説明

六方晶フェライト磁性粉末の製造方法ならびに磁気記録媒体およびその製造方法

【課題】超高密度記録を達成可能な六方晶フェライト磁性粉末および上記六方晶フェライト磁性粉末を用いた高密度記録に適した磁気記録媒体を提供すること。
【解決手段】六方晶フェライト形成成分およびガラス形成成分を含む原料混合物を溶融し溶融物を得ること、上記溶融物を急冷し炭素原子を0.3〜2.0質量%含有する非晶質体を得ること、上記非晶質体を580〜700℃の温度域まで加熱し該温度域に保持することにより六方晶フェライト磁性粒子を析出させること、析出した六方晶フェライト磁性粒子を捕集すること、を含む六方晶フェライト磁性粉末の製造方法。非磁性支持体上に、前記方法により製造された六方晶フェライト磁性粉末と結合剤とを含む磁性層を有する磁気記録媒体。前記方法により六方晶フェライト磁性粉末を得ること、および、得られた六方晶フェライト磁性粉末を用いて磁性層を形成すること、を含む磁気記録媒体の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、六方晶フェライト磁性粉末の製造方法に関するものであり、より詳しくは、1Gbpsi以上の面記録密度での記録再生に使用される磁気記録媒体の磁性粉末として好適な六方晶フェライト磁性粉末の製造方法に関するものである。
更に本発明は、上記製造方法によって得られた六方晶フェライト磁性粉末を用いた磁気記録媒体およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、高密度記録用磁気記録媒体の磁性層には強磁性金属磁性粉末が主に用いられてきた。強磁性金属磁性粉末は主に鉄を主体とする針状粒子であり、高密度記録のために粒子サイズの微細化、高抗磁力化が追求され各種用途の磁気記録媒体に用いられてきた。
【0003】
記録情報量の増加により、磁気記録媒体には常に高密度記録が要求されている。しかしながら更に高密度記録を達成するためには強磁性金属磁性粉末の改良には限界が見え始めている。これに対し、六方晶フェライト磁性粉末は、抗磁力は永久磁石材料にも用いられた程に大きく、抗磁力の基である磁気異方性は結晶構造に由来するため粒子を微細化しても高抗磁力を維持することができる。更に、六方晶フェライト磁性粉末を磁性層に用いた磁気記録媒体はその垂直成分により高密度特性に優れる。このように六方晶フェライト磁性粉末は高密度化に最適な強磁性体である。
【0004】
六方晶フェライト磁性粉末の製法については、例えば特許文献1〜6に、磁気記録用の六方晶フェライト磁性粉末をガラス結晶化法により製造する方法が開示されている。六方晶フェライト粉末の製法としてはガラス結晶化法以外にも水熱合成法、共沈法等の方法が知られているが、磁気記録媒体用の六方晶フェライトの製法としては、磁気記録媒体に望まれる微粒子適性・単粒子分散適性を有する磁性粉末が得られる、粒度分布が狭い、等の点からガラス結晶化法が優れると言われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平7−201547号公報
【特許文献2】特開平3−87002号公報
【特許文献3】特公平4−51490号公報
【特許文献4】特開2006−5299号公報
【特許文献5】特開2006−5300号公報
【特許文献6】特開2006−41493号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1には、SFDrに優れた六方晶フェライトを得るために非晶質の磁化量を0.1〜2emu/gに制御することが提案されている。また、特許文献2〜6には、六方晶フェライトの原料組成により微粒子化や粒度分布の均一化を図り高密度記録に適した六方晶フェライトを得ることが提案されている。
【0007】
近年、更なる高密度記録化が進行し記録密度としては1Gbpsi以上が目標とされている。かかる状況下では、特許文献1〜6に記載の方法をはじめとする従来のガラス結晶化法では、目標とされる記録密度を達成可能な六方晶フェライト磁性粉末を得ることは困難になってきている。
【0008】
そこで本発明の目的は、超高密度記録を達成可能な六方晶フェライト磁性粉末および上記六方晶フェライト磁性粉末を用いた高密度記録に適した磁気記録媒体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
高密度記録化のためには、磁性層の充填度向上およびノイズ低減のために六方晶フェライト磁性粉末を微粒子化することが求められる。しかし六方晶フェライト粉末の平均板径を小さくしたとしても粒度分布が広いと、粒度分布の微粒子側成分が熱揺らぎの影響を受け、記録された磁気エネルギーが熱エネルギーに負けて記録が消失(熱揺らぎ減磁)する可能性がある。また、粒度分布の粗粒子側成分はノイズを増大させる。したがって、S/N向上と減磁抑制のためには粒子サイズを小さくするとともに粒度分布をシャープにする必要がある。
【0010】
一般的にガラス結晶化法では、BaO・6Fe23とBaO・B23の組成になる成分を溶融し、急冷させて非晶質体とする。次いで大気雰囲気で加熱すると、500℃〜600℃程度で非晶質体が固体−液体の中間状態となり非晶質中の元素が移動できる様になるとBaO・6Fe23が結晶化し始め核粒子が生成する。更に加熱処理を続けると非晶質中のBaO・6Fe23構成成分は全て結晶化する。結晶化後も加熱下で保持し続けると粒子は成長する。粒子成長反応では微細な粒子がガラス質に溶解して他の粒子成長の原料となる。この反応はおそらくオストワルト熟成反応によると考えている。粒子は温度を上げると成長し続ける。
【0011】
そこで本発明者らは、粒度分布を更に改良するためには、非晶質中で六方晶フェライトの核粒子が生成する際の反応速度を制御することが重要であるとの結論を得て更に検討を重ねた結果、以下の知見を得るに至った。
(1)非晶質体中で六方晶フェライトの核粒子が生成する際の反応速度は非晶質体中の炭素原子量によって制御することができ、0.3〜2.0質量%の炭素原子が含まれるように非晶質体を調製することにより、粒度分布がシャープな六方晶フェライト磁性粉末が得られるように反応速度を制御することができる。非晶質体中の炭素原子が六方晶フェライト核粒子生成にどのように作用するのかは明らかではないが、本発明者らは以下のように推察している。
非晶質体は加熱することで固体−液体中間状態となって元素移動が可能となると一気に結晶化する。この際の結晶化速度が速すぎても遅すぎても粒度分布は広がると考えられる。そして非晶質体中の炭素原子がこの結晶化の速度を制御することが、得られる六方晶フェライト磁性粉末の粒度分布をシャープにすることに寄与するのではないかと推察される。
(2)0.3〜2.0質量%の炭素原子を含む非晶質体を580〜700℃の範囲の温度で加熱処理し六方晶フェライト磁性粒子を析出させることにより、シャープな粒度分布を示す六方晶フェライト磁性粉末を得ることができる。これは六方晶フェライト磁性粒子を析出させる温度(結晶化温度)が高すぎても低すぎても炭素原子による反応速度抑制効果を得ることが困難となるからと考えられる。
本発明は、以上の知見に基づき完成された。
【0012】
即ち、上記目的は、下記手段によって達成された。
[1]六方晶フェライト形成成分およびガラス形成成分を含む原料混合物を溶融し溶融物を得ること、
上記溶融物を急冷し炭素原子を0.3〜2.0質量%含有する非晶質体を得ること、
上記非晶質体を580〜700℃の温度域まで加熱し該温度域に保持することにより六方晶フェライト磁性粒子を析出させること、
析出した六方晶フェライト磁性粒子を捕集すること、
を含む六方晶フェライト磁性粉末の製造方法。
[2]前記原料混合物はBaCO3を含む[1]に記載の六方晶フェライト磁性粉末の製造方法。
[3]前記原料混合物は炭素粉末を含む[1]または[2]に記載の六方晶フェライト磁性粉末の製造方法。
[4]前記六方晶フェライト磁性粉末の平均板径は15〜35nmの範囲である[1]〜[3]のいずれかに記載の六方晶フェライト磁性粉末の製造方法。
[5]前記六方晶フェライト磁性粉末はバリウムフェライト磁性粉末である[1]〜[4]のいずれかに記載の六方晶フェライト磁性粉末の製造方法。
[6]非磁性支持体上に、[1]〜[5]のいずれかに記載の方法により製造された六方晶フェライト磁性粉末と結合剤とを含む磁性層を有する磁気記録媒体。
[7]前記磁性層の厚さは80nm以下である[6]に記載の磁気記録媒体。
[8][1]〜[5]のいずれかに記載の方法により六方晶フェライト磁性粉末を得ること、および、得られた六方晶フェライト磁性粉末を用いて磁性層を形成すること、を含む磁気記録媒体の製造方法。
[9]前記磁性層の厚さは80nm以下である[8]に記載の磁気記録媒体の製造方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、超高密度記録が可能な磁気記録媒体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】原料混合物組成の一例を示す説明図(三角相図)である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
[六方晶フェライト磁性粉末の製造方法]
本発明の六方晶フェライト磁性粉末の製造方法は、ガラス結晶化法により六方晶フェライト磁性粉末を製造するものであり、以下の工程を含む。
(1)六方晶フェライト形成成分およびガラス形成成分を含む原料混合物を溶融し溶融物を得ること、
(2)上記溶融物を急冷し炭素原子を0.3〜2.0質量%含有する非晶質体を得ること、
(3)上記非晶質体を580〜700℃の温度域まで加熱し該温度域に保持することにより六方晶フェライト磁性粒子を析出させること、
(4)析出した六方晶フェライト磁性粒子を捕集すること。
以下、本発明の六方晶フェライト磁性粉末の製造方法について、更に詳細に説明する。
【0016】
(1)原料混合物の溶融
本発明において使用される原料混合物は、ガラス形成成分および六方晶フェライト形成成分を含む。ガラス形成成分とは、ガラス転移現象を示し非晶質化(ガラス化)し得る成分であり、通常のガラス結晶化法ではB23成分が使用される。本発明でもガラス形成成分としてB23成分を含む原料混合物を使用することができる。なお、ガラス結晶化法において原料混合物に含まれる各成分は、酸化物として、または溶融等の工程において酸化物に変わり得る各種の塩として存在する。本発明において「B23成分」とは、B23自体および工程中にB23に変わり得るH3BO3等の各種の塩を含むものとする。他の成分についても同様である。
また、B23成分以外のガラス形成成分としては、例えばSiO2成分、GeO2成分等を挙げることができる。B23成分と他のガラス形成成分を併用する場合、前記原料混合物は、B23成分以外のガラス形成成分を、B23成分のB23換算含有量に対して酸化物基準で40モル%以下の量で含むことが好ましい。その量がB23成分に対して40モル%以下であれば、最終生成物である六方晶フェライト磁性粉末にガラス形成成分(SiO2等)が多量に残留し磁気記録媒体とした際に分散が劣化したり磁性体充填度が低下して電磁変換特性が劣化することを回避することができる。ただし5モル%より少量では添加効果が少ないため、上記成分を添加する場合、その添加量はB23成分のB23換算含有量に対して酸化物基準で5モル%以上とすることが好ましい。上記他のガラス形成成分の含有量は、B23成分のB23換算含有量に対して酸化物基準で10〜30モル%であることがより好ましい。
【0017】
前記原料混合物に含まれる六方晶フェライト形成成分としては、六方晶フェライト磁性粉末の構成成分となる成分であって、Fe23、BaO、SrO、PbO等の金属酸化物が挙げられる。例えば、六方晶フェライト形成成分の主成分としてBaO成分を使用することによりバリウムフェライト磁性粉末を得ることができる。原料混合物中の六方晶フェライト形成成分の含有量は、所望の磁気特性に応じて適宜設定することができる。
【0018】
原料混合物の組成は、特に限定されるものではないが、例えば、高い抗磁力Hcおよび飽和磁化σsを達成するために、AO成分(式中、Aは例えばBa、Sr、CaおよびPbから選択された少なくとも1種を表す)、B23成分、Fe23成分を頂点とする、図1に示す三角相図において、斜線部(1)〜(3)の組成領域内の原料が好ましい。特に、下記のa、b、c、dの4点で囲まれる組成領域内(斜線部(1))にある原料が好ましい。なお前述のようにB23成分の一部をSiO2成分、GeO2成分等の他のガラス形成成分と置換することができ、後述するようにFe23成分の一部を抗磁力調整のための成分と置換することもできる。
(a)B23=50,AO=40,Fe23=10モル%
(b)B23=45,AO=45,Fe23=10モル%
(c)B23=25,AO=25,Fe23=50モル%
(d)B23=30,AO=20,Fe23=50モル%
【0019】
六方晶フェライト磁性粉末として、抗磁力調整のためFeの一部が他の金属元素によって置換されたものを得ることもできる。置換元素としては、Co−Zn−Nb、Co−Ti、CO−Ti−Sn、Co−Sn−Nb、Co−Zn−Sn−Nb、Co−Zn−Zr−Nb、Co−Zn−Mn−Nb等が挙げられる。このような六方晶フェライト磁性粉末を得るためには、六方晶フェライト形成成分として、抗磁力調整のための成分を併用すればよい。抗磁力調整成分としては、CoO、NiO、ZnO等の2価金属の酸化物成分、TiO2、ZrO2、HfO2等の4価金属の酸化物成分が挙げられる。上記抗磁力調整成分を使用する場合、その含有量は所望の抗磁力等にあわせて、適宜決定すればよい。
【0020】
上記原料混合物は、各成分を秤量および混合して得ることができる。本発明では、上記原料混合物の溶融物を急冷し得られる非晶質体中の炭素原子含有量を0.3〜2.0質量%とする。非晶質体の炭素原子含有量は、原料混合物の組成および溶融条件によって制御することができる。溶融条件による制御については後述する。原料混合物組成による制御方法としては、(A)炭素粉末を含む原料混合物を使用する、(B)炭酸塩、例えばBaO成分として炭酸バリウム(BaCO3)を含む原料混合物を使用する、等の方法を使用することができる。
【0021】
上記制御方法(A)において使用する炭素粉末としては、特に限定されるものではないが、生成物への不純物混入を抑制するために高純度品を使用することが好ましく、例えば炭素含有率90質量〜100質量%程度の炭素粉末を使用することが好ましい。また、炭素粉末を均一に分散させる点からは、平均粒径10〜2000nm程度の炭素粉末を使用することが好ましい。添加する炭素粉末の量は、例えば六方晶フェライト形成成分およびガラス形成成分の合計量100質量%に対して0〜5質量%程度とすることができる。
【0022】
上記制御方法(B)では、高温で溶融することで炭酸塩が分解し炭酸ガスとなって系外へ排出されることで、系内の炭素原子含有量が低下する傾向がある。ただし上記のように炭素粉末の添加によっても非晶質中の炭素含有量を調整できるため、原料混合物中に炭酸塩を添加することは必須ではない。即ち、非晶質中の炭素含有量は、上記方法(A)、(B)等の方法を適宜組み合わせることにより制御することができる。
【0023】
次いで、前記原料混合物を溶融し溶融物を得る。溶融温度は原料組成に応じて設定すればよく、通常、1000〜1500℃である。炭酸塩の分解を抑制する点からは、溶融温度は比較的低温、例えば1000〜1400℃程度に設定することが好ましい。溶融時間は、原料混合物が十分溶融するように適宜設定すればよいが、炭酸塩の分解を抑制する点からは、1〜5時間程度とすることが好ましい。
【0024】
(2)溶融物の非晶質化
次いで、得られた溶融物を急冷することにより固化物を得る。この固化物は、ガラス形成成分が非晶質化(ガラス化)した非晶質体を含む。上記急冷は、ガラス結晶化法で非晶質体を得るために通常行われる急冷工程と同様に実施することができ、例えば高速回転させた水冷双ローラー上に溶融物を注いで圧延急冷する方法等の公知の方法で行うことができる。
【0025】
急冷により得られる非晶質体中の炭素原子含有率は、非晶質体全質量に対する含有率として、0.3〜2.0質量%である。非晶質体中の炭素含有量が0.3質量%未満では、粒度分布を十分に改善することができない。2.0質量%を超えると得られる六方晶フェライト磁性粉末の粒度分布が大きくなる。これは、結晶化が抑制されすぎるためと考えられる。粒度分布制御の観点から、非晶質体中の炭素原子の好ましい範囲は0.5〜1.5質量%である。非晶質体中の炭素原子量の制御方法は前述の通りである。
【0026】
(3)非晶質体の加熱処理
上記急冷後、得られた非晶質体を加熱処理する。この工程により、六方晶フェライト磁性粒子を結晶化させ非晶質相(ガラス相)中に析出させることができる。本発明では、上記加熱処理を、急冷により得られた非晶質体を580〜700℃の温度域まで加熱し該温度域に所定時間保持することにより六方晶フェライト磁性粒子を析出させる。上記加熱温度(以下、「結晶化温度」ともいう)が700℃を超えると、炭素原子による反応速度抑制効果が薄れるため、粒度分布がシャープな六方晶フェライト磁性粉末を得ることが困難となる。580℃未満では、結晶化に長時間を要するため炭素原子による反応速度抑制効果がなくなることと、長時間の結晶化は基本的に粒度分布を大きくすることから、この場合も粒度分布がシャープな六方晶フェライト磁性粉末を得ることが困難となる。
【0027】
析出させる六方晶フェライト磁性粉末の粒子サイズは、上記加熱温度および加熱時間により制御可能であるため、本発明では580〜700℃の範囲で目的粒子サイズにより適切な加熱温度を選択することが好ましい。微粒子の六方晶フェライト磁性粉末を得るためには、結晶化温度は590〜680℃の範囲とすることが好ましい。上記温度域までの昇温速度は、例えば10〜500℃/分程度が好適であり、上記温度域での保持時間は、例えば1〜12時間であり、好ましくは2〜6時間である。
【0028】
(4)六方晶フェライト磁性粒子の捕集
上記加熱処理物は、通常、六方晶フェライト磁性粒子と副生成物を含む。副生成物を除去し六方晶フェライト磁性粒子を捕集する処理としては、加熱下酸処理等のガラス結晶化法で一般的に行われる各種処理を用いることができる。この処理により余分な成分を除去した粒子に、必要に応じて水洗、乾燥等の後処理を施すことにより、磁気記録媒体に適用可能な六方晶フェライト磁性粉末を得ることができる。
【0029】
本発明によれば、以上説明した工程により微粒子状であり粒度分布がシャープな高密度記録に好適な六方晶フェライト磁性粉末を得ることができる。六方晶フェライト磁性粉末の粒子サイズとしては、平均板径として、15〜35nmの範囲であることが好ましい。平均板径15nm未満では現行の技術では分散が困難であり、また、粒度分布を揃えたとしても熱揺らぎ減磁が大きく信頼性ある記録媒体を得ることが困難である。一方、平均板径35nmを超える粒子を析出させるために結晶化温度を高温にすることとなるため、炭素原子による結晶化速度抑制効果が薄れるためか、粒度分布は広がる傾向にある。上記平均板径は、透過型電子顕微鏡で撮影した写真において500個の粒子を無作為に抽出して測定した板径の平均値とする。また本発明において平均板状比とは、上記のように無作為に抽出した500個の粒子における(板径/板厚)の算術平均とする。本発明により得られる六方晶フェライト磁性粉末の平均板状比は特に限定されるものではないが、例えば2〜5程度である。
【0030】
また、得られた六方晶フェライト磁性粉末の粒度分布は、例えば透過型電子顕微鏡で撮影した写真において500個の粒子を無作為に抽出して測定した板径の平均値(平均板径)を求め、これら500個の粒子の板径について標準偏差を求めて平均板径で除した値(粒径変動率)で評価することができる。本発明によれば、上記粒径変動率として25%以下、例えば15〜25%の粒度分布を示す六方晶フェライト磁性粉末を得ることができる。粒度分布が広い六方晶フェライト磁性粉末には、平均板径を大きく外れる粒子が多数含まれる。平均板径を大きく外れる微粒子成分は熱揺らぎ減磁の原因となり得るものである。また、平均板径を大きく外れる粗粒子成分はノイズの原因となり得る。粒度分布が広い六方晶フェライト磁性粉末では、上記のような記録特性を低下させ得る粒子が多数存在するのに対し、本発明によればシャープな粒度分布を示す優れた記録特性を有する六方晶フェライト磁性粉末を得ることができる。
【0031】
[磁気記録媒体およびその製造方法]
本発明の磁気記録媒体は、非磁性支持体上に本発明の製造方法により製造された六方晶フェライト磁性粉末と結合剤を含む磁性層を有するものである。
本発明の磁気記録媒体の製造方法は、本発明の製造方法により六方晶フェライト磁性粉末を得ること、および、得られた六方晶フェライト磁性粉末を用いて磁性層を形成すること、を含む。
以下、本発明の磁気記録媒体および本発明の磁気記録媒体の製造方法について、更に詳細に説明する。
【0032】
磁性層
磁性層に使用される六方晶フェライト磁性粉末およびその製造方法の詳細は、前述の通りである。前記磁性層は、六方晶フェライト磁性粉末とともに結合剤を含む。磁性層に含まれる結合剤としては、ポリウレタン樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、塩化ビニル系樹脂、スチレン、アクリロニトリル、メチルメタクリレートなどを共重合したアクリル系樹脂、ニトロセルロースなどのセルロース系樹脂、エポキシ樹脂、フェノキシ樹脂、ポリビニルアセタール、ポリビニルブチラールなどのポリビニルアルキラール樹脂などから単独または複数の樹脂を混合して用いることができる。これらの中で好ましいものはポリウレタン樹脂、アクリル系樹脂、セルロース系樹脂、塩化ビニル系樹脂である。これらの樹脂は、後述する非磁性層においても結合剤として使用することができる。また、上記樹脂とともにポリイソシアネート系硬化剤を使用することも可能である。
【0033】
上記結合剤は強磁性粉末、非磁性粉体の分散性を向上させるため、これらの粉体表面に吸着する官能基(極性基)を持つことが好ましい。好ましい官能基としては−SO3M、−SO4M、−PO(OM)2、−OPO(OM)2、−COOM、=NSO3M、=NRSO3M、−NR12、−N+123-などがある。ここでMは水素またはNa、K等のアルカリ金属、Rはアルキレン基、R1、R2、R3はアルキル基またはヒドロキシアルキル基または水素、XはCl、Br等のハロゲンである。結合剤中の官能基の量は10μeq/g以上200μeq/g以下が好ましく、30μeq/g以上120μeq/g以下がさらに好ましい。この範囲内であれば、良好な分散性が得られるので好ましい。
【0034】
結合剤の分子量は質量平均分子量で10,000以上200,000以下であることが好ましい。この範囲内にあれば、塗膜強度が十分であり、耐久性が良好であり、また分散性が向上するので好ましい。
【0035】
非磁性層、磁性層には、非磁性粉末または強磁性粉末に対し、例えば5〜50質量%の範囲、好ましくは10〜30質量%の範囲で結合剤を用いることができる。
【0036】
磁性層には、必要に応じて添加剤を加えることができる。添加剤としては、研磨剤、潤滑剤、分散剤・分散助剤、防黴剤、帯電防止剤、酸化防止剤、溶剤、カーボンブラックなどを挙げることができる。上記添加剤は、所望の性質に応じて市販品を適宜選択して使用することができる。
【0037】
磁性層で使用可能なカーボンブラックとしては、ゴム用ファーネス、ゴム用サーマル、カラー用ブラック、アセチレンブラック等を挙げることができる。比表面積は5〜500m2/g、DBP吸油量は10〜400ml/100g、粒子径は5〜300nm、pHは2〜10、含水率は0.1〜10%、タップ密度は0.1〜1g/mlであることがそれぞれ好ましい。カーボンブラックを使用する場合、強磁性粉末の質量に対して0.1〜30質量%で用いることが好ましい。磁性層で使用できるカーボンブラックは、例えば「カーボンブラック便覧」カーボンブラック協会編、を参考にすることができる。それらは市販品として入手可能である。
【0038】
本発明で使用されるこれらの添加剤は、磁性層、さらに後述する非磁性層でその種類、量を必要に応じて使い分けることができる。また本発明で用いられる添加剤のすべてまたはその一部は、磁性層または非磁性層用の塗布液の製造時のいずれの工程で添加してもよい。例えば、混練工程前に強磁性粉末と混合する場合、強磁性粉末と結合剤と溶剤による混練工程で添加する場合、分散工程で添加する場合、分散後に添加する場合、塗布直前に添加する場合などがある。六方晶フェライト磁性粉末を分散する際に粒子表面を分散媒、ポリマーに合った物質で処理することも可能である。表面処理剤は無機化合物、有機化合物のいずれでもよい。主な化合物としてはSi、Al、P、等の酸化物または水酸化物、各種シランカップリング剤、各種チタンカップリング剤が代表例である。量は強磁性粉末に対して、通常0.1質量%以上10%質量以下である。強磁性粉末のpHは、通常4以上12以下程度であり、分散媒、ポリマーにより最適値があるが、媒体の化学的安定性、保存性から一般に6以上10以下程度が選択される。強磁性粉末に含まれる水分は、分散媒、ポリマーにより最適値があるが通常0.01質量%以上2.0質量%以下が好ましい。
【0039】
非磁性層
次に非磁性層に関する詳細な内容について説明する。本発明の磁気記録媒体は、非磁性支持体と磁性層との間に非磁性粉末と結合剤を含む非磁性層を有することができる。非磁性層に使用できる非磁性粉末は、無機物質でも有機物質でもよい。また、カーボンブラック等も使用できる。無機物質としては、例えば金属、金属酸化物、金属炭酸塩、金属硫酸塩、金属窒化物、金属炭化物、金属硫化物などが挙げられる。これらの非磁性粉末は、市販品として入手可能であり、公知の方法で製造することもできる。
【0040】
具体的には二酸化チタン等のチタン酸化物、酸化セリウム、酸化スズ、酸化タングステン、ZnO、ZrO2、SiO2、Cr23、α化率90〜100%のα−アルミナ、β−アルミナ、γ−アルミナ、α−酸化鉄、ゲータイト、コランダム、窒化珪素、チタンカーバイト、酸化マグネシウム、窒化ホウ素、2硫化モリブデン、酸化銅、MgCO3、CaCO3、BaCO3、SrCO3、BaSO4、炭化珪素、炭化チタンなどが単独または2種類以上を組み合わせて使用することができる。好ましいものは、α−酸化鉄、酸化チタンである。
【0041】
非磁性粉末の形状は、針状、球状、多面体状、板状のいずれでもあってもよい。非磁性粉末の結晶子サイズは、4nm〜500nmが好ましく、40〜100nmがさらに好ましい。結晶子サイズが4nm〜500nmの範囲であれば、分散が困難になることもなく、また好適な表面粗さを有するため好ましい。これら非磁性粉末の平均粒径は、5nm〜500nmが好ましいが、必要に応じて平均粒径の異なる非磁性粉末を組み合わせたり、単独の非磁性粉末でも粒径分布を広くしたりして同様の効果をもたせることもできる。とりわけ好ましい非磁性粉末の平均粒径は、10〜200nmである。5nm〜500nmの範囲であれば、分散も良好で、かつ好適な表面粗さを有するため好ましい。
【0042】
非磁性粉末の比表面積は、例えば1〜150m2/gであり、好ましくは20〜120m2/gであり、さらに好ましくは50〜100m2/gである。比表面積が1〜150m2/gの範囲内にあれば、好適な表面粗さを有し、かつ、適量の結合剤で分散できるため好ましい。ジブチルフタレート(DBP)を用いた吸油量は、例えば5〜100ml/100g、好ましくは10〜80ml/100g、さらに好ましくは20〜60ml/100gである。比重は、例えば1〜12、好ましくは3〜6である。タップ密度は、例えば0.05〜2g/ml、好ましくは0.2〜1.5g/mlである。タップ密度が0.05〜2g/mlの範囲であれば、飛散する粒子が少なく操作が容易であり、また装置にも固着しにくくなる傾向がある。非磁性粉末のpHは2〜11であることが好ましく、6〜9の間が特に好ましい。pHが2〜11の範囲にあれば、高温、高湿下または脂肪酸の遊離により摩擦係数が大きくなることを防ぐことができる。非磁性粉末の含水率は、例えば0.1〜5質量%、好ましくは0.2〜3質量%、さらに好ましくは0.3〜1.5質量%である。含水量が0.1〜5質量%の範囲であれば、分散も良好で、分散後の塗料粘度も安定するため好ましい。強熱減量は、20質量%以下であることが好ましく、強熱減量が小さいものが好ましい。
【0043】
また、非磁性粉末が無機粉体である場合には、モース硬度は4〜10のものが好ましい。モース硬度が4〜10の範囲であれば耐久性を確保することができる。非磁性粉末のステアリン酸吸着量は、好ましくは1〜20μmol/m2であり、さらに好ましくは2〜15μmol/m2である。非磁性粉末の25℃での水への湿潤熱は、200〜600erg/cm2(200〜600mJ/m2)の範囲にあることが好ましい。また、この湿潤熱の範囲にある溶媒を使用することができる。100〜400℃での表面の水分子の量は1〜10個/100Åが適当である。水中での等電点のpHは、3〜9の間にあることが好ましい。これらの非磁性粉末の表面には表面処理が施されることによりAl23、SiO2、TiO2、ZrO2、SnO2、Sb23、ZnOが存在することが好ましい。特に分散性に好ましいものはAl23、SiO2、TiO2、ZrO2であるが、さらに好ましいのはAl23、SiO2、ZrO2である。これらは組み合わせて使用してもよいし、単独で用いることもできる。また、目的に応じて共沈させた表面処理層を用いてもよいし、先ずアルミナで処理した後にその表層をシリカで処理する方法、またはその逆の方法を採ることもできる。また、表面処理層は目的に応じて多孔質層にしても構わないが、均質で密である方が一般には好ましい。
【0044】
非磁性層には非磁性粉末と共に、カーボンブラックを混合し表面電気抵抗を下げ、光透過率を小さくすると共に硬度を調整することができる。例えば、非磁性層にはゴム用ファーネス、ゴム用サーマル、カラー用ブラック、アセチレンブラック等を用いることができる。
【0045】
非磁性層に用いられるカーボンブラックの比表面積は、例えば100〜500m2/g、好ましくは150〜400m2/g、DBP吸油量は、例えば20〜400ml/100g、好ましくは30〜200ml/100gである。カーボンブラックの粒子径は、例えば5〜80nm、好ましくは10〜50nm、さらに好ましくは10〜40nmである。カーボンブラックのpHは2〜10、含水率は0.1〜10%、タップ密度は0.1〜1g/mlが好ましい。また、カーボンブラックを分散剤などで表面処理したり、樹脂でグラフト化して使用しても、表面の一部をグラファイト化したものを使用してもかまわない。また、カーボンブラックを塗料に添加する前にあらかじめ結合剤で分散してもかまわない。これらのカーボンブラックは非磁性粉末に対して50質量%を越えない範囲、非磁性層総質量の40%を越えない範囲で使用することが好ましい。これらのカーボンブラックは単独、または組み合せで使用することができる。本発明において非磁性層で使用できるカーボンブラックは例えば「カーボンブラック便覧」カーボンブラック協会編、を参考にすることができる。それらは市販品として入手可能である。
【0046】
また非磁性層には目的に応じて有機質粉末を添加することもできる。このような有機質粉末としては、例えば、アクリルスチレン系樹脂粉末、ベンゾグアナミン樹脂粉末、メラミン系樹脂粉末、フタロシアニン系顔料が挙げられるが、ポリオレフィン系樹脂粉末、ポリエステル系樹脂粉末、ポリアミド系樹脂粉末、ポリイミド系樹脂粉末、ポリフッ化エチレン樹脂も使用することができる。その製法は、特開昭62−18564号公報、特開昭60−255827号公報に記されているようなものが使用できる。
【0047】
非磁性層の結合剤、潤滑剤、分散剤、添加剤、溶剤、分散方法その他は、磁性層のそれが適用できる。特に、結合剤量、種類、添加剤、分散剤の添加量、種類に関しては磁性層に関する公知技術が適用できる。
【0048】
また、本発明の磁気記録媒体は、下塗り層を設けてもよい。下塗り層を設けることによって支持体と磁性層または非磁性層との接着力を向上させることができる。接着性向上のための下塗り層としては、溶剤への可溶性のポリエステル樹脂を使用することができる。
【0049】
非磁性支持体
非磁性支持体としては、二軸延伸を行ったポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリアミド、ポリアミドイミド、芳香族ポリアミド等の公知のものが挙げられる。これらの中でもポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリアミドが好ましい。
これらの支持体はあらかじめコロナ放電、プラズマ処理、易接着処理、熱処理などを行ってもよい。また、本発明に用いることのできる非磁性支持体の表面粗さはカットオフ値0.25mmにおいて中心平均粗さRa3〜10nmであることが好ましい。
【0050】
層構成
本発明の磁気記録媒体の厚み構成は、非磁性支持体の厚みが、好ましくは3〜80μmである。また、非磁性支持体と非磁性層の間に下塗り層を設ける場合、下塗り層の厚みは、例えば0.01〜0.8μm、好ましくは0.02〜0.6μmである。
【0051】
磁性層の厚みは、好ましくは80nm以下である。磁性層に粒度分布がシャープな六方晶フェライト磁性粉末を使用することにより、シャープな粒度分布に由来するS/N向上効果を得ることができ、特に厚さ80nm以下の薄層磁性層においてこの効果が大きい。これは、熱揺らぎ減磁の原因となる極端な微細粒子成分が少なく、またノイズに影響すると考えられる極端な粗大粒子成分が少ないことによる効果は、磁性体粒子総数が少なくなる薄層磁性層において顕在化するためと考えられる。前記磁性層の厚さは、より好ましくは30〜60nmの範囲である。
【0052】
非磁性層の厚みは、例えば0.1〜3.0μmであり、0.3〜2.0μmであることが好ましく、0.5〜1.5μmであることが更に好ましい。なお、本発明の磁気記録媒体の非磁性層は、実質的に非磁性であればその効果を発揮するものであり、例えば不純物として、あるいは意図的に少量の磁性体を含んでいても、本発明の効果を示すものであり、本発明の磁気記録媒体と実質的に同一の構成とみなすことができる。なお、実質的に同一とは、非磁性層の残留磁束密度が10mT以下または抗磁力が7.96kA/m(100Oe)以下であることを示し、好ましくは残留磁束密度と抗磁力を持たないことを意味する。
【0053】
バックコート層
本発明の磁気記録媒体には、非磁性支持体の非磁性層および磁性層を有する面とは反対の面にバックコート層を設けることもできる。バックコート層には、カーボンブラックと無機粉末が含有されていることが好ましい。バックコート層形成のための結合剤、各種添加剤は、磁性層や非磁性層の処方を適用することができる。バックコート層の厚みは、0.9μm以下が好ましく、0.1〜0.7μmが更に好ましい。
【0054】
製造方法
磁性層、非磁性層またはバックコート層を形成するための塗布液を製造する工程は、少なくとも混練工程、分散工程、およびこれらの工程の前後に必要に応じて設けた混合工程からなる。個々の工程はそれぞれ2段階以上に分かれていてもかまわない。本発明で用いられる強磁性粉末、非磁性粉末、結合剤、カーボンブラック、研磨剤、帯電防止剤、潤滑剤、溶剤などすべての原料はどの工程の最初または途中で添加してもかまわない。また、個々の原料を2つ以上の工程で分割して添加してもかまわない。例えば、ポリウレタンを混練工程、分散工程、分散後の粘度調整のための混合工程で分割して投入してもよい。本発明の目的を達成するためには、従来の公知の製造技術を一部の工程として用いることができる。混練工程ではオープンニーダ、連続ニーダ、加圧ニーダ、エクストルーダなど強い混練力をもつものを使用することが好ましい。これらの混練処理の詳細については特開平1−106338号公報、特開平1−79274号公報に記載されている。また、磁性層塗布液、非磁性層塗布液またはバック層塗布液を分散させるには、ガラスビーズを用いることができる。このようなガラスビーズは、高比重の分散メディアであるジルコニアビーズ、チタニアビーズ、スチールビーズが好適である。これら分散メディアの粒径と充填率は最適化して用いられる。分散機は公知のものを使用することができる。
【0055】
磁気記録媒体の製造方法では、例えば、走行下にある非磁性支持体の表面に、非磁性層塗布液を所定の膜厚となるように塗布して非磁性層を形成し、次いでその上に、磁性層塗布液を所定の膜厚となるようにして磁性層を塗布して形成する。複数の磁性層塗布液を逐次または同時に重層塗布してもよく、非磁性層塗布液と磁性層塗布液とを逐次または同時に重層塗布してもよい。上記磁性層塗布液または非磁性層塗布液を塗布する塗布機としては、エアードクターコート、ブレードコート、ロッドコート、押出しコート、エアナイフコート、スクイズコート、含浸コート、リバースロールコート、トランスファーロールコート、グラビヤコート、キスコート、キャストコート、スプレイコート、スピンコート等が利用できる。これらについては例えば(株)総合技術センター発行の「最新コーティング技術」(昭和58年5月31日)を参考にできる。
【0056】
磁性層塗布液の塗布層は、磁気テープの場合、磁性層塗布液の塗布層中に含まれる強磁性粉末にコバルト磁石やソレノイドを用いて磁場配向処理してもかまわない。ディスクの場合、配向装置を用いず無配向でも十分に等方的な配向性が得られることもあるが、コバルト磁石を斜めに交互に配置すること、ソレノイドで交流磁場を印加するなど公知のランダム配向装置を用いることが好ましい。また異極対向磁石など公知の方法を用い、垂直配向とすることで円周方向に等方的な磁気特性を付与することもできる。特に高密度記録を行う場合は垂直配向が好ましい。また、スピンコートを用いて円周配向することもできる。
【0057】
乾燥風の温度、風量、塗布速度を制御することで塗膜の乾燥位置を制御できる様にすることが好ましく、塗布速度は20m/分〜1000m/分、乾燥風の温度は60℃以上が好ましい。また磁石ゾーンに入る前に適度の予備乾燥を行うこともできる。
【0058】
このようにして得られた塗布原反は、通常、一旦巻き取りロールにより巻き取られ、しかる後、この巻き取りロールから巻き出され、次いでカレンダー処理に施される。
カレンダー処理には、例えばスーパーカレンダーロールなどを利用することができる。カレンダー処理によって、表面平滑性が向上するとともに、乾燥時の溶剤の除去によって生じた空孔が消滅し磁性層中の強磁性粉末の充填率が向上するので、電磁変換特性の高い磁気記録媒体を得ることができる。カレンダー処理する工程は、塗布原反の表面の平滑性に応じて、カレンダー処理条件を変化させながら行うことが好ましい。
【0059】
カレンダーロールとしてはエポキシ、ポリイミド、ポリアミド、ポリアミドイミド等の耐熱性プラスチックロールを使用することができる。また金属ロールで処理することもできる。
【0060】
カレンダー処理条件としては、カレンダーロールの温度を、例えば60〜100℃の範囲、好ましくは70〜100℃の範囲、特に好ましくは80〜100℃の範囲とすることができ、圧力は、例えば100〜500kg/cm(98〜490kN/m)の範囲であり、好ましくは200〜450kg/cm(196〜441kN/m)の範囲で、特に好ましくは300〜400kg/cm(294〜392kN/m)の範囲とすることができる。また非磁性層表面に対して、例えば上記条件でカレンダー処理を行うこともできる。
【0061】
得られた磁気記録媒体は、裁断機などを使用して所望の大きさに裁断して使用することができる。裁断機としては、特に制限はないが、回転する上刃(雄刃)と下刃(雌刃)の組が複数設けられたものが好ましく、適宜、スリット速度、噛み合い深さ、上刃(雄刃)と下刃(雌刃)の周速比(上刃周速/下刃周速)、スリット刃の連続使用時間等を選定することができる。
【実施例】
【0062】
以下に本発明を実施例によりさらに具体的に説明する。なお、ここに示す成分、割合、操作、順序等は本発明の精神から逸脱しない範囲で変更し得るものであり、下記の実施例に制限されるべきものではない。また、実施例中の「部」、「%」は、特に示さない限り質量部、質量%を示す。
【0063】
[実施例1−1〜1−10、比較例1−1〜1−8]
(1)非晶質体の作製
表1中の非晶質A〜Jは、以下の方法によって調製した。
表1に示すBaOに対応する量のBaCO3と、表1に示すB23に対応する量のH3BO3、表1記載の量のFe23(ただしFe23中のFeの一部がCo=0.5at%、Zn=1.5at%、Nb=1at%で置換されるようにCo含有成分、Zn含有成分およびNb含有成分を原料混合物に添加した)、高純度カーボン粉末(炭素原子含有量95質量%以上、平均粒径30nm)の各成分を秤量し、ミキサーにて混合し原料混合物を得た。得られた原料混合物を、容量1Lの白金ルツボに仕込み、表1に示す条件で3時間溶融させた。溶融物を1380℃に5分から10分で急昇温させて攪拌しつつ白金ルツボの底に設けた出湯口を加熱し融液を約6g/secで棒状に出湯させた。出湯液を水冷双ロールで急冷圧延して非晶質を作製した。
表1中の非晶質KはB23の20mol%をSiO2に変えた以外は上記と同様に作製した。非晶質中の炭素原子量を蛍光X線回折により測定した。結果を表1に示す。
【0064】
【表1】

注1)炭素粉末を除く原料成分の合計量を100質量%として算出した値として示す。
【0065】
表1の結果から、非晶質体中の炭素原子量は溶融温度および炭素粉末添加量で制御できることがわかる。
【0066】
(2)六方晶フェライト磁性粉末の作製
表1に示す各非晶質体300gを電気炉に仕込み、表2に示す結晶化温度まで30℃/minで昇温した後、結晶化温度で5時間保持させて六方晶フェライト磁性粉末を析出(結晶化)させた。次いで六方晶フェライト磁性粉末を含む結晶化物を乳鉢で粗粉砕し、2000mlのガラス瓶に1mmφZrビーズ1000gと1%濃度の酢酸を800ml加えてペイントシェーカーにて3時間分散処理を行った後、分散液をビーズと分離させ3Lステンレスビーカーに入れた。分散液を100℃で3時間処理した後遠心分離器で沈澱させてデカンテーションを繰り返して洗浄し、乾燥させて六方晶フェライト粉末を得た。TEMを用いて粒子500ヶの粒子形態を測定し、平均板径、平均板状比および板径変動率を求めた。結果を表2に示す。また、実施例および比較例で得られた粉末については、X線回折分析を行い、六方晶フェライト(バリウムフェライト)であることを確認した。
【0067】
【表2】

【0068】
表2に示す結果から、非晶質体の炭素原子含有量および結晶化温度を制御して得られた実施例1−1〜1−10の六方晶フェライト磁性粉末は、比較例1−1〜1−7で得られた六方晶磁性粉末と比べて板径変動率が小さく粒度分布がシャープであることがわかる。比較例1−8は結晶化温度を580℃未満にした例である。結晶化が十分に進行しなかったため粒子が微細すぎて個々の粒子が観察できず平均板状比、板径変動率の測定はできなかった。振動試料型磁束計(東英工業社製)を用い磁場強度1194kA/m(15kOe)で測定した抗磁力Hcは45kA/mであった。
【0069】
[実施例2−1〜2−10、比較例2−1〜2−7]
磁性層塗布液
バリウムフェライト磁性粉末(表3に記載):100部
ポリウレタン樹脂:12部
質量平均分子量 10000、スルホン酸官能基 0.5meq/g
ダイアモンド微粒子(平均粒径50nm):2部
カーボンブラック(旭カーボン社製#55、粒子サイズ0.015μm):0.5部
ステアリン酸:0.5部
ブチルステアレート:2部
メチルエチルケトン:180部
シクロヘキサノン:100部
【0070】
非磁性層塗布液
非磁性粉体 α酸化鉄:100部
平均一次粒子径0.09μm、BET法による比表面積 50m2/g、
pH 7、DBP吸油量27〜38g/100g、表面処理剤Al 8質量%
カ−ボンブラック(コロンビアンカーボン社製コンダクテックスSC−U):25部
塩化ビニル共重合体(日本ゼオン社製MR104):13部
ポリウレタン樹脂(東洋紡社製UR8200):5部
フェニルホスホン酸:3.5部
ブチルステアレート:1部
ステアリン酸:2部
メチルエチルケトン:205部
シクロヘキサノン:135部
【0071】
上記の塗布液のそれぞれについて、各成分をニ−ダで混練した。1.0mmφのジルコニアビーズを分散部の容積に対し65%充填する量を入れた横型サンドミルにポンプで通液し、2000rpmで120分間(実質的に分散部に滞留した時間)分散させた。得られた分散液にポリイソシアネ−トを非磁性層の塗布液には6.5部、さらにメチルエチルケトン7部を加え、1μmの平均孔径を有するフィルターを用いて濾過し、非磁性層形成用および磁性層形成用の塗布液をそれぞれ調製した。
得られた非磁性層塗布液を5μmポリエチレンナフタレートベース上に乾燥後の厚さが1.0μmになるように塗布乾燥させた後、磁性層の厚さが表3に示す厚さになるように逐次重層塗布を行い、乾燥後7段のカレンダで温度90℃、線圧300kg/cmにて処理を行った。1/4インチ巾にスリットし表面研磨処理を施して磁気テープを得た。
【0072】
評価方法
(1)磁気特性(Hc、SFD)
振動試料型磁束計(東英工業社製)を用い磁場強度1194kA/m(15kOe)で測定した。
(2)出力、SNR
記録ヘッド(MIG、ギャップ0.15μm、1.8T)と再生用GMRヘッドをドラムテスターに取り付けて測定した。トラック密度16KTPI、線記録密度400Kbpiの信号を記録した後、出力とSNを測定した。比較例1を0dBとした結果を表3に示す。
(3)減磁
テープを振動試料型磁束計で1194kA/m(15kOe)で飽和磁化し、磁界の極性を変えて500Oeの反転磁界を加えて、0秒後の磁化量と60秒後の磁化量から次式で減磁を算出した。
減磁(%)=1−(60秒後の磁化量/0秒後の磁化量)×100
以上の結果を表3に示す。
【0073】
【表3】

【0074】
表3に示す結果から、粒度分布がシャープな磁性粉末を使用した実施例の磁気テープはいずれも、比較例の磁気テープと比べて優れたSNRを示し減磁が少ないことが確認できる。また、同じ磁性粉末を使用した比較例2と比較例3では、磁性層厚さが異なるにもかかわらずSNRおよび減磁に大きな違いが見られないのに対し、同じ磁性粉末を使用した実施例4と実施例5では、磁性層を薄くするとSNR向上および減磁低減の効果が更に大きくなることがわかる。
以上の結果から、本発明によればSNR向上および減磁低減を達成することができ、その効果は薄層磁性層において顕在化することが確認できる。
【産業上の利用可能性】
【0075】
本発明により、優れた磁気特性を示す高密度記録用磁気記録媒体を提供することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
六方晶フェライト形成成分およびガラス形成成分を含む原料混合物を溶融し溶融物を得ること、
上記溶融物を急冷し炭素原子を0.3〜2.0質量%含有する非晶質体を得ること、
上記非晶質体を580〜700℃の温度域まで加熱し該温度域に保持することにより六方晶フェライト磁性粒子を析出させること、
析出した六方晶フェライト磁性粒子を捕集すること、
を含む六方晶フェライト磁性粉末の製造方法。
【請求項2】
前記原料混合物はBaCO3を含む請求項1に記載の六方晶フェライト磁性粉末の製造方法。
【請求項3】
前記原料混合物は炭素粉末を含む請求項1または2に記載の六方晶フェライト磁性粉末の製造方法。
【請求項4】
前記六方晶フェライト磁性粉末の平均板径は15〜35nmの範囲である請求項1〜3のいずれか1項に記載の六方晶フェライト磁性粉末の製造方法。
【請求項5】
前記六方晶フェライト磁性粉末はバリウムフェライト磁性粉末である請求項1〜4のいずれか1項に記載の六方晶フェライト磁性粉末の製造方法。
【請求項6】
非磁性支持体上に、請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法により製造された六方晶フェライト磁性粉末と結合剤とを含む磁性層を有する磁気記録媒体。
【請求項7】
前記磁性層の厚さは80nm以下である請求項6に記載の磁気記録媒体。
【請求項8】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法により六方晶フェライト磁性粉末を得ること、および、得られた六方晶フェライト磁性粉末を用いて磁性層を形成すること、を含む磁気記録媒体の製造方法。
【請求項9】
前記磁性層の厚さは80nm以下である請求項8に記載の磁気記録媒体の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2010−235411(P2010−235411A)
【公開日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−86560(P2009−86560)
【出願日】平成21年3月31日(2009.3.31)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】