説明

共役ジエン系重合体、その製造方法、及び共役ジエン系重合体組成物

【課題】カーボンブラックとの親和性に優れ、加硫物としたときに、ウェットスキッド特性と低ヒステリシスロス性とのバランスに優れ、実用上十分な耐摩耗性及び破壊強度を満足する共役ジエン系重合体を提供する。
【解決手段】ポリビニル芳香族化合物とアミドリチウム化合物とのモル比(ポリビニル芳香族化合物/アミドリチウム化合物)を0.01以上0.4未満の範囲として、前記ポリビニル芳香族化合物とアミドリチウム化合物とを反応させて調製したアニオン重合開始剤を用いて、共役ジエン化合物を重合、又は共役ジエン化合物と芳香族ビニル化合物とを共重合することによって得られる共役ジエン系重合体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、共役ジエン系重合体、その製造方法、及び共役ジエン系重合体組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、二酸化炭素排出量の抑制等、環境に対する配慮が社会的要請となっている。具体的には自動車に対する低燃費化の要求が高まってきている。このような現状から、自動車用タイヤ、特に地面と接するタイヤトレッドの材料として、転がり抵抗が小さい材料の開発が求められてきている。一方、安全性の観点からは、ウェットスキッド抵抗に優れ、実用上十分な耐摩耗性、破壊特性を有する材料の開発が求められている。
【0003】
従来、タイヤトレッドの補強性充填剤としては、カーボンブラック、シリカ等が使用されている。近年、ゴムの開始末端に、カーボンブラックと親和性を有するアミノ基を導入することによって、運動性の高い開始末端をカーボンブラック上に捕捉し、当該ゴムを用いて作製したゴム組成物においてヒステリシスロスを低減化する試みがなされている。
例えば、アミンと有機リチウム化合物との反応物からなるアミドリチウムを用いてジエン系ゴムの重合を行い、開始末端にアミノ基を導入することで、カーボンブラックとの相互作用を高め、ジエン系ゴムとカーボンブラックにより構成される組成物の性能、すなわちカーボンブラックの分散性を向上させ、ヒステリシスロスを低減化させる技術の提案がなされている(例えば、特許文献1参照。)。
【0004】
また、イソプレンとジビニルベンゼンとの混合物をアミドリチウムと反応させて得られた多官能開始剤を用いて共役ジエン系ゴムの重合を行い、当該共役ジエン系ゴムを用いて作製したゴム組成物において、ヒステリシスロスを低減化させる技術の提案もなされている(例えば、非特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平06−199922号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Liang sun et al., Journal of Applied Polymer Science, Vol. 109, 820-824(2008)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、近年における自動車に対する低燃費化の要求のさらなる高まりとともに、一層、ヒステリシスロスを低減化させたゴム組成物の開発が要求されるようになってきている。
特許文献1に記載の開始剤を用いて作製されたジエン系重合体のゴム組成物では、ヒステリシスロスの低減効果が十分ではない。また、非特許文献1に記載の共役ジエン系ゴムは、ゴム組成物の加工性が悪く、取り扱い性に劣るという問題を有している。
【0008】
そこで本発明においては、ヒステリシスロスの低減効果が十分に得られ、耐摩耗性や破壊特性に優れ、加工性が良好な共役ジエン系重合体組成物、当該組成物を構成する共役ジエン系重合体及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは前記従来技術の課題を解決するため、アミドリチウム化合物を用いて調製した多官能アニオン重合開始剤のポリビニル芳香族化合物とアミドリチウムとのモル比を一定範囲内にすることで、加工性が良好で、かつヒステリシスロスの低減化が図られ、さらには耐摩耗性や破壊特性に優れる共役ジエン系重合体組成物、当該組成物を構成する共役ジエン系重合体を提供する。
すなわち、本発明は下記の通りである。
【0010】
〔1〕
ポリビニル芳香族化合物とアミドリチウム化合物とのモル比(ポリビニル芳香族化合物/アミドリチウム化合物)を0.01以上0.4未満の範囲として、前記ポリビニル芳香族化合物とアミドリチウム化合物とを反応させて調製したアニオン重合開始剤を用いて、共役ジエン化合物を重合、又は共役ジエン化合物と芳香族ビニル化合物とを共重合することによって得られる共役ジエン系重合体。
〔2〕
前記アミドリチウム化合物が、下記一般式(1)で表される、前記〔1〕に記載の共役ジエン系重合体。
【0011】
【化1】

【0012】
前記一般式(1)中、R1は炭素数4〜12のメチレン基を有するアルキレン基である。
【0013】
〔3〕
ポリビニル芳香族化合物と、アミドリチウム化合物とのモル比(ポリビニル芳香族化合物/アミドリチウム化合物)を0.01以上0.4未満の範囲として反応させ、アミドリチウム重合開始剤を得る工程と、
前記アミドリチウム重合開始剤を用いて、共役ジエン化合物を重合、又は共役ジエン化合物と芳香族ビニル化合物とを共重合させる工程と、
を有する、共役ジエン系重合体の製造方法。
〔4〕
前記〔1〕又は〔2〕に記載の共役ジエン系重合体を20質量部以上含有するゴム成分100質量部と、
充填剤0.5〜300質量部と、
を、含有する共役ジエン系重合体組成物。
〔5〕
前記充填剤がカーボンブラックである前記〔4〕に記載の共役ジエン系重合体組成物。
〔6〕
前記〔1〕又は〔2〕に記載の共役ジエン系重合体を20質量部以上含有するゴム成分100質量部に対し、シリカ系無機充填剤を0.5〜100質量部、さらに含有する前記〔5〕に記載の共役ジエン系重合体組成物。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、低ヒステリシスロス性と、ウェットスキッド抵抗性といった安全性に関する特性とのバランスに優れ、実用上十分な耐摩耗性や破壊強度を有し、良好な加工性をも満足する、共役ジエン系重合体組成物、当該共役ジエン系重合体組成物を構成する共役ジエン系重合体及びその製造方法が提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を実施するための形態(以下、「本実施形態」と言う。)について詳細に説明する。
なお、本発明は、以下の実施形態に制限されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
【0016】
〔共役ジエン系重合体〕
本実施形態の共役ジエン系重合体は、ポリビニル芳香族化合物とアミドリチウム化合物とのモル比(ポリビニル芳香族化合物/有機リチウム化合物)を、0.01以上0.4未満の範囲として、前記ポリビニル芳香族化合物とアミドリチウム化合物とを反応させて調製したアニオン重合開始剤を用いて、共役ジエン化合物を重合、又は共役ジエン化合物と芳香族ビニル化合物とを共重合することによって得られる共役ジエン系重合体である。
【0017】
〔共役ジエン系重合体の製造方法〕
本実施形態の共役ジエン系重合体の製造方法は、ポリビニル芳香族化合物とアミドリチウム化合物とを、ポリビニル芳香族化合物/アミドリチウム化合物のモル比が0.01以上0.4未満の範囲として反応させ、アニオン重合開始剤を調製する工程と、前記アニオン重合開始剤を用いて、共役ジエン化合物を重合、又は共役ジエン化合物と芳香族ビニル化合物とを共重合させて、共役ジエン系重合体を得る工程を有する。
本実施形態の共役ジエン系重合体について、以下、製造工程と併せて説明する。
【0018】
(アニオン重合開始剤の調製工程)
先ず、共役ジエン系重合体を重合する工程において使用するアニオン重合開始剤の調製工程について説明する。
アニオン重合開始剤は、ポリビニル芳香族化合物とアミドリチウム化合物とを反応させることにより調製する。
例えば、炭化水素溶媒中で、アミドリチウム化合物とポリビニル芳香族化合物とを反応させる方法、アミドリチウム化合物と共役ジエン化合物とを反応させた後にポリビニル芳香族化合物を反応させる方法、アミドリチウム化合物とモノビニル芳香族化合物とを反応させた後にポリビニル芳香族化合物を反応させる方法、共役ジエン化合物及び/又はモノビニル芳香族化合物及びポリビニル芳香族化合物の二者又は三者の存在下でアミドリチウム化合物を反応させる方法等が挙げられる。
特に、炭化水素溶媒中で、有機リチウム化合物とポリビニル芳香族化合物とを反応させる方法、アミドリチウム化合物と共役ジエン化合物とを反応させた後にポリビニル芳香族化合物を反応させる方法、共役ジエン化合物及びポリビニル芳香族化合物の存在下でアミドリチウム化合物を反応させる方法で調製されたアニオン開始剤が好ましい。
また、アニオン重合開始剤の生成の促進や安定化を図るために、調製の際に、系内に極性化合物を添加することが好ましい。
【0019】
<アミドリチウム化合物>
アニオン重合開始剤の調製に用いるアミドリチウム化合物は、例えば、下記一般式(1)で表される化合物が挙げられる。
【0020】
【化2】

【0021】
前記一般式(1)中、R1は炭素数4〜12のメチレン基を有するアルキレン基である。
【0022】
アニオン重合開始剤の調製に用いるアミドリチウム化合物は、アミンと有機リチウム化合物とを反応させることにより得られる。
【0023】
前記アミンは、下記一般式(2)に示されるジアルキルアミン又はジシクロアルキルアミン、若しくは下記一般式(3)に示される環状アミンを使用できる。
【0024】
【化3】

【0025】
【化4】

【0026】
前記一般式(2)中、R2は、1〜20の炭素原子を有するアルキル、シクロアルキル又はアラルキルであり、ここで両方のR2基は同一であってもよく異なっていてもよい。
前記一般式(3)中、R3は、4〜12のメチレン基を有するアルキレン基である。
【0027】
前記一般式(2)、(3)で表されるアミンとしては、例えば、ピロリジン、ヘキサメチレンイミン、ピぺリジン、へプタメチレンイミン、ドデカメチレンイミン、ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジブチルアミン、ジプロピルアミン、ジへプチルアミン、ジへキシルアミン、ジオクチルアミン、ジ−2−エチルへキシルアミン、ジデシルアミン、N−メチルピベラジン、エチルプロピルアミン、エチルブチルアミン、エチルベンジルアミン、メチルフェネチルアミンが挙げられ、これらに限定されるものではなく、上記条件を満たせば、これらの類似物を含む。
アミンはヒステリシスロスの低減化の観点から環状アミンが好ましく、ピロリジン、ヘキサメチレンイミンがより好ましい。
【0028】
アミドリチウム化合物を得るために用いる有機リチウム化合物としては、例えば、n−ブチルリチウム、sec−ブチルリチウム、tert−ブチルリチウム、n−プロピルリチウム、iso−プロピルリチウム、ベンジルリチウム等のモノ有機リチウム化合物;1,4−ジリチオブタン、1,5−ジリチオペンタン、1,6−ジリチオヘキサン、1,10−ジリチオデカン、1,1−ジリチオジフェニレン、ジリチオポリブタジエン、ジリチオポリイソプレン、1,4−ジリチオベンゼン、1,2−ジリチオ−1,2−ジフェニルエタン、1,4−ジリチオ−2−エチルシクロヘキサン、1,3,5−トリリチオベンゼン、1,3,5−トリリチオ−2,4,6−トリエチルベンゼン等の多官能性有機リチウム化合物;ポリスチリルリチウム、ポリブタジエニルリチウム等のリビングアニオン重合体のリチウム化合物があるが、好ましくは、n−ブチルリチウム、sec−ブチルリチウムが用いられる。
【0029】
上述したアミンと有機リチウム化合物との混合物を、10〜120℃の範囲の温度で、約1時間反応させることにより、アミドリチウムが得られる。
【0030】
<ポリビニル芳香族化合物>
アニオン重合開始剤の調製に用いるポリビニル芳香族化合物としては、例えば、o,m及びp−ジビニルベンゼン、o,m及びp−ジイソプロペニルベンゼン、1,2,4−トリビニルベンゼン、1,2−ビニル−3,4−ジメチルベンゼン、1,3−ジビニルナフタレン、1,3,5−トリビニルナフタレン、2,4−ジビニルビフェニル、3,5,4’−トリビニルビフェニル、1,2−ジビニル−3,4−ジメチルベンゼン、1,5,6−トリビニル−3,7−ジエチルナフタレン等が挙げられ、特にジビニルベンセン、ジイソプロペニルベンゼンが好ましく、これらのo−,m−,p−の異性体の混合物であってもよい。工業的利用を行う場合には、これら異性体混合物を用いる方が経済的に有利である。これらは単独で用いてもよいし、二種以上を併用してもよい。
【0031】
<共役ジエン化合物、モノビニル芳香族化合物>
アニオン重合開始剤の調製には、上述したポリビニル芳香族化合物と共に、共役ジエン化合物及び/又はモノビニル芳香族化合物を用いることもできる。
共役ジエン化合物としては、例えば、1,3−ブタジエン、イソプレン、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン、1,3−ペンタジエン、3−メチル−1,3−ペンタジエン、1,3−ヘプタジエン、1,3−ヘキサジエン等が挙げられ、特に、1,3−ブタジエン、イソプレンが好ましく、1,3−ブタジエンがより好ましい。
また、モノビニル芳香族化合物としては、例えば、スチレン、p−メチルスチレン、α−メチルスチレン、ビニルエチルベンゼン、ビニルキシレン、ビニルナフタレン等が挙げられ、特に、スチレンが好ましい。
共役ジエン化合物及び/又はモノ芳香族ビニル化合物は、GPC(ゲルパーミエーション・クロマトグラフィー)で測定したアニオン重合開始剤のポリスチレン換算の重量平均分子量が500〜20,000の範囲内となるように添加することが好ましく、700〜10,000となるように添加することがさらに好ましい。
【0032】
<炭化水素溶媒>
アニオン重合開始剤の調製に用いる炭化水素溶媒としては、例えば、ブタン、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン等の脂肪族炭化水素、シクロペンタン、シクロヘキサン等の脂環族炭化水素、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素等が挙げられる。
【0033】
<極性化合物>
アニオン重合開始剤の調製の際には、系内に極性化合物を添加することにより、生成の促進や安定化が図られる。
極性化合物としては、3級モノアミン、3級ジアミン、鎖状又は環状エーテル等が挙げられる。
3級モノアミンとしては、例えば、トリメチルアミン、トリエチルアミン、メチルジエチルアミン、1,1−ジメトキシトリメチルアミン、1,1−ジエトキシトリメチルアミン、1,1−ジエトキシトリエチルアミン、N,N−ジメチルホルムアミドジイソプロピルアセタール、N,N−ジメチルホルムアミドジシクロヘキシルアセタール等の化合物が挙げられる。
3級ジアミンとしては、例えば、N,N,N’,N’−テトラメチルジアミノメタン、N,N,N’,N’−テトラメチルエチレンジアミン、N,N,N’,N’−テトラメチルプロパンジアミン、N,N,N’,N’−テトラメチルジアミノブタン、N,N,N’,N’−テトラメチルジアミノペンタン、N,N,N’,N’−テトラメチルヘキサンジアミン、ジピペリジノペンタン、ジピペリジノエタン等の化合物が挙げられる。
鎖状エーテルとしては、例えば、ジメチルエーテル、ジエチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、テトラエチレンジメチルエーテルが挙げられる。
環状エーテルとしては、例えば、テトラヒドロフラン、ビス(2−オキソラニル)エタン、2,2−ビス(2−オキソラニル)プロパン、1,1−ビス(2−オキソラニル)エタン、2,2−ビス(2−オキソラニル)ブタン、2,2−ビス(5−メチル−2−オキソラニル)プロパン、2,2−ビス(3,4,5−トリメチル−2−オキソラニル)プロパン等の化合物が挙げられる。
前記極性化合物の中でも、3級モノアミンであるトリメチルアミン、トリエチルアミン、3級ジアミンであるN,N,N’,N’−テトラメチルエチレンジアミン、及び環状エーテルであるテトラヒドロフラン、2,2−ビス(2−オキソラニル)プロパンが好ましい。
前記極性化合物は、1種のみを単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0034】
<ポリビニル芳香族化合物とアミドリチウム化合物とのモル比>
アニオン重合開始剤の調製に使用するポリビニル芳香族化合物の量は、アミドリチウム化合物1モルに対して0.01以上0.4モル未満の範囲とする。
これにより、ポリビニル芳香族化合物/アミドリチウム化合物のモル比が0.01以上0.4未満の範囲のアニオン重合開始剤が得られる。
前記モル比を0.4未満としてアニオン重合開始剤を調製することにより、当該アニオン重合開始剤を用いて重合した共役ジエン系重合体を用いた場合に、加工性に優れた共役ジエン系重合体組成物を得ることができる。
また、前記モル比を0.01以上としてアニオン重合開始剤を調製することにより、当該アニオン重合開始剤を用いて重合した共役ジエン系重合体を用いた場合に、共役ジエン系重合体組成物のヒステリシスロスの低減効果が十分に得られる。
前記モル比を0.4以上としてアニオン重合開始剤を調製すると、当該アニオン重合開始剤を用いて重合した共役ジエン系重合体を用いた場合、共役ジエン系重合体組成物の加工性が悪化し、充填剤が十分に均一分散せず、ヒステリシスロスの低減効果が得られにくくなる。
【0035】
前記モル比が0.01以上0.4モル未満の範囲内において、アミドリチウム化合物に対してポリビニル芳香族化合物の使用量が多いほど、後述する共役ジエン系重合体の変性反応によって官能基を付与される分子鎖末端の割合が増加し、後述する充填剤としてのカーボンブラック粒子との親和性の向上が図られ、共役ジエン系重合体組成物における低ヒステリシスロス性とウェットスキッド抵抗性とのバランスが良好なものとなり、耐摩耗性、破壊特性の向上も図られる。
一方、アミドリチウム化合物に対してポリビニル芳香族化合物の使用量が少ない方が組成物混練時等での加工性を良好なものにすることができる。
加工性については、組成物のムーニー粘度を指標とすることができる。組成物のムーニー粘度が高すぎる場合、混練時のトルクが上昇して電力消費が増大する等の悪影響が生じる。
また混練後のシーティングの工程で均一なシート作製が難しくなるといったことも生じる。
一般に、低ヒステリシスロス性を改善する場合、組成物のムーニー粘度が上昇し加工性が悪化する傾向にあるが、上述した観点からあまり高くしないことが実用上重要である。
これらのバランスを良好なものとする観点から、ポリビニル芳香族化合物の量は、有機リチウム化合物1モルに対して0.01以上0.4モル未満の範囲とし、0.05〜0.0.35の範囲が好ましく、0.1〜0.3の範囲がより好ましい。
【0036】
<極性化合物の添加量>
アニオン重合開始剤を調製する際に、前記極性化合物を添加する場合は、アニオン重合開始剤を調製するときに用いられる前記炭化水素溶媒に対し30〜50,000ppmの範囲内で添加することが好ましく、200〜20,000ppmの範囲内で添加することがより好ましい。
反応促進や安定化の効果を十分に発現するためには30ppm以上が好ましく、後の重合工程でのミクロ構造調整の自由度を確保することや重合後の溶媒を回収し、精製する工程における重合溶媒との分離を考慮すると50,000ppm以下が好ましい。
【0037】
<アニオン重合開始剤の調製温度>
アニオン重合開始剤を調製する際の温度は、10℃〜140℃の範囲が好ましく、30℃〜110℃の範囲がより好ましい。
生産性の観点から10℃以上であることが好ましく、高温による副反応を抑制するために140℃以下であることが好ましい。
【0038】
(共役ジエン系重合体の重合工程)
前記アニオン重合開始剤を用いて、共役ジエン化合物を重合させ、又は共役ジエン化合物と芳香族ビニル化合物とを共重合させて、本実施形態の共役ジエン系重合体を得る。
共役ジエン系重合体の重合工程においては、上述したアニオン重合開始剤を、予め所定の反応器で調製しておき、共役ジエン化合物の重合、あるいは共役ジエン化合物と芳香族ビニル化合物との共重合を行う反応器に供給して重合反応を行ってもよいし、後述する重合又は共重合を行うための反応器中でアニオン重合開始剤を調製しておいて、この反応器に所定のモノマー類を供給して重合反応を行ってもよい。
共役ジエン系重合体の大量生産時の生産性や品質安定性の観点からは、予め所定の反応器でアニオン重合開始剤を調製しておき、これを、必要に応じて重合に使用する反応器に供給して、共役ジエン化合物の重合、あるいは共役ジエン化合物と芳香族ビニル化合物との共重合を行うことが好ましい。
また、共役ジエン系重合体の重合は、回分式、又は1個の反応器若しくは2個以上の連結された反応器での連続式等の重合様式により行うことができる。
【0039】
<極性化合物>
本実施形態の共役ジエン系重合体を製造する際、芳香族ビニル化合物を共役ジエン化合物とランダムに共重合する目的で、また共役ジエン部のミクロ構造を制御するためのビニル化剤として、更には重合速度の改善等の目的で、極性化合物を少量添加してもよい。
極性化合物としては、例えば、テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル、ジオキサン、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジブチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジブチルエーテル、ジメトキシベンゼン、2,2−ビス(2−オキソラニル)プロパン等のエーテル類;テトラメチルエチレンジアミン、ジピペリジノエタン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、ピリジン、キヌクリジン等の第三級アミン化合物;カリウム−tert−アミラート、カリウム−tert−ブチラート、ナトリウム−tert−ブチラート、ナトリウムアミラート等のアルカリ金属アルコキシド化合物;トリフェニルホスフィン等のホスフィン化合物等が挙げられる。
これらの極性化合物は、単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
極性化合物の使用量は、目的と効果の程度に応じて選択されるが、通常、アニオン重合開始剤中のリチウム1モルに対して0.01〜100モルである。
このような極性化合物(ビニル化剤)は、重合体ジエン部分のミクロ構造調節剤として所望のビニル結合量に応じて適量使用できる。
多くの極性化合物は、同時に共役ジエン化合物と芳香族ビニル化合物との共重合において有効なランダム化効果を有し、芳香族ビニル化合物の分布の調整やスチレンブロック量の調整を行うことができる。
ランダム化する方法は特開昭59−140211号公報記載のように、共重合の途中に1,3−ブタジエンの一部を断続的に添加する方法を用いることもできる。
【0040】
<共役ジエン化合物>
本実施形態の共役ジエン系重合体の合成に用いられる共役ジエン化合物としては、例えば、1,3−ブタジエン、イソプレン、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン、1,3−ペンタジエン、3−メチル−1,3−ペンタジエン、1,3−ヘプタジエン、1,3−ヘキサジエン等が挙げられる。これらの中で、特に、1,3−ブタジエン、イソプレンが好ましい。
これらは単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
不純物として、アレン類、アセチレン類が含有されていると、後述する変性反応を阻害するため、これらの濃度の合計は、200ppm以下であることが好ましく、100ppm以下であることがより好ましく、50ppm以下であることがさらに好ましい。
【0041】
<芳香族ビニル化合物>
本実施形態の共役ジエン系重合体の合成に用いられる芳香族ビニル化合物としては、例えば、スチレン、p−メチルスチレン、α−メチルスチレン、ビニルエチルベンゼン、ビニルキシレン、ビニルナフタレン、ジフェニルエチレン等が挙げられる。これらの中で、特に、スチレンが好ましい。
これらは単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0042】
<重合溶媒>
本実施形態の共役ジエン系重合体は所定の溶媒中で重合する。
溶媒としては、例えば、飽和炭化水素、芳香族炭化水素等の炭化水素系溶媒が用いられる。
具体的には、ブタン、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン等の脂肪族炭化水素;シクロペンタン、シクロヘキサン、メチルシクロペンタン、メチルシクロヘキサン等の脂環族炭化水素;ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素及びそれらの混合物が挙げられる。
【0043】
<重合温度>
本実施形態の共役ジエン系重合体の重合温度は、リビングアニオン重合が進行する温度であれば特に限定されるものではないが、生産性の観点から0℃以上が好ましく、重合終了後の活性末端へ変性反応量を充分に確保する観点から120℃以下で行うことが好ましい。より好ましくは20〜100℃の範囲であり、さらに好ましくは30〜85℃の範囲である。
重合温度は、重合が発熱反応であることを考慮に入れ、さらにはモノマー及び溶媒のフィード温度を調節し、モノマー濃度を制御し、反応器外部からの冷却や加熱を行うことによって制御できる。
【0044】
上述した共役ジエン化合物、芳香族ビニル化合物、及び重合溶媒は、それぞれ単独で、あるいはこれらの混合液を、予め重合反応に供する前に、不純物であるアレン類やアセチレン類を、有機金属化合物を反応させ処理しておくこともできる。これにより、前記不純物による重合の阻害が防止でき、重合体の活性末端量が高濃度となり、よりシャープな分子量分布を達成できる。
【0045】
<反応停止剤>
上述した方法により、本実施形態の共役ジエン系重合体の重合を行った後、重合体溶液中に必要に応じて反応停止剤を添加してもよい。
反応停止剤としては、通常、メタノール、エタノール、プロパノール等のアルコール類;ステアリン酸、ラウリン酸、オクタン酸等の有機酸:水等が使用できる。
また、共役ジエン系重合体の重合を行った後、必要に応じて、重合体に含まれる金属類を脱灰してもよい。
脱灰の方法としては、例えば、水、有機酸、無機酸、過酸化水素等の酸化剤等を、重合体溶液に接触させて金属類を抽出し、その後水層を分離する方法が用いられる。
また、共役ジエン系重合体の重合を行った後、重合体溶液に、酸化防止剤を添加してもよい。酸化防止剤としては、フェノール系安定剤、リン系安定剤、イオウ系安定剤等が挙げられる。
本実施形態における共役ジエン系重合体を、重合体溶液から取得する方法としては、従来公知の方法を適用できる。
例えば、スチームストリッピング等で溶媒を分離した後、重合体を濾別し、さらにそれを脱水及び乾燥して重合体を取得する方法、フラッシングタンクで濃縮し、さらにベント押し出し機等で脱揮する方法、ドラムドライヤー等で直接脱揮する方法等が適用できる。
【0046】
(共役ジエン系重合体の構造)
本実施形態の共役ジエン系重合体中の結合芳香族ビニル量は、特に限定されないが、5〜70質量%であることが好ましく、10〜50質量%であることがより好ましい。
結合芳香族ビニル量が上記範囲であると、低ヒステリシスロス性とウェットスキッド抵抗性のバランスがさらに優れ、耐摩耗性や破壊強度も満足する加硫物を得ることができる。
また、共役ジエン結合単位中のビニル結合量(1,2−又は3,4−結合)は、特に限定されないが、10〜75モル%であることが好ましく、25〜65モル%であることがより好ましい。ビニル結合量が上記範囲であると、低ヒステリシスロス性とウェットスキッド抵抗性のバランスがさらに優れ、耐摩耗性や破壊強度も満足する加硫物を得ることができる。
【0047】
本実施形態の共役ジエン系共重合体の重量平均分子量(GPC測定:ポリスチレン換算)は、加工性や物性を考慮して10万〜200万が好ましく、20万〜100万がより好ましく、25万〜50万がさらに好ましい。
【0048】
〔共役ジエン系重合体組成物〕
本実施形態の共役ジエン系重合体組成物は、上記に亘って説明した共役ジエン系重合体を、ゴム成分全体を100質量部としたとき、20質量部以上含有するゴム成分100質量部に対し、充填剤が0.5〜300質量部を含有されているものとする。
【0049】
(ゴム成分)
本実施形態の共役ジエン系重合体組成物を構成するゴム成分は、本実施形態の共役ジエン系重合体及び必要に応じてその他のゴム状重合体を含む。
<共役ジエン系重合体以外のゴム状重合体>
本実施形態における共役ジエン系重合体組成物は、上述した共役ジエン系重合体以外のゴム状重合体を共役ジエン系重合体と組み合わせ、上記ゴム成分として使用できる。
このようなゴム状重合体としては、例えば、共役ジエン系重合体又はその水添物、共役ジエン系化合物とビニル芳香族化合物とのランダム共重合体又はその水添物、共役ジエン系化合物とビニル芳香族化合物とのブロック共重合体又はその水添物、非ジエン系重合体、天然ゴム等が挙げられる。
具体的には、ブタジエンゴム又はその水添物、イソプレンゴム又はその水添物、スチレン−ブタジエンゴム又はその水添物、スチレン−ブタジエンブロック共重合体又はその水添物、スチレン−イソプレンブロック共重合体又はその水添物等のスチレン系エラストマー、アクリロニトリル−ブタジエンゴム又はその水添物等が挙げられる。
また、非ジエン系重合体としては、エチレン−プロピレンゴム、エチレン−プロピレン−ジエンゴム、エチレン−ブテン−ジエンゴム、エチレン−ブテンゴム、エチレン−ヘキセンゴム、エチレン−オクテンゴム等のオレフィン系エラストマー、ブチルゴム、臭素化ブチルゴム、アクリルゴム、フッ素ゴム、シリコーンゴム、塩素化ポリエチレンゴム、エピクロルヒドリンゴム、α、β−不飽和ニトリル−アクリル酸エステル−共役ジエン共重合ゴム、ウレタンゴム、多硫化ゴム等が挙げられる。
上述した各種ゴム状重合体は、官能基を付与した変性ゴムであってもよい。
これらのゴム状重合体は、単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
本実施形態における共役ジエン系重合体に、上述したゴム状重合体を組み合わせ、上記ゴム成分として使用する場合、これらの比率は、共役ジエン系共重合体/上述したゴム状重合体として、20/80〜100/0が好ましく、30/70〜90/10がより好ましく、50/50〜80/20がさらに好ましい。
【0050】
(充填剤)
<カーボンブラック>
本実施形態の共役ジエン系重合体組成物に含有されている充填剤として、カーボンブラックが挙げられる。
有益なカーボンブラックの中には、ファーネスブラック、チャネルブラックおよびランプブラックがある。より詳細には、これらのカーボンブラックの例には、超摩耗ファーネス(SAF)ブラック、高摩耗ファーネス(HAF)ブラック、高速押出しファーネス(FEF)ブラック、微細ファーネス(FF)ブラック、中超摩耗ファーネス(ISAF)ブラック、半補強用ファーネス(SRF)ブラック、中加工用チャネルブラック、硬質加工用チャネルブラック及び導電性チャネルブラックが含まれる。
用いられ得る他のカーボンブラックにはアセチレンブラックが含まれる。
窒素吸着比表面積が50m2/g以上、DBP(ジブチルフタレート)吸油量が80mL/100g以上のカーボンブラックが好ましい。
本実施形態の共役ジエン系重合体組成物の製造で用いるカーボンブラックは、ペレット化した形態か、あるいはペレット化していない凝集塊であってもよい。好適には、より均一な混合を行うには、ペレット化していないカーボンブラックが好ましい。
カーボンブラックの含有量は、共役ジエン系重合体を20質量部以上含有するゴム成分100質量部に対し、0.5〜100質量部が好ましく、3〜100質量部がより好ましく、5〜50質量部がさらに好ましい。
ドライグリップ性能や導電性等のタイヤ等の用途に求められる性能を発現するためには0.5質量部以上添加することが好ましいが、分散性の観点から100質量部以下とすることが好ましい。
【0051】
(その他の成分)
<シリカ系無機充填剤>
本実施形態の共役ジエン系重合体組成物は、シリカ系無機充填剤をさらに含んでいてもよい。
シリカ系無機充填剤としては、SiO2、又はSi3Alを、構成単位の主成分とする固体粒子が使用できる。例えば、シリカ、クレイ、タルク、マイカ、珪藻土、ウォラストナイト、モンモリロナイト、ゼオライト、ガラス繊維等の無機繊維状物質等が挙げられる。
また、表面を疎水化したシリカ系無機充填剤や、シリカ系無機充填剤とシリカ系以外の無機充填剤との混合物も使用できる。
これらの中でも、シリカ及びガラス繊維が好ましく、シリカがより好ましい。
シリカとしては、乾式シリカ、湿式シリカ、合成ケイ酸塩シリカ等が使用できるが、中でも破壊特性の改良効果並びにウェットスキッド抵抗性の両立効果が最も顕著である湿式シリカが好ましい。
本実施形態の共役ジエン系重合体組成物において、実用上良好な耐摩耗性や破壊特性を得る観点から、シリカ系無機充填剤のBET吸着法で求められる窒素吸着比表面積は、170〜300m2/gであることが好ましく、200〜300m2/gであることがより好ましい。
上記のように、共役ジエン系重合体組成物におけるシリカ系無機充填剤の含有量は、共役ジエン系重合体を20質量部以上含有するゴム成分100質量部に対し、0.5〜100質量部であるが、5〜95質量部が好ましく、20〜90質量部がより好ましい。
シリカ系無機充填剤の含有量が0.5質量部以上であると、充填剤の添加効果が発現でき、100質量部位かとすることにより、分散性の劣化が生じず、組成物において良好な加工性、高い機械強度が得られる。
【0052】
<金属酸化物、金属水酸化物>
なお、本実施形態の共役ジエン系重合体組成物には、上述したシリカ系無機充填剤やカーボンブラック以外に金属酸化物や金属水酸化物を、さらに添加してもよい。
金属酸化物とは、化学式MxOy(Mは金属原子、x、yは各々1〜6の整数)を構成単位の主成分とする固体粒子のことをいい、例えばアルミナ、酸化チタン、酸化マグネシウム、酸化亜鉛等を用いることができる。また金属酸化物と金属酸化物以外の無機充填剤の混合物も使用できる。
金属水酸化物とは、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、水酸化ジルコニウム等である。
【0053】
<シランカップリング剤>
また、本実施形態の共役ジエン系重合体組成物においては、シランカップリング剤を含有させてもよい。
シランカップリング剤は、ゴム成分とシリカ系無機充填剤との相互作用を緊密にする機能を有しており、ゴム成分及びシリカ系無機充填剤のそれぞれに対する親和性又は結合性の基を有している。
シランカップリング剤としては、例えば、ビス−[3−(トリエトキシシリル)−プロピル]−テトラスルフィド、ビス−[3−(トリエトキシシリル)−プロピル]−ジスルフィド、ビス−[2−(トリエトキシシリル)−エチル]−テトラスルフィド等が挙げられる。
シランカップリング剤の含有量は、上述したシリカ系無機充填剤100質量部に対して、0.1〜30質量部が好ましく、0.5〜20質量部がより好ましく、1〜15質量部がさらに好ましい。
シランカップリング剤の含有量が、シリカ系無機充填剤100質量部に対して0.1質量部以上であると有効な配合効果が得られ、また、30質量部を超えて含有させる必要はない。
【0054】
<加硫剤>
本実施形態の共役ジエン系共重合体組成物は、加硫剤により加硫処理を施した加硫組成物としてもよい。
加硫剤としては、例えば、有機過酸化物及びアゾ化合物等のラジカル発生剤、オキシム化合物、ニトロソ化合物、ポリアミン化合物、硫黄、硫黄化合物が使用できる。
硫黄化合物には、一塩化硫黄、二塩化硫黄、ジスルフィド化合物、高分子多硫化合物等が含まれる。
加硫剤の含有量は、通常は、共役ジエン系重合体を含むゴム成分100質量部に対して0.01〜20質量部であるものとし、0.1〜15質量部が好ましい。
加硫方法としては、従来公知の方法を適用でき、加硫温度は、例えば、120〜200℃、好適には140〜180℃とすることができる。
【0055】
<加硫促進剤、加硫助剤>
また、上述した加硫に際しては、必要に応じて加硫促進剤を用いてもよい。
加硫促進剤としては、従来公知の材料を用いることができ、例えば、スルフェンアミド系、グアニジン系、チウラム系、アルデヒド−アミン系、アルデヒド−アンモニア系、チアゾール系、チオ尿素系、ジチオカルバメート系等の加硫促進剤が挙げられる。
また、加硫助剤としては、亜鉛華、ステアリン酸等を使用できる。
加硫促進剤の含有量は、通常、共役ジエン系重合体を含有するゴム成分100質量部に対し0.01〜20質量部であるものとし、0.1〜15質量部が好ましい。
【0056】
<ゴム用軟化剤>
本実施形態の共役ジエン系重合体組成物には、加工性の改良を図るために、ゴム用軟化剤を配合してもよい。
ゴム用軟化剤としては、鉱物油、又は液状若しくは低分子量の合成軟化剤が好適である。
ゴムの軟化、増容、加工性の向上を図るために使用されているプロセスオイル又はエクステンダーオイルと呼ばれる鉱物油系ゴム用軟化剤は、芳香族環、ナフテン環、及びパラフィン鎖の混合物であり、パラフィン鎖の炭素数が全炭素中50%以上を占めるものがパラフィン系と呼ばれ、ナフテン環炭素数が30〜45%のものがナフテン系、芳香族炭素数が30%を超えるものが芳香族系と呼ばれている。本実施形態において用いるゴム用軟化剤としては、ナフテン系及び/又はパラフィン系のものが好ましい。
ゴム用軟化剤の含有量は、共役ジエン系重合体を含有するゴム成分100質量部に対し0〜100質量部が好ましく、10〜90質量部がより好ましく、30〜90質量部がさらに好ましい。
ゴム用軟化剤の含有量が前記ゴム成分100質量部に対して100質量部以下とすることによりブリードアウトの発生を防止でき、組成物表面にベタツキが生じなくなるため、好ましい。
【0057】
<その他の添加剤>
本実施形態における共役ジエン系重合体組成物には、本発明の目的を損なわない範囲内で、上述した以外の軟化剤や充填剤、さらに、耐熱安定剤、帯電防止剤、耐候安定剤、老化防止剤、着色剤、滑剤等の各種添加剤を用いてもよい。
充填剤としては、具体的には炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、硫酸アルミニウム、硫酸バリウム等が挙げられる。
目的とする製品の硬さや流動性を調節するために、必要に応じて配合する軟化剤としては、例えば、流動パラフィン、ヒマシ油、アマニ油等が挙げられる。
耐熱安定剤、帯電防止剤、耐候安定剤、老化防止剤、着色剤、潤滑剤としては、公知の材料を適用できる。
【実施例】
【0058】
以下、具体的な実施例と比較例を挙げて本発明について詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0059】
〔分析方法〕
後述するアニオン重合開始剤の分析は下記に記す方法で行った。
(アニオン重合開始剤の重量平均分子量(Mw)及び分子量分布(Mw/Mn))
測定機器 Waters社製 HPLC Waters717
溶媒 クロロホルム
カラム 昭和電工社製 Shodex K−803L 2本
カラム温度 35℃
送液流量 1.0mL/min
試料注入量 0.1mL
【0060】
〔アニオン重合開始剤の調製〕
以下、実施例1〜7、及び比較例1、2の共役ジエン系重合体を製造するために用いたアニオン重合開始剤A〜Iを、下記のようにして調製した。
(アニオン重合開始剤A)
内容積10Lの撹拌装置及びジャケット付きのオートクレーブを洗浄乾燥し、窒素置換後、下記表1に示した条件で、シクロヘキサン3.6kg、乾燥した1,3−ブタジエン、極性化合物としてテトラヒドロフラン(THF)150g、ポリビニル芳香族化合物としてジビニルベンゼン7gを加え、次いでピロリジノリチウムを81g加えて、35℃にて反応を開始し、反応最高温度が90℃で20分間反応させた。
下記表1の条件で調製したアニオン重合開始剤は、ゲルは全く生じなかった。
ジビニルベンゼンとしては、異性体混合物57質量%(m−ジビニルベンゼン=40質量%、p−ジビニルベンゼン=17質量%)を含有し、残部がエチルビニルベンゼン=44質量%からなる市販のジビニルベンゼン(新日鐵化学社製 ジビニルベンゼン570)を用いた。
【0061】
(アニオン重合開始剤B、C、G、H)
ジビニルベンゼンの添加量を下記表1で示した条件とし、その他の条件はアニオン重合開始剤Aと同様としてアニオン重合開始剤を作製した。
【0062】
(アニオン重合開始剤D)
内容積10Lの撹拌装置及びジャケット付きのオートクレーブを洗浄乾燥し、窒素置換後、下記表1に示した条件で、シクロヘキサン3.6kg、乾燥した1,3−ブタジエン500g、ポリビニル芳香族化合物としてジビニルベンゼン21gを加え、次いでヘキサメチレンイミノリチウムを110g加えて、35℃にて反応を開始し、反応最高温度が80℃で40分間反応させた。
下記表1の条件で調製したアニオン重合開始剤は、ゲルは全く生じなかった。
ジビニルベンゼンとしては、異性体混合物57質量%(m−ジビニルベンゼン=40質量%、p−ジビニルベンゼン=17質量%)を含有し、残部がエチルビニルベンゼン=44質量%からなる市販のジビニルベンゼン(新日鐵化学社製 ジビニルベンゼン570)を用いた。
【0063】
(アニオン重合開始剤E)
内容積10Lの撹拌装置及びジャケット付きのオートクレーブを洗浄乾燥し、窒素置換後、下記表1に示した条件で、シクロヘキサン3.6kg、乾燥した1,3−ブタジエン500g、極性化合物としてテトラヒドロフラン150g、ポリビニル芳香族化合物としてジビニルベンゼン21gを加え、次いでジブチルアミノリチウムを142g加えて、35℃にて反応を開始し、反応最高温度が90℃で20分間反応させた。
下記表1の条件で調製したアニオン重合開始剤は、ゲルは全く生じなかった。
ジビニルベンゼンとしては、異性体混合物57質量%(m−ジビニルベンゼン=40質量%、p−ジビニルベンゼン=17質量%)を含有し、残部がエチルビニルベンゼン=44質量%からなる市販のジビニルベンゼン(新日鐵化学社製 ジビニルベンゼン570)を用いた。
【0064】
(アニオン重合開始剤F)
内容積10Lの撹拌装置及びジャケット付きのオートクレーブを洗浄乾燥し、窒素置換後、下記表1に示した条件で、シクロヘキサン3.6kg、乾燥した1,3−ブタジエン500g、極性化合物としてテトラメチレンジアミン(TMEDA)61g、ポリビニル芳香族化合物としてジビニルベンゼン21gを加え、次いでピロリジノリチウムを81g加えて、35℃にて反応を開始し、反応最高温度が85℃で25分間反応させた。
下記表1の条件で調製したアニオン重合開始剤は、ゲルは全く生じなかった。
ジビニルベンゼンとしては、異性体混合物57質量%(m−ジビニルベンゼン=40質量%、p−ジビニルベンゼン=17質量%)を含有し、残部がエチルビニルベンゼン=44質量%からなる市販のジビニルベンゼン(新日鐵化学社製 ジビニルベンゼン570)を用いた。
【0065】
(アニオン重合開始剤I)
内容積10Lの撹拌装置及びジャケット付きのオートクレーブを洗浄乾燥し、窒素置換後、下記表1に示した条件で、シクロヘキサン3.6kg、乾燥した1,3−ブタジエン500g、極性化合物としてテトラヒドロフラン150g、ポリビニル芳香族化合物としてジビニルベンゼン21gを加え、次いでn−ブチルリチウムを67g加えて、35℃にて反応を開始し、反応最高温度が90℃で10分間反応させた。
下記表1の条件で調製したアニオン重合開始剤は、ゲルは全く生じなかった。
ジビニルベンゼンは、異性体混合物57質量%(m−ジビニルベンゼン=40質量%、p−ジビニルベンゼン=17質量%)を含有し、残部がエチルビニルベンゼン=44質量%からなる市販のジビニルベンゼン(新日鐵化学社製 ジビニルベンゼン570)を用いた。
【0066】
【表1】

【0067】
次に、上記のようにして作製したアニオン重合開始剤を用いて共役ジエン系重合体(SBR)を作製し、当該共役ジエン系重合体を用いて樹脂組成物を作製した。
〔共役ジエン系重合体(SBR)の分析方法〕
後述する共役ジエン系重合体(SBR)の分析は、下記に示す方法により行った。
((1)結合スチレン量)
試料をクロロホルム溶液とし、スチレンのフェニル基によるUV254nmの吸収により結合スチレン量(質量%)を測定した(島津製作所製:UV−2450)。
((2)ブタジエン部分のビニル結合量(1,2−ビニル結合量))
試料を二硫化炭素溶液とし、溶液セルを用いて、赤外線スペクトルを600〜1000cm−1の範囲で測定して所定の波数における吸光度によりハンプトンの方法の計算式に従いブタジエン部分のミクロ構造を求めた。測定機器としては、日本分光(株)製:FT−IR230を使用した。
((3)ムーニー粘度(ML))
JISK 6300に従い、100℃で1分間余熱し、4分後の粘度を測定した。
【0068】
〔共役ジエン系重合体(SBR)の製造〕
(実施例1〜7、比較例1、2)
内容積10Lの撹拌装置及びジャケット付きのオートクレーブを洗浄乾燥し、窒素置換後、予め精製、乾燥した1,3ーブタジエン592gとスチレン208g、シクロヘキサン5kgを加え、次いで1,2−ビニル調整剤として2,2−ビス(2−オキソラニル)プロパンを1.47g添加し、さらに前記表1に示した、各アニオン重合開始剤(A〜I)を加えて、52℃にて重合を開始した。
重合終了後、メタノールを1mL添加してリビングポリマーを完全に失活させた。
こうして得られたポリマー溶液に安定剤として、オクタデシル−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネートをポリマー100質量部当たり0.375質量部、4,6−ビス(オクチルチオメチル)−o−クレゾールをポリマー100質量部当たり0.15質量部添加し、スチームストリッピングすることにより溶媒を除去し、脱水後、引き続き熱ロール(110℃)により10分乾燥させ、SBRを得た。
【0069】
(比較例3)
使用する開始剤を、ピロリジノリチウム(LiPy)とし、その他の条件は、実施例1と同様として、SBRを作製した。
得られたSBRのムーニー粘度(ML)とスチレン量、ビニル結合量を下記表2に示す。
【0070】
〔共役ジエン系重合体組成物の製造〕
上述のようにして作製した下記表2に示すSBRを原料ゴムとして、以下に示す配合に従い、それぞれの原料ゴムを含有する共役ジエン系重合体組成物を得た。
【0071】
共役ジエン系重合体 100.0質量部
カーボンブラック(東海カーボン社製 N339) 70.0質量部
S−RAEオイル
(ジャパンエナジー社製JOMOプロセスNC140) 37.5質量部
亜鉛華 5.0質量部
ステアリン酸 2.0質量部
老化防止剤
(N−イソプロピル−N’−フェニル−p−フェニレンジアミン) 2.0質量部
硫黄 2.2質量部
加硫促進剤
(N−シクロヘキシル−2−ベンゾチアジルスルフィンアミド) 1.6質量部
合計 220.3質量部
【0072】
共役ジエン系重合体組成物は、下記の方法により混練して作製した。
温度制御装置を具備する密閉混練機(内容量0.3リットル)を使用し、第一段の混練として、充填率65%、ローター回転数50/57rpmの条件で、原料ゴム、充填剤(カーボンブラック)、プロセスオイル、亜鉛華、ステアリン酸を混練した。
このとき、密閉混合機の温度を制御し、排出温度(配合物)は155〜160℃で共役ジエン系重合体組成物を得た。
次に、第二段の混練として、上記で得た配合物を室温まで冷却後、老化防止剤を加え、カーボンブラックの分散を向上させるため再度混練した。この場合も、混合機の温度制御により排出温度(配合物)を155〜160℃に調整した。
冷却後、第三段の混練として、70℃に設定したオープンロールにて、硫黄、加硫促進剤を加えて混練した。
その後、成型し、160℃で20分間、加硫プレスにて加硫した。
加硫後、共役ジエン系重合体組成物の物性を測定した。
物性測定結果を下記表2に示した。
【0073】
〔物性の測定方法〕
共役ジエン系重合体組成物の各物性は、下記に示す方法により測定した。
<(1)ムーニー粘度>
JISK 6300に従い、100℃で1分間余熱し、4分後の粘度を測定した。指数値が小さいほど粘度が小さいことを示す。指数値が小さいほど加工性に優れることを示す。
【0074】
<(2)粘弾性パラメータ>
レオメトリックス・サイエンティフィック社製の粘弾性試験機(ARES)を使用し、ねじりモードで加硫試験片の粘弾性パラメータを測定した。
0℃において周波数10Hz、ひずみ1%で測定したtanδをウェットスキッド性能の指標とした。指数値が大きいほどウェットスキッド性能が良好であることを示す。
また50℃において周波数10Hz、ひずみ3%で測定したtanδを省燃費特性の指標とした。指数値の小さいほど省燃費性能が良好であることを示す。
【0075】
<(3)配合物の引張強さ>
加硫試験片を、JIS K6251の引張試験法により測定した。TBは破断強度、EBは引張伸びを表す。
指数値が大きいほど耐破壊性に優れることを示す。
【0076】
<(4)耐摩耗性>
アクロン摩耗試験機を使用し、JIS K6264−2に従って、荷重44.1N、1000回転での加硫試験片の摩耗量を測定し、指数化した。
指数値の大きいほど耐摩耗性が優れることを示す。
【0077】
【表2】

【0078】
前記表2に示すように、実施例1〜7の共役ジエン系重合体を用いた共役ジエン系重合体組成物は、コンパウンドムーニー粘度が実用上十分に低く加工性に優れており、50℃のtanδも小さく、ヒステリシスロスの低減化効果が大きいことが分かった。
一方、比較例1の共役ジエン系重合体を用いた共役ジエン系重合体組成物は、コンパウンドムーニー粘度が高く加工性が悪く、省燃費性能の指標となる50℃のtanδが大きく、ヒステリシスロスの低減化効果も小さいことが分かった。
また、比較例2の共役ジエン系重合体を用いた共役ジエン系重合体組成物は、コンパウンドムーニー粘度は低いものの、tanδが大きく、ヒステリシスロスの低減化効果が小さいことが分かった。
比較例3の共役ジエン系重合体を用いた共役ジエン系重合体組成物は、共役ジエン系重合体の重合工程における重合開始剤として、ポリビニル芳香族化合物を含有しないピロリジノリチウム(LiPy)を用いたものであるため、共役ジエン系重合体組成物のヒステリシスロスの低減効果が十分に得られなかった。
【産業上の利用可能性】
【0079】
本発明の共役ジエン系重合体及び共役ジエン系重合体組成物は、自動車の内装・外装品、防振ゴム、ベルト、履物、発泡体、各種工業部品、タイヤ用途等の材料として、産業上の利用可能性を有している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリビニル芳香族化合物とアミドリチウム化合物とのモル比(ポリビニル芳香族化合物/アミドリチウム化合物)を0.01以上0.4未満の範囲として、前記ポリビニル芳香族化合物とアミドリチウム化合物とを反応させて調製したアニオン重合開始剤を用いて、
共役ジエン化合物を重合、又は共役ジエン化合物と芳香族ビニル化合物とを共重合することによって得られる共役ジエン系重合体。
【請求項2】
前記アミドリチウム化合物が、下記一般式(1)で表される、請求項1に記載の共役ジエン系重合体。
【化1】

(一般式(1)中、R1は炭素数4〜12のメチレン基を有するアルキレン基である。)
【請求項3】
ポリビニル芳香族化合物と、アミドリチウム化合物とのモル比(ポリビニル芳香族化合物/アミドリチウム化合物)を0.01以上0.4未満の範囲として反応させ、アミドリチウム重合開始剤を得る工程と、
前記アミドリチウム重合開始剤を用いて、共役ジエン化合物を重合、又は共役ジエン化合物と芳香族ビニル化合物とを共重合させる工程と、
を有する、共役ジエン系重合体の製造方法。
【請求項4】
請求項1又は2に記載の共役ジエン系重合体を20質量部以上含有するゴム成分100質量部と、
充填剤0.5〜300質量部と、
を、含有する共役ジエン系重合体組成物。
【請求項5】
前記充填剤がカーボンブラックである請求項4に記載の共役ジエン系重合体組成物。
【請求項6】
請求項1又は2に記載の共役ジエン系重合体を20質量部以上含有するゴム成分100質量部に対し、
シリカ系無機充填剤を0.5〜100質量部、さらに含有する請求項5に記載の共役ジエン系重合体組成物。

【公開番号】特開2013−23649(P2013−23649A)
【公開日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−161974(P2011−161974)
【出願日】平成23年7月25日(2011.7.25)
【出願人】(303046314)旭化成ケミカルズ株式会社 (2,513)
【Fターム(参考)】