説明

共役ジエン系エラストマーおよびその製造方法並びにゴム組成物、ゴム弾性体およびタイヤ

【課題】優れた機械的強度を有するゴム弾性体を得ることのできる共役ジエン系エラストマーおよびその製造方法並びにゴム組成物を提供すること、また、優れた機械的強度を有するゴム弾性体およびタイヤを提供する。
【解決手段】共役ジエン系エラストマーは、共役ジエン化合物に由来の繰り返し単位、または、共役ジエン化合物に由来の繰り返し単位と単環芳香族ビニル化合物に由来の繰り返し単位とを含有する共役ジエン系エラストマーにおいて、芳香族系の多環式化合物に由来の置換基または芳香族系の多環式化合物に由来の繰り返し単位を有することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、共役ジエン系エラストマーおよびその製造方法、並びにゴム組成物、ゴム弾性体およびタイヤに関し、更に詳しくは、例えばタイヤのトレッド用の原料として好適な共役ジエン系エラストマーおよびその製造方法、当該共役ジエン系エラストマーを含有するゴム組成物、当該ゴム組成物から得られるゴム弾性体、および当該ゴム弾性体よりなるトレッドを有するタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車のタイヤのトレッド用のゴム組成物としては、共役ジエン系エラストマーよりなるゴム成分および架橋剤と共に、例えばカーボンブラックなどの補強剤が配合されてなるものが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
一方、近年、自動車としては、環境保護の観点から、ガソリンを燃料とする自動車(ガソリン車)に代えて電気自動車が用いられてきているが、この電気自動車においては、ガソリン車に比して走行中のエンジン音などが小さいことから、ガソリン車以上にタイヤ騒音が問題となることが予測されており、このタイヤ騒音を低減化するために、例えばタイヤ幅を小さくすることなどが検討されている。また、自動車の燃費性能の観点からは、タイヤの質量を低減化するために、タイヤを薄肉化することなどが検討されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−209256号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
而して、本発明者らは、タイヤの小幅化およびタイヤの薄肉化にあたってはタイヤには更なる機械的強度が必要とされると考え、タイヤの高強度化を図ることを目的として、自動車タイヤのトレッド用のゴム組成物のゴム成分の構成要素として広く用いられている共役ジエン系エラストマーについて研究を重ねた。
【0006】
本発明は、以上のような事情に基づいてなされたものであって、その目的は、優れた機械的強度を有するゴム弾性体を得ることのできる共役ジエン系エラストマーおよびその製造方法並びにゴム組成物を提供することにある。
また、本発明のその他の目的は、優れた機械的強度を有するゴム弾性体およびタイヤを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の共役ジエン系エラストマーは、共役ジエン化合物に由来の繰り返し単位、または、共役ジエン化合物に由来の繰り返し単位と単環芳香族ビニル化合物に由来の繰り返し単位とを含有する共役ジエン系エラストマーにおいて、
芳香族系の多環式化合物に由来の置換基または芳香族系の多環式化合物に由来の繰り返し単位を有することを特徴とする。
【0008】
本発明の共役ジエン系エラストマーにおいては、前記芳香族系の多環式化合物がアセナフチレン化合物、フルオレノン化合物、ビニルナフタレン化合物、ビニルアントラセン化合物、ビニルフルオレン化合物、アントラキノン化合物、ビニルビフェニル化合物、ビニルターフェニル化合物およびビニルインデン化合物から選ばれる少なくとも1種の化合物であることが好ましい。
【0009】
本発明の共役ジエン系エラストマーにおいては、前記芳香族系の多環式化合物が下記一般式(1)で表わされるアセナフチレン化合物であることが好ましい。
【0010】
【化1】

【0011】
〔式中、R1 は、水素原子、アルキル基、アリル基、アリール基、アラルキル基、ヒドロキシ基、カルボキシル基、第1級アミノ基、第2級アミノ基、第3級アミノ基またはエポキシ基を示す。〕
【0012】
本発明の共役ジエン系エラストマーにおいては、前記芳香族系の多環式化合物が下記一般式(2)で表わされるフルオレノン化合物であることが好ましい。
【0013】
【化2】

【0014】
〔式中、R2 は、水素原子、アルキル基、アリル基、アリール基またはアラルキル基を示す。〕
【0015】
本発明の共役ジエン系エラストマーにおいては、前記芳香族系の多環式化合物が下記一般式(3)で表わされるビニルナフタレン化合物であることが好ましい。
【0016】
【化3】

【0017】
〔式中、R3 は、水素原子、アルキル基、アリル基、アリール基またはアラルキル基を示す。〕
【0018】
本発明の共役ジエン系エラストマーにおいては、前記芳香族系の多環式化合物が下記一般式(4)で表わされるビニルアントラセン化合物であることが好ましい。
【0019】
【化4】

【0020】
〔式中、R4 は、水素原子、アルキル基、アリル基、アリール基またはアラルキル基を示す。〕
【0021】
本発明の共役ジエン系エラストマーの製造方法は、前記の共役ジエン系エラストマーを得るための共役ジエン系エラストマーの製造方法であって、
共役ジエン化合物、または、共役ジエン化合物および単環芳香族ビニル化合物と、芳香族系の多環式化合物とを共重合する工程を有することを特徴とする。
【0022】
本発明の共役ジエン系エラストマーの製造方法は、前記の共役ジエン系エラストマーを得るための共役ジエン系エラストマーの製造方法であって、
共役ジエン化合物を重合することによって得られる重合体、または、共役ジエン化合物と単環芳香族ビニル化合物とを共重合することによって得られる重合体に、芳香族系の多環式化合物に由来の置換基を導入する工程を有することを特徴とする。
【0023】
本発明のゴム組成物は、前記の共役ジエン系エラストマーと、シリカおよび/またはカーボンブラックと、架橋剤とを含有することを特徴とする。
【0024】
本発明のゴム弾性体は、前記のゴム組成物を架橋処理することにより得られることを特徴とする。
【0025】
本発明のタイヤは、前記のゴム弾性体よりなるトレッドを有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0026】
本発明の共役ジエン系エラストマーは、芳香族系の多環式化合物に由来の繰り返し単位または芳香族系の多環式化合物に由来の置換基を有するものであり、この芳香族系の多環式化合物に由来の繰り返し単位または芳香族系の多環式化合物に由来の置換基の作用によって、当該共役ジエン系エラストマーを含有するゴム組成物から得られるゴム弾性体において高い引張強度および耐摩耗性が発現される。
従って、本発明の共役ジエン系エラストマーによれば、優れた機械的強度を有するゴム弾性体を得ることができる。
【0027】
本発明の共役ジエン系エラストマーの製造方法によれば、芳香族系の多環式化合物に由来の繰り返し単位または芳香族系の多環式化合物に由来の置換基を有する本発明の共役ジエン系エラストマーを得ることができる。
【0028】
本発明のゴム組成物によれば、その構成成分として本発明の共役ジエン系エラストマーが用いられていることから、優れた機械的強度を有するゴム弾性体を得ることができる。
【0029】
本発明のゴム弾性体および本発明のタイヤによれば、本発明のゴム組成物よりなるものであることから、優れた機械的強度が得られる。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本発明の実施の形態について説明する。
【0031】
本発明の共役ジエン系エラストマーは、共役ジエン化合物に由来の繰り返し単位、または、共役ジエン化合物に由来の繰り返し単位と単環芳香族ビニル化合物に由来の繰り返し単位とを含有し、更に芳香族系の多環式化合物に由来の置換基または芳香族系の多環式化合物に由来の繰り返し単位を有する共役ジエン系重合体よりなることを特徴とするものである。
本発明の共役ジエン系エラストマーには、下記の(1)〜(4)の共役ジエン系エラストマーが包含される。
ここに、本明細書中において「芳香族系の多環式化合物」とは、分子内に芳香族環を2個以上有する化合物を意味し、複数の環が2個以上の原子を共有してなる構造を有するものであってもよく、複数の環が単結合で連なった構造を有するものであってもよい。
【0032】
(1)共役ジエン化合物に由来の繰り返し単位と、単環芳香族ビニル化合物に由来の繰り返し単位と、芳香族系の多環式化合物に由来の繰り返し単位とを含有する共役ジエン系エラストマー(以下、「特定共役ジエン系エラストマー(1)」ともいう。)
(2)共役ジエン化合物に由来の繰り返し単位と、芳香族系の多環式化合物に由来の繰り返し単位とを含有する共役ジエン系エラストマー(但し、特定共役ジエン系エラストマー(1)を除く。以下、「特定共役ジエン系エラストマー(2)」ともいう。)
(3)共役ジエン化合物に由来の繰り返し単位と、単環芳香族ビニル化合物に由来の繰り返し単位とを含有し、芳香族系の多環式化合物に由来の置換基を有する共役ジエン系エラストマー(以下、「特定共役ジエン系エラストマー(3)」ともいう。)
(4)共役ジエン化合物に由来の繰り返し単位を含有し、芳香族系の多環式化合物に由来の置換基を有する共役ジエン系エラストマー(但し、特定共役ジエンエラストマー(3)を除く。以下、「特定共役ジエン系エラストマー(4)」ともいう。)
【0033】
本発明の共役ジエン系エラストマーを得るための芳香族系の多環式化合物としては、アセナフチレン化合物、フルオレノン化合物、ビニルナフタレン化合物、ビニルアントラセン化合物、ビニルフルオレン化合物、アントラキノン化合物、ビニルビフェニル化合物、ビニルターフェニル化合物およびビニルインデン化合物から選ばれる少なくとも1種の化合物であることが好ましい。
これらのうちでは、アセナフチレン化合物、フルオレノン化合物、ビニルナフタレン化合物およびビニルアントラセン化合物が好ましく、特に特定共役ジエン系エラストマー(1)および特定共役ジエン系エラストマー(2)を得るために用いられる芳香族系の多環式化合物に由来の繰り返し単位を構成する芳香族系の多環式化合物としては、アセナフチレン化合物、ビニルナフタレン化合物、ビニルアントラセン化合物が好ましく、また特に特定共役ジエン系エラストマー(3)および特定共役ジエン系エラストマー(4)に係る芳香族系の多環式化合物に由来の置換基を構成する芳香族系の多環式化合物としては、アセナフチレン化合物、フルオレノン化合物が好ましい。
【0034】
前記アセナフチレン化合物としては、上記一般式(1)で表されるアセナフチレン化合物が好ましい。
【0035】
アセナフチレン化合物に係る一般式(1)において、R1 は、水素原子、アルキル基、アリル基、アリール基、アラルキル基、ヒドロキシ基、カルボキシル基、第1級アミノ基、第2級アミノ基、第3級アミノ基またはエポキシ基を示す。
アルキル基としては、例えばメチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、s−ブチル基、イソブチル基、t−ブチル基、アミル基、ヘキシル基などが挙げられる。
アリール基としては、例えばフェニル基、o−トリル基、m−トリル基、p−トリル基、1−ナフチル基、2−ナフチル基などが挙げられる。
アラルキル基としては、例えばベンジル基などが挙げられる。
第2級アミノ基としては、例えば炭素数1〜8のアルキル基が窒素原子に結合した、第2級アミノ基が挙げられる。
第3級アミノ基としては、例えば炭素数1〜8のアルキル基が窒素原子に結合した、第2級アミノ基が挙げられる。
【0036】
また、一般式(1)においてR1 がアルキル基、アリル基、アリール基またはアラルキル基である場合には、R1 は、アセナフチレン環における位置番号が3位、4位、5位、6位、7位または8位の炭素原子に結合されていることが好ましい。
【0037】
一般式(1)で表されるアセナフチレン化合物の好ましい具体例としては、例えばアセナフチレンが挙げられる。
【0038】
前記フルオレノン化合物としては、上記一般式(2)で表されるフルオレノン化合物が好ましい。
【0039】
フルオレノン化合物に係る一般式(2)において、R2 は、水素原子、アルキル基、アリル基、アリール基またはアラルキル基を示す。
アルキル基としては、例えばメチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、s−ブチル基、イソブチル基、t−ブチル基、アミル基、ヘキシル基などが挙げられる。
アリール基としては、例えばフェニル基、o−トリル基、m−トリル基、p−トリル基、1−ナフチル基、2−ナフチル基などが挙げられる。
アラルキル基としては、例えばベンジル基などが挙げられる。
【0040】
また、一般式(2)においてR2 がアルキル基、アリル基、アリール基またはアラルキル基である場合には、R2 は、フルオレノン環における位置番号が1位、2位、3位または4位の炭素原子に結合されていることが好ましい。
【0041】
一般式(2)で表されるフルオレノン化合物の好ましい具体例としては、例えば9−フルオレノンが挙げられる。
【0042】
前記ビニルナフタレン化合物としては、上記一般式(3)で表されるビニルナフタレン化合物が好ましい。
【0043】
ビニルナフタレン化合物に係る一般式(3)において、R3 は、水素原子、アルキル基、アリル基、アリール基またはアラルキル基を示す。
アルキル基としては、例えばメチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、s−ブチル基、イソブチル基、t−ブチル基、アミル基、ヘキシル基などが挙げられる。
アリール基としては、例えばフェニル基、o−トリル基、m−トリル基、p−トリル基、1−ナフチル基、2−ナフチル基などが挙げられる。
アラルキル基としては、例えばベンジル基などが挙げられる。
【0044】
また、一般式(3)においてR3 がアルキル基、アリル基、アリール基またはアラルキル基である場合には、R3 は、ナフタレン環における位置番号が2位、3位、4位、5位、6位、7位、8位の炭素原子に結合されていることが好ましい。
【0045】
一般式(3)で表されるビニルナフタレン化合物の好ましい具体例としては、例えば1−ビニルナフタレンが挙げられる。
【0046】
また、前記ビニルナフタレン化合物としては、一般式(3)で表されるビニルナフタレン化合物の他、例えば2−ビニルナフタレンなどが挙げられる。
【0047】
前記ビニルアントラセン化合物としては、上記一般式(4)で表されるビニルアントラセン化合物が好ましい。
【0048】
ビニルアントラセン化合物に係る一般式(4)において、R4 は、水素原子、アルキル基、アリル基、アリール基またはアラルキル基を示す。
アルキル基としては、例えばメチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、s−ブチル基、イソブチル基、t−ブチル基、アミル基、ヘキシル基などが挙げられる。
アリール基としては、例えばフェニル基、o−トリル基、m−トリル基、p−トリル基、1−ナフチル基、2−ナフチル基などが挙げられる。
アラルキル基としては、例えばベンジル基などが挙げられる。
【0049】
また、一般式(4)においてR4 がアルキル基、アリル基、アリール基またはアラルキル基である場合には、R4 は、アントラセン環における位置番号が1位、2位、3位、4位、5位の炭素原子に結合されていることが好ましい。
【0050】
一般式(4)で表されるビニルアントラセン化合物の好ましい具体例としては、例えば9−ビニルアントラセンが挙げられる。
【0051】
また、前記ビニルアントラセン化合物としては、一般式(4)で表されるビニルアントラセン化合物の他、例えば1−ビニルアントラセン、2−ビニルアントラセンなどが挙げられる。
【0052】
前記ビニルフェニル化合物の具体例としては、例えば2−ビニルビフェニル、3−ビニルビフェニル、4−ビニルビフェニルなどが挙げられる。
前記ビニルターフェニル化合物の具体例としては、例えば2−ビニル−1,1’:4’,1”−ターフェニル、3−ビニル−1,1’:4’,1”−ターフェニル、4−ビニル−1,1’:4’,1”−ターフェニル、2’−ビニル−1,1’:4’,1”−ターフェニル、2−ビニル−1,1’:3’,1”−ターフェニル、3−ビニル−1,1’:3’,1”−ターフェニル、4−ビニル−1,1’:3’,1”−ターフェニル、2’−ビニル−1,1’:3’,1”−ターフェニル、4’−ビニル−1,1’:3’,1”−ターフェニル、5’−ビニル−1,1’:3’,1”−ターフェニルなどが挙げられる。
前記ビニルフルオレン化合物の具体例としては、例えば1−ビニルフルオレン、2−ビニルフルオレン、9−ビニルフルオレンなどが挙げられる。
前記アントラキノン化合物の具体例としては、例えばアントラキノンなどが挙げられる。
前記ビニルインデン化合物の具体例としては、例えば1−ビニルインデン、2−ビニルインデン、3−ビニルインデン、4−ビニルインデン、5−ビニルインデン、6−ビニルインデン、7−ビニルインデンなどが挙げられる。
【0053】
そして、本発明の共役ジエン系エラストマーは、下記のような本発明の共役ジエン系エラストマーの製造方法によって製造することができる。
【0054】
(A)共役ジエン化合物、または、共役ジエン化合物および単環芳香族ビニル化合物と、芳香族系の多環式化合物とを共重合する工程(以下、「芳香族系の多環式化合物共重合工程」ともいう。)を有することを特徴とする共役ジエン系エラストマーの製造方法(以下、「特定の製造方法(A)」ともいう。)
(B)共役ジエン化合物を重合することによって得られる重合体、または、共役ジエン化合物と単環芳香族ビニル化合物とを共重合することによって得られる重合体に、芳香族系の多環式化合物に由来の置換基を導入する工程(以下、「芳香族系の多環式化合物導入工程」ともいう。)を有することを特徴とする共役ジエン系エラストマーの製造方法(以下、「特定の製造方法(B)」ともいう。)
【0055】
具体的には、特定の製造方法(A)によれば、共役ジエン系化合物と、単環芳香族ビニル化合物と、芳香族系の多環式化合物とを共重合することによって特定共役ジエン系エラストマー(1)を得ることができ、また、共役ジエン系化合物と、芳香族系の多環式化合物とを共重合することによって特定共役ジエン系エラストマー(2)を得ることができる。
また、特定の製造方法(B)によれば、共役ジエン化合物と単環芳香族ビニル化合物とを共重合することによって得られる重合体に、芳香族系の多環式化合物に由来の置換基を導入するとによって特定共役ジエン系エラストマー(3)を得ることができ、また、共役ジエン化合物を重合することによって得られる重合体に、芳香族系の多環式化合物に由来の置換基を導入するとによって特定共役ジエン系エラストマー(4)を得ることができる。
【0056】
本発明の共役ジエン系エラストマーの製造方法に係る特定の製造方法(A)においては、例えば、有機溶剤中において、共役ジエン化合物、または、共役ジエン化合物および単環芳香族ビニル化合物を、アルカリ金属化合物またはアルカリ土類金属化合物よりなる重合開始剤を用いて重合させる芳香族系の多環式化合物共重合工程を経ることにより、芳香族系の多環式化合物に由来の繰り返し単位を有する共役ジエン系エラストマー(具体的には、特定共役ジエン系エラストマー(1)または特定共役ジエン系エラストマー(2))が得られる。
【0057】
特定の製造方法(A)に係る芳香族系の多環式化合物共重合工程において、有機溶剤としては、反応に不活性な炭化水素溶媒が用いられる。
炭化水素溶媒としては、炭素数が3〜8の炭化水素溶媒が好ましく、炭素数3〜8の炭化水素溶媒としては、例えばプロパン、n−ブタン、イソブタン、n−ペンタン、イソペンタン、n−へキサン、シクロへキサン、プロペン、1−ブテン、イソブテン、トランス−2−ブテン、シス−2−ブテン、1−ペンチン、2−ペンチン、1−ヘキセン、2−ヘキセン、ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼンなどが挙げられる。これらは単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることもできる。
【0058】
特定の製造方法(A)に係る芳香族系の多環式化合物共重合工程において、重合開始剤として用いられるアルカリ金属化合物としては、例えばアルキルリチウム、アルキレンジリチウム、リチウムアルキレンイミド、リチウムジアルキルアミド、フェニルリチウム、スチルベンリチウム、リチウムナフタレン、ナトリウムナフタレン、カリウムナフタレンなどが挙げられ、また、アルカリ土類金属化合物としては、例えばn−ブチルマグネシウム、n−ヘキシルマグネシウム、エトキシカルシウム、ステアリン酸カルシウム、t−ブトキシストロンチウム、エトキシバリウム、イソプロポキシバリウム、エチルメルカプトバリウム、t−ブトキシバリウム、フェノキシバリウム、ジエチルアミノバリウム、ステアリン酸バリウムなどが挙げられる。
これらのうちでは、アルキルリチウムおよびリチウムアルキレンイミドが好ましい。
【0059】
重合開始剤の使用量は、単量体100gあたり0.2〜20mmolであることが好ましい。
【0060】
特定の製造方法(A)に係る芳香族系の多環式化合物共重合工程における反応条件(重合反応条件)としては、重合反応温度は0〜100℃であることが好ましく、更に好ましくは20〜80℃であり、反応時間は20〜120分間であることが好ましい。
【0061】
このような特定の製造方法(A)によって得られる特定共役ジエン系エラストマー(1)および特定共役ジエン系エラストマー(2)、すなわち芳香族系の多環式化合物に由来の繰り返し単位を含有する本発明の共役ジエン系エラストマーにおいては、芳香族系の多環式化合物に由来の繰り返し単位の含有割合は0.1〜20質量%であることが好ましい。
芳香族系の多環式化合物に由来の繰り返し単位の含有割合が過小である場合には、共役ジエン系エラストマーを含有するゴム組成物から得られるゴム弾性体に十分な機械的強度が得られなくなるおそれがある。一方、芳香族系の多環式化合物に由来の繰り返し単位の含有割合が過大である場合には、共役ジエン系エラストマーを含有するゴム組成物の加工性が著しく悪化するおそれがある。
【0062】
本発明の共役ジエン系エラストマーの製造方法に係る特定の製造方法(B)においては、例えば、有機溶剤中において、共役ジエン化合物、または共役ジエン化合物および単環芳香族ビニル化合物をアルカリ金属化合物またはアルカリ土類金属化合物よりなる重合開始剤を用いて重合させることによって重合体(以下、「中間共役ジエン系重合体」ともいう。)を得、得られた中間共役ジエン系重合体に対してリチオ化剤を用いて芳香族系の多環式化合物を導入させる芳香族系の多環式化合物導入工程を経ることにより、芳香族系の多環式化合物に由来の置換基を有する共役ジエン系エラストマー(具体的には、特定共役ジエン系エラストマー(3)および特定共役ジエン系エラストマー(4))が得られる。
また、この特定の製造方法(B)においては、単環芳香族ビニル化合物として、例えば4−メチルスチレンのような容易にリチオ化のなされる化合物を用いる場合には、これらを重合反応系に添加するタイミングによって芳香族系の多環式化合物に由来の置換基の導入部位を制御することができる。具体的には、共役ジエン化合物と、単環芳香族ビニル化合物としての4−メチルスチレンとを重合させることによって中間共役ジエン系重合体を得る場合においては、重合反応系に対して重合末期に4−メチルスチレンを添加する、すなわち重合開始期において共役ジエン化合物のみの重合反応を行った後に4−メチルスチレンを添加することにより、得られる中間共役ジエン系重合体において分子末端に4−メチルスチレンに由来の繰り返し単位が位置することとなる結果、芳香族系の多環式化合物に由来の置換基が分子末端部分に集中的に導入される。
【0063】
特定の製造方法(B)に係る芳香族系の多環式化合物導入工程において、中間共役ジエン系重合体を得るために用いる有機溶剤および重合開始剤としては、前記特定の製造方法(A)の芳香族系の多環式化合物共重合工程に係る有機溶剤および重合開始剤として例示したものを用いることができ、また、反応条件(重合反応条件)としては、重合反応温度は0〜100℃であることが好ましく、更に好ましくは20〜80℃であり、また、反応時間は20〜120分間であることが好ましい。
【0064】
特定の製造方法(B)に係る芳香族系の多環式化合物導入工程において、リチオ化剤としては、例えばs−ブチルリチウム、n−ブチルリチウム、t−ブチルリチウムなどが挙げられる。
これらのうちでは、s−ブチルリチウムが好ましい。
リチオ化剤の使用量は、例えば単環芳香族ビニル化合物として用いられる容易にリチオ化のなされる化合物(例えば4−メチルスチレン)の使用量などに応じて適宜に定められる。
【0065】
特定の製造方法(B)に係る芳香族系の多環式化合物導入工程において、中間共役ジエン系重合体に芳香族系の多環式化合物に由来の置換基を導入するための反応条件としては、中間共役ジエン系重合体のリチオ化反応としては、反応温度は20〜120℃であることが好ましく、更に好ましくは50〜100℃であり、反応時間は10〜120分間であることが好ましい。また、芳香族系の多環式化合物に由来の置換基の導入反応としては、反応温度は20〜120℃であることが好ましく、更に好ましくは50〜100℃であり、反応時間は10〜120分間であることが好ましい。
【0066】
このような特定の製造方法(B)によって得られる特定共役ジエン系エラストマー(3)および特定共役ジエン系エラストマー(4)、すなわち芳香族系の多環式化合物に由来の置換基を含有する本発明の共役ジエン系エラストマーにおいては、1分子中における芳香族系の多環式化合物に由来の置換基の数は、平均で2〜30個であることが好ましい。
芳香族系の多環式化合物に由来の置換基の数が過小である場合には、共役ジエン系エラストマーを含有するゴム組成物から得られるゴム弾性体に十分な機械的強度が得られなくなるおそれがある。一方、芳香族系の多環式化合物に由来の置換基が過大である場合には、共役ジエン系エラストマーを含有するゴム組成物の加工性が著しく悪化するおそれがある。
【0067】
また、本発明の共役ジエン系エラストマーが芳香族系の多環式化合物に由来の置換基を有するものである場合においては、芳香族系の多環式化合物に由来の置換基は、分子中のいずれの部分に導入されていてもよいが、分子末端部分に導入されていることが好ましく、複数の芳香族系の多環式化合物に由来の置換基を有するものである場合には、分子末端部分において局所的に導入されていることが好ましい。
特に本発明の共役ジエン系エラストマーが単環芳香族ビニル化合物に由来の繰り返し単位を有するものである場合、すなわち特定共役ジエン系エラストマー(3)においては、芳香族系の多環式化合物に由来の置換基は、共役ジエン系化合物に由来の繰り返し単位および/または単環芳香族ビニル化合物に由来の繰り返し単位に導入されていてもよいが、単環芳香族ビニル化合物に由来の繰り返し単位に導入されていることが好ましい。
【0068】
本発明の共役ジエン系エラストマーを構成する共役ジエン化合物に由来の繰り返し単位を得るための共役ジエン化合物としては、脂肪族共役二重結合を有する直鎖状または分岐状の化合物が用いられ、本発明の共役ジエン系エラストマーが単環芳香族ビニル化合物に由来の繰り返し単位を含有するものである場合においては、単環芳香族ビニル化合物と共重合可能な化合物が用いられる。
具体的には、例えば1,3−ブタジエン、イソプレン、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン、1,3−ペンタジエン、2,3−ジメチルブタジエン、2−フェニル−1,3−ブタジエン、1,3−ヘキサジエンなどを好適に用いることができる。また、これらは単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
これらの中では、1,3−ブタジエン、イソプレン、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエンが好ましい。
【0069】
また、本発明の共役ジエン系エラストマーが単環芳香族ビニル化合物に由来の繰り返し単位を含有するものである場合において、当該単環芳香族ビニル化合物に由来の繰り返し単位を得るための単環芳香族ビニル化合物としては、炭素環(単環)あるいは複素環(単環)を有する芳香族基に結合した1個以上のビニル基を有する化合物またはその誘導体が用いられる。
具体的には、例えばスチレン、2−メチルスチレン、3−メチルスチレン、4−メチルスチレン、α−メチルスチレン、2,4−ジメチルスチレン、2,4−ジイソプロピルスチレン、4−tert−ブチルスチレン、ジビニルベンゼン、tert−ブトキシスチレン、ビニルベンジルジメチルアミン、(4−ビニルベンジル)ジメチルアミノエチルエーテル、N,N−ジメチルアミノエチレンスチレン、2−t−ブチルスチレン、3−t−ブチルスチレン、4−t−ブチルスチレン、ビニルピリジンなどを用いることができる。また、これらは単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
これらの中では、スチレンが好ましく、また、特に本発明の共役ジエン系エラストマーが芳香族系の多環式化合物に由来の置換基を有するものである場合には、容易にリチオ化がなされることから、2−メチルスチレン、3−メチルスチレン、4−メチルスチレンを組み合わせて用いることが好ましく、特に4−メチルスチレンを組合せて用いることが好ましい。
【0070】
ここに、本発明の共役ジエン系エラストマーが単芳香族ビニル化合物に由来の繰り返し単位を含有するものである場合においては、単芳香族ビニル化合物に由来の繰り返し単位の含有割合は10〜40質量%であることが好ましい。
芳香族ビニル化合物に由来の繰り返し単位の含有割合が過小である場合には、共役ジエン系エラストマーを含有するゴム組成物から得られるゴム弾性体の耐摩耗性が小さくなるおそれがある。一方、芳香族ビニル化合物に由来の繰り返し単位の含有割合が過大である場合には、共役ジエン系エラストマーを含有するゴム組成物から得られるゴム弾性体のドライグリップ性能が小さくなるおそれがある。
【0071】
本発明の共役ジエン系エラストマーは、共役ジエン系エラストマーを含有するゴム組成物から得られるゴム弾性体の転がり抵抗を小さくする観点から、当該共役ジエン系エラストマーがアミノ基、ホスフィノ基またはチオール基を有するシラン化合物によって変性されてなるものであってもよい。
ここに、本発明に係る共役ジエン系エラストマーをアミノ基、ホスフィノ基またはチオール基を有するシラン化合物によって変性されたものとする変性反応においては、特定の製造方法(A)においては芳香族系の多環式化合物重合工程の後(共重合反応の後)、特定の製造方法(B)においては芳香族系の多環式化合物導入工程の後(芳香族系の多環式化合物に由来の基の導入反応の後)に、アミノ基、ホスフィノ基またはチオール基を有するシラン化合物によって変性されたものとする変性反応を行うことが好ましい。
【0072】
上記のアミノ基を有するシラン化合物としては、例えばN,N−ビス(トリエチルシリル)アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N,N−ビス(トリメチルシリル)アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N,N−ビス(トリメチルシリル)アミノプロピルメチルジエトキシシラン、N,N−ビス(トリメチルシリル)アミノプロピルトリエトキシシラン、1−(3−トリエトキシシリルプロピル)−2,2,5,5−テトラメチル−1−アザ−2,5−ジシラシクロペンタン、N,N’,N’−トリス(トリメチルシリル)−N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルトリエトキシシラン、1−トリメチルシリル−2,2−ジメトキシ−1−アザ−2−シラシクロペンタン、N−〔3−(トリメトキシシリル)−プロピル〕−N,N’−ジエチル−N’−トリメチルシリル−エタン−1,2−ジアミン、N−〔3−(トリエトキシシリル)−プロピル〕−N,N’−ジエチル−N’−トリメチルシリル−エタン−1,2−ジアミン、3−(4−トリメチルシリル−1−ピペラジノ)プロピルトリエトキシシラン、N−[2−(トリメトキシシリル)−エチル]−N,N’,N’−トリメチルエタン−1,2−ジアミン、1−[3−(トリエトキシシリル)−プロピル]−4−メチルピペラジン、2−(トリメトキシシリル)−1,3−ジメチルイミダゾリジン、2−(3−トリメトキシシリル−プロピル)−1,3−ジメチルイミダゾリジン、3−ジメチルアミノプロピルトリメトキシシラン、3−ジエチルアミノプロピルトリメトキシシラン、3−ジメチルアミノプロピルトリエトキシシラン、3−ジエチルアミノプロピルトリエトキシシラン、ビス[3−(トリエトキシシリル)プロピル]トリメチルシリルアミン、ビス[3−(トリメトキシシリル)プロピル]トリメチルシリルアミン、N−(1,3−ジメチルブチリデン)−3−(トリエトキシシリル)−1−プロパンアミン、N−(1−メチルプロピリデン)−3−(トリエトキシシリル)−1−プロパンアミン、N−(3−トリメトキシシリルプロピル)−4,5−ジヒドロイミダゾ−ル、N−(3−トリエトキシシリルプロピル)−4,5−ジヒドロイミダゾ−ル、N−(3−トリメトキシシリルプロピル)−4,5−イミダゾ−ル、N−(3−トリエトキシシリルプロピル)−4,5−イミダゾ−ル、ビス−(3−ジメチルアミノプロピル)−ジメトキシシラン、[3−(ジエチルアミノ)プロピル]トリメトキシシラン、[3−(ジメチルアミノ)プロピル]トリエトキシシラン、1−(4−N,N−ジメチルアミノフェニル)−1−フェニルエチレンなどが挙げられる。
また、上記のホスフィノ基を有するシラン化合物としては、例えば3−ジフェニルフォスフィノプロピルトリメトキシシラン、3−ジフェニルフォスフィノプロピルトリエトキシシランなどが挙げられる。
また、上記のチオール基を有するシラン化合物としては、例えばS−トリメチルシリルメルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、S−トリメチルシリルメルカプトプロピルトリメトキシシラン、S−トリメチルシリルメルカプトプロピルトリエトキシシラン、S−トリメチルシリルメルカプトプロピルメチルジエトキシシランなどが挙げられる。
【0073】
また、前述のアミノ基を有するシラン化合物のうちのトリメチルシリル基を有するものについては、トリメチルシリル基の全てあるいは一部が、得られる変性基において水素置換されていてもよい。
また、アミノ基、ホスフィノ基またはチオール基を有するシラン化合物によって変性されて変性基が導入されたものにおいて、当該変性基がオニウム生成剤の作用によってオニウム塩になりうる基(以下、「オニウム形成基」ともいう。)については、オニウム塩構造を形成していてもよい。
ここに、オニウム形成基としては、例えばアミノ基に代表される窒素含有官能基、ホスフィノ基に代表されるリン含有基、チオール基に代表される硫黄含有基などが挙げられる。
【0074】
ここに、オニウム生成剤としては、例えばハロゲン化ケイ素化合物、ハロゲン化スズ化合物、ハロゲン化アルミニウム化合物、ハロゲン化チタン化合物、ハロゲン化ジルコニウム化合物、ハロゲン化ゲルマニウム化合物、ハロゲン化亜鉛化合物、ハロゲン化ガリウム化合物等のハロゲン化金属、硫酸エステル、リン酸エステル、炭酸エステル、硝酸エステル、カルボン酸、スルホン酸、弗酸、塩酸、臭酸、沃酸、硫酸、硝酸、炭酸、燐酸等の無機酸、フッ化カリウム、フッ化テトラメチルアンモニウム、フッ化テトラ−n−ブチルアンモニウム等の無機酸塩、カルボン酸、スルホン酸等の有機酸などが用いられる。
【0075】
オニウム生成剤の具体例としては、四塩化ケイ素、四塩化スズ、トリメチルシリルクロライド、ジメチルジクロロシラン、メチルトリクロロシラン、メチルジクロロシラン、ジエチルアルミニウムクロライド、エチルアルミニウムセスキクロライド、エチルアルミニウムジクロライド、四塩化チタン、チタノセンジクロライド、四塩化ジルコニウム、ジルコノセンジクロライド、四塩化ゲルマニウム、三塩化ガリウム、塩化亜鉛、硫酸ジエチル、硫酸ジメチル、ラウレス硫酸マグネシウム、リン酸トリメチル、リン酸トリエチル、リン酸トリブチル、リン酸2−エチルヘキシル、リン酸トリフェニル、リン酸トリクレシル、炭酸ジメチル、炭酸ジエチル、炭酸エチレン、炭酸プロピレン、ニトロセルロース、ニトログリセリン、ニトログリコール、蟻酸、酢酸、シュウ酸、マレイン酸、クエン酸、リンゴ酸、フマル酸、マロン酸、アクリル酸、クロトン酸、コハク酸、グルタル酸、イタコン酸、酒石酸、セバチン酸、テレフタル酸、イソフタル酸、β−メルカプトプロピオン酸、ベンゼンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸、弗酸、塩酸、臭酸、沃酸、硫酸、硝酸、炭酸、燐酸、フッ化カリウム、フッ化テトラメチルアンモニウム、フッ化テトラ−n−ブチルアンモニウム等が挙げられる。
【0076】
本発明の共役ジエン系エラストマーは、特定の製造方法(A)および特定の製造方法(B)の他、例えば溶液ラジカル重合法、乳化重合法などの公知の手法によって製造することもできる。
【0077】
また、本発明の共役ジエン系エラストマーは、共役ジエン化合物に由来の繰り返し単位、単環芳香族ビニル化合物に由来の繰り返し単位および多環式化合物に由来の繰り返し単位以外の繰り返し単位を有するものであってもよい。
【0078】
また、本発明の共役ジエン系エラストマーにおいては、共役ジエン化合物に由来の繰り返し単位中の1,2−ビニル結合の含有量が30〜70mol%であることが好ましい。
1,2−ビニル結合の含有量が過小である場合には、共役ジエン系エラストマーを含有するゴム組成物から得られるゴム弾性体におけるウェットグリップ性能と転がり抵抗とのバランスが悪化するおそれがある。一方、1,2−ビニル結合の含有量が過大である場合には、共役ジエン系エラストマーを含有するゴム組成物から得られるゴム弾性体の耐摩耗性が著しく小さくなるおそれがある。
【0079】
ここに、共役ジエン化合物に由来の繰り返し単位中の1,2−ビニル結合の含有量は、500MHz、H−NMRスペクトルから算出することができる。
【0080】
本発明の共役ジエン系エラストマーのガラス転移温度(Tg)は、−80〜0℃であることが好ましい。
ガラス転移温度が過大である場合には、ゴム特性が得られなくなるおそれがある。一方、ガラス転移温度が過小である場合には、共役ジエン系エラストマーを含有するゴム組成物から得られるゴム弾性体のウェットグリップ性能が著しく悪化するおそれがある。
【0081】
ここに、ガラス転移温度(Tg)は、ASTM D3418に準拠して示差走査熱量測定(DSC)によって測定される。
【0082】
本発明の共役ジエン系エラストマーのムーニー粘度は、40〜100ML(ML 1+4,100℃)であることが好ましい。
ムーニー粘度が過大である場合には、共役ジエン系エラストマーを含有するゴム組成物の加工性が著しく悪化するおそれがある。一方、ムーニー粘度が過小である場合には、コールドフロー特性が著しく悪化するおそれがある。
【0083】
ここに、ムーニー粘度は、JIS K6300に準拠し、Lローターを用い、予熱1分環、ローター作動時間4分間、温度100℃の条件で測定される。
【0084】
本発明の共役ジエン系エラストマーは、標準ポリスチレン換算の重量平均分子量(Mw)が10000〜1000000であることが好ましい。
重量平均分子量が過大である場合には、共役ジエン系エラストマーを含有するゴム組成物の加工性が著しく悪化するおそれがある。一方、重量平均分子量が過小である場合には、共役ジエン系エラストマーを含有するゴム組成物から得られるゴム弾性体に十分な機械的強度が得られなくなるおそれがある。
【0085】
本発明の共役ジエン系エラストマーのコールドフロー値は、0.01〜0.5mg/分であることが好ましい。
コールドフロー値が過大である場合には、形状安定性が小さくなり、それにより良好な取扱性が得られなくなるおそれがある。一方、コールドフロー値が過小である場合には、共役ジエン系エラストマーを含有するゴム組成物の加工性が著しく悪化するおそれがある。
【0086】
ここに、「共役ジエン系エラストマーのコールドフロー値」とは、共役ジエン系エラストマーを温度50℃に保持し、圧力24.1kPaの条件により、6.35mmのオリフィスから押し出し、押し出された時点から10分後(押し出し速度が一定になった後)に、90分間にわたって共役ジエン系エラストマーの30分毎の押し出し量(mg)を測定し、その平均値によって算出される値である。
【0087】
以上のような本発明の共役ジエン系エラストマーは、芳香族系の多環式化合物に由来の繰り返し単位または芳香族系の多環式化合物に由来の置換基を有するものであり、この芳香族系の多環式化合物に由来の繰り返し単位または多環式化合物に由来の置換基の作用によって、当該共役ジエン系エラストマーを含有するゴム組成物から得られるゴム弾性体において高い引張強度および耐摩耗性が発現される。
従って、本発明の共役ジエン系エラストマーによれば、優れた機械的強度を有するゴム弾性体を得ることができる。
【0088】
また、本発明の共役ジエン系エラストマーが芳香族系の多環式化合物に由来の繰り返し単位または芳香族系の多環式化合物に由来の置換基を複数有する場合には、これらの複数の繰り返し単位または置換基によるπ−π相互作用(スタッキング相互作用)によって当該共役ジエン系エラストマーを含有するゴム組成物から得られるゴム弾性体において高い引張強度および耐摩耗性が発現されることとなる。
また、本発明の共役ジエン系エラストマーが芳香族系の多環式化合物に由来の繰り返し単位または芳香族系の多環式化合物に由来の置換基に係る芳香族系の多環式化合物がアセナフチレン化合物である場合には、このアセナフチレン化合物に由来の繰り返し単位または置換基とゴム組成物に含有されるカーボンブラックとの間に生じる相互作用によって当該共役ジエン系エラストマーを含有するゴム組成物から得られるゴム弾性体において高い引張強度および耐摩耗性が発現されることとなる。
【0089】
このように、本発明の共役ジエン系エラストマーは、例えばタイヤのトレッド用の原料、すなわちトレッド用に用いられるゴム組成物の構成要素として好適なものである。
【0090】
本発明のゴム組成物は、本発明の共役ジエン系エラストマーと、シリカおよび/またはカーボンブラックと、架橋剤とを必須成分として含有するものである。
この本発明のゴム組成物は、本発明の共役ジエン系エラストマーと、シリカおよび/またはカーボンブラックと、架橋剤とを混練することにより得られる、具体的には当該ゴム組成物を構成する各要素を混練することによって得られる組成物(未加硫ゴム組成物)であり、加硫処理(架橋処理)をすることにより、ゴム弾性体を形成するものである。
【0091】
本発明のゴム組成物において、本発明の共役ジエン系エラストマーの含有割合は、ゴム組成物において20〜80質量%であることが好ましい。
共役ジエン系エラストマーの含有割合が過大である場合は、ゴム組成物の他の構成成分、具体的には例えばシリカおよび/またはカーボンブラックなどのフィラーの量が少ないことに起因にしてゴム組成物から得られるゴム弾性体の機械的強度が低下するおそれがある。一方、共役ジエン系エラストマーの含有割合が過小である場合は、ゴム組成物の他の構成成分、具体的には例えばシリカおよび/またはカーボンブラックなどのフィラーの量が多いことに起因して加工性が悪化するおそれがある。
【0092】
本発明のゴム組成物において、本発明の共役ジエン系エラストマーは、ゴム成分を構成するものであるが、このゴム成分には、必須成分としての本発明の共役ジエン系エラストマーと共に、任意成分が含有されていてもよい。
【0093】
ゴム成分における任意成分の具体例としては、例えば、天然ゴム、ブタジエンゴム、ブチルゴム、合成イソプレンゴム、スチレン−ブタジエン共重合ゴム、エチレン−α−オレフィン共重合ゴム、エチレン−α−オレフィン−ジエン共重合ゴム、アクリロニトリル−ブタジエン共重合ゴム、クロロプレンゴムおよびハロゲン化ブチルゴム、並びにこれらの混合物などの、タイヤ用ゴム組成物として使用可能な公知のゴムが挙げられる。
これらのうちでは、ゴム組成物から得られるゴム弾性体において、耐摩耗性を維持しつつ、ウェットグリップ性能と転がり抵抗とのバランスを高次に達成できるという理由から、天然ゴムおよびブタジエンゴムが好ましい。
【0094】
ゴム成分における任意成分の含有割合は、ゴム成分100質量%において45質量%以下であることが好ましい。
【0095】
本発明のゴム組成物は、シリカおよびカーボンブラックの少なくとも一方が含有されてなるものであるが、ゴム成分を構成する本発明の共役ジエン系エラストマーがアセナフチレン化合物に由来の繰り返し単位または置換基を含有するものである場合においては、このアセナフチレン化合物に係る繰り返し単位または置換基との関係から、少なくともカーボンブラックを含有するものであることが好ましく、また、ゴム組成物から得られるゴム弾性体における機械的強度と低ヒステリシスロス特性とのバランスの観点からはシリカとカーボンブラックの両方が含有されていることが好ましい。
ここに、シリカを用いることによっては、ゴム組成物から得られるゴム弾性体において高い補強効果が得られ、また、カーボンブラックを用いることによっては、ゴム組成物から得られるゴム弾性体が良好なグリップ性能および耐破壊特性を有するものとなる。
【0096】
シリカの具体例としては、湿式シリカ(含水ケイ酸)、乾式シリカ(無水ケイ酸)、ケイ酸カルシウム、ケイ酸アルミニウムなどが挙げられる。これらは、単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることもできる。
本発明のゴム組成物においては、ゴム組成物から得られるゴム弾性体における耐破壊特性の改良効果、ウェットグリップ性、および低転がり抵抗性の両立効果が最も顕著である湿式シリカを用いることが好ましい。
【0097】
カーボンブラックの具体例としては、SRF、GPF、FEF、HAF、ISAF、SAFなどの各グレードのカーボンブラックなどが挙げられる。これらは、単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることもできる。
また、カーボンブラックにおいては、ヨウ素吸着量(IA)が60mg/g以上であり、ジブチルフタレート吸油量(DBP)が80ml/100g以上であることが好ましい。
本発明のゴム組成物においては、ゴム組成物から得られるゴム弾性体に優れた耐摩耗性が得れることから、HAF、ISAF、SAFを用いることが好ましい。
【0098】
本発明のゴム組成物において、シリカおよび/またはカーボンブラックの含有割合は、本発明の共役ジエン系エラストマー100質量部に対して20〜120質量部であることが好ましく、補強性とそれによる諸物性の改良効果の観点から、25〜100質量部であることが更に好ましい。
シリカおよび/またはカーボンブラックの含有割合が過小である場合には、ゴム組成物から得られる耐破壊特性等の向上効果が不十分となるおそれがある。一方、シリカおよび/またはカーボンブラックの含有割合が過大である場合には、ゴム組成物の加工性が低下するおそれがある。
【0099】
本発明のゴム組成物において、架橋剤としては、通常、硫黄が用いられる。
架橋剤の含有割合は、ゴム成分100質量部100質量部に対して、0.1〜5質量部であることが好ましく、更に好ましくは0.5〜3質量部である。
【0100】
本発明のゴム組成物においては、必須成分である、本発明の共役ジエン系エラストマー、シリカおよび/またはカーボンブラックおよび架橋剤の他、必要に応じて、任意成分が含有されていてもよい。
任意成分の具体例としては、前述のゴム成分に係る任意成分に加え、例えばオイルなどの軟化剤、シランカップリング剤、ワックス、老化防止剤、ステアリン酸(加硫助剤および加工助剤)、酸化亜鉛、加硫促進剤などが挙げられる。
【0101】
ここに、本発明のゴム組成物にシリカが含有されてなる場合においては、シリカによる補強効果を更に向上させるために、任意成分として、シランカップリッグ剤を配合することが好ましい。
シランカップリング剤の具体例としては、例えばビス(3−トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)トリスルフィド、ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)ジスルフィド、ビス(2−トリエトキシシリルエチル)テトラスルフィド、ビス(3−トリメトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、ビス(2−トリメトキシシリルエチル)テトラスルフィド、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリエトキシシラン、2−メルカプトエチルトリメトキシシラン、2−メルカプトエチルトリエトキシシラン、3−トリメトキシシリルプロピル−N,N−ジメチルチオカルバモイルテトラスルフィド、3−トリエトキシシリルプロピル−N,N−ジメチルチオカルバモイルテトラスルフィド、2−トリエトキシシリルエチル−N,N−ジメチルチオカルバモイルテトラスルフィド、3−トリメトキシシリルプロピルベンゾチアゾリルテトラスルフィド、3−トリエトキシシリルプロピルベンゾリルテトラスルフィド、3−トリエトキシシリルプロピルメタクリレートモノスルフィド、3−トリメトキシシリルプロピルメタクリレートモノスルフィド、ビス(3−ジエトキシメチルシリルプロピル)テトラスルフィド、3−メルカプトプロピルジメトキシメチルシラン、ジメトキシメチルシリルプロピル−N,N−ジメチルチオカルバモイルテトラスルフィド、ジメトキシメチルシリルプロピルベンゾチアゾリルテトラスルフィドなどが挙げられる。これらは、単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
本発明のゴム組成物においては、補強性の改善効果等の点から、ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)ポリスルフィド、3−トリメトキシシリルプロピルベンゾチアジルテトラスルフィドを用いることが好ましい。
【0102】
任意成分としてのシランカップリング剤の含有割合は、シランカップリング剤の種類などによっても異なるが、シリカ100質量部に対して、1〜20質量部であることが好ましく、更に好ましくは3〜15質量部である。
シランカップリング剤の含有割合が過小である場合には、カップリング剤としての効果が十分に発揮されなくなるおそれがある。一方、シランカップリング剤の含有割合が過大である場合には、ゴム成分がゲル化しやすくなるおそれがある。
【0103】
また、加硫助剤および加工助剤として用いられるステアリン酸の含有割合は、共役ジエン系エラストマー100質量部に対して、通常、0.5〜5質量部である。
また、加硫促進剤としては、特に限定されないが、好ましくはM(2−メルカプトベンゾチアゾール)、DM(ジベンゾチアジルジサルファイド)、CZ(N−シクロヘキシル−2−ベンゾチアジルスルフェンアミド)などのチアゾール系加硫促進剤が好適に用いられる。加硫促進剤の含有割合は、共役ジエン系エラストマー100質量部に対して、通常、0.1〜5質量部であり、好ましくは0.4〜4質量部である。
【0104】
本発明のゴム組成物のムーニー粘度は、40〜100ML(ML 1+4,100℃)であることが好ましい。
ムーニー粘度が過大である場合には、ゴム組成物の加工性が低下するおそれがある。一方、ムーニー粘度が過小である場合には、混練によってシリカおよび/またはカーボンブラックなどのフィラーを十分に分散させることができなくなるおそれがある。
【0105】
以上のような本発明のゴム組成物は、例えばロールをはじめとする開放式混練機、バンバリーミキサーをはじめとする密閉式混練機などの混練機を用い、必須成分である、共役ジエン系エラストマー、シリカおよび/またはカーボンブラック、および架橋剤と共に、必要に応じて任意成分を混練することによって製造することができる。
ここに、本発明のゴム組成物を製造するための混練処理は、製造すべきゴム組成物を構成する各要素、具体的には必須成分としての共役ジエン系エラストマー、シリカおよび/またはカーボンブラック、および架橋剤と、必要に応じて任意成分とを、一斉に配合することに限定されず、例えば各要素を順次に配合してもよい。
【0106】
このような本発明のゴム組成物によれば、その構成成分として本発明の共役ジエン系エラストマーが用いられていることから、優れた機械的強度を有するゴム弾性体を得ることができる。
【0107】
本発明のゴム弾性体は、本発明のゴム組成物を架橋処理することによって得られるものであり、タイヤ(具体的にはタイヤのトレッド)として好適に用いられる。
このような本発明に係るゴム組成物から得られるトレッドを有するタイヤ、すなわち本発明のタイヤには、優れた反発弾性が得られる。
【0108】
ここに、本発明のタイヤは、本発明のゴム組成物を用いて通常の方法によって製造される。すなわち、例えば本発明のゴム組成物(未加硫ゴム組成物)を、形成すべきタイヤの形状(具体的には、トレッドの形状)に応じて押し出し加工し、タイヤ成型機上にて通常の方法にて成形し、未架橋(未加硫)タイヤを形成する。この未架橋(未加硫)タイヤを加硫機中で加熱加圧することによって本発明に係るゴム組成物よりなるタイヤが製造される。
【実施例】
【0109】
以下、本発明の具体的な実施例について説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
以下の実施例および比較例において、各種物性値の測定法は以下の通りである。
【0110】
(1)共役ジエン系エラストマーにおける単環芳香族ビニル化合物としてのスチレンに由来の繰り返し単位の含有割合(以下、「結合スチレン含量」ともいう。):
重クロロホルムを溶媒として用い、500MHz、H−NMRスペクトルから算出した。
【0111】
(2)共役ジエン系エラストマーにおける共役ジエン化合物に由来の繰り返し単位中の1,2−ビニル結合の含有量(以下、「ビニル結合含量」ともいう。):
500MHz、H−NMRスペクトルから算出した。
【0112】
(3)共役ジエン系エラストマーのガラス転移温度(Tg):
ASTM D3418に準拠して示差走査熱量測定(DSC)によって測定した。
【0113】
(4)共役ジエン系エラストマーの分子量:
下記の条件にて、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)「HLC−8120GPC」(東ソー株式会社製)によって測定を行い、得られたGPC曲線の最大ピーク頂点に相当する保持時間から、ポリスチレン換算の重量平均分子量(Mw)を求めた。
【0114】
(GPC条件)
・カラム;商品名「GMHHXL」(東ソー社製)2本
・カラム温度;40℃
・移動相;テトラヒドロフラン
・流速;1.0ml/分
・サンプル濃度;10mg/20ml
【0115】
(5)共役ジエン系エラストマーおよびゴム組成物におけるムーニー粘度:
JIS K6300に準拠し、Lローターを用い、予熱1分間、ローター作動時間4分間、温度100℃の条件で測定した。
【0116】
(6)共役ジエン系エラストマーのコールドフロー値:
共役ジエン系エラストマーを温度50℃に保持し、圧力24.1kPaの条件により、6.35mmのオリフィスから押し出し、押し出された時点から10分後(押し出し速度が一定になった後)に、90分間にわたって共役ジエンエラストマーの30分毎の押し出し量(mg)を測定し、その平均値をコールドフロー値(mg/分)とした。そのコールドフロー値によれば、数値が大きいほど共役ジエン系エラストマーの形状安定性が悪く、取扱いが困難であることが示される。
【0117】
(共役ジエン系エラストマーの合成例1)
窒素置換された内容積5リットルのオートクレーブ反応器に、溶媒としてシクロヘキサン2750g、ビニル結合含有量調整剤としてテトラヒドロフラン50.0g、単量体としてスチレン100g、ビニルナフタレン(一般式(3)においてR3 が水素原子であるビニルナフタレン化合物)25gおよび1,3−ブタジエン365gを仕込んだ。反応器内容物の温度を10℃に調整した後、重合開始剤としてn−ブチルリチウム5.80mmolを含むシクロヘキサン溶液を添加することによって重合を開始した。重合は断熱条件で実施し、最高温度は85℃に達した。
重合転化率が99%に達したことを確認した後、1,3−ブタジエン10gを添加し、更に5分間重合させた。その後、得られたポリマー溶液に2,6−ジ−tert−ブチル−p−クレゾール2.0gを添加し、更に水酸化ナトリウムでpHを9に調整した熱水を用いてスチームストリッピングを行うことによって脱溶媒処理した後、110℃に調温された熱ロールによって乾燥処理することにより反応生成物としての重合体を得た。
得られた重合体は、NMR測定により、共役ジエン化合物としての1,3−ブタジエンと単環芳香族ビニル化合物としてのスチレンと芳香族系の多環式化合物としてのビニルナフタレンとが共重合されてなる構成の共役ジエン系エラストマー(以下、「共役ジエン系エラストマー(A)」ともいう。)であることが確認された。
【0118】
得られた共役ジエン系エラストマー(A)について、結合スチレン含量、ビニル結合含量、ガラス転移温度、重量平均分子量、ムーニー粘度およびコールドフロー値を測定した。結果を表2に示す。
また、共役ジエン系エラストマー(A)における芳香族系の多環式化合物に由来の繰り返し単位の含有割合は4.95質量%であった。
【0119】
(共役ジエン系エラストマーの合成例2)
共役ジエン系エラストマーの合成例1において、単量体として、スチレン100g、ビニルナフタレン25gおよび1,3−ブタジエン365gに代えて、スチレン110g、ビニルアントラセン(一般式(4)においてR4 が水素原子であるビニルアントラセン化合物)15gおよび1,3−ブタジエン365gを用いたこと以外は当該共役ジエン系エラストマーの合成例1と同様の手法により反応生成物としての重合体を得た。
得られた重合体は、NMR測定により、共役ジエン化合物としての1,3−ブタジエンと単環芳香族ビニル化合物としてのスチレンと芳香族系の多環式化合物としてのビニルアントラセンとが共重合されてなる構成の共役ジエン系エラストマー(以下、「共役ジエン系エラストマー(B)」ともいう。)であることが確認された。
得られた共役ジエン系エラストマー(B)について、結合スチレン含量、ビニル結合含量、ガラス転移温度、重量平均分子量、ムーニー粘度およびコールドフロー値を測定した。結果を表2に示す。
また、共役ジエン系エラストマー(B)における芳香族系の多環式化合物に由来の繰り返し単位の含有割合は2.97質量%であった。
【0120】
(共役ジエン系エラストマーの合成例3)
窒素置換された内容積5リットルのオートクレーブ反応器に、溶媒としてシクロヘキサン2750g、ビニル結合含有量調整剤としてテトラヒドロフラン50.0g、単量体としてスチレン105gおよび1,3−ブタジエン365gを仕込んだ。反応器内容物の温度を10℃に調整した後、重合開始剤としてn−ブチルリチウム5.80mmolを含むシクロヘキサン溶液を添加することによって重合を開始した。重合は断熱条件で実施し、最高温度は85℃に達した。
重合転化率が99%に達したことを確認した後、1,3−ブタジエン10gを添加して更に5分間重合させ、その後、p−メチルスチレン(4−メチルスチレン)20gを添加して更に10分間重合させた。
次いで、得られた反応溶液に、活性化剤としてのテトラメチルエチレンジアミン10g、リチオ化剤としてのs−ブチルリチウム86.0mmolを含むシクロヘキサン溶液を添加することによって20分間にわたって反応させた後、芳香族系の多環式化合物としてのアセナフチレン13gを含むシクロヘキサン溶液を添加することによってアセナフチレンに由来の置換基を導入するための導入反応を30分間かけて行った。その後、得られたポリマー溶液に2,6−ジ−tert−ブチル−p−クレゾール2.0gを添加し、更に水酸化ナトリウムでpHを9に調整した熱水を用いてスチームストリッピングを行うことによって脱溶媒処理した後、110℃に調温された熱ロールによって乾燥処理することにより反応生成物としての重合体を得た。
得られた重合体は、NMR測定により、共役ジエン化合物としての1,3−ブタジエンと単環芳香族ビニル化合物としてのスチレンおよびp−メチルスチレンとが共重合されなり、末端部分を構成するp−メチルスチレンに由来の繰り返し単位において芳香族系の多環式化合物としてのアセナフチレンに由来の置換基を有する構成の共役ジエン系エラストマー(以下、「共役ジエン系エラストマー(C)」ともいう。)であることが確認された。
【0121】
得られた共役ジエン系エラストマー(C)について、結合スチレン含量、ビニル結合含量、ガラス転移温度、重量平均分子量、ムーニー粘度およびコールドフロー値を測定した。結果を表2に示す。
また、共役ジエン系エラストマー(C)における芳香族系の多環式化合物に由来の置換基の1分子中における数は平均で5.8個であった。
【0122】
(共役ジエン系エラストマーの合成例4)
共役ジエン系エラストマーの合成例3において、芳香族系の多環式化合物として、アセナフチレン13.0gに代えて、アセナフチレン6gを用いたこと以外は当該共役ジエン系エラストマーの合成例1と同様の手法により反応生成物としての重合体を得た。
得られた重合体は、NMR測定により、共役ジエン化合物としての1,3−ブタジエンと単環芳香族ビニル化合物としてのスチレンおよびp−メチルスチレンとが共重合されなり、末端部分を構成するp−メチルスチレンに由来の繰り返し単位において芳香族系の多環式化合物としてのアセナフチレンに由来の置換基を有する構成の共役ジエン系エラストマー(以下、「共役ジエン系エラストマー(D)」ともいう。)であることが確認された。
得られた共役ジエン系エラストマー(D)について、結合スチレン含量、ビニル結合含量、ガラス転移温度、重量平均分子量、ムーニー粘度およびコールドフロー値を測定した。結果を表2に示す。
また、共役ジエン系エラストマー(D)における芳香族系の多環式化合物に由来の置換基の1分子中における数は平均で2.6個であった。
【0123】
(共役ジエン系エラストマーの合成例5)
共役ジエン系エラストマーの合成例3において、芳香族系の多環式化合物として、アセナフチレン13gに代えて、9−フルオレノン15.5gを用いたこと以外は当該共役ジエン系エラストマーの合成例1と同様の手法により反応生成物としての重合体を得た。
得られた重合体は、NMR測定により、共役ジエン化合物としての1,3−ブタジエンと単環芳香族ビニル化合物としてのスチレンおよびp−メチルスチレンとが共重合されなり、末端部分を構成するp−メチルスチレンに由来の繰り返し単位において芳香族系の多環式化合物としての9−フルオレノンに由来の置換基を有する構成の共役ジエン系エラストマー(以下、「共役ジエン系エラストマー(E)」ともいう。)であることが確認された。
得られた共役ジエン系エラストマー(E)について、結合スチレン含量、ビニル結合含量、ガラス転移温度、重量平均分子量、ムーニー粘度およびコールドフロー値を測定した。結果を表2に示す。
また、共役ジエン系エラストマー(E)における芳香族系の多環式化合物に由来の置換基の1分子中における数は平均で5.7個であった。
【0124】
(共役ジエン系エラストマーの合成例6)
窒素置換された内容積5リットルのオートクレーブ反応器に、溶媒としてシクロヘキサン2750g、ビニル結合含有量調整剤としてテトラヒドロフラン50.0g、単量体としてスチレン105gおよび1,3−ブタジエン365gを仕込んだ。反応器内容物の温度を10℃に調整した後、重合開始剤としてn−ブチルリチウム5.80mmolを含むシクロヘキサン溶液を添加することによって重合を開始した。重合は断熱条件で実施し、最高温度は85℃に達した。
重合転化率が99%に達したことを確認した後、1,3−ブタジエン10gを添加して更に5分間重合させ、その後、p−メチルスチレン20gを添加して更に10分間重合させた。
次いで、得られた反応溶液に、活性化剤としてのテトラメチルエチレンジアミン10g、リチオ化剤としてのs−ブチルリチウム86.0mmolを含むシクロヘキサン溶液を添加することによって20分間にわたって反応させた後、芳香族系の多環式化合物としてのアセナフチレン13gを含むシクロヘキサン溶液を添加することによってアセナフチレンに由来の置換基を導入するための導入反応を30分間かけて行った。その後、N,N−ビス(トリメチルシリル)アミノプロピルメチルジエトキシシラン4.96mmolを含むシクロヘキサン溶液を添加して15分間かけて反応させた後、更に、四塩化ケイ素3.93mmolを含むシクロヘキサン溶液を加えて5分間かけて混合した。その後、得られたポリマー溶液に2,6−ジ−tert−ブチル−p−クレゾール2.0gを添加し、更に水酸化ナトリウムでpHを9に調整した熱水を用いてスチームストリッピングを行うことによって脱溶媒処理した後、110℃に調温された熱ロールによって乾燥処理することにより反応生成物としての重合体を得た。
得られた重合体は、NMR測定により、共役ジエン化合物としての1,3−ブタジエンと単環芳香族ビニル化合物としてのスチレンおよびp−メチルスチレンとが共重合されなり、末端部分を構成するp−メチルスチレンに由来の繰り返し単位において芳香族系の多環式化合物としてのアセナフチレンに由来の置換基を有し、末端がN,N−ビス(トリメチルシリル)アミノプロピルメチルジエトキシシランによって変性されることによってアミノ基が導入され、そのアミノ基がプロトン化されてオニウム塩構造が形成されてなる構成の共役ジエン系エラストマー(以下、「共役ジエン系エラストマー(F)」ともいう。)であることが確認された。
【0125】
得られた共役ジエン系エラストマー(F)について、結合スチレン含量、ビニル結合含量、ガラス転移温度、重量平均分子量、ムーニー粘度およびコールドフロー値を測定した。結果を表2に示す。
また、共役ジエン系エラストマー(F)における芳香族系の多環式化合物に由来の置換基の1分子中における数は平均で5.8個であった。
【0126】
(共役ジエン系エラストマーの合成例7)
共役ジエン系エラストマーの合成例6において、N,N−ビス(トリメチルシリル)アミノプロピルメチルジエトキシシラン4.96mmolに代えて、N,N’,N’−トリス(トリメチルシリル)−N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルトリエトキシシラン4.96mmolを用い、四塩化ケイ素の添加量を3.93mmolから5.17mmolとしたこと以外は当該共役ジエン系エラストマーの合成例6と同様の手法により反応生成物としての重合体を得た。
得られた重合体は、NMR測定により、共役ジエン化合物としての1,3−ブタジエンと単環芳香族ビニル化合物としてのスチレンおよびp−メチルスチレンとが共重合されなり、末端部分を構成するp−メチルスチレンに由来の繰り返し単位において芳香族系の多環式化合物としてのアセナフチレンに由来の置換基を有し、末端がN,N’,N’−トリス(トリメチルシリル)−N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルトリエトキシシランによって変性されることによってアミノ基が導入され、そのアミノ基がプロトン化されてオニウム塩構造が形成されてなる構成の共役ジエン系エラストマー(以下、「共役ジエン系エラストマー(G)について、結合スチレン含量、ビニル結合含量、ガラス転移温度、重量平均分子量、ムーニー粘度およびコールドフロー値を測定した。結果を表2に示す。
また、共役ジエン系エラストマー(G)における芳香族系の多環式化合物に由来の置換基の1分子中における数は平均で5.8個であった。
【0127】
(共役ジエン系エラストマーの合成例8)
共役ジエン系エラストマーの合成例6において、N,N−ビス(トリメチルシリル)アミノプロピルメチルジエトキシシラン4.96mmolに代えて、1−(3−トリエトキシシリルプロピル)−2,2,5,5−テトラメチル−1−アザ−2,5−ジシラシクロペンタン4.96mmolを用い、四塩化ケイ素の添加量を3.93mmolから5.17mmolとしたこと以外は当該共役ジエン系エラストマーの合成例6と同様の手法により反応生成物としての重合体を得た。
得られた重合体は、NMR測定により、共役ジエン化合物としての1,3−ブタジエンと単環芳香族ビニル化合物としてのスチレおよびp−メチルスチレンとが共重合されなり、末端部分を構成するp−メチルスチレンに由来の繰り返し単位において芳香族系の多環式化合物としてのアセナフチレンに由来の置換基を有し、末端が1−(3−トリエトキシシリルプロピル)−2,2,5,5−テトラメチル−1−アザ−2,5−ジシラシクロペンタンによって変性されることによってアミノ基が導入され、そのアミノ基がオニウム塩構造が形成されてなる構成の共役ジエン系エラストマー(以下、「共役ジエン系エラストマー(H)」ともいう。)であることが確認された。
得られた共役ジエン系エラストマー(H)について、結合スチレン含量、ビニル結合含量、ガラス転移温度、重量平均分子量、ムーニー粘度およびコールドフロー値を測定した。結果を表2に示す。
また、共役ジエン系エラストマー(H)における芳香族系の多環式化合物に由来の置換基の1分子中における数は平均で5.6個であった。
【0128】
(共役ジエン系エラストマーの合成例9)
共役ジエン系エラストマーの合成例6において、N,N−ビス(トリメチルシリル)アミノプロピルメチルジエトキシシラン4.96mmolに代えて、N−〔3−(トリメトキシシリル)−プロピル〕−N,N’−ジエチル−N’−トリメチルシリル−エタン−1,2−ジアミン4.96mmolを用い、四塩化ケイ素の添加量を3.93mmolから5.17mmolとしたこと以外は当該共役ジエン系エラストマーの合成例6と同様の手法により反応生成物としての重合体を得た。
得られた重合体は、NMR測定により、共役ジエン化合物としての1,3−ブタジエンと単環芳香族ビニル化合物としてのスチレンおよびp−メチルスチレンとが共重合されなり、末端部分を構成するp−メチルスチレンに由来の繰り返し単位において芳香族系の多環式化合物としてのアセナフチレンに由来の置換基を有し、末端がN−〔3−(トリメトキシシリル)−プロピル〕−N,N’−ジエチル−N’−トリメチルシリル−エタン−1,2−ジアミンによって変性されることによってアミノ基が導入され、そのアミノ基がオニウム塩構造が形成されてなる構成の共役ジエン系エラストマー(以下、「共役ジエン系エラストマー(I)」ともいう。)であることが確認された。
得られた共役ジエン系エラストマー(I)について、結合スチレン含量、ビニル結合含量、ガラス転移温度、重量平均分子量、ムーニー粘度およびコールドフロー値を測定した。結果を表2に示す。
また、共役ジエン系エラストマー(I)における芳香族系の多環式化合物に由来の置換基の1分子中における数は平均で5.6個であった。
【0129】
(共役ジエン系エラストマーの合成例10)
共役ジエン系エラストマーの合成例6において、N,N−ビス(トリメチルシリル)アミノプロピルメチルジエトキシシラン4.96mmolに代えて、3−(4−トリメチルシリル−1−ピペラジノ)プロピルトリエトキシシラン4.96mmolを用い、四塩化ケイ素の添加量を3.93mmolから5.17mmolとしたこと以外は当該共役ジエン系エラストマーの合成例6と同様の手法により反応生成物としての重合体を得た。
得られた重合体は、NMR測定により、共役ジエン化合物としての1,3−ブタジエンと単環芳香族ビニル化合物としてのスチレンおよびp−メチルスチレンとが共重合されなり、末端部分を構成するp−メチルスチレンに由来の繰り返し単位において芳香族系の多環式化合物としてのアセナフチレンに由来の置換基を有し、末端が3−(4−トリメトキシシリル−1−ピペラジノ)プロピルトリエトキシシランによって変性されることによってアミノ基が導入され、そのアミノ基がプロトン化されてオニウム塩構造が形成されてなる構成の共役ジエン系エラストマー(以下、「共役ジエン系エラストマー(J)」ともいう。)であることが確認された。
得られた共役ジエン系エラストマー(J)について、結合スチレン含量、ビニル結合含量、ガラス転移温度、重量平均分子量、ムーニー粘度およびコールドフロー値を測定した。結果を表2に示す。
また、共役ジエン系エラストマー(J)における芳香族系の多環式化合物に由来の置換基の1分子中における数は平均で5.5個であった。
【0130】
(共役ジエン系エラストマーの合成例11)
共役ジエン系エラストマーの合成例6において、N,N−ビス(トリメチルシリル)アミノプロピルメチルジエトキシシラン4.96mmolに代えて、ビス[3−(トリエトキシシリル)プロピル]トリメチルシリルアミン4.96mmolを用い、四塩化ケイ素の添加量を3.93mmolから5.17mmolとしたこと以外は当該共役ジエン系エラストマーの合成例6と同様の手法により反応生成物としての重合体を得た。
得られた重合体は、NMR測定により、共役ジエン化合物としての1,3−ブタジエンと単環芳香族ビニル化合物としてのスチレンおよびp−メチルスチレンとが共重合されなり、末端部分を構成するp−メチルスチレンに由来の繰り返し単位において芳香族系の多環式化合物としてのアセナフチレンに由来の置換基を有し、末端がビス[3−(トリエトキシシリル)プロピル]トリメチルシリルアミンによって変性されることによってアミノ基が導入され、かつそのアミノ基がプロトン化されてオニウム塩構造が形成されてなる構成の共役ジエン系エラストマー(以下、「共役ジエン系エラストマー(K)」ともいう。)であることが確認された。
得られた共役ジエン系エラストマー(K)について、結合スチレン含量、ビニル結合含量、ガラス転移温度、重量平均分子量、ムーニー粘度およびコールドフロー値を測定した。結果を表2に示す。
また、共役ジエン系エラストマー(K)における芳香族系の多環式化合物に由来の置換基の1分子中における数は平均で5.5個であった。
【0131】
(共役ジエン系エラストマーの合成例12)
共役ジエン系エラストマーの合成例6において、N,N−ビス(トリメチルシリル)アミノプロピルメチルジエトキシシラン4.96mmolに代えて、3−ジエチルアミノプロピルトリメトキシシラン4.96mmolを用い、四塩化ケイ素の添加量を3.93mmolから5.17mmolとしたこと以外は当該共役ジエン系エラストマーの合成例6と同様の手法により反応生成物としての重合体を得た。
得られた重合体は、NMR測定により、共役ジエン化合物としての1,3−ブタジエンと単環芳香族ビニル化合物としてのスチレンおよびp−メチルスチレンとが共重合されなり、末端部分を構成するp−メチルスチレンに由来の繰り返し単位において多環式化合物としてのアセナフチレンに由来の置換基を有し、末端が3−ジエチルアミノプロピルトリメトキシシランによって変性されることによってアミノ基が導入され、そのアミノ基がプロトン化されてオニウム塩構造が形成されてなる構成の共役ジエン系エラストマー(以下、「共役ジエン系エラストマー(L)」ともいう。)であることが確認された。
得られた共役ジエン系エラストマー(L)について、結合スチレン含量、ビニル結合含量、ガラス転移温度、重量平均分子量、ムーニー粘度およびコールドフロー値を測定した。結果を表2に示す。
また、共役ジエン系エラストマー(L)における芳香族系の多環式化合物に由来の置換基の1分子中における数は平均で5.6個であった。
【0132】
(共役ジエン系エラストマーの合成例13)
共役ジエン系エラストマーの合成例6において、N,N−ビス(トリメチルシリル)アミノプロピルメチルジエトキシシラン4.96mmolに代えて、S−トリメチルシリルメルカプトプロピルメチルジエトキシシラン4.96mmolを用い、四塩化ケイ素の添加量を3.93mmolから5.17mmolとしたこと以外は当該共役ジエン系エラストマーの合成例6と同様の手法により反応生成物としての重合体を得た。
得られた重合体は、NMR測定により、共役ジエン化合物としての1,3−ブタジエンと単環芳香族ビニル化合物としてのスチレンおよびp−メチルスチレンとが共重合されなり、末端部分を構成するp−メチルスチレンに由来の繰り返し単位において芳香族系の多環式化合物としてのアセナフチレンに由来の置換基を有し、末端がS−トリメチルシリルメルカプトプロピルメチルジエトキシシランによって変性されることによってチオール基が導入され、そのチオール基がプロトン化されてオニウム塩構造が形成されてなる構成の共役ジエン系エラストマー(以下、「共役ジエン系エラストマー(M)」ともいう。)を得た。
得られた共役ジエン系エラストマー(M)について、結合スチレン含量、ビニル結合含量、ガラス転移温度、重量平均分子量、ムーニー粘度およびコールドフロー値を測定した。結果を表2に示す。
また、共役ジエン系エラストマー(M)における芳香族系の多環式化合物に由来の置換基の1分子中における数は平均で5.4個であった。
【0133】
(共役ジエン系エラストマーの合成例14)
窒素置換された内容積5リットルのオートクレーブ反応器に、溶媒としてシクロヘキサン2750g、ビニル結合含有量調整剤としてテトラヒドロフラン50.0g、単量体としてスチレン125gおよび1,3−ブタジエン365gを仕込んだ。反応器内容物の温度を10℃に調整した後、重合開始剤としてn−ブチルリチウム5.80mmolを含むシクロヘキサン溶液を添加することによって重合を開始した。重合は断熱条件で実施し、最高温度は85℃に達した。
重合転化率が99%に達したことを確認した後、1,3−ブタジエン10gを添加し、更に5分間重合させた。その後、得られたポリマー溶液に2,6−ジ−tert−ブチル−p−クレゾール2.0gを添加し、更に水酸化ナトリウムでpHを9に調整した熱水を用いてスチームストリッピングを行うことによって脱溶媒処理した後、110℃に調温された熱ロールによって乾燥処理することにより、1,3−ブタジエンとスチレンとが共重合されなる構成の比較用の共役ジエン系エラストマー(以下、「共役ジエン系エラストマー(S)」ともいう。)を得た。
【0134】
得られた共役ジエン系エラストマー(A)について、結合スチレン含量、ビニル結合含量、ガラス転移温度、重量平均分子量、ムーニー粘度およびコールドフロー値を測定した。結果を表2に示す。
【0135】
【表1】

【0136】
表1において、「1,3−ブタジエン(追加分)」は当初の重合反応における重合転化率が99%に達したことを確認した後に添加した1,3−ブタジエンの添加量であり、「変性剤(1)」はN,N−ビス(トリエチルシリル)アミノプロピルメチルジメトキシシランであり、「変性剤(2)」はN,N’,N’−トリス(トリメチルシリル)−N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルトリエトキシシランであり、「変性剤(3)」は1−(3−トリエトキシシリルプロピル)−2,2,5,5−テトラメチル−1−アザ−2,5−ジシラシクロペンタンであり、「変性剤(4)」はN−[3−(トリメトキシシリル)−プロピル]−N,N’−ジエチル−N’−トリメチルシリル−エタン−1,2−ジアミンであり、「変性剤(5)」は3−(4−トリメチルシリル−1−ピペラジノ)プロピルトリエトキシシランであり、「変性剤(6)」はビス[3−(トリエトキシシリル)プロピル]トリメチルシリルアミンであり、「変性剤(7)」は3−ジエチルアミノプロピルトリエトキシシランであり、「変性剤(8)」はs−トリメチルシリルメルカプトプロピルトリエトキシシランである。
【0137】
【表2】

【0138】
〔実施例1〕
先ず、温度制御装置を付属したプラストミル(内容量250cc)を用い、充填率72%、回転数60rpmの混練条件により、共役ジエン系エラストマー(A)70質量部、天然ゴム30質量部、伸展油「SNH46」(三共油化工業社製)37.5質量部、カーボンブラック「ダイヤブラックN339」(三菱化学社製)5.6質量部、シリカ「ニプシルAQ」(東ソー・シリカ社製)70質量部、シランカップリング剤「Si69」(エボニック社製)5.6質量部、ステアリン酸2.0質量部、老化防止剤「ノクラック810NA」(大内新興化学工業社製)1.0質量部および酸化亜鉛(亜鉛華)3.0質量部を混練(第1段目の混練)した。その後、第1段目の混練によって得られた混練物を室温まで冷却した後、更に、加硫促進剤「ノクセラ−CZ」(大内新興化学工業社製)1.8質量部、加硫促進剤「ノクセラ−D」(大内新興化学工業社製)1.5質量部、イオウ1.5質量部を添加し、回転数60rpmの混練条件によって混練(第2段目の混練)することにより、ゴム組成物(以下、「ゴム組成物(1)」ともいう。)を得た。
得られたゴム組成物(1)について、ムーニー粘度を測定した。結果を表3に示す。
【0139】
次いで、得られたゴム組成物(1)を成型し、加硫プレスによって温度条件160℃で所定時間加硫することにより、ゴム弾性体(以下、「ゴム弾性体(1)」ともいう。)を得た。
得られたゴム弾性体(1)について、下記の特性評価を行った。結果を表3に示す。
【0140】
(1)引張強度:
JIS K 6301に準拠して300%モジュラスを測定した。
表3には指数が示されており、その指数によれば、数値が大きいほど引張強度が大きく良好であることが示される。
(2)ウェットスキッド抵抗性(0℃tanδ):
動的スペクトロメーター(米国レオメトリックス社製)を用い、引張動歪0.14%、角速度100ラジアン毎秒、温度0℃の条件で測定した。
表3には指数が示されており、その指数によれば、数値が大きいほどウェットスキッド抵抗性が大きく良好であることが示される。
(3)低ヒステリシスロス特性(70℃tanδ):
動的スペクトロメーター(米国レオメトリックス社製)を使用し、引張動歪0.7%、角速度100ラジアン毎秒、温度70℃の条件で測定した。
表3には指数が示されており、その指数によれば、数値が大きいほど低ヒステリシスロス特性が大きく良好であることが示される。
(4)耐摩耗性:
JIS K 6264に準拠して、DIN摩耗試験機(東洋精機社製)を用い、荷重10N、温度25℃の条件にて測定した。
表3には指数が示されており、その指数によれば、数値が大きいほど耐摩耗性が大きく良好であることが示される。
【0141】
〔実施例2〜実施例13および比較例1〕
実施例1において、共役ジエン系エラストマー(A)に代えて、各々、表3に示す共役ジエン系エラストマー(B)〜共役ジエン系エラストマー(S)を用いたこと以外は実施例1と同様の手法によってゴム組成物(以下、「ゴム組成物(2)」〜「ゴム組成物(13)」および「比較用ゴム組成物(1)」ともいう。)を得、そのゴム組成物(2)〜ゴム組成物(13)および比較用ゴム組成物(1)からゴム弾性体(以下、「ゴム弾性体(2)」〜「ゴム弾性体(13)」および「比較用ゴム弾性体(1)」ともいう。)を得た。
得られたゴム組成物(2)〜ゴム組成物(13)および比較用ゴム組成物(1)、並びにゴム弾性体(2)〜ゴム弾性体(13)および比較用ゴム弾性体(1)について、各々、実施例1と同様にして特性評価を行った。結果を表3に示す。
【0142】
【表3】

【0143】
表3の結果から、実施例1〜実施例13に係るゴム弾性体は、ウエットスキット抵抗と低ヒステリシスロス特性のバランスに優れ、その上優れた引張強度および耐摩耗性を有するものであることが確認された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
共役ジエン化合物に由来の繰り返し単位、または、共役ジエン化合物に由来の繰り返し単位と単環芳香族ビニル化合物に由来の繰り返し単位とを含有する共役ジエン系エラストマーにおいて、
芳香族系の多環式化合物に由来の置換基または芳香族系の多環式化合物に由来の繰り返し単位を有することを特徴とする共役ジエン系エラストマー。
【請求項2】
前記芳香族系の多環式化合物がアセナフチレン化合物、フルオレノン化合物、ビニルナフタレン化合物、ビニルアントラセン化合物、ビニルフルオレン化合物、アントラキノン化合物、ビニルビフェニル化合物、ビニルターフェニル化合物およびビニルインデン化合物から選ばれる少なくとも1種の化合物であることを特徴とする請求項1に記載の共役ジエン系エラストマー。
【請求項3】
前記芳香族系の多環式化合物が下記一般式(1)で表わされるアセナフチレン化合物であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の共役ジエン系エラストマー。
【化1】

〔式中、R1 は、水素原子、アルキル基、アリル基、アリール基、アラルキル基、ヒドロキシ基、カルボキシル基、第1級アミノ基、第2級アミノ基、第3級アミノ基またはエポキシ基を示す。〕
【請求項4】
前記芳香族系の多環式化合物が下記一般式(2)で表わされるフルオレノン化合物であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の共役ジエン系エラストマー。
【化2】

〔式中、R2 は、水素原子、アルキル基、アリル基、アリール基またはアラルキル基を示す。〕
【請求項5】
前記芳香族系の多環式化合物が下記一般式(3)で表わされるビニルナフタレン化合物であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の共役ジエン系エラストマー。
【化3】

〔式中、R3 は、水素原子、アルキル基、アリル基、アリール基またはアラルキル基を示す。〕
【請求項6】
前記芳香族系の多環式化合物が下記一般式(4)で表わされるビニルアントラセン化合物であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の共役ジエン系エラストマー。
【化4】

〔式中、R4 は、水素原子、アルキル基、アリル基、アリール基またはアラルキル基を示す。〕
【請求項7】
請求項1〜請求項6のいずれかに記載の共役ジエン系エラストマーを得るための共役ジエン系エラストマーの製造方法であって、
共役ジエン化合物、または、共役ジエン化合物および単環芳香族ビニル化合物と、芳香族系の多環式化合物とを共重合する工程を有することを特徴とする共役ジエン系エラストマーの製造方法。
【請求項8】
請求項1〜請求項6のいずれかに記載の共役ジエン系エラストマーを得るための共役ジエン系エラストマーの製造方法であって、
共役ジエン化合物を重合することによって得られる重合体、または、共役ジエン化合物と単環芳香族ビニル化合物とを共重合することによって得られる重合体に、芳香族系の多環式化合物に由来の置換基を導入する工程を有することを特徴とする共役ジエン系エラストマーの製造方法。
【請求項9】
請求項1〜請求項6のいずれかに記載の共役ジエン系エラストマーと、シリカおよび/またはカーボンブラックと、架橋剤とを含有することを特徴とするゴム組成物。
【請求項10】
請求項9に記載のゴム組成物を架橋処理することにより得られることを特徴とするゴム弾性体。
【請求項11】
請求項10に記載のゴム弾性体よりなるトレッドを有することを特徴とするタイヤ。

【公開番号】特開2012−251118(P2012−251118A)
【公開日】平成24年12月20日(2012.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−127082(P2011−127082)
【出願日】平成23年6月7日(2011.6.7)
【出願人】(000004178)JSR株式会社 (3,320)
【Fターム(参考)】