説明

共役ジエンのカルボニル化方法

(a)パラジウム源、および
(b)式II
>P−R−R−R−P<R (II)
(式中、PおよびPは、リン原子を表し、R、R、RおよびRは、第3級炭素原子を含みそれを介してそれぞれの基が前記リン原子に結合している、同じか異なる、場合により置換されている有機基を独立に表し、RおよびRは、同じか異なる、場合により置換されているメチレン基を独立に表し、Rは、二価の架橋基C−Cを含みそれを介してRがRおよびRに結合している有機基を表し、mおよびnは、0〜4の範囲の自然数を独立に表し、前記架橋基の炭素原子CおよびC間の結合の周りの回転は、0℃〜250℃の範囲の温度において制限され、C、CおよびCに直接結合したPの方向にある原子から成る3つの原子配列が占める面ならびにC、CおよびCに直接結合したPの方向にある原子から成る3つの原子配列が占める面との間の二面角は、0〜120°の範囲にある)の2座ジホスフィンリガンド、および、
(c)アニオン源
を含む触媒系の存在下で、共役ジエンを、一酸化炭素および易動性水素原子を有する共反応体と反応させることを含む、共役ジエンのカルボニル化方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、共役ジエンのカルボニル化方法に関する。共役ジエンのカルボニル化反応は、当該技術分野においてはよく知られている。本明細書においては、「カルボニル化」と言う用語は、遷移金属錯体による触媒反応下で、一酸化炭素および共反応体の存在におけるジエンの反応を指すものである。この方法においては、一酸化炭素および共反応体は、例えば、WO−A−03/031457において記載されているようにジエンに添加する。
【背景技術】
【0002】
カルボニル化に対して通常使用される条件下では、共役ジエンは、また、例えば、WO−A−03/040065において記載されているように二量体および/または三量体を形成することがある。この副反応は、所望のカルボニル化生成物の収率を減少させるので極めて望ましくない。テロマー化生成物を越える、カルボニル化生成物に対する選択性は、本明細書においてはさらに化学的選択性と呼ぶ。
【0003】
できるだけ高い化学的選択性を達成するための必要性以外に、幾つかの可能な異性体カルボニル化生成物の1つに対する特に高い選択性、本明細書においてはさらに位置選択性と呼ぶ選択性を達成するための要望がまた存在する。共役ジエンのカルボニル化にとって、線状生成物に対する位置選択性、即ち、第1級炭素原子における反応に対する選択性は、分岐生成物が通常工業的用途を持たないのに対して線状生成物は重要な中間体、例えば、ポリアミドにおける使用のためのアジピン酸誘導体の合成における中間体であるので、多くの場合に望まれる。
【0004】
WO−A−03/031457は、共役ジエンを、一酸化炭素および易動性水素原子を有する化合物、例えば、水素、水、アルコールおよびアミンと、(a)パラジウムカチオン源、(b)式(I)
>P−(CH−PQ (I)
(式中、Qは、それが結合するリン原子と一緒に、非置換または置換2−ホスファ−アダマンタン基またはその誘導体(炭素原子の1つまたは幾つかがヘテロ原子により置き換えられる。)を表す二価の基であり、QおよびQは、1〜20個の原子を有する一価の基または2〜20個の原子を有する、結合した二価の基を独立に表し、nは4または5である。)のリン含有リガンドおよびそれらの混合物をベースとした触媒系の存在下で反応させる、共役ジエンのカルボニル化方法を開示している。
【0005】
高い全体的な活性を示すが、WO−A−03/031457において記載されている触媒は、限定された化学的選択性および低い収率を与えるだけである。開示されているカルボニル化反応は幾つかの可能な異性体生成物の混合物を生成するが、反応の位置選択性はWO−A−03/031457においては開示されていない。さらに、記載されている方法は、少なくとも十分な生産高数を達成するために多量のパラジウムおよびリガンドの使用を必要とし、これは、この方法を運転コストの掛かるものにする。さらに、得られた生成物混合物は、工業的方法においては望ましくない、副生成物およびリガンド残留物からの実質的な精製および/または分離を受けることが必要である。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従って、線状カルボニル化生成物に対する高い化学的選択性および高い位置選択性を組み合わせ、その上、また、方法の全体的な効率を増加させるために少ない量のパラジウムを使用して、高い生産高および収率を与える触媒系を用意する必要性が存在する。そのような組み合わせは、生成物混合物を、テロマーおよびポリマー副生成物ならびに非線状生成物を除去するための実質的な精製に掛ける必要性を回避する。
【0007】
今や、共役ジエンと、少なくとも1つの易動性水素原子を有する共反応体とのカルボニル化のための上記で特定された方法が、以下に示される異なる触媒系の存在下で極めて効率良く実施できることが分かった。
【課題を解決するための手段】
【0008】
従って、本発明は、
(a)パラジウム源、および
(b)式II
> P−R−R−R−P< R (II)
(式中、PおよびPは、リン原子を表し、R、R、RおよびRは、第3級炭素原子を含みそれを介してそれぞれの基が前記リン原子に結合している、同じか異なる、場合により置換されている有機基を独立に表し、RおよびRは、同じか異なる、場合により置換されているメチレン基を独立に表し、Rは、二価の架橋基C−Cを含みそれを介してRがRおよびRに結合している有機基を表し、mおよびnは、0〜3の範囲の自然数を独立に表し、前記架橋基の炭素原子CおよびC間の結合の周りの回転は、0℃〜250℃の範囲の温度において制限され、C、CおよびCに直接結合したPの方向にある原子から成る3つの原子配列が占める面ならびにC、CおよびCに直接結合したPの方向にある原子から成る3つの原子配列が占める面との間の二面角は、0〜120°の範囲にある。)の2座ジホスフィンリガンド、および
(c)アニオン源
を含む触媒系の存在下で、共役ジエンを、一酸化炭素および易動性水素原子を有する共反応体と反応させることを含む、共役ジエンのカルボニル化方法を提供するものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明方法において、成分(a)の適当なパラジウム源としては、パラジウム金属ならびにそれらの錯体および化合物、例えば、パラジウム塩、例えば、パラジウムおよびハロゲン化物酸、硝酸、硫酸またはスルホン酸の塩;パラジウム錯体、例えば、一酸化炭素またはアセチルアセトネートとの錯体、または、イオン交換体等の固体物質と組み合わされたパラジウムが挙げられる。好ましくは、パラジウムとカルボン酸との塩が使用され、それに適合するものとしては、12個までの炭素原子を持つカルボン酸、例えば、酢酸、プロピオン酸およびブタン酸の塩、または、置換カルボン酸、例えば、トリクロロ酢酸およびトリフルオロ酢酸の塩等が使用される。極めて適合する源は、酢酸パラジウム(II)または、ジエン基材のカルボニル化生成物に相当する酸のパラジウム(II)塩、例えば、基材として1,3−ブタジエンの場合のペンテン酸パラジウム(II)である。
【0010】
2座ジホスフィンリガンド(b)は、式(II)による構造を有し、CおよびCの間の結合の周りの回転は、反応の温度範囲で制限され、Cに結合した原子、CおよびCに直接結合したPの方向にある原子から成る3つの原子配列が占める面ならびにC、CおよびCに直接結合したPの方向にある原子から成る3つの原子配列が占める面との間の二面角は0〜120°の範囲にある。
【0011】
「結合」および「回転」と言う用語は、Hendrickson、Cram and Hammond、Organic Chemistry、3rd Edition、1970年、175頁〜201頁において定義されている。本発明による回転は、CおよびCに結合した原子が、CおよびC間の結合の中心を通って走る軸の回りをそれぞれに回転することを意味する。
【0012】
結合の回りの回転は、回転障壁が、異なる立体配座が、実験の時間尺度で、異なる化学種として認知できない程度に非常に低い時に「自由」であると呼ばれる。その現象を実験の時間尺度で観察可能にするのに十分に大きい回転障壁の存在による結合の回りの基の回転の抑制は、妨害回転または束縛回転と言われる(IUPAC Compendium of Chemical Terminology、2nd Edition(1997年)、68、2209において定義されている。)。
【0013】
適切な実験は、例えば、Hendrickson、Cram and Hammond、Organic Chemistry、3rd Edition、1970年、265頁〜281頁およびF.A.Bovey、Nuclear Magnetic Resonance Spectroscopy、(New York、Academic Press、1969年)、1〜20頁において記載されているH−NMR実験であり得る(但し、CおよびC間の結合により影響される適切な移動を示すリガンドにおいて存在する水素原子が存在すると言う条件下で)。
【0014】
本発明によれば、本発明方法が行われる温度範囲において、CおよびC間の結合の周りの自由回転は存在しない。この温度範囲は、都合よく、0℃〜250℃であり得るが、好ましくは、本発明方法は、10℃〜200℃の範囲、なおさらに好ましくは、15℃〜150℃の範囲、またさらに好ましくは、18℃〜130℃の範囲で行われる。
【0015】
従って、2座リガンドの結合C−Cの周りの回転は、本発明方法の温度範囲において妨害または制限される。適切に、回転は周囲温度において決定される。
【0016】
架橋基Rは、2つの、場合により置換されている炭素原子CおよびCの鎖を含む。これらの炭素原子CおよびCは、R−R−および−R−Pの間に直接架橋を形成し、リン原子PおよびPならびに場合により置換されているメチレン基RおよびRは、架橋基C−Cを介して結合してジホスフィンリガンド(b)を形成する。
【0017】
多くの異なる制限立体配座は、本発明のリガンドには可能であるが、特定の二面角は、触媒系の活性にとって極めて重要であることが分かった。二面角は、一般的に、2つの交差面により形成される角度として定義される。本発明方法による二面角は、4つの原子配列(Cに直接結合したPの方向にある原子)−C−C−(Cに直接結合したPの方向にある原子)の、0〜120°の範囲にある、C、CおよびCに直接結合したPの方向にある原子から成る3つの原子配列が占める面ならびにC、CおよびCに直接結合したPの方向にある原子から成る3つの原子配列が占める面とにより形成される角度である。本明細書において、「PまたはPの方向における」とは、関連する原子が、CおよびPまたはCおよびPのそれぞれに結合するリガンド鎖のその部分に置かれることを意味する。
【0018】
例えば、mおよびnが1である場合、二面角は、4つの原子配列R−C−C−Rの3つの原子配列R−C−Cおよび4つの原子配列R−C−C−Rの今一方の3つの原子配列C−C−Rにより占められる面の間の角度である。
【0019】
式(II)のmおよびnが0である場合は、4つの原子配列は、従って、P−C−C−Pであり、2つの面は、P−C−CおよびC−C−Pとして定義される。
【0020】
本発明方法によるリガンドにおいては、上記で定義された二面角は、0°〜120°の範囲である。触媒系の高触媒活性は、それによって得られるので、二面角は、好ましくは0°〜70°の範囲、なおさらに好ましくは0°〜15°の範囲、最も好ましくは0°〜5°の範囲である。
【0021】
如何なる特定の理論にも束縛されるつもりはないが、C−C結合の周りで回転を許すリガンドは、パラジウムの中心と立体配座的に安定な2座錯体を形成する可能性は少ないと考えられる。その結果、2座錯体は、単座錯体で完結し、それによって金属錯体における立体的歪を減少させ、従って、錯体の触媒活性を減少させる。
【0022】
安定な2座錯体を得ることの困難性は、また、適切に高い量の触媒的に活性なキレート錯体を得るために必要とされるリガンドの増加量によりおよび反応条件下でのリガンドの高い不安定性によっても例示される。
【0023】
およびC間で形成される結合は、エチレン系不飽和または芳香族化合物において生じる飽和または不飽和結合であってよい。CおよびCに結合する飽和結合の場合、Rは、CR’R”−CR”’R””により表すことができ、本発明による2座ジホスフィンリガンドは、従って、式III、
−R−CR’R”−CR”’R””−R−P (III)
により適切に特徴付けられる。
【0024】
この実施形態においては、R’およびR”ならびにR”’およびR””は、水素または同じか異なる、場合により置換されている有機基を表す(但し、R’およびR”の1つだけ、およびR”’およびR””の1つだけは、水素である。)。CおよびCが、エチレン系不飽和二重結合により結合されている場合は、CおよびCは、また、自由に回転することができない。この場合、Rは、CR’=CR”により表すことができ、本発明による2座ジホスフィンリガンドは、従って、式IV、
−R−CR’=CR”−R−P (IV)
により適当に特徴付けられる。
【0025】
およびC間の結合がエチレン系不飽和二重結合である場合は、CおよびCを介してPおよびPを結合するリガンド鎖は、理論的には、2つの異性体、即ち、トランス−配列およびシス−配列において存在することができる。上記の定義によれば、トランス−配列においては、二面角は約180°であり、一方、シス−配列においては、二面角は約0°である。
【0026】
式IIIまたはIVにおける置換基R’からR””は、それ自身独立の置換基であることができ、従って、炭素原子CおよびCを介して互いに結合するだけのまたは好ましくは少なくとも1つの更なる結合を有する置換基であることができる。この置換基は、炭素原子および/またはヘテロ原子をさらに含んでもよい。
【0027】
自由回転の制限は、周囲温度、さらに好ましくは、0〜250℃の温度範囲、好ましくは15〜150℃の温度範囲においてC−C結合の周りの回転を妨げる分子構造の一部を形成する架橋基C−Cにより都合よく達成され得る。この分子構造は、都合よく、例えば、a)エチレン系不飽和二重結合(ここで、回転は、п−結合のエネルギー的に有利な重複により妨げられる。)、および/またはb)環状炭化水素構造(ここで、回転は、置換基R’〜R””の立体相互作用により、あるいは、R’〜R””が一緒になって、または芳香族または非芳香族環状構造等における上記ファクターの組み合わせにより形成される環状構造により誘発された立体的歪みにより制限される。)であってもよい。立体配座的安定性、従って、剛性は、また、c)置換基R’およびR”、および/またはR”’およびR””の性質が、互いに結合しなくてもそれらが、C−C結合の周りの回転を、例えば、強力な立体的相互作用により妨げるような性質である場合に達成されてもよい。この目標に対しては、好ましくは、式IIIまたはIVのR’〜R””のいずれも水素を表さない。
【0028】
Rは、好ましくは、ヘテロ原子で場合により置換されている環状炭化水素構造であり、なおさらに好ましくは、脂肪族または芳香族炭化水素構造である。この構造は、場合によりさらに置換されている飽和または不飽和多環式構造の一部であってよく、また、窒素、硫黄、珪素または酸素原子等のヘテロ原子を場合により含んでよい。
【0029】
Rの適切な構造としては、例えば、置換シクロヘキサン、シクロヘキセン、シクロヘキサジエン、置換シクロペンタン、シクロペンテンまたはシクロペンタジエンが挙げられ、その全てが、窒素、硫黄、珪素または酸素原子等のヘテロ原子を場合により含んでよい(但し、C−C結合の周りの回転は制限され、二面角は0°〜120°の範囲であり、立体配座変化、例えば、高度に抑制されたアセタール構造、例えば、2,2−ジメチル−1,3−ジオキソラン等における立体配座変化により誘発される、CおよびCにより形成される結合の周りの回転は存在しない。)。
【0030】
1つの特に好ましい実施形態においては、Rは、二価の多環式炭化水素環構造を表す。そのような多環式基は、高い立体配座安定性、従って、CおよびC間の結合の周りの自由回転に対する高い制限により特に好ましい。そのような特に好ましい炭化水素基の例としては、ノルボルニル、ノルボルナジエニル、イソノルボルニル、ジシクロペンタジエニル、オクタヒドロ−4,7−メタノ−1H−インデンメタニル、α−およびβ−ピニルならびに1,8−シネオリルが挙げられ、その全てが、場合により置換されていてもよく、または上記で定義されたヘテロ原子を含んでもよい。
【0031】
2座リガンドがキラル中心を有することができる場合においては、2座リガンドは、任意のR、R−、S、S−またはR、S−メソ形またはそれらの混合物中にあってもよい。メソ形およびラセミ混合物共に使用できる(但し、二面角は、0〜120°の範囲である。)。
【0032】
式IIのジホスフィンにおいて、Rは、好ましくは、RおよびR基を介してリン原子に結合する、場合により置換されている二価の芳香族基を表す。
【0033】
そのような芳香族環状構造は、その剛性および一般的に0〜5°の範囲にある二面角により好ましい。
【0034】
この芳香族基は、例えば、フェニル基等の単環式基または、例えば、ナフチル、アンスリルまたはインジル基等の多環式基であることができる。好ましくは、芳香族基Rは、炭素原子だけを含むが、Rは、また、炭素鎖が、1つまたは複数のヘテロ原子、例えば、窒素、硫黄または酸素原子等で中断されている芳香族基、例えば、ピリジン、ピロール、フラン、チオフェン、オキサゾールまたはチアゾール基を表すこともできる。最も好ましくは、芳香族基Rは、フェニル基またはナフチレン基を表す。
【0035】
場合によりこの芳香族基は置換されている。適切な置換基としては、ハロゲン化物、硫黄、リン、酸素および窒素等のヘテロ原子を含む基が挙げられる。そのような基の例としては、塩化物、臭化物、ヨウ化物および一般式−O−H、−O−X、−CO−X、−CO−O−X、−S−H、−S−X、−CO−S−X、−NH、−NHX、−NO、−CN、−CO−NH、−CO−NHX、−CO−NXおよび−CI(ここで、Xは、メチル、エチル、プロピル、イソプロピルおよびn−ブチルのような1〜4個の炭素原子を有するアルキル基を独立に表す)の基が挙げられる。
【0036】
この芳香族基が置換される場合は、好ましくは、1〜10個の炭素原子を有する1つまたは複数のアリール、アルキルまたはシクロアルキル基で置換される。適切な基としては、メチル、エチル、トリメチル、イソプロピル、テトラメチルおよびイソブチル、フェニルならびにシクロヘキシルが挙げられる。
【0037】
然しならが、最も好ましくは、この芳香族基は非置換であって、リン原子と結合しているRおよびR基にのみ結合する。好ましくは、アルキレン基は、例えば、この芳香族基の1および2位の隣接位置に結合する。
【0038】
式II、IIIおよびIVにおけるmおよびnの記号は、0〜3の範囲の自然数を独立に表し得る。mおよびnが0である場合は、リン原子PおよびPは、炭素原子CおよびCにより形成される架橋に直接結合する。mまたはnの1つが0である場合は、CまたはCのいずれかが、PまたはPに直接結合する。如何なる特定の理論にも束縛されるつもりはないが、リン原子上で、従って、触媒錯体上でCおよびCにより形成される中心架橋の特定の配列の結果もたらされる効果は、多数のRおよび/またはR基の存在によって薄められるものと考えられる。また、mおよびnが共に0である場合は、リン原子間の距離は、リガンドが、触媒錯体のパラジウム中心原子にそれほど強くなく結合するようにむしろ短くてもよいと考えられる。
【0039】
従って、そのようなリガンドで見出される一般的に良好な触媒活性により、mは、好ましくは0または1に等しく、一方、nは、好ましくは、1から3の範囲、さらに好ましくは1から2、最も好ましくは1である。
【0040】
mおよび/またはnが1より上の値を有する場合、幾つかの、場合により置換されているRおよびR基は、PおよびPをRに結合する。これらの相違は、同じまたは独立に異なる基であってもよい。従って、Rおよび/またはR基は、好ましくは、低級アルキレン基である(低級アルキレン基とは、1〜4個の炭素原子を含むアルキレン基を意味する。)。これらのアルキレン基は、例えば、アルキル基またはヘテロ原子で置換されることができるし、非置換であることもでき、例えば、メチレン、エチレン、トリメチレン、イソプロピレン、テトラメチレン、イソブチレンおよびt−ブチレンを表してもよく、または、メトキシ、エトキシおよび類似の基を表してもよい。最も好ましくは、Rおよび/またはR基の少なくとも1つはメチレン基である。
【0041】
特に適切な芳香族基としては、2置換フェニルまたはナフチル基等のアリール基、およびトリルおよびキシリル基等の置換アルキルフェニル基が挙げられる。容易な合成可能性および反応媒体における形成された触媒錯体の良好な溶解性により好まれる基は、芳香族環におけるメチレン置換基またはメチレン置換基類がRおよび/またはR基として役立つトリルおよびキシリル基である。最も好ましくは、CおよびCが、芳香族環の部分であり、一方、Rおよび/またはRの少なくとも1つは、環原子CおよびCに結合したメチレン基を表す。
【0042】
従って、本発明による特に好ましいリガンドファミリーは、CおよびCが、フェニル環の部分であり、mが0または1であり、nが1であり、RおよびRがメチレン基であるファミリーである。容易な合成可能性によるなおその他の特に好ましいリガンドファミリーにおいては、mおよびnは1である。従って、1,2−ジ(ホスフィノメチル)ベンゼンまたは1−P−ホスフィノ−2−(ホスフィノメチル)−ベンゼン基をベースとしたそのようなリガンドは、芳香族バックボーンの高い剛性、容易な合成可能性および誘導される触媒系で得られる極めて良好な結果により本発明方法にとって特に適している。
【0043】
バックボーンの構造以外に、リン原子の直接的リガンド環境は、また、本発明方法の選択性および活性において強力な効果を有することが分かった。本発明方法に使用されるリガンドにおいては、R、R、RおよびRは、第3級炭素原子を含みそれを介してそれぞれの基がリン原子に結合している、同じか異なる、場合により置換されている有機基を独立に表し得る。
【0044】
本発明の目的に対して、「有機基」と言う用語は、1〜30個の炭素原子を有し、第3級炭素原子、即ち、炭素原子がリンおよび水素以外の3つの置換基に結合している炭素原子によりリン原子に結合する、非置換または置換、脂肪族、芳香族またはアルール脂肪族基を表す。
【0045】
、R、RおよびRの有機基は、それぞれ独立に一価の基であってもよく、またはRおよびRが一緒になっておよび/またはRおよびRが一緒になって二価の基であってもよい。これらの基は、さらに、酸素、窒素、硫黄またはリン等の1つまたは複数のヘテロ原子を含んでもよくおよび/または、例えば、酸素、窒素、硫黄および/またはハロゲン、例えば、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素および/またはシアノ基を含む1つまたは複数の官能基により置換されてもよい。
【0046】
、R、RおよびRの有機基は、リン原子を介して互いに結合するだけでもよく、好ましくは4〜20個の炭素原子、なおさらに好ましくは4〜8個の炭素原子を有する。
【0047】
第3級炭素原子を介して基のそれぞれがリン原子に結合する第3級炭素原子は、脂肪族、環状脂肪族または芳香族置換基で置換され得、または、置換飽和または不飽和脂肪族環構造の一部を形成することができ、それら全ては、例えば、I1−アダマンチル基またはそれらの誘導体(この構造における炭素原子は、酸素原子で置き換えられている。)のように、ヘテロ原子を含んでもよい。好ましくは、第3級炭素原子は、アルキル基で置換され、それにより、第3級炭素原子を第3級アルキル基の部分にするか、またはエーテル基で置換される。
【0048】
適切な有機基の例は、t−ブチル、2−(2−メチル)ブチル、2−(2−エチル)ブチル、2−(2−フェニル)ブチル、2−(2−メチル)フェニル、2−(2−エチル)フェニル、2−(2−メチル−4−フェニル)ペンチル、1−(1−メチル)シクロヘキシルおよび1−アダマンチル基である。
【0049】
、R、RおよびRの基は、それぞれ独立に異なる有機基であってもよいが、合成における異なる原材料の少量使用により、R、R、RおよびR基は、好ましくは、同じ第3級有機基を表す。なおさらに好ましくは、R、R、RおよびRの基は、t−ブチル基または1−アダマンチル基を表し、最も好ましくは、t−ブチル基である。従って、本発明は、R、R、RおよびRのそれぞれが、第3級t−ブチル基を表す方法に関する。特に好ましい2座ジホスフィンは、従って、1,2−ビス(ジt−ブチルホスフィノ−メチル)ベンゼン(または、ビス[ジ(t−ブチル)ホスフィノ]−o−キシレンまたはdtbxリガンドとも記載する。)および2,3−ビス(ジt−ブチルホスフィノメチル)ナフテンである。
【0050】
極めて良好な結果は、R、R、RおよびRの基が、t−ブチル基等の同じ第3級アルキル基を表すリガンドを使用して得られたが、これらのリガンドは、然しながら、グリニヤール試薬等の金属有機化合物の使用を必要とするため、工業的規模において得ることが困難である。
【0051】
同様に良好な結果は、RおよびRが一緒になっておよび/またはRおよびRが一緒になって、2つの第3級炭素原子を介してリン原子に直接結合している二価の基を表すジホスフィンリガンドで得られた。この二価の基は、単環式または多環式構造を有し得る。このような二価の基を有するリン原子を含むジホスフィンは、それらが、それらを工業的規模でさらに入手可能にするより穏やかな条件においてホスフィンを反応させることを含む異なる合成経路を経て入手可能である利点を有する。従って、RおよびRが一緒になっておよび/またはRおよびRが一緒になって、環状脂肪族基が2つの第3級炭素原子を介してリン原子に結合している、場合により置換されている二価の環状脂肪族基を表すことができる。RはRと共に、および/またはRはRと共に、それぞれの場合において好ましくは、CH−基が、ヘテロ基、例えば、−CO−、−O−、−SiR−または−NR−で置き換えられていてもよく、1つまたは複数の水素原子が、置換基、例えば、アリール基で置き換えられていてもよいアルキレン鎖において4〜10個の炭素原子を有する分岐環状、ヘテロ原子非置換または置換二価アルキル基である。
【0052】
CH−基が、−O−等のヘテロ基で置き換えられてもよい、非置換または置換C〜C30アルキレン基である好ましい二価の基の例としては、1,1,4,4−テトラメチル−ブタ−1,4−ジイル−、1,4−ジメチル−1,4−ジメトキシ−ブタ−1,4−ジイル−、1,1,5,5−テトラメチル−ペンタ−1,5−ジイル−、1,5−ジメチル−1,5−ジメトキシ−ペンタ−1,5−ジイル−、3−オキサ−1,5−ジメトキシ−ペンタ−1,5−ジイル−、3−オキサ−1,1,5,5−テトラメチル−ペンタ−1,5−ジイル−、3−オキサ−1,5−ジメチル−1,5−ジメトキシ−ペンタ−1,5−ジイル−および類似の二価基が挙げられる。
【0053】
およびRが一緒になって、および/またはRおよびRが一緒になって含まれる特に適切な単環式構造は、例えば、場合によりヘテロ原子置換されている2,2,6,6−テトラ置換ホスフィナン−4−オンまたは−4−チオン構造である。そのような構造を含むリガンドは、Welcher and Day、Journal of Organic Chemistry、J.Am.Chem.Soc.、27(1962年)1824頁〜1827頁において記載されているような穏やかな条件下で都合よく得ることができる。
【0054】
例えば、同じR、R、RおよびRの有機基を持つ2座ジホスフィンは、HP−(R−CR’R”−CR’”R””−(R−PHの化合物と、(ZC)=(CZ)−(C=Y)−(CZ)=(CZ)の化合物(式中、Z、Z、ZおよびZは、場合によりヘテロ原子置換されている有機基を表し、ZおよびZは、場合によりヘテロ原子置換されている有機基または水素を表し、Yは、酸素または硫黄を表す。)とを反応させることにより都合よく得られ得る。そのような化合物の1例は、2,6−ジメチル−2,5−ヘプタジエン−4−オン(または、ジイソプロピリデンアセトンまたはホロンとしても知られている。)である。複数の化合物が使用される場合は、RおよびRを含む、そしてRおよびRを含む異なる基を持つリガンドが形成される。
【0055】
およびR、および/またはRおよびRを含む適切な多環式構造は、例えば、1、3および5位置において置換されている(従って、第3級炭素原子を与え、それを介してその基がリン原子に結合する。)2−ホスファ−トリシクロ[3.3.1.1{3,7}]デシル基、または、炭素原子の1つまたは複数がヘテロ原子で置き換えられているそれらの誘導体である。トリシクロ[3.3.1.1{3,7}]デカンは、アダマンタンとしてさらに一般的に知られている化合物に対する系統名である。1,3,5−トリ置換2−ホスファ−トリシクロ[3.3.1.1{3,7}]デシル基またはその誘導体は、従って、本明細書を通して「2−PA」基(2−ホスファアダマンチル基におけるように)として参照される。
【0056】
2−PA基は、1,3,5位置、場合により7位置の1つまたは複数において、1〜20個の炭素原子、好ましくは1〜10個の炭素原子、なおさらに好ましくは1〜6個の炭素原子の一価の有機基Rで置換される。Rの例としては、メチル、エチル、プロピルおよびフェニルが挙げられる。
【0057】
さらに好ましくは、2−PA基は、1,3,5および7位置のそれぞれにおいて、適切に同じR基で、なおさらに好ましくはメチル基で置換される。2−PA基は、好ましくは、その骨格における2−リン原子以外の更なるヘテロ原子をさらに含む。適切なヘテロ原子は、酸素および硫黄原子である。さらに適切には、これらのヘテロ原子は、6、9および10位置において見出される。最も好ましい二価の基は、従って、2−ホスファ−1,3,5,7−テトラメチル−6,9,10−トリオキシアダマンチル基である。
【0058】
本発明方法において使用される2座リガンドは、例えば、WO01/68583またはChem.Commun.2001年、1476〜1477頁(Robert I.Pugh et al.)において記載されているように調製することができる。従って、本発明は、また、式(II)において、RおよびRが一緒になって、および/またはRおよびRが一緒になって、場合によりヘテロ原子置換されている1,3,5−トリ置換2−ホスファ−アダマンタン構造の一部であり、または、場合によりヘテロ原子置換されている2,2,6,6−テトラ置換−ホスフィナン−4−オンの部分であり、あるいは、場合によりヘテロ原子置換されている2,2,6,6−テトラ置換−ホスフィナン−4−チオンの部分である方法に関する。
【0059】
2座リガンドは、メソおよびラセミ体において調製することができ、その全てが適切である。
【0060】
本発明による特に好ましいジホスフィンリガンドは、式(II)による化合物である(ここで、これらのリガンドで得られる極めて良好な結果により、RはRと共に、およびRはRと共に、それぞれのリン原子PまたはPと一緒に、2−ホスファ−1,3,5,7−テトラメチル−6,9,10−トリオキシアダマンチル基または2,2,6,6−テトラメチル−ホスフィナン−4−オンを形成し、そのバックボーン構造R−C−C−Rは、α−ホスフィノトルイル、1,2−キシリルまたは2,3−ナフチル構造、即ち、R、Rがメチレン基で、mが1で、nが0または1であり、C−C結合がフェニル環の部分であり、この実施形態の最も好ましいリガンドは、nおよびmが1である。)。
【0061】
本発明方法において都合よく使用することのできる2座ジホスフィンリガンドは、例えば、WO−A−96/19434、WO−A−98/42717、WO−A−01/68583およびWO−A−01/72697において記載されていて、極めて好ましいリガンドとして、1,2−P,P’−ジ(2−ホスファ−1,3,5,7−テトラメチル−6,9,10−トリオキサトリシクロ[3.3.1.1{3.7}デシル)−メチレン−ベンゼン(また、時に、1,2−P,P’−ジ(2−ホスファ−1,3,5,7−テトラメチル−6,9,10−トリオキサトリシクロ[3.3.1.1{3,7}デシル)−o−キシレンとしても参照される。)および1,2−P,P’−ジ−(2−ホスファ−1,3,5,7−テトラ(エチル)−6,9,10−トリオキサトリシクロ[3.3.1.1{3.7}デシル)−メチレン−ベンゼンが挙げられる。
【0062】
WO−A−01/68583においては、
(a)パラジウム源、
(b)本発明において適用される2座ジホスフィン、および
(c)水溶液において18℃で測定して、3未満のpKaを有する酸から誘導されるアニオン源を含む触媒系の存在下で、一酸化炭素および水酸基含有化合物との反応による3個以上の炭素原子を有するエチレン系不飽和化合物のカルボニル化方法が記載されていて、この方法は、非プロトン性溶媒の存在下で行われる。WO−A−01/68583による好ましい水酸基含有化合物は、水およびアルカノールである。特に、共役ジエンのカルボニル化はこの文献においては述べられていない。
【0063】
如何なる特定の理論にも束縛されるつもりはないが、共役ジエンではないエチレン系不飽和化合物および共役ジエンは、カルボニル化反応においては、触媒金属中心を持つ完全に異なる中間体錯体を介して反応するものと考える。本発明方法による共役ジエンは、さらに反応することのできる、触媒錯体の金属中心を持つ中間体п−アリル−錯体を形成するものと考える。然しながら、共役ジエンではないエチレン系不飽和化合物は、そのようなп−アリル−錯体を形成することはできない。
【0064】
従って、当業者は、共役二重結合を持たないエチレン系不飽和化合物のカルボニル化に対して見出された結果を、共役ジエンのカルボニル化、特に、形成される生成物の反応性、化学的選択性および/または位置選択性に関わる共役ジエンのカルボニル化に当てはめることはできない。
【0065】
上記で特定されたリガンドとは反対に、WO−A−03/31457において開示されているリガンドは、本発明による、リン原子に結合する結合の周りの制限された回転を持たない。これらのリガンドのC−およびC−アルキレンバックボーンにより、それらは、架橋原子における水素置換基の存在が、カルボニル化反応に対して通常使用される条件下でリガンドの回転を妨げるための異なる可能な立体配座間に大きなエネルギー差をもたらさないと考えられるので、二面体軸の周りで、室温において十分に自由回転を示すはずである。
【0066】
パラジウムカチオン、即ち、触媒成分(a)のモル原子当りの2座ジホスフィン、即ち、触媒成分(b)のモル比は、0.5〜10、好ましくは0.8〜8、なおさらに好ましくは1〜5の範囲である。
【0067】
極めて良好な結果は、RおよびRが、リン原子を介して互いに結合するだけのそれぞれが独立に有機基であり、一方、RおよびRが一緒になって、2つの第3級炭素原子を介して2番目のリン原子に結合する二価の有機基を表す2座ジホスフィンで得られた。2つのリン原子において非対称置換を持つそのようなリガンドは、以前には記載されていず、また、カルボニル化反応にとって有用な触媒組成物におけるそれらの使用も記載されていない。従って、本発明は、また、式(II)
−(R−R−(R−P (II)
(式中、PおよびPは、リン原子を表し、RおよびRは、第3級炭素原子を含みそれを介してそれぞれの基がリン原子に結合している、同じか異なる、場合により置換されている有機基であって、リン原子Pを介して相互にしか結合しない有機基を独立に表し、RおよびRは一緒になって、第3級炭素原子を介してリン原子Pに結合する有機二価基を表し、RおよびRは、同じか異なる、場合により置換されている有機基を独立に表し、mおよびnは、0〜3の範囲の自然数を独立に表す。)の2座ジホスフィンリガンドに関する。好ましくは、RおよびRは、置換メチレン基である。
【0068】
本発明は、さらに、(a)VIII族金属源および(b)式II(式中、PおよびPは、リン原子を表し、RおよびRは、第3級炭素原子を含みそれを介してそれぞれの基がリン原子に結合している、同じか異なる、場合により置換されている有機基であって、リン原子Pを介して相互にしか結合しない有機基を独立に表し、RおよびRは一緒になって、第3級炭素原子を介してリン原子Pに結合する有機二価基を表し、RおよびRは、水素または、同じか異なる、場合により置換されている有機基を独立に表し、mおよびnは、0〜3の範囲の自然数を独立に表す。)の新規な2座ジホスフィンリガンドを含む触媒組成物を提供するものである。適切なVIII族金属としては、Pd、PtおよびRhが挙げられ、好ましくはPdおよびPtであり、共役ジエンのカルボニル化にとって最も好ましいのはPdである。
【0069】
本発明による全てのリガンドで得られた良好な結果は、高い反応性および選択性が、R、RおよびRおよびRが、第3級炭素原子を介してそれぞれのリン原子に結合する場合に得ることができるという一般的な発明的概念を証明する。
【0070】
これらの新規なリガンドは、多くの方法において、例えば、エチレン系不飽和化合物、または好ましくは共役ジエンのカルボニル化反応のための触媒組成物において有用であるが、この使用は、上記で示したように、リガンドがシス−配列にあるべきことを必要とする。
【0071】
従って、本発明は、また、共役ジエンのカルボニル化のための触媒系における、上記で示された新規な2座ジホスフィンリガンドの使用に関し、それにより、リガンドにおいて、CおよびC間の結合の周りの回転は周囲温度において制限され、C、CおよびCに直接結合したPの方向にある原子から成る3つの原子配列から成る3つの原子配列が占める面ならびにC、CおよびCに直接結合したPの方向にある原子から成る3つの原子配列が占める面との間の二面角は0〜120°の範囲にある。
【0072】
そのようなリガンドは、例えば、1−P−(1,3,5,7−テトラメチル−1,3,5−トリメチル−6,9,10−トリオキサ−2−ホスファトリシクロ[3.3.1.1{3,7}]デシル−2−(ジ−t−ブチルホスフィノメチル)ベンゼンである。
【0073】
パラジウム、即ち、触媒成分(a)のモル原子当りの2座ジホスフィン、即ち、触媒成分(b)のモル比は臨界的ではない。好ましくは、それは、0.1〜100、さらに好ましくは0.5〜10である。
【0074】
然しながら、さらに好ましい触媒にとっての活性種は、パラジウム1モル当り当モル量の2座ジホスフィンリガンドをベースとしたものと考える。従って、パラジウム1モル当りの2座ジホスフィンリガンドのモル量は、好ましくは1〜3の範囲、さらに好ましくは1〜2の範囲、なおさらに好ましくは1〜1.5の範囲である。酸素の存在においては、僅かに多い量が有利であり得る。
【0075】
本発明方法は、共役ジエンと、一酸化炭素および共反応体との反応を可能にする。共役ジエン反応体は、少なくとも4個の炭素原子を有する。好ましくは、ジエンは、4〜20個、さらに好ましくは4〜14個の炭素原子を有する。然しながら、別々の好ましい実施形態においては、この方法は、それらの分子構造内、例えば、合成ゴム等のポリマー鎖内に共役二重結合を含む分子に適用し得る。
【0076】
共役ジエンは、置換されることもできるし、非置換であることもできる。好ましくは、共役ジエンは、非置換ジエンである。有用な共役ジエンの例は、1,3−ブタジエン、共役ペンタジエン、共役ヘキサジエン、シクロペンタジエンおよびシクロヘキサジエンであり、それらの全てが置換されていてもよい。特に工業用対象物は、1,3−ブタジエンおよび2−メチル−1,3−ブタジエン(イソプレン)である。
【0077】
ジエン反応体を含む供給物は、本発明のカルボニル化反応が、ジエン供給物に対して特に選択的であるので、必ずしもアルケンとの混合物であってはならないということはない。ジエン反応体を基準にして、アルケン30モル%まで、好ましくは5モル%までの混合物でも、供給物においては許容できる。
【0078】
供給物におけるジエンおよび共反応体の比(v/v)は、広い限界の間で変動させることができ、適切には、1:0.1〜1:500の範囲にある。
【0079】
本発明による共反応体は、易動性水素原子を有しかつ触媒反応下でジエンと求核反応することのできる任意の化合物であってもよい。共反応体の性質は、形成される生成物のタイプをおおむね決定する。適切な共反応体は、水、カルボン酸、アルコール、アンモニアまたはアミン、チオール、あるいはそれらの組み合わせである。共反応体が水である限り、得られる生成物はエチレン系不飽和カルボン酸である。共反応体がカルボン酸である限りエチレン系不飽和酸無水物が得られる。アルコール共反応体に対しては、カルボニル化の生成物はエステルである。同様に、アンモニア(NH)あるいは第1級または第2級アミン、即ちRNHまたはR’R”NHの使用は、アミドを生成するが、チオールRSHの使用は、チオエステルを生成する。上記で定義された共反応体においては、R、R’および/またはR”は、場合によりヘテロ原子置換されている有機基、好ましくは、アルキル、アルケニルまたはアリール基を表す。アンモニアまたはアミンが使用される時は、これらの共反応体のほんの一部が存在する酸と反応してアミドおよび水を形成する。従って、アンモニアまたはアミン共反応体の場合は、そこに常に水が存在する。
【0080】
好ましくは、カルボン酸共反応体は、ジエン反応体と同じ数の炭素原子+1を有する。
【0081】
好ましいアルコール共反応体は、1分子当り1〜20個、さらに好ましくは1〜6個の炭素原子を持つアルカノールおよび1分子当り2〜20個、さらに好ましくは2〜6個の炭素原子を持つアルカンジオールである。アルカノールは、脂肪族、環状脂肪族または芳香族であることができる。本発明方法における適切なアルカノールとしては、メタノール、エタノール、エタンジオール、n−プロパノール、1,3−プロパンジオール、イソ−プロパノール、1−ブタノール、2−ブタノール(sec−ブタノール)、2−メチル−1−プロパノール(イソブタノール)、2−メチル−2−プロパノール(t−ブタノール)、1−ペンタノール、2−ペンタノール、3−ペンタノール、2−メチル−1−ブタノール、3−メチル−1−ブタノール(イソアミルアルコール)、2−メチル−2−ブタノール(t−アミルアルコール)、1−ヘキサノール、2−ヘキサノール、4−メチル−2−ペンタノール、3,3−ジメチル−2−ブタノール、1−ヘプタノール、1−オクタノール、1−ノナノール、1−デカノール、1,2−エチレングリコールおよび1,3−プロピレングリコールが挙げられ、これらの内でメタノールが、高い生産高を達成できる点および得られる生成物の特別の有用性により最も好ましい。
【0082】
好ましいアミンは、1分子当り1〜20個、さらに好ましくは1〜6個の炭素原子を有し、ジアミンは、1分子当り2〜20個、さらに好ましくは2〜6個の炭素原子を有する。アミンは、脂肪族、環状脂肪族または芳香族であることができる。達成される高い生産高によりさらに好ましいものは、アンモニアおよび第1級アミンである。触媒系のアニオン(c)が酸である場合においては、好ましくは、アンモニアまたはアミンの量は、アミン官能を基にした化学量論量よりも少ない。不注意で、共反応体がアンモニアである時、第1級アミンをより少ない範囲にした場合、存在する少量の酸が水を遊離してアミドに反応する。従って、そこにまた、上記に記載されたような直接反応によりアミドに転化される酸を次々に置き換える、共役ジエン、一酸化炭素および水から形成される少量の酸が常に存在する。
【0083】
チオール共反応体は、脂肪族、環状脂肪族または芳香族であることができる。好ましいチオール共反応体は、1分子当り1〜20個、さらに好ましくは1〜6個の炭素原子を持つ脂肪族チオールおよび1分子当り2〜20個、さらに好ましくは2〜6個の炭素原子を持つ脂肪族ジチオールである。
【0084】
アニオン源(c)は、反応を触媒するのに適切な任意のアニオン源であることができる。然しながら、アニオン源は、好ましくは、促進剤成分(c)としておよび反応の溶媒として役立つことのできる酸であり、さらに好ましくはカルボン酸である。なおさらに好ましくは、アニオン源は(18℃の水溶液で測定して)2.0より上のpKaを有する酸であり、なおさらに好ましくは、触媒成分(c)は、3.0より上、なおさらに好ましくは3.6より上のpKaを有する酸である。
【0085】
好ましい酸の例としては、酢酸、プロピオン酸、酪酸、ペンタン酸、ペンテン酸およびノナン酸が挙げられ、後の3つは、それらの低極性および高pKaが触媒系の反応性を増加させことが分かったので極めて好ましい。非常に都合よいことに、反応の所望の生成物に相当する酸は、触媒成分(c)として使用できる。ペンテン酸は、共役ジエンが1,3−ブタジエンである場合に特に好ましい。触媒成分(c)は、また、カルボン酸基を含むイオン交換樹脂であることもできる。これは、生成物混合物の精製を都合よく単純化する。
【0086】
アニオン源およびパラジウム、即ち、触媒成分(c)および(b)のモル比は、臨界的ではない。然しながら、これは、触媒系の高められた活性により、2:1〜10:1、さらに好ましくは10:1〜10:1、なおさらに好ましくは10:1〜10:1、最も好ましくは10:1〜10;1である。従って、共反応体が、アニオン源として役立つ酸と反応しなければならない場合は、共反応体に対する酸の量は、適切な量の遊離酸が存在するように選択されるべきである。一般に、共反応体に対する大過剰の酸は、高められる反応速度により好ましい。
【0087】
完全な触媒系が使用される量は臨界的ではなく、広い限界内で変動することができる。通常は、共約ジエンの1モル当り10−8〜10−1の範囲、好ましくは10−7〜10−2モル原子の範囲のパラジウムが使用され、好ましくは、1モル当り10−5〜10−2グラム原子の範囲が使用される。本方法は、溶媒の存在下で場合により行われてもよいが、好ましくは、成分(c)として役立つ酸が溶媒および促進剤として使用される。
【0088】
本発明によるカルボニル化反応は、中程度の温度および圧力において行われる。適切な反応温度は、0〜250℃の範囲、さらに好ましくは50〜200℃の範囲、なおさらに好ましくは80〜150℃の範囲である。
【0089】
反応圧力は、通常は少なくとも大気圧である。適切な圧力は、0.1〜15MPa(1〜150bar)の範囲、好ましくは、0.5〜8.5MPa(5〜85bar)の範囲である。0.1〜8MPa(1〜80bar)の範囲の一酸化炭素分圧が好ましく、4〜8MPaの上側範囲がさらに好ましい。高圧は、特別の装置の準備を必要とする。
【0090】
本発明方法においては、一酸化炭素は、その純粋形態においてまたは窒素、二酸化炭素等の不活性ガスまたはアルゴン等の貴ガスあるいはアンモニア等の共反応体ガスで希釈された形態において使用することができる。
【0091】
さらに、例えば、使用される一酸化炭素の量の3〜20モル%の水素の限定量の添加は、カルボニル化反応を促進する。然しながら、水素の高めの量の使用は、ジエン反応体および/または不飽和カルボン酸生成物の望ましくない水素化を引き起す傾向がある。
【0092】
本発明方法は、アンモニアまたはアミン共反応体あるいはハロゲン含有共反応体が使用される反応を除いては、窒素含有化合物またはハロゲン含有化合物を必要としない更なる利点を有する。その結果、得られる生成物は、窒素含有不純物またはハロゲン含有不純物を実質的に含まない。
【0093】
さらに、ジカルボン酸生成物組成物は、少量の分岐ジカルボン酸生成物異性体(例えば、アジピン酸生成物組成物の場合には、α−メチルグルタル酸および/またはα−エチル琥珀酸等)および、好ましくは、1.5ppmw未満の窒素含有不純物および1.5ppmw未満のハロゲン含有不純物、なおさらに好ましくは、0.1ppmw未満、最も好ましくは1ppbw未満の窒素含有不純物および1ppbw未満のハロゲン含有不純物のみを含む。1,3−ブタジエンが転化された時に、アジピン酸生成物組成物は、グルタル酸および/または琥珀酸のそれぞれを1.5ppmw未満を含み、驚くべきことに、生成物組成物において存在する少量のα−メチルグルタル酸および/またはα−エチル琥珀酸が製造プロセスにおいて著しい問題を引き起さず、その他の物性に悪い影響を及ぼすことなくポリマーの溶融温度を都合よく減少することができるので、ポリアミド製品の合成において都合よく使用することができた。従って、アジピン酸生成物は、好ましくは、グルタル酸および/または琥珀酸のそれぞれを0.1ppmw未満、さらに好ましくはグルタル酸および/または琥珀酸のそれぞれを1ppbw未満を含む。従って、本発明は、好ましくは、生成物組成物が、α−メチルグルタル酸および/またはα−エチル琥珀酸を含み、1.5ppmw未満の窒素含有不純物および1.5ppmw未満のハロゲン含有不純物を含み、グルタル酸および/または琥珀酸のそれぞれを1.5ppmw未満含む、本発明方法により得られるカルボニル化生成物組成物に関する。
【実施例】
【0094】
本発明は、以下の非限定実施例により例示される。
【0095】
(実施例1:1−P−(1,3,5,7−テトラメチル−6,9,10−トリオキサ−2−ホスファトリシクロ[3.3.1.1{3,7}]デシル)−2−(ジ−t−ブチル−ホスフィノメチル)ベンゼンリガンドの調製)
【0096】
40mlの脱気したアセトニトリル中の8.25g(33ミリモル)の2−ブロモベンジルブロマイドおよび5g(34.2ミリモル)のジ−t−ブチルホスフィンを、不活性雰囲気下で100mlのガラス反応器に量り入れ、周囲温度で12時間攪拌した。次いで、アセトニトリルを真空で除去し、30mlの脱気したトルエン、30mlの脱気した水および7.5mlのトリエチルアミンを添加した。この混合物に、相分離を改善するために10mlのエタノールを添加した。相分離によって、トルエンを含む上層を分離し、乾燥まで蒸発させた。残渣は、+34.16ppmにおいて31P NMRにおける共鳴ピークを示す、9g(28.6ミリモル、87%)の淡黄色油の(2−ブロモベンジル)(ジ−t−ブチル)ホスフィンであった。
【0097】
10mlのトルエン中の、このようにして得られた2−ブロモベンジル−(ジ−t−ブチル)ホスフィン2.5g(7.9ミリモル)、2.24gのDABCO(20ミリモル)、1.94gの1,3,5−トリメチル−4,6,9−トリオキサ−2−ホスファトリシクロ−[3.3.1.1{3,7}]デカン(9ミリモル)および0.23gのPd(PPh(0.2ミリモル)を、不活性雰囲気下で250mlのガラス反応器に添加し、容器の内容物を、12時間攪拌しながら140℃に加熱した。混合物を100℃まで冷却し、次いで、ろ過した。濾液を室温まで冷却し、次いで、添加されるメタノール30mlを添加し、混合物を12時間かけて−35℃まで冷却し、黄色結晶の1−P−(1,3,5,7−テトラメチル−6,9,10−トリオキサ−2−ホスファトリシクロ[3.3.1.1{3,7}]デシル)−2−(ジ−t−ブチル−ホスフィノメチル)ベンゼンを単離し(2.2g、4.9ミリモル、62%)、+38.08および−38.96ppmにおいて31P NMRにおける2つの別個の共鳴シグナルを示すことによって特徴付けることができた。このリガンドは、本明細書においては、さらに、α−dtb−2−pa−トリルリガンドとして参照され、式IIのリガンドを表す(ここで、R=アリール、m=0、n=1および二面角は約0°である)。
【0098】
(実施例2〜18および比較例A〜D:ブタジエンの、水を用いるカルボニル化のためのバッチ反応)
ハステロイC(HASTELLOY Cは商標名である)製の250ml磁気攪拌オートクレーブに、以下の表Iに示される量の酸、5mlの水、0.1ミリモルの酢酸パラジウムおよび以下の表Iにおいて示される量(ミリモル)のそれぞれのリガンドを順番に充填した。
【0099】
実施例2〜13および実施例18においては、リガンドは、1,2−ビス(ジ−t−ブチルホスフィノメチル)ベンゼン(さらにdtbxとして参照される、式(II)で、Rはベンゼンであり、m=n=1、二面角は約0°である)であり、実施例14においては、リガンドは、2,3−ビス(ジ−t−ブチルホスフィノメチル)ナフタレン(さらにdtbnとして参照される、式(II)で、Rはナフタレンであり、m=n=1、二面角は約0°である)であり、実施例15においては、リガンドは、1−P−(1,3,5,7−テトラメチル−6,9,10−トリオキサ−2−ホスファ−トリシクロ[3.3.1.1{3,7}]デシル)−2−(ジ−t−ブチル−ホスフィノメチル)ベンゼン(実施例1において得られたα−pa−2−dtb−トリルリガンド;式(II)で、Rはベンゼンであり、m=0、n=1、二面角は約0°である)であり、実施例16および17においては、リガンドは、1,2−ビス(P,P’−(1,3,5,7−テトラメチル−6,9,10−(2−ホスファトリオキサトリシクロ[3.3.1.1{3.7}]デシル)メチルベンゼン(さらに1,2−bpa−o−キシリルリガンドとして参照される、式(II)で、Rはベンゼンであり、m=n=1、二面角は約0°である)であった。実施例18においては、基材は、ブタジエンに代わって2−メチル−ブタジエン(イソプレン)であった。
【0100】
比較例Aにおいては、リガンドは、3−(ジ−t−ブチルホスフィノ)−2−(ジ−t−ブチルホスフィノメチル)−1−プロペンであり(本発明によるものではなく、Cおよび/またはC結合の周りの回転は制限されない)、比較例Bにおいては、リガンドは、1,2−ビス−(9−ホスファビシクロ)[3.3.1]ノニル)エタンであり(本発明によるものではなく、Cおよび/またはC結合の周りの回転は制限されず、リン原子は第3級置換基を持っていない)、比較例Cにおいては、リガンドは、1,3−ビス(ジ−t−ブチルホスフィノ)プロパノンであり(本発明によるものではなく、Cおよび/またはC結合の周りの回転は制限されない)、比較例Dにおいては、リガンドは、1,2−ビス(ジシクロ−ヘキシルホスフィノメチル)ベンゼン(本発明によるものではなく、リン原子は第3級置換基を持っていない)であった。
【0101】
次いで、オートクレーブを閉じ、排気し、20mlのブタジエンをポンプで送り込んだ。オートクレーブを、Hおよび/またはCOで、表Iにおいて示される分圧まで加圧し、密閉して、135℃に加熱し、その温度に10時間維持した。最後に、オートクレーブを冷却し、反応混合物をGLCで分析した。
【0102】
実施例2〜18においては、実際に、初期基材(ブタジエン)の100%が、10時間の反応時間内で(ペンテン)酸に転化し(実施例18においては、イソプレンがメチルペンテン酸に転化した)、一方、比較例A〜Dにおいては、転化率は15%より上の水準に達しなかった。
【0103】
このバッチ反応の初期カルボニル化速度(1時間当りPd1モル当りのモル数)は、表Iにおいて示される通り、最初の30%基材消費に対する一酸化炭素消費(圧力損失)の平均速度として実施例2〜18に対して定義される。40%の基材消費を達成しなかった比較例A〜Dに対しては、初期カルボニル化速度は、最初の2時間にわたるCO消費の平均速度として定義される。
【0104】
【表1】



【0105】
(実施例19および比較例EおよびF:ブタジエンのメタノールを用いるペンタノエートへのカルボニル化のためのバッチ反応)
250ml磁気攪拌オートクレーブに、酢酸パラジウム(0.1ミリモル)、20mlのメタノール、40mlのペンテン酸および0.5ミリモルのリガンドを順番に充填した。
【0106】
実施例19においては、実施例1〜13における同じリガンドが使用され、比較例Eにおいては、比較例Bにおける同じリガンドが使用された。
【0107】
次いで、オートクレーブを閉じ、排気し、窒素で洗い流し、20mlのブタジエンをポンプで送り込んだ。オートクレーブを、COで6Mpaまで加圧し、密閉して、135℃に加熱し、その温度に10時間維持した。比較例EおよびFにおいては、一酸化炭素の消費は観察されず、約30%のブタジエンが、4−ビニルシクロヘキセンおよびブタジエンポリマーの混合物に反応した。
【0108】
【表2】

【0109】
(実施例20〜21および比較例G:ブタジエンの、酸を用いる酸無水物を経るペンテン酸へのカルボニル化のためのバッチ反応)
250ml磁気攪拌オートクレーブに、20mlの酢酸、40mlのジグリム、酢酸パラジウム(実施例20においては0.25ミリモル、実施例21および比較例Gにおいては0.1ミリモル)および0.5ミリモルのそれぞれのリガンドを順番に充填した。実施例20および21においては、実施例1〜13における同じリガンドが使用され、比較例Gにおいては、比較例Aにおける同じリガンドが使用された。
【0110】
次いで、オートクレーブを閉じ、排気し、10mlのブタジエンをポンプで送り込んだ。オートクレーブを、COで4Mpaまで加圧し、密閉して、135℃に加熱し、その温度に10時間維持した。冷却後、内容物をGLCで分析した。
【0111】
初期カルボニル化速度は、実施例1〜18および比較例A〜Dと同様に定義された。
【0112】
実施例20においては、ペンテン酸へのブタジエン転化率は>90%であり、酢酸の無水酢酸への転化率は35%であった。初期カルボニル化速度は、400モル/モルPd/時間であった。
【0113】
実施例21においては、実施例20と同様の転化率が測定されたが、反応速度は900モル/モルPd/時間であった。
【0114】
比較例Gにおいては、ペンテン酸へのブタジエン転化率は15%であり、酢酸の無水酢酸への転化率は5%であった。反応速度は60モル/モルPd/時間であった。
【0115】
(実施例22:ブタジエンからペンテン酸を製造するための半連続反応)
1.2リットルの磁気攪拌オートクレーブに、150mlのノナン酸および5mlの水を充填した。オートクレーブを、3.0MPaでCOで3回脱気した。次に、オートクレーブをCOで5.0MPaまで加圧し、続いて20mlのブタジエンを添加した。次に、10gのノナン酸に溶解した、0.1ミリモルの酢酸パラジウムおよび0.5ミリモルの1,2−ビス(ジ−t−ブチルホスフィノメチル)ベンゼンの溶液から成る触媒を注入した。注入器を、さらに10gのノナン酸で洗浄した。
【0116】
次に、ブタジエンおよび水を、それぞれ40〜50ミリモル/時間の速度で、反応器に連続して添加し、30分にわたり130℃まで加熱した。この温度に到達した時に、圧力を8.0MPaに調整した。この状態を68時間維持した。冷却後、混合物を70〜80℃および10Paで蒸留し、GLCで分析した以下の組成を有する混合物304gを得た。
【0117】
【表3】

【0118】
この半連続操作のカルボニル化速度は、1時間当りPdの1モル当りの反応したブタジエンのモル数として、および全生産高は、Pdの1モル当りの反応したブタジエンのモル数として定義される。上記結果を基にした68時間の操作中の平均カルボニル化速度は390であり、全生産高は26000であった。
【0119】
(実施例23〜26:実施例20の混合生成物の、アジピン酸へのバッチの更なるヒドロカルボキシル化)
上記で特定された実施例21の混合蒸留生成物のそれぞれ30mlの4つのバッチを、次のように、COおよび水とさらに反応させた。
【0120】
ハステロイC製の250ml磁気攪拌オートクレーブに、以下の表IIIにおいて特定される水および実施例21の蒸留生成物30mlを充填した。次いで、0.1モルの酢酸パラジウムおよび0.5モルの1,2−ビス(ジ−t−ブチルホスフィノメチル)−ベンゼンリガンドを添加し、オートクレーブを閉じて排気した。オートクレーブを、Hおよび/またはCOで、表IIIにおいて示される分圧まで加圧し、密閉して、135℃に加熱し、その温度に15時間維持した。最後に、オートクレーブを冷却し、反応混合物をGLCで分析した。
【0121】
反応混合物は、殆どが完全に固体アジピン酸から成っていた。THFを添加してTHFにおけるアジピン酸のスラリーを形成した。THF相をGLCで分析し、残留ペンテン酸から、ペンテン酸の転化率を決定した。全ての実験において、ペンテン酸の転化率は90%よりも高かった。アジピン酸に対する選択率は>95%であった。
【0122】
このバッチ操作の初期カルボニル化速度(1時間当りPd1モル当りのモル数)は、表IIIにおいて示される通り、最初の30%基材消費に対する一酸化炭素消費(圧力損失)の平均速度として定義される。
【0123】
【表4】

【0124】
(実施例27および28:ブタジエンのアジピン酸への直接カルボニル化)
第1工程において、ハステロイC製の250ml磁気攪拌オートクレーブに、35mlのペンテン酸、5mlの水、0.1ミリモルの酢酸パラジウムおよび0.5ミリモルの1,2−ビス(ジ−t−ブチルホスフィノメチル)ベンゼンリガンドを順番に充填した。次いで、オートクレーブを閉じて排気し、20mlのブタジエンをポンプで送り込んだ。オートクレーブを、COで6MPaまで加圧し、密閉して、135℃まで加熱し、その温度に10時間維持した。冷却後、オートクレーブを開放し、サンプルを取り出し、THFでスラリーを形成し、GLCで分析した。実際に、初期基材(ブタジエン)の100%が、10時間の反応時間内で(ペンテン)酸に転化したことが分かった。
【0125】
第2工程においては、冷却後、7mlの水をオートクレーブに添加し、オートクレーブをCOで6MPaまで再度加圧し、135℃まで加熱し、その温度にさらに10時間維持した。冷却後、内容物をTHFにおいてスラリー化し、GLCで分析した。ブタジエンおよびペンテン酸が、95%を超えてアジピン酸に転化したことが分かった。濾過による回収量は69gであった。
【0126】
両方の工程におけるこのバッチ操作の初期カルボニル化速度(1時間当りPd1モル当りのモル数)は、最初の30%基材消費に対する一酸化炭素消費(圧力損失)の平均速度として定義される。第1工程の速度は400モル/モルPd/時間であった。第2工程の速度は550モル/モルPd/時間であった。
【0127】
(実施例29:ブタン−ブテン−ブタジエン供給混合物のアジピン酸への直接カルボニル化)
第1工程において、ハステロイC製の250ml磁気攪拌オートクレーブに、35mlの実施例21の生成混合物(その内の84%はペンテン酸であった)、5mlの水、0.1ミリモルの酢酸パラジウムおよび0.5ミリモルの1,2−ビス[ジ−(t−ブチル)ホスフィノメチル]ベンゼンリガンドを順番に充填した。次いで、オートクレーブを閉じて排気し、31gの以下の組成のブタン−ブテン−ブタジエン供給混合物をポンプで送り込んだ。
【0128】
【表5】

【0129】
オートクレーブを、COで6MPaまで加圧し、密閉して、135℃まで加熱し、その温度に10時間維持した。冷却後、オートクレーブを開放し、サンプルを取り出し、THFでスラリー化し、GLCで分析した。実際に、初期基材(ブタジエン)の100%が、10時間の反応時間内で(ペンテン)酸に転化し、一方、ブテンの転化率は2%に達しなかったことが分かった。
【0130】
第2工程においては、2mlの水を添加し、オートクレーブを再度閉じて、BBB供給混合物由来の任意の残留オレフィンを除去するために排気し、COで6MPaまで再度加圧し、135℃まで加熱した。2.5時間後、さらに5mlの水を注入し(8MPaのCOを使用して)この圧力および温度をさらに8時間維持した。冷却後、固体内容物を、反応器の外でTHFでスラリー化し、再結晶化して43gの固体を得、H NMR(溶媒、d−DMSO)による分析で、>99%の純粋アジピン酸であることが示された。両方の工程におけるこのバッチ操作の初期カルボニル化速度(1時間当りPd1モル当りのモル数)は、最初の30%基材消費に対する一酸化炭素消費(圧力損失)の平均速度として定義される。
【0131】
第1工程の速度は1150モル/モルPd/時間であった。
【0132】
第2工程の速度は200モル/モルPd/時間であった。
【0133】
(実施例30:ブタジエンからアジピン酸を製造するための半連続反応)
1.2リットルの磁気攪拌オートクレーブに、150mlのノナン酸および5mlの水を充填した。オートクレーブを、3.0MPaでCOで3回脱気した。次に、オートクレーブをCOで5.0MPaまで加圧し、続いて20mlのブタジエンを添加した。次に、10gのノナン酸に溶解した、0.1ミリモルの酢酸パラジウムおよび0.5ミリモルの1,2−ビス(ジ−t−ブチルホスフィノメチル)ベンゼンの溶液から成る触媒を注入した。注入器を、さらに10gのノナン酸で洗浄した。
【0134】
次に、ブタジエンおよび水を、それぞれ40〜50ミリモル/時間の速度で、反応器に連続して添加し、30分にわたり130℃まで加熱した。この温度に到達した時に、圧力を8.0MPaに調整した。これらの状態を約10時間維持し、一定間隔でサンプルを採取した。30,000モルペンテン酸/モル触媒のTONおよび約97%のペンテン酸に対する選択率が達成されたら、ブタジエン供給を停止し、残留ブタジエンを反応させた。次いで、水を、水の濃度が反応混合物の約10%w/wになるまで添加し、以前と同じ条件下(8.0MPaのCO圧および135℃)で反応を続け、ペンテン酸を完全に転化した。
【0135】
冷却後、圧を解放し、オートクレーブの内容物をTHFでスラリー化し、GLCで分析した。ペンテン酸はアジピン酸に転化し、選択率は97%を超え、ブタジエンからアジピン酸への全体の選択率は94%であった。第2反応のTONは、10,000モルアジピン酸/モル触媒であった。この反応において調製されたアジピン酸は、1.5ppmwの窒素含有不純物および1.5ppmwのハロゲン含有不純物ならびに0.1ppmwのグルタル酸および琥珀酸を含んでいた。
【0136】
(実施例31:ブタジエンのアミド化)
ハステロイC(HASTELLOYは、Haynes International、Inc.の登録商標である)製の250mlオートクレーブに、0.1ミリモルの酢酸パラジウムおよび0.5ミリモルの1,2−ビス[ジ(t−ブチル)ホスフィノメチル]ベンゼンリガンド、0.1ミリモルの酢酸パラジウム(II)および34mlのペンテン酸を充填した。次いで、オートクレーブを、NHで0.2MPa(2bar)まで加圧した。続いて、10mlの1,3−ブタジエンを反応器にポンプで送り込み、反応器を一酸化炭素で6MPa(60bar)まで加圧した。オートクレーブを密閉した後、その内容物を135℃の温度まで加熱し、その温度に7時間維持した。冷却後、サンプルをオートクレーブの内容物から採取し、ガス液体クロマトグラフィーで分析した。
【0137】
1,3−ブタジエンおよびアンモニアは100%転化し、2−および3−ペンテンアミドに対する選択率は約99%であり、残りは痕跡のペンテン酸無水物を含んでいた。
【0138】
上記の実験は、共役ジエンのカルボニル化が、完全な転化に向けて極めて高い生産速度で高めに、そして、ついでに言えば、ハロゲン含有不純物を含まず、アミド化生成物を除いて、また窒素含有不純物をも含まない線状生成物に対する高い全体的選択率を伴って進行することを示すものである。
【0139】
さらに、新規なリガンドおよび、容易な入手可能性を伴う選択的触媒系を提供するそれらの調製のための方法が記載される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)パラジウム源、および
(b)式II
> P−R−R−R−P< R (II)
(式中、PおよびPは、リン原子を表し、R、R、RおよびRは、第3級炭素原子を含みそれを介してそれぞれの基が前記リン原子に結合している、同じか異なる、場合により置換されている有機基を独立に表し、RおよびRは、同じか異なる、場合により置換されているメチレン基を独立に表し、Rは、二価の架橋基C−Cを含みそれを介してRがRおよびRに結合している有機基を表し、mおよびnは、0から4の範囲の自然数を独立に表し、前記架橋基の炭素原子CおよびC間の結合の周りの回転は、0℃から250℃の範囲の温度において制限され、C、CおよびCに直接結合したPの方向にある原子から成る3つの原子配列が占める面ならびにC、CおよびCに直接結合したPの方向にある原子から成る3つの原子配列が占める面との間の二面角は、0から120°の範囲にある。)の2座ジホスフィンリガンド、および
(c)アニオン源
を含む触媒系の存在下で、共役ジエンを、一酸化炭素および易動性水素原子を有する共反応体と反応させることを含む、共役ジエンのカルボニル化方法。
【請求項2】
前記アニオン源(c)が、水溶液において18℃で測定して、3を超えるpKaを有する酸である請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記炭素原子CおよびCの間の結合の周りの前記回転が、周囲温度で制限される請求項1または2のいずれか一項に記載の方法。
【請求項4】
Rが、場合により置換されている芳香族基である請求項3までのいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
nが1であり、mが0または1である請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
およびRが、メチレン基を表す請求項1から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記一酸化炭素に対して、3から20モル%の量の水素を添加する請求項1から6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
、R、RおよびRが、それぞれ、第3級ブチル基を表す請求項1から7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
およびRが一緒になって、および/またはRおよびRが一緒になって、2−ホスファ−アダマンタン構造、ホスフィナン−4−オン構造またはホスフィナン−4−チオン構造の一部である請求項1から8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記共役ジエンが、1,3−ブタジエンまたは2−メチル−1,3−ブタジエンである請求項1から9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記触媒成分(c)が、触媒成分(b)のパラジウムに対してモル比で、10:1から10:1の範囲において存在する請求項1から10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記ジエンを、一酸化炭素ならびに(水およびカルボン酸の群から選ばれる)共反応体と、
(a)パラジウム源、
(b)式II
> P−R−R−R−P< R (II)
(式中、Pは、リン原子を表し、R、R、RおよびRは、第3級炭素原子を含みそれを介して基が前記リン原子に結合している、同じか異なる、場合により置換されている有機基を独立に表し、RおよびRは、場合により置換されているアルキレン基を独立に表し、Rは、場合により置換されている芳香族基を表す。)の2座ジホスフィン、
(c)水溶液において18℃で測定して、3を超えるpKaを有する酸から誘導されるアニオン源
を含む触媒系の存在下で反応させる請求項1から11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記反応温度が50から250℃の範囲であり、前記反応圧力が0.1から15MPaの範囲であり、前記一酸化炭素の分圧が0.1から6.5MPaの範囲である請求項1から12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
式II
> P−R−R−R−P< R (II)
(式中、PおよびPは、リン原子を表し、RおよびRは、同じか異なる、場合により置換されている有機基を独立に表し、Rは、二価の架橋基C−Cを含みそれを介してRがRおよびRに結合している有機基を表し、mおよびnは、0から4の範囲の自然数を独立に表し、RおよびRが一緒になった対またはRおよびRが一緒になった対の1つは、第3級炭素原子を含みそれを介してそれぞれの基が前記リン原子に結合し、これらの基は前記リン原子PまたはPを介して相互にしか結合しない、同じか異なる、場合により置換されている有機基を独立に表し、別のRおよびRが一緒になった対またはRおよびRが一緒になった対は、第3級炭素原子を介して前記リン原子PまたはPに結合した有機二価基を表す。)を特徴とする請求項1から13のいずれか一項に記載の方法の触媒組成物における使用のための2座ジホスフィンリガンド。
【請求項15】
(a)VIII族の金属源、および
(b)請求項14に記載の2座ジホスフィンリガンド
を含む触媒組成物。
【請求項16】
前記2座ジホスフィンリガンドにおいて、C、CおよびCに直接結合したPの方向にある原子から成る3つの原子配列が占める面ならびにC、CおよびCに直接結合したPの方向にある原子から成る3つの原子配列が占める面との間の二面角が0から120°の範囲にある請求項15に記載の触媒組成物。
【請求項17】
1.5ppmw未満の窒素含有不純物および1.5ppmw未満のハロゲン含有不純物を含む請求項1から13のいずれか一項に記載の方法により得られるカルボニル化生成物組成物。
【請求項18】
1,3−ブタジエンから誘導され、α−メチルグルタル酸および/またはα−エチル琥珀酸を含み、1.5ppmw未満のグルタル酸および/または琥珀酸を含む請求項17に記載のカルボニル化生成物組成物。

【公表番号】特表2007−502315(P2007−502315A)
【公表日】平成19年2月8日(2007.2.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−530189(P2006−530189)
【出願日】平成16年5月13日(2004.5.13)
【国際出願番号】PCT/EP2004/050794
【国際公開番号】WO2004/103948
【国際公開日】平成16年12月2日(2004.12.2)
【出願人】(590002105)シエル・インターナシヨナル・リサーチ・マートスハツペイ・ベー・ヴエー (301)
【Fターム(参考)】