説明

六方晶系フェライト粉末およびそれを用いた磁気記録媒体並びにその製造方法

【課題】 平均粒径が小さく、アスペクト比の整った六方晶系フェライト粉末、これにより磁性粉末の高密度充填を可能とした磁気記録媒体並びにその製造方法を提供する。
【解決手段】平均粒径3〜30nmの六方晶系フェライト粉末において、六角平面形状のアスペクト比が1〜1.2の割合が30〜80%、1.2を超えて1.8以下が20〜60%、1.8を超えるものが10%未満(0%含む)であることを特徴とする。また、1次粒子の割合が90%以上であることものが得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気記録媒体に好適な六方晶系フェライト粉末、それを用いた磁気記録媒体並びに六方晶系フェライト粉末の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
磁気記録媒体は、磁気ヘッド、ハードディスク、磁気ディスク、磁気テープ等の様々な形態で使用されている。また、その記録方式も面内記録方式や垂直磁気記録方式など様々である。いずれの方式であっても薄い磁性層を用いている。薄い磁性層の形成方法としては磁性粉末を塗布する方法やスパッタ法等の真空成膜技術を用いたものが開発されている。
スパッタ法は、薄い膜を形成するのには好適であるが、スパッタ条件を厳密に管理せねばならず、また装置も大がかりであることからコスト的負荷は大きい。
磁性粉末を塗布する方法は、スパッタ装置ほど大掛かりな設備を必要としないことからコスト的メリットは大きい。従来から、磁気記録媒体用の磁性粉末としては六方晶系フェライト粉末が知られている。磁性粉末に求められる特性は、粒径が小さいことが挙げられる。例えば、特開平6−290929号公報(特許文献1)では、平均粒径20〜300nm、算術比表面積(Sc)とBET比表面積(Sm)との比(Sm/Sc)が0.6〜1程度の六方晶系フェライト粉末が示されている。従来の磁気記録媒体は、その磁性層厚みが500nm程度であったため特許文献1の六方晶系フェライト粉末で十分であった。一方、近年は、特開2005−340672号公報(特許文献2)に示されたようにMR(磁気抵抗効果)を利用したMRヘッドが提案されている。MRヘッドには、異方性磁気抵抗効果型(AMR)、巨大磁気抵抗効果型(GMR)等の方式がある。MRヘッドは数10nm程度の薄い磁性層を用いて高密度記録を為し得ている。このため数10nm程度の薄い磁性層に細密充填できる磁性粉末が求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平6−290929号公報
【特許文献2】特開2005−340672号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の六方晶系フェライト粉末は数100nm程度の厚い磁性層には好適であったが、数10nm程度の薄い磁性層に対しては必ずしも満足いくものではなかった。六方晶系フェライト粉末は、その名の通り、六角形の面を有する六角柱状の板状粉末であるが、実際には六角形が一部くずれた粉末も含まれている。
従来のように磁性層の厚さが数100nm程度の厚い磁性層を構成するときには問題とならなかったが、数10nm程度の薄い磁性層において磁性粉末を細密充填するには磁性粉末の形状が重要であることが分かった。具体的には、すべて六角形でも細密充填が難しく、ある程度形のくずれた磁性粉末が含まれている方が細密充填可能であることを見出した。
本発明は、上記問題を解決するためのもので、数10nm程度の薄い磁性層に細密充填可能な六方晶系フェライト粉末を提供するものである。また、本発明の六方晶系フェライト粉末は細密充填可能なので高密度記録が可能な磁気記録媒体をも提供することができる。また、本発明の六方晶系フェライト粉末の製造方法は、細密充填可能な六方晶系フェライト粉末を効率よく得るための製法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の六方晶系フェライト粉末は、平均粒径3〜30nmの六方晶系フェライト粉末において、六角平面形状のアスペクト比が1〜1.2の割合が30〜80%、1.2を超えて1.8以下が20〜60%、1.8を超えるものが10%未満(0%含む)であることを特徴とするものである。
また、六角平面の最大長さをL、厚み方向をWとしたときのL/W比が5以上であることが好ましい。また、1次粒子の割合が90%以上であることを特徴とするであることが好ましい。
また、本発明の磁気記録媒体は、上記六方晶系フェライト粉末を含有する磁性層を具備したことを特徴とするものである。また、磁性層の厚さが100nm以下であることが好ましい。また、磁性層中の六方晶系フェライト粉末同士の最大隙間を5nm以下であることが好ましい。また、六方晶系フェライト粉末同士が接触していない割合が単位面積あたり3%以下であることが好ましい。また、磁気記録媒体としては、磁気ヘッド、ハードディスク、磁気ディスク、磁気テープのいずれか1種に適用可能である。
【0006】
また、本発明の六方晶系フェライト粉末の製造方法は、ガラス形成物質と六方晶系フェライト成分の原料混合物を溶融し、その溶融物を急冷して非晶質体を作製する工程と、該非晶質体をガラス転移温度以上の温度で熱処理することにより六方晶系フェライト結晶を析出させる工程と、六方晶系フェライト結晶以外の成分を酸洗いにより除去する工程と、酸洗い後の六方晶系フェライト結晶を900℃/h以上の昇温速度で乾燥する工程、
を具備することを特徴とするものである。
また、前記乾燥する工程は、乾燥容器に厚み1cm以下になるように六方晶系フェライト結晶を配置して行うことが好ましい。また、前記乾燥工程を大気圧下で行うことが好ましい。
このような製造方法であれば、平均粒径3〜30nm、六角平面形状のアスペクト比が1〜1.2の割合が30〜80%、1.2を超えて1.8以下が20〜60%、1.8を超えるものが10%未満(0%含む)である六方晶系フェライト粉末を効率よく得ることができる。また、乾燥容器に入れる六方晶系フェライト結晶が1kg以上と大量生産にも対応可能である。
【発明の効果】
【0007】
本発明の六方晶系フェライト粉末は、平均粒径が3〜30nmと微粉末を維持した状態で、細密充填が可能となる。そのため、本発明の六方晶系フェライト粉末を用いた磁気記録媒体は高密度記録が可能となる。
また、本発明の六方晶系フェライト粉末の製造方法は、本発明の六方晶系フェライト粉末を効率よく得るための方法である。特に、1バッチ1kg以上の大量生産に好適な方法である。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明の六方晶系フェライト粉末の六角平面の一例を示す図。
【図2】本発明の六方晶系フェライト粉末の六角平面の他の一例を示す図。
【図3】本発明の六方晶系フェライト粉末の板厚方向から見た一例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の六方晶系フェライト粉末は、平均粒径3〜30nmの六方晶系フェライト粉末において、六角平面形状のアスペクト比が1〜1.2の割合が30〜80%、1.2を超えて1.8以下が20〜60%、1.8を超えるものが10%未満(0%含む)であることを特徴とするものである。
図1、図2および図3に六方晶系フェライト粉末の一例を示した。図中、1は六方晶系フェライト粉末(1次粒子)、LおよびL1は六角平面の最大長さ、L2は六角平面の最短長さ、Wは厚みである。
六方晶系フェライトは、六角平面形状を有する板状の結晶構造を有している。六方晶系フェライト粉末としては、正六角形、アスペクト比が1を超える六角形、角部が丸くなった六角形など様々な形状のものがある。
【0010】
まず、本発明の六方晶系フェライト粉末は、平均粒径3〜30nmと微細なものである。平均粒径が3nm未満では、粒子が微細すぎて分散性が悪くなり取り扱いが難しい。また、30nmを超えると粒子が大きく100nm以下の薄い磁性層を構成することが困難となる。なお、平均粒径の測定方法は、六方晶系フェライト粉末の拡大写真を撮り、そこに写る粉末の最大径を粒径として測定する。この作業を粉末300個程度行い、平均値を「平均粒径」とする。六方晶系フェライト粉末は板状粒子であるため、六角平面の最大長さLと厚みWどちらを測定するかで値が変わるが、300個程度測定すれば問題はない。
また、六角平面形状のアスペクト比が1〜1.2の割合が30〜80%、1.2を超えて1.8以下が20〜60%、1.8を超えるものが10%未満(0%含む)の割合で構成されている。六角平面形状のアスペクト比は図2に示したように、六角平面の最大長さL1と六角平面の最短長さL2の比(L1/L2)により求めるものである。また、各アスペクト比の割合を求める際は、粉末の拡大写真を撮り、六角平面が写る粉末を200個抽出し、アスペクト比を求め、その個数比率により算出するものとする。
【0011】
本発明では、すべて均一な形状ではなく、アスペクト比が異なるものが所定の割合で含有されているものである。このような範囲であれば磁気記録媒体の磁性層を構成するときに磁性粉末を細密充填が可能となる。
例えば、アスペクト比(L1/L2)が1.8を超えるものが10%を超えると六方晶系フェライト粉末同士の隙間が大きくなりすぎ細密充填できなくなる。また、アスペクト比(L1/L2)が1.2を超えて1.8以下のものが20〜60%の範囲外の場合、例えば60%を超える場合は六方晶系フェライト粉末同士の隙間が大きくなりすぎ細密充填できなくなる。また、20%未満の場合として、アスペクト比1.8を超えるものが増える場合は前述の通り細密充填が困難となる。一方、20%未満の場合として、アスペクト比1〜1.2の割合が80%を超える場合、細密充填は可能となるが、細密充填すぎると磁性層の強度が低下するおそれがある。磁性粉末を磁性層にする場合、樹脂と混合して使用する。磁性層の厚みを100nm以下と薄くしたときに、磁性粉末同士の隙間が全くない領域が増えると樹脂による固定力が弱くなり磁性層の耐久性が低下する。そのため、磁性粉末を細密充填可能とし、かつ樹脂による磁性粉末の固定が良好になる程度に粉末同士の間に隙間ができるようにするためには、アスペクト比1.2を超えて1.8以下の六方晶系フェライト粉末が所定量含まれていることが必要なのである。
【0012】
また、六角平面の最大長さをL、厚み方向をWとしたときのL/W比が2以上であることが好ましい。また、L/W比の上限は8以下が好ましい。前述のように六方晶系フェライト粉末は板状粒子である。厚さ100nm以下の薄い磁性層を構成するときには、六角平面が磁性層と平行になるように配置されていることが望ましい。L/W比が2未満であると六角平面と磁性層を平行に調製することが困難である。一方、L/W比が8を超えると平行に調製することは容易であるが、粉末同士の重なりにより斜めに大きく突出する粉末ができ易くなるため平坦な磁性層を形成し難くなる。
【0013】
また、1次粒子の割合が90%以上であることが好ましい。本発明の六方晶系フェライト粉末は平均粒径が3〜30nmと微粉末である。そのため、従来の製造方法で作製した場合、1次粒子が結合した2次粒子が多く含まれたものとなってしまう。2次粒子が多いと2次粒子同士の隙間が大きくなるため細密充填が困難となる。また、算術比表面積(Sc)とBET比表面積(Sm)との比(Sm/Sc)が0.6より大きく1以下であることが好ましい。
【0014】
また、六方晶系フェライト粉末の結晶構造または組成は、M型のBaFe1219、W型のBaMeFe1627、(MeはCo,Ni,Cu,Zn,Ti,Mg,Nb,Sn,Zr,V,Cr,Mo,Al,Ge,Wの少なくとも1種以上の元素)、M型とW型の複合粉、M型とスピネルの複合粉などが挙げられ、バリウムフェライト以外にもストロンチウムフェライト、カルシウムフェライトなどが挙げられる。
【0015】
以上のような六方晶系フェライト粉末は、様々な磁気記録媒体に好適である。磁気記録媒体としては、磁気ヘッド、ハードディスク、磁気ディスク、磁気テープなど様々なものが挙げられる。そこに用いる磁性層の厚さは任意であるが、例えば、磁気ヘッドの一種であるMRヘッドでは磁性層の厚さが100nm以下の薄い磁性層が用いられている。
本発明の六方晶系フェライト粉末を用いれば厚さ100nm以下の薄い磁性層において磁性層中の六方晶系フェライト粉末同士の最大隙間を5nm以下とすることができる。また、六方晶系フェライト粉末同士が接触していない割合が単位面積あたり10%以下とすることも可能である。「六方晶系フェライト粉末同士の最大隙間」および「六方晶系フェライト粉末同士が接触していない割合」の測定は、磁性層の表面もしくは磁性層に平行な断面において単位面積1μm×1μmの拡大写真を撮り、そこに写る六方晶系フェライト粉末同士の最大隙間を測定する。また、最大隙間が0を超える六方晶系フェライト粉末の個数を求め、拡大写真に写る六方晶系フェライト粉末の総数で割った値を「六方晶系フェライト粉末同士が接触していない割合(%)」とする。
【0016】
まず、「六方晶系フェライト粉末同士の最大隙間」が5nm以下であるということは、六方晶系フェライト粉末同士の隙間が小さく充填されている状態を示している。また、「六方晶系フェライト粉末同士が接触していない割合(%)」が10%以下であるということは、磁性層中で単独で存在する六方晶系フェライト粉末が少ないことを意味し、好ましくは3〜10%である。単独で存在するフェライト粉末が10%を超えると部分的に充填密度が低い部分ができてしまうため磁性層の磁気特性にバラツキが出るおそれがある。一方、接触していない割合が0%であれば、充填密度は高いが磁性層を固める樹脂が入り込む隙間がないため磁性層の強度低下のおそれがある。
なお、磁性層として、酸化アルミニウム、酸化クロム等の研磨材を混合した場合は、研磨材の存在する領域は除いて、あくまで隣接する六方晶系フェライト粉末同士「の最大隙間」および「が接触していない割合(%)」を測定するものとする。
【0017】
次に磁気記録媒体について説明する。磁気記録媒体としては、磁気ヘッド、ハードディスク、磁気ディスク、磁気テープなど様々なものが挙げられる。磁気ヘッドとしては、垂直磁気記録型ヘッド、GMヘッドなどが挙げられる。また、ハードディスク、磁気ディスク、磁気テープなど様々な形態のものに適用できる。特に4MB(メガバイト)以上、さらには数GB(ギガバイト)クラスの高容量磁気記録媒体に好適である。
磁性層は、六方晶系フェライト粉末と結合剤樹脂等を混連して均一分散した塗料を基体上に塗布して形成する。このとき六方晶系フェライト粉末の配向処理が必要なときは行うものとする。
また、結合剤樹脂は特に限定されるものではなく、各種熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、反応性樹脂およびこれらの混合物が使用できる。また、必要に応じ、酸化アルミニウム、酸化クロム等の研磨材、潤滑材、分散材等を混合してもよい。また、磁性層を形成する基材は、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリカーボネート、ポリイミド等の樹脂フィルムが好ましい。
また、磁性層の上に保護層を設けてもよい。保護層は非磁性材料であることが好ましく、金属化合物、樹脂等が挙げられる。また、磁性層と基材との結合力向上を目的に下地層を設けてもよい。
【0018】
次に六方晶系フェライト粉末の製造方法について説明する。本発明の六方晶系フェライト粉末の製造方法は特に限定されるものではないが効率よく得るための方法して次の製造方法が挙げられる。
本発明の六方晶系フェライト粉末の製造方法は、ガラス形成物質と六方晶系フェライト成分の原料混合物を溶融し、その溶融物を急冷して非晶質体を作製する工程と、該非晶質体をガラス転移温度以上の温度で熱処理することにより六方晶系フェライト結晶を析出させる工程と、六方晶系フェライト結晶以外の成分を酸洗いにより除去する工程と、酸洗い後の六方晶系フェライト結晶を900℃/h以上の昇温速度で乾燥する工程、
を具備することを特徴とするものである。
【0019】
まず、本発明の製造方法は、ガラス結晶化法を用いるものである。ガラス形成物質としては酸化ホウ素(B)、酸化バリウム(BaO)、酸化ナトリウム(NaO)等が挙げられる。六方晶系フェライト成分としては、フェライトの基本成分である酸化鉄(Fe)や酸化バリウム(BaO)、酸化ストロンチウム(SrO)等が挙げられる。また、前述のようにMe元素を添加する際はCo,Ni,Cu,Zn,Ti,Mg,Nb,Sn,Zr,V,Cr,Mo,Al,Ge,Wの少なくとも1種以上の元素の酸化物を添加するものとする。ガラス形成物質と六方晶系フェライト成分の割合は、ガラス形成物質を50〜70mol%、残部六方晶系フェライト成分であることが好ましい。
【0020】
ガラス形成物質と六方晶系フェライト成分を所定量測り取り、これら原料混合物を溶融する。溶融温度は1100〜1500℃、10分以上が好ましい。これらの溶融物(溶融された原料混合物)を急冷して非晶質体を作製する。急冷工程は、圧延急冷法、液滴下急冷法などがあり、量産性を考慮すると圧延急冷法が好ましい。圧延急冷法の一例としては双ロール法があり、回転速度400〜800rpm程度に高速回転させた直径10〜30cm×長さ20〜50cmのロールの間に、流出量3〜10g/sで溶融物を供給し、ガラスフレークからなる非晶質体を作製することができる。
また、得られた非晶質体の磁化を0.1〜2emu/gとすることが好ましい。磁化の調整方法は上記製造工程による管理や各ロットから一定の非晶質体の磁化を測定し選別する方法を用いてもよい。また、磁化は磁場10kOeでのVSM値である。
【0021】
次に得られた非晶質体をガラス転移温度以上の温度で熱処理することにより六方晶系フェライト結晶を析出させる工程を行う。熱処理温度はガラス転移温度以上であれば特に限定されるものではないが、例えば、720〜860℃が好適である。
次に析出した六方晶系フェライト結晶以外の成分を酸洗いにより除去する工程を行う。用いる酸は、酢酸水溶液が好適である。酸洗い後、さらに水洗することも好ましい。
【0022】
次に、酸洗い後の六方晶系フェライト結晶を900℃/h以上の昇温速度で乾燥する工程を行う。鉄イオンは3価のFe3+と2価のFe2+がある。六方晶系フェライトとしてはM型のBaFe1219およびW型のBaMeFe1627共にFe3+になっていることが好ましく、Fe2+が必要以上に存在すると磁気特性の低下につながる。Fe2+は500〜600℃で発生し易い。そのため、乾燥工程では500〜600℃での滞在時間をできるだけ短くする必要がある。そのため、昇温速度を900℃/h以上とすることが有効である。昇温速度は速い分には問題ないがあまり早いと乾燥装置への負荷が大きくなるので昇温速度の上限は1200℃/h以下が好ましい。
また、乾燥工程中に発生したFe2+は酸化するとFe3+に変化する。そのため、乾燥工程を大気中で行うことが好ましい。
【0023】
また、乾燥工程を行うには、乾燥容器に厚み1cm以下になるように六方晶系フェライト結晶を配置して行うことも有効である。1バッチ1kg未満の少量の場合は、厚み1cm以下と薄く配置することにより乾燥ムラを無くすことができる。一方、1バッチ1kg以上の場合は前述のように乾燥工程における昇温速度を制御することが好ましい。また、乾燥容器に厚み1cm以下に配置することと組合せれば、さらに乾燥ムラを改善することができる。また、前記乾燥工程を大気圧下で行うことも好ましい。
以上のような製造方法であれば、本発明の六方晶系フェライト粉末を歩留まり良く得ることができる。
【0024】
[実施例]
(実施例1)
出発原料として、B,BaO,LiO,NaO,Fe,CoO,ZnO,NbOを所定量混合し、原料粉末を調整した。これを白金ルツボ中で1200℃、5時間溶解した。
原料溶融物を、直径20cm×長さ30cm、回転速度500rpmの冷却ロールに流出量7g/sで供給し、ガラスフレークからなる非晶質体を作製した。次に、この非晶質体から飽和磁化1.3emu/gのロットを選択した。
選択した非晶質体をガラス移転温度以上である800℃で熱処理してバリウムフェライト結晶を析出させた。これらを酢酸水溶液で酸洗いし、その後水洗して、バリウムフェライト結晶を取り出した。
【0025】
次に、バリウムフェライト結晶を、乾燥容器中に0.8cmまで入れ込み、950℃/hの昇温速度で大気中で乾燥した。この結果、バリウムフェライト粉末が2kg得られた。
得られたバリウムフェライト粉末について、(1)平均粒径、(2)アスペクト比が1〜1.2、1.2を超えて1.8以下、1.8を超えるものの割合、(3)六角平面の最大長さをL、厚み方向をWとしたときのL/W比、(4)1次粒子の割合を測定した。
平均粒径の測定は六方晶系フェライト粉末の拡大写真を撮り、そこに写る粉末の最大径を粒径として測定する。この作業を粉末300個行い、その平均値を「平均粒径」とした。
また、六角平面形状のアスペクト比についても拡大写真を撮り、六角平面が写っている粉末を200個選択し、その六角平面のアスペクト比を測定し、その割合を求めた。L/W比についても拡大写真を活用し、厚み方向が写っている粉末を100個選択し、六角平面の最大長さL、厚み方向Wを測定した。その中で最も小さな値をL/Wとした。
また、1次粒子の割合についても拡大写真を撮り、1次粒子および1次粒子同士がくっついた2次粒子の個数を測定し、1次粒子の割合=[1次粒子の個数/(1次粒子の個数+2次粒子の個数)]×100%で求めた。
その結果を表1に示す。
【0026】
【表1】

【0027】
(実施例2〜5、比較例1〜2)
次に乾燥工程の製造条件を表2に示すものに変える以外は実施例1と同じ工程を用いてバリウムフェライト粉末を製造し、同様の測定を行った。なお、1バッチ量とは最終的に得られたバリウムフェライト粉末量で示した。また、製造工程中の非晶質体の磁化を変えるために飽和磁化を測定して選択した。その結果を表3に示す。
【0028】
【表2】

【0029】
【表3】

【0030】
表から分かる通り、本実施例にかかるバリウムフェライト粉末は平均粒径が小さくアスペクト比も所定の割合、特にアスペクト比1.8を超えるものの割合が小さかった。さらに1次粒子の割合も90%以上であり、均質なバリウムフェライト粉末が得られていることが分かる。
一方、比較例のものはアスペクト比1.8を超えたものの割合が大きく、1次粒子の割合も90%未満であった。
【0031】
(実施例6〜10、比較例3)
実施例1〜5および比較例1のバリウムフェライト粉末を用いて磁気記録媒体(磁気ディスク)を作製した。磁性層中のバリウムフェライト粉末同士の最大隙間、バリウムフェライト粉末同士が接触していない割合を測定した。測定にあたっては、磁性層表面を単位面積10μm×10μmについて拡大写真を撮り、そこに写るバリウムフェライト粉末同士の最大隙間を求めた。また、同様の拡大写真を用い、(バリウムフェライト粉末同士が接触していない粉末の合計面積/全バリウムフェライト粉末の合計面積)×100%により求めた。その結果を表4に示す。
【0032】
【表4】

【0033】
表から分かる通り、本実施例にかかる磁気記録媒体は磁性層中にバリウムフェライト粉末を高密度充填できることが分かる。
【符号の説明】
【0034】
1…六方晶系フェライト粉末

【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均粒径3〜30nmの六方晶系フェライト粉末において、六角平面形状のアスペクト比が1〜1.2の割合が30〜80%、1.2を超えて1.8以下が20〜60%、1.8を超えるものが10%未満(0%含む)であることを特徴とする六方晶系フェライト粉末。
【請求項2】
六角平面の最大長さをL、厚み方向をWとしたときのL/W比が2以上であることを特徴とする請求項1記載の六方晶系フェライト粉末。
【請求項3】
1次粒子の割合が90%以上であることを特徴とする請求項1または請求項2のいずれか1項に記載の六方晶系フェライト粉末。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載の六方晶系フェライト粉末を含有する磁性層を具備したことを特徴とする磁気記録媒体。
【請求項5】
磁性層の厚さが100nm以下であることを特徴とする請求項4記載の磁気記録媒体。
【請求項6】
磁性層中の六方晶系フェライト粉末同士の最大隙間を5nm以下であることを特徴とする請求項4または請求項5のいずれか1項に記載の磁気記録媒体。
【請求項7】
六方晶系フェライト粉末同士が接触していない割合が単位面積あたり10%以下であることを特徴とする請求項4ないし請求項6のいずれか1項に記載の磁気記録媒体。
【請求項8】
磁気記録媒体が、磁気ヘッド、ハードディスク、磁気ディスク、磁気テープのいずれか1種であることを特徴とする請求項4ないし請求項7のいずれか1項に記載の磁気記録媒体。
【請求項9】
ガラス形成物質と六方晶系フェライト成分の原料混合物を溶融し、その溶融物を急冷して非晶質体を作製する工程と、該非晶質体をガラス転移温度以上の温度で熱処理することにより六方晶系フェライト結晶を析出させる工程と、六方晶系フェライト結晶以外の成分を酸洗いにより除去する工程と、酸洗い後の六方晶系フェライト結晶を900℃/h以上の昇温速度で乾燥する工程、
を具備することを特徴とする六方晶系フェライト粉末の製造方法。
【請求項10】
前記乾燥する工程は、乾燥容器に厚み1cm以下になるように六方晶系フェライト結晶を配置して行うことを特徴とする請求項9記載の六方晶系フェライト粉末の製造方法。
【請求項11】
前記乾燥工程を大気圧下で行うことを特徴とする請求項9または請求項10のいずれか1項に記載の六方晶系フェライト粉末の製造方法。
【請求項12】
得られる六方晶系フェライト粉末が、平均粒径3〜30nm、六角平面形状のアスペクト比が1〜1.2の割合が30〜80%、1.2を超えて1.8以下が20〜60%、1.8を超えるものが10%未満(0%含む)であることを特徴とする請求項9ないし請求項11のいずれか1項に記載の六方晶系フェライト粉末の製造方法。
【請求項13】
乾燥容器に入れる六方晶系フェライト結晶が1kg以上であることを特徴とする請求項9ないし請求項12のいずれか1項に記載の六方晶系フェライト粉末の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2010−241639(P2010−241639A)
【公開日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−92291(P2009−92291)
【出願日】平成21年4月6日(2009.4.6)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【出願人】(303058328)東芝マテリアル株式会社 (252)
【Fターム(参考)】