説明

六方晶窒化ホウ素及びその製造方法

【課題】タップ密度が高いため樹脂への配合が容易であり、樹脂に配合しても樹脂をほとんど劣化させることなく熱伝導性に異方性を有する樹脂組成物を与える窒化ホウ素粉末組成物を提供する。
【解決手段】タップ密度が0.4g/cm3以上、硝酸水溶液への溶出マグネシウムが六方晶窒化ホウ素に対する質量分率値として0.1〜60mg/g、溶出カルシウムが60mg/g以下、溶出ホウ素が0.1mg/g以上であることを特徴とする六方晶窒化ホウ素粉末組成物。ホウ酸マグネシウムなどの水和物をつくりにくく、焼成温度よりも低温で揮発する金属ホウ酸塩を窒化ホウ素製造時に使用することにより、微量に残存するホウ酸マグネシウムが窒化ホウ素粉末組成物のタップ密度を向上させ、樹脂の劣化も起こさない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微量金属を含有する六方晶窒化ホウ素粉末及びその製造方法ならびに該窒化ホウ素粉末を樹脂に含有させてなる組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
六方晶窒化ホウ素粉末は、黒鉛類似の層状構造を有し、熱伝導性、絶縁性、化学的安定性、固体潤滑性、耐熱衝撃性などの特性に優れたものであることから、固体潤滑・離型剤、樹脂、ゴム、グリース等の充填材、耐熱性・絶縁性焼結体製造用原料などに応用されている。六方晶窒化ホウ素粉末の工業的な製造方法としては、ホウ酸、酸化ホウ素、ホウ砂、等のホウ素含有化合物と、メラミン、尿素、シジアンジアミド、アンモニア、窒素、等の窒素含有化合物とを加熱雰囲気下に反応させる方法で製造されている。
【0003】
これら製造方法の中でも、特許文献1にはアルカリ金属のまたはアルカリ土類金属のホウ酸塩と含窒素化合物の粉末とを、650〜1100℃の温度に加熱したのち洗浄して窒化ホウ素を製造する方法が記載されている。
【0004】
特許文献2にはホウ酸マグネシウム及び/又はホウ酸カルシウムで構成されている粒子と、非晶質窒化ホウ素粒子及び/又は六方晶窒化ホウ素粒子を、ホウ酸塩粒子の含有割合が25〜75%となるように混合し、非酸化性雰囲気下、温度1700〜2200℃で焼成することを特徴とする窒化ホウ素被覆球状ホウ酸塩粒子の製造方法が記載されている。
【特許文献1】特開平5−170407
【特許文献2】特開2001−122615
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1の方法で窒化ホウ素を製造する場合は使用したアルカリ金属のまたはアルカリ土類金属のホウ酸塩が残存するため、純度が高い窒化ホウ素を得るには洗浄する必要があった。例えばナトリウムやカルシウムのホウ酸塩を使用して窒化ホウ素を製造する場合、洗浄せずに樹脂に配合すると残存するホウ酸塩が水和物をつくるため樹脂の劣化を引き起こす課題があった。
【0006】
特許文献2の方法で窒化ホウ素を製造する場合は窒化ホウ素被覆球状ホウ酸塩粒子となり窒化ホウ素の特徴である熱伝導率の異方性がなくなる。そのため熱伝導率の異方性が求められる用途で使用できなかった。
【0007】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであり、その目的は、樹脂への配合が容易で、配合したときに樹脂の劣化が少なく、熱伝導率の異方性を発現し、また低いコストで製造可能な、微量金属を含有する六方晶窒化ホウ素粉末、及びそれらの製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明者らは鋭意検討した結果、ホウ酸マグネシウムなどの水和物をつくりにくく、焼成温度よりも低温で揮発する金属ホウ酸塩を窒化ホウ素製造時に使用することにより、微量に残存したホウ酸マグネシウムが窒化ホウ素粉末組成物のタップ密度を向上させ、また樹脂に配合しても樹脂の劣化を起こさないことを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
即ち本発明の第一は、1)タップ密度が0.4g/cm3以上であり、10重量%硝酸水溶液中25℃で3時間撹拌後の溶出マグネシウムが六方晶窒化ホウ素に対する質量分率値として0.1〜60mg/g、溶出カルシウムが60mg/g以下、溶出ホウ素が0.1mg/g以上であることを特徴とする六方晶窒化ホウ素粉末組成物に関する。
【0010】
本発明の第二は2)リチウム元素、珪素元素、アルミニウム元素、および亜鉛元素からなる群より選ばれる少なくとも1種の元素が0.1mg/g以上溶出する1)に記載の六方晶窒化ホウ素粉末組成物に関する。
【0011】
本発明の第三は3)(A)窒化ホウ素100重量部、(B)ホウ酸マグネシウム0.1〜30重量部、(C)ホウ酸カルシウム0〜20重量部を含有する混合物を加熱して窒化ホウ素を結晶化し、残留触媒を洗浄除去することなく得られる、1)又は2)に記載の六方晶窒化ホウ素粉末組成物の製造方法に関する。
【0012】
本発明の第四は4)前記混合物がさらに、(A)窒化ホウ素100重量部あたり、(D)リチウム元素、珪素元素、アルミニウム元素、および亜鉛元素からなる群より選ばれる少なくとも1種の元素のホウ酸塩を0.1〜20重量部含有することを特徴とする、3)に記載の六方晶窒化ホウ素粉末組成物の製造方法に関する。
【0013】
本発明の第五は5)窒化ホウ素の結晶化時に、前記(B)成分および/または(D)成分を揮発させる3)または4)に記載の製造方法に関する。
【0014】
本発明の第六は6)1)又は2)に記載の六方晶窒化ホウ素粉末組成物と樹脂を含有する樹脂組成物に関する。
【0015】
本発明の第七は7)前記樹脂がポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリアリーレンスルフィド系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、アクリル系樹脂から選ばれる少なくとも1種の樹脂である6)に記載の樹脂組成物に関する。
【発明の効果】
【0016】
本発明の六方晶窒化ホウ素粉末組成物はタップ密度が高いため樹脂への配合が容易であり、樹脂に配合しても樹脂をほとんど劣化させることなく高熱伝導性樹脂組成物を得ることができる。かつ本発明の六方晶窒化ホウ素粉末組成物は結晶化触媒を酸洗浄除去する工程が省けるため、低コストで製造可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明の六方晶窒化ホウ素粉末組成物は窒化ホウ素粉末の製造時に使用する結晶化触媒を含有している。一般的な結晶化触媒としてはホウ酸カルシウムなどの金属ホウ酸塩が知られているが、本発明においてはホウ酸マグネシウムを使用することを特徴とする。ホウ酸カルシウムは水和物をつくりやすいため、樹脂に配合した際に樹脂の加水分解等の劣化を引き起こすのに対し、ホウ酸マグネシウムは水和物をつくりにくいために樹脂の劣化を引き起こさない。
【0018】
本発明の窒化ホウ素粉末組成物のタップ密度は、パウダーテスターPT−E型(ホソカワミクロン社)測定器を用い、窒化ホウ素粉末組成物を密度測定用100cm3容器に入れ、タッピングリフト18mmにて180秒で180回タッピングさせ、衝撃で固めた後、容器上部の余分なBN粉をブレードで擦りきり、次式により求めたものである。
タップ密度(g/cm3)={(BN粉末重量+容器風袋)−容器風袋}/100
【0019】
本発明の六方晶窒化ホウ素粉末組成物は、大部分は粒径5〜30μmの鱗片状となるが、微量に残存したホウ酸マグネシウムを接着剤にして一部30〜50μm程度の非球状の凝集体をつくるためタップ密度が高くなる。樹脂への配合を容易にするためには窒化ホウ素粉末組成物のタップ密度が0.4g/cm3以上であることが好ましく、さらには0.5g/cm3以上であることが好ましい。ここで六方晶窒化ホウ素粉末組成物中の金属ホウ酸塩の定量は、六方晶窒化ホウ素粉末組成物を10重量%の硝酸水溶液にて25℃で3時間撹拌して洗浄し、その洗浄液中の溶出マグネシウム、カルシウムおよびホウ素量をICP−MSにて測定した。タップ密度を高めるためには、溶出マグネシウムが六方晶窒化ホウ素に対する質量分率値として0.1mg/g以上であり、かつ溶出ホウ素が0.1mg/g以上であることが必須である。窒化ホウ素の比率を高め、充分な熱伝導率と熱伝導率の異方性を確保するためには溶出マグネシウムが60mg/g以下であることが好ましく、さらには40mg/g以下であることが好ましい。加水分解性の樹脂劣化を防ぐためには溶出カルシウムが60mg/g以下であることが必須であり、40mg/g以下であることが好ましい。
【0020】
本発明の効果を損なわない範囲でリチウム元素、珪素元素、アルミニウム元素、および亜鉛元素からなる群より選ばれる少なくとも1種の元素が0.1mg/g以上含まれていてもよい。窒化ホウ素の比率を高め、充分な熱伝導率と熱伝導率の異方性を確保するためにはリチウム元素、珪素元素、アルミニウム元素、および亜鉛元素の含有量は合計で60mg/g以下とすることが好ましい。
【0021】
六方晶窒化ホウ素粉末組成物中に含まれるマグネシウム、カルシウム、リチウム、珪素、アルミニウム、亜鉛などの金属の合計は、60mg/g以下とすることが好ましく、50mg/g以下がより好ましい。含有量が多すぎると、窒化ホウ素が球形に凝集し、熱伝導の異方性が損なわれることがある。下限は0.1mg/g以上であり、少なすぎると、タップ密度が低くなることがある。
【0022】
本発明の六方晶窒化ホウ素粉末組成物は、(A)窒化ホウ素100重量部、(B)ホウ酸マグネシウム0.1〜30重量部、(C)ホウ酸カルシウム0〜20重量部を含有する混合物を加熱して窒化ホウ素を結晶化し、残留触媒を洗浄除去しない製造方法により得ることができる。(B)ホウ酸マグネシウムと(C)ホウ酸カルシウムは、(A)窒化ホウ素の結晶化を促進する結晶化触媒として作用する。該結晶化触媒としてはホウ酸マグネシウム以外にさらに(D)リチウム元素、珪素元素、アルミニウム元素、および亜鉛元素からなる群より選ばれる少なくとも1種の元素のホウ酸塩を合計で0.1〜20重量部使用しても良い。
【0023】
窒化ホウ素とホウ酸マグネシウム、ホウ酸カルシウム等の金属ホウ酸塩との混合物の作成方法としては、予め製造した金属ホウ酸塩を窒化ホウ素に所定量添加してもよいし、ホウ素化合物および金属化合物を窒化ホウ素に添加した後、加熱し系中で反応させて所定量の金属ホウ酸塩を生じさせてもよい。本発明で使用されるホウ素化合物は、オルトホウ酸(H3BO3)、メタホウ酸(HBO2)、テトラホウ酸(H247)、無水ホウ酸(B23)など、一般式(B23)・(H2O)X〔但し、X=0〜3〕で示される化合物の一種又は二種以上であるが、なかでも金属のホウ酸塩を形成するのに容易な無水ホウ酸が本発明には好適である。マグネシウム化合物は、固体のホウ酸マグネシウムでもよいが、無水ホウ酸と反応してホウ酸マグネシウムを生成し得る化合物、特に安価で入手が容易な炭酸マグネシウム(MgCO3)または水酸化マグネシウム(Mg(OH)2)が好ましい。カルシウム化合物は、固体のホウ酸カルシウムでもよいが、ホウ酸と反応してホウ酸カルシウムを生成し得る化合物、特に安価で入手が容易な炭酸カルシウム(CaCO3)が好ましい。
【0024】
出発原料の混合は、ボールミル、リボンブレンダー、ヘンシェルミキサーのような適当な装置で乾燥状態で互いに混合又はブレンドすることができる。
【0025】
混合/ブレンド工程後の乾燥は150〜250℃の温度で任意に実施される。乾燥操作は、空気中で実施してもよいし、或いは窒素又はアンモニア雰囲気中で実施してもよい。乾燥時間は、乾燥温度に依存するとともに、乾燥工程を静的雰囲気中で実施するか或いは循環空気又はガス気流中で実施するかに依存する。
【0026】
高結晶化は、非酸化性ガス雰囲気下、温度1800〜2200℃で行われる。1800℃未満では六方晶窒化ホウ素の結晶化が充分に進行せず、高結晶性、高配向性の粉末を得ることができない。また、2200℃を超えると六方晶窒化ホウ素が分解する。さらに純度の高い窒化ホウ素を得るためには窒化ホウ素を高結晶化する工程にて、結晶化触媒として用いた金属ホウ酸塩の沸点以上かつ窒化ホウ素の分解温度以下の温度で加熱して結晶化触媒を揮発させることが好ましい。とくに、ホウ酸マグネシウムの沸点以上の温度で加熱してホウ酸マグネシウムを揮発させることが好ましい。ホウ酸マグネシウムを揮発させるときの温度は1950℃以上が好ましい。結晶化触媒としてホウ酸マグネシウム以外の金属ホウ酸塩を併用する場合は、沸点が2200℃未満のものを選ぶことが好ましい。ホウ酸カルシウムは、沸点が窒化ホウ素の分解温度より高く、揮発させることが困難である。
【0027】
非酸化性ガス雰囲気を形成するガスとしては、窒素ガス、アンモニアガス、水素ガス、メタン、プロパンなどの炭化水素ガス、ヘリウム、アルゴンなどの希ガスが使用される。これらのうち、入手しやすく安価でありしかも2000〜2200℃の高温域においては六方晶窒化ホウ素の分解を抑制する効果の大きい窒素ガスが最適である。
【0028】
焼成炉としては、マッフル炉、管状炉、雰囲気炉などのバッチ式炉や、ロータリーキルン、スクリューコンベヤ炉、トンネル炉、ベルト炉、プッシャー炉、竪型連続炉などの連続式炉が用いられる。これらは目的に応じて使い分けられ、例えば多くの品種の六方晶窒化ホウ素を少量ずつ製造するときはバッチ式炉が、一定の品種を多量製造するときは連続式炉が採用される。
【0029】
以上のようにして製造された六方晶窒化ホウ素粉末組成物は、必要に応じて粉砕、分級、乾燥などの後処理工程を経た後、実用に供される。具体的な用途としては、焼結体原料、離型剤、固体潤滑剤、フィラーなどが挙げられる。本発明の六方晶窒化ホウ素粉末組成物は、タップ密度が高く樹脂への配合が容易なので、樹脂用のフィラーとして特に好適である。
【0030】
本発明では結晶化触媒としてホウ酸マグネシウムを使用するが、ホウ酸マグネシウムは水和物をつくりにくいために樹脂の劣化を引き起こしにくい。これによって窒化ホウ素生成物から結晶化触媒を除去する最終的洗浄/浸出工程を省くことができ、低コストで六方晶窒化ホウ素粉末組成物を製造することができる。
【0031】
本発明の六方晶窒化ホウ素粉末組成物は熱伝導性フィラーとして樹脂に配合することができる。樹脂としては熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂、いずれにも効果的に使用可能である。射出成形などにより成形が容易であるという点からは、熱可塑性樹脂が好ましい。熱硬化性樹脂としては、エポキシ系樹脂、ウレタン系樹脂、硬化性シリコーン系樹脂、硬化性アクリル系樹脂、などが好ましく使用可能である。熱可塑性樹脂としては、ポリスチレンなどの芳香族ビニル系樹脂、ポリアクリロニトリルなどのシアン化ビニル系樹脂、ポリ塩化ビニルなどの塩素系樹脂、ポリメチルメタクリレート等のポリメタアクリル酸エステル系樹脂やポリアクリル酸エステル系樹脂、ポリエチレンやポリプロピレンや環状ポリオレフィン樹脂等のポリオレフィン系樹脂、ポリ酢酸ビニルなどのポリビニルエステル系樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂及びこれらの誘導体樹脂、ポリメタクリル酸系樹脂やポリアクリル酸系樹脂及びこれらの金属塩系樹脂、ポリ共役ジエン系樹脂、マレイン酸やフマル酸及びこれらの誘導体を重合して得られるポリマー、マレイミド系化合物を重合して得られるポリマー、非晶性半芳香族ポリエステルや非晶性全芳香族ポリエステルなどの非晶性ポリエステル系樹脂、結晶性半芳香族ポリエステルや結晶性全芳香族ポリエステルなどの結晶性ポリエステル系樹脂、脂肪族ポリアミドや脂肪族−芳香族ポリアミドや全芳香族ポリアミドなどのポリアミド系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリスルホン系樹脂、ポリアルキレンオキシド系樹脂、セルロース系樹脂、ポリフェニレンエーテル系樹脂、ポリフェニレンスルフィド系樹脂、ポリケトン樹脂、ポリイミド系樹脂、ポリエーテルエーテルケトン系樹脂、ポリビニルエーテル系樹脂、フェノキシ系樹脂、フッ素系樹脂、シリコーン系樹脂、液晶ポリマー、およびこれら例示されたポリマーのランダム・ブロック・グラフト共重合体、等が挙げられる。これらの樹脂は、それぞれ単独で、あるいは2種以上の複数を組み合わせて用いることができる。2種以上の樹脂を組み合わせて用いる場合には、必要に応じて相溶化剤等を添加して用いることもできる。これら樹脂は、目的に応じて適宜使い分ければよい。本発明の六方晶窒化ホウ素粉末組成物は微量にホウ酸マグネシウムを含有するが、水和物をつくりにくいために、熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂に関わらず特に加水分解性の樹脂であるポリエステル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、アクリル系樹脂の劣化を起こしにくいほか、吸水の影響を受けやすいポリアミド系樹脂やポリアリーレンスルフィド系樹脂に対しても好ましく使用可能である。
【0032】
本発明の熱可塑性樹脂組成物の製造方法としては特に限定されるものではない。例えば、上述した成分や添加剤等を乾燥させた後、単軸、2軸等の押出機のような溶融混練機にて溶融混練することにより製造することができる。
【0033】
本発明の熱可塑性樹脂組成物の成形加工法としては特に限定されず、例えば、熱可塑性樹脂について一般に用いられている成形法、例えば、射出成形、ブロー成形、押出成形、真空成形、プレス成形、カレンダー成形等が利用できる。これらの中でも成形サイクルが短く生産効率に優れること、本組成物が射出成形時の流動性が良好であるという特性を有していること、などから、射出成形法により射出成形することが好ましい。
【実施例】
【0034】
次に、本発明の六方晶窒化ホウ素粉末組成物について、実施例に基づいて、さらに詳細に説明するが、本発明はかかる実施例のみに制限されるものではない。
【0035】
実施例1:
非晶質窒化ホウ素粉末100重量部、無水ホウ酸10重量部、炭酸マグネシウム7.5重量部、重質炭酸カルシウム7.5重量部をヘンシェルミキサーで混合した後、窒化ホウ素製ルツボに仕込み、窒素雰囲気下300℃まで10℃/分、2050℃まで5℃/分の昇温速度で加熱し、2050℃で2時間焼成・結晶化させた。得られた焼成物を粉砕して鱗片形状六方晶窒化ホウ素粉末を得た。硝酸洗浄はしなかった。
【0036】
実施例2、3および比較例1〜4
非晶質窒化ホウ素粉末100重量部とし表1に示す条件にしたこと以外は、実施例1に準じて六方晶窒化ホウ素粉末組成物を製造した。
【0037】
【表1】

【0038】
表2に窒化ホウ素粉末組成物から溶出した元素の溶出量を六方晶窒化ホウ素に対する質量分率値として示す。またタップ密度、押出配合の可否、およびこれら窒化ホウ素粉末組成物を樹脂に配合した樹脂組成物成形体の熱拡散率の異方性について示す。
【0039】
[溶出元素の定量]
試料3gを六方晶窒化ホウ素粉末1モルに対して0.02〜0.5化学当量の10重量%硝酸水溶液中で3時間撹拌した後ろ過し、ろ液中の溶出元素量を測定した。溶出量はICP−MS(アジレントテクノロジー製 7500C型)にて測定し、六方晶窒化ホウ素粉末に対する質量分率値とした。
【0040】
[配合例]
ポリエチレンテレフタレート樹脂((株)ベルポリエステルプロダクツ製ベルペットEFG−70)100重量部に、フェノール系安定剤であるAO−60((株)ADEKA製)0.2重量部、を混合したものを準備した(原料1)。別途、鱗片形状六方晶窒化ホウ素粉末100重量部、信越化学製エポキシシランであるKBM−303を1重量部、エタノール5重量部、をスーパーフローターにて混合し、5分間撹拌した後、80℃にて4時間乾燥したものを準備した。(原料2)。
【0041】
原料1、原料2、を別々の重量式フィーダーにセットし、(A)/(B)の体積比が50/50となるよう混合した後、日本製鋼所製TEX44XCT同方向噛み合い型二軸押出機のスクリュー根本付近に設けられたホッパーより投入した。設定温度は供給口近傍が250℃で、順次設定温度を上昇させ、押出機スクリュー先端部温度を280℃に設定した。本条件にて押出の可否から樹脂劣化を評価した。
【0042】
[熱拡散率]
押出配合にてペレット化できたものに対し、厚み0.7mm、25.4mmφの円板状サンプルを射出成形にて作成した。サンプル表面にレーザー光吸収用スプレー(ファインケミカルジャパン(株)製ブラックガードスプレーFC−153)を塗布し乾燥させた後、XeフラッシュアナライザーであるNETZSCH製LFA447Nanoflashを用い、厚み方向及び面方向の熱拡散率から異方性を確認した。
【0043】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
タップ密度が0.4g/cm3以上であり、10重量%硝酸水溶液中25℃で3時間撹拌後の溶出マグネシウムが六方晶窒化ホウ素に対する質量分率値として0.1〜60mg/g、溶出カルシウムが60mg/g以下、溶出ホウ素が0.1mg/g以上であることを特徴とする六方晶窒化ホウ素粉末組成物。
【請求項2】
さらにはリチウム元素、珪素元素、アルミニウム元素、および亜鉛元素からなる群より選ばれる少なくとも1種の元素が0.1mg/g以上溶出する請求項1に記載の六方晶窒化ホウ素粉末組成物。
【請求項3】
(A)窒化ホウ素100重量部、(B)ホウ酸マグネシウム0.1〜30重量部、(C)ホウ酸カルシウム0〜20重量部を含有する混合物を加熱して窒化ホウ素を結晶化し、残留触媒を洗浄除去することなく得られる、請求項1又は2に記載の六方晶窒化ホウ素粉末組成物の製造方法。
【請求項4】
前記混合物がさらに、(A)窒化ホウ素100重量部あたり、(D)リチウム元素、珪素元素、アルミニウム元素、および亜鉛元素からなる群より選ばれる少なくとも1種の元素のホウ酸塩を0.1〜20重量部含有することを特徴とする、請求項3に記載の六方晶窒化ホウ素粉末組成物の製造方法。
【請求項5】
窒化ホウ素の結晶化時に、前記(B)成分および/または(D)成分を揮発させる請求項3または4に記載の製造方法。
【請求項6】
請求項1又は2に記載の六方晶窒化ホウ素粉末組成物と樹脂を含有する樹脂組成物。
【請求項7】
前記樹脂がポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリアリーレンスルフィド系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、アクリル系樹脂から選ばれる少なくとも1種の樹脂である請求項6に記載の樹脂組成物。

【公開番号】特開2010−47450(P2010−47450A)
【公開日】平成22年3月4日(2010.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−214011(P2008−214011)
【出願日】平成20年8月22日(2008.8.22)
【出願人】(000000941)株式会社カネカ (3,932)
【Fターム(参考)】