、凝集は促進されるが、この凝集は系内のイオンバランスが崩れることよりも、シュウ酸アンモニウムのアニオン成分であるシュウ酸イオンが、イオン化した上記二価元素と水に難溶性の塩を形成し析出する結果、粗大な析出塩のネットワークの中に六方晶フェライト粒子を取り込んでしまい、六方晶フェライト粒子とシュウ酸塩の塊ができることが主要因として生じると考えられる。したがって、得られる六方晶フェライト磁性粉末の粒径は粗大になり、また多量のガラス成分由来の異物が粒子表面に存在してしまう。このような六方晶フェライト磁性粉末では、優れた電磁変換特性を示す磁気記録媒体を作製することは困難である。したがって系内のイオンバランスを崩し、固液分離の妨げとなる粒子の分散状態を解消するための電解質としては、上記二価カチオンと水に難溶性の塩を形成しないものを使用する必要がある。
本発明は、以上の知見に基づき完成された。
【0009】
即ち、上記目的は、下記手段より達成された。
[1]ガラス形成成分および六方晶フェライト形成成分を含む原料混合物を溶融し、得られた溶融物を急冷し固化物を得ること、
得られた固化物を加熱処理することにより該固化物中に六方晶フェライト磁性粒子およびガラス成分を析出させること、
上記加熱処理後の固化物に酸処理を施し上記ガラス成分を溶解すること、
上記酸処理後に得られた六方晶フェライト磁性粒子に対して洗浄処理を施すこと、ならびに、
洗浄処理後の六方晶フェライト磁性粒子を捕集すること、
を含む六方晶フェライト磁性粉末の製造方法であって、
前記洗浄処理は、pH2.5〜5.0の範囲の酸性水溶液に、含有されるアニオン種が六方晶フェライト形成成分に含まれる二価カチオンと形成する塩の水(20℃)に対する溶解度が5.0g/100ml以上である電解質を少なくとも0.2mol/Lの濃度で添加した後に固液分離を行う工程を含むことを特徴とする六方晶フェライト磁性粉末の製造方法。
[2]前記洗浄処理は、前記工程を、分離された液中の前記二価カチオン濃度が50mg/L以下になるまで繰り返すことを含む、[1]に記載の六方晶フェライト磁性粉末の製造方法。
[3]前記洗浄処理は、前記工程後、前記電解質を含まない水による水洗を行うことを更に含む、[1]または[2]に記載の六方晶フェライト磁性粉末の製造方法。
[4]前記二価カチオンはバリウムイオンである、[1]〜[3]のいずれかに記載の六方晶フェライト磁性粉末の製造方法。
[5]前記二価カチオンはバリウムイオンであり、前記電解質に含有されるアニオン種は、塩化物イオン、硝酸イオン、および酢酸イオンからなる群から選択される、[1]〜[4]のいずれかに記載の六方晶フェライト磁性粉末の製造方法。
[6]前記電解質に含有されるカチオン種は、ナトリウムイオンである[1]〜[5]のいずれかに記載の六方晶フェライト磁性粉末の製造方法。
[7]前記二価カチオンはバリウムイオンであり、前記電解質は、塩化ナトリウム、硝酸ナトリウム、および酢酸ナトリウムからなる群から選択される、[1]〜[6]のいずれかに記載の六方晶フェライト磁性粉末の製造方法。
[8]前記原料混合物はAlを含む、[1]〜[7]のいずれかに記載の六方晶フェライト磁性粉末の製造方法。
[9][1]〜[8]のいずれかに記載の製造方法により製造された六方晶フェライト磁性粉末。
[10]磁気記録用磁性粉である[9]に記載の六方晶フェライト磁性粉末。
[11][1]〜[8]のいずれかに記載の方法により六方晶フェライト磁性粉末を製造すること、および、
製造した六方晶フェライト磁性粉末を含む磁性塗料を用いて磁性層を形成すること、
を含むことを特徴とする磁気記録媒体の製造方法。
[12]非磁性支持体上に強磁性粉末および結合剤を含む磁性層を有する磁気記録媒体であって、
前記強磁性粉末が、[9]に記載の六方晶フェライト磁性粉末であることを特徴とする磁気記録媒体。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、優れた電磁変換特性を有する磁気記録媒体を作製可能な六方晶フェライト磁性粉末を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】原料混合物組成の一例を示す説明図(三角相図)である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の六方晶フェライト磁性粉末の製造方法は、ガラス形成成分および六方晶フェライト形成成分を含む原料混合物を溶融し、得られた溶融物を急冷し固化物を得ること、得られた固化物を加熱処理することにより該固化物中に六方晶フェライト磁性粒子およびガラス成分を析出させること、上記加熱処理後の固化物に酸処理を施し上記ガラス成分を溶解すること、上記酸処理後に得られた六方晶フェライト磁性粒子に対して洗浄処理を施すこと、ならびに、洗浄処理後の六方晶フェライト磁性粒子を捕集すること、を含み、前記洗浄処理に、pH2.5〜5.0の範囲の酸性水溶液に、含有されるアニオン種が六方晶フェライト形成成分に含まれる二価カチオンと形成する塩の水(20℃)に対する溶解度が5.0g/100ml以上である電解質を少なくとも0.2mol/Lの濃度で添加した後に固液分離を行う工程を含むものである。これにより先に説明したように、六方晶フェライト粒子表面からガラス成分を高度に除去し、優れた電磁変換特性を有する磁気記録媒体を作製可能な六方晶フェライト磁性粉末を得ることが可能となる。
以下、本発明の六方晶フェライト磁性粉末の製造方法について、更に詳細に説明する。
【0013】
原料混合物
ガラス結晶化法において使用される原料混合物は、ガラス形成成分と六方晶フェライト形成成分を含むものであり、本発明においても少なくとも上記成分を含む原料混合物を使用する。ガラス形成成分とは、ガラス転移現象を示し非晶質化(ガラス化)し得る成分であり、通常のガラス結晶化法ではB23成分が使用される。本発明でもガラス形成成分としてB23成分を含む原料混合物を使用することができる。なお、ガラス結晶化法において原料混合物に含まれる各成分は、酸化物として、または溶融等の工程において酸化物に変わり得る各種の塩として存在する。本発明において「B23成分」とは、B23自体および工程中にB23に変わり得るH3BO3等の各種の塩を含むものとする。他の成分についても同様である。また、B23成分以外のガラス形成成分としては、例えばSiO2成分、P25成分、GeO2成分等を挙げることができる。また通常、原料混合物の加熱溶融物を急冷して得られた固化物(非晶質体)中では、後述する六方晶フェライト形成成分として添加されるAO成分(Aは例えばBa、Sr、CaおよびPbから選択された少なくとも1種を表す)の中で、六方晶フェライトの構造に取り込まれなかったものはガラス成分として存在する。
【0014】
原料混合物に含まれる六方晶フェライト形成成分としては、六方晶フェライト磁性粉末の構成成分となる成分であって、Fe23、BaO、SrO、CaO、PbO等の金属酸化物が挙げられる。例えば、六方晶フェライト形成成分の主成分としてBaO成分を使用することによりバリウムフェライト磁性粉末を得ることができる。原料混合物中の六方晶フェライト形成成分の含有量は、所望の磁気特性に応じて適宜設定することができる。
【0015】
原料混合物の組成は、特に限定されるものではないが、例えば、高い抗磁力Hcおよび飽和磁化σsを達成するために、AO成分(式中、Aは例えばBa、Sr、CaおよびPbから選択された少なくとも1種を表す)、B23成分、Fe23成分を頂点とする、図1に示す三角相図において、斜線部(1)〜(3)の組成領域内の原料が好ましい。特に、下記のa、b、c、dの4点で囲まれる組成領域内(斜線部(3))にある原料が好ましい。なお前述のようにB23成分の一部をGeO2成分等の他のガラス形成成分と置換することができ、後述するようにFe23成分の一部を抗磁力調整のための成分と置換することもできる。また、後述するように本発明では、B23成分の一部をAl化合物と置換し、ガラス形成成分としてAl化合物を使用することもできる。
(a)B23=44モル%,AO=46モル%,Fe23=10モル%
(b)B23=40モル%,AO=50モル%,Fe23=10モル%
(c)B23=21モル%,AO=29モル%,Fe23=50モル%
(d)B23=10モル%,AO=40モル%,Fe23=50モル%
【0016】
六方晶フェライト磁性粉末として、抗磁力調整のためFeの一部が他の金属元素によって置換されたものを得ることもできる。置換元素としては、Co−Zn−Nb、Zn−Nb、Co、Zn、Nb、Co−Ti、Co−Ti−Sn、Co−Sn−Nb、Co−Zn−Sn−Nb、Co−Zn−Zr−Nb、Co−Zn−Mn−Nb等が挙げられる。このような六方晶フェライト磁性粉末を得るためには、六方晶フェライト形成成分として、抗磁力調整のための成分を併用すればよい。抗磁力調整成分としては、CoO、ZnO等の2価金属の酸化物成分、TiO2、ZrO2、SnO2、MnO2等の4価金属の酸化物成分、Nb25等の5価金属の酸化物成分が挙げられる。上記抗磁力調整成分を使用する場合、その含有量は所望の抗磁力等にあわせて、適宜決定すればよい。
【0017】
また本発明では、得られる六方晶フェライト磁性粉末の磁気特性の向上のために、Alを含有する原料混合物を使用することもできる。Alは、酸化物として、または溶融等の工程において酸化物に変わり得る各種の塩(水酸化物等)として添加することができる。酸化物換算の全量に対してAl23換算で1.0モル%以上のAlを含む原料混合物を使用することが、上記理由から好ましい。また、本発明者らの検討によれば、Alを多く含む原料混合物から得られた六方晶フェライト磁性粒子を用いて作製した磁気記録媒体では、媒体表面が硬くなる現象が確認された。媒体表面が硬くなるとヘッドを磨耗させることで出力が低下する場合がある。出力確保の観点からは、酸化物換算の全量に対してAl23換算で10.0モル%以下のAlを含む原料混合物を使用することが好ましい。
【0018】
上記原料混合物は、各成分を秤量および混合して得ることができる。次いで、前記原料混合物を溶融し溶融物を得る。溶融温度は原料組成に応じて設定すればよく、通常、1000〜1500℃である。溶融時間は、原料混合物が十分溶融するように適宜設定すればよい。
【0019】
次いで、上記工程で得られた溶融物を急冷することにより固化物を得る。この固化物は、ガラス形成成分により非晶質化(ガラス化)した非晶質体である。上記急冷は、ガラス結晶化法で非晶質体を得るために通常行われる急冷工程と同様に実施することができ、例えば高速回転させた水冷双ローラー上に溶融物を注いで圧延急冷する方法等の公知の方法で行うことができる。
【0020】
上記急冷後、得られた非晶質体を加熱処理する。この工程により、六方晶フェライト磁性粒子およびガラス成分を析出させることができる。六方晶フェライト磁性粒子核生成温度を考慮すると、結晶化温度は580℃以上760℃以下とすることが好ましく、600℃以上760℃以下とすることがより好ましい。
【0021】
析出させる六方晶フェライト磁性粒子の粒子サイズは、結晶化温度および結晶化のための加熱時間により制御可能である。高密度記録用磁気記録媒体の磁性体として好適な粒径、好ましくは35nm以下、より好ましくは15〜30nmの粒径(一次粒子径)を有する六方晶フェライト磁性粒子が得られるように、結晶化温度および上記加熱時間を決定することが好ましい。なお本発明において、六方晶フェライト磁性粉末に関する粒径とは、透過型電子顕微鏡(TEM)で撮影した写真から測定した板径とする。また、複数の粒子については、TEM写真中で無作為に抽出した500個の粒子の板径の平均値をもって、六方晶フェライト磁性粉末の平均粒径とする。結晶化温度は、上記好ましい範囲内で最適な範囲に設定することが好ましい。上記結晶化温度までの昇温速度は、例えば0.2〜10℃/分程度が好適であり、好ましくは0.5〜5℃/分であり、上記温度域での保持時間は、例えば0.5〜24時間であり、好ましくは1〜8時間である。なお、後述する粉砕処理や磁性塗料中での分散処理では、六方晶フェライト磁性粒子の粒子サイズは実質的に変化しない。
【0022】
上記結晶化工程において加熱処理を施された加熱処理物中には、六方晶フェライト磁性粒子と結晶化したガラス成分が析出している。この加熱処理物に酸処理を施すと、粒子を取り囲んでいたガラス成分を溶解することができる。
【0023】
上記酸処理の前には、酸処理の効率を高めるために粉砕処理を行うことが好ましい。粗粉砕は乾式、湿式のいずれの方法で行ってもよいが均一な粉砕を可能とする観点から湿式粉砕を行うことが好ましい。粉砕処理条件は、公知の方法にしたがって設定することができ、また後述の実施例も参照できる。
【0024】
上記酸処理は、加熱下酸処理等のガラス結晶化法で一般的に行われる方法により行うことができる。好ましくは、60〜90℃に加温した酢酸、蟻酸、酪酸等の水溶液中(好ましくは2〜25質量%程度の酸濃度)で0.5〜10時間程度、粗粉砕物を保持することが好ましい。これにより六方晶フェライト粒子を取り囲んでいたガラス成分を溶解することができる。
【0025】
ただし先に説明したように、上記酸処理のみでは、六方晶フェライト粒子表面に付着しているガラス成分を十分に除去することは困難である。そこで本発明では、以下に詳述する酸性水溶液中での洗浄処理を行う。これにより、ガラス成分が高度に除去された六方晶フェライト磁性粉末を得ることが可能となる。通常、上記酸処理は水溶液を用いて行われるため、洗浄処理後にデカンテーション等の固液分離を行い、回収した固形分に対して洗浄処理を施すことが好ましい。酸処理後の液中には、溶解したガラス成分由来のイオン性成分が多量に含まれているため、通常、比較的短時間で粒子は自然沈降する。
【0026】
酸処理後の洗浄処理は、酸性溶液中に電解質を添加して行われる。上記酸性水溶液のpHが2.5未満では、粒子自体が溶解してしまうため所望の磁気特性を得ることが困難となり、5.0を超えると酸処理で溶解しきれなかったガラス成分を洗浄処理で溶解除去するという所期の目的を達成することが困難となる。したがって、上記酸性溶液としては、pH2.5〜5.0のものを使用する。pH調整のために使用する酸としては、水中(25℃)でのpKaが3以下の酸が、少量添加でpHの制御が可能であるため好ましい。具体的には、塩酸等を好ましい酸として例示することができる。ここで添加する酸の量は、使用する酸の種類に応じてpHを所望の範囲に制御できる量に設定すればよい。なお、後述する電解質の添加により酸性水溶液のpHが若干変化する場合があるが、その場合には酸または塩基の添加によってpHを再調整すればよい。
【0027】
上記範囲のpHに調整された酸性水溶液中に添加する電解質としては、含有されるアニオン種が六方晶フェライト形成成分に含まれる二価カチオンと形成する塩の水(20℃)に対する溶解度が5.0g/100ml以上であるものを使用する。上記溶解度が5.0g/100mlを下回る電解質を使用すると、先にシュウ酸アンモニウムを例にとり説明したように、上記二価カチオンと形成される塩の影響によって、優れた電磁変換特性を有する磁気記録媒体を形成可能な六方晶フェライト磁性粉末を得ることは困難となる。上記溶解度は、高いほど塩を形成しづらいため好ましく上限は特に限定されるものではないが、例えば100g/100ml程度が実用上の上限の目安となり得る。そのようなアニオン種の具体例としては、塩化物イオン、硝酸イオン、酢酸イオン、等を挙げることができる。例えば、上記アニオンがバリウムカチオン(Ba2+)と形成する塩の100mlの水(20℃)に対する溶解度は、文献公知の通り、以下の値である。塩化バリウム:35.8g/100ml、硝酸バリウム:8.7g/100ml、酢酸バリウム:72.0g/mol。なお、本発明において上記溶解度とは、20℃の純水に対する溶解度を意味するものとする。当該溶解度の多くは文献公知の値であり、また文献に記載のないものについては公知の方法で測定することができる。上記アニオン種と電解質を形成するカチオン種は特に限定されるものではないが、例えばナトリウムイオン、カリウムイオン、アンモニウムイオンを例示できる。
【0028】
前記酸性溶液に添加する電解質濃度は、電解質添加による沈降促進のために、少なくとも0.2mol/Lとする。この値を下回ると、電解質を添加したとしても系内のイオンバランスを大きく変えることはできず、沈降を促進することが困難だからである。上記濃度の上限は特に限定されるものではないが、後述するように洗浄処理後の電気伝導度を所定範囲とする観点からは沈降を促進できる範囲でイオン性成分は少ないことが好ましいため、1.0mol/L以下程度とすることが好ましい。
【0029】
前記電解質を添加した酸性水溶液中で、任意に攪拌等を行った後にデカンテーション、ろ過、遠心分離等による固液分離を行う。本発明では先に説明したように電解質の作用によって、酸性水溶液中で六方晶フェライト磁性粒子が高度に分散し固液分離の妨げとなることを防ぐことができる。
【0030】
以上説明した電解質を含む酸性水溶液中での工程を行う回数は1回でもよいが、ガラス成分をより一層高度に除去するためには、2回以上、複数回行うことが好ましい。上記工程を終了する目安としては、固液分離により分離された液中の、ガラス成分に由来する前記二価カチオン濃度を指標とすることができ、前記二価カチオン濃度が50mg/L以下になるまで、前記工程を繰り返すことが好ましい。上記工程を繰り返すことで、固液分離により分離された液中の前記二価カチオン濃度を、例えば0.1〜50mg/L程度に低減することができる。
【0031】
ところで前記した特許文献1(特開2005−340673号公報)に記載されているように、六方晶フェライト磁性粉末中に酸成分等のイオン性成分が存在することは、磁気記録媒体からの金属塩の析出の原因となる場合がある。そのためガラス成分が十分除去された後には、イオン性成分を除去するために、酸成分や前記電解質を含まない水による水洗を行うことが好ましい。該水洗処理は、六方晶フェライト粒子表面に存在するイオン性成分が十分除去されるまで繰り返すことが好ましく、作業環境温度(通常、20〜25℃程度)における液の電気伝導率が、特許文献1に記載の範囲である0.02〜6.0mS/mとなることが、水洗終了の目安となり得る。なお水洗をpH6〜7程度の水を用いて行えば、電解質なしでも六方晶フェライト粒子を短時間で沈降させることができるため、固液分離を容易に行うことができる。また上記水洗前に、粒子を含む水溶液のpHを5.0を超えるようにアルカリ等を使用して調整し粒子を沈降させた上で固液体分離を行うことで、電解質由来のイオン性成分の除去効率を高めることができる。
【0032】
以上の洗浄処理を施した後、必要に応じて公知の後処理(例えば表面被覆処理、乾燥処理)等を行い、六方晶フェライト磁性粉末を得ることができる。
【0033】
更に本発明は、以上説明した本発明の製造方法により製造された六方晶フェライト磁性粉末に関する。先に説明したように、本発明の製造方法によれば、六方晶フェライト粒子表面からガラス成分を高度に除去することができるため、当該製造方法により得られた本発明の六方晶フェライト磁性粉末によれば、優れた電磁変換特性を有する磁気記録媒体を作製することができる。かかる本発明の六方晶フェライト磁性粉末は、磁気記録用磁性粉として好適に使用されるものである。
【0034】
更に本発明は、前記した本発明の製造方法により六方晶フェライト磁性粉末を製造すること、ならびに、製造した六方晶フェライト磁性粉末を含む磁性塗料を用いて磁性層を形成すること、を含む磁気記録媒体の製造方法、ならびに、非磁性支持体上に強磁性粉末および結合剤を含む磁性層を有する磁気記録媒体であって、前記強磁性粉末が、本発明の六方晶フェライト磁性粉末であることを特徴とする磁気記録媒体にも関する。
以下、本発明の磁気記録媒体および本発明の磁気記録媒体の製造方法の詳細について説明する。
【0035】
磁性層
磁性層に使用される六方晶バリウムフェライト磁性粉末およびその製造方法の詳細は、前述の通りである。前記磁性層は、六方晶バリウムフェライト磁性粉末とともに結合剤を含む。磁性層に含まれる結合剤としては、ポリウレタン樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、塩化ビニル系樹脂、スチレン、アクリロニトリル、メチルメタクリレートなどを共重合したアクリル系樹脂、ニトロセルロースなどのセルロース系樹脂、エポキシ樹脂、フェノキシ樹脂、ポリビニルアセタール、ポリビニルブチラールなどのポリビニルアルキラール樹脂などから単独または複数の樹脂を混合して用いることができる。これらの中で好ましいものはポリウレタン樹脂、アクリル系樹脂、セルロース系樹脂、塩化ビニル系樹脂である。これらの樹脂は、後述する非磁性層においても結合剤として使用することができる。以上の結合剤については、特開2010−24113号公報段落[0029]〜[0031]を参照できる。また、上記樹脂とともにポリイソシアネート系硬化剤を使用することも可能である。
【0036】
磁性層には、必要に応じて添加剤を加えることができる。添加剤としては、研磨剤、潤滑剤、分散剤・分散助剤、防黴剤、帯電防止剤、酸化防止剤、溶剤、カーボンブラックなどを、所望の性質に応じて適量、市販品または公知の方法により製造されたものの中から適宜選択して使用することができる。カーボンブラックについては、特開2010−24113号公報段落[0033]も参照できる。
【0037】
非磁性層
次に非磁性層に関する詳細な内容について説明する。本発明の磁気記録媒体は、非磁性支持体と磁性層との間に非磁性粉末と結合剤を含む非磁性層を有することができる。非磁性層に使用できる非磁性粉末は、無機物質でも有機物質でもよい。また、カーボンブラック等も使用できる。無機物質としては、例えば金属、金属酸化物、金属炭酸塩、金属硫酸塩、金属窒化物、金属炭化物、金属硫化物などが挙げられる。これらの非磁性粉末は、市販品として入手可能であり、公知の方法で製造することもできる。その詳細については、特開2010−24113号公報段落[0036]〜[0039]を参照できる。
【0038】
非磁性層の結合剤、潤滑剤、分散剤、添加剤、溶剤、分散方法その他は、磁性層のそれが適用できる。特に、結合剤量、種類、添加剤、分散剤の添加量、種類に関しては磁性層に関する公知技術が適用できる。また、非磁性層にはカーボンブラックや有機質粉末を添加することも可能である。それらについては、例えば特開2010−24113号公報段落[0040]〜[0042]を参照できる。
【0039】
非磁性支持体
非磁性支持体としては、二軸延伸を行ったポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリアミド、ポリアミドイミド、芳香族ポリアミド等の公知のものが挙げられる。これらの中でもポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリアミドが好ましい。
これらの支持体はあらかじめコロナ放電、プラズマ処理、易接着処理、熱処理などを行ってもよい。また、本発明に用いることのできる非磁性支持体の表面粗さはカットオフ値0.25mmにおいて中心平均粗さRa3〜10nmが好ましい。
【0040】
層構成
本発明の磁気記録媒体の厚み構成は、非磁性支持体の厚みが、好ましくは3〜80μmである。磁性層の厚みは、用いる磁気ヘッドの飽和磁化量やヘッドギャップ長、記録信号の帯域により最適化されるものであるが、一般には0.01〜0.15μmであり、好ましくは0.02〜0.12μmであり、さらに好ましくは0.03〜0.10μmである。磁性層は少なくとも一層あればよく、磁性層を異なる磁気特性を有する2層以上に分離してもかまわず、公知の重層磁性層に関する構成が適用できる。
【0041】
非磁性層の厚みは、例えば0.1〜3.0μmであり、0.3〜2.0μmであることが好ましく、0.5〜1.5μmであることが更に好ましい。なお、本発明の磁気記録媒体の非磁性層は、実質的に非磁性であればその効果を発揮するものであり、例えば不純物として、あるいは意図的に少量の磁性体を含んでいても、本発明の効果を示すものであり、本発明の磁気記録媒体と実質的に同一の構成とみなすことができる。なお、実質的に同一とは、非磁性層の残留磁束密度が10mT以下または保磁力が7.96kA/m(100Oe)以下であることを示し、好ましくは残留磁束密度と保磁力を持たないことを意味する。
【0042】
バックコート層
本発明の磁気記録媒体には、非磁性支持体の磁性層を有する面とは反対の面にバックコート層を設けることもできる。バックコート層には、カーボンブラックと無機粉末が含有されていることが好ましい。バックコート層形成のための結合剤、各種添加剤は、磁性層や非磁性層の処方を適用することができる。バックコート層の厚みは、0.9μm以下が好ましく、0.1〜0.7μmが更に好ましい。
【0043】
製造方法
磁性層、非磁性層またはバックコート層を形成するための塗布液を製造する工程は、通常、少なくとも混練工程、分散工程、およびこれらの工程の前後に必要に応じて設けた混合工程からなる。個々の工程はそれぞれ2段階以上に分かれていてもかまわない。本発明で用いられる六方晶フェライト磁性粉末、非磁性粉末、結合剤、カーボンブラック、研磨剤、帯電防止剤、潤滑剤、溶剤などすべての原料はどの工程の最初または途中で添加してもかまわない。また、個々の原料を2つ以上の工程で分割して添加してもかまわない。例えば、ポリウレタンを混練工程、分散工程、分散後の粘度調整のための混合工程で分割して投入してもよい。本発明の目的を達成するためには、従来の公知の製造技術を一部の工程として用いることができる。混練工程ではオープンニーダ、連続ニーダ、加圧ニーダ、エクストルーダなど強い混練力をもつものを使用することが好ましい。これらの混練処理の詳細については特開平1−106338号公報、特開平1−79274号公報に記載されている。また、磁性層塗布液、非磁性層塗布液またはバックコート層塗布液を分散させるには、ガラスビーズを用いることができる。このようなガラスビーズは、高比重の分散メディアであるジルコニアビーズ、チタニアビーズ、スチールビーズが好適である。これら分散メディアの粒径と充填率は最適化して用いられる。分散機は公知のものを使用することができる。磁気記録媒体の製造方法の詳細については、例えば特開2010−24113号公報段落[0051]〜[0057]を参照できる。
【0044】
以上説明した本発明の磁気記録媒体は、本発明の六方晶バリウムフェライト磁性粉末を含むことにより高記録密度領域において高SNRを実現することができるため、優れた電磁変換特性が求められる高密度記録用磁気記録媒体として好適である。
【実施例】
【0045】
以下に本発明を実施例によりさらに具体的に説明する。ただし本発明は、実施例に示す態様に限定されるものではない。また、以下に記載の「部」、「%」は、特に示さない限り「質量部」、「質量%」を示す。
【0046】
[実施例1]
(1)酸化物換算でB23:23.0モル%、Al23:8.7モル%、BaO:37.0モル%、Fe23:31.3モル%となるように、B23に対応するH3BO3、Al23に対応するAl(OH)3、BaOに対応するBaCO3と、Fe23を所定量秤量し、ミキサーにて混合したものを容量2Lの白金ルツボに仕込み、溶融後、水冷ロールにて冷却し非晶質体を得た。得られた非晶質体600gを電気炉に仕込み、720℃まで4℃/minで昇温して5時間保持させて六方晶フェライト(バリウムフェライト)を結晶化(析出)させた。
【0047】
(2)上記(1)の結晶化が完了した加熱処理物600gを乳鉢で粗粉砕し、3Lのポットミルに入れ、φ5mmZrボール5kgと純水1.2kgとともにボールミルにて4時間粉砕処理を行った後、粉砕液をボールと分離させ5Lステンレスビーカーに入れた。30%酢酸溶液と3:1の割合(質量比)で混合し、85℃に温度制御した状態で2時間攪拌し酸処理してガラス成分を溶解した。酸処理後のスラリーを1時間静置すると、固形物が自然沈降し透明な上澄みと沈降物に分離されたため、上澄みをデカンテーション除去した。
【0048】
(3)上記(2)で上澄みを除去したビーカーに、ビーカー内容量が5Lになるまで純水を添加した後、1N塩酸によってpHを3.2に調整した。その後、0.2mol/Lの濃度になる量の塩化ナトリウムをビーカー内に添加した。本実施例および後述の実施例、比較例では、電解質添加によるpHの大きな変動は確認されず、電解質添加前後で液のpHはほぼ同一であった。短時間攪拌した後に2時間静置すると、固形物が自然沈降し透明な上澄みと沈降物に分離されたため、上澄みをデカンテーション除去した。後述の表1では、自然沈降によって透明な上澄みと沈降物に分離されたことが目視で確認されるまでの時間が1時間以下であった場合を「◎」、1時間超3時間以下であった場合を「○」、3時間超であった場合を「×」と示す。
上澄み中のバリウムカチオン濃度が50mg/L以下になるまで、純水添加→1N塩酸によるpH調整→自然沈降→デカンテーションの工程を繰り返した。上澄み中のバリウムカチオン濃度が50mg/L以下になった後、10%水酸化ナトリウム水溶液によりpHを6〜7の範囲に調整した水を加えたところ、粒子は電解質の添加なしで自然沈降した。自然沈降した液の上澄みをデカンテーションにより除去した後は純水添加とデカンテーションによる水洗を、上澄みの電気伝導率が0.02〜6.0mS/mの範囲になるまで繰り返した後、乾燥させてバリウムフェライト磁性粉末を得た。
【0049】
[実施例2]
上記(3)において添加する電解質を塩化ナトリウムから硝酸ナトリウムに変更した点以外は実施例1と同様の方法でバリウムフェライト磁性粉末を得た。
【0050】
[実施例3]
上記(3)において添加する電解質を塩化ナトリウムから酢酸ナトリウムに変更した点以外は実施例1と同様の方法でバリウムフェライト磁性粉末を得た。
【0051】
[実施例4]
上記(3)において、1N塩酸によって調整するpHを3.2から4.8に変更した点以外は実施例1と同様の方法でバリウムフェライト磁性粉末を得た。
【0052】
[実施例5]
上記(3)において、1N塩酸によって調整するpHを3.2から2.7に変更した点以外は実施例1と同様の方法でバリウムフェライト磁性粉末を得た。
【0053】
[実施例6]
上記(3)において添加する電解質(塩化ナトリウム)の濃度を0.2mol/Lから0.5mol/Lに変更した点以外は実施例1と同様の方法でバリウムフェライト磁性粉末を得た。
【0054】
[比較例1]
上記(3)において、1N塩酸によって調整するpHを3.2から4.4に変更し、かつ電解質を添加しない点以外は実施例1と同様の方法でバリウムフェライト磁性粉末を得ることを試みたが、酸性水溶液中で粒子が安定に分散してしまい自然沈降させることができず、2回目以降の工程を行うことはできなかった。
【0055】
[比較例2]
上記(3)において、電解質を添加しない点以外は実施例1と同様の方法でバリウムフェライト磁性粉末を得ることを試みたが、酸性水溶液中で粒子が安定に分散してしまい自然沈降させることができず、2回目以降の工程を行うことはできなかった。
【0056】
[比較例3]
上記(3)において、1N塩酸によって調整するpHを3.2から7.3に変更し、かつ電解質を添加しなかった点以外は実施例1と同様の方法でバリウムフェライト磁性粉末を得た。
【0057】
[比較例4]
上記(3)において添加する電解質(塩化ナトリウム)の濃度を0.2mol/Lから0.1mol/Lに変更する点以外は実施例1と同様の方法でバリウムフェライト磁性粉末を得ることを試みたが、酸性水溶液中で粒子が安定に分散してしまい自然沈降させることができず、2回目以降の工程を行うことはできなかった。
【0058】
[比較例5]
上記(3)において、1N塩酸によって調整するpHを3.2から4.4に変更し、かつ添加する電解質を塩化ナトリウムからシュウ酸アンモニウム(シュウ酸バリウムの20℃の純水に対する溶解度:2.4mg/100ml)に変更した点以外は実施例1と同様の方法でバリウムフェライト磁性粉末を得た。
【0059】
[比較例6]
上記(3)において、1N塩酸によって調整するpHを3.2から4.4に変更し、かつ添加する電解質を塩化ナトリウムから硫酸ナトリウム(硫酸バリウムの20℃の純水に対する溶解度:2.2mg/100ml)に変更した点以外は実施例1と同様の方法でバリウムフェライト磁性粉末を得た。
【0060】
[比較例7]
上記(3)において、1N塩酸によって調整するpHを3.2から5.3に変更した点以外は実施例1と同様の方法でバリウムフェライト磁性粉末を得た。
【0061】
[比較例8]
上記(3)において、1N塩酸によって調整するpHを3.2から2.2に変更した点以外は実施例1と同様の方法でバリウムフェライト磁性粉末を得た。
【0062】
磁気テープの作製方法
上記のバリウムフェライト磁性粉末が得られた実施例、比較例について、得られたバリウムフェライト磁性粉末を磁性層の強磁性粉末として用いて、以下の方法で磁気テープを作製した。
【0063】
1.磁性層塗布液の処方
六方晶バリウムフェライト粉末 100部
(前述の実施例または比較例で得られた粉末)
ポリウレタン樹脂 5部
分岐側鎖含有ポリエステルポリオール/ジフェニルメタンジイソシアネート系、
−SO3Na=0.07meq/g
塩化ビニル共重合体(日本ゼオン社製MR104) 10部
オレイン酸 10部
α−アルミナ(粒子サイズ0.15μm) 5部
カーボンブラック(平均粒径20nm) 0.5部
シクロヘキサノン 110部
メチルエチルケトン 100部
トルエン 100部
ブチルステアレート 2部
ステアリン酸 1部
【0064】
2.非磁性層塗布液の処方
非磁性無機粉体 85部
α−酸化鉄
表面処理層:Al23、SiO2
平均長軸長 0.15μm
平均針状比:7
BET法による比表面積 52m2/g
PH8
カーボンブラック 15部
塩化ビニル共重合体(日本ゼオン社製MR110) 10部
ポリウレタン樹脂 10部
分岐側鎖含有ポリエステルポリオール/ジフェニルメタンジイソシアネート系、
−SO3Na=0.2meq/g
フェニルホスホン酸 5部
シクロヘキサノン 140部
メチルエチルケトン 170部
ブチルステアレート 2部
ステアリン酸 1部
【0065】
3.バックコート層塗布液の処方
微粒子状カーボンブラック粉末 100部
(キャポット社製BPr800、平均粒子サイズ:17nm)
粗粒子状カーボンブラック粉末 10部
(カーンカルブ社製、サーマルブラック、平均粒子サイズ:270nm)
α−アルミナ(硬質無機粉末) 2部
平均粒子サイズ:200nm、モース硬度:9
ニトロセルロース樹脂 140部
ポリウレタン樹脂 15部
ポリエステル樹脂 5部
分散剤:オレイン酸銅 5部
銅フタロシアニン 5部
硫酸バリウム 5部
(堺化学工業(株)製BF−1、平均粒径:50nm、モース硬度3)
メチルエチルケトン 1200部
酢酸ブチル 300部
トルエン 600部
【0066】
4.磁気テープの作製
上記の非磁性層塗布液については、各成分をオープンニーダで混練した後、サンドミルを用いて分散させた。得られた分散液にポリイソシアネート(日本ポリウレタン(株)製コロネートL)を4部加え、更にメチルエチルケトン、シクロヘキサノン混合溶媒40部を加え、混合、攪拌した後、1μmの孔径を有するフィルターを用いて濾過して非磁性層塗布液を調製した。
磁性層塗布液については、六方晶フェライト粉末とオレイン酸とを乾式で15分間分散させた後、この分散物を上記磁性層成分とともにオープンニーダで混練した後、サンドミルを用いて分散させた。得られた分散液にポリイソシアネート(日本ポリウレタン(株)製コロネートL)を3部加え、更にメチルエチルケトン、シクロヘキサノン混合溶媒40部を加え、混合、攪拌した後、1μmの孔径を有するフィルターを用いて濾過して磁性層塗布液を調製した。
バックコート層塗布液については、上記成分を連続ニーダで混練した後、サンドミルを用いて分散させた。得られた分散液に、ポリイソシアネート40部(コロネートL、日本ポリウレタン工業(株)製)、メチルエチルケトン1000部を添加し、攪拌した後、1μmの孔径を有するフィルターを用いて濾過した。
【0067】
得られた非磁性層塗布液および磁性層用塗布液を、非磁性層は乾燥後の膜厚で1.0μm、磁性層は乾燥後の膜厚で0.10μmになるように、更に乾燥後のテ−プ総厚が6.6μmになるように厚さ5μmの支持体(二軸延伸を行ったポリエチレンテレフタレート)上に同時重層塗布を行い、乾燥させた。その後、磁性層面とは反対の面に、バックコート層を乾燥後に厚さ0.5μmになるように塗布した。
【0068】
その後、金属ロールのみから構成される7段のカレンダーで速度100m/min、線圧350kg/cm(343kN/m)、温度80℃でカレンダー処理を行い、得られたロールを60℃で48時間加熱処理を行った。次いで、1/2インチ幅にスリットして磁気テ−プを作製した。
【0069】
評価方法
1.Ba/Fe比の測定
実施例1〜6、比較例3、5〜8で得られた六方晶フェライト磁性粉末0.01gを10mLの4N−HCl溶液に浸漬し、ホットプレートにて80℃で3時間加熱することで溶解させた。溶解液を希釈後、ICPにてFeとBaを定量することで、Ba/Fe比(原子%)を求めた。バリウムフェライトBaO・6Fe23では、Ba/Fe比は8.3atom%であるため、測定された値が8.3atom%を超えるものは、ガラス成分の除去が不十分なためガラス成分由来のBaが検出されたと判断することができる。
2.透過型電子顕微鏡(TEM)による粒子観察
透過型電子顕微鏡(TEM)で40万倍の粒子写真を撮影し、粒子写真から500個の粒子の板径の算術平均として求めた値を平均粒径とした。
また、上記粒子写真において、板状粒子が集合した、200nm以上のサイズの凝集物の有無を以下の基準により評価した。
○:粒子写真中、200nm以上のサイズの粒子の凝集物なし
△:粒子写真中、200nm以上のサイズの粒子の凝集物が50個以下。
×:粒子写真中、200nm以上のサイズの粒子の凝集物が50個超。
3.媒体性能(SNR)の測定
実施例、比較例の各磁気テープのSNRを、以下の方法によってヘッドを固定した1/2インチリニアシステムで測定した。ヘッド/テープ相対速度は10m/secとした。
記録ヘッドとして、飽和磁束密度1.8TのMIGヘッド(ギャップ長:0.2μm、トラック幅8μm)を使い、記録電流を各テープの最適記録電流に設定し600kbpiの線記録密度でテープ長手方向に磁気信号を記録した。記録した磁気信号を、再生ヘッドとして、素子厚み15nm、シールド間距離0.05μmの異方性型MRヘッド(A−MR)を用いて再生した。再生信号をシバソク製のスペクトラムアナライザーで周波数分析し、キャリア信号の出力と、スペクトル全帯域の積分ノイズとの比をSNRとした。
【0070】
以上の結果を、下記表1に示す。
【0071】
【表1】

【0072】
評価結果
表1に示すように、実施例1〜6では、比較例と比べて優れたSNRを示す磁気テープを得ることができた。
一方、比較例1、2では粒子が分散してしまいデカンテーションによる洗浄を行うことができなかった。これは、酸性水溶液中でバリウムフェライト粒子表面が多量の正電荷を帯びたことが理由と考えられる。実施例のように電解質を添加しなかったため、帯電した粒子の周りに電気二重層が広がり、この電気二重層の重なり合いを避けるように反発力が働き、帯電した粒子が分散した結果、自然沈降しなかったと推察される。比較例4では電解質を添加したにもかかわらず粒子が自然沈降しなかった理由は、電解質の添加量が少なかったためと考えられる。
比較例3で電解質の添加なしで粒子を自然沈降させることができた理由は、洗浄を行う液のpHが高かったため粒子表面の正電荷量が少なかったことが理由と考えられる。しかしこれではガラス成分の除去が不十分であることが、表1に示すようにBa/Fe比が実施例よりも大きいこと、および粒子写真において粗大な塊が観察されたことから確認できる。実施例の磁気テープと比べて比較例3の磁気テープのSNRが劣っていることは、上記のようにガラス成分の除去が不十分であったことが理由と考えられる。
比較例5、6において、実施例と比べて電磁変換特性が大きく低下した理由は、バリウムカチオンと水に難溶性の塩を形成するアニオン種を含む電解質を使用したため、残留したガラス成分で粒子表面が被覆されたことで平均粒径が大きくなってしまったこと、および難溶性の塩とバリウムフェライト粒子が粗大な凝集物を形成してしまったことにあると推察される。
比較例7では洗浄時の水溶液のpHが5.0を超えていたためガラス成分の除去が不十分であったことが、比較例8では洗浄時の水溶液のpHが2.5を下回っていたため粒子が溶解してしまったことが、それぞれSNR低下の原因と考えられる。
以上の結果から、本発明によれば、優れた電磁変換特性を有する磁気記録媒体の提供が可能となることが示された。
【産業上の利用可能性】
【0073】
本発明は、高密度記録用磁気記録媒体の製造分野に有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス形成成分および六方晶フェライト形成成分を含む原料混合物を溶融し、得られた溶融物を急冷し固化物を得ること、
得られた固化物を加熱処理することにより該固化物中に六方晶フェライト磁性粒子およびガラス成分を析出させること、
上記加熱処理後の固化物に酸処理を施し上記ガラス成分を溶解すること、
上記酸処理後に得られた六方晶フェライト磁性粒子に対して洗浄処理を施すこと、ならびに、
洗浄処理後の六方晶フェライト磁性粒子を捕集すること、
を含む六方晶フェライト磁性粉末の製造方法であって、
前記洗浄処理は、pH2.5〜5.0の範囲の酸性水溶液に、含有されるアニオン種が六方晶フェライト形成成分に含まれる二価カチオンと形成する塩の水(20℃)に対する溶解度が5.0g/100ml以上である電解質を少なくとも0.2mol/Lの濃度で添加した後に固液分離を行う工程を含むことを特徴とする六方晶フェライト磁性粉末の製造方法。
【請求項2】
前記洗浄処理は、前記工程を、分離された液中の前記二価カチオン濃度が50mg/L以下になるまで繰り返すことを含む、請求項1に記載の六方晶フェライト磁性粉末の製造方法。
【請求項3】
前記洗浄処理は、前記工程後、前記電解質を含まない水による水洗を行うことを更に含む、請求項1または2に記載の六方晶フェライト磁性粉末の製造方法。
【請求項4】
前記二価カチオンはバリウムイオンである、請求項1〜3のいずれか1項に記載の六方晶フェライト磁性粉末の製造方法。
【請求項5】
前記二価カチオンはバリウムイオンであり、前記電解質に含有されるアニオン種は、塩化物イオン、硝酸イオン、および酢酸イオンからなる群から選択される、請求項1〜4のいずれか1項に記載の六方晶フェライト磁性粉末の製造方法。
【請求項6】
前記電解質に含有されるカチオン種は、ナトリウムイオンである請求項1〜5のいずれか1項に記載の六方晶フェライト磁性粉末の製造方法。
【請求項7】
前記二価カチオンはバリウムイオンであり、前記電解質は、塩化ナトリウム、硝酸ナトリウム、および酢酸ナトリウムからなる群から選択される、請求項1〜6のいずれか1項に記載の六方晶フェライト磁性粉末の製造方法。
【請求項8】
前記原料混合物はAlを含む、請求項1〜7のいずれか1項に記載の六方晶フェライト磁性粉末の製造方法。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか1項に記載の製造方法により製造された六方晶フェライト磁性粉末。
【請求項10】
磁気記録用磁性粉である請求項9に記載の六方晶フェライト磁性粉末。
【請求項11】
請求項1〜8のいずれか1項に記載の方法により六方晶フェライト磁性粉末を製造すること、および、
製造した六方晶フェライト磁性粉末を含む磁性塗料を用いて磁性層を形成すること、
を含むことを特徴とする磁気記録媒体の製造方法。
【請求項12】
非磁性支持体上に強磁性粉末および結合剤を含む磁性層を有する磁気記録媒体であって、
前記強磁性粉末が、請求項9に記載の六方晶フェライト磁性粉末であることを特徴とする磁気記録媒体。

【図1】
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【公開番号】特開2013−77786(P2013−77786A)
【公開日】平成25年4月25日(2013.4.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−218341(P2011−218341)
【出願日】平成23年9月30日(2011.9.30)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】